説明

樹脂組成物、光学フィルムおよびその製造方法ならびにその用途

【課題】スチレン系共重合体とノルボルネン系重合体からなる組成物であって、優れた相溶性を有して相分離せず、かつフィルム化が容易な樹脂組成物を提供すること、およびこの樹脂組成物を主成分とし、逆波長分散性を示すとともに、優れた透明性を有する光学フィルムおよびその製造方法ならびにその用途を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有し、当該構造単位(2)の含有率が全構造単位100mol%中0.1〜50mol%であるスチレン系共重合体と、(B)ノルボルネン系重合体とを含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系共重合体とノルボルネン系重合体とを含有する樹脂組成物、該樹脂組成物を主成分とした光学フィルムおよびその製造方法ならびにその用途に関する。より詳しくは、高透明であり、透過光に与える位相差(本発明において、位相差とはレターデーション(Retardation)を意味する。)の均一性が高く、位相差の絶対値が透過光の
波長が長波長になるほど大きくなるという特性(以下「逆波長分散性」ともいう。)を有し、かつ製造方法が簡易な光学フィルムおよびその製造方法ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光学フィルムとして使用されているポリカーボネート、ポリエステル等のフィルムは、光弾性係数が大きいために微小な応力の変化などにより透過光に位相差が発現したりして位相差が変化する問題がある。また、トリアセチルアセテート等アセテートフィルムは、耐熱性が低く吸水変形等の問題がある。
【0003】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂(環状オレフィン系樹脂)は、ガラス転移温度、光線透過率が高く、しかも屈折率の異方性が小さいことによる従来の光学フィルムに比べ低複屈折性を示すなどの特長を有しており、耐熱性、透明性、光学特性に優れた透明熱可塑性樹脂として注目されており、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6等に記載されている。
【0004】
また、上記の特徴を利用して、例えば、光ディスク、光学レンズ、光ファイバー、透明プラスチック基盤、低誘電材料などの電子・光学材料、光半導体封止などの封止材料などの分野において、環状オレフィン系樹脂を応用することが検討されている。
【0005】
上記の環状オレフィン系樹脂の特性は、光学フィルム用の樹脂としてみても、前記従来の樹脂の問題点を改善できるものであり、このため、環状オレフィン系樹脂からなるフィルムが光学用の各種フィルムとして提案されている。
【0006】
例えば、特許文献7、特許文献8および特許文献9には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを用いた位相差板が記載されている。また、特許文献10、特許文献11および特許文献12には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを、偏光板の保護フィルムに使用することが記載されている。さらに、特許文献13には、環状オレフィン系樹脂のフィルムからなる液晶表示素子用基板が記載されている。
【0007】
一般的に位相差フィルムは、延伸配向させて得られる透過光に位相差(複屈折)を与える機能が、透過光の波長が長波長になるにつれて透過光の位相差(複屈折)の絶対値が小さくなるという特性(正の波長分散性)を有するため、可視光領域(400〜800nm)全てにおいて、例えば1/4波長等の特定の位相差を透過光に与えることが非常に困難であった。実際に位相差が広範囲な波長領域(400〜800nm)において1/4波長としての機能が反射型や半透過型の液晶ディスプレイや光ディスク用ピックアップなどに必要とされている。また、液晶プロジェクターでは、1/2λの位相差が必要であり、従来の環状オレフィン系樹脂からなる光学フィルムでは、フィルムを積層化させる以外困難であった。フィルムの積層化では、フィルムの貼り合わせ、切り出し、接着などの工程が複雑化するだけでなく、得られる光学フィルムの厚みも低減させることが困難になる。
【0008】
この課題を解決するためには、波長が長波長になるにつれて透過光の位相差の絶対値が大きくなる特性、すなわち、逆波長分散性を示す光学フィルムが必要である。この逆波長
分散性を示す光学フィルムとしては、特許文献14、15において、特定のセルロースアセテート系樹脂からなる位相差フィルム、ポリカーボネート系樹脂やスチレン系樹脂のブレンドが提案されている。しかしながら、セルロース系樹脂からなるフィルムでは、吸水による特性変化や耐熱性等の点において問題点があり、ポリカーボネート系では、ガラス転移温度が高く、高温での延伸加工が必要になるだけでなく、フィルムの光弾性係数が大きいために応力による光学ひずみが生じる。
【0009】
また、スチレン系樹脂では、フィルム化の際に製膜性の良い塩化メチレンなどの揮発性の高い溶媒は、ほとんどの場合相分離が生じるために使用できず、特定の溶剤を選定しなければならない。そのために溶剤の乾燥時間がかかり、生産性が極端に低下し、透明度の高いフィルムを容易に得ることが困難であるという問題があった。
【0010】
このため、相分離を抑え、透明な光学フィルムを容易に得ることができる樹脂組成物、およびその樹脂組成物を主成分とする、逆波長分散性を示し、透明度のある光学フィルムの出現が強く望まれていた。
【特許文献1】特開平1−132625号公報
【特許文献2】特開平1−132626号公報
【特許文献3】特開昭63−218726号公報
【特許文献4】特開平2−133413号公報
【特許文献5】特開昭61−120816号公報
【特許文献6】特開昭61−115912号公報
【特許文献7】特開平4−245202号公報
【特許文献8】特開平5−2108号公報
【特許文献9】特開平5−64865号公報
【特許文献10】特開平5−212828号公報
【特許文献11】特開平6−51117号公報
【特許文献12】特開平7−77608号公報
【特許文献13】特開平5−61026号公報
【特許文献14】特開2000−137116号公報
【特許文献15】特開2000−337222号公報
【非特許文献1】高分子論文集、Vol.61、No1、89-94(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、スチレン系共重合体とノルボルネン系重合体からなる組成物であって、優れた相溶性を有して相分離せず、かつフィルム化が容易な樹脂組成物を提供することにある。
【0012】
また、この樹脂組成物を主成分とし、逆波長分散性を示すとともに、優れた透明性を有する光学フィルムおよびその製造方法ならびにその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記実情に鑑みて鋭意検討した結果、特定の構造単位を特定の量で有するスチレン系共重合体と、ノルボルネン系重合体とを含有する樹脂組成物、該樹脂組成物を主成分とした光学フィルムおよびその製造方法ならびにその用途により、上記課題が解決されることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、
(A)下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有し、当該構造単位(2)の含有率が全構造単位100mol%中0.1〜50m
ol%であるスチレン系共重合体と、
(B)ノルボルネン系重合体とを含有することを特徴とする。
【0015】
【化1】

式(1)および式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(2)中、R0
水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。
【0016】
また、前記スチレン系共重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwが30,000〜1,000,000であるのが好ましい。
【0017】
さらに、前記スチレン系共重合体(A)は、スチレンおよび/またはα−メチルスチレンと、下記式(4)で表される単量体(4)とを重合反応させた後、単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基をOH基に変換する工程を含む方法により得られるのが好ましい。
【0018】
【化2】

式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R0は水素原子;ハロゲン原子;酸
素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。R14はアセチル基、t−ブチル基、t−ブトキシカルボニル基、−CH(OR15)(R16)、または−SiR153
表される基のいずれかを示す。R15およびR16はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し、R15とR16、あるいはR15同士は、相互に結合して炭素数2〜12の複素環を形成してもよい。
【0019】
また、前記ノルボルネン系重合体は、下記式(6)で表される単量体(6)から導かれる構造単位を有する(共)重合体であってもよい。
【0020】
【化3】

式(6)中、aおよびbは独立に0または1を示し、cおよびdは独立に0〜2の整数
を示す。
4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。
10とR11、またはR12とR13とは一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R10またはR11とR12またはR13とは相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい。)を形成してもよい。
【0021】
さらに、前記スチレン系共重合体(A)と前記ノルボルネン系重合体(B)との組成比((A)/(B))が、重量比でスチレン系共重合体/ノルボルネン系重合体=5/95〜70/30の範囲であるのが望ましい。
【0022】
本発明の光学フィルムは、前記樹脂組成物を主成分とすることを特徴とする。
また、前記光学フィルムは、本発明の樹脂組成物をキャスト法または押出し法により製膜してもよい。
さらに、本発明の延伸フィルムは、前記光学フィルムを加熱延伸して得られることを特徴とし、さらに本発明の偏光板および液晶表示装置は前記光学フィルムを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂組成物によれば、フィルム成形の際に用いられる塩化メチレンなどの溶媒を用いても相分離を抑制することができ、逆波長分散性と優れた透明性を有する光学フィルムを容易に得ることができる。
【0024】
また、本発明の樹脂組成物に含有されるスチレン系共重合体の各構造単位の含有率をコントロールすることで、加熱時にも良好な相溶性を示し、かつ高温下においても透明性を保持することができる、フィルム成形性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
さらに、スチレン系共重合体と、ノルボルネン系重合体との組成比をコントロールすることにより、低複屈折性を示す樹脂組成物を得ることができる。
また、本発明の樹脂組成物から得られる光学フィルムは、延伸フィルム、該延伸フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置、光学部品としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る樹脂組成物は、スチレン系共重合体(A)と、ノルボルネン系重合体(B
)とを含有している。以下、これらについて説明する。
なお、本明細書中において(共)重合体とは、重合体もしくは共重合体を意味する。
【0027】
<スチレン系共重合体(A)>
本発明に係る樹脂組成物に含有されるスチレン系共重合体(A)は、下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有する。
【0028】
【化4】

式(1)および式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(2)中、R0
水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。
【0029】
構造単位(2)の含有率は、全構造単位100mol%中、通常0.1〜50mol%、好ましくは0.2〜40mol%、より好ましくは0.3〜35mol%である。上記数値範囲内であると、本発明に係る樹脂組成物に含有されるスチレン系共重合体(A)と、ノルボルネン系重合体(B)との双方が良好な溶解性を示す溶媒が存在することに加え、高温下においても相分離することなく透明性を保持できるので,好ましい。
【0030】
さらにスチレン系共重合体(A)は、下記式(3)で表される構造単位(3)を有していてもよい。
【0031】
【化5】

式(3)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。また、R1とR2は相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成しても良い。)を形成してもよい。
【0032】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基などが挙げられる。
【0033】
また、上記の置換または非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、あるいは連結基(linkage)を介して結合していてもよい。連結基としては、たとえば、炭
素原子数1〜10の2価の炭化水素基(たとえば、−(CH2)m−(式中、mは1〜10の
整数)で表されるアルキレン基);酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基(たとえば、カルボニル基(−CO−)、オキシカルボニル基(−O(CO)−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホン基(−SO2−)、エーテル結合(−O−)、チオエ
ーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−、−CONH−)、シロキサン結合(−OSi(R)−(式中、Rはメチル、エチル等のアルキル基))等が挙げられ、これらを複数含む連結基であってもよい。
【0034】
極性基としては、例えば、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、カルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、アミド基、イミド基、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルホニル基、およびカルボキシル基など挙げられる。さらに具体的には、上記アルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基等;カルボニルオキシ基としては、たとえば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、およびベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基;アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等;アリーロキシカルボニル基としては、たとえば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等;トリオルガノシロキシ基としては、たとえば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等;トリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等;アミノ基としては、第1級アミノ基;アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0035】
式(3)で表される構造単位を誘導する単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸およびその誘導体、無水マレイン酸、マレイミド類、マレイン酸およびその誘導体、フマル酸およびその誘導体、p−メトキシスチレンなどが挙げられる。また、後述する脱保護反応で変換されずに部分的に式(4)で表されるスチレン誘導体由来の構造単位が残存する場合など、式(4)で表されるスチレン系単量体なども、当該単量体に含まれる。構造単位(3)の含有率は、全構造単位100mol%中、通常20mol%以下、好ましくは15mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。
【0036】
本発明に用いられるスチレン系共重合体(A)は、30℃のクロロベンゼン溶液(濃度0.5g/dL)中で測定した対数粘度(η)が、0.1〜3.0dL/gであることが
好ましい。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが通常30,000〜1,000,000、好ましくは40,000〜800,000、より好ましくは50,000〜500,000である。分子量が小さすぎると、得られるフィルム等の成形品の強度が低くなることがある。分子量が大きすぎると、溶液粘度が高くなりすぎて本発明に用いる樹脂組成物の生産性や加工性が悪化することがある。
【0037】
さらに、スチレン系共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.0〜10、好ましくは1.2〜5.0、より好ましくは1.2〜4.0である。
[スチレン系共重合体(A)の製造方法]
本発明に用いられるスチレン系共重合体(A)は、スチレンおよび/またはα−メチルスチレンと、下記式(4)で表される単量体(4)とを適当な重合開始剤の存在下で重合反応させた後、単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基をOH基に変換する工程を含む方法により製造するのが好ましい。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、アニオン重合触媒、配位重合触媒、カチオン重合触媒等を用いるのが好ましく、ラジカル重合開始剤を用いるのが特に好ましい。
【0038】
【化6】

式(4)中、RおよびR0は式(2)と同義である。R14はアセチル基、t−ブチル基
、t−ブトキシカルボニル基、−CH(OR15)(R16)、または−SiR153で表され
る基のいずれかを示す。R15およびR16はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し、R15とR16、あるいはR15同士は、相互に結合して炭素数2〜12の複素環を形成してもよい。
【0039】
RおよびR0としては水素原子が好ましい。R14として、なかでもアセチル基、t−ブ
チル基が好ましい。
また、前記スチレンおよび/またはα−メチルスチレンは、スチレンのみであるのが好ましい。
【0040】
前記スチレンおよび/またはα−メチルスチレンと、式(4)に表される単量体に加え、さらに下記式(5)で表される単量体を用いてもよい。
【0041】
【化7】

式(5)中、R1〜R3は式(3)におけるR1〜R3と同義である。
〈重合反応〉
重合反応に用いられるラジカル開始剤としては、フリーラジカルを発生する公知の有機過酸化物、またはアゾビス系のラジカル重合開始剤を用いることができる。なお、多官能開始剤または水素引き抜き反応を起こし易い開始剤は、得られるスチレン系共重合体の線状性が低下するおそれがあるので、好ましくない。
【0042】
有機過酸化物としては、ジアセチルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチロイルパーオキサイド、ジ(2,4−ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサオド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ビス{4−(m−トルオイル)ベンゾイル}パーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;
メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;
過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、α−クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;
ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、2
,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;
t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオドデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシm−トルオイルベンゾエート、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどのパーオキシエステル類;
1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ピバレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類;
t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネートなどのパーオキシモノカーボネート類;
ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;
その他、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイドなどが挙げられるが、本発明に用いられる有機過酸化物はこれらの例示化合物に限定されるものではない。
【0043】
アゾビス系ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド
、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェート・ジハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドキシム)、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などが挙げられるが、本発明に用いられるアゾビス系ラジカル重合開始剤はこれらの例示化合物に限定されるものではない。
【0044】
これらラジカル開始剤の使用量は、前記スチレン系単量体全量100mol%中、通常0.01〜5mol%、好ましくは0.03〜3mol%、より好ましくは0.05〜2mol%である。
【0045】
さらに、前記スチレン系単量体の重合反応には、触媒が用いられてもよい。この触媒は、特に限定されず、たとえば、公知のアニオン重合触媒、配位重合触媒、カチオン重合触媒などが挙げられる。
【0046】
前記スチレン系単量体の重合反応は、上記重合開始剤や触媒の存在下で、上記スチレン系単量体を、塊状重合法、溶液重合法、沈殿重合法、乳化重合法、懸濁重合法または塊状−懸濁重合法などの従来公知の方法で共重合させることにより行なわれる。
【0047】
溶液重合を実施する際に使用する溶剤としては、前記単量体および重合体を溶解するものであれば特に限定されないが、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。溶剤の使用量は、前記スチレン系単量体全量に対し、0〜3倍(重量比)の量であるのが望ましい。
【0048】
重合反応時間は、通常1〜30時間、好ましくは3〜20時間であり、重合反応温度は、使用するラジカル開始剤の種類に依存するため、特に限定されないが、通常40〜180℃、好ましくは50〜120℃である。
【0049】
〈OH基への変換反応〉
本発明に用いられるスチレン系共重合体(A)は、前記スチレン系単量体を重合させた後、さらに単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基をOH基に変換することによって、得ることができる。これにより、たとえば、式(4)に表されるスチレン系単量体のR14が脱離して、スチレン系共重合体(A)に含有される式(2)に表される構造単位を形成することとなる。
【0050】
上記変換反応としては、酸または塩基の存在下で加アルコール分解または加水分解で変換する方法、酸性条件下で加熱して変換する方法、加熱のみによって変換する方法、およびフッ化物イオンを用いて変換する方法などが挙げられる。これらは、前記O−R14基におけるR14の構造によって採用し得る好ましい方法が異なるが、概ね次の通りである。
【0051】
前記O−R14基におけるR14が、例えば、アセチル基(−COCH3)、t−ブトキシ
カルボニル基(−COOtBu)、シリル基(SiR153)、酸素原子と結合してアセタール基を形成し得るアルコキシアルキル基(−CH(OR15)(R16))などの場合、酸性条件下で加水分解または加アルコール分解する方法が好ましく採用される。
【0052】
前記O−R14基におけるR14が、例えば、アセチル基(−COCH3)、t−ブトキシ
カルボニル基(−COOtBu)などの場合、塩基性条件下で加水分解または加アルコー
ル分解する方法が好ましく採用される。
【0053】
酸性条件下で加熱して変換する方法または加熱のみによって変換する方法が適用できる前記O−R14基におけるR14としては、例えば、t−ブチル基(−tBu)、t−ブトキ
シカルボニル基(−COOtBu)を挙げることができ、フッ化物イオンを用いて変換さ
せる方法が適用できるR14としてはシリル基(SiR153)を挙げることができる。
【0054】
《加水分解および加アルコール分解》
加水分解および加アルコール分解に用いられる酸としては、塩酸、臭酸等のハロゲン化水素、蟻酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類、硫酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、硝酸、またはフェノール類等のブレンステッド酸、りんタングステン酸、りんモリブデン酸等のヘテロポリ酸、硫酸化ジルコニア、ゼオライト等の固体酸、イオン交換樹脂、高分子電解質等の高分子酸、およびハロゲン化、アルキル化、および/または
アルコキシ化されたアルミニウム、チタン、タングステン、またはホウ素化合物等のルイス酸、公知の固定化ルイス酸が挙げられる。酸の使用量は、式(4)に表されるスチレン系単量体の使用量とのモル比が、通常、酸/式(4)に表されるスチレン系単量体=1/1000〜1/1、好ましくは1/300〜1/5である。
【0055】
また、塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。塩基の使用量は、式(4)に表されるスチレン系単量体のモル数以上のモル数を要し、通常、式(4)に表されるスチレン系単量体の使用量とのモル比が、塩基/式(4)に表されるスチレン系単量体=1/1〜5/1である。さらに、加水分解後または加アルコール分解後に酸によって中和する必要がある。中和に用いられる酸としては、前記酸と同様の酸を用いることができる。塩基として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の金属ヒドロキシドのような水溶性塩基を用いる場合には、さらに相関移動触媒として、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、クラウンエーテル、ポリ(オリゴ)エチレングリコール等を使用してもよい。
【0056】
反応温度としては通常0〜180℃、好ましくは30〜150℃、更に好ましくは40〜120℃である。反応時間としては通常1〜30時間、好ましくは1〜25時間、より好ましくは1〜20時間である。反応溶媒としては、変換反応前の重合体および変換反応後の重合体が溶解するものであれば特に限定されないが、重合反応と同じ溶媒であるのが好ましい。また、溶媒の使用量としては、重合反応に使用する溶媒の1〜5倍の重量であることが好ましく、1〜3倍の重量であるのがより好ましい。水またはアルコールの添加量としては、O−R14基の1〜30倍モルであることが好ましく、1〜20倍モルであることがより好ましい。使用するアルコールは特に限定されないが、炭素数1〜4のアルコールが好ましい。
【0057】
《酸性条件下での加熱変換反応》
酸性条件下での加熱変換反応に用いることができる酸およびその添加量、反応温度、反応時間、溶媒種、溶媒使用量に関して、上記《加水分解および加アルコール分解》で挙げたものと同様の条件を適用することができる。但し、本方法では水またはアルコールは添加しても良いし添加しなくても良い。
【0058】
《加熱のみによる変換反応》
式(4)に表されるO−R14基におけるR14が、熱エネルギーのみによって脱離し得る
場合は、重合体鎖が分解する温度を大きく超えない温度条件下にて熱分解をすることにより、スチレン系共重合体(A)を得ることができる。このような温度は通常100〜350℃、好ましくは120〜300℃である。
【0059】
《フッ化物イオンを用いた変換反応》
フッ化物イオンを用いた変換反応に用いることができる試剤としては、テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素等を挙げることができる。フッ化物イオンの使用量としては、フッ化物イオンの使用量と式(4)に表されるスチレン系単量体の使用量とのモル比(フッ化物イオン/式(4)に表されるスチレン系単量体)が、通常、1/1〜5/1、好ましくは1/1〜3/1である。
【0060】
〈精製〉
上記変換反応後、精製することによってスチレン系共重合体(A)が得られる。精製には、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、得られた反応物溶液をトルエンまたはテトラヒドロフラン等の良溶媒で希釈後、メタノール、水、またはこれらの混合溶液を添加して重合体を適度に凝集させ、抽出処理する方法が挙げられる。抽出処理の際、反応溶媒として使用した溶媒および希釈のために添加した溶媒を合計した良溶媒量と重合体との重量比(良溶媒/重合体)は、0.5/1〜6/1、好ましくは0.7/1〜4/1であ
る。また、抽出に使用するメタノール、水、またはこれらの混合溶液等の貧溶媒の使用量は重量比(貧溶媒/前記良溶媒)で、0.3〜5、好ましくは0.5〜3である。抽出温
度としては、通常40〜120℃、好ましくは50〜100℃である。
【0061】
前記のように抽出した後、溶液を冷却して軽重層に分離させ、遠心分離機等で軽層を除去する。これらの抽出操作を1〜10回繰り返した後、重液を濃縮してデボラチライター、ルーダー等の脱溶装置で脱溶する。脱溶時の温度は150〜350℃、好ましくは200〜350℃、真空度は0.1〜50mmHg、好ましくは1〜40mmHgである。また、脱溶前に希釈して循環濾過を実施してもよい。濾過の際、濾剤の孔径は0.1〜100μmのものを1種単独で使用してもよく、孔径の異なるフィルターを段階的に複数設置
してもよい。また、脱溶後の溶融ポリマーを濾過することにより精製してもよい。この際のポリマーフィルターの孔径は0.1〜100μmであるのが望ましい。
【0062】
<ノルボルネン系重合体(B)>
本発明に係る樹脂組成物に含有されるノルボルネン系重合体(B)は、下記式(6)で表される単量体(6)から導かれる構造単位を有する(共)重合体であり、具体的には、単量体(6)の開環重合体、単量体(6)と共重合性単量体との開環共重合体、またはこれらの水素添加物、あるいは1種単独または2種以上の単量体(6)からなる付加型(共)重合体、および単量体(6)とビニル系化合物との付加型(共)重合体である。
【0063】
【化8】

式(6)中、aおよびbは独立に0または1を示し、cおよびdは独立に0〜2の整数を示す。
4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。
10とR11、またはR12とR13とは一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R10またはR11とR12またはR13とは相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい。)を形成してもよい。
【0064】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基などが挙げられる。
【0065】
また、上記の置換または非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、あるいは連結基(linkage)を介して結合していてもよい。連結基としては、たとえば、炭
素原子数1〜10の2価の炭化水素基(たとえば、−(CH2)m−(式中、mは1〜10の整数)で表されるアルキレン基);酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基(たとえば、カルボニル基(−CO−)、オキシカルボニル基(−O(CO)−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホン基(−SO2−)、エーテル結合(−O−)、チオエ
ーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−、−CONH−)、シロキサン結合(−OSi(R)−(式中、Rはメチル、エチル等のアルキル基))等が挙げられ、これらを複数含む連結基であってもよい。
【0066】
極性基としては、例えば、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、カルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、アミド基、イミド基、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルホニル基、およびカルボキシル基など挙げられる。さらに具体的には、上記アルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基等;カルボニルオキシ基としては、たとえば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、およびベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基;アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等;アリーロキシカルボニル基としては、たとえば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等;トリオルガノシロキシ基としては、たとえば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等;トリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等;アミノ基としては、第1級アミノ基;アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0067】
前記式(6)で表される単量体(6)の具体例としては、次のような化合物が挙げられる。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセン、
トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−デカ−3,8−ジエン
トリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、
ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセ
ン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセ
ン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン

8−フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−(1−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−(2−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ド
デセン、
8−〈4−フェニルフェノキシ〉カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン、
8−メチル−8−フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3
−ドデセン、
8−メチル−8−(1−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−〈4−フェニルフェノキシ〉カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ヘキサデセン、
ヘプタシクロ[8.7.0.13,6.110,17.112,15.02,7.011,16]−4−エイコセン、
ヘプタシクロ[8.8.0.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]−5−ヘンエイコセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニル−5―メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−n−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2−シクロヘキセニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−イソプロピルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(1−ナフチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2−ナフチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2−ナフチル)−5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(4−ビフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(4−ビフェニル)−5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−アミノメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリn-プロポキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリn-ブトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シクロヘセニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
スピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5][3]デセン]
などを挙げることができる。
【0068】
これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて単量体(6)として用いることができる。
これらの単量体(6)のうち、上記式(6)におけるR10〜R13のうちの少なくとも1つが、下記式(I)
−(CH2nCOOR17 (I)
(式中、nは通常、0または1〜5の整数、R17は炭素数1〜15の炭化水素基である。)で表される特定の極性基である上記特定単量体が、得られる樹脂組成物および光学フィルムの耐熱性と耐湿(水)性とが良好なバランスを保つ点で好ましい。
【0069】
上記式(I)において、nの値が小さいほど、また、R17の炭素数が小さいほど、得ら
れる樹脂組成物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性が向上する点で好ましい。すなわち、nは通常、0または1〜5の整数であるが、好ましくは0または1であり、また、R17は通常、炭素数1〜15の炭化水素基であるが、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が望ましい。
【0070】
さらに、上記式(6)において、上記式(I)で表される極性基が結合した炭素原子に
さらにアルキル基が結合している上記単量体は、得られる樹脂組成物および光学フィルムの耐熱性と耐湿(水)性とが良好なバランスを保つ点で好ましい。このアルキル基の炭素数は1〜5であることが好ましく、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1である。
【0071】
このような単量体(6)のうち、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン、8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラ
シクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン、8−メチル−8−ブトキシカルボニ
ルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン、および8−メチル−8−メ
トキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセンと5−メチル
−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンとの併用は、得られる樹脂組成物および光学フィルムが耐熱性に優れる点で好ましく、特に、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセンおよび8
−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデ
センと5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンとの併用は、スチレン系共重合体(A)との相溶性に優れたノルボルネン系重合体(B)が得られる点で好ましい。
【0072】
その他の式(6)で表される単量体(6)の内で好ましい例としては、ビシクロ[2.
2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−デカ−3,8−ジエン
、5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェニルビシクロ[2.
2.1]ヘプト−2−エン、5−nブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−n
デシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等を挙げることができる。
【0073】
[開環(共)重合体]
上述した単量体(6)を開環重合して得られるノルボルネン系重合体(B)としては、例えば下記一般式(II)で表される構造単位を有する重合体が挙げられる。
【0074】
【化9】

(式(II)中、a、b、c、dおよびR4〜R13は、それぞれ上記式(6)におけるa、b、c、dおよびR4〜R13の定義と同義である。Xは式:−CH=CH−で表される基または式:−CH2CH2−で表される基であり、複数存在するXは同一または異なる。)。
【0075】
[共重合性単量体]
上記単量体(6)は単独で開環重合してもよいが、さらに、上記単量体(6)と他の共重合性単量体と開環共重合させてもよい。
【0076】
上記共重合性単量体として、具体的には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。シクロオレフィンの炭素数は、4〜20が好ましく、さらに好ましくは4〜12である。
【0077】
さらに、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの、主鎖に炭素−炭素間二重結合を含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下で、上記単量体(6)を開環重合させてもよい。この場合、得られる開環共重合体およびその水素添加共重合体は、耐衝撃性の大きい樹脂組成物の原料として有用である。
【0078】
上記開環重合体(式(II)で表される構造単位を有する(共)重合体)は、開環重合触媒の存在下、必要に応じて分子量調節剤および開環重合用溶媒を用いて、上記単量体(6)の1種以上、および必要に応じて共重合性単量体を、従来公知の方法で開環(共)重合させることにより得ることができる。
【0079】
また、上記単量体(6)と上記共重合性単量体とを共重合させる場合、上記単量体(6)と上記共重合性単量体との合計100重量%に対して、上記単量体(6)を通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、かつ100重量%以下、上記共重合性単量体を、0重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下の割合で共重合させることが望ましい。
【0080】
本発明で用いる開環重合体としては、単量体(6)の単独重合体、または2種以上の単量体(6)の共重合体が最も好ましい。
〈開環(共)重合触媒〉
本発明に用いられる開環(共)重合用の触媒としては、Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization(K.J.IVIN,J.C.MOL, Academic Press 1997)に記載されている触媒が好ましく用いられる。
【0081】
このような触媒としては、たとえば、(a)W、Mo、Re、VおよびTiの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Cd、Hg、B、Al、Si、Sn、Pbなどの化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合あるいは当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなるメタセシス重合触媒が挙げられる。この触媒は、触媒の活性を高めるために、後述の添加剤(c)が添加されたものであってもよい。また、その他の触媒として(d)助触媒を用いない周期表第4族〜8族遷移金属−カルベン錯体やメタラシクロブタン錯体などからなるメタセシス触媒が挙げられる。
【0082】
上記(a)成分として適当なW、Mo、Re、VおよびTiの化合物の代表例としては、WCl6、MoCl5、ReOCl3、VOCl3、TiCl4など特開平1−24051
7号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0083】
上記(b)成分としては、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、
(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサン、LiHなど特
開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0084】
添加剤である(c)成分の代表例としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができ、さらに特開平1−240517号公報に示される化合物を使用することができる。
【0085】
上記触媒(d)の代表例としては、W(=N−2,6−C63 iPr2)(=CH tBu)(
O tBu)2、Mo(=N−2,6−C63 iPr2)(=CH tBu)(O tBu)2、Ru(=CHCH=CPh2)(PPh3)2Cl2、Ru(=CHPh)(PC611)2Cl2などが挙げられる。
【0086】
メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と、全単量体(ノルボルネン系単量体(Im)、(IIm)および他の共重合可能な単量体。以下、同じ)とのモル比で「(a)成分:全単量体」が、通常1:500〜1:500,000となる範囲、好ましくは1:1,000〜1:100,000となる範囲であるのが望ましい。(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比で「(a):(b)」が1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:50の範囲であるのが望ましい。また、このメタセシス触媒に上記(c)添加剤を添加する場合、(a)成分と(c)成分との割合は、モル比で「(c):(a)」が0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲であるのが望ましい。また、触媒(d)の使用量は、(d)成分と全単量体とのモル比で「(d)成分:全単量体」が、通常1:50〜1:100,000となる範囲、好ましくは1:100〜1:50,000となる範囲であるのが望ましい。
【0087】
〈分子量調節剤〉
開環(共)重合体の分子量の調節は重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、本発明においては、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節することが好ましい。ここに、好適な分子量調節剤としては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類、スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類、アリル酢酸、アリルベンゼンなどアリル化合物類を挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。分子量調節剤の使用量としては、開環(共)重合反応に供される全単量体1モルに対して0.001〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルであるのが望ましい。
【0088】
〈開環(共)重合反応用溶媒〉
開環(共)重合反応において用いられる溶媒、すなわち、ノルボルネン系単量体、メタセシス触媒および分子量調節剤を溶解する溶媒としては、たとえば、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどの環状炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類;N,N−11ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどを挙げることができ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。本発明では、これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
【0089】
溶媒の使用量としては、「溶媒:全単量体(重量比)」が、通常0.5:1〜20:1となる量とされ、好ましくは0.5:1〜10:1となる量であるのが望ましい。
[水素添加]
本発明では、上記の開環重合のみによりノルボルネン系重合体(B)を製造してもよいが、開環重合で得た開環重合体をさらに水素添加することが好ましい。開環重合のみでは、得られるノルボルネン系重合体は、上述の式(II)で表される構造単位(II)中のXが、いずれも、式:−CH=CH−で表されるオレフィン性不飽和基の状態である。かかる開環重合体は、そのまま使用することもできるが、耐熱安定性の観点から、上記のオレフィン性不飽和基が水素添加されて前記Xが−CH2−CH2−で表される基に転換された水素添加物であることが好ましい。ただし、本発明でいう水素添加物とは、上記のオレフィン性不飽和基が水素添加されたものであり、ノルボルネン系単量体に基づく側鎖の芳香環は実質的に水素添加されていないものである。
【0090】
なお、水素添加する割合としては、上記構造単位(II)におけるXの90モル%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上であるのが望ましい。水素添加する割合が高いほど、熱による着色や劣化が抑制することができるため好ましい。
【0091】
この製造方法では、水素添加反応は、単量体(6)に基づく側鎖の芳香環が実質的に水素添加されない条件で行われる必要がある。このため通常は、開環重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜30MPa、好ましくは2〜20MPa、更に好ましくは3〜18MPaで水素を作用させることによって行うのが望ましい。
【0092】
水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができる。この水素添加触媒としては、公知の不均一系触媒および均一系触媒をいずれも用いることができる。不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。触媒の形態は粉末でも粒状でもよい。また、この水素添加反応触媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0093】
これらの水素添加触媒は、単量体(6)もしくは他の単量体に基づく側鎖の芳香環が実質的に水素添加されないようにするために、その添加量を調整する必要があるが、通常は、「開環(共)重合体:水素添加触媒(重量比)」が、1:1×10-6〜1:2となる割合で使用するのが望ましい。
【0094】
精製方法としてはスチレン系共重合体(A)と同様の方法を採用することができる。
[付加型(共)重合体]
本発明では、ノルボルネン系重合体(B)として、上記開環(共)重合体およびその水素添加重合体の他に、1種単独または2種以上の上記単量体(6)からなる付加型(共)重合体、および上記単量体(6)と不飽和二重結合含有化合物との付加型(共)重合体を使用することができる。1種単独または2種以上の上記単量体(6)の(共)重合反応により生成する付加型(共)重合体は、従来公知の方法により得ることができる。また、上記単量体(6)と不飽和二重結合含有化合物は、これらの合計量100重量%に対して、上記単量体(6)を通常50〜90重量%、好ましくは60〜90重量%、より好ましくは70〜90重量%、不飽和二重結合含有化合物を通常10〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%の割合で共重合させることが望ましい。
【0095】
上記不飽和二重結合含有化合物としては、たとえば、エチレン、プロピレン、ブテンなどの炭素数2〜12、好ましくは2〜8のオレフィン系化合物を挙げることができる。
上記単量体(6)と不飽和二重結合含有化合物との共重合反応に用いられる触媒としては、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が挙げられる。バナジウム化合物としては、VO(OR)abまたはV(OR)cd(ただし、Rは炭化水素基、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦a+b≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦c+d≦4)で表されるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与体付加物が挙げられる。電子供与体としてはアルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸または無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシラン等の含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナート等の含窒素電子供与体などが挙げられる。上記有機アルミニウム化合物としては、アルミニウム−炭素結合またはアルミニウム−水素結合を少なくとも1つ有する化合物から選ばれた少なくとも1種の有機アルミニウム化合物が挙げられる。上記触媒におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物との割合は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)で、通常2以上、好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20である。
【0096】
上記共重合反応に用いられる溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環状炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素およびそのハロゲン誘導体を挙げることができる。これらのうち、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンが好ましい。
【0097】
精製方法としては、上記スチレン系共重合体(A)と同様の方法を採用することができる。
本発明に用いられるノルボルネン系重合体(B)は、30℃のクロロベンゼン溶液(濃度0.5g/dL)中で測定した対数粘度(η)が、0.3〜2.0dL/gであることが好ましい。また、ノルボルネン系重合体(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、通常1,000〜500,000、好ましくは3,000〜300,000、さらに好ましくは5,000〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)は、通常10,000〜1,000,000、好ましくは20,000〜500,000、さらに好ましくは30,000〜
200,000であることが望ましい。
【0098】
分子量が小さすぎると、得られる成形品やフィルムの強度が低くなることがある。分子量が大きすぎると、溶液粘度が高くなりすぎて本発明に用いる樹脂組成物の生産性や加工性が悪化することがある。
【0099】
また、ノルボルネン系重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.5〜10、好ましくは2〜8、さらに好ましくは2〜6であることが望ましい。
ノルボルネン系重合体(B)のガラス転移温度(Tg)は、通常100〜250℃であり、好ましくは110〜220℃、さらに好ましくは115〜200℃である。Tgが低すぎると、熱変形温度が低くなるため、耐熱性に問題が生じるおそれがあり、また、得られる成形品やフィルムの温度による光学特性の変化が大きくなるという問題が生じることがある。一方、Tgが高すぎると、加工温度を高くする必要があり、これにより樹脂組成物が熱劣化することがある。
【0100】
<樹脂組成物および光学フィルム>
本発明に係る樹脂組成物および光学フィルムは、上記スチレン系共重合体(A)とノルボルネン系重合体(B)との組成比((A)/(B))が、重量比でスチレン系共重合体/ノルボルネン系重合体=5/95〜70/30、好ましくは15/85〜60/40、より好ましくは20/80〜50/50の範囲である。スチレン系共重合体(A)の配合量が上記範囲にあると、製膜後、延伸することにより逆波長分散性を有する光学フィルムを得ることができる。また、フィルムの強度も向上する。スチレン系共重合体(A)の配合量が上記下限未満になると、樹脂組成物から得られる延伸フィルムが逆波長分散性を示さないことがある。また、スチレン系共重合体(A)の配合量が上記上限を超えると、得られる樹脂組成物や光学フィルムの耐熱性が低下したり、光学フィルムの強度が低下したりすることがある。
【0101】
上記樹脂組成物および光学フィルムは、さらに炭化水素樹脂を含有していてもよい。この炭化水素樹脂としては、C5系樹脂、C9系樹脂、C5系/C9系混合樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、オレフィン/ビニル置換芳香族系化合物の共重合体系樹脂、シクロペンタジエン系化合物/ビニル置換芳香族系化合物の共重合体系樹脂、これらの樹脂の水素添加物およびビニル置換芳香族系樹脂の水素添加物などを挙げることができる。炭化水素樹脂の含有量は、ノルボルネン系重合体(B)100重量部に対して、通常0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜25重量部である。
【0102】
上記樹脂組成物は、耐熱劣化性や耐光性の改良のために下記に示す酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加しても良い。
酸化防止剤としては、
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2'−ジオキシ−3,3'−ジ−t
−ブチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−
ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、
ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
、2,2'−ジオキシ−3,3'−ジ−t−ブチル−5,5'−ジエチルフェニルメタン、3,
9−ビス[1,1−ジメチル−2−(β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチ
ルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]、2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5
.5]ウンデカン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリ
ックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サ
イクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル
)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイトが挙げられる。
【0103】
紫外線吸収剤としては、
2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
、2−(2H−ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチル
フェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,2'-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-[(2H−ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]〕などが挙げられる。
【0104】
これらの添加剤の添加量は、本樹脂組成物100重量部に対して、通常、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部である。
さらに、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。
【0105】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る樹脂組成物は、例えば、下記(i)〜(iii)の方法により得ることがで
きる。
(i)スチレン系共重合体(A)とノルボルネン系重合体(B)と任意成分とを、二軸押出機またはロール混練機などを用いて混合する方法。
(ii)ノルボルネン系重合体(B)を適当な溶媒に溶解した溶液に、スチレン系共重合体(A)を添加、混合する方法。
(iii)スチレン系共重合体(A)またはその溶液とノルボルネン系重合体(B)または
その溶液とを混合溶解し、デボラチライターやルーダー等を用いて脱溶する方法。
【0106】
この際に使用する溶剤としては、スチレン系共重合体(A)またはノルボルネン系重合体(B)の製造に使用する重合溶媒や、光学フィルムの溶剤キャスト法で用いる一般的な溶剤を用いることができる。上記方法により得られる樹脂組成物は、高分子量の重合体を含有するため、フィルム強度に優れた光学フィルムを得ることができる。
【0107】
<光学フィルムの製造方法>
本発明の光学フィルムは、上述の樹脂組成物を溶融成形法、溶液流延法(溶剤キャスト法)などによりフィルムに成形することにより得ることができる。
【0108】
溶剤キャスト法としては、たとえば、上述した本発明に係る樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させて適度の濃度の液にし、適当なキャリヤー上に注ぐか、または塗布し、これを乾燥した後、キャリヤーから剥離させる方法が挙げられる。
【0109】
本発明に係る樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させる際には、該樹脂組成物の濃度を、通常は1〜90重量%、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜35重量%にする。該樹脂の濃度を上記未満にすると、フィルムの厚みを確保することが困難になる、また、溶媒蒸発にともなう発泡等によりフィルムの表面平滑性が得にくくなる等の問題が生じる。一方、上記を超えた濃度にすると溶液粘度が高くなりすぎて得られる光学フィルムの厚みや表面が均一になりにくくなるために好ましくない。
【0110】
また、室温での上記溶液の粘度は、通常は1〜1,000,000(mPa・s)、好ましくは10〜500,000(mPa・s)、さらに好ましくは100〜200,000(mPa・s)、特に好ましくは1,000〜100,000(mPa・s)である。
【0111】
ここで使用する溶媒としては、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサ
ン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等のセロソルブ系溶媒、ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、乳酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン含有溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン等のエーテル系溶媒、1−ブタノール、1−ペンタノール等のアルコール系溶媒を挙げることができる。
【0112】
また、上記以外でも、SP値(溶解度パラメーター)が通常10〜30(MPa1/2
、好ましくは10〜25(MPa1/2)、さらに好ましくは15〜25(MPa1/2)、特に好ましくは17〜20(MPa1/2)の範囲の溶媒を使用すれば、表面均一性と光学特
性の良好な光学フィルムを得ることができる。
【0113】
上記溶媒は単独であるいは2種以上併用して使用することができる。溶媒を2種以上併用する場合には、混合物としてのSP値の範囲を上記範囲内とすることが好ましい。このとき、混合物としてのSP値は、その重量比から求めることができ、例えば二種の混合物の場合は、各溶媒の重量分率をW1、W2、また、SP値をSP1,SP2とすると混合溶媒のSP値は下記式:
SP値=W1・SP1+W2・SP2
により計算した値として求めることができる。
【0114】
樹脂溶液の調製において、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を溶媒で溶解する場合の温度は、室温でも高温でもよい。十分に撹拌することにより均一な溶液が得られる。なお、必要に応じて着色する場合には、溶液に染料、顔料等の着色剤を適宜添加することもできる。
【0115】
また、光学フィルムの表面平滑性を向上させるためにレベリング剤を添加してもよい。一般的なレベリング剤であれば何れも使用できるが、たとえば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤などが使用できる。
【0116】
本発明の光学フィルムを溶剤キャスト法により製造する方法としては、上記溶液をダイスやコーターを使用して金属ドラム、スチールベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレン製ベルトなどの基材の上に塗布し、その後溶剤を乾燥・除去して基材よりフィルムを剥離する方法が一般に挙げられる。また、スプレー、ハケ、ロールスピンコート、ディッピングなどの手段を用いて,樹脂組成物溶液を基材に塗布し、その後溶剤を乾燥・除去して基材よりフィルムを剥離することにより製造することもできる。なお、塗布の繰り返しにより厚みや表面平滑性等を制御してもよい。
【0117】
また、基材としてポリエステルフィルムを使用する場合には、表面処理されたフィルムを使用してもよい。表面処理の方法としては、一般的に行われている親水化処理方法、例えばアクリル系樹脂やスルホン酸塩基含有樹脂をコーティングやラミネートにより積層する方法、あるいは、コロナ放電処理等によりフィルム表面の親水性を向上させる方法等が挙げられる。
【0118】
上記溶剤キャスト法の乾燥(溶剤除去)工程については、特に制限はなく一般的に用いられる方法、例えば多数のローラーを介して乾燥炉中を通過させる方法等で実施できるが、乾燥工程において溶媒の蒸発に伴い気泡が発生すると、フィルムの特性を著しく低下させるので、これを避けるために、乾燥工程を2段以上の複数工程とし、各工程での温度あ
るいは風量を制御することが好ましい。
【0119】
また、光学フィルム中の残留溶媒量は、通常は10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。ここで、残留溶媒量が10重量%以上であると、実際に該光学フィルムを使用したときに経時による寸法変化が大きくなり好ましくない。また、残留溶媒によりTgが低くなり、耐熱性も低下することから好ましくない。
【0120】
なお、後述する延伸工程を好適に行うためには、上記残留溶媒量を上記範囲内で適宜調節する必要がある場合がある。具体的には、延伸配向時の位相差を安定して均一に発現させるために、残留溶媒量を通常は10〜0.1重量%、好ましくは5〜0.1重量%、さらに好ましくは1〜0.1重量%にすることがある。溶媒を微量残留させることで、延伸加工が容易になる、あるいは位相差の制御が容易になる場合がある。
【0121】
本発明の光学フィルムの厚さは、通常は0.1〜3,000μm、好ましくは0.1〜
1,000μm、さらに好ましくは1〜500μm、最も好ましくは5〜300μmであ
る。0.1μm未満の厚みの場合実質的にハンドリングが困難となる。一方、3,000
μm以上の場合、ロール状に巻き取ることが困難になる。
【0122】
本発明の光学フィルムの厚み分布は、通常は平均値に対して±20%以内、好ましくは±10%以内、さらに好ましくは±5%以内、特に好ましくは±3%以内である。また、1cmあたりの厚みの変動は、通常は10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下であることが望ましい。かかる厚み制御を実施することにより、均質な光学フィルムとすることができるとともに、延伸配向した際の透過光の位相差ムラを防ぐことができる。
【0123】
押出成形法としては、押出機により、樹脂を溶融し、ギアポンプにより定量供給し、これを金属フィルターでろ過により不純物を除去して、ダイにてフィルム形状に賦型し、引き取り機を用いてフィルムを冷却し、巻き取り機を用いて巻き取る方法が一般的に使用される。
【0124】
押出成形に使用される押出機としては、単軸、二軸、遊星式、コニーダー、バンバリーミキサータイプなど、いずれを用いても良いが、好ましくは単軸押出機が用いられる。また、押出機のスクリュウ形状としては、ベント型、先端ダルメージ型、ダブルフライト型、フルフライト型、バリア型などがあり、圧縮タイプとしては、緩圧縮タイプ、急圧縮タイプなどがあるが、フルフライト型緩圧縮タイプまたはバリア型が好ましい。
【0125】
計量に使用するギアポンプに関しては、ギアの間で下流側より戻される樹脂が、系内に入る内部潤滑方式と、外部に排出される外部潤滑方式があるが、熱安定性が良好でないノルボルネン系重合体の場合には、外部潤滑方式が好ましい。ギアポンプのギア歯の切り方は、軸に対して、平行な方向よりも、ヘリカルタイプの方が、計量の安定化の点から好ましい。
【0126】
異物のろ過に使用するフィルターに関しては、リーフディスクタイプ、キャンドルフィルタータイプ、リーフタイプ、スクリーンメッシュなどが挙げられるが、比較的滞留時間分布が小さく、ろ過面積を大きくすることが可能な、リーフディスクタイプのものが好ましい。フィルターエレメントとしては、金属繊維焼結タイプ、金属粉末焼結タイプ、金属繊維/粉末積層タイプなどが挙げられる。
【0127】
フィルターのセンターポールの形状には、外流タイプ、六角柱内部流動タイプ、円柱内
部流動タイプなどが挙げられるが、滞留部が小さい形状であれば、いずれの形状を選択することも可能である。
【0128】
溶融された樹脂は、ダイから吐出され、冷却ドラムに密着固化されて目的とするフィルムに成形される。ダイ形状に関しては、ダイ内部の樹脂流動を均一にすることが必須であり、フィルムの厚みの均一性を保つためには、ダイ出口近傍でのダイ内部の圧力分布が幅方向で一定であることが必須である。また、幅方向での樹脂の流量がほぼ一定であり、ダイの出口での流量の微調整をリップ開度により調整可能な範囲で一定であることが厚みの均一性を得るために必須用件である。上記、条件を満たすためにはマニホールド形状は、コートハンガータイプが好ましく、ストレートマニホールド、フィッシュテールタイプなどは、幅方向での流量分布などが発生しやすくなるために好ましくない。
【0129】
また、上記のフィルムの厚み分布を均一にするためには、ダイ出口での温度分布を幅方向において一定にすることが重要であり、温度分布は好ましくは±1℃以下であり、さらに好ましくは±0.5℃以下である。±1℃を超えて幅方向に温度ムラが生じていると、樹脂の溶融粘度差が生じ、厚みムラ、応力分布ムラなどが生じるため、延伸操作を実施する過程において、位相差ムラが発生しやすくなり好ましくない。
【0130】
さらに、ダイ出口のリップ開き量(以下、「リップギャップ」という。)は、通常、0.3〜1.5mmであり、好ましくは0.3〜1.2mmであり、さらに好ましくは0.35〜1.0mmである。リップギャップが0.3mm未満であると、ダイ内部の樹脂圧力が高くなり過ぎて、樹脂がダイのリップ以外の場所から樹脂漏れを起こしやすくなるため好ましくない。一方、リップギャップが1.5mmを超えると、ダイの樹脂圧力が上がりにくくなるため、フィルムの幅方向の厚みの均一性が悪くなり好ましくない。
【0131】
ダイから押出されたフィルムを密着固化させる方法としては、ニップロール方式、静電印加方式、エアーナイフ方式、バキュームチャンバー方式、カレンダー方式などが挙げられ、フィルムの厚さ、用途に従って、適切な方式が選択される。
【0132】
ダイから押出されたフィルムを固化するための冷却ロール表面についても、押出機シリンダー、ダイスの内面などと同様に、各種の表面処理が行われることが好ましい。
押出機(シリンダー・スクリューなど)、ダイスの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、押出機シリンダー、ダイスの内面ならびに押出機スクリュー表面には、クロム、ニッケル、チタンなどのメッキが施されたもの、PVD(Physical Vapor Deposition)法などにより、TiN、TiAlN、TiCN、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜が形成されたもの、WCなどのタングステン系物質、サーメットなどのセラミックが溶射されたもの、表面が窒化処理されたものなどを用いることが好ましい。このような表面処理は、樹脂との摩擦係数が小さいため、均一な樹脂の溶融状態が得られる点で好ましい。
【0133】
本発明の光学フィルムを製造する際の樹脂温度(押出機シリンダー温度)としては、通常、200〜350℃、好ましくは220〜320℃である。樹脂温度が200℃未満では、樹脂組成物を均一に溶融させることができず、一方、350℃を超えると、溶融時に樹脂組成物が熱劣化して表面性に優れた高品質なフィルムの製造が困難になる。さらに、上記温度範囲内であって、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)に対して、Tg+120℃〜Tg+160℃の範囲内の温度であることが特に好ましい。例えば、樹脂組成物のTgが130℃であれば、フィルム製造にとって特に好ましい温度範囲は250℃〜290℃である。本発明の樹脂組成物は、上記のような高温下においてもフィルムの結晶化(白濁)を抑制することができ、優れた相溶性を有するため、押出成形性が良好である。
【0134】
また、溶融押出時のせん断速度としては、通常、1〜500(1/sec)、好ましくは2〜350(1/sec)、より好ましくは5〜200(1/sec)である。押出時のせん断速度が1(1/sec)未満では、樹脂組成物を均一に溶融させることができないため厚み斑が小さい押出フィルムを得ることができず、一方、500(1/sec)を超えると、せん断力が大きすぎて樹脂および添加物が分解・劣化し、押出フィルムの表面に発泡、ダイライン、付着物などの欠陥が生じてしまうことがある。
【0135】
本発明の光学フィルムの厚みは、通常、10〜800μm、好ましくは、20〜500μm、より好ましくは40〜500μmである。10μm未満の厚みの場合、機械的強度不足などにより延伸加工などの後加工する場合に難があることがあり、一方、800μmを超える厚みの場合、厚みや表面性などが均一なフィルムを製造することが難しいばかりか、得られたフィルムを巻き取ることが困難になることがある。
【0136】
本発明の原反フィルムの厚み分布は、通常、平均値に対して±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内である。厚み分布が±5%を超えると、延伸処理を行って光学フィルムとした場合に位相差ムラが発生しやすくなることがある。
【0137】
<延伸フィルム>
本発明に係る延伸フィルムは、上記方法によって得た本発明の光学フィルムをさらに加熱延伸加工することにより得ることができ、透過光に位相差を与えるフィルムとして用いることができる。具体的には、公知の一軸延伸法、二軸延伸法、Z軸延伸法により製造することができる。すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、円周の速度の異なるロールを利用する縦一軸延伸法等あるいは横一軸と縦一軸を組み合わせた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法等を用いることができる。
【0138】
一軸延伸法の場合、延伸速度は通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜
1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分である。
二軸延伸法の場合、同時2方向に延伸を行う場合や一軸延伸後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸処理する場合がある。この時、屈折率楕円体の形状を制御するための2つの延伸軸の交わり角度は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜
500%/分である。
【0139】
延伸加工温度は、特に限定されるものではないが、スチレン系重合体(A)とノルボルネン系重合体(B)とを含有する樹脂組成物のガラス転移温度Tgを基準として、通常はTg±30℃、好ましくはTg±15℃、さらに好ましくはTg−5〜Tg+15℃の範囲である。前記範囲内とすることで、位相差ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、本明細書における樹脂組成物のガラス転移温度とは、日本工業規格K7121に従って求めた補外ガラス転移開始温度のことを言い、本発明の樹脂組成物はスチレン系重合体(A)とノルボルネン系重合体(B)の相溶性に優れるために測定が可能な値である。また、本発明の樹脂組成物は、このような高温による延伸加工においても、スチレン系共重合体(A)を構成する各構造単位の含有率をコントロールすることにより、フィルムの結晶化や相分離によるフィルムの透過率低下および白濁を抑制することができ、優れた相溶性が付与され、加熱延伸加工性が良好である。
【0140】
延伸倍率は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。延伸倍率が10倍以上の場合、位相差の制御が困難になる場合がある。
【0141】
延伸したフィルムは、そのまま冷却してもよいが、Tg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒以上、好ましくは30秒〜60分間、さらに好ましくは1分〜60分間保持してヒートセットすることが好ましい。これにより、透過光の位相差の経時変化が少なく安定した光学フィルムが得られる。
【0142】
延伸加工を施さない本発明の光学フィルムの加熱による寸法収縮率は、100℃における加熱を500時間行った場合に、通常5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0143】
また、本発明の延伸フィルムの加熱による寸法収縮率は、100℃における加熱を500時間行った場合に、通常10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0144】
寸法収縮率を上記範囲内にするためには、本発明中の単量体(6)の選択やその他の共重合性単量体の選択に加え、延伸方法の条件を調整することも有力な手段である。
上記のようにして得られる延伸フィルムは、延伸により分子が配向し透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸倍率、延伸温度あるいはフィルムの厚さ等により制御することができる。例えば、延伸前のフィルムの厚さが同じである場合、延伸倍率が大きいフィルムほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望の位相差を透過光に与える光学フィルムを得ることができる。一方、延伸倍率が同じである場合、延伸前のフィルムの厚さが厚いほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸前のフィルムの厚さを変更することによって所望の位相差を透過光に与える光学フィルムを得ることができる。また、上記延伸加工温度範囲においては、延伸温度が低いほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸温度を変更することによって所望の位相差を透過光に与える光学フィルムを得ることができる。
【0145】
延伸フィルムが透過光に与える位相差の値は、その用途により決定されるものであり特に限定はされないが、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはレーザー光学系の波長板に使用する場合は、通常は1〜10,000nm、好ましくは10〜2,000nm、さらに好ましくは15〜1,000nmである。
【0146】
また、延伸フィルムを透過した光の位相差は均一性が高いことが好ましく、波長550nmにおける位相差のバラツキは、通常±20%以下であり、好ましくは10%以下、さらに好ましくは±5%以下である。すなわち、波長550nmにおける位相差は、通常平均値に対して±20%以下であり、好ましくは10%以下、さらに好ましくは±5%以下の範囲内にある。位相差のバラツキが±20%を超えると、液晶表示素子等に用いた場合、色ムラ等が発生し、ディスプレイ本体の性能が悪化する場合がある。
【0147】
さらに、本発明に係る光学フィルムは、波長650nmでの位相差Re(650)と波長450nmでの位相差Re(450)との比(Re(650)/Re(450))が、1.8〜1、好ましくは1.7〜1、さらに好ましくは1.6〜1の範囲にあることが望ましい。このような条件を満たす光学フィルムでは、ある波長λでの位相差をRe(λ)としたとき、400〜800nmの全波長領域で、Re(λ)/λの値をほぼ一定とすることが可能となる。
【0148】
<偏光板>
本発明の光学フィルムは単独で用いられるだけでなく、透明基板等に貼り合わせて、偏
光板として用いることができる。また、偏光板を他のフィルム、シート、基板に積層して使用することができる。積層する場合には、粘着剤や接着剤を用いることができる。これらの粘着剤、接着剤としては、透明性に優れたものが好ましく、具体例としては天然ゴム、合成ゴム、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、ポリビニルエーテル、アクリル系、変性ポリオレフィン系、及びこれらにイソシアナートなどの硬化剤を添加した硬化型粘着剤、ポリウレタン系樹脂溶液とポリイソシアナート系樹脂溶液を混合するドライラミネート用接着剤、合成ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられる。
【0149】
また、上記偏光板は、他のフィルムシート、基板などとの積層の作業性を向上させるために、あらかじめ、粘着剤層、又は接着剤層を積層することができる。積層する場合には、粘着剤や接着剤としては前述のような粘着剤あるいは接着剤を用いることができる。
【0150】
<液晶表示装置その他光学部品>
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置に用いることができ、液晶表示装置の表示特性をより改善することができる。液晶表示装置としては、たとえば、携帯電話、ディジタル情報端末、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイ等の各種液晶表示装置が挙げられる。
【0151】
また、本発明の樹脂組成物を用い、射出成形することにより、種々の光学部品を得ることができる。光学部品としては、円錐レンズや球面・円筒レンズなどの各種特殊レンズ、誘電体ミラーまたは金ミラー、波長板などが挙げられる。
【0152】
射出成形には、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、本発明の樹脂組成物を加熱シリンダの中で加熱・混練して溶融し、該加熱シリンダより金型内へ、加圧下射出する。その後、金型内で冷却・固化され、押出装置によって押し出され、成形品が得られる。用いる金型構造を変えることにより、種々の形状を有する光学部品とすることができる。この際における樹脂の溶融温度は、上記押出成形の際における溶融温度と同様であるのが好ましい。
【実施例】
【0153】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に断りのない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。また、室温とは25℃である。
【0154】
以下の実施例、比較例において、各種測定および評価は以下のようにして行った。
[重合反応率]
アルミニウム製容器中に秤量した重合反応溶液を、300℃に熱したホットプレートで恒温となるまで加熱し、残留モノマーおよび溶媒を除去した後、残留した重合体重量を計測し、理論上の重合体生成量との比から反応率を求めた。
【0155】
[重合体分子構造]
超伝導核磁気共鳴吸収装置(NMR、Bruker社製、商品名:AVANCE500)を用い、重水素化クロロホルム中で13C−NMRを測定し、共重合組成比およびアセトキシ基またはブトキシ基のOH基への変換率(変換率)を算出した。
赤外分光計(IR)は日本分光社製FT/IR−420を用いて測定した。
【0156】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて
、日本工業規格K7121に従って補外ガラス転移開始温度(以下、単にガラス転移温度(Tg)という)を求めた。
【0157】
[重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製HLC−8220GPC、カラム:東ソー(株)製ガードカラムHXL−H、TSK gel G7000HXL、TSKgel GMHXL2本、TSK gel G2000HXLを順次連結、溶媒:テトラヒドロ
フラン、流速:1mL/min、サンプル濃度:0.7〜0.8重量%、注入量:70μL、測定温度:40℃とし、検出器:RI(40℃)、標準物質:東ソー(株)製TSKスタンダードポリスチレン)を用い、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。なお、前記Mnは数平均分子量である。
【0158】
[位相差評価]
開環重合体のトルエンまたは塩化メチレン溶液(濃度:25%)を平滑なガラス板上にキャストした後、乾燥して、厚さ50〜200μm、残留溶媒0.5〜0.8%の無色透明なフィルムを得た。このフィルムのガラス転移温度(Tg)よりも5〜10℃高い温度で、1.2〜3.0倍に自由幅一軸延伸または幅拘束一軸延伸した。なお、キャストフィルムの厚さ、延伸倍率および延伸方法は、後述する各実施例および表1に記載のとおりである。この延伸フィルムの位相差を、レターデーション測定器(王子計測機器製、商品名:KOBRA21DH)を用いて測定した。
【0159】
[対数粘度]
ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロベンゼン中、試料濃度0.5g/dL、温度3
0℃とし、対数粘度を測定した。
【0160】
[ヘイズ(Haze)]
ヘイズメーターHM−150型((株)村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。
[加熱下における相溶性の評価]
(株)神藤金属工業所製シントー式SFA−37型加熱&冷却二段成形機を用い、280〜300℃の加熱下で厚さ約100μmのフィルムを成型し、フィルムのヘイズ(Haze)を測定して評価した。
【0161】
[合成例1]スチレン系共重合体(A)の合成
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えたガラス製フラスコにスチレン127.87g(
1.23mol)、p−アセトキシスチレン22.13g(0.136mol)、溶媒とし
てトルエン75g、およびラジカル開始剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)0.67g(2.7mmol)を加え、90℃に加熱し、15時間反応させた。この重合液の一部を取り出し、反応率を測定したところ85%であった。また、分子量を測定したところMw=129,935、Mw/Mn=2.00であった。
【0162】
得られた重合反応溶液中にトルエン150gを添加して希釈した後、メタノール43.6g(1.36mol)、濃硫酸 1.338g(0.0136mol)を添加して60℃に加熱して2時間反応させた。得られた反応液をテトラヒドロフランで希釈し、大量のメタノール中に凝固させることにより重合体を回収・精製し、80℃の真空乾燥機で2日間乾燥させた。得られた重合体の分子量、対数粘度をそれぞれ測定したところMw=131,910(Mw/Mn=1.88)、対数粘度η=0.44dL/g、収率は80%であった。図1および図2に得られた重合体のIRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルをそれぞれ示した。NMRにより求めた共重合組成比は仕込み値通りであり、加メタノール分解率は99%以上であった。以後、得られたスチレン系共重合体を1Aとする。
【0163】
[合成例2]スチレン系共重合体(A)の合成
スチレン146.53g(1.407mol)、p−アセトキシスチレン 3.47g(0.0214mol)、溶媒としてトルエン75g、およびラジカル開始剤として1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 0.35g(1.4mmol)を使用して重合を行った以外は、合成例1と同様にして、重合反応、加アルコール分解、精製、および乾燥を行い、スチレン系共重合体を得た。得られた重合体のMw=199,200(Mw/Mn=1.96)であり、収率は80%であった。以後、得られたスチレン系共重合体を2Aとする。
【0164】
[合成例3]スチレン系共重合体(A)の合成
スチレン117.66g(1.13mol)、p−アセトキシスチレン 32.34g(0.199mol)、溶媒としてトルエン75g、およびラジカル開始剤として1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 0.65g(2.65mmol)を使用して重合を行った以外は、合成例1と同様にして、重合反応、加アルコール分解、精製、および乾燥を行い、スチレン系共重合体を得た。得られた重合体のMw=120,553(Mw/Mn=1.97)であり、収率は80%であった。以後、得られたスチレン系共重合体を3Aとする。
【0165】
[合成例4]スチレン系共重合体(A)の合成
スチレン84.17g(0.808mol)、p−t−ブトキシスチレン15.83g(
0.0898mol)、溶媒としてトルエン75g、およびラジカル開始剤として1,1
’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 0.44g(1.8mmol)を使用して重合を行った以外は、合成例1と同様にして、重合反応、酸触媒による変換、精製、および乾燥を行い、スチレン系共重合体を得た。得られた重合体のMw=112,000(Mw/Mn=2.73)であり、収率は80%であった。図3および図4に得られた重合体のIRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルをそれぞれ示した。NMRにより求めた共重合組成比は仕込み値通りであり、OH基への変換率は50%であった。以後、得られたスチレン系共重合体を4Aとする。
【0166】
[合成例5]スチレン系共重合体(A)の合成
スチレン78.44g(0.753mol)、p−t−ブトキシスチレン21.56g(
0.133mol)、溶媒としてトルエン50g、およびラジカル開始剤として1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 0.43g(1.8mmol)を使用して重合を行った以外は、合成例1と同様にして重合反応を行った。その後、トルエン50gを加えて希釈し、n−ブタノール20gおよび硫酸0.26gを添加し80℃で8時間反応を行った。精製、および乾燥を合成例1と同様にして行い、スチレン系共重合体を得た。得られた重合体のMw=219,000(Mw/Mn=2.45)であり、収率は85%であった。図5および図6に得られた重合体のIRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルをそれぞれ示した。NMRにより求めた共重合組成比は仕込み値通りであり、OH基への変換率は99%以上であった。以後、得られたスチレン系共重合体を5Aとする。
【0167】
[合成例6]ノルボルネン系重合体(B)の合成
単量体として下記式(1a)に示す8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン100g、分子量調節剤として1−へキ
セン3.6g、およびトルエン200gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム(0.6mol/L)のトルエン溶液0.21mL、およびメタノール変性WCl6トルエン溶液(0.025モル/L)0.86mLを加え、80℃で1時間反応させることにより開環重合体を得た。次いで、得られた開環重合体溶液に水素添加反応触媒であるRuHCl(CO)[P(C6533を0.04g添加し、水素ガス圧を9〜10MPaとし、160〜165℃の温度で、3時間反応させた
。反応終了後、得られた生成物を多量のメタノール中で沈殿させることにより水素添加物を得た[ガラス転移温度(Tg)=167℃、重量平均分子量(Mw)=14.4×104、分子量分布(Mw/Mn)=5.0、対数粘度0.79dL/g、収量90g(収率90%)]。NMR測定により求めたこの水素添加物の水素添加率は99.0%以上であった。以後、得られた開環重合体水素添加物を1Bとする。
【0168】
【化10】

[合成例7]ノルボルネン系重合体(B)の合成
前記式(1a)で表される単量体144g、下記式(2a)で表される単量体6g、分子量調節剤として1−へキセン14.4g、およびトルエン225gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム(0.6mol/L)のトルエン溶液0.34mL、およびメタノール変性WCl6トルエン溶液(0.025
モル/L)1.37mLを加え、80℃で1時間反応させることにより開環重合体を得た。次いで、得られた開環重合体溶液に水素添加反応触媒であるRuHCl(CO)[P(C6533を0.06g添加し、水素ガス圧を9〜10MPaとし、160〜165℃の温度で、3時間反応させた。反応終了後、得られた生成物を多量のメタノール中で沈殿させることにより水素添加物を得た[ガラス転移温度(Tg)=154℃、重量平均分子量(Mw)=7.4×104、分子量分布(Mw/Mn)=4.2、対数粘度0.55dL/g、収量90g(収率90%)]。NMR測定により求めたこの水素添加物の水素添加率は99.0%以上であった。以後、得られた開環重合体水素添加物を2Bとする。
【0169】
【化11】

[合成例8]ノルボルネン系重合体(B)の合成
前記式(1a)で表される単量体135g、下記式(3a)で表される単量体15g、分子量調節剤として1−へキセン20.5g、およびトルエン225gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム(0.6mol/L)のトルエン溶液0.34mL、およびメタノール変性WCl6トルエン溶液(0.025モル/L)1.39mLを加え、80℃で1時間反応させることにより開環重合体を得た。次いで、得られた開環重合体溶液に水素添加反応触媒であるRuH(OCO-Ar-CH2CH2CH2CH2CH3)(CO)[P(C6532 (式中Arはパラフェニレン基を表す)を0.06g添加し、90℃に昇温した後、水素ガス圧を9〜10MPaとし、更に160〜165℃まで昇温して3時間反応させた。反応終了後、得られた生成物を多量のメタノール中で沈殿させることにより水素添加物を得た[ガラス転移温度(Tg)=160℃、重量平均分子量(Mw)=4.4×104、分子量分布(Mw/Mn)=5.5、対数粘度0.41dL/g、収量90g(収率90%)]。NMR測定により求めたこの水素添加物の水素添加率は99.0%以上であった。以後、得られた開環重合体水素添加物を3Bとする。
【0170】
【化12】

[合成例9]ノルボルネン系重合体(B)の合成
前記式(1a)で表される単量体12.46Kg、前記式(2a)で表される単量体0.14Kg、前記式(3a)で表される単量体1.4Kg、分子量調節剤として1−へキセン1.214Kg、およびトルエン21Kgを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム(0.6mol/L)のトルエン溶液37.7mL、およびメタノール変性WCl6トルエン溶液(0.025モル/L)131.44mLを加え、80℃で1時間反応させることにより開環重合体を得た。次いで、得られた開環重合体溶液をトルエン17.7Kgで希釈し、水素添加反応触媒であるRuH(OCO-Ar-CH2CH2CH2CH2CH3)(CO)[P(C6532 (式中Arはパラフェニレン基を表す)を4.69g添加し、90℃に昇温した後、水素ガス圧を9〜10MPaとし、更に160〜165℃まで昇温して3時間反応させた。反応終了後、得られた生成物を多量のメタノール中で沈殿させることにより水素添加物を得た[ガラス転移温度(Tg)=159℃、重量平均分子量(Mw)=8.8×104、分子量分布(Mw/Mn)=3.0、対数粘度0.65dL/g、収量13Kg(収率93%)]。NMR測定により求めたこの水素添加物の水素添加率は99.0%以上であった。以後、得られた開環重合体水素添加物を4Bとする。
【0171】
[実施例1]
合成例1で得られた重合体1A 7gと合成例5で得られた重合体1B 13gとを塩化メチレン200gに溶解し、減圧濾過(ろ剤:ADVANTEC製GA200)した溶液を平滑な硝子製浴槽にキャストした。このフィルムを浴槽から剥離後、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥して厚さ145μmのフィルムを得た。得られた組成物(フィルム)の対数粘度、ガラス転移温度をそれぞれ測定したところ、対数粘度η=0.68dL/g、Tg=141℃であった。また、フィルムのHazeは0.3であった。
【0172】
このフィルムを幅10mm、長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機(インストロンコーポレーション製モデル5567)で加熱延伸して自由幅1軸延伸フィ
ルムを作製した。146℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は73Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は104μmであり
、位相差(Re)を測定したところ、Re450=125、Re550=141、Re650=149nmであった。ここでRe450、Re550、およびRe650はそれぞれ波長450、550、および650nmにおける位相差(Re)を表す。また、延伸方向をx軸、フィルム面内のx軸と直交する軸をy軸、フィルムの厚み方向をz軸(x軸およびy軸の両方と直交する方向)とし、各軸方向の屈折率をそれぞれnx、ny、およびnzとした時、NZ=(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNZ係数は1であった。
【0173】
延伸前の樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280〜300℃の加熱下においても透明性は維持され、熱処理後のHaze=0.3であった。結果を表1に示す。
【0174】
[実施例2]
合成例2で得られた重合体2A 2.9gと合成例5で得た重合体1B 5.4gとの混合物フィルムを実施例1と同様にしてキャスト製膜し、厚さ59μmのフィルムを得た。得られた組成物(フィルム)のガラス転移温度を測定したところ、Tg=134℃であった。また、フィルムのHazeは0.3であった。
【0175】
このフィルムを実施例1と同様にして、自由幅1軸延伸フィルムを作成した。142℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は68Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は43μmであり、位相差(Re)を測定した
ところ、Re450=62、Re550=66、Re650=68nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0176】
延伸前の樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280℃の加熱下においてミクロ相分離が認められ、Haze=50であった。結果を表1に示す。
【0177】
[実施例3]
合成例3で得られた重合体3A 2.9gと合成例7で得られた重合体2B 5.4gとの混合物フィルムを実施例1と同様にしてキャスト製膜し、厚さ100μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0178】
このフィルムを実施例1と同様にして、自由幅1軸延伸フィルムを作成した。135℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は61Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は79μmであり、位相差(Re)を測定した
ところ、Re450=80、Re550=93、Re650=99nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0179】
この樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280〜300℃の加熱下においても透明性は維持され、熱処理後のHaze=0.3であった。結果を表1に示す。
【0180】
[実施例4]
合成例3で得られた重合体3A 2.9gと合成例8で得た重合体3B 5.4gとの混合物フィルムを実施例1と同様にしてキャスト製膜し、厚さ91μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0181】
このフィルムを実施例1と同様にして、自由幅1軸延伸フィルムを作成した。142℃において220%/分の速度で1.9倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は89Kgf
/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は67μmであり、位相差(Re)を測定し
たところ、Re450=72、Re550=86、Re650=92nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0182】
この樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280〜300℃の加熱下においても透明性は維持され、熱処理後のHaze=0.3であった。結果を表1に示す。
【0183】
[実施例5]
合成例4で得られた重合体4A 2.9gと合成例6で得られた重合体1B 5.4gとの混合物フィルムを実施例1と同様にしてキャスト製膜し、厚さ90μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0184】
このフィルムを実施例1と同様にして、自由幅1軸延伸フィルムを作成した。145℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は60Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は65μmであり、位相差(Re)を測定した
ところ、Re450=77、Re550=86、Re650=90nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0185】
この樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280℃の加熱下においても透明性は維持され、熱処理後のHaze=0.3であった。結果を表1に示す。
【0186】
[実施例6]
合成例5で得られた重合体5A 2.9gと合成例8で得られた重合体3B 5.4gとの混合物フィルムを実施例1と同様にしてキャスト製膜し、厚さ92μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0187】
このフィルムを実施例1と同様にして、自由幅1軸延伸フィルムを作成した。147℃において220%/分の速度で1.9倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は35Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は72μmであり、位相差(Re)を測定
したところ、Re450=88、Re550=96、Re650=101nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0188】
この樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、300℃の加熱下においても透明性は維持され、熱処理後のHaze=0.3であった。結果を表1に示す。
【0189】
[実施例7]
合成例5で得られた重合体5A 7gと合成例9で得られた重合体4B 13gとの混合物フィルムを実施例1と同様にしてキャスト製膜し、厚さ93μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0190】
このフィルムを実施例1と同様にして、自由幅1軸延伸フィルムを作成した。147℃において220%/分の速度で2.8倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は65Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は58μmであり、位相差(Re)を測定
したところ、Re450=99、Re550=111、Re650=118nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0191】
この樹脂組成物フィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、300℃の加熱下においても透明性は維持され、熱処理後のHaze=0.3であった。結果を表1に示す。
【0192】
[実施例8]
合成例5で得られた重合体5A 7gと合成例9で得られた重合体4B 13gとの混合物フィルムを実施例1と同様の手法でキャスト製膜し、厚さ180μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0193】
得られたフィルムを10cm四方に切り出し、(株)東洋精機製作所製 油圧サーボ式二軸延伸試験装置X6H-Sを用い、145℃において300%/分の速さで2.4倍に幅拘
束1軸延伸した。延伸時の最大応力は4Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜
厚は75μmであり、位相差(Re)を測定したところ、Re450=86、Re550=95、Re650=99nmであった。また、NZ係数は1.44であった。
【0194】
[実施例9]
合成例5で得られた重合体5A 6.6gと合成例9で得られた重合体4B 13.4
gとの混合物フィルムを実施例1と同様の手法でキャスト製膜し、厚さ189μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0195】
得られたフィルムを実施例8と同様にして147℃で2.3倍に幅拘束1軸延伸した。延伸時の最大応力は3Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は83μmであ
り、位相差(Re)を測定したところ、Re450=98、Re550=104、Re650=108nmであった。また、NZ係数は1.38であった。
【0196】
[比較例1]
重合体1Aの代わりにPSジャパン(株)製ポリスチレンを用いた以外は、実施例1と同様にして、合成例5で得られた重合体1Bとの混合物のキャスト製膜を行った。その結果、使用溶媒によらず、透明なフィルムを得ることができなかった。
【0197】
また、加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280℃において海島構造様の相分離が観測された。結果を表1に示す。
[比較例2]
重合体1Aの代わりにNova chemicals製無水マレイン酸/スチレン共重合体(DYLARK232)を用いた以外は、実施例1と同様にして、合成例5で得られた重合体1Bとの混合物のキャスト製膜を行った。その結果、塩化メチレンを溶媒として使用すると、透明なフィルムを得ることができなかった。一方、トルエンを溶媒に用いると、透明なフィルムを得ることができたが、乾燥速度が遅く工業的生産には不向きであった。
【0198】
また、トルエンを用いて得たキャストフィルムの加熱下における相溶性の評価を行ったところ、280℃においてミクロ相分離が観測された。
さらに、二軸押出機を用いた溶融混練による相溶化を検討したところ、290℃において白濁したペレットしか得ることができなかった。結果を表1に示す。
【0199】
[比較例3]
アセトキシスチレンの代わりにp−イソプロペニルフェノールを用いたこと以外は、合
成例1と同様にして、重合体を合成した。得られた重合物の分子量はMw=20,000(Mw/Mn=2.2)であり、反応率は57%であった。得られた重合物と合成例5で得られた重合体1Bとの混合物のキャスト製膜を行ったところ、フィルムの強度が低く、特性評価に至らなかった。結果を表1に示す。
【0200】
[比較例4]
合成例6で得られた重合体1B 20gを実施例1と同様の手法でキャスト製膜し、厚さ140μm、Haze=0.3のフィルムを得た。
【0201】
得られたフィルムを実施例1と同様にして177℃で2.0倍に自由端1軸延伸した。延伸時の最大応力は40Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は100μm
であり、位相差(Re)を測定したところ、Re450=396、Re550=388、Re650=384nmであった。また、NZ係数は1であった。
【0202】
【表1】

表1から、本発明に用いられるスチレン系共重合体(A)は光学材料として有用なノルボルネン系重合体(B)との相溶性に優れるため、塩化メチレンのような低沸点の溶媒を用いることによりキャストフィルム製造を高効率に実施することができる。また、スチレン系共重合体(A)を構成する各構造単位の比率をコントロールすることにより、加熱時の相溶性にも優れた樹脂組成物を得ることができる。すなわち、本発明のスチレン系共重
合体(A)とノルボルネン系重合体(B)とからなる樹脂組成物は、溶融押出しフィルムの製造が可能であり、さらなる生産性の向上・製造コスト削減を実現することができる。
【0203】
また、本発明の製造方法により得られる樹脂組成物は、その製造方法に起因して高分子量の重合体を得ることができるため、強度に優れた光学フィルムを得ることができる。
さらに、本発明の光学フィルムを延伸すると、入射光波長が長波長になるに従い位相差が増大する、いわゆる逆波長分散性を発現させることもできるため、各種液晶表示装置や偏光板等に使用することができる。また、スチレン系共重合体(A)とノルボルネン系重合体(B)との組成比をコントロールすることにより、位相差の大きさや波長分散性を容易にコントロールすることが可能であるため、低複屈折性を要求される光学部品等にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】図1は、合成例1で得たスチレン系重合体のIRスペクトルを示す。
【図2】図2は、合成例1で得たスチレン系重合体の13C-NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、合成例4で得たスチレン系重合体のIRスペクトルを示す。
【図4】図4は、合成例4で得たスチレン系重合体の13C-NMRスペクトルを示す。
【図5】図5は、合成例5で得たスチレン系重合体のIRスペクトルを示す。
【図6】図6は、合成例5で得たスチレン系重合体の13C-NMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有し、当該構造単位(2)の含有率が全構造単位100mol%中0.1〜50mol%であるスチレン系共重合体と、
(B)ノルボルネン系重合体とを含有することを特徴とする樹脂組成物;
【化1】

(式(1)および式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(2)中、R0
水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。)。
【請求項2】
前記スチレン系共重合体(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwが30,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系共重合体(A)が、スチレンおよび/またはα−メチルスチレンと、下記式(4)で表される単量体(4)とを重合反応させた後、単量体(4)由来の構造単位におけるO−R14基をOH基に変換する工程を含む方法により得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の樹脂組成物;
【化2】

(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R0は水素原子;ハロゲン原子;酸
素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。R14はアセチル基、t−ブチル基、t−ブトキシカルボニル基、−CH(OR15)(R16)、または−SiR153
表される基のいずれかを示す。R15およびR16はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し、R15とR16、あるいはR15同士は、相互に結合して炭素数2〜12の複素環を形成してもよい。)。
【請求項4】
前記ノルボルネン系重合体(B)が、下記式(6)で表される単量体(6)から導かれる構造単位を有する(共)重合体であることを特徴とする請求項1〜3に記載の樹脂組成物;
【化3】

(式(6)中、aおよびbは独立に0または1を示し、cおよびdは独立に0〜2の整数
を示す。
4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む連結基を有してもよい置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基;または極性基を示す。
10とR11、またはR12とR13とは一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R10またはR11とR12またはR13とは相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい。)を形成してもよい。)。
【請求項5】
前記スチレン系共重合体(A)と前記ノルボルネン系重合体(B)との組成比((A)/(B))が、重量比でスチレン系共重合体/ノルボルネン系重合体=5/95〜70/30の範囲であることを特徴とする請求項1〜4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を主成分とすることを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
キャスト法により製膜して得られることを特徴とする請求項6に記載の光学フィルム。
【請求項8】
押出し法により製膜して得られることを特徴とする請求項6に記載の光学フィルム。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の光学フィルムを加熱延伸して得られる延伸フィルム。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれかに記載の光学フィルムを含む偏光板。
【請求項11】
請求項6〜8のいずれかに記載の光学フィルムを含む液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−163287(P2008−163287A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79670(P2007−79670)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】