説明

樹脂射出成形品

【課題】円筒部1を有し、その端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部2を設けた樹脂射出成形品を対象とし、無理抜きによる離型に当たり、膨出部2に変形が残らない樹脂射出成形品を提供する。
【解決手段】膨出部2の本来的に強度が弱い箇所の内側の径方向横断面をDカット形状にする。Dカット部3を設けることにより、外形を変えずにその部分の肉厚が厚くなり、強度が大きくなるので、無理抜き時の応力が集中せず変形が残るのを防止することができる。本来的に強度が弱い箇所は、例えば、ウエルド発生箇所である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒部を有する樹脂射出成形品に関する。殊に、その円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けた樹脂射出成形品に関する。この成形品は、成形後の離型を無理抜きで行なうのに適した成形品である。
【背景技術】
【0002】
円筒部の外周に膨出部を設けたアンダーカット形状の樹脂射出成形品を、成形後に無理抜きで離型する場合、特許文献1に示すような技術がある。
【0003】
この技術は、円筒部内周面を成形するためのコア型を、第1部分と第2部分で構成している。第1部分は外周に膨出部を有する部分の内周面を成形するためのものであり、第2部分はその他の部分の内周面を成形するためのものである。成形品の離型は、まず、前記第1部分を除き、膨出部を有する部分の円筒内側に空隙を作る。次に、膨出部を有する部分の円筒外周面を成形するキャビティ型を無理抜きで離型する。このとき、膨出部を有する部分の円筒内側には障害物は何もなく、膨出部を有する部分の円筒が内側に弾性変形することにより無理抜きが可能となっている。その後、前記第2部分を除いて、離型が完了する。
【0004】
【特許文献1】特開2005−112444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1の技術では、コア型を段階的に取り除いて、成形品の離型を実施しており、金型構造が複雑である。また、キャビティ型を無理抜きで離型するとき、コア型の第2部分を円筒内に配置しておくことで、無理抜きによる変形が残るのを回避しているものと推測される。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、円筒部を有し、その円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けた樹脂射出成形品を対象として、無理抜きによる離型に当たってコア型を段階的に取り除く等の操作の工夫をしなくても、変形の残らない成形品とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る樹脂射出成形品(請求項1)は、円筒部を有し、その円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けた樹脂射出成形品において、前記膨出部の強度が弱い箇所は、その内側の径方向横断面をDカット形状にしたことを特徴とする。本発明が対象とする成形品を金型から無理抜きで離型できるのは、無理抜き時に膨出部が内側へ弾性変形し、離型後に元の形状に戻るからである。しかし、膨出部に部分的に強度の弱い箇所があると、無理抜き時にその部分に変形が集中し、塑性変形してしまう。前記請求項1に係る成形品は、膨出部の強度が弱い箇所の内側の径方向横断面をDカット形状にしているので、その部分の肉厚が厚くなり、強度が増して、無理抜き時にその部分に変形が集中することがなくなる。その結果、無理抜きによる変形が残らない成形品とすることができる。
【0008】
本発明に係る他の樹脂射出成形品(請求項2)は、上記膨出部の内径中心を外径中心から偏心させて、外径中心と内径中心が一致しているときの強度が弱い箇所の肉厚を厚くしたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る他の樹脂射出成形品(請求項3)は、上記膨出部内側の径方向横断面を楕円形状にして、内外とも径方向横断面が円形状であるときの強度が弱い箇所の肉厚を厚くしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2、3いずれに係る成形品も、膨出部の本来強度が弱い箇所の肉厚を厚くしているので、請求項1に係る成形品と同様、無理抜きによる変形が残らない成形品とすることができる。
【0011】
射出成形の場合、膨出部の強度の弱い箇所はウエルド発生部となることが多い。そこで、請求項1〜3に係る発明において、肉厚を厚くする箇所をウエルド発生部とする(請求項4)。また、請求項1に係る成形品において、膨出部の強度が弱い箇所が複数箇所ある場合は、当該それぞれの内側の径方向横断面をDカット形状にする(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明に係る樹脂射出成形品は、円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けたアンダーカット形状のものにおいて、本来のままでは強度が弱い膨出部の箇所の肉厚を厚くしたので、無理抜きにより成形品を離型した後に変形が残ることを防止することができる。特に、成形品の外形を変えることなく、膨出部の内側で肉厚を厚くすることで、無理抜きによる変形を抑えることができる。また、無理抜きによる変形が残るのを抑えるために、その肉厚の調整も容易である。そして、離型に際し、キャビティ型の無理抜き時に成形品円筒部の内側にコア型を配置しておく必要はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明が対象としている樹脂射出成形品であり、その要部を示した斜視図である。円筒部1を有し、その円筒部1の端部に、当該円筒部1の他部分より内径と外形が大きい膨出部2を設けてある。この成形品は、PP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、POM(ポリオキシメチレン)、PA6(6ナイロン)、PA66(66ナイロン)、PA12(12ナイロン)、PA46(46ナイロン)、PPA(ポリフタルアミド)、PA6T(6Tナイロン)、PA9T(9Tナイロン)等の樹脂を射出成形して成形される。樹脂には、ガラス繊維等の充填材が適宜配合される。成形後の離型は、円筒部内周面を成形するコア型を取り除いた後、膨出部2を含む外面を成形するキャビティ型を無理抜きする。無理抜きとは、キャビティ型が膨出部を乗り越えて円筒の軸方向へ引き抜かれることである。膨出部2はアンダーカット形状であるので、この時、膨出部2が内側に変形することにより無理抜きが可能となっている。
【0014】
請求項1に係る発明の実施の形態は、上記において、膨出部2の本来的に強度が弱い箇所の内側の径方向横断面をDカット形状にしている。図1、図2(図2は、図1の膨出部2における径方向横断面を示す)において、3がDカット部である。二点鎖線は、Dカット部3を設けない本来の内周面の形状を示しており、Dカット部3の付与により、この部分は本来の内周面の形状よりも肉厚になっている。
ガラス繊維を充填材とする樹脂射出成形品の場合、ガラス繊維は周方向に配向して円筒部の強度向上に寄与しているが、ウエルド発生箇所では配向が乱れて強度が低下する。そこで、Dカット部3をウエルド発生箇所に対応させて設ける(請求項4に係る発明の実施の形態)。
【0015】
上記実施の形態は、Dカット部3の付与により膨出部3の特定箇所の肉厚を厚くするものである。この実施の形態においては、無理抜きにより残る変形の度合いに応じてDカットの量を設定すればよい。すなわち、大きな変形が残る場合は、Dカットの量を大きくして肉厚を厚くし強度をより大きくする。従って、調整は、以下に説明する請求項2、3に係る発明の実施の形態における場合よりも容易である。
【0016】
請求項2に係る発明の実施の形態は、上記において、上記膨出部2の内径中心を外径中心から見て偏心させている。図3に径方向断面図で示すように、内径中心4を外径中心5から偏心させ、内径中心4が外径中心5に一致しているときの強度が弱い箇所の肉厚を厚くしている。6が、図2におけるDカット部3に相当する肉厚部である。肉厚部6は、上記と同様に、ウエルド発生箇所に対応させる。
【0017】
請求項3に係る発明の実施の形態は、上記において、膨出部2の内側の径方向横断面を楕円形状にしている。図4に径方向断面図で示すように、内外とも径方向横断面が円形状であるときの強度が弱い箇所に楕円の短径方向を一致させている。この場合、肉厚部6は短径方向の2箇所にできるが、一方の側をウエルド発生箇所と対応させている。
【0018】
上記の請求項2、3に係る発明の実施の形態においては、膨出部2の肉厚部6からそうでない部分への肉厚の変化が滑らかである。Dカットによる場合のように面が急激に変化する箇所(エッジ部)が存在しないので、無理抜き時に特定箇所に応力が集中するのをより効果的に回避できる。
【0019】
請求項5に係る発明の実施の形態は、図1、2を参照して説明した実施の形態において、Dカット部3を複数箇所に設けている。図5に径方向断面図で示すように、この例では3箇所にDカット部3を設ける。本来、膨出部2の強度が弱い箇所にDカット部を設けて、その結果、無理抜き時に残る変形が他の箇所に移動した場合には、このように複数箇所にDカット部3を設けて当該箇所の肉厚を厚くする。
【実施例】
【0020】
実施例1
本実施例は、図1、2を参照して説明した実施の形態に相当するものである。樹脂として、ガラス繊維(繊維径10μm,繊維長0.3mm)を35質量%含有するPPAを用い、端面に膨出部2を有する円筒部1を備えた成形品を射出成形した。この成形品は、膨出部2の外径φ20mm、内径φ17mmであり、円筒部1の他部分(膨出部2以外の部分)の外径φ18mm、内径φ15mmである。そして、膨出部2のウエルド発生箇所の内側にDカット部3を設けた。Dカット部3の最大厚さは、本来の形状の内周面から0.2mmである。
【0021】
実施例2
本実施例は、図3を参照して説明した実施の形態に相当するものである。材質ならびに寸法形状は、実施例1と同様であり、膨出部2の内径中心4を外径中心5から0.2mmだけ偏心させ、肉厚部6を形成した。これによって、膨出部2のウエルド発生箇所に対応する部分の肉厚を1.7mmとした。また、もっとも薄い部分の肉厚を1.3mmとした。
【0022】
実施例3
本実施例は、図4を参照して説明した実施の形態に相当するものである。材質ならびに寸法形状は、実施例1と同様であり、膨出部2の内側の径方向横断面を楕円形状にした。楕円の短径はφ16.6mm、長径はφ17mmである。楕円の短径方向を膨出部2のウエルド発生箇所に対応させ、これによって、膨出部2のウエルド発生箇所の肉厚を1.7mmとした。また、長径方向の肉厚を1.5mmとした。
【0023】
従来例1
実施例1において、Dカット部を設けず、その他は実施例1と同様とした。
【0024】
上記各例において、無理抜き後の膨出部に残った変形度合いを表1に示した。変形度合いは、膨出部周面の本来の形状からの最大変形量で示した。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る樹脂射出成形品の実施の形態を示し、当該樹脂成形品の要部斜視図である。
【図2】図1における樹脂射出成形品の膨出部の径方向断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂射出成形品の他の実施の形態を示し、当該樹脂射出成形品の膨出部の径方向断面図である。
【図4】本発明に係る樹脂射出成形品のさらに他の実施の形態を示し、当該樹脂射出成形品の膨出部の径方向断面図である。
【図5】本発明に係る樹脂射出成形品のさらに他の実施の形態を示し、当該樹脂射出成形品の膨出部の径方向断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1は、円筒部
2は、膨出部
3は、Dカット部
4は、内径中心
5は、外径中心
6は、肉厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部を有し、その円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けた樹脂射出成形品において、
前記膨出部の強度が弱い箇所は、その内側の径方向横断面をDカット形状にしたことを特徴とする樹脂射出成形品。
【請求項2】
円筒部を有し、その円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けた樹脂射出成形品において、
前記膨出部の内径中心を偏心させて、外径中心と内径中心が一致しているときの強度が弱い箇所の肉厚を厚くしたことを特徴とする樹脂射出成形品。
【請求項3】
円筒部を有し、その円筒部の端部に当該円筒部の他部分より内径と外径が大きい膨出部を設けた樹脂射出成形品において、
前記膨出部内側の径方向横断面を楕円形状にして、内外とも径方向横断面が円形状であるときの強度が弱い箇所の肉厚を厚くしたことを特徴とする樹脂射出成形品。
【請求項4】
膨出部の強度が弱い箇所が、射出成形時のウエルド発生箇所である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂射出成形品。
【請求項5】
径方向横断面をDカット形状にした箇所を複数設けてある請求項1記載の樹脂射出成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−55057(P2007−55057A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242203(P2005−242203)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【出願人】(390017617)新神戸プラテックス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】