説明

樹脂成形体及びその製造方法

【課題】意匠性の高い細かい模様を簡単に形成することができる樹脂成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】成形型20の成形面24側に表層15を形成した後、スプレーを用いて樹脂材料を塗布することにより、当該樹脂材料をランダムな方向に細かく飛散させ、糸引き状態となる模様層14を形成した。その後、クリア層13、マイカが散在する中間層12を塗布して硬化形成した後、中間層12にベース層11を積層した。模様層14を形成するための樹脂材料は、分子量が3万〜50万のポリマー成分を含み、ポリマー成分の配合比は、模様層14を形成する樹脂材料全体に対して15重量%〜50重量%に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体及びその製造方法に係り、更に詳しくは、大理石調の外観を表出することができる樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗面カウンター等において、いわゆる人造大理石と称する大理石調の模様を表した樹脂成形体が広く利用されている。このような樹脂成形体としては、特許文献1に開示されるタイプのものが知られており、同文献では、表面層と基材層との間に、線状の流れ模様をなす中間層が形成されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−207147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記中間層にあっては、塗料をスプレーガンから線状に塗布して形成しているので、当該線が太い模様となったり、単調な模様となる傾向が強くなる。ここで、塗料の塗布時に、継続的に素早くスプレーガンを揺動すれば、ある程度模様に変化を付与できるものの、塗布作業が煩雑で多大な労力を強いられる他、模様が単調となることを十分に回避し得ない、という不都合を招来する。
【0005】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、人造大理石等において、意匠性の高い細かい模様を簡単に形成することができる樹脂成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、ベース層と、このベース層に積層された透明なクリア層と、樹脂材料をスプレー塗布することで前記クリア層に設けられた模様層とを備え、
前記模様層は、前記樹脂材料がスプレー塗布時にランダムな方向に飛散することで糸引き状態に形成される、という構成を採っている。
【0007】
本発明において、前記樹脂材料は、分子量が3〜50万のポリマー成分を含む、という構成を採ることが好ましい。
【0008】
また、前記ポリマー成分の配合比は、模様層を形成する樹脂材料全体に対し、15〜50重量%に設定するとよい。
【0009】
更に、前記ベース層とクリア層との間には、粒状又は片状の多数のマイカが散在する透明な中間層が設けられる、という構成を採用することができる。
【0010】
更に、本発明は、成形型の成型面側に、スプレーを用いて樹脂材料を塗布することにより、当該樹脂材料をランダムな方向に飛散させた糸引き状態の模様層を形成し、
その後、模様層に所定の樹脂材料を用いてクリア層、ベース層の順に積層する、という方法が採用される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、恰も綿菓子のようにランダムな非常に細かい糸引き状の模様層を形成することができ、これにより、従来に比べて斬新で高級感のある意匠性を付与することが可能となる。また、樹脂材料がスプレーから塗布されると同時にランダムに飛散するので、スプレーの揺動操作を省略又は最小限に抑制でき、従来よりも模様層を容易且つ迅速に形成することが可能となる。しかも、樹脂材料が細かい糸引き状に塗布されるので、模様層の厚みを薄くでき、ひいては、樹脂成形体全体の薄型化を図ることができる。
【0012】
また、マイカが散在する透明な中間層を設けた場合、奥行き感や深み感をより向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「透明」とは、特に明示しない限り、有色透明、無色透明、半透明を含む概念として用いる。
【0014】
図1には、実施形態に係る樹脂成形体の層構造を表す断面図が示されている。この図において、樹脂成形体10は、公知のポリエステル系の樹脂材料からなるベース層11と、このベース層11に中間層12を介して積層された透明なクリア層13と、このクリア層13に設けられた模様層14と、クリア層13の図1中上方に積層された表層15とを備えて構成されている。ここで、樹脂成形体10は、特に限定されるものではないが、いわゆる人造大理石とされ、洗面カウンターや洗面ボウル、浴槽、浴室用カウンター、キッチンカウンター等に用いられることを例示することができる。
【0015】
前記中間層12は、ポリエステル系等の透明な樹脂材料を用いて形成されるとともに、その厚み内に粒状又は片状の多数のマイカ12Aが散在している。マイカ12Aは、クリア層13及び表層15を通じて樹脂成形体10の表面側(図1中上面側)から視認できるようになっている。なお、樹脂成形体10において、中間層12が省略される構成としてもよいが、意匠性を考慮した場合には設ける方が望ましい。
【0016】
前記クリア層13及び表層15は、ポリエステル系の透明なゲルコート樹脂等を用いて形成されている。表層15は省略してもよいが、表面の光沢性、平滑性、耐汚染性を向上させるべく設ける方が好ましい。
【0017】
前記模様層14は、クリア層13及び表層15間に位置するとともに、樹脂成形体10を表面側から見たときに、綿菓子のようにランダムな非常に細かい糸引き状態に形成されている。模様層14は、高分子ポリマーを主成分とする樹脂をスプレー塗布することによって、スプレーした樹脂が霧状とはならず綿菓子のようにランダムな方向に飛散して形成される。具体的には、分子量が3万〜50万のポリマー成分を含むアクリル樹脂等の樹脂材料をスプレー塗布することにより形成され、このポリマー成分の配合比は、模様層14を形成する樹脂材料全体に対し、15重量%〜50重量%に設定されている。前記分子量が3万未満では、塗料化してスプレーした際に良好な糸引き状態でスプレーされなくなる。一方、前記分子量が50万を越えると、非常に高分子でポリマーが溶解し難くなって塗料化することが困難となり、また、塗料化できるレベルに希釈すると、ポリマー(固形)分が非常に少なくなって要求物性を満たさなくなる。なお、前記分子量は、5万〜25万とすることが一層好ましい。前記配合比が15重量%未満では、塗料化してスプレーした際に良好な糸引き状態でスプレーされなくなる。一方、前記配合比が50重量%を越えると、塗料の粘度が高くなり過ぎて、スプレーの作業性が著しく低下する。模様層14の厚みは、0.03mm〜0.5mmに設定することが好ましい。
【0018】
前記樹脂成形体10の成形は以下に述べるように行われる。
すなわち、図2に示されるように、先ず、一対の型体20,21からなる成形型22の成形面24側に離型剤を塗布した後、当該離型剤を成形面24から拭き取る離型処理を行う。次いで、一方の型体21の成形面24側にスプレーを用いて前述した樹脂材料を塗布し、表層15、模様層14、クリア層13及び中間層12を順次積層する。その後、各層12〜15を硬化した後、各型体20,21を合わせてクランプし、成形型22内の隙間に樹脂材料を流し込んでベース層11を積層する。このベース層11の硬化後、脱型を行うことによって樹脂成形体10が得られる。
【0019】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施形態に対し、形状、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0020】
本実施例の樹脂成形体10の成形は、先ず、前述した離型処理を行った後、型体21の成形面24側に、表層15を形成すべくポリエステル系の透明なゲルコート樹脂をスプレーにより塗布した。
続いて、模様層14を形成すべく前記表層15の上からアクリル樹脂をスプレーにより塗布した。このアクリル樹脂は、分子量10万のポリマー成分と、モノマー成分(MMA)を配合しており、その配合比は、アクリル樹脂全体に対し、ポリマー成分が30重量%、モノマー成分が70重量%とした。アクリル樹脂は、スプレーから塗布されると同時にランダムに細かく飛散し、恰も綿菓子のような糸引き状態となって表層15に積層した。模様層14の厚みは、最大で0.05mmとした。
次いで、クリア層13を形成すべく模様層14及び表層15の上から半透明なポリエステル系のゲルコート樹脂をスプレーにより塗布した。
その後、中間層12を形成すべく、クリア層13の上から半透明なポリエステル系のゲルコート樹脂を連続して厚み0.2mmに塗布した。このゲルコート樹脂には、最大粒径3mmの透明なマイカ12Aを5重量部配合した。
このように表層15、模様層14、クリア層13及び中間層12が積層された型体21を硬化炉に投入し、炉内温度60℃、硬化時間60分の条件下で各層12〜15を硬化した。
硬化後、各型体20,21を合わせてクランプし、ベース層11を中間層12側に積層すべく成形型22内の隙間にコンパウンドを流し込んだ。このコンパウンドは、ポリエステル樹脂100重量部、水酸化アルミニウム200重量部、着色トナー黒5重量部、市販のナフテン酸コバルト(6%品)0.3重量部、メチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO)1重量部を配合したものを用いた。
前記ベース層11は、炉内温度25℃、硬化時間60分の条件下で硬化し、その後、脱型して樹脂成形体10を得た。
得られた樹脂成形体10の表面側には、境界のはっきりした糸引き状の模様がランダムな方向に非常に細かく形成され、従来にない意匠性の高い天然石の雰囲気が表出された。また、模様層14に前述のようなアクリル樹脂を用いたので、模様層14を形成するためのスプレー塗布時に、当該スプレーを細かく揺動させることなく、スプレーから綿状にランダムに塗布可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る樹脂成形体の概略縦断面図。
【図2】前記樹脂成形体の製造手順を説明するための概略断面図。
【符号の説明】
【0022】
10・・・樹脂成形体、11・・・ベース層、12・・・中間層、12A・・・マイカ、13・・・クリア層、14・・・模様層、15・・・表層、22・・・成形型、24・・・成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層と、このベース層に積層された透明なクリア層と、樹脂材料をスプレー塗布することで前記クリア層に設けられた模様層とを備え、
前記模様層は、前記樹脂材料がスプレー塗布時にランダムな方向に飛散することで糸引き状態に形成されていることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
前記樹脂材料は、分子量が3〜50万のポリマー成分を含んでいることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記ポリマー成分の配合比は、模様層を形成する樹脂材料全体に対し、15〜50重量%に設定されていることを特徴とする請求項2記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記ベース層とクリア層との間には、粒状又は片状の多数のマイカが散在する透明な中間層が設けられていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の樹脂成形体。
【請求項5】
成形型の成型面側に、スプレーを用いて樹脂材料を塗布することにより、当該樹脂材料をランダムな方向に飛散させた糸引き状態の模様層を形成し、
その後、模様層に所定の樹脂材料を用いてクリア層、ベース層の順に積層することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−313696(P2007−313696A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143616(P2006−143616)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】