説明

樹脂被覆金属粉体の製造方法、および樹脂被覆金属粉体

【課題】導電性材料としての金属粉体に樹脂を被覆する工程が簡便であって、金属粉体に被覆した樹脂が容易に剥離しない樹脂被覆金属粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属粉体の表面を重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で覆う工程と、前記コート剤を被覆させた金属粉体と、重合性単量体と、重合開始剤と、分散剤とを、溶媒中で混合し、前記コート剤を構成する重合反応基に重合性単量体を重合させて、前記コート剤で覆われた金属粉体表面を重合樹脂で被覆する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆金属粉体の製造方法、および樹脂被覆金属粉体に関する。より具体的には、電子写真技術を利用して電気回路や電極など、広く導体パターンを形成する際に用いる回路形成用の金属トナーである、樹脂被覆金属粉体の製造方法、および樹脂被覆金属粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基板に導体パターンや電極を、電子写真法を用いて形成する際に、導電性材料を絶縁性合成樹脂で被覆して、たとえば、回路形成用トナーとしたものが用いられている。
【0003】
具体的には、たとえば、特許文献1には、導電性材料と、中和により自己水分散性となりうる非水溶性樹脂との混合物を、中和剤の存在下で乳化して得られる水性分散液(I)と、中和により自己水分散性または水性となる酸性基を有する
樹脂を塩基性中和剤の存在下で転相乳化して得られる水性分散液(II)を調整し、(I)および(II)の均一混合溶液に酸を加えることにより、導電体被覆樹脂粒子の表面に酸性基を有する樹脂を付着あるいは析出させ、固着させることを特徴とする、回路形成用トナーの製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開2001−154397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した製造方法を用いて作製された回路形成用トナーは、導電性材料に樹脂を被覆する工程において、被覆する導電性材料表面の性質(組成など)の影響を大きく受けるため、前記表面の性質がわずかに変化しただけで、樹脂による被覆が不十分となったり、金属粉体表面と被覆した樹脂との界面に水が残留するという問題がある。また、前記被覆に用いることのできる樹脂の種類には制限がある。さらに、前記被覆が不十分な場合、回路形成用トナーとして使用する際に、粉体トナー同士の摩擦や衝突により、導電性材料の表面に固着した樹脂が剥離するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、導電性材料としての金属粉体に樹脂を被覆する工程において、金属粉体表面の性質の影響等を受けず、また、重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で金属粉体を被覆することで、さらに被覆した樹脂が容易に剥離しない樹脂被覆金属粉体の製造方法を提供しようとすることである。さらには、該製造方法を用いた樹脂被覆金属粉体を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の樹脂被覆金属粉体の製造方法は、金属粉体の表面を重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で覆う工程と、前記コート剤を被覆させた金属粉体と、重合性単量体と、重合開始剤と、分散剤とを、溶媒中で混合し、前記コート剤を構成する重合反応基に重合性単量体を重合させて、前記コート剤で覆われた金属粉体表面を重合樹脂で被覆する工程とを有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の樹脂被覆銅粉体の製造方法は、前記樹脂被覆金属粉体が、電子写真法による導電パターン形成用の金属トナーとして用いられることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の樹脂被覆金属粉体は、金属粉体からなる芯材と、該芯材の周囲が重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で覆われ、該コート剤に覆われた芯材が、さらに樹脂で被覆されていることを特徴とする。
【0009】
さらには、本発明の樹脂被覆金属粉体は、電子写真法による導電パターン形成用の金属トナーとして用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂被覆金属粉体の製造方法を用いれば、金属粉体へ樹脂被覆を行う際に金属粉体表面の性質の制御等を必要とせず、かつ金属粉体と樹脂の密着力に優れた樹脂被覆金属粉体を得ることができる。このようにして得た樹脂被覆金属粉体は、各種の用途に応用されるが、例えば、回路形成用トナーとして使用が可能であり、回路パターンを印刷するとき、被覆した樹脂が剥離せず、印刷特性の良好な金属粉体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の樹脂被覆金属粉体の製造方法、および樹脂被覆金属粉体について説明する。
(1)コート剤を被覆させた銅粉体の作製
まず、表面を酸化処理した銅粉体55gと、重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤(ハイブリッドコート剤/富士化学製)を表1に示す量と、をエタノール中で混合し、表面処理銅粉体を得た。
【0013】
前記コート剤において、試料番号1、3、および5は、コート剤中の官能基{重合反応基、CH2=C(CH3)CO部分}の含有率が2.1重量%のコート剤を用いた。また、試料番号2と4については、コート剤中の官能基の含有量が1.1重量%のコート剤を用いた。
【0014】
なお、本実施例においては、あらかじめ表面を酸化処理した銅粉体を用いたが、本発明の目的を損なわない範囲で、前記銅粉体の表面処理については、適宜、行ってもよい。また、銅粉体の表面処理を行わなくても本発明と同様の効果が得られる。さらには、銅粉体表面へのコート剤の吸着において、前記コート剤は本発明の実施例で用いたハイブリッドコート剤以外の重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤を用いても同様の効果が得られる。
(2)コート剤を被覆させた銅粉体への樹脂の被覆
前記コート剤を被覆させた銅粉体(試料番号1〜5)10gと、分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース4gと、をエタノール中で分散させ、エタノール混合溶液Aとした。次に、前記エタノール混合溶液Aを60℃に加温し、30分間攪拌した後、さらに前記エタノール混合溶液Aに、重合性単量体としてスチレン10gと、重合開始剤(日本ヒドラジン製ABN−v)0.25gを加えて、9時間、重合反応を継続させた。この操作により、銅粉体表面を被覆したコート剤に含まれる重合反応基と、前記スチレンが重合し、コート剤を被覆した銅粉体表面に重合反応基を介して、樹脂が吸着(被覆)される。9時間、反応継続後にエタノール混合溶液Aを、別途準備したエタノール中へ滴下して、エタノール混合溶液A中の重合反応を停止させた。
【0015】
また、試料番号6については、表面を酸化処理した銅粉体20gとシランカップリング剤(KBM−503/信越化学製)0.2gと、をエタノール中で分散し、エタノール混合溶液Bとした。次に、前記エタノール混合溶液Bを1時間、加熱還流後にろ過を行い、さらに、オーブン中100℃で30分間乾燥させ、シランカップリング剤を被覆させた銅粉体を得た。次に、前記銅粉体10gと、分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース4gと、をエタノール中で分散し、エタノール混合溶液Cとした。次に、前記エタノール混合溶液Cを60℃に加温し、30分間攪拌した後、さらに前記エタノール混合溶液Cに、重合性単量体としてスチレン10gと、重合開始剤(日本ヒドラジン製ABN−v)0.25gを加えて、9時間、重合反応を継続させた。9時間、反応継続後にエタノール混合溶液Cを、別途準備したエタノール中へ滴下して、エタノール混合溶液C中の重合反応を停止させた。
【0016】
なお、コート剤を被覆させた銅粉体表面への樹脂の吸着において、分散剤は本発明の実施例で用いたヒドロキシプロピルセルロース以外の高分子分散剤、たとえば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロースやポリビニルピロリドンなどでもよい。
【0017】
また、本発明において重合性単量体は、スチレン以外のラジカル重合により、樹脂が得られるもの、たとえば、エチレン、プロピレン等のモノオレフィン類、α―スチレン等のスチレン類、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル等でもよい。
【0018】
次に、前記エタノール混合溶液AおよびCを静置し、上澄み液を廃棄した後、新たにエタノールを加えて攪拌する樹脂被覆銅粉体の洗浄作業を3〜4回行い、目的とする樹脂被覆銅粉体(試料番号1〜6)を得た。
(3)樹脂被覆銅粉体の樹脂被覆状態の評価
前記銅粉体表面に被覆したのコート剤の厚み(nm)は、コート剤の添加量(g)、コート剤中のシリカ量(g)、シリカの真比重(2.15)、被覆前の銅粉体の真比重(8.92)、被覆前の銅粉体量(g)、および被覆前の銅粉体の平均粒径(5500nm)から、以下に示す式1を用いて算出した。
式1:コート剤の厚み=(銅粉体の平均粒径/2)×〔{(シリカ量/シリカの真比重)×(銅粉体量/銅粉体の真比重)}1/3−1〕
また、前記コート剤被覆銅粉体に含まれる有機成分の含有率(重量%)は、コート剤中の官能基{CH2=C(CH3)CO部分}の含有率(重量%)、コート剤の添加量(g)、および銅粉体量(g)から、以下に示す式2を用いて算出した。
式2:有機成分の含有率=官能基の含有率×(コート剤の添加量/銅粉体量)
前記樹脂被覆銅粉体の樹脂付着量については、試料番号1〜6について、各0.05gをサンプリングし、30℃から550℃まで10℃/分の昇温速度で熱重量分析を行い、その重量減少量を測定した。
【0019】
前記重量減少量の測定においては、銅粉体表面に吸着している樹脂成分が多いほど、重量減少量が大きくなる。前記重量減少量が0.30wt%以上の場合は○、0.10wt%以上0.30wt%未満の場合は△、0.10wt%未満の場合は×として、表1の「樹脂付着量」の欄に示した。ここで、銅粉体表面に樹脂付着量が多いほど、銅粉体における摩擦帯電で生じる電荷が消失しにくくなり、以下に示す印刷性が向上する。
【0020】
前記樹脂被覆銅粉体の印刷性は、本発明で得られた樹脂被覆銅粉体を、樹脂コートフェライトキャリアと混合して現像剤を作製した後、電子写真法を用いて紙に印刷して評価した。印刷性の判定は、非印刷部にまで粉体トナーが飛散していない場合は○、わずかに飛散していた場合は△、ほとんどが飛散していた場合は×として、表1の「印刷性」の欄に示した。ここで、粉体トナーが飛散するのは、銅粉体が樹脂で被覆されていない場合、摩擦帯電による電荷が銅粉体から消失し、銅粉体が帯電した感光体表面上以外でキャリアから離れ現像ロールの回転に伴い、印刷機内で飛散することが原因である。
【0021】
その結果を表1に示す。表1において、*印を付したものは本発明の範囲外のものであり、それ以外は本発明の範囲内のものである。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、銅粉体表面を重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で覆い、前記コート剤が吸着した銅粉体表面に、重合反応基を介して、樹脂を被覆したもの(試料番号1〜5)では、樹脂付着量、および印刷性が向上していることが分かった。また、コート剤の厚みが13〜25nm、かつ、有機成分の樹脂被覆銅粉体に占める割合(有機成分の含有量)が0.15〜0.30wt%の場合には、樹脂付着量や印刷性が、さらに良好となることが分かった。
【0024】
コート剤を銅粉体に吸着させ、前記コート剤を吸着させた銅粉体表面に樹脂を被覆することで、被覆した樹脂が容易に剥離しない銅粉体を得ることが分かった。
【0025】
これに対して、本発明の範囲外である、銅粉体に直接、シリカカップリング剤を吸着させた後、重合反応により樹脂を被覆させようとしたもの(試料番号6)については、樹脂付着量、および印刷性が全て不良であり、銅粉体表面全面に樹脂が被覆していないことが分かった。
【0026】
なお、本発明においては、金属粉体として銅粉体を用いたが、電子写真法による導電パターン形成用の金属トナーに用いられる他の金属粉体、たとえば、Ni、Fe、Ag、Pd等の金属粉体でも本発明と同様の効果が得られる。
【0027】
また、金属粉体に樹脂を被覆した後、熱処理を行うと、金属粉体表面に吸着した樹脂が溶融し、金属粉体表面に濡れ広がることで、樹脂付着性や印刷性等の特性が向上する。具体的には、樹脂被覆金属粉体を気相中に分散させながら、300℃まで加熱した後、急冷すると、樹脂被覆金属粉体トナーの流動性が良くなる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉体の表面を重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で覆う工程と、
前記コート剤を被覆させた金属粉体と、重合性単量体と、重合開始剤と、分散剤とを、溶媒中で混合し、前記コート剤を構成する重合反応基に重合性単量体を重合させて、前記コート剤で覆われた金属粉体表面を重合樹脂で被覆する工程と,
を有することを特徴とする、樹脂被覆金属粉体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂被覆金属粉体が、電子写真法のよる導電パターン形成用の金属トナーとして用いられることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂被覆金属粉体の製造方法。
【請求項3】
金属粉体からなる芯材と、該芯材の周囲が重合反応性シランカップリング剤とSiアルコキシドを含むコート剤で覆われ、該コート剤に覆われた芯材が、さらに樹脂で被覆されていることを特徴とする、樹脂被覆金属粉体。
【請求項4】
前記樹脂被覆金属粉体が、電子写真法による導電パターン形成用の金属トナーとして用いられることを特徴とする、請求項3に記載の樹脂被覆金属粉体。

【公開番号】特開2006−77314(P2006−77314A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265524(P2004−265524)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】