説明

樹脂製回転体成形用素材の製造方法、樹脂製回転体の製造方法及びこの製造方法により製造される樹脂製回転体

【課題】効率が悪く、高価な多軸駆動圧縮機を用いることなく、上または下側の片方だけが駆動する単軸圧縮機を使用しながらも、ブッシュを中心とし軸線方向上下から圧縮され金属製ブッシュと一体化した、樹脂製回転体成形用素材を製造する。
【解決手段】次の工法により製造される。(a)金型9内に金属製ブッシュ2を配置する工程。(b)金属製ブッシュの周囲に、短繊維含有スラリを注液する工程。(c)短繊維含有スラリから、分散液を分離し、繊維集合体となす工程。(d)繊維集合体を、厚み方向の一方からの駆動力を用いた押圧力と、この押圧力に抗する他方からの抗力により、圧縮する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製回転体成形用素材の製造方法、樹脂製回転体の製造方法及びこの製造方法により製造される樹脂製回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
補強用繊維基材を用いた樹脂製回転体は、耐久性能に優れ、車輌用部品、産業用部品等に用いられる樹脂製歯車等の樹脂製回転体として、好適に用いられている。
樹脂製歯車を成形するための補強用繊維基材としては、筒状に織られた又は編まれた筒状体を、端部より裏返しながら巻き込みドーナツ状に形成した補強用繊維基材が、特許文献1に記載されている。特許文献1には、この補強用繊維基材に樹脂を含浸して、歯部を形成した樹脂製歯車も記載されている。
更に、特許文献1には、補強用繊維基材と金属製ブッシュに設けた抜け止めとの結合強度を向上させるために、成形金型内で2つの補強用繊維基材を、金属製ブッシュを間に介して2段に重ねることが、記載されている。
【0003】
前述したドーナツ状の補強用繊維基材と異なるものとしては、熱硬化性樹脂と短繊維の補強繊維とにより作製した抄造シートをプレス抜きし、この抄造シート素形体を複数枚積層して、成形金型内で加熱加圧成形する樹脂製歯車の製造法が、特許文献2に記載されている。
【0004】
これら樹脂製歯車は、2つの補強用繊維基材の重ね合わせ界面や、抄造シート素形体の積層界面に、繊維の絡み合いが殆どなく、使用用途によっては、積層面で剥離が発生し易いという問題がある。
また、補強用繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度が不足する問題もある。これらのことから、使用用途によっては、樹脂製歯車の耐久性が不足する心配がある。
【0005】
これらの問題解決のために、短繊維の補強繊維を用いて抄造法による金型で短繊維の集積体を作ることも提案されている。
特許文献3には、短繊維の補強繊維と熱硬化性樹脂の混合スラリとを、透水性金型内で加圧又は減圧脱水して、短繊維と熱硬化性樹脂の集積体を得る製造法が開示されている。
しかし、水に分散できる樹脂は、流動性が低く、樹脂と繊維界面での濡れが不充分なために実用に耐える耐久性が得られない。
【0006】
また、特許文献4には、流体流出口を有する成型金型で短繊維の充填、更に樹脂注入も同一の金型で行って加熱加圧をし、繊維強化樹脂複合体を形成する方法が開示されている。
しかし、この方法では、樹脂製回転体の中央部に金属製ブッシュを配置することが難しく、また、注入した樹脂が金網等からなる成形金型全体に洩れて、硬化後に成形物を取り出すことが容易にはできない上に、成形金型は目詰まりするために、回数を重ねての使用ができなくなる難点がある。
【0007】
特許文献5には、短繊維の集積体として、抄造法により得られる円筒状に継ぎ目なく成形された補強用繊維基材を、成形金型内で加熱加圧成形する、樹脂製歯車の製造法が開示されている。
しかし、この特許文献5においても、補強用繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度を向上させる方法については、一切開示されていない。
【0008】
前述した特許文献3〜5の問題点を解決するものとして、抄造法により、金属製ブッシュの外周部の周囲に短繊維の補強繊維を集積させてブッシュの外周部を囲む補強繊維集積体を成形後、補強繊維集積体を回転軸の軸線方向である上下方向から、プレスを駆動して圧縮し、補強用繊維基材の成形を、同一の金型及び装置で作製する方法が、特許文献6に示されている。
このような方法であれば、抄造時に熱硬化性樹脂を用いることなく、抄造後に熱硬化性樹脂を含浸させるので、樹脂と繊維界面での濡れについての問題がなく、樹脂製回転体の中央部に、容易に金属製ブッシュを配置できて樹脂漏れの心配がなく、補強用繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度も向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−295913号公報
【特許文献2】特開平11−227061号公報
【特許文献3】特開2001−1413号公報
【特許文献4】特開2005−96173号公報
【特許文献5】特開2007−138146号公報
【特許文献6】特開2009−250364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献6に示されるものは、多軸が可動する圧縮機を用いることでブッシュの回り止めを中心にした圧縮成形が可能となるものの、ブッシュを中心に軸線方向に対して上下から独立して駆動する圧縮機で補強繊維集積体を加圧圧縮する場合に、上下方向から相互に押合うため圧縮機の能力を相殺しあい、補強繊維集積体自体にかかる加圧力を得るために、2倍以上の能力を有する圧縮機が必要となり、効率が悪くなる。
また、このような多軸が駆動する圧縮機では、圧縮機の構造が複雑になり、サイズが大きくなるため、設備が高価になるという問題点もある。
【0011】
本発明は、効率が悪く、高価な多軸駆動圧縮機を用いることなく、上または下側の片方だけが駆動する単軸圧縮機を使用しながらも、ブッシュを中心とし軸線方向上下から圧縮され金属製ブッシュと一体化した樹脂製回転体成形用素材の製造方法、樹脂製回転体の製造方法及びこの製造方法により製造される樹脂製回転体を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)以下の工法により製造される、樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(a)金型内に金属製ブッシュを配置する工程。
(b)金属製ブッシュの周囲に、短繊維含有スラリを注液する工程。
(c)短繊維含有スラリから、分散液を分離し、繊維集合体となす工程。
(d)繊維集合体を、厚み方向の一方からの駆動力を用いた押圧力と、この押圧力に抗する他方からの抗力により、圧縮する工程。
(2)項(1)において、(c)の分散液の分離が、減圧しながら行われる樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(3)項(1)において、(d)の圧縮する工程が、熱をかけながら行われる樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(4)項(1)において、(c)工程と(d)工程とが、同時に行われる、樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(5)項(1)乃至(4)の何れかにおいて、繊維集合体が、歯車の形状を有する樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(6)項(1)乃至(5)の何れかにおいて、繊維集合体の目付け量が2100〜15000g/mである樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(7)項(1)乃至(6)の何れかにおいて、(d)工程の後に、(e)繊維集合体に樹脂を含浸硬化させる工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
(8)項(7)において、(e)工程の後に、(f)樹脂を含浸硬化させた繊維集合体の外周部に歯切り加工工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
(9)項(1)乃至(8)の何れかに記載される樹脂製回転体の製造方法により製造される、樹脂製回転体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上又は下側の片方だけが駆動する単軸圧縮機を使用しながらも、金属製ブッシュとの密着力の高い樹脂製回転体を、安価に製造することができる。
(c)の分散液の分離が、減圧しながら行われる場合は、減圧を行わない場合と比較し、より短時間にて分散液の分離を行うことができる。
(d)の圧縮する工程が、熱をかけながら行われる場合は、熱により分散液が気化し易く、繊維集合体の乾燥時間を短くすることができる。
(c)の分散液の分離と、(d)の圧縮とを、同時に行う場合は、1工程分短縮できるので、より短時間にて樹脂製回転体を製造することができる。
【0014】
繊維集合体が、歯車の形状を有する場合は、後の歯切り加工が不要になるか、又は、短時間での歯切りが可能となり、製造時間を短縮することができる。且つ材料の歩留りが向上する。
繊維集合体の目付け量が2100〜15000g/mである場合は、繊維集合体に強度を付与することができ、かつ樹脂を含浸硬化させた樹脂製回転体に強度も付与することができる。
【0015】
繊維集合体に樹脂を含浸硬化させた場合には、樹脂製回転体としての強度を付与することができる。
樹脂製回転体の外周部に歯切り加工を行う場合は、射出成形等の型出しでは得ることが困難な、精度の高い歯を形成することができる。
【0016】
本発明の樹脂製回転体は、金属製ブッシュとの結合強度が高く、耐久性能に優れ、車輌用部品、産業用部品等の高温・高負荷の使用条件に耐え得る樹脂製回転体として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で製造される樹脂製歯車の縦断面図である。
【図2】図1に示す樹脂製歯車の金属製ブッシュを示すものであり、(A)は平面図を示し、(B)は突出部の拡大縦断面図を示す。
【図3】本発明の1実施例である抄造圧縮機の動作を示す概略工程図である。
【図4】(A)はブッシュと一体化した樹脂製回転体成形用素材の縦断面図を示し、(B)は抄造圧縮機の縦断面図を示す。
【図5】本発明の樹脂製回転体の作製工程を示す概略工程図である。
【図6】本発明の1実施例である抄造圧縮機の一例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<(a)工程>
本発明にて述べる、(a)金型内に金属製ブッシュを配置する工程について、以下に説明する。
【0019】
(金型)
図3(A)に示すように、抄造圧縮機7で用いる金型は、圧縮動作時に繊維集合体8(図3(B)参照)が、金属製ブッシュ2の径方向外側に広がるのを規制する筒状金型9と、この筒状金型9の内部に配置されて、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を軸線方向の両側から挟み、且つ、圧縮動作時に繊維集合体8が、金属製ブッシュ2の径方向内側に広がるのを規制するブッシュ支持台10及び上支持台11と、筒状金型9とブッシュ支持台10及び上支持台11の間に位置して、圧縮動作時に繊維集合体8を軸線方向両側から挟んで圧縮する中空上圧縮型12及び中空下圧縮型13と、繊維集合体8を加圧圧縮時に、上支持台11を押さえるための、押下部材14を備えている。
【0020】
ブッシュ支持台10の上に金属製ブッシュ2を載せた後、図3(B)に示すように、上支持台11を金属製ブッシュ2の上に載せ、上支持台11の重みで、金属製ブッシュ2を挟持する。ブッシュ支持台10及び上支持台11は、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に短繊維が入り込まないように、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を、筒状金型9の中心線が延びる方向の両側から挟んで支持する。図3に示す例では、ブッシュ支持台10、上支持台11、中空下圧縮型13が、上方向に移動可能に構成されているが、中空上圧縮型12と押下部材14が下側に移動する構造でも良い。
【0021】
(金属製ブッシュ)
本発明にて用いられる金属製ブッシュ2は、繊維基材の径方向中心に位置し、最終的に所望するものが樹脂製歯車であれば、回転軸に固定されて使用される。尚、ブッシュの材質は、特に限定されるものではないが、炭素鋼、アルミニウム、ステンレス等の金属を用いることができ、中でも、炭素鋼を用いることが、強度が高く、生産性がよいため好ましい。
【0022】
図1は、模式的に示した樹脂製歯車の縦断面図である。この樹脂製歯車1は、図示を省略する回転軸に固定されて回転する、金属製ブッシュ2を備えている。金属製ブッシュ2の中央部には、図示を省略する回転軸が嵌合される貫通孔3が形成されている。
また、金属製ブッシュ2の外周部4には、回り止め部を構成する複数の突出部4Aが、周方向に所定の間隔をあけて一体に形成されている。この間隔は、適宜決定されるものであるが、金属製ブッシュ2の中心部から見て、等角度間隔に設けることで、抜けに対する強度を均一にすることができる。
尚、金属製ブッシュ2は、軸が一体に形成されているものでもよい。
【0023】
金属製ブッシュ2について、具体的な一例を挙げて説明すると、複数の突出部4Aの軸線方向に測った厚み寸法:L2は、金属製ブッシュ2の軸線方向に測った厚み寸法:L1よりも小さい。そして回り止め部を構成する突出部4Aは、頂部の厚さが厚く基部の厚さが薄いアンダーカット形状である。このアンダーカットは、周囲の樹脂成形部分との界面にて、界面破壊が生じ、金属製ブッシュ2のみが空回りするのを阻止するもので、金属製ブッシュ2の回転軸方向断面での角度θが、5〜40°のものを用いている。
【0024】
回転方向への負荷に耐える回り止め部の作用を高めるためには、図2に示すように、回り止め部となる突出部4Aは、少なくとも高さh1の突出部4Aと、二つの突出部4A間に形成されて高さh2の底部を有する凹部4Bとが、交互に配列されたものが好ましい。このようなアンダーカットの形状を持ち、角度θが、5〜40°の突出部4Aを用いると、繊維基材内に、回り止め部としての複数の突出部4Aが完全に埋まった状態となり、両者間の機械的結合の強度を充分なものとすることができる。
尚、隣り合う二つの突出部4A間に形成される凹部4B内に、繊維基材の一部が入ることによっても、前述の機械的強度は当然にして増加する。
【0025】
上記アンダーカット形状を有した回り止め部を構成する突出部4Aは、焼結法で成形すれば、精度よく設計通りに作ることができる。突出部4Aの最適構造は、例えば、外径:60mmの樹脂製歯車の場合、突出部(山)の数が30であり、突出部の間に形成される凹部すなわち谷部分の数は29である。尚、これらの数は、樹脂製歯車の径や厚さ、歯の構造に応じて適宜変更される。
【0026】
<(b)工程>
本発明にて述べる、(b)金属製ブッシュの周囲に、短繊維含有スラリを注液する工程について、以下に説明する。
【0027】
(スラリの分散液)
金型に注液するスラリに用いる分散液は、短繊維を分散可能であり、使用する短繊維に対して、性状を悪化させないものでれば、特に限定されるものではなく、有機溶媒、有機溶媒と水との混合物、水等を用いることができ、特に経済的で、環境への負荷が少ない、水を使用することが好ましい。
有機溶媒を用いる場合には、安全面に充分注意し、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用することも可能である。
【0028】
(短繊維)
スラリ中に分散させる短繊維は、融点、又は分解温度が、250℃以上の短繊維からなるものが好ましい。このような短繊維を用いることで、成形時の成形温度や加工温度、実使用時の雰囲気温度において、短繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた繊維基材又は樹脂製歯車とすることができる。
このような短繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた、少なくとも1種以上の短繊維を使用することが好ましく、特に、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維との混合繊維を用いた場合には、耐熱性、強度、樹脂成形後の加工性のバランスが優れている。
【0029】
また、短繊維は、引張強度:15cN/dtex以上、引張弾性率:350cN/dtex以上の高強度高弾性率繊維を、少なくとも20体積%以上含むことが好ましい。このような短繊維を用いた場合は、使用中にかかる高負荷に耐え得るものとすることができる。
【0030】
短繊維の単繊維繊度(太さ)は、好ましくは、0.1〜5.5dtex、より好ましくは、0.3〜2.5dtexの範囲である。0.1dtex未満の場合、製糸技術上困難な点が多く、断糸や毛羽が発生して良好な品質の繊維を使用することが困難なだけでなく、コストが高くなり好ましくない。5.5dtexを越えると、繊維の強度低下が、徐々に大きくなるため好ましくない。
【0031】
短繊維の長さは、特に限定されるものではないが、好ましくは、1〜12mm、より好ましくは、2〜6mmである。繊維長が1mm未満の場合、繊維強化樹脂成形体の機械特性が、徐々に低下する。繊維長さが、12mmを越えると、短繊維の絡み合いが大きすぎて、均一な地合形成が困難になるだけでなく、分散液に分散させた短繊維を、抄造圧縮機に移送する配管内で、徐々に短繊維による詰まりが発生し易くなり好ましくない。
【0032】
短繊維の樹脂成形体中に含まれる割合は、所望する樹脂製歯車等の成形体の強度等によって異なるが、30〜50体積%であることが好ましい。樹脂成形体中に占める短繊維の割合が30体積%未満である場合、樹脂を短繊維で補強する効果がほとんど見られず、また、前述した金属製ブッシュの回り止め部への短繊維の充填も不充分となる。短繊維の割合が50体積%を越えた場合は、短繊維の占める割合が高すぎるため、樹脂注入成形時に樹脂含浸不足が発生し易くなる等の問題が発生する。
そのため、樹脂成形体に含まれる短繊維の割合は、強度があり、短繊維が確実に充填され、しかも樹脂の含浸を阻害しない範囲を選択することが好ましく、35〜45体積%が、特に好ましい。
【0033】
図3に示す抄造圧縮機7を用いて、繊維基材5を金属製ブッシュ2と一体化して形成したものを、次工程に移動又は搬送する際に、形状を維持するための強度を付与するには、短繊維がアラミド繊維をフィブリル化処理した微細繊維を含み、微細繊維のフリーネスが100〜400mlであって、微細繊維の含有量が、短繊維中の30質量%以下になるように配合することが望ましい。
【0034】
望ましい態様としては、パラ系アラミド繊維を機械的剪断で繊維軸方向に裂開させたフィブリル化処理のアラミド微細繊維を混合することが好ましい。フリーネスが400mlを超えると、フィブリル化が不充分のため繊維基材5の形状を維持するための強度を付与する上で好ましいものでなくなる。フリーネスが100ml未満になると、繊維軸方向に裂開させるだけでなく、径方向に剪断されて粉末状態になってしまうために繊維の絡みが悪くなって、繊維基材5の形状を維持するための強度を付与する上で好ましいものでなくなる。また、濾過性が悪化し、樹脂含浸の妨げとなる。
【0035】
フィブリル化処理したアラミド微細繊維が30質量%を超えると、繊維間の隙間にフィブリル化した微細繊維が充填され、樹脂注入成形時に、樹脂の樹脂含浸が阻害され、含浸不良などの不具合が生じてしまうことがある。より好ましくは、適度な強度を付与し、樹脂含浸性を阻害しない5〜10質量%のフィブリル化した微細繊維を配合するのが好ましい。
【0036】
スラリ中の短繊維の分散濃度は、0.3〜20g/リットル以下であることが好ましい。繊維長を1mmより短くした場合、分散濃度を20g/リットルより高濃度化することが可能であるが、樹脂成形体とした場合の機械特性が低下する。また、短繊維の繊維長を12mmより長くした場合は、繊維が長すぎるため繊維同士が絡まり分散濃度を0.3g/リットルより低濃度にしても十分分散させる事ができない。
【0037】
所定濃度に調整したスラリは、図3(B)に示すように、スラリ注入管22より筒状金型9の上側の開口部から供給される。スラリ注入管22は、上支持台11の直上に、スラリ吐出口23が配置されれば良く、上支持台11の上面を円錐形状にした場合には、その円錐の頂部直上に、スラリ吐出口23が位置するようにする。
また、スラリ注入管22は、常時上支持台11の直上に配置されると、抄造圧縮できないので、上支持台11と押下部材14の離間時にのみ、この離間空間を用いて配置するようにする。尚、スラリの供給は、前記離間空間の複数の場所から行ってもよい。
【0038】
<(c)工程>
本発明にて述べる、(c)短繊維含有スラリから、分散液を分離し、繊維集合体となす工程について、以下に説明する。
【0039】
スラリを注液する図3(B)に示す金型の中空下圧縮型13は、繊維集合体8に含まれる分散液の透液性を付与するため、排液を行う貫通孔15を有している。この貫通孔15の平面視形状は、例えば、円(図6(A)参照)、長円(図6(B)参照)又は多角形とすることができる。その中でも、長円とすることが好ましく、このような形状とすることで、排液を行う面積を充分に確保することができ、排液を短時間で完了することができる。尚、貫通孔15の1個当りの開口面積や個数は、排液のし易さや中空下圧縮型13の強度を考慮して適宜設定することができるが、貫通孔15の開口面積の合計は、中空下圧縮型13の面積の30%〜70%とすることが好ましい。前記の範囲であれば、排液のし易さや中空下圧縮型の強度を充分に確保することができる。
【0040】
また、貫通孔15には、図示を省略する真空吸引ポンプが取付けられ、排液を短時間で完了することができる。尚、この例では、貫通孔15からの排液時に、短繊維が流出するのを防止するため、中空下圧縮型13の上面に、底部材16が配置されている。
この底部材16には、金網を使用でき、そのメッシュサイズを、10〜250メッシュとすることが好ましい。250メッシュより大きくなると、徐々に分散液の濾過抵抗が大きくなり、金型の内部に入れた短繊維を含む前述のスラリから、ポンプで吸引して液分を排出させ、短繊維と液分の分離を行う時間が長くなり、製造サイクルが長くなる。また、10メッシュより小さいと、繊維長が長い繊維を使用しても、網目が大きいために繊維の多くが、液分と共に流出してしまう。こうなると、繊維集合体8の繊維密度が著しく低下してしまう問題が発生する。
尚、本明細書にて用いるメッシュサイズは、JIS G 3555に規定されるものに順ずる。
【0041】
このようにして真空吸引をして、中空下圧縮型13に設けた複数の貫通孔15から水分を排出することにより、金属製ブッシュ2の外周部の周囲を囲む繊維集合体8を形成する。
【0042】
<(d)工程>
本発明にて述べる、(d)繊維集合体を、厚み方向の一方からの駆動力を用いた押圧力と、この押圧力に抗する他方からの抗力により、圧縮する工程について、以下に説明する。
前述の抄造圧縮機7で用いる金型であれば、中空上圧縮型12及び中空下圧縮型13にて、繊維集合体8を圧縮した場合に、金属製ブッシュ2の径方向の内側及び外側の両方向に繊維が流出するのを確実に阻止することができる。
【0043】
中空下圧縮型13に設けた複数の貫通孔15から液分を排出した後、図3(C)に示すように、ブッシュ支持台10、上支持台11、中空下圧縮型13が上方向に移動する。すると、先ず始めに上支持台11と押下部材14とが接触し、上弾性体17及び下弾性体18の力で金属製ブッシュ2を固定する。尚、図3に示すものでは、上下の弾性体として、バネ定数の等しいバネを用いている。
更に、ブッシュ支持台10、上支持台11、中空下圧縮型13を上昇させ、ブッシュ支持台10と中空下圧縮型13に設けた段部19、押下部材14と中空上圧縮型12に設けた段部20とが当接し、中空下圧縮型13と中空上圧縮型12との距離が縮まらない位置(図3(D)参照)まで上昇させる。
【0044】
図4を用いて、繊維基材の厚みについて、詳細に説明する。
図4(A)に示すように、金属製ブッシュ2の厚み:T1と、段部19、20(図3参照)により決定される繊維基材5の厚み(圧縮時の厚み):T2との関係は、(イ)T1=T2、(ロ)T1>T2、(ハ)T1<T2の3パターンから、任意に選択することが可能である。
また、金属製ブッシュ2の下面から圧縮時の繊維基材5下面迄の距離:T3と、金属製ブッシュ2の上面から圧縮時の繊維基材5上面迄の距離:T4との関係は、(ニ)T3=T4、(ホ)T3>T4、(ヘ)T3<T4の3パターンから、任意に選択することができ、これは段部19、20の高さL3、L4(図4(B)参照)を変更することで可能となる。
更に、前述した(イ)〜(ハ)、(ニ)〜(ヘ)を組合わせた仕様にすることもできる。
【0045】
圧縮を行う時間及び温度は、使用する短繊維の種類によって任意に変更できるが、前記圧縮の際、中空上圧縮型12にヒータを取り付け、加熱した状態で圧縮することにより、抄造後の繊維基材5に含まれる液分を取り除く時間を短縮することができると共に、圧縮後の繊維基材5の厚みの経時変化を抑えることができる。好ましくは使用する分散液、本例では水の沸点以上の温度100〜180℃で、0.1〜10分間圧縮することにより、厚みの経時変化の殆ど無い繊維基材5を得ることができる。
また、前記圧縮の際、下側の圧縮用金型13の貫通孔15から真空吸引した状態で圧縮することにより、抄造後の繊維基材5に含まれる液分を取り除く時間を短縮することができる。
【0046】
以上の工程を経ることによりブッシュと繊維集合体が一体化した樹脂製回転体成形用素材を製造することができる。
尚、繊維集合体8の外周面の形状は、筒状金型9の内周面の形状によって定まる。そのため、筒状金型9の内周面を歯車形状とすることにより、繊維集合体8の外周面に歯車形状の凹凸を形成することも可能になる。
【0047】
<(e)工程>
本発明にて述べる、(e)繊維集合体に樹脂を含浸硬化させる工程について、以下に説明する。
【0048】
図5に示すように、繊維基材5を備えた樹脂製回転体成形用素材24を、金型25内に配置した後に、金型25に液状樹脂を注入して繊維基材5に樹脂を含浸させ、その後硬化させて、樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を成形する。
金型25は、固定金型26と、固定金型26の中心に配置されて上下方向に変位する移動金型27と、この移動金型27と対になって金属製ブッシュ2を挟持する上金型28とを備えている。
【0049】
上金型28の押圧部28Aが、固定金型26内に挿入されて、金属製ブッシュ2を押圧すると、移動金型27は、上金型28の挿入量に応じて下方に変位する。
上金型28で、固定金型26の開口部を完全に塞いだ後に、固定金型26内に液状樹脂が注入される。この際、液状樹脂は、固定金型26内を真空にすることで、素早く注入することができる。
【0050】
その後、樹脂が硬化したら、繊維基材5を芯材として成形された樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を金型25から取り出して、樹脂製回転体の製造を完了する。
【0051】
<(f)工程>
本発明にて述べる、(f)樹脂を含浸硬化させた繊維集合体の外周部に歯切り加工を行う工程について、以下に説明する。
【0052】
歯は、型成形時に付加することも、型成形の後に切削加工により付加することもできるが、精度を高くすることができることから、切削加工により設けることが好ましい。
また、切削加工は、三段階に分けて、外周部分の第一加工、歯形創作の第二加工、歯面仕上げの第三加工とすることが好ましい。
【0053】
第一加工について、より詳細に述べると、旋盤加工を施し、外周面および内径部を切削し、所定の寸法に加工する。この段階では、歯の作製は行われず、単純な円周加工になる。
第二加工について、より詳細に述べると、ホブ盤にて、歯形形状に加工する。ホブ盤としては、例えば三菱重工株式会社製のGE15A(商品名)を用いることができる。
第三加工について、より詳細に述べると、シェービング盤にて歯面の仕上げ加工をする。シェービング盤としては、例えば三菱重工株式会社製のFE30A(商品名)を用いることができる。尚、シェービング加工は、最終的な仕上げ加工なので、切削量は少なく、20〜150μm程度になる。
【0054】
次に、抄造圧縮機、圧縮機の駆動、及び樹脂製歯車について詳細に説明する。
<抄造圧縮機>
本発明の1実施例である抄造圧縮機は、例えば、図3に示すように、台座21、中空下圧縮型13、筒状金型9、中空上圧縮型12を備える。
また、前記中空下圧縮型13は、その内部にブッシュ支持台10、下弾性体18を、前記筒状金型9は、その内部に上支持台11を、前記中空上圧縮型12は、押下部材14、上弾性体17を備えている。
以下、個々の部材に関し、詳細に説明する。
【0055】
(台座)
台座は、抄造圧縮機全体を支えるものであり、直接的には、その上面に中空下圧縮型が載置されるものであり、荷重による歪みが少なく、水平載置できるものであれば、特に制限されるものではない。
台座の材質は、特に限定されるもではないが、ステンレス、炭素鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を用いることができ、耐食性の観点からステンレスを用いることが好ましい。
台座の大きさは、特に制限されるものではないが、台座の水平面の投射領域内に、抄造圧縮機の全体が入るようにすることで、設置場所の選定が行いやすくなる。
また、台座には、剛性を保てる範囲内にて、重量を軽くするための、ザグリ、貫通孔を設けることもできる。
【0056】
(中空下圧縮型)
中空下圧縮型は、前述した台座の上面に設置されるものであり、設置方法としては、ボルト固定、溝固定、嵌合固定、溶接等、各種方法を用いることができ、分解の容易性から、ボルト固定することが好ましい。
中空下圧縮型は、その内部に、上下方向に開放される中空部分を有しており、この中空部分に、ブッシュをその上面に載置するブッシュ支持台を配置する。
【0057】
ブッシュ支持台は、その下面を、台座に立設した下弾性体により支持され、弾性体の伸縮により、台座からの高さを変化させることができる。尚、下弾性体は、直接台座に立設するばかりでなく、間接的に台座に立設しても良い。更に、下弾性体は、複数設置しても良い。
下弾性体は、先に述べたように、伸縮によりブッシュ支持台の高さを変化させるものであれば良く、コイルバネ、皿バネ、板バネ、天然・合成ゴムの成形体等を用いることができるが、弾性体に高い圧縮力がかかる使用条件では、耐久性の面でバネが好ましい。バネの材質は、特に制限されないが、耐食性に優れるステンレスや防錆処理が施されたバネが好ましい。ゴム製のバネ等を用いることもできる。
【0058】
ブッシュ支持台は、その上面にブッシュを載置するものであり、ブッシュの位置ずれを防止する溝が掘られているものを、好ましく用いることができる。また、ブッシュが磁性体であれば、溝の代わりに磁石を用いることもできる。
また、ブッシュ支持台と、下弾性体との接続は、接着又は固着させても良いが、ブッシュの種類に応じてブッシュ支持台を交換できるように、脱着自在に接続することが好ましい。
【0059】
中空下圧縮型と、ブッシュ支持台との関係は、少なくともブッシュ支持台の一部が、水平方向から見て、中空下圧縮型の中空部分に入り込んでおり、弾性体の伸縮により、中空部分への挿入量が変化するようになっている。通常の運転時において、ブッシュ支持台が、弾性体の伸張により、水平方向から見て、中空下圧縮型の中空部分から離れるものは、弾性体の縮みにより、ブッシュ支持台が中空下圧縮型内へと戻る際に、位置ずれを起こす可能性があり、実用的ではない。
【0060】
中空部分を形成する中空下圧縮型の内壁には、段部を設ける。段部は、ブッシュ支持台の下部と当接することにより、下弾性体の伸縮によるブッシュ支持台の下降を阻止するものであり、中空部分の内径を変化させるか、内壁に突起を設けることで形成することが好ましい。
尚、段部は、必ずしも内壁の全周にわたって設ける必要はなく、内壁の一部に設けることもできるが、一部に設ける場合は、ブッシュ支持台の水平を維持するため、等角度間隔で、三箇所以上に設けることが好ましい。具体的には、中空部分を、上下の開放されているところから見て、120度間隔に三箇所、90度間隔に四箇所、60度間隔に六箇所の段部を設けることができる。
【0061】
段部の位置は、最終的な補強繊維集合体の厚みにより変化させることができるが、ブッシュ厚み方向の中心から、上下方向に等しい厚みの繊維基材層を形成できることが好ましく、具体的には、中空下圧縮型の段部と、後述する中空上圧縮型の段部との位置が、中空下圧縮型の段部とブッシュ支持台とが当接した際の、中空下圧縮型の上端からブッシュ厚み方向中心迄の距離と、中空上圧縮型の段部と押下部材とが接した際の、中空上圧縮型の下端からブッシュ厚み方向中心迄の距離とを、等しくする位置とすることが好ましい。
【0062】
中空下圧縮型の上面は、中空部分の上部開放箇所を除いた部分が、後述するスラリを投入する部分になる。そのため、中空下圧縮型の上面には、スラリ中の液分を排出する排出口を設けることが好ましく、この排出口に真空吸引するポンプを接続することが、更に好ましい。このような中空下圧縮型を用いた場合には、抄造時間をより短縮することが可能となる。
【0063】
(筒状金型)
筒状金型は、上下に開放された開口を有しており、下側の開口には、中空下圧縮型が、その外周と密接するように挿入され、スラリが金型外部に漏れないようにしている。尚、上側の開口には、後述する中空上圧縮型が、挿入される。
筒状金型の材質は、熱膨張率等を考慮し、更に圧縮歪み率を同様にする必要があるため、中空下圧縮型と同じものを使用することが好ましい。
筒状金型の上下方向長さは、特に制限されるものではないが、少なくともスラリ投入時に、規定量のスラリを入れて、漏洩しないだけの高さがあれば良い。
【0064】
筒状金型の内部には、上支持台が配置されている。上支持台は、ブッシュ支持台に載置したブッシュの上面に位置するもので、その下面は、ブッシュ支持台の上面にて説明したように、ブッシュの位置ずれを防止する溝が掘られているものを、好ましく用いることができる。また、ブッシュが磁性体であれば、溝の代わりに磁石を用いることもできる。
上支持台の上面は、特に限定されるものではないが、スラリを投入した際に、ブッシュ周囲に均等にスラリ中の短繊維が分散するように、上側に凸となる円錐形状とすることが好まく、表面に螺旋状の溝を設けることもできる。螺旋状の溝を設けた場合には、スラリが渦を巻くように流れ、分散性をより向上させることができる。
上支持台は、位置ずれを起こさない限り、ブッシュ上面に対し、固定する必要はなく、単純に載置するだけでも良い。
【0065】
(中空上圧縮型)
中空上圧縮型は、中空下圧縮型と、対向配置され、筒状金型の上側開口に挿入される。中空上圧縮型の外周と、筒状金型の内壁とは、中空上圧縮型の挿入時に密接し、スラリの漏洩を阻止する。
また、中空上圧縮型の材質は、熱膨張率等を考慮し、更に圧縮歪み率を同様にする必要があるため、中空下圧縮型及び筒状金型と同じものを使用することが好ましい。
【0066】
中空上圧縮型は、その中空部分に、押下部材を有しており、この押下部材が、上支持台に当接する。押下部材は、その上面を上弾性体により支持されており、弾性体の伸縮により、押下部材の位置を変化させる。
上弾性体は、先に述べた下弾性体と、同じものを用いても、異なるものを用いても良いが、中空下圧縮型を加熱したり、弾性体に高い圧縮力がかかる使用条件では、耐久性の面でバネが好ましい。また、上弾性体と下弾性体を、共に同じバネ定数を有するバネとすることが好ましく、このようにすることで、上方からの圧縮と、下方からの圧縮とが、等しい速度でなされ、上下方向における繊維密度のばらつきを、低減することができる。
また、押下部材と、上弾性体との接続は、接着又は固着させても良いが、ブッシュの種類に応じて押下部材を交換できるように、脱着自在に接続することが好ましい。
【0067】
中空上圧縮型と、押下部材との関係は、少なくとも押下部材の一部が、水平方向から見て、中空上圧縮型の中空部分に入り込んでおり、弾性体の伸縮により、中空部分への挿入量が変化するようになっている。通常の運転時において、押下部材が、弾性体の伸張により、水平方向から見て、中空上圧縮型の中空部分から離れるものは、弾性体の縮みにより、押下部材が中空上圧縮型内へと戻る際に、位置ずれを起こす可能性があり、実用的ではない。
【0068】
中空部分を形成する中空上圧縮型の内壁には、段部を設ける。段部は、押下部材の上部と当接することにより、上弾性体の伸縮による押下部材の上昇を阻止するものであり、中空部分の内径を変化させるか、内壁に突起を設けることで形成することが好ましい。
尚、段部は、必ずしも内壁の全周にわたって設ける必要はなく、内壁の一部に設けることもできるが、一部に設ける場合は、押下部材の水平を維持するため、等角度間隔で、三箇所以上に設けることが好ましい。具体的には、中空部分を、上下の開放されているところから見て、120度間隔に三箇所、90度間隔に四箇所、60度間隔に六箇所の段部を設けることができる。
【0069】
段部の位置は、中空下圧縮型の段部にて述べたように、中空下圧縮型の段部と、後述する中空上圧縮型の段部との位置が、中空下圧縮型の段部とブッシュ支持台とが当接した際の、中空下圧縮型の上端からブッシュ厚み方向中心迄の距離と、中空上圧縮型の段部と押下部材とが接した際の、中空上圧縮型の下端からブッシュ厚み方向中心迄の距離とを、等しくする位置とすることが好ましい。
【0070】
更に、中空上圧縮型の下面は、温度調整可能なことが好ましく、加圧圧縮時に加熱することで、短繊維に付着した液分を素早く乾燥させることができる。
温度調整は、可変抵抗を用いたヒータの抵抗値を変化させるか、単純にヒータのON−OFFによる制御を行うものであっても良い。
【0071】
<抄造圧縮機の駆動>
本発明にて述べる抄造圧縮機は、先に述べた上下の中空圧縮型の離間距離を変化させることができる駆動装置を有するが、駆動源としては特に限定されるものではなく、移動速度、加圧力が制御可能な電動プレス機を使用することができる。
また、駆動すべきものは、上下の中空圧縮型の何れでもよいが、分解清掃が行い易いことから、中空上圧縮型を上下駆動させることが好ましい。
【0072】
<樹脂製歯車>
以下、本発明の製造方法にて好適に製造される樹脂製歯車について説明する。
樹脂製歯車は、繊維基材に樹脂を含浸硬化させ、歯車形状に成形したものである。より具体的には、歯車を回転させる回転軸に嵌合する金属製ブッシュと、この金属製ブッシュの周囲に配置される歯部とを有するものを、好適に使用することができる。
【0073】
(歯部)
歯部は、先に述べた金属製ブッシュの外周に配置される。先に説明した図1を用いて、より具体的に述べると、1つの繊維基材5が、金属製ブッシュ2の外周部4の外側の位置に、外周部4に嵌った状態で配置されている。そして、繊維基材5は、樹脂が含浸され且つ樹脂が硬化して形成された樹脂成形体6となる。歯部は、この樹脂成形体6の外周に形成される。
歯部の形成は、樹脂を含浸させる際に、最終的な歯の形状を有した金型を用いて行うことも、一旦樹脂成形体6を形成した後に、切削加工等により形成しても良いが、精度の高い歯部を形成するのであれば、切削加工により行うことが好ましい。また、切削加工は、荒削り加工を行った後に、精度の高い切削加工を行うように、多段階にて行うこともできる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
スラリを製造するために、短繊維の分散濃度が、4g/リットルとなる量の水を満たしたタンクを用意する。そしてこのタンク内に、樹脂成形体中の短繊維総量が40体積%となる量の短繊維を入れる。具体的には、短繊維として、単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:3mm長のパラ系アラミド短繊維(帝人株式会社製「テクノーラ(帝人株式会社商標)」)を45質量%と、単繊維繊度:2.2dtex、繊維長:3mm長のメタ系アラミド短繊維(帝人株式会社製「コーネックス(帝人株式会社商標)」)を50質量%、そしてデュポン株式会社製「ケブラー(デュポン株式会社商標)パルプ」を、フリーネス値:300mlまでフィブリル化処理した微細繊維:5質量%となる量をそれぞれ投入する。次に攪拌機でタンク内の水を攪拌し短繊維を分散させる。
【0075】
次に、図3(A)に示す抄造圧縮機7を用いて、ブッシュ支持台10上に金属製ブッシュ2を位置決めし、上支持台11を金属製ブッシュ2上に位置ズレしないように載置し、金属製ブッシュ2を挟持する。尚、上支持台11の上側に凸となる円錐形状部の角度は90°である。
使用する金属製ブッシュ2の突出部4A及び凹部4Bの形状(図2参照)は、h1=2mm、h2=0.5mmであり、アンダーカット形状で、金属製ブッシュ2の仮想中心横断面と側面との間の角度θが20°である。
ここで、中空下圧縮型13の位置は、金属製ブッシュ2の軸方向中央から底部材16上面までの距離が40mmとなる位置とした。
【0076】
図3(B)に示す抄造圧縮機7内に、分散させた短繊維を含むスラリを充填する。そして、真空吸引をして中空下圧縮型13に設けた複数の貫通孔15から水を排水することにより、短繊維と水を分離して円筒状の繊維集合体8を得る。尚、排水時に貫通孔15より短繊維が流出するのを防止するために、中空下圧縮型13上には底部材16を配置した。この底部材16としては金属製:100メッシュの金網を用いた。
【0077】
次に金属製ブッシュ2の回り止め部に、更に強固に短繊維を喰い込ませるために圧縮を行う。図3(C)に示すように、金属製ブッシュ2の軸方向中央から150℃に加熱した中空上圧縮型12下面までの距離が40mmとなる位置まで、中空下圧縮型13、筒状金型9、ブッシュ支持台10、金属製ブッシュ2、上支持台11、繊維集合体8を、台座21ごと上昇させる。この位置は、金属製ブッシュ2が、中空上圧縮型12と中空下圧縮型13の間の、中央に位置する状態となる位置である。
【0078】
図3(D)に示すように、金属製ブッシュ2が、中空上圧縮型12と中空下圧縮型13の間の中央に位置する状態で、台座17を速度:1〜5mm/sで上昇させ、繊維集合体8が厚み:10mmとなるまで圧縮する。
そして、加熱した状態で2分間圧縮することにより、金属製ブッシュ2と一体化した目付け量7200g/mの樹脂製回転体成形用素材を得た。
尚、前記圧縮の際、中空下圧縮型13の貫通孔15から真空吸引した状態で圧縮している。また、図4(B)に示す、ブッシュ支持台10の長さ:L7=100mm、上支持台11の長さ:L6=70mm、押下部材14の長さ:L5=30mm、金属製ブッシュ2の厚み:T1=10mm、中空上圧縮型12と中空下圧縮型13の段部の高さL3及びL4:L3=L4=100mmとした。
【0079】
(実施例2)
ブッシュ支持台10の長さ:L7=100mm、上支持台11の長さ:L6=70mm、押下部材14の長さ:L5=30mm、金属製ブッシュ2の厚み:T1=10mm、中空上圧縮型12と中空下圧縮型13の段部の高さL3及びL4:L3=L4=90mmとする以外は実施例1と同様にして樹脂製回転体成形用素材を作製した。
【0080】
(実施例3)
ブッシュ支持台10の長さ:L7=100mm、上支持台11の長さ:L6=70mm、押下部材14の長さ:L5=30mm、金属製ブッシュ2の厚み:T1=10mm、中空下圧縮型13の段部の高さ:L4=100mm、中空上圧縮型12の段部の高さ:L3=95mmとする以外は実施例1と同様にして樹脂製回転体成形用素材を作製した。
【0081】
上記実施例1〜3に示す方法で作製した樹脂製回転体成形用素材の繊維集合体の厚みを測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】

本発明によれば、上又は下側の片方だけが駆動する単軸圧縮機を使用しながらも、ブッシュを中心とし軸線方向上下から圧縮され金属製ブッシュと一体化した繊維集合体を形成することができる。
また、表1から明らかなように、中空上下圧縮型段部の高さを変えることによって、樹脂製回転体成形用素材の繊維集合体の厚み、ブッシュ上下面と繊維集合体の上下面の距離をコントロールすることができる。
【符号の説明】
【0084】
1…樹脂製歯車、2…金属製ブッシュ、3…貫通孔、4…外周部、4A…突出部、4B…凹部、5…繊維基材、6…樹脂成形体、7…抄造圧縮機、8…繊維集合体、9…筒状金型、10…ブッシュ支持台、11…上支持台、12…中空上圧縮型、13…中空下圧縮型、14…押下部材、15…貫通孔、16…底部材、17…上弾性体、18…下弾性体、19…段部、20…段部、21…台座、22…スラリ注入管、23…スラリ吐出口、24…樹脂製回転体成形用素材、25…金型、26…固定金型、27…移動金型、28…上金型、28A…押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工法により製造される、樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
(a)金型内に金属製ブッシュを配置する工程。
(b)金属製ブッシュの周囲に、短繊維含有スラリを注液する工程。
(c)短繊維含有スラリから、分散液を分離し、繊維集合体となす工程。
(d)繊維集合体を、厚み方向の一方からの駆動力を用いた押圧力と、この押圧力に抗する他方からの抗力により、圧縮する工程。
【請求項2】
請求項1において、(c)の分散液の分離が、減圧しながら行われる樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、(d)の圧縮する工程が、熱をかけながら行われる樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、(c)工程と(d)工程とが、同時に行われる、樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、繊維集合体が、歯車の形状を有する樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかにおいて、繊維集合体の目付け量が2100〜15000g/mである樹脂製回転体成形用素材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかにおいて、(d)工程の後に、(e)繊維集合体に樹脂を含浸硬化させる工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、(e)工程の後に、(f)樹脂を含浸硬化させた繊維集合体の外周部に歯切り加工工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載される樹脂製回転体の製造方法により製造される、樹脂製回転体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−979(P2012−979A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107352(P2011−107352)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】