説明

樹脂配合用酸素吸収剤及びその製造方法

【課題】水素の発生が有効に抑制されていると共に、優れた酸素吸収性能及び外観特性をも具備し、且つ高い生産性を有する樹脂配合用酸素吸収剤を提供することである。
【解決手段】鉄粉、ハロゲン化金属及びアルカリ性物質を含有する混合粉末であって、前記混合粉末の粉末X線回折法により測定した(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)以下であり、比表面積が0.5m/g以上、且つ平均粒径が1乃至40μmであることを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂配合用酸素吸収剤及びその製造方法に関するもので、より詳細には酸素吸収反応に伴う水素の発生が有効に抑制されていると共に、酸素吸収性、安全性、並びに外観特性に優れた樹脂配合用酸素吸収剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より包装容器としては、金属缶、ガラスビン、各種プラスチック容器等が使用されているが、軽量性や耐衝撃性、更にはコストの点からプラスチック容器が各種の用途に使用されている。
しかしながら、金属缶やガラスビンでは容器壁を通しての酸素透過がゼロであるのに対して、プラスチック容器の場合には器壁を通しての酸素透過が無視し得ないオーダーで生じ、内容品の保存性の点で問題となっている。
包装容器の内容物の保存性を高めるために、外部からの酸素の透過を防止するガスバリア性樹脂と共に、容器内の残存酸素を捕集すべく酸素吸収性材料が組み合わされた容器が使用されている。
【0003】
酸素吸収性材料として一般に用いられている鉄系酸素吸収剤における酸素吸収反応には水分の存在が不可欠であり、かかる鉄と水分とが反応して水素を発生させるが、この発生された水素は、包装体に凹凸を生じさせたり、或いは包装体の膨張や破裂の原因になるおそれがある。
【0004】
酸素吸収剤の水素の発生を抑制する方法として、種々の先行技術が提案されており、例えば、酸素吸収剤に水難溶性のアルカリ性物質成分を添加したものや(特許文献1)、酸素吸収剤に熱処理を施す方法(特許文献2)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−248111号公報
【特許文献2】特開2000−279147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載された酸素吸収剤では、水素の発生を充分に抑制することが困難であり、水素発生量を充分抑制するために過度の処理を行えば酸素吸収性能が低下するという問題を有している。また特許文献2に記載された方法では、熱処理時に酸素吸収剤が焼結し、多量の粗大粒子が生成するという問題がある。特にフィルムや薄肉の容器に適用した場合、この粗大粒子は外観不良の原因となるため分級操作により除去する必要があり、粗大粒子量が多い場合は歩留まりが低下し生産性が悪化する。
【0007】
従って本発明の目的は、水素の発生が有効に抑制されていると共に、優れた酸素吸収性能及び外観特性をも具備し、且つ高い生産性を有する樹脂配合用酸素吸収剤を提供することである。
本発明の他の目的は、かかる樹脂配合用酸素吸収剤を製造する方法及びかかる樹脂配合用酸素吸収剤を含有する酸素吸収性樹脂組成物から成る、内容物の保存性及び外観特性に優れた酸素吸収性容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、鉄粉、ハロゲン化金属及びアルカリ性物質を含有する混合粉末であって、前記混合粉末の粉末X線回折法により測定した(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)以下であり、比表面積が0.5m/g以上、且つ平均粒径が1乃至40μmであることを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤が提供される。
本発明の樹脂配合用酸素吸収剤においては、
1.鉄粉表面が酸化鉄で被覆されており、鉄粉中の金属鉄含有量が60乃至85重量%であること、
2.鉄粉中の金属鉄量が、酸素存在下での熱処理により低減されていること、
3.アルカリ性物質が、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムであること、
4.アルカリ性物質が、鉄粉100重量部対して0.5乃至2重量部の量で配合されていること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、上記樹脂配合用酸素吸収剤を含有する酸素吸収性樹脂組成物が提供される。
本発明によれば更に、上記酸素吸収性樹脂組成物を含有する酸素吸収性容器が提供される。
本発明によれば更にまた、鉄粉、ハロゲン化金属及びアルカリ性物質を混合粉砕した後、酸素存在下で熱処理を行うことを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂配合用酸素吸収剤によれば、水素の発生が有効に抑制され、安全性に優れていると共に、優れた酸素吸収性能を有し、しかも酸素吸収剤製造工程中の粗大粒子の発生が抑制されているため生産性が高いという特徴を有する。
また本発明の樹脂配合用酸素吸収剤を含有する酸素吸収性樹脂組成物から成る層を有する酸素吸収性容器は、内容物の保存性に優れていると共に、表面の凹凸が少なく外観特性に優れ、水素発生による容器の膨張や破裂の危険が無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前述した通り、水素の発生を抑制する手段が講じられた酸素吸収剤として、鉄粉、ハロゲン化金属及びアルカリ性物質を含有する混合粉末から成るものが従来より知られているが、本発明においては、このような組成の酸素吸収剤において、特に混合粉末の粉末X線回折法により測定した(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)以下であり、比表面積が0.5m/g以上、且つ平均粒径が1乃至40μmであることにより、従来の酸素吸収剤に比して水素発生抑制効果及び酸素吸収性能の両方において顕著に優れていることを見出したのである。
本発明における粉末X線回折法により測定した(110)面のピークは鉄粉の結晶のピークを表すものであり、この(110)面のピークの半値幅が大きい場合には、鉄粉の結晶歪が大きいことを意味している。本発明の酸素吸収剤においてはかかる(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)以下と小さいことから、鉄粉の結晶歪が小さいことが理解される。
【0012】
本発明においてはこの鉄粉の結晶歪が酸素吸収反応における水素ガスの発生に影響を与えることを見出したのである。すなわち後述する実施例の結果から明らかなように、
(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)よりも大きい以外は実施例1と同様の酸素吸収剤(比較例5)は、水素発生量が多く、水素発生抑制効果が満足に得られておらず、(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)以下であるということは水素発生抑制効果において臨界的であることが理解される。
【0013】
また本発明の樹脂配合用酸素吸収剤においては、比表面積(BET比表面積)が0.5m/g以上、特に1.0m/g以上であることが酸素吸収能力の点で重要である。酸素吸収剤の比表面積と酸素吸収性能は密接に関わっており、比表面積が0.5m/g未満の酸素吸収剤では十分な酸素吸収速度が得られないため、容器に適用した場合、内容物保存性能に劣るものとなる。更に平均粒径(メジアン径)が1乃至40μm、特に5乃至30μmの範囲にあることが、適用されたフィルムや容器の外観特性を良好に保持する上で重要である。平均粒径が40μm以上の場合には、特にフィルムや薄肉容器の場合に容器表面に凹凸が生じ、外観を損ねたりシール不良を生じさせたりする場合があり、また十分な酸素吸収性能を得られない場合がある。また、平均粒径が1μm以下の場合には、作業中の粉立ちや酸化による自己発熱、さらには粉塵爆発の危険性も高めるため、取扱性が極端に低下する。
【0014】
本発明の樹脂配合用酸素吸収剤は、後述するように、鉄粉,ハロゲン化金属及びアルカリ性物質の混合粉末が酸素存在下で熱処理されていることから、鉄粉表面が酸化鉄で被覆され、鉄粉中の金属鉄量が低減されている。特に本発明においては、鉄粉中の金属鉄含有量が60乃至85重量%であることが好適である。このように鉄粉表面が酸化鉄で被覆されていることにより、水素ガス発生反応が不活性化されると考えられ、水素ガスの発生量が抑制される。鉄粉表面の酸化により酸素吸収性能の低下が懸念されるが、酸化程度を鉄粉中の金属鉄含有量が60乃至85重量%になるように制御することにより、酸素吸収性能の低下を抑制することができ、高い酸素吸収性能が維持される。
【0015】
(原材料)
本発明の酸素吸収剤に用いることができる鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉、カルボニル鉄粉等、公知の鉄粉を使用することができるが、多孔質であり比較的比表面積の大きい還元鉄粉、特にロータリー還元鉄粉を好適に用いることができる。ロータリー還元鉄粉は、純度が高く、比表面積が大きいことから、酸素吸収性能に優れている。
【0016】
本発明の酸素吸収剤に用いられるハロゲン化金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はその他の銅、亜鉛、鉄等のハロゲン化物が挙げられ、具体的には塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム等が挙げられるが、本発明においては、特に塩化ナトリウムを用いることが好ましい。
ハロゲン化金属は、酸素吸収剤の主剤である鉄粉100重量部に対して0.1乃至10重量部、特に1乃至5重量部の量で配合することが好ましい。ハロゲン化金属の量が上記範囲よりも少ない場合には、期待される酸素吸収性能を得ることが困難であり、一方上記範囲よりも多い場合には、酸素吸収剤中の鉄粉の配合比率の低下による性能低下のおそれがあると共に、酸素吸収剤配合樹脂組成物からなる包装体からの染み出し、外観や内容物等に悪影響を与えるおそれがある。
【0017】
本発明に用いられるアルカリ性物質としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等が挙げられるが、本発明においては特に、水酸化カルシウム又は水酸化カルシウムの脱水物である酸化カルシウムを用いることが好ましい。
アルカリ性物質は、鉄粉100重量部に対し0.5乃至2重量部、特に1乃至2重量部の量で配合することが好ましい。上記範囲よりもアルカリ性物質が少ない場合には、水素発生抑制効果が上記範囲にある場合に比して劣るようになり、一方上記範囲よりも多い場合には、酸素吸収性能が上記範囲にある場合に比して劣るようになる。
【0018】
(製造方法)
本発明の樹脂配合用酸素吸収剤の調製の概略は以下のとおりである。
必要により、用いるロータリー還元鉄粉の平均粒径が40乃至100μmとなるように粗粉砕した後、この鉄粉に所定量のハロゲン化金属及びアルカリ性物質を加えて混合しながら平均粒径が1乃至40μmとなるように微粉砕する。この際、機械的な混合粉砕により鉄粉に結晶歪が生じるが、本発明においては、後述する熱処理によって結晶歪が緩和される。
混合粉砕は、振動ミル、ボールミル、チューブミル、スーパーミキサー等、従来公知の手段を採用できる。また粉砕と混合を同時に行うことなく、適当な粒度に調製された鉄粉の表面にハロゲン化金属及びアルカリ性物質含有する溶液を噴霧して被覆する方法を採用してもよい。
【0019】
次いでこの微粉砕物を粒径90μmよりも大きい粗大粒子を除去するように分級した後、熱処理を行う。分級操作は、篩分け、風力分級等により行うことができる。熱処理は、上述した混合粉砕により生じた結晶歪を緩和させると共に、鉄粉表面に酸化鉄を形成させるものであるが、鉄粉中の金属含有量が60乃至85重量%となることが好適であることから、酸素(空気)の存在下での熱処理と共に、不活性ガス雰囲気下、好適には窒素雰囲気下で熱処理を組み合わせで行うことが好ましい。
具体的には、酸素の存在下で熱処理を行い、前記工程の前及び/又は後に窒素雰囲気下で熱処理を行うことが好ましい。酸素雰囲気下での好ましい熱処理温度は400乃至600℃、より好ましくは500乃至550℃であり、好ましい熱処理時間は2乃至12時間、より好ましくは4乃至10時間である。窒素雰囲気下での好ましい熱処理温度は400乃至600℃、より好ましくは500乃至550℃であり、好ましい熱処理時間は0乃至6時間、より好ましくは0乃至2時間である。
これにより、混合粉砕により生じた鉄粉の結晶歪を充分に緩和することが可能になると共に、鉄粉表面に酸化鉄を形成しつつ鉄粉中の金属含有量を上記範囲にすることが可能となるためり、鉄粉の有する酸素吸収性能を損なうことなく、水素ガスの発生を抑制することが可能になる。
この熱処理の際、微粉砕物中のアルカリ性物質の存在により、微粉砕物の焼結による粗大粒子化が抑制される。粒径90μmよりも大きい粗大粒子は熱処理後の分級により除去されるが、後述する実施例の結果から明らかなように、微粉砕物中に水酸化カルシウムを含む実施例1および2の分級により除去された粗大粒子量は、微粉砕物中にアルカリ性物質を含まない比較例2および3に比べ、少ないことがわかる。すなわち、アルカリ性物質存在下で熱処理を施すことにより、歩留まりの低下を改善でき、生産性が向上する。
【0020】
(酸素吸収性樹脂組成物)
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、上述した樹脂配合用酸素吸収剤を樹脂に配合して混合することにより得ることができる。混合はメルトブレンドでもドライブレンドの何れでもよく、少量の酸素吸収剤を配合する場合には、酸素吸収剤を高濃度で含有するマスターバッチを調製し、このマスターバッチを樹脂に混合することが好ましい。
本発明の酸素吸収剤を配合し得る樹脂としては、これに限定されないが、従来包装材料に用いられていた熱可塑性樹脂に配合し得る。具体的には、低−、中−或いは高−密度のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、ポリメチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)、エチレン−ビニルアルコール共重合体或いはこれらのブレンド物等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドやポリカーボネート等に配合することができる。
これらの樹脂に対する本発明の酸素吸収剤の配合量は、樹脂100重量部当たり1乃至100重量部、特に5乃至70重量部の範囲にあることが好ましい。酸素吸収剤の配合量が、上記範囲より少ない場合は、期待される酸素吸収性能を得ることができず、一方上記範囲よりも多い場合には、成形性や包装体としての特性が低下するおそれがある。
【0021】
(酸素吸収性容器)
本発明の酸素吸収性容器は、上述した酸素吸収剤を配合した酸素吸収性樹脂組成物から成る層を含有する多層構造を有するものであることが好ましく、特に酸素吸収性樹脂組成物から成る層が中間層となる多層容器であることが好ましい。
図1は、本発明の酸素吸収性容器の一例の断面構造を示す図であり、外層側から順に、二酸化チタン含有ポリプロピレン外層1、接着剤樹脂層2a、ガスバリア性樹脂層3、接着剤樹脂層2b、酸素吸収性樹脂層4、二酸化チタン含有ポリプロピレン内層5から成っている。この具体例においては、外層1及び内層5に二酸化チタンが含有され、酸素吸収性樹脂層4の鉄粉による着色が隠蔽されていると共に、外層側にガスバリア層が形成されているので、外部からの酸素透過が有効に防止され、酸素吸収性樹脂層の存在と相俟って内容物の保存性に優れたものとなる。
【0022】
内外層を構成する樹脂としては、これに限定されないが、低−、中−或いは高−密度のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、ポリメチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)或いはこれらのブレンド物等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドやポリカーボネート等を挙げることができる。
【0023】
また積層に際しては、接着剤樹脂を用いることもでき、これに限定されないが、エチレン−アクリル酸共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、アクリル酸グラフトポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合ポリエステル、共重合ポリアミド等の1種又は2種以上の組合せを用いることができる。
ガスバリア層を構成する樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロンMXD6、ポリグリコール酸等のガスバリア性樹脂を用いることができる。特にフィルム容器の場合は、さらにアルミ箔およびスチール等の金属箔、無機薄膜蒸着フィルム、ポリビニルアルコールやポリアクリル酸系等のガスバリア性材料を基材フィルムに塗布したガスバリア性コーティングフィルムを好適に用いることができる。
【0024】
この多層容器において、本発明の酸素吸収性樹脂組成物から成る層は、一般に5乃至300μm、特に10乃至100μmの範囲にあることが好ましく、一方内外層は、一般に5乃至1000μm、特に10乃至500μmの範囲にあることが好ましい。
本発明の酸素吸収性容器は、本発明の酸素吸収性樹脂組成物から成る層を有する以外は、それ自体公知の方法で製造が可能である。
【0025】
多層同時押出に際しては、各樹脂層に対応する押出機で溶融混練した後、T−ダイ、サーキュラーダイ等の多層多重ダイスを通して所定の形状に押出す。また、各樹脂層に対応する射出機で溶融混練した後、射出金型中に共射出または逐次射出して、多層容器または容器用のプリフォームを製造する。更にドライラミネーション、サンドイッチラミネーション、押出コート等の積層方式も採用し得る。
成形物は、フィルム、シート、ボトル乃至チューブ形成用パリソン乃至はパイプ、ボトル乃至チューブ成形用プリフォーム等の形を採り得る。パリソン、パイプ或いはプリフォームからのボトルの形成は、押出物を一対の割型でピンチオフし、その内部に流体を吹き込むことにより容易に行われる。また、パイプ乃至はプリフォームを冷却した後、延伸温度に加熱し、軸方向に延伸するとともに、流体圧によって周方向にブロー延伸することにより、延伸ブローボトル等が得られる。また、フィルム乃至シートを、真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形等の手段に付することにより、カップ状、トレイ状等の包装容器が得られる。
更に、多層フィルムにあっては、これを袋状に重ね合わせ或いは折畳み、周囲をヒートシールして袋状容器とすることもできる
【0026】
以下、実施例および比較例を示してこの発明をさらに具体的に説明するが、実施例及び比較例における酸素吸収性能および水素発生量の評価方法は下記の通りである。
<実施例1〜2、比較例1〜6の酸素吸収性能および水素発生量の評価方法>
スチール箔を積層した内容積約85mLのガス不透過性のプラスチックカップ容器の内部に、約0.03gの酸素吸収剤および約1.0mLの蒸留水を両者が接触しないように仕込み、ガス不透過性のアルミ箔積層フィルム製ヒートシール蓋材を用い、空気中でヒートシール密封した。これを22℃で保存し、1時間後の容器内のガス組成をガスクロマトグラフ装置(島津製作所製、GC−3BT)を用いて分析した。得られた結果から、酸素吸収剤単位重量あたりの酸素吸収量を算出した。
水素発生量の評価の際は容器への酸素吸収剤の仕込量を0.3gとし、22℃、15日区の容器内ガス組成分析結果から酸素吸収剤単位重量あたりの水素発生量を算出した。
<実施例3、比較例7の酸素吸収性能および水素発生量の評価方法>
スチール箔を積層した内容積約85mLのガス不透過性のプラスチックカップ容器の内部に、16cmの酸素吸収シートおよび約1.0mLの蒸留水を両者が接触しないように仕込み、ガス不透過性のアルミ箔積層フィルム製ヒートシール蓋材を用い、空気中でヒートシール密封した。これを22℃で保存し、30日後の容器内のガス組成をガスクロマトグラフ装置を用いて分析した。得られた結果から、酸素吸収シート単位面積あたりの酸素吸収量を算出した。
水素発生量の評価の際は窒素雰囲気下でカップをヒートシール密封して容器内初期酸素濃度を1%以下とし、22℃、30日区の容器内ガス組成分析結果から酸素吸収シート単位面積あたりの水素発生量を算出した。
【0027】
(実施例1)
ロータリー還元鉄粉(金属鉄量90%、平均粒径45μm)100重量部、食塩2重量部および水酸化カルシウム1重量部を混合し、振動ボールミルを用いて10時間の粉砕処理を行った後、180meshのふるいにて分級して90μm以上の粗大粒子を除去して混合微粉砕物を得た。得られた微粉砕物50kgを内容積230Lのバッチ式回転炉内に充填し、回転数6rpm、窒素ガス流量10L/分、550℃の条件で8時間の熱処理を行った(昇温2時間、冷却8時間)。なお熱処理の際、窒素ガスの代わりに空気を10L/分の流量で6時間流入させることにより、表面酸化を促進させた。得られた熱処理酸素吸収剤を180meshのふるいにて分級して90μm以上の粗大粒子を除去し、酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は1.8m/g、平均粒径(メジアン径)は23μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.12°/2θ、金属鉄含有量は80%であった。得られた酸素吸収剤の、製造工程中の2回の分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
表1の酸素吸収量および水素発生量の「比較」欄は、後述する比較例1の酸素吸収剤を基準として百分率で示した数値である。酸素吸収量の比較値が80%以上、また水素発生量の比較値が1%以下を良品と評価した。粗大粒子量については、20%以下を良品とした。
【0028】
(実施例2)
水酸化カルシウムの添加量を2重量部とし、バッチ式回転炉内に充填する混合微粉砕物の量を25kgとした以外は実施例1と同様にして酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は1.0m/g、平均粒径は23μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.13°/2θ、金属鉄含有量は67%であった。得られた酸素吸収剤の、製造工程中の2回の分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0029】
(比較例1)
水酸化カルシウムを添加せず、かつ熱処理および熱処理後の分級を行わなかった以外は実施例1と同様にして酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は2.4m/g、平均粒径は23μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.29°/2θ、金属鉄含有量は88%であった。得られた酸素吸収剤の、分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0030】
(比較例2)
水酸化カルシウムを添加しなかった以外は実施例2と同様にして酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は1.8m/g、平均粒径は24μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.12°/2θ、金属鉄含有量は67%であった。得られた酸素吸収剤の、製造工程中の2回の分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0031】
(比較例3)
水酸化カルシウムを添加せず、かつ熱処理時間を8時間から10時間に延長する以外は実施例1と同様にして酸素吸収剤を得た。なお、熱処理中の空気吹き込み条件についても実施例1と同様とした。この酸素吸収剤の比表面積は1.3m/g、平均粒径は26μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.11°/2θ、金属鉄含有量は78%であった。得られた酸素吸収剤の、製造工程中の2回の分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0032】
(比較例4)
水酸化カルシウムの添加量を0.5重量部とし、熱処理および熱処理後の分級を行わなかった以外は実施例1と同様にして酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は2.1m/g、平均粒径は25μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.29°/2θ、金属鉄含有量は87%であった。得られた酸素吸収剤の、分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0033】
(比較例5)
水酸化カルシウムの添加量を1重量部とした以外は比較例4と同様にして酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は2.0m/g、平均粒径は20μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.30°/2θ、金属鉄含有量は87%であった。得られた酸素吸収剤の、分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0034】
(比較例6)
水酸化カルシウムの添加量を2重量部とした以外は比較例4と同様にして酸素吸収剤を得た。この酸素吸収剤の比表面積は1.9m/g、平均粒径は20μm、X線回折による鉄の(110)面ピークの半値幅は0.30°/2θ、金属鉄含有量は86%であった。得られた酸素吸収剤の、分級により除去された粗大粒子量を、酸素吸収量および水素発生量の測定結果とあわせて表1に示す。
【0035】
(実施例3)
実施例1で得られた酸素吸収剤30重量部と、メルトインデックス(MI)が0.6(g/10min、230℃)のポリプロピレン(PP)70重量部とを二軸押出機(東芝機械製 TEM−35B)により溶融混練し、酸素吸収剤配合ペレットを作製した。この酸素吸収剤配合ペレット(PO)を第1の中間層、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH;エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%)を第2の中間層、PPに8重量%のチタン白顔料を配合した白色PPを内外層、MIが1.0(g/10min、230℃)の無水マレイン酸変性PP(ADH)を接着剤層とした4種6層シート(全厚み0.5mm、厚み構成比PP/ADH/EVOH/ADH/PO/PP=30/1/5/1/10/10)を、単軸押出機、フィードブロック、T−ダイ、冷却ロールおよびシート引き取り装置から成る成形装置を用いて作製した。得られた酸素吸収性シートの酸素吸収量および水素発生量の測定結果を表2に示す。
【0036】
(比較例7)
実施例1で得られた酸素吸収剤の代わりに、比較例1で得られた酸素吸収剤を使用した以外は実施例3と同様にして酸素吸収性シートを作製した。得られた酸素吸収性シートの酸素吸収量および水素発生量の測定結果を表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の酸素吸収性容器の一例の断面構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉、ハロゲン化金属及びアルカリ性物質を含有する混合粉末であって、前記混合粉末の粉末X線回折法により測定した(110)面のピークの半値幅が0.20°/2θ(Co−Kα)以下であり、比表面積が0.5m/g以上、且つ平均粒径が1乃至40μmであることを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤。
【請求項2】
前記鉄粉表面が酸化鉄で被覆されており、鉄粉中の金属鉄含有量が60乃至85重量%である請求項1記載の樹脂配合用酸素吸収剤。
【請求項3】
前記アルカリ性物質が、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムである請求項1又は2記載の樹脂配合用酸素吸収剤。
【請求項4】
前記アルカリ性物質が、鉄粉100重量部対して0.5乃至2重量部の量で配合されている請求項1乃至3の何れかに記載の樹脂配合用酸素吸収剤。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の樹脂配合用酸素吸収剤を含有する酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の酸素吸収性樹脂組成物を含有する酸素吸収性容器。
【請求項7】
鉄粉、ハロゲン化金属及びアルカリ性物質を混合粉砕した後、酸素存在下で熱処理を行うことを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284632(P2007−284632A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116374(P2006−116374)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】