説明

樹脂成形体及びメッキ樹脂製品

【課題】ABSからなる樹脂成形体より、メッキの密着力が高く高剛性である樹脂成形体及びABSからなるメッキ樹脂製品より、メッキの密着力が高く高剛性であるメッキ樹脂製品を提供する。
【解決手段】本発明のメッキ樹脂製品(10)は、タルクが配合されているABS樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、タルクは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した平均粒径が3.0μm未満のものであり、配合率が3〜30質量%であり、樹脂成形体の一定面積の表面に現れているタルクが表面中に占めているタルク面積(TS)を、表面に現れている表面タルク数(TN)で割った値となる平均面積(TA=TS÷TN)が、1.0〜6.0μmであることを特徴とする樹脂成形体の表面にメッキを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABS樹脂組成物からなる樹脂成形体及びメッキ樹脂製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車の外装用光輝製品であるラジエータグリル、バックパネル、モール類には、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂)、PC/ABS(ポリカーボネートとABSとのポリマーアロイ)又はPC/PBT(PCとポリブチレンテレフタレートとのポリマーアロイ)にメッキを施したものが用いられることがある。
しかし、これらのもののなかには、製品形状等から生じる肉厚不足により剛性が不足しているときにメッキの密着不足が重なると、耐久性を確保することができず(冷熱サイクル試験をクリアできない)、製品の肉厚を厚くする等の対策に苦慮する場合がある。
一方、自動車全般に対しては、環境対応、省エネルギー対応、燃費の向上等の要求が以前にも増してあり、自動車を構成するこれらの製品についても燃費の向上等の要求に応えるため、軽量化が重要な課題となってきているが、従来のABS等を材料として用いたのではその対応が難しくなってきている。
【0003】
また、ABSの剛性を向上させて軽量化を図るため、ABSにGF(ガラス繊維)を混合する方法が考えられるが、GFを混合したものは、外観不具合が生じ、且つ、耐衝撃性が低下するためABSの良さが失われ実用的ではない。
【0004】
なお、特許文献1には、ポリプロピレンにタルクを30質量%添加したプラスチック成形体の表面を鏡面処理(メッキ処理)したプラスチック製反射体が記載されている。
また、特許文献2には、ABS100質量部にタルクを30質量部添加した樹脂組成物が記載されている。
しかし、特許文献1、2に記載されたものでは、ラジエータグリル等の自動車の外装用光輝製品に要求される品質特性(耐久性)を満たすことはできないと考えられる。
【特許文献1】特開2000−56108号公報
【特許文献2】特開平10−265644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(以下「ABS」という)に特定のタルクを配合したものは、メッキの密着力が向上すると共に、剛性が向上することを見出したことから、本発明は、ABSからなる樹脂成形体より、メッキの密着力が高く高剛性である樹脂成形体、及び、ABSからなるメッキ樹脂製品より、メッキの密着力が高く高剛性であるメッキ樹脂製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
A.樹脂成形体
上記目的を達成するために、本発明の樹脂成形体は、
タルクが配合されているABS樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、
前記タルクは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した平均粒径が6.0μm以下のものであり、
前記樹脂成形体の一定面積の表面に現れている前記タルクが該表面中に占めているタルク面積(TS)を、該表面に現れている表面タルク数(TN)で割った値となる平均面積(TA=TS÷TN)が、1.0〜6.0μmであることを特徴としている。
【0007】
B.メッキ樹脂製品
上記目的を達成するために、本発明のメッキ樹脂製品は、
上記樹脂成形体の表面にメッキを有するものである。
【0008】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0009】
1.ABS樹脂組成物
ABS樹脂組成物としては、特に限定はされないが、ABS以外の他の樹脂を含むものであってもよいし、含まないものであってもよい。また、老化防止剤、可塑剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0010】
2.ABS
ABSとしては、特に限定はされないが、メッキの密着力を確保するため、ブタジエン量(ABS中のブタジエン成分の含有量)が15質量%以上であることが好ましく。より好ましくは、20質量%以上であり、さらに好ましくは、25質量%以上である。
【0011】
3.タルク
タルクは、その一部の粒子が、樹脂成形体の表面に現れることにより、メッキの密着力が向上する。
3−1.タルク粒径
タルクとしては、特に限定はされないが、配合されるタルクの種類(平均粒径)によって、メッキの密着力、樹脂成形体の剛性及びメッキ樹脂製品のメッキ面の状態(メッキが施された面の良否)が変化する。レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した平均粒径が、4μm以下であることがメッキの密着力も高くなり好ましい、より好ましくは、3μm以下である。メッキ面の状態も良好になることから、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0012】
ここで、タルクに用いられている平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定されたタルクの粒径の平均粒径D50の値である。
【0013】
3−2.タルクの配合率
樹脂成形体中におけるタルクの配合率としては、特に限定はされないが、タルクの種類(平均粒径)によっても異なり次に示す値が好ましい。
・タルクの平均粒径が3.0μm未満の場合
タルクの平均粒径が3.0μm未満の場合には、3〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは、3〜25質量%であり、さらに好ましくは、5〜20質量%である。
・タルクの平均粒径が3.0〜6.0μmの場合
タルクの平均粒径が3.0〜6.0μmの場合には、3〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは、3〜15質量%である。
【0014】
4.タルク面積(TS)
タルク面積(TS)は、樹脂成形体の一定面積の表面に現れているタルクがこの一定面積の表面中に占めている面積である。
【0015】
5.平均面積(TA)
平均面積(TA)は、樹脂成形体の一定面積の表面に現れているタルクがこの一定面積の表面中に占めている面積(タルク面積)を、この一定面積の表面に現れているタルクの数(表面タルク数)で割った値である。
平均面積(TA)が6.0μmを超えるとメッキ密着力が低下する。平均面積は、1.0〜5.0μmであることが好ましく、より好ましくは、2.0〜5.0μmである。
ここで、平均面積を求めるための樹脂成形体の一定面積とは、樹脂成形体の表面の特定のところの特定の大きさではなく、任意のところの任意の大きさである。
具体的には、樹脂成形体の表面の任意のところを顕微鏡等で拡大し、その拡大されたところの面積である。
【0016】
6.表面タルク数(TN)
表面タルク数(TN)は、樹脂成形体の一定面積の表面に現れているタルクの数であり、樹脂成形体の表面の樹脂の海(ABSの海)中のタルクの島(粒子又は粒子の凝集体)の数を計測した値である。従って、タルクの島は、タルクの一つの粒子だけからなるものと複数の粒子からなるもの(凝集体)とがあり、それらの島はどちらも表面タルク数としては一つとして数えられる。
表面タルク数(TN)としては、特に限定はされないが、平均面積(TA)とが次の関係であることが好ましい。
TA≦−0.0036TN+5.9
この関係式よりTAが大きくなる、すなわち、TA>−0.0036TN+5.9となると、メッキの密着力が低下する。
【0017】
7.成形方法
樹脂成形体の成形方法としては、特に限定はされないが、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形等が例示できる。
【0018】
8.メッキ
メッキの材質としては、特に限定はされないが、金、銀、銅、クロム、ニッケル等が例示できる。
その膜厚としては、特に限定はされないが、20〜120μmであることが好ましく、より好ましくは、25〜60μmであり、さらに好ましくは、30〜45μmである。
また、メッキの方法としては、特に限定はされないが、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ、電解メッキ等の湿式メッキ等が例示できる。
【0019】
9.メッキ樹脂製品の用途
メッキ樹脂製品の用途としては、特に限定はされないが、ラジエータグリル、バックパネル、モール類等の自動車の外装用光輝製品等が例示できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ABSからなる樹脂成形体より、メッキの密着力が高く高剛性である樹脂成形体、及び、ABSからなるメッキ樹脂製品より、メッキの密着力が高く高剛性であるメッキ樹脂製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
タルクが配合されているABS樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、タルクは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した平均粒径が3.0μm未満のものであり、配合率が3〜30質量%であり、樹脂成形体の一定面積の表面に現れているタルクが表面中に占めているタルク面積(TS)を、表面に現れている表面タルク数(TN)で割った値となる平均面積(TA=TS÷TN)が、1.0〜6.0μmであることを特徴とする樹脂成形体。
【実施例】
【0022】
本発明のメッキ樹脂製品は、図1に示すように、タルクが配合されているABS樹脂組成物からなる本発明の樹脂成形体の表面にメッキを有するラジエータグリル10等である。
【0023】
そこで、タルクの種類と配合率とを変更した樹脂成形体の15種類の実施例と2種類の比較例について、メッキ密着力、表面状態(表面ブツ、表面タルク数、平均面積)及び物性(曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度)の測定を行い、配合と測定結果を表1に示す。
また、各試料(比較例1は除く)の平均面積(TA)とメッキ密着力との関係のグラフを図2に、表面タルク数(TN)と平均面積(TA)との関係のグラフを図3にそれぞれ示す。
さらに、タルク配合率と曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度又はメッキ密着力との関係のグラフを図4〜6に示す。
【0024】
本発明の実施例又は比較例の原料成分には、ABSはスチレン量(ABS中のスチレン成分の含有量)が56質量%、ブタジエン量が15質量%のものを用い、タルクは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した平均粒径が0.5μm、1.0μm、2.5μm、5.0μmの4種類を用いた。
【0025】
【表1】

【0026】
各試料は二軸スクリュ押出機を用いて設定温度240℃で混練し、予めペレット状にしたものを、射出成形機(FANUC 100トン)を用いて、設定温度230℃、金型温度20〜35℃、充填時間0.8秒の成形条件で、一辺が150mmの正方形で厚さが2.0mmの試験片を作成した。また、曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強度用の試験片も同様に作成した。
また、上記試験片の一方の表面に、クロム酸でエッチングを行い、触媒Niで導通性を付与した後、銅(厚さ:20μm)、半光沢ニッケル(厚さ:7μm)、光沢ニッケル(厚さ:7μm)、ポーラスニッケル(厚さ:2μm)及びクロム(厚さ:0.2μm)の順にメッキを行った。
【0027】
本発明の実施例及び比較例のそれぞれの測定は以下のようにして行った。
【0028】
(1)メッキ密着力
1cm幅の帯状メッキになるよう、鋭利な刃物を用い、素地に達する二本の切り込みを平行にメッキ面に入れた。この二本の切り込み間の1cm幅の帯状メッキの一端を挟持して、引き剥がし速度30mm/分で、メッキが密着している面の垂直方向に引っ張ったときの張力を測定した。そして、このときの張力をメッキ密着力とした。
【0029】
(2)表面ブツ
メッキ表面のブツ又は凹みの有無(数)を目視で観察した。
○:なし(0個)、△:あり(1〜3個)、×:あり(4個以上)である。
【0030】
(3)表面タルク数
メッキ前の各試験片の表面の一部(32μm×36μm)を走査型電子顕微鏡を用いて3000倍に拡大し(図7)、この拡大した画像に画像解析処理(二値化処理)(図8)を行って、この画像中での試験片の表面に現れているタルクの島(図8の灰色部)の数を計測した。
【0031】
(4)平均面積
上記表面タルク数の計測に用いたものと同じ画像を用い、この画像中で試験片の表面に現れているタルク(図8の灰色部)が占めている面積を求め、その値を上記のようにして求めた表面タルク数で割って求めた。
【0032】
(5)曲げ弾性率
ISO178に準拠して、測定を行った。
【0033】
(6)アイゾット衝撃強度
ISO180に準拠して、深さ2mmのノッチを設けた試験片を使用し、温度23℃の条件で測定を行った。
【0034】
以上の結果より、平均面積(TA)が6.0μm以下である実施例(15種類全て、図2参照)は、メッキ密着力が11.0N/cm以上あり、タルクが配合されていない比較例1より、メッキの密着力が向上した。また、平均面積が5.0μm以下である実施例(11種類、図2参照)は、メッキ密着力が11.5N/cm以上とかなり向上した。
図3に示すように、表面タルク数(TN)と平均面積(TA)との関係がTA≦−0.0036TN+5.9である実施例(15種類全て)は、メッキの密着力が向上した。
平均面積(TA)が4.5μm以下である実施例(10種類)は、メッキ面の状態(表面ブツ)も良好であった。
図4に示すように、タルクを配合することにより、曲げ弾性率(剛性)が向上した。但し、図5に示すように、タルクの配合率が増えるにつれアイゾット衝撃強度が低下し、脆くなる傾向が表れた。
図6に示すように、メッキ密着力は、タルクの配合率より、タルクの種類(平均粒径)への依存性が強い傾向が表れた。
【0035】
本実施例によれば次の効果が得られる。
・タルクが配合されていないABSからなる樹脂成形体よりメッキの密着力が高くなる。
・タルクが配合されていないABSからなる樹脂成形体より高剛性となるので、薄肉軽量化が図れる(肉厚を約2/3にできる)。
なお、脆くなり衝撃性が低下する場合には、必要な部位にリブ等の補強を行う。
【0036】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例のラジエータグリルの斜視図である。
【図2】平均面積(TA)とメッキ密着力との関係のグラフである。
【図3】表面タルク数(TN)と平均面積(TA)との関係のグラフである。
【図4】タルク配合率と曲げ弾性率との関係のグラフである。
【図5】タルク配合率とアイゾット衝撃強度との関係のグラフである。
【図6】タルク配合率とメッキ密着力との関係のグラフである。
【図7】実施例の表面の一部の顕微鏡写真である。
【図8】同部を画像解析処理した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0038】
10 ラジエータグリル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タルクが配合されているABS樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、
前記タルクは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した平均粒径が6.0μm以下のものであり、
前記樹脂成形体の一定面積の表面に現れている前記タルクが該表面中に占めているタルク面積(TS)を、該表面に現れている表面タルク数(TN)で割った値となる平均面積(TA=TS÷TN)が、1.0〜6.0μmであることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
前記タルクは、前記平均粒径が3.0μm未満のものであり、前記樹脂成形体中における配合率が3〜30質量%である請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記タルクは、前記平均粒径が3.0〜6.0μmのものであり、前記樹脂成形体中における配合率が3〜25質量%である請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記表面タルク数(TN)と前記平均面積(TA)との関係が
TA≦−0.0036TN+5.9
である請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂成形体の表面にメッキを有するメッキ樹脂製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−249405(P2009−249405A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95487(P2008−95487)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】