説明

樹脂部材のレーザ溶着部構造および収容容器

【課題】レーザ溶着部において、必要な溶着強度を確実に得ることができる樹脂部材のレーザ溶着部構造および収容容器を提供する。
【解決手段】透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを押圧しつつ重ね、透過性樹脂部材10の側から吸収性樹脂部材22の側にレーザ光を照射して、両樹脂部材10,22を溶着する樹脂部材のレーザ溶着部構造および収容容器であって、透過性樹脂部材10の厚みTが所定の領域ごとに変化するとき、レーザ光を照射する前の状態において、厚みTが所定寸法以下の領域αでは両樹脂部材10,22を接触させ、厚みTが所定寸法よりも大きい領域βでは両樹脂部材10,22を離間させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光の透過性が高い樹脂材料で構成した第1部材と、前記レーザ光の吸収性が高い樹脂材料で構成した第2部材とを押圧しつつ重ね、前記第1部材の側から前記第2部材の側に前記レーザ光を照射して、前記第1部材と前記第2部材とを溶着する樹脂部材のレーザ溶着部構造、および、各種装置を収容する収容空間を形成すべく、前記レーザ光の透過性が高い樹脂材料で構成した第1部材と、前記レーザ光の吸収性が高い樹脂材料で構成した第2部材とをレーザ溶着して構成した収容容器、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化及び低コスト化等を図るため、自動車部品などの部品や各種装置を収容する収容容器等は樹脂材で形成することが多い。予め複数に分割した分割樹脂部材を互いに接合して樹脂成形品とすると、樹脂成形品の生産性を高めることができる。
樹脂材同士の接合方法として、レーザ溶着法、熱風溶着法、超音波溶着法等が公知である。特にレーザ溶着法では、接合部位であるレーザ溶着部に沿うように局所的に熱を加えるため、他の場所に熱による悪影響を及ぼし難く、樹脂部材が不意に変形するのを防止しながら、溶着することができる。
【0003】
特許文献1〜2には、レーザ光に対して透過性のある透過性樹脂部材とレーザ光に対して吸収性のある吸収性樹脂部材とを接合するレーザ溶着法が開示してある。
概説すると、これら樹脂部材を接合部位が隙間無く当接するように圧着した後、透過性樹脂部材の側から吸収性樹脂部材の側にレーザ光を照射する。透過性樹脂部材の内部を透過したレーザ光が当接面に到達したとき、レーザ光の有するエネルギは吸収性樹脂部材によって吸収される。これにより、吸収性樹脂部材が加熱される。一方、透過性樹脂部材は、レーザ光によって直接に加熱されるものではなく、吸収性樹脂部材からの伝熱により加熱される。そして、透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材との当接面で樹脂部材同士が互いに溶融状態となって溶け込み、固化することで両樹脂部材が接合する。
【0004】
【特許文献1】特開2004−209916号公報
【特許文献2】特開2005−1216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば透過性樹脂部材は、その表面が種々の形状を呈することにより、その部位によって厚みが変化している場合がある。また、製造工程の都合上、未溶着の樹脂部材同士を他の装置に組み付けた後にレーザ溶着する場合、樹脂部材とレーザ光源との間に、レーザ光を遮る他物が存在することがある。これらの場合に透過性樹脂部材の側から吸収性樹脂部材の側にレーザ光を照射すると、吸収性樹脂部材の側に到達するレーザ光の透過量は、吸収性樹脂部材の部位によって異なることとなる。
【0006】
透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材とを接合するのに十分なレーザ光が到達しない部位では、各樹脂材の加熱の程度が不十分となる。このとき、当該部位では樹脂部材同士の十分な溶け込みが行われない。レーザ溶着部において部分的に溶け込みができない領域が存在する場合、当該領域では、透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材とが接当し合い、接合に十分なレーザ光が到達している部位での各樹脂材同士の溶け込みを妨げる。そのため、レーザ溶着部の全体に亘って十分な溶け込みが行われず、必要な溶着強度が確保できないという問題点があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、レーザ溶着部において、必要な溶着強度を確実に得ることができる樹脂部材のレーザ溶着部構造および収容容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る樹脂部材のレーザ溶着部構造は、レーザ光の透過性が高い樹脂材料で構成した第1部材と、前記レーザ光の吸収性が高い樹脂材料で構成した第2部材とを押圧しつつ重ね、前記第1部材の側から前記第2部材の側に前記レーザ光を照射して、前記第1部材と前記第2部材とを溶着するものであって、その第一特徴構成は、前記レーザ光の照射方向に沿った前記第1部材の厚みがレーザ照射線に沿った所定の領域ごとに変化するとき、前記レーザ光を照射する前の状態において、前記厚みが所定寸法以下の領域では前記第1部材と前記第2部材とを接触させ、前記厚みが所定寸法よりも大きい領域では前記第1部材と前記第2部材とを離間させた点にある。
【0009】
上記第一特徴構成によれば、前記厚みが所定寸法以下の領域では、レーザ光の透過量が十分であるため、第1部材と第2部材とを接触させておくと、第1部材と第2部材とが互いに溶け込むことで、確実な接合が行われる。
【0010】
一方、前記厚みが所定寸法よりも大きい領域では、レーザ光の透過量が不十分であるため、樹脂材同士の十分な溶着が期待できない。つまり、この領域では、第1部材および第2部材は、互いに十分溶け込むことができない状態となる。しかし、本構成のように、この領域においては、第1部材と第2部材とを予め離間させておくため、レーザ光の透過量が十分な領域における樹脂部材同士の溶け込みを妨げない。
【0011】
前記厚みが所定寸法よりも大きい領域では、樹脂部材同士の接合は行われないが、前記厚みが所定寸法よりも小さい領域において確実な接合が行われるため、当該領域のみの接合であっても必要な強度を得ることができる。
【0012】
本発明に係る樹脂部材のレーザ溶着部構造の第二特徴構成は、前記第1部材に対する前記レーザ照射線を略環状に構成した点にある。
【0013】
上記第二特徴構成によれば、例えばレーザ光の照射をレーザ溶着部にくり返し行う場合、レーザ光源を一方向に周回させるようにして照射し、各樹脂部材の加熱の程度を全体に亘って略均一な条件とすることができる。そのため、レーザ溶着部に沿って樹脂部材同士の溶け込みが略均等となり、健全なレーザ溶着部を得ることができる。
【0014】
本発明に係る収容容器は、各種装置を収容する収容空間を形成すべく、前記レーザ光の透過性が高い樹脂材料で構成した第1部材と、前記レーザ光の吸収性が高い樹脂材料で構成した第2部材とをレーザ溶着して構成したものであって、その特徴構成は、前記第1部材は、当該収容容器を他物に取り付けるために、前記第1部材から延出する固定部を備えると共に、当該固定部の一部に、前記第2部材に対して照射するレーザ光が透過するレーザ光透過部を設定してあり、当該レーザ光透過部が平板形状であって、その平面方向をレーザ光の照射方向と平行に、且つ、レーザ照射線の方向に対して交差するように構成した点にある。
【0015】
上記第三特徴構成によれば、レーザ光は平板形状のレーザ光透過部の側面から照射することとなる。そのため、レーザ光の透過量を減少させる第1部材の部位の幅をできるだけ小さくすることができる。従って、レーザ溶着部をできるだけ広い面積で設定でき、レーザ溶着の強度を増すことができる。
【0016】
特に、本構成の収容容器を振動する他物に取り付ける場合、振動等によって収容容器の第1部材が捩じれる虞がある。固定部の一部であるレーザ光透過部は、厚みが所定寸法よりも大きいため、樹脂部材同士の接合が行われない。しかし、このレーザ光透過部は、第1部材に対して立てた状態に設けられるために補強リブの効果を奏し、第1部材の剛性が向上するため、樹脂部材同士が接合されなくとも、上述した捩じれを未然に防止できる構成となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
本発明は、樹脂部材同士をレーザ光によって確実に溶着するための樹脂部材のレーザ溶着部の構造である。樹脂部材は、レーザ光の透過性が高い第1部材(以下、透過性樹脂部材と称する)と、レーザ光の吸収性が高い第2部材(以下、吸収性樹脂部材と称する)とを用いる。そして、透過性樹脂部材および吸収性樹脂部材を押圧しつつ重ね合わせ、透過性樹脂部材の側から吸収性樹脂部材の側にレーザ光を照射すると、透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材との当接面同士が加熱溶融して両者が互いに溶け込み、溶着する。
【0018】
本発明の樹脂部材のレーザ溶着部の構造は、例えば、透過性樹脂部材の表面が種々の形状を呈するなどにより、その部位によってレーザ光の透過量が異なる場合等に適用できる。
「レーザ光の透過量が異なる」とは、上述したように樹脂部材の構造に起因する他に、樹脂部材の材質が均一でない場合等にも起こりうる。この場合にも、本発明の樹脂部材のレーザ溶着部の構造を適用することができる。
以下に、自動車の回転角度計測装置に本発明のレーザ溶着部の構造を適用した場合について説明する。
【0019】
図1〜6に、自動車のブレーキペダルの踏み込み量を回転角度に変換して電気信号として取得する回転角度計測装置Zの概略図を示す。回転角度計測装置Zは、透過性樹脂部材および吸収性樹脂部材をレーザ溶着し、後述の感磁素子(各種装置の具体例)等を収容する収容空間を形成した収容容器の一例である。
【0020】
回転角度計測装置Zには、装置本体に対して軸芯X上で回転自在に支持した回転軸1に操作アーム2が備えてあり、この操作アーム2の軸芯X周りでの回転角度を計測してコネクタ部Cから出力する。この回転開度計測装置Zは、ブレーキペダルの操作系以外にアクセルペダルや各種レバー類の操作量を計測するために用いても良い。
【0021】
図2〜3に示すように、回転角度計測装置Zの装置本体は、回転軸1と一体的に回転する永久磁石Mを備えた作動ユニットAと、この永久磁石Mからの磁束が作用する位置に配置された2つのホールIC(S:後述する2つのホールICの上位概念・感磁素子の一例)を備えた感磁ユニットBとを連結した構造を有する。本実施形態では感磁素子としてホールICを用いているが、ホール素子やMR素子を用いても良い。また、感磁素子は1つ或いは3つ以上であってもかまわない。
この回転角度計測装置では2つのホールIC(S)の一方を主として用い、他方をバックアップとして用いており、何れのホールIC(S)を用いた場合でも等しい計測結果を得るようにホールIC(S)を同じ方向に向けて重ね合わせる形態で使用している。しかし、ホールICの相対位置関係はこれに限定されるものではなく、他の形態であってもかまわない。
【0022】
作動ユニットAを形成する基材は透過性樹脂部材であり、感磁ユニットBを形成する基材は吸収性樹脂部材である。これらの樹脂部材をレーザ溶着する。
【0023】
<樹脂部材の構造>
(透過性樹脂部材を基材とする作動ユニットA)
作動ユニットAは、軸芯Xを中心とするディスク状の樹脂製の支持体(透過性樹脂部材)10を備えると共に、この支持体10に一体的に形成したボス部11に回転軸1を遊転支承している。この支持体10の周部には感磁ユニットBの方向に張り出すスリーブ部12を一体形成し、表面側には軸芯Xを中心とした円弧状の保護リブ13と、回転角度計測装置Zを他物に固定するための一対の固定部14とを一体形成している。固定部14には、ネジ等を挿通させるための孔部が設けてある。尚、保護リブ13は、他物を固定するための位置決めにも用いられる。
【0024】
透過性樹脂部材である支持体10(以下、支持体および透過性樹脂部材は共通の符号10で表す)のスリーブ部12の内側には、吸収性樹脂部材とレーザ溶着する部位である第一当接部10aを有する。本実施形態では、第一当接部10aがフラットな態様を例示する。しかし、これに限られるものではなく、凸設する態様としてもよい。
【0025】
第一当接部10aは、吸収性樹脂部材に対応する環状となるように形成してある。このとき、透過性樹脂部材10に対するレーザ照射線Lは略環状となる(図6参照)。
このように構成すると、レーザ光の照射をレーザ溶着部にくり返し行う場合、レーザ光源を一方向に周回させるようにして照射し、各樹脂部材の加熱の程度を全体に亘って略均一な条件とすることができる。この場合、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材とは互いに押圧されているが、全体に亘って略均一な加熱条件であるため、両樹脂部材が一定の相対移動することで近接することができ、健全なレーザ溶着部を得ることができる。
【0026】
透過性樹脂部材10は、使用するレーザ光の波長領域におけるレーザ光吸収率を低く構成してある。例えば、透過性樹脂部材10は、ポリプチレンテレフタレート(PBT)・ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂・ポリエチレン・ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂・ポリアミド樹脂・塩化ビニル樹脂・フッ素樹脂等を構成材とすることができる。尚、透過性樹脂部材10は、レーザ光の透過性が吸収性樹脂部材に比べて相対的に高いものであれば、特に限定されるものではない。
【0027】
透過性樹脂部材10には、レーザ光を吸収しないか、吸収しにくい物質を強化材として含むことができる。このような強化材としてはガラス繊維、ナイロン繊維等が例示される。第一当接部10aの厚みは、特に限定されるものではない。
【0028】
尚、作動ユニットAは、回転軸1の外端側に操作アーム2を連結し、この回転軸1の内端側に鉄やニッケル合金等の磁性体で成るカップ状のヨーク15を連結した構造を有している。
操作アーム2の揺動端には軸芯Xと平行姿勢となる折り曲げ部2Aを形成し、この折り曲げ部2Aに対してペダル等からの操作力が作用する形態で使用される。また、ヨーク15の内周面には非磁性体の素材で成るリング状部材16を取り付けており、このリング状部材16に複数の永久磁石Mを備えることで、このヨーク15で磁気回路を形成している。また、支持体10と前記ヨーク15との間に夫々を離間させる方向に付勢力を作用させると同時に、操作アーム2に復元方向に付勢力を作用させる圧縮コイルバネ17を介装している。
【0029】
(吸収性樹脂部材を基材とする感磁ユニットB)
感磁ユニットBは、銅合金で成る複数のリードフレームF(導体の一例)をインサートした樹脂の成形物で成るプレート部20を形成する。このプレート部20の端部にコネクタ部Cを形成し、プレート部20の表面側に形成した突出部21の内部において軸芯Xを挟む位置に前記2つのホールIC(S)を備える。プレート部20の表面側に軸芯Xを中心とする樹脂製の筒状部22(吸収性樹脂部材)を一体的に突出形成した構造を有している。
【0030】
吸収性樹脂部材22(以下、筒状部および吸収性樹脂部材は共通の符号22で表す)は、透過性樹脂部材10の第一当接部10aとレーザ溶着する第二当接部22aを有する。第二当接部22aは、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを圧着させたとき隙間なく圧接する。また、第二当接部22aの幅は、例えば筒状部22の幅と同等に形成すると、透過性樹脂部材10への伝熱効率に優れたものとなる。
【0031】
吸収性樹脂部材22は、使用するレーザ光の波長領域におけるレーザ光に対して吸収性を有する樹脂材料とする。
レーザ溶着時における第一当接部10aと第二当接部22aとの溶着性を考慮すると、第二当接部22aは、できるだけ第一当接部10aと同じ組成の樹脂、あるいは、第一当接部10aと組成が異なっても相溶性の高い樹脂を基材とすることが好ましい。
レーザ光の吸収性が高い吸収性樹脂部材22は、透過性樹脂部材10として例示した各樹脂に、レーザ光の波長領域におけるレーザ光の吸収効率が高い添加物を含有することができる。レーザ光吸収効率が高い添加物は、例えばカーボンブラック・黒鉛粉末等のカーボン系粉末・染料・顔料等が例示される。当該添加物は、例えば、重量比で0.05〜1.0%含有する。
【0032】
吸収性樹脂部材22の外径は、作動ユニットAのスリーブ部12の内径と一致させている。吸収性樹脂部材22の外端部をスリーブ部12に内嵌させ、吸収性樹脂部材22の端部を透過性樹脂部材10に接触させることにより、作動ユニットAと感磁ユニットBとを連結固定している。この連結固定は、レーザ光を用いたレーザ溶着法により行う。
【0033】
即ち、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを圧接した状態で、透過性樹脂部材10の側からレーザ光を照射したとき、吸収性樹脂部材22にレーザ光の熱エネルギが蓄積される。そして、この熱が透過性樹脂部材10に伝熱し、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とが溶融する。このとき、これら樹脂材は、当接部位において対向する樹脂材の方向に沈み込むことで互いに溶着する。
【0034】
(レーザ溶着部の構造)
透過性樹脂部材10には、固定部14が設けてある。つまり、レーザ光の照射方向に沿った透過性樹脂部材10の厚みがレーザ照射線Lに沿った所定の領域ごとに変化する。即ち、透過性樹脂部材10の側から吸収性樹脂部材22の側にレーザ光を照射すると、吸収性樹脂部材22の側に到達するレーザ光の透過量は、吸収性樹脂部材22の部位によって異なる。このような場合においても、必要な溶着強度を確保するため、本発明では以下の構成を有する。
【0035】
即ち、図7に示したように、レーザ光を照射する前の状態において、前記厚みTが所定寸法以下の領域αでは透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを接触させ、前記厚みTが所定寸法よりも大きい領域βでは透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを離間させてある。
【0036】
本実施形態で、「前記厚みTが所定寸法以下の領域α」とは、固定部14のリブ14aを設けていない領域を意味する。この領域αでは、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを接触させてレーザ光を透過性樹脂部材10の側から吸収性樹脂部材22の側に照射させたとき、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを接合するのに十分なレーザ光が吸収性樹脂部材22に到達する。
【0037】
一方、「前記厚みTが所定寸法よりも大きい領域β」とは、例えば固定部14のリブ14aを設けた領域である。この領域βでは、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを接触させてレーザ光を透過性樹脂部材10の側から吸収性樹脂部材22の側に照射させたとき、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを接合するのに十分なレーザ光が吸収性樹脂部材22に到達せず、各樹脂材の加熱の程度が不十分となる。
【0038】
従って、前記厚みTが所定寸法以下の領域αでは、レーザ光の透過量が十分であるため、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを接触させておくと、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とが互いに溶け込むことで、確実な接合が行われる。
一方、前記厚みTが所定寸法よりも大きい領域βでは、レーザ光の透過量が不十分であるため、樹脂材同士の十分な溶着が期待できない。しかし、この領域βにおいては、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22とを予め離間させておくため、レーザ光の透過量が十分な領域における樹脂部材同士の溶け込みを妨げない。
【0039】
前記厚みTが所定寸法よりも大きい領域βでは、樹脂部材同士の接合は行われないが、前記厚みTが所定寸法以下の領域αにおいて確実な接合が行われるため、当該領域αのみの接合であっても必要な強度を得ることができる。
【0040】
前記厚みTが所定寸法よりも大きい領域βにおいて、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22との離間距離は、レーザ溶着が完了した後であっても、透過性樹脂部材10と吸収性樹脂部材22との非当接状態を維持するように構成する。仮に、レーザ溶着時に、非当接状態が直ちに当接状態となると、その時点で両樹脂部材が近接できず、十分な溶け込みが行われないからである。しかし、上述のように離間距離を設定すれば、樹脂材同士の溶着が可能な領域においては、両樹脂部材が確実に圧接され、健全なレーザ溶着部を得ることができる。
【0041】
また、レーザ照射線Lにおいてレーザ溶着部と未溶着部とが混在する場合であっても、レーザ照射をある一定の条件で行うことで、健全なレーザ溶着部を得ることができる。
【0042】
(レーザ)
レーザ光の光源としては、特に限定されないが、半導体レーザ・YAGレーザ等を光源とし、遠赤外線領域・可視光領域等の波長のものが使用できる。レーザ光の波長としては、300〜2500ナノメートル、特に790〜1100ナノメートルのものが好ましく使用できる。
【0043】
(収容容器について)
上述したように、回転角度計測装置Zは、感磁素子等を収容する収容空間を形成した収容容器の一例である。本実施形態では、レーザ溶着部ができるだけ広い面積で設定できるように以下のように構成してある。
即ち、図6〜7に示したように、透過性樹脂部材10からから延出する固定部14の一部に、吸収性樹脂部材22に対して照射するレーザ光が透過するレーザ光透過部を設定してある。本実施形態では、前記厚みTが所定寸法よりも大きい領域βであるリブ14aをレーザ光透過部の一例とすることができる。つまり、このリブ14aは、レーザ照射線Lに存在するため、レーザ光が透過する領域である。
【0044】
そして、図5〜7に示したように、当該レーザ光透過部(リブ14a)が平板形状であって、その平面方向をレーザ光の照射方向と平行に、且つ、レーザ照射線Lの方向に対して交差するように構成してある。
この構成では、レーザ光は平板形状のリブ14aの側面(図7における上方)から照射することとなる。そのため、レーザ光の透過量を減少させる透過性樹脂部材10の部位(リブ14a)をできるだけ小さくでき、レーザ溶着部を広く確保することができる。
【0045】
本実施形態の回転角度計測装置Zは、例えば自動車に取り付けて用いる。そのため、振動によって透過性樹脂部材10が捩じれる虞がある。
レーザ光透過部であるリブ14aは、前記厚みTが所定寸法よりも大きいため、レーザ光が吸収性樹脂部材22に届かず、樹脂部材同士の接合は行われない。しかし、リブ14aによって透過性樹脂部材10の剛性が向上するため、樹脂部材同士の接合が行われなくとも、上述した捩じれを防止できる構成となる。
【0046】
本発明の樹脂部材のレーザ溶着部構造は、透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材とをレーザ溶着する際に、透過性樹脂部材の表面が種々の形状を呈するなどにより、その部位によってレーザ光の透過量が異なり、透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材とを接合するのに十分なレーザ光が吸収性樹脂部材に到達しない領域がある場合に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の樹脂部材のレーザ溶着部構造を用いた回転角度計測装置の上面視概略図
【図2】本発明の樹脂部材のレーザ溶着部構造を用いた回転角度計測装置の断面図
【図3】上記回転角度計測装置の分解断面図
【図4】作動ユニットの概略図
【図5】作動ユニットと感磁ユニットとの組付態様を示す図
【図6】回転角度計測装置の上面要部概略図
【図7】透過性樹脂部材と吸収性樹脂部材とのレーザ溶着態様を示す図
【符号の説明】
【0048】
10 透過性樹脂部材(第1部材)
22 吸収性樹脂部材(第2部材)
α 厚みが所定寸法以下の領域
β 厚みが所定寸法よりも大きい領域
L レーザ照射線
T 厚み
Z 回転角度計測装置(収容容器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の透過性が高い樹脂材料で構成した第1部材と、前記レーザ光の吸収性が高い樹脂材料で構成した第2部材とを押圧しつつ重ね、前記第1部材の側から前記第2部材の側に前記レーザ光を照射して、前記第1部材と前記第2部材とを溶着する樹脂部材のレーザ溶着部構造であって、
前記レーザ光の照射方向に沿った前記第1部材の厚みがレーザ照射線に沿った所定の領域ごとに変化するとき、
前記レーザ光を照射する前の状態において、前記厚みが所定寸法以下の領域では前記第1部材と前記第2部材とを接触させ、前記厚みが所定寸法よりも大きい領域では前記第1部材と前記第2部材とを離間させてある樹脂部材のレーザ溶着部構造。
【請求項2】
前記第1部材に対する前記レーザ照射線が略環状に構成してある請求項1に記載の樹脂部材のレーザ溶着部構造。
【請求項3】
各種装置を収容する収容空間を形成すべく、前記レーザ光の透過性が高い樹脂材料で構成した第1部材と、前記レーザ光の吸収性が高い樹脂材料で構成した第2部材とをレーザ溶着して構成した収容容器であって、
前記第1部材は、当該収容容器を他物に取り付けるために、前記第1部材から延出する固定部を備えると共に、当該固定部の一部に、前記第2部材に対して照射するレーザ光が透過するレーザ光透過部を設定してあり、
当該レーザ光透過部が平板形状であって、その平面方向をレーザ光の照射方向と平行に、且つ、レーザ照射線の方向に対して交差するように構成してある収容容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−136731(P2007−136731A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330390(P2005−330390)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】