説明

樹脂複合体とその製造方法、及びそれに用いられるセルロースナノファイバーの製造方法

【課題】繊維径の分布が小さいセルロースナノファイバーを用いた樹脂複合体であって、線膨張係数が小さく、透明性に優れた樹脂複合体とその製造方法を提供する。また、そのためのセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】セルロースナノファイバーを含有する樹脂複合体であって、当該セルロースナノファイバーが、その表面にアシル化処理を施された植物由来のセルロース繊維集合体であり、Iβ型結晶化度が40〜60%の範囲内であり、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であり、かつ当該平均繊維径Daとその標準偏差Sの比である変動係数(S/Da)が0.15以内であることを特徴とする樹脂複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線膨張係数が小さく、透明性に優れた樹脂複合体とその製造方法、及びそれに用いられるセルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、地球上に最も多く存在する天然高分子であり、様々な形態で用いられてきており、繊維状としても多くの産業分野で利用されているが、近年、セルロースナノファイバー関連の研究が盛んである。これは、ナノオーダーのサイズの繊維径の小さい繊維(極細繊維)、およびその繊維集合体は、単位質量あたりの表面積が非常に大きく、分離性能、液体保持性能に優れているなど、非常に有用な特性を有するためである。
【0003】
また、一方、このようセルロースナノファイバーの特徴を生かした繊維強化複合材料等の高機能性複合材料についての研究・開発も盛んになってきている。
【0004】
セルロースについて、ナノサイズの極細繊維を得るための製造方法は、これまでいくつか提案されてきた。例えば、特許文献1には、N−オキシル化合物によるセルロースの表面酸化反応を利用し、微細セルロース繊維を得る方法が開示されている。特許文献2には、セルロース溶液の静電紡糸法を用いることで、均一性に優れたナノサイズの繊維径を有するセルロース極細繊維およびその繊維集合体の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維集合体に樹脂を含浸させてなる高透明性の繊維強化複合材料とその製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献等に開示されている製造方法により得られるセルロースナノファイバーは、繊維径の分布が大きく不均一であったり、均一性が良好であっても、生産コストが高い、複合材料に用いた場合において透明性等の性能が不十分である等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−1728号公報
【特許文献2】特開2008−266828号公報
【特許文献3】特開2007−51266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、繊維径の分布が小さいセルロースナノファイバーを用いた樹脂複合体であって、線膨張係数が小さく、透明性に優れた樹脂複合体とその製造方法を提供することである。また、そのためのセルロースナノファイバーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.セルロースナノファイバーを含有する樹脂複合体であって、当該セルロースナノファイバーが、その表面にアシル化処理を施された植物由来のセルロース繊維集合体であり、Iβ型結晶化度が40〜60%の範囲内であり、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であり、かつ当該平均繊維径Daとその標準偏差Sの比である変動係数(S/Da)が0.15以内であることを特徴とする樹脂複合体。
【0010】
2.前記第1項に記載の樹脂複合体を製造する樹脂複合体の製造方法であって、前記アシル化処理が、気相表面処理法又は超臨界領域表面処理法によるアシル化処理であることを特徴とする樹脂複合体の製造方法。
【0011】
3.前記第1項に記載の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、凍結乾燥したセルロースナノファイバーを気相表面処理法でアシル化処理することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【0012】
4.前記第1項に記載の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、凍結乾燥したセルロースナノファイバーを超臨界領域表面処理法でアシル化処理することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【0013】
5.前記第1項に記載の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、アシル化処理を施したセルロースナノファイバーを赤外線加熱し、100倍以上に延伸することを特徴とする前記第3項又は第4項に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【0014】
6.樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、アシル化処理を施したセルロースナノファイバーを赤外線加熱し、100倍以上に延伸することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、繊維径の分布が小さいセルロースナノファイバーを用いた樹脂複合体であって、線膨張係数が小さく、透明性に優れた樹脂複合体とその製造方法を提供することができる。また、そのためのセルロースナノファイバーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】原セルロースナノファイバーを延伸するための方法のプロセス概念図
【図2】セルロースナノファイバーに赤外線光束を複数箇所から照射するための鏡の配置の例;A図は平面図、B図は側面図
【図3】フィルム状の樹脂複合体の製造装置の1つの実施形態を示す概略フローシート
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂複合体は、セルロースナノファイバーを含有する樹脂複合体であって、当該セルロースナノファイバーが、その表面にアシル化処理を施された植物由来のセルロースナノファイバー集合体であり、Iβ型結晶化度が40〜60%の範囲内であり、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であり、かつ当該平均繊維径Daとその標準偏差Sの比である変動係数(S/Da)が0.15以内であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項6までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0018】
本発明の樹脂複合体の製造方法としては、前記アシル化処理が、気相表面処理法又は超臨界領域表面処理法によるアシル化処理であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法としては、凍結乾燥したセルロースナノファイバーを気相表面処理法でアシル化処理する態様の製造方法、又は、凍結乾燥したセルロースナノファイバーを超臨界領域表面処理法でアシル化処理する態様の製造方法であることが好ましい。さらに、アシル化処理を施したセルロースナノファイバーを赤外線加熱し、100倍以上に延伸することが好ましい。
【0020】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。
【0021】
〈セルロースナノファイバー〉
本発明に係るセルロースナノファイバーは、植物由来のセルロースナノファイバーであて、平均繊維径が4〜200nmの範囲内にあるセルロース系繊維であることを特徴とする。ここで、セルロース系繊維とは、植物細胞壁の基本骨格等を構成するセルロースのミクロフィブリル又はこれの構成繊維をいい、通常繊維径4nm程度の単位繊維の集合体である。なお、本発明に係るセルロースナノファイバーは、Iβ型結晶化度が、40〜60%の範囲内であることを要す。
【0022】
ところで、天然セルロースの結晶は、二種の結晶、すなわち、三斜晶であるセルロース Iα(Cellulose Iα、以下単に「Iα」ともいう。)と単斜晶であるセルロース Iβ(Cellulose Iβ、以下単に「Iβ」ともいう。)の混合物である。両結晶の存在比は、天然セルロースの種類により著しく異なっている。例えば、バロニアセルロースでは、Iαが約64%とIαがリッチであるのに対し、木綿やラミーセルロースでは、Iβが約80%とIβがリッチである。また、ホヤセルロースは、ほとんどIβのみから構成されている。一方、バクテリアセルロースは、バロニアセルロースと同じくIαの含有率が64%である。
【0023】
本発明に係るセルロースナノファイバーは、単繊維が、引き揃えられることなく、かつ相互間に入り込むように十分に離隔して存在するものより成ってもよい。この場合、平均繊維径は、単繊維の平均径となる。また、本発明に係る繊維は、複数(多数であってもよい。)本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよく、この場合、平均繊維径は1本の糸条の径の平均値として定義される。
【0024】
本発明で用いる繊維の平均繊維径は、4〜200nmであり、好ましくは4〜60nmである。
【0025】
なお、本発明で用いる繊維は、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であれば、繊維中に4〜200nmの範囲外の繊維径のものが含まれていても良いが、その割合は30質量%以下であることが好ましく、望ましくは、すべての繊維の繊維径が200nm以下、特に100nm以下、とりわけ60nm以下であることが望ましい。
【0026】
なお、繊維の長さについては特に限定されないが、複合体における補強効果の観点から、平均長さで100nm以上が好ましい。なお、繊維中には繊維長さ100nm未満のものが含まれていても良いが、その割合は30質量%以下であることが好ましい。
【0027】
本発明においては、平均繊維径をDaとし、その標準偏差をSとした場合、当該DaとS比である変動係数(S/Da)が0.15以内であることを特徴とする。
【0028】
本発明に係るセルロースナノファイバーの繊維径の均一性は、繊維集合体を構成する繊維の繊維径分布、すなわち、平均繊維径Daとその標準偏差Sの比(S/Da)である変動係数(「CV値」ともいう。)で評価することができる。当該変動係数は、この値が小さいほど、繊維径分布も小さいことを表し、均一な繊維径であることを示す。本発明に係るセルロースナノファイバーの繊維集合体の変動係数は0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
【0029】
当該変動係数の条件を満たす方法としては、後述するセルロースナノファイバーの表面に気相表面処理法又は超臨界領域表面処理法によるアシル化処理を施した後に、当該アシル化処理を施したセルロースナノファイバーを赤外線加熱し、100倍以上に延伸する方法により調整することが好ましい。
【0030】
なお、上記繊維径、繊維長の測定は市販の顕微鏡、電子顕微鏡により測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡により2000倍にセルロースナノファイバーを拡大した写真を撮影し、ついでこの写真に基づいて「SCANNING IMAGE ANALYZER」(日本電子社製)を使用して写真画像の解析を行うことにより測定した。この際、100個のセルロースナノファイバーを使用して繊維径、繊維長の平均値を求めることができる。
【0031】
本発明に係るセルロースナノファイバーは、例えば、特開2005−60680号公報や特開2008−1728号公報に記載の方法で得ることができる。
【0032】
本発明のセルロースナノファイバーは、複数の粉砕手段を用いて微細化することが好ましい。粉砕手段は限定されないが、本発明の目的に合う粒径まで微細に粉砕するためには、高圧ホモジナイザーや媒体ミル、砥石回転型粉砕機、石臼式グラインダーのような強い剪断力が得られる方式が好ましく用いられる。
【0033】
高圧ホモジナイザーとは、加速された高流速によるせん断力、急激な圧力降下(キャビテーション)および高流速の粒子同士が微細オリフィス内で対面衝突することによる衝撃力によって磨砕を行う装置であり、市販されている装置としては、ナノマイザー(ナノマイザー株式会社製)、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等を用いることができる。
【0034】
高圧ホモジナイザーによるセルロースのフィブリル化と均質化の程度は、高圧ホモジナイザーへ圧送する圧力と高圧ホモジナイザーに通過させる回数(パス回数)に依存する。圧送圧力は、通常、500〜2000kg/cm程度の範囲で行うことが超微細化処理に適するが、生産性を考慮すると1000〜2000kg/cmがより好ましい。パス回数は、例えば、5〜50回、好ましくは10〜40回、特に20〜30回程度である。媒体ミルは湿式振動ミル、湿式遊星振動ミル、湿式ボールミル、湿式ロールミル、湿式コボールミル、湿式ビーズミル、湿式ペイントシェーカー等である。これらの中で例えば湿式ビーズミルとは、金属製、セラミック製等の媒体を容器に内蔵し、これを強制撹拌することによって湿式磨砕する装置であるが、例えば市販されている装置としては、アペックスミル(コトブキ技研工業株式会社製)、パールミル(アシザワ株式会社製)、ダイノーミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)等を用いることができる。
【0035】
砥石回転型粉砕機とは、コロイドミル或いは石臼型粉砕機の一種であり、例えば、粒度が16〜120番の砥粒からなる砥石をすりあわせ、そのすりあわせ部に前述の水分散液を通すことで、粉砕処理される装置のことである。必要に応じて、複数回処理を行ってもよい。砥石を適宜変更するのは好ましい実施態様の一つである。砥石回転型粉砕機は、「短繊維化」と「微細化」の両作用を有するが、その作用は砥粒の粒度に影響を受ける。短繊維化を目的とする場合は46番以下の砥石が有効であり、微細化を目的とする場合は46番以上の砥石が有効である。46番はいずれの作用も有する。具体的な装置としては、ピュアファインミル(グラインダーミル)(株式会社栗田機械製作所)、セレンディピター、スーパーマスコロイダー、スーパーグラインデル(以上、増幸産業株式会社)などがあげられる。
【0036】
本発明において、得られたセルロースナノファイバーは、直接、又は分散液として熱可塑性樹脂に添加されるが、その含有量は0.1から50質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは5〜50質量%であり、特に10〜40質量%が好ましい。
【0037】
アセチル化セルロースにセルロースナノファイバーを含有させる方法は特に限定されるものではないが、後述する溶液キャスト法において、ドープ液を調製する際に分散液として含有させることが好ましい。
【0038】
(セルロースナノファイバーの表面アシル化処理)
本発明に係るセルロースナノファイバーの表面のアシル化処理法は、後述する気相表面処理法又は超臨界領域表面処理法によるアシル化処理法であることが好ましい。
【0039】
なお、本発明に係るセルロースナノファイバーの表面のアシル化処理においては、セルロースナノファイバーの最表面だけでなく、表面近傍の内部領域までアシル化が施されても良い。
【0040】
アシル化処理において、ヒドロキシル基のアシル基による置換度は、0〜2.5の範囲内にあることが好ましい。なお、本願において、「アシル基の置換度」とは、ASTM D817に従って算出した値である。
【0041】
アシル基による置換度の調整の方法は、従来公知のアシル化の方法を採用することができる。
【0042】
本発明において、化学修飾によりナノファイバーのヒドロキシル基(水酸基)に導入する官能基としては、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等が挙げられ、セルロース繊維のヒドロキシル基(水酸基)には、これらの官能基の一種が導入されていても良く、二種以上が導入されていても良い。
【0043】
これらのうち、アセチル基、メタクリロイル基等が好ましい。
【0044】
〈気相表面処理法によるアシル化処理〉
本発明に係る気相表面処理法によるアシル化処理としては、従来公知の種々の方法を採用し得るが、酸触媒存在下、ハロゲン化アシル、カルボン酸無水物、カルボン酸等のアシル化剤の蒸気にセルロースナノファイバーを晒すことによりアシル化する方法が好ましい。
【0045】
具体的には、例えば、前処理として、セルロースナノファイバーにZnCl/酢酸処理を施した後に、無水酢酸を加熱した無水酢酸蒸気雰囲気下に封入することでアセチル化することができる。
【0046】
〈超臨界領域表面処理法によるアシル化処理〉
本願において、「超臨界領域表面処理法によるアシル化処理」とは、セルロースナノファイバーを溶媒にその超臨界領域若しくは亜臨界領域に属する温度及び圧力下で溶解させ、アシル化する処理方法をいう。
【0047】
ここで、「超臨界領域」とは、気液固三態の移り変わりを表した状態図(相図)において、超臨界流体を与える温度・圧力領域をいう。また、「超臨界流体」とは、臨界温度以上でかつ臨界圧力以上の状態にある流体をいう。超臨界流体は、高い運動エネルギーを有する高密度流体と理解でき、溶質を溶解するという点では液体的な挙動を、密度の可変性という点では気体的な特徴を示す。超臨界流体の溶媒特性はいろいろあるが、低粘性で高拡散性であり固体材料への浸透性が優れていることが重要な特性である(参照:齋藤正三郎監修「超臨界流体の科学と技術」1996年、三共ビジネス)。
【0048】
なお、臨界温度よりわずかに低い温度域での高密度領域を、一般に、亜臨界領域と呼ぶが、本願においては、亜臨界領域を、温度が溶媒の沸点以上で、圧力が10kgf/cm(1.013MPa)以上である領域と定義する。
【0049】
本発明において用いられる有機溶媒は特に限定されないが、二酸化炭素、炭素数12以下のケトン類を含有したものであり、併用溶剤としてエステル類等が用いられる。これらのエステル類、ケトン類は環状構造を有していてもよく、2種類以上の官能基を有するものでもよい。
【0050】
ケトン類の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。このうちアセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが特に好ましい。
【0051】
また、エステル類の例としては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。
【0052】
本発明においては、特に二酸化炭素を用いることが好ましい。二酸化炭素の臨界温度は31.1℃、臨界圧力は75.3kgf/cm(7.38MPa)と比較的扱いやすく、大気圧下で不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純度流体が安価で容易に入手できる等といった理由により好適である。本発明に係るアシル化処理方法で使用する超臨界状態(亜臨界状態を含む。)の二酸化炭素の好適な圧力は、80〜500kgf/cm(7.8〜49MPa)、好ましくは90〜400kgf/cm(8.8〜39MPa)、より好ましくは100〜200kgf/cm(9.8〜19.6MPa)である。また、好適な臨界状態の二酸化炭素ガスの温度としては、32〜200℃、好ましくは35〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃である。これらの範囲内で、温度及び圧力を適宜選択して組み合わせることにより、超臨界状態(亜臨界状態を含む。)とするのがよい。
【0053】
本発明においては、超臨界領域表面処理法によるアシル化処理は、具体的に以下のようにして行われる。
【0054】
圧力容器に液体二酸化炭素を加え、上記の好適な圧力及び温度のもとにある超臨界状態若しくは亜臨界状態にする。超臨界(若しくは亜臨界)状態の二酸化炭素に本発明に係るセルロースナノファイバー及びアシル化剤を溶解するか、あるいは予めこれらの化合物を加えた圧力容器に液体二酸化炭素を加え、次いで温度、圧力を調整して超臨界状態にして溶解してもよい。
【0055】
その際、溶解助剤として、低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル等を一種又は二種以上を併用してもよい。
【0056】
〈セルロースナノファイバーの延伸〉
本発明に係るセルロースナノファイバーは、アシル化処理を施した後、赤外線加熱し、100倍以上に延伸することが好ましい。
【0057】
セルロースナノファイバーの延伸方法としては、従来公知の種々の方法を採用し得るが、好ましい方法としては、少なくともセルロースナノファイバーが送出手段により送り出される工程と、及び送り出されてきたセルロースナノファイバーを複数箇所からの赤外線光束で加熱される工程とを有する態様の方法であることが好ましい。
【0058】
当該セルロースナノファイバーの延伸方法においは、セルロースナノファイバーを送出手段から送り出された原セルロースナノファイバーについて延伸が行われる。送出手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度で、フィラメントを送り出すことができるものであれば種々のタイプのものが使用できる。
【0059】
本発明に係る延伸においては、赤外線加熱される直前には、原セルロースナノファイバーの位置を規制する案内具を設けることが好ましい。赤外線光束による加熱は、非常に狭い範囲において加熱されることが特徴であり、また延伸の開始時は延伸張力も小さいので延伸部が振れやすいので、セルロースナノファイバーの位置を規制する案内具を設ける。案内具は、細い管や溝、コーム、細いバーの組み合わせなどが使用できる。
【0060】
本発明に係る原セルロースナノファイバーは、赤外線加熱手段(レーザーを含む)により照射される赤外線光束により延伸適温に加熱される。
【0061】
当該方法は、狭い領域で急激に延伸することにより、高度の分子配向を伴った延伸を可能にし、しかも超高倍率延伸であっても、延伸切れを少なくすることができる。
【0062】
赤外線加熱には、レーザーによる加熱が特に好ましい。中でも、10.6μmの波長の炭酸ガスレーザーと、1.06μmの波長のYAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネット系)レーザーが特に好ましい。レーザーは、放射範囲を小さく絞り込むことが可能であり、また、特定の波長に集中しているので、無駄なエネルギーも少ない。
【0063】
炭酸ガスレーザーは、パワー密度が10W/cm以上、好ましくは20W/cm以上、最も好ましくは、30W/cm以上である。狭い延伸領域に高パワー密度のエネルギーを集中することによって、本発明の高倍率延伸が可能となるからである。なお、複数箇所からフィラメント上に照射された場合のパワー密度は、それぞれのパワー密度を合計して示す。
【0064】
なお、この場合の赤外線光束の照射は、複数箇所から照射されることが好ましい。セルロースナノファイバーの片側のみからの加熱は、セルロースナノファイバーの融解温度が高い場合や、良い物性を得るための均一加熱が必要な場合は、非対称加熱により、延伸が困難になるからである。なお、複数箇所からの照射は、セルロースナノファイバーの走行軸に対して、対称方向からの照射であることが好ましい。高倍率で高物性のセルロースナノファイバーを得るためには、対称加熱を徹底する必要があるからである。このような複数箇所からの照射は、複数個の赤外線光束の光源から照射してもよいが、一つの光源からの光束を鏡によって反射させることにより、複数回、原セルロースナノファイバーの通路に沿って照射させることによって達成することもできる。鏡は、固定型ばかりでなく、ポリゴンミラーのように回転するタイプも使用することができる。
【0065】
また、複数箇所からの照射の別な手段として、複数光源からの光源を原セルロースナノファイバーに複数箇所から照射する手段がある。比較的小規模のレーザー光源で安定してコストの安いレーザー発振装置を複数セット用いて、高パワーの光源とすることができる。
【0066】
当該方法によれば、セルロースナノファイバーの延伸倍率を10倍以上、好ましくは100倍以上とすることができる。
【0067】
当該延伸方法の実施の形態の例を、以下において、図面に基づいて説明する。
【0068】
図1は、セルロースナノファイバーの延伸方法の模式的プロセスの例を示したものである。原セルロースナノファイバー1は、リール11に巻かれた状態から繰り出され、コーム12を経て、繰出ニップローラ13a、13bより一定速度で送り出される。また、複数のリール11から繰り出され、コーム12で合わされて次工程に送り出されてもよい。送り出された原セルロースナノファイバー1は、案内具15で位置を規制されて一定速度で下降する。案内具15は、レーザーの照射位置とフィラメントの走行位置を正確に定めるもので、図では、注射針を使用したが、細いパイプやコーム、スネイルワイヤなども使用できる。案内具15の直下に、レーザー発振装置5より、走行する原セルロースナノファイバー1に対して、一定幅の加熱域Mにレーザー光束6が照射される。
【0069】
図2に、本発明で採用されている赤外線光束を、複数箇所から原セルロースナノファイバーに照射する手段の例を示す。図Aは平面図であり、図Bは側面図である。赤外線照射器より照射された赤外線光束21aは、原セルロースナノファイバー1の通る領域P(図の点線内)を通って、鏡22に達し、鏡22で反射された赤外線光束21bとなり、鏡23で反射されて赤外線光束21cとなる。赤外線光束21cは、領域Pを通って、最初の原フィラメントの照射位置から120度後から、原セルロースナノファイバーを照射する。領域Pを通過した赤外線光束21cは、鏡24で反射されて、赤外線光束21dとなり、鏡25で反射されて、赤外線光束21eとなる。赤外線光束21eは領域Pを通って、最初の原セルロースナノファイバーの照射位置の赤外線光束21cとは逆の120度後から、原セルロースナノファイバー1を照射する。このように、原セルロースナノファイバー1は、3つの赤外線光束21a、21c、21eにより、120度ずつ対称の位置から均等に原セルロースナノファイバー1を加熱することができる。このように原セルロースナノファイバー1に対して、赤外線光束21を対称位置から照射できるようにすることが重要で、非対称では、均一加熱にならず、良い物性のセルロースナノファイバーとすることが困難である。
【0070】
(樹脂)
本発明に係る樹脂としては、熱可塑性樹脂、溶媒可溶性樹脂または硬化性樹脂を好適に使用することができる。熱可塑性樹脂を用いた場合は、本発明の組成物の成形がしやすくなるという特徴がある。また、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂を用いた場合は、本発明の組成物の光学的な異方性が小さくなるという特徴がある。
【0071】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン(日本ゼオン社ゼオノア、JSR社製アートン、ポリプラスチック社製TOPAS、三井化学社製アペルなど)、ポリ乳酸、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ3ヒドロキシブチレート、ポリアリレート、ナイロン、アラミド、熱可塑性エラストマー、シリコーンなどが挙げられる。
【0072】
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。
【0073】
溶媒可溶性樹脂は、水または有機溶媒に可溶であるものを用いることができる。溶媒可溶性樹脂を溶解する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、塩化メチレン、クロロホルム、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、NMP(N−メチルピロリドン)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、THF、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトニトリル、グリセリン、エチレングリコール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、トルエン、キシレン、アニソール、n−ヘキサン、シクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、酢酸、トリフルオロ酢酸、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどが挙げられ、これらを単独または複数混合して用いることができる。
【0074】
本発明に用いる樹脂としては、特にセルロースアセテート樹脂が好ましい。
【0075】
〈組成物の調製方法〉
本発明に係る組成物は、セルロースナノファイバーと樹脂を混合することにより得られる。
【0076】
例えば、樹脂が熱可塑性樹脂である場合は、二軸混練機などを用いて加熱して樹脂を溶融させた状態でセルロースナノファイバーと混合することができる。混練温度は、熱可塑性樹脂の溶融粘度が低くなる温度であって、なおかつ、セルロースナノファイバーの熱分解温度以下である温度とすることが好ましい。
【0077】
混練温度は、270℃以下であることが好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0078】
樹脂が溶媒可溶性樹脂である場合は、溶媒に樹脂を溶解させることでセルロースナノファイバーを混合することができる。溶媒可溶性樹脂の場合は、セルロースナノファイバーの熱分解温度より十分低い温度で混合することができるという利点がある。用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、塩化メチレン、クロロホルム、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、NMP(N−メチルピロリドン)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、THF、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトニトリル、グリセリン、エチレングリコール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、トルエン、キシレン、アニソール、n−ヘキサン、シクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、酢酸、トリフルオロ酢酸、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどを挙げることができる。これら溶媒を複数混合した混合溶媒として用いてもよい。
【0079】
樹脂が硬化性樹脂である場合には、液状モノマー及び/又はプレポリマーにセルロースナノファイバーを添加することにより混合することができる。この際、適宜溶剤を使用してもよい。溶剤としては上記に示したものを使用することができる。
【0080】
本発明の組成物における、樹脂とセルロースナノファイバーとの混合質量比は、通常1:0.01〜3であり、好ましくは1:0.01〜2であり、より好ましくは1:0.02〜2であり、さらに好ましくは1:0.03〜1である。セルロースナノファイバーの割合が少なすぎると、熱膨張係数の低下や弾性率の向上の効果がほとんど見られなくなる傾向があり、セルロースナノファイバーの割合が多すぎると成型が困難となる傾向がある。
【0081】
本発明の組成物には、セルロースナノファイバーと樹脂以外の成分が含まれていてもよい。そのような成分として、例えば、熱安定剤、可塑剤、UV吸収剤、着色剤、ゴム、エラストマーなどを挙げることができる。これらの成分の添加量は、組成物の0.0001〜20質量%であるのが好ましく、0.0001〜10質量%であるのがより好ましく、0.0001〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0082】
以下において、本発明において、マトリクス樹脂として好適に用いることができる樹脂について詳細な説明をする。
【0083】
〈セルロースエステル樹脂〉
本発明に用いられるセルロースエステルとしては例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、特開平10−45804号公報、同08−231761号公報、米国特許第2,319,052号明細書等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることができる。特に好ましくはセルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートである。これらのセルロースエステルは単独或いは混合して用いることができる。分子量は数平均分子量(Mn)で70000〜200000のものが好ましく、100000〜200000のものが更に好ましい。
【0084】
セルローストリアセテートの場合には、平均酢化度(結合酢酸量)54.0〜62.5%のものが好ましく用いられ、更に好ましいのは、平均酢化度が58.0〜62.5%のセルローストリアセテートである。
【0085】
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロースエステルである。
【0086】
式(I) 2.0≦X+Y≦2.6
式(II) 0.1≦Y≦1.2
更に2.4≦X+Y≦2.6、1.4≦X≦2.3のセルロースアセテートプロピオネート(総アシル基置換度=X+Y)樹脂が好ましい。中でも2.4≦X+Y≦2.6、1.7≦X≦2.3、0.1≦Y≦0.9のセルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート(総アシル基置換度=X+Y)樹脂が好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
【0087】
セルロースエステルは綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を原料として合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることができる。特に綿花リンターから合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることが好ましい。
【0088】
なお、本発明に係る樹脂複合体の基材としては、可撓性であることが好ましい。ここで、「可撓性」とは、JIS P 8115:2001記載のMIT試験において最低100回の耐屈性があるものとする。
【0089】
熱可塑性樹脂単独の膨張係数は、0〜120ppm/℃が好ましい。さらに好ましくは5〜100ppm/℃、最も好ましくは10〜80ppm/℃である。
【0090】
〈アクリル樹脂〉
本発明においては、アクリル樹脂を用いることも好ましい。本発明に用いられるアクリル樹脂は、特開2003−12859号公報に記載の方法で作製できる。
【0091】
〈環状オレフィン樹脂〉
本発明においては、環状オレフィン樹脂を用いることも好ましい。環状オレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0092】
(可塑剤)
本発明の樹脂複合体は、可塑剤を含有するのが好ましく、可塑剤としては、例えば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤等を好ましく用いることができる。
【0093】
これらの可塑剤の使用量は、フィルム性能、加工性等の点で、セルロースエステルに対して1〜20質量%が好ましく、特に好ましくは、3〜13質量%である。
【0094】
(紫外線吸収剤)
本発明の樹脂複合体は、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0095】
紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。
【0096】
本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
本発明で好ましく用いられる上記の紫外線吸収剤としては、透明性が高く、偏光板や液晶の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0098】
(樹脂複合体の製造方法)
本発明の樹脂複合体の製造方法としては、通常のインフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液流延法、溶融流延法が好ましい。
【0099】
以下、典型的例として、本発明の樹脂複合体を、作製する場合の製造方法について詳述する。
【0100】
<溶液流延法による樹脂複合体の製造方法>
(有機溶媒)
本発明の樹脂複合体を溶液流延法で製造する場合、ドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を溶解するものであれば制限なく用いることができる。
【0101】
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン、乳酸エチル、乳酸、ジアセトンアルコール等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、乳酸エチル等を好ましく使用し得る。
【0102】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させてもよい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系での熱可塑性樹脂の溶解を促進する役割もある。
【0103】
特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、熱可塑性樹脂は、少なくとも計10〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
【0104】
炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0105】
以下、本発明に係るフィルム状の樹脂複合体(以下単に「フィルム」ともいう。)の好ましい製膜方法について説明する。
【0106】
1)溶解工程
熱可塑性樹脂に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で熱可塑性樹脂、熱収縮材料、その他の添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程である。
【0107】
熱可塑性樹脂の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、又は特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
【0108】
返材とは、フィルムを細かく粉砕した物で、フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトしたフィルム原反のことをいい、これも再使用される。
【0109】
2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
【0110】
ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0111】
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ。)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
【0112】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法の乾燥効率が良く好ましい。又、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0113】
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
【0114】
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
【0115】
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃であり、さらに好ましくは11〜30℃である。
【0116】
なお、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
【0117】
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
【0118】
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0119】
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、さらには、剥離できる最低張力〜166.6N/m、次いで、最低張力〜137.2N/mで剥離することが好ましいが、特に好ましくは最低張力〜100N/mで剥離することである。
【0120】
本発明においては、当該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0121】
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、及び/又はクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置を用いて、ウェブを乾燥する。
【0122】
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥は概ね40〜250℃で行われる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
【0123】
テンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
【0124】
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0125】
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。
【0126】
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
【0127】
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。
【0128】
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になる迄テンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0129】
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜160℃が好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、70〜140℃が最も好ましい。
【0130】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0131】
6)巻き取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってからフィルムとして巻き取り機により巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。特に0.00〜0.10質量%で巻き取ることが好ましい。
【0132】
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0133】
本発明に係るフィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
【0134】
本発明に係るフィルムの膜厚に特に制限はないが、20〜200μmであることが好ましく、25〜150μmであることがより好ましく、30〜120μmであることが特に好ましい。
【0135】
<溶融流延製膜法による樹脂複合体の製造方法>
本発明の樹脂複合体を、フィルム状樹脂フィルムとして、溶融流延製膜法により製造する場合の方法について説明する。
【0136】
〈溶融ペレット製造工程〉
溶融押出に用いる熱可塑性樹脂、熱収縮材料からなるフィルムを構成する組成物は、通常あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。
【0137】
ペレット化は、公知の方法でよく、例えば、乾燥した熱可塑性樹脂と熱収縮材料等からなる添加剤をフィーダーで押出機に供給し1軸や2軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷又は空冷し、カッティングすることでできる。
【0138】
原材料は、押出する前に乾燥しておくことが原材料の分解を防止する上で重要である。特にセルロースエステルは吸湿しやすいので、除湿熱風乾燥機や真空乾燥機で70〜140℃で3時間以上乾燥し、水分率を200ppm以下、さらに100ppm以下にしておくことが好ましい。
【0139】
添加剤は、押出機に供給押出機合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。酸化防止剤等少量の添加剤は、均一に混合するため、こと前に混合しておくことが好ましい。
【0140】
酸化防止剤の混合は、固体同士で混合してもよいし、必要により、酸化防止剤を溶剤に溶解しておき、熱可塑性樹脂に含浸させて混合してもよく、あるいは噴霧して混合してもよい。
【0141】
真空ナウターミキサーなどが乾燥と混合を同時にできるので好ましい。また、フィーダー部やダイからの出口など空気と触れる場合は、除湿空気や除湿したNガスなどの雰囲気下にすることが好ましい。
【0142】
押出機は、せん断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
【0143】
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
【0144】
〈溶融混合物をダイから冷却ロールへ押し出す工程〉
まず、作製したペレットを1軸や2軸タイプの押出機を用いて、押し出す際の溶融温度Tmを200〜300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどでろ過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に共押出し、冷却ロール上で固化し、弾性タッチロールと押圧しながら流延する。
【0145】
供給ホッパーから押出機へ導入する際は真空下又は減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。なお、Tmは、押出機のダイ出口部分の温度である。
【0146】
ダイに傷や可塑剤の凝結物等の異物が付着するとスジ状の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥のことをダイラインとも呼ぶが、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押出機からダイまでの配管には樹脂の滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
【0147】
押出機やダイなどの溶融樹脂と接触する内面は、表面粗さを小さくしたり、表面エネルギーの低い材質を用いるなどして、溶融樹脂が付着し難い表面加工が施されていることが好ましい。具体的には、ハードクロムメッキやセラミック溶射したものを表面粗さ0.2S以下となるように研磨したものが挙げられる。
【0148】
本発明において冷却ロールには特に制限はないが、高剛性の金属ロールで内部に温度制御可能な熱媒体又は冷媒体が流れるような構造を備えるロールであり、大きさは限定されないが、溶融押し出されたフィルムを冷却するのに十分な大きさであればよく、通常冷却ロールの直径は100mmから1m程度である。
【0149】
冷却ロールの表面材質は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。さらに表面の硬度を上げたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。
【0150】
冷却ロール表面の表面粗さは、Raで0.1μm以下とすることが好ましく、さらに0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど、得られるフィルムの表面も平滑にできるのである。もちろん表面加工した表面はさらに研磨し上述した表面粗さとすることが好ましい。
【0151】
本発明において、弾性タッチロールとしては、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号、WO97−028950、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2005−172940号や特開2005−280217号公報に記載されているような表面が薄膜金属スリーブ被覆シリコンゴムロールを使用することができる。
【0152】
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
【0153】
〈延伸工程〉
本発明では、上記のようにして得られたフィルムは冷却ロールに接する工程を通過後、さらに少なくとも1方向に1.01〜3.0倍延伸することもできる。
【0154】
好ましくは縦(フィルム搬送方向)、横(巾方向)両方向にそれぞれ1.1〜2.0倍延伸することが好ましい。
【0155】
延伸する方法は、公知のロール延伸機やテンターなどを好ましく用いることができる。特に光学フィルムが、偏光板保護フィルムを兼ねる場合は、延伸方向を巾方向とすることで偏光フィルムとの積層がロール形態でできるので好ましい。
【0156】
巾方向に延伸することで光学フィルムの遅相軸は巾方向になる。
【0157】
通常、延伸倍率は1.1〜3.0倍、好ましくは1.2〜1.5倍であり、延伸温度は、通常、フィルムを構成する樹脂のTg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+50℃の温度範囲で行われる。
【0158】
延伸は、長手方向若しくは幅手方向で制御された均一な温度分布下で行うことが好ましい。好ましくは±2℃以内、さらに好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。
【0159】
上記の方法で作製したフィルム状樹脂フィルムを光学フィルムとして用いる場合、当該光学フィルムのレターデーション調整や寸法変化率を小さくする目的で、フィルムを長手方向や幅手方向に収縮させてもよい。
【0160】
長手方向に収縮するには、例えば、巾延伸を一時クリップアウトさせて長手方向に弛緩させる、又は横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。
【0161】
遅相軸方向の均一性も重要であり、フィルム巾方向に対して、角度が−5〜+5°であることが好ましく、さらに−1〜+1°の範囲にあることが好ましく、特に−0.5〜+0.5°の範囲にあることが好ましく、特に−0.1〜+0.1°の範囲にあることが好ましい。これらのばらつきは延伸条件を最適化することで達成できる。
【0162】
本発明のフィルム状樹脂フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
【0163】
本発明に係るフィルム状樹脂フィルムの膜厚に特に制限はなく、目的に応じて変化させることが好ましい。例えば、偏光板保護フィルムに使用する場合は、20〜200μmであることが好ましく、25〜150μmであることがより好ましく、30〜120μmであることが特に好ましい。
【0164】
〈樹脂複合体の製造装置〉
図3は、本発明に係るフィルム状の樹脂複合体の製造装置の一例の全体構成を示す概略フローシートである。図3において、樹脂フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂等のフィルム材料を混合した後、押出し機1Aを用いて、流延ダイ4Aから第1冷却ロール5A上に溶融押し出し、第1冷却ロール5Aに外接させるとともに、更に、第2冷却ロール7A、第3冷却ロール8Aの合計3本の冷却ロールに順に外接させて、冷却固化してフィルム10Aとする。次いで、剥離ロール9Aによって剥離したフィルム10Aを、次いで延伸装置12Aによりフィルムの両端部を把持して幅方向に延伸した後、巻取り装置16Aにより巻き取る。また、平面性を矯正するために溶融フィルムを第1冷却ロール5A表面に挟圧するタッチロール6Aが設けられている。このタッチロール6Aは表面が弾性を有し、第1冷却ロール5Aとの間でニップを形成している。
【0165】
本発明において、製造装置には、ベルト及びロールを自動的に清掃する装置を付加させることが好ましい。清掃装置については特に限定はないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール、粘着ロール、ふき取りロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、レーザーによる焼却装置、あるいはこれらの組み合わせなどがある。
【0166】
清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【実施例】
【0167】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0168】
(本発明の実施例)
(セルロースナノファイバー1の調製)
ミクロフィブリル化セルロース(「MFC」と略す。;高圧ホモジナイザー処理で、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)をミクロフィブリル化したもの、平均繊維径1μm)を水に十分に撹拌し、1質量%濃度の水懸濁液を7kg調製し、グラインダー(栗田機械作製所製「ピュアファインミルKMG1−10」)にて、この水懸濁液を、ほぼ接触させた状態の1200rpmで回転するディスク間を、中央から外に向かって通過させる操作を10回(10pass)行った。
【0169】
分散液をZnCl処理した後、凍結乾燥して、取り出したのちに50℃で加熱した無水酢酸の蒸気を当てることで、表面処理アセチル化処理を行った。Iβ型結晶化度は58%であった。
【0170】
この分散液の一部を取り出し、メチレンクロライドを蒸発させた後、100個のセルロースナノファイバーを電子顕微鏡観察した。平均繊維径は200nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.10であった。
【0171】
(セルロースナノファイバー2の調製)
乾燥質量で5g相当分の亜硫酸漂白針葉樹パルプを高圧ホモジナイザーで処理したファイバーに、0.063gのTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(2,2,6,6−tetramethylpiperidine1−oxyl))及び0.63gの臭化ナトリウムを水375mlに分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように次亜塩素酸を加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をろ過後、充分な水による水洗、ろ過を繰り返し、反応物繊維を得た。これをZnCl処理した後に凍結乾燥して取り出した後にセルロースナノファイバー1の調整等同様の手法で無水プロピオン酸の蒸気を当てることで、表面処理を行った。
【0172】
β型結晶化度は53%であった。また、平均繊維径は30nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.05であった。
【0173】
(セルロースナノファイバー3の調製)
乾燥質量で5g相当分の亜硫酸漂白針葉樹パルプを高圧ホモジナイザー処理したファイバーをZnClで前処理した後、超臨界CO下で(10MPa、70℃)で無水ブタン酸を共存させることでエステル化を行った。
【0174】
表面処理したファイバーを図1の装置を使用して延伸を行った。レーザーは、株式会社鬼塚硝子社製で、最大10Wの炭酸ガスレーザー発振機延伸倍率を使用した。このときビーム径は4mmで、パワー密度は23.7W/cmであった。この状態で、延伸倍率を100倍にセットして原ファイバーを延伸してからなるファイバーを作製した。
【0175】
β型結晶化度は50%であった。平均繊維径は350nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.08であった。
【0176】
(セルロースナノファイバー4の調製)
セルロースナノファイバー3と同様な手法で無水イソブチル酸に変更した以外は同様の手法でファイバーを作製した。Iβ型結晶化度は48%であった。平均繊維系は300nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.06であった。
【0177】
(セルロースナノファイバー5の調製)
セルロースナノファイバー2と同様な手法でセルロースナノファイバーを作製し、表面処理において無水ブタン酸を無水酢酸に変更した以外はセルロースナノファイバー3と同様の手法で作製した。
【0178】
β型結晶化度は45%であった。平均繊維系は80nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.09であった。
【0179】
〈樹脂フィルム1の作製〉
次いで作製したセルロースナノファイバー1を用いて、下記ドープ液を用いて膜厚100μm、巻数5000mの結晶性セルロース含有フィルム1を作製した。
【0180】
(ドープ液の調製)
トリアセチルセルロース 100質量部
エタノール8質量部含むメチレンクロライド溶液 840質量部
MFC固形分として 25質量部
〈樹脂フィルム2〜5の作製〉
表1のマトリクス材料を用い、各種結晶性セルロース含有フィルムを上記と同様な手法で作製した。
【0181】
(比較例)
〈比較用セルロースナノファイバー1の調製〉
セルロースナノファイバー2で表面処理されてないものを用いた。Iβ型結晶化度は60%であった。平均繊維系は凝集が著しくSEMで測定できなかった。
【0182】
〈比較用セルロースナノファイバー2の調製〉
銅アンモニアセルロース溶液(セルロース:10質量%、銅:3.6質量%、アンモニア:6.1質量%、その他は殆ど水)に、アンモニア水(28質量%)、ポリエチレングリコール(以下「PEG」と略す。)水溶液(10質量%、分子量は表1に記載)、界面活性剤(商品名:ペグノール(東邦化学(株)製))を、表1の組成となるように添加し、よく混練して、静電紡糸用の紡糸原液を作製した。
【0183】
この紡糸原液をシリンジに入れ、内径0.41mmの金属ノズルから金属基板上に定量吐出(2.62ml/hr)し、金属ノズルと金属基板間(距離:10cm)には、高圧電源で20kVの電圧を印加し、静電紡糸を行った。結晶系はIII型であった。
【0184】
〈比較用セルロースナノファイバー3の調製〉
材料をバクテリアセルロースにした以外はセルロースナノファイバー5と同様にして作製した。結晶化度は45%でIα型構造であった。平均繊維系は250nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.17であった。
【0185】
〈比較用セルロースナノファイバー4の調製〉
セルロースナノファイバー5と同様の手法で作製した。Iβ型結晶化度は38%であった。平均繊維系は250nm、繊維径の変動係数(S/Da)は0.30であった。
【0186】
〈比較用樹脂フィルム1〜4の作製〉
表1のマトリクス材料(樹脂)を用い、各種比較用セルロースナノファイバー含有フィルムを上記と同様な手法で作製した。
【0187】
《評価》
セルロースナノファイバー1〜5のそれぞれを用いた樹脂フィルム1〜5を本発明に係る実施例1〜5とし、比較用セルロースナノファイバー1〜4のそれぞれを用いた比較用樹脂フィルム1〜4を比較例1〜4として下記の評価を行った。
【0188】
(平均線膨張係数)
セイコー電子(株)製EXSTAR TMA/SS6000型熱応力歪測定装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から50℃まで上昇させた後、一旦ホールドし、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて30〜150℃の時の値を測定して求めた。荷重を5gにし、引張モードで測定を行った。
【0189】
セイコー電子(株)製EXSTAR TMA/SS6000型熱応力歪測定装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から50℃まで上昇させた後、一旦ホールドし、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて30〜150℃の時の値を測定して求めた。荷重を5gにし、引張モードで測定を行い、評価した。なお、表1に記載のCTE(Coefficient of thermal expansion)は、上記測定で算出した線膨張係数である。
【0190】
(ナノファイバーのセルロース結晶化度)
ナノファイバーのセルロース結晶化度は、X線回折測定により得られたX線回折図上の結晶散乱ピーク面積の割合として定義した。製造されたナノファイバーシートをサンプルホルダーに装着し、X線回折の回折角度を10゜から32゜まで操作して測定して得られたX線回折図からバックグラウンド散乱を除去した後、X線回折曲線上の10°、18.5°、32°を直線で結んだ面積が非晶部分となり、それ以外が結晶部分となる。
【0191】
ナノファイバーのセルロース結晶化度は回折図全体の面積に対する結晶部分の割合として、下記の式により算出した。
【0192】
結晶化度=(結晶部分の面積)/(X線回折図全体の面積)×100(%)
(繊維径分布)
平均繊維径Daとその標準偏差Sの比(S/Da)である変動係数(「CV値」ともいう。)で評価した。なお、繊維径を走査型電子顕微鏡(SEM)写真で100点について観察し、繊維径を求めて、変動係数(分布)を算出した。
【0193】
(透明性)
各試料をスペクトロフォトメーターU−3200(日立製作所製)を用いて、380nm、550nm、及び650nmでの分光透過率を、それぞれ測定して、各波長での透過率の平均値を可視光域の透過率とすることにより透明性を評価した。
【0194】
(ヘイズ)
樹脂フィルムのヘイズ(Hf)をJIS−K7136に準じて、ヘイズメーター(NDH2000;日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。
【0195】
以上の評価結果を表1にまとめて示す。
【0196】
【表1】

【0197】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る試料(樹脂フィルム)は、比較例に対し、線膨張係数、透明性、及びヘイズにおいて優れていることが分かる。
【0198】
すなわち、本発明により、透明性が高く、かつ低線膨張係数で熱膨張や熱収縮といった寸法安定性に優れた樹脂フィルムとその製造方法提供することができることが分かる。
【符号の説明】
【0199】
1 原セルロースナノファイバー
5 レーザー発振器装置
6 レーザー光束
11 リール
12 コーム
13a、13b 繰出ニップロール
15 案内具
16a、16b 引取ニップロール
17 延伸されたセルロースナノファイバー
18 複屈折測定装置
19 巻取リール、
21a、21b、21c、21d、21e 赤外線光束、
22、23、24、25 鏡
P 領域
1A 押出し機
2A フィルター
3A スタチックミキサー
4A 流延ダイ
5A 回転支持体(第1冷却ロール)
6A 挟圧回転体(タッチロール)
7A 回転支持体(第2冷却ロール)
8A 回転支持体(第3冷却ロール)
9A 剥離ロール
10A フィルム
11A、13A、14A 搬送ロール
12A 延伸機
15A スリッター
16A 巻き取り機
F 樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーを含有する樹脂複合体であって、当該セルロースナノファイバーが、その表面にアシル化処理を施された植物由来のセルロース繊維集合体であり、Iβ型結晶化度が40〜60%の範囲内であり、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であり、かつ当該平均繊維径Daとその標準偏差Sの比である変動係数(S/Da)が0.15以内であることを特徴とする樹脂複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂複合体を製造する樹脂複合体の製造方法であって、前記アシル化処理が、気相表面処理法又は超臨界領域表面処理法によるアシル化処理であることを特徴とする樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、凍結乾燥したセルロースナノファイバーを気相表面処理法でアシル化処理することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、凍結乾燥したセルロースナノファイバーを超臨界領域表面処理法でアシル化処理することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、アシル化処理を施したセルロースナノファイバーを赤外線加熱し、100倍以上に延伸することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
樹脂複合体に含有されるセルロースナノファイバーの製造方法であって、アシル化処理を施したセルロースナノファイバーを赤外線加熱し、100倍以上に延伸することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−122014(P2011−122014A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279224(P2009−279224)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】