説明

樹脂フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】ブリードアウトや製造設備への添加剤の揮散・付着などによる面状故障が少なく、光学的異方性(Re、Rth)が小さく実質的に光学的等方性であり、さらには光学的異方性(Re、Rth)の波長分散が小さい樹脂フィルム、光学補償フィルム、視野角特性に優れた偏光板および液晶表示装置を提供する。
【解決手段】スメクタイト又は雲母と、前記スメクタイト又は雲母にオニウムカチオンによって修飾された少なくとも2つの芳香環を有する化合物と、重量平均分子量が700以上3000未満である重合体とを含有する樹脂フィルム、それを用いた光学補償フィルム、偏光板および液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂フィルムに関し、さらにそれを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースエステルフィルムはその強靭性と難燃性から写真用支持体や各種光学材料に用いられてきた。特に、近年は液晶表示装置用の光学透明フィルムとして多く用いられている。セルロースエステルフィルムは、光学的に透明性が高いことと、光学的に等方性が高いことから、液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置用の光学材料として優れており、これまで偏光子の保護フィルムや、斜め方向からの見た表示を良化(視野角補償)できる光学補償フィルムの支持体として用いられてきた。
【0003】
液晶表示装置用の部材のひとつである偏光板には偏光子の少なくとも片側に偏光子の保護フィルムが貼合によって形成されている。一般的な偏光子は延伸されたポリビニルアルコール(PVA)系フィルムをヨウ素または二色性色素で染色することにより得られる。多くの場合、偏光子の保護フィルムとしてはPVAに対して直接貼り合わせることができる、セルロースエステルフィルム、なかでもトリアセチルセルロースフィルムが用いられている。この偏光子の保護フィルムは、光学的等方性に優れることが重要であり、偏光子の保護フィルムの光学特性が偏光板の特性を大きく左右する。
【0004】
最近の液晶表示装置においては、視野角特性の改善がより強く要求されるようになっている。液晶表示装置によっては偏光子の保護フィルムや光学補償フィルムの支持体などの光学透明フィルムが光学的に等方性であることが求められる場合がある。光学的に等方性であるとは、光学フィルムの複屈折と厚みの積で表されるレターデーション値が小さいことが重要である。とりわけ、斜め方向からの表示良化のためには、正面方向のレターデーション(Re)だけでなく、膜厚方向のレターデーション(Rth)を小さくする必要がある。具体的には光学透明フィルムの光学特性を評価した際に、フィルム正面から測定したReが小さく、角度を変えて測定してもそのReが変化しないことが要求される。
【0005】
この解決法として、PVAへの貼合適性に優れるセルロースエステルフィルムを、より光学的異方性を低下させて改良することが強く望まれている。具体的には、セルロースエステルフィルムの正面のReをほぼゼロとし、またレターデーションの角度変化も小さい、すなわちRthもほぼゼロとした、光学的に等方性である光学透明フィルムである。
【0006】
セルロースエステルフィルムの製造において、一般的に製膜性能を良化するため可塑剤と呼ばれる化合物が添加される。可塑剤の種類としては、リン酸トリフェニル、リン酸ビフェニルジフェニルのようなリン酸トリエステル、フタル酸エステル類などが開示されている。これら可塑剤の中には、セルロースエステルフィルムの光学的異方性を低下させる効果を有するものが知られており、例えば、特定の脂肪酸エステル類が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、従来知られているこれらの化合物を用いたセルロースエステルフィルムの光学的異方性を低下させる効果は十分とはいえない。
【0007】
また、最近の液晶表示装置においては、表示色味変化の低減が要求されるようになっている。そのため偏光子の保護フィルムや光学補償フィルムの支持体などの光学透明フィルムは、波長400〜700nmの可視領域でReやRthを小さくするだけでなく、波長によるReやRthの変化、すなわち波長分散を小さくする必要がある。特許文献1には紫外線吸収剤を用いることで波長分散を小さくする方法が開示されている。
【0008】
特許文献1には、種々の低分子のRthを低減する化合物を用いたセルロースエステルフィルムおよびその製法が開示されている。しかし、溶液製膜の工程のうち、溶媒を揮発させる工程においてその添加剤が揮散し、工程内に付着したものがフィルムに落下・滴下して故障の原因となったり、添加剤がブリードアウトして故障となったりという問題があった。
【0009】
一方、特許文献2には、レターデーションを低減する化合物として、アクリル系ポリマーまたはポリエステル等の重合体を用い、添加剤のブリードアウトや結露をなくす方法が開示されている。しかし、上記重合体を用いた場合、波長分散の調整のために低分子の紫外線吸収剤を併用すると、紫外線吸収剤がブリードアウトや揮散することにより面状故障を起こすという問題があった。
【0010】
特許文献3には、有機処理を施した層状珪酸塩を含有した樹脂フィルムがヘイズの増加なく、傷がつきにくいことが開示されている。しかしながら上記の珪酸塩ではレターデーションを制御するには不十分であった。
【0011】
【特許文献1】特開2006−030937号公報
【特許文献2】特開2007−62055号公報
【特許文献3】特開2005−213365号公報
【特許文献4】特開2001−247717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1の課題は、ブリードアウトや製造設備への添加剤の揮散・付着などによる面状故障の少ない樹脂フィルムを提供することにある。
本発明の第2の課題は、光学的異方性(Re、Rth)が小さく実質的に光学的等方性であり、さらには光学的異方性(Re、Rth)の波長分散が小さい樹脂フィルムを提供することである。
本発明の第3の課題は、上記の光学的異方性が小さく、波長分散が小さい樹脂フィルムを用いて作製した視野角特性に優れる偏光板および液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、上記課題が以下の構成によって解決できることを見出した。
【0014】
1. スメクタイト又は雲母と、前記スメクタイト又は雲母にオニウムカチオンによって修飾された少なくとも2つの芳香環を有する化合物と、重量平均分子量が700以上3000未満である重合体とを含有する樹脂フィルム。
2. 前記少なくとも2つの芳香環を有する化合物が、下記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種である上記1に記載の樹脂フィルム。
一般式(I):
71−Q72−OH
(一般式(I)中、Q71は含窒素芳香族ヘテロ環基、Q72は芳香族環基を表す。但し、Q71又はQ72は、オニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。)
【0015】
【化1】

【0016】
(一般式(II)中、Q81及びQ82はそれぞれ独立に芳香族環基を表す。X81は、NR81(R81は水素原子又は置換基を表す)、酸素原子又は硫黄原子を表す。Q81又はQ82は、オニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。)
【0017】
【化2】

【0018】
(一般式(III)中、Q91及びQ92はそれぞれ独立に、芳香族環基を表す。X91及びX92はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、少なくともどちらか1つはシアノ基、カルボニル基、スルホニル基又は芳香族ヘテロ環を表す。但し、Q91、Q92、X91又はX92は、置換基中にオニウムカチオンを少なくとも1つ含有する。)
3. 前記重合体がアクリル系ポリマーである、上記1または2記載の樹脂フィルム。
4. 前記樹脂フィルムがセルロースエステルを主成分とする、上記1〜3のいずれかに記載の樹脂フィルム。
5. 上記1〜4のいずれかに記載の樹脂フィルムを少なくとも1枚用いる偏光板。
6. 上記5に記載の偏光板を少なくとも1枚用いる液晶表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ブリードアウトや製造設備への添加剤の揮散・付着などによる面状故障の少ない樹脂フィルムを提供することができる。
また本発明によれば、光学的異方性(Re、Rth)が小さく実質的に光学的等方性であり、さらには光学的異方性(Re、Rth)の波長分散が小さい樹脂フィルムを提供することができる。
さらに本発明によれば、上記の光学的異方性が小さく、波長分散が小さい樹脂フィルムを用いて作製した視野角特性に優れる偏光板および液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」及び「(数値1)乃至(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0021】
本発明の樹脂フィルムは、スメクタイト又は雲母と、前記スメクタイト又は雲母にオニウムカチオンによって修飾された少なくとも2つの芳香環を有する化合物と、重量平均分子量が700以上3000未満である重合体とを含有する。
【0022】
本発明の樹脂フィルムはレターデーションを低減する化合物として以下の重量平均分子量が700以上3000未満である重合体を使用する。
【0023】
[重量平均分子量が700以上3000未満である重合体]
本発明の樹脂フィルムに添加剤として用いられる重合体は、重量平均分子量が700〜3000であって繰り返し単位を有することを特徴とする。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定が可能である。重量平均分子量はより好ましくは700〜2000であり、さらに好ましくは700〜1500である。
重量平均分子量が700未満であると製膜時に化合物の揮発が問題となるため好ましくない。また、重量平均分子量が3000を超えるとブリードアウト等が発生し好ましくない。
標準ポリマーとして市販のポリスチレンを使用することが好ましい。測定には、例えば東ソー株式会社製有機溶媒系高速GPC用充填カラムなど市販のカラムを使用することができる。
【0024】
本発明に用いられる前記重合体としては、ポリアクリル酸エステルおよびポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー、ポリエステル及びポリエステルエーテル等の縮重合系ポリマー、ポリエステルポリウレタン、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0025】
上記アクリル系ポリマーについて説明する。
アクリル系ポリマーを構成するモノマー種としては、(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸の両者を表す、以下同様)、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル(i−、n−)、(メタ)アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、(メタ)アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、(メタ)アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、(メタ)アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、(メタ)アクリル酸オクチル(n−、i−)、(メタ)アクリル酸ノニル(n−、i−)、(メタ)アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸(2−エチルヘキシル)、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸(ε−カプロラクトン)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、(メタ)アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、(メタ)アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、(メタ)アクリル酸(2−メトキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−エトキシエチル)等;無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。アクリル系ポリマーは上記モノマーの単独重合体であっても共重合体であってよい。
【0026】
モノマー種としてより好ましくは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチルであり、さらに好ましくは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルである。
【0027】
アクリル系ポリマーの合成は特開2003−12859号公報等に記載の公知の方法で行うことができる。
【0028】
上記縮重合系ポリマーについて説明する
縮重合系ポリマーは、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸のいずれか又はこれらの混合物と、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオール及び炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得ることができ、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、更にモノカルボン酸類、モノアルコール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。
【0029】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等である。
また炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0030】
好ましい脂肪族ジカルボン酸は、コハク酸、アジピン酸であり、好ましい芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。これらの中でも特に好ましくは、コハク酸、アジピン酸、フタル酸であり、コハク酸、アジピン酸が最も好ましい。
【0031】
脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸を組み合わせる場合は、それぞれ一種類を組み合わせてもよく、複数種類組み合わせてもよい。
【0032】
次に縮重合系ポリマーに利用されるジオールについて説明する。
【0033】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールまたは脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0034】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールである。
【0035】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、更には2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0036】
炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノール、が挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0037】
ジオールとしては、脂肪族ジオールが最も好ましい。
【0038】
本発明の縮重合系ポリマーは、末端が封止されていても、末端が封止されずにジオール残基のままであってもよい。両末端が封止される場合、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で封止することができる。
【0039】
モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。まず好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。モノカルボン酸残基は酢酸、プロピオン酸を使用することがより好ましい。
【0040】
また、モノアルコール残基で封止する場合は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコール残基が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0041】
縮重合系ポリマーの末端は封止されずにジオール残基のままか、酢酸残基であることが好ましい。
【0042】
かかる縮重合系ポリマーの合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0043】
本発明に用いることができる縮重合系ポリマーの具体例を以下にあげるが、これらに限定されない。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明に用いる重合体としては、アクリル系ポリマーと縮重合系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。
本発明に用いる重合体は1種でも2種以上を混合して用いることもできる。
【0046】
重合体の添加量は、セルロースエステル等の下記で説明する高分子材料に対して2質量%以上とすることが好ましく、5〜40質量%とすることが更に好ましく、10〜30質量%であることが特に好ましい。
【0047】
[波長分散調整剤]
次に本発明に用いることのできる、樹脂フィルムを可視領域で一様に光学的に等方に、すなわち波長分散を低下させる化合物(以下波長分散調整剤ともいう)について説明する。
波長分散調整剤は、200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、フィルムの|Re(400)−Re(700)|および|Rth(400)−Rth(700)|を低下させる化合物である。
なお、Re(λ)またはRth(λ)は、波長λnmにおける正面方向または膜厚方向のレターデーションを意味する。
【0048】
樹脂フィルムがセルロースエステルフィルムの場合、Re、Rthの値は一般に短波長側よりも長波長側が大きい波長分散特性となる。したがって相対的に小さい短波長側のRe、Rthを大きくすることによって波長分散を平滑にすることが要求される。一方200〜400nmの紫外領域に吸収を持つ化合物は短波長側よりも長波長側の吸光度が大きい波長分散特性をもつ。この化合物自身がセルロースエステルフィルム内部で等方的に存在していれば、化合物自身の複屈折性、ひいてはRe、Rthの波長分散は吸光度の波長分散と同様に短波長側が大きいと想定される。
【0049】
200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、化合物自身のRe、Rthの波長分散が短波長側が大きいと想定されるものを用いることによって、セルロースエステルフィルムのRe、Rthの波長分散を調製することができる。このためには波長分散を調整する化合物はセルロースエステルに十分均一に相溶することが要求される。このような化合物の紫外領域の吸収帯範囲は200〜400nmが好ましいが、220〜395nmがより好ましく、240〜390nmがさらに好ましい。
【0050】
波長分散調整剤の具体例としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノ基を含む化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物等の紫外線吸収剤が挙げられるが、従来は、本発明に使用される前記重合体と併用した場合、ブリードアウトや揮散の問題があり、波長分散を調整する性能でも有効性が低下し不十分であった。
【0051】
しかしながら、本発明では、スメクタイト又は雲母に上記の波長分散調整剤の分子を修飾させた複合粒子を用いることで、本発明の重合体と併用してもブリードアウトや揮散の問題を低減しかつ、波長分散性の調整に有効である。
本発明では、スメクタイト又は雲母の形状異方性を利用して修飾させた化合物の配向性を大きくすることで、波長分散を調整する効果を高めるものである。本発明はまた、スメクタイト又は雲母に波長分散調整剤が修飾することで、製造工程における低分子化合物の揮散やブリードアウトによる故障を大きく低減することが可能である。
【0052】
[スメクタイト及び雲母]
本発明に使用可能なスメクタイト及び雲母については、特に制限はない。粒径が一般にnm〜μmのオーダーのものが好ましい。より具体的には、投影面積を円に換算したときの直径から求めた一次粒子の平均粒径が5〜500nmのものが好ましく、8〜300nmのものがさらに好ましい。粒子サイズ及び/又は形状の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよく、この場合小さい粒子の平均サイズは100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは75nm以下である。
【0053】
また、粒子単位質量あたりの有機分子の修飾量を増やし、且つフィルム中における粒子の高い配向性を発現する観点から、スメクタイト又は雲母の形状としては、アスペクト比(=粒子の面内方向の粒径/粒子の厚み)が大きいことが好ましい。好ましくは、アスペクト比5以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは50以上である。
【0054】
また、本発明に用いるスメクタイト又は雲母は、形状異方性に加えて、さらに複屈折性を有していてもよい。面内方向と厚み方向の屈折率差としては、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。
【0055】
スメクタイト又は雲母は、異なる2種以上の混合であってもよい。2種以上の微粒子を混合して用いる場合、それぞれの粒径及び/又はアスペクト比が異なっていてもよい。
【0056】
また、スメクタイト又は雲母としては、天然物でも合成物でもよいが、不純物が少なく品質が安定している点で合成物がより好ましい。本発明に用いるスメクタイト又は雲母の調製方法については特に限定されず、各種無機粒子に応じた方法で合成され得る。例えば、溶融法、インターカレーション法、特に合成スメクタイトについては、水熱合成法が代表的な合成法として挙げられる。
【0057】
合成スメクタイト、合成雲母については、市販品を用いることもできる。例えば、ルーセンタイトSAN、ルーセンタイトSTN、ルーセンタイトSEN、ルーセンタイトSPN、ソマシフMAE、ソマシフMTE、ソマシフMEE、ソマシフMPE(以上コープケミカル社製)、スメクトン(クニミネ(株)製)が代表的に挙げられる。また、二種以上を混合して用いることもできる。
【0058】
[スメクタイト又は雲母に修飾させる有機分子]
本発明では、スメクタイト又は雲母に少なくとも2つの芳香環を有する化合物をオニウムカチオンによって修飾させた複合粒子を樹脂フィルム中に含有させる。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物は、より好ましくは下記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される化合物から選ばれる。下記式(I)〜(III)で表される化合物は、いずれも一分子中にオニウムカチオンを有し、このオニウムカチオンによって、スメクタイト又は雲母に修飾する。
より具体的には、本発明では、スメクタイト又は雲母の層間陽イオンを、下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物の分子が有するオニウムカチオンによって置き換えることで、該分子を、スメクタイト又は雲母に修飾させている。
【0059】
次に、一般式(I)で表される化合物について説明する。
一般式(I):Q71−Q72−OH
式中、Q71は含窒素芳香族ヘテロ環基、Q72は芳香族環基を表す。Q71又はQ72はオニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。
【0060】
一般式(I)において、Q71は含窒素芳香族へテロ環基を表し、好ましくは5〜7員の含窒素芳香族ヘテロ環基であり、より好ましくは5〜6員の含窒素芳香族ヘテロ環基である。
71が有する含窒素芳香族ヘテロ環の好ましい例には、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、セレナゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾセレナゾール、チアジアゾール、オキサジアゾール、ナフトチアゾール、ナフトオキサゾール、アザベンズイミダゾール、プリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアザインデン、テトラザインデン等などの各環が含まれ、更に好ましくは、トリアジン及び5員の含窒素芳香族ヘテロ環であり、具体的には、1,3,5−トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズオキサゾール、チアジアゾール、オキサジアゾールなどの各環が好ましく、特に好ましくは、1,3,5−トリアジン環及びベンゾトリアゾール環である。
【0061】
71で表される含窒素芳香族ヘテロ環基は、更に置換基を有してもよく、該置換基としては、後述する置換基群Tから選択するのが好ましい。また、置換基が複数ある場合にはそれぞれが縮環して更に環を形成してもよい。
【0062】
72は芳香族環基を表す。Q72が有する芳香族環は、芳香族炭化水素環でも芳香族ヘテロ環でもよい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。
芳香族炭化水素環として、好ましくは炭素数6〜30の単環又は二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環である。更に好ましくはベンゼン環である。
芳香族ヘテロ環として好ましくは窒素原子あるいは硫黄原子を含む芳香族ヘテロ環である。ヘテロ環の具体例としては、例えば、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族ヘテロ環として好ましくは、ピリジン、トリアジン、キノリンである。
【0063】
72で表される芳香族環として、好ましくは芳香族炭化水素環であり、より好ましくはナフタレン環、ベンゼン環であり、特に好ましくはベンゼン環である。Q72は更に置換基を有してもよく、該置換基は、下記の置換基群Tから選択されるのが好ましい。
【0064】
置換基群T:
アルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8のものであり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基など)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基など)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは6〜20、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基など)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基など)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基など)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基など)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基など)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基など)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、
【0065】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基など)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基など)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基など)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基など)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは0〜16、特に好ましくは0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基など)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基など)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基など)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルチオ基など)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基など)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基など)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなど)、
【0066】
ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には、例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基など)、及びシリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは3〜30、特に好ましくは3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基など)。
【0067】
これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0068】
71又はQ72は、オニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。オニウムカチオンについては、後述する。
【0069】
次に、一般式(II)で表される化合物について説明する。
【0070】
【化3】

【0071】
一般式(II)中、Q81及びQ82はそれぞれ独立に芳香族環基を表す。X81はNR81(R81は水素原子又は置換基を表す)、酸素原子又は硫黄原子を表す。Q81又はQ82はオニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。
【0072】
81及びQ82で表される芳香族環基は、芳香族炭化水素環基であっても芳香族へテロ環基であってもよい。
芳香族炭化水素環は、好ましくは、炭素数6〜30の単環又は二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環など)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環であり、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
芳香族ヘテロ環は、好ましくは酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のどれかを少なくとも1つ含む芳香族ヘテロ環である。芳香族ヘテロ環の具体例には、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどの各環が含まれる。芳香族ヘテロ環としては、ピリジン環、トリアジン環、又はキノリン環が好ましい。
【0073】
81及びQ82で表される芳香族環基は、芳香族炭化水素環基であるのが好ましく、炭素数6〜10の芳香族炭化水素環基であるのがより好ましく、置換もしくは無置換のベンゼン環基(フェニル基又はフェニレン基)であるのがさらに好ましい。
【0074】
81及びQ82は置換基を有してもよく、置換基としては前記の置換基群Tから選択される置換基が好ましい。可能な場合には置換基同士が連結して環構造を形成してもよい。Q81又はQ82は、オニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。オニウムカチオンについては後述する。
【0075】
81はNR81(R81は、水素原子又は置換基を表し、置換基としては前記の置換基群Tから選択される置換基が好ましい)、酸素原子又は硫黄原子を表す。X81として好ましくは、NR81(R81として好ましくはアシル基、スルホニル基であり、これらの置換基は更に置換してもよい)又は酸素原子であり、特に好ましくは酸素原子である。
【0076】
以下に一般式(III)で表される化合物について説明する。
【0077】
【化4】

【0078】
上記一般式(III)中、Q91及びQ92はそれぞれ独立に、芳香族環基を表す。X91及びX92はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、少なくともどちらか1つはシアノ基、カルボニル基、スルホニル基、又は芳香族ヘテロ環を表す。Q91、Q92、X91又はX92の置換基中に、オニウムカチオンを少なくとも1つ含有する。
【0079】
上記一般式(III)中、Q91及びQ92はそれぞれ独立に、芳香族環基を表す。Q91及びQ92で表される芳香族環基は、芳香族炭化水素環基であっても、芳香族ヘテロ環基であってもよい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。更に他の環と縮合環を形成してもよい。
【0080】
芳香族炭化水素環として、好ましくは炭素数6〜30の単環又は二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環など)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
芳香族ヘテロ環として、好ましくは窒素原子又は硫黄原子を含む芳香族ヘテロ環である。ヘテロ環の具体例には、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが含まれる。芳香族ヘテロ環として好ましくは、ピリジン、トリアジン、キノリンである。
【0081】
91及びQ92はそれぞれ、好ましくは芳香族炭化水素環基であり、より好ましくはフェニル基である。
91及びQ92は更に置換基を有してもよく、該置換基は、前記置換基群Tから選択されるのが好ましい。
【0082】
91及びX92はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、少なくともどちらか1つはシアノ基、カルボニル基、スルホニル基、芳香族ヘテロ環を表す。X91及びX92で表される置換基は、前記置換基群Tから選択されるのが好ましい。また、X91及びX92で表される置換基は更に他の置換基によって置換されてもよく、X91及びX92はそれぞれが縮環して環構造を形成してもよい。
【0083】
91及びX92として、好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、スルホニル基、又は芳香族ヘテロ環基であり、より好ましくは、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基、又は芳香族ヘテロ環基であり、更に好ましくはシアノ基、又はカルボニル基であり、特に好ましくはシアノ基、又はアルコキシカルボニル基{−C(=O)OR91(R91は、炭素数1〜20アルキル基、炭素数6〜12のアリール基及びこれらを組み合せたもの)}である。
【0084】
91、Q92、X91又はX92の置換基中に、オニウムカチオンを少なくとも1つ含有する。オニウムカチオンについては、後述する。
【0085】
前記一般式(III)で表される化合物の好ましい例には、下記一般式(III−I)で表される化合物が含まれる。
【0086】
【化5】

【0087】
式中、R911、R912、R913、R914、R915、R916、R917、R918及びR919は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、置換基としては前記の置換基群Tから選択されるのが好ましい。またこれらの置換基は更に別の置換基によって置換されてもよく、置換基同士が縮環して環構造を形成してもよい。X911及びX912は、それぞれ前記一般式(III)におけるX91及びX92と同義である。
【0088】
911、R912、R914、R915、R916、R917及びR919として好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子であり;より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、又はハロゲン原子であり;更に好ましくは水素原子、又は炭素1〜12アルキル基であり;特に好ましくは水素原子、又はメチル基であり;最も好ましくは水素原子である。
【0089】
913及びR918としては、好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子であり;より好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12アリールオキシ基、又はヒドロキシ基であり;更に好ましくは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数1〜12アルコキシ基であり;特に好ましくは水素原子である。
【0090】
911、R912、R913、R914、R915、R916、R917、R918、R919、X911又はX912は、少なくとも1つのオニウムカチオンを有する。オニウムカチオンについては、後述する。
【0091】
前記一般式(I)〜(III)で表される化合物のいずれの分子も一分子中に、オニウムカチオンを有し、該オニウムカチオンによって、スメクタイト又は雲母に修飾している。上記した通り、より具体的には、前記一般式(I)〜(III)で表される化合物の分子中のオニウムカチオンを、雲母又はスメクタイトの粒子が層間に有する交換性陽イオンと置き換えることによって、該分子を雲母又はスメクタイトへ修飾している。
【0092】
オニウムカチオンとしては、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及びヘテロ環オニウムカチオンが好ましい。アンモニウムカチオンとしては、脂肪族4級アンモニウムイオン、脂環式4級アンモニウムイオン等が挙げられる。ホスホニウムカチオンとしては、脂肪族ホスホニウムイオン、芳香族ホスホニウムイオン等が挙げられる。
ヘテロ環オニウムカチオンとしては、イミダゾリウムカチオン又はピリジニウムカチオンが好ましい。
【0093】
前記オニウムカチオンと、一般式(I)〜(III)で表される化合物中の芳香環基等の環構造の基との間には、連結基が存在してもよい。連結基としては、例えば、炭素数1〜18(好ましくは1〜6)の置換もしくは無置換の直鎖あるいは分岐アルキレン;炭素数1〜18(好ましくは1〜6)の置換もしくは無置換のエーテル結合が介在する直鎖あるいは分岐アルキレン;炭素数6〜18(好ましくは6〜12)の置換もしくは無置換のアリーレン;−O−、−NH−、−S−、−CONH−、−NHCO−、及び5又は6員複素環基が挙げられる。
【0094】
スメクタイト又は雲母に修飾させる有機分子は、層状あるいは平板状スメクタイト又は雲母の溶媒中/高分子中での分散性を向上させるために、炭素数8〜30の長鎖アルキル基を有することが好ましい。該アルキル基は、直鎖であっても分岐であっても、或いは環状構造を有していてもよいが、分岐を有していることがより好ましい。
【0095】
スメクタイト又は雲母に修飾させる有機分子は、併用する高分子材料との親和性を有する置換基をさらに有しているのが好ましい。該置換基と高分子材料との親和性については、高分子材料と該置換基のそれぞれの溶解度パラメータ(SP値)を参考に推測することができ、SP値がお互いに近いことが好ましい。ここで、sp値の計算は例えばJournal of Paint Technology誌,42巻,76頁,1970年に記載のHoyらによる方法を参照することができる。また、高分子材料のSP値は、以下の式
SP=a×SP+a×SP+a×SP+…
に従い計算により求めることができる。ここで、式中のSP、SP及びSPは各重合体の単量体成分に含まれる単量体を単独で重合した際に得られるそれぞれのホモポリマーのSP値を表し、「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」に記載されている値を引用した値である。また、上記式中のa、a及びaは各重合体を形成するのに用いた単量体成分に含まれる単量体のそれぞれの質量分率を表す。
【0096】
該置換基の好ましい例は、用いる高分子材料によって異なる。多くの場合、直鎖あるいは分岐アルキル基が有効に機能する場合が多いが、例えば、PMMAなどのアクリル系ポリマーを高分子材料として用いる場合には、前記修飾有機分子は、CO基、COO基を置換基として有するものが好ましく;セルロースアシラート系ポリマーを高分子材料として用いる場合には、前記修飾有機分子は、エーテル基を置換基として有するもの(好ましくはアルコキシアルキルオキシ基、特に好ましくは3−メトキシブトキシ)、カルボニル基を置換基として有するもの、及び糖誘導体を置換基として有するものが好ましい。
【0097】
以下に本発明に用いられる、前記一般式(I)で表される有機化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0098】
【化6】

【0099】
【化7】

【0100】
以下に本発明に用いられる、前記一般式(II)で表される有機化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0101】
【化8】

【0102】
以下に本発明に用いられる、前記一般式(III)で表される有機化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0103】
【化9】

【0104】
前記式(I)〜(III)で表される化合物は、UV波長域の長波長側(具体的には波長250〜380nm程度の範囲)に、吸収極大を有する化合物であるのが好ましい。
【0105】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記少なくとも2つの芳香環を有する化合物は、下記で説明する高分子材料に対し、スメクタイトまたは雲母との合計量として、0.1〜10質量%の範囲で使用されるのが好ましく、0.2〜8.0質量%の範囲で使用されるのがさらに好ましく、0.5〜5.0質量%の範囲で使用されるのがとくに好ましい。
【0106】
所定の化合物を修飾させたスメクタイト又は雲母は、スメクタイト又は雲母と該化合物とを混合して、接触させ、結果として該化合物をスメクタイト又は雲母に修飾させる。修飾は、物理吸着及び/又は化学吸着であってもよいが、イオン結合による修飾がより好ましい。混合及び接触の際には溶媒を用いることもでき、また、後述する高分子ドープ液の状態で行うことができる。スメクタイト又は雲母の該化合物の修飾の有無については、紫外可視吸収スペクトル、赤外吸収スペクトル、熱分析を測定することにより確認できる。スメクタイト又は雲母に対する該化合物の修飾は、単層での被覆であることが好ましい。修飾量は、粒子のサイズにより単位質量当りの表面積が変化するので、好ましい量はそれに依存して変化するが、10〜300質量%であるのが好ましく、20〜150質量%であるのがより好ましい。修飾量は2つの芳香環を有する化合物の、親疎水性、イオン結合性基の種類、溶剤に対する溶解度を調整して制御することができる。
なお、前記複合粒子と高分子材料等を含有する組成物をドープや塗布液等として調製し、光学異方性膜の作製に用いる場合は、ドープ及び塗布液中において化合物がスメクタイト又は雲母に修飾していなくてもよく、例えば、ドープを流延又は塗布液を塗布等した後、乾燥する過程において、該化合物のスメクタイト又は雲母への修飾が進行してもよい。
【0107】
[高分子材料]
本発明において「高分子材料」の用語は、天然高分子及び合成高分子のいずれも含む意味で用いる。本発明の樹脂フィルムを作製する場合は、フィルム状に成型可能な高分子材料を用いるのが好ましい。フィルム状に成型可能な高分子材料としては、例えば、セルロース誘導体、ポリカーボナート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、シンジオタクチックポリステレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリラート、ポリエステルスルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン系樹脂、ブロム化フェノキシ樹脂等が挙げられる。中でも、COC、COPと呼ばれる環状ポリオレフィン系樹脂、及びセルロース誘導体が好ましい。特に好ましくは、セルロースエステルである。
【0108】
以下、セルロースエステルついて、詳細に説明する。
〔セルロースエステル〕
セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。なお、本発明の樹脂フィルムの主成分としてのポリマーとしては、上述のセルロースエステルを用いることが好ましい。以下、本発明の樹脂フィルムとしてセルロースエステルを使用する形態(セルロースエステルフィルム)について説明する。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち、最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0109】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸であるセルロースアシレートが最も好ましい。
[セルロースアシレート原料綿]
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースエステルフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0110】
[セルロースアシレート置換度]
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースアシレートについて記載する。
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明においてセルロースアシレートにおける、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の修飾度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0111】
上記のように、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基へのアシル置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。
【0112】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、i−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。最も好ましい基はアセチルである。
【0113】
上記のセルロースの水酸基に置換するアシル置換基のうちで、実質的にアセチル基/プロピオニル基/ブタノイル基の少なくとも2種類からなる場合においては、その全置換度が2.50〜2.95であることが好ましく、より好ましいアシル置換度は2.60〜2.95であり、さらに好ましくは2.65〜2.95である。
上記のセルロースアシレートのアシル置換基が、アセチル基のみからなる場合においては、その全置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。さらには置換度が2.40〜2.95であることが好ましく、2.85〜2.95であることがより好ましい。
【0114】
本発明のセルロースエステルにおいて、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素原子数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することが出来る。
【0115】
[セルロースエステルの重合度]
本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が高すぎるとセルロースエステルのドープ溶液の粘度が高くなり、流延によりフィルム作製が困難になる。重合度が低すぎると作製したフィルムの強度が低下してしまう。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。特開平9−95538に詳細に記載されている。
【0116】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがさらに好ましく、1.0〜1.6であることが最も好ましい。
【0117】
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースエステルよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースエステルは、通常の方法で合成したセルロースエステルから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースエステルを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースエステルを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量部に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースエステルを合成することができる。本発明のセルロースエステルの製造時に使用される際には、その含水率は2質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下であり、特には0.7質量%以下の含水率を有するセルロースエステルである。一般に、セルロースエステルは、水を含有しており2.5〜5質量%が知られている。本発明でこのセルロースエステルの含水率にするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率になれば特に限定されない。本発明のこれらのセルロースエステルは、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0118】
本発明のセルロースエステルは置換基、置換度、重合度、分子量分布など、単一あるいは異なる2種類以上のセルロースエステルを混合して用いることができる。
【0119】
[添加剤]
本発明のセルロースエステルフィルムには、先述の重合体だけでなく、更に低分子の添加剤を、可塑剤やブリードアウト抑制剤、波長分散制御剤、耐光性改良剤、マット剤、光学異方性調整剤(例えば、公開特許公報 特開2006−30937号に記載の化合物)などとして目的に応じて加えることができる。
【0120】
[光学異方性の小さなセルロースエステルフィルム]
本発明のセルロースエステルフィルムは、とくに光学的異方性の小さいものが好適である。波長550nmで測定したReおよびRth(下記式(I)および式(II)にて定義される)が、式(III)・式(IV)の両方を満たすように作られることが好ましい。この値は、セルロースエステル綿の置換度や、先述のポリエステルジオールの添加量、光学異方性調整剤の種類と添加量、フィルムの膜厚などにより制御することができ、特に本発明に用いるポリエステルジオールはこの制御に優れる添加剤である。
式(I) Re=(nx―ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式(III) |Re|<10
式(IV) |Rth|<25
〔式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。〕
【0121】
[マット剤微粒子]
本発明のセルロースエステルフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0122】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0123】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0124】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0125】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースエステルフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースエステル溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースエステルドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースエステルのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1mあたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0126】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0127】
[可塑剤、劣化防止剤、剥離剤]
上記の光学的に異方性を低下する化合物、波長分散調整剤の他に、本発明のセルロースエステルフィルムには、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、剥離剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開2001−151901号などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開2001−194522号に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースエステルフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開2001−151902号などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0128】
[化合物添加の比率]
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、分子量が5000以下の化合物の総量は、セルロースエステル質量に対して5〜45%であることがのぞましい。より好ましくは10〜40%であり、さらにのぞましくは15〜30%である。これらの化合物としては上述したように、本発明のポリエステルジオール、光学異方性調整剤、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤などである。これら化合物の総量が5%以下であると、セルロースエステル単体の性質が出やすくなり、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しやすくなるなどの問題がある。またこれら化合物の総量が45%以上であると、セルロースエステルフィルム中に化合物が相溶する限界を超え、フィルム表面に析出してフィルムが白濁する(フィルムからの泣き出し)などの問題が生じやすくなる。
【0129】
[樹脂溶液の有機溶媒]
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフィルムを製造することが好ましく、セルロースエステルを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムは製造される。本発明の主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、および炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0130】
以上本発明のセルロースエステルフィルムに対しては塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶媒としても良いし、発明協会公開技報2001−1745(12頁〜16頁)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としても良く、本発明のセルロースエステルフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0131】
その他、本発明のセルロースエステル溶液及びフィルムについての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許文献に開示されており、好ましい態様である。それらは、例えば、特開2000−95876、特開平12−95877、特開平10−324774、特開平8−152514、特開平10−330538、特開平9−95538、特開平9−95557、特開平10−235664、特開平12−63534、特開平11−21379、特開平10−182853、特開平10−278056、特開平10−279702、特開平10−323853、特開平10−237186、特開平11−60807、特開平11−152342、特開平11−292988、特開平11−60752、特開平11−60752などに記載されている。これらの特許によると本発明のセルロースエステルに好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、本発明においても好ましい態様である。
【0132】
[セルロースエステルフィルムの製造工程]
[溶解工程]
本発明のセルロースエステル溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。本発明におけるセルロースエステル溶液の調製、さらには溶解工程に伴う溶液濃縮、ろ過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
【0133】
[流延、乾燥、巻き取り工程]
次に、本発明のセルロースエステル溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースエステルフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースエステル溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。別の態様としては、先述の金属支持体を0℃以下に冷却したドラムとし、ドラム上にダイから流延したドープをゲル化してから約1周した時点で剥ぎ取り、ピン状のテンターで延伸しながら搬送し、乾燥する方法など、ソルベントキャスト法で製膜する様々な方法をとることが可能である。
【0134】
[共流延]
本発明のセルロースエステルフィルムにおいてはフィルム中の無機微粒子の分布を制御するために、共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に共流延法を用いることが特に好ましい。
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のセルロースアセテート・ドープを調製する。共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフイルムを成形する流延法である。図1に、共流延ギーサ3を用い、流延用支持体4の上に表層用ドープ1とコア層用ドープ2を3層同時に押出して流延する状態を断面図で示した。
本発明のスメクタイト又は雲母からなる複合粒子は、上記コア層用ドープに含有することが好ましい。また、マット剤微粒子は表層用ドープに含有することが好ましい。
【0135】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延する要領で必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフイルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフイルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、表層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面づつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフイルムを成形する方法である。
【0136】
本発明に好ましく用いられるセルロースエステルフィルムを製造するのに使用される、エンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。使用される加圧ダイは、金属支持体の上方に1基又は2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるセルロースアシレート溶液の温度は−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、又は工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0137】
[延伸]
本発明のセルロースエステルフィルムは、延伸処理によりレターデーションを調整することができる。積極的に幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、および特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度を挟む±20℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度より極端に低い温度で延伸すると、破断しやすくなり所望の光学特性を発現させることができない。また、ガラス転移温度より極端に高い温度で延伸すると、延伸により分子配向したものが熱固定される前に、延伸時の熱で緩和し配向を固定化することができず、光学特性の発現性が悪くなる。
【0138】
延伸を行う場合、延伸倍率は1〜100%であり、好ましくは1〜50%、、特に好ましくは1から30%延伸を行うことができる。延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理しても良い。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶剤量(残留溶剤量/(残留溶剤量+固形分量))が0.05〜50%で好ましく延伸することができる。
【0139】
また本発明のセルロースエステルフィルムは、二軸延伸をおこなってもよい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向(長手方法)に延伸した後、長手方向(幅方向)に延伸される。
【0140】
本発明のセルロースエステルフィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁〜30頁に詳細に記載されている。
【0141】
[フィルムの厚さ]
また、樹脂フィルムの厚さは20〜120μmが好ましく、30〜90μmがさらに好ましく、35〜80μmが特に好ましい。また、液晶パネルに貼合する偏光子保護フィルムとして用いる場合は、30〜65μmであると温湿度変化に伴うパネルの反りが小さく特に好ましい。
表層とコア層からなる場合には表層の片側の厚さが15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0142】
[フィルムのヘイズ]
本発明の樹脂フィルムのヘイズは0.01〜2.0%であることがのぞましい。よりのぞましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることがさらにのぞましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。ヘイズの測定は、本発明の樹脂フィルム試料40mm×80mmを、25℃,60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。
【0143】
[樹脂フィルムの評価方法]
本発明の樹脂フィルムの評価に当たって、以下の方法で測定して実施した。
【0144】
(正面方向(面内)のレターデーションRe、膜厚方向のレターデーションRth)
試料30mm×40mmを、25℃、60%RHで2時間調湿し、Re(λ)は自動複屈折計KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定した。また、Rth(λ)は前記Re(λ)、面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基に、平均屈折率の仮定値1.48および膜厚を入力し算出した。
【0145】
(Re、Rthの波長分散測定)
試料30mm×40mmを、25℃、60%RHで2時間調湿し、エリプソメーターM−150(日本分光(株)製)において波長780nmから380nmの光をフィルム法線方向に入射させることにより各波長でのReをもとめ、Reの波長分散を測定した。また、Rthの波長分散については、前記Re、面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から780〜380nmの波長の光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長780〜380nmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基に、平均屈折率の仮定値1.48および膜厚を入力して算出した。
【0146】
本発明のセルロースエステルフィルムのその他の好ましい特性について述べる。
【0147】
[フィルムの残留溶剤量]
本発明のセルロースエステルフィルムに対する残留溶剤量が、1.5質量%以下となる条件で乾燥することが好ましい。より好ましくは1.0質量%以下である。
【0148】
[アルカリ鹸化処理によるフィルム表面の接触角]
本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板の透明保護フィルムとして用いる場合の表面処理の有効な手段の1つとしてアルカリ鹸化処理が上げられる。この場合、アルカリ鹸化処理後のフィルム表面の接触角が55°以下であることがのぞましい。よりのぞましくは50°以下であり、45°以下であることがさらにのぞましい。接触角の評価法はアルカリ鹸化処理後のフィルム表面に直径3mmの水滴を落とし、フィルム表面と水滴のなす角をもとめる通常の手法によって親疎水性の評価として用いることができる。
【0149】
[表面処理]
セルロースエステルフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースエステルフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月1
5日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0150】
[機能層]
本発明のセルロースエステルフィルムは、その用途として光学用途と写真感光材料に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成であることがさらに好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、ECB、VAおよびHANが好ましい。
その際に前述の光学用途に本発明のセルロースエステルフィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。本発明のセルロースエステルフィルムを用いることができるこれらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0151】
[用途(偏光板)]
本発明のセルロースエステルフィルムの用途について説明する。
本発明のセルロースエステルフィルムは特に偏光板保護フィルム用として有用である。偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースエステルフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースエステルフィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが得に好ましい。
【0152】
[用途(光学補償フィルム)]
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いると特に効果がある。なお、光学補償フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられ、位相差を補償する光学材料のことを指し、位相差板、光学補償シートなどと同義である。光学補償フィルムは複屈折性を有し、液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられる。本発明のセルロースエステルフィルムはReおよびRthが0≦Re≦10nmかつ|Rth|≦25nmと光学的異方性を小さく作製すると、複屈折を持つ光学異方性層を併用すると光学異方性層の光学性能のみを主に発現することができ、好適に用いることができる。
【0153】
したがって本発明のセルロースエステルフィルムを液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いる場合、併用する光学異方性層はどのような光学異方性層でも良い。本発明のセルロースエステルフィルムが使用される液晶表示装置の液晶セルの光学性能や駆動方式に制限されず、光学補償フィルムとして要求される、どのような光学異方性層も併用することができる。併用される光学異方性層としては、液晶性化合物を含有する組成物から形成しても良いし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成しても良い。前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0154】
(一般的な液晶表示装置の構成)
セルロースエステルフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光素子の透過軸と、セルロースエステルフィルムからなる光学補償フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に50μm〜2mmの厚さを有する。
【0155】
(液晶表示装置の種類)
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned
)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。本発明のセルロースエステルフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。
【0156】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の光学補償シートの支持体、または偏光板の保護膜としても特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は色味の改善、視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。この態様においては、液晶セルの上下の前記偏光板の保護膜のうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護膜(セル側の保護膜)に本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板を少なくとも片側一方に用いることが好ましい。更に好ましくは、偏光板の保護膜と液晶セルの間に光学異方性層を配置し、配置された光学異方性層のリターデーションの値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定するのが好ましい。
【0157】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースエステルフィルムは、またハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへの適用が好ましく実施できる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースエステルフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムを好ましく用いることができる。
【0158】
(透明基板)
本発明のポリエステルジオールを用いれば、セルロースエステルフィルムの光学的異方性をゼロに近く作ることができ、優れた透明性を持っていることから、液晶表示装置の液晶セルガラス基板の代替、すなわち駆動液晶を封入する透明基板としても用いることができる。
液晶を封入する透明基板はガスバリア性に優れる必要があることから、必要に応じて本発明のセルロースエステルフィルムの表面にガスバリアー層を設けてもよい。ガスバリアー層の形態や材質は特に限定されないが、本発明のセルロースエステルフィルムの少なくとも片面にSiO等を蒸着したり、あるいは塩化ビニリデン系ポリマーやビニルア
ルコール系ポリマーなど相対的にガスバリアー性の高いポリマーのコート層を設ける方法が考えられ、これらを適宜使用できる。
また液晶を封入する透明基板として用いるには、電圧印加によって液晶を駆動するための透明電極を設けてもよい。透明電極としては特に限定されないが、本発明のセルロースエステルフィルムの少なくとも片面に、金属膜、金属酸化物膜などを積層することによって透明電極を設けることができる。中でも透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましく、なかでも酸化スズを主として酸化亜鉛を2〜15%含む酸化インジウムの薄膜が好ましく使用できる。これら技術の詳細は例えば、特開2001−125079や特開2000−227603号の各公報などに公開されている。
【実施例】
【0159】
以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0160】
[実施例1]
(複合粒子分散液101の調製)
市販されている合成スメクタイト微粒子(商品名:ルーセンタイトSPN;コープケミカル社製;1次粒子のアスペクト比≒50(厚み≒1nm、粒径≒50nm))に50倍容量部のメタノールを添加し、室温にて30分間攪拌した後、30分間超音波処理を行い、均一なメタノール分散液を調製した。該メタノール分散液に、無機粒子への修飾基を有する例示化合物S−2の2.0質量%メタノール溶液を、スメクタイトのメタノール分散液と等質量、攪拌しながら徐々に添加した。凝集物を遠心分離(3000rpm、5分)により固液分離させて取り出し、メチレンクロライドを前記スメクタイト微粒子の質量に対して50倍質量部添加し、室温にて30分間攪拌した後、30分間超音波処理を行い、均一な分散液を得た。これを複合粒子分散液101とした。
なお、前記例示化合物の修飾量の定量は、紫外可視吸収スペクトル及び熱分析(TG/DTA)により行ったところ、修飾量(前記例示化合物のスメクタイト粒子を含んだ全体に対する質量%)は18.3%であった。
【0161】
セルロースエステルフィルム試料101の作製
(セルロースアセテート溶液101の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
・セルロースアセテート(置換度2.86 平均重合度310)100.0質量部
・重合体:ポリメチルアクリレート(重量平均分子量=1000) 12.0質量部
・メチレンクロライド 366.5質量部
・メタノール 54.8質量部
【0162】
(マット剤分散液101の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロライド 76.3質量部
・メタノール 11.4質量部
・セルロースアセテート溶液101 10.3質量部
【0163】
(製膜)
上記セルロースアセテート溶液、添加剤溶液をそれぞれ以下に示した割合で混合し、製膜用ドープおよび表層用ドープを調製した。
【0164】
(製膜用ドープ101の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を後述するように比率を調整、混合し、製膜用ドープを調製した。
・セルロースアセテート溶液101 91.5質量部
・複合粒子分散液101 8.5質量部
【0165】
(表層用ドープ101の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を後述するように比率を調整、混合溶解し、表層用ドープを調製した。
・セルロースアセテート溶液101 98.6質量部
・マット剤分散液101 1.4質量部
【0166】
(流延)
上述の製膜用ドープを流延口から−5℃に冷却したドラム上に、製膜用ドープ101をコア層、表層用ドープ101を表層となるように共流延法で流延した。得られたウェブをバンドから剥離し、溶媒含有率70質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの巾方向の両端をピンテンター(特開平4−1009号の図3に記載のピンテンター)で固定し、溶媒含有率が3乃至5質量%の状態で、横方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が約3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、厚みがコア層が54μmに上下の表層がそれぞれ3μmになるようにセルロースエステルフィルム試料101を作製した。
【0167】
(複合粒子分散液102の調製)
複合粒子101と同様にして、合成スメクタイト微粒子に例示化合物U−2を用いて複合粒子分散液102を調製した。修飾量(前記例示化合物のスメクタイト粒子を含んだ全体に対する質量%)は21.1%であった。
(複合粒子分散液103の調製)
複合粒子101と同様にして、合成スメクタイト微粒子に例示化合物V−7を用いて複合粒子分散液103を調製した。修飾量(前記例示化合物のスメクタイト粒子を含んだ全体に対する質量%)は22.4%であった。
【0168】
(複合粒子分散液104の調製)
複合粒子101と同様にして合成スメクタイト微粒子の代わりに、合成雲母微粒子(商品名:ソマシフMPE;コープケミカル社製;1次粒子のアスペクト比≒5000(厚み≒1nm、粒径≒5μm))を用いた以外は上述した方法と同様にして、複合粒子104を調製した。修飾量(前記例示化合物の雲母粒子を含んだ全体に対する質量%)は17.4%であった。
【0169】
(複合粒子分散液119の調製)
複合粒子101と同様にして、合成スメクタイト微粒子に下記例示化合物Qを用いて複合粒子分散液119を調製した。修飾量(前記例示化合物のスメクタイト粒子を含んだ全体に対する質量%)は21.3%であった。
【0170】
【化10】

【0171】
<セルロースエステルフィルム試料102〜119の作製>
試料101と同様にして、複合粒子または重合体を表2に示す種類及び添加量となるように、上述の複合粒子分散液101〜104および119を用い、または用いずに、試料102〜119を作製した。
【0172】
【表2】

【0173】
【化11】

【0174】
[加熱減量]
使用した重合体及び低分子可塑剤の加熱減量を熱天秤法で測定した。140℃,60分間加熱したときの質量減少率を重合体または可塑剤の加熱減量として表2に示す。値が大きいとセルロースアシレートウェブの乾燥時に化合物が揮散し、製造工程時に製造機に付着し、製膜中に落下または付着することで、面状故障の原因となる場合がある。
【0175】
[面状故障]
得られたセルロースアセテートフィルム試料をロール状に巻き取り、この元巻きから100mm×100mmのサイズを裁断し、偏光顕微鏡を用いてクロスニコル下で倍率30倍で観察し、異物発生箇所の個数で下記の評価を行った。ここで異物とはブリードアウト成分、表面の汚れ、あるいはフィルム内部または表面の析出物により、偏光顕微鏡下で輝点として観察される。
◎:異物の個数0〜4個
○:異物の個数5〜10個
△:異物の個数11〜50個
×:異物の個数51個以上
【0176】
セルロースエステルフィルム101〜118のうち、製膜できた試料をサンプリングして、ReおよびRthを測定した。波長分散性を指標として波長450nmの値から波長650nmの値の差を、それぞれ△Re、△Rthとして示した。工程上生じた問題も含めて、結果を表2にまとめた。
【0177】
本発明の複合粒子と重合体を用いれば、Rthを小さくかつ化合物の揮散が軽減され面状故障を低減できる。本発明の複合粒子を用いず、波長分散性を低減するために従来知られている紫外線吸収剤(比較化合物A,B,C)を用いても、効果が小さく、紫外線吸収剤の揮散により面状故障が不十分である。
本発明の複合粒子は紫外線吸収剤の構造が粒子状に修飾されており、揮散の低減と波長分散を低減を両立することができる。また、重合体は分子量が700を下回ると揮散性が増大し、3000を超えると樹脂への相溶性が小さくブリードアウトが発生する。
本発明の複合粒子と重合体により、面状故障が少なく製造効率のよい、光学特性が波長分散性を含め小さくい光学フィルムが得られる。
【0178】
[実施例2]
(偏光板の作製)
実施例1で得た本発明のセルロースアセテートフィルム試料101を、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で2分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、セルロースエステルフィルムの表面をケン化し、アルカリけん化処理したセルロースエステルフィルム試料F−1を得た。
続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して偏光膜を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、アルカリけん化処理したセルロースエステルフィルム試料F−1を1枚と、先述と同様にアルカリけん化処理した市販のセルロースアセテートフィルム(フジタック TD60UL;富士フイルム(株)製)を1枚用意して、偏光膜を間にして貼り合わせ、両面がセルロースエステルフィルムよって保護された偏光板を得た。この際両側のセルロースエステルフィルムの遅相軸が偏光膜の透過軸と平行になるように貼り付け、偏光板101を作製した。
また、本発明のセルロースエステルフィルム試料F−1のかわりに市販の膜厚60μmのセルロースエステルフィルム(フジタック TD60UL;富士フイルム(株)製)を用いて、両面がフジタック TD60ULである偏光板を前記と同様にして作製した。この偏光板をP−TDという。
【0179】
(IPS型液晶表示装置への実装評価)
実施例2で得た偏光板を用いて、液晶表示装置へ実装評価してその光学性能が十分であるか確認した。なお本実施例ではIPS型液晶セルを用いるが、本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板または光学補償フィルムの用途は液晶表示装置の動作モードに限定されることはない。
【0180】
実施例2で作製した偏光板P−TDに対して、アートンフィルム(JSR社製)を一軸延伸した位相差フィルムを貼合して光学補償機能を持たせた。この際、位相差フィルムの面内レターデーションの遅相軸を偏光板の透過軸と直交させることで、正面特性を何ら変えることなく視覚特性を向上させることができる。位相差フィルムの面内レターデーションReは270nm、厚さ方向のレターデーションRthは0nmでNzファクターは0.5のものを用いた。
上記で作製した位相差フィルム付き偏光板と偏光板101を用い、位相差フィルムとフィルム試料F−1がそれぞれ液晶セル側となるように、位相差フィルム付き偏光板、IPS型の液晶セル、フィルム試料F−1付き偏光板の順番に上から重ね合わせて組み込んだ表示装置を作製した。この際、上下の位相差フィルム付き偏光板の透過軸を直交させ、上側の位相差フィルム付き偏光板の透過軸は、液晶セルの分子長軸方向と平行(すなわち位相差フィルムの遅相軸と液晶セルの分子長軸方向は直交)とした。液晶セルや電極・基板は、IPSとして従来から用いられているものがそのまま使用できる。液晶セルの配向は水平配向であり、液晶は正の誘電率異方性を有しており、IPS液晶用に開発され市販されているものを用いることができる。液晶セルの物性は、液晶のΔn:0.099、液晶層のセルギャップ:3.0μm、プレチルト角:5゜、ラビング方向:基板上下とも75゜とした。
【0181】
以上のようにして作製した液晶表示装置において、装置正面からの方位角方向45度、極角方向70度における黒表示時の光漏れ率、色味変化を測定したところ、何れも十分に小さく良好な結果を得た。
【0182】
以上の結果から、本発明のセルロースエステルフィルムは、製造工程を揮散物で汚さず、ブリードアウトや白化などの問題も生じず、光学特性が波長分散性を含めて小さい光学フィルムを作製でき、それを用いることにより、IPS液晶セルの光漏れや色味変化を抑えて優れた表示性能を達成することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメクタイト又は雲母と、前記スメクタイト又は雲母にオニウムカチオンによって修飾された少なくとも2つの芳香環を有する化合物と、重量平均分子量が700以上3000未満である重合体とを含有する樹脂フィルム。
【請求項2】
前記少なくとも2つの芳香環を有する化合物が、下記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂フィルム。
一般式(I):
71−Q72−OH
(一般式(I)中、Q71は含窒素芳香族ヘテロ環基、Q72は芳香族環基を表す。但し、Q71又はQ72は、オニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。)
【化1】

(一般式(II)中、Q81及びQ82はそれぞれ独立に芳香族環基を表す。X81は、NR81(R81は水素原子又は置換基を表す)、酸素原子又は硫黄原子を表す。Q81又はQ82は、オニウムカチオンを含む置換基を少なくとも1つ有する。)
【化2】

(一般式(III)中、Q91及びQ92はそれぞれ独立に、芳香族環基を表す。X91及びX92はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、少なくともどちらか1つはシアノ基、カルボニル基、スルホニル基又は芳香族ヘテロ環を表す。但し、Q91、Q92、X91又はX92は、置換基中にオニウムカチオンを少なくとも1つ含有する。)
【請求項3】
前記重合体がアクリル系ポリマーである、請求項1または2記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムがセルロースエステルを主成分とする、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂フィルムを少なくとも1枚用いる偏光板。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光板を少なくとも1枚用いる液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−7037(P2010−7037A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171666(P2008−171666)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】