説明

樹脂組成物、樹脂成形体及び筐体並びに樹脂成形体の製造方法

【課題】 直接成形法による成形に供された場合であっても、十分な機械的強度、耐熱性及び難燃性を有するとともに燃焼痕が十分少ない樹脂成形体を形成することができる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体及び筐体並びに樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、石油枯渇、廃棄物問題に代表される環境問題への取組み、持続型循環社会構築の考え方から、植物由来のバイオマス材料の開発が盛んになされている。例えば、ポリ乳酸は、石油を一切使用せずに穀物などから製造できるバイオマス材料として注目されている。そして、家電製品や事務機器の筐体や部品などにもバイオマス材料を用いることが検討されている。
【0003】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、一般的に、硬くて脆い、耐熱性が低いなどの課題を有することから、バイオマス材料をそのまま家電製品や事務機器の筐体や部品に使用することは困難である。そこで、例えば、脂肪族ポリエステルを成形する際にフィラーを配合して、成形体の機械的強度(特には耐衝撃強度)や耐熱性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、事務機器用、家電製品用の樹脂成形体においては、難燃要求が厳しいことから、通常、高度な難燃性を付与するための難燃剤が配合される。最近では、加工時の腐食や燃焼時の有毒ガスの発生を避けるために、非ハロゲン系難燃剤としてリン系難燃剤の使用が主流となりつつある。
【0005】
ところで、樹脂成形体を製造する方法として、原材料を撹拌混合することにより得られた混合物を、直接、成形機へ投入して成形する直接成形法がある。この直接成形法は、原材料の分散性に起因する問題が発生しやすいが、各原材料同士を加熱し溶融混合して一旦ペレット化するコンパウンド工程を省くことができることから、作業性、消費電力及び製造効率の点で有用である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−105298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、直接成形法を用いた樹脂成形体の製造方法の検討を行うなかで、ポリ乳酸が含まれる樹脂組成物とフィラーとリン系難燃剤とを混合し、この混合物を直接成形法により成形すると、得られる樹脂成形体に燃焼痕(以下、「焼け」という場合もある。)が発生する場合があることを見出した。また、このような焼けは、上記特定の組み合わせにおいて機械的強度、耐熱性及び難燃性を確保しようとした場合に発生しやすいことが分かった。なお、従来、ポリ乳酸、フィラー及びリン系難燃剤を組み合わせて、これを直接成形することや、そのようにした場合の樹脂成形体への影響について明確に報告された例はない。そのため、バイオマス材料を利用して直接成形法により樹脂成形体を製造する技術には更なる改善の必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリ乳酸、フィラー及びリン系難燃剤が含まれる樹脂成形体を直接成形法により製造する場合に、機械的強度、耐熱性及び難燃性を十分なものとしつつ樹脂成形体における燃焼痕の発生を十分抑制することができる樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、直接成形法による成形に供された場合であっても、十分な機械的強度、耐熱性及び難燃性を有するとともに燃焼痕が十分少ない樹脂成形体を形成することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、機械的強度、耐熱性及び難燃性が十分であるとともに燃焼痕が十分少ない樹脂成形体及び筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂組成物によれば、上記構成を有することにより、直接成形法による成形に供された場合であっても、十分な機械的強度、耐熱性及び難燃性を有するとともに燃焼痕が十分少ない樹脂成形体を形成することができる。なお、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部未満であると、燃焼痕の発生を十分に抑制することができず、一方、30質量部を超えると、機械的強度、耐熱性及び難燃性のすべてを高水準で満足させることができなくなる。
【0011】
本発明の樹脂組成物が上記の効果を奏する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推察する。先ず、燃焼痕が発生する主な要因としては、リン系難燃剤が脂肪族ポリエステルよりもフィラーに付着しやすいために、リン系難燃剤がフィラー近傍で高濃度化されることが考えられる。そして、この高濃度化されたリン系難燃剤が成形時に巻き込まれる空気の圧縮で生じる高温に晒されて焦げると、樹脂成形体表面において可視化されやすくなり、その結果、燃焼痕が現れるものと考えられる。これに対して、本発明の樹脂組成物の場合、酸化防止剤が上記割合で含有されることにより、リン系難燃剤とフィラーとの付着が適度に阻害されてリン系難燃剤の高濃度化が抑制されるとともに、リン系難燃剤の酸化も抑制されて、燃焼痕が極めて発生しにくくなったものと考えられる。また、リン系難燃剤とフィラーとの付着が適度に阻害されることで、相対的に脂肪族ポリエステル近傍に存在するリン系難燃剤が増え、樹脂成形体の機械的特性や熱特性を損なうことなく難燃性を十分に向上させることができたものと考えられる。さらには、上記の割合で含有される酸化防止剤が、脂肪族ポリエステルを含んで構成される樹脂成形体においてクッション材として働き、耐衝撃強度の向上に寄与したものと考えられる。
【0012】
また、本発明の樹脂成形体の製造方法は、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である混合物、を直接成形法により成形する工程を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の樹脂成形体の製造方法によれば、ポリ乳酸、フィラー及びリン系難燃剤が含まれる樹脂成形体を直接成形法により製造する場合に、機械的強度、耐熱性及び難燃性を十分なものとしつつ樹脂成形体における燃焼痕の発生を十分抑制することができる。これにより、外観、植物度、耐衝撃強度、耐熱性及び難燃性のすべてを高水準で満足する樹脂成形体を生産性よく製造することができる。
【0014】
本発明の樹脂成形体の製造方法により上記の効果が得られる理由としては、上述したような、特定の割合で配合される酸化防止剤の作用によるものと考えられる。すなわち、酸化防止剤が上記割合で含有されることにより、リン系難燃剤とフィラーとの付着が適度に阻害されてリン系難燃剤の高濃度化が抑制されるとともに、リン系難燃剤の酸化も抑制されて、燃焼痕が極めて発生しにくくなったものと考えられる。また、リン系難燃剤とフィラーとの付着が適度に阻害されることで、相対的に脂肪族ポリエステル近傍に存在するリン系難燃剤が増え、樹脂成形体の機械的特性や熱特性を損なうことなく難燃性を十分に向上させることができたものと考えられる。さらには、上記の割合で含有される酸化防止剤が、脂肪族ポリエステルを含んで構成される樹脂成形体においてクッション材として働き、耐衝撃強度の向上に寄与したものと考えられる。
【0015】
また、本発明の樹脂成形体は、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下であることを特徴とする。
【0016】
このような構成を有する樹脂成形体は、直接成形法を経て得られたものであっても、燃焼痕が十分少ない良好な外観と、十分な機械的強度、耐熱性及び難燃性とを兼ね備えることができる。したがって、本発明の樹脂成形体は、製造コストの点においても有利なものとなる。また、本発明の樹脂成形体は、植物度が高い場合であっても、上記の特性を満足することができる。
【0017】
また、本発明の筐体は、上記本発明の樹脂成形体が一部又は全部に用いられたことを特徴とする。このような筐体は、外観、耐衝撃強度、耐熱性及び難燃性のすべてを高水準で満足することができる。また、本発明の筐体は、製造コストの点においても有利なものとなる。また、本発明の筐体は、植物度が高い場合であっても、上記の特性を満足することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明よれば、ポリ乳酸、フィラー及びリン系難燃剤が含まれる樹脂成形体を直接成形法により製造する場合に、機械的強度、耐熱性及び難燃性を十分なものとしつつ樹脂成形体における燃焼痕の発生を十分抑制することができる樹脂成形体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、直接成形法による成形に供された場合であっても、十分な機械的強度、耐熱性及び難燃性を有するとともに燃焼痕が十分少ない樹脂成形体を形成することができる樹脂組成物を提供することができる。更に、本発明によれば、機械的強度、耐熱性及び難燃性が十分であるとともに燃焼痕が十分少ない樹脂成形体及び筐体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である。
【0021】
本実施形態で用いられる脂肪族ポリエステルとしては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の重合体、及び、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重縮合物などが挙げられる。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物においては、機械特性の点で、ポリ乳酸、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸及びポリブチレンサクシネートから選ばれる1種以上の脂肪族ポリエステルが含まれることが好ましい。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物において、脂肪族ポリエステルの含有量は、樹脂組成物全量を基準として10質量%以上95質量%以下であることが好ましく、30質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上80質量%以下であることがさらにより好ましい。脂肪族ポリエステルの含有量が、10質量%未満であると、樹脂成形体における植物度を高めることが困難となる傾向にあり、95質量%を超えると、十分な難燃性が得られにくくなる傾向にある。
【0024】
また、本実施形態の樹脂組成物は、上記脂肪族ポリエステル以外の樹脂を含有することができる。このような樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。これらの中で、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂のうちの一種以上を併用することが、耐衝撃強度、耐熱性の点で好ましい。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物において、脂肪族ポリエステル以外の樹脂の含有量は、樹脂組成物全量を基準として10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。脂肪族ポリエステル以外の樹脂の含有量が、10質量%未満であると、耐衝撃強度及び耐熱性を更に高めることが困難となる傾向にあり、一方、80質量%を超えると、樹脂成形体の植物度を高くすることが困難となる傾向にあり、また、燃焼時にドリップ現象が発生しやすくなり難燃性を獲得しにくくなる傾向にある。
【0026】
本実施形態で用いられるフィラーとしては、公知の有機充填材や無機充填材を使用することができる。より具体的には、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、タルク、ワラストナイト、タルク、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、アルミン酸ナトリウム、珪酸カルシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、金属繊維、セラミックウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維などの無機繊維、ケナフなどの有機繊維、炭素繊維などを用いることができる。また、フィラーとしては、上記の他、セルロース微粒子、木片、籾殻、おからなどを用いることができる。上記のフィラーは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物においては、耐衝撃強度の点で、ガラス繊維が含まれることが好ましい。この場合、ガラス繊維の平均繊維長は、0.5μm以上200μm以下が好ましい。繊維長がこの範囲内であると、範囲外のものに比べて耐衝撃強度及び耐熱性の向上効果が得られやすくなる。また、ガラス繊維の直径は、0.1μm以上5μm以下が好ましい。直径がこの範囲内であると、範囲外のものに比べて分散性が向上し、耐衝撃強度及び耐熱性の向上効果が得られやすくなる。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物において、フィラーの含有量は、樹脂組成物全量を基準として5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上20質量%以下であることがさらにより好ましい。フィラーの含有量が、5質量%未満であると、樹脂成形体の機械的強度及び耐熱性を十分確保することが困難となる傾向にあり、40質量%を超えると、樹脂成形体が硬く脆くなりやすくなり、耐衝撃強度が低下する傾向にある。
【0029】
本実施形態に用いられるリン系難燃剤としては、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、リン酸塩、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物、及び、赤リンが挙げられる。
【0030】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどが挙げられる。
【0031】
また、縮合リン酸エステルとしては、芳香族縮合リン酸エステルを好適に使用することができる。芳香族縮合リン酸エステルの具体例としては、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの縮合リン酸エステルを挙げることができる。また、本実施形態においては、芳香族の種類が異なる縮合リン酸エステル同士を併用してもよい。また、縮合リン酸エステルとして、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−202、CR−733S、CR−741、CR747などの市販品を用いてもよい。
【0032】
また、リン酸塩及びポリリン酸塩としては、リン酸又はポリリン酸と、周期律表IA族〜IVB族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩が挙げられる。より具体的には、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩など、芳香族アミン塩としてピリジン塩、トリアジン塩、メラミン塩、アンモニウム塩などがそれぞれ例示される。
【0033】
また、リン系難燃剤としては、上記の他、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドなどが挙げられる。
【0034】
また、赤リンとしては、未処理の赤リンのみでなく、熱硬化性樹脂被膜、金属水酸化物被膜及び金属メッキ被膜から選ばれる1種以上の化合物被膜により処理された赤リンを好ましく使用することができる。熱硬化性樹脂被膜の熱硬化性樹脂としては、赤リンを被膜できる樹脂であれば特に制限はなく、例えば、フェノール−ホルマリン系樹脂、尿素−ホルマリン系樹脂、メラミン−ホルマリン系樹脂、アルキッド系樹脂などが挙げられる。金属水酸化物被膜の金属水酸化物としては、赤リンを被膜できる樹脂であれば特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンなどを挙げることができる。金属メッキ被膜の金属としては、赤リンを被膜できる樹脂であれば特に制限はなく、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Mn、Ti、Zr、Alまたはこれらの合金などが挙げられる。さらに、これらの被膜は2種以上組み合わせて、あるいは2種以上に積層されていてもよい。
【0035】
上記リン系難燃剤の中でも、縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩、赤リンが好ましく、縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩が特に好ましく、縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩がさらに好ましく、芳香族縮合リン酸エステル、ポリリン酸メラミンが特に好ましい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物において、リン系難燃剤の含有量は、樹脂組成物全量を基準として5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがさらにより好ましい。難燃剤の含有量が5質量%未満であると、難燃性が十分に得られにくくなる傾向があり、40質量%を越えると、樹脂成形体の機械強度が低下する傾向がある。
【0037】
また、本実施形態の樹脂組成物においては、焼けの発生を十分少なくしつつ樹脂成形体の機械的強度及び耐熱性を更に向上させる観点から、リン系難燃剤の含有量をフィラーの表面積に応じて適宜設定することが好ましい。具体的には、フィラーの表面積が大きくなるに従って、リン系難燃剤の含有量を大きくすることが好ましい。例えば、本実施形態の樹脂組成物に含まれるフィラー1g当たりの平均表面積をS(m)とした場合、リン系難燃剤の含有量WFR(g)は、0.001≦WFR/S≦1000の関係を満たすことが好ましい。また、このような関係を満たすことは、特にフィラーがガラス繊維である場合に好ましい。この場合、焼けが十分少なく、機械的強度及び耐熱性が更に向上した樹脂成形体を直接成形法により成形することが容易となる。このような効果は、リン系難燃剤が、本来接着しにくい組み合わせである脂肪族ポリエステル(特にはポリ乳酸)とガラス繊維とを良好に結着することにより奏されたものと考えられる。また、脂肪族ポリエステル(特にはポリ乳酸)とガラス繊維との組み合わせに、リン系難燃剤としてポリリン酸メラミンを配合する場合、機械的強度の向上効果をより確実に得ることができる。
【0038】
本実施形態で用いられる酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードアミン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、エステル系酸化防止剤、硫酸塩、スルフォン酸塩などのラジカルトラップ剤が挙げられる。また、ヒンダードアミン系酸化防止剤としてチバガイキー社製の「チヌビン」シリーズなど、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてチバガイキー社製の「イルガノックス」シリーズなど、フェノール系酸化防止剤として住友化学工業(株)製の「スミライザー」シリーズなどの市販品をそれぞれ用いてもよい。また、リン系酸化防止剤及びエステル系酸化防止剤としてビスフェノールA型リン酸エステル、ビフェニレン型リン酸エステルなど、硫酸塩として硫酸アンモニウムなど、スルフォン酸塩として硫酸グアニジンなどをそれぞれ用いてもよい。
【0039】
また、本実施形態で用いられる酸化防止剤は、耐熱性の観点からは分子量が大きく、沸点の高いものが好ましいが、樹脂との相溶性及び熱安定性の点で、分子量が150以上3000以下のものを用いることが好ましい。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物において、酸化防止剤の含有量は、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下とすることが必要であるが、15質量部以上25質量部以下が好ましい。なお、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部未満であると、燃焼痕の発生が十分に抑制されず、また、樹脂成形体の機械的強度が不十分となる傾向にあり、一方、30質量部を超えると、機械的強度、耐熱性及び難燃性のすべてを高水準で満足させることができなくなる。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物は、上述した各成分以外に更に他の添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤としては、例えば、相溶化剤、強化剤、耐候剤、耐加水分解防止剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、樹脂組成物全量を基準としてそれぞれ10質量%以下であることが好ましい。
【0042】
以上説明した本実施形態の樹脂組成物によれば、直接成形法による成形に供された場合であっても、外観、耐衝撃強度、耐熱性及び難燃性に優れた樹脂成形体を形成することができる。よって、本実施形態の樹脂組成物は、例えば、家電製品や事務機器の筐体、各種部品などを構成する樹脂成形体を直接成形法により生産性よく製造する場合に好適である。また、本実施形態の樹脂組成物は、高い植物度を有する場合(例えば、ポリ乳酸が樹脂組成物全量を基準として50質量%以上95質量%以下含有される場合)であっても、上記の効果を奏することができる。
【0043】
また、脂肪族ポリエステル、フィラー及びリン系難燃剤を含有する樹脂組成物において、脂肪族ポリエステルの熱分解温度TDPS(℃)とリン系難燃剤の熱分解温度TDFR(℃)とが、TDPS>TDFRの関係にあると、直接成形の際に焼けが発生しやすかったが、本発明によれば、酸化防止剤をリン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下の割合で配合することにより、上記の場合であっても直接成形した際の焼けの発生をより有効に抑制することが可能となる。
【0044】
<樹脂成形体の製造方法>
次に、本発明の樹脂成形体の製造方法の好適な実施形態を説明する。
【0045】
本実施形態の樹脂成形体の製造方法は、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である混合物を直接成形法により成形する工程を備える。
【0046】
脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤は、上述した本実施形態の樹脂組成物におけるものと同様のものが使用できる。また、上記混合物における脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤の配合量及び好ましい組み合わせについても、本実施形態の樹脂組成物におけるものと同様にすることができる。
【0047】
また、上記混合物は、脂肪族ポリエステル以外の樹脂や他の添加剤が含まれていてもよく、これらの成分についても上述した本実施形態の樹脂組成物におけるものと同様のものが使用できる。
【0048】
本実施形態において上記混合物は、例えば、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤、酸化防止剤、必要に応じて、脂肪族ポリエステル以外の樹脂及び添加剤をそれぞれ所定量準備し、これらをVブレンダーなどの混合機を用いて混合することにより得ることができる。この場合、混合の際の温度は、10℃以上20℃以下、混合時間は、0.5時間以上2時間以下とすることができる。
【0049】
また、本実施形態において、上記混合物は2種以上の組成物が混合されたものであってもよい。例えば、脂肪族ポリエステル、難燃剤を混合して得られた第1の組成物と、石油系樹脂などの脂肪族ポリエステル以外の樹脂、フィラー、酸化防止剤を混合して得られた第2の組成物とを混合することにより得られた混合物が、直接成形法による成形に供されてもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、脂肪族ポリエステル、フィラー、必要に応じて添加剤、並びに、リン系難燃剤及び酸化防止剤をリン系難燃剤100質量部に対して酸化防止剤10質量部以上30質量部以下の割合で直接成形機に入れ、混合及び樹脂成形体の成形を連続して行ってもよい。
【0051】
また、本実施形態において、成形方法は、コンパウンド工程を経ない直接成形法によるものであれば特に制限されず、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形などの成形方法が使用可能であり、中でも、直接成形法による射出成形が好ましい。
【0052】
成形条件は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、例えば、射出成形の場合、射出温度は180℃以上220℃以下、金型温度は20℃以上50℃以下が好ましい。
【0053】
また、本実施形態においてフィラーとしてガラス繊維を用いる場合、機械的強度や耐熱性の点で、成形体におけるガラス繊維の平均繊維長が、原料であるガラス繊維の平均繊維長に対して70%以上維持されるように成形することが好ましい。また、得られる樹脂成形体におけるガラス繊維の平均繊維長は、0.5μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0054】
本実施形態において、酸化防止剤の配合量は、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下とすることが必要であるが、15質量部以上25質量部以下が好ましい。なお、酸化防止剤の配合量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部未満であると、燃焼痕の発生を十分に抑制することができず、また、樹脂成形体の機械的強度が不十分となる傾向にあり、一方、30質量部を超えると、機械的強度、耐熱性及び難燃性のすべてを高水準で満足させることができなくなる。
【0055】
本実施形態の樹脂成形体の製造方法によれば、機械的強度、耐熱性及び難燃性に優れ、且つ、燃焼痕の発生が十分に抑制された樹脂成形体を直接成形により得ることができる。また、本実施形態の樹脂成形体の製造方法は、各成分を加熱し溶融混合して一旦ペレット化するコンパウンド工程を有する製造方法に比べて、低エネルギー、低コストで上記の樹脂成形体を製造することができる。
【0056】
<樹脂成形体>
本実施形態の樹脂成形体は、例えば、上述した本実施形態の樹脂組成物を直接成形することにより或いは上述した本実施形態の樹脂成形体の製造方法により得ることができ、脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、酸化防止剤の含有量が、リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下であることを特徴とする。
【0057】
本実施形態の樹脂成形体は、機械的強度、耐熱性及び難燃性が十分であるとともに燃焼痕が十分少なく外観に優れているため、事務機器、家電製品、容器などの用途に好適に用いることができる。より具体的には、家電製品や事務機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、プリンター、複写機、ファックスなどの筐体に代表される事務機器筐体に好適である。
【0058】
<筐体>
本実施形態の筐体は、その全部が上記本実施形態の樹脂成形体で構成されていてもよく、その一部が上記本実施形態の樹脂成形体で構成されていてもよい。
【0059】
図1は、本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作できるよう開閉可能となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりすることができる。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0060】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動的に搬送することができる自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱可能なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって可能となる。
【0061】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充することができる。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0062】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙トレイ136が備えられており、ここからも用紙を供給することができる。
【0063】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に当接する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙トレイ136が設けられている側と反対側に排出トレイ138が複数備えられており、これらのトレイに画像形成後の用紙が排出される。
【0064】
画像形成装置100において、フロントカバー120a,120bは、開閉時の応力及び衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、プロセスカートリッジ142は、着脱の衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、筐体150及び筐体152は、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。そのため、本発明の樹脂成形体は、画像形成装置100のフロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、及び筐体152として用いられるのが好適である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
ポリ乳酸(商品名「レイシアH100」、三井化学社製、熱分解温度:230℃)39質量部、ポリカーボネート樹脂(「L1225Y」、帝人社製、熱分解温度:340℃)39質量部、酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)3質量部、縮合リン酸エステル(商品名「PX−201、大八化学社製、熱分解温度:200℃)10質量部、及び、ガラス繊維(商品名「GF」、東洋紡社製、平均繊維長50μm、1g当たり平均表面積:0.02m/g)10質量部をVブレンダーで20分間混合し、混合物を得た。
【0067】
上記で得られた混合物を、射出成形機(日精樹脂製、EX50)を用いて射出温度200℃、金型温度80℃で射出成形し、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の外観を目視にて観察し、焼けについて以下の基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
【0068】
[焼けの評価]
1:焼けが見られない。
2:やや焼けが見られる。
3:多数の焼けが見られる。
【0069】
また、上記で得られた樹脂成形体を用い、以下の方法に従ってシャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0070】
[シャルピー耐衝撃強度]
ISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを用い、ISO−179に規定の方法に従ってデジタル耐衝撃強度測定装置(東洋精機社製、DG−C)によりシャルピー耐衝撃強度(kJ/m)を測定した。
【0071】
[荷重たわみ温度(HDT)]
荷重たわみ温度試験片を用い、ISO−360に規定の方法に従ってHDT測定装置(東洋精機社製、標準モデル)により荷重0.45MPaの条件で荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0072】
また、ISO多目的ダンベル試験片からUL試験片(厚み2mm)を切り出し、難燃性試験(UL94−V燃焼試験)を実施した。得られた結果を表1に示す。なお、UL94−V燃焼試験は、JIS Z2391に規定する垂直燃焼試験であり、表1では、難燃グレードを難燃性の高い順にV−0、V−1、V−2として示した。また、表中、「Not V」はUL94−V燃焼試験においてVレベル未達であったことを意味する。
【0073】
【表1】

【0074】
(実施例2)
実施例1における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)の配合量を1質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0075】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
実施例1における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)3質量部に代えて、酸化防止剤(商品名「スミライザーGS」、住友化学社製)を1質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0077】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
実施例3における酸化防止剤(商品名「スミライザーGS」、住友化学社製)の配合量を3質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0079】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
(実施例5)
実施例1におけるガラス繊維(商品名「GF」、東洋紡社製、平均繊維長50μm)10質量部に代えて、タルク(商品名「M−SP」、日本タルク社製)を10質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0081】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0082】
(実施例6)
実施例5における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)の配合量を1質量部に変更したこと以外は実施例5と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0083】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0084】
(実施例7)
実施例1における縮合リン酸エステル(商品名「PX−201、大八化学社製、熱分解温度:200℃)10質量部に代えて、ポリリン酸メラミン(商品名「MPP−B」、三和ケミカル社製)を1質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0085】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0087】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0088】
(比較例2)
実施例1における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)の配合量を0.8質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0089】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0090】
(比較例3)
実施例1における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)の配合量を4.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0091】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0092】
(比較例4)
実施例3における酸化防止剤(商品名「スミライザーGS」、住友化学社製)の配合量を0.8質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0093】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0094】
(比較例5)
実施例3における酸化防止剤(商品名「スミライザーGS」、住友化学社製)の配合量を4.8質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0095】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0096】
(比較例6)
酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)を配合しなかったこと以外は実施例5と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0097】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0098】
(比較例7)
実施例5における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)の配合量を0.7質量部に変更したこと以外は実施例5と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0099】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0100】
(比較例8)
実施例5における酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)の配合量を5.2質量部に変更したこと以外は実施例5と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片の2種類の樹脂成形体を得た。
【0101】
得られたISO多目的ダンベル試験片及びISO荷重たわみ温度試験片について、実施例1と同様にして、外観の評価、シャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定、並びに難燃性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0102】
表1に示されるように、酸化防止剤をリン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下の範囲内で配合して得られた実施例1〜6の樹脂成形体は、焼けがなく、十分に高いシャルピー耐衝撃強度及び荷重たわみ温度を有し、V−2レベルの難燃性を有していることが確認された。

【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
100…画像形成装置、110…本体装置、120a,b…フロントカバー、136…用紙トレイ、138…排出トレイ、142…プロセスカートリッジ、150,152…筐体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、
前記酸化防止剤の含有量が、前記リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、前記酸化防止剤の含有量が、前記リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である混合物、を直接成形法により成形する工程、
を備える、樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル、フィラー、リン系難燃剤及び酸化防止剤を含み、
前記酸化防止剤の含有量が、前記リン系難燃剤100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である、樹脂成形体。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂成形体が一部又は全部に用いられたことを特徴とする筐体。



【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−239643(P2008−239643A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77591(P2007−77591)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】