説明

樹脂モールド絶縁導体

【課題】高電圧ガス絶縁機器中で使用される、金属裸導体をモールド絶縁した電気絶縁用注型品は、通電加熱された熱が導体に蓄熱され、機器の温度上昇が促進されその他の絶縁部材等耐熱強度に影響を及ぼしたり、タンク内壁と電気絶縁用注型品のモールド部表面の絶縁距離が短くなり、モールド部表面が高電界となり、絶縁破壊の起点となる可能性が高くなる。
【解決手段】金属導体11と、この金属導体の周りを包囲するように配設され、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及びアルミナを配合したモールド材によって注型された表面に放熱のための凹凸12aを有する絶縁層12とを備えるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばSFガス絶縁機器などの高電圧用機器に好ましく用いることが出来る樹脂モールド絶縁導体に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧用ガス絶縁機器は環境保護及び省スペースのために、機器のコンパクト化が必要不可欠である。機器の小型化、信頼性の向上を図る従来技術として、エポキシ化合物と、このエポキシ化合物を硬化させるエポキシ樹脂用硬化剤と、樹脂の絶縁性を保持するシリカ充填剤と、樹脂強度を高めるゴム粒子とを配合して調整した樹脂組成物を金型に注入した後、硬化反応による樹脂の収縮がマトリックス樹脂およびゴム粒子の体積膨張によって相殺される硬化条件下で硬化して成形するSFガス絶縁高電圧機器用注形品の製造方法がある(例えば特許文献1参照。)。また、絶縁性ガスが充填された容器内に配設された導体を絶縁支持する絶縁スペーサがシリカを含有するエポキシ樹脂組成物で形成され、この表面を被覆するコーティング層からなる絶縁スペーサにおいて、シリカを含有するエポキシ樹脂組成物とコーティング層は同一の多官能エポキシ樹脂であり、多官能エポキシ樹脂のエポキシ当量は150〜250であり、コーティング層に耐SF6 分解ガス性に優れた充填剤を含有することを特徴とする絶縁スペーサがある(例えば特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−135144号公報(第1頁、図2)
【特許文献2】特開平11−29727号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されるような従来技術では、耐SF6 分解ガス性に優れ、低誘電率であるので、ガス絶縁機器の絶縁設計が容易になり、機器の小型化と信頼性の向上を図ることができるとはいうものの、発生電界強度の上昇が伴うため電気絶縁用注型品の絶縁性能に制限を受け、小型化には限界があるという課題があった。また、上記特許文献2に示されるような従来技術では、SF6 ガス絶縁開閉装置及びSF6 ガス絶縁管路気中送電線の小型化,大容量化,高信頼化を実現できるものの、同様の理由で小型化には限界があるという課題があった。一方、これらの課題に対して、固体絶縁とガス絶縁を複合して適用したハイブリッド絶縁技術が検討されている。ここでいうハイブリッド絶縁に使用する電気絶縁用注型品とは、従来高圧ガス中を金属裸導体を通電導体として使用していたものの外周にモールド絶縁を施したものである。
【0005】
しかし、金属裸導体をモールド絶縁した電気絶縁用注型品には、モールド絶縁部が断熱材となって、通電によって発生した熱が導体に蓄熱され、機器の温度上昇が促進されその他の絶縁部材等耐熱強度に影響を及ぼすことになるという問題、また、コンパクト設計された機器においては、タンク内壁と電気絶縁用注型品のモールド部表面の絶縁距離が短くなり、モールド部表面が高電界となり、絶縁破壊の起点となる可能性が高くなるという問題があった。さらに、長尺の導体にモールドした場合、熱膨張係数の差から生じる、熱応力によって、金属裸導体とモールド部材との界面で剥離が発生したり、モールド部材にクラックが発生したりする惧れがあった。
【0006】
この発明は上記のような従来技術の課題を解消するためになされたもので、金属導体から発生する熱の放熱効果が高く、機器の一層の小型化が可能な信頼性の高い樹脂モールド絶縁導体を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る樹脂モールド絶縁導体は、金属導体と、この金属導体の周りを包囲するように配設され、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及びアルミナを配合したモールド材によって注型された表面に放熱を助ける凹凸を有する絶縁層とを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明においては、金属導体の周りをエポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及びアルミナを配合したモールド材によって注型された表面に凹凸を有する絶縁層によって包囲するようにしたことにより、絶縁層の熱伝導率が高く、また絶縁層の表面からの熱放散がし易いため、通電による金属導体の発熱が蓄熱され難く、機器の温度上昇を抑制できる。また、絶縁層の熱膨張係数がアルミニウムと同等程度であるため、熱応力の発生が軽減できるので、モールド部材との界面で剥離等が防止でき、信頼性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1に係る樹脂モールド絶縁導体をSFガスを絶縁媒体として用いるガス開閉機器(GIS、GCB等)、ガス絶縁変圧器等のガス絶縁母線として用いた例を模式的に示す断面図である。図において、樹脂モールド絶縁導体1は、金属導体11と、この金属導体11のまわりを包囲するように注型によって形成された表面に襞状の凹凸12aを有する絶縁層12とからなっている。なお、樹脂モールド絶縁導体1はこの例では、金属製の円筒状のタンク2内の中心部に図示省略しているコーン形スペーサ等によって保持され、SFガス3と共に密封収容されている。上記絶縁層12は、エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤からなる基材に、アルミナを充填材として配合したモールド材を注型によって形成したもので、外表面に放熱を助けるための襞状の多数の凹凸12aが形成されている。
【0010】
なお、図1では金属導体11の両端部が露出されているが金属導体11端部の構成は特に限定されるものではない。例えば、コーン形スペーサによって区分された隣接するガス区画を通過させる場合などにおいては、ジョイントのためのシールド(図示省略)などが取付けられる。また、露出部を設けないようにすることも出来る。一方、上記エポキシ樹脂の種類は特に限定されるものではないが、得られるモールド絶縁体の特性や入手性、取扱い性などの点でビスフェノール型エポキシ樹脂は好ましく用いることが出来る。用いるモールド材は、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤の合計量80〜120重量部に対し、アルミナ(Al)を400〜500重量部を配合することで得られる。
【0011】
充填材であるアルミナの配合割合は必ずしも限定されるものではないが、上記基材であるビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤80〜120重量部に対して約400重量部未満では、混合したモールド材の粘度が低すぎて、配合したアルミナが沈降するようになり、得られる樹脂モールド体の膨張係数や硬化収縮が大きく、クラック性も悪くなる。一方、アルミナの配合割合が約500重量部を超えると混合したモールド材の粘度が高すぎて、作業時にボイドが発生し易くなる。従って上記基材80〜120重量部に対するアルミナの配合割合は、400〜500重量部の範囲内とすることが望ましい。
【0012】
以下、製造例について更に具体的に説明する。ビスフェノール型エポキシ樹脂(CY179、HANTSMSN社製)66g、ビスフェノール型エポキシ樹脂(CY184、HANTSMSN社製)44g、酸無水物硬化剤(MH700、新日本理科社製)110g、及び充填材として、アルミナ(M2、フジミインコーポレーテッド製)1000gからなる混合物をモールド材として用いた。図示省略している注型金型に、予め金属導体11を組み込み、130℃にて予熱する。次に予熱された注型金型に上記モールド材を流し込み、所定の条件(この例では約130℃、20〜24時間)で硬化させた後、注型金型から取り出すことにより図1に模式的に示すような金属導体11が絶縁層12に一体にモールドされた樹脂モールド絶縁導体1が得られる。
【0013】
上記絶縁層12の厚さは特に限定されるものではないが、該厚さが5mm以下では効果の発現が小さく、10mm以上では表面電界が高すぎて絶縁耐力が低下するようになるので、約5〜10mm程度の範囲内に選ぶことは好ましい。また、凹凸12aは金属導体11の径方向ないしは放射方向に形成された断面半円形の山が金属導体11の軸方向に多数連なるような襞状に形成されているが、該凹凸12aの形状は図1に例示したものに限定されるものではない。例えば凹凸を形成する山及び谷が金属導体11の軸方向に平行に伸びる形状、該軸方向に螺旋を描くスパイラル形の形状、あるいはその他の形状に設けても差し支えない。
【0014】
上記のようにして得られた樹脂モールド絶縁導体1は、金属導体11の表面を被覆している絶縁層12の熱伝導率が高く、しかも絶縁層12の表面が襞状の凹凸12aによって形成されていることで表面からの熱放散がし易いため、通電による金属導体11の発熱が蓄熱され難く、機器の温度上昇を抑制でき、絶縁層12が設けられていることで機器の小型化、低コスト化ができる。また、絶縁層12の熱膨張係数がアルミニウムと同等程度であるため、熱応力の発生が軽減できるので、モールド部材との界面で剥離等が防止でき、信頼性を高めることが出来る。また、金属裸電極では、面積効果により最低破壊電界強度が理論破壊電界強度から低下する傾向があり、特に高ガス圧領域で顕著となるが、図1のようなハイブリッド絶縁では最低破壊電界強度が理論破壊電界強度の90%以上を保持しており、GISのような高電圧用ガス絶縁機器に適していることが確認された。
【0015】
実施の形態2.
図2は、この発明を実施するための実施の形態2に係る樹脂モールド絶縁導体を実施の形態1と同様のガス絶縁母線として用いた例を模式的に示す断面図である。図において、樹脂モールド絶縁導体1Aを構成する金属導体11の周りには上記実施の形態1と同様のエポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及びアルミナを配合したモールド材によって注型された第1の絶縁層12Aと、この第1の絶縁層12Aを包囲するように設けられ、誘電率が該第1の絶縁層12Aよりも小さく、表面に凹凸13aを有する第2の絶縁層13が注型により設けられている。上記第2の絶縁層13はビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤の合計量80〜120重量部に対し、フォレステライト(MgSiO)を390〜440重量部の配合割合で混合したモールド材により形成される。
【0016】
上記充填材であるフォレステライトの配合割合は必ずしも限定されるものではないが、上記基材であるビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤80〜120重量部に対して約390重量部未満では、混合したモールド材の粘度が低すぎて、配合したフォレステライトが沈降するようになり、得られる樹脂モールド体の膨張係数や硬化収縮が大きく、クラック性も悪くなる。一方、フォレステライトの配合割合が約440重量部を超えると混合したモールド材の粘度が高すぎて、作業時にボイドが発生し易くなる。従って上記基材80〜120重量部に対するフォレステライトの配合割合は、390〜440重量部の範囲内とすることが望ましい。
【0017】
具体的には、先ず上記実施の形態1と同様のビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤の80〜120重量部に対し、フォレステライトを390〜440重量部を混合したモールド材を図示省略している予備金型に注入して加熱硬化させ、外周面に襞状の凹凸13aを有する円筒状の第2の絶縁層13を注型する。次に、図示省略している別の金型に該円筒状の第2の絶縁層13と、その中心部に金属導体11を組み込み、130℃にて予熱する。次に、第2の絶縁層13の内周部と金属導体11の外周部の間の空間部に上記実施の形態1と同様のビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤80〜120重量部に対し、アルミナを400〜500重量部を配合したモールド材を流し込み、所定の条件で硬化させることにより、金属導体11と第1の絶縁層12A、及び第2の絶縁層13が一体モールドされたハイブリッド形の図2に模式的に示す樹脂モールド絶縁導体1Aが得られる。
【0018】
上記のように構成された実施の形態2による樹脂モールド絶縁導体1Aは、実施の形態1と同様に、例えばSFガス絶縁機器のガス絶縁母線として用いた場合に、第1の絶縁層12Aの外周に誘電率が第1の絶縁層12Aよりも小さい第2の絶縁層13からなるモールド部材を配置し、しかも該第2の絶縁層13の表面に襞状の頂部が滑らかな曲線からなる凹凸13aが形成されていることにより、実施の形態1と同様の効果に加え、モールド絶縁部表面の電解集中が更に軽減でき、機器を一層小型化できる。
【0019】
ところで上記実施の形態1及び2の説明では、この発明をSFガス絶縁機器のガス絶縁母線として用いた場合について例示したが、ガス絶縁方式の高電圧用機器あるいはガス絶縁母線に限定されるものではなく、各種高電圧用機器及びその付属機器等の絶縁導体、絶縁支持部材等のハイブリッド絶縁方式として広く用いることが出来る。例えばSFガス絶縁機器のコーン形の絶縁スペーサ、開閉装置の構成部材、SFガス絶縁機器の水分測定装置などに用いることもできる。また、注型方法は上記例示したものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1に係る樹脂モールド絶縁導体をSFガス絶縁機器のガス絶縁母線として用いた例を模式的に示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る樹脂モールド絶縁導体をSFガス絶縁機器のガス絶縁母線として用いた例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1、1A 樹脂モールド絶縁導体、 11 金属導体、 12 絶縁層、 12a 凹凸、 12A 第1の絶縁層、 13 第2の絶縁層、 13a 凹凸、 2 タンク、 3 SFガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体と、この金属導体の周りを包囲するように配設され、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及びアルミナを配合したモールド材によって注型された表面に放熱を助ける凹凸を有する絶縁層とを備えてなることを特徴とする樹脂モールド絶縁導体。
【請求項2】
上記モールド材は、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤80〜120重量部に対し、アルミナ(Al)400〜500重量部が配合されたものであることを特徴とする請求項1記載の樹脂モールド絶縁導体。
【請求項3】
金属導体と、この金属導体の周りを包囲するように配設され、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及びアルミナを配合したモールド材によって注型された第1の絶縁層と、この第1の絶縁層を包囲するように設けられ誘電率が該第1の絶縁層よりも小さい表面に凹凸を有する第2の絶縁層とを備えてなることを特徴とする樹脂モールド絶縁導体。
【請求項4】
上記モールド材は、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤80〜120重量部に対し、アルミナ(Al)400〜500重量部が配合されたものであることを特徴とする請求項3記載の樹脂モールド絶縁導体。
【請求項5】
上記第2の絶縁層は、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤80〜120重量部に対し、フォレステライト390〜440重量部を含むモールド材によって注型されたものであることを特徴とする請求項3または請求項4記載の樹脂モールド絶縁導体。
【請求項6】
上記凹凸は、襞状に形成されたものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかに記載の樹脂モールド絶縁導体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−141809(P2008−141809A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323012(P2006−323012)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】