説明

機器の動作音異常診断装置

【課題】検出された動作音と、機器の正常な動作音との微妙な違いを精度よく検出して、機器の異常を正確に診断する。
【解決手段】動作音検出部2と、機器動作分析部3と、動作区間区別部と、特徴抽出部32と、特徴記憶部33と、製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間のスペクトル特性が、特徴記憶部に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間に対応する区間の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪を算出し、当該診断用スペクトル歪が予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する異常判定部34とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の1回の製造サイクルで生じる動作音に基づき、当該機器の異常を診断することができる機器の動作音異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造会社は、周期的に動作する機械、例えば射出成形機、工作機械等で、製品を効率よく生産することが目的なので、機械が故障すると生産性が低下して、多大な損害を被ることになる。したがって、機械の小さな異常でも早急に発見して機械のダメージを最小限にすることが必要になる。
【0003】
このような機械の異常を発見するために、機械の動作音に着目し、その音響的な特性を分析することにより当該機械の異常を診断する装置や方法が提案されている(例えば、特許文献1〜8参照。)。
【0004】
特許文献1に開示された音響診断方法および装置は、機械から発生する動作音の音響データの変化波形を折れ線で近似し折れ線ベクトルに変換して、事前に記憶しておいた異常事例の折れ線ベクトルとの比較を行うことで、機械の異常を診断するものである。
【0005】
また、特許文献2に開示された音響診断装置及び音響診断方法は、機械から発生する動作音の音響信号のパワースペクトル密度を、その主成分分析又はKL展開してパワースペクトル密度の形状の特徴を抽出したパターンに変換して、事前に蓄積しておいた正常データや異常時の事例データとの比較を行うことで、機械の異常を診断するものである。
【0006】
また、特許文献3に開示された機器の診断装置は、機器から発生する振動を時系列信号に変換し、この時系列信号の特徴からマハラノビス距離を求めて、このマハラノビス距離と判定基準値とを比較して、機器の異常を診断するものである。
【0007】
また、特許文献4に開示された成形機診断装置、成形機、成形機診断方法及びそのプログラムは、射出成型機から発生する弾性波を検出し、この弾性波による検出波形と基準波形とを比較して、射出成型機の異常を診断するものである。
【0008】
また、特許文献5に開示された音響信号に基づく異常診断方法及び該方法を実行するために用いるプログラムは、機械から発生する動作音の音響信号を周波数分析し、各周波数または周波数帯域と音圧との関係に基づいて診断時における相対的音圧差を求め、この相対的音圧差が各周波数または各周波数帯域における異常判定用音圧差上限閾値と異常判定用音圧差下限閾値により定まる範囲を逸脱したときに、機械の異常を診断するものである。
【0009】
また、特許文献6に開示された機械設備の異常診断システムは、機械設備から発生する音または振動の検出信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出してエンベロープ信号を求め、このエンベロープ信号を間引き処理して周波数解析し、解析結果より得られる周波数スペクトルのピークを検出し、そのピークと異常周波数とを比較して、その比較結果に対応する部位別異常診断インデックスを参照することにより、機械設備の異常を診断するものである。
【0010】
また、特許文献7に開示された異常診断装置は、機械装置から発生する振動の検出信号をその分解能よりもデータ幅を拡張してフーリエ変換し、その結果に基づき機械装置の異常を診断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−312634号公報
【特許文献2】特開2002−323371号公報
【特許文献3】特開2004−340706号公報
【特許文献4】特開2005−193395号公報
【特許文献5】特開2005−257460号公報
【特許文献6】特開2006−113003号公報
【特許文献7】特開2007−170816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した装置等では、検出信号(音響信号)と比較する機器の異常を診断するための比較条件の設定を、適用する機器毎や異なる製品毎に、人為的に設定し直さなければならない難点があった。また、何れの装置等も、検出された動作音と、機器の正常な動作音との微妙な違いを精度よく検出して機器の異常を診断することができなかった。
【0013】
本発明は、このような従来の難点を解消するためになされたもので、検出された動作音と、機器の正常な動作音との微妙な違いを精度よく検出して、機器の異常を正確に診断することができ、而も、製品を所定の形に形成するための機器が異なっていたり、機器で加工する製品が異なったりしていても、検出信号である音響信号と比較する機器の異常を診断するための比較条件の設定を、人為的に設定し直さなくてもよくなる機器の動作音異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成する本発明の第1の態様である機器の動作音異常診断装置は、機器の動作音によって発生する振動を検出して音響信号に変換する動作音検出部と、動作音検出部で検出した動作音の音響信号に基づき製品の量産中である機器の動作状況を分析する機器動作分析部とを備えたものである。この機器動作分析部は、音響信号からフレームパワーを算出し、製品の量産初期の予め定められた処理回数における機器の製品を処理するための1サイクルにおいて、フレームパワーの最大値と最小値とに基づき予め定められた計算式で演算処理して、機器の1サイクルにおける動作区間と非動作区間とを区別する閾値を求めておき、当該閾値に基づき製品を処理中である機器の1サイクルから得られたフレームパワーから動作区間と非動作区間とを区別する動作区間区別部と、動作区間区別部で区別された動作区間及び非動作区間それぞれにおいて、音響信号の特徴として、当該音響信号のスペクトル特性の予め定められた検出回数の平均を演算処理して平均スペクトル特性を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部で得られた動作区間及び非動作区間それぞれの平均スペクトル特性を蓄積する特徴記憶部と、製品の処理が量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間のスペクトル特性と、特徴記憶部に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間に対応する区間の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪を算出し、当該診断用スペクトル歪が予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する異常判定部とを有するものである。
【0015】
このような第1の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間のスペクトル特性と、特徴記憶部に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間に対応する区間の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定することができるので、検出された動作音と、機器の正常な動作音との微妙な違いを精度よく検出して機器の異常を正確に診断することができるようになる。また、動作区間区別部で、製品の量産初期における機器の1サイクルにおいて、フレームパワーの最大値と最小値とに基づき予め定められた計算式で演算処理して、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間と非動作区間とを区別する閾値を求めることができるので、製品を所定の形に形成するための機器が異なっていたり、機器で加工する製品が異なったりしていても、検出信号(音響信号)と比較する機器の異常を診断するための比較条件の設定を、人為的に設定し直さなくてもよくなる。
【0016】
本発明の第2の態様は第1の態様である機器の動作音異常診断装置において、特徴抽出部における予め定められた検出回数は、製造開始時からの回数である。
このような第2の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、機器の経時的な動作負荷による機器劣化が生じる前の正常時の特徴量を得ることができる。
【0017】
本発明の第3の態様は第1の態様又は第2の態様である機器の動作音異常診断装置において、動作区間区別部は、音響信号からフレームパワーを算出するフレームパワー演算部と、フレームパワー演算部で算出されたフレームパワーに対して、計算式である下記式(1)で定義される演算処理を実行することにより閾値が得られる閾値設定部とを有するものである。
式(1)は、Pth=Pmin+(Pmax−Pmin)αであり、Pthは加工時動作区間を識別のための閾値、Pminはフレームパワーの最小値、Pmaxはフレームパワーの最大値、αはパワー閾値係数である。
このような第3の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、機器の動作区間を正確に切り出すことができる。
【0018】
本発明の第4の態様は第1の態様乃至第3の態様のうち何れか1つの機器の動作音異常診断装置において、異常判定部の演算処理機能は、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間及び非動作区間それぞれの平均スペクトル特性が3帯域に分割され、1つの帯域は機器の動作異常発生時に最も影響が現れやすい帯域となる主帯域、主帯域とは異なる2つの帯域はそれぞれ副帯域に設定され、主帯域のスペクトル歪は下記式(2)で定義される演算処理を実行し、一方の副帯域のスペクトル歪は下記式(3)で定義される演算処理を実行し、他方の副帯域のスペクトル歪は下記式(4)で定義される演算処理を実行することでそれぞれ求められ、式(2)で求められた主帯域のスペクトル歪、式(3)で求められた一方の副帯域のスペクトル歪、及び式(4)で求められた他方の副帯域のスペクトル歪を下記式(5)に代入し、当該式(5)で定義される演算処理を実行することで求まる主帯域及び2つの副帯域を合わせた全帯域のスペクトル歪を診断用スペクトル歪とするものである。
式(2)は、SDt={St−Sdt(F)}2であり、SDtは主帯域のスペクトル歪、Stは特徴記憶部に蓄積されている主帯域の平均スペクトル特性、Sdt(F)は製品の量産中である機器の1サイクルにおける主要帯域の平均スペクトル特性である。
式(3)は、SDnl={Sn1−Sdn1(F)}2であり、SDnlは一方の副帯域のスペクトル歪、Sn1は特徴記憶部に蓄積されている一方の副帯域の平均スペクトル特性、Sdn1(F)は製品の量産中である機器の1サイクルにおける一方の副帯域の平均スペクトル特性である。
式(4)は、SDn2={Sn2−Sdn2(F)}2であり、SDn2は他方の副帯域のスペクトル歪、Sn2は特徴記憶部に蓄積されている他方の副帯域の平均スペクトル特性、Sdn2(F)は製品の量産中である機器の1サイクルにおける他方の副帯域の平均スペクトル特性である。
式(5)は、SD=αSDt+β(SDnl+SDn2)であり、SDは全帯域のスペクトル歪であり、αとβは重み係数であり、α=1−βで、β=0の時、α=1である。
【0019】
このような第4の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間及び非動作区間それぞれの平均スペクトル特性のうち機器の動作異常発生時に最も影響が現れやすい帯域を主帯域とし、この主帯域に適切な重み付けをすることで、高精度に診断することが可能になる。
【0020】
本発明の第5の態様は第1の態様乃至第4の態様のうち何れか1つの態様である機器の動作音異常診断装置において、動作音検出部が機器の同一動作音を検出できる複数箇所に設置されている場合には、機器動作分析部は、複数の動作音検出部で検出したそれぞれの音響信号に基づき診断用スペクトル歪を算出後、異常判定部において複数の診断用スペクトル歪を下記式(6)で定義される演算処理を実行することで求まる統合診断用スペクトル歪が、複数の動作音検出部で検出したそれぞれの音響信号に基づく基準スペクトル歪を下記式(7)で定義される演算処理を実行することで求まる統合基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定するものである。
式(6)は、SDdi=ω・SDdi1+ω・SDdi2+・・・+ω・SDdinであり、SDdiは統合診断用スペクトル歪、SDdi1は1台目の動作音検出部に基づく診断用スペクトル歪、SDdi2は2台目の動作音検出部に基づく診断用スペクトル歪、SDdinはn台目の動作音検出部に基づく診断用スペクトル歪であり、ω、ω、・・・、ωは重み係数であり、ω+ω+・・・+ω=1である。
式(7)は、SDth=ω・SDth1+ω・SDth2+・・・+ω・SDthnであり、SDthは統合基準スペクトル歪、SDth1は1台目の動作音検出部に基づく基準スペクトル歪、SDth2は2台目の動作音検出部に基づく基準スペクトル歪、SDthnはn台目の動作音検出部に基づく基準スペクトル歪であり、ω、ω、・・・、ωは重み係数であり、ω+ω+・・・+ω=1である。
このような第5の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、動作音検出部が1つのときよりも検出の精度を高めることができる。
【0021】
本発明の第6の態様は第1の態様乃至第4の態様のうち何れか1つの態様である機器の動作音異常診断装置において、機器動作分析部の異常判定部は、複数の動作音検出部で検出したそれぞれの音響信号に基づき診断用スペクトル歪を算出後、各診断用スペクトル歪と、当該各診断用スペクトル歪それぞれに対応する基準スペクトル歪とを比較して何れの診断用スペクトル歪も対応する基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定するものである。
このような第6の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、動作音検出部が1つのときよりも検出の精度を高めることができる。
【0022】
本発明の第7の態様は第1の態様乃至第6の態様のうち何れか1つの態様である機器の動作音異常診断装置において、基準スペクトル歪は、動作区間及び非動作区間それぞれにおいて、製品の量産初期の動作区間区別部による予め定められた処理回数直後における製品の予め定められた処理回数の中で得られた複数のスペクトル特性の分散値である。
このような第7の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、機器の異常を発見できると共に、機器の異常の兆候を発見することができるので、機械が故障する前に部品を交換したりねじ止めの不具合を見つけたりすることができる。
【0023】
本発明の第8の態様は第1の態様乃至第6の態様のうち何れか1つの態様である機器の動作音異常診断装置において、基準スペクトル歪は、機器が正常に動作するような値に設定されているものである。
このような第8の態様である機器の動作音異常診断装置によれば、機器の異常を発見できると共に、機器の異常の兆候を発見することが可能になるので、機械が故障する前に部品を交換したりねじ止めの不具合を見つけたりすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の機器の動作音異常診断装置によれば、検出された動作音と、機器の正常な動作音との微妙な違いを精度よく検出して、機器の異常を正確に診断することができ、而も、製品を所定の形に形成するための機器が異なっていたり、機器で加工する製品が異なったりしていても、検出信号である音響信号と比較する機器の異常を診断するための比較条件の設定を、人為的に設定し直さなくてもよくなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の機器の動作音異常診断装置における好ましい実施の形態例を示すシステム構成のブロック図で、(A)は全体図、(B)は動作区間区別部の詳細図である。
【図2】図1に示す機器動作分析部の異常判定部の処理機能について説明する図で、1つの主帯域と、2つの副帯域との関係を示す縦軸が利得、横軸が周波数のグラフである。
【図3】製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間及び非動作区間の関係を示す説明図である。
【図4】製品の量産初期における学習期間と、製品の量産中における診断期間との関係を示す図で、縦長の楕円の1つが機器の1サイクルを示す説明図である。
【図5】図1に示す機器動作分析部の異常判定部の他の処理機能について説明する図で、スペクトル歪の経時変化における異常判定時点を示す判定閾値を示す縦軸がスペクトル歪、横軸が経過時間のグラフである。
【図6】本発明の機器の動作音異常診断装置における他の好ましい実施の形態例を示すシステム構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の機器の動作音異常診断装置を実施するための形態例について、図面を参照して説明する。
本発明の機器の動作音異常診断装置は図1(A)に示すように、機器の動作音によって発生する振動を検出して音響信号に変換する動作音検出部2と、動作音検出部2で検出した動作音の音響信号に基づき製品の量産中である機器の動作状況を分析する機器動作分析部3とを備えている。ここで機器とは、例えば射出成形機、工作機械、産業用ロボット、金型等の周期的に動作する機械が該当する。
【0027】
動作音検出部2は、音によって発生する振動を検出して電気信号である音響信号に変換することができるマイクロホンや振動センサが該当する。マイクロホンは音が空気の振動によって発生するので、その空気の振動を電気信号に変換することでその空気の振動に応じた信号波形を出力することができる。また、振動センサは、振動を変位、速度あるいは加速度で定量的に捕えるもので、測定した物理量を電気信号に変換することでその振動に応じた信号波形を出力することができる。
【0028】
機器動作分析部3は、機器の製品を処理するための1サイクル(当該明細書中においては、「機器の1サイクル」と称する。)から動作区間と非動作区間とを区別する動作区間区別部31と、動作区間区別部31で区別された動作区間及び非動作区間それぞれにおいて、音響信号の特徴として、当該音響信号の平均スペクトル特性を抽出する特徴抽出部32と、特徴抽出部32で得られた動作区間及び非動作区間それぞれの平均スペクトル特性を蓄積するハードディスクやメモリ等の特徴記憶部33と、特徴記憶部33に蓄積された動作区間の平均スペクトル特性と、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間のスペクトル特性とを比較し、また、特徴記憶部33に蓄積された非動作区間の平均スペクトル特性と、製品の量産中である機器の1サイクルにおける非動作区間のスペクトル特性とを比較することで、機器に異常があるか否かを判定する異常判定部34とを有している。ここで、スペクトル特性とはスペクトル分布を意味する。
【0029】
動作区間区別部31は、音響信号からフレームパワーを算出し、製品の量産初期の予め定められた処理回数における機器の1サイクルにおいて、フレームパワーの最大値と最小値とに基づき予め定められた計算式で演算処理して、機器の1サイクルにおける動作区間と非動作区間とを区別する閾値を求めておき、当該閾値に基づき製品を処理中である機器の1サイクルから得られたフレームパワーから動作区間と非動作区間とを区別する処理機能を有している。なお、フレームパワーは、入力された音響信号に対して所定の時間間隔毎に、所定のフレーム幅で算出することができる。ここで、動作区間区別部31における製品の量産初期の予め定められた処理回数とは、製品を製造開始してから2〜3回程度のことで、この場合、機器が、まだ、安定状態なので、正確なフレームパワーを得ることができる。以下、製品の量産初期を学習区間と称する。
【0030】
このような処理機能は、例えば図1(B)に示すように、音響信号からフレームパワーを算出するフレームパワー演算部31aと、フレームパワー演算部31aで算出されたフレームパワーに対して、予め定められた計算式である下記式(1)で定義される演算処理を実行することにより閾値が得られる閾値設定部31bとを有するものである。この式(1)はFFT(高速フーリエ変換)などの手法を用いて演算処理される。
【0031】
式(1)は、Pth=Pmin+(Pmax−Pmin)αとする。但し、Pthは製品を量産中である機器の1サイクルにおける動作区間を識別のための閾値、Pminはフレームパワーの最小値、Pmaxはフレームパワーの最大値、αはパワー閾値係数である。このパワー閾値係数αは、0から1まで微小刻みで区間検出実験を繰り返して得られた検出誤りが最小となる0.6が好適である。
【0032】
この閾値Pthを用いて、音響信号から製品を量産中である機器の1サイクルから動作区間と非動作区間とを区別する際、その閾値を超えた位置を始端とし、そしてその閾値を超えたままの状態からその閾値を予め定められた時間、即ち、製品を製造するため機器が安定状態である学習区間において求められた時間で連続して下回った場合には、その閾値を最初に下回った位置を終端とするその閾値を超えたままの区間における1つのまとまりが、製品を量産中である機器の1サイクルにおける動作区間となる。したがって、製品を量産中である機器の1サイクルにおいては、その動作区間以外が非動作区間となる。
【0033】
この上述したフレームパワー演算部31aと、閾値設定部31bとを使用することで、製品を量産中である機器の1サイクルから動作区間と非動作区間とを区別する実験を、射出成形機を利用して行なった。この射出成形機は、プラスチック金型が開いた後、製品である成形品を突き出しピンで押し出すことで成形品を取り出すもので、この際、突き出しピンが強く擦れたり、折れたりする異常が発生することから、プラスチック金型に動作音検出部2を取り付けた。この動作音検出部2として、プラスチック金型に直接取り付けが可能な加速度型の振動ピックアップセンサ(株式会社山武の製品名称:加速度ピックアップセンサ、型番PWFIA000−70002)を用いた。なお、動作区間は突き出しピンが可動している間とする。このプラスチック金型による射出成形を120ショット(120サイクル)行なった結果、120ショットのすべてにおいて動作区間と非動作区間との範囲はほぼ同じであり、100%の確立で適切に区別できることが確認できている。
【0034】
したがって、式(1)やパワー閾値係数αを適切に設定することで、機器の動作区間を正確に切り出せる閾値を得ることができることが確認できた。
【0035】
特徴抽出部32の平均スペクトル特性は、音響信号のスペクトル特性の予め定められた検出回数の平均を演算処理することで得ることができる。この特徴抽出部32における予め定められた回数は、動作区間区別部31における製品の量産初期の予め定められた処理回数直後からの回数である。この平均スペクトル特性の演算処理も、製品の量産初期における学習区間でなされる。また、ここで言う予め定められた回数は2〜3回程度である。特徴抽出部32における予め定められた回数を、このような回数にするのは、機器の経時的な動作負荷による機器劣化が生じる前の正常時の特徴量を得ることができるからである。
【0036】
異常判定部34は、製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間に対応する区間の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪を算出し、当該診断用スペクトル歪が予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する処理機能を有している。
【0037】
この基準スペクトル歪は、動作区間及び非動作区間それぞれにおいて、製品の量産初期の動作区間区別部31による予め定められた処理回数直後における製品の予め定められた処理回数の中で得られた複数のスペクトル特性の分散値であり、機器動作分析部3によって求められる。この基準スペクトル歪の演算処理も、製品の量産初期における学習区間でなされる。また、ここで言う処理回数直後における製品の予め定められた処理回数は2〜3回程度である。このような回数にするのは、機器の経時的な動作負荷による機器劣化が生じる前の正常時の特徴量を得ることができるからである。このように、複数のスペクトル特性の分散値を基準スペクトル歪として用いることで、機器の異常を発見できると共に、機器の異常の兆候を発見することができるので、機械が故障する前に部品を交換したりねじ止めの不具合を見つけたりすることができる。
【0038】
また、基準スペクトル歪は、機器が正常に動作するような値に設定されているものでもよい。基準スペクトル歪をこのように設定することでも、機器の異常を発見できると共に、機器の異常の兆候を発見することが可能になるので、機械が故障する前に部品を交換したりねじ止めの不具合を見つけたりすることができる。
【0039】
このような異常判定部34の演算処理機能について、例えば、特徴記憶部33に蓄積された製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間及び非動作区間それぞれの平均スペクトル特性が、3帯域に分割される。1つの帯域は機器の動作異常発生時に最も影響が現れやすい帯域となる主帯域、主帯域とは異なる2つの帯域はそれぞれ副帯域に設定される。この主帯域は、機器の動作において異常が発生し得る動作音について、事前に周波数分析を行い、この分析結果から主成分を含んだ帯域を特定することで設定される。この主帯域及び2つの副帯域に基づき、基準スペクトル歪と比較するためのスペクトル歪を得るために、主帯域のスペクトル歪は下記式(2)で定義される演算処理を実行し、一方の副帯域のスペクトル歪は下記式(3)で定義される演算処理を実行し、他方の副帯域のスペクトル歪は下記式(4)で定義される演算処理を実行することでそれぞれ求められる。そして、式(2)で求められた主帯域のスペクトル歪、式(3)で求められた一方の副帯域のスペクトル歪、及び式(4)で求められた他方の副帯域のスペクトル歪を下記式(5)に代入し、当該式(5)で定義される演算処理を実行することで求まる主帯域及び2つの副帯域を合わせた全帯域のスペクトル歪を診断用スペクトル歪とすることになる。
【0040】
なお、式(2)は、SDt={St−Sdt(F)}2とする。SDtは図2に示すように、主帯域のスペクトル歪、Stは特徴記憶部33に蓄積されている主帯域の平均スペクトル特性、Sdt(F)は製品の量産中である機器の1サイクルにおける主帯域の平均スペクトル特性である。
【0041】
また、式(3)は、SDnl={Sn1−Sdn1(F)}2とする。SDnlは図2に示すように、一方の副帯域のスペクトル歪、Sn1は特徴記憶部33に蓄積されている一方の副帯域の平均スペクトル特性、Sdn1(F)は製品の量産中である機器の1サイクルにおける一方の副帯域の平均スペクトル特性である。
【0042】
また、式(4)は、SDn2={Sn2−Sdn2(F)}2とする。SDn2は図2に示すように、他方の副帯域のスペクトル歪、Sn2は特徴記憶部33に蓄積されている他方の副帯域の平均スペクトル特性、Sdn2(F)は製品の量産中である機器の1サイクルにおける他方の副帯域の平均スペクトル特性である。
【0043】
また、式(5)は、SD=αSDt+β(SDnl+SDn2)とする。SDは全帯域のスペクトル歪であり、αとβは重み係数であり、α=1−βで、β=0の時、α=1である。したがって、主帯域を最も大きな重みとすることができる。このような重み付けに設定しているのは、機器の動作異常発生時に最も影響が現れやすい帯域となる主帯域に重みを置くように設定する必要性があるからである。
なお、式(2)〜(4)においては二乗しているが、これはスペクトル歪を求めるときの各式における両者の平均スペクトル特性の差が正の値になったり負の値になったりするからである。
【0044】
このように主帯域と副帯域に分けて、それぞれのスペクトル歪から全帯域のスペクトル歪を算出するのは、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間及び非動作区間それぞれの平均スペクトル特性のうち機器の動作異常発生時に最も影響が現れやすい帯域を主帯域とし、この主帯域に適切な重み付けをすることで、高精度に診断することが可能になるからである。
【0045】
なお、動作音検出部2と機器動作分析部3との間には、音響信号を機器動作分析部3に伝送する信号伝送部4が介在している。この信号伝送部4は、シールド線などを用いるいわゆる有線方式だけでなく、デジタル型FM送信器及び受信器などの無線方式を用いることで、産業用ロボットなど、計測対象機械の各部位が部分的に移動して動作するものや、危険を伴うものなどでは信号線を張り巡らす必要もなく、装置の操作性や簡便な構成を実現することが可能となる。
【0046】
このように構成された機器の動作音異常診断装置1の動作について以下説明する。
例えば成形品を成形する射出成形機の場合には、基本的には図3に示すように、金型の閉動作S1、開動作S2及び射出動作S3の3回が動作区間となる。したがって、金型の閉動作S1及び開動作S2間が非動作区間P1、金型の開動作S2及び射出動作S3間が非動作区間P2となる。このような動作区間S1、S2、S3と非動作区間P1、P2における射出成形機には、当該射出成型機の動作音によって発生する振動を検出して音響信号に変換する動作音検出部2が設置されている。なお、射出成型機は正常動作においては、動作区間S1、S2、S3と非動作区間P1、P2とは明らかに異なる音響信号の波形となる。
【0047】
この射出成形機が成形品の量産を開始すると、まず、動作音検出部2が射出成形機の動作音によって発生する振動を検出して音響信号に変換し、その音響信号を、信号伝送部4を介して機器動作分析部3に伝送する。
【0048】
機器動作分析部3は入力した音響信号を動作区間区別部31に出力する。動作区間区別部31は、フレームパワー演算部31aで音響信号からフレームパワーを算出し、学習区間における機器の処理するための1サイクルにおいて、フレームパワーの最大値と最小値とに基づき予め定められた計算式、例えば上述した閾値設定部31bが式(1)で演算処理して、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間S1、S2、S3と非動作区間P1、P2とを区別する閾値を求めておき、当該閾値に基づき製品を量産中である機器の1サイクルから得られたフレームパワーから動作区間と非動作区間とを区別する。
【0049】
特徴抽出部32が動作区間区別部31で区別された動作区間S1、S2、S3及び非動作区間P1、P2それぞれにおいて、音響信号の特徴として、当該音響信号のスペクトル特性の予め定められた検出回数の平均を演算処理して平均スペクトル特性を抽出する。この特徴抽出部32で平均スペクトル特性を抽出する期間は図4に示すような学習区間となる。この特徴抽出部32で得られた動作区間S1、S2、S3及び非動作区間P1、P2それぞれの平均スペクトル特性は、特徴記憶部33が蓄積する。
【0050】
そして図4に示すように、異常判定部34が、特徴記憶部33に学習区間内において蓄積された動作区間S1、S2、S3それぞれの平均スペクトル特性と、製品の量産中となる診断区間である機器の1サイクルにおける動作区間S1、S2、S3それぞれのスペクトル特性とを比較して、製品の量産中である機器の1サイクルにおける、例えば動作区間S1のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間S1のスペクトル特性に対応する動作区間S1の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する。
【0051】
同様に、製品の量産中である機器の1サイクルにおける、動作区間S2のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間S2のスペクトル特性に対応する動作区間S2の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する。また、製品の量産中である機器の1サイクルにおける、例えば動作区間S3のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間S3のスペクトル特性に対応する動作区間S3の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する。なお、何れの動作区間S1、S2、S3の何れにおいても各診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪以下の場合には、機器は正常であると判定する。
【0052】
さらに、異常判定部34が、特徴記憶部33に蓄積された非動作区間P1、P2それぞれの平均スペクトル特性と、製品の量産中である機器の1サイクルにおける非動作区間P1、P2それぞれのスペクトル特性とを比較して、製品の量産中である機器の1サイクルにおける、例えば非動作区間P1のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける非動作区間P1のスペクトル特性に対応する非動作区間P1の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する。
【0053】
同様に、製品の量産中である機器の1サイクルにおける、非動作区間P2のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける非動作区間P2のスペクトル特性に対応する非動作区間P2の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する。なお、何れの非動作区間P1、P2の何れにおいても各診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪以下の場合には、機器は正常であると判定する。
【0054】
このような機器動作分析部3は、機器に異常があると判定した場合には射出成形機を停止させ、機器は正常であると判定した場合には射出成形機による射出成形加工を続行させることができる。
【0055】
したがって、本発明の機器の動作音異常診断装置1によれば、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間と非動作区間とを区別して、何れか一方の区間のスペクトル特性と、学習区間において求められた平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪が、予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定することができるので、検出された動作音と、機器の正常な動作音との微妙な違いを精度よく検出して機器の異常を正確に診断することができるようになる。また、動作区間区別部31で、学習区間における機器の1サイクルにおいて、フレームパワーの最大値と最小値とに基づき予め定められた計算式で演算処理して、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間と非動作区間とを区別する閾値を求めることができるので、製品を所定の形に形成するための機器が異なっていたり、機器で加工する製品が異なったりしていても、音響信号と比較する機器の異常を診断するための比較条件の設定を、人為的に設定し直さなくてもよくなる。
【0056】
なお、機器を動作開始してから何回も使用していくうちに経時的な動作負荷などによって、部品の摩耗やねじの固定条件などが変化して、機器全体に不具合が生じて大きな事故に繋がる場合もあるので、特徴記憶部33に蓄積された機器の1サイクルにおける動作区間の平均スペクトル特性と、製品の量産中である機器の1サイクルにおける動作区間とに生ずる診断用スペクトル歪や、特徴記憶部33に蓄積された機器の1サイクルにおける非動作区間の平均スペクトル特性と、製品の量産中である機器の1サイクルにおける非動作区間とに生ずる診断用スペクトル歪を経時的に観測して、何れか一方の診断用スペクトル歪が図5に示すように、判定閾値となる予め定められた基準スペクトル歪を超えた時点で、機器は異常の兆候があると判定するようにしてもよい。これにより、機器の異常の兆候を発見することができるので、機械が故障する前に機器の部品を交換したりねじ止めの不具合を見つけたりすることができるようになる。
【0057】
また、上述した実施例においては、機器の同一動作音の検出は1か所で行っていたが、これに限らず、図6に示すように、同一動作音を検出する動作音検出部21、22を2ヶ所に設置するようにしてもよい。この図6に示す機器の動作音異常診断装置10は、動作音検出部21、22、動作区間区別部21及び異常判定部36を除くと、図1の動作音異常診断装置1と同じ機能を有する構成要素を備えているので、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0058】
この場合、機器動作分析部3は、動作区間区別部35で動作音検出部21からの音響信号及び動作音検出部22からの音響信号それぞれに基づく動作区間と非動作区間とを区別する閾値を求め、特徴抽出部32で動作音検出部21に基づく動作区間及び非動作区間それぞれにおける平均スペクトル特性と、動作音検出部22に基づく動作区間及び非動作区間それぞれにおける平均スペクトル特性とを抽出し、特徴記憶部33で動作音検出部21に基づく動作区間及び非動作区間それぞれにおける平均スペクトル特性と、動作音検出部22に基づく動作区間及び非動作区間それぞれにおける平均スペクトル特性とを蓄積する。
【0059】
異常判定部36は、動作音検出部21及び動作音検出部22で検出したそれぞれの音響信号に基づき診断用スペクトル歪を算出する。即ち、動作音検出部21において、製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間に対応する区間の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪を算出する。また、動作音検出部22において、製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間のスペクトル特性と、特徴記憶部33に蓄積され製品の量産中である機器の1サイクルにおける何れか一方の区間に対応する区間の平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪を算出する。
【0060】
そして、異常判定部36は、動作音検出部21及び動作音検出部22で検出したそれぞれの音響信号に基づき診断用スペクトル歪を算出後、各診断用スペクトル歪を下記式(6A)で定義される演算処理を実行することで求まる統合診断用スペクトル歪が、各動作音検出部で検出したそれぞれの音響信号に基づく基準スペクトル歪を下記式(7A)で定義される演算処理を実行することで求まる統合基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定する。
【0061】
なお、式(6A)は、SDdi=ω・SDdi1+ω・SDdi2とする。SDdiは統合診断用スペクトル歪、SDdi1は動作音検出部21に基づく診断用スペクトル歪、SDdi2は動作音検出部22に基づく診断用スペクトル歪であり、ω、ωは重み係数であり、ω+ω=1である。
【0062】
また、式(7A)は、SDth=ω・SDth1+ω・SDth2とする。SDthは統合基準スペクトル歪、SDth1は動作音検出部21に基づく基準スペクトル歪、SDth2は動作音検出部22に基づく基準スペクトル歪であり、ω、ωは重み係数であり、ω+ω=1である。
【0063】
なお、式(6A)、(7A)の重み係数は、より重要度の高い動作音検出部の影響を考慮するため、利用者が任意に決定することができる。
したがって、動作音検出部が1つのときよりも検出の精度を高めることができる。
【0064】
また、動作音検出部が3ヶ所以上に設置している場合には、異常判定部36は、3つ以上の動作音検出部で検出したそれぞれの音響信号に基づき診断用スペクトル歪を算出後、各診断用スペクトル歪を下記式(6B)で定義される演算処理を実行することで求まる統合診断用スペクトル歪が、各動作音検出部で検出したそれぞれの音響信号に基づく基準スペクトル歪を下記式(7B)で定義される演算処理を実行することで求まる統合基準スペクトル歪より大きい場合には、機器に異常があると判定するものでもよい。
【0065】
なお、式(6B)は、SDdi=ω・SDdi1+ω・SDdi2+・・・+ω・SDdinとする。SDdiは統合診断用スペクトル歪、SDdi1は1台目の動作音検出部に基づく診断用スペクトル歪、SDdi2は2台目の動作音検出部に基づく診断用スペクトル歪、SDdinはn台目の動作音検出部に基づく診断用スペクトル歪であり、ω、ω、・・・、ωは重み係数であり、ω+ω+・・・+ω=1である。
【0066】
また、式(7B)は、SDth=ω・SDth1+ω・SDth2+・・・+ω・SDthnとする。SDthは統合基準スペクトル歪、SDth1は1台目の動作音検出部に基づく基準スペクトル歪、SDth2は2台目の動作音検出部に基づく基準スペクトル歪、SDthnはn台目の動作音検出部に基づく基準スペクトル歪であり、ω、ω、・・・、ωは重み係数であり、ω+ω+・・・+ω=1である。
【0067】
なお、式(6B)、(7B)の重み係数は、より重要度の高い動作音検出部の影響を考慮するため、利用者が任意に決定することができる。
したがって、動作音検出部が1つのときよりも検出の精度を高めることができる。
【0068】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0069】
1……機器の動作音異常診断装置
2……動作音検出部
3……機器動作分析部
31、35……動作区間区別部
32……特徴抽出部
33……特徴記憶部
34、36……異常判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の動作音によって発生する振動を検出して音響信号に変換する動作音検出部と、前記動作音検出部で検出した前記動作音の前記音響信号に基づき前記製品の量産中である前記機器の動作状況を分析する機器動作分析部とを備えた機器の動作音異常診断装置において、
前記機器動作分析部は、
前記音響信号からフレームパワーを算出し、前記製品の量産初期の予め定められた処理回数における前記機器の前記製品を処理するための1サイクルにおいて、前記フレームパワーの最大値と最小値とに基づき予め定められた計算式で演算処理して、前記機器の前記1サイクルにおける動作区間と非動作区間とを区別する閾値を求めておき、当該閾値に基づき前記製品を処理中である前記機器の前記1サイクルから得られた前記フレームパワーから前記動作区間と前記非動作区間とを区別する動作区間区別部と、
前記動作区間区別部で区別された前記動作区間及び前記非動作区間それぞれにおいて、前記音響信号の特徴として、当該音響信号のスペクトル特性の予め定められた検出回数の平均を演算処理して平均スペクトル特性を抽出する特徴抽出部と、
前記特徴抽出部で得られた前記動作区間及び前記非動作区間それぞれの前記平均スペクトル特性を蓄積する特徴記憶部と、
前記製品の前記処理が量産中である前記機器の前記1サイクルにおける前記何れか一方の区間の前記スペクトル特性と、前記特徴記憶部に蓄積され前記製品の量産中である前記機器の前記1サイクルにおける前記何れか一方の区間に対応する前記区間の前記平均スペクトル特性の診断用スペクトル歪を算出し、当該診断用スペクトル歪が予め定められた基準スペクトル歪より大きい場合には、前記機器に異常があると判定する異常判定部とを有することを特徴とする機器の動作音異常診断装置。
【請求項2】
前記特徴抽出部における前記予め定められた検出回数は、製造開始時からの回数であることを特徴とする請求項1記載の機器の動作音異常診断装置。
【請求項3】
前記動作区間区別部は、
前記音響信号から前記フレームパワーを算出するフレームパワー演算部と、
前記フレームパワー演算部で算出された前記フレームパワーに対して、前記計算式である下記式(1)で定義される演算処理を実行することにより前記閾値が得られる閾値設定部とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の機器の動作音異常診断装置。
Pth=Pmin+(Pmax−Pmin)α・・・(1)
但し、Pthは前記動作区間を識別のための前記閾値、Pminは前記フレームパワーの最小値、Pmaxは前記フレームパワーの最大値、αはパワー閾値係数である。
【請求項4】
前記異常判定部の演算処理機能は、
前記製品の量産中である前記機器の前記1サイクルにおける前記動作区間及び前記非動作区間それぞれの前記平均スペクトル特性が3帯域に分割され、1つの帯域は前記機器の動作異常発生時に最も影響が現れやすい帯域となる主帯域、前記主帯域とは異なる2つの帯域はそれぞれ副帯域に設定され、
前記主帯域のスペクトル歪は下記式(2)で定義される演算処理を実行し、前記一方の副帯域のスペクトル歪は下記式(3)で定義される演算処理を実行し、前記他方の副帯域のスペクトル歪は下記式(4)で定義される演算処理を実行することでそれぞれ求められ、前記式(2)で求められた前記主帯域のスペクトル歪、前記式(3)で求められた前記一方の副帯域のスペクトル歪、及び前記式(4)で求められた前記他方の副帯域のスペクトル歪を下記式(5)に代入し、当該式(5)で定義される演算処理を実行することで求まる前記主帯域及び前記2つの副帯域を合わせた全帯域のスペクトル歪を前記診断用スペクトル歪とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の機器の動作音異常診断装置。
SDt={St−Sdt(F)}2・・・(2)
但し、SDtは前記主帯域のスペクトル歪、Stは前記特徴記憶部に蓄積されている前記主帯域の平均スペクトル特性、Sdt(F)は前記製品の量産中である前記機器の前記1サイクルにおける前記主要帯域の平均スペクトル特性である。
SDnl={Sn1−Sdn1(F)}2・・・(3)
但し、SDnlは前記一方の副帯域のスペクトル歪、Sn1は前記特徴記憶部に蓄積されている前記一方の副帯域の平均スペクトル特性、Sdn1(F)は前記製品の量産中である前記機器の前記1サイクルにおける前記一方の副帯域の平均スペクトル特性である。
SDn2={Sn2−Sdn2(F)}2・・・(4)
但し、SDn2は前記他方の副帯域のスペクトル歪、Sn2は前記特徴記憶部に蓄積されている前記他方の副帯域の平均スペクトル特性、Sdn2(F)は前記製品の量産中である前記機器の前記1サイクルにおける前記他方の副帯域の平均スペクトル特性である。
SD=αSDt+β(SDnl+SDn2)・・・(5)
但し、SDは前記全帯域のスペクトル歪であり、αとβは重み係数であり、α=1−βで、β=0の時、α=1である。
【請求項5】
前記動作音検出部が前記機器の同一動作音を検出できる複数箇所に設置されている場合には、
前記機器動作分析部は、前記複数の動作音検出部で検出したそれぞれの前記音響信号に基づき前記診断用スペクトル歪を算出後、前記異常判定部において前記複数の診断用スペクトル歪を下記式(6)で定義される演算処理を実行することで求まる統合診断用スペクトル歪が、前記複数の動作音検出部で検出したそれぞれの前記音響信号に基づく前記基準スペクトル歪を下記式(7)で定義される演算処理を実行することで求まる統合基準スペクトル歪より大きい場合には、前記機器に異常があると判定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の機器の動作音異常診断装置。
SDdi=ω・SDdi1+ω・SDdi2+・・・+ω・SDdin・・・(6)
但し、SDdiは前記統合診断用スペクトル歪、SDdi1は1台目の前記動作音検出部に基づく前記診断用スペクトル歪、SDdi2は2台目の前記動作音検出部に基づく前記診断用スペクトル歪、SDdinはn台目の前記動作音検出部に基づく前記診断用スペクトル歪であり、ω、ω、・・・、ωは重み係数であり、ω+ω+・・・+ω=1である。
SDth=ω・SDth1+ω・SDth2+・・・+ω・SDthn・・・(7)
但し、SDthは前記統合基準スペクトル歪、SDth1は1台目の前記動作音検出部に基づく前記基準スペクトル歪、SDth2は2台目の前記動作音検出部に基づく前記基準スペクトル歪、SDthnはn台目の前記動作音検出部に基づく前記基準スペクトル歪であり、ω、ω、・・・、ωは重み係数であり、ω+ω+・・・+ω=1である。
【請求項6】
前記機器動作分析部の前記異常判定部は、前記複数の動作音検出部で検出したそれぞれの前記音響信号に基づき前記診断用スペクトル歪を算出後、前記各診断用スペクトル歪と、当該各診断用スペクトル歪それぞれに対応する前記基準スペクトル歪とを比較して何れの前記診断用スペクトル歪も前記対応する基準スペクトル歪より大きい場合には、前記機器に異常があると判定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の機器の動作音異常診断装置。
【請求項7】
前記基準スペクトル歪は、前記動作区間及び前記非動作区間それぞれにおいて、前記製品の量産初期の前記動作区間区別部による前記予め定められた処理回数直後における製品の予め定められた処理回数の中で得られた複数のスペクトル特性の分散値であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうち何れか1項に記載の機器の動作音異常診断装置。
【請求項8】
前記基準スペクトル歪は、前記機器が正常に動作するような値に設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうち何れか1項に記載の機器の動作音異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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