説明

樹脂製プーリ

【課題】 樹脂製プーリを、成形後の収縮による歪みがなく寸法精度の高いものとし、振動等が発生しない回転精度の優れた信頼性の高いものとする。
【解決手段】 転がり軸受5の外径面2aに一体に設けられる樹脂製プーリ6が、共重合ナイロンを主成分とし、ガラス繊維を添加して補強されたポリアミド系樹脂組成物からなるものとする。ガラス繊維の溶融樹脂組成物中の配向性が適度に緩和されており、成形収縮率(%)における流れ方向および流れに直角方向の差が少なく、通常のガラス繊維強化のナイロン樹脂が奏する優れた引張強度、曲げ強度、圧縮強度は維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の外輪と一体に軸に装着される樹脂製プーリに関し、特に自動車のエンジンの回転駆動力をオルタネータ等の補機に伝動するためのベルト伝動装置に用いられる樹脂製プーリに適用できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用補機を駆動するベルト伝動装置は、図2に示すように、エンジンのクランクシャフト8の回転駆動力を補機の回転軸7に伝えるため、シャフト8と補機の回転軸7に巻き掛けた無端環状のベルト9で回転力を伝達するが、その際に補機の回転軸7には、転がり軸受5を介して樹脂製プーリ6が取り付けられている。
【0003】
このようにベルトの走行案内のために設けられる樹脂製プーリは、転がり軸受の外輪と一体になるように樹脂で環状に成形されたものが一般的であり、そのような樹脂製プーリには、射出成形性が要求される他、ベルトを案内する外径面の成形精度、ベルトの張力とその変化に耐える強度(引張強度、曲げ強度、圧縮強度など)が要求され、その他にも必要に応じて耐熱性、放熱性、酸化防止性などの諸特性が要求される。
【0004】
このような樹脂製プーリの樹脂組成としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46などのポリアミド樹脂(ナイロン)を主成分とし、直径10〜13μmのガラス繊維、または直径5〜9μmのガラス繊維を10〜50重量%含有するポリアミド系樹脂組成物からなるものが知られている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−340256号公報(請求項1、段落番号0003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の樹脂製プーリは、ガラス繊維で補強されたポリアミド系樹脂組成物の成形収縮率が、溶融成形時の樹脂の「流れ方向」と、その流れに直交する「直角方向」によって異なるため、成形された樹脂プーリが、収縮による歪みを有しやすくなり、また寸法精度の高い製品が得られ難いという問題点がある。
【0007】
また、ポリアミド樹脂にガラス繊維を配合する際に、ガラス繊維径や繊維長を調整し、できるだけ高寸法精度であるように細径のものを採用すると、高い強度を維持することが困難になる。
【0008】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、樹脂製プーリを、成形後の収縮による歪みがなく設計通りに形成される寸法精度の高いものとし、そのような高い寸法精度によって使用状態で振動等が発生しない回転精度の優れたものとし、すなわち、樹脂製プーリの使用状態の信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、転がり軸受の外径面に一体に設けられる樹脂製プーリにおいて、この樹脂製プーリは、共重合ナイロンを主成分とし、ガラス繊維を添加して補強されたポリアミド系樹脂組成物からなる樹脂製プーリとしたのである。
【0010】
上記したように構成されるこの発明の樹脂製プーリは、共重合ナイロンとガラス繊維との親和性が単独重合のナイロンを主成分とする場合に比べて改善されているとも考えられ、結果的にみても、ガラス繊維の溶融樹脂組成物中の配向性が適度に緩和されており、後述の実験結果からも明らかなように、成形収縮率(%)における流れ方向および流れに直角方向の差が少ない。しかも、通常のガラス繊維強化のナイロン樹脂が奏する優れた引張強度、曲げ強度、圧縮強度は維持される。
そのため、成形された樹脂プーリに、収縮による歪みがなくなり、寸法精度の高い製品が得られる。
【0011】
このような良好な特性を有する共重合ナイロンとしては、例えばナイロン6およびナイロン66を共重合成分とする6/66共重合ナイロンを採用することができる。
【0012】
この発明におけるポリアミド系樹脂組成物に添加するガラス繊維としては、繊維径5〜15μm、繊維長100〜900μmのガラス繊維を採用することが好ましい。
なぜなら、繊維径が5μm未満の細径では、配合された共重合ナイロンの機械的強度が充分に改善されず、強度改善のための添加効率も低くなり実用性が低下するからである。また繊維径15μmを超える太径では、共重合ナイロン中に繊維の配向が強く現れやすく、樹脂の流れ方向とそれに直角方向の成形収縮率の差が生じやすくなって好ましくないからである。
【0013】
また、繊維長100μm未満の短い繊維では、補強効果および寸法抑制効果が現れ難くなり、繊維長900μmを超えるガラス繊維では、溶融成形時に繊維が折れて実質的に短くなるから、それ以上の改善効果がなくなり、また配向性も低下して補強効果および成形収縮率の改善も低下し、また微小な部分に精度の高い成形を行なうことが困難になるからである。
【0014】
また、上記の成形収縮率についての課題を解決するために、転がり軸受の外径面に一体に設けられる樹脂製プーリにおいて、この樹脂製プーリは、共重合ナイロンを主成分とし、ガラス繊維および粒子状添加剤(フィラーとも称される。)を添加成分として配合された樹脂製プーリとしたのである。
【0015】
ポリアミド系樹脂組成物にガラス繊維および粒子状添加剤を添加しても、成形収縮率の改善効果があり、樹脂製プーリに要求されるその他の特性について、適量の粒子状添加剤によって対応することができる。
【0016】
粒子状添加剤の種類の例としては、耐摩耗性改良剤、熱伝導性改良剤および酸化防止剤から選ばれる1種以上の粒子状添加剤を挙げることとができる。
そのような粒子状添加剤の大きさは、粒径30μm以下の粒子状添加剤を採用することが均一分散性などの実用性の観点から好ましい。
【0017】
ポリアミド系樹脂組成物中のガラス繊維の配合割合は、20〜50重量%であることが好ましい。なぜなら、ガラス繊維の配合割合が20重量%未満の少量では、共重合ナイロンの機械的強度が充分に改善されず、成形収縮率の改善も満足すべきものにならないからである。ガラス繊維の配合割合が50重量%を超えると、射出成形時に必要な溶融粘度が高くなり、プーリの外径部などを精度良く成形することが困難になるからである。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、転がり軸受の外径面に一体に設けられる樹脂製プーリが、共重合ナイロンを主成分としてガラス繊維を添加して補強されたポリアミド系樹脂組成物からなるので、ガラス繊維の溶融樹脂組成物中の配向性が適度に緩和され、成形収縮率(%)における流れ方向および流れに直角方向の差が少なくなり、しかもガラス繊維強化のナイロン樹脂が奏する優れた引張強度、曲げ強度、圧縮強度は維持される。
【0019】
従って、この発明では、樹脂製プーリが成形後の収縮による歪みがなく設計の寸法通りに成形できる寸法精度の高いものとなり、そのような高寸法精度によって使用状態では振動などの発生がなく回転精度の優れたものになり、また樹脂製プーリの使用状態の信頼性が高まるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の実施形態を以下に添付図面を参照して説明する。
図1に示すように、第1実施形態は、内輪1と外輪2の間に、内輪1と外輪2を相対的に回転自在に支持する転動体3およびこれを回転自在に保持する保持器4を設けた深溝玉軸受からなる転がり軸受5の外径面に、一体に設けられる樹脂製プーリ6である。
【0021】
樹脂製プーリ6は、所定のポリアミド系樹脂組成物からなり、比較的肉厚の外周円筒部6aと内周円筒部6bを薄肉環状の円盤部6cで連続させて設けられている。このような樹脂製プーリ6は、外輪2の外径面2aおよびその縁に内周円筒部6bが固定されるように、一体成形(インサート成形)または締り嵌めによる組み付けによって設けることができる。
【0022】
上記したような実施形態は、図2に示すように、回転軸7に転がり軸受5を介して取り付けられる樹脂製プーリ6であり、例えばエンジンのクランクシャフト8の回転駆動力を補機に伝えるため、シャフト8と補機の回転軸7に巻き掛けた無端環状のベルト9で回転力を伝達する。
【0023】
図3に示すように、第2実施形態は、所定のポリアミド系樹脂組成物からなるリング状の樹脂製プーリ10の外周面に複数のV溝11が形成され、Vベルト12による伝動が行なえるように転がり軸受13を介してエンジンの補機14の回転軸15に取り付けられるものである。
なお、図3中の16は内輪、17は外輪、18は保持器、19はシール、20は転動体(ボール)を示している。
【0024】
この発明のポリアミド系樹脂組成物の主成分として用いることのできる共重合ナイロンとしては、各種のポリアミド樹脂の重合成分を組み合わせた共重合体が挙げられる。例えば、重合成分となりえる各種のポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD、テレフタル酸とヘキサメチレンジアミンを重合してなるナイロン(以下ナイロン6T)、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸を重合してなるナイロン(以下ナイロン6I)などが挙げられる。
【0025】
共重合ナイロンの具体例としては、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)などが挙げられる。
【0026】
前記したポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)の各成分量の例としては、ナイロン6成分98〜80重量%およびナイロン66成分2〜20重量%からなる共重合ナイロン、またはナイロン66成分98〜80重量%およびナイロン6成分2〜20重量%からなる共重合ナイロンが挙げられる。
【0027】
この発明におけるポリアミド系樹脂組成物に添加するガラス繊維としては、繊維径5〜15μm、繊維長100〜900μmのガラス繊維を採用することが好ましい。より好ましいガラス繊維径は、6〜10μmであり、前述の数値限定理由に加えて耐摩耗性がより改善されるからである。
【0028】
粒子状添加剤の例としては、耐摩耗性改良剤、熱伝導性改良剤および酸化防止剤が挙げられる。
【0029】
耐摩耗性改良剤としては、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラストナイトなどが挙げられる。
【0030】
熱伝導性改良剤としては、アルミナ、マグネシア、グラファイトなどが挙げられる。
【0031】
酸化防止剤としては、周知のプラスチック添加剤として、フェノール系、アミン系、ホスファイト系などの酸化防止剤が挙げられる。
【実施例1】
【0032】
6/66共重合ナイロン50重量%に、ガラス繊維(平均繊維径10μm、平均繊維長 500μm)50重量%を配合したポリアミド系樹脂組成物を射出成形し、図1に示す樹脂製プーリを得た。射出成形時には、転がり軸受を金型内に収容し、転がり軸受の外輪と金型との間のキャビティーに溶融したポリアミド系樹脂組成物をインサート成形した。
【0033】
また、実施例1の射出成形をした直後に、試験片用の金型を設けて試験片(ダンベル片)を作成した。この試験片を用いて溶融樹脂の「流れ方向」と、その流れに直交する「直角方向」の成形収縮率(%)を測定し、その結果を表1中に示した。
また、この試験片について完全に乾燥した条件で引張り強度(ISO527)、曲げ強度(ISO178)、圧縮強度(ISO604)を調べ、その結果を表1中に併記した。
【0034】
【表1】

【実施例2】
【0035】
実施例1において、6/66共重合ナイロン50重量%に、ガラス繊維20重量%を配合すると共に、フィラーとして黒鉛(粒径30μm)を30重量%配合したポリアミド系樹脂組成物を成形材料としたこと以外は、実施例1と全く同様にして射出成形し、樹脂製プーリおよび試験片を作成し、実施例1と同様に試験結果を表1中に併記した。
【実施例3】
【0036】
実施例1において、6/66共重合ナイロン50重量%に、ガラス繊維30重量%を配合すると共に、フィラーとして、黒鉛(粒径30μm)を20重量%配合したポリアミド系樹脂組成物を材料として用いたこと以外は、実施例1と全く同様にして射出成形し、樹脂製プーリおよび試験片を作成し、実施例1と同様に試験結果を表1中に併記した。
【0037】
[比較例1]
実施例1において、66ナイロン70重量%に、ガラス繊維30重量%を配合したポリアミド系樹脂組成物を材料として用いたこと以外は、実施例1と全く同様にして射出成形し、樹脂製プーリおよび試験片を作成し、実施例1と同じ条件で試験を行なった結果を表1中に併記した。
【0038】
表1の結果からも明らかなように、共重合ナイロンを使用しなかった比較例1では、成形収縮率の流れ方向と直角方向との成形収縮率の差が0.57と大きかった。
【0039】
一方、共重合ナイロンを使用した実施例1〜3では、成形収縮率の流れ方向と直角方向との成形収縮率の差がその差は0.42以下と小さかった。また、引張り強度、曲げ強度、圧縮強度について所用強度も有しており、同質の樹脂製プーリが、成形後の収縮による歪みがなく設計通りに形成される寸法精度の高いものとなり、しかも所要強度を有するため、使用状態では回転精度が優れたものになることが推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1実施形態を転がり軸受の外径面に一体に設けた状態を示す断面図
【図2】第1実施形態の使用状態を示す概略図
【図3】第2実施形態を転がり軸受の外径面に一体に設けた状態を示す断面図
【符号の説明】
【0041】
1、16 内輪
2、17 外輪
3、20 転動体
4、18 保持器
5、13 転がり軸受
6、10 樹脂製プーリ
6a 外周円筒部
6b 内周円筒部
6c 円盤部
7、15 回転軸
8 クランクシャフト
9 ベルト
11 V溝
12 Vベルト
14 補機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の外径面に一体に設けられる樹脂製プーリにおいて、
この樹脂製プーリは、共重合ナイロンを主成分とし、ガラス繊維を添加して補強されたポリアミド系樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂製プーリ。
【請求項2】
共重合ナイロンが、ナイロン6およびナイロン66を共重合成分とする6/66共重合ナイロンである請求項1に記載の樹脂製プーリ。
【請求項3】
ガラス繊維が、繊維径5〜15μm、繊維長100〜900μmのガラス繊維である請求項1または2に記載の樹脂製プーリ。
【請求項4】
転がり軸受の外径面に一体に設けられる樹脂製プーリにおいて、
この樹脂製プーリは、共重合ナイロンを主成分とし、ガラス繊維および粒子状添加剤を添加成分として配合されたポリアミド系樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂製プーリ。
【請求項5】
ポリアミド系樹脂組成物中のガラス繊維および粒子状添加剤の配合割合の合計が20〜50重量%であり、かつガラス繊維の配合割合が20〜50重量%である請求項4に記載の樹脂製プーリ。
【請求項6】
ポリアミド系樹脂組成物中のガラス繊維および粒子状添加剤の配合割合の合計が50重量%であり、かつガラス繊維の配合割合が20〜50重量%である請求項4に記載の樹脂製プーリ。
【請求項7】
粒子状添加剤が、耐摩耗性改良剤、熱伝導性改良剤および酸化防止剤から選ばれる1種以上の粒子状添加剤である請求項4に記載の樹脂製プーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−222110(P2009−222110A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65895(P2008−65895)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】