説明

樹脂成形におけるヒケ抑制装置

【課題】樹脂の圧力を利用するだけで、ヒケの発生を抑制することができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】ヒケ抑制装置10は、第1のピン11と、第1の弾性部材32と、第2のピン16と、第2の弾性部材35と、クラッチボール20と、筒体21とを基本要素とする。
【効果】第1のピンを付勢している第1の弾性部材は、第1のピンと第2のピンとで圧縮される。第1の弾性部材には十分に強力な弾性エネルギーが蓄積される。第2のピンが一定距離後退すると、クラッチボールが外れて、第1のピンは自由になる。樹脂が凝固して収縮すると、第1のピンが第1の弾性部材で押し出され、強く樹脂を押す。この結果、ヒケの発生を十分に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形時に発生するヒケの発生を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は樹脂成形時に発生するヒケを説明する図であり、樹脂製品100に、厚肉のリブ101を設けることがある。このリブ101は、補強部、ねじ座などに利用される。
溶融樹脂は、金型で冷却されるが、リブ101は肉厚であるため中心までの冷却が遅くなる。一方、溶融樹脂が冷却されて凝固する際に体積の収縮が起こる。
このために、リブ101で引かれて、樹脂製品100に、ヒケ102が発生する。
【0003】
ヒケ102は、製品品質を低下させるために、発生を防止する必要があり、その対策が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−76306号公報(図2)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)に示すように、先端がキャビティ111に臨むように可動ピン112が設けられており、この可動ピン112は弾性部材113で付勢されている。
キャビティ111へ溶融樹脂114を充填すると、想像線で示される可動ピン112に樹脂の圧力が作用し、実線で示される位置まで後退(下降)する。すなわち、距離L1だけ後退する。
【0005】
溶融樹脂114は、金型115で冷やされて凝固する。凝固の際に収縮する。(b)に示すように、収縮に連動して、可動ピン112が上昇し、ヒケの発生を抑制する。
【0006】
しかしながら、可動ピン112の上昇は不十分であり、ヒケの発生を十分に防止するには至っていないことが判明した。すなわち、樹脂の圧力を利用して可動ピン112を下降させる、従来の技術では対策としては不十分である。
【0007】
更なる対策として、油圧シリンダで可動ピンを強制的に移動させる方法が考えられるが、油圧シリンダを別個設置し、油圧供給源や油圧切替弁を設ける必要があり、設備費が嵩む。
【0008】
そこで、樹脂の圧力を利用するだけで、ヒケの発生を十分に抑制することができる技術が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、樹脂の圧力を利用するだけで、ヒケの発生を抑制することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、先端がキャビティに臨み、金型の外に配置されている移動盤に軸方向移動可能に支持され、後端が第1の弾性部材で前記キャビティへ押圧され、前端側が小径部で後端側が大径部で、この大径部と前記小径部との段部が凹曲面で繋がれている第1のピンと、
先端がキャビティに臨み、前記移動盤に軸方向移動可能に支持され、後端が第2の弾性部材で押圧され、前記第1のピンを移動自在に収納する中空の第2のピンと、
この第2のピンの外径と前記第1のピンの小径部の外径との差の半分の値に球径が設定され、前記中空の第2のピンに貫通形成されているボール穴に第2のピンの軸直角方向へ移動可能に収納されているクラッチボールと、
前記第2のピンを軸方向移動可能に収納するために前記移動盤に固定された筒体であって、この筒体の内周面に臨んでいたクラッチボールは、前記第2のピンが一定距離後退したときに、筒体の末端から外れるように長さが設定されている筒体と、
からなる樹脂成形におけるヒケ抑制装置を提供する。
【0011】
請求項2に係る発明は、第2のピンは、製品を金型から突出す役割を果たす突出しピンであり、移動盤は、突出しピンを移動させる突出し盤であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、第2のピンは、後端が第1の弾性部材より弾性係数が小さな第2の弾性部材で押圧されることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、筒体は、第1のピンの大径部の外径と小径部の外径との差の半分の値に肉厚が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、樹脂の圧力は、第1のピンと第2のピンとに作用する。クラッチボールにより第2のピンは第1のピンに連結される。すると、第1のピンを付勢している第1の弾性部材は、第1のピンと第2のピンとで圧縮される。第1の弾性部材には十分に強力な弾性エネルギーが蓄積される。
第2のピンが一定距離後退すると、クラッチボールが外れて、第1のピンは自由になる。樹脂が凝固して収縮すると、第1のピンが第1の弾性部材で押し出され、強く樹脂を押す。この結果、ヒケの発生を十分に抑制することができる。
すなわち、本発明によれば、樹脂の圧力を利用するだけで、ヒケの発生を抑制することができる技術が提供される。
【0015】
特に、請求項2に係る発明では、第2のピンは突出しピンであり、移動盤は突出しピンを移動させる突出し盤とした。突出しピンと突出し盤は、金型に必須の付帯設備である。付帯設備を利用するため、ヒケ抑制装置の製造コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るヒケ抑制装置の構成図であり、ヒケ抑制装置10は、第1のピン11と、第1の弾性部材32と、第2のピン16と、第2の弾性部材35と、クラッチボール20と、筒体21とを基本要素とする。
【0017】
これらの基本要素を以下詳細に説明する。
第1のピン11は、前端側が小径部12で、後端側が大径部13で、後端にばね受け14を備えた段付き中実部材である。小径部12と大径部13との段部は、凹曲面15で滑らかに繋がれている。凹曲面15の曲率半径は、クラッチボール20の半径に対応した大きさに設定されている。
【0018】
第2のピン16は、第1のピン11を軸方向移動自在に収納する中空部材であり、途中に、軸直角方向に貫通形成されているボール穴17、17を備え、後端にばね受け18を備えている。
【0019】
クラッチボール20、20は、図2で説明する。
筒体21は、フランジ22とボルト23とで移動盤としての突出し盤24で固定され、第2のピン16を移動自在に収納すると共に、末端にテーパ部25を備えている。なお、テーパ部25は、初期位置におけるクラッチボール20からL(図3(a))だけ延ばしたところに設定されている。この距離Lは、第2のピン16の所定の移動距離であって、詳細は後述する。
【0020】
想像線で示す金型27の外側に、突出し盤24が配置され、この突出し盤24の外側に補助盤28が配置されている。突出し盤24と補助盤28とは便宜的に分離されており、連結板29及び突出しシリンダ31により、一括して移動可能とされている。
【0021】
補助盤28には、第1のピン11のばね受け14を収納すると共に、弾性係数の大きな第1の弾性部材32を収納する第1凹部33が設けられており、この第1凹部33に収納した第1の弾性部材32の抜け止めを図るばね受け板34が設けられている。
【0022】
突出し盤24には、第2のピン16のばね受け18を収納すると共に、弾性係数の小さな第2の弾性部材35を収納する第2凹部36が設けられており、この第2凹部36に収納した第2の弾性部材35の抜け止めを図る、ばね受け板37が設けられている。
【0023】
図2は図1の2−2線断面図であり、筒体21に、中空状の第2のピン16が収納され、この第2のピン16に第1のピン11の小径部12が収納され、第2のピン16のボール穴17にクラッチボール20が収納されている。
クラッチボール20は、第2のピン16の外径D2と第1のピンの小径部12の外径D1との差の半分の値に球径が設定されている。
また、筒体21の肉厚Tは、図1に示すように、第1のピン11の大径部13の外径D3と、小径部12の外径D1との差の半分の値に設定されている。
【0024】
以上の構成からなるヒケ抑制装置の作用を次に説明する。
図3は初期設定時から樹脂充填途中までを説明する図であり、樹脂を充填する前、すなわち初期設定時には、(a)に示すように、第1のピン11及び第2のピン16は前進限位置に保持されている。クラッチボール20も前進限位置に保持されており、このときのクラッチボール20と筒体21の末端(テーパ部25)との間隔が、クラッチボール20(第2のピン16)の移動距離Lとなる。
【0025】
次に、キャビティ38に高圧の溶融樹脂が充填されると、樹脂の圧力が、第1のピン11の先端面及び第2のピン16の先端面に加わる。樹脂の圧力をp、第1のピン11の先端面の面積をS1、第2のピン16の先端面S2とすれば、第1のピン11に、p・S1の軸力が加わり、第2のピン16に、p・S2の軸力が加わる。
【0026】
すると、(b)に示すように、第1のピン11が後退して、第1の弾性部材32が圧縮され、第2のピン16が後退して、第2の弾性部材35が圧縮される。ただし、クラッチボール20の連結作用により、第2のピン16への軸力の一部は第1のピン11に作用する。
第1の弾性部材32の弾性係数をk1、第2の弾性部材35の弾性係数をk2とし、第1のピン11の後退量がL1であれば、次の等式が成立する。
(p・S1+p・S2)=k1・L1+k2・L1
【0027】
次に、S1とS2の大小関係を検討する。第1のピン11の外径(小径部の外径)が10mmであれば、S1は、π・1/4=0.25π(cm)となる。第2のピン16の外径が30mm、内径が10mmであれば、S2は、π・(3−1)/4=π・(9−1)/4=2π(cm)となる。この場合では、S2はS1の8倍となる。
【0028】
次に、弾性係数K1、K2を検討する。第1の弾性部材32の弾性係数k1(kg/mm)は、大きく、第2の弾性部材35の弾性係数k2(kg/mm)は、小さく設定する。弾性係数K2が十分に小さく、これを便宜的に無視すると、上述の等式は、(p・S1+p・S2)=k1・L1となる。
【0029】
すなわち、弾性係数の大きな第1の弾性部材32は、(p・S1+p・S2)で圧縮される。この(p・S1+p・S2)は、例えば、p・S1の9(=1+8)倍である。
【0030】
従来の技術では、弾性部材をp・S1のみで圧縮していたことになる。これに対して、本発明によれば、9倍の弾性エネルギーで弾性部材を圧縮するため、従来に比較して極めて大きな弾性エネルギーを蓄積させることができる。
【0031】
すなわち、図3(b)に示すように、キャビティ38の高圧な溶融樹脂による軸力p・S1と、より大きな軸力p・S2とが合わさった力が、第1の弾性部材32の弾性力と第2の弾性部材35の弾性力とが合わさった力に抗して、第1ののピン11と第2のピン16とを後退させようとする。このとき、第1の弾性部材32の弾性係数k1は、第2の弾性部材35の弾性係数k2より大きく設定されているから、第1の弾性部材32の弾性力たる抗力により、第1のピン11に設けられている段部の凹曲面15でクラッチボール20が押され、このクラッチボール20が筒体21の内壁を径外方へ押圧しつつ前記ボール穴17に収納されている。
【0032】
図4はクラッチボールのロック解除から樹脂の凝固完了までを説明する図であり、(a)に示すように、第1のピン11と第2のピン16とが、一緒に後退すると、クラッチボール20が筒体21の末端(図右端)から外れる。すると、クラッチボール20、20が、矢印(1)、(1)のように、第1のピン11の径外方へ移動可能となる。この結果、クラッチボール20の連結作用が消失し、第2のピン16に対して、第1のピン11は、自由に移動できるようになる。
【0033】
(b)に示すように、樹脂が凝固し始め、収縮が始まると、第2のピン16は、殆ど前進しないが、第1のピン11は、強い第1の弾性部材32の押し作用で、強く凝固途中の樹脂39を押す。この結果、ヒケの発生が効果的に抑制される。
樹脂の凝固が完了したら、金型27を開き、突出し盤24及び補助盤28を移動させる。この結果、第2のピン16で製品を突出すことができる。突出しが終わると、図3(a)に戻る。
【0034】
以上に述べた発明は、次のようにまとめることができる。
樹脂成形におけるヒケ抑制装置10は、先端がキャビティ38に臨み、金型27の外に配置されている突出し盤24に軸方向移動可能に支持され、後端が第1の弾性部材32で前記キャビティ38へ押圧され、前端側が小径部12で後端側が大径部13である第1のピン11と、
先端がキャビティ38に臨み、前記突出し盤24に軸方向移動可能に支持され、後端が前記第1の弾性部材32より弾性係数が小さな第2の弾性部材35で押圧され、前記第1のピン11を移動自在に収納する中空の第2のピン16と、
この第2のピン16の外径D2と前記第1のピンの小径部の外径D1との差の半分の値に球径が設定され、前記中空の第2のピン16に貫通形成されているボール穴17に第2のピン16の軸直角方向へ移動可能に収納されているクラッチボール20と、
前記第2のピン16を軸方向移動可能に収納するために突出し盤24に固定され、前記第1のピンの大径部の外径D3と小径部の外径D1との差の半分の値に肉厚が設定されている筒体21であって、この筒体の内周面に臨んでいたクラッチボールは、前記第2のピン16が一定距離Dだけ後退したときに、筒体21の末端25から外れるように長さDが設定されている筒体21と、から構成される。
【0035】
この構成では、樹脂の圧力は、第1のピンと第2のピンとに作用する。クラッチボールにより第2のピンは第1のピンに連結される。すると、第1のピンを付勢している第1の弾性部材は、第1のピンと第2のピンとで圧縮される。第1の弾性部材には十分に強力な弾性エネルギーが蓄積される。
第2のピンが一定距離後退すると、クラッチボールが外れて、第1のピンは自由になる。樹脂が凝固して収縮すると、第1のピンが第1の弾性部材で押し出され、強く樹脂を押す。この結果、ヒケの発生を十分に抑制することができる。
【0036】
また、本実施例では、第2のピン16は突出しピンとし、移動盤は突出しピンを移動させる突出し盤24とした。突出しピンと突出し盤24は、金型27に必須の付帯設備である。付帯設備を利用するため、ヒケ抑制装置10の製造コストを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、樹脂のヒケ抑制装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るヒケ抑制装置の構成図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】初期設定時から樹脂充填途中までを説明する図である。
【図4】クラッチボールのロック解除から樹脂の凝固完了までを説明する図である。
【図5】樹脂成形時に発生するヒケを説明する図である。
【図6】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0039】
10…ヒケ抑制装置、11…第1のピン、12…小径部、13…大径部、15…凹曲面、16…第2のピン、17…ボール穴、20…クラッチボール、21…筒体、24…移動盤としての突出し盤、27…金型、32…第1の弾性部材、35…第2の弾性部材、38…キャビティ、L…移動距離、D1…小径部の外径、D2…第2のピンの外径、D3…大径部の外径、T…筒体の肉厚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端がキャビティに臨み、金型の外に配置されている移動盤に軸方向移動可能に支持され、後端が第1の弾性部材で前記キャビティへ押圧され、前端側が小径部で後端側が大径部で、この大径部と前記小径部との段部が凹曲面で繋がれている第1のピンと、
先端がキャビティに臨み、前記移動盤に軸方向移動可能に支持され、後端が第2の弾性部材で押圧され、前記第1のピンを移動自在に収納する中空の第2のピンと、
この第2のピンの外径と前記第1のピンの小径部の外径との差の半分の値に球径が設定され、前記中空の第2のピンに貫通形成されているボール穴に第2のピンの軸直角方向へ移動可能に収納されているクラッチボールと、
前記第2のピンを軸方向移動可能に収納するために前記移動盤に固定された筒体であって、この筒体の内周面に臨んでいたクラッチボールは、前記第2のピンが一定距離後退したときに、筒体の末端から外れるように長さが設定されている筒体と、
からなる樹脂成形におけるヒケ抑制装置。
【請求項2】
前記第2のピンは、製品を金型から突出す役割を果たす突出しピンであり、前記移動盤は、突出しピンを移動させる突出し盤であることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形におけるヒケ抑制装置。
【請求項3】
前記第2のピンは、後端が前記第1の弾性部材より弾性係数が小さな第2の弾性部材で押圧されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の樹脂成形におけるヒケ抑制装置。
【請求項4】
前記筒体は、前記第1のピンの大径部の外径と小径部の外径との差の半分の値に肉厚が設定されていることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形におけるヒケ抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−90602(P2009−90602A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265714(P2007−265714)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】