説明

樹脂組成物及び成形体

【課題】青色レーザ光の波長(400nm)での光線透過率に優れるばかりでなく、線膨張係数も低い光学用成形体を提供する。
【解決手段】微量型高剪断成形加工機を用いて、シリンダー内で、溶融状態の樹脂を、無機微粒子と混練し、剪断成形加工することにより、得られる無機微粒子が分散された樹脂組成物であって、前記樹脂100重量部に対して、前記無機微粒子が5重量部以上40重量部以下であり、前記樹脂が、非晶性脂環構造含有重合体であり、前記微量型高剪断成形加工機の剪断速度が1000〜3000sec−1であり、前記溶融状態の樹脂の温度が、Tg+120℃≦樹脂の温度≦Tg+145℃の範囲である(ここでTgは、非晶性脂環構造含有重合体のガラス転移温度を意味する)、ことを特徴とする樹脂組成物を射出成形した光学用成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピックアップレンズなどの光学素子材料として好適な樹脂組成物及びそれからなる光学用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環構造含有重合体であるノルボルネン系単量体の開環重合体水素添加物は、優れた透明性、低吸湿性、低複屈折性などから、光学レンズに好適に用いられている。
一方、無機微粒子などのフィラーは、樹脂に配合することで、剛性や耐熱性などの向上が期待される。
コロイダルシリカなどの無機微粒子を、前記開環重合体水素添加物100重量部に対して0.3重量部配合した組成物から得られるレンズが、透明で、高温高湿条件下で白濁しないものが得られる(特許文献1)。
【0003】
ところで、複数の樹脂成分をナノ分散させた高分子ブレンドを得るために、溶融状態の高分子成分を、高剪断のもとで混練するための、高剪断成形加工機が開発され(特許文献2)、当該装置を用いてポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとを溶融混練し、ポリメチルメタクリレートをポリカーボネート中にナノ分散させることで、透明な高分子ブレンドを得られることが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−048608号公報
【特許文献2】特開2005−313608号公報
【特許文献3】特開2009−169169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術の下、本発明者らは特許文献1の実施例8の記載に準じて、脂環構造含有重合体と無機微粒子とを、二軸混練機を用いて、スクリュー回転数250rpm下で溶融混練して得られたペレットを射出成形して得られた成形体は、青色レーザ光の波長(400nm)での光線透過率に劣ることを確認した。特にこの傾向は、無機微粒子の配合割合が高くなるほど顕著であることを確認した。
そして本発明者らは、上記二軸混練機の変わりに、前記特許文献3に記載されたような、剪断速度が1000sec−1を超える様な高速剪断スクリューを備えた高剪断成形加工機を用いたところ、樹脂同士ではなく、脂環構造含有重合体と無機微粒子とであっても、剪断速度と樹脂温度を制限することで、ナノ分散が実現し、青色レーザ光の波長(400nm)での光線透過率に優れるばかりでなく、線膨張係数も低い成形体が得られること、更に射出成形性が良好となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、
高剪断成形加工機を用いて、シリンダー内で、溶融状態の樹脂を、無機微粒子と混練し、剪断成形加工することにより、得られる無機微粒子が分散された樹脂組成物であって、
前記樹脂100重量部に対して、前記無機微粒子が5重量部以上40重量部以下であり、
前記高分子材料が、非晶性脂環構造含有重合体であり、
前記高剪断成形加工機の剪断速度が1000〜34400sec−1であり、
前記溶融状態の樹脂の温度が、Tg+120℃≦樹脂の温度≦Tg+145℃の範囲である(ここでTgは、非晶性脂環構造含有重合体のガラス転移温度を意味する;以下、同様)、
ことを特徴とする樹脂組成物が提供される。
前記樹脂組成物の無機微粒子が、化学修飾基を有するシラン化合物でシリル化処理された無機酸化物粒子であるのが好ましい。
また、本発明によれば前記樹脂組成物を射出成形してなる光学用成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、非晶性脂環構造含有重合体及び無機微粒子を含有するものである。
【0008】
・非晶性脂環構造含有重合体
本発明で使用される非晶性脂環構造含有重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有する、非晶性樹脂(融点を有しない樹脂)であり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。
【0009】
重合体の脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0010】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械的強度、耐熱性、及び成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0011】
本発明に使用される非晶性脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%である。非晶性脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。非晶性脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0012】
この非晶性脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体及びその水素化物が好ましい。
【0013】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0014】
開環重合によって得られるものとして、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものとしてノルボルネン系単量体の付加重合体及びノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましい。
【0015】
ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが例示でき、上記ノルボルネン系単量体は、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0016】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0017】
ノルボルネン系単量体の付加重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、これらの単量体を、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて重合させて得ることができる。
【0018】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンとも言う)などのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
これらの、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体とを付加共重合する場合は、付加重合体中のノルボルネン系単量体由来の構造単位と付加共重合可能なその他の単量体由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0019】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−又は1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などを用いることができる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられ、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素化物など、いずれでもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、又はそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
【0020】
本発明で使用される非晶性脂環構造含有重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは8,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜100,000の範囲であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0021】
本発明で使用される非晶性脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50〜300℃、好ましくは100〜280℃、特に好ましくは115〜250℃、さらに好ましくは130〜200℃の範囲であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
本発明でいうガラス転移温度とは、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
【0022】
ちなみに、これらの非晶性脂環構造含有重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
・無機微粒子
本発明における無機微粒子は、一次粒径の体積平均分散粒径が50nm以下であり、1nm以上、30nm以下であることがより好ましく、更に好ましくは1nm以上、15nm以下である。体積平均分散粒径が1nm以上であれば、無機微粒子の分散性を確保することができ、所望の性能を得ることができ、また体積平均分散粒径が50nm以下であれば、得られる熱可塑性材料組成物の良好な透明性を得ることができ、高い光線透過率を達成することができる。
【0024】
なお、ここでいう体積平均分散粒径とは、分散状態にある無機微粒子を、同体積の球に換算した時の直径を言う。また、一次粒子が凝集したものの粒径が50nm以上であっても、凝集物を解凝集させ分散させることで所望の透明性を確保することが可能であるが、一次粒子自体が50nm以上であると、一次粒子を粉砕して50nm以下の粒径の粒子を得ることは困難であるため、一次粒子の大きさが重要である。
【0025】
本発明において用いることのできる無機微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、好適には球状の微粒子が用いられる。また、粒径の分布に関しても特に制限されるものではないが、本発明の効果をより効率よく発現させるためには、広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。
【0026】
無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子が挙げられ、より具体的には、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等、あるいは、リン酸塩、硫酸塩等、を挙げることができる。
【0027】
また、無機微粒子として、半導体結晶組成の微粒子も好ましく利用することができる。このような半導体結晶組成には、特に制限はないが、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものが望ましい。具体的な組成例としては、例えば、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO)、硫化錫(II、IV)(Sn(II)Sn(IV)S)、硫化錫(IV)(SnS)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al)、セレン化アルミニウム(AlSe)、硫化ガリウム(Ga)、セレン化ガリウム(GaSe)、テルル化ガリウム(GaTe)、酸化インジウム(In)、硫化インジウム(In)、セレン化インジウム(InSe)、テルル化インジウム(InTe)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII〜VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As)、セレン化砒素(III)(AsSe)、テルル化砒素(III)(AsTe)、硫化アンチモン(III)(Sb)、セレン化アンチモン(III)(SbSe)、テルル化アンチモン(III)(SbTe)、硫化ビスマス(III)(Bi)、セレン化ビスマス(III)(BiSe)、テルル化ビスマス(III)(BiTe)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(CuO)、セレン化銅(I)(CuSe)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS)、酸化タングステン(IV)(WO)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO)、酸化タンタル(V)(Ta)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO、Ti、Ti、Ti等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCrSe)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCrSe)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF1515や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0028】
これらの無機微粒子は、1種類の無機微粒子を用いてもよく、また複数種類の無機微粒子を併用してもよい。また、複合組成の無機微粒子を用いることも可能である。複数種類の無機微粒子としては、混合型、コアシェル(積層)型、化合物型及び複合型(1つの母材無機微粒子中に他の1つの無機微粒子が存在する形)等の何れも用いることができる。
【0029】
複合組成の無機微粒子としては、例えば、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi及び希土類金属からなる群より選ばれる2種以上の金属を含有する金属酸化物等を用いることができる。具体的には、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛等の酸化物が2種以上混合した構成の酸化物微粒子が挙げられる。この中から、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものを適宜選択して使用することが好ましい。
【0030】
本発明の目的である透明性向上のほか、耐熱性等の物性改良などの観点から無機微粒子を選択する場合、酸化珪素と酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ及び酸化マグネシウム等の複合酸化物が屈折率、各種温度特性、製造コストの観点から好ましく用いられる。複合粒子の組成分布にあたっては、外表部(シェル部)と中心部(コア部)が異なる組成であっても同一組成であってもよく、樹脂との相溶性等の物理特性や(コア/シェル)界面散乱や(シェル/樹脂)界面の散乱等の光学特性を勘案して適宜選択される。ここでいう外表部とは例えば粒子中心より粒子径の90〜100%のことであり、中心部とは例えば粒子中心より粒子径の0〜50%のことであるが、これに限定はされない。上記組成分布を測定する方法としてEDXによる元素分析から算出する方法、ASTM D 542に準拠した方法、ベッケ線法及び分散法などがあるが、本発明ではEDXにより直接算出した値を用いた。
【0031】
以上の無機微粒子の含有量は、上述の非晶性脂環構造含有重合体100重量部に対して5重量部以上、40重量部以下であり、10重量部以上、30重量部以下であることがより好ましい。
【0032】
・無機微粒子の製造方法
本発明における無機粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。噴霧乾燥法、火炎噴霧法、プラズマ法、気相反応法、凍結乾燥法、加熱ケロシン法、加熱石油法といった熱分解法、共沈法、塩水溶液法、アルコキシド法、ゾルゲル法といった加水分解法、沈殿法、結晶化法、水熱分解法、水熱酸化法といった水熱法などが挙げられる。このうち、熱分解法や、沈殿法、加水分解法は体積分散粒径50nm以下の無機微粒子を作成する点で好ましい。また、これらの手法を複数組み合わせることも好ましい。
【0033】
例えば、単独あるいは複数のハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この際、微粒子の安定化のために有機酸や有機アミンなどを併用する方法も用いられる。より具体的には、例えば、二酸化チタン微粒子を形成する場合には、ジャーナル・オブ・ケミカルエンジニアリング・オブ・ジャパン第31巻1号21−28頁(1998年)に記載された方法を用いることができ、硫化亜鉛を形成する場合には、ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー第100巻468−471頁(1996年)に記載された公知の方法を用いることができる。これらの方法に従えば、例えば体積平均分散粒径が5nmの酸化チタンは、チタニウムテトライソプロポキサイドや四塩化チタンを原料として、適当な溶媒中で加水分解させる際に適当な表面修飾剤を添加することにより、容易に製造することができる。また、体積平均分散粒径が40nmの硫化亜鉛は、ジメチル亜鉛や塩化亜鉛を原料とし、硫化水素あるいは硫化ナトリウムなどで硫化する際に表面修飾剤を添加することにより、製造することができる。
【0034】
また、酸化物微粒子作成に通常よく用いられる方法として、酸素を含む雰囲気内においてバーナにより化学炎を形成し、粉塵雲を形成しうる量の金属粉末をこの化学炎中に投入して燃焼させることで体積平均分散粒径5〜30nmの酸化物微粒子を合成する方法や、特開2005−218937号公報に記載されるように原料気体流と酸素ガスとの反応により気相中で所望の酸化物微粒子を得る方法を用いることもできる。
【0035】
・表面修飾剤の種類
無機微粒子は表面修飾を行うことで各種樹脂材料との親和性を向上させることができる。表面修飾の方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、水が存在する条件下で加水分解により微粒子の表面に修飾する方法が挙げられる。この方法では、酸またはアルカリなどの触媒が好適に用いられ、微粒子表面の水酸基と、表面修飾剤が加水分解して生じる水酸基とが、脱水して結合を形成することが一般に考えられている。
【0036】
無機微粒子の表面改質の方法としては、カップリング剤等の表面修飾剤による表面処理、ポリマーグラフト、メカノケミカルによる表面処理などが挙げられる。
無機微粒子の表面改質に用いられる表面修飾剤としては、シランカップリング剤をはじめ、シリル化剤、アミノ酸系分散剤、各種シリコーンオイル、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系カップリング剤等が挙げられる。これらは特に限定されず、無機微粒子および無機微粒子を分散する熱可塑性樹脂の種類により適宜選択することが可能であるが、シラン化合物によるシリル化処理が好ましい。また、各種の表面処理剤による表面処理を二つ以上同時又は異なる時に行っても良い。
【0037】
ここで、シランカップリング剤としては、具体的には、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等、シリル化剤としては、具体的には、ジメチルジクロロシランジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、トリメチルクロロシラン、t−ブチルジメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−トリメチルシリルイミダゾール、トリメチルシリルトリフロロメタンスルホン酸等、公知のものが使用できるが、無機微粒子の表面を広く覆うためにヘキサメチルジシラザン、メチルトリメトキシシラン等が好ましく用いられる。
【0038】
また、シリコーンオイル系処理剤としては、具体的には、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルやアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルを用いることができる。
なお、これらの表面処理剤はヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン水等で適宜希釈して用いても良い。
【0039】
・無機微粒子の表面修飾方法
無機微粒子を表面修飾する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、水が存在する条件下で加水分解により微粒子の表面に修飾する方法が挙げられる。この方法では、酸またはアルカリなどの触媒が好適に用いられ、微粒子表面の水酸基と、表面修飾剤が加水分解して生じる水酸基とが、脱水して結合を形成することが一般に考えられている。
【0040】
・カップリング剤による表面改質方法
以上の表面修飾方法の他、特にカップリング剤による表面改質方法としては、湿式加熱法や湿式濾過法インテグラルブレンド法等があるが、本発明においては特に限定されない。
【0041】
ここで、カップリング剤の添加量は、使用される無機微粒子がナノサイズであり比表面積が大きいため、比較的多量となる。具体的な量としては、無機微粒子100重量部に対して5重量部以上が必要である。これにより、期待する表面処理効果を得ることができるとともに、粒子の凝集を防止することができる。また、熱可塑性材料中にボイドが発生するのを防止することができるため、ボイドに起因する線膨張係数の増大や光線透過率の低下を防止することができる。なお、コストの増加や使用する樹脂との可溶化量などの観点からは、カップリング剤の添加量は、無機微粒子100重量部に対して20重量部以下に抑えることが望ましい。
【0042】
・樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、非晶性脂環構造含有重合体と無機微粒子とを、高剪断成形加工機を用いて、所定の剪断速度と樹脂温度の条件下で混練して得られるもので、通常ペレット状の成形物となる。
高剪断成形加工機は、溶融状態の非晶性脂環構造含有重合体と、無機微粒子とを混練する際のスクリューが安定に高速回転し、高剪断のもとで混練を持続させることのできる成形加工機である。より具体的には特開2005−313608号公報記載の加工機である。このような加工機として微量型高せん断成形加工機(製品名「HSE3000mini」、井元製作所社製)や中容量高せん断成形加工装置(製品名「NHSS5−55」、ニイガタマシンテクノ社製)などが挙げられる。
この高剪断成形加工機のスクリューの回転により1000〜4400sec−1、好ましくは1500〜3500sec−1の剪断速度を与えるものである。剪断速度が遅いと、成形安定性に欠けるため不良品の出来る可能性が高くなり、逆に剪断速度が高すぎると非晶性脂環構造含有重合体の温度が高くなりすぎて成形体に黄ばみを生じさせる可能性が高くなる。
また、当該加工機において、溶融状態にある樹脂の温度は、Tg+120℃≦樹脂の温度≦Tg+145℃、好ましくはTg+125℃≦樹脂の温度≦Tg+140℃である。樹脂の温度が低すぎると、無機微粒子が分散しにくくなり、成形体の透明性が低下する上、線膨張係数も大きくなる問題があり、逆に高すぎると樹脂の温度が高くなりすぎて成形体に黄ばみを生じさせる可能性が高くなる。
【0043】
・その他の成分
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、その他のポリマー、光学成形体に対して通常用いられる各種配合剤を単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0044】
その他のポリマーとしては、ゴム質重合体;ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、石油樹脂、フェノール樹脂などの樹脂;などのその他のポリマーを例示することができる。
【0045】
ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が40℃以下の熱可塑性エラストマーが挙げられ、その具体例としては、乳化重合又は溶液重合したスチレン・ブタジエン・ゴム、ハイスチレンゴムなどのランダム又はブロック・スチレン・ブタジエン系共重合体、これらの水素添加物;イソプレン・ゴム、その水素添加物;クロロプレンゴム、その水素添加物;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体などの飽和ポリオレフィンゴム;エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、α−オレフィン・ジエン共重合体、ジエン共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体、イソブチレン・ジエン共重合体などのジエン系重合体、これらのハロゲン化物、ジエン系重合体又はそのハロゲン化物の水素添加物、又は、これらを無水マレイン酸やグリシジルメタクリレートやエポキシ等で変性したものなどが挙げられる。
これらの中でも、成形体の表面平滑性が良いことから、スチレン・ブタジエン・ゴム、ハイスチレンゴムなどのランダム又はブロック・スチレン・ブタジエン系共重合体の水素添加物、及び、これらの無水マレイン酸やグリシジルメタクリレートやエポキシ等の変性体が好ましい。
【0046】
通常用いられる各種配合剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0047】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられるが、これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アクリレート系紫外線吸収剤、金属錯体系紫外線吸収剤などが挙げられる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤を挙げることができる。
【0048】
近赤外線吸収剤は、例えば、シアニン系近赤外線吸収剤;ピリリウム系赤外線吸収剤;スクワリリウム系近赤外線吸収剤;クロコニウム系赤外線吸収剤;アズレニウム系近赤外線吸収剤;フタロシアニン系近赤外線吸収剤;ジチオール金属錯体系近赤外線吸収剤;ナフトキノン系近赤外線吸収剤;アントラキノン系近赤外線吸収剤;インドフェノール系近赤外線吸収剤;アジ系近赤外線吸収剤;等が挙げられる。
可塑剤としては、燐酸トリエステル系可塑剤、脂肪酸一塩基酸エステル系可塑剤、二価アルコールエステル系可塑剤、オキシ酸エステル系可塑剤などが挙げられる。
帯電防止剤としては、多価アルコールの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0049】
これらの各種配合剤は、本発明の目的を損なわれない範囲で用いることができ、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いて良く、その配合量は、非晶性脂環構造含有重合体100重量部に対して通常0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、通常、射出成形法により成型される。得られる射出成形体は、無機微粒子が均一分散しているため、光学素子に製膜する反射防止膜などの機能膜の樹脂成形部に対する密着性に優れる。
射出成形法は、通常、成形材料である本発明の樹脂組成物を射出成形器のホッパーに投入し、成形材料が均一に混合されるように回転数を設定したスクリューで、シリンダーに送られ、次いで、金型へと射出する方法である。シリンダーの温度は、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃の範囲で適宜選択される。シリンダー温度が過度に低いと流動性が悪化し、成形体にヒケやひずみを生じ、シリンダー温度が過度に高いと成形材料の熱分解によるシルバーストリークが発生したり、成形体が黄変するなどの成形不良が発生するおそれがある。
シリンダーから金型への射出速度は、通常1〜1000cm/秒であるときに、外観形状に優れ、しかも大型の成形体の成形が可能となり好適である。
シリンダーから金型への射出圧は、通常500〜15000kgf/cmの範囲で行われる。このときの射出圧は、金型の設計や使用される成形材料の流動性等の条件を考慮して適宜選択し、設定すればよい。
【0051】
保圧は、射出圧によって、金型が略充填された後、金型のゲート部分の溶融した成形材料が完全に冷却固化するまでの一定時間かけられる圧力である。保圧の上限値としては一般に金型の締め圧の範囲内で設定されるが、通常2000kgf/cm以下、好ましくは1700kgf/cm以下、より好ましくは1500kgf/cm以下の範囲において設定される。保圧の上限値はこのような範囲とすることで、成形体に歪みなどの成形不良が発生するおそれがなくなる。保圧の下限値としては、少なくとも100kgf/cm以上、好ましくは120kgf/cm以上、より好ましくは150kgf/cm以上の範囲において設定される。保圧の下限値をこのような範囲とすることで、成形体のひけの発生が防止され、成形収縮率を小さくすることができ、寸法精度の優れたものを得ることができる。
【0052】
このときの金型温度は、成形材料中の非晶性脂環構造含有重合体のガラス転移温度(Tg)よりも、通常低い温度で設定され、好ましくはTgよりも0〜50℃低い範囲であり、より好ましくはTgよりも5〜20℃低い範囲の温度において設定される。このような範囲において金型温度を設定することにより、成形体のひずみを低く抑制することができる。
【0053】
また、成形体の色調低下や酸化物及びボイドの発生を極力低減させる目的で、成形材料の予備乾燥を行ったり、射出成型機のホッパー部から窒素などを流し、空気との置換を行うことが好ましい。予備乾燥の方法は制限されず、例えば、100〜110℃、4〜12時間の真空乾燥によって行う。
【0054】
・射出成形体
上述した本発明の樹脂組成物を用いて射出成形される成形体は、高い透明性と低い線膨張率を有するため、光学レンズ、プリズム、導光体などの光学部品として好適である。成形体は、球状、棒状、板状、ファイバー状、筒状などの各種の形状に成形して使用することができるが、中でも、棒状や板状で、導光体用として使用するのが最も好適である。導光体としては、上記の形状に限らず、その他複雑な形状を有するものまでいずれにも使用でき、その具体例としては、光ファイバー、車両灯具用導光体、各種計器用ライトガイド、導光板、光導波路などが挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。以下において、部または%は、特に断りが無い限り重量基準であり、圧力はゲージ圧力である。
【0056】
各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)分子量
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(MWD)はシクロヘキサンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、標準ポリイソプレン換算値として測定した。標準ポリイソプレンとしては、東ソー社製標準ポリイソプレン、Mw=602、1,390、3,920、8,050、13,800、22,700、58,800、71,300、109,000、280,000の計10点を用いた。
測定には、東ソー社製HLC8120GPCを用い、カラムとして東ソー社製TSKgel G5000HXL、TSKgel G4000HXLおよびTSKgel G2000HXLを3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/分、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
(2)水素添加率は、H−NMRにより測定した。
(3)ガラス転移温度は、JIS K 7121に基づき、示差走査熱量分析計(DSC6220S11、ナノテクロノジー社製)を用い、ガラス転移温度より30℃以上に加熱した後、冷却速度−10℃/分で室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/分で昇温する過程で測定した。
(5)光線透過率は、分光光度計(日本分光社製「V−570」)を用いて、波長400nm、光路長3mmで測定した。
(6)線膨張係数は、JIS K 7197に従って、セイコーインスツル社製「TMA300」を用いて測定した。
測定した。
(7)射出成形性は、射出成形機FANUC S2000i−5Aにより、20mm×20mm×3mmの成形品10個を成形し、成形品10個の外観検査を行った。スプルー部に割れのある成形品個数を数えた。
【0057】
〔製造例1〕
窒素置換下に、エチルテトラシクロドデセン(以下「ETCD」と略す)20部に、シクロヘキサン200部、1−ヘキセン2.0部、トリエチルアルミニウム15重量%トルエン溶液15部およびトリエチルアミン5.0部を加え、20℃に保ち、撹拌しながら、ETCD80部および四塩化チタン20重量%トルエン溶液9.0部を60分にわたって連続的に加えた。その後、1時間反応させた後、エチルアルコール5.0部および水2.0部を加えて反応を停止させた。反応溶液を40℃に加温して触媒を加水分解した後、硫酸カルシウム3部およびシクロヘキサン60部を加え、過剰の水を除去した。析出した金属を含む沈殿物を濾過して除去し、ETCD開環重合体を含む透明な重合体溶液371部を得た。この操作を繰り返し得た重合体溶液750部に、Ni−ケイソウ土触媒(製品名「N113」、日揮化学社製)15部を添加し、耐圧反応容器に入れ、水素を導入して圧力50kg/cm2 、温度200℃で3時間水素添加反応を行った。反応終了後、シクロヘキサン700部を加えて希釈し、濾過により触媒を除き、開環重合体水素添加物含有重合体溶液1350部を得た。
【0058】
このETCD開環重合体の水素添加物のシクロヘキサン溶液800部を、活性アルミナ(製品名「ネオビード(登録商標)D」、水澤化学製)4.5部を充填した内径10cm、長さ100cmのカラムに滞留時間100秒になるように通過させて、24時間循環させた。この溶液550部をイソプロパノール1500部中へ撹拌しながら注ぎ、ETCD開環重合体の水素添加物(A)を凝固させた。凝固させた開環重合体水素添加物を濾過して回収し、イソプロパノール300部で2回洗浄した後、回転式減圧乾燥器中で5torr、120℃で48時間乾燥し、TECD開環重合体の水素添加物である重合体(A)78部を得た。このETCD開環重合体水素添加物(A)は、85℃のデカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が0.4dl/g、分子量分布(MWD)が2.1、水素添加率99.8%以上、示差走査熱量分析によるガラス転移点(Tg)が138℃であった。
【0059】
〔製造例2〕
十分に乾燥し、窒素置換した、電磁攪拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、脱水シクロヘキサン1,286部、電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造を持つ化合物として2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパン1.42部を仕込み、50℃で攪拌しながらn−ブチルリチウム溶液(15%含有ヘキサン溶液)1.97部を添加し、そこに、組成が重量比で〔スチレン(St)/イソプレン(Ip)〕=(96.4/3.6)である混合モノマーを連続的に添加して重合を開始した。4時間かけて混合モノマーを合計500部滴下した。滴下終了後、同条件下で30分間重合を行った後、イソプロピルアルコール0.46部を添加して反応を停止させ、スチレン−イソプレンランダム共重合体を合成した。
【0060】
得られた反応溶液358部、シクロヘキサン96.5部、及び安定化ニッケル水素化触媒E22U(日揮化学工業社製;60%ニッケル担持シリカ−アルミナ担体)8部を添加混合し、水素化反応温度を調節するための電熱加熱装置と電磁攪拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに仕込んだ。仕込み終了後、オートクレーブ内部を水素ガスで置換し、攪拌しながら160℃で、オートクレーブ内部の圧力が4.5MPaを保つように水素を供給し、6時間水素化反応を行った。反応終了後、濾過により水素化触媒を除去し、シクロヘキサン1,818部を加えた後、イソプロパノール中に注ぎ、析出した脂環式炭化水素ランダム共重合体を濾過により分離後、減圧乾燥機により乾燥させ脂環式炭化水素ランダム共重合体水素添加物である重合体(B)を得た。このようにして得られた水素化物(B)は、水素添加率が99.8%で、重量平均分子量(Mw)が97000で、分子量分布(Mw/Mn)が1.22で、ガラス転移温度が130℃であった。
【0061】
〔製造例3〕
内容積1リットルの攪拌機付槽型反応器を十分に窒素置換した。トルエン960部、2−ノルボルネン220部、及び1−ヘキセン0.166部を反応器に仕込み、回転数300〜350rpmで攪拌しながら溶媒温度を40℃に昇温した。トルエン23.5部、rac−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド0.044部、メチルアルミノキサン9.0重量%トルエン溶液(東ソー・ファインケム社製:TMAO−200シリーズ)6.22部をガラス容器にて混合して触媒を得た。反応器中の溶媒温度が40℃に達したところで、前記触媒を反応器に添加し、その後直ちに0.08MPaのエチレンガスを液相に導入し、重合を開始した。エチレン噴出し口の位置は、反応器の底と液面との距離(a)と、エチレン噴出し口と液面との距離(b)との比(b)/(a)が0.60である。エチレンガスが消費されると、自動的にエチレンガスが供給されるようにして、エチレンガスの圧力を一定に保った。30分間経過した後、エチレンガスの導入を停止し、脱圧し、次いでメタノール5部を添加し重合反応を停止させた。この溶液をラジオライト#800で濾過し、0.05%の塩酸を含むイソプロパノール中に注いで重合体を析出させた。析出した重合体を分取、洗浄し、100℃で15時間減圧乾燥した。得られたエチレン・2−ノルボルネン共重合体(以下、重合体(C)という)の重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mw=68,000、Mw/Mn=2.2であった。また、ガラス転移温度は130℃であった。
【0062】
実施例1
製造例1で得られた重合体(A)100部と、SiO(製品名「RX300」、日本アエロジル社製、体積平均分散粒径7nm)10重量部とを微量型高せん断成形加工機(製品名「HSE3000mini」、井元製作所社製)で、窒素純度 99.9%、窒素流量 10liter/min.の雰囲気下、スクリュー回転数1500rpm、シリンダー温度230℃で5分間混練し押し出し、ペレット化した樹脂組成物1を得た。 混練の際のせん断速度は1100s-1、樹脂温度は261℃であった。
【0063】
実施例2
実施例1において、スクリュー回転数を3000rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物2を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は270℃であった。
【0064】
実施例3
実施例1において、シリンダー温度を250℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物3を調製した。混練の際のせん断速度は1100sec−1、樹脂温度は270℃であった。
【0065】
実施例4
実施例1において、スクリュー回転数を3000rpm、シリンダー温度を250℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物4を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は280℃であった。
【0066】
実施例5
実施例1において、SiO「RX300」の添加量を30重量部、スクリュー回転数を3000rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物5を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は278℃であった。
【0067】
実施例6
実施例5において、製造例2で得られた重合体(B)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして樹脂組成物6を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は265℃であった。
【0068】
実施例7
実施例5において、製造例3で得られた重合体(C)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして樹脂組成物6を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は264℃であった。
【0069】
実施例8
実施例5において、SiO「RX300」を、下記方法で得られたPTSH表面修飾ジルコニアナノ結晶粒子に変更したこと以外は、実施例5と同様にして樹脂組成物7を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は277℃であった。
【0070】
PTSH表面修飾ジルコニアナノ結晶粒子の製造例を以下に示す。
酸化塩化ジルコニウム8水和物(ZrOCl・8HO、関東化学製)1.29g(4mmol)とp−トルエンスルホン酸(PTSH)1水和物(関東化学製)190mg(1mmol)を、エタノール(和光純薬工業製)20mlとオルトギ酸トリエチル(関東化学製)5mlとの混合溶媒に溶解させた。
この溶液を加圧容器(50mlテフロン(登録商標)内筒付のステンレススチール製)に充填し、オーブン中170℃で40時間加熱したのち、室温に放冷後、加圧容器を解放した。このとき反応溶液は無色透明であり、かつ沈殿は見られなかった。
反応溶液をエバポレーターで減圧にて溶媒除去後、白色の粉末のジルコニアナノ結晶670mgが得られた。
【0071】
前記白色粉末を粉末X線回折(XRD)により分析した結果、結晶形は正方晶酸化ジルコニウム結晶であることが確認された。また、前記白色粉末であるPTSH表面修飾ジルコニアナノ結晶粒子は、赤外分光法(IR)による観察の結果、PTSHがジルコニアナノ粒子表面と化学結合していることが確認された。また、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、直径2〜3nmの微結晶であることが確認された。また、誘導結合プラズマ原子発光(ICP−AES)を用いた元素分析により生成物の組成比を測定したところ、Zr/S=4.06[mol比]であった。
【0072】
比較例1
実施例1において、2軸混練機(東芝機械社製、TEM−35B、スクリュー径37mm、スクリュー回転数300rpm、シリンダー温度230℃)で混練したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物9を調製した。混練の際のせん断速度は240sec−1、樹脂温度は245℃であった。
【0073】
比較例2
実施例1において、スクリュー回転数を1000rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物10を調製した。混練の際のせん断速度は735sec−1、樹脂温度は252℃であった。
【0074】
比較例3
実施例2において、SiO「RX300」の添加量を50重量部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物11を調製した。混練の際のせん断速度は2200sec−1、樹脂温度は265℃であった。
【0075】
【表1】

【0076】
この結果から、以下のことがわかる。
剪断速度が1000sec−1以下であり、溶融状態の樹脂の温度が、Tg+120℃≦樹脂の温度≦Tg+145℃の範囲以外の場合、透過率が低く、線膨張係数が高く、成形品の割れが多くなる。(比較例1、2)。
無機微粒子の配合量が多くなると、透過率が低く、成形品の割れが多くなる。(比較例3)。
本発明の樹脂組成物は、透過率が高く、線膨張係数が低く、成形性に優れる。(実施例1〜8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高剪断成形加工機を用いて、シリンダー内で、溶融状態の樹脂を、無機微粒子と混練し、剪断成形加工することにより、得られる無機微粒子が分散された樹脂組成物であって、
前記樹脂100重量部に対して、前記無機微粒子が5重量部以上40重量部以下であり、
前記樹脂が、非晶性脂環構造含有重合体であり、
前記高剪断成形加工機の剪断速度が1000〜4400sec−1であり、
前記溶融状態の樹脂の温度が、Tg+120℃≦樹脂の温度≦Tg+145℃の範囲である(ここでTgは、非晶性脂環構造含有重合体のガラス転移温度を意味する)、
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機微粒子が、化学修飾基を有するシラン化合物でシリル化処理された無機酸化物粒子である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を射出成形してなる光学用成形体。

【公開番号】特開2012−251093(P2012−251093A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125895(P2011−125895)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】