説明

樹脂組成物及び発泡絶縁電線

【課題】高発泡化した際の発泡度変動に伴うインピーダンス不整合によるS/N比の悪化を防止するため、発泡度安定性に優れた樹脂組成物及びこれを用いた発泡絶縁電線を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂からなる樹脂組成物において、該樹脂組成物の粘度が、測定温度170℃、測定周波数1Hzの測定条件で500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲にあり、かつ、測定温度150℃、歪速度3.0s-1の測定条件で測定される一軸伸張粘度における歪硬化率が、700%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の外周に発泡絶縁体を押出形成するための樹脂組成物及びこれを用いた発泡絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される小型通信機器の発達は目覚しいものがあり、これらの通信に使用されるアンテナや電線・ケーブルなど装置・部品類の高性能化も強く求められている。
【0003】
通信機器のアンテナに使用される電線・ケーブルは、主に伝送損失(伝送ロス)の低減が求められている。伝送損失に大きく作用する要因は、主に電線・ケーブル(導体)の太さと絶縁体の電気特性である。これを改善することで伝送ロスの低減が可能になれば、同一の伝送ロスでも、より細径の導体を使用でき大幅な資源の節約、低コスト化が達成できる。
【0004】
絶縁体の電気特性の中で、伝送ロスに影響を与える要因は誘電正接と誘電率であり、現在主流の方法として、ポリエチレンを発泡させることでこれらの低減を図っている。
【0005】
発泡絶縁電線の製造方法には大別して以下の2種類の製造方法がある。
【0006】
(物理発泡法)
一つは押出機の中で溶融した樹脂中に高圧のガスを注入する方法で、物理発泡法と称される。概略手順は以下の通りである。
1)押出機中に樹脂を投入し、加熱混練を行って溶融させる。
2)樹脂の流路の途中から高圧のガスを注入し溶解させる。
3)導体上にガスの溶解した樹脂を被覆する。
4)導体の移動に伴い、被覆した樹脂を押出機外部に移動させる。
5)押出機内部での圧力が開放され、樹脂中に溶解していたガスが気泡となる。
6)気泡が過剰に成長して絶縁体が不均一になる前に冷却し、樹脂を固化させる。
【0007】
(化学発泡法)
もう一つは、樹脂と共に化学的な発泡剤を投入する方法で、化学発泡法と呼ばれる。概略手順は以下の通りである。
1)押出機中に樹脂と発泡剤を投入する。発泡剤は単独でも樹脂中に混練していてもよい。
2)押出機中で発泡剤の分解温度以上に加熱する。その際押出機中で発泡しないよう樹脂の圧力が高い状態を維持し、発生したガスを樹脂中に溶解させる。
3)導体上にガスの溶解した樹脂を被覆する。
4)導体の移動に伴い、被覆した樹脂を押出機外部に移動させる。
5)押出機内部での圧力が開放され、樹脂中に溶解していたガスが気泡となる。
6)気泡が過剰に成長して絶縁体が不均一になる前に冷却し、樹脂を固化させる。
【0008】
物理発泡方式は、化学発泡方式に比べ以下の利点がある。
(1)高い発泡度を得やすい。
(2)化学的な発泡剤を使用しないため、発泡剤や発泡剤の残渣による絶縁体の電気特性(誘電率や誘電正接)の低下が少ない。
【0009】
以上の理由から、高性能発泡絶縁電線の製造には物理発泡方式が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−339099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、当該発泡方式による発泡絶縁電線には、気泡成長が不安定になるという問題がある。気泡成長は、気泡内のガス圧を推進力としているため、周囲の材料粘度が高い場合は遅く、ゼロせん断粘度が低い場合は速くなることが知られている。気泡成長が早すぎると、気泡の成長にバラつきが生じたり、異常成長が起きやすくなり、外径変動、偏心(偏肉)、発泡度変動、巣の発生の原因となる。
【0012】
このような変動は、絶縁体の誘電正接、誘電率の変動となり、通信ケーブル中の局所的なインピーダンス変動を起こして反射波によるS/N比の低下などの原因となる問題があった。誘電率、特性インピーダンスおよび発泡度の計算式を下記に示す。このように、発泡度や外径に変動があると特性インピーダンスも変動することがわかる。
【0013】
【数1】

【0014】
一方、高発泡を実現するには大量のガスを必要とする。押出機中で気泡が発生すると著しい発泡度変動や外径変動が起きるため、押出機出口までは樹脂圧力を高いまま維持し、ガスが樹脂中に溶解した状態を保つ必要がある。そのため高発泡の絶縁体(ガスを含んだ溶融樹脂)を押出す際は樹脂圧が高くなり、押出前後の圧力差が大きくなることから気泡成長が急速に進む傾向がある。
【0015】
押出時の樹脂圧上昇は、高粘度材料を用いた場合も起こることが知られている。高発泡の絶縁体を形成する場合は、気泡成長を緩和するための高粘度樹脂の使用が、ガス量の増加や樹脂圧力の上昇を招き、最終的には急速な気泡成長に伴う異常成長や導体と樹脂の剥離など、外径や発泡度の変動が大きくなる問題があった。
【0016】
この問題への対策のひとつとして、発泡核剤を極端に微粒子化して用いる方法(特許文献1)などが提案されている。これは発泡起点となる微粒子の核剤を使用することで気泡を大量に発生させ、個々の気泡に流入するガスを減らすことで、気泡の異常成長防止を狙っている。しかし、この方法も大量のガスを高圧で注入するという原理的な違いはなく、上記の問題を完全に解決するには至らなかった。
【0017】
本発明は、掛かる点に関して成されたものであり、高発泡化した際の発泡度変動に伴うインピーダンス不整合によるS/N比の悪化を防止するため、発泡度安定性に優れた樹脂組成物及びこれを用いた発泡絶縁電線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明は、ポリオレフィン樹脂からなる樹脂組成物において、該樹脂組成物の粘度が、測定温度170℃、測定周波数1Hzの測定条件で500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲にあり、かつ、測定温度150℃、歪速度3.0s-1の測定条件で測定される一軸伸張粘度における歪硬化率が、700%以上である。
【0019】
前記樹脂組成物を形成するポリオレフィンが、ポリエチレンまたはポリプロピレンの単体又は混合物であってもよい。
【0020】
前記樹脂組成物の一部又は全部に使用しているポリプロピレンが、ホモポリマー(単独重合体)と、共重合体であるランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれか1種又は複数種の混合物であってもよい。
【0021】
前記樹脂組成物の一部又は全部に使用しているポリエチレンが、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれか1種又は複数種の混合物であってもよい。
【0022】
また、本発明は、導体の外周に発泡絶縁体が押出形成されてなる発泡絶縁電線において、前記導体の直径が0.9〜2.0mm、前記発泡絶縁体の外径が2mm以上であり、前記発泡絶縁体を形成する樹脂組成物の粘度が、測定温度170℃、測定周波数1Hzの測定条件で500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲にあり、かつ、測定温度150℃、歪速度3.0s-1の測定条件で測定される一軸伸張粘度における歪硬化率が、700%以上である。
【0023】
前記発泡絶縁体を形成するポリオレフィンが、ポリエチレンまたはポリプロピレンの単体又は混合物であってもよい。
【0024】
前記発泡絶縁体の一部又は全部に使用しているポリプロピレンが、ホモポリマー(単独重合体)と、共重合体であるランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれか1種又は複数種の混合物であってもよい。
【0025】
前記発泡絶縁体の一部又は全部に使用しているポリエチレンが、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれか1種又は複数種の混合物であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高発泡化した際の発泡度変動に伴うインピーダンス不整合によるS/N比の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発泡絶縁電線の横断面図である。
【図2】本発明で使用する樹脂組成物の「歪硬化」、「歪硬化率」を説明する図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例における樹脂組成物の粘度と歪硬化率の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
先ず、本実施の形態に係る樹脂組成物を発泡絶縁体に用いた発泡絶縁電線を説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に係る発泡絶縁電線の横断面図である。
【0031】
図1に示すように、発泡絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周に被覆された発泡絶縁体4とからなる。発泡絶縁体4には多数の気泡3が形成されている。
【0032】
導体2としては銅を用いる。導体2の直径は0.9〜2.0mmである。導体2は、単線でもより線でも良い。なお、より線の場合は単線に比べて導体断面積が小さくなるため、同一断面積に換算した単線径に読替えるものとする。
【0033】
発泡絶縁体4の形成には、物理発泡方式或いは化学発泡方式が用いられ、導体2の外周に樹脂組成物が押出被覆され、発泡し、発泡絶縁体が形成される。発泡絶縁体4の外径は2mm以上である。
【0034】
このような導体2の直径が0.9〜2.0mm、発泡絶縁体4の外径が2mm以上の発泡絶縁電線1において、発泡絶縁体4に用いられる樹脂組成物の粘度と歪硬化率を特定の範囲に限定することで、発泡絶縁体4を、例えば75%のような高発泡としても発泡度安定性に優れた発泡絶縁体4が形成される。
【0035】
次に、本実施の形態に係る樹脂組成物を説明する。
【0036】
発泡絶縁体4の形成に用いる樹脂組成物は、その粘度が、回転式レオメーターで測定温度170℃、測定周波数1Hzの測定条件で500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲にあり、かつ、測定温度150℃、歪速度3.0s-1の測定条件で測定される一軸伸張粘度における歪硬化率が700%以上であることを満たしたものである。
【0037】
発泡絶縁体に用いる樹脂組成物の粘度、歪硬化率、及びそれらの測定条件について説明する。
【0038】
(樹脂組成物の粘度:測定条件1)
樹脂組成物の粘度が高い場合、気泡成長の妨げとなる。一方、樹脂組成物の粘度が低すぎた場合、押出後に硬化するまでの時間に、液ダレによる変形や偏肉が起こりやすくなる。そのため、樹脂組成物としては、温度170℃、周波数1Hzでの粘度が500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲であることが望ましい。樹脂組成物の粘度は、必要に応じて押出温度を調節することで変更することが出来る。
【0039】
樹脂組成物を構成する樹脂材料の粘度の測定は、動的粘度測定装置(例えば、TAインスツルメンツ社製の動的粘度測定装置ARES)で、パラレルプレートを用いて行う。測定条件は、温度170℃であり、周波数1Hzでの粘度を読み取る。樹脂組成物の測定条件をまとめたものを表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(歪硬化率:測定条件2)
「歪硬化率」は、樹脂組成物が大きな歪みを受けたときの粘度上昇を示す「歪硬化」の割合である。図2に示すように、一軸伸張粘度測定時の粘度ピークをAとし、測定初期の直線部分(線形部分)を延長した線とAから横軸に引いた垂線との交点をBとする(図2において、縦軸は粘度、横軸は時間を示す)。AとBのピーク位置の差が「歪硬化」であり、(A/B)×100(%)が「歪硬化率」である。
【0042】
本発明において、歪硬化率は700%以上、より好ましくは900%以上が望ましい。一方、極端に大きな歪硬化率を持つ樹脂組成物を用いると、延伸時の粘度上昇が大きく、僅かな気泡成長で実質的な高粘度材料になり、むしろ気泡成長を制限することになるため、歪硬化率は1300%以下が望ましい。
【0043】
歪硬化率の測定は、動的粘度測定装置(例えば、TAインスツルメンツ社製の動的粘度測定装置ARES)に、一軸伸張粘度測定用の冶具を取り付け、測定条件は温度150℃、歪速度3.0s-1で行う。試料サイズは18×10×0.8〜1.0(t)mm程度のものを使用する。この試料はプレス成形の冷却時に硬化歪を緩和するため、少なくとも4時間以上かけて室温まで冷却しておくことが望ましい。一軸伸張粘度における歪硬化率の測定条件をまとめたものを表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
(粘弾性についての考え方)
本発明の根幹は、樹脂組成物の粘度が500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲で、歪硬化率700%以上という、いわば「低粘度、高歪硬化」の樹脂組成物を用いることにある。このような樹脂組成物を用いることで、従来の高粘度材料を発泡させる場合と比較して、次の効果が得られる。すなわち、
(A)気泡成長時の抵抗が小さいため、気泡成長に必要なガス圧力(量)も小さく出来る。
(B)ガス量が少ないため、押出時に樹脂組成物への溶解を維持するための樹脂圧も低く出来る。
(C)そのため、押出前後の樹脂圧力の差も小さく、樹脂組成物からのガス発生も穏やかになる。
(D)樹脂組成物の粘度が低いため、穏やかなガス発生でも気泡は成長できる。
(E)ある程度気泡が成長すると、歪硬化により気泡成長に対する抵抗が大きくなる。
(F)気泡成長のガスが少なく、成長圧力が小さいので、気泡は異常成長することなく、歪硬化により容易に気泡成長が止まる。
(G)そのため、高発泡でありながら異常成長や巣等の問題が発生し難い。
【0046】
このような「低粘度、高歪硬化」の樹脂組成物について更に詳述する。
【0047】
(樹脂)
本発明の樹脂組成物に使用する樹脂は、ポリオレフィン樹脂であり、代表的な例としてはポリプロピレン、ポリエチレンが挙げられるが、種類として特に規定するものではない。
【0048】
ポリプロピレンとしては、ホモポリマー(単独重合体)と、共重合体であるランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれか1種又は複数種を混合して使用することができる。
【0049】
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれか1種又は複数種を混合して使用することができる。 また、さらに超低分子量ポリエチレン(V−LDPE)や超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を添加することも出来る。
【0050】
ただし、いずれの場合も樹脂の分子中の主鎖と側鎖の比率が、ある範囲内にあることが必要であり、その比率によって影響を受ける物性が歪硬化率である。主鎖に対する側鎖の比率が高いLDPEのような構造の場合、延伸初期から側鎖同士の絡まりの影響で伸張粘度が高くなるため、図1のB点の位置が高くなり、結果として歪硬化率が大きな値を取りにくい。
【0051】
一方、側鎖が極端に少ないHDPEでは、側鎖の絡まりが少なく、歪硬化そのものが起きにくいためA点が低くなり、やはり歪硬化率は小さくなってしまう。そのため、高発泡を可能とする材料には主鎖と側鎖のバランスが重要であり、良好なバランスを得るには、樹脂組成物の一軸伸張粘度における歪硬化率が700%以上であることを見出した。
【0052】
前述したように、歪硬化率は側鎖が過多(過大)でも過少(過小)でも充分な大きさにはならない。
【0053】
適正な歪硬化率を得るための主鎖と側鎖の比率は、その材料の平均分子量、分子量分布、メルトフローレイト(MFR)、その他物性とのバランスでも変化するため、簡便な指標で表現することは困難である。一方、LLDPEのように側鎖の種類(大きさ)や量を制御可能な樹脂であれば、側鎖の絡まりもある程度制御できるため大きな歪硬化率を得やすい。
【0054】
そこで、最も簡便な方法としてはLLDPEを主材料とし、単体で所望する物性が得られない場合、LDPEやHDPEを添加することが可能である。
【0055】
図2の具体例として、HDPEよりも側鎖が多いLLDPEをベース樹脂とし、歪硬化の線形部分を抑制してB点を下げるためにはHDPEを、線形部分を増加させB点を上げるにはLDPEを添加したものを使用する。
【0056】
(発泡方式、条件)
発泡方式について述べる。発泡方法としては、物理発泡、化学発泡の2つの方法があり、本発明に適用する方法としては物理発泡方式が好ましいが、製品の目的と要求性能にあわせて化学発泡方式を選択することも出来る。
【0057】
(発泡核剤MB)
物理発泡方式を採用する場合、樹脂組成物中に溶解しているガスが気泡として発生するための起点として、発泡核剤を使用することが出来る。発泡核剤は殆どの場合微細な粉体状であり、これらを押出機中に投入した場合は樹脂組成物中で分散不良を起こしやすい。このため、予めマスターバッチ(MB)と称する、発泡核剤を高濃度に配合したコンパウンドを添加する方法が一般的である。
【0058】
発泡核剤MBは、高濃度の発泡核剤を分散させることが目的であるため、特にその性状、形態は問わない。また、押出機中での分散性を更に向上させるため、予め本発明で使用するHDPEやLDPEあるいはLLDPEの一部または全部で希釈混練を行うことも出来る。
【0059】
発泡核剤の種類は、有機物、無機物、あるいは大きさや形状によって様々な選択肢が考えられるが、特に規定するものではなく、その目的と効果によって選択することが出来る。
【0060】
有機物の一例としてはADCA(アゾジカルボンアミド)に代表されるアゾ化合物、N−N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、OBSH(4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))やHDCA(ヒドラゾジカルボンアミド)に代表されるヒドラジン誘導体などが挙げられる。これらは後述の発泡剤としての作用も持つが、発泡核剤として使用することを制限するものではない。また、ポリエステル、ポリイミド、ふっ素樹脂、ポリメチルペンテン、環状オレフィンコポリマー、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリ乳酸、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、その他各種樹脂の粉末を選択できる。
【0061】
また、ベースとなる樹脂とは異なる樹脂を発泡核剤として添加し、押出機中で混練、攪拌することで発泡核剤としての効果を発揮させる方法も選択できる。
【0062】
無機物としては、シリカ、タルク、その他金属化合物を選択できる。
【0063】
勿論、発泡核剤の添加が一般的ではあるが、発泡絶縁電線1の用途や目的よっては発泡核剤の添加を行わない方法も選択できる。
【0064】
(発泡剤MB)
一方、化学発泡を行う場合、発泡ガスの発生源としての発泡剤を樹脂中に混練しておく必要がある。発泡剤の場合も、発泡核剤MBと同様に予めMB化しておくことが一般的であるが、単体で押出機中に投入、あるいは事前に希釈混練を行うことも出来る。
【0065】
発泡剤としては、ADCA(アゾジカルボンアミド)に代表されるアゾ化合物、N−N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、OBSH(4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))やHDCA(ヒドラゾジカルボンアミド)に代表されるヒドラジン誘導体、炭酸水素ナトリウムなど、用途と目的に応じて使用できる。
【0066】
(添加剤など)
発泡絶縁電線1の本来の目的から、その電気特性上可能な限り、樹脂組成物は純粋なポリオレフィン樹脂のみを使用することが好ましいが、その他の性能維持や、製造上止むを得ない添加剤等の使用は可能である。
【0067】
前者の例では、酸化防止剤、発泡核剤分散のための分散助剤、多数の発泡絶縁電線1を識別するための着色剤などがあり、後者の例では樹脂合成時の分子量制御(過剰重合防止のための失活剤)や触媒の残留などがある。これらはその目的と効果に応じて、使用することが出来る。
【0068】
以上の条件により構成される樹脂組成物を、導体2の外周に押出被覆し、多数の気泡3を有する発泡絶縁体4を形成して発泡絶縁電線1を得る。
【0069】
こうして得られた発泡絶縁電線1は、高発泡でありながら、外径変動、発泡変動が小さく、巣の発生も少ない発泡絶縁体4を有するため、低ロスかつインピーダンス変動が小さい、高性能な発泡絶縁電線となる。このため、従来技術で問題となっていた、高発泡化した際の発泡絶縁体の発泡度変動に伴うインピーダンス不整合によるS/N比の悪化を防止できる。
【0070】
発泡絶縁電線は、例えば、通信アンテナ用のケーブルとして使用することができる。この場合には、発泡絶縁体の外周に外部導体を設け、更にその外側を絶縁体で被覆する。
【0071】
通信ケーブル以外の用途であれば、必要に応じて複数本を撚り合せる、2心平行(ツインナックス)構造に配置する、等としてもよい。また、シールド層を設ける、シース層を設けることなどもでき、これらを複数組合せることも可能である。
【0072】
本実施の形態では、導体2の外周に発泡絶縁体4を形成した発泡絶縁電線1について説明したが、発泡絶縁電線は、着色剤(顔料、染料など)を配合した樹脂を別途用意し、発泡絶縁体の外層に被覆する構造としてもよい。
【0073】
また、着色剤を配合した樹脂による外層被覆だけでなく、導体の直上(外周)に非発泡の内層を設け、その外周に発泡絶縁体を設けることも可能である。これは、特により線を使用した場合に、素線のより目に沿ってガスが抜ける現象を防止するのに効果的である。また、これの変形例として、少しでも発泡度を向上させるため、内層を僅かに発泡させる方法を採ってもよい。
【0074】
導体2も様々な変形例が考えられる。太い導体の場合、非常に重く剛直になるため、パイプ状の導体としても良い。このとき、更に柔軟性を付与するため、パイプに波状あるいはらせん状、その他の形状的な変化を加えることも可能である。
【0075】
また、導体2は銅線に限らず、その他の金属や合金、充分な導電性が確保できるのであればセラミックスや有機物の線条体に導電性を付与したものでも使用可能である。
【0076】
更にめっきの有無やその種類についてもその目的と用途に応じて、金、銀、錫あるいはそれ以外のめっきが選択可能である。めっき以外の表面改質方法として、コーティング、焼結、クラッド材の使用なども選択可能である。
【実施例】
【0077】
本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0078】
表3に実施例及び比較例で使用した供試材料の一覧を示す。表4には、それぞれの材料配合と、その材料からなる樹脂組成物の粘度及び歪硬化率を示す。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表4で配合した樹脂組成物の粘度と歪硬化率の関係を図3に示す。本発明は、500Pa・s以上2800Pa・s以下の粘度と、歪硬化率は700%以上、望ましくは900〜1300%の樹脂組成物を導体上に押出被覆し、発泡させ、発泡絶縁体として用いることに特徴があるため、材料配合は比較しやすい粘度と歪硬化率になるように行った。
【0082】
実施例に用いる発泡絶縁電線の発泡絶縁体として、表4の配合100質量部に対し、発泡核剤としてADCA(アゾジカルボンアミド)3質量部を加え、2軸押出機を用いて充分に混練した材料を用いて発泡絶縁電線試作を行った。試作条件を表5に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
導体は、直径0.96mmの銅線(試作1)、1.9mmの銅パイプ(試作2)の2種類を使用した。パイプ状の導体を使用する場合は、導体の外径を表記する。発泡度の目標はいずれも75%とし、各樹脂組成物で発泡絶縁体を形成し、発泡絶縁電線を試作した。
【0085】
押出機は口径45mm、L/D29(L:押出機のシリンダーの長さ、D:押出機のシリンダーの口径)で、中間部より窒素ガスを注入する物理発泡用押出機を用いた。ライン中に、静電容量、外径の各測定機を設け、静電容量と外径から求めた発泡度と外径が、それぞれの目標に一致するよう温度や線速、ガス圧を調節した。押出温度は150〜190℃、線速は試作1が50m/min、試作2が20m/min、ガス圧は32〜47MPaであった。
【0086】
各試料とも5000m以上を作製し、押出機のライン中に設けたセンサのデータから外径、静電容量を読取り、発泡度を算出した。評価にはインピーダンス変動の要因となる外径と発泡度の変動量を用いた。
【0087】
試作した発泡絶縁電線の外径変動量と発泡度変動量の判定基準を表6に示す。判定基準に対する合否の○、×だけでなく、特に優れる◎も含めた3段階評価とした。
【0088】
【表6】

【0089】
(外径変動量)
試作1,2で発泡絶縁電線の直径が大きく異なることから、外径変動量はそれぞれに基準を設けた。
【0090】
(発泡度変動)
発泡度の変動量は、±2.0%未満を◎、±3.0%未満を○とした。
【0091】
また、試作した発泡絶縁電線について巣の発生の評価も行い、外径変動量と発泡度変動量と併せて総合判定を行った。
【0092】
(巣の発生)
製造した発泡絶縁電線を約100m毎に切断し、その断面を電子顕微鏡で観察して、発泡絶縁体の巣の有無、頻度、大きさを比較した。巣の認定は、「周囲の気泡と比較して、概ね5倍以上の直径を持つ」を基準とした。個々の大きさや頻度も含め、3段階に準じて評価した。大きな巣が発生しているものを×、巣は発生しているが、個々の大きさが比較的小さく品質上問題のないものを○、巣の発生がほぼみられないものを◎とした。
【0093】
(総合判定)
各評価項目の結果を総合し、生産性も加味して◎〜×の3段階で示した。
【0094】
試作1,2の結果をそれぞれ表7,8に示す。評価は表6と上記の基準に従い◎〜×の判定で記入した。なお、表7,8中、実施例1の配合材料を用いて行った試作1を「(実施例)1−1」、実施例5の配合材料を用いて行った試作2を「(実施例)5−2」、というように、「(表4の実施例の番号)−(試作の番号)」で記載している。明細書中では、記載が煩雑となるため、表7,8中に記載した(試作の番号)は省略して説明する。
【0095】
表7では試作1(導体径0.96mm、発泡絶縁体の外径2.4mm、発泡度75%)の結果を示す。
【0096】
【表7】

【0097】
表7中、実施例1〜3は、同等の粘度で歪硬化率を変えた樹脂組成物での評価である。歪硬化率の小さい実施例1では、実用上は問題無い程度の極微小な巣の発生が見られ、逆に大きな歪硬化率を持つ実施例3では外径や発泡度の変動がやや大きい。これは、実施例1では歪硬化が小さいため気泡の過成長を抑制できず、巣に近い状態になったと考えられる。逆に実施例3では歪硬化率が高く、僅かな歪(気泡成長)で実質的な樹脂組成物の粘度が上昇して気泡成長が抑制される。そのため、他の実施例と同じ発泡度を達成するためにガス量を増やす必要があり、結果的に気泡の急速な成長と、それによる外径や発泡度の変動量増加を起こしたと考える。
【0098】
実施例2および5,6は、樹脂組成物の歪硬化率が近い値で、粘度が異なっている。これらの実施例では、材料粘度に合わせたガス圧等の条件を与えることで各種変動が少なく、巣の発生もない発泡絶縁体を有する発泡絶縁電線を作製することができた。
【0099】
実施例3,4,7は、歪硬化率が1400〜1500%の範囲で、粘度が異なっている。歪硬化が大きいため、巣は効率的に抑制されているが、外径や発泡度に若干の変動を生じている。無論、実用的には全く問題の無い範囲である。これも実施例3と同様に、発泡開始時と気泡成長時の粘度の差の大きさに起因すると考える。
【0100】
比較例1〜3は本発明の範囲よりも高粘度の領域で、歪硬化率の異なる樹脂組成物での試作結果である。比較例1は歪硬化が大きいため巣の発生は防止できたが、外径や発泡度の変動が大きい。歪硬化が小さい比較例2,3では、高粘度のため、外径と発泡度の変動量は許容値を超えてしまい、歪硬化率も低めのため、巣の発生も見られる。
【0101】
比較例3,4は、ほぼ同じ歪硬化率を持ち、粘度の異なる樹脂組成物の比較である。比較例3は粘度も高く、歪硬化率も小さいため外径変動量、発泡度変動量、巣の発生、のいずれもが許容値を超えてしまう。一方、比較例4は粘度は適正であるが、歪硬化率が小さいため、巣の発生が大きい。
【0102】
比較例5,6は本発明の範囲よりも低粘度の樹脂組成物での例である。巣の発生や発泡度変動は良好なレベルであるが、低粘度過ぎて発泡中に液ダレを生じたと思われる偏肉による外径変動が大きい。
【0103】
以上の結果から、表7中、実施例1〜7、特に2,5,6の配合組成の樹脂組成物を用いることで、外径及び発泡度変動が小さく、巣の発生も少ない発泡絶縁体を有する発泡絶縁電線の製造が可能なことが明らかになった。
【0104】
表8では試作2(導体径1.9mm、発泡絶縁体の外径6mm、発泡度75%)の結果を示す。全体的に表7(試作1)と類似の傾向を確認できた。
【0105】
【表8】

【0106】
表8中、実施例1〜3では、実施例2が最も良好で、極わずかな巣の発生が見られる実施例1、歪硬化率が大きいため、外径、発泡度に多少の変動がみられる実施例3とも、実用上問題のない発泡絶縁電線の製造が可能であった。
【0107】
実施例2および5,6は、材料粘度に合わせたガス圧等の条件を与えることで各種変動が少なく、巣の発生もない発泡絶縁電線を作製することができた。
【0108】
歪硬化率がほぼ同じで、粘度の異なる実施例3,4,7は、巣は効率的に抑制されているが、外径や発泡度に実用上は問題にならない程度の変動を生じている。
【0109】
比較例についても、表7(試作1)と同様の傾向が確認でき、高粘度の樹脂組成物を用いた比較例1〜3では外径や発泡度の変動が大きく、歪硬化率が小さい比較例3,4の場合は巣の発生が避けられなかった。また、低粘度の樹脂組成物を用いた比較例5,6では液ダレを生じたと思われる偏肉による外径変動が大きい。
【0110】
以上、表7,8で示したように、本発明の樹脂組成物を導体上に押出被覆し、発泡させ形成される発泡絶縁体を有する発泡絶縁電線は高発泡でありながら、外径変動、発泡度変動、巣の発生、のいずれもが従来のものよりも小さいことがわかった。これにより、低ロスかつ特性インピーダンス変動の小さい、高性能な発泡絶縁電線が効率よく生産できる。
【符号の説明】
【0111】
1 発泡絶縁電線
2 導体
3 気泡
4 発泡絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂からなる樹脂組成物において、該樹脂組成物の粘度が、測定温度170℃、測定周波数1Hzの測定条件で500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲にあり、かつ、測定温度150℃、歪速度3.0s-1の測定条件で測定される一軸伸張粘度における歪硬化率が、700%以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物を形成するポリオレフィンが、ポリエチレンまたはポリプロピレンの単体又は混合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物の一部又は全部に使用しているポリプロピレンが、ホモポリマー(単独重合体)と、共重合体であるランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれか1種又は複数種の混合物である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物の一部又は全部に使用しているポリエチレンが、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれか1種又は複数種の混合物である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
導体の外周に発泡絶縁体が押出形成されてなる発泡絶縁電線において、前記導体の直径が0.9〜2.0mm、前記発泡絶縁体の外径が2mm以上であり、前記発泡絶縁体を形成する樹脂組成物の粘度が、測定温度170℃、測定周波数1Hzの測定条件で500Pa・s以上2800Pa・s以下の範囲にあり、かつ、測定温度150℃、歪速度3.0s-1の測定条件で測定される一軸伸張粘度における歪硬化率が、700%以上であることを特徴とする発泡絶縁電線。
【請求項6】
前記発泡絶縁体を形成するポリオレフィンが、ポリエチレンまたはポリプロピレンの単体又は混合物である請求項5に記載の発泡絶縁電線。
【請求項7】
前記発泡絶縁体の一部又は全部に使用しているポリプロピレンが、ホモポリマー(単独重合体)と、共重合体であるランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれか1種又は複数種の混合物である請求項6に記載の発泡絶縁電線。
【請求項8】
前記発泡絶縁体の一部又は全部に使用しているポリエチレンが、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれか1種又は複数種の混合物である請求項6に記載の発泡絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121990(P2012−121990A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273808(P2010−273808)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】