説明

樹脂被覆ロールの形成方法

【課題】金属製ロールの表面に樹脂被膜層を備えた樹脂被覆ロールを再生する。
【解決手段】金属製ロール表面に熱硬化性樹脂からなる樹脂被膜層を備えた樹脂被覆ロールの再生方法であって、前記金属製ロールの表面に接着剤を介さずに焼結固定している樹脂被膜層を金属製ロールの表面から剥離し、ついで、残留付着物を除去して平滑面とした前記金属製ロールの表面に、接着剤を塗布しないと共に、接着樹脂剤を含まない樹脂被膜層とする樹脂のみ塗布し、ついで、焼結炉において常温から300℃以上500℃以下の加熱温度に10時間〜80時間をかけて昇温して、前記金属製ロールの表面と樹脂被膜層の間にガスを溜めずに樹脂被膜層を金属製ロールの表面に焼結して設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂被覆ロールの形成方法に関し、詳しくは、金属ロールの表面に樹脂被膜層を設けた樹脂被覆ロールの形成方法において、樹脂被膜層が摩耗、破損、老朽化等をしても再使用できるように樹脂被膜層を形成するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属管の表面に設ける樹脂被膜層はスプレー塗布して形成している場合が多いが、特開平5−186119号公報に記載のように、金属管の表面に接着剤を塗布して接着剤層を形成した後に、加熱した硬質樹脂シート(硬質塩化ビニル)を接着剤層に付着して形成する場合もある。
【0003】
また、特開2000−191178号公報に記載のように、金属ロールの表面上に、粉体接着剤と係合用粉体とを塗布した後に、焼き付け炉で加熱して焼結固定している場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−186119号公報
【特許文献2】特開2000−191178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、接着剤層で樹脂被膜層を固着すると、該樹脂被膜層あるいは該樹脂被膜層の表面に積層しているゴム層あるいは/および樹脂層が摩耗してロールの寿命がきた時に、金属製ロールの表面から樹脂被膜層を含めた被膜層を剥離して新たな樹脂被膜層を含めた被膜層を設ける作業が非常に困難となることから、再生使用されていない。
また、特許文献2のように、粉体接着剤を含めて塗布した後に焼結した場合も同様で、接着剤が金属ロールの表面に固着して剥離できず、よって、再生使用されていない。
【0006】
接着剤を用いずに樹脂被膜シートを金属ロールの表面に積層し、この状態で焼結した場合は、摩耗した樹脂被膜層を金属ロールの表面から剥離することができる。
しかしながら、金属ロールと樹脂被膜層とは接着していないため、焼結時に金属ロールと樹脂被膜層の間に焼成中に発生するガスが溜まりやすく、この溜まったガスにより金属ロール表面から部分的に樹脂被膜層が膨れる“フクレ”が発生しやすくなる。このガスによる“フクレ”は樹脂被膜層の肉厚が厚い程、発生しやすくなり、摩耗等を考慮して樹脂被膜層を厚くすると前記フクレ発生の問題が顕著になる。
【0007】
このように、金属ロールの表面に接着剤を介して樹脂被膜層を固着すると、摩耗等時に樹脂被膜層を剥離しにくくなり、再生が困難となる。一方、接着剤を介さずに積層した樹脂被膜層を焼結固定すると、摩耗等時に樹脂被膜層の剥離が容易となるが、金属ロールの表面に樹脂被膜層が密着せず、フクレが生じる問題がある。その結果、金属ロールの表面に樹脂被膜層を設けた構成のロールは、再生して利用がされていない現状である。
【0008】
本発明は、樹脂被膜層を金属ロールの表面に設けた樹脂被覆ロールにおいて、樹脂被膜層に摩耗、破損、老朽化等が生じても再生して利用できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、金属製ロールの表面に熱硬化性樹脂からなる樹脂被膜層を設けた樹脂被覆ロールの形成方法であって、
前記金属製ロール表面に接着剤層を設けずに前記樹脂被膜層を設けた後、焼結炉において常温から300℃以上500℃以下の加熱温度に10時間〜80時間をかけて昇温して、前記金属製ロールの表面と樹脂被膜層の間にガスを溜めずに焼結することを特徴とする樹脂被覆ロールの形成方法を提供している。
【0010】
前記のように、金属製ロールの表面に樹脂被膜層を接着剤を用いずに焼結固定しているため、樹脂被膜層が摩耗した時、樹脂被膜層を残留させずに容易に剥離でき、新たな樹脂被膜層を凹凸なく被覆可能となる。また、焼結工程で、前記300℃〜500℃までの範囲の目標温度に達するまで、10〜80時間の長時間をかけて昇温し、急激加熱しないことでガスの急激な発生を抑え、金属製ロールと樹脂被膜層の間にガス溜まりが生じるのを防止し、金属製ロールの表面に焼結された樹脂被膜層にフクレが生じるのを防止している。
【0011】
前記加熱温度および加熱時間は、樹脂被膜層の厚さ及び表面積、樹脂の種類に応じて前記温度範囲内および時間範囲内で調整している。
【0012】
具体的には、前記樹脂被膜層はポリイミド樹脂で、厚さ30μm〜150μmとする場合は、焼結温度は400℃〜450℃までとし、12〜70時間かけて昇温するのが好ましい。
【0013】
前記金属製ロールの表面に耐熱性を有するポリイミド樹脂層を設けたロールは、
例えば、画像形成装置に用いるロール等として好適に用いられるものである。
本発明は前記方法等で樹脂被膜層を設けたロールを提供しており、該ロールは、直径5〜150mmの金属製ロールの表面に、厚さ30〜150μmのポリイミド樹脂からなる樹脂被膜層を備え、前記金属製ロールと樹脂被膜層との間に接着剤を介設していないと共に、該金属製ロールと樹脂被膜層との間に0.5mm以上の空隙からなる樹脂被膜層のフクレが存在していないことを特徴とするロールを提供している。
なお、前記ロールは、ポリイミド被膜層が最表層ではなく、該ポリイミド被膜層の表面にさらにゴム層、フッ素樹脂層等を1層または複数層備えたロールであってもよい。
【0014】
前記金属製ロールの表面の樹脂被膜層の形成方法は、新製品のロールの製造時における樹脂被膜層の形成時に用いると共に、該ロールの樹脂被膜層が摩耗して再生する時にも好適に用いられる。
よって、本発明は第2の発明として、金属製ロール表面に樹脂被膜層を備えた樹脂被覆ロールの再生方法として、
前記金属製ロールの表面に接着剤を介さずに焼結固定している樹脂被膜層を金属製ロールの表面から剥離し、
ついで、残留付着物を除去して平滑面とした前記金属製ロールの表面に、接着剤を塗布しないと共に、接着樹脂剤を含まない樹脂被膜層とする樹脂のみ塗布し、
ついで、焼結炉において常温から300℃以上500℃以下の加熱温度に10時間〜80時間をかけて昇温して、前記金属製ロールの表面と樹脂被膜層の間にガスを溜めずに樹脂被膜層を金属製ロールの表面に焼結して設けることを特徴とする樹脂被覆ロールの再生方法を提供している。
【0015】
前記方法で再生された樹脂被覆ロールは、該再生ロールの表面の樹脂被膜層が摩耗、破損、老朽化等をした時に、同様な手法で再生でき、ロールを繰り返し用いることで資源を有効活用できる。かつ、この種の金属製ロールの表面に樹脂被膜層を設けたロール等を用いている装置自体の寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0016】
前記のように、本発明では、金属製ロールの表面に樹脂被膜層を接着剤を介さずに焼結固定しているため、樹脂被膜層あるいは該樹脂被膜層の表面に積層しているゴム層や樹脂層が摩耗、破損、老朽化した時に、前記樹脂被膜層を金属製ロールの表面から容易に剥離することができ、新たな樹脂被膜層で被膜してロールを再生することができる。このようにロールを再生利用して、資源を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の樹脂被覆ロールを示し、(A)は全体斜視図、(B)は要部拡大断面図である。
【図2】前記ロールの形成工程の説明図である。
【図3】実施形態の再生ロールの要部拡大断面図である。
【図4】再生工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態の樹脂被覆ロール1(以下、ロール1という)は、図1に示すように、金属製ロール2をベース層とし、その外周面にポリイミド樹脂からなる樹脂被膜層3を設けている。前記金属製ロール2の中空部に芯金棒6を密嵌固定している。
【0019】
ロール1の金属製ロール2は、アルミニウム、SUS等からなり、本実施形態はアルミニウム製であり、外径は130mmである。
前記ポリイミドからなる樹脂被膜層3の厚さは30〜150μmで、本実施形態は約50μmである。
【0020】
前記金属製ロール2の表面に樹脂被膜層3を設ける工程は、図2の工程図で示すように、イミド化前のポリイミド樹脂をノズルから金属製ロール2の表面に定量吐出してコーティングし、厚さが50μmの樹脂被膜層3を設ける。
前記ポリイミド樹脂をコーティングする前に金属製ロール2の表面には接着剤を塗布しておらず、かつ、樹脂被膜層3としてコーティングする樹脂剤中に接着剤となる樹脂は含めていない。
【0021】
前記のように、金属製ロール2の表面にポリイミド樹脂を厚さ50μmでコーティングして樹脂被膜層3を設けた後に乾燥させ、焼き付け炉に搬入して、樹脂被膜層3を焼結して金属製ロール2の表面に固定する。
【0022】
該焼き付け炉内での焼結は、焼結時に樹脂被膜層3と金属製ロール2との間にガスが溜まって樹脂被膜層3にフクレが発生しないように、長時間かけて設定温度まで昇温している。本実施形態では、常温から約60時間をかけて400℃まで昇温し、400℃に達した時点で焼結を終了している。
【0023】
前記のように金属製ロール2の表面に樹脂被膜層3を焼結固定してロール1を形成している。その後、ロール1の中空部に芯金棒6を挿入固定している。
【0024】
前記のように、金属製ロール2の表面に樹脂被膜層3を設けたロールは、樹脂被膜層3を長い時間をかけて焼結しているため、金属製ロール2の表面と樹脂被膜層3との間にガス溜まりによる“フクレ”は発生しない。詳細には、該フクレとなる0.5mm以上の空隙は発生しない。
また、金属製ロール2と樹脂被膜層3とを接着剤を介して固着していないため、金属製ロール2の表面の被膜層、即ち、樹脂被膜層3に摩耗、破損、老朽化等が生じた場合、該樹脂被膜層3を金属製ロール2の表面から容易に剥離できる。よって、新たな樹脂被膜層を金属製ロール2の表面に被覆して再生することができる。
【0025】
前記のように樹脂被膜層3を金属製ロール2の表面に設けたロール1が長期間使用されて、樹脂被膜層3に摩耗、破損、老朽化が生じた時、該樹脂被膜層3を金属製ロール2から剥離し、新たな被膜層を金属製ロール2の表面に設けてロールを再生している。図3に示す再生したロール30の構成は、前記図1に示す新生のロール1の構成と同様である。
【0026】
前記ロール1をロール30に再生する方法について説明する。
図4に示すように、まず、再生前のロール1から芯金棒6を引き抜いて分離する。
ついで、ロール1の金属製ロール2の表面から樹脂被膜層3を剥離する。樹脂被膜層3に別の層が積層している場合は樹脂被膜層3と共に金属製ロール2から剥離する。
【0027】
樹脂被膜層3は金属製ロール2に接着剤を用いず、焼結のみで固着しているため、樹脂被膜層3を所要の剥離力で金属製ロール2の表面から引き剥がすことで剥離することができる。
【0028】
前記樹脂被膜層3を剥離することで、金属製ロール2の表面は残留物がない平滑面となるが、残留物がある場合および汚れがある場合は、溶剤や粘着テープ等を用いて汚れ等を除去して平滑面とする。
【0029】
その後の工程は、前記ロール1の製造方法と同様としており、新たな樹脂被膜層31を焼結して設けている。その後、金属製ロール2の中空部に芯金棒6を圧入して、図1に示す新生のロール1と同等の再生ロール30を形成している。
【0030】
前記のようにロールを再生できるため、再生ロールを安価に提供することができ、かつ、資源の有効利用を図ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ロール
2 金属製ロール
3 樹脂被膜層
6 芯金棒
30 再生ロール
31 再生する樹脂被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ロールの表面に熱硬化性樹脂からなる樹脂被膜層を設けた樹脂被覆ロールの形成方法であって、
前記金属製ロール表面に接着剤層を設けずに前記樹脂被膜層を設けた後、焼結炉において常温から300℃以上500℃以下の加熱温度に10時間〜80時間をかけて昇温して、前記金属製ロールの表面と樹脂被膜層の間にガスを溜めずに焼結することを特徴とする樹脂被覆ロールの形成方法。
【請求項2】
前記樹脂被膜層は、ポリイミド樹脂製で、厚さ30μm〜15μmとし、12〜70時間かけて400℃〜450℃に昇温している請求項1に記載の樹脂被覆ロールの形成方法。
【請求項3】
直径5〜150mmの金属製ロールの表面に、厚さ40〜120μmのポリイミド樹脂からなる樹脂被膜層を備え、前記金属製ロールと樹脂被膜層との間に接着剤を介設していないと共に該金属製ロールと樹脂被膜層との間に0.5mm以上の空隙からなる樹脂被膜層のフクレが存在していないことを特徴とする樹脂被覆ロール。
【請求項4】
金属製ロール表面に熱硬化性樹脂からなる樹脂被膜層を備えた樹脂被覆ロールの再生方法であって、
前記金属製ロールの表面に接着剤を介さずに焼結固定している樹脂被膜層を、金属製ロールの表面から剥離し、
ついで、残留付着物を除去して平滑面とした前記金属製ロールの表面に、接着剤を塗布しないと共に、接着樹脂剤を含まない樹脂被膜層とする樹脂のみ塗布し、
ついで、焼結炉において常温から300℃以上500℃以下の加熱温度に10時間〜80時間をかけて昇温して、前記金属製ロールの表面と樹脂被膜層の間にガスを溜めずに樹脂被膜層を金属製ロールの表面に焼結して設けることを特徴とする樹脂被覆ロールの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49249(P2013−49249A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189694(P2011−189694)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】