説明

樹脂組成物

【課題】酸化ジルコニウムナノ粒子が高分散している樹脂組成物の提供。
【解決手段】炭素数6以上の炭化水素基を有するカルボン酸である被覆剤(I)および被覆剤(II)により被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子と、硬化性樹脂とを有する樹脂組成物。樹脂組成物における被覆剤(II)の一種が、金属原子とこの金属原子に結合している加水分解性基を有する有機金属化合物であると好ましく、この化合物の金属原子には、芳香環を有する基が結合しているとより好ましい。また、酸化ジルコニウムナノ粒子は、その1H−NMR分析をおこなったときに(芳香族プロトンピークの面積)/(全プロトンピーク面積)×100≧40となるものが好適である。樹脂組成物には、更に分散剤が含まれていると、より好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウムナノ粒子を含有する樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物のナノ粒子は、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線吸収材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与するものとして非常に注目されている。例えば熱可塑性樹脂に酸化ジルコニウム粒子を分散させると、その樹脂の屈折率が向上する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
金属酸化物粒子の製造方法としては、Breaking−downプロセスが知られている。機械的粉砕法がBreaking−downプロセスとして一般に使用されるが、当該機械的粉砕法により粒子径が1μm以下の微粒子を効率良く製造するのは困難である上に、粉砕の際に金属酸化物粒子中へ不純物が混入する可能性が高い。
【0004】
金属酸化物粒子を製造するための他の方法としては、Building−upプロセスが知られている。Building−upプロセスは、化学反応により金属酸化物粒子を調製する方法であり、気相法と液相法に分類される。当該プロセスにおける反応条件の制御および原料物質の選定を行なうことにより、金属酸化物ナノ粒子を調製可能である。但し、気相法には、特殊な装置や反応条件が必要なためにコストや安全性などの面で問題が多い。また、共沈法、金属アルコキシドの加水分解により金属酸化物粒子を得るアルコキシド法、および金属酸化物前駆体を高温高圧下で反応させる水熱合成法などの液相法を採択しても、問題点が生じる場合がある。例えば、共沈法には、生成した金属酸化物ナノ粒子が加熱工程において成長してしまう問題がある。アルコキシド法には、一部の金属酸化物の製造にしか適用できない上に、得られる金属酸化物の結晶性が十分ではない。また、水熱合成法では、400℃で30MPaといった厳しい条件が必要であるために、金属酸化物粒子の粗大化の問題、および多量のナノ粒子を安価に製造できないという問題がある。
【0005】
ところで、金属酸化物ナノ粒子には、上述の製造が難しいという問題の他に、樹脂、極性の低い有機溶媒などへの分散性が低い問題がある。
【0006】
上記の低分散性の問題については、下記一般式(12)で表される化合物および/または下記一般式(13)で表される化合物を分散剤に使用する技術が開示されている(特許文献2参照)。当該技術によれば分散性が向上するものの、更に分散性を向上させることが望まれる。
【0007】
12−R13−O−(CO−R14−O)l−CO−R15−COOH (12)
上記一般式(12)中、R12は水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基および(メタ)アクリロイル基から選ばれる少なくとも1種の基を表し、R13はアルキレン基を表し、R14はアルキレン基を表し、R15はアルキレン基を表し、lは1以上である。
【0008】
16−[CO−(O−R17−CO)n−OH]m (13)
上記一般式(13)中、R16は置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基および(メタ)アクリロイル基から選ばれる少なくとも一種の基を表し、R17はアルキレン基を表し、nは1以上を表し、mは1〜4である。
【0009】
また、他の金属酸化物ナノ粒子の分散性を高める技術としては、モノマー中にジルコニウム酸化物粒子を分散させる場合に、その分散前のジルコニウム酸化物粒子の表面を特定の金属アルコキシドで処理する技術(特許文献3参照);ポリマーを溶解させた液中にジルコニウム酸化物粒子を分散させる場合に、その粒子表面を酸性基および塩基性基の両基、または酸性基で表面修飾する技術(特許文献4参照);が開示されている。これらの技術に代表されるような金属酸化物粒子の表面処理を行うとしても、表面処理前の金属酸化物ナノ粒子は、表面処理剤中への分散性が低く、更には強い凝集性を有しているために、金属酸化物ナノ粒子の表面を効果的に表面処理すること自体が難しい事情があった。つまり、金属酸化物ナノ粒子の表面処理により当該粒子の分散性を向上させるのは、難しいのが実情であった。そのため、金属酸化物ナノ粒子の表面処理を十分に行うためには、高温高圧処理(特許文献5参照)、ミル処理(特許文献6参照)などのコストや手間のかかる処理が必要であった。
【0010】
上記金属酸化物ナノ粒子の分散性の問題を解消する手段としては、金属酸化物ナノ粒子の製造過程において、その製造される粒子に高分散性を付与する方法がある。例えば、酢酸亜鉛などをアルコールに溶解し、さらにカルボン酸を添加して加熱することによって、カルボン酸残基を含有する金属酸化物粒子を製造する方法(特許文献7参照);有機相であるZr(IV)−第3級カルボン酸溶液と水との異相溶液を200℃付近で水熱処理することにより、第3級カルボン酸により表面処理された酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する方法(非特許文献1参照);である。
【特許文献1】特開2003−73563号公報
【特許文献2】特開2000−281934号公報
【特許文献3】特開2005−316219号公報
【特許文献4】特開2003−73558号公報
【特許文献5】特開2005−193237号公報
【特許文献6】特開2005−220264号公報
【特許文献7】特開2000−185916号公報
【非特許文献1】小西康裕ら,化学工学会第65年会 研究発表講演要旨集,N202(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、硬化性樹脂中に金属酸化物ナノ粒子、特に酸化ジルコニウムナノ粒子が高分散している樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、特定の被覆剤(I)と当該被覆剤(I)以外の被覆剤(被覆剤(II))により被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子が硬化性樹脂に高分散することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る樹脂組成物は、被覆剤(I)および被覆剤(II)により被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子と、硬化性樹脂とを有し、前記被覆剤(I)が下記一般式(1)で表されるカルボン酸であることを特徴とする。
1−COOH (1)
ここで、一般式(1)中、R1は炭素数6以上の炭化水素基を表す。また、被覆剤(II)とは、被覆剤(I)以外の被覆剤であれば、限定されない。
【0014】
前記被覆剤(II)の一種として好ましいものは、金属原子と該金属原子に結合している加水分解性基を有する有機金属化合物である。この有機金属化合物は、前記金属原子に芳香環を有する基が結合しているものがより好ましい。この場合、前記酸化ジルコニウムナノ粒子の1H−NMRチャートのピーク面積および次式に基づいた面積比が40%以上であると好適である。なお、「芳香族プロトン」とは、芳香環を形成している炭素に結合している水素原子をいう。
【0015】
【数1】

【0016】
前記酸化ジルコニウムナノ粒子が正方晶の酸化ジルコニウムを含んでいると、その屈折率は高い。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、分散剤を含んでいると好適である。前記酸化ジルコニウムナノ粒子には、被覆剤(I)だけでなく、被覆剤(II)によっても被覆されているので、分散剤による分散性向上が顕著となる。
【0018】
前記分散剤としては、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物から選択された一種または二種以上の化合物が好ましい。
2−R3−O−(CO−R4−O)a−CO−R5−COOH (2)
(一般式(2)中、R2は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および(メタ)アクリロイル基から選択された基を表し、R3はアルキレン基、またはアリール基を表し、R4はアルキレン基を表し、R5はアルキレン基、アリール基、およびアルキン基から選択された基を表し、aは1以上の整数を表す。)
6−[CO−(O−R7−CO)b−OH]c (3)
(一般式(3)中、R6は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および置換基を有していても良いビニル基から選択された基を表し、R7はアルキレン基を表し、bは1以上の整数を表し、cは1〜4の整数を表す。)
8−R9−O−(CO−R10−O)d−H (4)
(一般式(4)中、R8は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および(メタ)アクリロイル基から選択された基を表し、R9はアルキレン基、またはアリール基を表し、R10はアルキレン基を表し、dは1以上の整数を表す。)
【0019】
前記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を有すると良い。また、前記樹脂組成物は、光学材料用樹脂組成物であると良い。
【0020】
前記樹脂組成物を硬化させてレンズ等の成形体を製造でき、当該レンズを使用して光学部品を製造できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る樹脂組成物によれば、硬化性樹脂に分散する酸化ジルコニウムナノ粒子に被覆剤(I)および被覆剤(II)が被覆されているので、当該粒子の分散性が高い。その結果、例えば、樹脂組成物の硬化物の光透過率が良好になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(樹脂組成物)
以下に本発明について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、少なくとも表面の一部が被覆剤により被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子(以下において、単に「ナノ粒子」と称することがある)と、硬化性樹脂とを有する。そして、本発明の樹脂組成物には、分散剤が含まれている場合がある。また、本発明の樹脂組成物には、添加剤が含まれている場合がある。以下に、本発明の樹脂組成物を詳細に説明する。
【0023】
ナノ粒子
ナノ粒子の形状としては、球状、楕円球状、立方体状、直方体状、ピラミッド状、針状、柱状、棒状、筒状、りん片状、板状、薄片状などがあり、本発明における好ましいナノ粒子の形状は、分散性の観点から、球状、および柱状である。
【0024】
ナノ粒子の粒子径は、ナノレベルといえるものであれば特に制限されないが、その上限値は、通常20nm以下である。20nmを超えると、樹脂組成物の成形体(硬化物)の透明性が低下する傾向がある。粒子径は、19nm以下であると好ましく、18nm以下であるとより好ましい。一方、粒子径の下限値は、ナノ粒子の凝集性が低い1nm以上が良く、2nm以上が好ましい。前記粒子径は、顕微鏡観察で測定された粒子径の個数基準の平均値である。つまり、透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などで粒子を拡大観察し、無作為に選択した100個のナノ粒子の長軸方向の長さを測定し、その平均値を粒子径とする。
【0025】
ナノ粒子サイズのバラツキが樹脂組成物成形体の光透過性や屈折率などの物性にバラツキを生じさせるおそれがあるので、ナノ粒子の粒度分布は狭いことが望まれ、その粒子径の変動係数(CV値)は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。ここで、前記変動係数(CV値)は、σ/x×100[式中、σは粒子の粒度分布の標準偏差を示し、xは粒子の平均粒子径(nm)を示す]から算出される変換係数である。
【0026】
樹脂組成物におけるナノ粒子の含有量の下限は、特に限定されないが、通常は2質量%、より好ましくは10質量%である。一方、上限は、樹脂組成物として実用的な80質量%であると好ましく、60質量%であるとより好ましい。
【0027】
被覆剤
本発明においては、硬化性樹脂中におけるナノ粒子の分散性を高めるために、酸化ジルコニウムナノ粒子が、被覆剤(I)だけでなく、被覆剤(II)(被覆剤(I)以外の被覆剤)によっても被覆されている。なお、以下において、被覆剤(I)および被覆剤(II)の双方を意味するときは「被覆剤」という。
【0028】
被覆剤(I)は、下記一般式(1)で表されるカルボン酸であり、その一種または二種以上が選択されていても良い。
1−COOH (1)
一般式(1)中、R1は炭素数6以上の炭化水素基を表す。
【0029】
親水性の酸化ジルコニウム表面は一般的に正に帯電し、被覆剤(I)中のカルボキシル基が酸化ジルコニウム表面に対する親和性を示すので、被覆剤(I)で酸化ジルコニウム表面を被覆できるのである。なお、被覆剤(I)中のカルボキシル基は、−COO−の形で酸化ジルコニウム表面に結合している可能性もある。
【0030】
被覆剤(I)におけるR1の炭素数が6以上であることから、硬化性樹脂におけるナノ粒子の高分散性を実現できる。なお、被覆剤(I)は、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの疎水性溶媒中でのナノ粒子分散を優れるものとする。
【0031】
1は、直鎖状、分枝鎖状、および環状の何れの炭化水素基であっても良い。直鎖状よりも分枝鎖状のものが、硬化性樹脂および疎水性溶媒中におけるナノ粒子の分散性を特に優れるものとするので、好ましい。
【0032】
被覆剤(I)の具体例としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ステアリン酸などの直鎖状カルボン酸;2−エチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクサン酸、ネオデカン酸などの分枝鎖状カルボン酸;ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの環状カルボン酸;が挙げられる。
【0033】
ネオデカン酸や2−エチルヘキサン酸などの分枝鎖状カルボン酸を被覆剤(I)として選択することが、ナノ粒子の分散性の観点から好適である。この場合、R1が直鎖状炭化水素基である被覆剤(I)を併用することが、硬化性樹脂および疎水性溶媒中におけるナノ粒子の分散性を一層向上させることができるので、より好適である。
【0034】
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)等でナノ粒子の分析を行なえば、被覆剤(I)が被覆されているかを確認できる。例えば、FT−IR分析でCOOH由来の吸収スペクトルが確認されれば、ナノ粒子が被覆剤(I)で被覆されていることになる。
【0035】
他方の被覆剤(II)は、その一種または二種以上が選択されていても良い。
【0036】
被覆剤(II)としては、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、水素原子等の加水分解性基およびSi、Al、Ti、Zr等金属原子を有し、かつ、これらが直接結合している有機金属化合物が好適である。当該有機金属化合物には、その金属原子に加水分解性基以外のフェニル基、アルキル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、水酸基等の結合基を有している場合がある。このような有機金属化合物も被覆剤(II)として好適であり、芳香環を有する基(例えばアリール基、アラルキル基)および加水分解性基が金属原子に結合している有機金属化合物が被覆剤(II)としてより好適である。そして、前記芳香環を有する基としては、ベンゼン環を有する基(例えば、フェニル基)が好適である。
【0037】
上記被覆剤(II)に該当する有機金属化合物としては、例えば、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムトリ−t−ブトキシド、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリエトキシエトキシド、アルミニウムフェノキドなどのアルミニウムアルコキシド;ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレート、アルミニウムステアレートオキサイドトリマー、イソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテートモノ(ジオクチルホスフェイト)などのアルミニウム系カップリング剤;チタニウム−n−ブトキシド、チタニウムテトラ−t−ブトキシド、チタニウムテトラ−sec−ブトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトライソブトキシド、チタニウムラクテート、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラ(メトキシプロポキシド)、チタニウムテトラ(メトキシフェノキシド)、チタニウムテトラ−n−ノニロキシド、チタニウムテトラ−n−ブトキシド、チタニウムテトラステアリロキシド、チタニウムビス(トリエタノールアミン)ジイソプロポキシドなどのチタニウムアルコキシド;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスフェイト)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェイト)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェイト)エチレンチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェイト)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネートなどのチタン系カップリング剤;フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、エトキシトリフェニルシラン、トリフェニルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタンなどのシランカップリング剤;ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド、ジルコニウムテトラ(2−エチルヘキソキシド)、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−プロポキシド、ジルコニウムテトラ(2−メチル−2−ブトキシド)などのジルコニウムアルコキシド;ジルコニウムジn−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウムトリn−ブトキシドペンタンジオネート、ジルコニウムジメタクリレートジブトキシドなどのジルコニウム化合物;が挙げられる。
【0038】
有機金属化合物を被覆剤(II)として選択している場合、誘導結合プラズマ分析装置(IPC)、電子線マイクロアナライザ(XMA)、X線光電子分析装置(ESCA)等でナノ粒子の分析を行うことにより、被覆剤(II)が被覆されているかを確認できる。つまり、有機金属化合物の構成元素となっているケイ素、チタン、アルミニウム等の金属元素の定性的確認を行なうことができれば、ナノ粒子が被覆剤(II)で被覆されていることになる。なお、IPCにより有機金属化合物の構成元素となっているケイ素、チタン、アルミニウム等の金属元素と酸化ジルコニウムの構成元素であるジルコニウムの定量分析を行えば、被覆材(II)の被覆量を確認することができる。
【0039】
また、FT−IRで有機金属化合物に由来する基(例えば、−Si−O−C−)の吸収スペクトルが確認されれば、ナノ粒子が被覆剤(II)で被覆されていることになる。
【0040】
上記有機金属化合物以外の被覆剤(II)としては、ヒドロキシステアリン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸;2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸などのエーテルカルボン酸;カルボキシル化ポリブタジエン、カルボキシル化ポリイソプレンなどのカルボン酸系カップリング剤;マレイン酸変性ポリプロピレンなどのカルボン酸ポリマー;フェニルグリシジルエーテル、p−tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミドなどのエポキシ基を1個有するエポキシ化合物;3−エチル−3(フェノキシメチル)オキセタン等のオキセタン基を1個有するオキセタン化合物;エピチオプロピルフェニルエーテル等のエピスルフィド基を1個有するエピスルフィド化合物;等が挙げられる。これら有機金属化合物以外の被覆剤(II)は、芳香環を有していることが好ましく、この芳香環にはハロゲン原子等が結合していても良い。
【0041】
ナノ粒子における被覆剤(被覆剤(I)および被覆剤(II))の割合としては、この被覆されているナノ粒子を空気雰囲気中で加熱し、有機成分を除去したときの減量率で40質量%以下が好適である。当該減量率が40質量%を超えると被覆剤の量が多過ぎ、酸化ジルコニウム本来の高屈折化作用が十分に発揮されない場合があり得る。一方、当該減量率が5質量%未満では被覆剤の量が少な過ぎて粒子の分散性が十分に改善されない場合があり得るので、当該減量率は5質量%以上が好ましい。より好ましくは、10質量%以上、30質量%以下である。更に好ましくは、15質量%以上、30質量%以下である。前記減量率は、例えばマックサイエンス社製のTG−DTA分析装置を用い、空気雰囲気下で10℃/分の速度で粒子を800℃まで昇温し、減少質量/加熱前質量×100により算出される値である。なお、TG−DTA分析装置で測定した時の発熱ピークが300℃以上であるものが、被覆された粒子の熱安定性の観点から好ましい。
【0042】
ナノ粒子表面の被覆剤における被覆剤(II)の割合は、例えば、被覆剤(II)としてより好適な芳香環を有する基および加水分解性基が金属原子に結合している有機金属化合物を使用する場合、1H−NMRチャートのピーク面積および次式に基づいた面積比が40%以上、99%以下であると良く、70%以上が更に好ましい。この面積比は、被覆剤(I)が芳香環を有するものであっても、面積比が40%以上、99%以下であると良く、70%以上が更に好ましい。
【数2】

【0043】
酸化ジルコニウム
ナノ粒子を構成する酸化ジルコニウムは、その全部が非晶質であると樹脂組成物成形体の屈折率が十分高くない場合が多いため、立方晶、正方晶および単斜晶の何れかの結晶形を有することが好ましい。高い屈折率を発揮する酸化ジルコニウムとしては、正方晶を有するものである。従って、本発明における酸化ジルコニウムにおいては、少なくともその一部が正方晶であると好ましく、一部に単斜晶および/または立方晶など他の結晶形が正方晶と混在していても良い。
【0044】
分散剤
本発明に係る樹脂組成物には、樹脂組成物におけるナノ粒子の分散性を向上させるため、一種または二種以上の分散剤を含ませることが好ましい。この分散剤によるナノ粒子分散性効果は、ナノ粒子が被覆剤(I)だけでなく被覆剤(II)にも被覆されているものなので、顕著である。
【0045】
下記一般式(2)で表される化合物から選ばれた一種または二種以上を分散剤として使用することが好適である。
【0046】
2−R3−O−(CO−R4−O)a−CO−R5−COOH (2)
一般式(2)中のR2、R3、R4、R5、およびaの詳細は次の通りである。R2は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および(メタ)アクリロイル基から選択された基を表す。R3は、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、シクロヘキシレン基)、またはアリール基(例えば、フェニル基)を表す。R4は、アルキレン基を表し、その構造は環状よりも直鎖状が好ましく、その炭素数は炭素数3〜20であると好ましい。R5は、アルキレン基、アリール基、およびアルキン基から選択された基を表し、好ましくはアルキレン基であり、このアルキレン基の構造は環状よりも直鎖状であることが好ましく、その炭素数は2〜6であると好ましい。aは、1以上の整数を表し、50以下の整数であると好ましく、20以下であるとより好ましい。
【0047】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、ダイセル化学工業社製「プラクセルFM1A」、「プラクセルFM4A」、「プラクセルFM10A」等のラクトン変性カルボキシル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。そして、上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、下記式(2a)〜(2d)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
下記一般式(3)で表される化合物から選ばれた一種または二種以上を分散剤として使用することも好適である。なお、下記一般式(3)で表される化合物の一種または二種以上を、上記一般式(2)で表される化合物の一種または二種以上と併用しても良い。
【0053】
6−[CO−(O−R7−CO)b−OH]c (3)
一般式(3)中のR6、R7、b、およびcの詳細は次の通りである。R6は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および置換基を有していても良いビニル基(例えば、メチルビニル基)から選択された基を表す。R7は、アルキレン基を表し、その構造は環状よりも直鎖状が好ましく、その炭素数は炭素数3〜20であると好ましい。bは、1以上の整数を表し、50以下であると好ましく、20以下であるとより好ましい。cは、1〜4の整数を表し、1〜2であると好ましい。
【0054】
上記一般式(3)で表される化合物としては、ω―カルボキシカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ω―カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のカプロラクトン変性物等が挙げられる。そして、上記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、下記式(3a)〜(3d)で表される化合物が挙げられる。
【0055】
CH2=C(CH3)−COO−(CH2)5−COOH (3a)
CH3−COO−(CH2)5−COOH (3b)
【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
また下記一般式(4)で表される化合物から選ばれた一種または二種以上を分散剤として使用することも好適である。なお、下記一般式(4)で表される化合物の一種または二種以上を、上記一般式(2)および/または上記一般式(3)で表される化合物の一種または二種以上と併用しても良い。
【0059】
8−R9−O−(CO−R10−O)d−H (4)
一般式(4)中のR8、R9、R10、およびdの詳細は、次の通りである。R8は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および(メタ)アクリロイル基から選択された基を表す。R9は、アルキレン基、またはアリール基を表し、R10はアルキレン基を表し、その構造は環状よりも直鎖状が好ましく、その炭素数は炭素数3〜20であると好ましい。dは1以上の整数を表す。
【0060】
上記一般式(4)で表される化合物としては、ダイセル化学工業社製「プラクセルFM1」、「プラクセルFM5」等があり、下記式(4a)で表される化合物が上記一般式(4)で表される化合物の具体例として挙げられる。
【0061】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2O[CO(CH2) 5O]H (4a)
上記式(4a)中、nは、平均付加モル数を表し、1〜10の整数である。
【0062】
上記一般式(2)〜(4)以外に好適な分散剤としては、−O−(CO−R4−O)a−CO−R5−COOH基(当該基中、R4、R5、aは上記一般式(2)のR4、R5、aと同じ)、−CO−(O−R7−CO)b−OH基(当該基中、R7、bは上記一般式(3)のR7、bと同じ)、または−O−(CO−R10−O)d−H基(当該基中、R10、dは上記一般式(4)のR10、dと同じ)を有する重合体が挙げられる。当該重合体は、−O−(CO−R4−O)a−CO−R5−COOH基等を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合させることにより得られる。
【0063】
樹脂組成物における分散剤の含量は、ナノ粒子に対して0.005質量%以上、20質量%以下であると良く、好ましくは0.02質量%以上、10質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上、5質量%以下である。分散剤の含量が0.005質量%未満であると、分散剤の分散性向上効果が十分発揮されない場合があり、一方、20質量%を超えると、硬化させた樹脂組成物の屈折率が大きく低下することがある。
【0064】
硬化性樹脂
加熱されると硬化する熱硬化性樹脂;可視光線、紫外線、赤外線などの光が照射されると硬化する光硬化性樹脂;および、電子線が照射されると硬化する電子線硬化性樹脂;などが、本発明における硬化性樹脂に該当する。
【0065】
公知の硬化性樹脂を本発明の硬化性樹脂として使用できる。例えば、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0066】
エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミニジフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、トルイジン型エポキシ樹脂等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、1,2,8,9−ジエポキシリモネン等の脂環式エポキシ樹脂;1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキタセニル)メトキシ]メチル}ベンゼン等のオキセタン樹脂;が挙げられる。
【0067】
添加剤
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて添加剤が含まれている。かかる添加成分としては、公知の硬化剤が挙げられる。硬化剤を使用するときには、公知の硬化促進剤を併用しても良い。
【0068】
硬化剤を選択する場合、硬化させた樹脂組成物の耐熱等に優れる理由から、紫外線などによりカチオン種またはルイス酸を発生する光カチオン重合開始剤、および/または、熱によりカチオン種またはルイス酸を発生する熱カチオン重合開始剤を選択することが好適である。
【0069】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、米国特許第3,379,653号に記載されたような金属フルオロホウ素錯塩および三フッ化硼素錯化合物;米国特許第3,586,616号に記載されているようなビス(ペルフルオルアルキルスルホニル)メタン金属塩;米国特許第3,708,296号に記載されているようなアリールジアゾニウム化合物;米国特許第4,058,400号に記載されているようなVIa族元素の芳香族オニウム塩;米国特許第4,069,055号に記載されているようなVa族元素の芳香族オニウム塩;米国特許第4,068,091号に記載されているようなIIIa〜Va族元素のジカルボニルキレート;米国特許第4,139,655号に記載されているようなチオピリリウム塩;米国特許第4,161,478号に記載されているようなMF6−陰イオン(ここで、Mは、リン、アンチモンおよびヒ素から選択される)の形のVIb元素;米国特許第4,231,951号に記載されているようなアリールスルホニウム錯塩;米国特許第4,256,828号に記載されているような芳香族ヨードニウム錯塩および芳香族スルホニウム錯塩;W.R.Wattらによって「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science)、ポリマー・ケミストリー(Polymer Chemistry)版」、第22巻、1789頁(1984年)に記載されているようなビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロ金属塩(例えば、リン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩など);鉄化合物の混合配位子金属塩;シラノール−アルミニウム錯体;などが挙げられる。これらの紫外線重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの紫外線重合開始剤のうち、アリールスルホニウム錯塩、ハロゲン含有錯イオンの芳香族ヨードニウム錯塩または芳香族スルホニウム錯塩、II族、V族およびVI族元素の芳香族オニウム塩が好適である。これらの塩のいくつかは、例えば、UVI−6992(ダウ・ケミカル社)、FX−512(3M社)、UVR−6990、UVR−6974(ユニオン・カーバイド社)、UVE−1014、UVE−1016(ジェネラル・エレクトリック社)、KI−85(デグッサ社)、SP−150、SP−170(旭電化社)、サンエイドSI−60L、SI−80L、SI−100L(三新化学工業社)などの市販品を入手することができる。
【0070】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、トリフル酸(トリフルオロメタンスルホン酸)塩、三フッ化ホウ素エーテル錯化合物、三フッ化ホウ素などのカチオン系またはプロトン酸触媒が挙げられる。これらの熱カチオン重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの熱カチオン重合開始剤のうち、トリフル酸塩が好適であり、具体的には、例えば、3M社からFC−520として入手できるトリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸トリエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、トリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウムなど(これらの多くは、R.R.Almによって1980年10月発行のモダン・コーティングス(Modern Coatings)に記載されている)が挙げられる。また、光カチオン重合開始剤として用いられる芳香族オニウム塩の中には、熱によりカチオン種を発生するものがあり、これらの光カチオン重合開始剤も熱カチオン重合開始剤として用いることができる。具体的には、例えば、サンエイドSI−60L、SI−80L、SI−100L(三新化学工業社)が挙げられる。
【0071】
これらの光および熱カチオン重合開始剤のうち、取り扱い性に優れ、潜在性と硬化性とのバランスに優れることから、オニウム塩が好適であり、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩が特に好適である。
【0072】
なお、上記に例を挙げた硬化剤以外の硬化剤であっても、ポリアミド類、脂肪族ポリアミン類、環状脂肪族ポリアミン類、芳香族ポリアミン類、これらの一部を変性したアミン類、酸無水物類、ジシアンジアミド類、イミダゾール類、アミンイミド類、ヒドラジド類、ノボラック系硬化剤(例えば、フェノールノボラック、クレノールノボラック)等の公知の硬化剤を適宜選択して本発明に係る樹脂組成物に添加することも許容される。
【0073】
硬化剤以外の添加剤としては、例えば、着色剤、離型剤、シリコーン化合物、反応性希釈剤、安定化剤、難燃助剤、架橋剤等の公知の硬化性樹脂用添加剤が挙げられる。
【0074】
また、樹脂組成物の成形性向上のための添加剤として可塑剤を使用しても良い。その可塑剤の具体例としては、リン酸トリブチル、リン酸2−エチルヘキシルなどのリン酸エステル系可塑剤;フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチルなどのフタル酸エステル系可塑剤;オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステルなどの脂肪族一塩基酸エステル系可塑剤;アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシルなどの脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラートなどの多価アルコールエステル系可塑剤;アセチルリシノール酸メチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのオキシ酸エステル系可塑剤;塩素化パラフィン;ポリプロピレングリコールアジペート、1,3−ブチレングリコールアジペート、重量平均分子量が1000〜15000程度の共縮合ポリマーなどのポリエステル系可塑剤;エポキシステアリン酸アルキル、エポキシトリグリセリドなどのエポキシ系可塑剤;ステアリン酸系可塑剤;が挙げられる。エポキシ樹脂を用いる場合の好ましい可塑剤の一種としては、ポリグリコール類可塑剤である。
【0075】
(樹脂組成物の製法)
本発明に係る樹脂組成物の製造例は以下の通りである。当該製造例は、酸化ジルコニウム前駆体および被覆剤(I)の混合液を調製する前駆体混合液調製工程;水熱反応により、被覆剤(I)が被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子を得る水熱反応工程;前記酸化ジルコニウムナノ粒子の表面に被覆剤(II)を被覆する後被覆工程;当該後被覆工程で得られたナノ粒子を、硬化性樹脂に分散させる粒子分散工程;を有する。以下、当該方法を、工程順に説明する。
【0076】
前駆体混合液調製工程
本工程では、少なくとも酸化ジルコニウム前駆体および被覆剤(I)を混合することにより、これらを含有する前駆体混合液を調製する。当該混合液の溶媒は、有機溶媒である。
【0077】
酸化ジルコニウム前駆体としては、例えば、ジルコニウムの水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、オキシ硝酸塩、硫化物、カルボン酸塩、アミノ化合物塩、および金属アルコキシド等が挙げられる。これらの酸化ジルコニウム前駆体のうち、安価であり且つ微細なナノ粒子を得ることができるオキシ塩化物、およびオキシ硝酸塩が好ましい。前駆体混合液中の酸化ジルコニウム前駆体の量は、通常、2質量%以上、95質量%以下程度であると良い。2質量%未満であると酸化ジルコニウムの収率が少なくなるおそれがあり、95質量%を超えると前駆体混合液中の固形分量が多いために後の水熱反応が生じ難い可能性がある。好ましい酸化ジルコニウム前駆体量は、5質量%以上、90質量%以下程度である。
【0078】
前駆体混合液における有機溶媒には、水と二相を形成するものが選択される。例えば、炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコール、アミン、カルボン酸などを有機溶媒として使用できる。次工程における水熱反応を考慮すれば、沸点が120℃以上の有機溶媒が好適である。沸点が120℃未満の有機溶媒では水熱反応時における蒸気圧が高くなるため反応圧を高くせざるを得ず、結果的に酸化ジルコニウム粒子の凝集や融着が生じ易くなるおそれがある。よって、沸点が180℃以上の有機溶媒がより好ましく、沸点が210℃以上の有機溶媒がより好ましい。具体的な有機溶媒としては、デカン、ドデカン、テトラデカン、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸などがある。
【0079】
次の手順により、前駆体混合液を調製できる。アルカリ性水溶液、被覆剤(I)、および酸化ジルコニウム前駆体を混合・攪拌し、次に有機溶媒を添加・攪拌して有機溶媒相(油相)−水相を形成させた後、有機溶媒相を回収すれば前駆体混合液が得られる。この調製過程においては、加熱(例えば、30〜80℃)しつつ攪拌することが好適である。
【0080】
水熱反応工程
本工程では、前工程で調製された前駆体混合液と水の水熱反応用混合液を調製し、水熱反応により、被覆剤(I)が被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子を調製する。
【0081】
水熱反応用混合液を調製するための水の種類は、特に限定されないが、純水を用いることが好ましい。この混合するための水のpHを4以上、9以下にすることが好ましいので、酸やアルカリなどを適宜加えて水のpHを調整してもよい。水の量は、(水のモル数)/(ジルコニウムのモル数)が4以上、100以下となるようにすることが好ましい。当該比が4未満の場合には分散性に劣るナノ粒子が生成するおそれがあり得る。一方、当該比が100を超えると水の量が多くなるため、1回の水熱反応における酸化ジルコニウム回収量が少なくなる場合がある。当該比は8以上、50以下がより好ましい。
【0082】
水熱反応用混合液へは、前駆体混合液相および/または水相における酸化ジルコニウム前駆体の分散性向上のために、カルボン酸、アミン化合物、アルコキシド、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤などを添加しても良い。このときの好適な添加量は、酸化ジルコニウム前駆体に対して0.01モル倍以上、2モル倍以下程度である。
【0083】
調製した水熱反応用混合液が静置状態で二層になる場合、水熱反応を開始させる直前に激しく攪拌して、当該混合液を懸濁状態にしても良い。
【0084】
水熱反応においては、圧力が1MPaG以上であると粒子凝集が生じやすくなることがあると共に、その圧力を実現するための装置が通常高価となる。そのため、本水熱反応では、1MPaG未満の比較的穏和な水熱反応条件で微細な酸化ジルコニウム粒子を製造する。従来の高温高圧条件(例えば、400℃、30MPaG)とは異なり、上記の温和な圧力条件で酸化ジルコニウム粒子を製造できるのは、単なるジルコニウム塩水溶液を使用せずに前工程で調製した前駆体混合液を使用するからである。一方、水熱反応における圧力下限は、常圧で反応させると酸化ジルコニウム結晶形成に高温を要し、熱による粒子凝集が促進されるおそれがあるため、0.1MPaGが好ましく、0.2MPaG以上がより好ましい。
【0085】
水熱反応における温度は、有機溶媒などの沸点を考慮し、反応容器内の圧力が1MPaG未満となるように設定すればよい。水の飽和水蒸気圧を考慮すれば180℃以下の温度で反応させることが好ましい。
【0086】
水熱反応時間の制限は特にないが、通常は0.1時間以上、10時間以下程度であり、0.5時間以上、6時間以下が好ましい。
【0087】
また、反応系雰囲気も特に制限されず、空気、酸素、水素、窒素、アルゴン、二酸化炭素などの反応系雰囲気にすることができる。粒子凝集の抑制や安全を考慮すれば、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気で反応させることが好ましい。
【0088】
水熱反応の結果、被覆剤(I)で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子が生成し、水相の下部に沈殿する。副生した凝集体や析出したカーボンを除去するために、そのナノ粒子を精製することが好ましい。例えば、沈殿した酸化ジルコニウムナノ粒子を濾別し、次にこのナノ粒子をトルエンなどに分散、濾過し、減圧濃縮すれば、凝集体やカーボンを除去できる。なお、酸化ジルコニウムナノ粒子を製造するために用いた有機溶媒を分離し、これを再利用することも可能である。かかる再利用は廃液量や製造コストを抑制できることから好ましい。
【0089】
後被覆工程
本工程では、酸化ジルコニウム粒子表面の被覆剤(I)の一部を被覆剤(II)に置換することにより、被覆剤(I)および被覆剤(II)により被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子を得る。前記被覆剤(II)への置換は、酸化ジルコニウムナノ粒子を溶媒に分散させた後、当該溶媒に被覆剤(II)を添加混合することにより行なわれる。このとき、常温で前記添加混合を行っても良いが、上記置換を促進するためには、加熱状態でその添加混合を行なうことが好ましい。加熱する場合、還流することが好ましい。
【0090】
酸化ジルコニウムナノ粒子は被覆剤(I)で被覆されているので、当該粒子は疎水性溶媒中で高分散する。例えばベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンにおいてその粒子が高分散し、これらの疎水性溶媒を使用可能である。なお、水、炭素数4以下のアルコールなどの親水性溶媒を用いると酸化ジルコニウムナノ粒子の凝集が生じるおそれがある。よって、本工程で行なう粒子分散と、親水性溶媒に親水性の高い酸化ジルコニウム粒子を分散する従来の分散とは、全く異なるものである。
【0091】
酸化ジルコニウム量を適宜調整し、これを溶媒中に分散させると良く、酸化ジルコニウム濃度が0.1質量%以上、50質量%以下程度にすることが好ましい。
【0092】
被覆剤(II)の添加量を増加させるほど、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆する被覆剤(II)の量も増加する傾向がある。その傾向に応じて被覆剤(II)の添加量が適宜調整される。その添加量は、被覆剤(I)が被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子に対する被覆剤(II)の被覆量が1質量%以上、40質量%以下となる量にすることが通常である。被覆剤(II)の被覆量が1質量%未満の場合には、被覆剤(II)の量が不足して、トルエンなど非極性有機溶媒以外の溶媒におけるナノ粒子の分散性が向上しないおそれがある。一方、40質量%を超える場合には、ナノ粒子表面における被覆剤(II)の量が過剰になりうる。より好ましくは被覆剤(II)の被覆量が3質量%以上、30質量%以下となる添加量であり、さらに好ましくは5質量%以上、25質量%以下となる添加量である。
【0093】
被覆剤(II)添加後に加熱する場合、その温度を適宜調整する。通常は30℃以上、200℃未満程度の温度にし、より好ましくは40℃以上、180℃未満、さらに好ましくは50℃以上、160℃未満にする。加熱時間も、適宜調整する。通常は0.1時間以上、10時間未満、より好ましくは0.3時間以上、6時間未満程度とする。なお、還流する場合には、使用している溶媒の沸点と気相部の減圧〜加圧調整により制御すると良い。
【0094】
上記還流により被覆剤(I)および被覆剤(II)が被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子が生成する。ナノ粒子を回収するための方法としては、(1)溶媒の減圧留去、(2)ナノ粒子との親和性が低い溶媒を添加することによりナノ粒子を凝集または析出させ、この凝集粒子を濾別回収する方法、がある。
【0095】
粒子分散工程
粒子分散工程では、硬化性樹脂およびナノ粒子を混合して本発明に係る樹脂組成物を調製する。この場合、必要に応じて分散剤も混合する。ナノ粒子を硬化性樹脂と直接混合しても本発明に係る樹脂組成物が得られるが、常温または加熱された硬化性樹脂の粘度が高い場合には、ナノ粒子を容易に分散できないことがある。そのため、本製造例における粒子分散工程では、ナノ粒子の分散を容易に行なうべく、溶媒に硬化性樹脂およびナノ粒子を添加・混合(必要ならば分散剤も混合)し、溶媒を除去する。
【0096】
本工程で使用する溶媒には、減圧留去等の手段で除去され、かつ、ナノ粒子が分散するものの一種または二種以上を適宜選択する。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールなどのアルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル;エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサンなどの炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;水;が挙げられる。そして、溶媒の使用量は、ナノ粒子量に応じて適宜選択される。
【0097】
(樹脂組成物の用途)
本発明の樹脂組成物、およびその製造例は、以上の通りである。ナノ粒子が高分散している本発明に係る樹脂組成物の成形体は、高屈折率、高光線透過率等の性質を示す。したがって、本発明に係る樹脂組成物を硬化させて製造した成形体の利用価値は高い。その成形体を、車載カメラ、PC用カメラ、デジタルカメラ、携帯電話、デジタルビデオ、監視カメラ等のレンズ;光ファイバー;光導波路;光フィルター;光学用接着剤;光ディスク基板;ディスプレイ基板;コーティング剤;プリズム;光拡散板;などの光学材料として使用できる。
【0098】
上述の通り、本発明に係る樹脂組成物の成形体は、高屈折率、高光線透過率の性質を示す。本発明の樹脂組成物から製造された成形体の厚みを調整することにより、その成形体の可視光透過率を80%以上、ヘイズ値を10%以下にすることが可能であり、さらに可視透過率を85%以上、ヘイズ値を5%以下にすることができる。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0100】
(ナノ粒子)
次の製造例の通り、被覆剤(I)および/または被覆剤(II)が被覆された酸化ジルコニウム粒子を調製した。
【0101】
製造例1:被覆剤(I)が被覆されている酸化ジルコニウム粒子の調製
攪拌されている40℃の純水700gに、水酸化ナトリウム(キシダ化学社製、特級)100gを添加して溶解させた。次いで、被覆剤(I)であるネオデカン酸495g(ジャパンエポキシレジン社製)を撹拌下、添加し、ネオデカン酸ナトリウム水溶液を調製した。該溶液を80℃にし、オキシ塩化ジルコニウム・8水和物(第一希元素化学工業社製ZrOCl2・8H2O「ジルコゾール ZC−20」)740gを撹拌下、20分かけて投入し、80℃で1時間半撹拌を続けたところ、白色で高粘度なネオデカン酸ジルコニウムが生成した。次にテトラデカンを1270g添加して撹拌すると、油相(ネオデカン酸ジルコニウムとテトラデカンとを含有する相)と水相の二相からなる溶液が得られた。水相を分離除去して油相部分を回収した。このようにして得られた油相部を純水で3回洗浄した。次いで油相1000gと純水500gを撹拌機付きオートクレーブ内に仕込み、反応容器中の雰囲気を窒素ガスにより置換した。その後、175℃まで加熱し、3時間反応させた。175℃反応中の容器中圧力は、0.9MPaであった。反応後の溶液を取出し、底部の沈殿物をろ過により回収した。該沈殿物をアセトンで洗浄し、乾燥させた後、トルエンに分散させたところ、白濁溶液となった。次に、精製工程として定量濾紙(アドバンテック東洋社製 No.5C)にて再度ろ過を行い、沈殿物中の粗大粒子などを除去した。その後、ろ液中のトルエンを減圧除去することにより、白色の被覆剤(I)で被覆された酸化ジルコニウム粒子を回収した。
【0102】
製造例2:被覆剤(I)および被覆剤(II)で被覆された酸化ジルコニウム粒子の製造
上記製造例1で得られた被覆剤(I)が被覆されている酸化ジルコニウム粒子12.3gをトルエン87.7gに分散させて溶液を調製し、該溶液に被覆剤(II)であるフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 KBM−103)4gおよび超純水4gを添加し、90℃で1時間撹拌下、還流した。還流処理後の溶液を放冷した後、n−ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させることにより、溶液を白濁させた。次いで、白濁溶液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で真空乾燥し、被覆剤(I)および被覆剤(II)で被覆された酸化ジルコニウム粒子を調製した。
【0103】
製造例3:被覆剤(I)および被覆剤(II)で被覆された酸化ジルコニウム粒子の製造(1)
被覆剤(II)であるフェニルトリメトキシシランの量を16g、超純水の量を16gとした以外は、製造例2と同様にして、被覆剤(I)および被覆剤(II)で被覆された酸化ジルコニウム粒子を調製した。
【0104】
製造例4:被覆剤(I)および被覆剤(II)で被覆された酸化ジルコニウム粒子の製造(2)
被覆剤(II)として、フェニルトリメトキシシラン1.91gとジフェニルジメトキシシラン(信越化学工業社製 KBM−202SS)3.82gを使用し、超純水の使用量を5.73gとした以外は、製造例2と同様にして、被覆剤(I)および被覆剤(II)で被覆された酸化ジルコニウム粒子を調製した。
【0105】
以上の製造例1〜4により得られた粒子について、下記結晶構造解析等を行なった。
【0106】
結晶構造解析
全自動多目的X線回折装置(スペクトリス社製、XPert Pro)を使用し、次の条件で測定した。
X線源: CuKα(0.154nm)
X線出カ設定: 45kV、40mA
ステップサイズ: 0.017°
スキャンステップ時間: 5.08秒
測定範囲: 5〜90°
測定温度: 25℃
製造例1〜4の粒子の何れの分析結果においても、酸化ジルコニウムの正方晶および単斜晶系結晶構造に帰属される回折線が検出された。回折線の強度から、何れの酸化ジルコニウムも、主として正方晶からなり、わずかに単斜晶を含むものであることが確認された。
【0107】
粒子径
粒子を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)で観察した。拡大観察された粒子を任意に100個選択し、各粒子の長軸方向の長さを測定してその平均値を平均粒子径とした。製造例1〜4の粒子の何れにおいても、平均粒子径は5nmであった。
【0108】
被覆剤
フーリエ変換赤外分光光度計による分析を行なった。その結果、製造例1の粒子については、C−H由来の吸収およびCOOH由来の吸収が認められ、酸化ジルコニウム粒子がネオデカン酸に被覆されていることを確認した。また、製造例2〜4の粒子については、ネオデカン酸のC−HおよびCOOHに由来する吸収と、フェニルトリメトキシシラン、および/またはジフェニルジメトキシシランのSi−O−Cに由来の吸収が認められ、酸化ジルコニウム粒子がネオデカン酸とフェニルトリメトシキシラン、または、ネオデカン酸とフェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランにより被覆されていることを確認した。
【0109】
有機成分量
TG−DTA(熱重量−示差熱分析)により、空気雰囲気下、10℃/分の速度で800℃まで昇温し、粒子の質量減少率を測定し、これを粒子の有機成分量とした。製造例1の粒子の有機成分量は19質量%、製造例2の粒子については17質量%、製造例3の粒子については19質量%、製造例4の粒子については15質量%であった。
【0110】
被覆剤(II)の比率(芳香族H面積比)
粒子分散重クロロホルムを測定試料とし、1H−NMR(Varian社製「Unity Plus」、共鳴周波数:400MHz、積算回数:16回、基準物質:テトラメチルシラン)により分析した。そして、1H−NMRチャートにおける全プロトンピーク面積に対する芳香族プロトンピーク(8〜6ppmのピーク)面積の百分率を求めた。その結果、製造例1の粒子については0%、製造例2の粒子については54%、製造例3の粒子については84%、製造例4の粒子については49質量%であった。
【0111】
(実施例および比較例の樹脂組成物)
製造例1〜4のいずれかで得られた粒子、エポキシ樹脂、および分散剤の所定量(後記表1参照)を、トルエン10質量部と混合後、トルエンを90℃で減圧留去することにより実施例および比較例の樹脂組成物を調製した。そして、上記樹脂組成物に離型剤としてステアリン酸0.05質量部を添加し、80℃で混合した。この混合物を50℃に冷却後、カチオン系重合開始剤(三新化学工業社製「サンエイドSI80L」)0.01質量部を更に添加し、混合した。その後、樹脂組成物を減圧下に置いて、脱泡処理した。
【0112】
上記樹脂組成物の調製で使用したエポキシ樹脂は、下記式(5a)で表されるジャパンエポキシレジン社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂「JER828EL」、下記式(5b)で表されるジャパンエポキシレジン社製水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコートYX−8000」、下記式(5c)で表されるダイセル化学工業社製脂肪族環状エポキシ樹脂「セロキサイド2021P(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)」、または下記式(5d)で表される宇部興産株式会社製オキセタン樹脂「ENTERNACOLL OXBP」である。
【0113】
【化7】

【0114】
【化8】

【0115】
【化9】

【0116】
【化10】

【0117】
また、上記樹脂組成物の調製で使用した分散剤は、上記式(4a)で表されるn=1の化合物であるダイセル化学工業社製「プラクセルFM−1」、上記式(4a)で表されるn=5の化合物である同社製「プラクセルFM−5」、又は上記式(2a)で表される分散剤Aである。なお、分散剤Aは、カプロラクトン変性付加ヒドロキシエチルメタクリレート(ダイセル化学工業社製「プラクセルFM−1」)1.20g、無水コハク酸7.8g、トリフェニルホスフィン0.2gを混合し、窒素ガス流通下において80℃にて4時間加熱して得られた分散剤(前記加熱後のガスクロマトフラフ分析では、無水コハク酸は検出されなかった)である。
【0118】
(フィルムの作製)
上記脱泡処理した実施例および比較例の樹脂組成物を使用して、次の通り、フィルムを作製した。アプリケーターを使用し、樹脂組成物10milをガラス表面上に成膜した。この膜を150℃、3時間の条件で硬化させた。このとき、溶剤の存在により気泡が発生する場合には、減圧処理も併せて行った。硬化した膜をガラス板から剥がし、厚み250μmのフィルムを得た。
【0119】
上記のフィルムの厚み方向の光透過率(光波長:589nm)を、吸光光度計(島津製作所社製分光光度計「UV−3100」)を用いて測定した。その測定結果を次表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1において次のことを確認できる。
(1)分散剤を有さない場合において、被覆剤(II)を有さない比較例1の透過率に比して、被覆剤(II)を有する実施例5および6の透過率は明らかに高い。
(2)上記(1)と同様、分散剤を有する場合においても、被覆剤(II)を有さない比較例2よりも被覆剤(II)を有する実施例1〜4、7〜11の透過率が明らかに高い。従って、被覆剤(I)と被覆剤(II)を有する酸化ジルコニウム粒子の分散性が顕著に高いことを確認できる。また、この(2)の事項は、単に分散剤を使用しても、優れた透過率を実現できないことを示している(分散剤の使用には、被覆剤(I)だけでなく、被覆剤(II)の使用が必要であることを意味している。)。
(3)実施例5と実施例6との比較より、芳香族H面積比が高まると透過率も高まることを確認できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆剤(I)および被覆剤(II)により被覆されている酸化ジルコニウムナノ粒子と、硬化性樹脂とを有し、
前記被覆剤(I)が下記一般式(1)で表されるカルボン酸であることを特徴とする樹脂組成物。
1−COOH (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数6以上の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記被覆剤(II)の一種が、金属原子と該金属原子に結合している加水分解性基を有する有機金属化合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機金属化合物の金属原子に芳香環を有する基が結合している請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化ジルコニウムナノ粒子の1H−NMRチャートのピーク面積および次式に基づいた面積比が、40%以上である請求項3に記載の樹脂組成物。
【数1】

【請求項5】
前記酸化ジルコニウムナノ粒子が、正方晶の酸化ジルコニウムを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
分散剤が含まれている請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記分散剤が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物から選択された一種または二種以上の化合物である請求項6に記載の樹脂組成物。
2−R3−O−(CO−R4−O)a−CO−R5−COOH (2)
(一般式(2)中、R2は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および(メタ)アクリロイル基から選択された基を表し、R3はアルキレン基、またはアリール基を表し、R4はアルキレン基を表し、R5はアルキレン基、アリール基、およびアルキン基から選択された基を表し、aは1以上の整数を表す。)
6−[CO−(O−R7−CO)b−OH]c (3)
(一般式(3)中、R6は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および置換基を有していても良いビニル基から選択された基を表し、R7はアルキレン基を表し、bは1以上の整数を表し、cは1〜4の整数を表す。)
8−R9−O−(CO−R10−O)d−H (4)
(一般式(4)中、R8は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、および(メタ)アクリロイル基から選択された基を表し、R9はアルキレン基、またはアリール基を表し、R10はアルキレン基を表し、dは1以上の整数を表す。)
【請求項8】
前記硬化性樹脂がエポキシ樹脂を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物が光学材料用樹脂組成物である請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項8または9に記載の樹脂組成物を硬化させることにより製造された成形体。
【請求項11】
請求項9に記載の樹脂組成物を硬化させることにより製造されたレンズ。
【請求項12】
請求項11に記載のレンズを備える光学部品。


【公開番号】特開2009−67949(P2009−67949A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239830(P2007−239830)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】