説明

樹脂系誘電体の製造方法、および、樹脂系誘電体

【課題】PTFE樹脂等のフッ素樹脂粉末に誘電性セラミックス粉末を配合した樹脂系材料を用い、低コストで誘電特性に優れる円筒状、円柱状または板状の樹脂系誘電体を製造できる。
【解決手段】少なくともフッ素樹脂粉末と誘電性セラミックス粉末とを混合して混合物とする混合工程と、該混合物をラム押し出し成形法で円筒状、円柱状または板状の成形体に成形する成形工程とを備えてなる製造方法であり、上記フッ素樹脂粉末は、PTFE樹脂および変性PTFE樹脂から選ばれた少なくとも一つの樹脂の粉末であり、混合工程において誘電性セラミックス粉末を混合物全体に対して 5〜50 体積%混合し、得られる樹脂系誘電体が、周波数1GHzおよび温度25℃において比誘電率 3 以上、誘電正接 0.01 以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂系誘電体の製造方法に関し、特に誘電体アンテナに用いる円筒形、円柱形または板状の樹脂系誘電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等の目覚しい普及、衛星通信機器の著しい発達に伴い、通信信号の周波数の高周波化および通信機器の小型化・多様化が望まれている。これらに伴い、アンテナ用誘電体の形状を、円筒形または円柱形とするなどの要望がある。
【0003】
従来、アンテナ用誘電体としては、セラミックス材料を用いて焼成して成形体とするもの、四フッ化エチレン(以下、PTFEと記す)樹脂にセラミックス粉末を配合した複合材料を用いて射出成形法により成形体とするもの(特許文献1参照)、PTFE樹脂にセラミックス粉末を配合した複合材料を用いて加熱圧縮成形法によりレンズアンテナ形状の成形体とするもの(特許文献2参照)などが開示されている。
【0004】
しかしながら、セラミックス材料を用いて円筒形、円柱形や板状のアンテナを製造すると焼成時にひけが発生し、加工コストが高くなるという問題がある。また、樹脂にセラミックス粉末を配合した樹脂材料を用いる場合では、比重が小さく、かつ誘電損失が少なく高利得化に有利であるものの、射出成形時のひけが発生する、厚肉成形品ではボイドが発生するという問題や、セラミックス粉末の配向により成形体内部で誘電率が不均一となるなどの問題がある。また、金型が複雑となり製造コストが高くなる。
【0005】
特許文献2のように該加熱圧縮成形法を採用する場合では、円筒状、円柱形や板状の誘電体を生産性よく低コストで製造することはできない。
【特許文献1】特開2002−197923号公報
【特許文献2】特開2004−253853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、PTFE樹脂等のフッ素樹脂粉末に誘電性セラミックス粉末を配合した樹脂系材料を用い、低コストで誘電特性に優れる円筒状、円柱状または板状の樹脂系誘電体を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂系誘電体の製造方法は、少なくともフッ素樹脂粉末と誘電性セラミックス粉末とを混合して混合物とする混合工程と、該混合物をラム押し出し成形法で円筒状、円柱状または板状の成形体に成形する成形工程とを備えてなることを特徴とする。
【0008】
上記フッ素樹脂粉末は、PTFE樹脂および変性PTFE樹脂から選ばれた少なくとも一つの樹脂の粉末であることを特徴とする。
また、上記混合工程において、溶融型のフッ素樹脂粉末を混合することを特徴とする。
【0009】
上記混合工程において、上記誘電性セラミックス粉末を混合物全体に対して 5〜50 体積%混合することを特徴とする。
また、上記混合工程において、カーボンブラックを混合物全体に対して 0.1〜10 体積%混合することを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂系誘電体は、上記本発明の製造方法により製造されることを特徴とする。特に、上記樹脂系誘電体は、周波数1GHzおよび温度25℃において比誘電率 3 以上、誘電正接 0.01 以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂系誘電体の製造方法は、少なくともフッ素樹脂粉末と誘電性セラミックス粉末とを混合して混合物とする混合工程と、該混合物をラム押し出し成形法で円筒状、円柱状または板状の成形体に成形する成形工程とを備えてなるので、該誘電体を連続的に製造でき生産性に優れ、製造コストを下げることができる。
【0012】
ベース樹脂となるフッ素樹脂にはPTFE樹脂を用いるが、該PTFE樹脂の一部または全部を変性PTFE樹脂とすることで、成形時の融着性を向上させることができる。また、上記混合物に溶融型のフッ素樹脂を配合することでも、成形時の融着性を向上させることができる。これら融着性の向上により、緻密な成形体が得られるため、安定した比誘電率、誘電正接を得ることができる。
【0013】
上記混合工程において、誘電性セラミックス粉末を混合物全体に対して 5〜50 体積%混合し、また、必要に応じてカーボンブラックを混合物全体に対して 0.1〜10 体積%混合することで、得られる本発明の樹脂系誘電体の誘電特性を所望の値、例えば周波数1GHzおよび温度25℃において比誘電率 3 以上、誘電正接 0.01 以下とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の樹脂系誘電体の製造方法は、(1)少なくともフッ素樹脂粉末と誘電性セラミックス粉末とを混合して混合物とする混合工程と、(2)該混合物をラム押し出し成形法で円筒状、円柱状または板状の成形体に成形する成形工程とを備えてなる。混合工程において、所定の樹脂材料および誘電性セラミックス粉末を、所定配合で混合することで、成形工程においてラム押し出し成形法で円筒状、円柱状または板状の誘電体を高い品質で連続的に製造でき、その誘電特性も後述するような所望の値とすることができる。
【0015】
上記製造方法で得られる本発明の樹脂系誘電体は、周波数1GHzおよび温度25℃において比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.01 以下であることが好ましい。比誘電率が 3 未満であると、波長短縮効果が低いので好ましくない。また、誘電正接が 0.01 をこえると電気的な損失が増えるので好ましくない。
【0016】
本発明で樹脂系誘電体のベース樹脂となるフッ素樹脂は、PTFE樹脂および変性PTFE樹脂から選ばれた少なくとも一つの樹脂であることが好ましい。
PTFE樹脂は、−CF2−CF2−を構成単位として有する高分子量の樹脂である。融点は通常便宜的に 327℃とされているが、溶融粘度が 380℃でも1011 ポアズと極めて高く、成形時の溶融粘度が103〜104 ポアズである一般の熱可塑性樹脂とは異なり、押出し成形、射出成形などの溶融成形法を適用できない。
また、PTFE樹脂の成形体の電気特性については、広い周波数領域にわたって誘電率や誘電正接が一定であり、絶縁物中で最小である誘電率:2.1、誘電正接:0.0002 以下の値を有する。
PTFE樹脂の市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン(登録商標)7A等を例示できる。
【0017】
変性PTFE樹脂は、CF2−CF2−からなる構成単位と、パーフルオロアルキルエーテル基(F−Cp2p −O−)( pは 1〜4 程度の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF2q −)( qは 1〜 20 の整数)が導入された四フッ化エチレン構成単位との共重合体である。
この変性PTFE樹脂を用いることで、成形時の融着性を向上させることができる。変性PTFE樹脂は、上記PTFE樹脂に代えて用いても、PTFE樹脂と併用してもよい。
変性PTFE樹脂の市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンTG70J、NXT70、ダイキン工業社製:ポリフロンM111、ポリフロンM112、へキスト社製:ホスタフロンTFM1600、ホスタフロンTFM1700等を例示できる。
【0018】
PTFE樹脂、変性PTFE樹脂の重合方法は一般的なモールディングパウダーを重合する懸濁重合法、ファインパウダーを重合する乳化重合法のいずれも採用できるが、分子量は約 50 万から約 1,000万が好ましく、さらに限定すれば 100万から 700万が好ましい。
【0019】
本発明では上記PTFE樹脂や変性PTFE樹脂に加えて、またはこれに代えて溶融型のフッ素樹脂を配合することが好ましい。
本発明に使用できる溶融型のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPと記す)樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(以下、ETFEと記す)樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと記す)樹脂などを挙げることができる。これらの中で、耐熱性が高いため、PTFE樹脂や変性PTFE樹脂の成形温度におけるガス発生が少ないPFA樹脂が好ましい。これらは、溶融成形可能な樹脂であり、混合工程において、PTFE樹脂や変性PTFE樹脂に配合することで、成形時の融着性を向上させることができる。
FEP樹脂の市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン100J、160J、ダイキン工業社製:ネオフロンFEP NC−1500等を例示でき、ETFE樹脂の市販品としては、旭硝子社製:Z8820等を例示でき、PFA樹脂の市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン340J、旭硝子社製:アフロンPFA TW−3507等を例示できる。
【0020】
ベース樹脂であるPTFE樹脂等に配合する誘電性セラミックス粉末は、得られる樹脂系誘電体の誘電率を実質的に決定するものである。
このような誘電性セラミックス粉末としては、IIa、IVa、III b,IVb族の酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、またはIIa,IVa,III b,IVb族を含む複合酸化物から選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。具体的には、TiO2、CaTiO3、MgTiO3、Al23、BaTiO3、SrTiO3、CaCO3、Ca227、SiO2、Mg2 SiO4、Ca2 MgSi27 、あるいは比誘電率の温度依存性を改良するため、アルカリ土類金属と希土類酸化物を配合したBaO−TiO2−Nd23系セラミックス等が挙げられる。配合する誘電性セラミックス粉末は、誘電特性を示すものであれば特に限定しない。また、特性改良のため、Al、Zr等の微量組成物を配合してもよい。
【0021】
誘電性セラミックス粉末の平均粒子径は 0.01〜100μm 程度が好ましい。0.01μm より小さい場合、取り扱いが困難であり、結着性を阻害するため好ましくない。100μm より大きい場合、成形体内での誘電特性のばらつきを引き起こす恐れがあるので好ましくない。より実用的な範囲は、0.1〜20μm 程度である。
【0022】
本発明の混合工程においては、誘電性セラミックス粉末は混合物全体に対して 5〜50 体積%混合することが好ましい。5 体積%未満であると比誘電率が 3 未満となるので好ましくない。50 体積%をこえると成形性が悪化するので好ましくない。
【0023】
本発明では樹脂系誘電体の比誘電率向上のために、添加剤としてカーボンブラックを配合することが好ましい。このカーボンブラックとしては、ハードカーボン、ソフトカーボン等の顔料、耐摩耗性向上等に使用されるカーボンブラックを使用できる。ただし、導電性の良いアセチレン系のカーボンブラックは、誘電正接の増加量が多いので好ましくない。
【0024】
本発明の混合工程においては、カーボンブラックは混合物全体に対して 0.1〜10 体積%混合することが好ましい。0.1 体積%未満の場合、カーボンブラックを配合した効果による比誘電率の増加量は少ない。10 体積%をこえる場合、誘電正接が大きくなるため、好ましくない。高誘電率かつ低誘電正接化のための最適な配合量は、0.5〜2 体積%である。
【0025】
本発明の混合工程は、上記のPTFE樹脂等のフッ素樹脂粉末と、誘電性セラミックス粉末と、必要に応じてその他のPFA樹脂やカーボンブラック等の配合材をそれぞれ所定量採取し、採取した原材料を混合機で均一に混合して混合物とする工程である。
混合機としては、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等を用いることができる。
【0026】
本発明の成形工程は、原材料を均一に混合した上記混合物を、原料供給ホッパー等からラム押出し成形用金型に投入し、油圧シリンダーに取り付けられたラムにて圧縮しつつ金型を通過させて円筒状、円柱状または板状に押し出した後、加熱ゾーンにて混合物を完全溶融させた後、冷却し成形体とする工程である。
本発明においてラム押し出し成形時の成形圧力および温度は、使用する樹脂種類によりそれぞれ適宜選択する。
【0027】
本発明の成形工程に用いるラム押し出し用金型のウチノリ寸法の外径は、φ6〜φ50 mm が好ましい。φ6 mm未満は、混合粉の供給が困難である。φ50 mm より大きい場合、成形中心部にボイドが発生しやすいので好ましくない。ラム押し出し用金型のウチノリ寸法の外径が、得られる円筒状または円柱状の樹脂系誘電体の外径である。
【実施例】
【0028】
実施例1〜実施例6
PTFE樹脂粉末と、誘電性セラミックス粉末と、添加剤とを表1に示す配合割合で採取し、これらをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合した。この混合材料を 350〜370℃に加熱したラム押し出し金型(ウチノリ寸法:外形 60mm、内径 15mm、全長 800mm)に充填し、50MPa の圧力で成形した。円筒状成形体を金型から取り出し室温まで冷却した後、 15O℃で 20 時間加熱しアニールした。
得られた成形体試験片についての比誘電率と誘電正接、および誘電特性を以下の方法にて測定した。結果を表1に併記する。
【0029】
<誘電特性の測定>
得られた試験片について空洞共振器法(1998年7月、Electronic Monthly誌、16〜19頁)により、1GHz帯および5GHz帯で 25℃での比誘電率および誘電正接を測定した。
【0030】
比較例1〜比較例4
PTFE樹脂粉末と、誘電性セラミックス粉末と、添加剤とを表1に示す配合割合で採取し、これらをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合した。この混合材料を、実施例1で得られる成形体と同型を成形できる金型に充填し、面圧 50MPa、温度 370℃で1時間、加熱圧縮成形した。得られた成形体試験片について実施例1と同様に誘電特性を測定した。また、成形時のコストを実施例をコスト1として概算で算出した。結果を表1に併記する。
【0031】
比較例5
PTFE樹脂粉末と、誘電性セラミックス粉末と、添加剤とを表1に示す配合割合で採取し、これらをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合した。この混合材料を実施例1で得られる成形体と同型に室温で成形した後、370℃で3時間焼成した(フリーシンター法)。得られた成形体試験片について実施例1と同様に誘電特性を測定した。また、成形時のコストを実施例をコスト1として概算で算出した。結果を表1に併記する。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の樹脂系誘電体の製造方法は、PTFE樹脂等のフッ素樹脂粉末に誘電性セラミックス粉末を配合した樹脂系材料を用い、低コストで誘電特性に優れる円筒状、円柱状または板状の樹脂系誘電体を製造できるので、高周波通信機等のアンテナ部材の製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ素樹脂粉末と誘電性セラミックス粉末とを混合して混合物とする混合工程と、該混合物をラム押し出し成形法で円筒状、円柱状または板状の成形体に成形する成形工程とを備えてなることを特徴とする樹脂系誘電体の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂粉末は、四フッ化エチレン樹脂および変性四フッ化エチレン樹脂から選ばれた少なくとも一つの樹脂の粉末であることを特徴とする請求項1記載の樹脂系誘電体の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、溶融型のフッ素樹脂粉末を混合することを特徴とする請求項1記載の樹脂系誘電体の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記誘電性セラミックス粉末を混合物全体に対して 5〜50 体積%混合することを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の樹脂系誘電体の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、カーボンブラックを混合物全体に対して 0.1〜10 体積%混合することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の樹脂系誘電体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の製造方法により製造されることを特徴とする樹脂系誘電体。
【請求項7】
前記樹脂系誘電体は、周波数1GHzおよび温度25℃において比誘電率 3 以上、誘電正接 0.01 以下であることを特徴とする請求項6記載の樹脂系誘電体。

【公開番号】特開2008−186680(P2008−186680A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18343(P2007−18343)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】