説明

樹脂製品の製造方法

【課題】レーザ溶着性を損なうことなく、全体的な視覚的印象を向上させることができる樹脂製品の製造方法を提供する。
【解決手段】互いに色の異なるケース本体12及びカバー13の接合が完了した後に、カバー13に紫外線を照射することにより当該カバー13の呈する色をケース本体12の呈する色と同色にするようにした。このため、ケース本体12及びカバー13の接合前の段階において、前記変色処理に起因してカバー13のレーザ光に対する透過特性が変化することはない。従って、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着性が損なわれることはない。また、カバー13の呈する色がケース本体12の呈する色と同色になることにより、ケース本体12及びカバー13からなるケース11の全体的な視覚的印象が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂材料により形成された2つの部材をレーザ溶着することにより形成される樹脂製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの合成樹脂材料の接合方法として、例えば特許文献1に示されるようなレーザ溶着方法が知られている。当該方法は、レーザ光に対する透過性を有する第1の合成樹脂材料と、レーザ光に対する吸収性を有する第2の合成樹脂材料とを重ね合わせて、第1の合成樹脂材料側からレーザ光を照射することにより第2の合成樹脂材料を発熱させ、その熱を利用して第1及び第2の合成樹脂材料の境界面を溶融させることにより両者を溶着するものである。
【特許文献1】特開2002−331588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前記従来のレーザ溶着方法には、次のような問題があった。即ち、前記第2の合成樹脂材料は、所定の添加剤(例えばカーボンブラック等の所定色の顔料)を使用することにより前記レーザ光を吸収するようにされている。これに対して、第1の合成樹脂材料については、レーザ光に対する透過性を確保する観点から、前述した添加剤を使用することが困難である。このため、前記添加剤の有無に起因して第1及び第2の合成樹脂材料は異なる色を呈する。従って、それら第1及び第2の合成樹脂材料を接合することにより製造された樹脂製品は、色の異なる部位から構成されることになり、製品の全体的な視覚的印象が損なわれるという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、レーザ溶着性を損なうことなく、全体的な視覚的印象を向上させることができる樹脂製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、レーザ光に対して透過性を有する第1の樹脂成形品と、レーザ光に対して吸収性を有するとともに当該吸収性を確保するための添加物を含有することに起因して第1の樹脂成形品と異なる色を呈する第2の樹脂成形品とを重ね合わせ、第1の樹脂成形品における第2の樹脂成形品と反対側からレーザ光を照射することにより第2の樹脂成形品を加熱溶融して第1及び第2の樹脂成形品をそれらの重ね合わせられた部位において溶着するようにした樹脂製品の製造方法において、前記第1及び第2の樹脂成形品の接合が完了した後に、第1の樹脂成形品に対して所定の変色処理を施すことにより、当該第1の樹脂成形品の呈する色を第2の樹脂成形品の呈する色と同色にするようにしたことをその要旨とする。
【0006】
本発明によれば、第1及び第2の樹脂成形品の接合が完了した後に、第1の樹脂成形品に対して所定の変色処理が施される。このため、第1及び第2の樹脂成形品を接合する前の段階で前記変色処理に起因して第1の樹脂成形品のレーザ光に対する透過特性が変化することはない。従って、第1及び第2の樹脂成形品の接合時において、第1の樹脂成形品のレーザ光に対する透過性は確保される。即ち、第1及び第2の樹脂成形品のレーザ溶着性が損なわれることはない。また、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後、第1の樹脂成形品に対して所定の変色処理が施されることにより、当該第1の樹脂成形品の呈する色が第2の樹脂成形品の呈する色と同色になる。従って、第1及び第2の樹脂成形品からなる樹脂製品の全体的な視覚的印象が向上する。
【0007】
なお、本明細書において、同色とは、完全な同一色だけでなく、ほぼ同じ色も含む。即ち、視覚を通じて同じような色(色の濃淡、明暗、強弱等の色調)だと認識される程度であれ、同色に含む。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、前記第1の樹脂成形品は、前記レーザ光と異なる特定の波長域の光が照射されることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色に発色する光変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成し、前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより当該第1の樹脂成形品の呈する色を前記色素の呈する色と同じ色に変色させるようにしたものであることをその要旨とする。
【0009】
本発明によれば、第1の樹脂成形品に特定の波長域の光を照射することにより、当該第1の樹脂成形品に含有される色素が、第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する。その結果、第1の樹脂成形品の呈する色が前記色素の呈する色、即ち第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に変色する。このため、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、特定の波長域の光を照射するという簡単な作業により、第1及び第2の樹脂成形品の呈する色の同色化が図られる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第1の樹脂成形品の表面は、前記レーザ光に対して透過性を有するとともに、前記レーザ光と異なる特定の波長域の光が照射されることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成した変色膜により覆うようにし、前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品の表面を覆う変色膜に、前記色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより当該変色膜を前記色素の呈する色に変色させるようにしたものであることをその要旨とする。
【0011】
本発明によれば、第1の樹脂成形品の変色膜に特定の波長域の光を照射することにより、当該変色膜に含有される色素が、第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する。即ち、第1の樹脂成形品は、第2の樹脂成形品の呈する色と同色を呈する変色膜に覆われることになる。このため、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、特定の波長域の光を照射するという簡単な作業により、第1及び第2の樹脂成形品の呈する色の同色化が図られる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記第1の樹脂成形品は、可視光に対して透明な樹脂材料により形成するとともに、当該第1の樹脂成形品には、前記レーザ光と異なる特定の波長域の光が照射されることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有する色素が分散された変色層を形成するようにし、前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより前記変色層を前記色素の呈する色と同じ色に変色させるようにしたものであることをその要旨とする。
【0013】
本発明によれば、第1の樹脂成形品に特定の波長域の光を照射することにより、当該第1の樹脂成形品の変色層に含有される色素が、第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する。第1の樹脂成形品は可視光に対して透明であるので、変色層の呈する色が、そのまま第1の樹脂成形品の呈する色となる。即ち、第1の樹脂成形品は、第2の樹脂成形品の呈する色と同色を呈することになる。このため、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、特定の波長域の光を照射するという簡単な作業により、第1及び第2の樹脂成形品の呈する色の同色化が図られる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜請求項4のうちいずれか一項に記載の樹脂製品の製造方法において、前記色素は、紫外線により発色するフォトクロニック色素であることをその要旨とする。
【0015】
本発明によれば、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、紫外線を照射するという簡単な作業により、第1及び第2の樹脂成形品の呈する色の同色化が図られる。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、前記第1の樹脂成形品は、所定温度域の熱を加えることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する熱変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成し、前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる所定温度域の熱を加えることにより当該第1の樹脂成形品を前記色素の呈する色に変色させるようにしたものであることをその要旨とする。
【0016】
本発明によれば、第1の樹脂成形品に所定温度域の熱を加えることにより、当該第1の樹脂成形品に含有される色素が、第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する。その結果、第1の樹脂成形品の呈する色が前記色素の呈する色、即ち第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に変色する。このため、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、所定温度域の熱を加えるという簡単な作業により、第1及び第2の樹脂成形品の呈する色の同色化が図られる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、前記第1の樹脂成形品は、所定値域の電圧を加えることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する電圧変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成し、前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる所定値域の電圧を加えることにより当該第1の樹脂成形品を前記色素の呈する色に変色させるようにしたものであることをその要旨とする。
【0018】
本発明によれば、第1の樹脂成形品に所定値域の電圧を加えることにより、当該第1の樹脂成形品に含有される色素が、第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する。その結果、第1の樹脂成形品の呈する色が前記色素の呈する色、即ち第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に変色する。このため、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、所定値域の電圧を加えるという簡単な作業により、第1及び第2の樹脂成形品の呈する色の同色化が図られる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の樹脂製品の製造方法において、前記変色処理が施される前の第1の樹脂成形品は、可視光に対して透明又は半透明を呈するようにしたことをその要旨とする。
【0020】
本発明によれば、前記変色処理が施される前においては、第1の樹脂成形品は、可視光に対して透明又は半透明を呈する。このため、第1及び第2の樹脂成形品の接合の完了後に、両者の溶着部位、即ち溶着状態を目視により簡単に確認可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、レーザ溶着性を損なうことなく、全体的な視覚的印象を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
以下、本発明を、特定の通信対象物との間で所定の無線通信を行う携帯機に具体化した第1の実施の形態を説明する。この携帯機は、例えば車両に搭載された施解錠制御装置とともに電子キーシステムを構成している。即ち、ユーザが携帯機を所持して車両の所定領域内に進入すると、携帯機は施解錠制御装置から送信されるリクエスト信号を受けて、自身のIDコードを含むID信号を送信する。施解錠制御装置は、携帯機から送信されてきたID信号を受信するとともに、当該ID信号に含まれる携帯機側のIDコードと予め記憶された車両側のIDコードとを照合し、両IDコードが一致したときにドア錠を解錠する。
【0023】
次に、前述のような携帯機のケースの構成について説明する。図1に示すように、ケース11は、上部が開口したケース本体12、及びケース本体12の上部開口部を閉塞するカバー13を備えるとともに、それらが組み付けられることにより全体として直方体状に形成されている。ケース本体12は、合成樹脂材料の射出成型等により上部が開口した有底箱体状に一体成型されるとともに、ケース本体12の内部には、マイクロコンピュータ及び通信回路等を構成する電子素子等の各種の電子部品が設けられた図示しない回路基板が収容されている。また、カバー13は、合成樹脂材料の射出成形等により平板状に形成されるとともに、ケース本体12の開口端面に密接した状態で固着されている。本実施の形態では、ケース本体12の開口端面とカバー13の内面における外周縁部とが熱溶着により接合されている。
【0024】
<樹脂製品の製造方法>
次に、ケース11の製造方法を説明する。本実施の形態のケース11の製造方法は、ケース本体12及び当該ケース本体12と色の異なるカバー13をレーザ溶着により接合する接合工程と、当該接合工程において接合されたケース本体12及びカバー13のうち当該カバー13に対して所定の変色処理を行うことによりカバー13の色をケース本体12の色と同色化する変色工程を備えている。
【0025】
<接合工程>
まず、ケース本体12及びカバー13の接合工程について説明する。本実施の形態では、レーザ溶着装置を使用してケース本体12とカバー13とを熱溶着により接合する。ここで、当該レーザ溶着装置の概略を説明する。図1に示されるように、レーザ溶着装置21は、レーザ発生装置22により発生したレーザ光を、光ファイバ23及びレーザ集光レンズ24を介して、互いに接合する2つの樹脂成形品の熱溶着部位に照射するものである。このレーザ溶着に使用するレーザ光源としては、イットリウムアルミニウムガーネットレーザ(YAGレーザ)、YVOレーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、ヘリウムネオンガスレーザ、アルゴンレーザ、ファイバーレーザ及び半導体レーザ等が使用可能である。
【0026】
また、レーザ発生装置22は、レーザ溶着装置21の図示しないハウジングに固定されるとともに、レーザ集光レンズ24は図示しない駆動装置によりXYZ座標系におけるX方向、Y方向及びZ軸方向へ移動可能に設けられている。即ち、互いに接合するケース本体12及びカバー13をワークホルダ25に支持した状態で、前記駆動装置の駆動によりレーザ集光レンズ24をケース本体12及びカバー13の接合部位にレーザ光Lが照射されるように相対的に移動させることによって、ケース本体12及びカバー13を所定の接合部位において接合可能となっている。なお、ワークホルダ25側を移動させるようにしてもよい。
【0027】
次に、ケース本体12及びカバー13の材質について説明する。ケース本体12及びカバー13を形成する合成樹脂材料としては、可視光に対して透明である例えばポリスチレン、ポリエチレン及びポリカーボネート等の非晶性樹脂、並びにポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド及びポリアセタール等の結晶性樹脂が使用可能である。本実施の形態では、ケース本体12及びカバー13は、ポリカーボネートにより形成されている。
【0028】
ケース本体12を形成する合成樹脂材料には、レーザ吸収色素として所定色の顔料(例えばカーボンブラック)が添加されるとともに、その添加量及び分散状態を調節することにより、レーザ光Lのスペクトルに対する吸収率(即ち、発熱量)が確保されている。なお、レーザ吸収色素としては、顔料系吸収色素及び染料系吸収色素がある。これら顔料系吸収色素と染料系吸収色素とを組み合わせて発熱量を制御するようにしてもよい。このようにすれば、より柔軟な溶着条件を導き出すことも可能となる。ケース本体12は、添加されるレーザ吸収色素の呈する色と同じ色を呈する。例えばレーザ吸収色素としてカーボンブラックを使用した場合には、ケース本体12は黒色を呈する。
【0029】
カバー13を形成する合成樹脂材料には、レーザ光Lと異なる特定の波長域の光により発色する光変色性を有する色素、本実施の形態では、紫外線により発色するフォトクロニック色素が添加されている。当該フォトクロミック色素は、紫外線が照射されることにより分子構造が変化するとともに、当該変化により可視領域の光の吸収スペクトルが変化することにより変色する。本実施の形態で採用されるフォトクロミック色素は、紫外線が照射される前の状態においてはケース本体12と異なる色を呈するものの、紫外線が照射されることによりケース本体12の色(本実施の形態では、黒色)又はそれに近い色を呈する性質を有している。そして、フォトクロミック色素の添加量及び分散状態を調節することにより、カバー13のレーザ光Lのスペクトルに対する透過性(透過率)が確保されている。本実施の形態では、フォトクロミック色素は、カバー13の全体に分散されている。後述する変色処理の前の段階において、カバー13は、添加されるフォトクロミック色素の呈する色と同じ色を呈する。紫外線が照射される前のフォトクロミック色素の色が例えば乳白色である場合には、カバー13は乳白色を呈する。
【0030】
さて、このようなケース本体12とカバー13とは、前述のように構成されたレーザ溶着装置21を使用して、次のようにして接合される。
即ち、図1に示されるように、ケース本体12の開口部を塞ぐようにカバー13を当該ケース本体12の開口端面に重ね合わせた状態で、レーザ溶着装置21のワークホルダ25にケース本体12及びカバー13を支持する。そして、レーザ集光レンズ24を、ケース本体12の開口端面に対応するカバー13の外周縁に沿うように連続的に移動させながら、レーザ光Lをカバー13に照射する。カバー13に照射されたレーザ光Lは、そのままカバー13内を伝播してケース本体12の開口端面に到達するとともに、当該レーザ光Lのエネルギは当該開口端面において吸収される。そして、当該エネルギの吸収の際に熱が発生するとともに、当該熱によりケース本体12の開口端面と、カバー13との接合部位(接合面)が溶融することにより溶融部位Mが形成される。その後、当該溶融部位Mを冷却することにより固化させる。これにより、ケース本体12の開口端面とカバー13とは、図2に黒塗りで示すように、それらの全周において相互に接合される。なお、ケース本体12の開口端面とカバー13とは、それらの周方向における複数箇所において部分的に接合するようにしてもよい。
【0031】
なお、レーザ光Lによって接合部位を加熱溶融しているとき、又はその後、接合部位に圧力を作用させるようにすれば、ケース本体12とカバー13とのより確実な接合が可能となる。例えば、図示しないローラ等の押圧手段により、カバー13をケース本体12側へ押圧する。このとき、前記押圧手段は、レーザ集光レンズ24の移動に追従するように移動させるとともに、当該押圧手段による加圧は、ケース本体12とカバー13との接合部位が冷却するまで継続して作用させる。あるいはガラス等のレーザ光に対する透過性を有する材料を介して加圧しながらレーザ光を照射するようにしてもよい。また、レーザ照射部の近傍を加圧しながらレーザ光を照射するようにしてもよい。これにより、ケース本体12の開口端面とカバー13との接合部位におけるボイド(気泡)の発生等が抑制される。
【0032】
<変色工程>
次に、前記変色工程について説明する。当該工程においては、前記接合工程において相互に接合されたケース本体12及びカバー13において、当該カバー13の表面に、前記フォトクロミック色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより当該カバー13の呈する色をケース本体12の呈する色と同じ色に変色させる。具体的には、図3に示されるように、カバー13の上方には、紫外線ランプ等の紫外線発生装置26を設置するとともに、当該紫外線発生装置26からの紫外線をカバー13の全体に照射する。これにより、カバー13に含有されているフォトクロミック色素が発色(又は変色)し、ケース本体12の呈する色と同じ色である黒色を呈する。その結果、カバー13は、全体的に黒色を呈する。ケース本体12とカバー13とが同じ色を呈することにより、ケース11の全体的な視覚的印象が向上する。以上で、ケース11の製造が完了となる。
【0033】
<実施の形態の効果>
従って、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ケース本体12及びカバー13の接合が完了した後に、カバー13に対して所定の変色処理を施すようにした。このため、ケース本体12及びカバー13の接合前の段階において、前記変色処理に起因してカバー13のレーザ光Lに対する透過特性が変化することはない。従って、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着性が損なわれることはない。また、ケース本体12及びカバー13の接合の完了後に、カバー13に対して所定の変色処理を施すようにしたことにより、カバー13の呈する色がケース本体12の呈する色と同色になる。従って、ケース本体12及びカバー13からなるケース11の全体的な視覚的印象が向上する。
【0034】
(2)カバー13は、レーザ光Lと異なる特定の波長域の光が照射されることによりケース本体12の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成するようにした。このため、ケース本体12及びカバー13の接合の完了後、カバー13に特定の波長域の光を照射することにより、当該カバー13に含有される色素は、ケース本体12の呈する色と同じ色に発色する。その結果、カバー13の呈する色が前記色素の呈する色、即ちケース本体12の呈する色と同じ色に変色する。従って、特定の波長域の光を照射するという簡単な作業により、ケース本体12及びカバー13の呈する色の同色化が図られる。
【0035】
(3)レーザ光Lと異なる特定の波長域の光が照射されることによりケース本体12の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有する色素として、紫外線により発色するフォトクロニック色素を採用した。このため、ケース本体12に、紫外線を照射するという簡単な作業により、ケース本体12及びカバー13の呈する色の同色化が図られる。
【0036】
(4)特定の波長域の光(紫外線)を照射するだけであるので、電子部品を収容するケース11の変色処理に好適である。
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。図4に示すように、カバー13の表面は、変色膜31により覆われている。この変色膜31は、レーザ光Lに対して透過性を有するとともに、紫外線が照射されることによりケース本体12の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有するフォトクロミック色素を含有する樹脂材料により形成されている。そして、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着による接合の完了後に、ケース本体12の表面を覆う変色膜31に、紫外線を照射することにより当該変色膜31を前記フォトクロミック色素の呈する色に変色させる。その結果、カバー13は、ケース本体12の呈する色と同色を呈する変色膜31に覆われることになる。従って、本実施の形態によっても、ケース本体12及びカバー13の接合の完了後に、紫外線を照射するという簡単な作業により、ケース本体12及びカバー13の呈する色の同色化が図られる。
【0037】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。前述したように、カバー13は可視光に対して透明な樹脂材料(本実施の形態では、ポリカーボネート)により形成されている。そして、図5(a)に示すように、カバー13には、紫外線が照射されることによりケース本体12の呈する色に発色する光変色性を有するフォトクロミック色素が分散された変色層32が形成されている。本実施の形態では、変色層32は、カバー13の厚み方向における中間部に設けられている。そして、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着による接合の完了後に、カバー13に紫外線を照射することにより変色層32を前記フォトクロミック色素の呈する色に変色させる。カバー13は可視光に対して透明であるので、変色層32の呈する色が、そのままカバー13の呈する色となる。即ち、カバー13は、ケース本体12の呈する色と同色を呈することになる。従って、本実施の形態によっても、ケース本体12及びカバー13の接合の完了後に、紫外線を照射するという簡単な作業により、ケース本体12及びカバー13の呈する色の同色化が図られる。なお、変色層32は、図5(b)に示されるように、カバー13の外面側に偏らせて設けるようにしてもよいし、図5(c)に示されるように、カバー13の内面側に偏らせて形成するようにしてもよい。
【0038】
<第4の実施の形態>
次に、本発明の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態では、カバー13は、所定温度域の熱を加えることによりケース本体12の呈する色と同じ色に発色する熱変色性を有するサーモクロミック色素を含有する樹脂材料により形成されている。そして、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着による接合の完了後に、カバー13に、前記サーモクロミック色素を発色させる所定温度域の熱を加えることにより当該カバー13を前記サーモクロミック色素の呈する色に変色させる。ここで、カバー13に熱を加える手段としては、図6(a)に示されるように、接合後のケース本体12及びカバー13を高温槽41に所定時間だけ収容する方法、及び図6(b)に示されるように、ヒータ42によりカバー13を所定温度に加熱する方法等が採用可能である。そして、高温槽41又はヒータ42による加熱の結果、カバー13の呈する色が前記サーモクロミック色素の呈する色、即ちケース本体12の呈する色と同じ色に変色する。従って、カバー13に所定温度域の熱を加えるという簡単な作業により、ケース本体12及びカバー13の呈する色の同色化が図られる。
【0039】
<第5の実施の形態>
次に、本発明の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態では、カバー13は、所定値域の電圧を加えることによりケース本体12の呈する色と同じ色に発色する電圧変色性を有するエレクトロミック色素を含有する樹脂材料により形成されている。そして、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着による接合の完了後、図7に示されるように、カバー13に電極43を接続するとともに、当該電極43を介してカバー13に前記エレクトロミック色素を発色させる所定値域の電圧を加えることにより当該カバー13を前記エレクトロミック色素の呈する色に変色させる。その結果、カバー13の呈する色が前記サーモクロミック色素の呈する色、即ちケース本体12の呈する色と同じ色に変色する。従って、カバー13に所定値域の電圧を加えるという簡単な作業により、ケース本体12及びカバー13の呈する色の同色化が図られる。
【0040】
<他の実施の形態>
なお、前記各実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・前記第1、第4及び第5の実施の形態におけるカバー13、第2の実施の形態における変色膜31、並びに第3の実施の形態における変色層32は、それらの変色処理が施される前の状態において、可視光に対して透明又は半透明を呈するように設けてもよい。即ち、カバー13が透明又は半透明を呈するように、所定色を呈するフォトクロミック色素、サーモクロミック色素又はエレクトロミック色素を、当該カバー13の形成材料である透明な合成樹脂(ポリカーボネート等)に分散させるとともに、当該分散量を調節する。また、変色前において可視光に対して透明又は半透明を呈するフォトクロミック色素、サーモクロミック色素又はエレクトロミック色素を、カバー13の形成材料である透明な合成樹脂に分散させるようにしてもよい。このようにすれば、変色処理前において、カバー13は、可視光に対して透明又は半透明であることから、図8に示されるように、ケース本体12及びカバー13のレーザ溶着による接合の完了後に、両者の溶着部位の目視確認を簡単に行うことができる。そして、ケース11の製造過程において、第1のケースと第2のケースとの接合状態(溶着状態)を目視により確認することにより、ケース本体12とカバー13との接合(溶着)に係る品質を確保可能となる。また、ケース本体12とカバー13との接合が完了した後、ケース11の内部に組み込まれた前記回路基板等の部品の組み付け状態を確認することができる。
【0041】
・前記第1〜第5の実施の形態では、本発明を、上部が開口したケース本体12及び平板状のカバー13からなるケース11の製造に適用した場合について説明したが、本発明は、ケース以外の樹脂製品の製造に適用することも可能である。例えば、図9(a)に示されるように、2つの平板状の樹脂成形品51,52を重ね合わせることにより形成される樹脂製品、又は図9(b)に示されるように、2つの平板状の樹脂成形品51,52をT字状に組み合わせることにより形成される樹脂製品の製造に本発明を適用することも可能である。また、図9(c)に示されるように、2つの平板状の樹脂成形品51,52を互いに入れ子状態で突き合わせることにより形成される樹脂製品の製造に本発明を適用することも可能である。さらに、図9(d)に示されるように、一方の樹脂成形品51の端部に段差部51aを形成するとともに、当該段差部51aに他方の樹脂成形品52を前記一方の樹脂成形品52に直交するように支持することにより形成される樹脂製品の製造に本発明を適用することも可能である。
【0042】
・前記第1〜第5の実施の形態では、本発明を、上部が開口したケース本体12及び平板状のカバー13からなるケース11の製造に適用した場合について説明したが、このような形状の組み合わせに限らない。例えば、図9(e)に示されるように、上部が開口した有底箱体状の第1のケース53、及び下部が開口した有蓋箱体状の第2のケース54を、互いの開口端面を突き合わせた状態で接合することにより形成されるケースの製造に本発明を適用することも可能である。また、第1及び第2のケース53,54の形状は、直方体状に限らず、図9(f)に示されるように、円筒状等の他の形状に形成するようにしてもよい。さらに、図9(g)に示されるように、第1及び第2のケース53,54にフランジ53a,54aを設け、それらフランジ53a,54a同士を接合するようにしてもよい。
【0043】
・前記第1〜第5の実施の形態では、無線通信を通じて特定の錠を電子的に施解錠する携帯機のケースの製造に本発明を適用するようにしたが、当該ケース以外の樹脂製品の製造に適用することも可能である。例えば、当該携帯機に着脱可能に収容されるメカニカルキーの樹脂製グリップの製造に適用することも可能である。また、本発明は、携帯電話等の他の機器のケースの製造に利用するようにしてもよい。
【0044】
・第1〜第5の実施の形態において、フォトクロミック色素、サーモクロミック色素又はエレクトロミック色素等のクロミック色素は、不可逆的に変色する色素を採用することが好ましい。しかし、変色処理時と異なる他の外部刺激により元の色に戻る可逆的な色素を除外するものではなく、樹脂製品の使用態様に応じて、可逆的に変色する色素も採用可能である。例えば、可視光に曝される樹脂製品の場合には、元の状態(色)に戻る条件が可視光の照射以外(所定温度域の熱の付与等)であるクロミック色素が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1の実施の形態におけるケース並びにレーザ溶着装置の概略構成図。
【図2】同じくケース本体及びカバーの接合部位を示すケースの分解斜視図。
【図3】同じくカバーの変色処理を示すケースの斜視図。
【図4】第2の実施の形態におけるケースの断面図。
【図5】(a)〜(c)は、第3の実施の形態におけるケースの断面図。
【図6】(a),(b)は、第4の実施の形態におけるカバーの変色処理を示すケースの正面図。
【図7】第5の実施の形態におけるカバーの変色処理を示すケースの正面図。
【図8】他の実施の形態におけるケースの平面図。
【図9】(a)〜(g)は、他の実施の形態における樹脂製品の断面図。
【符号の説明】
【0046】
11…ケース(樹脂製品)、12…ケース本体(第2の樹脂成形品)、
13…カバー(第1の樹脂成形品)、31…変色膜、32…変色層、
51…樹脂成形品(第1の樹脂成形品)、52…樹脂成形品(第2の樹脂成形品)、53…第1のケース(第1の樹脂成形品)、54…第2のケース(第2の樹脂成形品)、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光に対して透過性を有する第1の樹脂成形品と、レーザ光に対して吸収性を有するとともに当該吸収性を確保するための添加物を含有することに起因して第1の樹脂成形品と異なる色を呈する第2の樹脂成形品とを重ね合わせ、第1の樹脂成形品における第2の樹脂成形品と反対側からレーザ光を照射することにより第2の樹脂成形品を加熱溶融して第1及び第2の樹脂成形品をそれらの重ね合わせられた部位において溶着するようにした樹脂製品の製造方法において、
前記第1及び第2の樹脂成形品の接合が完了した後に、第1の樹脂成形品に対して所定の変色処理を施すことにより、当該第1の樹脂成形品の呈する色を第2の樹脂成形品の呈する色と同色にするようにした樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記第1の樹脂成形品は、前記レーザ光と異なる特定の波長域の光が照射されることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色に発色する光変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成し、
前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより当該第1の樹脂成形品の呈する色を前記色素の呈する色と同じ色に変色させるようにしたものである樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記第1の樹脂成形品の表面は、前記レーザ光に対して透過性を有するとともに、前記レーザ光と異なる特定の波長域の光が照射されることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成した変色膜により覆うようにし、
前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品の表面を覆う変色膜に、前記色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより当該変色膜を前記色素の呈する色に変色させるようにしたものである樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記第1の樹脂成形品は、可視光に対して透明な樹脂材料により形成するとともに、当該第1の樹脂成形品には、前記レーザ光と異なる特定の波長域の光が照射されることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する光変色性を有する色素が分散された変色層を形成するようにし、
前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる特定の波長域の光を照射することにより前記変色層を前記色素の呈する色と同じ色に変色させるようにしたものである樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のうちいずれか一項に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記色素は、紫外線により発色するフォトクロニック色素である樹脂製品の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記第1の樹脂成形品は、所定温度域の熱を加えることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する熱変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成し、
前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる所定温度域の熱を加えることにより当該第1の樹脂成形品を前記色素の呈する色に変色させるようにしたものである樹脂製品の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記第1の樹脂成形品は、所定値域の電圧を加えることにより前記第2の樹脂成形品の呈する色と同じ色に発色する電圧変色性を有する色素を含有する樹脂材料により形成し、
前記所定の変色処理は、前記第1の樹脂成形品に、前記色素を発色させる所定値域の電圧を加えることにより当該第1の樹脂成形品を前記色素の呈する色に変色させるようにしたものである樹脂製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の樹脂製品の製造方法において、
前記変色処理が施される前の第1の樹脂成形品は、可視光に対して透明又は半透明を呈するようにした樹脂製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−245383(P2007−245383A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68702(P2006−68702)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】