説明

樹脂被覆金属板

【課題】優れた昆虫忌避性を有し、かつその効果が長期間持続する、持続性に富む昆虫忌避性を有する樹脂被覆金属板を提供する。
【解決手段】基板である金属板の少なくとも片方の表面に、ピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとを含有し、ピレストロイド系化合物に対する前記多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が質量比で0.2〜1で、かつピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルの合計量が該樹脂被膜中の樹脂成分100質量部に対し5〜50質量部である樹脂被膜を、片面当たり付着量:0.2〜5g/m形成する。このような被膜組成とすることにより、昆虫忌避効果が10年程度以上の長期間持続する持続性に富む昆虫忌避性を有する樹脂被覆金属板となる。なお、ステンレス鋼板を基板とする場合には、樹脂被膜と基板との間に、中間層を形成することにより、樹脂被膜の被膜密着性が顕著に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴキブリをはじめとする、人に不快感を抱かせる昆虫(不快害虫)、あるいは衛生上、害を及ぼす昆虫(衛生害虫)等の昆虫忌避機能を有する樹脂被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、自動車部品、建築部材等では、意匠性や、さらには防錆性、耐食性、耐熱性等の向上を目的として、予め表面に塗装を施した塗装鋼板が使用されるようになっている。
近年、電気機器等では、機器内で発生する熱に誘引されて、機器内にゴキブリをはじめとする昆虫(害虫)が侵入して、様々な被害を発生させる場合が多い。例えば、機器内に侵入した昆虫が、機器内のプリント回路基板上での絶縁不調や導通不良を発生させる場合がある。このような被害を防ぐために、プリント回路基板に昆虫の忌避剤を塗布等して昆虫の侵入防止を図る対策が提案されている。しかし、このような方法では、忌避剤を充分な量とすることができず、また昆虫が基板に接触することが避けられず、昆虫の忌避という効果を充分に期待できないという問題があった。また、家屋内の流し台、ガステーブル、レンジ台、冷凍冷蔵庫、電子レンジ等の厨房機器の周辺にゴギブリ等の昆虫(害虫)が営巣し、衛生上さらには安全性の観点から問題となっていた。また、例えば、家屋内の厨房機器には、昆虫の忌避以外にも、美観、耐食性なども要求されている。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、冷間圧延鋼板などの金属板の表面に、樹脂層、害虫忌避剤または害虫忌避剤を含む層を順次形成した害虫忌避プレコート金属板(塗装鋼板)が記載されている。このような害虫忌避プレコート金属板(塗装鋼板)を、例えば家電機器の底板等の筐体に加工し、その筐体上にプリント回路基板を設置すれば、昆虫(害虫)が回路に接触することがなく、昆虫(害虫)が原因で生じる回路の接触、導通不良等の故障につながる可能性を低減できる効果があるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、25℃条件下における蒸気圧が1×10−3Pa以下であるピレスロイド系害虫定住防止成分と、あるいはさらに害虫定住防止成分の溶出助剤として多価アルコールの脂肪酸エステルとを含有する金属塗装用塗料で塗装された害虫定住性防止プレコート鋼板が記載されている。引用文献2に記載された、ピレスロイド系害虫定住防止成分と多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合比は、ピレスロイド系害虫定住防止成分:多価アルコールの脂肪酸エステルの比で、1:1〜1:10とすることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:5であるとしている。特許文献2に記載された技術によれば、強固な塗膜からも害虫の定住防止効果が発揮しやすくなるうえ、その効果が良好に維持されるとしている。
【0005】
また、特許文献3には、鋼板の表面に、潤滑剤と、忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を有する防虫鋼板が記載されている。そして、忌避剤としては、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物とすることが好ましいとし、その混合比は、質量比で昆虫忌避成分:多価アルコールの脂肪酸エステルの比で、10:1〜1:10、好ましくは1:1〜1:5であるとしている。特許文献3に記載された技術によれば、プレス成形時にとくに潤滑剤を使用することなくプレス加工が可能で、さらに溶接性も高く、ゴギブリ等の昆虫を寄せ付けない防虫性に優れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−300884号公報
【特許文献2】特開2006−212865号公報
【特許文献3】特開2006−231690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、鋼板表面に多量の、樹脂層や害虫忌避成分を含有する層を設ける必要があり、塗膜が厚くなり、製造コストが高騰するとともに、忌避成分が塗膜内に留まる割合が高くなり、使用した忌避成分の一部しか昆虫忌避効果に寄与しないという問題があった。また、特許文献2、3に記載された技術では、ピレスロイド系害虫定住防止成分に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの含有比率が高くなると、早期に有効成分が表面に溶出し忌避効果の持続性が低下し、5年程度しか効果が持続しないという問題があった。また、特許文献1〜3に記載された技術では、基板をステンレス鋼板とした場合にとくに、基板と被膜との間の密着性が低下し折り曲げ加工等を行うと、被膜剥離が生じるという問題もあった。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、ゴキブリ等の害虫を寄せ付けない優れた昆虫忌避性を有し、かつ10年程度以上という長期間、その効果が持続する、持続性に富む昆虫忌避性を有する樹脂被覆金属板を提供することを目的とする。また、本発明は、ステンレス鋼板を基板とし、持続性に富む昆虫忌避効果を有するとともに、樹脂被膜の密着性にも優れた樹脂被覆金属板を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した従来技術では、昆虫忌避効果の持続性は高々5年程度までであった。本発明者らは、昆虫忌避効果の持続性を10年程度以上とさらに向上させ、上記した目的を達成するために、昆虫忌避効果の持続性に影響する各種要因について鋭意研究した。その結果、昆虫忌避成分であるピレスロイド系化合物と、溶出助剤である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合比を特定範囲に調整したうえで、さらに昆虫忌避成分と溶出助剤との合計量を樹脂被膜全量に対する質量比率で特定範囲とすることにより、昆虫忌避効果の持続性を10年程度以上と、顕著に向上させることができることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、ステンレス鋼板を基板として、基板表面に、昆虫忌避効果を有する樹脂被膜を形成した場合の基板と樹脂被膜との密着性向上について鋭意研究した。その結果、基板と樹脂被膜との間に、中間層として、Zr、Si、P、Sから選ばれる元素の少なくとも1種を含有する水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤を使用して形成された被膜を有することにより、樹脂被膜と基板との密着性が顕著に向上することを見出した。
【0011】
本発明はかかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)金属板の少なくとも片方の表面に樹脂被膜を有する樹脂被覆金属板であって、前記樹脂被膜が、ピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとを含有する樹脂組成物からなり、該樹脂組成物中の前記ピレストロイド系化合物に対する前記多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が質量比で0.2〜1で、該樹脂組成物中の前記ピレストロイド系化合物と前記多価アルコールの脂肪酸エステルの合計量が該樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し5〜50質量部であり、前記樹脂被膜の付着量が片面当たり0.2〜5g/mであることを特徴とする持続性に富む昆虫忌避性を有する樹脂被覆金属板。
(2)(1)において、前記金属板がステンレス鋼板であり、該ステンレス鋼板と前記樹脂被膜との間に、中間層を片面当たり5〜30mg/m形成してなることを特徴とする樹脂被覆金属板。
(3)(2)において、前記中間層が、水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤を使用して形成された有機・無機複合被膜であることを特徴とする樹脂被覆金属板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴギブリ等の昆虫を寄せ付けない優れた昆虫忌避性を10年程度以上の長期にわたり安定して持続することが可能な、持続性に富む昆虫忌避性を有する金属板を安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる金属板を、電気機器のプリント基板、配線基板、内箱等に利用すれば、長期にわたり、昆虫の侵入による装置の故障というトラブルを大幅に低減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】定着忌避試験用器具の配置の概略を示す平面概略図である。
【図2】定着忌避試験用器具のシェルターの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂被覆金属板の基板は、金属板であればよく、とくにその種類を限定する必要はないが、耐食性の観点からは、表面にめっき処理、化成処理、PVD、CVD、表面熱処理、樹脂コーティング等が施された表面処理鋼板とすることが好ましい。表面処理鋼板としては、なかでも、亜鉛めっき鋼板または亜鉛合金めっき鋼板、例えば溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−5%アルミ二ウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−55%アルミ二ウム合金めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板などの、亜鉛系めっき鋼板や、アルミめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板が好ましい。また、基板は、美観性および耐食性の観点からステンレス鋼板とすることが好ましい。
【0015】
本発明の樹脂被覆金属板は、好ましくは上記した基板(金属板)の少なくとも片方の表面(片面)に、樹脂組成物からなる樹脂被膜を有する。なお、樹脂被膜は、両方の表面に設けてもよいことは言うまでもない。
本発明で基板に樹脂被膜を形成する樹脂組成物は、樹脂に、昆虫忌避剤であるピレストロイド系化合物と昆虫忌避剤を被膜表面に移行させる溶出助剤として作用する多価アルコールの脂肪酸エステルとを含有する。
【0016】
使用する樹脂はとくに限定する必要はなく、ピレストロイド系化合物を、均一に分散または溶解できるものであればよい。このような樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等が例示できる。なお、これらの樹脂は単独あるいは複合して使用してもなんら問題はない。
樹脂組成物中に含有させるピレストロイド系化合物は、昆虫が触れてはじめて不快感を感じその場から退避させる、昆虫忌避効果を有する昆虫忌避剤である。ピレストロイド系化合物は、蒸気圧が低く、空気中に長期間暴露しても蒸発しにくい物質であり、鋼板の表面に微量のピレストロイド系化合物を存在させるだけで、十分な昆虫忌避効果が得られる。
【0017】
このような効果を有するピレストロイド系化合物としては、例えば、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロぺニル)シクロプロンカルボキシラート、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−(1,2,2,2−テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキシラート、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート、(RS)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1RS,3RS)−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートが挙げられる。これら化合物を単独、あるいは適宜組み合わせて使用してもよい。
【0018】
なお、本発明では、樹脂組成物中に含有させるピレストロイド系化合物としては、25℃において蒸気圧が1×10−3Pa以下である物質とすることが好ましい。ピレストロイド系化合物のうち、より蒸気圧の低い化合物を選択することにより、昆虫忌避効果の持続時間を長く保持することができる。
また、本発明では、樹脂被膜となる樹脂組成物中に、上記したピレストロイド系化合物に加えて多価アルコールの脂肪酸エステルを含有させる。樹脂組成物中に多価アルコールの脂肪酸エステルを含有させることにより、樹脂被膜から含有するピレストロイド系化合物の溶出を促進させることができる。樹脂組成物中に、ピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルを複合して含有させることにより、多価アルコールの脂肪酸エステルは、ピレストロイド系化合物を被膜表面に移行させる溶出助剤として機能する。なお、溶出助剤としての多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、沸点が150℃以上、より好ましくは200℃以上の物質とすることが好ましい。高い沸点の多価アルコールの脂肪酸エステルを使用することにより、昆虫忌避効果の持続時間が長くなる。
【0019】
このような多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、トリグリセリド、多価アルコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が好ましい。なお、これらは、単独または2種以上を複合して混合してもよい。
【0020】
なお、トリグリセリドの好ましい具体例としては、ヤシ油、ココナツ油、サフラワー油、アカデミアナッツ油、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリド、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン等が例示できる。
また、多価アルコール脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリ2−エチルへキサン酸トリメチロールプロパン等が例示できる。
【0021】
また、グリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノワンデシレングリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル等が例示できる。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、ポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、ポリリシノレイン酸デカグリセリル等が例示できる。
【0022】
また、ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が例示できる。
また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノステアリン酸POE(6)ソルビタンが例示できる。
また、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10EO)、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール等が例示できる。
【0023】
本発明では、樹脂被膜を形成する樹脂組成物中に、上記したピレストロイド系化合物のうちの少なくとも1種と上記した多価アルコールの脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種とを、ピレストロイド系化合物に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの割合((多価アルコールの脂肪酸エステルの合計含有量)/(ピレストロイド系化合物の合計含有量))が質量比で0.2〜1となるように、配合する。ピレストロイド系化合物に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が0.2未満では、多価アルコールの脂肪酸エステルが少なく、ピレストロイド系化合物を樹脂被膜表面へ移行させる作用が小さく、昆虫忌避効果が十分に得られない。一方、ピレストロイド系化合物に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が1超えると、多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が多くなり過ぎて、ピレストロイド系化合物が被膜表面に早く移行し、短期間で昆虫忌避効果が低下する。なお、好ましくはピレストロイド系化合物に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が質量比で0.2以上1未満、さらに好ましくは0.2以上0.99以下、最も好ましくは0.6以上0.99以下である。
【0024】
さらに本発明では、樹脂被膜を形成する樹脂組成物中に、上記した配合比の、ピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとを、その合計量で、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し5〜50質量部含有する。その合計量が5質量部未満では、所望の昆虫忌避効果が望めない。一方、50質量部を超える含有は、処理液の安定性が低下し、鋼板表面に均一に樹脂組成物を塗布することが困難となり、均一な樹脂被膜を形成することが難しくなる。このため、樹脂組成物中のピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとの合計量を該樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し5〜50質量部に限定した。好ましくは10〜20質量部である。なお、ここでいう樹脂、ピレストロイド系化合物、多価アルコールの脂肪酸エステルの含有量は、乾燥後における含有量を意味する。
【0025】
本発明では、上記した樹脂被膜を、基板の少なくとも片面に形成する。樹脂被膜の付着量は、片面当たり0.2〜5g/mとする。樹脂被膜の付着量が0.2 g/m未満では、耐食性が不足するとともに、所望の昆虫忌避効果の持続性が不十分となる。一方、樹脂被膜の付着量が5g/mを超えると、加工性が低下するとともに、製造コストが高騰する。このため、基板の少なくとも片面に形成される樹脂被膜の付着量を片面当たり0.2〜5g/m2に限定した。なお、好ましくは0.3〜3g/mである。
【0026】
また、本発明で樹脂被膜を形成するために使用する樹脂組成物には、樹脂、ピレストロイド系化合物、多価アルコールの脂肪酸エステルとに加えてさらに、その他の成分として、顔料、分散剤、レべリング剤、ワックス、骨材、潤滑剤等を含有してもよい。これらその他の成分は、本発明の効果を阻害しない範囲であればよく、樹脂100質量部に対し、50質量部以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0027】
なお、基板をステンレス鋼板とした場合には、上記した樹脂被膜と基板との密着性を向上させるために、ステンレス鋼板と樹脂被膜との間に、中間層を片面当たり5〜30mg/m形成することが好ましい。なお、中間層は、水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤を使用して形成された被膜とすることが好ましい。水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤は、Zr、Si、P、Sから選ばれる元素の少なくとも1種を含有する処理剤とすることがより好ましい。中間層が、片面当たり5mg/m未満では、樹脂被膜の密着性が不十分であり、一方、30 mg/mを超えると、加工時に樹脂被膜が剥離しやすくなる。このようなことから、形成する中間層の付着量は、片面当たり5〜30mg/mに限定することが好ましい。なお、より好ましくは8〜15 mg/mである。付着量は乾燥後の被膜量を意味する。
【0028】
ここで、基板として使用するステンレス鋼板の種類、製造方法は、とくに限定されない。通常公知のフェライト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板等がいずれも好適に利用できる。また、基板とするステンレス鋼板表面の仕上げ程度についてもとくに限定されない。
つぎに、本発明の樹脂被膜の好ましい製造方法について説明する。
【0029】
まず基板を用意する。基板としては、亜鉛系めっき鋼板や、アルミめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等とすることが好ましい。なお、ステンレス鋼板を基板とする場合には、予め鋼板表面に、中間層として水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤を利用して、被膜を形成しておくことが好ましい。使用する水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤は、Zr、Si、P、Sから選ばれる元素の少なくとも1種を含有する処理剤とすることがより好ましく、そのような処理剤としては、例えば、日本ペイント株式会社製サーフコートEC2200が、あるいは、日本パーカライジング株式会社製CT−E312W、CT−E215、CT−E203等が例示できる。
【0030】
そして、上記したように、樹脂、ピレストロイド系化合物、多価アルコールの脂肪酸エステルと、さらに必要によりその他の成分を配合し、それらを、水または有機溶剤に溶解または分散させエマルジョンとした塗布用溶液(樹脂組成物を含有する溶液)(塗布用塗料)を用意する。なお、市販の樹脂塗料を利用して作業してもよい。
用意した塗布用溶液を、基板(金属板)の表面に、あるいは中間層が形成されている場合にはその上層とし、所望の付着量となるように塗布する。塗布方法は、通常のスプレー、バーコータ、ロールコータ、浸漬等の方法がいずれも適用できる。ついで、塗布された基板は、加熱炉に装入され、表面に樹脂被膜を形成する。使用する加熱炉は、通常の高周波誘導炉、熱風炉等がいずれも適用できる。なお、加熱炉の雰囲気温度は、塗布した樹脂の硬化温度以下の温度とすることが好ましい。なお、樹脂被膜を形成するために使用する樹脂には、硬化温度が250℃未満の樹脂を使用することが好ましい。250℃を超える硬化温度を有する樹脂を使用してもよいが、その場合には、ピレストロイド系化合物、多価アルコールの脂肪酸エステルの合計含有量を多くし、加熱時間を短くすることにより、所望の特性を確保することが肝要となる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
基板として、ステンレス鋼板(SUS430鋼帯:0.30mm厚2B仕上材)を用意した。基板から試験板(大きさ:200×200mm)を採取し、該試験板の片面に、表1に示す配合の樹脂被膜となるように調整した塗布用溶液を、バーコータを用いて、乾燥後に表1に示す付着量となるように塗布し、ついで熱風乾燥機(自動排出型熱風乾燥機:日本テストパネル工業(株)製)を用いて、雰囲気温度:220℃で40秒間乾燥し、基板表面に樹脂被膜を形成した。
【0032】
塗布用溶液の作製には、樹脂として、
記号(AM);アクリル・メラミン系樹脂(商品名:アクリル・メラミンクリアー塗料NSC900、日本ファインコーティング株式会社製、固形分濃度:50質量%)、または
記号(AC);アクリル系樹脂(商品名:アクリル系樹脂塗料JQ03A、日本ファインコーティング株式会社製、固形分濃度:50質量%)
を用いた。
【0033】
また、ピレストロイド系化合物としては、
記号(PA);α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロぺニル)シクロプロンカルボキシラート、または
記号(PB);(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート
を用いた。また、多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、
記号(EA);トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、または
記号(EB);ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、または
記号(EC);テトライソステアリン酸ペンタエリスリット
を用いた。
【0034】
なお、塗布用溶液中の各々の添加量は、表1に示す配合の樹脂被膜となるように、樹脂塗料への添加量を調整した。なお、ピレストロイド系化合物、多価アルコールの脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を添加しない場合も実施し、比較例とした。
基板表面に上記した樹脂被膜を形成した各試験板から、試験片を採取して、樹脂被膜の付着量、定着忌避試験を実施した。各試験の試験方法はつぎのとおりである。
(1)樹脂被膜の付着量測定
樹脂被膜を形成された試験板から、100×100mmの大きさの試験片を切り出し、その試験片の質量を秤量したのち、剥離試薬(商品名:ネオリバー(三彩加化工株式会社製))を被膜表面に塗布し、被膜を剥離除去した。ついで、水洗、乾燥したのち、試験片を秤量した。得られた樹脂被膜の剥離前後の質量差を樹脂被膜の付着量とした。
(2)定着忌避試験
樹脂被膜を形成された試験板から、100×100mmの大きさの試験片を2枚切り出し、試験1、試験2を実施した。なお、樹脂被膜を形成しない試験板からも同様の試験片を2枚採取した。
(2−1)試験1
大きさが450×450mmで壁の高さが100mmの四角なバット10を、床の上に水平に設置した。図1に示すように、餌3の周りに、樹脂被膜を形成した試験片1および樹脂被膜を形成しない試験片2をそれぞれ2枚ずつ、餌3を中心として対角となるように、配置した。なお、餌3の付近には水5を置いた。そして、試験片1および試験片2の上にシェルター4をそれぞれ配設した。シェルター4は、図2に示すように、上面を透明プラスチック板で覆った箱状で、100×100mm×高さ10mmの厚紙製で、4面に幅30×高さ50mmの入口41を設けたものである。
【0035】
このように配置されたバット10内に、チャバネゴキブリの雌と雄を、それぞれ50匹を放ち、室温で48時間放置した。放置後、試験片1上のシェルター4内、あるいは試験片2上のシェルター4内に定住しているゴキブリ数を数え、下記(1)式により定着忌避率を算出した。
定着忌避率(%)=[(試験片2上のシェルター内のゴキブリ数−試験片1上のシェルター内のゴキブリ数)/{(試験片1上のシェルター内のゴキブリ数)+(試験片2上のシェルター内のゴキブリ数)}]×100 ‥‥(1)
(2−2)試験2
試験片1,試験片2を、温度:50℃、湿度:75%の雰囲気の恒温恒湿槽で4ヶ月、および8カ月間放置したのち、試験1と同様の試験を実施する促進試験を試験2として行い、前記(1)式で定義される定着忌避率を算出した。なお、4ヶ月の促進試験では5年後程度の、また、8ヶ月の促進試験では10年後程度の定着忌避率が推定できる。
【0036】
得られた結果を表1に併記して示す。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明例はいずれも、優れた昆虫忌避効果を示し、5年程度後、さらには10年程度後においても、その効果を持続しており、持続性に富む昆虫忌避効果を有する樹脂被覆鋼板であることがわかる。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、経年に伴い昆虫忌避効果が急速に低下している。
(実施例2)
基板として、ステンレス鋼板(SUS430鋼帯:0.30mm厚・#240仕上材)、溶融亜鉛めっき板(GI:0.30mm厚)およびアルミニウム板(0.40mm厚)を用意した。基板から試験板(大きさ:200×200mm)を採取し、該試験板に、まず中間層を形成した。表3に示すように、Si元素とP元素を含むウレタン系樹脂系処理剤である(a)商品名:サーフコートEC2200(日本ペイント株式会社製)、またはSi元素とS元素を含むウレタン系樹脂系処理剤である(b)商品名:パルコートCT−E215(日本パーカライジング株式会社製)を用いて、基板表面に水分散樹脂系処理剤または水溶性樹脂系処理剤を使用して塗布し、表2に示す付着量と成るように被膜を形成し、中間層とした。なお、中間層の付着量は、Siを指標として蛍光X線を用いて付着量を測定した。一部には、中間層を形成しない例も作製した。
【0039】
ついで、樹脂系処理剤を使用して形成された被膜(中間層)の上層として、表2に示す配合の樹脂被膜となるように調整した塗布用溶液を、バーコータを用いて乾燥後に、表2に示す付着量となるように塗布し、ついで熱風乾燥機(自動排出型熱風乾燥機:日本テストパネル工業(株)製)を用いて、雰囲気温度:220℃で40秒間乾燥し、基板表面に中間層を含む樹脂被膜を形成した。
【0040】
基板表面に上記した中間層(中間層を形成しない場合も含む)および樹脂被膜を形成した各試験板から、試験片を採取して、樹脂被膜の付着量、定着忌避試験、さらに被膜密着試験を実施した。樹脂被膜の付着量、定着忌避試験は実施例1と同様とした。被膜密着試験の試験方法はつぎのとおりである。
(3)被膜密着試験
(3−1)一次試験
樹脂被膜を形成された試験板から、50×70mmの大きさの試験片を切り出した。この試験片の表面に、基板に達するように、カッターナイフで1mm間隔で11本の線を縦横、直交するように、罫書いて、100個の升目を形成したのち、セロハンテープを該試験片表面に貼り付け、引き剥がした。セロハンテープを引き剥がしたのち、樹脂被膜が剥離した升目の数を測定し、100個の升目のうち被膜の剥離しない升目の比率(%)で被膜密着性を評価した。この比率が高いほど高い被膜密着性を有する。
(3−2)二次試験
樹脂被膜を形成された試験板から、50×70mmの大きさの試験片を切り出した。この試験片を、沸騰水中に2時間浸漬したのち、表面に付着した水を拭取り、室温で30分放置した。その後、一次試験と同様に、試験片表面にカッターナイフで100個の升目を罫書いたのち、セロハンテープを該試験片表面に貼り付け、引き剥がし、一次試験と同様に被膜密着性を評価した。
【0041】
得られた結果を表3に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
基板と樹脂被膜との間に、本発明範囲の中間層を形成することにより、持続性に富む昆虫忌避効果を有するとともに、樹脂被膜の密着性が向上することがわかる。中間層を形成しない本発明例では、樹脂被膜の密着性が低下している。
【符号の説明】
【0045】
1 表面に樹脂被膜を形成した試験片
2 表面に樹脂被膜を形成しない試験片
3 餌
4 シェルター
41 入口
5 水
10 バット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片方の表面に樹脂被膜を有する樹脂被覆金属板であって、前記樹脂被膜が、ピレストロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとを含有する樹脂組成物からなり、該樹脂組成物中の前記ピレストロイド系化合物に対する前記多価アルコールの脂肪酸エステルの割合が質量比で0.2〜1で、該樹脂組成物中の前記ピレストロイド系化合物と前記多価アルコールの脂肪酸エステルの合計量が該樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し5〜50質量部であり、前記樹脂被膜の付着量が片面当たり0.2〜5g/mであることを特徴とする持続性に富む昆虫忌避性を有する樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記金属板がステンレス鋼板であり、該ステンレス鋼板と前記樹脂被膜との間に、中間層を片面当たり5〜30mg/m形成してなることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆金属板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−158801(P2010−158801A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1401(P2009−1401)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【出願人】(000197975)石原薬品株式会社 (83)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】