説明

樹脂チューブの製造方法

【課題】多孔質チューブと緻密質とが段差なしに連続している樹脂チューブの製造方法を提供する。
【解決手段】成形型1内に液状原料Lをほぼ満杯となるまで注入後マンドレル4を上昇させ、マンドレル4の先端を成形型1の上端よりも上方に突出させる。マンドレル4の先端に緻密質樹脂製の第2チューブ6の先端を外嵌させる。マンドレル4を下降させ、第2チューブ6の先端を液状原料Lの液面に接触させる。この状態で、液状原料L中の含酸素/窒素有機溶媒を親水性有機溶媒で抽出し、液状原料Lを固化させる。次いで脱型し、水溶性高分子化合物を水で抽出する。第2チューブ6と一体に連なった状態にてポーラスな第1チューブ7が成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂チューブの製造方法に係り、特に多孔質樹脂製の第1チューブと、緻密質樹脂製の第2チューブとが、各々の端面を突き合わせて連続一体化された樹脂チューブの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は心機能補助装置のような血液循環装置システムと心臓や血管などの生体組織の接続に使用される送脱血管に好適な樹脂チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工血管として種々のものが使用されている。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の多孔質体は、柔軟性及び可撓性を有すると共に生体組織適合性に優れ、多孔質であるために、通常の縫合糸及び針を使用して生体組織と縫合することができる(例えば、特開平11−290448号)。
【0003】
また、特開2000−139967号には、人工血管本体の外周にフィラメントが螺旋状に融着されてなる人工血管が開示されている。同号の人工血管によると、柔軟性を維持しつつ、キンクや圧迫による変形を防止することができる。
【0004】
ところで、本願出願人により、熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔質材料が特開2003−253035号により提案されている。
【特許文献1】特開平11−290448号
【特許文献2】特開2000−139967号
【特許文献3】特開2003−253035号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、実用化されている人工心臓システムは体内埋め込み型と体外設置型などが存在する。これらシステムの構成は、循環用ポンプ、制御装置、血液回路、人工血管に大きく分けられる。ここで、システムが体内埋め込み型であっても体外設置型であっても血液回路だけはその一部もしくは全部が体内に埋め込まれた状態で使用される。このため血液回路は、(1)組織圧により潰されることないこと、(2)距離合わせや位置合わせが可能な可撓性または変形性を持っていること、(3)強度、耐久性に優れていることが必要であり、チタンなどの金属チューブ(カニューレ)、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの可撓性樹脂からなる緻密質樹脂チューブが使用されている。一方、金属チューブや緻密質樹脂チューブは、循環用ポンプへ接続するすることは容易であるが、生体組織(心臓や血管)と縫合することは不可能である。従って、現在、緻密質樹脂チューブ(血液回路を意味する)と生体組織の接続には、上記した人工血管と呼ばれる多孔質樹脂チューブを緻密質樹脂チューブ末端へ嵌装したり、布を巻き付けて筒状に固定し、この人工血管や布を生体組織へ縫合することで行われる。

【0006】
この多孔質樹脂チューブと緻密質樹脂チューブとを接続する場合、接続部に段差があると、この段差部分で血栓が生じ易くなる。また、多孔質樹脂チューブの該段差部分に応力が集中し、耐久性が乏しくなり易い。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決し、多孔質チューブと緻密質樹脂チューブとが段差なしに連続している樹脂チューブの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の樹脂チューブの製造方法は、多孔質樹脂製の第1チューブと、緻密質樹脂製の第2チューブとが、各々の端面を突き合わせて連続一体化された樹脂チューブを製造する方法において、筒軸方向を上下方向とした円筒形キャビティを有した成形型内で液状原料を固化させることにより該第1チューブを成形する工程を有しており、この第1チューブの成形に際し、円筒形キャビティ内の液状原料の上面に前記第2チューブの端面を接触させておくことにより、第2チューブに結合した状態の第1チューブを成形することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の樹脂チューブの製造方法は、請求項1において、前記成形型は、底部にマンドレル挿通孔を有した円筒形の成形型本体と、該マンドレル挿通孔に挿通されるマンドレルとを有しており、該マンドレル挿通孔にマンドレルの先端側を挿入した状態で成形型本体内に前記液状原料を注入した後、マンドレルを上昇させてマンドレルの先端を成形型本体の上端から上方へ突出させ、このマンドレルの先端に前記第2チューブを外嵌させ、次いで該マンドレルを下方移動させて第2チューブの先端を液状原料に接触させ、この状態で液状原料を固化させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の樹脂チューブの製造方法は、請求項1又は2において、前記多孔質樹脂は多孔質ポリウレタン樹脂であり、前記液状原料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子材料と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープであり、前記液状原料の固化に際して、液状原料を親水性有機溶媒と接触させて該液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出し、次いで水によって水溶性高分子材料を抽出し、これにより多孔質の第1チューブを成形することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の樹脂チューブの製造方法は、請求項3において、前記第2チューブを構成する樹脂チューブは熱可塑性ポリウレタン樹脂製であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の樹脂チューブの製造方法は、請求項3又は4において、前記水溶性高分子材料は、少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子化合物であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の樹脂チューブの製造方法は、請求項5において、該ポリマードープが、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜90重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを合計で100重量部含むことを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の樹脂チューブの製造方法は、請求項6において、該ポリマードープが熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜50重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを含むことを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の樹脂チューブの製造方法は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項9の樹脂チューブの製造方法は、請求項5ないし8のいずれか1項において、前記含酸素/窒素有機溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びそれらの単純置換体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10の樹脂チューブの製造方法は、請求項5ないし9のいずれか1項において、前記水溶性高分子化合物がセルロースエステルであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項11の樹脂チューブの製造方法は、請求項10において、前記水溶性高分子化合物がカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の樹脂チューブの製造方法によると、成形型の円筒形キャビティ内で液状原料が固化して円筒状の第1チューブとなるときに、この液状原料に第2チューブの先端が接しているので、第2チューブに一体に連なった状態にて第1チューブが成形される。
【0020】
この液状原料は、ポリマードープなどよりなり、粘性が比較的高いので、液状原料を成形型内に注入するときには、マンドレルを下げておき、液状原料を注入した後、マンドレルを上昇させるのが好ましい。これにより、キャビティ内に気泡を残留させることなく液状原料を注入することができる。
【0021】
マンドレルの先端を成形型よりも上方へ突出させた後、このマンドレルの先端に第2チューブを外嵌させ、次いでマンドレルを引き下げることにより、第2チューブの先端面を液状原料の液面に確実に密着させることができる。
【0022】
本発明では、第1チューブは、熱可塑性ポリウレタン樹脂の多孔質材料よりなり、第2チューブは、熱可塑性ポリウレタン樹脂の緻密質材料よりなることが好ましい。
【0023】
この熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料よりなる第1チューブの製造方法としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープを、親水性有機溶媒を含む凝固浴中に浸漬し、前記含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して前記熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固せしめた後、前記水溶性高分子化合物を水によって抽出除去する工程を含む方法が好適である。
【0024】
この方法においては、孔形成剤としてポリマードープ中に混合分散させる水溶性高分子化合物として、凝固浴の親水性有機溶媒に対する溶解性が低い水溶性高分子化合物、即ち、少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖
並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
【0025】
このような親水性有機溶媒への溶解性の低い水溶性高分子化合物を孔形成剤として分散させたポリマードープを親水性有機溶媒中に浸漬し、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒である含酸素/窒素有機溶媒のみを選択的に抽出除去し、かつ、この良溶媒の抜けたサイトに親水性有機溶媒を侵入させることができるため、高次構造が維持されたまま熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固させることができる。この含酸素/窒素有機溶媒を抽出した後、水溶性高分子化合物を抽出除去することにより、ボイドやピンホールなどの欠陥のない多孔性材料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0027】
第1図〜第6図は実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図、第7図は第6図のVII付近の管軸方向の断面図である。
【0028】
この実施の形態では、まず第1、2図のようにして成形型を製造する。この実施の形態では、成形型1は、モールドロワー2及びモールドアッパー3よりなる成形型本体と、該成形型本体に挿通されたマンドレル4とからなる。
【0029】
モールドロワー2は、略々円筒形であり、上側の内腔が大径部2aとなっており、下側の内腔が小径のマンドレル挿通孔2bとなっている。このモールドロワー2は、離型性に優れたPTFEなどのフッ素樹脂製とされることが好ましいが、材料はこれに限定されない。
【0030】
モールドアッパー3は、円筒形であり、大径部2aに内嵌する外径を有している。モールドアッパー3の内径はマンドレル挿通孔2bよりも大である。このモールドアッパー3は抽出液が透過し易い紙などで構成されている。マンドレル4は、マンドレル挿通孔2bに水密的に且つ摺動可能に差し込まれる直径を有した細長い円柱形部材であり、下端にはフランジ状つまみ部4aが設けられている。マンドレル4は金属、フッ素樹脂などで構成されていることが好ましい。
【0031】
第3図の通り、マンドレル4の先端側をマンドレル挿通孔2bに差し込み、成形型1の軸心線方向が上下方向となるように配置する。
【0032】
この状態で成形型1内に液状原料Lをほぼ満杯となるまで注入する。
【0033】
この液状原料は、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープである。このポリマードープの好適な組成については後述する。
【0034】
次いで、第4図の通りマンドレル4を上昇させ、マンドレル4の先端を成形型1の上端よりも上方に突出させる。なお、このマンドレル4の外周とモールドアッパー3の内周との間の円筒形スペースが成形用キャビティとなる。
【0035】
このマンドレル4の先端に緻密質樹脂、好ましくは熱可塑性ポリウレタン樹脂製の第2チューブ6の先端を外嵌させる。第2チューブ6は、マンドレル4にピッタリと嵌まる内径を有している。第2チューブ6の外径は、モールドアッパー3の内径と同一か、又は極く僅か小さいものとなっている。
【0036】
次いで、第5図の通り、マンドレル4を引っ張って若干下降させ、第2チューブ6の先端を液状原料Lの液面(上面)に接触させる。
【0037】
この状態で、少なくとも成形型1を親水性有機触媒よりなる抽出液と接触させ、液液抽出により液状原料L中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出し、液状原料Lを固化させる。
【0038】
液状原料Lが固化した後、内容物を脱型し、次いでこの内容物を水と接触させて水溶性高分子化合物と、親水性有機触媒と、残留する含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより第6、7図に示す樹脂チューブ10が得られる。この樹脂チューブ10は、第1チューブ7と第2チューブ6とが一連一体に連なったものである。第1チューブ7は、水溶性高分子材料の抽出痕よりなる気孔を有した多孔質樹脂製である。第2チューブ7は緻密質樹脂製である。なお、水溶性高分子化合物の抽出処理は脱型前に行われてもよい。
【0039】
第1チューブ7はマンドレル4の外周に形成されたものであり、第2チューブ6の先端はマンドレル4にピッタリと嵌合していたものである。そのため、第1チューブ7の内周面と第2チューブ6の内周面とは段差がなく、滑らかに連続している。また、第2チューブ6が液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒に若干溶けることにより、第1チューブ7から第2チューブ6にかけては気孔率が徐々に減少する遷移帯となっている。そのため、第1チューブ7と第2チューブ6との継目付近に生じる応力がこの遷移帯に広く分散される。
【0040】
以下、上記の液状原料(ポリマードープ)の好適な組成と抽出条件等について説明する。
【0041】
ポリマードープとしては、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、孔形成剤である水溶性高分子化合物と、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒である含酸素/窒素有機溶媒とを混合したものが好適である。具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含酸素/窒素有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させるのが好ましい。
【0042】
このポリマードープの組成としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部、水溶性高分子化合物0.2〜90重量部、含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部の範囲とすることが好ましく(ただし、熱可塑性ポリウレタン樹脂、水溶性高分子化合物及び含酸素/窒素有機溶媒の合計で100重量部とする。)、特に好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部、水溶性高分子化合物0.2〜50重量部、含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部、とりわけ好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜20重量部、水溶性高分子化合物0.2〜20重量部、含酸素/窒素有機溶媒60〜99.6重量部である。
【0043】
熱可塑性ポリウレタン樹脂と水溶性高分子化合物との混合割合は、好ましくは熱可塑性ポリウレタン樹脂:水溶性高分子化合物=1:0.1〜10(重量比)、特に好ましくは1:0.1〜2.0である。
【0044】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒としての含酸素/窒素有機溶媒は、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む有機溶媒であり、具体的にはテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びこれらの単純置換体を使用することが可能である。これらの含酸素/窒素有機溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。なお、単純置換体とは、例えば、2−メチルピリジン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−ピロリドンのように複素環にアルカン原子が導入されたものや、その逆に水素原子が導入されたものを指す。
【0045】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、含酸素/窒素有機溶媒及び水溶性高分子化合物より調製されたポリマードープは、親水性有機溶媒を含む凝固液中に浸漬され、含酸素/窒素有機溶媒が抽出除去されることにより凝固する。
【0046】
この含酸素/窒素有機溶媒を抽出する親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体が例示できるが、この限りではない。これらの親水性有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0047】
凝固浴の親水性有機溶媒の温度としては10℃以上であることが好ましい。これは孔形成剤である少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖並びにこれらの誘導体の溶解度を考慮して設定された温度であり、低温度にて溶解性が発現され易いこれらをポリマードープ中に保持させるために必要な温度である。従って、凝固浴の親水性有機溶媒の温度はより高い温度、例えば40℃以上であることがより好ましく、該親水性有機溶媒の0.1MPa(760mmHg)での沸点温度以上であること、即ち、還流状態で凝固を行うことも好ましい。
【0048】
この含酸素/窒素有機溶媒の抽出除去に当たり、ポリマードープ及び凝固浴を減圧状態にすることも可能である。これにより、凝固浴の親水性有機溶媒だけでなく熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒の沸点も下がり、該良溶媒の凝固浴への拡散を助長させる効果が得られる。
【0049】
このようにして、含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固させた後は、孔形成剤の水溶性高分子化合物を抽出除去することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料を得ることができる。この水溶性高分子化合物の抽出除去は、
水を用いて容易に行うことができる。
【0050】
このようなポリマードープの抽出処理により製造される熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料は、平均孔径0.1〜500μm、好ましくは0.1〜200μmの幅広い平均粒径において、孔径分布がシャープでボイドやピンホール等の欠陥のない均質な高次構造材料であり、しかも、表面に緻密なスキン層がなく、内部から表層まで均質な多孔質構造が形成された高品質の熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0052】
実施例1
(1)第2チューブの作成
熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製,ミラクトランE980PNAT)を通常の押出成形によって内径5.0mm、外径8.0mmのチューブに加工した。100mm長さに裁断し、直線性を維持させた状態で60℃オーブン中で3時間処理して形状を安定化させた。
【0053】
(2)ポリマードープの調製
熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製,ミラクトランE980PNAT)をN−メチル−2−ピロリジノン(関東化学社製,ペプチド合成用試薬,NMP)にディゾルバー(約8,000rpm)を使用して室温下で溶解して12.5%溶液(重量/重量)を得た。このNMP溶液約1.0kgをプラネタリーミキサー(井上製作所製,2.0L仕込み,PLM−2型)に秤量して入れ、溶液中のポリウレタン樹脂と同重量相当のメチルセルロース(関東化学社,50cpグレード)を40℃で120分間混合し、その後攪拌を継続したまま10分間、20mmHg(2.7kPa)まで減圧して脱泡し、ポリマードープを得た。
【0054】
(3)成形型本体の作成
PTFE製の丸棒(長さ50mm)に5mm径の孔を貫通させ、さらに深さ30mmまで14.0mmの同心円を堀りモールドロワーを作成した。
【0055】
また、化学実験用濾紙(東洋濾紙社製,定性分析用,2番)を用いた内径8.0mmφ、外径14.0mmφ、長さ60mmの筒状の紙管を作成し、モールドアッパーとした。
【0056】
このモールドアッパーを上記モールドロワーに第1図の如く差し込んで成形型本体とした。
【0057】
このモールドロワーのマンドレル挿通孔に、第2図の如く、マンドレルとしてSUS440製の直径5mmφの芯棒の先端を差し込んだ。
【0058】
(3)ポリマードープの注入
この成形型内に、第3図の如く、(2)で調製したポリマードープを注入した。注入後、第4図の如くマンドレルを押し込み成形型の先端から突出させた。
【0059】
このマンドレルの先端に(1)のチューブ先端を差し込んで固定した。
【0060】
(4)抽出
第5図の如くマンドレルを引き込み、第2チューブとポリマードープが接触するようにして固定した。チューブを下側へ向けて紙管が垂直となるように還流状態にあるメタノール中へ浸漬して72時間還流を継続して、紙管面から内部のNMP溶媒を抽出除去することによりポリウレタン樹脂を凝固させた。この際、メタノールは還流状態を維持したまま、随時新液と交換した。72時間後、チューブ成形治具を還流状態のメタノールから乾燥させることなく室温下のメタノール浴中に移し、浴内でチューブ成形型から内容物を取り出し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。洗浄用の水は随時新液を供給した。これを50℃下で4時間乾燥させて樹脂チューブを得た。
【0061】
この樹脂チューブは、第2チューブと、ポリマードープから形成されるポーラスな第1チューブとが一体化したものであった。この樹脂チューブには継ぎ目も内周面の段差もなかった。また、第1チューブから第2チューブにかけて気孔率が徐々に減少していた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図2】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図3】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図4】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図5】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図6】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図7】図6のVII付近の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 成形型
2 モールドロワー
3 モールドアッパー
4 マンドレル
6 第2チューブ
7 第1チューブ
10 樹脂チューブ
L 液状原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質樹脂製の第1チューブと、緻密質樹脂製の第2チューブとが、各々の端面を突き合わせて連続一体化された樹脂チューブを製造する方法において、
筒軸方向を上下方向とした円筒形キャビティを有した成形型内で液状原料を固化させることにより該第1チューブを成形する工程を有しており、
この第1チューブの成形に際し、円筒形キャビティ内の液状原料の上面に前記第2チューブの端面を接触させておくことにより、第2チューブに結合した状態の第1チューブを成形することを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記成形型は、底部にマンドレル挿通孔を有した円筒形の成形型本体と、該マンドレル挿通孔に挿通されるマンドレルとを有しており、
該マンドレル挿通孔にマンドレルの先端側を挿入した状態で成形型本体内に前記液状原料を注入した後、マンドレルを上昇させてマンドレルの先端を成形型本体の上端から上方へ突出させ、
このマンドレルの先端に前記第2チューブを外嵌させ、
次いで該マンドレルを下方移動させて第2チューブの先端を液状原料に接触させ、この状態で液状原料を固化させることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記多孔質樹脂は多孔質ポリウレタン樹脂であり、
前記液状原料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子材料と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープであり、
前記液状原料の固化に際して、液状原料を親水性有機溶媒と接触させて該液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出し、次いで水によって水溶性高分子材料を抽出し、これにより多孔質の第1チューブを成形することを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記第2チューブを構成する樹脂チューブは熱可塑性ポリウレタン樹脂製であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記水溶性高分子材料は、少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子化合物であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、該ポリマードープが、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜90重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを合計で100重量部含むことを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、該ポリマードープが熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜50重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを含むことを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項において、前記含酸素/窒素有機溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びそれらの単純置換体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし9のいずれか1項において、前記水溶性高分子化合物がセルロースエステルであることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記水溶性高分子化合物がカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−142329(P2009−142329A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319826(P2007−319826)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】