説明

樹脂部材、軸受用保持器、及びその製造方法

【課題】ウェルド面の強度低下を抑制することが可能な樹脂部材、軸受用保持器を提供する。
【解決手段】冠型保持器は、成形金型内に形成した環状のキャビティ40の周縁部に設けた樹脂射出ゲート50から、強化繊維を添加した溶解樹脂をキャビティ40内に射出し、冷却固化することによって成形される。キャビティ40内に注入された溶解樹脂は、キャビティ40内を充填した後、樹脂溜まり60A,60Bに流入し、貯留される。このとき、矢印で示したような樹脂の流動が発生するため、溶解樹脂に添加された強化繊維は、ウェルド面Wの径方向内側において、ウェルド面Wに対して垂直に配向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材、軸受用保持器、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図15に示すように、樹脂製保持器としては、略円環状の基部110と、基部110の軸方向一端側面112から周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部120と、を有し、隣り合う一対の柱部120,120の互いに対向する面122,122と基部110の軸方向一端側面112とによってポケット部130を形成する冠型保持器100が知られている。
【0003】
このような、樹脂製冠型保持器100は、通常、射出成形により製造される(特許文献1〜3参照。)。具体的には、図16に示すように、成形金型に成形体である保持器に対応する環状のキャビティ140を形成し、このキャビティ140の周縁部に設けた樹脂射出ゲート150から溶解された樹脂材料を注入し、冷却固化することによって製造される。
【0004】
キャビティ140に注入された樹脂材料は、キャビティ140内を左右に二つの流れとなって流動し、樹脂射出ゲート150と対向する反対側の位置で再び合流し、相互に接合され、ウェルド面100Wが形成される。一般に、この様な射出成形された樹脂部材は、ウェルド面100Wにおいて強度が低下することがよく知られている。また、溶解樹脂に、強化材料として、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の繊維を添加したものでは、ウェルド面100Wにおいて繊維配向に乱れが生じ、このウェルド面Wの強度がさらに低下する傾向にある。
【0005】
そこで、特許文献1のように、3点ゲート方式によって製造された樹脂保持器を用いることによって、ウェルド面の強度低下を抑制することが考えられる。この特許文献1記載の保持器を製造する際には、図17に示すように、キャビティ240の周縁部の円周方向3箇所にゲート250A,250B,250Cが設けられる。また、これら3個のゲート250A,250B,250C間の3つの領域d1,d2,d3のうち、一つの領域d1の円周方向距離が残りの2つの領域d2,d3の円周方向距離よりも長く設定される(d1>d2,d3)。また、周方向距離の長い領域d1において、その中間位置にある注入樹脂材料の合流個所、すなわちウェルド面200Wに対応して1個の樹脂溜まり260が設けられている。
【0006】
各領域d1,d2,d3のうち、円周方向距離の短い領域d2,d3内では、注入樹脂材料同士が合流するまでの距離が短い。そのため、これらの領域d2,d3内では、注入樹脂材料はあまり温度低下することなく合流して接合するため、合流接合部分の接合強度が大きくなる。一方、円周方向距離の長い領域d1内では、注入樹脂材料は、比較的長い距離流動したのちに合流することになるため、樹脂材料の先頭部分が温度低下し易くなり、ウェルド面200Wが形成され易くなる。しかし、この領域d1における樹脂材料の合流個所には樹脂溜まり260を設けているため、注入樹脂材料は合流しながらキャビティ240を出て、樹脂溜まり260に流入する。このように、ウェルド面200Wの形成を抑制することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3666536号公報
【特許文献2】特開2002−301742号公報
【特許文献3】特開2010−266064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の保持器の製造方法を採用しても、ウェルド面の発生を防止できない場合も多く、保持器のウェルド面における強度低下が問題となっていた。さらに、溶解樹脂に強化繊維を添加した場合、ウェルド面において強化繊維の繊維配向の乱れを防ぐことができず、強度がさらに低下する虞れがあった。
【0009】
本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、ウェルド面の強度低下を抑制することが可能な樹脂部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 強化繊維を添加した樹脂によって射出成形される樹脂部材であって、
ウェルド面に位置する前記強化繊維の少なくとも一部は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする樹脂部材。
(2) 前記樹脂部材は略円環形状であり、
前記ウェルド面の径方向内側に位置する前記強化繊維は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする(1)に記載の樹脂部材。
(3) (2)に記載の樹脂部材によって構成されることを特徴とする軸受用保持器。
(4) 略円環状の基部と、
前記基部の軸方向一端側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部と、を有し、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向一端側面とによってポケット部を形成する冠型保持器である
ことを特徴とする(3)に記載の軸受用保持器。
(5) 前記基部の軸方向他端側面から夫々の前記柱部の内部まで複数の肉盗みが凹設され、
前記ウェルド面は、少なくとも一つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて、前記肉盗みとオーバーラップするように形成され、
前記肉盗みには、その径方向内側面及び径方向外側面を接続する少なくとも一つの架橋部が設けられる
ことを特徴とする(4)に記載の軸受用保持器。
(6) 成形金型内に形成したキャビティの周縁部に設けられた少なくとも1つの樹脂射出ゲートから、強化繊維を添加した溶解樹脂を前記キャビティ内に射出することによって成形される樹脂部材の製造方法であって、
ウェルド面に位置する前記強化繊維の少なくとも一部は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする樹脂部材の製造方法。
(7) 前記樹脂部材は略円環形状であり、
前記ウェルド面の径方向内側に位置する前記強化繊維は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする(6)に記載の樹脂部材の製造方法。
(8) (7)に記載の樹脂部材の製造方法によって構成されることを特徴とする軸受用保持器の製造方法。
(9) 前記軸受用保持器は、
略円環状の基部と、
前記基部の軸方向一端側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部と、を有し、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向一端側面とによってポケット部を形成する冠型保持器である
ことを特徴とする(8)に記載の軸受用保持器の製造方法。
(10) 前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記ポケット部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて形成され、
前記キャビティの径方向外側面には、前記ウェルド面が形成される位置の周方向両側に、前記溶融樹脂を貯留可能な一対の樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする(9)に記載の軸受用保持器の製造方法。
(11) 前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて形成され、
前記キャビティの径方向外側面には、前記ウェルド面が形成される位置の近傍に、前記溶融樹脂を貯留可能な少なくとも1つの樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする(9)に記載の軸受用保持器の製造方法。
(12) 前記基部の軸方向他端側面から夫々の前記柱部の内部まで複数の肉盗みが凹設され、
前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて、前記肉盗みとオーバーラップするように形成され、
前記キャビティの径方向内側面には、前記ウェルド面が形成される位置の近傍に、前記溶融樹脂が流入可能な少なくとも1つの樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする(9)に記載の軸受用保持器の製造方法。
(13) 前記基部の軸方向他端側面から夫々の前記柱部の内部まで複数の肉盗みが凹設され、
前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて、前記肉盗みとオーバーラップするように形成され、
前記肉盗みには、その径方向内側面及び径方向外側面を接続する少なくとも一つの架橋部が設けられ、
前記キャビティの径方向外側面には、前記ウェルド面が形成される位置の近傍に、前記溶融樹脂が流入可能な少なくとも1つの樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする(9)に記載の軸受用保持器の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂部材によれば、ウェルド面Wに位置する強化繊維の少なくとも一部は、ウェルド面Wに対して垂直に配向するので、ウェルド面での樹脂の接合強度が高くなり、ウェルド面の強度低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る冠型保持器の斜視図である。
【図2】(a)は図1の冠型保持器を射出成形する際に使用する成形金型の断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図3】図1の冠型保持器の要部拡大図である。
【図4】第2実施形態に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図5】第2実施形態の変形例に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図6】図5の冠型保持器を射出成形する際に使用する成形金型の断面図である。
【図7】第3実施形態に係る冠型保持器を示す図であり、(a)は一部切り欠いた斜視図であり、(b)は(a)を周方向から見た要部拡大図であり、(c)は(a)を軸方向からみた要部拡大図である。
【図8】図7の冠型保持器を射出成形する際に使用する成形金型の断面図である。
【図9】第3実施形態の変形例に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図10】図9の冠型保持器を射出成形する際に使用する成形金型の断面図である。
【図11】第4実施形態に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図12】第4実施形態の変形例に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図13】第5実施形態に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図14】第5実施形態の変形例に係る冠型保持器の要部拡大図である。
【図15】従来の冠型保持器の斜視図である。
【図16】図15の冠型保持器を射出成形する際に使用する成形金型の断面図である。
【図17】保持器を射出成形する際に使用する従来の成形金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る樹脂部材の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る樹脂部材の一例である軸受用冠型保持器1を示す斜視図である。冠型保持器1は、略円環状の基部10と、基部10の軸方向一端側面12から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部20と、を有しており、隣り合う一対の柱部20,20の互いに対向する面22,22と基部10の軸方向一端側面12とによって、軸受の転動体(不図示)を保持するポケット部30を形成している。
【0015】
図2(a)に示すように、冠型保持器1は、成形金型内に形成した環状のキャビティ40の周縁部に設けた樹脂射出ゲート(以下、単にゲートと呼ぶ。)50から、強化繊維を添加した溶解樹脂をキャビティ40内に射出し、冷却固化することによって成形される。樹脂材料としては、例えば、46ナイロンや66ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)等の樹脂に、10〜50wt%の強化繊維(例えば、ガラス繊維や炭素繊維。)を添加した樹脂組成物が用いられる。
なお、図2(a)中、冠型保持器1の柱部20及びポケット部30に相当する部分については、簡単のために省略している。
【0016】
ゲート50からキャビティ40内に注入された樹脂組成物の溶融物は、左右に分かれて流動し、ゲート50と対向する径方向反対側で合流する。そして、成形された冠型保持器1の基部10や柱部20には、溶融樹脂の合流位置に、ウェルド面Wが生じる。本実施形態の冠型保持器1では、図1及び図3に示すように、ウェルド面Wが、ポケット部30の軸方向一端側面32の周方向中央部から基部10の軸方向他端側面14まで軸方向に延び、軸方向及び径方向から見て略直線形状となるように形成される。
【0017】
図2に戻り、キャビティ40の径方向外側面42には、冠型保持器1のウェルド面Wが形成される位置の周方向両側近傍に、より詳細にはウェルド面Wが形成されるポケット部30に隣接する一対の柱部20,20と周方向にオーバーラップするように(図3参照。)、一対の樹脂溜まり60A,60Bが設けられる。これらの樹脂溜まり60A,60Bは、キャビティ40に比べて小容量の空間であり、キャビティ40の内部と狭い通路で連通している。
【0018】
キャビティ40内に注入された溶解樹脂は、キャビティ40内を充填した後、樹脂溜まり60A,60Bに流入し、貯留される。このとき、図2に矢印で示したような樹脂の流動が発生するため、溶解樹脂に添加された強化繊維は、ウェルド面Wの径方向内側において、ウェルド面Wに対して垂直に配向する。
【0019】
このようにキャビティ40及び樹脂溜まり60A,60Bに溶解樹脂が充填され、その溶解樹脂が硬化して冠型保持器1が成形されるが、この冠型保持器1には、樹脂溜まり60A,60B内でできた樹脂塊が形成される。これらの樹脂塊は、冠型保持器1の本体とともに金型から排出されるため、排出後、冠型保持器1の本体から切り離せばよい。
【0020】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る冠型保持器1は、強化繊維を添加した樹脂によって射出成形され、ウェルド面Wに位置する強化繊維の少なくとも一部は、ウェルド面Wに対して垂直に配向するように構成される。したがって、ウェルド面Wにおける強度の低下を抑制することが可能となる。
【0021】
また、ウェルド面Wは、ポケット部30の軸方向一端側面32の周方向中央部から基部10の軸方向他端側面14まで軸方向に延びて形成され、キャビティ40の径方向外側面42には、ウェルド面Wが形成される位置の周方向両側に一対の樹脂溜まり60A,60Bが設けられる。したがって、応力が集中し易いウェルド面Wの径方向内側において、溶解樹脂に添加された強化繊維がウェルド面Wに対して垂直に配向するので、ウェルド面Wの強度低下を抑制することが可能となる。
【0022】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る冠型保持器について説明する。本実施形態の冠型保持器は、第1実施形態の冠型保持器と基本的構成が同様であるので、同一部分には同一符号を付すことによって、説明を省略又は簡略化する。
【0023】
図4に示すように、本実施形態の冠型保持器1は、ウェルド面Wが、柱部20の軸方向一端側面24の周方向中央部から基部10の軸方向他端側面14まで軸方向に延びて形成される。
【0024】
また、キャビティ40の径方向外側面42には、ウェルド面Wが形成される位置の周方向両側近傍に、より詳細にはウェルド面Wが形成される柱部20の位置と周方向にオーバーラップするように、一対の樹脂溜まり60A,60Bが設けられる。
【0025】
なお、本実施形態において、樹脂溜まりは1つのみ設けるようにしてもよく、例えば、図5及び図6に示すように、キャビティ40の径方向外側面42のウェルド面Wが形成される位置に、1つの樹脂溜まり60Aを設けてもよい。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の冠型保持器1は、第1実施形態と同様に、応力が集中し易いウェルド面Wの径方向内側に位置する強化繊維が、ウェルド面Wに対して垂直に配向するので、ウェルド面Wの強度低下をさらに抑制することが可能となる。
【0027】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る冠型保持器について説明する。本実施形態の冠型保持器は、上記実施形態の冠型保持器と基本的構成が同様であるので、同一部分には同一符号を付すことによって、説明を省略又は簡略化する。
【0028】
図7に示すように、本実施形態の冠型保持器1には、第2実施形態と同様に、ウェルド面Wが、柱部20の軸方向一端側面24の周方向中央部から基部10の軸方向他端側面14まで軸方向に延びて形成される。
【0029】
また、冠型保持器1には、図7に示すように、精度向上や軽量化のために、基部10の軸方向他端側面14から、軸方向一端側に向かうように、夫々の柱部20の内部まで複数の肉盗み70が凹設されている。夫々の肉盗み70は、径方向幅が基部10の軸方向他端側面14の径方向幅よりも小さく、且つ、周方向幅が柱部20の周方向幅と略等しい開口71を有しており、軸方向一端側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなるように形成されている。したがって、ウェルド面Wが形成される柱部20の直下に凹設された肉盗み70は、ウェルド面Wと周方向においてオーバーラップする。
【0030】
ここで、仮に、第1及び第2実施形態と同様にキャビティ40の径方向外側面42に樹脂溜まり60A,60Bを形成した場合(図2参照。)、肉盗み70が樹脂溜まり60A,60Bに向かう溶解樹脂の流動を阻害してしまい、ウェルド面Wの径方向内側において、強化繊維がウェルド面Wに対して垂直に配向し難くなる。そこで、本実施形態の冠型保持器1では、図7(c)及び図8に示すように、キャビティ40の径方向内側面44のウェルド面Wが形成される位置の周方向両側近傍に、より詳細にはウェルド面Wが形成される柱部20と周方向にオーバーラップするように、一対の樹脂溜まり60A,60Bが形成される。
【0031】
なお、樹脂溜まりは1つのみ設けるようにしてもよく、例えば、図9及び図10に示すように、キャビティ40の径方向内側面44のウェルド面Wが形成される位置に、1つの樹脂溜まり60Aを設けてもよい。
【0032】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る冠型保持器について説明する。本実施形態の冠型保持器は、第3実施形態の冠型保持器と基本的構成が同様であるので、同一部分には同一符号を付すことによって、説明を省略又は簡略化する。
【0033】
図11に示すように、本実施形態の冠型保持器1では、ウェルド面Wが、柱部20の軸方向一端側面24の周方向一方側から基部10の軸方向他端側面14まで軸方向に延びて形成される。
【0034】
また、キャビティ40の径方向内側面44のウェルド面Wが形成される位置の周方向両側近傍に、より詳細にはそれぞれウェルド面Wが形成される柱部20とその柱部20に隣接するポケット部30と周方向にオーバーラップするように、一対の樹脂溜まり60A,60Bが形成される。
【0035】
なお、樹脂溜まりは1つのみ設けるようにしてもよく、例えば、図12に示すように、キャビティ40の径方向内側面44のウェルド面Wが形成される位置に、1つの樹脂溜まり60Aを設けるようにしてもよい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の冠型保持器1においても、上記実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0037】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る冠型保持器について説明する。本実施形態の冠型保持器は、上述の実施形態の冠型保持器と基本的構成が同様であるので、同一部分には同一符号を付すことによって、説明を省略又は簡略化する。
【0038】
図13に示すように、本実施形態の冠型保持器1には、第3実施形態(図7参照。)と同様に、ウェルド面W及び肉盗み70が形成されている。また、肉盗み70には、強度向上のために、ウェルド面Wの周方向両側に、径方向内側面72及び径方向外側面74を接続する断面四角形状の一対の架橋部80A,80Bが形成されている。また、キャビティ40の径方向外側面42には、ウェルド面Wが形成される位置に、1つの樹脂溜まり60Aが設けられる。
【0039】
このように、肉盗み70に架橋部80A,80Bが設けられることで、これらの架橋部80A,80Bを介して、溶解樹脂が径方向内側から径方向外側に流動し、樹脂溜まり60Aに流入することになる。したがって、応力が集中し易いウェルド面Wの径方向内側において、強化繊維がウェルド面Wに対して垂直に配向するので、ウェルド面Wの強度低下を抑制することが可能となる。
【0040】
なお、肉盗み70に設ける架橋部は1つのみとしてもよく、例えば、図14に示すように、ウェルド面Wと周方向にオーバーラップする架橋部80Aを形成するようにしてもよい。
【0041】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上述の実施形態においては、キャビティ40には、1つのゲート50が設けられるとしたが、2つ以上のゲートを設ける多点ゲート方式としてもよい。
【0042】
また、本発明における樹脂部材は、保持器に限定されるものではなく、強化繊維を添加した樹脂によって射出成形されるものであればよい。
【符号の説明】
【0043】
1 冠型保持器(樹脂部材)
10 基部
12 軸方向一端側面
14 軸方向他端側面
20 柱部
24 軸方向一端側面
30 ポケット部
32 軸方向一端側面
40 キャビティ
42 径方向外側面
44 径方向内側面
50 樹脂射出ゲート
60A,60B 樹脂溜まり
70 肉盗み
71 開口
72 径方向内側面
74 径方向外側面
80A,80B 架橋部
W ウェルド面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を添加した樹脂によって射出成形される樹脂部材であって、
ウェルド面に位置する前記強化繊維の少なくとも一部は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする樹脂部材。
【請求項2】
前記樹脂部材は略円環形状であり、
前記ウェルド面の径方向内側に位置する前記強化繊維は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂部材によって構成されることを特徴とする軸受用保持器。
【請求項4】
略円環状の基部と、
前記基部の軸方向一端側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部と、を有し、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向一端側面とによってポケット部を形成する冠型保持器である
ことを特徴とする請求項3に記載の軸受用保持器。
【請求項5】
前記基部の軸方向他端側面から夫々の前記柱部の内部まで複数の肉盗みが凹設され、
前記ウェルド面は、少なくとも一つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて、前記肉盗みとオーバーラップするように形成され、
前記肉盗みには、その径方向内側面及び径方向外側面を接続する少なくとも一つの架橋部が設けられる
ことを特徴とする請求項4に記載の軸受用保持器。
【請求項6】
成形金型内に形成したキャビティの周縁部に設けられた少なくとも1つの樹脂射出ゲートから、強化繊維を添加した溶解樹脂を前記キャビティ内に射出することによって成形される樹脂部材の製造方法であって、
ウェルド面に位置する前記強化繊維の少なくとも一部は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする樹脂部材の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂部材は略円環形状であり、
前記ウェルド面の径方向内側に位置する前記強化繊維は、前記ウェルド面に対して垂直に配向する
ことを特徴とする請求項6に記載の樹脂部材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂部材の製造方法によって構成されることを特徴とする軸受用保持器の製造方法。
【請求項9】
前記軸受用保持器は、
略円環状の基部と、
前記基部の軸方向一端側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部と、を有し、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向一端側面とによってポケット部を形成する冠型保持器である
ことを特徴とする請求項8に記載の軸受用保持器の製造方法。
【請求項10】
前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記ポケット部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて形成され、
前記キャビティの径方向外側面には、前記ウェルド面が形成される位置の周方向両側に、前記溶融樹脂を貯留可能な一対の樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする請求項9に記載の軸受用保持器の製造方法。
【請求項11】
前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて形成され、
前記キャビティの径方向外側面には、前記ウェルド面が形成される位置の近傍に、前記溶融樹脂を貯留可能な少なくとも1つの樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする請求項9に記載の軸受用保持器の製造方法。
【請求項12】
前記基部の軸方向他端側面から夫々の前記柱部の内部まで複数の肉盗みが凹設され、
前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて、前記肉盗みとオーバーラップするように形成され、
前記キャビティの径方向内側面には、前記ウェルド面が形成される位置の近傍に、前記溶融樹脂が流入可能な少なくとも1つの樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする請求項9に記載の軸受用保持器の製造方法。
【請求項13】
前記基部の軸方向他端側面から夫々の前記柱部の内部まで複数の肉盗みが凹設され、
前記ウェルド面は、少なくとも1つの前記柱部の軸方向一端側面の周方向中央部から前記基部の軸方向他端側面まで軸方向に延びて、前記肉盗みとオーバーラップするように形成され、
前記肉盗みには、その径方向内側面及び径方向外側面を接続する少なくとも一つの架橋部が設けられ、
前記キャビティの径方向外側面には、前記ウェルド面が形成される位置の近傍に、前記溶融樹脂が流入可能な少なくとも1つの樹脂溜まりが設けられる
ことを特徴とする請求項9に記載の軸受用保持器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−219917(P2012−219917A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86355(P2011−86355)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】