説明

樹脂塗布装置

【課題】ミスト排出用の排気管の内面への樹脂ミストの付着による装置への悪影響を防ぎながら樹脂ミストを円滑に筐体内から排出する。
【解決手段】排気管70の、下側から上側に流体が流れる鉛直部71の途中に設けたチャンバー部81内に、樹脂ミストおよび洗浄水ミストを下面に付着させて捕獲する傾斜板85を配設する。先に付着した樹脂ミストを洗浄水ミストで融解させて洗い流すサイクルを生じさせて、傾斜板85に樹脂ミストが多く堆積しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等のワークの表面に液状樹脂を塗布する樹脂塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイス製造工程においては、円板状の半導体ウェーハの表面に格子状の分割予定ラインによって多数の矩形領域を区画し、これら矩形領域の表面にICやLSI等の電子回路を形成し、次いで裏面を研削した後に研磨するなど必要な処理をしてから、全ての分割予定ラインを切断する、すなわちダイシングして、多数の半導体チップを得ている。このようにして得られた半導体チップは、樹脂封止によりパッケージングされて、携帯電話やPC(パーソナル・コンピュータ)等の各種電気・電子機器に広く用いられている。
【0003】
半導体ウェーハのダイシングは、高速回転させた切削ブレードを切り込ませていく方法が一般的であったが、近年では、レーザ光線を照射してウェーハを溶融するアブレーション加工を行いながら切断するレーザダイシングが試みられている(特許文献1等参照)。ところで、レーザ照射によるアブレーション加工を行った際には、デブリと呼ばれる蒸散成分の飛沫がウェーハの表面に付着し、品質を低下させるという問題が起こっていた。そこで本出願人は、ウェーハの表面に樹脂を塗布して保護膜を形成した状態で当該表面にレーザ光線を照射すれば、デブリは保護膜に付着して直接ウェーハ表面には付着せず、品質を確保することができる技術を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【特許文献2】特開2004−188475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウェーハの表面に樹脂を塗布するには、上記特許文献2に記載されるように、回転させたウェーハの中心に樹脂を滴下し、遠心力によって樹脂を全面に流動させるスピンコート法が好適とされている。樹脂のスピンコートを実施する樹脂塗布装置としては、ウェーハを保持して回転させるスピンナテーブルを筐体内に収容し、スピンコート時に遠心力で飛散する樹脂を筐体内でおさめる構成が一般的となっている。
【0006】
ところで飛散する樹脂はミストとなりやすく、そのままの状態では筐体内に充満するため、外部に排出されている。樹脂ミストは、筐体内の空気に混じった状態で、筐体に接続される排気管から吸引されて排出されるが、樹脂ミストは排気管の内面に付着しやすく、装置の運転が続くにつれて樹脂ミストが堆積するといったことが起こっている。排気管への樹脂ミストの堆積は、排気効率を低下させて筐体から樹脂ミストが円滑に排出されにくくなるといった弊害を招くなど装置に悪影響を与えるため、改善策が求められていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、ミスト排出用の排気管の内面への樹脂ミストの付着による装置への悪影響を防ぎながら樹脂ミストを円滑に筐体内から排出させることができる樹脂塗布装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂塗布装置は、板状のワークの一の面に液状の樹脂を塗布する樹脂塗布装置であって、排気口を有する筐体と、該筐体内に収容され、一の面が露出する状態にワークを保持する保持面を有する保持手段と、保持面に保持されたワークの一の面に液状の樹脂を供給する樹脂供給手段と、保持面に保持されたワークに洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、筐体の排気口と吸引源とを連通させて、該筐体内の流体を該吸引源に導く排気管と、該排気管の途中に設けられ、該排気管を流れる流体中に含まれる筐体内で発生したミストを捕獲するミスト捕獲部を有する気液分離手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、吸引源を運転すると筐体内の空気が排気口から排気管を経て外部に排出される。吸引源を運転しながらワークの一の面に樹脂供給手段によって樹脂を供給し、この時に樹脂ミストが発生すると、その樹脂ミストは、空気に混じって排気管に排出され、排気管の途中に設けられた気液分離手段のミスト捕獲部に集中的に捕獲される。したがって、気液分離手段から下流側の排気管の内面への樹脂ミストの付着が防止され、樹脂ミストの付着による装置への悪影響が抑えられる。
【0010】
また、本発明の樹脂塗布装置では、洗浄水供給手段によってワークに洗浄水を供給してワークを洗浄した時に、洗浄水ミストが発生すると、この洗浄水ミストも空気に混じって排気管に排出され、上記ミスト捕獲部に捕獲される。そして、ミスト捕獲部に捕獲されている樹脂ミストが洗浄水ミストによって洗い流され、ミスト捕獲部を清浄化させることができる。このため、気液分離手段によるミスト捕獲効果が長期にわたって維持される。
【0011】
本発明においては、上記ミスト捕獲部は、上下方向に対し傾斜して配設されてミストが衝突させられる傾斜板からなり、該傾斜板のミストの進行方向から外れた側縁部に、気体通路が形成されている形態を含む。
【0012】
また、本発明は、上記保持手段は、保持面にワークの他の面を吸着して保持する円板状の吸着テーブルであり、上記筐体は、該吸着テーブルの外周部を囲繞する側壁部と、該吸着テーブルの下側に配設され、該側壁部の下部開口を閉塞する底部とを有する筒状を呈し、上記排気口は該側壁部に形成されており、上記排気管は、上流側が下側、かつ、下流側が上側とされた上下方向に延びる流体上昇部を有しており、上記気液分離手段は、該流体上昇部の途中に配設されたチャンバー部と、該チャンバー部に形成されて排気管の上流側に開口する第1の開口部と、該チャンバー部に形成されて排気管の下流側に開口する第2の開口部と、該チャンバー部内に配設され、該第1の開口部から該チャンバー部内に流入したミストが衝突させられる上記傾斜板と、該傾斜板の側縁部に形成されて、流体中の気体を第1の開口部から第2の開口部に流通させる上記気体通路と有する形態を含む。
【0013】
なお、本発明で言うワークは特に限定はされないが、例えばシリコンウェーハ等の上記半導体ウェーハや、チップ実装用としてウェーハの裏面に設けられるDAF(Die Attach Film)等の粘着部材、半導体製品のパッケージ、セラミック、ガラス、サファイア、シリコン系の基板、各種電子部品、液晶表示装置を制御駆動するLCDドライバ等の各種ドライバ、さらには、ミクロンオーダーの精度が要求される各種加工材料等が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、筐体内で発生する樹脂ミストを排気管を通して外部に排出するにあたり、排気管の内面への樹脂ミストの付着による装置への悪影響が効果的に防止されるとともに、樹脂ミストを円滑に筐体内から排出させることができ、その結果、装置の正常運転が長期にわたって可能となるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る樹脂塗布装置を示す斜視図である。
【図2】同装置を模式的に示す断面図である。
【図3】同装置が具備する気液分離手段を示す斜視図である。
【図4】気液分離手段の横断面図である。
【図5】樹脂塗布工程時の装置の状態を模式的に示す断面図である。
【図6】ウェーハ洗浄工程時の装置の状態を模式的に示す断面図である。
【図7】ミスト捕獲部の別形態(重畳板)を示す断面図である。
【図8】ミスト捕獲部の別形態(網状板)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
(1)樹脂塗布装置の構成
図1および図2は、円板状の半導体ウェーハ(以下、ウェーハと略称)1の表面(一の面)に液状の樹脂を塗布して薄膜を形成する一実施形態に係る樹脂塗布装置10を示している。ウェーハ1は、厚さが例えば100〜700μm程度であって、表面には格子状の分割予定ラインにより多数の矩形状のチップ2が区画されている。各チップ2の表面には、図示せぬICやLSI等の電子回路が形成されている。
【0017】
ウェーハ1は、樹脂塗布装置10で表面全面に樹脂が塗布された後、全ての分割予定ラインにレーザ光が照射されてアブレーション加工によるレーザダイシングが行われる。アブレーション加工は、厚さ方向に完全に貫通して切断するフルカットの他に、厚さの途中まで所定深さの溝を形成する溝加工を含む。溝加工した場合のウェーハ1は、後工程でさらにその溝の残り厚さ部分をフルカットするか、あるいは応力を付与して割断することにより、多数のチップ2に分割される。一実施形態の樹脂塗布装置10は単独で設置されるか、もしくは、ウェーハ1にアブレーション加工を施してダイシングするレーザ加工装置に付加される。
【0018】
なお、ウェーハ1は、環状のフレーム5の内側に粘着テープ6を介して同心状に一体に支持された状態で、樹脂塗布装置10に供給される。粘着テープ6は片面が粘着面とされたもので、その粘着面にフレーム5とウェーハ1が貼り付けられる。フレーム5は、金属等の板材からなる剛性を有するものであり、このフレーム5を支持することにより、ウェーハ1を損傷することなく安全に搬送することができる。以下、粘着テープ6を介してウェーハ1を支持したフレーム5を、ウェーハ付きフレーム7と称する。
【0019】
さて、樹脂塗布装置10は、上方が開口したケーシング(筐体)20を主体としている。このケーシング20は、水平に設置される板状のベース31と、このベース31上に立設された複数の脚部32とからなる支持台30上に支持されている。
【0020】
ケーシング20は、軸心がほぼ鉛直方向に沿った円筒状の側壁部21と、この側壁部21の下部開口を閉塞する底部22とから構成されており、底部22の下面が支持台30の脚部32に固定されている。そしてケーシング20の内部に、スピンナテーブル(保持手段、吸着テーブル)40が、側壁部21と同心状に配設されている。スピンナテーブル40は、円板状の枠体41の上面に多孔質体からなる円板状の吸着部42が同心状に嵌合されたものである。吸着部42はスピンナテーブル40の上面の大部分を占めており、この吸着部42の上面(保持面)42aと、吸着部42の周囲の環状の枠体41の上面とは、同一平面であって水平に設定されている。
【0021】
スピンナテーブル40の吸着部42には、図示せぬバキューム装置が接続されている。このバキューム装置が運転されると吸着部42は負圧となり、該吸着部42の上面42aに同心状に載置されたウェーハ付きフレーム7のウェーハ1が、吸着部42に粘着テープ6を介して吸着し、保持されるようになっている。
【0022】
スピンナテーブル40の枠体41の外径はフレーム5の内径よりもやや小さく、また、吸着部42の外径はウェーハ1の外径とほぼ同等とされている。したがって、ウェーハ付きフレーム7がスピンナテーブル40に同心状に載置されると、ウェーハ1の全体が吸着部42に密着して保持されるようになっている。枠体41の下面中心には、鉛直下方に延びる回転軸43の上端が固定されており、スピンナテーブル40は、この回転軸43を中心として、ケーシング20の下方に配設されたモータ44により回転駆動される。
【0023】
スピンナテーブル40の外周縁部には、フレーム5を着脱自在に保持する複数のクランプ45が等間隔をおいて配設されている。これらクランプ45は、枠体41に取り付けられている。ウェーハ付きフレーム7がスピンナテーブル40に同心状に載置されると、フレーム5は、これらクランプ45に載置されるようになっている。クランプ45は、スピンナテーブル40が回転して遠心力が発生すると、カバー部45aがフレーム5を上方から枠体41の上面に押さえ付けるといった機能を有している。
【0024】
スピンナテーブル40は、図示せぬ昇降機構によって、上方の開口部に近いか、または開口部から上方に出たウェーハ受け渡し位置と、ウェーハ受け渡し位置から下降したケーシング20内の処理位置(図1および図2のスピンナテーブル40は該処理位置にある)とに位置付けられるようになっている。処理位置に位置付けられたスピンナテーブル40は、外周部がケーシング20の側壁部21に囲繞された状態となる。
【0025】
ケーシング20内には、先端が下方に向かって屈曲した水平方向に延びる3つのノズル(第1のノズル51,第2のノズル52,第3のノズル53)が設けられている。この場合、第1のノズル51は単独であり、第1の配管基部51Aに水平旋回可能に支持されている。また、第2のノズル52と第3のノズル53は並列した状態で1組とされており、これらノズル52,53は、第1の配管基部51Aとスピンナテーブル40の中心を挟んだ位置に配置された第2の配管基部52Aに、水平旋回可能に支持されている。第1のノズル51と、第2および第3のノズル52,53とは、配管基部51A,52Aから延びる方向が互い違いの方向とされている。
【0026】
各配管基部51A,52Aはケーシング20の内壁近傍に配設されている。上記各ノズル51,52,53は、ケーシング20の内壁に近接した通常位置においては、スピンナテーブル40よりも外周側にあり、スピンナテーブル40が昇降する際、スピンナテーブル40に保持されているウェーハ付きフレーム7のフレーム5に干渉しない位置に退避するようになされている。そして各ノズル51,52,53は、スピンナテーブル40が図1および図2に示すように処理位置に位置付けられている時に、スピンナテーブル40の上方において水平旋回するように作動する。各ノズル51,52,53は、水平旋回することにより、少なくとも先端がスピンナテーブル40の中心から外周縁までの間の半径に対応する領域を移動可能とされている。
【0027】
第1のノズル51には、液状の水溶性樹脂を供給する樹脂源61に接続された配管61Aが接続されている。第1のノズル51には樹脂源61から配管61Aを介して液状の水溶性樹脂が送られ、第1のノズル51の先端から該樹脂が滴下されるようになっている。使用される水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の水溶性レジストが好ましく用いられる。
【0028】
また、第2のノズル52には、エアを供給するエア源62に接続された配管62Aが接続されている。第2のノズル52にはエア源62から配管62Aを介して乾燥エアが送られ、第2のノズル52の先端から該乾燥エアが噴出されるようになっている。
【0029】
さらに、第3のノズル53には、洗浄水を供給する水源63に接続された配管63Aが接続されている。第3のノズル53には水源63から配管63Aを介して洗浄水が送られ、第3のノズル53の先端から該洗浄水が吐出されるようになっている。使用される洗浄水としては、純水、あるいは静電気防止のためにCOが混入された純水が好ましく用いられる。
なお、以下では第1のノズル51、第2のノズル52、第3のノズル53を、それぞれ樹脂ノズル(樹脂供給手段)51、エアノズル52、洗浄水ノズル(洗浄水供給手段)53と称する。
【0030】
図2に示すように、上記ケーシング20の側壁部21には、ケーシング20内の流体を外部に排出するための排気口23が形成されている。排気口23は側壁部21の下部であって、スピンナテーブル40の処理位置よりも下方に形成されている。この排気口23には、ケーシング20内に連通する排気管70が接続されている。
【0031】
排気管70は、排気口23より水平に延びてから、直角に上方に屈曲して鉛直方向上方に延びている。排気管70は、その鉛直方向に延びる鉛直部(流体上昇部)71を経てさらに延びており、末端に、流体を吸引する吸引源72(図1参照)が接続されている。吸引源72は真空ポンプ等からなるもので、この吸引源72が運転されると、ケーシング20内の流体が排気口23から排気管70に入り、排気管70を通って外部に排出されるようになっている。したがって鉛直部71にあっては、流体が下側から上側に流れる。
【0032】
また、ケーシング20の底部22には廃液口24が形成されており、この廃液口24には廃液ホース25が接続されている。廃液口24からは、後述する樹脂ミストを含む廃液が排出されるようになっており、その廃液は、廃液ホース25を通って所定の処理設備に導かれる。
【0033】
排気管70の鉛直部71の途中には、気液分離手段80が設けられている。この気液分離手段80は、図3に示すように、直方体状のチャンバー部81と、このチャンバー部81内に配設された長方形状の傾斜板(ミスト捕獲部)85とを有している。チャンバー部81には、図2に示すように、鉛直部71の下側すなわち上流側に開口する第1の開口部82aと、鉛直部71の上側すなわち下流側に開口する第2の開口部82bが形成されている。ケーシング20内から排気管70の鉛直部71に流れ込んだ流体は、第1の開口部82aからチャンバー部81内に流入して上昇し、第2の開口部82bから鉛直部71に出るといったようにして、チャンバー部81内を通過する。
【0034】
チャンバー部81内は、傾斜板85により、第1の開口部82a側である下流側室81aと、第2の開口部82b側である上流側室81bとに仕切られている。傾斜板85は、長手方向の一端部が他端部よりも上方に配された状態で、縁部がチャンバー部81の内壁に固定されている。すなわち傾斜板85は、第1の開口部82aからチャンバー部81内に流入する流体の進行方向(上方)に対して傾斜している。図4に示すように、傾斜板85の、傾斜する両側の側縁部には、該側縁部に沿った細長い切欠き部(気体通路)86が形成されている。これら切欠き部86は、第1の開口部82aを通過して上昇する流体の進行方向から外れた位置に形成されている。これら切欠き部86により、下流側室81aと上流側室81bとが連通している。
【0035】
(2)樹脂塗布装置の動作
次に、上記樹脂塗布装置10の動作を説明する。
(2−1)樹脂のスピンコート
予めバキューム装置が運転され、かつ、ウェーハ受け渡し位置に上昇して待機しているスピンナテーブル40上に、適宜な搬送手段によって搬送されたウェーハ付きフレーム7が同心状に吸着、保持される。続いてスピンナテーブル40が処理位置に下降し、樹脂ノズル51が内側に旋回して樹脂ノズル51の先端がウェーハ1の中心付近の直上に位置付けられる。
【0036】
次いで、スピンナテーブル40がスピンコートに応じた回転速度で回転し、続いて樹脂ノズル51の先端から液状の水溶性樹脂Pが、自転している状態のウェーハ1の表面の中心付近に滴下される。樹脂Pを滴下した樹脂ノズル51は、ケーシング20の側壁部21の近傍に退避する。ウェーハ1に滴下された樹脂Pは、図5に示すように遠心力の作用で外周側に広がり、ウェーハ1の表面全面に行き渡ってスピンコートされる。なお、スピンコート時のスピンナテーブル40の回転速度は、樹脂Pがウェーハ1の表面を十分に被覆する程度に設定され、例えば、5〜100rpm程度とされる。また、樹脂Pの膜厚は必要に応じて変わるものであり、例えば数百nm程度が通常とされ、厚い場合で数μm、またウェーハ表面にバンプと呼ばれる突起電極がある場合には数100μm程度とされる。
【0037】
(2−2)樹脂の乾燥による保護膜形成
樹脂塗布工程を終えたら、スピンナテーブル40の回転を続行させたまま、一体となっているエアノズル52と洗浄水ノズル53をウェーハ1上において往復旋回させながら、乾燥エアを、エアノズル52の先端からウェーハ1の表面に塗布された樹脂Pに吹き付けて該樹脂Pを乾燥させる。乾燥時もスピンナテーブル40を回転させるが、回転速度は樹脂塗布工程の時よりも速い方が速やかに乾燥するので好ましいので、例えば100〜3000rpmに回転速度を増してスピンナテーブル40を回転させる。これにより樹脂Pは硬化して保護膜となる。
【0038】
乾燥を終了して保護膜形成工程を終えたら、スピンナテーブル40の回転が停止され、さらにスピンナテーブル40がウェーハ受け渡し位置に上昇する。この後、ウェーハ1はスピンナテーブル40から取り上げられ、上述したアブレーション加工によるレーザダイシング加工の工程に移される。ウェーハ1がアブレーション加工される際に生じるデブリは保護膜の表面に付着して直接ウェーハ1の表面には付着せず、ウェーハ1の品質が確保される。
【0039】
(2−3)保護膜の除去および洗浄
ウェーハ1にレーザダイシング加工が施されたら、ウェーハ付きフレーム7は再び樹脂塗布装置10に供給され、次のようにしてウェーハ1の表面に形成された保護膜が除去されて洗浄される。
【0040】
まず、ウェーハ1がレーザダイシングされたウェーハ付きフレーム7は、上記ウェーハ受け渡し位置で待機しているスピンナテーブル40に吸着、保持される。続いて、スピンナテーブル40が上記処理位置に下降して回転する。そして各ノズル52,53を往復旋回させながら、図6に示すように洗浄水ノズル53の先端から洗浄水Wを吐出し、該洗浄水Wを保護膜の全面にまんべんなくかける。これによって水溶性の樹脂Pからなる保護膜は融解し、ウェーハ1の表面から保護膜が洗い流されて除去される。
【0041】
ウェーハ1の表面の保護膜が完全に除去されたら、洗浄水ノズル53からの洗浄水Wの吐出を停止し、引き続きスピンナテーブル40の回転、ならびに各ノズル52,53の往復旋回を続行したまま、エアノズル52の先端から乾燥エアを噴出させる。乾燥エアは露出したウェーハ1の表面全面にまんべんなく吹き付けられ、さらに遠心力で水分が吹き飛ぶ作用と相まって、ウェーハ1は乾燥処理される。この後、スピンナテーブル40がウェーハ受け渡し位置に上昇し、ウェーハ付きフレーム7は次の工程に移される。
【0042】
なお、樹脂Pのスピンコート時には、ウェーハ1の外周縁から樹脂Pの余剰分が飛散してケーシング20の底部22に落下し、また、洗浄水Wも底部22に落下する。底部22に落下した樹脂や洗浄水は、廃液口24から廃液管25を経て排出される。
【0043】
(3)ミストの排出および捕獲作用
以上は樹脂塗布装置10のメインの動作、すなわちウェーハ1に樹脂Pを塗布し乾燥させて保護膜を形成し、また、形成した保護膜をレーザダイシング後に除去してウェーハ1を洗浄するといった動作である。本装置10においては、上記メインの動作中においてケーシング20内に発生する樹脂Pと洗浄水Wのミストをケーシング20の外部に排出するとともに捕獲するといった機能を有しており、以下にその作用を説明する。
【0044】
(3−1)樹脂ミストの排出および捕獲
上記メインの動作中においては、吸引源72を連続的に運転させておく。吸引源72が運転されることにより、ケーシング20内の空気を含む流体は、常に、排気口23から排気管70に導かれ、チャンバー部81内を通過して外部に排出される。
【0045】
さて、上記スピンコート工程においては、ウェーハ1の表面に塗布される樹脂Pが遠心力によって飛散すると、その樹脂Pがミスト化してケーシング20内に浮遊する場合がある。このようにして発生する樹脂ミストは、吸引源72の吸引作用により、空気に混じった状態で排気口23から排気管70に排出される。排気管70に出た樹脂ミストは鉛直部71を上昇して気液分離手段80に至る。すなわち樹脂ミストは、チャンバー部81の第1の開口部82aからチャンバー部81内の下流側室81aに流入する。
【0046】
第1の開口部82aから下流側室81aに流入した樹脂ミストは直線的に上昇し、傾斜板85の下面に衝突する。これによって樹脂ミストは傾斜板85の下面に付着して捕獲され、凝集することにより樹脂の状態で堆積した状態となる(図5のP1で示す)。一方、樹脂ミストとともに下流側室81aに流入した空気は傾斜板85の下面に沿って上昇しながら両側に流れ、両側の切欠き部86を抜けて上流側室81bに入る。そしてその空気は第2の開口部82bから上方の鉛直部71に入り、外部に排出される。
【0047】
すなわち、樹脂ミストが混じった空気は樹脂ミストのみが傾斜板85に捕獲されることにより空気と樹脂ミストに分離され、空気のみが排気管70を通って吸引源72側に排出される。樹脂ミストは比重が比較的重く傾斜板85まで直線的に上昇することにより、傾斜板85に衝突して捕獲されるのである。このように樹脂ミストが傾斜板85に集中的に捕獲されるため、気液分離手段80から下流側の排気管70の内面への樹脂ミストの付着が防止される。その結果、樹脂ミストの付着による本装置10への悪影響が抑えられる。
【0048】
(3−2)洗浄水ミストの排出および捕獲と、樹脂ミストの洗浄
次に、レーザダイシングされたウェーハ1を再び本装置10にセットして保護膜の除去および洗浄を行う工程においては、回転するウェーハ1にかけられる洗浄水Wが飛散してミスト化する場合がある。
【0049】
このようにして発生する洗浄水ミストも、樹脂ミストと同様にして気液分離手段80の傾斜板85に捕獲される。すなわち洗浄水ミストは空気とともに排気口23から排気管70に排出され、鉛直部71を上昇してチャンバー部81の第1の開口部82aからチャンバー部81内の下流側室81aに流入する。そして洗浄水ミストは傾斜板85の下面に衝突して捕獲され、空気だけが切欠き部86から上流側室81bに抜けて排出されていく。
【0050】
ここで、傾斜板85の下面には先に付着した樹脂ミストが凝集してなる樹脂P1が堆積しており、この樹脂P1で覆われた部分には該樹脂P1に洗浄水ミストが衝突して付着する。洗浄水ミストが付着すると水溶性の樹脂は融解して液状化する。また、洗浄水ミストは凝集しやすく液体となるため、液体となった水により樹脂ミストの融解が促進される。
【0051】
図6に示すように、融解した樹脂を含む水である樹脂溶液P2は、傾斜板85から滴下するか、あるいは傾斜板85の下面を伝って落下する。これにより傾斜板85の下面から樹脂P1が除去されて洗浄された状態となる。傾斜板85から落下した樹脂溶液P2は第1の開口部82aから排気管70を経てケーシング20内に逆流し、廃液口24から排出される。また、上下方向に延びる鉛直部71の、チャンバー部81よりも下方の上流側においては、上方に向かって流れてきた樹脂ミストが鉛直部71の内面に付着しても、その樹脂ミストを、内面を伝って落下する樹脂溶液P2によって洗浄することができるといった作用も生じる。本実施形態では傾斜する傾斜板85に樹脂ミストおよび洗浄水ミストを捕獲するため、樹脂溶液P2が落下しやすく、傾斜板85が速やかに洗浄されやすい。
【0052】
以上のように、傾斜板85の下面に付着することにより気液分離手段80に捕獲された樹脂ミストは、引き続き行われる洗浄工程においてケーシング20内に発生する洗浄水ミストにより洗い流され、廃液口24から排出される。本装置10では、上記メインの動作においてウェーハ1への樹脂Pの塗布と該樹脂P(保護膜となっている)の洗浄が繰り返されるが、その都度、気液分離手段80においては樹脂ミストの捕獲と洗浄水ミストの捕獲に伴う堆積樹脂P1の洗浄といったサイクルが繰り返される。したがって、気液分離手段80によるミスト捕獲効果が長期にわたって維持され、もって本装置10の正常運転が長期にわたって可能となる。
【0053】
また、一実施形態の気液分離手段80は、チャンバー部81内に傾斜板85を配設した簡素が構造であるため流動抵抗を低くすることができ、このため、吸引源72による排気効率の低減が抑えられながら、樹脂ミストや洗浄水ミストを効果的に捕獲することができる。例えば、同じ吸引力でどれだけの体積の流体を吸引することができるかといった排気効率を比較した場合、本実施形態では、気液分離手段80がない場合に比べて排気効率は20%程度低減しながらも樹脂ミストを95%程度捕獲することができるものとなる。
【0054】
(4)ミスト捕獲部の別形態
樹脂ミストおよび洗浄水ミストを捕獲するミスト捕獲部は、上記傾斜板85といった形態に限定はされず、ミストを的確に捕獲可能なものであればいかなる形態であってもよい。図7は、チャンバー部81の第1の開口部82aから第2の開口部82bにわたり互いに重畳して配設された複数の重畳板91が、ミスト捕獲部を構成している。チャンバー部81内は、これら重畳板91によって下流側室81aと上流側室81bに仕切られ、重畳板91の間に、空気を通過させる気体通路92が迷路状(ジグザグ状)に形成されている。この形態では、樹脂ミストおよび洗浄水ミストは主に最も下方の重畳板91の下面に衝突することにより捕獲され、迷路状の気体通路92を通っていく間にも、順次重畳板91の下面に付着して捕獲されていく。そして、空気は気体通路92を通って上方に抜けていく。
【0055】
また、図8(a),(b)は、ミスト捕獲部として構成された網状板を示している。(a)の網状板95は細い線材95aが網状に組まれ、線材95a間の孔95bが気体通路とされたもので、樹脂ミストおよび洗浄水ミストは線材95aに付着して捕獲される。また、(b)の網状板96は、板材96aに多数の孔96bが気体通路として形成されたもので、樹脂ミストおよび洗浄水ミストは板材96aに付着して捕獲される。
【符号の説明】
【0056】
1…ウェーハ(ワーク)
10…樹脂塗布装置
20…ケーシング(筐体)
21…側壁部
22…底部
23…排気口
40…スピンナテーブル(保持手段、吸着テーブル)
42a…吸着部の上面(保持面)
51…樹脂ノズル(樹脂供給手段)
53…洗浄水ノズル(洗浄水供給手段)
70…排気管
71…鉛直部(流体上昇部)
72…吸引源
80…気液分離手段
81…チャンバー部
82a…第1の開口部
82b…第2の開口部
85…傾斜板(ミスト捕獲部)
91…重畳板(ミスト捕獲部)
92…気体通路
95,96…網状板(ミスト捕獲部)
95b,96b…孔(気体通路)
P…樹脂
P1…傾斜板に堆積した樹脂
P2…傾斜板から落下する樹脂溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のワークの一の面に液状の樹脂を塗布する樹脂塗布装置であって、
排気口を有する筐体と、
該筐体内に収容され、前記一の面が露出する状態に前記ワークを保持する保持面を有する保持手段と、
前記保持面に保持された前記ワークの前記一の面に前記液状の樹脂を供給する樹脂供給手段と、
前記保持面に保持された前記ワークに洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、
前記筐体の前記排気口と吸引源とを連通させて、該筐体内の流体を該吸引源に導く排気管と、
該排気管の途中に設けられ、該排気管を流れる前記流体中に含まれる前記筐体内で発生したミストを捕獲するミスト捕獲部を有する気液分離手段と、
を備えることを特徴とする樹脂塗布装置。
【請求項2】
前記ミスト捕獲部は、上下方向に対し傾斜して配設されて前記ミストが衝突させられる傾斜板からなり、該傾斜板の前記ミストの進行方向から外れた側縁部に、気体通路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂塗布装置。
【請求項3】
前記保持手段は、前記保持面に前記ワークの他の面を吸着して保持する円板状の吸着テーブルであり、
前記筐体は、前記吸着テーブルの外周部を囲繞する側壁部と、該吸着テーブルの下側に配設され、該側壁部の下部開口を閉塞する底部とを有する筒状を呈し、前記排気口は該側壁部に形成されており、
前記排気管は、上流側が下側、かつ、下流側が上側とされた上下方向に延びる流体上昇部を有しており、
前記気液分離手段は、
該流体上昇部の途中に配設されたチャンバー部と、
該チャンバー部に形成されて前記排気管の上流側に開口する第1の開口部と、
該チャンバー部に形成されて前記排気管の下流側に開口する第2の開口部と、
該チャンバー部内に配設されて該第1の開口部から該チャンバー部内に流入した前記ミストが衝突させられる前記傾斜板と、
該傾斜板の側縁部に形成されて、前記流体中の気体を前記第1の開口部から前記第2の開口部に流通させる前記気体通路と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の樹脂塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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