説明

樹脂組成物、印刷原版、および印刷原版の製造方法

【課題】レーザー彫刻による形状劣化が少ない印刷原版を提供する。
【解決手段】レーザー彫刻可能であって、ショアD硬度が45°〜95°の範囲である印刷原版を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、印刷原版、および印刷原版の製造方法に関するものであり、より詳しくは、特に、レーザー彫刻可能な印刷原版を形成するための樹脂組成物、印刷原版、および印刷原版の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷原版をレーザー彫刻することにより印刷版を作成する技術が注目されている。レーザー彫刻によれば、直接凹凸のパターンを形成することができるため、従来の原画フィルムを用いた印刷版の作成方法に比べ、容易に所望の形状を有する印刷版を形成することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エラストマー材料から形成したレーザー彫刻可能な印刷原版が開示されている。また、特許文献2には、親水性ポリマーから形成したレーザー彫刻可能な印刷原版が開示されている。
【特許文献1】特表平7−506780号公報(平成7年7月27日公開)
【特許文献2】特開2006−2061号公報(平成18年1月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、印刷原版をレーザー彫刻する過程は、熱的アブレーション過程であるため、レーザー彫刻後の印刷版において、形成された凹凸のパターンに熱溶融が生じ、該パターン形状が劣化するという問題が生じる。特許文献1および特許文献2には、印刷原版に対して光化学的強化、または熱化学的強化を施すことが記載されている。しかしながら、上記形状の劣化を抑制するためには不十分である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、レーザー彫刻による形状劣化が少ない印刷原版、およびそのような印刷原版を形成するための樹脂組成物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る印刷原版は、可撓性を有する支持体と、該支持体上に形成されている樹脂組成物層とを備えており、該樹脂組成物層は、レーザー彫刻可能であって、ショアD硬度が45°〜95°の範囲であることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る印刷原版の製造方法は、支持体と、該支持体上に形成されている樹脂組成物層とを備えているレーザー彫刻可能な印刷原版の製造方法であって、該樹脂組成物層を活性線で処理する工程と、該活性線で処理された樹脂組成物層のショアD硬度が、45°〜95°の範囲にあるか否かを判定する工程とを包含することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る印刷原版は、可撓性を有する支持体と、該支持体上に形成されている樹脂組成物層とを備えており、該樹脂組成物層は、ショアD硬度が45°〜95°の範囲であるので、レーザー彫刻による形状劣化が少ない。
【0009】
また、本発明に係る印刷原版の製造方法は、印刷原版の樹脂組成物層のショアD硬度が45°〜95°の範囲にあるか否かを判定する工程を包含するため、レーザー彫刻による形状劣化が少ない印刷原版を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔1:印刷原版〕
本発明者らは鋭意検討を行い、印刷原版における樹脂組成物層の硬度を、従来、レーザー彫刻用途には用いられていなかった硬度とすることにより、レーザー彫刻後の印刷版の形状劣化を抑制することができることを見出し、発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明に係る印刷原版は、可撓性を有する支持体と、該支持体上に形成されている樹脂組成物層とを備えており、前記樹脂組成物層は、レーザー彫刻可能であって、JIS_K_6253に規定されるショアD硬度が45°〜95°の範囲である。このショアD硬度は、より好ましくは50°〜90°の範囲であり、さらに好ましくは55°〜85°の範囲である。
【0012】
ショアD硬度が45°以上の印刷原版をレーザー彫刻して得られる印刷版は、その形成されたパターン形状を良好にすることができる。
【0013】
なお、本発明に係る印刷版は、上述したように高い硬度を有しているので、いわゆるレタープレス印刷に好適に用いることができる。すなわち、該印刷版にインクを厚塗りし、強い印圧をかけて印刷することにより明瞭に印刷することができる。
【0014】
(支持体)
本発明に係る印刷原版は支持体を備えており、該印刷原版の寸法の変化を抑制することができる。
【0015】
上記支持体は、寸法が実質的に変化しないものであれば特に限定されず、印刷条件に適した機械的強度、物理的性質を満たす材料、例えば金属シート、プラスチックフィルム、紙及びこれらの複合体などの中から任意に選択して用いることができる。このような材料の例としては、付加重合ポリマー及び線状縮合ポリマーにより形成されるようなポリマー性フィルム、透明なフォーム及び織物、不織布、例えばガラス繊維織物及び鋼、アルミニウムなどの金属が含まれる。支持体は、通常50〜300μm、好ましくは75〜200μmの厚さのフィルム又はシート状に形成される。但し、これらに限定されず、目的に応じて当業者は適宜厚さを設定することができる。この支持体はまた、必要に応じて、樹脂組成物層との間に薄い粘着促進層を有していてもよい。この粘着促進層としては、例えばアクリル樹脂とポリイソシアネートとの混合物からなる層が用いられる。
【0016】
(樹脂組成物層)
本実施形態に係る樹脂組成物層は、後述する組成からなる樹脂組成物を支持体上に積層したものである。上記樹脂組成物層を形成する方法は、特に制限はなく、凸版印刷版製造に際し、樹脂組成物層を積層するのに慣用されている方法の中から任意に選ぶことができる。
【0017】
具体的には、溶剤に溶解させた上記樹脂組成物を型枠の中に流延して溶剤を蒸発させ、そのまま層を形成することができる。また、溶剤を用いず、ニーダーあるいはロールミルで各成分を混練し、押出機、射出成形機、プレスなどにより所定の厚さの層に成形することができる。上記樹脂組成物層の厚さは、通常0.1〜3.0mm、好ましくは0.5〜2.0mmの範囲である。
【0018】
なお、上記支持体または上記粘着促進層の上に樹脂組成物層を直接形成してもよく、後述するカバーシート上に樹脂組成物層を積層した後、該樹脂組成物層上に上記支持体または上記粘着促進層を重ねてもよい。
【0019】
(カバーシート)
本実施形態にかかる印刷原版には、必要に応じて、上記樹脂組成物層の上にカバーシートを積層することができる。
【0020】
カバーシートは、印刷版に用いられる樹脂組成物層の上に、通常設けられ得る公知の金属、プラスチックフィルム、紙およびこれらの複合化された形態のすべてのカバーシートを使用することができる。これらには付加重合ポリマーおよび線状縮合ポリマーにより形成されるようなポリマー性フィルム、透明なフォームおよび織物、不織布、たとえばガラス繊維不織布、およびスチール、アルミニウムなどの金属が含まれる。好ましくは、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、あるいは、これらのフィルムを積層したものが用いられる。このカバーシートとしては、フィルムが好適であり、その厚さは、20μm以上200μm以下が好ましい。
【0021】
なお、上記カバーシートが設けられた印刷原版に対して後述するレーザー彫刻を実施する場合、事前に該カバーシートを剥離しておくことが好ましい。上記樹脂組成物層の上に設けられたカバーシートを剥離する際に、該樹脂組成物層の表面が破損することを防ぐため、該樹脂組成物層と該カバーシートとの間に、易剥離層をさらに設けることもできる。易剥離層に用いられる材料としては、露光波長の波長域の光の影響を受けず、透明で、粘着性のない材料を用いることができる。たとえば、ポリアミド、ポリビニルアルコール、アミノアルキド、シリコーン系離型剤およびこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0022】
(強化)
本実施形態に係る印刷原版はまた、光化学的、熱化学的、または機械的に強化されていてもよい。上記のような強化を行うことにより、上記のような硬度を有する印刷原版を容易に得ることができるためより好ましい。
【0023】
上記光化学的に強化する方法は、周知技術を用いることができる。具体的には、例えば、本発明に係る樹脂組成物に、遊離ラジカル付加反応を起こし得る光重合可能なモノマー、および光重合開始剤を含ませ、活性線を上記樹脂組成物層に照射することによって行うことができる。
【0024】
「活性線」とは、例えば、紫外線、可視光線、電子ビームおよびX線が含まれる。活性線で露光させるためには、一般に光重合に用いられる技術を用いればよい。
【0025】
上記熱化学的に強化する方法は、周知技術を用いることができる。例えば、本発明に係る樹脂組成物に、有機過酸化物またはハイドロパーオキサイドのような熱開始剤系化合物を含ませ、該樹脂組成物を加熱することによって行うことができる。また、他の実施形態において、上記熱化学的に強化する方法は、上記樹脂組成物に硫黄、硫黄含有化合物、または過酸化物を含ませ、該樹脂組成物を加熱することによって行うことができる。
【0026】
また、本発明に係る印刷原版を製造するとき、上記の強化を行った後に、樹脂組成物層の硬度を測定することがより好ましい。すなわち、上記樹脂組成物層の硬度を測定して、該樹脂組成物層のショアD硬度が45°〜95°の範囲であるか否かを判定することにより、ショアD硬度が45°〜95°の範囲である印刷原版を好適に製造することができる。
【0027】
上記硬度の測定方法は、JIS_K_6253に規定のショアD硬度の測定方法に従えばよいが、これに限られない。すなわち、他の硬度の評価方法を用いて、印刷原版の樹脂組成物層の硬度を測定し、予め求めた該他の評価方法の上記ショアD硬度からの換算値を用いて、上記判定を行ってもよい。例えば、JIS_K_6253に規定されるショアA硬度を測定し、該ショアA硬度が、91°〜100°の範囲であるか否かを判定してもよい。
【0028】
すなわち、印刷原版の樹脂組成物層を形成するための樹脂組成物の組成を適宜調整し、得られた印刷原版の硬度を上記のように測定することにより、ショアD硬度が45°〜95°の範囲である印刷原版を好適に製造することができる。樹脂組成物に適切な可塑剤を含ませることにより、得られる印刷原版の硬度を容易に調節することができる。
【0029】
〔2:樹脂組成物〕
本発明はまた、本発明に係る印刷原版の樹脂組成物層を形成するための樹脂組成物を提供する。上記樹脂組成物は、様々な組成とすることができる。また、上述したように、各種強化を行うために必要となる組成を含んでいることがより好ましい。
【0030】
上記樹脂組成物は、親水性ポリマー、光重合可能なモノマー、および光重合開始剤を含んでいる。
【0031】
親水性ポリマーを含んでいる樹脂組成物を用いて印刷原版の樹脂組成物層を形成することにより、レーザー彫刻により発生する残渣を、水洗浄により容易に除去することができる。
【0032】
また、光重合可能なモノマー、および光重合開始剤を含んでいるため、上述したように、光化学的に強化することが可能である。
【0033】
(親水性ポリマー)
上記親水性ポリマーとしては、水に溶解または膨潤するポリマーであれば特に限られない。例えば、ポリビニルアルコール類、セルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンオキサイドの如き親水性基を導入したポリアミド樹脂などを用いることができる。
【0034】
親水性ポリマーの配合量は、本発明に係る樹脂組成物の総和100質量部に対して、15〜79質量部、好ましくは30〜65質量部である。
【0035】
上記親水性ポリマーは、けん化度50〜95mol%のポリビニルアルコールであることがより好ましい。
【0036】
けん化度50〜95mol%のポリビニルアルコールであれば、レーザー彫刻後の残渣の除去をさらに容易に行うことができる。
【0037】
また、上記ポリビニルアルコールの少なくとも一つの水酸基が、メチロール基によって置換されていることがより好ましい。上記置換により、光架橋時の架橋密度が向上するため、レーザー彫刻による印刷版における形状劣化をさらに抑制することができる。
【0038】
少なくとも一つの水酸基が、メチロール基によって置換されているポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールと、N−メチロール基を有するエチレン性不飽和化合物とを反応させることによって得ることができる。
【0039】
N‐メチロール基を有するエチレン性不飽和化合物としては、例えば、N‐メチロールアクリルアミド、N‐メチロールメタクリルアミド、N‐メチル‐N‐メチロールアクリルアミド、N‐メチル‐N‐メチロールメタクリルアミド、N‐エチル‐N‐メチロールアクリルアミド、N‐エチル‐N‐メチロールメタクリルアミドなどを用いることができる。特に、N‐メチロールアクリルアミドやN‐メチロールメタクリルアミドが好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
N−メチロール基を有するエチレン性不飽和化合物は、ポリビニルアルコール100重量部に対して2〜40質量部反応させることがより好ましく、5〜30質量部の範囲で反応させることがさらに好ましい。
【0041】
(光重合可能なモノマー)
本発明に係る光重合可能なモノマーとは、遊離ラジカル付加反応を起こし得る化合物である。一実施形態において、光重合可能なモノマーとしては、例えば、ポリブタジエンジアクリレート、ポリブタジエンジメタクリレート、ポリイソプレンジアクリレート、ポリイソプレンジメタクリレートやα‐メチルスチレン、m‐メチルスチレン、p‐メトキシスチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのα,β‐エチレン性不飽和ニトリル化合物;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n‐ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t‐ブチルアクリレートなどの炭素数1〜23のアルキルアルコールのアクリレート類及び対応するメタクリレート類;2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアルコールのアクリレート類及び対応するメタクリレート類;メトキシエチレングリコール、メトキシプロピレングリコールなどのアルコキシアルキレングリコールのアクリレート類及びメタクリレート類;マレイン酸モノエチル、フマル酸モノメチル、イタコン酸モノエチルなどの不飽和多価カルボン酸のモノエステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジオクチルなどのジエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’‐メチレンビスアクリルアミド、N,N’‐ヘキサメチレンビスアクリルアミドなどのアクリルアミド類及び対応するメタクリルアミド類;エチレングリコールジアクリレート、ポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位2〜23個)などのグリコールのジアクリレート類及び対応するメタクリレート類;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールアルカン、テトラメチロールアルカン(アルカンとしてはメタン、エタン、プロパン)などの三価以上の多価アルコール類のジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレート、オリゴアクリレート類及び対応するメタクリレート類;2‐アクリロイルオキシエチルコハク酸、2‐アクリロイルエチルヘキサヒドロフタル酸、2‐アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどの酸性官能基をもつアクリレート類及び対応するメタクリレート類;等が挙げられる。これらの光重合可能なモノマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
光重合可能なモノマーは、親水性ポリマーの総和を100質量部とすると、5〜30質量部、好ましくは10〜20質量部の範囲がよい。光重合可能なモノマーの含有量が前記範囲では、活性線で処理した後(露光硬化後)の樹脂組成物層の耐摩耗性や耐薬品性が低下を抑制することができる。
【0043】
(光重合開始剤)
一実施形態において、光重合開始剤としては、一般に知られているものを用いることができる。このような開始剤の一例として、ベンゾフェノンのような芳香族ケトン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α‐メチロールベンゾインメチルエーテル、α‐メトキシベンゾインメチルエーテル、2,4‐ジエトキシフェニルアセトフェノン等のベンゾインエーテル類;置換及び非置換の多核キノン類;1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4‐ジメトキシ‐1,2‐ジフェニルエタン‐1‐オン、2‐メチル‐1‐[4‐(メチルチオ)フェニル]‐モルフォリノプロパン‐1‐オン、2‐ベンジル‐2‐ジメチルアミノ‐1‐(4‐モルフォリノフェニル)‐ブタン‐1‐オン、2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニルプロパン‐1‐オン、2,4,6‐トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、1‐(4‐(2‐ヒドロキシエトキシ)フェニル)2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐プロパン‐1‐オン、2,4‐ジエチルチオキサントン、2‐クロロチオキサントン、2,4‐ジメチルチオキサントン、3,3‐ジメチル‐4‐メトキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン、1‐クロロ‐4‐プロポキシチオキサントン、1‐(4‐イソプロピルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、1‐(4‐ドデシルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、4‐ベンゾイル‐4’‐メチルジメチルスルフィド、4‐ジメチルアミノ安息香酸、4‐ジメチルアミノ安息香酸メチル、4‐ジメチルアミノ安息香酸エチル、4‐ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4‐ジメチルアミノ安息香酸‐2‐エチルヘキシル、4‐ジメチルアミノ安息香酸‐2‐イソアミル、2,4’‐ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンジル‐β‐メトキシエチルアセタール、o‐ベンゾイル安息香酸メチル、ビス(4‐ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’‐ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’‐ジクロロベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン‐n‐ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、p‐ジメチルアミノアセトフェノン、p‐tert‐ブチルトリクロロアセトフェノン、p‐tert‐ブチルジクロロアセトフェノン、2‐(o‐クロロフェニル)‐4,5‐ジフェニルイミダゾリル二量体、チオキサントン、2‐メチルチオキサントン、2‐イソプロピルチオキサントン、ジベンゾスベロン、α,α‐ジクロロ‐4‐フェノキシアセトフェノン、ペンチル‐4‐ジメチルアミノベンゾエート、9‐フェニルアクリジン、1,7‐ビス‐(9‐アクリジニル)へプタン、1,5‐ビス‐(9‐アクリジニル)ペンタン、1,3‐ビス‐(9‐アクリジニル)プロパンなどが挙げられる。
【0044】
光重合開始剤の配合量は、本発明に係る樹脂組成物の総和100質量部に対して、0.5〜50質量部、好ましくは3〜35質量部である。
【0045】
(可塑剤)
上記樹脂組成物は、可塑剤をさらに含んでいることがより好ましい。可塑剤を含んでいることによって、ショアD硬度が45°〜95°の範囲である印刷原版の樹脂組成物層形成するために好適に用いることができる。
【0046】
上記可塑剤については、特に制限はなく、所望のゴム弾性を与えるものの中から適宜選択して用いることができる。特に、水酸基を有する化合物、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどが好適である。
【0047】
可塑剤の配合量は、上記親水性ポリマー100重量部に対して、80質量部以下であることがより好ましく、1〜60質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0048】
(その他)
一実施形態において、本発明に係る樹脂組成物には、要求される特性に応じて増感剤、熱重合禁止剤、発色剤、酸化防止剤、光劣化防止剤等の添加剤をさらに用いることができる。
【0049】
本発明に係る樹脂組成物の調製方法としては様々な方法を用いることができる。一実施形態において、配合される成分を適当な溶剤、たとえば、クロロホルム、テトラクロロエチレン等のハロゲン系炭化水素類、ジブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n‐プロピル、酢酸n‐ブチル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、等の溶剤(これら有機溶剤は、単独でもまた混合でも用いることができる)に溶解させて混合することによって調製することができる。上記のように調製した樹脂組成物は、型枠の中に流延して溶剤を蒸発させ、そのまま板状に成形することができる。
【0050】
また、他の実施形態において、本発明に係る樹脂組成物の調製は、溶剤を用いず、ニーダーあるいはロールミルで混練することによって行うことができる。上記のように調製した樹脂組成物は、押出機、射出成形機、プレスなどにより所望の厚さの板に成形することができる。
【0051】
〔3:印刷版〕
本発明は、さらに、印刷版を製造する方法を提供する。本発明に係る印刷版の製造方法は、上述のように本発明に係る印刷原版を製造した後、該印刷原版の樹脂組成物層をレーザー彫刻することによって実施される。
【0052】
本発明に係る印刷原版の樹脂組成物層のレーザー彫刻は、一般的なフレキソ印刷原版のレーザー彫刻技術を用いればよい。例えば、コンピューターによって制御される赤外レーザー照射機を用いて実施することができる。上記コンピューターには、印刷すべき画像のデジタルデータが入力されており、該コンピューターは、該データに基づいて赤外レーザーのレーザーヘッドを制御して、上記印刷原版の樹脂組成物層に赤外レーザーを照射する。上記樹脂組成物層中の照射部位に存在する分子は、上記赤外レーザーにより振動させられ、熱が発生する。この熱により、上記分子が分子切断またはイオン化され、上記樹脂組成物層から除去されることにより、凹凸パターンが形成される。
【0053】
なお、上記レーザー彫刻の際には、残渣が生じるため、ブラシ、真空クリーニング、真空洗浄のような機械的手段、または水流、ガス流等により、上記分子を上記印刷原版から該残渣を取り除く、つまり洗浄することが好ましい。具体的には、例えば、感光性樹脂凸版用のブラシ式現像機等を用いて、洗浄することができる。
【0054】
以上のように、本発明に係る印刷原版の樹脂組成物層に、印刷すべき画像に対応した凹凸を形成することにより、印刷版を製造することができる。
【実施例】
【0055】
〔実施例1〕
親水性ポリマー(ポリビニルアルコール(PVA)、けん化度:82mol%、重合度:500)30重量%にN−メチロールアクリルアミド10重量%を添加し、酸触媒の存在下、100℃で2時間撹拌することで得られる反応生成物、光重合可能なモノマー(ポリエチレングリコールジアクリレート)7重量%、光重合開始剤(ベンジルジメチルケタール)1重量%、および可塑剤(ポリグリセリン)2重量%を、溶媒(混合比4:1の、水およびメタノールの混合液)50重量%に溶解して、樹脂組成物を調製した。
【0056】
カバーシート(カバーフィルム)として用いるポリエステルシート上に、易剥離層(PVA層)を設けた。そして、Tダイを用いた押出し成形により、上記易剥離層上に上記樹脂組成物のシート(厚さ3mm、ウェット状態)を形成した。その後、60℃で4時間乾燥させた。
【0057】
支持体(ベースフィルム)として用いる、厚さ188μmのポリエステルシート上に粘着促進層を設けた。そして、乾燥して厚さ1.5mmになった上記樹脂組成物のシートに対し、上記支持体を粘着促進層を介して積層して、印刷原版を作製した。
【0058】
上記印刷原版に対し、UVを照射して光化学的に強化した。
【0059】
ここで、JIS_K_6253に従って、上記光化学的に強化した印刷原版のショアD硬度を版厚6mmにおいて測定したところ、50°となった。
【0060】
次に、出力250Wの炭酸ガスレーザー(ZedMini、ルーシャ)を用いて、上記光化学的に強化した印刷原版に対し、毎秒300cmのスピードでレーザー彫刻を施して、印刷版を作製した。
【0061】
上記印刷版を、ブラシ現像機を用いて水洗浄した。
【0062】
〔比較例1〕
上記反応生成物に替えて水溶性ポリマー(ポリビニルアルコール、けん化度:73mol%、重合度:500)を用い、可塑剤としてトリメチロールプロパンを用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物を調製し、印刷版を作製した。その結果、得られた印刷原版のショアD硬度が30°となった。
【0063】
〔比較例2〕
上記反応生成物に替えて水溶性ポリマー(ポリビニルアルコール、けん化度:73mol%、:重合度:500)20重量部、および水溶性ポリマー(ポリビニルアルコール、けん化度60mol%、重合度:250)20重量部を用い、可塑剤としてトリメチロールプロパンを用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物を調製し、印刷版を作製した。その結果、得られた印刷原版のショアD硬度が20°となった。
【0064】
〔結果の比較〕
実施例1、比較例1および比較例2において得られた印刷版を顕微鏡により観察した。顕微鏡写真をそれぞれ図1(実施例1)、図2(比較例1)、または図3(比較例2)に示す。実施例1において得られた印刷版は、形状の劣化が見られなかった(図1)。一方、比較例1および2において得られた印刷版は、形状が劣化していた(図2および図3)。
【0065】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明を用いれば、レーザー彫刻された部分の形状劣化が少ない印刷原版を提供することができるので、印刷版の製造のために好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る印刷版の一実施形態(実施例1)における形状を示す顕微鏡写真である。
【図2】比較例(比較例1)としての印刷版の形状を示す顕微鏡写真である。
【図3】比較例(比較例2)としての印刷版の形状を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する支持体と、
該支持体上に形成されている樹脂組成物層とを備えており、
該樹脂組成物層は、レーザー彫刻可能であって、ショアD硬度が45°〜95°の範囲であることを特徴とする印刷原版。
【請求項2】
上記樹脂組成物層が活性線によって処理されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷原版。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷原版の樹脂組成物層を形成するための樹脂組成物であって、
親水性ポリマー、光重合可能なモノマー、および光重合開始剤を含んでいることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
上記親水性ポリマーが、けん化度50〜95mol%のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
上記ポリビニルアルコールの少なくとも一つの水酸基が、メチロール基によって置換されていることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
可塑剤をさらに含んでいることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
支持体と、該支持体上に形成されている樹脂組成物層とを備えているレーザー彫刻可能な印刷原版の製造方法であって、
該樹脂組成物層を活性線で処理する工程と、
該活性線で処理された樹脂組成物層のショアD硬度が、45°〜95°の範囲にあるか否かを判定する工程とを包含することを特徴とする印刷原版の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により得られた印刷原版の樹脂組成物層をレーザー彫刻する工程を有する印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−23181(P2009−23181A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187663(P2007−187663)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】