説明

機能性材料の製造方法、機能性材料、シート状構造体、及び衛生製品

【課題】バインダを使用せずに保湿剤や殺菌剤等の機能成分を付与し、優れた体液応答性を有する機能性材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】塩化カルシウム又は乳酸カルシウムを塗布したシート状構造体に、機能成分を含有させたアルギン酸ナトリウム水溶液を接触させた後乾燥させるか、又は機能成分を含有させたアルギン酸ナトリウム水溶液を塗布した不織布に塩化カルシウム又は乳酸カルシウムを接触させて乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿成分、抗菌成分、吸湿成分、消臭成分、芳香成分、抗炎症成分などの機能成分を包含し、機能成分を放出する機能性材料、この機能性材料を用いたシート構造体及び機能性材料の製造方法に関する。また、このシート状構造体を用いた使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナー、尿取りパッドなどの吸収性製品、創傷保護シート、対人用ワイプスとして使用される衛生製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インテリジェント材料が注目されている。インテリジェント材料とは、温度、pH及び体液等の外部刺激に応答することで、機能を発現する材料である。代表的なインテリジェント材料として、ドラッグデリバリシステム、自己修復材料などが挙げられる。不織布などのシート状構造体のインテリジェント機能化を試みる場合、インテリジェント材料をシート状構造体へ塗工する方法等が用いられている。
【0003】
例えば、シート状構造体のインテリジェント機能化を行う方法としては、機能成分を内包した多孔質性マイクロカプセルの塗工や機能成分を包含したフィルムの貼り合わせが有効である。シート状構造体を外部刺激に応答するインテリジェント機能化することにより、必要なときに最大限の機能を発揮するとともに、機能成分をシート材料使用時まで保護することが可能な機能材料とすることができる。インテリジェント材料をはじめとする機能材料と不織布等シート状構造体との複合化は、現在のところ、バインダを用いて塗工する方法が一般的である。
【0004】
しかしながら、バインダを使用した塗工方法では、バインダがその機能材料、マイクロカプセル及びフィルムの表面を覆ってしまい、外部刺激に応答するというインテリジェント材料特有の機能が失われてしまう。したがって、バインダを使用した塗工方法は、機能成分を包含した機能性材料と不織布等のシート状構造体との複合化には適していない。
【0005】
【特許文献1】特許第2728298号公報
【特許文献2】特許第2728299号公報
【特許文献3】特許第2862275号公報
【特許文献4】特許第2940930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許第2728298号公報、特許第2728299号公報、特許第2862275号公報、及び特許第2940930号公報には、可溶性アルギン酸塩を水溶液中でカルシウムイオン等の2価金属塩と反応させることにより、容易にゲル化する性質を利用し、含水アルギン酸フィルムを製造する方法について記載されている。この含水アルギン酸フィルムは、医薬品、化粧品等の外用剤に応用でき、その用途に応じて保湿剤や殺菌剤等の機能成分を含有させることが可能である。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1−4に記載された製造方法により得られるフィルムは、含水フィルムであるため、常に肌に接触した状態で使用する衛材用品に用いた場合、汗などの体液に接触しなくても、外部圧力を加えただけで機能成分を放出することになり、機能成分の放出に体液応答性を付与することはできない。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、優れた体液応答性を有する機能性材料の製造方法、機能性材料、シート状構造体、及び衛生製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、多価金属塩水溶液を塗布した基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を接触させ、乾燥させることにより、体液応答性を著しく向上させることができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る機能性材料の製造方法は、基材に多価金属陽イオン水溶液を塗布する塗布工程と、上記多価金属陽イオン水溶液を塗布した基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を接触させ、当該多価金属陽イオンと当該ポリアニオンとを結合させることにより、上記機能成分を含有する不溶性化合物を生成する生成工程と、上記生成工程にて生成された不溶性化合物を含む基材を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る機能性材料の製造方法は、基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を塗布する塗布工程と、上記ポリアニオン水溶液を塗布した基材に多価金属陽イオン水溶液を接触させ、当該多価金属陽イオンと当該ポリアニオンとを結合させることにより、上記機能成分を含有する不溶性化合物を生成する生成工程と、上記生成工程にて生成された不溶性化合物を含む基材を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る機能性材料は、多価金属陽イオン水溶液を塗布した基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液が接触されて、当該多価金属陽イオンに当該ポリアニオンが結合されることにより生成された不溶性化合物を含む上記基材が、乾燥されてなることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る機能性材料は、機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を塗布した基材に多価金属陽イオン水溶液が接触されて、当該多価金属陽イオンに当該ポリアニオンが結合されることにより生成された不溶性化合物を含む上記基材が、乾燥されてなることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係るシート状構造体は、上述の機能性材料を用いることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る衛生製品は、上述の機能性材料を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多価金属塩水溶液を塗布した基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を接触させた後、乾燥させるか、又は機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を塗布した基材に多価金属塩水溶液を接触させた後、乾燥させることにより、多価金属陽イオンとポリアニオンとが結合して生成した機能成分を含有する不溶性化合物が乾燥するため、優れた体液応答性を有する機能性材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明する。本実施の形態では、多価金属塩水溶液を塗布したシート状構造体(以下、単に「シート」という。)に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を接触させた後、乾燥させるか、又は機能成分を塗布させたポリアニオン水溶液を塗布したシートに多価金属塩水溶液を接触させた後、乾燥させる。すなわち、ポリアニオンが多価金属イオン水溶液の陽イオンとイオン交換することによりゲルが形成するポリイオンコンプレックス法を利用し、さらに、形成したゲルを乾燥させることにより、本発明に係る機能性材料を製造する。
【0018】
すなわち、本実施の形態における機能性材料の製造方法では、まず、基材のシートに多価金属陽イオンを含む水溶液を塗布する。次に、このシートを機能成分を含有したポリアニオン水溶液に接触させた後、所定時間乾燥させる。この結果、シート表面上に所望の成分を含む不溶性化合物を形成及び定着させたシートを得る。ここで、多価金属陽イオンは、体液中の所定の陽イオンとイオン交換し、上記不溶性化合物を再溶解することが可能なものである。
【0019】
本実施の形態で用いるシートは、例えば、紙、フィルム、布、不織布等が挙げられる。その他、疎水性繊維、親水性繊維などで形成されたポイントボンド、エアスルー、スパンボンド、サーマルボンド、スパンレース不織布、伸縮不織布、水解性不織布、水解紙、水崩壊性フィルム等も使用でき、特に、強度が高く、加工性に優れたサーマルボンド不織布が好ましい。
【0020】
本実施の形態で用いる伸縮性不織布は、捲縮を有する繊維により構成されてその変形により伸縮性を有するもの、伸長性を有する不織ウェブ層、繊維ウェブ層又はフィルム層を積層したもの、ウェブ構成の全部もしくは一部をエラストマー材料により構成された繊維を積層したものの内、何れのものであってもよい。なお、伸長性を有する不織ウェブとは、例えばステープルをカード処理したウェブや延伸−配向されたスパンボンドウェブ層等をいう。また、繊維ウェブとは、ポリウレタン系、スチレンブロックコポリマー系、オレフィン系、ポリエステル系等のエラストマーにより構成されたものをいう。
【0021】
また、本実施の形態で用いる水解性不織布、水解紙、水崩壊性フィルムとは、水洗トイレット内や浄化槽内で多量の水が与えられた際に短時間でシートをばらばらに分散でき、浄化槽又は下水の終末処理場内に生息する微生物に対して有害物質を放出せず、繊維状物の場合は繊維長が20nm以下であり、水溶物質の場合は急激にBOD(Biochemical Oxygen Demand)を上昇させないものすべてをいう。
【0022】
なお、本実施の形態では、基材としてシートを用いるが、基材の形状は例えば球状等であってもよい。
【0023】
本実施の形態で用いる多価金属陽イオンを含む水溶液の溶質としては、例えば、カルシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、アルミニウムイオン、銀イオン等を含む物質が挙げられる。具体例として、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸銅、硫酸銅、硫酸鉄、塩化鉄、硝酸鉄、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硝酸銀等が挙げられる。
【0024】
本実施の形態において、多価金属陽イオンとゲル形成能を有するポリアニオン溶液としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、ジェランガム、カラギーナン、ヒアルロン酸等が挙げられる。これらの物質は、極めて高粘性のコロイド物質で親水性が強く、冷水、温水のいずれにも良く溶解する。
【0025】
ポリアニオン溶液濃度は、膜形成能、溶解性、粘度から考慮して、0.05重量%乃至0.2重量%の何れの濃度とするのが好ましい。0.2重量%を超えると、膜は形成するが、体液に応答しても膜が再溶解しないため不適当である。また、0.05重量%未満では、膜は形成しないため不適当である。
【0026】
このポリアニオン溶液濃度に見合う多価金属陽イオン濃度は、0.25重量%乃至0.5重量%の何れの濃度とするのが好ましい。0.5重量%を超えると、体液に応答して再溶解することが容易な機能性膜の調製が困難である。また、0.25重量%未満では、アルギン酸ゲル膜が形成しないため不適である。
【0027】
本実施の形態で用いる機能成分としては、保湿剤、抗菌剤、消臭剤、芳香剤、抗炎症剤等が挙げられる。
【0028】
ここで、保湿剤としては、例えば、エラグ酸、加水分解コラーゲン、ソルビトール、トレハロース、ヒアルロン酸ナトリウム、マルチトール、マンニトールシルクフィブロイン、シルクセリシン、海草エキス等が挙げられる。
【0029】
また、抗菌剤としては、無機系では、銀系、亜鉛系、銅系が挙げられ、有機系では、イソチオシアン酸アリル類、カテキン類等が挙げられる。これらの抗菌剤は、細菌、真菌に対して優れた抗菌効果を発揮し、特に銀系は、少量で高い抗菌効果を発揮する点で、より好ましい。
【0030】
また、消臭剤としては、例えば、緑茶、竹エキス、タンニン、アビエチン酸抽出物、シルクパウダー、柿抽出物、フラボノイド、カテキン等が挙げられる。
【0031】
また、芳香剤としては、各種の天然芳香成分又は合成芳香成分から選択される1種以上の芳香成分を含有するものであればよく、特に限定されない。具体的には、ヒノキ、ヒバ等の樹木系、レモン、ベルガモット等の柑橘系、ストロベリー、ラズベリー等の果実系、ジャスミン、ラベンダー、ローズ等の草花系、ペパーミント、スペアミント等のミント系、さらには、い草等の芳香を発散するものが挙げられる。このような芳香剤は、植物の根、茎、枝、表皮、花びら、種子、果実等から水蒸気蒸留や圧搾法、冷浸法、パーコレーション法、溶剤抽出法等により抽出された精油であってもよく、また、精油から単離された、又は合成されたモノテルペン炭化水素類、セスキテルペン炭化水素類、モノテルペンアルコール類、セスキテルペンアルコール類、フェノール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、ラクトン類、酸化物類、含窒素化合物類等の芳香成分を調合したものであってもよい。
【0032】
また、抗炎症剤としては、例えば、ボタン、オオゴン、オトギリソウ、カモミール、モモノハ、ビワノハ、ヨモギ、シソ等のエキスが挙げられる。
【0033】
上述した製造方法により製造された機能性材料は、多価金属陽イオンとポリアニオンとが結合した、機能成分を含有する不溶性化合物が定着している。これにより、優れた体液応答性を示す。例えば、体液中のナトリウムイオンに応答性を有する機能性材料では、多価金属陽イオンとしてカルシウムイオンと、ポリアニオンとしてアルギン酸のカルボキシル基が結合してアルギン酸カルシウムが定着している。ここで、体液とは、人、動物、貝類、植物等から得られる液体を指す。より具体的には、ナトリウムイオンとカルシウムイオンとがイオン交換してアルギン酸ナトリウムのカルボキシル基とカルシウムイオンとが静電相互作用で結合することにより、架橋構造を有する不溶性のアルギン酸カルシウムを形成し、シート表面上にゲル膜が形成される。この際、架橋構造内部には、機能成分が保持されている。上記静電相互作用により形成されたアルギン酸カルシウムの架橋反応を以下の化学式(1)に示す。
【0034】
【化1】

【0035】
図1(A)は、上記架橋反応により形成されるアルギン酸カルシウムゲル膜の断面の模式図である。アルギン酸カルシウムゲル膜は、アルギン酸アニオンからなるゲル膜が積層されることによって構成される。また、図1(B)は、図1(A)を部分的に拡大した断面の模式図であり、シート11に含浸されたカルシウムイオンとゲル膜12中のアルギン酸アニオンとが、静電相互作用により架橋される。このゲル膜12を乾燥させることにより、汗や尿等の体液に接触した際に、保持された機能成分が膜から放出するアルギン酸カルシウム膜が形成される。このような機能性材料に汗や尿等のナトリウムイオンを含む水溶液が接触すると、不溶性のアルギン酸カルシウムが、カルシウムイオンとナトリウムイオンとのイオン交換により水溶性のアルギン酸ナトリウムとなり再溶解する。この際、架橋構造が崩れることにより内部に保持されていた機能成分が放出される。
【0036】
このような機能性材料を適用した衛生製品としては、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナー、尿取りパッドなどの吸収性製品、創傷保護シート、対人用ワイプス等が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。なお本分野の研究常識に照らし、本発明が以下に示す実施例で用いる実験条件の末節に限定されないのは明らかである。
【0038】
〔実施例1〕
実施例1では、まず、ポリプロピレンを主体繊維とし、厚さ2.0mm、目付29g/m、素材幅350mmのエアスルー方式サーマルボンド不織布(ユニ・チャーム(株)製)を0.25重量%塩化カルシウム(和光純薬工業(株)製)水溶液に1秒間浸漬した。次に、この合繊不織布を0.5重量%エラグ酸(和光純薬工業(株)製)を含有した0.05重量%アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)水溶液に約5分間浸漬した。その後、乾燥機にて30分間105℃で乾燥させ、機能性フィルムを得た。
【0039】
〔実施例2〕
実施例2では、塩化カルシウム水溶液の濃度を0.5重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0040】
〔実施例3〕
実施例3では、0.5重量%エラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0041】
〔実施例4〕
実施例4では、塩化カルシウム水溶液の濃度を0.5重量%とし、0.5重量%のエラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0042】
〔比較例1〕
比較例1では、0.5重量%のエラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0043】
〔比較例2〕
比較例2では、0.5重量%のエラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5重量%とする以外は、実施例2と同様に行った。
【0044】
〔比較例3〕
比較例3では、塩化カルシウム水溶液を添加しない以外は、実施例3と同様に行った。
【0045】
〔比較例4〕
比較例4では、塩化カルシウム水溶液の濃度を1重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
〔比較例5〕
比較例5では、塩化カルシウム水溶液の濃度を1重量%とする以外は、実施例3と同様に行った。
【0047】
〔比較例6〕
比較例6では、0.5重量%エラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.2重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0048】
〔比較例7〕
比較例7では、塩化カルシウム水溶液の濃度を0.5重量%とし、0.5重量%のエラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.2重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0049】
〔比較例8〕
比較例8では、塩化カルシウム水溶液の濃度を1.0重量%とし、0.5重量%のエラグ酸を含有したアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.2重量%とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0050】
〔機能評価1〕
上述の実施例1〜4及び比較例1〜8によって作製された機能性シートの機能評価を以下のように行った。
【0051】
まず、調製されたシート(1cm×1cm)を0.65重量%塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)水溶液又は純水(全自動蒸留水製造装置 RFD250NA(アドバンテック東洋(株)製)にて調製)2mlに30分間浸漬し、エラグ酸の溶出試験を行った。次に、溶媒を完全に乾燥させ、残存したエラグ酸を0.01M 水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)水溶液3mlに溶解し、高速液体クロマトグラフ((株)島津製作所製)にて測定した。なお、エラグ酸の定着量は、シート(1cm×1cm)を0.01M NaOH 5mlに浸漬させた場合のエラグ酸の溶出量として評価した。
【0052】
ここで、溶出量は以下のように算出した。
溶出率(%)=(エラグ酸溶出量/エラグ酸定着量)×100
実施例1〜4及び比較例1〜8における結果を以下の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1では、シートへのエラグ酸定着量は、389.7μg/cmであり、シートに定着したエラグ酸溶出量は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は43.28μg/cmであり、純水に浸漬させた場合は2.543μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は11.1%であり、純水に浸漬させた場合は0.65%であった。
【0055】
実施例2では、シートへのエラグ酸定着量は、410.1μg/cmであり、シートに定着したエラグ酸溶出量は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は397.7μg/cm、純水に浸漬させた場合は5.320μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は97.0%、純水に浸漬させた場合は1.30%であった。
【0056】
実施例3では、シートへのエラグ酸定着量は、420.0μg/cmであり、シートに定着したエラグ酸溶出量は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は141.7μg/cm、純水に浸漬させた場合は6.049μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は33.75%、純水に浸漬させた場合は1.44%であった。
【0057】
実施例4では、シートへのエラグ酸定着量は、574.5μg/cmであり、シートに定着したエラグ酸溶出量は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は、483.5μg/cm、純水に浸漬させた場合は0.583μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は84.17%、純水に浸漬させた場合は0.10%であった。
【0058】
比較例1では、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が0.5重量%と高いため、エラグ酸の溶出率は、低かった。
【0059】
比較例2では、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が0.5重量%、塩化カルシウム水溶液の濃度が0.5重量%と共に高いため、エラグ酸溶出率は、低かった。
【0060】
比較例3では、塩化カルシウム水溶液を添加していないことにより、エラグ酸の定着量及びエラグ酸の溶出率は、共に低かった。
【0061】
比較例4では、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.05重量%であるが、塩化カルシウム水溶液の濃度が1重量%と高いため、エラグ酸の定着量は高いものの、エラグ酸の溶出率は、低かった。
【0062】
比較例5では、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.1重量%であるが、塩化カルシウム水溶液の濃度が1重量%と高いため、エラグ酸定着量は高いものの、エラグ酸の溶出率は低かった。
【0063】
比較例6では、塩化カルシウムの濃度は0.25重量%であるが、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が0.2重量%と高いため、エラグ酸定着量は高いものの、エラグ酸の溶出率は低かった。
【0064】
比較例7では、塩化カルシウムの濃度は0.5重量%であり、さらにアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が0.2重量%と高いため、エラグ酸定着量は高いものの、エラグ酸の溶出率は低かった。
【0065】
比較例8では、塩化カルシウムの濃度は1重量%であり、さらにアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が0.2重量%と高いため、エラグ酸定着量は高いものの、エラグ酸の溶出率は低かった。
【0066】
次に、本発明を適用した他の実施の形態について説明する。本実施の形態は、連続的、且つ、効率的な機能性シートの製造を目的として、マルチコーター((株)ヒラノテクシード製)を用いたプラントレベルでの実験を行うものである。なお、上述した実施の形態と同様の内容については、詳細な説明を省略する。
【0067】
図2―図4は、それぞれ本実施の形態で用いられるマルチコーター20、含浸コーター22、グラビアコーター23の装置図である。
【0068】
図2は、プラントレベルにおいてシートを製造するための装置であるマルチコーター20の装置図であり、シートを連続的に繰り出す第1巻出し装置21と、インフィード装置と、シートに塗工を施す含浸コーター22及びグラビアコーター23から成る塗工装置と、シートを乾燥させる乾燥装置24と、アウトフィード装置と、塗工が完了したシートを巻取る巻取り装置25とを有する。シートは、まず第1巻出し装置21からインフィード装置へ移動する。次に、塗工装置を経て乾燥装置24へと移動する。なお、塗工装置である含浸コーター22及びグラビアコーター23は、ロール等の部品を組み替えることで様々な塗工方式に対応させることが可能である。さらに、アウトフィード装置を経て、最終的に巻取り装置25へと移動する。乾燥装置24は、乾燥装置A、乾燥装置B、乾燥装置Cの3室から構成されており、各室1.5mの全長4.5mとなっている。なお、後述する実施例7、8及び比較例10、11では、塗工装置と乾燥装置24の間に、マルチコーター20とは別途スプレー噴霧装置が設置されている。
【0069】
図3は、多価金属塩水溶液を含浸方式にて塗工する際に用いる含浸コーター22の装置図であり、含浸槽31に多価金属塩水溶液を入れ、この含浸槽31にシートを含浸させることにより、シートに多価金属塩水溶液を付着させる。
【0070】
図4は、機能成分を含んだポリアニオン水溶液を塗工する場合に用いるグラビアコーター23の装置図であり、液槽43に機能成分を含んだポリアニオン水溶液を入れ、グラビアロール41にポリアニオン水溶液を塗布した後、グラビアロール41にシートを接触させることで、機能成分を含有したポリアニオン水溶液をシートに塗工する。
【0071】
本実施の形態では、含浸コーター22を用いて、含浸方式によりシートに多価金属塩水溶液を塗工し、再度グラビアコーター23を用いて、グラビアロール方式によりシートに保湿剤などの機能材料を含有したポリアニオン水溶液を塗工することで機能性シートを製造する。または、グラビアコーター23を用いて、グラビアロール方式によりシートに保湿剤などの機能材料を含有したポリアニオン水溶液を塗工した後、スプレー噴霧装置を用いて、シートに多価金属塩水溶液を噴霧することで機能性シートを製造する。
【0072】
保湿剤などの機能材料を含有したポリアニオン水溶液を支持体上に塗工する塗工方式としては、グラビアロール方式以外に、含浸方式、メイヤーバ方式、ロール方式、グラビアロール方式、リバースロール方式、ブレード方式、ナイフ方式、エアナイフ方式、押し出し方式、キャスト方式、ロータリースクリーン方式等の既知の方式から任意に選択することができる。
【0073】
本実施の形態においては、特に、ロータリースクリーン方式などの塗工方法により、点状にパターン塗工することで、機能成分を必要な箇所に必要な量で分布させることが可能となる。さらに、基材シート上にベタに全面塗工するよりもパターン塗工する方が、効率的でコストアップを抑え、塗工場所に応じて異種の機能成分配置が可能となるとともに、樹脂塗工からくる触感や肌触りの悪化を防止できる。また、使い捨ておむつなどの表面材として使用する場合においては、全面塗工する場合、アルギン酸樹脂が被膜化して吸湿性が悪くなるが、パターン化することにより吸収性の悪化を防止することができる。
【0074】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0075】
〔実施例5〕
実施例5では、まず、含浸コーター22にて、合繊不織布に0.5重量%乳酸カルシウム(関東化学(株)製)水溶液を0.72g/mとなるように含浸方式で塗工した。次に、この合繊不織布に0.5重量%エラグ酸を含有した0.1重量%アルギン酸ナトリウム水溶液をグラビアコーター23で塗工した。グラビアロールは、斜線型で線数50、深度200μmのものを使用した。その後、この合繊不織布を乾燥させた。ここで、塗工速度は2.0m/min、図2に示す乾燥装置24の乾燥温度は、乾燥室A及び乾燥室Bでは90℃、乾燥室Cでは100℃とした。また、グラビアロール41には、斜線型で線数50、深度200μmのものを使用した。
【0076】
なお、本実施例は、図5に示すように、エラグ酸溶出量が483.5μg/cmと最も多く、塩化ナトリウム水溶液に対する溶出率が高く、且つ、水に対する溶出率が最も低い結果を得た実施例4の条件を参照して行った。
【0077】
〔実施例6〕
実施例6では、乳酸カルシウム水溶液を0.35g/mになるよう塗工する以外は、実施例5と同様に行った。
【0078】
〔実施例7〕
実施例7では、グラビアコーター23にて、合繊不織布に0.5重量%エラグ酸を含有した0.1重量%アルギン酸ナトリウム水溶液をグラビア塗工(#50)した後、この合繊不織布に0.5重量%乳酸カルシウム水溶液を1.03g/mになるようスプレー噴霧装置によりスプレー噴霧し、その後、この合繊不織布を乾燥させた。なお、塗工速度は2.0m/min、乾燥装置24の温度は、乾燥室A及び乾燥室Bでは90℃、乾燥室Cでは100℃とした。
【0079】
〔実施例8〕
実施例8では、0.5重量%エラグ酸を含有した0.2重量%アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例7と同様に行った。
【0080】
〔比較例9〕
比較例9では、乳酸カルシウム水溶液に代えて塩化カルシウム水溶液を用いる以外は実施例6と同様に行った。
【0081】
〔比較例10〕
比較例10では、乳酸カルシウム水溶液に代えて塩化カルシウム水溶液を使用し、また、0.5重量%エラグ酸を含有した1重量%アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例7と同様に行った。
【0082】
〔比較例11〕
比較例11では、0.5重量%乳酸カルシウム水溶液に代えて1重量%塩化カルシウム水溶液を使用し、また、0.5重量%エラグ酸を含有した1重量%アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例7と同様に行った。
【0083】
〔機能評価2〕
上述の実施例5〜8及び比較例9〜11によって作製された機能性シートの機能評価を以下のように行った。
【0084】
まず、調製されたシート(3cm×3cm)を0.65重量%塩化ナトリウム水溶液又は、純水3mlに30分間浸漬し、エラグ酸の溶出試験を行った。次に、溶媒を完全に乾燥させ、残存したエラグ酸を0.01M 水酸化ナトリウム水溶液3mlに溶解し、高速液体クロマトグラフで測定した。なお、エラグ酸の定着量は、シートを0.01M 水酸化ナトリウム水溶液5mlに浸漬した場合のエラグ酸の溶出量として評価した。
【0085】
実施例5〜8及び比較例9〜11における結果を以下の表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例5では、シートへのエラグ酸定着量は、0.102μg/cm、シートに定着したエラグ酸溶出量は塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は0.033μg/cm、純水に浸漬させた場合は0.027μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は32.4%、純水に浸漬させた場合は26.4%であった。
【0088】
実施例6では、シートへのエラグ酸定着量は、0.136μg/cm、シートに定着したエラグ酸溶出量は塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は0.051μg/cm、純水に浸漬させた場合は0.042μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は37.5%、純水に浸漬させた場合は30.9%であった。
【0089】
実施例7では、シートへのエラグ酸定着量は、0.370μg/cm、シートに定着したエラグ酸溶出量は塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は0.091μg/cm、純水に浸漬させた場合は0.062μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は24.6%、純水に浸漬させた場合は16.8%であった。
【0090】
実施例8では、シートへのエラグ酸定着量が0.193μg/cm、シートに定着したエラグ酸溶出量は塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は0.059μg/cm、純水に浸漬させた場合は0.036μg/cmであった。また、シートに定着したエラグ酸の溶出率は、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させた場合は30.6%、純水に浸漬させた場合は18.7%であった。
【0091】
比較例9では、乳酸カルシウム水溶液に代えて塩化カルシウム水溶液を使用した結果、シートへのエラグ酸の定着が起こらなかった。これは、塩化カルシウムは、乳酸カルシウムと比較してアルギン酸ナトリウムのゲル化速度が速く、液槽中でゲル化したためである。すなわち、塩化カルシウムとアルギン酸ナトリウムが、グラビアコーター23の液槽中で反応したためである。
【0092】
比較例10では、乳化カルシウム水溶液に代えて塩化カルシウム水溶液を使用し、また、アルギン酸ナトリウムの濃度を1重量%とした結果、エラグ酸定着は僅かに確認できたが、塩化ナトリウム水溶液に対するエラグ酸溶出の選択性は低かった。
【0093】
比較例11では、塩化カルシウムの濃度を1重量%とした結果、塩化ナトリウム水溶液に対してエラグ酸が溶出しなかった。
【0094】
このように、本実施の形態におけるプラントレベルでの実施例では、塩化ナトリウム水溶液に浸漬した場合、純水に浸漬した場合と比較して、エラグ酸溶出率が高かった。つまり、シート表面上に形成したアルギン酸カルシウムは、ナトリウムイオンに対して選択性を有し、体液などに含まれるナトリウムイオンとイオン交換することにより溶解して、エラグ酸が溶出したといえる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】アルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンとの架橋反応により形成されるアルギン酸カルシウムゲル膜の断面の模式図である。
【図2】マルチコーターを示す図である。
【図3】マルチコーターにおける含浸コーターを拡大した図である。
【図4】マルチコーターにおけるグラビアコーターを拡大した図である。
【図5】機能評価1における機能性シートに関するエラグ酸溶出量の結果の図である。
【符号の説明】
【0096】
11 シート、12 ゲル膜、20 マルチコーター、21 巻出し装置、22 含浸コーター、23 グラビアコーター、24 乾燥装置、25 巻取り装置、31 含浸槽、41 グラビアロール、42 バックアップロール、43 液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に多価金属陽イオン水溶液を塗布する塗布工程と、
上記多価金属陽イオン水溶液を塗布した基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を接触させ、当該多価金属陽イオンと当該ポリアニオンとを結合させることにより、上記機能成分を含有する不溶性化合物を生成する生成工程と、
上記生成工程にて生成された不溶性化合物を含む基材を乾燥させる乾燥工程と
を有することを特徴とする機能性材料の製造方法。
【請求項2】
基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を塗布する塗布工程と、
上記ポリアニオン水溶液を塗布した基材に多価金属陽イオン水溶液を接触させ、当該多価金属陽イオンと当該ポリアニオンとを結合させることにより、上記機能成分を含有する不溶性化合物を生成する生成工程と、
上記生成工程にて生成された不溶性化合物を含む基材を乾燥させる乾燥工程と
を有することを特徴とする機能性材料の製造方法。
【請求項3】
上記多価金属陽イオン水溶液は、カルシウムイオンを含有し、上記ポリアニオン水溶液は、アルギン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1又は2記載の機能性材料の製造方法。
【請求項4】
上記ポリアニオン水溶液に含有されるナトリウムイオンと、上記多価金属陽イオン水溶液に含有されるカルシウムイオンとのモル比は、1:5乃至10であることを特徴とする請求項3記載の機能性材料の製造方法。
【請求項5】
多価金属陽イオン水溶液を塗布した基材に機能成分を含有させたポリアニオン水溶液が接触されて当該多価金属陽イオンに当該ポリアニオンが結合されることにより生成された不溶性化合物を含む上記基材が、乾燥されてなることを特徴とする機能性材料。
【請求項6】
機能成分を含有させたポリアニオン水溶液を塗布した基材に多価金属陽イオン水溶液が接触されて、当該多価金属陽イオンに当該ポリアニオンが結合されることにより生成された不溶性化合物を含む上記基材が、乾燥されてなることを特徴とする機能性材料。
【請求項7】
上記多価金属陽イオンと、所定の陽イオンとがイオン交換し、上記不溶性化合物が再溶解することにより、上記機能成分を放出することを特徴とする請求項5又は6記載の機能性材料。
【請求項8】
上記多価金属陽イオン水溶液は、カルシウムイオンを含有し、上記ポリアニオン水溶液は、アルギン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項5又は6記載の機能性材料。
【請求項9】
上記アルギン酸ナトリウム水溶液に含有されるナトリウムイオンと、上記多価金属陽イオン水溶液に含有されるカルシウムイオンとのモル比は、1:5乃至10であることを特徴とする請求項8記載の機能性材料。
【請求項10】
上記多価金属陽イオンは、体液中の所定の陽イオンと陽イオン交換反応することを特徴とする請求項7記載の機能性材料。
【請求項11】
請求項5又は6記載の機能性材料を含んだことを特徴とするシート状構造体。
【請求項12】
請求項5又は6記載の機能性材料を用いたことを特徴とする衛生製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−173615(P2008−173615A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11969(P2007−11969)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】