説明

樹脂フィルム

【課題】MEMS技術分野で用いられる犠牲層としての使用に好適な樹脂フィルムの提供。
【解決手段】(A)ガラス転移点(Tg)が40〜80℃で、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するアクリル樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)フェノール樹脂、および、(D)テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートからなる樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術分野において、中空構造を有する微細構造体を製造する際に犠牲層として使用するのに好適な樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンなどの半導体基板上や、ガラスなどの絶縁体基板上、あるいは金属上などに、微細な構造を作製するMEMS技術が開発されている。
MEMS技術分野において、中空構造を有する微細構造体を製造する際には、一般に犠牲層が用いられる。例えば、上下の電極層間に犠牲層を形成し、その後、犠牲層を選択的に除去することにより、互いに離間して配置される2つの電極構造を形成することができる(特許文献1,2参照)。
このような目的で使用される犠牲層としては、低温で成膜可能であること、パターニングも容易に行えるなどの理由から有機樹脂を用いる場合がある。たとえば、特許文献1には、ポリイミド樹脂、BCB樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂等の有機樹脂を用いることが記載されている。
【0003】
特許文献1では、塗布法により犠牲層を形成しているが、犠牲層を形成する部位に対して、接着性を有する樹脂フィルムを用いて犠牲層を形成するほうが、均一な厚さの犠牲層を形成するのが容易であること、および、犠牲層を形成する際に工数が少なくなること等の理由から有利である。
また、特許文献1、2では、アッシング法、たとえば、酸素プラズマによるアッシングや、犠牲層を加熱するとともにオゾン雰囲気に晒すことによるアッシングにより、などがある。しかしながら、これらの方法では、アッシング後の残渣を除去する必要がある。
これに対し、溶剤等により犠牲層を溶解除去することができれば、犠牲層の除去後に残さを生じることがないので好ましい。
【0004】
半導体用接着フィルムは、上記の用途に用いられる犠牲層としての可能性がある。
半導体用接着フィルムとしては、たとえば、特許文献3、4に記載されているものがある。
しかしながら、特許文献3、4に記載の半導体用接着フィルムは、成分として含まれるアクリル系共重合体のガラス点(Tg)が低いことから30℃以下の常温でタックを生じる。そのため、フィルムと犠牲層を形成する部位にフィルムを載置した際、両者の間に存在する気泡を除去することが困難である。両者の間に気泡が残留したままの状態でプレスによる熱圧着を行った場合、熱圧着時に気泡が膨張するため、犠牲層の剥離や位置ずれが生じたりするおそれがある。
また、使用前の接着フィルムは、接着面に異物が付着するのを防止するため、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の保護フィルムで挟んだ状態で保管されるが、接着フィルムでタックが発現すると、保護フィルムから接着フィルムを単離することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−83881号公報
【特許文献2】特開2010−214480号公報
【特許文献3】特開2002−180021号公報
【特許文献4】特開2006−182919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、MEMS技術分野で用いられる犠牲層としての使用に好適な樹脂フィルムを提供することを目的とする。
この樹脂フィルムに要求される特性は以下の通り。
・30℃以下の常温でタックフリーであること。
・プレスによる熱圧着時の接着性に優れること。
・プレスによる熱圧着時に寸法変化が少ないこと。
・レーザによるパターニング時の加工性に優れること。
・耐メッキ性に優れること。
・加熱硬化後及び加工後のフィルムが、有機溶媒で溶解除去できること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するため、本発明は、(A)ガラス転移点(Tg)が40〜80℃で、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するアクリル樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)フェノール樹脂、および、(D)テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートからなる樹脂フィルムを提供する。
【0008】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記(B)エポキシ樹脂の含有量が、前記(A)アクリル樹脂100質量部に対して、5〜50質量部であることが好ましい。
【0009】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記(A)アクリル樹脂が、前記エポキシ樹脂と反応する官能基として、水酸基を有することが好ましい。
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記(A)アクリル樹脂の水酸基価が1〜30[mg/KOH]であることが好ましい。
【0010】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記(A)アクリル樹脂の質量平均分子量(Mw)が300,000〜800,000であることが好ましい。
【0011】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記(C)フェノール樹脂が、テルペンフェノール樹脂であることが好ましい。
【0012】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記(C)フェノール樹脂の含有量が、(A)アクリル樹脂100質量部に対して、10〜35質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂フィルムは、上述した犠牲層として用いられる樹脂フィルムに対する要求特性を満たす。このため、MEMS技術分野で用いられる犠牲層として使用するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂フィルムは、以下に示す(A)〜(D)成分からなる。
【0015】
(A)成分:アクリル樹脂
(A)成分のアクリル樹脂は、本発明の樹脂フィルムにおいて、柔軟性、および、プレスによる熱圧着時の寸法安定性に寄与する成分である。また、樹脂フィルムを製造する際に他成分との相溶性に寄与する。
【0016】
(A)成分のアクリル樹脂は、樹脂フィルムの加熱硬化時に(B)成分のエポキシ樹脂と反応することが求められる。このため、(A)成分のアクリル樹脂としては、エポキシ樹脂と反応可能な官能基を有するものを用いる。
エポキシ樹脂と反応可能な官能基としては、水酸基、カルボキシル基等が挙げられる。中でも水酸基が、テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートをエポキシ樹脂の硬化促進剤とした場合に、エポキシ樹脂との反応が良好であることから好ましい。
【0017】
(A)成分のアクリル樹脂が、エポキシ樹脂と反応可能な官能基として水酸基を有する場合、アクリル樹脂の水酸基価が1〜30[mg/KOH]であることが好ましい。アクリル樹脂の水酸基価が1[mg/KOH]よりも小さいと、エポキシ樹脂との反応が起こらず十分な接着力が得られないおそれがある。一方、アクリル樹脂の水酸基価が30[mg/KOH]よりも大きいと、エポキシ樹脂との反応が過度に進行し、架橋密度が密になり、加熱硬化後の樹脂フィルムを有機溶剤で溶解除去できなくなるおそれがある。
アクリル樹脂の水酸基は、5〜20[mg/KOH]であることがより好ましく、10〜15[mg/KOH]であることがさらに好ましい。
【0018】
(A)成分のアクリル樹脂は、ガラス転移点(Tg)が40〜80℃である。
アクリル樹脂のTgが40〜80℃であれば、樹脂フィルムのタック発現温度が適度に高くなるため、30℃以下の常温で、犠牲層を形成する部位に樹脂フィルムを載置する際にタックが発現することがない。したがって、犠牲層を形成する部位に樹脂フィルムを載置した際、両者の間に気泡を存在したとしても、気泡を除去するのが容易である。このため、両者の間に気泡が残留したままの状態でプレスによる熱圧着を行うことにより、犠牲層の剥離や位置ずれが生じるおそれが解消される。また、使用前の樹脂フィルムを保護フィルムから単離するのが容易である。
【0019】
本発明の樹脂フィルムのタック発現温度は40℃以上であり、好ましくは40〜80℃であり、より好ましくは50〜70℃であり、さらに好ましくは50〜60℃である。
したがって、樹脂フィルムのタック発現温度が極端に高くなることがないため、プレスによる熱圧着により犠牲層を形成するのに好適である。
なお、本明細書におけるタック発現温度とは、プローブタック法で測定した場合に、0.1N以上のタックを発現する温度を意図する。
【0020】
アクリル樹脂のTgが40℃未満だと、樹脂フィルムのタック発現温度を高める効果を十分発揮することができず、30℃以下の常温で犠牲層を形成する部位に樹脂フィルムを載置する際にタックが発現するおそれがある。また、プレスによる熱圧着時の寸法変化が大きくなる。一方、アクリル樹脂のTgが80℃超だと、樹脂フィルムのタック発現温度が極端に高くなり、プレスによる熱圧着により犠牲層を形成するのが困難になる。また、他成分との相溶性が低下し、樹脂フィルムを製造する際の作業性が悪化する。また、樹脂フィルムが柔軟性に劣る。
アクリル樹脂のTgは40〜80℃であることが好ましく、45〜60℃であることがより好ましい。
【0021】
成分(A)として用いるアクリル樹脂は、エポキシ樹脂と反応可能な官能基を有し、かつ、Tgが40〜80℃である限り特に限定されないが、メタクリル酸メチル成分と、アクリル酸ブチル成分と、を、含有するメタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。なお、共重合体を構成するこれらの成分を単独で使用した場合、意図した効果を発揮することができない。メタクリル酸メチル成分単独ではフィルムが柔軟性に劣り、アクリル酸ブチル成分単独では、Tgとは関係なく、30℃以下の常温でタックを発現する。
中でも、メタクリル酸メチル成分(x)と、アクリル酸ブチル成分(y)と、を、x/y=8/2〜6/4の割合で含有するメタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体がタック発現温度を制御した樹脂フィルムを比較的容易に得られ、かつ、フィルムが柔軟性に優れることから好ましい。x/y>8/2だとフィルムが柔軟性に劣る傾向があり、x/y<6/4だとフィルムのタック発現温度をアクリル樹脂のTgで制御しにくくなる。
【0022】
また、メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体は、x/yが上記範囲を満たすことに加えて、質量平均分子量(Mw)が300,000〜800,000であることが、他成分との相溶性及びフィルムの層間絶縁性保持の観点から好ましい。
Mwが300,000未満の場合、フィルムの層間絶縁性を保持できないおそれがある。一方、Mwが800,000超の場合、他成分との相溶性が低下するためフィルムの製造が困難になるおそれがある。
メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体は、質量平均分子量(Mw)が400,000〜700,000であることがより好ましく、450,000〜600,000であることがさらに好ましい。
【0023】
(B)成分:エポキシ樹脂
(B)成分のエポキシ樹脂は、本発明の樹脂フィルムの熱硬化性および接着性に寄与する成分である。
【0024】
(B)成分として使用するエポキシ樹脂は特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂等の各種エポキシ樹脂を用いることができる。
なお、上記のエポキシ樹脂のうち、いずれか1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のエポキシ樹脂の中でも、接着強度と耐熱性の相関性等が優れる点からビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0025】
(B)成分として使用するエポキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が100〜5,000であることが反応性、接着力、溶解性などの理由から好ましい。
エポキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が200〜2,000であることがより好ましく、300〜1,000であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の樹脂フィルムにおいて、(B)成分のエポキシ樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましい。
(B)成分のエポキシ樹脂の含有量が5質量部未満だと接着強度が不十分になるおそれがある。一方、(B)成分のエポキシ樹脂の含有量が50質量部超だと他成分との相溶性やタック発現温度の調整が困難となる。また、プレスによる熱圧着時の寸法変化が大きくなる。
(B)成分のエポキシ樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して30〜50質量部であることがより好ましく、35〜45質量部であることがさらに好ましい。
【0027】
(C)成分:フェノール樹脂
(C)成分のフェノール樹脂は、本発明の樹脂フィルムの粘着性付与剤、および、(B)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用する。また、樹脂フィルムを製造する際に他成分との相溶性に寄与する。
【0028】
(C)成分として使用するフェノール樹脂は特に限定されず、テルペンフェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等の各種フェノール樹脂を用いることができる。
上記のフェノール樹脂の中でも、樹脂フィルムの粘着性および接着性に優れる点からテルペンフェノール樹脂がより好ましい。
【0029】
本発明の樹脂フィルムにおいて、(C)成分のフェノール樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して10〜35質量部であることが好ましい。
(C)成分のフェノール樹脂の含有量が10質量部未満だと接着強度が不十分になるおそれがある。一方、(C)成分のフェノール樹脂の含有量が30質量部超だと他成分との相溶性の調整が困難となる。
【0030】
(C)成分のフェノール樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して10〜30質量部であることがより好ましく、15〜25質量部であることがさらに好ましい。
【0031】
(D)成分:テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレート
(D)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートは、本発明の接着フィルムにおいて、(B)成分のエポキシ樹脂の硬化促進剤として作用する。
エポキシ樹脂の硬化促進剤として、一般的なイミダゾールを使用すると、エポキシ樹脂間で硬化反応が進行し、三次元的な架橋が形成されるため、架橋密度が密になり、加熱硬化後の樹脂フィルムを有機溶剤で溶解除去することができない。
一方、(D)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートと、(C)成分のフェノール樹脂と、ともに使用すると、(B)成分のエポキシ樹脂間での硬化反応は進行せず、樹脂フィルムに含まれる異なる成分間、すなわち、(A)成分のアクリル樹脂と、(B)成分のエポキシ樹脂と、の間、(A)成分のアクリル樹脂と、(C)成分のフェノール樹脂と、の間、あるいは、(B)成分のエポキシ樹脂と、(C)成分のフェノール樹脂と、の間で硬化反応が進行するため、架橋密度が密になることがなく、加熱硬化後の樹脂フィルムを有機溶剤で溶解除去することができる。
【0032】
本発明の樹脂フィルムにおいて、(D)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。
(D)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量が0.1質量部未満だと、エポキシ樹脂の硬化反応が進行せず、硬化不足による接着力不足となるおそれがある。一方、(D)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量が5質量部超だとエポキシ樹脂の硬化反応の進行が速すぎるため、本発明の樹脂フィルムを中空構造を有する微細構造体の製造時に使用する犠牲層として用いた際に、凹凸への埋め込み性が発現し難くなるなどの問題が生じるおそれがある。
【0033】
(D)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して0.1〜3質量部であることがより好ましく、0.1〜2質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の樹脂フィルムは、厚さが5〜50μmであることが好ましい。樹脂フィルムの厚さが50μm超だと、厚さが厚すぎるため、フィルムの柔軟性が低下して取扱い性が悪化する。また、泡の巻き込みや溶剤の残留による後工程での気泡の生成などにより、製造されるフィルムに気泡が残留しやすくなる。また、組成が均一なフィルムを製造するのが困難である。一方、フィルムの厚さが5μm未満だと、厚さが薄すぎるため、接着時あるいは取扱時にフィルムが裂けるおそれがある。また、静電気を帯びやすくなるので取扱い性が悪化する。
本発明の樹脂フィルムは、厚さが10〜40μmであることがより好ましく、10〜35μmであることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の樹脂フィルムは、成分(A)〜(D)が所望の含有割合となるように、溶剤中に溶解若しくは分散させた溶液を基材に塗布した後、基材を加熱して溶剤を除去し、その後、基材から除去することによって得ることができる。
この際に使用する溶剤としては、比較的沸点の低いメチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ブチルセロソルブ、2−エトキシエタノール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を挙げることができる。
【0036】
基材としては、(A)成分のアクリル樹脂と疎水性若しくは親水性が同傾向でない基材が用いられる。(A)成分のアクリル樹脂と疎水性若しくは親水性が同傾向でない基材としては、ポリイミド、ガラス、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等を撥水成分若しくは疎水成分でコートした高分子フィルム材料又は無機材料の基材が好ましく用いられる。
【0037】
使用前の本発明の樹脂フィルムは、異物が付着することを防止するため、保護フィルムではさんだ状態で保管される。保護フィルムとしては、基材として記載したものを用いることができる。
【0038】
本発明の樹脂フィルムは、MEMS技術分野で用いられる犠牲層としての使用に好適な
特性を有している。
【0039】
上述したように、本発明の樹脂フィルムは、30℃以下の常温ではタックを発現せず、50℃以上の温度でタックを発現する。したがって、犠牲層を形成する部位に樹脂フィルムを載置した際、両者の間に気泡を存在したとしても、気泡を除去するのが容易である。このため、両者の間に気泡が残留したままの状態でプレスによる熱圧着を行うことにより、犠牲層の剥離や位置ずれが生じるおそれが解消される。また、使用前の樹脂フィルムを保護フィルムから単離するのが容易である。また、樹脂フィルムのタック発現温度が極端に高くなることがないため、プレスによる熱圧着により犠牲層を形成するのに好適である。
【0040】
本発明の樹脂フィルムは、150℃以上の温度で硬化し、接着力が増加する。
本発明の樹脂フィルムを用いて犠牲層を形成する場合、犠牲層を形成する部位のうちの一方(すなわち、犠牲層をはさんで上下となる位置関係の構成要素のうち、下方の構成要素)に樹脂フィルムを載置した際、犠牲層を形成する部位のうちの他方(すなわち、犠牲層をはさんで上下となる位置関係の構成要素のうち、上方の構成要素)を、樹脂フィルムの露出面と接するように載置した状態で、所定温度及び所定時間、具体的には150℃で60〜90分間、プレスによる熱圧着を行えばよい。なお、プレスにより熱圧着した際に本発明の樹脂フィルムは加熱硬化する。以下、本明細書において、熱圧着後の本発明の樹脂フィルムの特性のことを、加熱硬化後の樹脂フィルムの特性として記載する。
【0041】
本発明の樹脂フィルムは、プレスによる熱圧着時の寸法変化が少ない。具体的には、後述する実施例に記載の手順にしたがって、プレスによる熱圧着時の樹脂フィルムの厚さの変化を測定した際に、樹脂フィルムの厚さの変化が10μm未満であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは2μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下である。
【0042】
加熱硬化後の本発明の樹脂フィルムは、十分な接着強度を有している。具体的には、JIS C5416にしたがって測定したピール強度が0.2N/cm以上あり、好ましくは0.4N/cm以上あり、より好ましくは1.0N/cm以上ある。
【0043】
加熱硬化後の本発明の樹脂フィルムは、適切な有機溶剤を選択することにより、溶解除去することができる。このような目的で使用される有機溶剤としては、ケトン系溶剤として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、DAA(ジアセトンアルコール)など、炭化水素系溶剤として、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、メチルエチルケトン、アセトンが、溶解性に優れ、低温での乾燥が可能であることから好ましい。
【0044】
また、加熱硬化後の本発明の樹脂フィルムは、レーザによるパターニング時の加工性、および、耐メッキ性に優れている。
【実施例】
【0045】
(例1〜23)
以下において例1〜15は実施例、例16〜23は比較例である。
表1〜3に示す配合割合(質量部)になるように成分(A)〜(D)を溶剤(メチルエチルケトン)中に溶解させた溶液を基材(離型処理をほどこしたPETフィルム)に塗布した後、基材を加熱して溶剤を除去し、その後、基材から除去することにより樹脂フィルム(厚さ30μm)を得た。
なお、成分(A)〜(D)はそれぞれ以下の通り。
【0046】
成分(A)
アクリル樹脂A1:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=7/3、Tg:50℃、Mw:500,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂A2:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=7/3、Tg:50℃、Mw:510,000、水酸基価:1[mg/KOH])
アクリル樹脂A3:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=4/6、Tg:20℃、Mw:650,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂A4:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=2/8、Tg:−30℃、Mw:800,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂A5:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=8/2、Tg:90℃、Mw:400,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂A6:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=7/3、Tg:50℃、Mw:550,000、水酸基価:30[mg/KOH])
アクリル樹脂a:メタクリル酸メチル(Tg:120℃、Mw:18,000、水酸基価:150[mg/KOH])
【0047】
成分(B)
エポキシ樹脂B:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(Mw:370)
成分(C)
フェノール樹脂C1:テルペンフェノール樹脂(Mw:1100、水酸基価:50[mg/KOH])
フェノール樹脂C2:テルペンフェノール樹脂(Mw:700、水酸基価:35[mg/KOH])
成分(D)
硬化触媒D:テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレート
硬化触媒d1:イミダゾール
硬化触媒d2:テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート
硬化触媒d3:トリフェニルホスフィン
【0048】
得られた樹脂フィルム、あるいは、樹脂フィルムとする前の溶液に対して、以下の物性評価を実施した。
相溶性
成分(A)〜(D)を溶剤(メチルエチルケトン)中に溶解させた溶液を均一になるまで攪拌し、その後、静置したものを以下の基準で評価した。
○:室温で1週間静置したものを目視したときに均一状態となっている。
△:室温で2日間静置したものを目視したときに不均一状態となっている。
×:撹拌中においても、均一にならなかった。
フィルム化
フィルム化は以下の基準で評価した。
○:上記の手順で樹脂フィルムを作成した際に均一なフィルムが得られる。
×:上記の手順で樹脂フィルムを作成した際にフィルム化できない。
タック:プローブタック試験機を用いて樹脂フィルム表面のタックを、25℃と60℃で測定した。
溶解性:樹脂フィルムを150℃、60分加熱硬化させた後、有機溶剤(メチルエチルケトン)に溶解させた。以下の基準で評価した。
○:有機溶剤に完全に溶解した。
×:膨潤したが溶解しなかった。
接着強度:樹脂フィルムと、銅箔(厚さ18μm)と、をプレスにより熱圧着(150℃、60分、0.5MPa)させて積層体とした後、試験片幅10mmを切り出し、銅箔を180°で引き剥がす際の強度を測定した。
熱圧着時の厚さ変化:上述した手順で樹脂フィルムと、銅箔と、をプレスにより熱圧着させた際の樹脂フィルムの厚さの変化を測定した。
結果を表1〜3に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
表から明らかなように、Tgが50℃のアクリル樹脂(A1,A2,A6)を使用した例1〜15では、常温(25℃)では実質的にタックを発現しなかった。特に、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、(B)成分のエポキシ樹脂を50質量部以下含有する例1〜6、8〜15は、常温(25℃)でのタック性が特に優れていた。一方、Tgが50℃未満(20℃、−30℃)のアクリル樹脂(A3,A4)を使用した例16〜17では、常温(25℃)でタックを発現した。一方、Tgが90℃のアクリル樹脂(A5)を使用した例18では、相溶性に劣り、フィルム化することができなかった。また、Tgが120℃のアクリル樹脂aを使用した例19は相溶性に劣っていた。このため、フィルム化は実施しなかった。
成分(D)の硬化触媒として、テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートを使用した例1〜15は、いずれも加熱硬化後の樹脂フィルムを有機溶剤により溶解することができた。一方、硬化触媒としてイミダゾールを使用した例20は、加熱硬化後の樹脂フィルムを有機溶剤で溶解することができなかった。また、硬化触媒として、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートを使用した例19、トリフェニルホスフィンを使用した例20は相溶性に劣っていた。このため、フィルム化は実施しなかった。
例1〜15は、いずれもプレスによる熱圧着時の接着強度に優れていた。特に、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、(B)成分のエポキシ樹脂を20質量部以上含有する例3〜15はプレスによる熱圧着時の接着強度に特に優れていた。
また、例1〜15は、いずれもプレスによる熱圧着時の樹脂フィルムの厚さの変化が小さかった。一方、Tgが50℃未満(20℃、−30℃)のアクリル樹脂(A3,A4)を使用した例16〜17では、プレスによる熱圧着時の樹脂フィルムの厚さの変化が大きかった。
また、(A)成分のアクリル樹脂を含有させなかった例23は、常温(25℃)でタックを発現し、プレスによる熱圧着時の樹脂フィルムの厚さの変化も大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移点(Tg)が40〜80℃で、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するアクリル樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)フェノール樹脂、および、(D)テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートからなる樹脂フィルム。
【請求項2】
前記(B)エポキシ樹脂の含有量が、前記(A)アクリル樹脂100質量部に対して、5〜50質量部である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記(A)アクリル樹脂が、前記エポキシ樹脂と反応する官能基として水酸基を有する、請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記(A)アクリル樹脂の水酸基価が1〜30[mg/KOH]である、請求項3に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記(A)アクリル樹脂の質量平均分子量(Mw)が300,000〜800,000である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記(C)フェノール樹脂が、テルペンフェノール樹脂である、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記(C)フェノール樹脂の含有量が、前記(A)アクリル樹脂100質量部に対して、10〜35質量部である、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂フィルム。

【公開番号】特開2013−56988(P2013−56988A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195596(P2011−195596)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【特許番号】特許第4944269号(P4944269)
【特許公報発行日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】