説明

樹脂成形用金型及びその低グロス化方法並びに樹脂成形品

【課題】(1)設計どおりの低グロス性をムラなく達成でき、(2)傷が付きにくく、たとえ付いても目立ちにくく、(3)ウェルドやヒケが目立ちにくく(4)触感も良い、装飾模様付きの樹脂成形品を得る。
【解決手段】樹脂成形用金型10の成形面11に、無数のマスク部又はホール部が面広がり状に規則正しく配列したレジストを付着させる。そして、エッチング液を浸すことにより、露出している成形面11をエッチングし、その後レジスト52を除去する。これら一連の操作により、マスク部又はホール部のあった所に、微小凸部17又は微小凹部からなる低グロス化用加工部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形面に凹凸を伴う装飾模様が形成された樹脂成形用金型及びその低グロス化方法並びに樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のインストルメントパネル、コンソール、ピラー内装品をはじめとする各種の樹脂成形品の表面には、皮シボ模様、格子等の幾何学模様等の凹凸を伴う装飾模様を設けることが多い。この装飾模様は、成形用金型の成形面に模様賦形用凹凸部を形成しておき、成形用金型による樹脂成形品の成形と同時に、模様賦形用凹凸部により樹脂成形品の表面に賦形している。模様賦形用凹凸部の主な形成方法は、電鋳又はエッチングである。エッチングは、剛性の高い金型にも適用できる点やコストの点で電鋳よりも有利であるが、模様の本物感の点では電鋳よりも不利である。しかし、本出願人は、本物に近い皮シボ模様等を形成することのできるエッチング方法を開発し、不利な点を克服することに成功している(特許文献1)。
【0003】
しかし、装飾模様を賦形した樹脂成形品には、模様の本物感だけでなく、グロス(テカリ感)の制御が求められ、特に最近はテカリ感の低い(艶消し感の高い)低グロスのものが要求されることが多い。このグロスの高低は、次に上げる従来例1〜3のように、他の性質の高低とも関連する(相反することもある)ため、単に低くすればよいという簡単なものではない。
【0004】
(従来例1:高グロス(艶あり))
エッチングにより図8aに示す模様賦形用凹凸部82を形成した直後の成形面81には付着物や化合物等の汚れがあるため、ガラスビーズを用いたサンドブラスト加工を行ってその汚れを除去する。但し、このガラスビーズを用いたサンドブラスト加工は、汚れの除去だけでなく、模様賦形用凹凸部82及びその凹凸間の成形面81を若干研磨して図8bに示すよう滑らかにするため、艶あり(高グロス)化としても作用する。この成形面81により樹脂成形品が高グロス化すると、引っ掻きにより削られる微小凸部が少ないため傷が付きにくく、付いても艶に紛れて目立たないとか、艶感が他と異なって見える成形によるウェルドやヒケも艶に紛れて目立たないとかという利点がある。しかしその反面、低グロス化の要求に応えられないとか、触感がベタ当たりになり良くないとかという欠点がある。
【0005】
(従来例2:低グロスその1(艶消し))
そこで、前記ガラスビーズを用いたサンドブラスト加工を行う際に、酸化アルミニウム等の硬質サンドを混ぜたり、又は、前記ガラスビーズを用いたサンドブラスト加工を行った後に、酸化アルミニウム等の硬質サンドを用いてサンドブラスト加工したりすることにより、成形面81に図8cに示す極微小凹部87を形成して低グロス化することが多い。この成形面81により樹脂成形品が低グロス化すると、低グロス化の要求にある程度応えることができるとか、触感がサラサラとして良くなるとかという利点がある。しかしその反面、前記極微小凹部87は物理的に削り飛ばされてできるものであり、樹脂成形品の表面はささくれ立つような極微小凸起が並ぶ粗面となるため、その極微小凸起が引っ掻きにより削られて傷が付きやすく、付くと艶消し面に浮き出て目立つという欠点がある。また、艶感が他と異なって見えるウェルドやヒケが艶消し面に浮き出て目立つという欠点もある。
【0006】
(従来例3:低グロスその2(梨地))
また、前記ガラスビーズを用いたサンドブラスト加工を行う前に、図9aに示すようにスプレーにより成形面に微小点状のレジスト99を分散状に付着してから、成形面91をエッチングすることにより、図9bに示すように模様賦形用凹凸部92の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数の微小凸部97を形成することも行われている。図9cに示すこの成形面91により樹脂成形品が低グロス化すると、低グロス化の要求にある程度応えることができるとか、触感がサラサラとして良くなるとかという利点がある。また、前記微小凸部97は前記硬質サンドを用いたサンドブラスト加工による極微小凹部87と比べれば大きいものであり、樹脂成形品の表面はその大きさの微小凹所が並ぶ梨地となるため、その微小凹所が引っ掻きに抵抗して傷が付きにくく、付いても前記艶消し面よりは粗い梨地に紛れて目立ちにくいという改善点もある。また、艶感が他と異なって見えるウェルドやヒケについても、前記艶消し面よりは粗い梨地に紛れて目立ちにくい。
【0007】
しかし、スプレーにより成形面に付着する微小点状のレジスト99は、その大きさと分散の仕方が、スプレー距離、スプレー進行速度、熟練、偶然等に影響されて不規則になるため、例えば、かなり大きな点状のレジスト99が混じってしまったり、微小点状のレジスト99どうしが連なってしまったり、逆に離れすぎてしまったりすることがある。このため、成形面91のある部分と他の部分とでグロスが異なってムラができたり、全体的に設計通りの低グロスにならなかったりして、品質が安定がしないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−245234公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、設計どおりの低グロス性をムラなく達成でき、傷が付きにくく、たとえ付いても目立ちにくく、ウェルドやヒケが目立ちにくく、触感も良い、装飾模様付きの樹脂成形品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(ア)本発明の樹脂成形用金型の低グロス化方法は、樹脂成形品の表面に凹凸を伴う装飾模様を賦形するための模様賦形用凹凸部が形成された樹脂成形用金型の成形面を低グロス化する方法において、前記成形面に、前記装飾模様の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数のホール部又はマスク部が予め設計された平面配列パターンで配列するレジストを付着させ、前記成型面をエッチングしてから前記レジストを除去することにより、前記ホール部又はマスク部のあった所に形成される無数の微小凹部又は微小凸部よりなる低グロス化用加工部を形成することを特徴とする。
【0010】
ここで、成形面にレジストを前記の通り付着させる方法として、特に限定されないが、以下の方法を例示できる。
1.予め柔軟シートの表面に前記平面配列パターンで配列するように付着させた前記レジストを、成形面に押し付けて転写する方法。柔軟シートとして、特に限定されないが、紙、フィルム、布(織布、不織布)を例示できる。
2.成形面に、光硬化性のレジストを全面的に付着し、マスク部状又はホール部を構成するパターンの光を当て、レジストの露光部分のみを硬化させ、非硬化の部分を除去する方法。
【0011】
(イ)本発明の樹脂成形用金型は、成形面に、樹脂成形品の表面に凹凸を伴う装飾模様を賦形するための模様賦形用凹凸部が形成されるとともに、前記装飾模様の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数の微小凹部又は微小凸部が予め設計された平面配列パターンで配列する低グロス化用加工部が形成されたことを特徴とする。
【0012】
(ウ)本発明の樹脂成形品は、表面に、凹凸を伴う装飾模様が賦形されているとともに、前記装飾模様の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数の微小凹所又は微小凸起が予め設計された平面配列パターンで配列する低グロス化用処理部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
[装飾模様]
上記(ア)〜(ウ)の各手段において、樹脂成形品の表面に賦形される凹凸を伴う装飾模様としては、特に限定されないが、皮シボ模様や、水玉模様、格子柄その他の幾何学模様等を例示できる。
【0014】
その装飾模様の模様単位とは、装飾模様を構成する一要素の大きさ(例えば、皮シボ模様ならばそれを構成する膨らみ部分1つの大きさ、格子柄ならば格子によって区切られた1区画の大きさ等)であり、平均模様単位とはその模様単位の平均である。
【0015】
[低グロス化用加工部(低グロス化用処理部)]
低グロス化用加工部を構成する微小凹部又は微小凸部あるいは低グロス化用処理部を構成する微小凹所又は微小凸起(この手段の項では、これらを総称して単に「微小凹部又は微小凸部」という。)の平面形状としては、特に限定されないが、円、楕円、三角形、四角形、五角形、六角形等を例示できる。
【0016】
微小凹部又は微小凸部の平面寸法は、装飾模様を崩さないようにするために前記のとおり装飾模様の平均模様単位よりも小さい必要があり、さらに次の(a)又は(b)のように十分に小さいことが好ましい。なお、次において相当直径とは、平面形状が円の場合にはその直径、円以外の平面形状の場合にはその平面形状を同じ面積の円に相当させたときの直径である。
(a)好ましい平面寸法を、装飾模様の平均模様単位との相対関係で示すならば、装飾模様が例えば皮シボ模様である場合にはその平均模様単位の相当直径に対して5分の1以下の相当直径である。5分の1を越えると低グロス性が得られにくい。
(b)好ましい平面寸法を、数値で示すならば、相当直径150〜400μmである。150μm未満は技術的に実現困難であり(微小凸部の場合には強度も低下する)、400μmを越えると十分な低グロス性が得られにくい。
【0017】
微小凹部の深さ又は微小凸部の高さは、特に限定されないが、10〜40μmが好ましく、20〜30μmがより好ましい。10μm未満では低グロス性が得られにくく、40μmを越えると低グロス性はさほど向上しないのに対して傷付き易くなりやすい。
【0018】
微小凹部又は微小凸部の相互間隔は、特に限定されないが、装飾模様の各模様単位内に微小凹部又は微小凸部を存在させるために装飾模様の平均模様単位よりも小さいことが好ましく、さらに次の(c)又は(d)のように十分に小さいことが好ましい。ただし、相互間隔とは、最も接近した微小凹部又は微小凸部までの距離をいう。
(c)好ましい相互間隔を、装飾模様の平均模様単位との相対関係で示すならば、装飾模様が例えば皮シボ模様である場合にはその平均模様単位の相当直径に対して5分の1以下の相互間隔である。
(d)好ましい相互間隔を、数値で示すならば、20〜400μmであり、より好ましくは30〜300μmであり、最も好ましくは30〜150μmである。20μm未満は技術的に実現困難であり(微小凹部の場合には強度も低下する)、400μmを越えると十分な低グロス性が得られにくい。
【0019】
以上に説明した、微小凹部又は微小凸部の平面形状・平面寸法・深さ又は高さ・相互間隔は、それぞれ、全数が均一でもよいし、互いに異なるものが混在してもよい。
【0020】
本発明の特徴は微小凹部又は微小凸部が、偶然に分散するのではなく、予め設計された平面配列パターンで配列することである。その配列パターンとしては、特に限定されないが、図7(a)〜(e)に示すように略規則正しく配列するパターンと、図7(f)に示すようにランダムに配列するパターンとを例示できる。図7(a)〜(d)に示すのはそれぞれ30度、60度、72度、及び90度に交わる2方向の線群の交点に配列するパターンであり、図7(e)に示すのは前記2方向の線群を歪めてその交点に配列するパターンである。但し、ランダムに配列するパターンの場合、微小凹部又は微小凸部の相互間隔が部位によって大きく偏らないように制御されたものが好ましい。具体的には、離れた二箇所からサンプリングした、例えば100個の微小凹部又は微小凸部の相互間隔の平均値が、3割以上相違しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂成形品は、設計どおりの低グロス性をムラなく達成できる。また、傷が付きにくく、たとえ付いても目立ちにくい。更に、ウェルドやヒケも目立ちにくく、触った際の触感も良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
樹脂成形品30の表面に皮シボ模様32を賦形するための模様賦形用凹凸部12が形成された樹脂成形用金型10の成形面11を低グロス化する。この際、まず、下地の紙となる柔軟シート51の表面に、無数のマスク部53からなるレジスト52を、予め設計された平面配列パターンで規則正しく配列するように付着させた転写用シート50を用意する。このとき、マスク部53の平面寸法及び相互間隔54は、皮シボ模様32の平均模様単位よりも小さくなるようにする。次に、転写用シート50を成形面11に押し付け、該レジスト52を付着させる。そして、エッチング液を浸すことにより、露出している成形面11をエッチングし、その後レジスト52を除去する。これら一連の操作により、マスク部53のあった所に微小凸部17からなる低グロス化用加工部を形成する。
【実施例1】
【0023】
本実施例の図1a〜cに示す樹脂成形用金型10は、図2に示す自動車の内装品を成形するためのものである。樹脂成形用金型10の成形面11には、図2a〜cに示す樹脂成形品30の表面に皮シボ模様32を賦形するための模様賦形用凹凸部12が形成されるとともに、微小凹所37からなる低グロス用処理部を形成するための微小凸部17からなる低グロス化用加工部が形成されている。模様賦形用凹凸部12は、網目状に配置された模様賦形用凸部13と、その間に存在する模様賦形用凹部14と、所々に点在する毛穴賦形用凸部15とからなる。低グロス化用加工部は、直径220μmの円形の平面形状で高さが20μmの無数の微小凸部17が、36μmの相互間隔で、90度に交わる2方向の線群の交点に略規則正しく配列することにより形成されている。
【0024】
樹脂成形用金型10を得る際には、まず、模様賦形用凹凸部12を特許文献1記載の方法で成形面11に形成し、次に、低グロス化用加工部を形成し低グロス化する。
【0025】
その低グロス化方法を以下に示す。まず、下地の紙となる柔軟シート51の表面に、直径220μmの円形の平面形状をした無数のマスク部53からなるレジスト52を、36μmの相互間隔54で、90度に交わる2方向の線群の交点に略規則正しく配列するように付着させた図3aに示す転写用シート50を用意する。
【0026】
次に、図4a及び図4bに示すように、転写用シート50のレジスト52が付着された側の面を成形面11に押し付け、レジスト52を付着させる。その後、柔軟シート51だけを剥がせば図4cに示すように、レジスト52だけが綺麗に転写される。
【0027】
この状態で、エッチング液を浸して露出している成形面11を20μmエッチングする。これにより、図4dに示すようにレジスト52があった所には相対的に微小凸部17が形成される。この後、図4eに示すようにレジスト52を除去する。これら一連の操作により、低グロス化用加工部を成形面11に形成する。以上のように形成すれば、平面形状・平面寸法・高さ・相互間隔が、それぞれ、全数が均一である微小凸部17を、予め設計された平面配列パターンで配列することができる。
【0028】
以上の方法で低グロス化された本発明の樹脂成形用金型10からは、図2a〜cに示す本発明の樹脂成形品30が成形される。この樹脂成形品30の表面31には、皮シボ模様32が賦形されているとともに、微小凹所37からなる低グロス化用処理部が形成されている。皮シボ模様32は、模様賦形用凸部13によって賦形された溝部分33と、模様賦形用凹部14によって賦形された膨らみ部分34と、毛穴賦形用凸部15によって賦形された毛穴35とからなる。溝部分33は網目状に配置されており、その間には膨らみ部分34が存在している。また、毛穴35は所々に点在している。低グロス化用処理部は、直径220μmの円形の平面形状で深さが20μmの無数の微小凹所37が、36μmの相互間隔で、90度に交わる2方向の線群の交点に略規則正しく配列することにより形成されている。これら無数の微小凹所37により、表面31に当たった光は拡散されるため表面31は低グロス化される。
【0029】
微小凹所37は、平面寸法及び相互間隔が、皮シボ模様32の平均模様単位(相当直径が2000μm程)よりも十分に小さいため、皮シボ模様32を崩すことはなく、また、皮シボ模様32の各模様単位内に存在する。模様単位とは、装飾模様を構成する一要素の大きさであり、本実施例では図2bに示すように、皮シボ模様32を構成する膨らみ部分34を1つを含む、溝部分33によって区切られた1区画32a〜32i等(金型の場合は図1bに示す12a〜12i等)の大きさである。平均模様単位とはその模様単位の平均である。また、相当直径とは、平面形状が円の場合にはその直径、円以外の平面形状の場合にはその平面形状を同じ面積の円に相当させたときの直径である。
【0030】
本実施例では、上記のようにレジスト52を付着させているため、成形面11には寸法及び形状が一様なマスク部53が規則正しく配列される。このため、全体が設計通りにムラなく低グロス化され、品質も安定する。また、微小凹所37は十分な相互間隔をとって並んでいるため、相対的に凸部分となる微小凹所以外の部分は強度的に十分な厚みを備える。また、均一に規則正しく配列しているため、低グロス用加工部の強度は全体的に略均一となる。そのため、極めて脆い部分は特に存在せず、傷が付きにくい。特に本実施例では、低グロス用処理部が微小凹所37からなるため、この部分が外部と接触しにくく、引っ掻き等による傷が付きにくい。艶感が他と異なって見えるウェルドやヒケについても、規則正しく配列した微小凹部に紛れて目立ちにくい。また、触感もサラサラとした良いものとなる。
【0031】
低グロス性の評価を行うため、光沢計の市販品であるユニカミノルタセンシング(株)社製のUni−Gloss 60を用い、樹脂成形品の表面の光沢度を測定した。この光沢計は、塗料皮膜、プラスチックや同様の金属表面の光沢度を測定するためのものであり、試験片の表面に決められた角度で光を入射させ、反射した光を測定する。規格では、黒色ガラス標準板(通常屈折率:1.567)を基準とし、光沢度100としている。測定は低グロス化する前、及び低グロス化した後の金型から成形された樹脂成形品について行った他、エッチングの深さを30μmにした場合についても行った。また、低グロス化する金型の種類も替えて同様の測定を行った。それらの結果を表1に示す。ただし、これらの数値は材料や温度等の諸条件により変わる。よって、評価に当たっては、ここでの絶対的な数値ではなく、低グロス化前から低グロス化後にかけての数値の変化を参考までに利用した。
【0032】
【表1】

【実施例2】
【0033】
図5aに示す本実施例の樹脂成形用金型20は実施例1と略同様であるが、微小凸部17ではなく微小凹部27からなる低グロス用加工部を成形面21に備えている点で相違する。微小凹部27の平面形状・平面寸法・深さ(高さ)・相互間隔及び配列は、実施例1の微小凸部17と同様のものとなっている。
【0034】
微小凹部27を成形面21に形成する方法を以下に示す。図3bに示す転写用シート55を用意する。転写用シート55は下地の紙となる柔軟シートの表面に、実施例1のレジスト52とは相補的な形状をしたレジスト57を付着させたものである。よって、平面状に広がったレジスト57には、直径220μmの円形の平面形状をした無数のホール部58が、36μmの相互間隔で、90度に交わる2方向の線群の交点に略規則正しく配列している。それ以降においては、実施例1と同様の操作を行う。このとき、ホール部58のある所がエッチングされるため、成形面21には実施例1とは対称的に微小凹部27からなる低グロス化用加工部が形成される。
【0035】
以上の方法で低グロス化された樹脂成形用金型20からは、図5bに示す樹脂成形品40が成形される。樹脂成形品40は、実施例1の樹脂成形品30と略同様であるが、微小凹所37ではなく微小凸起47からなる低グロス化用処理部を備えている点で相違する。微小凸起47の平面形状・平面寸法・高さ(深さ)・相互間隔及び配列は実施例1の微小凹所37と同じものとなっている。
【0036】
本実施例の樹脂成形品40も、実施例1と略同様の性質を示すが、以下の点において相違する。表面に触れたときの感触は、実施例1にも増してサラサラとした良い触感となる。このことは、触れた際に接する表面積が実施例1よりも小さくなることが関係していると思われる。ただし、実施例1よりは、多少傷つき易くなる。その理由は、低グロス化用処理部が微小凸起47から構成されているのでこの部分が比較的外部と接触し易く、引っ掻き等により削られ易いためと考えられる。しかし、従来例と比べると、直径220μmと比較的大きな寸法の微小凸起47が略均一に規則正しく配列しているため、全体が略一様に強く、極めて脆い部分は特に存在しないため傷が付きにくい。このように、本発明の方法を用いれば、設計通りのものを得ることができるので、実施例1と本実施例の場合のように、性質が微妙に異なったものを意図的に得ることもでき、これらのものを目的に応じて使い分ければ、なお有益である。実施例1と同様に、樹脂成形品の表面の光沢度を光沢計で測定した。その結果を表2に示す。また、前述した従来例1〜3と本実施例1及び2との樹脂成形品の性質の違いを表3にまとめる。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【実施例3】
【0039】
本実施例は実施例1と略同様であるが、レジストを付着させる方法のみが相違する。その手順を以下に示す。まず、下地の紙となる柔軟シート61の上に、光硬化性のレジスト62が全面的に隙間なく略一様に付着した図6aに示す転写用シート60を用意する。次に、転写用シート60のレジスト62が付着した側の面を成形面11に押し付け、その後、柔軟シート61だけを剥がす。このようにして、成形面11に、レジスト62を図6bに示すように全面的に隙間なく略一様に付着させる。
【0040】
この状態で、図6cに示すようにレジスト62に、マスク部状の光(すなわち、直径220μmの円形の光が、36μmの相互間隔で、90度に交わる2方向の線群の交点に略規則正しく配列する)をあて、レジスト62の露光部分のみを硬化させ、非硬化の部分を除去する。これにより、図6dに示すように実施例1と略同様の配列にレジスト62を付着させる。それ以外の方法は実施例1と同様である。
【0041】
このような方法を用いれば、実施例1のようにマスク部53が規則正しく配列された転写用シート50を用意する手間が省ける。また、曲率の高い曲面等にもレジストを綺麗に付着させることができる。
【0042】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は本発明の実施例1における樹脂成形用金型を示し、(b)(c)は部分拡大斜視図である。
【図2】(a)は同実施例における樹脂成形品を示し、(b)(c)は部分拡大斜視図である。
【図3】(a)及び(b)は、それぞれ実施例1及び実施例2における転写用シートを示す正面図である。
【図4】実施例1における樹脂成形用金型を示す断面図である。
【図5】実施例2における樹脂成形用金型及び樹脂成形品を示す斜視図である。
【図6】実施例3における樹脂成形用金型を示す断面図である。
【図7】課題を解決するための手段における平面配列パターンを示す正面図である。
【図8】従来例1及び従来例2における樹脂成形用金型を示す断面図である。
【図9】従来例3における樹脂成形用金型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 樹脂成形用金型
11 成形面
12 模様賦形用凹凸部
17 微小凸部
27 微小凹部
30 樹脂成形品
31 表面
32 装飾模様としての皮シボ模様
37 微小凹所
47 微小凸起
52 レジスト
53 マスク部
58 ホール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の表面に凹凸を伴う装飾模様を賦形するための模様賦形用凹凸部が形成された樹脂成形用金型の成形面を低グロス化する方法において、
前記成形面に、前記装飾模様の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数のホール部又はマスク部が予め設計された平面配列パターンで配列するレジストを付着させ、前記成型面をエッチングしてから前記レジストを除去することにより、前記ホール部又はマスク部のあった所に形成される無数の微小凹部又は微小凸部よりなる低グロス化用加工部を形成することを特徴とする樹脂成形用金型の低グロス化方法。
【請求項2】
成形面に、樹脂成形品の表面に凹凸を伴う装飾模様を賦形するための模様賦形用凹凸部が形成されるとともに、前記装飾模様の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数の微小凹部又は微小凸部が予め設計された平面配列パターンで配列する低グロス化用加工部が形成されたことを特徴とする樹脂成形用金型。
【請求項3】
表面に、凹凸を伴う装飾模様が賦形されているとともに、前記装飾模様の平均模様単位よりも小さい平面寸法の無数の微小凹所又は微小凸起が予め設計された平面配列パターンで配列する低グロス化用処理部が形成されていることを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−68972(P2006−68972A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253510(P2004−253510)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(398017404)株式会社ワールドエッチング (3)
【Fターム(参考)】