説明

樹脂組成物及び成形品

【課題】色相、滞留熱安定性、耐候性に優れ、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形等に適した溶融特性を有する樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換法により得られる粘度平均分子量16,000以上の芳香族ポリカーボネートであって、その主鎖中に特定の分岐構造単位を特定量含有することを特徴とする分岐化芳香族ポリカーボネート、熱安定剤及びまたは紫外線吸収剤からなる樹脂組成物及びその成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。詳しくは、エステル交換法により製造され、色相、溶融特性、耐熱性、耐候性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させ芳香族ポリカーボネートを製造する、いわゆるエステル交換法(あるいは溶融法とも称す)は、ホスゲン法(界面重合法)に比べて、工程が比較的単純であり、操作、コスト面で優位性が発揮できるだけでなく、毒性の強いホスゲンや塩化メチレン等のハロゲン系溶剤を使用しないという点において、環境保護の面からも最近見直されている。
【0003】
しかしながら、エステル交換法は、ホスゲン法に比べ、物性の点で、いくつかの欠点を有しているため、大規模な工業プロセスとしての採用は未だに少ないのが現状である。その代表例として、エステル交換法で得られるポリカーボネートは、ホスゲン法ポリカーボネートに比べ、分岐が生成しやすく、流動性や成形性が低下すること、及び、製品色相や熱安定性、耐候性に劣ること等が大きな問題点であった。
【0004】
これらの問題点を解決するために、いくつかの提案がなされている。例えば、原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物中の、異性体や誘導体の含有量を特定範囲内にすることにより、色相、成形時の色相安定性及び熱安定性に優れた芳香族ポリカーボネートを得る方法(特許文献1〜3)、また、特定の触媒や反応条件下、主鎖中のフェノキシ安息香酸含有量を特定量以下にすることにより、分岐の少ないポリカーボネートを得る方法(特許文献4〜6)、さらに、p−ヒドロキシアセトフェノン含有量を特定量以下にすることにより、着色が少ないポリカーボネートを得る方法(特許文献7)等が挙げられる。これらの方法は、分岐の生成を低減させ、色相を改良するという、従来の問題点をそれぞれ解決するために提案された方法である。
【0005】
一方、一般的に用いられている芳香族ポリカーボネートは、直鎖状の分子構造を有しており、このような分子構造を有するポリカーボネートは、溶融成形時に溶融弾性、溶融強度等に劣ることがあり、向上が望まれていた。現に、このようなポリカーボネートの溶融弾性、溶融強度等の溶融特性を向上させる方法として、従来から界面重合法で、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」又は「BPA」と略称する。)とともに、分岐化剤として、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン(THPE)、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の多官能化合物を使用して、ポリカーボネートを分岐化させる方法が知られている(特許文献8〜11)。
【0006】
しかしながら、芳香族ポリカーボネートは、直鎖状構造であっても溶融粘度が高いうえに、多官能化合物の共重合により分岐構造が導入されたポリカーボネートは、さらに、溶融粘度が高くなり、流動性が低下する。このように溶融粘度が高く、流動性に劣るポリカーボネートは、成形条件が限定されたり、また成形ムラが生じたりして、均一な成形体を安定して得ることが困難であった。これらの問題点を解決するために、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とを用いた溶融重合法において、種々の試みがなされているが、分岐化剤が高温で分解等を起こして、分岐の効果が現れず、さらに着色を引き起こしたり、満足のいくものが得られていなかった(特許文献12〜15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−104747号公報
【特許文献2】特開平8−104748号公報
【特許文献3】特開平8−277236号公報
【特許文献4】特開平7−18069号公報
【特許文献5】特開平8−109251号公報
【特許文献6】特開平9−278877号公報
【特許文献7】特開平8−27263号公報
【特許文献8】特公昭44−17149号公報
【特許文献9】特公昭47−2918号公報
【特許文献10】特開平2−55725号公報
【特許文献11】特開平4−89824号公報
【特許文献12】特開平4−89824号公報
【特許文献13】特開平6−136112号公報
【特許文献14】特公平7−37517号公報
【特許文献15】特公平7−116285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、その目的は、色相、滞留熱安定性、耐候性に優れ、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形等に適した溶融特性を有する樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意検討したところ、主鎖中に特定の構造単位を特定量含有する分岐化芳香族ポリカーボネートに熱安定剤及び/又は紫外線吸収剤を配合した樹脂組成物は、高荷重下での流動性が改良され、さらに色相や滞留熱安定性、耐候性が優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物のエステル交換により得られる粘度平均分子量16,000以上の芳香族ポリカーボネートであって、その主鎖中に含まれる下記一般式(1)で表される構造単位の量が3,000〜10,000重量ppmの範囲内にあり、且つ、その主鎖中に含まれる下記一般式(2)又は(3)で表される構造単位の量がそれぞれ30〜5,000重量ppmの範囲内にある分岐化芳香族ポリカーボネート(A)に熱安定剤(B)及び/又は紫外線吸収剤(C)を配合してなる樹脂組成物及び該樹脂組成物から成形された成形品に存する。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)、
【0012】
【化2】

【0013】
(式(2)及び式(3)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、色相、滞留熱安定性、耐候性に優れ、さらに高荷重での流動性が改良されているので、射出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、ブロー成形、押出成形、熱成形、回転成形、特に高融体強度及び押出物の優れた形状保持特性を有する材料を必要とするブロー成形による中空成形品及び大型パネル、異型押出しによるツインウオール等の用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明に使用されるその主鎖中に特定の構造単位を特定量含有する芳香族ポリカーボネートの製造法は特に限定されるものではないが、例えば、原料として炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とを用い、エステル交換触媒の存在下、溶融重縮合させることにより得ることができる。
炭酸ジエステル:
本発明で使用される炭酸ジエステルは下記の一般式(7)で表される。
【0016】
【化3】

【0017】
(式(7)中、A及びA'は、炭素数1〜18の脂肪族基あるいは置換脂肪族基、又は芳香族基あるいは置換芳香族基であり、A及びA'は同一であっても異なっていてもよい。)。上記一般式(7)で表される炭酸ジエステルは、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは単独、あるいは2種以上を混合してもよい。
芳香族ジヒドロキシ化合物:
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記一般式(8)で表される化合物を主成分とする。
【0018】
【化4】

【0019】
(式(8)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【0020】
上記式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノール類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が例示されるが、特に好ましくは、ビスフェノールAが挙げられる。これらのジヒドロキシアリール化合物は、単独でも2種以上の混合物でもよい。なお、本発明に係わる主鎖に特定の分岐構造を有する芳香族ポリカーボネートを得るためには、後述するように、原料の上記芳香族ポリヒドロキシ化合物中に特定の異性体を特定量含有しているものを使用することが好ましい。
【0021】
本発明で使用する分岐化芳香族ポリカーボネートを製造するには、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAが用いられ、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートが用いるのがこのましい。この場合、ジフェニルカーボネートはビスフェノールA1モルに対して、1.01〜1.30モル、好ましくは1.02〜1.20の量で用いられることが好ましい。
【0022】
エステル交換触媒:
炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応は、通常、触媒の存在下行われる。エステル交換触媒としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が単独で使用されることが特に好ましい。
【0023】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
【0024】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0025】
塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0026】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0027】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0028】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0029】
エステル交換触媒は、通常、ビスフェノールA1モルに対して、1×10-8〜1×10-5モルの範囲内で用いられ、好ましくは1×10-7〜8×10-6の範囲内であり、特に好ましく3×10-7〜2×10-6の範囲内である。上記下限量より少なければ、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマーの色相が悪化し、ゲルの発生による異物量も増大してしまう。エステル交換反応は、溶媒の不在下、原料炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物を溶融状で反応させる。一般的には二段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第一段目の反応は140〜260℃、好ましくは180〜240℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間反応させる。次第に反応系の圧力を下げながら反応温度を高め、最終的には133Pa以下の減圧下、240〜320℃の温度で重縮合反応を行う。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でも良く、使用する装置は、槽型、管型、あるいは塔型のいずれの形式であってもよい。
【0030】
分岐化芳香族ポリカーボネート:
本発明で使用する分岐化芳香族ポリカーボネートは、粘度平均分子量16,000以上であることが必要である。粘度平均分子量が16,000未満のものは、耐衝撃性等の機械的強度が低下するので好ましくない。機械的強度の点で好ましい粘度平均分子量は、16,000〜60,000の範囲内にあり、特に18,000〜50,000の範囲内が好適である。また、本発明で使用する分岐化芳香族ポリカーボネートの、主鎖中に含まれる下記一般式(1)で表される構造単位の量は、3,000〜10,000重量ppmの範囲内にあることが必要であり、好ましくは3,100〜9,000重量ppm、さらに好ましくは3,200〜8,000重量ppmの範囲内にある。
【0031】
【化5】

【0032】
(式(1)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【0033】
一般式(1)で表される構造単位の量が10,000重量ppmを超えると、製造された芳香族ポリカーボネートのゲルを生成しやすくなり好ましくない上、色相も悪化する。他方、3,000重量ppm未満であると、本発明の目的とする分岐化による溶融特性は得られない。さらに、本発明で使用する分岐化芳香族ポリカーボネートは、主鎖中の下記一般式(2)、(3)で表される構造単位の量が、それぞれ、30〜5,000重量ppmの範囲内にあることが必要であり、さらに好ましくは、それぞれ、50〜4,000重量ppmの範囲内にある。
【0034】
【化6】

【0035】
(式(2)及び式(3)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【0036】
ここで、一般式(2)及び(3)で表される構造単位の量が5,000重量ppmを超えると、分岐化が進み過ぎ、ゲル化し、ポリマーの成形が困難になり好ましくない上、色相も悪化する。他方、30重量ppm未満であると、高荷重での流動性が上がらず、目的とする分岐化による溶融特性は得られない。また、本発明に使用する分岐化芳香族ポリカーボネートにおいては、一般に、主鎖中には下記一般式(4)及び(5)で表される構造単位も存在する。これらの合計量は、10〜3,000重量ppmの範囲内にあることが好ましく、30〜2,500重量ppmの範囲がさらに好ましい。
【0037】
【化7】

【0038】
(式(4)及び式(5)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【0039】
ここで、一般式(4)及び(5)で表される構造単位の合計量が5,000重量ppmを超えると、分岐化が進み過ぎ、ゲル化し、ポリマーの成形が困難となり好ましくない上、色相も悪化する。他方、30重量ppm未満であると、分岐化による溶融特性は得られない。
【0040】
これらの異種構造単位の量は、製造された芳香族ポリカーボネートをアルカリ加水分解後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)等を用いて分析することにより容易に求められるが、上記一般式(1)〜(5)で表される構造単位は、該アルカリ加水分解後の、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等では、それぞれ下記一般式(9)〜(13)の化合物として検知される。
【0041】
【化8】

【0042】
(式(9)〜(13)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。なお、前記一般式(1)〜(5)で表される構造単位は、エステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造過程で、主に転移反応等に伴い副生する、異種構造によるものと推定される。
【0043】
芳香族ジヒドロキシ化合物中の異性体:
前記一般式(1)〜(5)で表される構造単位を特定量含有する分岐化芳香族ポリカーボネートを得るためには、原料芳香族ジヒドロキシ化合物が、特定量の異性体を含有することが好ましい。すなわち、下記一般式(6)で表される2,4'−ビスフェノール化合物が適量存在する前記一般式(8)で表される4,4'−ビスフェノール化合物を原料として使用するのがよい。
【0044】
【化9】

【0045】
(式(6)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。一般式(6)で表される2,4'−ビスフェノール化合物の具体例としては、例えば、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−1,1−メタン、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−1,1−エタン、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−オクタン、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−1,1−シクロペンタン、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−1,1−シクロヘキサン、2,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、2,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0046】
一般式(6)で示される2,4'−ビスフェノール化合物は、一般式(8)の芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する際に副生するので、副生した該化合物が精製の際に完全除去されずに適量残存する一般式(8)の芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として使用すれば良い。残存させるべき2,4'−ビスフェノール化合物は、原料4,4'−ビスフェノール化合物の種類によっても相違するが、ビスフェノールAの場合は、2,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(以下、「2,4'−ビスフェノールA」又は「2,4'−BPA」と略称する。)が好ましい。
【0047】
一般式(8)中の一般式(6)の2,4'−ビスフェノール化合物の適量は、製品である分岐化芳香族ポリカーボネートの、主鎖中に含まれる式(1)〜(3)で表される構造単位の含有量の目標値によっても相違するが、経験的には、2,4'−ビスフェノール化合物の量が、通常4,4'−ビスフェノール化合物に対して、100〜10,000重量ppmの範囲内に、好ましくは120〜9,000重量ppmの範囲内に設定するのがよい。この範囲より少なすぎると、分岐度が不十分となり、高荷重での流動性が上がらず、一方、多すぎると、分岐化が進み過ぎ、ゲル化し、ポリマーの成形が困難となるので好ましくない。
【0048】
前記一般式(6)で表される2,4'−ビスフェノール化合物を含有する前記一般式(8)で表される4,4−ビスフェノール化合物の製造法の1例として、一般式(8)の化合物がBPAの場合について説明する。例えば、フェノールとアセトンとを強酸性イオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で反応させて、ビスフェノールAを製造する際には、副生物としての2,4'−ビスフェノールAを含む反応混合物が得られる。この反応混合物に過剰のフェノールを加え、これを溶解させた後冷却して、ビスフェノールAとフェノールとのモル比1:1のアダクト(付加物結晶)として晶析させる。析出したアダクト結晶は、濾過、遠心分離等により母液と分離し、残存させるべき2,4'−ビスフェノール化合物見合いで、さらに、フェノール等に再溶解後、晶析、分離の操作を繰り返して、目的の純度のビスフェノールAを得ることができる。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、分岐化芳香族ポリカーボネート(A)と熱安定剤(B)及び、又は紫外線吸収剤(C)が配合される。
【0050】
熱安定剤:
本発明に使用される熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類及びリン化合物から選ばれた少なくとも1種の酸化防止剤が好ましく用いられるが、その他、例えば、イオウ化合物、エポキシ化合物、ヒンダードアミン化合物等を用いても良い。ヒンダードフェノール類としては、下記一般式(14)で示される化合物であることが好ましい。
【0051】
【化10】

【0052】
(式(14)中、R1,R2は、炭素数1〜10の炭化水素基であり、それぞれ同一でも異なっていても良い。Yは、エステル基、エーテル基、アミド基から選ばれた官能基及び/又はリン原子を含有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、Zは、酸素原子及び/又は窒素原子を含有してもよい炭素数1〜6の炭化水素基、イオウ原子又は単結合を示す。gは、1〜4の整数を示す。)
【0053】
具体的には、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。
【0054】
これらの中で、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3',5'−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンが好ましい。
【0055】
熱安定剤として使用されるリン化合物は、3価のリン化合物であることが好ましく、特に亜リン酸エステル中の少なくとも1つのエステルがフェノール及び/又は炭素数1〜25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化された亜リン酸エステル、又はテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4'−ビフェニレン−ジホスホナイトから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。亜リン酸エステルの具体例としては、4,4'−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジトリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリスノニルフェニルホスファイト、ジノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2'−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フッ化ホスファイト、2,2'−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、モノノニルフェノール及びジノニルフェノールからなる亜リン酸エステル、さらに前記一般式(14)に示したヒンダードフェノールを有する亜リン酸エステル等を挙げることができる。
【0056】
本発明組成物に使用される熱安定剤のリン化合物として、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4'−ビフェニレン−ジホスホナイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2'−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが好ましい。
【0057】
熱安定剤の配合量は、分岐化芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対して0.001〜1重量部であり、好ましくは0.4重量部以下である。1重量部を超えると耐加水分解性が悪化する等の問題がある。また、熱安定剤を併用して使用する場合の配合比率は任意に決定することができ、また、いずれを使用するか、又は併用するかは、ポリカーボネートの用途等によって適宜決定される。例えば、リン化合物は、一般にポリカーボネートを成形する際の高温下における滞留安定性、及び成形品の使用時の耐熱安定性に効果が高く、フェノール化合物は、一般に耐熱老化性等のポリカーボネートを成形品とした後の使用時の耐熱安定性に効果が高い。また、リン化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が高まる。
【0058】
紫外線吸収剤:
本発明組成物に使用される紫外線吸収剤(C)としては、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物等の有機紫外線吸収剤が挙げられる。本発明では、これらのうち有機紫外線吸収剤が好ましく、特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2'−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
ベンゾトリアゾール化合物としては、下記一般式(15)で示される化合物及びメチル−3−〔3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール縮合物が好ましい。
【0060】
【化11】

【0061】
(式(15)中、R3〜R6は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、Q1及びQ2は、水素原子、炭素数1〜40の窒素原子及び/又は酸素原子を含有してもよい炭化水素基を示す。)
【0062】
前記一般式(15)で示されるベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3',5'−ジ−t−ブチル−2'−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、[メチル−3−〔3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物、さらには下記式(16)で示す化合物等を挙げることができる。
【0063】
【化12】

【0064】
これらの中で、特に好ましいものは、2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、上記式(16)の化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシド−ジメチルエステルである。
【0065】
紫外線吸収剤の配合量は、分岐化芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対して、0.01〜5重量部であり、好ましくは1重量部以下である。5重量部を超えると射出成形時の金型汚染等の問題がある。該紫外線吸収剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
【0066】
樹脂組成物の製法:
分岐化芳香族ポリカーボネート(A)への熱安定剤(B)、紫外線吸収剤(C)の添加時期、添加方法については特に制限は無く、公知の種々の方法を採用出来る。例えば添加時期としては、(1)重合反応の途中、(2)重合反応終了時又は(3)重合に使用した触媒を触媒失活剤で失活後、ペレット化する前、さらにはポリカーボネート等の混練途中等のポリカーボネートが溶融した状態で添加することができるが、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネートとブレンド後、押出機等で混練することも可能である。しかし、(1)重合反応の途中、(2)重合反応終了時又は(3)重合に使用した触媒を触媒失活剤で失活後、ペレット化する前のいずれかに添加することが、これら添加剤の分解を抑制し、着色抑制の観点から好ましい。
【0067】
添加方法としては、熱安定剤、紫外線吸収剤を直接ポリカーボネートに混合又は混練することもできるが、適当な溶媒で溶解し、又は少量のポリカーボネート又は他の樹脂等で作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。また、これらの化合物を併用して使用する場合は、これらを別々にポリカーボネートに添加しても、同時に添加してもよい。
【0068】
本発明は、さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、無機系充填剤等の添加剤を添加した、所望の物性を有する樹脂組成物をも対象とする。
【0069】
本発明の樹脂組成物を用いて成形品を得る方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、ブロー成形、押出成形、熱成形、回転成形等の何れをも適用出来る。特に高融体強度及び押出物の優れた形状保持特性を有する材料を必要とするブロー成形による中空成形品及び大型パネル、異型押出しによるツインウオール等の用途に好適である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で、使用されたビスフェノールA、芳香族ポリカーボネートの分析及び樹脂組成物の測定と評価は次の方法により行った。
(1)ビスフェノールA中の2,4'−ビスフェノールA量:
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し、検出波長280nmで測定を行った。含有量は、2,4'−ビスフェノールAの検量線より求めた。
【0071】
(2)前記一般式(1)〜(5)で表される構造単位の含有量:
芳香族ポリカーボネート(熱安定剤、紫外線吸収剤未添加)1gを、塩化メチレン100mlに溶解した後、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液18ml及びメタノール80mlを加え、さらに純水25mlを添加した後、室温で2時間攪拌して完全に加水分解した。その後、1規定塩酸を加えて中和し、塩化メチレン層を分離して加水分解物を得た。加水分解物0.05gをクロロホルム10mlに溶解し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し測定を行った。前記式(1)〜(5)で表される構造単位は、前記式(9)〜(13)においてXが2,2−プロピリデン基の化合物として検知されるので、標品と比較して同定した。また、各構造単位の含有量は、ビスフェノールAの検量線を作成し、ビスフェノールAのピーク面積に対する各々のピーク面積より算出した。検出波長は280nmを用いた。
【0072】
(3)粘度平均分子量:
ウベローデ粘度計を用いて、芳香族ポリカーボネート(熱安定剤、紫外線吸収剤未添加)の塩化メチレン中、20℃における極限粘度[η]を測定し、以下の式より求めた。
【0073】
[数1]
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
【0074】
(4)色相(YI)及び滞留熱安定性(耐熱色相YI):
芳香族ポリカーボネート組成物から射出成形機を用い以下の条件で成形品を得た。YI測定用には、280℃での、また滞留熱安定性測定用には、360℃、10分間滞留で5ショット目の100mm×100mm×3mm厚のプレスシートについて、カラーテスター(スガ試験機株式会社製SC−1−CH)で、色の絶対値である三刺激値XYZを測定し、次の関係式により黄色度の指標であるYI値を計算した。
【0075】
[数2]
YI=(100/Y)×(1.28×X−1.06×Z)
このYI値が大きいほど着色していることを示す。
【0076】
(5)MI及び分岐度(MIR):
芳香族ポリカーボネート(熱安定剤、紫外線吸収剤未添加)について、JISK7210のメルトマスフローレイト(MFR)の試験方法に倣い、260℃における21.6kgと2.16kgの荷重によって10分間に押し出されたサンプル重量(g)を測定し、MI(21.6kg)及びMI(2.16kg)とした。この値が大きいほど流動性が大きいことを示す。また、上記のようにして測定した、MI(21.6kg)/MI(2.16kg)比で分岐度(MIR)を表す。この値が大きいほど分岐化の度合いが大きいことを示す。
【0077】
(6)ストランドのドローダウン性:
120℃、5時間乾燥した樹脂組成物のペレットを、キャピログラフ(東洋精機製)に詰め、280℃、10mm/minの速度でL=5mm、D=2mmφの穴から押し出し、垂れ下がるストランドをカットし、ストランドの長さを横軸、重量を縦軸とした特性曲線を求め、この曲線に原点を通る接線を引き、ストランド長L(200mm)に対する測定曲線から求まる重量W1と、接線との交点W2から、ドローダウン率Rd(%)を次式からから算出した。
【0078】
[数3]
Rd(%)=〔(W2−W1)/W2〕×100
【0079】
(7)耐候性:
上記(4)で得たYI測定用の厚さ3mmの射出成形品を、キセノンウエザーメーターを用いて、ブラックパネル温度63℃の条件で500MJ/m2処理し、上記(4)の方法により処理後のYIを測定した。
【0080】
(8)真空成形性:
樹脂組成物から400mm×400mm×3mm厚シートを成形し、小型真空成形機を用い、シートの表面温度を210℃とし、上底250mm、下底300mm、高さ100mmの凸型台形の成形型を用いて、真空成形を行い、成形品を得た。この真空成形品の肉厚をマイクロメーターで測定し、最大肉厚−最小肉厚=肉厚差とした。
【0081】
(9)真空成形時のドローダウン性:
真空成形機の型枠に、(10)で用いたと同様の400mm×400mm×3mm厚シートを取り付け、シートの表面温度を210℃とし、目視によりドローダウン性を次の3段階に評価した。
○:ドローダウンが非常に小さい
△:ドローダウンが小さい
×:ドローダウンが大きい
【0082】
実施例1:
常法により、フェノールとアセトンとを強酸性イオン交換樹脂の存在下で反応させ、得られたビスフェノールA反応混合物に過剰のフェノールを加え、これを溶解させた後冷却して、ビスフェノールAとフェノールとのアダクト(付加物結晶)を晶析させた。析出したアダクトは、濾過により母液と分離し、さらに、フェノールに溶解、晶析、分離を繰り返し、2,4'−ビスフェノールAを200重量ppm含有するビスフェノールAを得た。ジフェニルカーボネートと得られたビスフェノールAとを、窒素ガス雰囲気下、一定のモル比(DPC/BPA=1.040)に混合調製した溶融液を、88.7kg/時の流量で、原料導入管を介して、220℃、1.33×104Paに制御した容量100Lの第1竪型撹拌重合槽内に連続供給した。第1重合槽での、平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。また、上記混合物の供給を開始すると同時に、触媒として、水酸化ナトリウム水溶液をビスフェノールA1モルに対し、1.0×10-6モルの割合で連続供給した。
【0083】
槽底より排出された重合液は、引き続き、第2、第3の容量100Lの竪型攪拌重合槽及び第4の容量150Lの横型重合槽に逐次連続供給され、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出された。第2〜第4重合槽での反応条件は、それぞれ第2重合槽(240℃、2.00×103Pa、75rpm)、第3重合槽(270℃、66.7Pa、75rpm)、第4重合槽(275℃、26.7Pa、5rpm)で、反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度に条件設定した。また、反応の間は、第2〜第4重合槽の平均滞留時間が60分となるように液面レベルの制御を行い、また、同時に副生するフェノールの留去も行った。次に、溶融状態のままで、このポリマーを2軸押出機に送入し、第1供給口からp−トルエンスルホン酸ブチル(触媒として使用した炭酸セシウムに対して4倍モル量)を定量供給して混練し、第2供給口から表−1に示す熱安定剤と紫外線吸収剤を所定量供給して混練し、ダイを通してストランド状として、カッターで切断してペレットを得た。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量、前記式(1)〜(5)で表される構造単位の含有量、及びポリカーボネート樹脂組成物の色相(YI)、滞留安定性、MI及び分岐度(MIR)、対候性、真空成形品の性能を測定した結果を表−1に示した。
【0084】
実施例2〜3、比較例1:
実施例1において、表−1又は表−2に記載のビスフェノールAを使用した以外は実施例1と同様の方法で重合を行い、芳香族ポリカーボネートを製造後、熱安定剤と紫外線吸収剤を混練し、樹脂組成物を得た。結果を表−1に示した。
【0085】
比較例2:
比較例1において、分岐剤として1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン(THPE)をビスフェノールAに対して、0.3モル%添加した以外は比較例1と同様の方法で重合を行い、芳香族ポリカーボネートを製造後、熱安定剤と紫外線吸収剤を混練し、樹脂組成物を得た。結果を表−1に示した。
【0086】
比較例3〜5:
実施例1〜3と同様にして芳香族ポリカーボネートを製造後、熱安定剤と紫外線吸収剤を添加せずにペレットを得た。結果を表−1に示した。
【0087】
【表1】

【0088】
*1:表−1の熱安定剤は以下を使用した。
安定剤1:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名;アデカスタブ2112,旭電化(株)製)
安定剤2:2,2'−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名;HP10,旭電化(株)製)
安定剤3:ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(商品名;DOVERPHOS S9228,DOVER CHEMICAL社製)
安定剤4:n−オクタデシル−3−(3',5'−ジーt−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名;IRGANOX1076、チバスペシャリティケミカルズ製)
安定剤5:ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名;IRGANOX1010、チバスペシャリティケミカルズ製)
【0089】
*2;表−1の紫外線吸収剤は以下を使用した。
UVA:2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名;シーソーブ709,シプロ化成(株)製)
UVB:2−[2−ヒドロキシー3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(商品名;TINUVIN234,チバスペシャリティケミカルズ製)
UVC:[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシド−ジメチルエステエル(商品名;SanduvorPR-25、クラリアント社製)
*3;分岐化芳香族ポリカーボネート100重量部に対する重量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物のエステル交換により得られる粘度平均分子量16,000以上の芳香族ポリカーボネートであって、その主鎖中に含まれる下記一般式(1)で表される構造単位の量が3,000〜10,000重量ppmの範囲内にあり、且つ、その主鎖中に含まれる下記一般式(2)及び(3)で表される構造単位の量がそれぞれ30〜5,000重量ppmの範囲内にある分岐化芳香族ポリカーボネート(A)に、熱安定剤(B)及び/又は紫外線吸収剤(C)を配合してなる樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)、
【化2】

(式(2)及び式(3)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【請求項2】
前記分岐化芳香族ポリカーボネート(A)の主鎖中に含まれる下記一般式(4)又は(5)で表される構造単位の合計量が10〜3,000重量ppmの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【化3】

(式(4)及び式(5)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)。
【請求項3】
前記分岐化芳香族ポリカーボネート(A)が、下記一般式(6)で示される2,4'−ビスフェノール化合物を100〜10,000重量ppm含有する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換させて製造したものであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【化4】

(式(6)中、Xは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−からなる群から選ばれる2価の基を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の樹脂組成物から成形された成形品。

【公開番号】特開2009−235425(P2009−235425A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173424(P2009−173424)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【分割の表示】特願2001−316672(P2001−316672)の分割
【原出願日】平成13年10月15日(2001.10.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】