説明

樹脂成形品の成形方法、樹脂成形品、型内被覆成形方法、及び型内被覆成形品

【課題】その表面に、金型キャビティ面の形状が精度良く転写されており、表面が綺麗で、熱収縮等によって部分的に厚みが薄くなっている等の不具合の少ない樹脂成形品を成形する方法を提供する。
【解決手段】金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程とからなり、第2の工程で金型を型締めする型締力が、第1の工程で金型を型締めする型締力の10〜50%である樹脂成形品の成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内で樹脂を成形した後、樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤(塗料と称することもある)を注入して硬化させることにより、表面を被覆剤により被覆(塗膜と称することもある)する型内被覆成形方法と型内被覆成形品、及び樹脂成形品の成形方法と樹脂成形品に関するものであって、特に被覆の厚みを均一にして外観が良好な成形品を成形するに適した型内被覆成形方法と、その型内被覆成形方法によって成形した型内被覆成形品、及び樹脂成形品の成形方法と、その成形方法によって成形した樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂で成形した樹脂成形品の装飾性を高める方法として、塗装法による加飾が多く用いられている。従来から行われている塗装法は、金型内で射出成形した成形品を、金型から取り出した後、スプレー法や浸漬法等によって、成形品の表面に塗料の塗布を行うことが一般的である。塗布された塗料はその後、乾燥することによって、強固な塗膜となって成形品の表面を被覆し、該表面を加飾するとともに保護することが可能となる。なお、被膜剤を塗料と同義語として、以下において使用することがある。しかしながら、近年においては前記塗装方法による工程の省略化を目的とし、樹脂の成形と被覆を同一の金型内で行う型内被覆成形方法(インモールドコーティング方法と称されることもある)が提案されている。
【0003】
図12に前記型内被覆成形方法の一例のフローチャートを示す。図12に示した従来の型内被覆成形方法は、基材となる熱可塑性樹脂を金型内で射出成形して、ある程度まで樹脂を冷却させた後、金型をわずかに開いた状態として型内で成形した樹脂成形品と金型キャビティ面との間に隙間を生じさせ、該隙間に塗料注入機を使用して塗料を注入する。その後、金型を再度型締することによって成形品の表面に塗料を均一に拡張させた後、硬化させて被覆することを特徴とした型内被覆成形方法である。前記型内被覆成形方法によれば、熱可塑性樹脂の成形と被覆を同一の金型内で行うため、工程の省略化によるコストダウンが可能であると同時に、浮遊している塵が乾燥前の被覆(塗膜と称することもある)に付着して不良となる等といったことがほとんどなく、高い品質の製品を得ることができる。そのため、特に、外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品、例えば、バンパー、ドア、ドアミラーカバー、フェンダー等多くの部品には、前記型内被覆成形方法の利用が検討されている。
【0004】
前記型内被覆成形方法は、例えば特開平11−277577号公報(特許文献1)、特開2000−141407号公報(特許文献2)、特開2000−334800号公報(特許文献3)、及び特開2001−38737号公報(特許文献4)にその例が示めされている。しかしながら、前記従来の方法により型内被覆成形方法を実施した場合に、被覆剤である塗料の注入量が少ないと、再型締めの際に塗料に型締力を作用させることができず、樹脂成形品の被覆面全体に均一な被覆を施すことができないという問題を生じる。被覆が均一にならない原因の一つは、型内で成形した樹脂が熱収縮によって容積減少するためであり、熱収縮により成形品の厚さが薄くなると、キャビティ内で樹脂成形品とキャビティ面の間に隙間ができ、所望する膜厚に相当する塗料の注入量では、この隙間を満たすことができなくなる。そのため、被覆面の全体に塗料が行き渡らず、被覆が均一にならない。
【0005】
前記問題を解決するため被覆剤の注入量を増やした場合には、被覆剤に対して金型表面を良好に転写できないという問題を解決することはできるものの、被覆剤の厚みが必要以上に厚くなるといった問題を生じる。さらに、被覆が均一にならないもう一つの原因は、成形時の金型変形にある。金型は通常高い剛性を有しているが、型締装置で型締めすると数μm〜数十μmレベルオーダーで変形する。通常の樹脂成形においてこの程度の変形はあまり問題とならないが、型内被覆成形方法においては、樹脂成形品の表面に数十μm程度の厚みで被覆剤を施すことが一般的であり、前記金型の変形による金型キャビティ形状の変化が、被覆剤の厚みが均一にならない原因の一つとなる。特に、従来の型内被覆成形方法では、塗料注入後の型締力を多段に変化させて型締めするといった方法を取る場合があったが、該方法においては、型締力の大きさによって金型の変形程度が変化することによって、樹脂成形品表面と金型キャビティ面との間隔が変化して、被覆剤の厚みが均一にならない。
【0006】
ここで、一般的な射出成形条件で成形した樹脂成形品は、図10(a)〜(d)に示したように、金型キャビティ内に充填した溶融樹脂が熱収縮することにより金型を開かなくとも金型キャビティ面と樹脂成形品の間に空隙を生じる場合がある。この隙間の大きさは金型キャビティの形状や樹脂成形品の厚み寸法などに影響を受けて様々に変化するため、被覆面全体に均一な空隙が生じることは極めて少ない。そのため、型内被覆成形方法を実施する場合においては金型を開くことによって最低の被覆剤厚みを確保する必要があるが、金型を開けば前記熱収縮による空隙と、型開による空隙とが合わさった部分は極端に被覆の厚みが大きくなるという問題を生じる。
【0007】
樹脂の熱収縮量をカバーするために、金型キャビティ容積量より多い容積量の溶融樹脂を、金型キャビティ内に過大な充填圧力をかけて充填した場合は、図11(a)〜(d)に示したように、過大な充填圧力が樹脂成形品に厚みのばらつき等を生じさせて好ましくない。図11(a)〜(d)に示した従来技術の実施形態においては、過大な射出圧力によって、樹脂成形品の肉厚が、端部とゲート部近傍とで異なっている。さらに説明すれば、塗料注入後の再型締圧力を必要以上に高くすると、リブやボス等の厚肉部の表面が盛りあがるハンプと呼ばれる現象が生じて好ましくない。この不良を抑えるためには、被覆剤注入後の型締力を低下させる必要があるが、樹脂射出時の型締力と被覆剤注入後の型締力に大きな差がある場合は、被覆の厚みムラが発生するという問題を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、被覆の厚みを均一にして外観が良好な成形品を成形するに適した型内被覆成形方法と、その型内被覆成形方法によって成形した型内被覆成形品、及び樹脂成形品の成形方法と、その成形方法によって成形した樹脂成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明によれば、第一に、雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形する樹脂成形品の成形方法において、該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程とからなり、第2の工程で金型を型締めする型締力が、第1の工程で金型を型締めする型締力の10〜50%である樹脂成形品の成形方法が提供される。
【0010】
なお、この態様を本発明の第1の態様という。この態様において、好ましくは、前記第2の工程で金型を型締めする型締力は、単位面積あたりの型内圧力で表したとき、2〜15MPaの範囲、より好ましくは、4.0〜10MPaの範囲である。
【0011】
また、本発明によれば、雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形するとともに該樹脂成形品の表面に被覆を施す型内被覆成形方法において、該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程と、該樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤を注入するための空隙を形成する第3の工程と、該空隙に被覆剤を注入して金型を再度型締めする第4の工程とからなり、第2の工程で金型を型締めする型締力が、第1の工程で金型を型締めする型締力の10〜50%である型内被覆成形方法が提供される。なお、この態様を本発明の第2の態様という。この態様において、好ましくは、前記第2の工程で金型を型締めする型締力は、単位面積あたりの型内圧力で表したとき、2〜15MPaの範囲、より好ましくは、4.0〜10MPaの範囲である。
【0012】
本発明によれば、上記した第1の態様により成形された樹脂成形品、及び第2の態様により成形された型内被覆成形品が提供される。
【0013】
本発明の第1及び第2の態様において、第1の工程とは、所定容積の金型キャビティが形成される位置まで可動金型を移動させ、次いで、射出装置を操作して同キャビティに溶融樹脂を射出し、射出完了後に所望とする位置までさらに可動金型を移動させる操作を含む工程をいう。
【0014】
本発明の第1または第2の態様においては、第2工程とは、金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に、射出した溶融樹脂の冷却に伴う熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ、射出し、固化した樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する操作を含む工程をいう。
【0015】
本発明の第2の態様においては、第3工程とは、第2工程終了時において、樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で、可動金型を移動させ、金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に空隙を形成させる工程をいう。
【0016】
本発明の第2の態様においては、第4工程とは、第3工程で形成させた該空隙に被覆剤を注入して、次いで、金型を再度型締めし、その状態で被覆剤を硬化させる操作を含む工程をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金型表面を良好に転写し、樹脂成形品の被覆面全体に均一な被覆を施すことができる。また、金型の変形量を抑えて被覆剤の厚みを全体的に均一にすることができるという優れた効果を発揮する。さらに、被覆剤の厚みの均一化も可能となるという優れた効果も発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明による型内被覆成形方法の好ましい実施形態の例について説明する。
図1は、型内被覆成形用金型の構成を説明するため概略の構造を示した構造図であり、図2(a)〜(d)は、型内被覆成形方法における金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。図3は、型内被覆成形装置全体の構成を説明する全体構成図である。
図4は、型内被覆成形用金型の構成を説明するため概略の構造を示した構造図であり、図5(a)〜(d)は、型内被覆成形方法における金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。図6は、型内被覆成形方法のフローチャートである。図7は、実施例1〜3および比較例1〜3において成形した樹脂成形品において、塗膜厚みの測定点を示す図面であって、樹脂成形品を金型の開閉方向から投影したときの投影図である。図8は、参考例5、および比較例6において成形した樹脂成形品の断面形状を示す図面であり、塗膜厚みの測定点は、矢印でそれぞれ示している。図9は、参考例5、および比較例6において成形した樹脂成形品の各測定点における塗膜厚み(μm)の変動を示すグラフである。図10(a)〜(d)及び図11(a)〜(d)は、従来技術による金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。図12は、従来技術による型内被覆成形方法のフローチャートである。
【0019】
本発明の第1及び第2の態様に用いた型内被覆成形用金型装置10A(金型10Aと称することもある)の好ましい1例について、以下その構造を図1を用いて簡略に説明する。本発明による金型10Aは、可動型14A、固定型12A、及び塗料注入機50を備えている。なお、図1に示した実施形態の1例においては、可動型14Aが雌型であり、固定型12Aが雄型である。なお、金型キャビティ15Aの形状は、図1にその断面を図示したように、平板状となっている。
【0020】
次に、塗料注入機50について簡単に説明する。本実施の形態における塗料注入機50は、可動型14Aに取り付けられて、可動型14Aの金型キャビティ面に配設された塗料注入口51より金型キャビティ15A内に塗料を注入することができるよう構成されている。また、塗料注入機50の塗料注入口51には図示しないバルブが取りつけられており、基材の射出成形時においては、該バルブが閉じられていることによって、金型10Aの金型キャビティ15A内に射出された樹脂が塗料注入口51より塗料注入機50内に進入することを防止している。そして、本実施の形態における塗料注入機50は、図示しない駆動装置によって駆動されて、塗料注入機50の中に供給された塗料を、所望する量だけ正確に可動型14Aの金型キャビティ面より注入することができるよう構成されている。
【0021】
なお、本実施の形態における塗料注入機50は、前記したように可動型14Aの金型キャビティ面より塗料を注入するよう構成したが、これに限るものではなく、金型キャビティ15A内で成形した樹脂成形品と金型キャビティ面との間に生じた隙間部分に塗料を注入できるように構成すれば良く、その条件を満たせば塗料注入機50は固定型12Aに取りつけられる等しても良い。
【0022】
以下、型内被覆成形方法の好ましい一例を図1〜図3及び図6を用いて説明する。
【0023】
まず、第1の工程として、型締装置20によって金型10Aを型閉して、金型キャビティ15Aを形成する。この際における金型キャビティ15Aの容積は、後述する樹脂成形品の寸法容積に対して溶融樹脂の熱収縮量に相当する分だけ大きめとする。なお、金型10Aは後述の工程で、前記溶融樹脂の熱収縮量分だけ金型キャビティ15Aの容積を小さくすることが必要となるため、それを勘案した金型10Aの構成配置が必要である。例えば、先に説明した図1に示すくいきり構造の嵌合部を備えた金型を用いることにより、溶融樹脂の射出後に熱収縮量分だけ金型キャビティ15Aの容積を小さくすることができるよう固定型12Aと可動型14Aを配置しておくことが必要である。
【0024】
所望する樹脂成形品の寸法容積に対して溶融樹脂の熱収縮量に相当する分だけ大きめとした金型キャビティ15Aを形成した後、図2(a)に示したように、射出装置30(図示せず。)によって、基材である熱可塑性樹脂を溶融状態で金型キャビティ15A内に射出(本実施の形態においては、基材として耐熱ABS樹脂:UMGABS社製UT20Bを使用した。)する。なお、本実施形態では溶融樹脂を充填する際において、金型キャビティ15Aの容積量ができるだけ変化しないようにするために、トグル式型締機構23(図示せず。)に配した型締シリンダ22(図示せず。)の油圧を調整し、可動盤28(図示せず。)の位置が射出中一定となるよう制御した。そして、可動盤28の位置が概略一定となるよう制御するために必要な型締力Pの最大値をPmaxとして、樹脂成形品を金型開閉方向から投射した場合の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧Mmaxを、以下に示す式1により求めたところ、50MPa(メガパスカル)であった。前記面圧maxは成形品の形状や大きさ、また樹脂の種類や溶融温度等の多くの要因によってその大きさは左右されるが、低圧成形方法と呼ばれる一部の射出圧縮又は射出プレス方法を除けば、一般的に少なくとも30MPa以上である。
【0025】
【数1】

【0026】
なお、本実施形態においては、金型キャビティ15Aの容積量ができるだけ変化しないように可動盤28の位置を制御する方式としたが、本発明に適用できる第1の工程の型締制御方式はこれに限らず、溶融樹脂充填の際に、溶融樹脂の充填圧力により金型10Aが開くことによって金型キャビティ15Aの容積が増えるように型締装置を制御しても良い。
【0027】
金型キャビティ15A内に溶融樹脂を射出完了した後、第2の工程に進み、溶融樹脂を冷却して後述する被覆剤の注入圧力に耐えうる程度まで固化させる工程に入る。ここで、金型キャビティ15Aの容積は、溶融樹脂の射出完了直後の時点において、少なくとも後述する樹脂成形品の寸法容積に対して溶融樹脂の熱収縮量に相当する分だけ大きめである。また、第一の実施形態においては、この第2の工程において、第1の工程より型締力を変化させて、型締力を1000kN(キロニュートン)として、樹脂成形品の投影面積S(第一の実施形態においては2000cmとした)で割った単位面積あたりの面圧を5MPaとした。
【0028】
この状態で金型10Aを型締めすると、金型キャビティ15A内の溶融樹脂の熱収縮に合わせて、金型10Aが徐々に閉じられて溶融樹脂が賦形される。基材の冷却後、第3の工程に進み、図2(c)に示すように金型をわずかに開いた状態(1mmほど型開方向に可動型14Aを移動させた状態)として、金型キャビティ15A内で成形した樹脂成形品と可動型14Aの金型キャビティ面との間に空隙を生じさせる。
【0029】
前記隙間を生じさせた後、塗料注入機50によって塗料注入口51から金型キャビティ15A内に塗料を20ml注入すると、型開によって生じた空隙に塗料が流れ込み始める。なお、この実施形態に用いた金型で成形する成形品の被覆表面積は2000cmであり、塗膜の厚みは0.1mm程度となる。また、用いた塗料は、プラグラス#8000:白色(大日本塗料株式会社製)である。
【0030】
塗料を注入した後、第4の工程に進み、図2(d)に示すように、可動型14Aを固定型12Aの方向に移動させ金型10Aを再度閉じて型締めすることにより、隙間の中の塗料を押し広げながら流動させ、成形品表面を塗料で被覆する。この第4の工程において、型締力を1000kNとして、型締力を樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧(単位面積あたりの型内圧力ともいう。)を5MPaとした。
【0031】
ここで、この実施形態による型内被覆方法の優れている点について以下説明する。この実施形態においては、第2の工程において溶融樹脂の熱収縮に合わせて金型キャビティ15Aの容積を減少させているので、樹脂成形品の被覆を施す表面の大部分が、被覆が施される直前まで常に金型キャビティ面に押圧されている状態となる。このような状態で成形した樹脂成形品の表面は、金型キャビティ面の形状を精度良く転写することができ、被覆剤の厚みが均一にならないという従来の問題を効果的に防止できる。
【0032】
また、この実施形態においては、樹脂成形品の形状が決まる第2の工程の型締力を、第4の工程の型締力と実質的に同一となるように設定にしている。背景技術の欄で前述したように、被覆剤の厚みが均一にならない原因は、成形時の金型変形にある。
【0033】
第2の工程における型締力と第4の工程における金型キャビティ15の変形モード、及び変形量を第2の工程と第4の工程で近似させるには、型締力を実質的に同一となるようにすればよい。つまり、第2の工程で金型キャビティ15の形状が型締力により多少変形したとしても、第4の工程で金型キャビティ15の形状が同様に変形するので、被覆剤の厚みは均一になるという優れた作用効果を有している。従って、第2の工程の型締力と第4の工程の型締力を少しでも近づけることによって効果がでるが、近づければ近づけるほど効果が向上する。好ましい範囲としては、第2の工程と第4の工程における面圧(型締力を樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの圧力)の差を5MPa以内として、第2の工程における型締力と第4の工程における型締力を略同一にすることであり、さらに好ましくは前記面圧を3MPa以内とすることであり、最も好ましいのは第2の工程における型締力と第4の工程における前記面圧を1MPa以内とすることである。
【0034】
また、塗料注入後の再型締圧力を必要以上に高くすると、リブやボス等の厚肉部の表面が盛りあがるハンプと呼ばれる現象が生じて好ましくないこと等から、第4の工程で金型を型締めする型締力が、前記被覆剤に対して与える単位面積あたりの圧力を、1〜20MPaの範囲とすることは好ましく、さらに好ましくは1〜10MPaの範囲とすることである。
【0035】
次に、本発明の第1及び第2の態様について、先に説明した実施形態と異なっている部分を中心に説明する。
第1及び第2の態様に用いた型内被覆成形用金型装置10(金型10と称することもある)ついて、以下その構造を、図4を用いて簡略に説明する。金型10は、先に説明した実施形態に用いた金型10Aと同様に可動型14、固定型12、及び塗料注入機50を備えており、固定型12と可動型14とがくいきり構造の嵌合部で嵌め合わされて、金型キャビティ15の全周にわたってくいきり部が形成されている。金型10の金型キャビティ形状は、図4にその断面を図示したように、金型キャビティ15の外周に型閉方向に沿って延在する側壁部分を有して、開口部を有した箱型となっていることである。金型10は、雄型である固定型12と雌型である可動型14とがくいきり構造の嵌合部で嵌め合わされ、該嵌め合わされた状態でその内部に金型キャビティ15Aを形成する構造となっており、該くいきり構造の嵌合部(くいきり部と称することもある)は金型キャビティ15の全周にわたって形成される。
【0036】
そして、金型10はくいきり部にて金型キャビティ15に充填した樹脂が、金型10から漏れ出すことを防止することができる。
また、塗料注入機50の配置と構造は、先に説明した実施形態と同様であるので省略する。
【0037】
以下、本発明による第1及び第2の態様による樹脂成形品の成形方法及び型内被覆成形方法を、図5(a)〜(d)を用いて説明する。第1の工程として、型締装置20により金型10を型閉して、金型キャビティ15を形成する。この際における金型キャビティ15の容積は、先に説明した実施形態と同様に、樹脂成形品の寸法容積に対して溶融樹脂の熱収縮量に相当する分だけ大きめとする。そして、先に説明した実施形態と同様に金型キャビティ15内に耐熱性ABS樹脂を射出した後、第2の工程に進み、金型キャビティ15内の溶融樹脂の熱収縮に合わせて、金型10を徐々に閉じる。
【0038】
本発明の第1及び第2の態様では、この第2の工程において、第1の工程より型締力を大幅に減少させて、型締力を樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧を小さくする。即ち、第2の工程における型締力は、第1の工程の型締力の10〜50%とし、10〜25%とすることがより好ましい。本実施形態においては、第2の工程における面圧M2を第1の工程における面圧M1の10%に相当する5MPaとした。
本発明の第2の態様では、基材の冷却後、第3の工程に進み、図5(c)に示すように金型をわずかに開いた状態(1mmほど型開方向に可動型14を移動させた状態)として、金型キャビティ15内で成形した樹脂成形品と可動型14の金型キャビティ面との間に空隙(隙間と称することもある)を生じさせる。
【0039】
前記隙間を生じさせた後、塗料注入機50によって塗料注入口51から金型キャビティ15内に被覆剤を25ml(ミリリットル)注入すると、型開によって生じた空隙と前記側壁部に生じた空隙とに被覆剤が流れ込み始める。なお、成形する成形品の被覆表面積は2500cmであり、被覆の厚みは0.1mm程度となる。また、用いた被覆剤は、プラグラス#8000:白色(大日本塗料株式会社製)である。
【0040】
被覆剤(塗料)を注入した後、第4の工程に進み、図5(d)に示すように、可動型14を固定型12の方向に移動させ金型10を再度閉じて型締めすることにより、隙間の中の被覆剤を押し広げながら流動させ、成形品表面を被覆剤で被覆する。
【0041】
本実施形態においては、この第4の工程において、型締力を樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧を面圧M3は、第2の工程における金型キャビティの変形が実質的に同一になるように、好ましくは、実質的に同一の面圧となるように選択する。この実施態様においては、第2の工程と同じ5MPaを採用した。
【0042】
ここで、本実施形態による樹脂成形品の成形方法及び型内被覆方法の優れている点について以下説明する。本実施形態では、第2の工程において、溶融樹脂の熱収縮に合わせて金型キャビティ15の容積を減少させているので、樹脂成形品は被覆が施される直前まで常に金型キャビティ面に押圧されている状態となる。
【0043】
このような状態で成形した樹脂成形品の表面は、金型キャビティ面の形状を精度良く転写するので、表面が綺麗で、熱収縮等によって部分的に厚みが薄くなっていることが少ないという特徴を有している。従って、樹脂成形品の厚みが熱収縮により薄くなって被覆が均一にならないという従来の問題を効果的に防止できる。
【0044】
また、本実施形態においては、樹脂成形品の形状が決まる第2の工程の型締力を、第1の工程の型締力に比較して大幅に減少させている。解決すべき課題の欄で前述したように、被覆剤の厚みが均一にならないもう一つの原因は、成形時の金型変形にある。通常、金型10の変形量は、第1の工程における型締力Pmaxに基づいて設計されているので、第2の工程で金型を型締めする型締力を該第1の工程で金型を型締めする型締力より小さくすることによって、金型の変形が少なく押さえられ、成形品の厚みが均一になるという効果を生じる。
【0045】
実際に成形を行なう上で効果が確認できる好ましい範囲は、第2の工程で金型を型締めする型締力を、該第1の工程で金型を型締めする型締力の50%以下とした範囲である。また、第2の工程の型締力を小さくすることによって、樹脂成形品の側壁部に熱収縮によるわずかな空隙が徐々に発生するので、側壁部分にも被覆剤が流入することができ、良好な被覆を施すことができる。
【0046】
ここで、前述した様に第1の工程における型締力Pmaxは樹脂成形品に対して与える単位面積あたりの圧力である面圧に基づいて設計されており、通常は型締力Pmaxの際において、前記面圧が30MPa以上となるよう設計されている。従って、第2工程で型締力が樹脂成形品に対して与える単位面積あたりの圧力を15MPa以下にすることが好ましく、さらに効果を高める意味で10MPa以下にすることが好ましい。また、樹脂成形品の被覆が施される直前まで常に金型キャビティ面で押圧するための面圧も必要であることから、前記第2の工程における型締力のさらに好ましい範囲としては、単位面積あたりの型内圧力を2〜15MPa、更に好ましい範囲としては、4〜10MPaである。
【0047】
また、塗料注入後の再型締圧力を必要以上に高くすると、リブやボス等の厚肉部の表面が盛りあがるハンプと呼ばれる現象が生じて好ましくないこと等から、第4の工程で金型を型締めする型締力が、前記被覆剤に対して与える単位面積あたりの圧力を、1〜20MPaの範囲とすることは好ましく、さらに好ましくは、1〜10MPaの範囲とすることである。
【0048】
以下、実施例を挙げて更に、本発明について説明するが、勿論、本発明は、以下の実施例により何ら制限的に解釈されるものではないことはいうまでもない。
(実施例1〜3および比較例1〜3)
【0049】
図7に示す様な投影形状を有し、投影面積が約2400cmの金型を用いて、耐熱ABS樹脂(UMGABS社製UT20B))を用いて第2工程の型締力を変化させてABSの成形を行った。この時の成形品厚みを測定した結果を表1に示す。なお、図7中の○の中の数字は、測定点を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
第一工程の型締力(850ton)に対して第2工程の型締力が50%を超える比較例1および2では、成形品の厚みのバラツキが大きいのに対し、10%から50%の範囲内である実施例1〜3においては、成形品厚みのバラツキが小さくなっている。更に10%未満である比較例3においては、成形品表面に明らかなひけ発生が認められた。
【0052】
(参考例1〜4および比較例4〜5)
同じ金型を用いて耐熱ABS樹脂(UMGABS社製UT20B))及び塗料(大日本塗料社製プラグラス#8000赤)を用いて第2工程の型締力および第4工程の型締力を変化させて型内塗装成形を行った。この時の塗膜厚みを測定した結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
比較例4および5では、第2工程の型締力と第4工程の型締力には750tonの差があり、この差は、型内圧に換算するとおよそ30MPaである。この時の塗膜厚みの最大値と最小値の差は60μm以上あり、塗膜の厚みから見ると大きなバラツキをもっている。一方、参考例1〜3では、第2工程の型締力と第4工程の型締力を実質的に同一となるように制御しており、この場合の塗膜厚みの差は15μmから20μmで、ほぼ均一な塗膜が形成されている。なお、参考例4では型内圧の差は8MPaであり、両者の中間的な値を採用したものである。
【0055】
(参考例5および比較例6)
サイドカバー形状(投影面積:約500cm)の金型を用いて耐熱ABS樹脂(UMGABS社製UT20B)及び塗料(大日本塗料社製プラグラス#8000赤)を用いて、第2工程の型締力および第4工程の型締力を、以下の表3に示すように変化させて型内塗装成形を行った。得られた成形品の塗膜厚みを測定した測定点をその断面形状上にそれぞれ矢印で示したものを図8に、この時の各測定点における塗膜厚みの変動を図9に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
図9の結果から明らかなように、第2の工程の型締力を第1の工程の型締力よりも低く制御した参考例5では、樹脂成形品の両端の立面での塗膜厚みが、樹脂成形品の平面部での塗膜厚みに近いのに対して、第2の工程の型締力を第1の工程の型締力と同一にした比較例6では、樹脂成形品の両端の立面での塗膜厚みは、樹脂成形品の平面部で塗膜厚みに比べて、著しく薄くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明においては、第2の工程において溶融樹脂の熱収縮に合わせて金型キャビティの容積を減少させることにより、樹脂成形品は被覆が施される直前まで常に金型キャビティ面に押圧されている状態となって金型表面を良好に転写し、樹脂成形品の被覆面全体に均一な被覆を施すことができる。なお、樹脂成形品の形状が決まる第2の工程の型締力を、第1の工程の型締力に比較して大幅に減少させて50%以下とすることにより、金型の変形量を抑えて被覆剤の厚みを全体的に均一にすることができるという優れた効果を有している。
また、第2の工程の型締力を小さくすることによって、樹脂成形品の側壁部に熱収縮によるわずかな空隙が徐々に発生するので、側壁部分にも被覆剤が流入することができ、良好な被覆を施すことができる。前述した第2工程の型締力は、樹脂成形品に被覆が施される直前まで常に金型キャビティ面で樹脂成形品を押圧する必要があることから、単位面積あたりの型内圧力として表したとき、2〜15MPa範囲、好ましくは、4〜10MPa範囲とする。
また、本発明は金型を予め開いた状態として塗料を注入する方法のみならず、塗料の注入圧力により金型を開く型内被覆成形方法においても、本発明は適用可能であって、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、型内被覆成形用金型の構成を説明するため概略の構造を示した構造図である。
【図2】図2(a)〜(d)は、型内被覆成形方法の金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。
【図3】図3は、型内被覆成形装置全体の構成を説明する全体構成図である。
【図4】図4は、型内被覆成形用金型の構成を説明するため概略の構造を示した構造図である。
【図5】図5(a)〜(d)は、型内被覆成形方法の金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。
【図6】図6は、型内被覆成形方法のフローチャートである。
【図7】図7は、実施例1〜3および比較例1〜3において成形した樹脂成形品において、塗膜厚みの測定点を示す図面であって、樹脂成形品を金型の開閉方向から投影したときの投影図である。
【図8】図8は、参考例5、および比較例6において成形した樹脂成形品の断面形状を示す図面であり、塗膜厚みの測定点は、矢印でそれぞれ示している。
【図9】図9は、参考例5、および比較例6において成形した樹脂成形品の各測定点における塗膜厚み(μm)の変動を示すグラフである。
【図10】図10(a)〜(d)は、従来技術による金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、別の従来技術による金型、樹脂及び塗料の挙動を説明する概念図である。
【図12】図12は、従来法による型内被覆成形方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
10、10A…型内被覆成形用金型、12、12A…固定型(固定金型)、14、14A…可動型(可動金型)、15、15A…金型キャビティ、20…型締装置、30…射出装置、50…塗料注入機、51…塗料注入口、60…制御装置、および100…射出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形する樹脂成形品の成形方法において、
該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程とからなり、
第2の工程で金型を型締めする型締力が、第1の工程で金型を型締めする型締力の10〜50%である樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記第2の工程で金型を型締めする型締力が、単位面積あたりの圧力で表したとき、2〜15MPaの範囲である、請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂成形品の成形方法によって成形した樹脂成形品。
【請求項4】
雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形するとともに該樹脂成形品の表面に被覆を施す型内被覆成形方法において、
該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程と、該樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤を注入するための空隙を形成する第3の工程と、該空隙に被覆剤を注入して金型を再度型締めする第4の工程とからなり、
第2の工程で金型を型締めする型締力が、第1の工程で金型を型締めする型締力の10〜50%である型内被覆成形方法。
【請求項5】
前記第2の工程で金型を型締めする型締力が、単位面積あたりの圧力で表したとき、2〜15MPaの範囲である、請求項4に記載の型内被覆成形方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の樹脂成形品の成形方法によって成形した型内被覆成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−247045(P2008−247045A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183131(P2008−183131)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【分割の表示】特願2004−555036(P2004−555036)の分割
【原出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】