説明

樹脂フィルムおよびそれを用いた多層回路基板とその製造方法

【課題】貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と多層化時の樹脂フィルムの接着性確保を両立させることができ、多層回路基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層回路基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンPが形成された樹脂フィルム30であって、樹脂フィルム30が、導体パターンPが形成される面側の第1基材層11と、導体パターンPが形成されない面側の第2基材層12とからなり、第1基材層11と第2基材層12が、いずれも熱可塑性樹脂からなり、第2基材層12の融点が、第1基材層11の融点より低い樹脂フィルム30とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法が、例えば、特開2003−86948号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
図6は、上記特許文献1と同様の代表的な多層回路基板の製造方法を説明する図で、図6(a)〜(f)は、多層回路基板90の製造工程別の断面図である。
【0004】
図6(a)〜(f)に示す多層回路基板90の製造方法では、最初に、図6(a)に示すように、加熱プレスによって、熱可塑性樹脂からなる基材1の樹脂フィルム20の片面に、金属(銅)箔2を貼り合わせる。次に、図6(b)に示すように、エッチングによって、銅箔2を所定の導体パターンPに加工する。次に、図6(c)に示すように、樹脂フィルム20の所定の位置に、レーザ加工で導体パターンPを底とする底付穴Hを開ける。次に、図6(d)に示すように、底付穴Hに導電ペースト4を充填する。これによって、片面に導体パターンPが形成され、底付穴Hに導電ペースト4が充填された、熱可塑性樹脂からなる基材1の樹脂フィルム20が準備できる。
【0005】
次に、図6(e)に示すように、上記と同様にして準備した樹脂フィルム20a〜20fを、図のように途中で反転させて積層する。最後に、上記積層体を熱プレス板により、融点直下の温度で加熱加圧して、樹脂フィルム20a〜20fの形状を保持したまま隣接する、樹脂フィルム20a〜20f同士を相互に貼り合わせる。これにより、図6(f)に示すように、隣接する熱可塑性樹脂からなる基材1の樹脂フィルム20a〜20fが相互に貼り合わされ一体化すると共に、底付穴H内に充填された導電ペースト4が焼結して接続導体4aとなり、各層の導体パターンP同士が電気的に接続される。
【0006】
以上の工程によって、図6(f)に示す多層回路基板90が製造される。
【0007】
上記多層回路基板90の製造方法によれば、加熱加圧により、積層した複数枚の樹脂フィルム20a〜20fが一括して接着され、また同時に導電ペースト4が焼結して接続導体4aとなり配線回路が形成されるため、各層を一層ずつ形成して多層化する多層回路基板の製造方法に較べて、多層化工程が短くて済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−86948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6(e),(f)に示した樹脂フィルム20a〜20fの一括貼り合わせ工程では、樹脂フィルム20a〜20fにそれぞれ形成されている導体パターンPの相互の位置ずれ防止と、樹脂フィルム20a〜20fの相互の接着性とを、両立させる必要がある。このため、上記貼り合わせ工程では、熱可塑性樹脂からなる基材1の融点直下の軟化温度において、樹脂フィルム20a〜20fの積層体を加熱・加圧することにより相互に貼り合わせている。
【0010】
しかしながら、上記導体パターンPの位置ずれ防止と樹脂フィルム20a〜20fの接着性は相反する特性であり、両立することは一般的に困難である。すなわち、導体パターンPの位置ずれ防止は、熱可塑性樹脂からなる基材1の耐熱強度に係る特性で、耐熱強度に優れる基材であるほど導体パターンPの位置ずれが発生し難い。一方、樹脂フィルム20a〜20fの接着性は、熱可塑性樹脂からなる基材1が高温で強度が下がり、基材1が柔らかくなるほど向上する。従って、導体パターンPの位置ずれ防止と樹脂フィルム20a〜20fの接着性を両立できる貼り合わせの温度範囲は、非常に狭い温度範囲となってしまう。このため、貼り合わせ時に樹脂フィルム20a〜20fの積層体の一部が所定の温度範囲からずれると、導体パターンPの位置ずれや、基材1による導体パターンP周りの段差埋め込み不良、および基材1同士の相互接着不良等が発生してしまう。
【0011】
そこで本発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法であって、貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と多層化時の樹脂フィルムの接着性確保を両立させることができ、多層回路基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層回路基板とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルムであって、前記樹脂フィルムが、前記導体パターンが形成される面(以下、第1面とする)側の第1基材層と、前記導体パターンが形成されない面(以下、第2面とする)側の第2基材層とからなり、前記第1基材層と第2基材層が、いずれも熱可塑性樹脂からなり、前記第2基材層の融点が、前記第1基材層の融点より低いことを特徴としている。
【0013】
上記樹脂フィルムは、従来の加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の樹脂フィルムと異なり、配線層間の絶縁部材となる基材部が、第1基材層と第2基材層の2層構造となっている。また、第1基材層と第2基材層は、いずれも熱可塑性樹脂からなるが、第1基材層と第2基材層とでは、融点が異なっている。
【0014】
上記樹脂フィルムを用いて多層回路基板を製造するには、該樹脂フィルムに形成されている導体パターンがそれぞれ多層回路基板の各層の回路パターンとなるように、複数枚の該樹脂フィルムを以下のように積層する。すなわち、最外層となる樹脂フィルムを除いて、内部に配置される任意の樹脂フィルムの第1基材層(従って、当該樹脂フィルムの導体パターン)と隣接する樹脂フィルムの第2基材層とが当接するように、各樹脂フィルムを積層する。そして、このように積層された各樹脂フィルムを、加熱加圧により、一括して相互に貼り合わせる。
【0015】
ここで、熱可塑性樹脂の軟化温度は一般的に融点に比例するが、上記樹脂フィルムにおいては、導体パターンが形成される第1面側の第1基材層の融点は、導体パターンが形成されない第2面側の第2基材層の融点より高い構造となっている。従って、上記積層体の加熱加圧による一括貼り合わせ工程において、第2基材層が軟化し、第1基材層が軟化しない、貼り合わせ温度域を設定することができる。これによれば、融点の低い第2基材層の軟化する上記温度域で多層化プレスを行うことができるため、第2基材層を十分に軟化して柔らかくすることにより、樹脂フィルム同士の高い接着性および導体パターン周りの良好な段差埋め込み性を確保することができる。一方、上記温度域においては、融点の高い第1基材層は軟化することがない。このため、多層化時における導体パターン(および該導体パターンを底とする底付穴に充填された導電ペースト)の位置ずれを抑制することができ、導体パターンの高い位置精度を確保することができる。
【0016】
以上のようにして、上記樹脂フィルムは、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルムであって、貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と多層化時の樹脂フィルムの接着性確保を両立させることができ、多層回路基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムとなっている。
【0017】
上記樹脂フィルムは、例えば請求項2に記載のように、前記第1基材層と第2基材層が、いずれも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度より大きい構成とする。
【0018】
該樹脂フィルムは、電気的特性や耐薬品性等の基本特性に優れると共に、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂の含有濃度を変えるだけで、第1基材層と第2基材層の融点を適宜所望の値に設定することができる。
【0019】
この場合、例えば請求項3に記載のように、前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より大きく、前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より小さいように設定する。この場合には、上記貼り合わせ温度域を310℃前後(±10℃程度)に設定することができ、該貼り合わせ温度域で樹脂フィルム同士の貼り合わせと導体パターン間の接続導体となる上記導電ペーストの焼結を、一括して行うことができる。
【0020】
上記樹脂フィルムは、例えば請求項4に記載のように、前記第1基材層の厚さが、40μm以上、50μm以下であり、前記第2基材層の厚さが、40μm以上、70μm以下であるように構成する。これにより、貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と樹脂フィルムの接着性とを、適度に両立させることができる。
【0021】
また、上記樹脂フィルムは、請求項5に記載のように、前記第1基材層と第2基材層の境界に、ガラス繊維織布が埋め込まれてなる樹脂フィルムとする場合にも好適である。
【0022】
従来の基材部が1層構造の樹脂フィルムについても、ガラス繊維織布が埋め込まれた樹脂フィルムとする場合には、基本的に、ガラス繊維織布を同じ組成の基材フィルムでサンドイッチして製造する。従って、ガラス繊維織布が埋め込まれた基材部が1層構造の従来の樹脂フィルムと同じコストで、ガラス繊維織布が埋め込まれた第1基材層と第2基材層からなる上記樹脂フィルムを製造することができる。
【0023】
請求項6〜10に記載の発明は、上記樹脂フィルムを用いた多層回路基板に関する発明である。該多層回路基板とその効果については、樹脂フィルムに関する上記請求項1〜5の発明において詳述したとおりであり、その説明は省略する。
【0024】
該多層回路基板についても、片面に導体パターンが形成された複数枚の上記樹脂フィルムを加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板であって、貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と上記樹脂フィルム同士の接着性が確保され、容易で安価に製造することのできる多層回路基板となっている。
【0025】
また、請求項11〜14に記載の発明は、上記多層回路基板の製造方法に関する発明である。該多層回路基板の製造方法の効果についても、上記したとおりで、詳細説明は省略する。
【0026】
該多層回路基板の製造方法では、請求項11に記載のように、前記加熱加圧による複数枚の上記樹脂フィルムの貼り合わせを、前記第2基材層が軟化し、前記第1基材層が軟化しない温度で、一括して行うことにより、上記多層回路基板を安価に製造することができる。
【0027】
特に、前記第1基材層と第2基材層が、いずれも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より大きく、前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より小さい構成とした場合には、請求項14に記載のように、前記加熱加圧による複数枚の樹脂フィルムの貼り合わせ温度を、310℃以下とすることができる。
【0028】
以上のようにして、上記樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法であって、貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と多層化時の樹脂フィルムの接着性確保を両立させることができ、多層回路基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層回路基板とその製造方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a),(b)は、本発明に係る樹脂フィルムを模式的に示した図で、(a)は、樹脂フィルム30の断面図であり、(b)は、(a)の樹脂フィルム30において、導体パターンPを底とする底付穴Hを形成し、該底付穴H内に導電ペースト4を充填した状態を示した図である。
【図2】図1の樹脂フィルム30を用いた多層回路基板の製造方法を示す図で、(a),(b)は、それぞれ、多層回路基板100の製造工程別の断面図である。
【図3】PEEKとPEIとからなる各樹脂フィルムについて、PEIの含有濃度をパラメータとして、動的弾性率の温度依存性を調べた結果である。
【図4】別の樹脂フィルム40を示した模式的な断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、図4の樹脂フィルム40の製造方法を示す、製造工程別の模式的な断面図である。
【図6】代表的な多層回路基板の製造方法を説明する図で、(a)〜(f)は、多層回路基板90の製造工程別の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態を、図に基づいて説明する。
【0031】
図1(a),(b)は、本発明に係る樹脂フィルムを模式的に示した図で、図1(a)は、樹脂フィルム30の断面図であり、図1(b)は、図1(a)の樹脂フィルム30において、導体パターンPを底とする底付穴Hを形成し、該底付穴H内に導電ペースト4を充填した状態を示した図である。尚、図1に示す樹脂フィルム30において、図6に示した樹脂フィルム20と同様の部分については、同じ符号を付した。
【0032】
図1に示す樹脂フィルム30は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の樹脂フィルムで、片面に導体パターンPが形成された樹脂フィルムである。樹脂フィルム30は、導体パターンPが形成される面(以下、第1面とする)側の第1基材層11と、導体パターンPが形成されない面(以下、第2面とする)側の第2基材層12とからなる。第1基材層11と第2基材層12は、いずれも熱可塑性樹脂からなり、第2基材層12の融点が、第1基材層11の融点より低い構成となっている。
【0033】
図1の樹脂フィルム30は、図6に示した従来の加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の樹脂フィルム20と異なり、配線層間の絶縁部材となる基材部が、第1基材層11と第2基材層12の2層構造となっている。また、第1基材層11と第2基材層12は、いずれも熱可塑性樹脂からなるが、第1基材層11と第2基材層12とでは、融点が異なっている。
【0034】
図2は、図1の樹脂フィルム30を用いた多層回路基板の製造方法を示す図で、図2(a),(b)は、それぞれ、多層回路基板100の製造工程別の断面図である。
【0035】
図2(a),(b)に示す多層回路基板100の製造工程は、図6(e),(f)に示した多層回路基板90の製造工程と同様である。すなわち、図2(a)に示すように、図1に示した樹脂フィルム30と同様の樹脂フィルム30a〜30dを準備し、図のように途中で反転させて積層する。次に、上記積層体を熱プレス板により加熱加圧して、隣接する樹脂フィルム30a〜30d同士を相互に貼り合わせる。これにより、図2(b)に示すように、樹脂フィルム30a〜30dが相互に貼り合わされ一体化すると共に、底付穴H内に充填された導電ペースト4が焼結して接続導体4aとなり、各層の導体パターンP同士が電気的に接続される。以上の工程によって、図2(b)に示す多層回路基板100が製造される。
【0036】
以上のように、図2(a),(b)に示した多層回路基板100の製造工程は、図6(e),(f)に示した多層回路基板90の製造工程と同様のものである。しかしながら、基材部が2層構造の樹脂フィルム30a〜30dを用いる図2の多層回路基板100の製造工程は、次のような特徴がある。
【0037】
図1に示した樹脂フィルム30と同様の樹脂フィルム30a〜30dを用いて多層回路基板100を製造するには、形成されている導体パターンPが各層の回路パターンとなるように、各樹脂フィルム30a〜30dを以下のように積層する。すなわち、図2(a)に示すように、最外層となる樹脂フィルム30a,30dを除いて、内部に配置される任意の樹脂フィルム30b,30cの第1基材層11(従って、当該樹脂フィルム30b,30cの導体パターンP)と隣接する樹脂フィルム30a,30dの第2基材層12とが当接するように、各樹脂フィルム30a〜30dを積層する。図2(a)では4枚の樹脂フィルム30a〜30dを積層する場合を例示しているが、図1に示した樹脂フィルム30と同様の3枚以上の樹脂フィルムを積層する場合にも、同様のことが成り立つ。そして、このように積層された各樹脂フィルムを加熱加圧して、図2(b)に示すように、一括して相互に貼り合わせる。
【0038】
ここで、熱可塑性樹脂の軟化温度は一般的に融点に比例するが、図1の樹脂フィルム30においては、導体パターンPが形成される第1面側の第1基材層11の融点は、導体パターンPが形成されない第2面側の第2基材層12の融点より高い材料構成となっている。従って、図2に示した樹脂フィルム30a〜30dからなる積層体の加熱加圧による一括貼り合わせ工程において、第2基材層12が軟化し、第1基材層11が軟化しない、所定範囲の貼り合わせ温度域を設定することができる。この貼り合わせ温度域で加熱加圧すれば、融点の低い第2基材層12が軟化する該温度域で多層化プレスを行うため、第2基材層12を十分に軟化して柔らかくすることにより、樹脂フィルム30a〜30d同士の高い接着性および導体パターンP周りの良好な段差埋め込み性を確保することができる。一方、該温度域においては、融点の高い第1基材層11は軟化することがない。このため、多層化時における導体パターンP(および該導体パターンPを底とする底付穴Hに充填された導電ペースト4)の位置ずれを抑制することができ、導体パターンPの高い位置精度を確保することができる。また、図2の多層回路基板100の製造工程においても、従来と同様に、樹脂フィルム30a〜30dを一括して貼り合せると同時に、導電ペースト4を焼結して接続導体4aとする。従って、これにより、多層回路基板100を安価に製造することができる。
【0039】
以上のようにして、図1に示す樹脂フィルム30は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンPが形成された樹脂フィルムであって、貼り合わせ時の導体パターンPの位置ずれ防止と多層化時の樹脂フィルム30の接着性確保を両立させることができ、図2に示す多層回路基板100を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムとなっている。
【0040】
従って、図2の多層回路基板100についても、片面に導体パターンPが形成された複数枚の樹脂フィルム30a〜30dを加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板であって、貼り合わせ時の導体パターンPの位置ずれ防止と樹脂フィルム30a〜30dの接着性が確保され、容易で安価に製造することのできる多層回路基板となっている。
【0041】
図1に示す樹脂フィルム30は、例えば、第1基材層11と第2基材層12が、いずれも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)と、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂(PEI)とからなり、第2基材層12におけるPEIの含有濃度が、第1基材層11におけるPEIの含有濃度より大きい構成とすることができる。該樹脂フィルムは、電気的特性や耐薬品性等の基本特性に優れると共に、PEEKとPEIの含有濃度を変えるだけで、第1基材層11と第2基材層12の融点を適宜所望の値に設定することができる。
【0042】
図3は、上記PEEKとPEIとからなる各樹脂フィルムについて、PEIの含有濃度をパラメータとして、動的弾性率の温度依存性を調べた結果である。
【0043】
図3に示すように、高温での貼り合わせ温度域における動的弾性率は、PEIの含有濃度が大きい樹脂フィルムほど低下する。また、動的弾性率が急激に低下する軟化点および溶融温度である融点についても、PEIの含有濃度が大きい樹脂フィルムほど低下する。例えば、重量%でPEEK/PEI=30/70の樹脂フィルムの軟化点は、314℃付近であり、重量%でPEEK/PEI=20/80の樹脂フィルムの軟化点は、304℃付近である。
【0044】
従って、第1基材層11および第2基材層12としてPEEKとPEIとからなる熱可塑性樹脂を採用する場合には、例えば第2基材層12におけるPEIの含有濃度が70重量%より大きく、第1基材層11におけるPEIの含有濃度が70重量%より小さいように設定する。これによれば、図3からわかるように、例えば300〜315℃の温度範囲を、多層化時の樹脂フィルム30a〜30dの貼り合わせ温度域として設定することができる。これによって、樹脂フィルム30a〜30d同士の貼り合わせと導体パターンP間の接続導体4aとなる導電ペースト4の焼結を一括して行うと共に、導体パターンPの位置ずれ防止と樹脂フィルム30a〜30dの接着性確保を両立させることができる。
【0045】
具体例として、例えば、第1基材層11として重量%でPEEK/PEI=30/70の熱可塑性樹脂を採用し、第2基材層12として重量%でPEEK/PEI=20/80の熱可塑性樹脂を採用する。該第1基材層11および第2基材層12からなる樹脂フィルム30a〜30dを、300℃×5MPa×40分の条件で加熱加圧する。これにより、樹脂フィルム30a〜30d同士の貼り合わせと導電ペースト4の焼結を一括して行い、導体パターンPの位置ずれを防止すると共に、樹脂フィルム30a〜30dの接着性を確保することができる。
【0046】
図1に示す樹脂フィルム30は、例えば、第1基材層11の厚さが、40μm以上、50μm以下であり、第2基材層12の厚さが、40μm以上、70μm以下であるように構成する。これにより、図2に示した多層化時の樹脂フィルム30a〜30dの貼り合わせ時の導体パターンPの位置ずれ防止と樹脂フィルム30a〜30dの接着性とを、適度に両立させることができる。
【0047】
図4は、別の樹脂フィルム40を示した模式的な断面図である。また、図5(a)〜(c)は、図4の樹脂フィルム40の製造方法を示す、製造工程別の模式的な断面図である。尚、図4と図5に示す樹脂フィルム40において、図6および図1に示した樹脂フィルム20,30と同様の部分については、同じ符号を付した。
【0048】
図4に示す樹脂フィルム40は、第1基材層11と第2基材層12の境界に、ガラス繊維織布13が埋め込まれてなる樹脂フィルムである。
【0049】
図4の樹脂フィルム40は、図5(a)〜(c)の製造工程で製造する。
【0050】
すなわち、最初に、2種類の金属(銅)箔2,3、第1基材層となる第1基材フィルム11、第2基材層となる第2基材フィルム12およびガラス繊維織布13を準備し、図5(a)に示すように積層する。金属(銅)箔2は、最終的に導体パターンPとするもので、第1基材フィルム11と貼り合せる一方の面が、粗面化処理されている。また、金属(銅)箔3は、次工程における保護用の捨て金属(銅)箔で、両面共に光沢処理がなされている。
【0051】
次に、図5(b)に示すように、図5(a)の積層体を加熱加圧して、金属(銅)箔2、第1基材フィルム11、ガラス繊維織布13および第2基材フィルム12を貼り合せる。加熱加圧の条件は、例えば第1基材フィルム11として重量%でPEEK/PEI=30/70の樹脂フィルムを用い、第2基材フィルム12として重量%でPEEK/PEI=20/80の樹脂フィルムを用いる場合、融点より高い360℃×5MPa×40分の条件とする。
【0052】
次に、図5(c)に示すように、金属(銅)箔3を剥がした後、金属(銅)箔2をエッチング加工して導体パターンPとする。
【0053】
以上で、図4の樹脂フィルム40が製造される。尚、図1に示したガラス繊維織布13が埋め込まれていない樹脂フィルム30についても製造工程は図5と同様であり、図5においてガラス繊維織布13の配置を省略すれば図1の樹脂フィルム30を製造することができる。
【0054】
図6に示した従来の基材部が1層構造の樹脂フィルム20についても、ガラス繊維織布13が埋め込まれた樹脂フィルムとする場合には、基本的に図5に示した工程を用い、ガラス繊維織布13を同じ組成の基材フィルムでサンドイッチして製造する。従って、図4の樹脂フィルム40は、従来と同じコストで、第1基材層11と第2基材層12の境界にガラス繊維織布13が埋め込まれた該樹脂フィルム40を製造することができる。
【0055】
以上のようにして、上記樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルム、およびそれを用いた多層回路基板とその製造方法であって、貼り合わせ時の導体パターンの位置ずれ防止と多層化時の樹脂フィルムの接着性確保を両立させることができ、多層回路基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層回路基板とその製造方法となっている。
【符号の説明】
【0056】
90,100 多層回路基板
20,20a〜20f,30,30a〜30d,40 樹脂フィルム
1 熱可塑性樹脂からなる基材
11 第1基材層(第1基材フィルム)
12 第2基材層(第2基材フィルム)
2 金属(銅)箔
P 導体パターン
H 底付穴
4 導電ペースト
4a 接続導体
13 ガラス繊維織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板用の片面に導体パターンが形成された樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、前記導体パターンが形成される面(以下、第1面とする)側の第1基材層と、前記導体パターンが形成されない面(以下、第2面とする)側の第2基材層とからなり、
前記第1基材層と第2基材層が、いずれも熱可塑性樹脂からなり、
前記第2基材層の融点が、前記第1基材層の融点より低いことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
前記第1基材層と第2基材層が、いずれも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、
前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度より大きいことを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より大きく、
前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より小さいことを特徴とする請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第1基材層の厚さが、40μm以上、50μm以下であり、
前記第2基材層の厚さが、40μm以上、70μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記第1基材層と第2基材層の境界に、ガラス繊維織布が埋め込まれてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに一項に記載の記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
片面に導体パターンが形成された複数枚の樹脂フィルムを加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板であって、
前記樹脂フィルムが、前記導体パターンが形成される面(以下、第1面とする)側の第1基材層と、前記導体パターンが形成されない面(以下、第2面とする)側の第2基材層とからなり、
前記第1基材層と第2基材層が、いずれも熱可塑性樹脂からなり、
前記第2基材層の融点が、前記第1基材層の融点より低いことを特徴とする多層回路基板。
【請求項7】
前記第1基材層と第2基材層が、いずれも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、
前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度より大きいことを特徴とする請求項6に記載の多層回路基板。
【請求項8】
前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より大きく、
前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より小さいことを特徴とする請求項7に記載の多層回路基板。
【請求項9】
前記第1基材層の厚さが、40μm以上、50μm以下であり、
前記第2基材層の厚さが、40μm以上、70μm以下であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに一項に記載の多層回路基板。
【請求項10】
前記第1基材層と第2基材層の境界に、ガラス繊維織布が埋め込まれてなることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに一項に記載の記載の多層回路基板。
【請求項11】
片面に導体パターンが形成された複数枚の樹脂フィルムを加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層回路基板の製造方法であって、
前記樹脂フィルムが、前記導体パターンが形成される面(以下、第1面とする)側の第1基材層と、前記導体パターンが形成されない面(以下、第2面とする)側の第2基材層とからなり、
前記第1基材層と第2基材層が、いずれも熱可塑性樹脂からなり、
前記第2基材層の融点が、前記第1基材層の融点より低い樹脂フィルムであって、
前記加熱加圧による複数枚の樹脂フィルムの貼り合わせを、前記第2基材層が軟化し、前記第1基材層が軟化しない温度で、一括して行うことを特徴とする多層回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1基材層と第2基材層が、いずれも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と、該ポリエーテルエーテルケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、
前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度より大きいことを特徴とする請求項11に記載の多層回路基板の製造方法。
【請求項13】
前記第2基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より大きく、
前記第1基材層におけるポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%より小さいことを特徴とする請求項12に記載の多層回路基板の製造方法。
【請求項14】
前記加熱加圧による複数枚の樹脂フィルムの貼り合わせ温度が、310℃以下であることを特徴とする請求項13に記載の多層回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−187667(P2011−187667A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51097(P2010−51097)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】