説明

橋架ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの製造方法

【課題】ポリエステル、ポリアミド等の難燃剤として有用なジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの窒素橋架誘導体の改良製造方法を提供する。
【解決手段】下式Iで表されるジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンを、多価アルコールを用いて一般式:HAの化合物を解離させながら転化させる、橋架ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの製造方法。


[式中、Aは第1級アミノ基等を表し、x及びyは0〜4の整数を表し、R及びRは同一又は異なり、水素原子、線状又は分岐のC〜C22アルキル基等を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドのモノマー及びポリマー窒素橋架誘導体を合成するための改良された方法に関する。これらの物質は、ポリ、ポリアミド、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、とりわけポリマーのための難燃剤として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの製造は、今までは2種類の方法によって行われていた。
1.例えばDE−2730345に記載されているような、第1級又は第2級アミンの存在下でのアルデヒド又はケトン、好ましくはホルムアルデヒドによる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドのアミノメチル化による方法。種々のポリマーのための難燃剤としてこれらの化合物を使用することは、同様に特許文献(US−4,742,088;JP−2002−284850;JP−2001−323268)に記載されている。
【0003】
2.窒素含有ポリオールを用いてアルコキシ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンを転化させ、続いてMichaelis-Arbuzov反応を行う方法(WO−2006/084488−A1)。この方法により、下記に示される、ある程度良好な温度安定性を有する式VII、VIII、及びIXの生成物が生成する。
【0004】
6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドのアミノメチル化によるジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの窒素含有誘導体の公知の製造法では、単に制限された特性プロファイルを有する限られた数のこのタイプの物質が与えられるだけである。更に、これらの化合物を用いると、リン含有環系によって容易に吸収される可能性のある水の存在下においては、これらは6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドを解離しながら分解する可能性がある。この逆反応は、熱可塑性物質中に難燃剤を含ませる際に加えられるような高温において特に起こる可能性がある。これによって得られる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドによって熱可塑性物質の酸性分解が引き起こされる可能性がある。
【0005】
WO−2006/084488−A1による式VII、VIII、及びIXの窒素橋架ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの製造は複雑な方法である。この方法の1つの欠点は、出発物質として必要なアルコキシ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの複雑な合成法(例えばDE−10206982−B4による)である。更なる欠点は、アルコキシ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンは、ヒドロキシル基とゆっくりとしか反応しないが、ほぼ完全な転化が必要であるので、ポリオールによる転化中に比較的過剰に用いなければならないという点にある。したがって、これらは反応の完了後に高真空下で留去しなければならず、これはコストが非常に高く、式IXの巨大分子ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド誘導体の製造においては大きな困難性をもってしか行うことができない。式XIの誘導体の製造のために必要であり、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸(THIC)の酸接触オリゴマー化によって行われるポリオールTHIC−Oの合成もまた、比較的複雑である。それによる特に大きな複雑性は、ここで必要な反応の完了後の酸性触媒の分離であり、このためにはまずTHIC−Oを極性溶媒中に溶解しなければならない。全体的に見て、WO−2006/084488−A1に記載されている製造方法は大規模の用途には余り好適でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE−2730345
【特許文献2】US−4,742,088
【特許文献3】JP−2002−284850
【特許文献4】JP−2001−323268
【特許文献5】WO−2006/084488−A1
【特許文献6】DE−10206982−B4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの十分に温度負荷可能な誘導体、特に式VII、VIII、及びIXの物質を、簡単でコスト的に有効な方法で製造することを可能にする方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は請求項1の特徴によって達成され、従属項は有利な展開を示す。
したがって本発明によれば、
一般式I:
【0009】
【化1】

【0010】
のジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンを、少なくとも1種類の二価、三価、及び/又は多価アルコールを用いて一般式:HAの化合物:
(上式中、互いに独立して、
Aは、第1級アミン基、同じか又は混合して置換されている第2級アミン基、複素環式アミン基、又はヒドラジン誘導体であり;
x及びyは、0、1、2、3、又は4であり;
及びRは、同一か又は異なり、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基、及び/又はハロゲン原子を意味する)
を解離させながら転化させる、橋架ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる反応(A1)を示す図である。
【図2】本発明にかかる反応(A2)を示す図である。
【図3】本発明にかかる反応(A3)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明方法によれば、例えば下記に示す式VII〜IX:
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
の誘導体のようなジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの窒素橋架誘導体が示される。
上記に示す図式において、Rは、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する。
【0017】
アルキルスルホニル又はアリールスルホニル基は、−SO−アルキル又は−SO−アリール基とも呼ぶ。
オキサ基という用語によって、例えば−O−アルキル又は−O−アリールのような橋架原子として酸素原子を有する基が理解される。
【0018】
したがって、橋架オキサホスホリン−6−オキシドの合成に関する抽出物として式Iの化合物を用い、リン原子は、窒素含有基、即ち例えばアミン又はヒドラジン基の窒素原子に直接結合していることが本発明にとって重要である。本発明方法の格段の有利性として、本方法は、溶媒を用いることなく、且つ例えば真空蒸留のような複雑な分離方法及び精製工程を用いることなく行うことができ、したがって大規模の用途のために非常に好適であるということが導かれる。反応中に行う方法工程は全て、以下により詳細に説明するように、同一の反応容器内において、場合によって生成する中間生成物の精製の必要なしに行うことができる。更に、用いるリン含有出発物質は、商業的に入手できる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドから経済的に製造することができ、十分に反応性であるので過剰の試薬を用いる必要がない。本発明の更なる有利性は、反応が、例えば痕跡量の酸のような外部の影響に感受性でないことである。
【0019】
有利な態様においては、一般式Iのオキサホスホリンのための反応相手として、一般式II:
HO−X−OH (II)
(式中、Xは、線状又は分岐のC〜C22アルカンジイル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルカンジイル基、C〜C12シクロアルカンジイル基、C〜C14アレーンジイル基、C〜C22アラルカンジイル基、C〜C22アルキルアレーンジイル基、及び窒素含有基を含む群から選択される)
の二価アルコールを用いる。
【0020】
二価アルコールの場合には、用いるジオールが窒素含有ジオールに関するものであると更に好ましい。したがって、特に一般式III:
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、及び/又はC〜C22アルキルアリール基を意味し;
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、C〜C22脂肪族アミド基、C〜C22芳香族アミド基、C〜C22芳香脂肪族アミド基、C〜C22脂肪族スルホンアミド基、C〜C22芳香族スルホンアミド基、又はC〜C22芳香脂肪族スルホンアミド基を意味し;
p及びqは、互いに独立して1〜10である)
のアルキルアミノジオールを用いる。
【0023】
二価アルコールに代わるものとしてか又はこれに加えて、一般式IV:
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、p及びRは上記に示す意味を有する)
の多価アルコールを用いることが更に可能である。三価アルコールの場合には、m、n、及びoは全て0である。したがって三価アルコールはシアヌル酸から誘導される。
【0026】
しかしながら、これに代わるものとして、一般式Iのオキサホスホリン化合物の架橋に非常に好適なオリゴマー又はポリマーポリオールを得るために直上で記載のアルコールを予め縮合することができる。一般に、これによって異なる縮合度の複数のオリゴマーポリオールの混合物が得られる。したがって、次に例えば一般式IXの化合物を製造することができる。一般式Iのアミノ化ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンで転化する直前に、式IV(ここで、m=n=o=0である)の三価アルコールの酸触媒縮合反応によって式IV(ここで(m+n+o)>1である)の少なくとも1種類の多価アルコールを含む混合物を製造することが特に好ましい。好ましくは触媒としてp−トルエンスルホン酸又はp−トルエンスルホン酸水和物を用いる。これにより、触媒が幾つかに分けて有利に加えられ、既に生成した反応水がそれぞれ反応混合物から前もって除去される。しかしながら、三価アルコール及び少なくとも1種類の多価アルコールの混合物を同様に用いることができる。
【0027】
したがって、式IXの化合物を製造するための方法は、例えば、生成する中間体生成物、即ち上記記載の式IVの多価アルコールを単離する必要なしに、滴下合成として行うことができる。これは、特に方法の経済性の観点から非常に有利である。
【0028】
本発明の更なる有利性は、本方法を溶媒の不存在下で行うことができることである。
本発明の方法中に置換によって解離され、したがってアミン又はヒドラジン化合物に関する一般式:HAの化合物は、好ましくは、反応平衡を生成物側に向かって有利に移動させるために反応混合物から除去する。好ましくは、式:HAの化合物の除去は、特に減圧下で行う留去によって行う。ここで減圧とは、常圧未満の圧力と理解される。
【0029】
本方法は、有利には、50〜300℃の間、好ましくは110〜240℃の間の温度で行う。
本反応は、特に2つの段階で行う。
【0030】
(a)第1段階においては、一般式Iのジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの基Aの置換を、二価、三価、及び/又は多価アルコールによって、アミン:HAを分離除去(splitting)しながら行い;
(b)第1段階よりも高い温度の第2段階においては、分子内Michaelis-Arbuzov転位を行って最終生成物を形成する。
【0031】
反応の第1段階、即ち置換は、有利には110〜170℃、特に好ましくは130〜160℃で行う。
反応の第2段階、即ち分子内転位は、好ましくは155〜240℃、特に好ましくは170〜230℃で行う。
【0032】
好ましくは、例えばp−トルエンスルホン酸メチルエステルのような触媒を、用いるジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン(I)に対して0.5〜4モル%、好ましくは1〜3モル%の量でこの第2段階の反応混合物に加えることができる。
【0033】
また、オリゴマー又はポリマーポリオールを得るために、第1段階の前にアルコール成分の縮合を行うこともできる。好ましくは、例えばp−トルエンスルホン酸又はp−トルエンスルホン酸水和物のような酸の形態の触媒を縮合中に加えることができる。これは、好ましくは幾つかに分けて行う。縮合反応は、170〜210℃、好ましくは180〜200℃で行う。
【0034】
一般式Iの基Aは、有利には、一般式V:
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味し;
は、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
のアミン基である。
【0037】
同様に、基Aはまた、有利には、一般式VI:
【0038】
【化8】

【0039】
(式中、
及びRは上記に記載の意味を有し;
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
のヒドラジン基を表す。
【0040】
添付の反応式(A1)〜(A3)並びに実施例1及び2を参照して本発明をより詳細に説明する。本発明はここで言及されているパラメーターに限定されない。
式A1〜A3において3つの例を参照して表す製造プロセスの第1段階においては、反応式(A1〜A3)にしたがって窒素含有アルコール:IIIa、IVa、及びIVbを、6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaによって転化させて、三価のリンを含み、未だ加水分解に対して感受性である窒素橋架6H−ジベンズ[c,e][1,2]−ホスホリン:X、XI、及びXIIを製造する。反応中において、アルコール当量に相当する量のアミン:Vaが解離する。
【0041】
第2段階においては、分子内Michaelis-Arbuzov反応によって物質:X、XI、XIIを最終生成物VII、VIII、IXに転化させる。窒素橋架ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:VII、VIII、及びIXが高い選択率で得られるので、生成物の精製は殆どの場合において不要である。
【0042】
反応(A1〜A3)に必要な6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaは、文献から公知の方法にしたがって製造するか、或いは相当に長い間公知である6−クロロ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンのアミノリシス(EP−0005441−A1、JP−54138565−AA)によって製造する。
【0043】
反応(A3)に関する出発物質として必要な多価化合物:THIC−O(IVb)は、WO−2006/084488にしたがって、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸(THIC)(IVa)のオリゴマー化によって製造する。しかしながら、言及した文献と対比して、酸性触媒の複雑な分離が省略されるので、THIC−O(IVb)を、その製造の直後に、反応式A3にしたがって6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaによって転化させることができる。
【0044】
したがって、THIC(IVa)から出発して物質:IXの全製造は、同一の反応容器内において連続した溶媒を用いないプロセスとして行われ、中間段階又は中間生成物(例えばXII)の精製処理は不要である。
【0045】
ここでポリオールの転化のために用いるアルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaは、商業的に入手できる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドから有効に製造することができ、使用できない副生成物は生成しない。これらは、今まで用いられているアルコキシ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン(WO−2006/084488−A1)よりも遙かに高い反応性を有しているので、化学量論量の試薬を用い、公知の方法(WO−2006/084488−A1)において必要な留去する必要がある過剰のリン化合物を用いなくても非常に高いヒドロキシル基の転化率が達成される。
【0046】
したがって、物質:VII、VIII、及びIXを、従来よりも、実質的により容易に、より経済的に、且つ実質的に大規模で製造することができる。巨大分子物質:IXの製造は特に簡単になる。ここでは更に、THIC−O(IVb)の合成において用いる酸性触媒が、リン化合物による転化を妨害しないので分離する必要がないという有利性がある。しかしながら、触媒の分離は、その目的のためにTHIC−Oをまず極性溶媒中に溶解し、これをこの方法工程の後に再び完全に除去しなければならないWO−2006/084488−A1による従来法においては絶対に必要である。言及した改良点の故に、THICから出発するIXの全製造プロセスは、ここでは、1つの反応容器内において、溶媒を用いず、中間生成物の精製を行わず、且つ大規模に行うことができる。
【実施例】
【0047】
試験実施例:
実施例1:
化合物VIIIの製造:
【0048】
【化9】

【0049】
頑丈な撹拌装置、温度計、不活性ガス供給管、及び加熱浴を取り付けた真空気密ガラス装置内において、32.67gの水を含まない1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸(THIC)を加熱した。THICが溶融した後、撹拌を開始し、加熱浴の温度を135℃に低下させた。その後、前もって約120℃に加熱した96.5gの6−(N(1−プロピル)アミノ)−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaを加えた。この試薬を添加した数分後、反応容器内の圧力を注意深く低下させると、反応混合物は発泡しはじめた。発泡が停止した時点で、圧力を、最終的に2〜5mbarが得られるまでゆっくりと更に低下させた。ここで、この真空度及び130〜135℃の温度において撹拌を継続すると、2成分混合物から均一な溶融体が徐々に生成した。この転化中に生成する1−プロピルアミンを真空トラップ内で凝縮させた。H−及び31P−NMRスペクトルを用いて反応の進行を良好に追跡することができる。約15時間後に達成された93〜95モル%の転化率において、反応温度を140〜142℃に上昇させた。遊離OH基の約97モル%が転化するまでこのレベルにおいて変化させないで保持し、最終的に150℃に上昇させた。遊離OH基の最大で1.5モル%が溶融体中に残存するまで反応を継続した。必要な転化が達成されたら(この場合においては合計で24時間後である)、アルゴン又は窒素を供給することによって真空を解除した。次に、溶融体を175℃に加熱し、0.0075モル(1.34g)のp−トルエンスルホン酸メチルエステルを加えた。その後、常圧下、175〜178℃の温度において溶融体を更に撹拌した。NMR分光法を用いて反応の進行を更に追跡した。転化率が増加すると溶融体の粘度が大きく増加し、このため最終的には殆ど撹拌することができなかった。転位が完了したら(約18〜20時間後に達成される)、溶融体を排出されるまで220℃に加熱し、この温度で更に2時間保持し、次にスチールタンク中に注ぎ入れ、この中で固化させて脆性のガラス様固体物質を形成し、これは粉砕中に白色の粉末を生成した。かくして製造された生成物の純度は約95モル%(3種類の立体異性体の混合物として)であった。生成物は、0.7モル%未満の非転化リン化合物:Iaを含んでいた。
【0050】
実施例2:
物質IXの製造:
【0051】
【化10】

【0052】
装置:
以下の構成部品を取り付けた4Lの四つ口丸底フラスコ:
・真空気密に設置した頑丈なガラス撹拌装置;
・内部温度計;
・不活性ガス接続部;
・冷却可能な受容容器を有するリービッヒ凝縮器;
・加熱浴;
・真空トラップを有する真空ポンプ。
【0053】
アルゴン又は窒素を充填した4つ口フラスコ内に、1131g(4.33モル)の1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸(THIC、IVa)及び1.52gのp−トルエンスルホン酸水和物を含む混合物を加え、溶融し、撹拌しながら185℃に加熱した。3時間の反応時間の後、生成した水を留去するために圧力を約50mbarに低下させた(約5分)。次に、不活性ガスを再び供給し、スルホン酸の第2の部分(0.6g)を加えた。次に、溶融体を185℃において更に8時間撹拌した。その後、生成した水を約20mbarにおいて除去し、装置に不活性ガスを充填した後、更に0.3gの触媒を加えた。続いて、溶融体の温度を193℃に上昇させ、更に3時間撹拌した。この温度(193℃)において、その後、それぞれ3時間の間隔で他の2回の更なる触媒添加を行った(0.3g及び0.15g)。それぞれ、前もって短い時間、真空を適用した。また、同じ間隔で試料を取り出し、NMR分光法(溶媒:DMSO−d)を用いて調べた。オリゴマー化の進行は、13C−スペクトルにおける変化で最も良好に検出することができる。モノマーTHICの場合においては、脂肪族C原子のピークは44.16及び57.41ppmであり、芳香族C原子のピークは149.4ppmである。オリゴマー化により、脂肪族C原子に関しては41.5ppm又は66.7ppmの2つの新しいピークが生成し、芳香族C原子に関しては149.1、149.2、及び149.3ppmの3つの更なるピークが生成した。オリゴマーが平均で4〜5個のTHIC単位を含む場合(これは15〜20時間の反応時間後の場合である)には、装置を約1mbarの圧力に排気した。この真空度及び変化しない温度において更に15分間撹拌を行い、未だ含まれている痕跡量の水を留去した。次に、溶融体を1時間で165℃に冷却し、次に装置に再び不活性ガスを充填した。その後、撹拌を停止し、予め約110℃に加熱した1657gの蒸留6−(N(1−プロピル)アミノ)−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaを加えた。試薬を加えた後、混合物の温度を約124〜127℃(油浴温度に相応して適合する)にした。このパラメーターに到達したら、圧力を再び約1mbarに低下させ、注意深く撹拌を開始した。混合物は初めは非均一であり、オリゴマーTHICの相は非常に粘稠であった。反応は初めはゆっくりとしか進行しなかったが、相の相互溶解性が増加するために直ぐに加速された。これはより大きな発泡で検出することができた。この場合には、温度を117〜120℃に僅かに低下させ、撹拌装置の回転速度を注意深く上昇させた。約1.5時間後、混合物はエマルジョン様であり、約2時間後には完全に均一で比較的流動性であった。転化中に解離する1−プロピルアミンを高真空トラップ内で凝縮させた。これはそれぞれ2〜3時間の間隔で空にされ、まず不活性ガスを導入することによって常圧を回復させた。また、試料をそれぞれNMR分光法のために取り出した(H−及び31P−スペクトルは転化の検出のために必要である)。その後の排気は、激しい発泡が起こるので注意深く行わなければならなかった。発泡のために物質がフラスコの上部領域に到達し、そこで固化したら、加熱空気風を用いて注意深く溶融させなければならなかった。約7時間後、Iaの転化率は約70モル%であり、溶融体は非常により粘稠であった。次の約7時間の間に、温度をここでは137℃に連続的に上昇させて、これにより98モル%のOH基の転化率を達成した。過剰のOH基が2モル%を超える場合には、更に若干のIaを加えた。その後、転化を完了させるために温度を5時間以内で155℃に連続的に上昇させた。OH基の転化率が少なくとも98.5モル%になったら、装置中に窒素又はアルゴンを導入して真空を解除した。次に、溶融体を約175℃に加熱し、21g(0.1127モル)の転位触媒であるp−トルエンスルホン酸メチルエステルを加えた。転位度が約80%になるまで(約12時間後;31P−スペクトルの評価によって検出できる;転位中において、初めにかなりの量の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドが生成した。しかしながら、その濃度は反応の終了時には再び大きく低下した。)、最初は非常に粘稠の溶融体を175〜178℃の温度において撹拌した。溶融体は、次に非常により粘稠になり、したがって反応温度を徐々に且つ均一に上昇させ始めた。この温度上昇は、溶融体の粘度が反応の進行と共に更に増加するので必要であった。リン化合物の95モル%が転位したら、反応温度を186〜188℃にした(合計で約15時間後)。この温度を更に2時間保持し、次に3時間以内で225℃に上昇させた。再びより流動性になった溶融体を、次にスチールタンク中に注ぎ入れた。固化した生成物:IXはガラス様であった。粗粉砕の後、白色で無臭の粉末に粉砕した。これは、約93モル%の目的生成物IXを含んでおり、分子あたり平均で4〜5個のTHIC単位を有していた(Mw:約2200g/モル)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

のジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンを、少なくとも1種類の二価、三価、及び/又は多価アルコールを用いて一般式:HAの化合物:
(上式中、互いに独立して、
Aは、第1級アミン基、同じか又は混合して置換されている第2級アミン基、複素環式アミン基、又はヒドラジン誘導体であり;
x及びyは、0、1、2、3、又は4であり;
及びRは、同一か又は異なり、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基、及び/又はハロゲン原子を意味する)
を解離させながら転化させる、橋架ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの製造方法。
【請求項2】
アルコールが一般式II:
HO−X−OH
式II
(式中、Xは、線状又は分岐のC〜C22アルカンジイル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルカンジイル基、C〜C12シクロアルカンジイル基、C〜C14アレーンジイル基、C〜C22アラルカンジイル基、C〜C22アルキルアレーンジイル基、及び窒素含有基を含む群から選択される)
の二価アルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二価アルコールが、一般式III:
【化2】

(式中、
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、及び/又はC〜C22アルキルアリール基を意味し;
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、C〜C22脂肪族アミド基、C〜C22芳香族アミド基、C〜C22芳香脂肪族アミド基、C〜C22脂肪族スルホンアミド基、C〜C22芳香族スルホンアミド基、又はC〜C22芳香脂肪族スルホンアミド基を意味し;
p及びqは、互いに独立して1〜10である)
のアルキルアミノジオールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アルコールが、式IV:
【化3】

(ここでm=n=o=0であり、R及びpは上記に示す意味を有する)の三価アルコール、及び/又は、一般式IV(ここで、(m+n+o)>1、好ましくは30≧(m+n+o)>1であり、p及びRは上記に示す意味を有し、m、n、及びoは互いに独立して0〜10である)の少なくとも1種類の多価アルコールを含む混合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
一般式Iのアミノ化ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンで転化する直前に、好ましくは少なくとも1種類の酸、特にp−トルエンスルホン酸の触媒効果下での、式IV(ここで、m=n=o=0である)の三価アルコールの酸触媒縮合反応によって式IV(ここで(m+n+o)>1である)の少なくとも1種類の多価アルコールを含む混合物を製造する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
式IV(ここで(m+n+o)>1である)の少なくとも1種類の多価アルコールを含む混合物の製造、及び式IV(ここで(m+n+o)>1である)の少なくとも1種類の多価アルコールを含む混合物の転化を、一般式Iのアミノ化ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンによる滴下合成として行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶媒の不存在下で行う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
転化中に生成する一般式:HAの化合物を好ましくは減圧下で留去する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
50〜300℃の間、好ましくは110〜240℃の間の温度で行う、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
転化を、
(a)第1段階において、一般式Iのジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの基Aの置換を、二価、三価、及び/又は多価アルコールによって、アミン:HAを分離除去しながら行い;
(b)第1段階よりも高い温度の第2段階において、分子内Michaelis-Arbuzov転位を行って最終生成物を形成する;
2段階で行う、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1段階において、p−トルエンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸水和物を含む群から選択される触媒を加える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第2段階において、触媒としてp−トルエンスルホン酸メチルエステルを用いる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
基Aが、一般式V:
【化4】

(式中、
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味し;
は、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
のアミン基を表す、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
基Aが、一般式VI:
【化5】

(式中、
及びRは上記に記載の意味を有し;
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
のヒドラジン基を表す、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−59154(P2010−59154A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−183217(P2009−183217)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(508375468)エーエムジー−パテント・アクチェンゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】