説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】簡単な構造で均一で緩やかな冷却を達成することができ、製品部分に対応するキャビティに至るまでに樹脂の温度が必要以上に低下することを防止できる、樹脂成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】流路空間FCを形成する金型部品の少なくとも一部を20W/m・K以下の低熱伝導材料で構成した金型41,42を、ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、溶融樹脂を流路空間FCを介してキャビティCV内に充填するので、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止できる。よって、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができ、微細パターン等を有する樹脂成形品MP、特に高精度のレンズLPの成形が比較的容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形を利用した光学素子等の樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ等の樹脂製の光学素子は、ガラス製の光学素子と比較し、複雑な形状の光学面を安価に成形できるという利点がある。しかしながら、最近ではより複雑な形状や微細な形状を備えた光学素子等が更に要望される場合もあり、そのような樹脂成形品を高精度に成形しつつ大量且つ安価に製造することは難しくなってきている。
【0003】
ところで、光学素子等の樹脂成形品を射出成形により製造する方法として、金型の加熱及び冷却を繰返し金型のキャビティ表面の温度を繰返し上下する、いわゆるヒートサイクル成形が知られている。このヒートサイクル成形においては、金型を樹脂の溶融温度以上の高温に加熱した状態で樹脂を充填し、樹脂充填後に金型を冷却することにより充填した樹脂を成形固化して樹脂成形品を取り出すことにより、キャビティ表面形状の樹脂成形品への高転写を実現できる。しかしながら、金型の高温加熱及び低温冷却が必要であり、金型への高温媒体及び低温媒体の供給及びその繰返しの切り換えや温度制御など、設備が大型化、複雑化するとともに樹脂成形品の製造コストが高くなる。特に、高温と低温との温度の繰返し上下が必要なため、樹脂成形品の成形に要する時間、即ちサイクルタイムが非常に長いという問題がある。
【0004】
一方、そのようなヒートサイクル成形によらない製造方法として、成形金型のキャビティ表面に0.5〜1.0mmの薄い熱抵抗層を設け、成形金型全体を室温付近の温度に設定し、溶融樹脂の充填に先立って加熱エアー等によりキャビティ表面を加熱し、溶融樹脂を誘導しやすくするものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、凹凸を有する回折レンズ等であっても高い転写性を得るために、熱伝導率が所定以下の低熱伝導性の材料を母材として型部材を構成し、この型部材のうち光学素子の微細パターンを転写するための成形面を硬度の低い材料で被覆することによって得た成形型を用いて成形を行うものが知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−154880号公報
【特許文献2】特開2004−284110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された溶融樹脂の充填に先立って加熱エアーによりキャビティ表面を加熱する方法では、加熱エアーを供給するためのポート、加熱エアーを排出するためのポート、キャビティ温調コントローラ等を設ける必要があり、金型や周辺を含む装置が複雑化し大型化する。特に、小径レンズの成形では、上記のようなポートを接続するための空間を確保することは容易でない。また、この特許文献1に記載の方法では、樹脂の充填に先立ち加熱エアーによりキャビティ表面は加熱されているものの、金型内部を含め成形金型全体が室温近傍の低温に冷却されているので、樹脂充填時のキャビティ表面と金型内部との温度差が大きく、充填された樹脂が不均一に冷却されやすく、また、成形金型全体が低温であるため、直ぐに樹脂が急速に冷却されることになり、光路差付与構造等の微細構造を有する光学素子の成形に適さず、微細構造を有する光学素子を高精度に高転写成形することは難しい。
【0007】
また、低熱伝導性の材料を母材として構成された型部材を用いる方法では、型部材を低熱伝導性の材料で構成しており、製品部分を成形する型部材に充填された樹脂を所望の程度に徐々に冷却することができ、光学素子の微細パターンの転写性を向上できるものであるが、スプル等の流路部分での冷却によって充填中に樹脂の流れが低下することが考慮されていない。つまり、温度調節された樹脂を金型に供給しても、製品部分を成形する型部材に至るまでに樹脂の温度が必要以上に低下し、樹脂溶融粘度が高くなることで微細構造の細部形状状を十分に転写できないおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、成形サイクルタイムを必要以上に長くすることなく、簡単な構造で製品部分の均一で緩やかな冷却を達成することができ、製品部分に対応するキャビティに至るまでに樹脂の温度が必要以上に低下することを防止して高い転写性を実現できる、樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る樹脂成形品の製造方法は、スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の流路表面の少なくとも一部を、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成した射出成形金型を用い、射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、スプルとランナとを形成する流路空間を介してキャビティ内に樹脂を充填する工程と、射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、キャビティ内に充填された樹脂を冷却する工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の具体的な態様又は観点では、上記製造方法において、上記金型部品が上記低熱伝導材料の被覆層で被覆されている。この場合、スプルとランナとを形成する金型部品の材料選択の自由度が拡がり、被覆層の厚さ調整によって樹脂の冷却速度を調整することができ、充填後のスプル、ランナの固化を早めることができる為、微細構造等の転写性を高めつつ、生産性を高めることができる。
【0011】
また、本発明の別の態様では、スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の流路表面とその金型部品の母材との間に、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の層を有する射出成形金型を用い、射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、スプルとランナとを形成する流路空間を介してキャビティ内に樹脂を充填する工程と、射出成形金型を、ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、キャビティ内に充填された樹脂を冷却する工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の別の態様では、スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の母材を、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成した射出成形金型を用い、射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、スプルとランナとを形成する流路空間を介してキャビティ内に樹脂を充填する工程と、射出成形金型を、ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、キャビティ内に充填された樹脂を冷却する工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
以上の本発明の態様において、射出成形金型の温度は、キャビティ側の表面やその近傍における温度を意味する。また、樹脂を冷却する工程は、射出成形金型を積極的に冷却しないで、金型の温度維持や加熱停止によって放熱的に冷却することが、射出成形金型の複雑な温度制御が不要とできる点で好ましいが、樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下の範囲内であれば、射出成形金型を強制的に冷却することもできる。
【0014】
上記製造方法では、(1)スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の流路表面の少なくとも一部を、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成した射出成形金型、或いは、(2)スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の流路表面とその金型部品の母材との間に、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の層を有する射出成形金型、或いは、(3)スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の母材を、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成した射出成形金型を、ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、流路空間を介してキャビティ内に樹脂を充填するので、キャビティに至るまでに、樹脂の温度を不均一に低下させたり過度に低下させてしまうことを防止できる。よって、キャビティに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができ、光路差付与構造等の微細構造を有する樹脂成形品であっても、微細構造の細部形状まで高転写に成形された樹脂成形品を高精度且つ容易に得ることができる。また、射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、キャビティ内に充填された樹脂を冷却するので、充填後のスプル、ランナの固化を含めた樹脂の冷却が従来のヒートサイクル成形などに較べて速やかに樹脂を冷却できる為、微細構造の転写性を高めつつ、サイクルタイムが必要以上に長くなることも防止してその生産性を保持することができる。
【0015】
本発明の具体的な態様又は観点では、上記製造方法において、射出成形金型が、キャビティ内に樹脂を充填する際に、ガラス転移温度よりも10℃低い温度以上に加熱保持される。この場合、樹脂がキャビティに充填される際の樹脂溶融粘度をより低い状態で維持することができ、微細構造を有する樹脂成形品、特に高精度の光学素子の転写性を向上させた成形がより容易になる。
【0016】
本発明の別の態様では、スプルとランナとを形成する流路の全域にわたって上記低熱伝導材料で構成された部分を有している。この場合、充填中の樹脂がスプルとランナとを形成する流路の一部で局所的に冷却されることを防止できるので、キャビティに充填される際の樹脂溶融粘度をより低い状態で維持することができ、微細構造を有する樹脂成形品、特に高精度の光学素子の転写性を向上させた成形がより容易になる。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、射出成形金型が、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で少なくとも一部が構成されたコア部分を有する。この場合、キャビティ内の微細構造等が形成されるコア部分においても樹脂が急冷されることを防止して、転写性をさらに高めることができる。
【0018】
本発明のさらに別の態様では、射出成形金型が、コア部分の周囲に設けられ、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で少なくとも一部が構成された周辺部分を有する。この場合、キャビティ内の周辺部分においても樹脂が急冷されることを防止して、転写性をさらに高めることができる。
【0019】
本発明のさらに別の態様では、射出成形金型が、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で少なくとも一部が構成されたゲート部分を有する。この場合、キャビティ内に導入される直前の樹脂が急冷されることを防止でき、キャビティ内で成形される樹脂成形品の転写性をより向上することができる。
【0020】
本発明のさらに別の態様では、射出成形金型が、微細構造を備えた転写面を有し、射出成形金型によって転写面に対応する微細構造を備えた光学面を有するレンズを成形する。この場合、キャビティに至るまでに樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、微細構造を備えた光学面を有するレンズを高精度で成形することができ、所望の光学性能を容易に得ることができる。
【0021】
以上の本発明における低熱伝導率材料は、熱伝導率が20W/m・K以下であるが、勿論0(ゼロ)W/m・Kより大きいものである。この熱伝導率は、0.05W/m・K以上であることがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態である樹脂成形品の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1(A)は、可動金型の構造を説明する側断面図であり、図1(B)は、可動金型の正面図である。また、図1(C)は、固定金型の構造を説明する側断面図であり、図1(D)は、固定金型の正面図である。また、図2は、図1の射出成形金型によって形成されるキャビティ及び流路の内面を説明する図である。図3は、図1に示す射出成形金型によって成形される樹脂成形品の外観を説明する斜視図である。
【0024】
本実施形態で用いられる射出成形金型は、図1(A)及び図1(B)に示す可動金型41と、図1(C)及び図1(D)に示す固定金型42とを備える。可動金型41と固定金型42とをパーティング面PS1,PS2で型合わせして型締めを行うことにより、図2(A)に示すように、図3の樹脂成形品MPの製品部分であるレンズLPを成形するためのキャビティCVが4箇所に形成されるとともに、図2(B)に示すように、各キャビティCVに樹脂を供給するための流路空間FCが形成される。
【0025】
図2(A)において、キャビティCVは、一対のコア面S1,S2に挟まれた本体空間CV1と、一対のフランジ面S3,S4に囲まれたフランジ空間CV2とを備える。ここで、コア面S1,S2は、図3に示す樹脂成形品MPのレンズLPの光学面OSを形成するためのコア部分を構成し、後述する鏡面コア64,74の端面に対応している。この場合、一方のコア面S2には、微細構造の転写面FPが形成されており、レンズLPの一方の光学面OSは、微細構造を備えるものとなる。一方、フランジ面S3,S4は、レンズLPのフランジ部FLを形成するための周辺部分を構成し、後述する型板61,71に設けたレンズ凹部61d,71dの外周に対応している。
【0026】
図2(B)において、流路空間FCは、図3に示す樹脂成形品MPのスプルSPとランナRPとを形成する空間であり、図2(B)では省略しているが、図3に示すようにランナRPは4つに分岐されている。この流路空間FCの先端部は、樹脂成形品MPのゲートGPを形成するゲート部分GSを介してキャビティCVにそれぞれ連通している。
【0027】
図1(A)等に示すように、可動金型41は、可動側の周辺部分としての型板61と、型板61を背後から支持する受板62と、受板62を背後から支持する取付板63と、可動側のコア部分としての鏡面コア64と、鏡面コア64を突き出して離型を可能にする可動ピン65と、樹脂成形品MPのランナRPを突き出して離型する可動ピン66と、可動ピン65,66を進退移動させる進退機構部67とを備える。
【0028】
可動金型41において、金型部品の一つである型板61は、樹脂成形品MPのコールドスラグ部分00に対応するコールドスラグ凹部61aと、ランナRPに対応するランナ凹部61bと、ゲートGPを形成するゲート凹部61cと、レンズLPの光学機能部を形成するレンズ凹部61dとを備える。このうち、コールドスラグ凹部61a及びランナ凹部61bには、可動ピン66を挿入するピン孔61gが延びる。コア孔61hには鏡面コア64が挿入されており、鏡面コア64の先端面がレンズ凹部61dに対応する。コールドスラグ凹部61a及びランナ凹部61bは、金型部品の一つである嵌込みブロックBL21によって形成されている。この嵌込みブロックBL21は、簡単な板形状を有し、型板61に形成された一様な深さの凹所に嵌め込まれたものであり、型板61よりも低熱伝導材料で構成されている。嵌込みブロックBL21を構成する低熱伝導材料は、熱伝導率が20W/m・K以下のものであり、具体的には6−4Tiである。
【0029】
一方、嵌込みブロックBL21を支持する型板61自体は、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料、例えばプレハードン鋼すなわち低炭素鋼(熱伝導率:60.0W/m・K)等が用いられている。
【0030】
型板61内部には、成形時に金型の温度を適切な温度に保つため、熱媒体を流通させるための流路であるジャケット68が形成されている。また、型板61には、可動金型41の温度、すなわち型板61によって形成されるキャビティCVを形成する金型の表面やその近傍における温度を計測するための温度センサ69が埋め込まれている。
【0031】
以上の型板61に嵌合される鏡面コア64は、熱伝導率が20W/m・K以上である比較的高熱伝導性の材料、具体的には低炭素鋼やステンレス鋼の母材で構成されており、鏡面コア64のキャビティCV側の端面は、被削性を良くするために、無電解ニッケルメッキ法を用いて形成されるニッケルリンメッキ層で被覆することができる。なお、鏡面コア64は、母材を熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料とすることもでき、例えば6−4Tiを母材とすることができる。
【0032】
可動ピン66は、この場合、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料で構成されているが、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成することもできる。なお、可動ピン66を高熱伝導材料で構成した場合、可動ピン66の先端を熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料で被覆することができる。
【0033】
図1(C)等に示すように、固定金型42は、固定側の周辺部分としての型板71と、型板71を背後から支持する取付板72と、固定側のコア部分としての鏡面コア74と、スプルブッシュ77とを備える。
【0034】
固定金型42において、金型部品の一つである型板71は、スプルSPとランナRPの一部とを形成する金型部品の一つであるスプルブッシュ77を挿入するスプルブッシュ孔71aと、樹脂成形品MPのランナRPを形成するランナ凹部71bと、ゲートGPを形成するゲート面71cと、レンズLPの光学機能部を形成するレンズ凹部71dとを備える。コア71hには鏡面コア74が挿入されており、鏡面コア74の先端面がレンズ凹部に対応する。ランナ凹部71bは、金型部品の一つである嵌込みブロックBL22によって形成されている。この嵌込みブロックBL22は、簡単な板形状を有し、型板71に形成された一様な深さの凹所に嵌め込まれたものであり、型板71よりも低熱伝導材料で構成されている。嵌込みブロックBL22を構成する低熱伝導材料は、熱伝導率が20W/m・K以下のものであり、具体的には6−4Tiである。
【0035】
一方、嵌込みブロックBL22を支持する型板71自体は、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料、例えば低炭素鋼等が用いられている。
【0036】
型板71内部には、成形時に金型の温度を適切な温度に保つため、熱媒体を流通させるための流路であるジャケット78が形成されている。また、型板71には、固定金型42の温度、すなわちキャビティCVを形成する金型の表面やその近傍における温度を計測するための温度センサ79が埋め込まれている。
【0037】
以上の型板71に嵌合する鏡面コア74は、熱伝導率が20W/m・K以上である比較的高熱伝導性の材料、具体的には低炭素鋼やステンレス鋼の母材で構成されており、鏡面コア74のキャビティCV側の端面は、被削性を良くするために、無電解ニッケルメッキ法を用いて形成されるニッケルリンメッキ層で被覆することができる。なお、鏡面コア74は、母材を熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料とすることもでき、例えば6−4Tiを母材とすることができる。
【0038】
スプルブッシュ77は、型板71のスプルブッシュ孔71aと取付板72のスプルブッシュ孔72aとに挿入されて固定されている。スプルブッシュ77内に形成された流路CA1は、図2(B)の流路空間FCのうち、図3に示す樹脂成形品MPのスプル部分SPを形成する空間に対応するものとなっている。この例では、スプルブッシュ77は、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料、例えば低炭素鋼等が用いられている。
【0039】
図4は、本実施形態の製造方法を実施するための成形装置を説明する正面図である。図示の成形装置100は、射出成形を行って樹脂成形品MPを作製する本体部分である射出成形機10と、射出成形機10から樹脂成形品MPを取り出す付属部分である取出し装置20と、成形装置100を構成する各部の動作を統括的に制御する制御装置30とを備える。
【0040】
射出成形機10は、可動盤11と、固定盤12と、型締め盤13と、開閉駆動装置15と、射出装置16とを備える。射出成形機10は、可動盤11と固定盤12との間に可動金型41と固定金型42とを挟持して両金型41,42を型締めすることにより成形を可能にする。
【0041】
可動盤11は、スライドガイド15aによって固定盤12に対して進退移動可能に支持されている。可動盤11は、可動金型41を着脱可能に支持している。なお、可動盤11には、エジェクタ45が組み込まれている。このエジェクタ45は、図1(A)に示す進退機構部67を動作させる部分であり、可動ピン65,66を突出し動作させることによって、可動金型41内の樹脂成形品MPを固定金型42側に押し出すものであり、取出し装置20による移送を可能にする。
【0042】
固定盤12は、可動盤11に対向して支持フレーム14の中央に固定されており、取出し装置20をその上部に支持する。固定盤12は、固定金型42を着脱可能に支持している。なお、固定盤12は、タイバーを介して型締め盤13に固定されており、成形時の型締めの圧力に耐え得るようになっている。
【0043】
型締め盤13は、支持フレーム14の端部に固定されている。型締め盤13は、型締めに際して、開閉駆動装置15の動力伝達部15dを介して可動盤11をその背後から支持する。
【0044】
開閉駆動装置15は、スライドガイド15aと、動力伝達部15dと、アクチュエータ15eとを備える。スライドガイド15aは、可動盤11を支持して固定盤12に対する進退方向に関する滑らかな往復移動を可能にしている。動力伝達部15dは、制御装置30の制御下で動作するアクチュエータ15eからの駆動力を受けて伸縮する。これにより、型締め盤13に対して可動盤11が近接したり離間したり自在に進退移動し、結果的に、可動盤11と固定盤12とを互いに近接・離間して固定金型42と可動金型41との型締め及び型開きを行う。
【0045】
射出装置16は、シリンダ16a、原料貯留部16b、スクリュ駆動部16c等を備える。射出装置16は、制御装置30の制御下で適当なタイミングで動作するものであり、樹脂射出ノズル16dから温度制御された状態で溶融樹脂を射出することができる。射出装置16は、固定金型42と可動金型41とを型締めした状態で、図1(C)に示すスプルブッシュ77に樹脂射出ノズル16dを接触させ、流路空間FC(図2(B)参照)に対してシリンダ16a中の溶融樹脂を所望のタイミングで供給することができる。
【0046】
取出し装置20は、樹脂成形品MPを把持することができるハンド21と、ハンド21を3次元的に移動させる3次元駆動装置22とを備える。取出し装置20は、制御装置30の制御下で適当なタイミングで動作するものであり、固定金型42と可動金型41とを離間させて型開きした後に、可動金型41に残る樹脂成形品MPを把持して外部に搬出する役割を有する。
【0047】
制御装置30は、開閉制御部31と、射出装置制御部32と、エジェクタ制御部33と、取出し装置制御部34とを備える。開閉制御部31は、アクチュエータ15eを動作させることによって両金型41,42の型締めや型開きを可能にする。射出装置制御部32は、スクリュ駆動部16c等を動作させることによって両金型41,42間に形成されたキャビティ中に所望の圧力で樹脂を注入させる。エジェクタ制御部33は、エジェクタ45を動作させることによって型開き時に可動金型41に残る樹脂成形品MPを可動金型41内から押し出させる。取出し装置制御部34は、取出し装置20を動作させることによって型開き及び離型後に可動金型41に残る樹脂成形品MPを把持して射出成形機10外に搬出させる。
【0048】
金型温度調節機46は、両金型41,42中に形成されているジャケット68,78(図1(A)及び1(C)参照)に温度制御された熱媒体を循環させる。これにより、成形時に両金型41,42の温度を適切な温度に保つことができる。この際、両金型41,42に埋め込まれた温度センサ69,79(図1(A)及び1(C)参照)によって両金型41,42の温度を監視することもできる。
【0049】
図5は、図4等に示す成形装置100の動作を概念的に説明するフローチャートである。まず、金型温度調節機46により、両金型41,42を成形に適する温度まで加熱する(ステップS10)。これにより、両金型41,42においてキャビティCVを形成する金型の表面やその近傍の温度を、射出装置16から供給される溶融樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって同ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態とする。この際、好ましくは、両金型41,42においてキャビティCVを形成する金型の表面やその近傍の温度を、射出装置16から供給される溶融樹脂のガラス転移温度よりも10℃低い温度以上であって同ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態とする。
【0050】
次に、開閉駆動装置15を動作させ、可動盤11を前進させて型閉じを開始させる(ステップS11)。開閉駆動装置15の閉動作を継続することにより、固定金型42と可動金型41とが接触する型当たり位置まで可動盤11が固定盤12側に移動して型閉じが完了し、開閉駆動装置15の閉動作を更に継続することにより、固定金型42と可動金型41とを必要な圧力で締め付ける型締めが行われる(ステップS12)。
【0051】
次に、射出成形機10において、射出装置16を動作させて、型締めされた固定金型42と可動金型41との間のキャビティCV中に、必要な圧力で溶融樹脂を注入する射出を行わせる(ステップS13)。そして、射出成形機10は、キャビティCV中の樹脂圧を保つ。この際、金型温度調節機46により、キャビティCVや流路空間FC(図2参照)が適度に加熱されており、射出装置16から供給される溶融樹脂が緩やかに冷却され、不均一な冷却や過度の急冷によって流動性に支障が生じることが抑制されながら、溶融樹脂をキャビティCV内に速やかに導入することができ、キャビティCV内での樹脂の適度な除冷を達成することができる。なお、溶融樹脂をキャビティCVに導入した後は、キャビティCV中の溶融樹脂が放熱によって徐々に冷却されるので、かかる冷却にともなって溶融樹脂が固化し成形が完了するのを待つ(ステップS14)。なお、この際、両金型41,42においてキャビティCVを形成する金型の表面やその近傍の温度を、射出装置16から供給される溶融樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下の温度範囲内に加熱保持した状態とする。この加熱は、前述したステップS10での加熱から継続したものとするが、このステップS13で、ステップS10での加熱温度よりも低い加熱温度に保持してキャビティCV中の溶融樹脂の固化を促進することもできる。ここで、両金型41,42を積極的に冷却しないことが好ましい。これにより、温度制御が複雑になることや高温媒体による再加熱の際にエネルギーの消費が多くなることを防止できる。また次の樹脂成形品を成形するために、キャビティCVに樹脂を充填する際に、射出成形金型を再度加熱することによって成形サイクルタイムが長くなることを防止できる。
【0052】
次に、射出成形機10において、開閉駆動装置15を動作させて、可動盤11を後退させる型開きが行われる(ステップS15)。これに伴って、可動金型41が後退し、固定金型42と可動金型41とが離間する。この結果、樹脂成形品MPすなわちレンズLPは、可動金型41に保持された状態で固定金型42から離型される。
【0053】
次に、射出成形機10において、エジェクタ45を動作させて、可動ピン65,66による樹脂成形品MPすなわちレンズLPの突き出しを行わせる(ステップS16)。この結果、樹脂成形品MPのうちレンズLPは、鏡面コア64の先端面に付勢されて固定金型42側に押し出されて、可動金型41から離型される。
【0054】
最後に、取出し装置20を動作させて、エジェクタ45に駆動されて動作する可動部材64、可動ピン66によって突き出された樹脂成形品MPの適所をハンド21で把持して外部に搬出する(ステップS17)。
【0055】
以上説明した第1実施形態の製造方法によれば、スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の少なくとも一部(特にランナRPを形成する金型部品に対応する部分)において流路の全域にわたって熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料で構成した金型41,42を、ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、流路空間FCを介してキャビティCV内に溶融樹脂を充填し且つ充填された樹脂を冷却して樹脂成形品を得るので、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができると共に、成形サイクルタイムを必要以上に長くすることなく、簡単な構造で製品部分の均一で緩やかな冷却を達成することができ、微細構造等を有する樹脂成形品MP、特に微細構造を備えた光学面を有するレンズLPを高精度で成形することができ、所望の光学性能を容易に得ることができる。
【0056】
〔実施例〕
以下、具体的実施例について説明する。以下の表1は、上記実施形態の製造方法を具体化した場合の転写性を説明するものである。
【表1】

この場合、固定金型42において鏡面コア74のキャビティCV側の端面には、回折輪帯が形成されているものとする。なお、評価における転写性は、回折輪帯のピッチをPmとし、樹脂成形品MPのダレ量をWmとして、
転写性=(Pm−Wm)/Pm
で与えられる。ここで、ダレ量Wmは、固定金型42に形成された回折パターンの溝DPaに樹脂成形品MPの突起が十分入り込んでない部分PLaの幅によって決定される。以上の実施例から明らかなように、熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料で構成した嵌込みブロックBL12,BL22を組み込んだ金型41,42を、ガラス転移温度に対して−50℃〜+10℃の温度に加熱保持することで、転写性を向上させることができ、特に微細構造を備えた光学面を有するレンズLPを高精度で成形できることが分かる。以上において、特に金型41,42をガラス転移温度に対して−10℃〜+10℃の温度範囲に加熱保持することで、樹脂成形品MPの転写性が更に良好になることが分かる。
【0057】
以下の表2は、上記実施形態の製造方法を具体化した場合の成形性を説明するものである。
【表2】

以上の実施例から明らかように、熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料で構成した金型41,42を、ガラス転移温度に対して−50℃〜+10℃の温度に加熱保持することで、離型不良やウェルドの発生を抑えることができ、特に微細構造を備えた光学面を有するレンズLPを高精度で成形できることが分かる。
【0058】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態に係る樹脂成形品の製造方法について説明する。なお、第2実施形態に係る製造方法及びこれに用いる射出成形金型は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0059】
この場合、スプルとランナとを形成する金型部品の少なくとも一部のみを低熱伝導率材料で構成した例である。具体的には、図6(A)及び図6(B)に示すように、可動金型141において、コールドスラグ凹部61a、ランナ凹部61b、ゲート凹部61c、及びレンズ凹部61dで、比較的高熱伝導性の材料からなる母材が露出しており、図1(A)等に示す第1実施形態の場合と異なり、嵌込みブロックBL21,BL22を用いていない。また、図6(C)及び図6(D)に示すように、固定金型142においても、ランナ凹部71b、ゲート面71c、及びレンズ凹部71dで、比較的高熱伝導性の材料からなる母材が露出しており、図1(C)等に示す第1実施形態の場合と異なり、嵌込みブロックBL22を用いていない。
【0060】
ただし、固定金型142に設けたスプルブッシュ177については、図1(C)等に示す第1実施形態の場合と異なり、その内面77aが、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL3で被覆されている。この被覆層CL3を形成する低熱伝導材料としては、例えばジルコニアセラミックス等のセラミックスの焼結層や、ニッケルリン合金のメッキ層或いはポリイミド樹脂の層とすることができ、単層に限らずそれらの多重層とすることができる。この被覆層CL3の厚みは、例えば1mm以上3mm以下とする。一方、被覆層CL3を支持するスプルブッシュ177の本体は、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料、例えば低炭素鋼等が用いられている。
【0061】
本実施形態のように、スプルを形成する流路を形成するスプルブッシュ177の内面77aを被覆層CL3で被覆することにより、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができる。
【0062】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態に係る樹脂成形品の製造方法について説明する。なお、第3実施形態に係る製造方法及びこれに用いる射出成形金型は、第2実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第2実施形態と同様であるものとする。
【0063】
この場合、図7(C)等に示すように、固定金型242に設けたスプルブッシュ277は、全体が低熱伝導材料で構成されており、この低熱伝導材料は、熱伝導率が20W/m・K以下のものであり、具体的には6−4Tiである。この場合も、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができる。また、被覆層を形成する場合と比較して作製を容易に行うことができる。
【0064】
〔第4実施形態〕
以下、スプルとランナとを形成する金型部品の少なくとも一部を低熱伝導率材料で構成した変形例であって、スプルとランナとを形成する流路表面(流路の内表面)を低熱伝導性材料で被覆したものについて説明する。第4実施形態に係る製造方法及びこれに用いる射出成形金型は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0065】
この場合、図8(A)及び図8(B)に示すように、可動金型341において、コールドスラグ凹部61a及びランナ凹部61bの内面が、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL1で被覆されている。この際、ゲート凹部61c及びレンズ凹部61dも、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL2で被覆することができる。なお、鏡面コア64の端面は、無電解ニッケルメッキ法を用いて形成される無電解ニッケルメッキ層で被覆することができる。
【0066】
各凹部61a,61b及びゲート面61cの被覆層CL1,CL2を形成する低熱伝導材料としては、例えばジルコニアセラミックス等のセラミックスの焼結層や、ニッケルリン合金のメッキ層或いはポリイミド樹脂の層とすることができ、単層に限らずそれらの多重層とすることができる。この被覆層CL1,CL2の厚みは、例えば1mm以上3mm以下とする。型板61自体は、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料、例えばプレハードン鋼すなわち低炭素鋼(熱伝導率:60.0W/m・K)等が用いられている。
【0067】
図8(C)及び図8(D)に示すように、固定金型342において、ランナ凹部71bの内面が、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL1で被覆されている。同様に、ゲート面71cも、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL2で被覆することができる。なお、鏡面コア74の端面は、無電解ニッケルメッキ法を用いて形成される無電解ニッケルメッキ層で被覆することができる。
【0068】
なお、スプルブッシュ377の内面77aは、第2実施形態の場合と同様に、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL3で被覆されている。この被覆層CL3を形成する低熱伝導材料としては、例えばジルコニアセラミックス等のセラミックスの焼結層や、ニッケルリン合金のメッキ層或いはポリイミド樹脂の層とすることができ、単層に限らずそれらの多重層とすることができる。この被覆層CL3の厚みは、例えば1mm以上3mm以下とする。一方、被覆層CL3を支持するスプルブッシュ377の本体は、熱伝導率が20W/m・Kより大きい高熱伝導材料、例えば低炭素鋼等が用いられている。
【0069】
本実施形態の製造方法によれば、ランナとスプルと形成する流路空間FCの全域にわたって熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導材料で構成した金型41,42を、ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であってガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、流路空間FCを介してキャビティCV内に溶融樹脂を充填し且つ充填された樹脂を冷却して樹脂成形品を得るので、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができる。
【0070】
〔第5実施形態〕
以下、スプルとランナとを形成する金型部品の少なくとも一部を低熱伝導率材料で構成した変形例であって、ランナを形成する流路の内表面を低熱伝導性材料で被覆したものについて説明する。具体的には、第5実施形態に係る樹脂成形品の製造方法等として説明する。なお、第5実施形態に係る製造方法及びこれに用いる射出成形金型は、第4実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第4実施形態と同様であるものとする。
【0071】
この場合、図9(A)及び図9(B)に示すように、可動金型441において、ゲート凹部61c及びレンズ凹部61dで、比較的高熱伝導性の材料からなる母材が露出しており、図8(A)等に示す第4実施形態の場合と異なり、低熱伝導材料の被覆層CL2で被覆されていない。また、図9(C)及び図9(D)に示すように、固定金型442においてもゲート面71c及びレンズ凹部71dで、比較的高熱伝導性の材料からなる母材が露出しており、図8(C)等に示す第4実施形態の場合と異なり、低熱伝導材料の被覆層CL2で被覆されていない。さらに、スプルブッシュ77の内面77aも、高熱伝導材料の母材が露出しており、図8(C)等に示す第4実施形態の場合と異なり、低熱伝導材料の被覆層CL3で被覆されていない。ただし、ランナ凹部61b、71bについては、第4実施形態の場合と同様に、その内面が、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の被覆層CL1で被覆されている。この場合も、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができる。
【0072】
〔第6実施形態〕
以下、第6実施形態に係る樹脂成形品の製造方法について説明する。なお、第6実施形態に係る製造方法及びこれに用いる射出成形金型は、第4実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第4実施形態と同様であるものとする。
【0073】
この場合、図10(A)及び図10(B)に示すように、可動金型541において、コールドスラグ凹部61a及びランナ凹部61bの低熱伝導材料が、被覆層CL1ではなく、金型部品の一つである貫通ブロックBL23によって構成されている。この貫通ブロックBL23は、簡単な円柱形状を有し、型板61に形成された円柱状の貫通孔に固定されたものであり、型板61本体よりも低熱伝導材料で構成されている。貫通ブロックBL23を構成する低熱伝導材料は、熱伝導率が20W/m・K以下のものであり、具体的には6−4Tiである。また、図10(C)及び図10(D)固定金型542においても、ランナ凹部71bの低熱伝導材料が、被覆層CL1ではなく、金型部品の一部である貫通ブロックBL24によって構成されている。この貫通ブロックBL24は、簡単な円柱形状を有し、型板71に形成された円柱状の貫通孔に固定されたものであり、型板71よりも低熱伝導材料で構成されている。貫通ブロックBL24を構成する低熱伝導材料は、熱伝導率が20W/m・K以下のものであり、具体的には6−4Tiである。この場合も、キャビティCVに至るまでに溶融樹脂の温度が必要以上に低下することを防止でき、キャビティCVに充填される際の樹脂溶融粘度を低い状態で維持することができる。また、被覆層を形成する場合と比較して、作製を容易に行うことができる。
【0074】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、固定金型42及び可動金型41で構成される射出成形金型に設けるキャビティCVの形状は、図示のものに限らず、様々な形状とすることができる。すなわち、鏡面コア64,74等によって形成されるキャビティCVの形状は、単なる例示であり、レンズLPの用途等に応じて適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】(A)〜(D)は、可動金型及び固定金型の構造を説明する図である。
【図2】(A)は、レンズを成形するためのキャビティを説明する図であり、(B)は、キャビティに樹脂を供給するための流路空間を説明する図である。
【図3】図1に示す射出成形金型から得た樹脂成形品の外観を説明する斜視図である。
【図4】図1に示す金型を組み込んだ成形装置を概念的に説明する正面図である。
【図5】図4の成形装置の動作を説明するフローチャートである。
【図6】(A)〜(D)は、第2実施形態の製造方法を実施するための金型を説明する図である。
【図7】(A)〜(D)は、第3実施形態の製造方法を実施するための金型を説明する図である。
【図8】(A)〜(D)は、第4実施形態の製造方法を実施するための金型を説明する図である。
【図9】(A)〜(D)は、第5実施形態の製造方法を実施するための金型を説明する図である。
【図10】(A)〜(D)は、第6実施形態の製造方法を実施するための金型を説明する図である。
【符号の説明】
【0076】
10…射出成形機、 11…可動盤、 12…固定盤、 13…型締め盤、 15…開閉駆動装置、 16…射出装置、 20…取出し装置、 30…制御装置、 31…開閉制御部、 32…射出装置制御部、 33…エジェクタ制御部、 34…装置制御部、 36…温度制御部、 41…可動金型、 42…固定金型、 45…エジェクタ、 61,71…型板、 61a…コールドスラグ凹部、 61b,71b…ランナ凹部、 61c…ゲート凹部、 61d,71d…レンズ凹部、 62…受板、 63,72…取付板、 64,74…鏡面コア、 65,66…可動ピン、 67…進退機構部、 68,78…ジャケット、 69,79…温度センサ、 71c…ゲート面、 77…スプルブッシュ、 100…成形装置、 CL1,CL2,CL3…被覆層、 CV1…本体空間、 CV2…フランジ空間、 FC…流路空間、 FL…フランジ部、 FP…転写面、 GP…ゲート、 GS…ゲート部分、 LP…レンズ、 MP…樹脂成形品、 OS…光学面、 RP…ランナ、 S1,S2…コア面、 SP…スプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の流路表面の少なくとも一部を、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成した射出成形金型を用い、
前記射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって前記ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、前記スプルと前記ランナとを形成する流路空間を介して前記キャビティ内に樹脂を充填する工程と、
前記射出成形金型を、前記ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって前記ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、前記キャビティ内に充填された樹脂を冷却する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記金型部品の前記流路表面の前記少なくとも一部は、前記低熱伝導材料の被覆層で被覆されていることを特徴とする請求項1の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の流路表面と前記金型部品の母材との間に、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料の層を有する射出成形金型を用い、
前記射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって前記ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、前記スプルと前記ランナとを形成する流路空間を介して前記キャビティ内に樹脂を充填する工程と、
前記射出成形金型を、前記ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって前記ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、前記キャビティ内に充填された樹脂を冷却する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
スプルとランナの少なくとも一部を形成する少なくとも一つの金型部品の母材を、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で構成した射出成形金型を用い、
前記射出成形金型を、キャビティ内に充填する樹脂のガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって前記ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、前記スプルと前記ランナとを形成する流路空間を介して前記キャビティ内に樹脂を充填する工程と、
前記射出成形金型を、前記ガラス転移温度よりも50℃低い温度以上であって前記ガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に加熱保持した状態で、前記キャビティ内に充填された樹脂を冷却する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記射出成形金型は、前記キャビティ内に樹脂を充填する際に、前記ガラス転移温度よりも10℃低い温度以上に加熱保持されることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記スプルと前記ランナとを形成する流路の全域にわたって前記低熱伝導材料で構成された部分を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記射出成形金型は、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で少なくとも一部が構成されたコア部分を有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記射出成形金型は、コア部分の周囲に設けられ、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で少なくとも一部が構成された周辺部分を有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記射出成形金型は、熱伝導率が20W/m・K以下である低熱伝導材料で少なくとも一部が構成されたゲート部分を有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記射出成形金型は、微細構造を備えた転写面を有し、前記射出成形金型によって前記転写面に対応する微細構造を備えた光学面を有するレンズを成形することを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−202549(P2009−202549A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50046(P2008−50046)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】