樹脂成形品の内部組織観察方法
【課題】変化しやすい内部組織を有する結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を変化させずに、組織の形態を保持させたまま観察するための前処理方法を提供する。
【解決手段】無機充填剤を含む樹脂成形品の内部組織を観察するために、内部組織観察面を研磨する研磨工程を備え、この研磨工程によって、研磨面の表面粗さを1μmから20μmになるように研磨する。特に研磨工程は、上記無機充填剤よりも硬度が低い砥粒を含む研磨剤と、表面に立毛を備えクッション材を有するバフと、を用いてバフ研磨するバフ研磨工程であることが好ましい。
【解決手段】無機充填剤を含む樹脂成形品の内部組織を観察するために、内部組織観察面を研磨する研磨工程を備え、この研磨工程によって、研磨面の表面粗さを1μmから20μmになるように研磨する。特に研磨工程は、上記無機充填剤よりも硬度が低い砥粒を含む研磨剤と、表面に立毛を備えクッション材を有するバフと、を用いてバフ研磨するバフ研磨工程であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の内部組織を観察するための内部組織観察面の前処理方法並びに、該前処理方法を施した観察面を観察する内部組織観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性高分子材料の樹脂成形品の内部組織観察は、成形の不具合原因(樹脂流動の乱れ、ボイド等)調査、使用環境下での球晶組織変化の調査、あるいは2次加工品(接着や溶着)の評価等に広く用いられている。
【0003】
従来、上記のような内部組織の観察は、ミクロトーム法(刃による切断)により切り出した断面の薄片を偏光顕微鏡で観察している。この方法を用いれば、樹脂成形品の内部組織の形態を観察することは可能であるが、球晶組織等の形態が変化しやすい内部組織を観察しようとすると、組織が潰れる等して変化してしまい、樹脂成形品によっては内部組織の観察は困難である。即ち、切断による組織の引きずりや切削刃のキズ跡が薄片に残る場合があり、必ずしも組織の形態が保存されているとは言えないからである。
【0004】
また、上記のような形態の変化しやすい球晶組織を観察する方法として、樹脂成形品の破断面に酸やアルカリ等を用いて、破断面の非晶質部分を選択的に取り除き、結晶性の部分を残すことを目的としたエッチング処理があり、切削した断面の結晶構造観察に応用されている(特許文献1から3)。この方法であれば、変化しやすい組織の形態を保持しつつ、破断面直下の球晶組織の形態を出現させ、観察することができる。
【0005】
ところで、樹脂成形品が無機充填材を含む場合、材料の脆さや組織の引きずりに加えて、無機充填材に対する刃のダメージの影響がある。このため、無機充填剤を含む樹脂成形品では、無機充填剤を含まない樹脂成形品と比較して、内部組織を保持した状態で試料を作製することは極めて難しい。また、このダメージを抑えるために硬度の高いダイヤモンド刃を使用する手法はあるが、切削面積が1mmから2mmと狭く、また、樹脂成形品の内部組織の形態の保持も難しい。
【0006】
上記の特許文献1から3に記載された方法では、無機充填剤を含む結晶性樹脂成形品の破断面の特徴的な模様を保持させながら、破断面直下の球晶組織の形態を出現させることができるが、破断面以外の球晶組織等の内部組織の形態を観察することはできない。
【0007】
このため、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を、破断した際の破断面に限らず、様々な場面で正確に観察できるような技術が求められている。
【特許文献1】特開2004−189778号公報
【特許文献2】特開2004−198414号公報
【特許文献3】特開2005−091177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を変化させずに、組織の形態を保持させたまま観察するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織を観察する場合であっても、内部組織観察面を特定の表面粗さになるように研磨することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 無機充填剤を含む樹脂成形品の内部組織を観察するための内部組織観察面の前処理方法であって、前記内部組織観察面を研磨する研磨工程を備え、前記研磨工程は、研磨面の表面粗さRzが15μm以下になるように研磨する工程を含む内部組織観察面の前処理方法。
【0011】
(2) 前記表面粗さRzが1μmから10μmである(1)に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0012】
(1)の発明によれば、内部組織観察面を表面粗さRzが15μm以下になるように研磨することで、内部組織の形態を変化させないような精密研磨を実現することができる。その結果、この研磨により出現させた研磨面を、その後アルカリエッチング等の研磨工程後処理を行うことによって、内部組織を顕在化させることで、内部組織の形態を保持した状態で観察することができる。より好ましくは、上記表面粗さRzが1μmから10μmである。
【0013】
樹脂成形品の球晶組織等ではなく、無機充填物の分散や配向状態の観察を目的に研磨処理を用いる場合がある。しかしながら、通常の研磨では、こすりながら磨くことで、脆い内部組織の形態を潰す等して変化させてしまうため、球晶等の内部組織を正確に観察することはできない。
【0014】
また、鉱物や金属分野では精密研磨を施した断面や、薄片を用いた結晶組織の観察が行われているが、上記の通り、研磨の際にこすり磨かれることで球晶組織等の形態は変化してしまう。したがって、金属分野で一般的に用いられている精密研磨を用いても、上記のような変化しやすい樹脂成形品の内部組織等を観察することはできない。しかしながら、本発明の前処理方法における研磨工程では上記の通り、樹脂内部組織の形態を変化させること無く研磨することができるため、樹脂成形品の内部組織等を観察することができる。
【0015】
本発明における「表面粗さ」とは、実施例に記載された方法で測定した表面粗さである。
【0016】
(3) 前記研磨工程は、前記無機充填剤よりも硬度が低い砥粒を含む研磨剤と、バフと、を用いてバフ研磨するバフ研磨工程である(1)又は(2)に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0017】
(3)の発明によれば、無機充填剤よりも硬度が低い砥粒を含む研磨剤と、表面に立毛を備えるバフと、を用いてバフ研磨することで、上記範囲の表面粗さになるような研磨を容易に行うことができる。「硬度」とはモース硬度のことをいう。
【0018】
(4) 前記研磨工程は、粒径が0.02μmから50μmの砥粒を含む研磨剤を用いて研磨する工程である(1)から(3)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0019】
(4)の発明によれば、上記範囲の粒径の砥粒を用いることで、上記のような表面粗さの精密研磨を容易に行うことができる。特に上記範囲の砥粒を用いることで、研磨後の研磨面に引きずられた痕跡をほとんど残さず極めて精密な研磨を行うことができる。
【0020】
特に本発明の前処理方法を用いれば、直径1μmから5μmの極めて小さな球晶組織であっても観察することができる。なお、球晶組織の直径は、顕微鏡のスケールを用いて測定した値を採用する。
【0021】
研磨剤に含まれる砥粒としては、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化鉄、けい石粉末、非晶質シリカ、けい藻土、炭化珪素、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、ホワイトカーボン、ダイヤモンド等の従来公知の微粒研磨材を挙げることができる。特に、良好な内部組織観察面に仕上げるためには、酸化アルミニウムが好ましい。
【0022】
(5) 前記樹脂成形品が、球晶組織を有する結晶性高分子を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品である(1)から(4)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0023】
(5)の発明によれば、本発明の前処理方法を、球晶組織を有する結晶性高分子を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品に適用することで、本発明の特徴がより顕著に現れる。上記の通り、本発明の前処理方法であれば、変化しやすい内部組織であってもその組織の形態を保持したまま観察のための観察面を出現させることができるからである。なお、結晶性高分子とは、上記で説明した結晶性高分子と同様のものである。
【0024】
(6) 前記研磨工程が、前記研磨面と、前記研磨面に対向する面と、を両面研磨する両面研磨工程であり、前記両面研磨工程後の前記樹脂成形品の一方の研磨面から他方の研磨面までの厚みが、5μmから50μmである(1)から(5)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0025】
(6)の発明によれば、両面研磨工程後の樹脂成形品の一方の研磨面から他方の研磨面までの厚みが、5μmから50μmであるため、偏光顕微鏡を用いて観察すれば、エッチング処理等を施すことなく、内部組織の形態を観察することができる。なお観察により適した厚みは20μmから30μmである。上記「厚み」は、実施例に記載された方法で測定した厚みをいう。
【0026】
(7) 前記内部組織観察面の樹脂組織の形態を損なうことなく前記内部組織観察面をエッチングするエッチング工程を、前記研磨工程後にさらに有する(1)から(5)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0027】
(7)の発明によれば、(1)から(5)の前処理方法によって出現させた樹脂成形品の変化しやすい内部組織観察面の形態をエッチングによって顕在化させることができる。特に本発明の前処理方法は、変化しやすい樹脂の内部組織を保持したまま観察面を出現させることができるため、エッチングによって樹脂成形品内部の組織の形態を正確に観察することができる。
【0028】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載の前処理を施した観察面を観察する内部組織観察方法。
【0029】
(9) 前記観察は、レーザー顕微鏡、金属顕微鏡、偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、又は蛍光顕微鏡を用いて行う観察である(8)に記載の内部組織観察方法。
【0030】
(8)、(9)の発明によれば、変化しやすい樹脂の内部組織の形態を保持した状態で観察することができる。特に、レーザー顕微鏡は表面の傷、表面の粗さの観察に適し、偏光顕微鏡は球晶組織の観察に適し、走査型電子顕微鏡はエッチング工程後の観察面の球晶組織観察に適し、金属顕微鏡は溶着部の厚みの観察に適する。
【0031】
(10) 前記樹脂成形品は、樹脂間に溶着部を有し、前記内部組織観察面は、前記溶着部を含み、(1)から(6)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法を用いた前記溶着部の厚さ測定方法。
【0032】
(10)の発明によれば、(1)から(6)に記載の前処理方法を用いることによって、溶着部の厚みを変化させずに研磨して、溶着部を含む観察面を出現させることができるため、溶着部の厚みを正確に測定することができる。
【0033】
溶着される樹脂は異なる種類の樹脂であってもよいし、同じ種類の樹脂であってもよい。同じ種類の樹脂を溶着させた樹脂間では、溶着部が潰されると樹脂間の境界が判断しづらくなる等の問題があり観察が特に難しい。本発明の溶着部の厚さ測定方法であれば、溶着部を潰さずに、溶着部を含む内部組織観察面を出現させることができるため、同じ樹脂間の溶着部の厚さを測定する場合であっても、容易且つ正確に溶着部の厚みを測定することができる。
【0034】
また、溶着部の厚みを観察・測定することで溶着強度を予測することができる。
【発明の効果】
【0035】
研磨面の表面粗さRzが15μm以下、好ましくは1μmから10μmになるように樹脂部分を精密に研磨することで、変化しやすい樹脂の内部組織の形態を変化させずに研磨することができる。その結果、その後に研磨面に施されるエッチング処理を行う、研磨した面と対抗する面をさらに研磨して薄片を作製する等して、観察面の内部組織を顕在化させることで、樹脂成形品の内部組織の形態を正確に観察することができる。
【0036】
また、上記精密研磨であれば、潰れる等して変化しやすい樹脂間の溶着部を変化させない。その結果、樹脂間の溶着部を正確に観察でき、さらに溶着部の厚みを正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0038】
本発明の前処理方法は、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を変化させずに、その形態を観察するための前処理方法である。本発明は、上記内部組織観察方法に、前処理方法として研磨工程を含ませ、さらに、この研磨工程に表面粗さRzが15μm以下、さらに好ましくは1μmから10μmの範囲になるように精密研磨する工程を含ませることを特徴とする。
【0039】
上記のような内部組織の観察方法は、例えば、サンプル作製工程(S10)、面取り工程(S20)、研磨工程(S30)、研磨後処理工程(S40)、観察工程(S50)を有する。
【0040】
<サンプル作製工程(S10)>
[材料]
本発明において、前処理方法の対象となる樹脂成形品とは、無機充填剤を含む樹脂成形品である。上記のような精密な研磨を行うことで、変化しやすい内部組織を持つ樹脂からなる樹脂成形品の内部組織であっても、正確に観察できることが本発明の特徴である。
【0041】
変化しやすい内部組織を持つ樹脂としては、例えば、ポリアセタール;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸−脂肪族ジオールポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド等の結晶性高分子が挙げられる。
【0042】
「変化しやすい内部組織」とは、上記のような結晶性高分子の球晶組織のように、切断のような、せん断力が加わると球晶組織が塑性変形してしまう弱い内部組織のことをいう。
【0043】
樹脂成形品には無機充填剤が含まれる。無機充填剤としては、繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質があげられる。特に代表的な繊維状充填剤は、ガラス繊維、又はカーボン繊維である。粉粒状充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等があげられる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等があげられる。また、これらの無機充填剤は1種又は2種以上併用することができる。
【0044】
[材料の取り付け]
所望の内部組織観察面を研磨するために、上記樹脂成形品からなる被研磨物をホルダーに取り付ける。利用可能なホルダーとしては、特に限定されず従来公知のガラス製、ステンレス製、アルミ製等のものを使用することができる。被研磨物のホルダーへの取り付けは、従来公知の方法で行うことができる。例えば、エポキシ樹脂等の接着剤を用いて取り付けることができる。
【0045】
<面取り工程(S20)>
面取りは、研磨面の角、縁等を削り丸みを持たせることができ、角や縁が研磨の際に欠けることを防ぐことができればよい。面取りは従来公知の方法で行うことができるが、本発明は上記の通り、研磨工程を備えるため、面取りも研磨によって行うことが好ましい。
【0046】
<研磨工程(S30)>
「研磨工程(S30)」とは、研磨面の表面粗さRzが15μm以下、より好ましくは1μmから10μmになるように研磨できる精密研磨工程(S33)を含むものであれば特に限定されず、従来公知の研磨方法、研磨装置を用いることができる。上記の通り、表面粗さを上記の範囲に調整すれば、軟らかい樹脂部分であっても、研磨によって内部組織の形態が変化することなく、所望の内部組織観察面を出現させることができる。なお、表面粗さの調整のしやすさ等の観点から研磨工程で行われる研磨は、バフ研磨であることが好ましい。
【0047】
研磨する面は、所望の内部組織観察面であり、例えば、破壊品であれば破壊面、溶着部を観察する場合は溶着部を含む断面、樹脂成形品の内部組織であれば切断面である。
【0048】
研磨工程(S30)は、上記の通り精密研磨工程(S33)を含むものであれば特に限定されないが、先ず粗研磨工程(S31)で粗研磨を行い、次いで中間仕上げ研磨工程(S32)による中間仕上げを行ってから、精密研磨工程(S33)を行うことが好ましい。
【0049】
上記の粗研磨工程(S31)、中間仕上げ研磨工程(S32)、精密研磨工程(S33)は、それぞれ従来公知の研磨方法、研磨装置を用いて研磨を行うことができるが、本発明の前処理方法を実施する場合には、一貫してバフ研磨により研磨することが好ましい。
【0050】
バフ研磨とは、布製又はその他の材料で作られたバフに種々の研磨剤を付けてバフを所定の回転数で回転させて、バフから樹脂成形品の内部組織観察面に所定の研磨加重をかけて、所定の時間、内部組織観察面を研磨する研磨方法である。バフとは本来もみ皮や布等の柔らかいものを指す名称であるが、近年のバフ加工と呼ばれる磨き加工ではフェルトを固めたものがよく使用される。
【0051】
[粗研磨工程(S31)]
粗研磨工程(S31)は、細かな傷等を取り除き研磨面を調整する工程である。即ち、研磨面全体の粗削りを行う。研磨対象に応じて、バフの種類、研磨剤の種類等は適宜変更して実施することができる。
【0052】
[中間仕上げ研磨工程(S32)]
中間仕上げ研磨工程(S32)とは、無機充填剤部分を精密に研磨する工程である。研磨対象である樹脂成形品は、上記のとおり軟らかい樹脂部分と硬い無機充填剤部分とを含んでいる。中間仕上げ研磨工程(S32)を備えることで、研磨工程において、硬い部分を精密に研磨する工程と、軟らかい樹脂部分を上記表面粗さになるように精密に研磨する工程と、に分けることができる。その結果、変化しやすい内部組織の形態を変化させずに、内部組織観察面を容易に出現させることができる。軟らかい樹脂部分は、特に削ずれ易く傷も付きやすく、硬い部分と柔らかい部分とを同時に精密に研磨することは難しいからである。
【0053】
中間仕上げ研磨工程(S32)で用いるバフの種類、研磨剤の種類は特に限定されないが、無機充填剤を精密に研磨するためには、無機充填剤よりも硬度の高い砥粒を含む研磨剤を用いる。無機充填剤、砥粒の硬度はモース硬度である。
【0054】
中間仕上げ研磨工程(S32)は、軟らかい樹脂部分の中に含まれる硬い無機充填剤を、より精密に研磨するために、2以上の種類の研磨を行うものであることが好ましい。
【0055】
[精密研磨工程(S33)]
本発明の前処理方法に含まれる精密研磨工程(S33)で用いるバフとしては特に限定されず従来公知のフェルト、不織布等の繊維集合体等を用いることができる。ところで、本発明は、研磨面の表面粗さを上記範囲にすることを特徴とする。このような表面粗さに調整するためには、表面に立毛を備えるバフであることが好ましい。
【0056】
「表面に立毛を備えるバフ」とは、表面に立毛を備え研磨剤が含浸できるようになっているものをいう。柔軟なクッション材を有するものがさらに好ましく、例えば、起毛布、立毛布等の表層素材にスポンジ等のクッション素材を装着したものが挙げられる。
【0057】
無機充填剤を削らずに軟らかい樹脂部分のみをマイルドに削れるので好ましい。
【0058】
精密研磨する際の研磨条件は研磨する対象によって適宜変更する。具体的には、内部組織観察面の表面粗さが上記範囲になるように、バフの種類、研磨剤の種類、研磨時間、研磨加重、バフの回転数等の研磨条件を適宜変更して実施する。
【0059】
上記の通り、精密研磨工程(S33)の研磨条件は、研磨対象により適宜変更して実施できるが、研磨する対象が、上述の結晶性高分子を含む樹脂成形品である場合には、研磨時間が15分から30分、サンプルに加わる研磨加重が1.5kgから5kg、バフの回転数が100rpmから200rpmであることが好ましい。後述する通り、バフの種類は表面に立毛を備えるバフが好ましく、研磨剤としては、無機充填剤よりも硬度が低く粒径が0.01μmから15μmの砥粒を含む研磨剤であることが好ましい。
【0060】
<研磨後処理工程(S40)>
研磨後処理工程(S40)とは、内部組織の観察や溶着部の厚み測定を行うために、研磨面にエッチング処理、又は上記研磨面に対向する面をさらに研磨する工程である。以下、エッチング工程(S41)、両側研磨工程(S42)について説明する。なお、溶着部の厚み観察を行う場合には、研磨後処理工程が不要な場合もある。
【0061】
[エッチング工程(S41)]
エッチング方法としては、変化しやすい球晶等の内部組織の形態を破壊しないソフトなエッチング方法が必要である。エッチングの際に内部組織の形態を変化させてしまうと、本発明の効果が得られないからである。
【0062】
上記のようなソフトなエッチング方法としては、例えば、適用する樹脂の種類により異なり、特定波長の紫外線による方法、加水分解による方法、酸による方法、塩基による方法、溶剤による方法、オゾンのような酸化性ガスによる方法、ヒドラジンのような還元性ガスによる方法、放電による方法、電子線照射による方法、プラズマ照射による方法、他の粒子線照射による方法、X線もしくはγ線による方法等、及びこれらの二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0063】
上記ソフトエッチングの具体的な方法は、特開2004−198414号公報に記載されている方法と同様である。
【0064】
[両側研磨工程(S42)]
両面研磨工程(S42)を、図2を用いて説明する。工程1が上記の研磨工程(S30)を指す。工程2では、上記研磨面に対向する面を研磨できるように、上記サンプル作製工程(S10)での[材料の取り付け]と同様にして、上記研磨工程(S30)後の研磨物をホルダー等に取り付ける。ただし、均一な厚さの薄片を作製することが求められるため、均一な接着が必要になり、以下の方法で接着を行うことが好ましい。
【0065】
好ましい接着方法は、接着剤として粘性の低いエポキシ材を少量(一滴)ホルダー等に付けて行う研磨物に負荷がかからない接着方法が好ましい。
【0066】
工程3では、研磨面からこの研磨面に対向する面までの厚みを薄くするために切断する工程である。研磨面からこの研磨面に対向する面までの厚みが大きい場合には、上記のような薄片サンプルを作製するために、200μm程度の厚みになるように切断する。なお、切断は内部組織が切断の際に変形してしまうことを防止するために、歪みを与えないような切断であること、また、均一な厚みになる切断であることが好ましくい。
【0067】
工程4では、切断後に現れる切断面を研磨し、切断面の表面粗さRzが15μm以下、より好ましくは1μmから10μmになるように研磨を行う。研磨方法は、研磨工程(S30)と同様の方法で研磨を行う必要がある。ただし、自動ではなく手で持ちながら行う等の変更は可能である。
【0068】
<観察工程(S50)>
観察方法は、特に限定されず内部組織の観察、溶着部厚みの測定ができれば特に限定されない。例えば以下の方法により観察することができる。
【0069】
エッチング工程(S41)後の研磨面を観察するには、走査型電子顕微鏡による観察が好ましく、より具体的には、特開2004−198414号公報に記載された方法と同様である。
【0070】
溶着部の溶着層の厚みは、研磨工程(S30)後の研磨面を金属顕微鏡で観察することにより測定することができる。なお、溶融層と未溶融層との境界には境界線が現れるため、この境界線間の距離を溶融層厚みとして従来公知の方法で測定する。例えば、顕微鏡のスケールを読み取ることで測定することができる。
【0071】
薄片試料を観察する場合には、偏光顕微鏡を用いて観察することができる。樹脂成形品の内部組織の観察、溶着部の観察ともに偏光顕微鏡を用いて観察することができる。偏光顕微鏡観察としては、オルソスコープ観察でもコノスコープ観察でもよいが、好ましくはオルソスコープ観察である。
【実施例】
【0072】
本発明を実施例にて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0073】
<使用装置>
自動研磨装置:エコメット3000(ビューラー社製)
走査型電子顕微鏡:S3000H(日立製作所社製)
UV照射装置:PL8−200(センエンジニアリング社製)
金属顕微鏡:BH2(オリンパス社製)
偏光顕微鏡:BH2(オリンパス社製)
切断・研削装置:ペトロシン(ビューラー社製)
<実施例1>
[サンプルの作製]
先ず、エポキシ(「常温硬化型エポキュアー」、ビューラー社製)によりホルダー形状にあった円筒の包埋サンプル(被研磨物)を作製する。
【0074】
直径13μmから15μm、長さ200μmから300μmのガラス繊維30%を含むポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス社製、「ジュラネックス3300」)の大きさ12mm×3mm×10mmの静的延性破壊品を被研磨物として用いた。この被研磨物を、エポキシ樹脂を接着剤として用いて被研磨物を保持するためのホルダーにセットした。「静的延性破壊品」とは、上記被研磨物を曲げ試験機を用いて10mm/minの速度で静的荷重にて破壊した破壊品である。
【0075】
[研磨工程]
面取り工程、粗研磨工程、中間仕上げ工程、精密研磨工程の4段階に分けて以下の材料、表1に示す研磨条件で研磨を行った。被研磨物の静的延性破面を研磨面として、研磨面をバフに押し当て、研磨剤を被研磨面とバフとの間に供給しながら、被研磨物とバフとを相対的に摺動させて被研磨物を研磨した。
【0076】
(材料(研磨盤下地))
耐水性研磨紙:♯320(JIS規格)、カービメット(ビューラー社製)
バフ1:テックスメットP(ビューラー社製)
バフ2:ウルトラポル(ビューラー社製)
バフ3:表面に化学繊維の立毛を有するバフ、ケモメット(ビューラー社製)
(材料(研磨剤))
研磨剤1:水+粒度240番の砥粒1+粒度180番の砥粒2
研磨剤2:水+粒度320番の砥粒
研磨剤3:水+粒径9μmのダイヤモンド砥粒(メタダイ社製、「メタダイダイヤモンド研磨剤」)
研磨剤4:水+粒径6μmのダイヤモンド砥粒(メタダイ社製、「メタダイダイヤモンド研磨剤」)、
研磨剤5:水+粒径0.06μmコロイダルシリカ砥粒(マスターメット社製)
【0077】
【表1】
【0078】
[エッチング工程]
図3には研磨後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示した。レーザー顕微鏡を用いて測定した研磨後の研磨面の表面粗さRzは3μmであった。図4(a)には研磨後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。走査型電子顕微鏡を用いてこの研磨面を観察すると、樹脂部に引きずられた痕跡は無く(例えば、図4(a)中の白抜き矢印Aが指す部分)、また、ガラス繊維の破壊も無く(例えば、図4(a)中の白抜き矢印Bが指す部分)、亀裂も鮮明であること(例えば、図4(a)中の白抜き矢印Cが指す部分)が確認された。この研磨面を以下の条件でアルカリエッチングを行った。
[エッチング条件]
塩基性水溶液:塩基濃度10質量%のエタノール水溶液
処理温度:23℃
処理時間:5時間
【0079】
図4(b)には上記エッチング処理後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。上記エッチング処理後の研磨面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、球晶組織を確認することができた(例えば、図4(b)中の点線で囲んだ部分)。球晶組織を明確に観察できたことから、本発明の前処理方法に含まれるような精密研磨を行うことで、変形、溶融、せん断等物理的に変化しやすい球晶組織の形態を保持させたまま研磨でき、内部組織観察面を出現させることが確認された。したがって、本発明の前処理方法を用いることで変化しやすい樹脂成形品の内部組織の形態を正確に観察することができる。
【0080】
<実施例2>
「ポリブチレンテレフタレート」を「ガラス繊維20%を含むポリアセタール(ポリプラスチックス社製、「ジュラコンGH−25」)」に変更し、エッチング工程を「アルカリエッチング」から「特定波長の紫外線による方法(UVエッチング)」に変更した以外は実施例1と同様の方法で、樹脂成形品の静的延性破面を観察した。なお、UVエッチングの条件は、以下の通りである。
[エッチング条件]
波長:300nm以下
光源との距離:40mm
照射時間:70分
【0081】
実施例1と同様の方法で測定したUVエッチング前の研磨面の表面粗さは、3μmであった。また、図5(a)にはUVエッチング前の研磨面、図5(b)にはUVエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。実施例1と同様に、エッチング前の研磨面からは樹脂部に傷の痕跡がないことと(例えば、図5(a)中の白抜き矢印Dが指す部分)、ガラス繊維の破壊が無いこと(例えば、図5(a)中の白抜き矢印Eが指す部分)が確認された。また、図5(b)に示すように、エッチング後の研磨面からは樹脂成形品の球晶組織の形態を明確に観察することができた(例えば、図5(b)中の線で円状に囲んだ部分)。したがって、本発明の前処理方法を用いることで変化しやすい樹脂成形品の内部組織の形態を正確に観察することができる。
【0082】
<実施例3>
[サンプルの作製]
ガラス繊維を40%含有するポリフェニレンサルファイド(ポリプラスチックス社製、「フォートロン1140A1」)の大きさ12mm×2mm×5mmの樹脂成形品同士を以下の条件で振動溶着させた。溶着後の大きさ12mm×2mm×5mmのサンプルを被研磨物とした。この被研磨物を実施例1と同様の方法でホルダーにセットした。
(溶着条件)
振幅:1mm
エアー圧力:0・2MPa
しずみ込み量:1mm
【0083】
[研磨工程]
面取り工程、粗研磨工程、中間仕上げ工程、精密研磨工程の4段階に分けて以下の材料、表2に示す研磨条件で研磨を行った。溶着部を含む断面を研磨面として、実施例1と同様に被研磨物の研磨面をバフに押し当て、研磨剤を被研磨面とバフとの間に供給しながら、被研磨物とバフとを相対的に摺動させて被研磨物を研磨した。
【0084】
【表2】
【0085】
研磨後の研磨面の表面粗さを実施例1と同様の方法で測定した。表面粗さの結果は、3μmであった。図6には研磨後の研磨面の金属顕微鏡写真を示した。研磨面を金属顕微鏡で観察すると溶着部を確認することができた(図6中の白抜き矢印Fが指す部分)。溶着部の厚みは1mmであった。なお、溶着部の厚みは顕微鏡のスケールを読み取る方法で測定した。
【0086】
<実施例4>
[サンプルの作製]
ガラス繊維30%を含むポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス社製、「ジュラネックス3300」)の大きさ12mm×3mm×80mmの樹脂成形品を切断・研削装置を用いて切断し、図2に示すような切断面1、切断面1’を有し、切断面1、1’の大きさが12mm×10mm、厚み3mmの被研磨物を得た。この被研磨物を実施例1と同様の方法でホルダー(図示せず)にセットした。なお、切断面1を研磨できるように切断面1’とホルダーとが接するようにセットした。
【0087】
[研磨工程]
(工程1)
先ず、表1に記載の条件で切断面1の研磨を行った。研磨後の研磨面を研磨面1とした。実施例1の場合と同様の方法で測定した研磨面1の表面粗さRzは3μmであった。その後、サンプルをホルダー(図示せず)から取り外した。
【0088】
(工程2)
次いで、研磨面1をガラス板(幅27mm×奥行き46mm、厚さ1mm)に常温硬化エポキシビューラー社製エポシンを用いて接着させた。
【0089】
(工程3)
次いで、サンプル作製の際に用いた切断・研削装置を用いて、サンプルの厚みが薄くなるように切断面1’側を切断した。新たに現れた切断面を切断面2とした。サンプル作製の際と同様の方法で、サンプルを再びホルダー(図示せず)にセットした。なお、切断面2を研磨できるようにガラス板とホルダー(図示せず)とが接するようにセットした。
【0090】
(工程4)
最後に切断面2を工程1と同様の方法で研磨した。研磨後の研磨面を研磨面2とした。実施例1と同様の方法で測定した研磨面2の表面粗さは3μmであった。また、マイクロゲージで測定した薄片サンプルの厚みは20μmであった。なお、ガラス板に付いたサンプルを自動研磨装置にセットできなかったため、手で持ちながら研磨装置による研磨を行った。
【0091】
[観察]
偏光顕微鏡を用いて、薄片サンプルの断面観察を行った。図7には両面を研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示した。直径10μm程度の球晶(例えば、図7(a)中の白抜き矢印Gが指す部分)、直径5μm程度の成長過程の球晶(例えば、図7(b)中の白抜き矢印Hが指す部分)を観察することができた。また、亀裂も観察することができた(例えば、図7(a)中の白抜き矢印Iが指す部分)。なお、実施例において球晶組織の直径の測定は、顕微鏡のスケールを読み取る方法で行った。
【0092】
<実施例5>
樹脂成形品を「ポリブチレンテレフタレート」から「ガラス繊維20%を含むポリアセタール(ポリプラスチックス社製、「ジュラコンGH25」)の破壊品」に変更し、サンプル作製の段階で、破壊面に対向する面のみを切断し、この切断面を切断面1’とし、先ず破壊面を研磨して研磨面1とした以外は実施例4と同様の方法で薄片を作製した。なお、「破壊品」とは、大きさ12mm×3mm×20mmの樹脂成形品を、引張試験機を用いて10mm/minの速度で延性破壊した破壊品である。
【0093】
実施例1に記載の方法と同様の方法で測定した研磨面1、研磨面2の表面粗さは、それぞれ、3μm、5μmであり、実施例4に記載の方法と同様の方法で測定した薄片の厚みは20μmであった。
【0094】
実施例4と同様に偏光顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図8には両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示した。破壊部分には球晶組織の塑性変形が観察され(例えば、図8中の白抜き矢印Jが指す部分)、破壊部分以外では直径10μm程度の球晶を観察することができた(例えば、図8中の白抜き矢印Kが指す部分)。破壊部分以外の樹脂部分では上記の通り球晶が確認できたため、変形した球晶も破壊により変形した球晶であることが分かる。本発明の前処理方法を用いれば、樹脂内部組織を変化させずに研磨することができるため、薄片を作製すればエッチング等の研磨後の処理を行うことなく内部組織を正確に観察することができる。
【0095】
<実施例6>
樹脂成形品を「ポリアセタール」から「ガラス繊維を40%含有するポリフェニレンサルファイド(ポリプラスチックス社製、「フォートロン1140A1」)の破壊品」に変更し、研磨工程における研磨条件を「表1に記載の条件」から「表2に記載の条件」へ変更した以外は実施例5と同様の方法で薄片を作製した。なお、「破壊品」とは、大きさ12mm×3mm×10mmの樹脂成形品を、引張試験機を用いて10mm/minの速度で延性破壊させた破壊品である。
【0096】
実施例1に記載の方法と同様の方法で測定した研磨面1、研磨面2の表面粗さは、それぞれ、3μm、5μmであり、実施例4に記載の方法と同様の方法で測定した薄片の厚みは10μmであった。
【0097】
実施例4と同様に偏光顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図9には両面を研磨した研磨面の偏光顕微鏡写真を示した。破壊部分には球晶組織の塑性変形が観察され(例えば、図9中の白抜き矢印Lが指す部分)、破壊部分以外では直径5μm程度の球晶を観察することができた(例えば、図9中の白抜き矢印Mが指す部分)。
【0098】
<実施例7>
樹脂成形品を「ポリブチレンテレフタレート」から「実施例3の溶着サンプル」に変更し、研磨工程における研磨条件を「表1に記載の条件」から「表2に記載の条件」へ変更し、溶着部を観察することができるように溶着部を含む切断面1、切断面1’にした以外は実施例4と同様の方法で薄片を作製した。
【0099】
実施例1に記載の方法と同様の方法で測定した研磨面1、研磨面2の表面粗さは、それぞれ、5μm、15μmであり、実施例4に記載の方法と同様の方法で測定した薄片の厚みは10μmであった。
【0100】
実施例4と同様に偏光顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図10には研磨面の金属顕微鏡写真を示した。溶着部(図10中の白抜き矢印Nが指す部分)の厚みを顕微鏡のスケールを基準に読み取ることで測定した。その結果、溶着部の厚みは1mmであった。本発明の前処理方法であれば、潰れてしまいやすい溶着部を潰すことなく研磨することができるため、溶着部の厚みを観察し、測定することができる。
【0101】
<比較例1>
研磨工程を行わずに、ダイヤモンドミクロトームによる切断を行い、ダイヤモンドミクロトームによる切断面をアルカリエッチングした以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形品破断面を観察した。
【0102】
図11には、ダイヤモンドミクロトームによる切断面のレーザー顕微鏡写真を示した。図12(a)には、ダイヤモンドミクロトームによる別の切断面の走査型電子顕微鏡写真を示した。実施例1と同様のレーザー顕微鏡を用いる方法で測定したエッチング前の切断面の表面粗さは50μmであった。アルカリエッチング前の切断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂部分には無数の傷(例えば、図12(a)中の白抜き矢印Oが指す部分)があり、ガラス繊維が破壊(例えば、図12(a)中の白抜き矢印Pが指す部分)されていることが確認された。また、図12(b)にはアルカリエッチング後の切断面の走査型電子顕微鏡写真を示した。アルカリエッチング後の切断面も同様の走査型電子顕微鏡を用いる方法で観察すると、球晶組織は破壊されてしまっており、球晶組織の形態を全く確認することができなかった。
【0103】
<比較例2>
研磨工程を面取り工程、粗研磨工程の二段階にした以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形品内部を観察した。
【0104】
図13(a)には、粗研磨工程後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。粗研磨工程後の研磨面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂部分には無数の傷(例えば、図13(a)中の白抜き矢印Qが指す部分)があり、ガラス繊維が破壊(例えば、図13(a)中の白抜き矢印Rが指す部分)されていることが確認された。図14には、粗研磨工程後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示した。実施例1と同様の方法で測定したエッチング前の切断面の表面粗さは30μmであった。図13(b)には、アルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。アルカリエッチング後の研磨面も走査型電子顕微鏡を用いる方法で観察すると、球晶組織は破壊されてしまっており、球晶組織の形態を全く確認することができなかった。
【0105】
<比較例3>
研磨工程を面取り工程、粗研磨工程、中間仕上げ工程1の三段階にした以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形品内部を観察した。
【0106】
図15(a)には、中間仕上げ工程1後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。中間仕上げ工程1後の研磨面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂部分には無数の傷(例えば、図15(a)中の白抜き矢印Sが指す部分)があり、ガラス繊維が破壊(例えば、図15(a)中の白抜き矢印Tが指す部分)されていることが確認された。実施例1と同様のレーザー顕微鏡を用いる方法で測定した中間仕上げ工程1後の研磨面の表面粗さは20μmであった。図15(b)には、アルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。アルカリエッチング後の研磨面も同様の方法で観察すると、球晶組織は破壊されてしまっており、球晶組織の形態を全く確認することができなかった。
【0107】
以上の実施例1と比較例1から3とから明らかなように、精密研磨工程を最後に行うことで、球晶組織の形態に破壊がない研磨面を得ることができ、内部組織の観察を正確にできることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の前処理方法を含む観察方法のフローチャートである。
【図2】両面研磨工程を示す図である。
【図3】実施例1の研磨後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示す図である。
【図4】(a)は実施例1の研磨後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は実施例1のエッチング処理後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】(a)は実施例2のUVエッチング前の研磨面、(b)は実施例2のUVエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】実施例3の研磨後の研磨面の金属顕微鏡写真を示す図である。
【図7】実施例4の両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例5の両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図9】実施例6の両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例7の研磨面の金属顕微鏡写真を示す図である。
【図11】比較例1のダイヤモンドミクロトームによる切断面のレーザー顕微鏡写真を示す図である。
【図12】(a)は、比較例1のダイヤモンドミクロトームによる切断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は、比較例1のアルカリエッチング後の切断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図13】(a)は、比較例2の粗研磨工程後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は、比較例2のアルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図14】比較例2の粗研磨工程後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示す図である。
【図15】(a)は、中間仕上げ工程1後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は、比較例2のアルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の内部組織を観察するための内部組織観察面の前処理方法並びに、該前処理方法を施した観察面を観察する内部組織観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性高分子材料の樹脂成形品の内部組織観察は、成形の不具合原因(樹脂流動の乱れ、ボイド等)調査、使用環境下での球晶組織変化の調査、あるいは2次加工品(接着や溶着)の評価等に広く用いられている。
【0003】
従来、上記のような内部組織の観察は、ミクロトーム法(刃による切断)により切り出した断面の薄片を偏光顕微鏡で観察している。この方法を用いれば、樹脂成形品の内部組織の形態を観察することは可能であるが、球晶組織等の形態が変化しやすい内部組織を観察しようとすると、組織が潰れる等して変化してしまい、樹脂成形品によっては内部組織の観察は困難である。即ち、切断による組織の引きずりや切削刃のキズ跡が薄片に残る場合があり、必ずしも組織の形態が保存されているとは言えないからである。
【0004】
また、上記のような形態の変化しやすい球晶組織を観察する方法として、樹脂成形品の破断面に酸やアルカリ等を用いて、破断面の非晶質部分を選択的に取り除き、結晶性の部分を残すことを目的としたエッチング処理があり、切削した断面の結晶構造観察に応用されている(特許文献1から3)。この方法であれば、変化しやすい組織の形態を保持しつつ、破断面直下の球晶組織の形態を出現させ、観察することができる。
【0005】
ところで、樹脂成形品が無機充填材を含む場合、材料の脆さや組織の引きずりに加えて、無機充填材に対する刃のダメージの影響がある。このため、無機充填剤を含む樹脂成形品では、無機充填剤を含まない樹脂成形品と比較して、内部組織を保持した状態で試料を作製することは極めて難しい。また、このダメージを抑えるために硬度の高いダイヤモンド刃を使用する手法はあるが、切削面積が1mmから2mmと狭く、また、樹脂成形品の内部組織の形態の保持も難しい。
【0006】
上記の特許文献1から3に記載された方法では、無機充填剤を含む結晶性樹脂成形品の破断面の特徴的な模様を保持させながら、破断面直下の球晶組織の形態を出現させることができるが、破断面以外の球晶組織等の内部組織の形態を観察することはできない。
【0007】
このため、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を、破断した際の破断面に限らず、様々な場面で正確に観察できるような技術が求められている。
【特許文献1】特開2004−189778号公報
【特許文献2】特開2004−198414号公報
【特許文献3】特開2005−091177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を変化させずに、組織の形態を保持させたまま観察するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織を観察する場合であっても、内部組織観察面を特定の表面粗さになるように研磨することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 無機充填剤を含む樹脂成形品の内部組織を観察するための内部組織観察面の前処理方法であって、前記内部組織観察面を研磨する研磨工程を備え、前記研磨工程は、研磨面の表面粗さRzが15μm以下になるように研磨する工程を含む内部組織観察面の前処理方法。
【0011】
(2) 前記表面粗さRzが1μmから10μmである(1)に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0012】
(1)の発明によれば、内部組織観察面を表面粗さRzが15μm以下になるように研磨することで、内部組織の形態を変化させないような精密研磨を実現することができる。その結果、この研磨により出現させた研磨面を、その後アルカリエッチング等の研磨工程後処理を行うことによって、内部組織を顕在化させることで、内部組織の形態を保持した状態で観察することができる。より好ましくは、上記表面粗さRzが1μmから10μmである。
【0013】
樹脂成形品の球晶組織等ではなく、無機充填物の分散や配向状態の観察を目的に研磨処理を用いる場合がある。しかしながら、通常の研磨では、こすりながら磨くことで、脆い内部組織の形態を潰す等して変化させてしまうため、球晶等の内部組織を正確に観察することはできない。
【0014】
また、鉱物や金属分野では精密研磨を施した断面や、薄片を用いた結晶組織の観察が行われているが、上記の通り、研磨の際にこすり磨かれることで球晶組織等の形態は変化してしまう。したがって、金属分野で一般的に用いられている精密研磨を用いても、上記のような変化しやすい樹脂成形品の内部組織等を観察することはできない。しかしながら、本発明の前処理方法における研磨工程では上記の通り、樹脂内部組織の形態を変化させること無く研磨することができるため、樹脂成形品の内部組織等を観察することができる。
【0015】
本発明における「表面粗さ」とは、実施例に記載された方法で測定した表面粗さである。
【0016】
(3) 前記研磨工程は、前記無機充填剤よりも硬度が低い砥粒を含む研磨剤と、バフと、を用いてバフ研磨するバフ研磨工程である(1)又は(2)に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0017】
(3)の発明によれば、無機充填剤よりも硬度が低い砥粒を含む研磨剤と、表面に立毛を備えるバフと、を用いてバフ研磨することで、上記範囲の表面粗さになるような研磨を容易に行うことができる。「硬度」とはモース硬度のことをいう。
【0018】
(4) 前記研磨工程は、粒径が0.02μmから50μmの砥粒を含む研磨剤を用いて研磨する工程である(1)から(3)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0019】
(4)の発明によれば、上記範囲の粒径の砥粒を用いることで、上記のような表面粗さの精密研磨を容易に行うことができる。特に上記範囲の砥粒を用いることで、研磨後の研磨面に引きずられた痕跡をほとんど残さず極めて精密な研磨を行うことができる。
【0020】
特に本発明の前処理方法を用いれば、直径1μmから5μmの極めて小さな球晶組織であっても観察することができる。なお、球晶組織の直径は、顕微鏡のスケールを用いて測定した値を採用する。
【0021】
研磨剤に含まれる砥粒としては、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化鉄、けい石粉末、非晶質シリカ、けい藻土、炭化珪素、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、ホワイトカーボン、ダイヤモンド等の従来公知の微粒研磨材を挙げることができる。特に、良好な内部組織観察面に仕上げるためには、酸化アルミニウムが好ましい。
【0022】
(5) 前記樹脂成形品が、球晶組織を有する結晶性高分子を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品である(1)から(4)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0023】
(5)の発明によれば、本発明の前処理方法を、球晶組織を有する結晶性高分子を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品に適用することで、本発明の特徴がより顕著に現れる。上記の通り、本発明の前処理方法であれば、変化しやすい内部組織であってもその組織の形態を保持したまま観察のための観察面を出現させることができるからである。なお、結晶性高分子とは、上記で説明した結晶性高分子と同様のものである。
【0024】
(6) 前記研磨工程が、前記研磨面と、前記研磨面に対向する面と、を両面研磨する両面研磨工程であり、前記両面研磨工程後の前記樹脂成形品の一方の研磨面から他方の研磨面までの厚みが、5μmから50μmである(1)から(5)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0025】
(6)の発明によれば、両面研磨工程後の樹脂成形品の一方の研磨面から他方の研磨面までの厚みが、5μmから50μmであるため、偏光顕微鏡を用いて観察すれば、エッチング処理等を施すことなく、内部組織の形態を観察することができる。なお観察により適した厚みは20μmから30μmである。上記「厚み」は、実施例に記載された方法で測定した厚みをいう。
【0026】
(7) 前記内部組織観察面の樹脂組織の形態を損なうことなく前記内部組織観察面をエッチングするエッチング工程を、前記研磨工程後にさらに有する(1)から(5)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【0027】
(7)の発明によれば、(1)から(5)の前処理方法によって出現させた樹脂成形品の変化しやすい内部組織観察面の形態をエッチングによって顕在化させることができる。特に本発明の前処理方法は、変化しやすい樹脂の内部組織を保持したまま観察面を出現させることができるため、エッチングによって樹脂成形品内部の組織の形態を正確に観察することができる。
【0028】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載の前処理を施した観察面を観察する内部組織観察方法。
【0029】
(9) 前記観察は、レーザー顕微鏡、金属顕微鏡、偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、又は蛍光顕微鏡を用いて行う観察である(8)に記載の内部組織観察方法。
【0030】
(8)、(9)の発明によれば、変化しやすい樹脂の内部組織の形態を保持した状態で観察することができる。特に、レーザー顕微鏡は表面の傷、表面の粗さの観察に適し、偏光顕微鏡は球晶組織の観察に適し、走査型電子顕微鏡はエッチング工程後の観察面の球晶組織観察に適し、金属顕微鏡は溶着部の厚みの観察に適する。
【0031】
(10) 前記樹脂成形品は、樹脂間に溶着部を有し、前記内部組織観察面は、前記溶着部を含み、(1)から(6)のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法を用いた前記溶着部の厚さ測定方法。
【0032】
(10)の発明によれば、(1)から(6)に記載の前処理方法を用いることによって、溶着部の厚みを変化させずに研磨して、溶着部を含む観察面を出現させることができるため、溶着部の厚みを正確に測定することができる。
【0033】
溶着される樹脂は異なる種類の樹脂であってもよいし、同じ種類の樹脂であってもよい。同じ種類の樹脂を溶着させた樹脂間では、溶着部が潰されると樹脂間の境界が判断しづらくなる等の問題があり観察が特に難しい。本発明の溶着部の厚さ測定方法であれば、溶着部を潰さずに、溶着部を含む内部組織観察面を出現させることができるため、同じ樹脂間の溶着部の厚さを測定する場合であっても、容易且つ正確に溶着部の厚みを測定することができる。
【0034】
また、溶着部の厚みを観察・測定することで溶着強度を予測することができる。
【発明の効果】
【0035】
研磨面の表面粗さRzが15μm以下、好ましくは1μmから10μmになるように樹脂部分を精密に研磨することで、変化しやすい樹脂の内部組織の形態を変化させずに研磨することができる。その結果、その後に研磨面に施されるエッチング処理を行う、研磨した面と対抗する面をさらに研磨して薄片を作製する等して、観察面の内部組織を顕在化させることで、樹脂成形品の内部組織の形態を正確に観察することができる。
【0036】
また、上記精密研磨であれば、潰れる等して変化しやすい樹脂間の溶着部を変化させない。その結果、樹脂間の溶着部を正確に観察でき、さらに溶着部の厚みを正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0038】
本発明の前処理方法は、変化しやすい内部組織を持つ結晶性樹脂成形品等の内部組織の形態を変化させずに、その形態を観察するための前処理方法である。本発明は、上記内部組織観察方法に、前処理方法として研磨工程を含ませ、さらに、この研磨工程に表面粗さRzが15μm以下、さらに好ましくは1μmから10μmの範囲になるように精密研磨する工程を含ませることを特徴とする。
【0039】
上記のような内部組織の観察方法は、例えば、サンプル作製工程(S10)、面取り工程(S20)、研磨工程(S30)、研磨後処理工程(S40)、観察工程(S50)を有する。
【0040】
<サンプル作製工程(S10)>
[材料]
本発明において、前処理方法の対象となる樹脂成形品とは、無機充填剤を含む樹脂成形品である。上記のような精密な研磨を行うことで、変化しやすい内部組織を持つ樹脂からなる樹脂成形品の内部組織であっても、正確に観察できることが本発明の特徴である。
【0041】
変化しやすい内部組織を持つ樹脂としては、例えば、ポリアセタール;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸−脂肪族ジオールポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド等の結晶性高分子が挙げられる。
【0042】
「変化しやすい内部組織」とは、上記のような結晶性高分子の球晶組織のように、切断のような、せん断力が加わると球晶組織が塑性変形してしまう弱い内部組織のことをいう。
【0043】
樹脂成形品には無機充填剤が含まれる。無機充填剤としては、繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質があげられる。特に代表的な繊維状充填剤は、ガラス繊維、又はカーボン繊維である。粉粒状充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等があげられる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等があげられる。また、これらの無機充填剤は1種又は2種以上併用することができる。
【0044】
[材料の取り付け]
所望の内部組織観察面を研磨するために、上記樹脂成形品からなる被研磨物をホルダーに取り付ける。利用可能なホルダーとしては、特に限定されず従来公知のガラス製、ステンレス製、アルミ製等のものを使用することができる。被研磨物のホルダーへの取り付けは、従来公知の方法で行うことができる。例えば、エポキシ樹脂等の接着剤を用いて取り付けることができる。
【0045】
<面取り工程(S20)>
面取りは、研磨面の角、縁等を削り丸みを持たせることができ、角や縁が研磨の際に欠けることを防ぐことができればよい。面取りは従来公知の方法で行うことができるが、本発明は上記の通り、研磨工程を備えるため、面取りも研磨によって行うことが好ましい。
【0046】
<研磨工程(S30)>
「研磨工程(S30)」とは、研磨面の表面粗さRzが15μm以下、より好ましくは1μmから10μmになるように研磨できる精密研磨工程(S33)を含むものであれば特に限定されず、従来公知の研磨方法、研磨装置を用いることができる。上記の通り、表面粗さを上記の範囲に調整すれば、軟らかい樹脂部分であっても、研磨によって内部組織の形態が変化することなく、所望の内部組織観察面を出現させることができる。なお、表面粗さの調整のしやすさ等の観点から研磨工程で行われる研磨は、バフ研磨であることが好ましい。
【0047】
研磨する面は、所望の内部組織観察面であり、例えば、破壊品であれば破壊面、溶着部を観察する場合は溶着部を含む断面、樹脂成形品の内部組織であれば切断面である。
【0048】
研磨工程(S30)は、上記の通り精密研磨工程(S33)を含むものであれば特に限定されないが、先ず粗研磨工程(S31)で粗研磨を行い、次いで中間仕上げ研磨工程(S32)による中間仕上げを行ってから、精密研磨工程(S33)を行うことが好ましい。
【0049】
上記の粗研磨工程(S31)、中間仕上げ研磨工程(S32)、精密研磨工程(S33)は、それぞれ従来公知の研磨方法、研磨装置を用いて研磨を行うことができるが、本発明の前処理方法を実施する場合には、一貫してバフ研磨により研磨することが好ましい。
【0050】
バフ研磨とは、布製又はその他の材料で作られたバフに種々の研磨剤を付けてバフを所定の回転数で回転させて、バフから樹脂成形品の内部組織観察面に所定の研磨加重をかけて、所定の時間、内部組織観察面を研磨する研磨方法である。バフとは本来もみ皮や布等の柔らかいものを指す名称であるが、近年のバフ加工と呼ばれる磨き加工ではフェルトを固めたものがよく使用される。
【0051】
[粗研磨工程(S31)]
粗研磨工程(S31)は、細かな傷等を取り除き研磨面を調整する工程である。即ち、研磨面全体の粗削りを行う。研磨対象に応じて、バフの種類、研磨剤の種類等は適宜変更して実施することができる。
【0052】
[中間仕上げ研磨工程(S32)]
中間仕上げ研磨工程(S32)とは、無機充填剤部分を精密に研磨する工程である。研磨対象である樹脂成形品は、上記のとおり軟らかい樹脂部分と硬い無機充填剤部分とを含んでいる。中間仕上げ研磨工程(S32)を備えることで、研磨工程において、硬い部分を精密に研磨する工程と、軟らかい樹脂部分を上記表面粗さになるように精密に研磨する工程と、に分けることができる。その結果、変化しやすい内部組織の形態を変化させずに、内部組織観察面を容易に出現させることができる。軟らかい樹脂部分は、特に削ずれ易く傷も付きやすく、硬い部分と柔らかい部分とを同時に精密に研磨することは難しいからである。
【0053】
中間仕上げ研磨工程(S32)で用いるバフの種類、研磨剤の種類は特に限定されないが、無機充填剤を精密に研磨するためには、無機充填剤よりも硬度の高い砥粒を含む研磨剤を用いる。無機充填剤、砥粒の硬度はモース硬度である。
【0054】
中間仕上げ研磨工程(S32)は、軟らかい樹脂部分の中に含まれる硬い無機充填剤を、より精密に研磨するために、2以上の種類の研磨を行うものであることが好ましい。
【0055】
[精密研磨工程(S33)]
本発明の前処理方法に含まれる精密研磨工程(S33)で用いるバフとしては特に限定されず従来公知のフェルト、不織布等の繊維集合体等を用いることができる。ところで、本発明は、研磨面の表面粗さを上記範囲にすることを特徴とする。このような表面粗さに調整するためには、表面に立毛を備えるバフであることが好ましい。
【0056】
「表面に立毛を備えるバフ」とは、表面に立毛を備え研磨剤が含浸できるようになっているものをいう。柔軟なクッション材を有するものがさらに好ましく、例えば、起毛布、立毛布等の表層素材にスポンジ等のクッション素材を装着したものが挙げられる。
【0057】
無機充填剤を削らずに軟らかい樹脂部分のみをマイルドに削れるので好ましい。
【0058】
精密研磨する際の研磨条件は研磨する対象によって適宜変更する。具体的には、内部組織観察面の表面粗さが上記範囲になるように、バフの種類、研磨剤の種類、研磨時間、研磨加重、バフの回転数等の研磨条件を適宜変更して実施する。
【0059】
上記の通り、精密研磨工程(S33)の研磨条件は、研磨対象により適宜変更して実施できるが、研磨する対象が、上述の結晶性高分子を含む樹脂成形品である場合には、研磨時間が15分から30分、サンプルに加わる研磨加重が1.5kgから5kg、バフの回転数が100rpmから200rpmであることが好ましい。後述する通り、バフの種類は表面に立毛を備えるバフが好ましく、研磨剤としては、無機充填剤よりも硬度が低く粒径が0.01μmから15μmの砥粒を含む研磨剤であることが好ましい。
【0060】
<研磨後処理工程(S40)>
研磨後処理工程(S40)とは、内部組織の観察や溶着部の厚み測定を行うために、研磨面にエッチング処理、又は上記研磨面に対向する面をさらに研磨する工程である。以下、エッチング工程(S41)、両側研磨工程(S42)について説明する。なお、溶着部の厚み観察を行う場合には、研磨後処理工程が不要な場合もある。
【0061】
[エッチング工程(S41)]
エッチング方法としては、変化しやすい球晶等の内部組織の形態を破壊しないソフトなエッチング方法が必要である。エッチングの際に内部組織の形態を変化させてしまうと、本発明の効果が得られないからである。
【0062】
上記のようなソフトなエッチング方法としては、例えば、適用する樹脂の種類により異なり、特定波長の紫外線による方法、加水分解による方法、酸による方法、塩基による方法、溶剤による方法、オゾンのような酸化性ガスによる方法、ヒドラジンのような還元性ガスによる方法、放電による方法、電子線照射による方法、プラズマ照射による方法、他の粒子線照射による方法、X線もしくはγ線による方法等、及びこれらの二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0063】
上記ソフトエッチングの具体的な方法は、特開2004−198414号公報に記載されている方法と同様である。
【0064】
[両側研磨工程(S42)]
両面研磨工程(S42)を、図2を用いて説明する。工程1が上記の研磨工程(S30)を指す。工程2では、上記研磨面に対向する面を研磨できるように、上記サンプル作製工程(S10)での[材料の取り付け]と同様にして、上記研磨工程(S30)後の研磨物をホルダー等に取り付ける。ただし、均一な厚さの薄片を作製することが求められるため、均一な接着が必要になり、以下の方法で接着を行うことが好ましい。
【0065】
好ましい接着方法は、接着剤として粘性の低いエポキシ材を少量(一滴)ホルダー等に付けて行う研磨物に負荷がかからない接着方法が好ましい。
【0066】
工程3では、研磨面からこの研磨面に対向する面までの厚みを薄くするために切断する工程である。研磨面からこの研磨面に対向する面までの厚みが大きい場合には、上記のような薄片サンプルを作製するために、200μm程度の厚みになるように切断する。なお、切断は内部組織が切断の際に変形してしまうことを防止するために、歪みを与えないような切断であること、また、均一な厚みになる切断であることが好ましくい。
【0067】
工程4では、切断後に現れる切断面を研磨し、切断面の表面粗さRzが15μm以下、より好ましくは1μmから10μmになるように研磨を行う。研磨方法は、研磨工程(S30)と同様の方法で研磨を行う必要がある。ただし、自動ではなく手で持ちながら行う等の変更は可能である。
【0068】
<観察工程(S50)>
観察方法は、特に限定されず内部組織の観察、溶着部厚みの測定ができれば特に限定されない。例えば以下の方法により観察することができる。
【0069】
エッチング工程(S41)後の研磨面を観察するには、走査型電子顕微鏡による観察が好ましく、より具体的には、特開2004−198414号公報に記載された方法と同様である。
【0070】
溶着部の溶着層の厚みは、研磨工程(S30)後の研磨面を金属顕微鏡で観察することにより測定することができる。なお、溶融層と未溶融層との境界には境界線が現れるため、この境界線間の距離を溶融層厚みとして従来公知の方法で測定する。例えば、顕微鏡のスケールを読み取ることで測定することができる。
【0071】
薄片試料を観察する場合には、偏光顕微鏡を用いて観察することができる。樹脂成形品の内部組織の観察、溶着部の観察ともに偏光顕微鏡を用いて観察することができる。偏光顕微鏡観察としては、オルソスコープ観察でもコノスコープ観察でもよいが、好ましくはオルソスコープ観察である。
【実施例】
【0072】
本発明を実施例にて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0073】
<使用装置>
自動研磨装置:エコメット3000(ビューラー社製)
走査型電子顕微鏡:S3000H(日立製作所社製)
UV照射装置:PL8−200(センエンジニアリング社製)
金属顕微鏡:BH2(オリンパス社製)
偏光顕微鏡:BH2(オリンパス社製)
切断・研削装置:ペトロシン(ビューラー社製)
<実施例1>
[サンプルの作製]
先ず、エポキシ(「常温硬化型エポキュアー」、ビューラー社製)によりホルダー形状にあった円筒の包埋サンプル(被研磨物)を作製する。
【0074】
直径13μmから15μm、長さ200μmから300μmのガラス繊維30%を含むポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス社製、「ジュラネックス3300」)の大きさ12mm×3mm×10mmの静的延性破壊品を被研磨物として用いた。この被研磨物を、エポキシ樹脂を接着剤として用いて被研磨物を保持するためのホルダーにセットした。「静的延性破壊品」とは、上記被研磨物を曲げ試験機を用いて10mm/minの速度で静的荷重にて破壊した破壊品である。
【0075】
[研磨工程]
面取り工程、粗研磨工程、中間仕上げ工程、精密研磨工程の4段階に分けて以下の材料、表1に示す研磨条件で研磨を行った。被研磨物の静的延性破面を研磨面として、研磨面をバフに押し当て、研磨剤を被研磨面とバフとの間に供給しながら、被研磨物とバフとを相対的に摺動させて被研磨物を研磨した。
【0076】
(材料(研磨盤下地))
耐水性研磨紙:♯320(JIS規格)、カービメット(ビューラー社製)
バフ1:テックスメットP(ビューラー社製)
バフ2:ウルトラポル(ビューラー社製)
バフ3:表面に化学繊維の立毛を有するバフ、ケモメット(ビューラー社製)
(材料(研磨剤))
研磨剤1:水+粒度240番の砥粒1+粒度180番の砥粒2
研磨剤2:水+粒度320番の砥粒
研磨剤3:水+粒径9μmのダイヤモンド砥粒(メタダイ社製、「メタダイダイヤモンド研磨剤」)
研磨剤4:水+粒径6μmのダイヤモンド砥粒(メタダイ社製、「メタダイダイヤモンド研磨剤」)、
研磨剤5:水+粒径0.06μmコロイダルシリカ砥粒(マスターメット社製)
【0077】
【表1】
【0078】
[エッチング工程]
図3には研磨後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示した。レーザー顕微鏡を用いて測定した研磨後の研磨面の表面粗さRzは3μmであった。図4(a)には研磨後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。走査型電子顕微鏡を用いてこの研磨面を観察すると、樹脂部に引きずられた痕跡は無く(例えば、図4(a)中の白抜き矢印Aが指す部分)、また、ガラス繊維の破壊も無く(例えば、図4(a)中の白抜き矢印Bが指す部分)、亀裂も鮮明であること(例えば、図4(a)中の白抜き矢印Cが指す部分)が確認された。この研磨面を以下の条件でアルカリエッチングを行った。
[エッチング条件]
塩基性水溶液:塩基濃度10質量%のエタノール水溶液
処理温度:23℃
処理時間:5時間
【0079】
図4(b)には上記エッチング処理後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。上記エッチング処理後の研磨面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、球晶組織を確認することができた(例えば、図4(b)中の点線で囲んだ部分)。球晶組織を明確に観察できたことから、本発明の前処理方法に含まれるような精密研磨を行うことで、変形、溶融、せん断等物理的に変化しやすい球晶組織の形態を保持させたまま研磨でき、内部組織観察面を出現させることが確認された。したがって、本発明の前処理方法を用いることで変化しやすい樹脂成形品の内部組織の形態を正確に観察することができる。
【0080】
<実施例2>
「ポリブチレンテレフタレート」を「ガラス繊維20%を含むポリアセタール(ポリプラスチックス社製、「ジュラコンGH−25」)」に変更し、エッチング工程を「アルカリエッチング」から「特定波長の紫外線による方法(UVエッチング)」に変更した以外は実施例1と同様の方法で、樹脂成形品の静的延性破面を観察した。なお、UVエッチングの条件は、以下の通りである。
[エッチング条件]
波長:300nm以下
光源との距離:40mm
照射時間:70分
【0081】
実施例1と同様の方法で測定したUVエッチング前の研磨面の表面粗さは、3μmであった。また、図5(a)にはUVエッチング前の研磨面、図5(b)にはUVエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。実施例1と同様に、エッチング前の研磨面からは樹脂部に傷の痕跡がないことと(例えば、図5(a)中の白抜き矢印Dが指す部分)、ガラス繊維の破壊が無いこと(例えば、図5(a)中の白抜き矢印Eが指す部分)が確認された。また、図5(b)に示すように、エッチング後の研磨面からは樹脂成形品の球晶組織の形態を明確に観察することができた(例えば、図5(b)中の線で円状に囲んだ部分)。したがって、本発明の前処理方法を用いることで変化しやすい樹脂成形品の内部組織の形態を正確に観察することができる。
【0082】
<実施例3>
[サンプルの作製]
ガラス繊維を40%含有するポリフェニレンサルファイド(ポリプラスチックス社製、「フォートロン1140A1」)の大きさ12mm×2mm×5mmの樹脂成形品同士を以下の条件で振動溶着させた。溶着後の大きさ12mm×2mm×5mmのサンプルを被研磨物とした。この被研磨物を実施例1と同様の方法でホルダーにセットした。
(溶着条件)
振幅:1mm
エアー圧力:0・2MPa
しずみ込み量:1mm
【0083】
[研磨工程]
面取り工程、粗研磨工程、中間仕上げ工程、精密研磨工程の4段階に分けて以下の材料、表2に示す研磨条件で研磨を行った。溶着部を含む断面を研磨面として、実施例1と同様に被研磨物の研磨面をバフに押し当て、研磨剤を被研磨面とバフとの間に供給しながら、被研磨物とバフとを相対的に摺動させて被研磨物を研磨した。
【0084】
【表2】
【0085】
研磨後の研磨面の表面粗さを実施例1と同様の方法で測定した。表面粗さの結果は、3μmであった。図6には研磨後の研磨面の金属顕微鏡写真を示した。研磨面を金属顕微鏡で観察すると溶着部を確認することができた(図6中の白抜き矢印Fが指す部分)。溶着部の厚みは1mmであった。なお、溶着部の厚みは顕微鏡のスケールを読み取る方法で測定した。
【0086】
<実施例4>
[サンプルの作製]
ガラス繊維30%を含むポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス社製、「ジュラネックス3300」)の大きさ12mm×3mm×80mmの樹脂成形品を切断・研削装置を用いて切断し、図2に示すような切断面1、切断面1’を有し、切断面1、1’の大きさが12mm×10mm、厚み3mmの被研磨物を得た。この被研磨物を実施例1と同様の方法でホルダー(図示せず)にセットした。なお、切断面1を研磨できるように切断面1’とホルダーとが接するようにセットした。
【0087】
[研磨工程]
(工程1)
先ず、表1に記載の条件で切断面1の研磨を行った。研磨後の研磨面を研磨面1とした。実施例1の場合と同様の方法で測定した研磨面1の表面粗さRzは3μmであった。その後、サンプルをホルダー(図示せず)から取り外した。
【0088】
(工程2)
次いで、研磨面1をガラス板(幅27mm×奥行き46mm、厚さ1mm)に常温硬化エポキシビューラー社製エポシンを用いて接着させた。
【0089】
(工程3)
次いで、サンプル作製の際に用いた切断・研削装置を用いて、サンプルの厚みが薄くなるように切断面1’側を切断した。新たに現れた切断面を切断面2とした。サンプル作製の際と同様の方法で、サンプルを再びホルダー(図示せず)にセットした。なお、切断面2を研磨できるようにガラス板とホルダー(図示せず)とが接するようにセットした。
【0090】
(工程4)
最後に切断面2を工程1と同様の方法で研磨した。研磨後の研磨面を研磨面2とした。実施例1と同様の方法で測定した研磨面2の表面粗さは3μmであった。また、マイクロゲージで測定した薄片サンプルの厚みは20μmであった。なお、ガラス板に付いたサンプルを自動研磨装置にセットできなかったため、手で持ちながら研磨装置による研磨を行った。
【0091】
[観察]
偏光顕微鏡を用いて、薄片サンプルの断面観察を行った。図7には両面を研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示した。直径10μm程度の球晶(例えば、図7(a)中の白抜き矢印Gが指す部分)、直径5μm程度の成長過程の球晶(例えば、図7(b)中の白抜き矢印Hが指す部分)を観察することができた。また、亀裂も観察することができた(例えば、図7(a)中の白抜き矢印Iが指す部分)。なお、実施例において球晶組織の直径の測定は、顕微鏡のスケールを読み取る方法で行った。
【0092】
<実施例5>
樹脂成形品を「ポリブチレンテレフタレート」から「ガラス繊維20%を含むポリアセタール(ポリプラスチックス社製、「ジュラコンGH25」)の破壊品」に変更し、サンプル作製の段階で、破壊面に対向する面のみを切断し、この切断面を切断面1’とし、先ず破壊面を研磨して研磨面1とした以外は実施例4と同様の方法で薄片を作製した。なお、「破壊品」とは、大きさ12mm×3mm×20mmの樹脂成形品を、引張試験機を用いて10mm/minの速度で延性破壊した破壊品である。
【0093】
実施例1に記載の方法と同様の方法で測定した研磨面1、研磨面2の表面粗さは、それぞれ、3μm、5μmであり、実施例4に記載の方法と同様の方法で測定した薄片の厚みは20μmであった。
【0094】
実施例4と同様に偏光顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図8には両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示した。破壊部分には球晶組織の塑性変形が観察され(例えば、図8中の白抜き矢印Jが指す部分)、破壊部分以外では直径10μm程度の球晶を観察することができた(例えば、図8中の白抜き矢印Kが指す部分)。破壊部分以外の樹脂部分では上記の通り球晶が確認できたため、変形した球晶も破壊により変形した球晶であることが分かる。本発明の前処理方法を用いれば、樹脂内部組織を変化させずに研磨することができるため、薄片を作製すればエッチング等の研磨後の処理を行うことなく内部組織を正確に観察することができる。
【0095】
<実施例6>
樹脂成形品を「ポリアセタール」から「ガラス繊維を40%含有するポリフェニレンサルファイド(ポリプラスチックス社製、「フォートロン1140A1」)の破壊品」に変更し、研磨工程における研磨条件を「表1に記載の条件」から「表2に記載の条件」へ変更した以外は実施例5と同様の方法で薄片を作製した。なお、「破壊品」とは、大きさ12mm×3mm×10mmの樹脂成形品を、引張試験機を用いて10mm/minの速度で延性破壊させた破壊品である。
【0096】
実施例1に記載の方法と同様の方法で測定した研磨面1、研磨面2の表面粗さは、それぞれ、3μm、5μmであり、実施例4に記載の方法と同様の方法で測定した薄片の厚みは10μmであった。
【0097】
実施例4と同様に偏光顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図9には両面を研磨した研磨面の偏光顕微鏡写真を示した。破壊部分には球晶組織の塑性変形が観察され(例えば、図9中の白抜き矢印Lが指す部分)、破壊部分以外では直径5μm程度の球晶を観察することができた(例えば、図9中の白抜き矢印Mが指す部分)。
【0098】
<実施例7>
樹脂成形品を「ポリブチレンテレフタレート」から「実施例3の溶着サンプル」に変更し、研磨工程における研磨条件を「表1に記載の条件」から「表2に記載の条件」へ変更し、溶着部を観察することができるように溶着部を含む切断面1、切断面1’にした以外は実施例4と同様の方法で薄片を作製した。
【0099】
実施例1に記載の方法と同様の方法で測定した研磨面1、研磨面2の表面粗さは、それぞれ、5μm、15μmであり、実施例4に記載の方法と同様の方法で測定した薄片の厚みは10μmであった。
【0100】
実施例4と同様に偏光顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図10には研磨面の金属顕微鏡写真を示した。溶着部(図10中の白抜き矢印Nが指す部分)の厚みを顕微鏡のスケールを基準に読み取ることで測定した。その結果、溶着部の厚みは1mmであった。本発明の前処理方法であれば、潰れてしまいやすい溶着部を潰すことなく研磨することができるため、溶着部の厚みを観察し、測定することができる。
【0101】
<比較例1>
研磨工程を行わずに、ダイヤモンドミクロトームによる切断を行い、ダイヤモンドミクロトームによる切断面をアルカリエッチングした以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形品破断面を観察した。
【0102】
図11には、ダイヤモンドミクロトームによる切断面のレーザー顕微鏡写真を示した。図12(a)には、ダイヤモンドミクロトームによる別の切断面の走査型電子顕微鏡写真を示した。実施例1と同様のレーザー顕微鏡を用いる方法で測定したエッチング前の切断面の表面粗さは50μmであった。アルカリエッチング前の切断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂部分には無数の傷(例えば、図12(a)中の白抜き矢印Oが指す部分)があり、ガラス繊維が破壊(例えば、図12(a)中の白抜き矢印Pが指す部分)されていることが確認された。また、図12(b)にはアルカリエッチング後の切断面の走査型電子顕微鏡写真を示した。アルカリエッチング後の切断面も同様の走査型電子顕微鏡を用いる方法で観察すると、球晶組織は破壊されてしまっており、球晶組織の形態を全く確認することができなかった。
【0103】
<比較例2>
研磨工程を面取り工程、粗研磨工程の二段階にした以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形品内部を観察した。
【0104】
図13(a)には、粗研磨工程後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。粗研磨工程後の研磨面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂部分には無数の傷(例えば、図13(a)中の白抜き矢印Qが指す部分)があり、ガラス繊維が破壊(例えば、図13(a)中の白抜き矢印Rが指す部分)されていることが確認された。図14には、粗研磨工程後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示した。実施例1と同様の方法で測定したエッチング前の切断面の表面粗さは30μmであった。図13(b)には、アルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。アルカリエッチング後の研磨面も走査型電子顕微鏡を用いる方法で観察すると、球晶組織は破壊されてしまっており、球晶組織の形態を全く確認することができなかった。
【0105】
<比較例3>
研磨工程を面取り工程、粗研磨工程、中間仕上げ工程1の三段階にした以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形品内部を観察した。
【0106】
図15(a)には、中間仕上げ工程1後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。中間仕上げ工程1後の研磨面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂部分には無数の傷(例えば、図15(a)中の白抜き矢印Sが指す部分)があり、ガラス繊維が破壊(例えば、図15(a)中の白抜き矢印Tが指す部分)されていることが確認された。実施例1と同様のレーザー顕微鏡を用いる方法で測定した中間仕上げ工程1後の研磨面の表面粗さは20μmであった。図15(b)には、アルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示した。アルカリエッチング後の研磨面も同様の方法で観察すると、球晶組織は破壊されてしまっており、球晶組織の形態を全く確認することができなかった。
【0107】
以上の実施例1と比較例1から3とから明らかなように、精密研磨工程を最後に行うことで、球晶組織の形態に破壊がない研磨面を得ることができ、内部組織の観察を正確にできることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の前処理方法を含む観察方法のフローチャートである。
【図2】両面研磨工程を示す図である。
【図3】実施例1の研磨後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示す図である。
【図4】(a)は実施例1の研磨後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は実施例1のエッチング処理後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】(a)は実施例2のUVエッチング前の研磨面、(b)は実施例2のUVエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】実施例3の研磨後の研磨面の金属顕微鏡写真を示す図である。
【図7】実施例4の両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例5の両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図9】実施例6の両面研磨後の研磨面の偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例7の研磨面の金属顕微鏡写真を示す図である。
【図11】比較例1のダイヤモンドミクロトームによる切断面のレーザー顕微鏡写真を示す図である。
【図12】(a)は、比較例1のダイヤモンドミクロトームによる切断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は、比較例1のアルカリエッチング後の切断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図13】(a)は、比較例2の粗研磨工程後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は、比較例2のアルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図14】比較例2の粗研磨工程後の研磨面のレーザー顕微鏡写真を示す図である。
【図15】(a)は、中間仕上げ工程1後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(b)は、比較例2のアルカリエッチング後の研磨面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填剤を含む樹脂成形品の内部組織を観察するための内部組織観察面の前処理方法であって、
前記内部組織観察面を研磨する研磨工程を備え、
前記研磨工程は、研磨面の表面粗さRzが15μm以下になるように研磨する工程を含む内部組織観察面の前処理方法。
【請求項2】
前記表面粗さRzが1μmから10μmである請求項1に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項3】
前記研磨工程は、前記無機充填剤よりも硬度が低い研磨剤と、バフと、を用いてバフ研磨するバフ研磨工程である請求項1又は2に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項4】
前記研磨工程は、粒径が0.02μmから50μmの砥粒を含む研磨剤を用いて研磨する工程である請求項1から3のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項5】
前記樹脂成形品が、球晶組織を有する結晶性高分子を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品である請求項1から4のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項6】
前記研磨工程が、前記研磨面と、前記研磨面に対向する面と、を両面研磨する両面研磨工程であり、前記両面研磨工程後の前記樹脂成形品の一方の研磨面から他方の研磨面までの厚みが、5μmから50μmである請求項1から5のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項7】
前記内部組織観察面の樹脂組織の形態を損なうことなく前記内部組織観察面をエッチングするエッチング工程を、前記研磨工程後にさらに有する請求項1から5のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の前処理を施した観察面を観察する内部組織観察方法。
【請求項9】
前記観察は、レーザー顕微鏡、金属顕微鏡、偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、又は蛍光顕微鏡を用いて行う観察である請求項8に記載の内部組織観察方法。
【請求項10】
前記樹脂成形品は、樹脂間に溶着部を有し、
前記内部組織観察面は、前記溶着部を含み、
請求項1から6のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法を用いた前記溶着部の厚さ測定方法。
【請求項1】
無機充填剤を含む樹脂成形品の内部組織を観察するための内部組織観察面の前処理方法であって、
前記内部組織観察面を研磨する研磨工程を備え、
前記研磨工程は、研磨面の表面粗さRzが15μm以下になるように研磨する工程を含む内部組織観察面の前処理方法。
【請求項2】
前記表面粗さRzが1μmから10μmである請求項1に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項3】
前記研磨工程は、前記無機充填剤よりも硬度が低い研磨剤と、バフと、を用いてバフ研磨するバフ研磨工程である請求項1又は2に記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項4】
前記研磨工程は、粒径が0.02μmから50μmの砥粒を含む研磨剤を用いて研磨する工程である請求項1から3のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項5】
前記樹脂成形品が、球晶組織を有する結晶性高分子を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品である請求項1から4のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項6】
前記研磨工程が、前記研磨面と、前記研磨面に対向する面と、を両面研磨する両面研磨工程であり、前記両面研磨工程後の前記樹脂成形品の一方の研磨面から他方の研磨面までの厚みが、5μmから50μmである請求項1から5のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項7】
前記内部組織観察面の樹脂組織の形態を損なうことなく前記内部組織観察面をエッチングするエッチング工程を、前記研磨工程後にさらに有する請求項1から5のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の前処理を施した観察面を観察する内部組織観察方法。
【請求項9】
前記観察は、レーザー顕微鏡、金属顕微鏡、偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、又は蛍光顕微鏡を用いて行う観察である請求項8に記載の内部組織観察方法。
【請求項10】
前記樹脂成形品は、樹脂間に溶着部を有し、
前記内部組織観察面は、前記溶着部を含み、
請求項1から6のいずれかに記載の内部組織観察面の前処理方法を用いた前記溶着部の厚さ測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−151679(P2010−151679A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331275(P2008−331275)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
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