説明

機器用免震システム

【課題】壁ぎわに配置するのが一般的な機器等にも適用可能な免震システムを提供する。
【解決手段】免震対象機器Cの底部に免震システム1の免震装置10を設ける。免震装置10は、免震対象機器Cが固定物Wに対し平常位置から固定物側とは反対の側へ相対変位するのを許容するとともに免震対象機器Cに平常位置への復元力を作用させる。免震対象機器Cの固定物Wを向く面には、衝撃吸収部材として例えば衝突エネルギーを熱エネルギーに変換するエネルギー変換部材20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば展示物、キャビネット、家具等の各種機器が地震で転倒するのを抑制するための免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の免震装置は、免震対象機器の底部又はその設置面に配置されたガイドと、ローラやベアリング等の転動体を有している。ガイドは、互いに直交する2つのレールを上下二段に組み合わせたものや、皿状のものが用いられ、水平全方向に免震可能な構造になっている。直交レール式ガイドの場合、各レールに、長手方向の中央部を中立点(平常時接点)としてそこから両端に向かって対称的に湾曲するカム面が形成されている。皿状ガイドの場合、その凹曲面が中心部を中立点として周囲全周に向かって湾曲するカム面になっている。カム面は、中立点を原点とする2次曲線とするのが通例である。
平常時は、転動体がカム面の中立点上に安定して位置されている。
地震の横揺れが起きると、免震対象機器が設置面に対し水平変位するとともに、転動体がガイドのカム面に沿って移動し、このカム作用で免震対象機器が上に変位する。これにより、免震対象機器には重力によって平常時の位置に戻ろうとする復元力が働く。このようにして、免震対象機器を平常位置を中心にして全方向に免震し、転倒を抑制するようになっている。
【特許文献1】特開2002−161942号公報
【特許文献2】特開2006−31119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の免震構造においては、免震対象機器の設置面に対する相対変位が許容される免震ストローク内に壁等の障害物が在ると、衝突により免震対象機器が転倒するおそれがある。そのため、免震対象機器を壁等から十分に離して設置する必要があった。しかし、住居等における機器の設置スペースは限られており、壁ぎわに設置するのが通例の機器も少なくない。したがって、免震装置を適用可能な場合が限定的であり、汎用性が乏しかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、
建物の壁、柱等の固定物の近傍において前記固定物と一体の設置面上に配置されるべき免震対象機器のための免震システムであって、
前記免震対象機器の底部と前記設置面との間に設けられ、前記免震対象機器が前記固定物に対し平常位置から固定物側とは反対の側へ相対変位するのを許容するとともに前記免震対象機器に前記平常位置への復元力を作用させる免震装置と、
前記免震対象機器の前記固定物を向く面に設けられ、衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
を備えたことを特徴とする。
この免震システムによれば、地震の揺れ周期のうち、固定物が免震対象機器から遠ざかる側に振れている期間は、免震装置によって免震対象機器の設置面に対する相対変位が許容され、免震対象機器が免震される。その後、固定物が免震対象機器の側に戻って来て免震対象機器と衝突した場合、固定物と免震対象機器の間に介在された衝撃吸収部材によって衝撃を吸収することができる。これにより、免震対象機器が衝撃で跳ね飛ばされるのを防止できる。そして、固定物が免震対象機器の側に振れている期間は、免震対象機器が固定物及び設置面と一体になって揺れるようにすることができる。このようにして、免震対象機器の転倒を回避することができる。免震対象機器の免震時の相対変位を許容するためのスペースは、免震対象機器の固定物側とは反対側にだけ確保すればよく、免震対象機器と固定物との間にはそのようなスペースを確保する必要がない。したがって、免震対象機器のレイアウトの自由度を高めることができ、壁ぎわに配置するのが一般的な機器等にも免震システムを容易に適用でき、免震システムの汎用性を高めることができる。また、平常位置を基準に少なくとも片側に免震できればよいので、免震装置の小型化を図ることができ、さらにはコストダウンを図ることができる。
【0005】
前記免震装置が、前記免震対象機器の底部又は前記設置面に配置されたカムと、このカムに沿って案内される転動体とを有し、
前記カムが、前記免震対象機器が前記平常位置のとき前記転動体を所定の平常時接点に位置させ、前記転動体が前記平常時接点から遠ざかるにしたがって前記転動体と協働して前記免震対象機器を上に変位させるように形成され、しかも、前記平常時接点の辺りから前記相対変位方向の片側にだけ延びていることが好ましい。
これによって、免震装置の大きさを、カムが平常時接点(中立点)を中心にしてその両側に設けられているものと比して最大半分程度にまで小さくすることができる。カムが平常時接点辺りから片側にしかなくても、衝撃吸収部材との組み合わせで免震対象機器の転倒を防止することができる。「片側の部分」とは、前記免震対象機器が前記固定物に対し平常位置から固定物側とは反対の側へ相対変位するのを許容することになる側の部分である。具体的には、前記カムが、前記免震対象機器の底部に設けられている場合、固定物側の部分であり、前記カムが、前記設置面に設けられている場合、固定物側とは反対側の部分である。前記平常時接点の辺りより片側の部分であればよく、ちょうど平常時接点から片側の部分である必要はなく、平常時接点より反対側にも少しカムが延び出ていてもよい。
前記転動体は、前記カム自体によって前記平常時接点において安定するようになっていてもよく、前記カムとは別途に設けたストッパ等の位置決め手段により前記平常時接点において安定するようになっていてもよい。
【0006】
例えば、前記免震対象機器は、幅が奥行きより大きい。その場合、免震対象機器は、幅方向へは強軸であり、転倒しにくい。したがって、免震装置は、奥行き方向すなわち前後方向にのみ免震可能であれば十分である。また、免震対象機器は、背面(奥行き方向の後面)が前記固定物を向く面となっていることが多い。その場合、前記衝撃吸収部材は、前記免震対象機器の背面に設けられる。そして、前記免震装置が、
前記奥行き方向(前後方向)に延び、前記免震対象機器の底部に固定された機器側レールと、
この機器側レールと並行するように延び、前記設置面に設置された設置面側レールと、
これらレール間に挟まれ、これらレールの延び方向に移動可能な転動体と、を有し、
何れか一方のレールに、前記免震対象機器が前記平常位置のとき前記転動体を所定の平常時接点に位置させ、前記転動体が前記平常時接点から遠ざかるにしたがって前記転動体と協働して前記免震対象機器を上に変位させるカムが形成されているのが好ましい。
これによって、レール構造を1段にすることができ、免震装置の高さ寸法を小さくすることができる。また、部品点数を削減でき、コストダウンを図ることができる。
この場合、前記カムは、前記平常時接点の辺りから前記奥行き方向の片側にだけ延びていることが好ましい。
【0007】
前記機器側レール又は設置面側レールにガイド溝を設け、この溝の底面を前記カムのカム面としていてもよい。
前記ガイド溝に粘性材を充填することにしてもよい。これによって、地震時には粘性抵抗によって減衰力が働くようにすることができる。
【0008】
前記カムのカム面が、一定の傾斜角度で延びる直線状の斜面部を含むことが好ましい。
これによって、カムの製造を容易化することができる。
前記カム面が、前記平常時接点では水平になっており、この水平部に前記直線状斜面部が連なっているのが好ましい。前記水平部と前記直線状斜面部とは、円弧面等を介して滑らかに連なるようにするのが好ましい。
前記カムのカム面が、前記平常時接点から遠ざかるにしたがって傾斜が急になる凹面部を含んでいてもよい。前記凹面部は、真円又は楕円の円弧状でもよく、曲率半径の異なる複数の円弧を連ねたものであってもよく、転動体の回転中心の軌跡が下式(1)を満たす高次関数曲線となるような曲面をなしていてもよく、これら種々の曲面を組み合わせたものであってもよい。
y=ax …(1)
ここで、xは、転動体の回転中心の水平方向(前記相対移動方向)の位置であり、yは、転動体の回転中心の垂直方向の位置であり、aは所定の係数であり、nは次数である。nは、n≧7が好ましく、7≦n≦13程度が好ましく、n=13程度がより好ましい。上記式(1)における原点(x=0、y=0になる点)は、前記転動体が前記平常時接点に位置するときの回転中心の位置であるのが好ましいが、上記式(1)の原点からずれた点で前記転動体が前記平常時接点に位置するようになっていてもよい。
【0009】
前記免震対象機器が平常位置にあるとき、前記衝撃吸収部材が前記固定物に当接又は近接されていることが好ましい。
前記衝撃吸収部材は、前記免震対象機器の重心付近の高さに配置されていることが好ましく、重心の少し上に配置されているのがより好ましい。
これによって、衝撃吸収効果を効率的に発揮することができる。
前記衝撃吸収部材は、前記免震対象機器の上側部分に配置されていてもよく、下側部分に配置されていてもよい。
【0010】
前記衝撃吸収部材は、衝突エネルギーを他のエネルギーに変換するエネルギー変換部材であることが望ましく、例えば、衝突エネルギーを熱エネルギーに変換する衝撃−熱エネルギー変換部材であることが望ましい。これによって、固定物が免震対象機器の側に振れて免震対象機器と衝突した場合、エネルギー変換部材によって衝突の力学的エネルギーを熱エネルギーに変換して確実に吸収でき、免震対象機器が跳ね飛ばされるのを確実に防止できる。かかるエネルギー変換部材としては、例えばシーシーアイ株式会社製の「DIPOLGY(登録商標)」を用いることができる。変換によって得た熱を種々の用途に利用してもよい。
【0011】
前記衝撃吸収部材が、衝突エネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギー変換部材であってもよい。かかるエネルギー変換部材としては、例えば圧電素子を用いることができる。変換によって得た電気を種々の用途に利用してもよい。
前記衝撃吸収部材として、弾性クッションを用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、免震対象機器と固定物との間に免震ストロークのためのスペースを確保する必要がなく、壁ぎわに配置するのが一般的な機器等にも免震システムを容易に適用できる等、免震システムの汎用性を高めることができる。平常位置を基準に少なくとも片側に免震できればよいので、カムは転動体の平常時接点の辺りから片側部分だけあればよく、免震装置の小型化・簡素化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
・第1実施形態
図1は、免震対象機器Cとしてキャビネットを示したものである。このキャビネットCは、背が高く幅(左右方向の寸法)が広いが、奥行き(前後方向の寸法)が小さい。したがって、キャビネットCは前後方向に不安定であり、左右方向には安定である。キャビネットCは、背面が建物の壁W(固定物)に添うように配置されている。したがって、地震の際、キャビネットCの転倒する可能性のある方向は、主に前方であり、後方向へは転倒の余地がなく、左右方向へは転倒する可能性が小さい。
【0014】
キャビネットCには免震システム1が設けられている。免震システム1は、免震装置10を備えている。免震装置10は、キャビネットCの底部と床等の設置面Fとの間に介在されている。免震装置10は、上下一対のフレーム11U,11Lと、ローラ15(転動体)を有している。
上段のフレーム11Uは、キャビネットCの底面に固定されている。図2及び図3に示すように、上段フレーム11Uの左右両端の縁部には、それぞれ前後に延びる機器側レール12Uが設けられている。
【0015】
各機器側レール12Uには、前後2つのカム14が設けられている。各カム14は、前後に延びるガイド溝13Uにて構成されている。2つのカム14及びガイド溝13Uは、前後に直列に並べられている。
奥側(壁Wの側)のガイド溝13Uと手前(壁Wとは反対側)のガイド溝13Uとの間には、段差12gが形成されている。
【0016】
図2に示すように、各ガイド溝13Uの上底面は、奥方向(壁Wの側)へ向かうにしたがって下に傾斜する直線状の斜面になっている。この斜面が、カム面14aを構成している。
【0017】
下段のフレーム11Lは、上段フレーム11Uと対向するようにして床F上に設置されている。下段フレーム11Lの左右両端の縁部には、それぞれ前後に延びる設置面側レール12Lが設けられている。各設置面側レール12Lにはガイド溝13Lが形成されている。ガイド溝13Lは、設置面側レール12Lの全長にわたって前後に延びている。ガイド溝13Lの底面は、全長にわたって平坦になっている。
左側のレール12U,12Lどうしが上下に対向し、右側のレール12U,12Lどうしが上下に対向している。
【0018】
上下のフレーム11U,11Lの互いに対向するレール12U,12L間に転動体を構成するローラ15が挟まれている。ローラ15は、機器側レール12Uの前後2つのガイド溝13Uにそれぞれ対応して前後に2つ設けられている。前後のローラ15,15は、連結棒16にて連結されている。
ローラ15は、中心軸を左右方向に向けた円筒形状をなしている。ローラ15の上側部は、機器側レール12Uのガイド溝13Uに前後方向に転動ないしスライド可能に収容されている。ローラ15の下側部は、設置面側レール12Lのガイド溝13Lに前後方向に転動ないしスライド可能に収容されている。
【0019】
地震がなく免震装置1が安定的に静止している時、各ローラ15の上端部がカム面14aの所定の平常時接点14pに接触している。この平常時接点14pは、カム面14aの手前側の端部付近に位置している。この時、奥側(図2において左)のローラ15が段差12gに当たり、手前方向(図2において右)への移動を禁じられている。手前側のローラ15は、連結棒16を介して手前方向への移動を禁じられている。段差12gは、ローラ15を平常時接点14pで止める位置決め手段として機能している。
なお、段差12gを平常時に奥側のローラ15より手前側に離れるように構成し、位置決め手段を段差12gとは別途に設け、この位置決め手段によって奥側のローラ15と手前側のローラ15の少なくとも一方の平常時の位置を位置決めすることにしてもよい。
このときの建物(壁W及び床F)に対するキャビネットC及び免震装置1の位置を「平常位置」と言う。免震装置1は、キャビネットCが壁Wに対し平常位置から前方へ上記カム面14aの水平長さより少し短いストロークだけ変位するのを許容している。平常位置におけるキャビネットCと壁Wとの間の間隔は、上記の変位許容ストロークより十分に小さい。
【0020】
図1及び図4(a)に示すように、免震システム1は、免震装置10に加えて、衝撃吸収部材を更に備えている。衝撃吸収部材は、衝撃−熱エネルギー変換部材20にて構成されている。衝撃−熱エネルギー変換部材20は、例えば高分子材料からなる母材に双極子成分を含ませたものであり、衝撃等の力学的エネルギーを熱エネルギーに変換する作用を有し、厚さ数mmのシート状をなしている。衝撃−熱エネルギー変換部材20の衝撃エネルギー吸収効率は極めて高く、例えば97%程度(反発弾性率は3%程度)である。衝撃−熱エネルギー変換部材20として例えばシーシーアイ株式会社製の「DIPOLGY(登録商標)」を用いるとよい。
【0021】
衝撃−熱エネルギー変換部材20は、キャビネットCの背面の重心付近に配置されている。好ましくは重心の少し上に配置されている。
この実施形態では、衝撃−熱エネルギー変換部材20は、左右(幅方向)に2つに分かれて配置されているが、3つ以上に分かれて配置されていてもよく、左右中央部に1つだけ配置されていてもよく、キャビネットCの左右幅方向のほぼ全体にわたるようにひと連なりになっていてもよい。
衝撃−熱エネルギー変換部材20は、壁Wに当接されている。キャビネットCと壁Wの間には衝撃−熱エネルギー変換部材20の厚さ分の隙間が形成されている。
【0022】
作用を説明する。
今、地震の横揺れが発生し、図4(b)及び図5の矢印に示すように、壁W及び床Fが奥側(両図において左側)へずれたものとする。免震装置10の下段フレーム11Lは、床Fと一緒に奥側へずれる。この時、キャビネットC等の免震対象機器は、平常位置から壁Wに対し相対的に遠ざかる方向すなわち前方へ変位するのが許容され、免震される。免震対象機器Cは、前方への相対変位と同時に、ローラ15とカム面14aのカム作用によってリフトアップされる。これによって、免震対象機器Cに平常位置への復原力が働き、前方への転倒抑止作用を発現させることができる。
【0023】
図4(c)の一点鎖線及びニ点鎖線に示すように、その後、壁W及び床Fが手前側へ戻り、相対的に免震対象機器Cが壁Wに近づき、平常時の位置に復帰してくる。同図の二点鎖線に示すように、やがて壁Wが免震対象機器Cの背面の衝撃−熱エネルギー変換部材20に衝突する。この衝撃力は、衝撃−熱エネルギー変換部材20によって熱エネルギーに変換することができる。このため、ほぼ完全な非弾性衝突を起こさせることができ、免震対象機器Cには殆ど衝撃が伝わらないようにすることができる。これにより、免震対象機器Cが衝突で前方へ突き飛ばされるのを防止することができる。そして、図4(c)の実線に示すように、免震対象機器Cは、壁W及び床Fと一体なって前方へ変位する。壁Wが支えとなり、免震対象機器Cが後方へ転倒することはない。その後、再び平常時の位置へ戻って来る。以上の動作が反復される。
【0024】
このように、免震システム1によれば、壁Wが奥側へ振れているときは、免震装置10によって免震対象機器Cを免震し、壁Wが手前側へ振れているときは、衝撃−熱エネルギー変換部材20によって壁Wと免震対象機器Cを完全非弾性衝突させて両者を一体に変位させ、免震対象機器Cの前後方向への転倒を防止することができる。免震対象機器Cは、幅広・狭奥行きであるので、左右方向へは強軸であり、転倒しにくい。したがって、地震の揺れが前後左右何れの方向に起きても、免震対象機器Cの転倒を防止することができる。
【0025】
免震装置10は壁Wが奥側へ振れている時にだけ免震作用が働くようになっていればよい。したがって、カム面14aは平常時接点14pの辺りから片側にだけあればよく、免震装置10の奥行き方向のサイズを通常の半分程度にまで小さくすることができる。これによって、免震装置10の小型化を図ることができ、材料コストを低減することができる。
また、カム面14aの全体が直線状の斜面になっているので、製造が極めて容易であり、製造コストを低廉化することができる。
しかも、免震装置10のレール構造は、前後方向を向く1段のみで済むので、2段構造の免震装置に比べ高さを小さくできる。さらには、部品点数を削減でき、一層のコスト低減を図ることができる。
【0026】
免震対象機器Cの免震ストロークは前方にだけ確保しておけばよく、奥側へは確保する必要がない。したがって、免震対象機器Cと壁Wとの間には衝撃−熱エネルギー変換部材20の厚さ分の隙間がありさえすればよく、免震対象機器Cを壁ぎわに配置することができ、室内スペースを確保することができる。
免震システム1は、壁ぎわに配置するのが一般的な免震対象機器に容易に適用でき、免震システムの汎用性を高めることができる。
【0027】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において上記第1実施形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を適宜省略する。
・第2実施形態
図6及び図7に示すように、免震装置10Xは、一軸方向の揺れだけでなく、互いに直交する二軸方向への揺れに対して免震可能になっていてもよい。この二軸免震装置10Xは、直交する2つの壁W1,W2で作る隅角部にキャビネット等の免震対象機器Cを配置する場合等に有効である。特に、免震対象機器Cが前後にも左右にも転倒する可能性がある場合に有効である。
図6に示すように、この免震装置10Xのフレームは、3段構造になっている。上段のフレーム11Uの下面の前後の縁部には、左右に延びるカム14が直列に2つ並んで形成されている。各カム14には、右側へ向かうにしたがって下に傾斜する直線状斜面部からなるカム面14aが形成されている。この上段フレーム11Uのカム14と中段のフレーム11Mのガイド溝(図示せず)との間にローラ15が左右に転動可能に設けられている。中段のフレーム11Mの下面の左右の縁部には、前後に延びるカム14が直列に2つ並んで形成されている。各カム14には、奥側へ向かうにしたがって下に傾斜する直線状斜面部からなるカム面14aが形成されている。この中段フレーム11Mのカム14と下段のフレーム11Lのガイド溝(図示せず)の間にローラ15が前後方向に転動可能に設けられている。
【0028】
免震対象機器Cの背面の重心の少し上側には、衝撃−熱エネルギー変換部材20が設けられている。背面の衝撃−熱エネルギー変換部材20は、後壁W1に宛がわれている。
また、免震対象機器Cの右側面の上側部分にも、衝撃−熱エネルギー変換部材20が設けられている。この右側面の衝撃−熱エネルギー変換部材20は、右壁W2に宛がわれている。
【0029】
第2実施形態によれば、床Fが奥側に振れるとき、二軸免震装置10Xの中段と下段のフレーム11M,11Lどうしがずれ、免震対象機器Cが後壁W1に対し前方に遠ざかるようにして免震される。床Fが前方に振れるとき、後壁W1が免震対象機器Cの背面の衝撃−熱エネルギー変換部材20に完全非弾性衝突をして免震対象機器Cと壁W1とが一体になって移動する。また、床Fが右方向に振れるとき、二軸免震装置10Xの上段と中段のフレーム11U,11Mどうしがずれ、免震対象機器Cが右壁W2に対し左方に遠ざかるようにして免震される。床Fが左方向に振れるとき、右壁W2が免震対象機器Cの右側面の衝撃−熱エネルギー変換部材20に完全非弾性衝突をして免震対象機器Cと壁W2とが一体になって移動する。
第2実施形態によれば、前後方向だけでなく左右方向にも不安定な免震対象機器に対し前後左右の何れの方向へも転倒を確実に防止することができる。
【0030】
免震装置10,10Xのカム14は、以下のように種々の変形態様を採用できる。
・変形態様(1)
図8に示すように、カム14が設置面側レール12Lに設けられていてもよい。この場合のカム面14aは、手前側に向かうにしたがって上に傾く斜面になっている。
【0031】
・変形態様(2)
図9に示すように、カム14のカム面が、第1、第2実施形態と同様の直線状斜面部14aに加えて、水平面からなる水平部14bを含んでいてもよい。水平部14bは、直線状斜面部14aの上端部に連なっている。水平部14bにおける直線状斜面部14a側の端部が、平常時接点14pとなり、そこに平常時のローラ15が安定的に接している。このとき、奥側(壁W側)のカム14のローラ15は、手前側のカム14との段差12gから少し離れている。したがって、段差12gは、ローラ15を平常時接点14pに止める位置決め手段として機能していない。なお、この態様においてもローラ15の平常時の位置を決めるストッパ等の位置決め手段を別途、設けるのが好ましい。
直線状斜面部14aと水平部14bとは、円弧状の凹曲面を介して滑らかに連なっているのが好ましい。
【0032】
・変形態様(3)
図10に示すように、カム14のカム面が、凹面部14cを含んでいてもよい。この凹面部14cは、円弧状をなし、直線状斜面部14aの奥側端部(平常時接点14pから遠い側の端部)に滑らかに連なっている。円弧状をなす凹面部14cの曲率半径は、ローラ15の半径より大きい。
【0033】
凹面部14cは、直線状斜面部14aから遠ざかるにしたがって傾斜が急になっている。したがって、凹面部14c上では、ローラ15の変位が大きくなればなるほど平常時接点14pへの復元力が増大するようになっている。
【0034】
・変形態様(4)
図11に示すように、カム14のカム面は、曲率半径の異なる複数(ここでは2つ)の円弧状の凹面部14d,14eを連ねたものであってもよい。曲率半径が大きい方の円弧状凹面部14dは手前側(平常時接点14pに近い側)に配置され、曲率半径が小さい方の円弧状凹面部14eは奥側(平常時接点14pから遠い側)に配置されている。
【0035】
曲率半径の大きい円弧状凹面部14dは、接線がちょうど水平になる上端部より手前側に少し延び出ている。この円弧状凹面部14dの水平な上端部が、平常時接点14pとなり、そこに平常時のローラ15が安定的に接している。上記変形態様(2)と同様に、段差12gは、ローラ15を平常時接点14pに止める位置決め手段として機能していないが、別途、位置決め手段を設けるのが好ましい。
【0036】
・変形態様(5)
図12に示すように、カム14のカム面は、ローラ15の回転中心の軌跡L15が下記の高次関数式(1)を満たすような高次関数曲面からなる凹面部14fで構成されていてもよい。
y=ax …(1)
ここで、xは、ローラ15の回転中心の水平方向の位置であり、yは、ローラ15の回転中心の垂直方向の位置であり、aは所定の係数であり、nは次数である。nは、n≧7が好ましく、7≦n≦13程度が好ましく、n=13程度がより好ましい。この高次関数凹面部14fの勾配は、平常時接点14pから奥端の手前あたりまでは比較的なだらかであり、奥端付近で傾斜が急になっている。これによって、カム14の長さを大きくすることなく、固有振動数を十分に小さくすることができる。
【0037】
高次関数凹面部14fは、式(1)のx=0に対応する頂点(接線がちょうど水平になる上端部)より手前側(壁Wとは反対側)に少し延び出ている。この頂点が平常時接点14pを構成し、そこに平常時のローラ15が安定的に接している。式(1)の原点O(x=0,y=0)は、平常時のローラ15の回転中心の位置となっている。段差12gは、ローラ15を平常時接点14pに止める位置決め手段として機能していないが、別途、位置決め手段を設けるのが好ましい。
【0038】
・変形態様(6)
図13に示すように、高次関数凹面部14fの手前側(壁Wとは反対側)の端部が、式(1)の原点Oに対応する位置よりも奥側(壁W側)すなわちx>0の側にずれて配置されていてもよい。奥側のカム14の高次関数凹面部14fの手前側端部と同じx方向位置に段差12gが配置されている。この段差12gが位置決め手段とし機能し、平常時には、奥側のカム14のローラ15が段差12gに突き当たっている。この時、高次関数凹面部14fの手前側端部付近のやや傾斜した点にローラ15が当たり、そこが平常時接点14pを構成している。ローラ15の回転中心軌跡L15は、式(1)の原点Oよりx>0の側にずれた位置を始端Lsとし、そこから奥側に描かれることになる。
【0039】
・変形態様(7)
図14に示すように、変形態様(5)又は(6)において、式(1)のx,y座標を、x軸が奥側(壁W側)に向かうにしたがって下がるように少し傾けて設定してもよい。高次関数凹面部14fは、式(1)のちょうど原点Oに対応する位置から奥側(壁W側)にだけ設けられている。段差12gは、ちょうどy軸(x=0)に沿って配置されているが、x>0又はx<0の側にずらして配置してもよい。平常時には、この段差12gに奥側のカム14のローラ15が突き当たっている。これにより段差12gが、ローラ15を平常時接点14pに止める位置決め手段として機能している。
【0040】
・変形態様(8)
カム14は、平常時接点14pの辺りから片側方向にだけ形成されているのに限られず、図15に示すように、平常時接点14pを中心にして両方向に対称的に形成されていてもよい。カム面が高次関数凹面部14fにて構成されている場合、接線がちょうど水平になる頂点に平常時にローラ15が安定的に接し、この頂点が平常時接点14pとなる。
【0041】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をなすことができる。
例えば、図8〜図15の変形態様は、第1実施形態の1軸免震装置10だけではなく、第2実施形態の2軸免震装置10Xにも適用可能である。
図9〜図15の変形態様は、カム14を設置側レール12Lに設けた場合(図8参照)にも適用可能である。
2軸免震装置のフレームとして、レールに代えて、中立点を中心にして周囲全周に向かって湾曲するカム面を有する椀形状(皿形状)のカムガイドを用いてもよい。
転動体として、ローラに代えてボールを用いてもよい。
【0042】
免震対象機器Cが平常位置のとき、衝撃−熱エネルギー変換部材20が壁Wから離れるように、免震対象機器Cを配置してもよい。
免震対象機器Cが衝撃−熱エネルギー変換部材20を介して当たることになる固定物は、建物の壁Wに限定されず、柱や梁などでもよく、建物の躯体に限らず、躯体に固定された枠や建具等の付加物であってもよい。
レール12U,12L,12Mの溝状ガイド(ガイド溝)に粘性材を充填しておき、地震時には粘性抵抗によって減衰力が働くようにしてもよい。
【0043】
免震対象は、キャビネットに限られず、家具や展示物など、種々の機器に適用でき、建物内の床上に設置されるものに限られず、建物の外部の地面に設置されるものであってもよい。
エネルギー変換部材(衝撃吸収部材)として、衝撃−熱エネルギー変換部材20に代えて、圧電素子のような衝撃を電気に変換する部材を用いてもよく、弾性クッションのような衝撃を歪みに変換する部材を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、免震システムを備えた免震対象キャビネットの斜視図である。
【図2】前記免震システムの免震装置の側面断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う免震装置の正面断面図である。
【図4】前記免震システムを備えた免震対象キャビネットの側面図であり、(a)は、免震対象キャビネットが平常位置にあるとき状態を示し、(b)は、背部の壁が奥側へ振れたときの状態を示し、(c)の一点鎖線は(b)と同じ状態を示し、同(c)の二点鎖線は平常一まで戻った状態を示し、同(c)の実線は壁が手前側へ振れたときの状態を示す。
【図5】背部の壁が奥側へ振れたときの免震装置の側面断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示し、2軸免震方式の免震システムを備えた免震対象キャビネットの斜視図である。
【図7】上記第2実施形態の免震システムを備えた免震対象キャビネットの平面図である。
【図8】本発明の変形例を示し、下段フレームの設置面側レールにカムが設けられた免震装置の断面図である。
【図9】本発明の変形態様を示し、直線状斜面部と水平部を含むカムを有する免震装置の断面図である。
【図10】本発明の変形態様を示し、直線状斜面部と円弧状凹面部を含むカムを有する免震装置の断面図である。
【図11】本発明の変形態様を示し、曲率半径の異なる複数の円弧状凹面部を含むカムを有する免震装置の断面図である。
【図12】本発明の変形態様を示し、高次関数曲面状の凹面部を含むカムを有する免震装置の断面図である。
【図13】高次関数曲面状の凹面部を含むカムの変形態様を示す免震装置の断面図である。
【図14】高次関数曲面状の凹面部を含むカムの変形態様を示す免震装置の断面図である。
【図15】本発明の変形態様を示し、平常位置を挟んで前後両方向に免震可能な免震装置の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
C キャビネット(免震対象機器)
F 床
1 免震システム
W 壁
10,10x 免震装置
11U,11L,11M フレーム
12U 機器側(上段)レール
12L 設置面側(下段)レール
12M 中段レール
12g 段差(位置決め手段)
13U,13L ガイド溝
14 カム
14a 直線状斜面部
14b 水平部
14c 凹面部
14d,14e 円弧状凹面部
14f 高次関数曲面状の凹面部
14p 平常時接点
15 ローラ(転動体)
16 連結棒
20 衝撃−熱エネルギー変換部材(衝撃吸収部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定物の近傍において前記固定物と一体の設置面上に配置されるべき免震対象機器のための免震システムであって、
前記免震対象機器の底部と前記設置面との間に設けられ、前記免震対象機器が前記固定物に対し平常位置から固定物側とは反対の側へ相対変位するのを許容するとともに前記免震対象機器に前記平常位置への復元力を作用させる免震装置と、
前記免震対象機器の前記固定物を向く面に設けられ、衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
を備えたことを特徴とする機器用免震システム。
【請求項2】
前記免震装置が、前記免震対象機器の底部又は前記設置面に配置されたカムと、このカムに沿って案内される転動体とを有し、
前記カムが、前記免震対象機器が前記平常位置のとき前記転動体を所定の平常時接点に位置させ、前記転動体が前記平常時接点から遠ざかるにしたがって前記転動体と協働して前記免震対象機器を上に変位させるように形成され、しかも、前記平常時接点の辺りから前記相対変位方向の片側にだけ延びていることを特徴とする請求項1に記載の機器用免震システム。
【請求項3】
前記免震対象機器は、幅が奥行きより大きく、背面が前記固定物を向く面となっており、
前記衝撃吸収部材が、前記免震対象機器の背面に設けられており、
前記免震装置が、
前記奥行き方向に延び、前記免震対象機器の底部に固定された機器側レールと、
この機器側レールと並行するように延び、前記設置面に設置された設置面側レールと、
これらレール間に挟まれ、これらレールの延び方向に移動可能な転動体と、を有し、
何れか一方のレールに、前記免震対象機器が前記平常位置のとき前記転動体を所定の平常時接点に位置させ、前記転動体が前記平常時接点から遠ざかるにしたがって前記転動体と協働して前記免震対象機器を上に変位させるカムが形成され、しかも、このカムは、前記平常時接点の辺りから前記奥行き方向の片側にだけ延びていることを特徴とする請求項1に記載の機器用免震システム。
【請求項4】
前記カムのカム面が、一定の傾斜角度で延びる直線状の斜面部を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の機器用免震システム。
【請求項5】
前記カムのカム面が、前記平常時接点から遠ざかるにしたがって傾斜が急になる凹面部を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の機器用免震システム。
【請求項6】
前記免震対象機器が平常位置にあるとき、前記衝撃吸収部材が前記固定物に当接又は近接されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の機器用免震システム。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材が、前記免震対象機器の重心付近の高さに配置されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の機器用免震システム。
【請求項8】
前記衝撃吸収部材が、衝突エネルギーを熱エネルギーに変換する衝撃−熱エネルギー変換部材であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の機器用免震システム。
【請求項9】
前記衝撃吸収部材が、衝突エネルギーを電気エネルギーに変換する衝撃−電気エネルギー変換部材であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の機器用免震システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−285310(P2007−285310A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109601(P2006−109601)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】