説明

樹脂組成物

【課題】使用時には分解することなく、使用後土壌等に埋設した際には分解し、かつ栄養素を放出できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、乳酸系樹脂(A)に対して非金属ミネラル含有化合物(B)を配合してなる混合物であり、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)の混合物中に占める非金属含有化合物(B)の割合が0.1質量%以上、30質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関し、特に、使用時は一般的な樹脂と同様に使用可能であり、かつ、廃棄後には栄養素を放出して土壌の改質、および、植物の発育促進を図ることができる乳酸系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題の高まりから、プラスチック製品が自然環境中に棄却された場合、経時的に分解・消失し、最終的に自然環境に悪影響を及ぼさないことが求められ始めている。従来のプラスチックは、自然環境中で長期にわたって安定であり、しかも嵩比重が小さいため、廃棄物埋め立て地の短命化を促進したり、自然の景観や野生動植物の生活環境を損なうといった問題が指摘されていた。
【0003】
そこで、今日注目を集めているのは、生分解性樹脂材料である。生分解性樹脂は、土壌中や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となることが知られている。また、コンポスト(堆肥化)処理により、容易に廃棄物処理ができることが知られている。実用化され始めている生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、変性PVA、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体等がある。
【0004】
これらの生分解性樹脂材料はそれぞれ固有の特徴を有し、これらに応じた用途展開が考えられるが、中でも、幅広い特性と汎用樹脂に近い加工性を有する脂肪族ポリエステルが広く使われ始めている。また、脂肪族ポリエステルの中でも、乳酸系樹脂は、透明性・剛性・耐熱性等が優れていることから、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートの代替材料として、フィルム包装材や射出成形分野において注目されている。
【0005】
乳酸系樹脂の使用後における有効な処理方法としては、埋め立て処理による自然分解が挙げられる。特開平11−113385号公報および特開平11−113414号公報には、脂肪族ポリエステルに肥料を配合し、分解時に土壌へ栄養素を放出して植物の成長を助長する技術が開示されているが、肥料を配合すると、成形時における乳酸系樹脂の分子量低下が生じ、また、使用時には乳酸系樹脂の分解速度が促進されることになるという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−113385号公報
【特許文献2】特開平11−113414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、従来の技術では問題の解決が非常に困難であった、使用時には分解することなく、使用後土壌埋設した際には分解し、かつ、植物等の成長を助長することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂(A)に対して非金属ミネラル含有化合物(B)を配合してなる混合物であり、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)の混合物中に占める非金属ミネラル含有化合物(B)の割合が0.1質量%以上、30質量%以下であることを特徴とする。
かかる範囲で非金属ミネラル含有化合物を配合することにより、成形時及び使用時には乳酸系樹脂の分解がほとんど生じることなく、かつ、使用後土壌埋設した際には非金属ミネラルを土壌中に放出し、植物の育成を助長することができる。
【0009】
本発明の別の態様の樹脂組成物は、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)に対して、さらに、乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)を配合してなる混合物であり、乳酸系樹脂(A)、非金属ミネラル含有化合物(B)、および、加水分解性樹脂(C)の混合物中に占める非金属ミネラル含有化合物(B)の割合が0.1質量%以上、30質量%以下であり、加水分解性樹脂(C)の割合が0.1質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度が遅い加水分解性樹脂(C)を更に配合することにより、加水分解速度を調節し易くなるので、更に耐久性が必要とされる用途にも好適に用いることができる。また、使用後埋設される土壌の地質、温度、水分量等の条件に応じてこの条件に適合するように加水分解速度を調節することができる。
【0011】
本発明はさらに、上記樹脂組成物のいずれかからなるフィルム、シート、または、射出成形体を提案する。本発明の樹脂組成物は、成形時に分解等がほとんど生じることがないので成形性に優れており、本発明の樹脂組成物を用いて、フィルム、シート、または、射出成形体を形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
乳酸系樹脂(A)に非金属ミネラル含有化合物(B)を配合してなる混合物であり、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)の混合物中に占める(B)の割合が0.1質量%以上、30質量%以下である樹脂組成物は、成形時及び使用時には乳酸系樹脂の分解がほとんど生じることなく、使用後土壌埋設した際には非金属ミネラルを土壌中に放出し、植物の育成を助長することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)を含有する。
【0014】
(乳酸系樹脂)
本発明に用いる乳酸系樹脂は、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸である、ポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体である。ここで、乳酸系樹脂のD−乳酸(D体)とL−乳酸(L体)の構成比は、L体:D体=99.9:0.1〜97:3であることが好ましく、L体:D体=99.5:0.5〜98:2であることが更に好ましい。D−乳酸の割合が0.1%未満では、生産性が低下することがあり、3.0%を越える場合には射出成形体の耐熱性が得られにくくなることがあって用途が制限されることがある。
【0015】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法等の公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいは、これらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0016】
また、開環重合法では、適当な触媒を選択し、必要に応じて重合調整剤等を用いて、乳酸の環状二量体でありラクチドから乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0017】
さらに、耐熱性を向上させる等の必要に応じて、乳酸系樹脂の本質的な性質を損なわない範囲で、例えば、乳酸系樹脂成分を90質量%以上含有する範囲内で、少量共重合成分を添加することができる。少量の共重合成分としては、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオール等を用いることができる。
さらにまた、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0018】
乳酸系樹脂は、さらに、乳酸及び/又は乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位との共重合体であっても、脂肪族ジオール及び/又は脂肪族ジカルボン酸単位との共重合体であってもよい。
他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0019】
乳酸系樹脂に共重合される上記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0020】
本発明に使用される乳酸系樹脂は、重量平均分子量が5万〜40万であることが好ましく、更に好ましくは10万〜25万である。乳酸系樹脂の重量平均分子量が5万より小さい場合には、機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、40万より大きい場合には、溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣ることがある。
【0021】
本発明に好ましく使用される乳酸系樹脂の代表的なものとしては、三井化学(株)製の「レイシア」シリーズ、Nature Works LLC社製の「Nature Works」シリーズ等が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
なお、本発明においては、上述の乳酸系樹脂を混合して用いることもできる。
【0022】
(非金属ミネラル含有化合物)
本発明の樹脂組成物は非金属ミネラル含有化合物(B)を含む。例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム等の金属ミネラルを含有する化合物を乳酸系樹脂に配合した場合には、成形時に乳酸系樹脂が分解してしまって成形体を形成できなかったり、あるいは、使用時に分解してしまうことがあり、重大な問題が発生し易い。
【0023】
本発明に用いられる非金属ミネラル含有化合物としては、硫黄、水素、窒素、リン、ホウ素、ブロム、ヨウ素、酸素等の非金属ミネラルを含有する化合物が挙げられる。具体的には、例えば、硫黄、塩化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄含有化合物、ホウ素、窒化ホウ素、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素、三酸化二ホウ素等のホウ素含有化合物、リン酸エステルアミド、ホスホニトリル酸フェニルエステル、ポリリン酸メラミン、トリフェニルホスフェート、縮合リン酸エステル等のリン含有化合物が挙げられる。本発明においては、これらの非金属ミネラル含有化合物を混合して使用してもよい。
特に、植物および人体に有効な非金属ミネラルであり、多量元素であるリン含有化合物を用いることが好ましく、リン含有化合物を主として使用し、かつ、他の非金属ミネラル化合物を混合して使用することも好ましい。
【0024】
非金属ミネラル含有化合物(B)の含有割合は、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル化合物(B)の混合物中、0.1質量%以上、30質量%以下であり、5質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上、15質量%以下であることが更に好ましい。非金属ミネラル化合物(B)の占める割合が0.1質量%未満では、使用後埋設した際に土壌へ栄養素を放出する効果が低く、30質量%を上回ると、かかる樹脂組成物を用いて成形する際に乳酸系樹脂が分解することがあるので、成形時および使用時に問題が発生することがある。
【0025】
(乳酸系樹脂よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂)
本発明の樹脂組成物は、上記乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)を更に混合することができる。このように加水分解性樹脂(C)を乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)に混合することによって、樹脂組成物の加水分解速度を調節することができるので、更に耐久性が必要とされる用途にも好適に用いることができるようになり、あるいはまた、使用後埋設される土壌の地質、温度、水分量等の条件に応じてこれに適合するように加水分解速度を調節することができるようになる。
【0026】
本発明において、好ましく使用される加水分解性樹脂(C)としては、ガラス転移温度が乳酸系樹脂(A)よりも高いか、あるいは、結晶化度が乳酸系樹脂(A)よりも高いエステル結合を有する樹脂、または、カーボネート結合を有する樹脂が挙げられる。
【0027】
エステル結合を有する樹脂としては、商業的に入手可能なものとして、三菱化学(株)製のノバペックス(ポリエチレンテレフタレート)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ノバデュラン」シリーズ(ポリブチレンテレフタレート)等が挙げられる。カーボネート結合を有する樹脂としては、商業的に入手可能なものとして、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ユーピロン」シリーズ(ポリカーボネート)等が挙げられる。
【0028】
これらの樹脂は乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度は遅いものの、本質的には加水分解性を有するため、乳酸系樹脂(A)と混合して土壌中に埋設した場合には、先に加水分解した乳酸系樹脂の末端カルボン酸の酸触媒作用によって、この加水分解性樹脂(C)の分解も促進される。したがって、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)に、乳酸系樹脂よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)を更に配合することによって、使用時および土壌埋設中の樹脂組成物の分解速度を調節することができる。なお、加水分解性樹脂(C)を更に混合しても、混合しなかった場合と同様に、すなわち、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)を混合した上述の場合と同様に、樹脂組成部を埋設した土壌中に非金属ミネラルを放出することができる。
【0029】
本発明において、加水分解性樹脂(C)の配合量は、乳酸系樹脂(A)、非金属ミネラル含有化合物(B)および加水分解性樹脂(C)の混合物中に占める加水分解性樹脂(C)の割合が、0.1質量%以上、40質量%以下であり、5質量%以上、35質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、30質量%以下であることが更に好ましい。加水分解性樹脂(C)の配合量が0.1質量%以上であれば、加水分解速度を向上させる効果が発現され、40質量%以下であれば、乳酸系樹脂の加水分解性が損なわれることがなく、土壌埋設中に分解されうる。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、熱安定剤、抗酸化剤、可塑剤、核剤、加水分解防止剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、染料などの添加剤を処方することができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物はフィルム、シート、または、射出成形体等に加工して用いることができる。以下に、本発明の樹脂組成物を用いてフィルム、シート、または、射出成形体を形成する方法について説明する。
【0032】
乳酸系樹脂(A)、および、非金属ミネラル含有化合物(B)、および必要に応じて、乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)、および、その他の添加剤等の各原料を、同一の射出成形機に投入して直接混練し、押出機、射出成型機を用いて射出成形することにより射出成形体を得ることができる。あるいは、ドライブレンドした原料を、二軸押出機を用いてストランド形状に押出してペレットを作製しておき、このペレットを射出成形機に入れて射出成形することにより、射出成形体を形成することができる。なお、乳酸系樹脂は、溶融成形時に加水分解を起こしやすいので、あらかじめ乾燥するか、真空ベント押出工程を経ることが好ましい。
【0033】
いずれの方法を採用するにしても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためには後者を選択することが好ましい。例えば、乳酸系樹脂(A)、および、非金属ミネラル含有化合物(B)、および必要に応じて、乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)、および、その他の添加剤等を、十分に乾燥させて水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製する。なお、乳酸系樹脂はL−乳酸構造とD−乳酸構造の組成比によって融点が変化すること、乳酸系樹脂(A)、非金属ミネラル含有化合物(B)、および、乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)の混合の割合によって混合した樹脂組成物の粘度が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。実際には160℃〜230℃の温度範囲が通常選択される。
【0034】
上記方法によって作製されたペレットを十分に乾燥させて水分を除去した後、以下に示す方法を用いて、フィルム、シート、または、射出成形体が形成される。
【0035】
本発明におけるフィルムの成形方法としては、ロール延伸、テンター延伸法、チューブラー法、インフレーション法等が挙げられ、また、シートの成形方法としては一般的なTダイキャスト法、プレス法等を採用することもできる。
【0036】
また、本発明における射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形方法はこれらに限定されるものではない。
【0037】
このように、本発明の樹脂組成物を用いて形成された、シート、フィルム、射出成形体は、生分解性を有するので土中に埋設して廃棄処分することができ、しかも、埋設した土中に非金属ミネラルを放出することができるので、土壌の改質、および、植物等の生育の促進を図ることができる。したがって、土中等に埋められて廃棄されるシート、フィルム、成形体には勿論のこと、非金属ミネラルのような栄養素の存在が要求されるような用途に広く使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して本発明を説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。なお、各実施例および各比較例は以下の方法で評価を行った。すなわち、通常の使用時における耐久性の評価として、下記に示す、1)湿熱試験を実施し、土壌埋設時における分解性の評価として、下記に示す、2)簡易コンポスト試験を実施した。
【0039】
1)湿熱試験
エスペック社製の恒温恒湿器「ラボスターLHL−113」中に、60℃、80%RH雰囲気下で50時間サンプルを静置した後サンプルを取り出し、サンプルの外観状態を観察して崩壊の有無を調べた。サンプルの状態が以下の3段階のいずれに該当するか判断し、評価を行った。ここでは、記号「○」、もしくは、「△」に該当するものを合格とした。
(評価基準)
○ 元の形状を保持
△ サンプルに亀裂が生じているが形状は保持
× 完全に崩壊
【0040】
2)簡易コンポスト試験
市販されている家庭用コンポスターに、園芸用の腐葉土10kgに対し、市販品のドッグフード5kgを混合して投入し、さらに水500mlを加えて、厚み200mmの埋土を形成した。次に、サンプルが外気と接触することによって崩壊して散乱することを極力抑えるために、60mm×150mmの金網(3mm目)2枚で構成されるサンプルホルダーにサンプルを挟み込み、かつ、細い針金を金網の網目に通してサンプルを綴じ込んだ。このサンプルホルダーに綴じ込められたサンプルを、家庭用コンポスターの埋土中に垂直になるようにサンプルホルダーごと埋設した。ただし、サンプルホルダーの下底辺が、埋土の表面から25mmの高さになり、上底辺が、埋土の底面から25mmの高さになるように埋設した。家庭用コンポスターの温度を60℃で一定温度となるようにして1週間保持した。1週間後、サンプルを取り出し、状態を観察して崩壊の有無を確認した。ただし、サンプルの状態は以下の3段階で評価を行った。ここでは、記号「○」、もしくは、「△」に該当するものを合格とした。
(評価基準)
○ 完全に崩壊
△ サンプルの形状を保持してはいるが、亀裂が生じている
× 元の形状を保持
【0041】
(実施例1)
乳酸系樹脂(A)として、Nature Works LLC社製のNature Works 4032D(D乳酸の割合:1.4%、重量平均分子量:20万)、非金属ミネラル含有化合物(B)として、ナカライテスク社製の硫黄(非金属ミネラル:硫黄)を用いた。Nature Works 4032D、および、硫黄を質量比が95:5の割合でドライブレンドした後、40mmφ単軸押出機を用いて200℃で混練した後、口金から押出し、次いで約50℃のキャスティングロールにて急冷し、1mm厚のシートを作製した。得られたシートについて湿熱試験、簡易コンポスト試験を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル(B)の配合割合を、Nature Works 4032D、および、硫黄が質量比で85:15になるように変更した以外は実施例1と同様にして、シートを作製した。また、得られたシートについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル(B)の配合割合を、Nature Works 4032D、および、硫黄が質量比で75:25の割合となるようにした以外は実施例1と同様の方法でシートを作製した。また、得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
(実施例4)
非金属ミネラル含有化合物として、ナカライテスク(株)製の三酸化二ホウ素(非金属ミネラル:ホウ素)を用い、かつ、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)の配合割合を、Nature Works 4032D、および、三酸化二ホウ素が質量比で85:15の割合となるようにドライブレンドした以外は、実施例1と同様の方法でシートを作製した。また、実施例1と同様にして、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(実施例5)
非金属ミネラル含有化合物として、(株)伏見製薬所製の「FP−100」(ホスホニトリル酸フェニルエステル、非金属ミネラル:リン)を用い、かつ、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル(B)の配合割合を、Nature Works 4032D、および、FP−100が質量比で85:15の割合となるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートを作製した。また、得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(実施例6)
乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度が遅い加水分解性樹脂(C)として、帝人化成(株)製のパンライト L1225L(ポリカーボネート)を用い、かつ、乳酸系樹脂(A)、非金属ミネラル(B)および加水分解性樹脂(C)の配合割合を、Nature Works 4032D、FP−100、および、パンライト L1225Lが質量比で55:15:30の割合となるようにドライブレンドした以外は実施例5と同様の方法でシートを作製した。得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)の配合割合を、Nature Works 4032D、および、FP−100が質量比で50:50の割合となるようにドライブレンドした以外は実施例5と同様の方法でシートを作製した。また、得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
非金属ミネラル含有化合物(B)のかわりに、金属ミネラル含有化合物として、ナカライテスク(株)製のステアリン酸カルシウム(金属ミネラル:カルシウム)を用い、かつ、乳酸系樹脂(A)および金属ミネラル含有化合物の配合割合を、Nature Works 4032D、および、ステアリン酸カルシウムが質量比で85:15の割合となるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートを作製した。また、得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
非金属ミネラル含有化合物(B)のかわりに、金属ミネラル含有化合物として、ナカライテスク(株)製の塩化カリウム(金属ミネラル:カリウム)を用い、かつ、乳酸系樹脂(A)および金属ミネラル含有化合物の配合割合を、Nature Works 4032D、および、ステアリン酸カルシウムが質量比で85:15の割合となるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートを作製した。また、得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、乳酸系樹脂に非金属ミネラル含有化合物を所定量配合した樹脂組成物を用いてなる実施例1〜6のシートは、湿熱試験および簡易コンポスト試験において合格レベルの評価結果が得られることが分かった。また、更に加水分解性樹脂(C)を配合した樹脂組成物を用いてなる実施例6のシートは、加水分解性樹脂(C)を配合しない場合よりも耐久性が向上していた。表1から、加水分解性樹脂(C)を配合することにより、土壌埋設中の崩壊の速度を調節できることが分かり、埋設される土壌の地質、温度、水分量等の条件に応じて加水分解速度を調節することができることが分かる。
【0052】
一方、非金属ミネラル含有化合物(B)の配合量が本発明外である比較例1、および、非金属ミネラル含有化合物の代わりに金属ミネラル含有化合物を配合した比較例2および3は、湿熱試験の結果が実用レベルに満たないものであり、耐久性に劣っているものであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の樹脂組成物は、土中等に埋められて廃棄されるシート、フィルム、成形体には勿論のこと、非金属ミネラルのような栄養素の存在が要求されるような用途に広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂(A)に対して非金属ミネラル含有化合物(B)を配合してなる混合物であり、乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)の混合物中に占める非金属含有化合物(B)の割合が0.1質量%以上、30質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
乳酸系樹脂(A)および非金属ミネラル含有化合物(B)に対して、さらに、乳酸系樹脂(A)よりも加水分解速度の遅い加水分解性樹脂(C)を配合してなる混合物であり、乳酸系樹脂(A)、非金属ミネラル含有化合物(B)、および、加水分解性樹脂(C)の混合物中に占める非金属ミネラル含有化合物(B)の割合が0.1質量%以上、30質量%以下であり、加水分解性樹脂(C)の割合が0.1質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物からなることを特徴とするフィルム、シートまたは射出成形体。

【公開番号】特開2008−106096(P2008−106096A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288312(P2006−288312)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】