説明

機能性物質放出剤

【課題】 製剤の形態や用途に関係なく安定に配合でき、保存安定性が良好で、実使用系で長期に亘り一定した機能性物質を徐放できる機能性物質放出剤、及びその製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物の提供。
【解決手段】 下記式(1)で表されるケイ酸エステル化合物を含む機能性物質放出剤、及びこの機能性物質放出剤の製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物。
【化1】


(式中、Rは、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールから選ばれるアルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、複数個のRは同一でも異なっていても良いが、分子中に、logPが2.0以下の機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上、logPが2.1以上のアルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上有する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、各種製品への配合に有用な香料、抗菌剤、抗カビ剤等の機能性物質を放出するケイ酸エステル化合物を含む機能性物質放出剤、及びその製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
調合香料は、揮発性の異なる、いわゆるトップノート、ミドルノート及びベースノートと呼ばれる多数の香気成分を調合し、求められる芳香を創造している。この調合香料は、使用中に、より揮発しやすい成分から優先的に揮散し、その結果、調合香料の香気は時間とともに変化していき、芳香を一定して長時間持続させることはできないという欠点が存在する。このような問題を解決するため、香料をマイクロカプセルに内蔵してゲル状基材中に分散させてなるゲル状芳香剤組成物が知られている(特許文献1)。しかしこの方法は、ゲル状製剤では有効であるが、粘度の低い液状製剤では、マイクロカプセルの浮化や沈降が生じ、製品中に安定に配合することが困難である。
【0003】
アルコール系香料とメチルトリエトキシシラン等の有機ケイ素化合物とによるケイ酸エステルを用いた編織物処理用組成物や洗浄剤組成物、芳香剤も知られている(特許文献2、特許文献3、及び特許文献4)。しかしこれらの組成物では、疎水性が低いため、洗浄剤や芳香剤等の水系製品中でケイ酸エステルの分解が進行してしまい、効果が持続しない。
【0004】
一方、水を含む洗剤等の製品中に混和しうるような、加水分解耐性がより高いポリアルコキシシロキサンを含むケイ酸エステル混合物が知られている(特許文献5)。しかしながらこのケイ酸エステル混合物は、高分子量化合物を含むため、洗浄剤や芳香剤等様々な製品に配合する場合、溶解性等配合性に問題がある。
【0005】
上記のような製品中での分解は香料のみならず揮発性の抗菌、抗カビ剤においても同様の問題が存在し、その効果の持続と配合性とを両立させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−260567号公報
【特許文献2】特開昭54−59498号公報
【特許文献3】特開昭54−93006号公報
【特許文献4】特開昭58−22063号公報
【特許文献5】特表2003−526644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、製剤の形態や用途に関係なく安定に配合でき、保存安定性が良好で、実使用系で長期に亘り一定した機能性物質を徐放できる機能性物質放出剤、及びその製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記式(1)で表されるケイ酸エステル化合物(以下ケイ酸エステル化合物(1)という)を含む機能性物質放出剤、及びこの機能性物質放出剤の製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールから選ばれるアルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、複数個のRは同一でも異なっていても良いが、分子中に、logPが2.0以下の機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上、logPが2.1以上のアルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上有する。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性物質放出剤は、製剤の形態や用途に関係なく安定に配合でき、保存安定性が良好で、実使用系で長期に亘り機能性物質を徐放することができる。また本発明の機能性物質放出剤を含有する本発明の組成物は、保存安定性が良好で、香料アルコール、抗菌性アルコール等の機能性物質の放出を長期間持続させることができ、芳香や抗菌性を一定して長時間持続させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ケイ酸エステル化合物(1)において、Rは、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールから選ばれるアルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、複数個のRは同一でも異なっていても良いが、分子中に、logPが2.0以下の機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上、logPが2.1以上のアルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上有する。
【0013】
本発明において、logPとは化学物質の1−オクタノール/水分配係数で、f値法(疎水性フラグメント定数法)により計算で求められた値をいう。本発明では、CLOGP Reference Manual Daylight Software 4.34,Albert Leo,David Weininger,Version 1,March 1994logP値(以下logPという)、またはCambridgeSoft社のChem Draw Ultra ver.7.0.1によるlogP値(以下logPという)を用いた。
【0014】
1を形成する機能性アルコールとしては、調合香料成分である香料アルコール、防菌防黴性を有する抗菌性アルコール、保湿性を有する保湿性アルコール、生理活性を有する生理活性アルコール、着色性を有する着色性アルコール、一般的な表面活性を有する表面改質性アルコール等が挙げられ、香料アルコール、抗菌性アルコールが好ましく、香料アルコールがより好ましい。
【0015】
logPが2.0以下の機能性アルコールの具体例としては、n−ヘキサノール(logP1.9)、trans−2−ヘキセノール(logP1.4)、青葉アルコール(cis−3−ヘキセノール、logP1.4)、ヒドロキシシトロネロール(logP1.5)、3,7−ジメチル−7−メトキシオクタン−2−オール(logP2.0)、ベンジルアルコール(logP1.1)、2−フェニルエチルアルコール(logP1.2)、γ−フェニルプロピルアルコール(logP1.7)、シンナミックアルコール(logP1.4)、アニスアルコール(logP1.0)、メチルフェニルカルビノール(logP1.2)、ジメチルフェニルカルビノール(logP1.8)、ジメチルフェニルエチルカルビノール(logP2.0)、フェノキシエチルアルコール(logP1.2)、スチラリルアルコール(logP1.41)、バニリン(logP1.3)、エチルバニリン(logP1.8)、ヒノキチオール(logP1.9)、トリ(ヒドロキシメチル)ニトロメタン(logP−0.87)、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール(logP−0.53)、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−5,5’−ジメチルヒダントイン(logP−0.33)、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(ヒドロキシエチル)−S−トリアジン(logP−0.11)等が挙げられる。これらの中では、logPが1.0〜2.0の機能性アルコールが好ましい。
【0016】
logPが2.1以上のアルコールとしては、logPが2.1以上の機能性アルコールや炭素数7以上の脂肪族アルコールを挙げることができる。
【0017】
logPが2.1以上の機能性アルコールの具体例としては、3−オクタノール(logP2.7)、1−オクテン−3−オール(logP2.2)、2,6−ジメチル−2−ヘプタノール(logP3.0)、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−メタノール(logP2.4)、4−イソプロピルシクロヘキサノール(logP2.7)、4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール(logP3.3)、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール(logP3.6)、p−tert−ブチルシクロヘキサノール(logP3.1)、o−tert−ブチルシクロヘキサノール(logP3.1)、4−メチル−3−デセン−5−オール(logP3.7)、9−デセノール(logP3.5)、10−ウンデセノール(logP4.0)、リナロール(logP2.6)、ゲラニオール(logP2.8)、ネロール(logP2.8)、シトロネロール(logP3.3)、ロジノール(logP3.3)、ジメチルオクタノール(logP3.5)、テトラヒドロゲラニオール(logP3.7)、テトラヒドロリナロール(logP3.5)、ラバンジュロール(logP2.6)、ムゴール(logP3.0)、ミルセノール(logP3.0)、ターピネオール(logP2.6)、L−メントール(logP3.2)、ボルネオール(logP2.6)、イソプレゴール(logP2.8)、テトラヒドロムゴール(logP3.5)、ノポール(logP2.7)、ファルネソール(logP4.8)、ネロリドール(logP4.6)、アンブリノール(logP3.8)、1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール(logP4.0)、ペンタメチルシクロヘキシルプロパノール(logP5.2)、1−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−3−ヘキサノール(logP5.9)、サンタロール(logP3.9)、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノール(logP4.7)、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール(logP4.6)、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール(logP3.9)、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−1−ブタノール(logP4.4)、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール(logP4.2)、3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール(logP4.6)、セドロール(logP4.5)、ベチベロール(logP4.2)、パチュリアルコール(logP5.1)、ジメチルベンジルカルビノール(logP3.0)、チモール(logP3.4)、カルバクロール(logP3.4)、オイゲノール(logP2.4)、イソオイゲノール(logP2.6)、メタ−クロロキシレノール(logP3.1)、2,4−ジクロロフェノール(logP3.0)、2,4−ジクロロベンジルアルコール(logP2.5)、3−メチル−4−イソプロピルフェノール(logP3.4)、2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロパノール(logP3.0)、3−メチル−5−フェニルペンタノール(logP3.2)、フェニルエチルメチルエチルカルビノール(logP3.0)、トリクロサン(logP5.5)、カプサイシン(logP3.8)、トコフェロール(logP13.0)、グリセロールモノラウレート(logP4.0)等が挙げられる。これらの中では、logPが2.4〜5の機能性アルコールが好ましい。
【0018】
炭素数7以上の脂肪族アルコールとしては、匂い及び反応性の点から炭素数10〜22の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数12〜20の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数14〜18の脂肪族アルコールが更に好ましい。炭素数7以上の脂肪族アルコールの好ましい具体例としては、デカノール(logP4.0)、イソデカノール(logP3.9)、ウンデカノール(logP4.5)、ラウリルアルコール(logP5.1)、トリデカノール(logP5.6)、ミリスチルアルコール(logP6.1)、パルミチルアルコール(logP7.2)、ステアリルアルコール(logP8.2)、メチル分岐やゲルベタイプのイソステアリルアルコール(logP8.1)、オレイルアルコール(logP7.3)、エイコサノール(logP9.3)、2−オクチル−1−ドデカノール(logP9.2)、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセノール(logP8.5)、ドコサノール(logP10.3)等を例示することができる。
【0019】
本発明の機能性アルコールが分子内にアルデヒド基を有する場合、製造時、または機能性放出剤からの放出後に機能性アルコール分子間で反応が起こり、収率の低下、または機能性アルコール分子の効率的な機能発現が妨げられる可能性がある。よって本発明の機能性アルコールとしては、機能性アルコール分子間の反応を抑制する観点から、分子内にアルデヒド基を有さないものが好ましい。
【0020】
本発明の機能性物質放出剤中のケイ酸エステル化合物(1)の含有量は、長期に亘り一定した機能性物質を徐放させる観点から、3〜100質量%が好ましく、10〜95質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の機能性物質放出剤は、ケイ酸エステル化合物(1)以外に、ケイ酸エステル化合物(1)の製造の際に副生する副生物や製造原料を含んでいても良い。
【0022】
本発明の機能性物質放出剤は、下記方法1又は2により製造することができる。
【0023】
方法1:
下記式(2)で表されるアルコキシシラン(以下アルコキシシラン(2)という)と、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールの混合物とをエステル交換反応させる方法。
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、複数個のRは同一でも異なっていても良い。)
方法2:
下記式(3)で表されるハロゲン化シラン(以下ハロゲン化シラン(3)という)と、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールの混合物とをエステル化反応させる方法。
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
方法1及び2に用いられるlogPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールの混合物中の、logPが2.0以下の機能性アルコールとlogPが2.1以上のアルコールのモル比によりケイ酸エステル化合物(1)の分子内に導入されるアルコールの組成が異なり、logPが2.1以上のアルコールの割合が高いほど保存安定性が向上し、logPが2.0以下の機能性アルコールの割合が高いほど長期に亘り機能性物質を徐放できる。この観点から、logPが2.0以下の機能性アルコールとlogPが2.1以上のアルコールのモル比は、95:5〜5:95が好ましい。
【0028】
方法1で用いられるアルコキシシラン(2)において、Rは、入手性等の点からメチル基又はエチル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
方法1において、アルコキシシラン(2)に対するアルコール混合物のモル比は0.1〜10が好ましく、0.5〜7がより好ましく、1〜5が更に好ましい。
【0029】
方法1におけるエステル交換反応の反応温度は、アルコキシシラン(2)及びアルコール類の沸点以下が好ましく、室温(20℃)〜200℃がより好ましく、50〜170℃が更に好ましく、70〜150℃が更により好ましく、90〜130℃が特に好ましい。
方法1におけるエステル交換反応は、減圧下で行うことが、反応を速やかに進行させることができる等の点から好ましい。減圧度は反応温度にもよるが、アルコキシシラン(2)及びアルコール類の沸点以下で行えばよく、1.3Pa〜常圧(0.1MPa)が好ましく、130Pa〜40kPaがより好ましく、1.3kPa〜13kPaが更に好ましい。反応は反応初期から減圧下で行っても、途中から減圧下で行っても良い。
【0030】
方法1におけるエステル交換反応は、触媒を添加することが、反応を速やかに進行させることができる等の点から好ましい。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等のアルカリ触媒や、アルミニウムテトライソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド等のルイス酸触媒を用いることができる。
【0031】
方法2に用いられるハロゲン化シラン(3)において、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
方法2のハロゲン化シラン(3)とアルコール混合物とのエステル化反応において、ハロゲン化シラン(3)に対するアルコール混合物のモル比は0.1〜10が好ましく、0.5〜7がより好ましく、1〜5が更に好ましい。
【0032】
方法2においては反応の進行に伴い酸が副生するため塩基を加えて反応することが好ましい。用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン等の3級アミンやピリジン等が挙げられる。
方法2のエステル化反応では多量の塩副生等の点から、溶媒を用いても良く、反応温度は、基質や溶媒が凝固しない低温で行うこともできる。反応終了後、溶媒を除去する必要がある場合には、各種公知の装置・設備を用いることができ、また脱塩には濾過や抽出、電気透析等、公知の方法を用いることができる。
【0033】
方法1のエステル交換反応、方法2のエステル化反応により得られる本発明の機能性物質放出剤は、ケイ酸エステル化合物(1)以外に置換度の異なるケイ酸エステル化合物を含有していてもよく、さらにシロキサンが縮合した鎖状または環状の重・縮合物を含有していても良い。
【0034】
ケイ酸エステル化合物(1)を含む本発明の機能性物質放出剤は、長期に亘り機能性物質を徐放することができ、ケイ酸エステル化合物(1)中のR1で示される機能性アルコール残基が、香料アルコールや抗菌性アルコールから水酸基を1個除いた残基である場合、本発明の機能性物質放出剤は芳香や抗菌性を長時間持続させることができ、香料持続剤や抗菌性持続剤として有用である。
【0035】
本発明の機能性物質放出剤は、様々な製品に配合することができる。例えば、油系消臭芳香剤、粉末洗剤、固形石鹸、入浴剤、オムツ等の衛生品、エアゾール型等の消臭剤等非水溶液系製品の他、水溶液系での保存安定性に優れるため、香水、コロン、水系消臭芳香剤をはじめ、液体洗剤・柔軟剤等の衣類用製品、食器用洗剤、液体石鹸・化粧水等の各種化粧用品、シャンプー・リンス・コンディショナー・スタイリング剤等の頭髪用製品、液体入浴剤、等に使用することができ、機能性アルコールの放出を長期間持続させることができる。
【0036】
本発明の機能性物質放出剤を含有する本発明の組成物は、洗浄剤組成物、柔軟剤組成物、芳香剤組成物、消臭剤組成物等として用いることができる。
【0037】
本発明の組成物中の機能性物質放出剤の含有量は、特に限定されずその用途により種々変えることができる。本発明の組成物を洗浄剤組成物や柔軟剤組成物として用いる場合、組成物中の機能性物質放出剤の含有量は0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。本発明の組成物を芳香剤組成物として用いる場合、組成物中の機能性物質放出剤の含有量は0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。本発明の組成物を消臭剤組成物として用いる場合、組成物中の機能性物質放出剤の含有量は0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0038】
合成例1
2−フェニルエチルアルコール(logP1.2)とゲラニオール(logP2.8)(1:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン37.51g(0.18mol)、2−フェニルエチルアルコール39.61g(0.32mol)、ゲラニオール50.05g(0.32mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.671mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら109〜120℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら約120℃でさらに4時間攪拌した。4時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、2−フェニルエチルアルコールとゲラニオールのモル比1:1の混合ケイ酸エステルを含む96.55gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表1に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
*1:Etはエチル基、EtPhは2−フェニルエチルアルコールから水酸基を除いた残基、Gerはゲラニオールから水酸基を除いた残基を示す。以下同様。
【0041】
合成例2
2−フェニルエチルアルコールとサンダルマイソールコア(logP3.9)(1:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン18.78g(90mmol)、2−フェニルエチルアルコール19.81g(0.16mol)、サンダルマイソールコア[Sandalmysore core、花王(株)製、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール]31.52g(0.16mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.635mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら109〜110℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら約120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、2−フェニルエチルアルコールとサンダルマイソールコアのモル比1:1の混合ケイ酸エステルを含む54.04gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表2に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0042】
【表2】

【0043】
*1:SMCは2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オールから水酸基を除いた残基を示す。
【0044】
合成例3
2−フェニルエチルアルコールとミリスチルアルコール(logP6.1)(3:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン16.22g(78mmol)、2−フェニルエチルアルコール25.69g(0.21mol)、ミリスチルアルコール15.00g(70mmol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.486mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら107〜118℃で約3時間攪拌した。3時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら約120℃でさらに5時間攪拌した。5時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、2−フェニルエチルアルコールとミリスチルアルコールのモル比3:1の混合ケイ酸エステルを含む42.98gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表3に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0045】
【表3】

【0046】
合成例4
2−フェニルエチルアルコールとミリスチルアルコール(1:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン13.53g(65mmol)、2−フェニルエチルアルコール14.24g(0.12mol)、ミリスチルアルコール25.00g(0.12mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.342mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら約120℃で約2.5時間攪拌した。2.5時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら118℃でさらに6時間攪拌した。6時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、2−フェニルエチルアルコールとミリスチルアルコールのモル比1:1の混合ケイ酸エステルを含む41.30gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表4に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0047】
【表4】

【0048】
合成例5
2−フェニルエチルアルコールとステアリルアルコール(logP8.2)(3:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン14.54g(70mmol)、2−フェニルエチルアルコール23.04g(0.19mol)、ステアリルアルコール17.00g(63mmol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.460mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら約103℃で約4時間攪拌した。4時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながらさらに4時間攪拌した。4時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、2−フェニルエチルアルコールとステアリルアルコールのモル比3:1の混合ケイ酸エステルを含む42.02gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表5に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0049】
【表5】

【0050】
*1:Si(OEtPh)(OC18H37)、Si(OEtPh)(OC18H37)、Si(OEtPh)(OC18H37)を含む混合物
合成例6
2−フェニルエチルアルコールとステアリルアルコール(1:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン11.54g(55mmol)、2−フェニルエチルアルコール12.18g(0.10mol)、ステアリルアルコール27.00g(0.10mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.306mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら約101℃で約3時間攪拌した。3時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながらさらに4.5時間攪拌した。4.5時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、2−フェニルエチルアルコールとステアリルアルコールのモル比1:1の混合ケイ酸エステルを含む40.48gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表6に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0051】
【表6】

【0052】
*1:Si(OEtPh)(OC18H37)、Si(OEtPh)(OC18H37)、Si(OEtPh)(OC18H37)を含む混合物
合成例7
シス−3−ヘキセノール(logP1.4)とゲラニオール(logP2.8)(1:1)の混合ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン25.03g(0.12mol)、シス−3−ヘキセノール21.63g(0.22mol)、ゲラニオール33.36g(0.22mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.45mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら100〜120℃で約2.5時間攪拌した。2.5時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら114〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、シス−3−ヘキセノールとゲラニオールのモル比1:1の混合ケイ酸エステルを含む59.00gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表7に示す組成の機能性物質放出剤を得た。
【0053】
【表7】

【0054】
*1:Hexはcis−3−ヘキセノールから水酸基を除いた残基を示す。
【0055】
合成例8
ケイ酸テトラキス(2−フェニルエチル)エステル〔テトラキス(2−フェニルエチルオキシ)シラン〕を含む機能性物質放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン41.68g(0.20mol)、2−フェニルエチルアルコール87.98g(0.72mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.85mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら112℃〜118℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながらさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ケイ酸テトラキス(2−フェニルエチル)エステルを含む95.04gの黄色油状物を得た。
【0056】
実施例1〜6、比較例1
表8に示す未賦香液体柔軟剤Aを定法により調製した。合成例1〜6で得られた本発明の機能性物質放出剤、及び合成例8で得られた比較の機能性物質放出剤を未賦香液体柔軟剤Aに対し0.5質量%になるように、50mLのスクリュー管(マルエムNo.7)に未賦香液体柔軟剤Aと機能性物質放出剤とを加え、50℃に加熱後冷却を行い、柔軟剤組成物を調製した。この柔軟剤組成物を密栓し、40℃の恒温槽に保存した。3日後及び7日後の2−フェニルエチルアルコール量をHPLC(検出器UV)で測定し、ケイ酸エステル化合物の残存率を求めた。結果を表9に示す。
【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
表9から明らかなように、本発明の機能性物質放出剤を用いることにより、保存安定性の優れた組成物を得ることができた。
【0060】
実施例7〜9、比較例2
合成例1,2,5で得られた本発明の機能性物質放出剤、及び合成例8で得られた比較の機能性物質放出剤を、前記表8に示す未賦香液体柔軟剤Aに対し、表10に示す量加え、実施例1と同様に柔軟剤組成物を調製した。これらの柔軟剤組成物について、40℃、2週間保存前後の香りの持続性を下記方法で評価した。結果を表10に示す。
【0061】
<香りの持続性評価法>
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)アタック)を用いて、木綿タオル24枚を日立全自動洗濯機NW−6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって、過分の薬剤を除去した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L使用、水温20℃、洗浄10分、ため濯ぎ2回)。
【0062】
National電気バケツN−BK2−Aに、5Lの水道水を注水し、ここに柔軟剤組成物10g/衣料1.0kgとなるように40℃、2週間保存前後の各柔軟剤組成物を溶解(処理浴の調製)させ、1分後、上述の方法で前処理を行った2枚の木綿タオルを5分間浸漬処理し、浸漬処理後、2枚の木綿タオルをNational電気洗濯機NA−35に移し、3分間脱水処理を行った。脱水処理後、約20℃の室内に放置して1晩乾燥させ、乾燥後のタオルを8つ折りにし、約20℃の室内に1週間放置した。
【0063】
脱水処理後、1晩乾燥後、1週間放置後のタオルについて、フェニルエチルアルコールの香り強度専門パネラー10人により、以下の基準で官能評価を行い、平均値を求めた。平均値3を◎、平均値2.0以上3.0未満を○、平均値1.0以上2.0未満を△、平均値0以上1.0未満を×とした。
【0064】
評価基準
3 フェニルエチルアルコールの香りが強い
2 フェニルエチルアルコールの香りがわかる
1 フェニルエチルアルコールの香りとはわからないが、何か香りがある
0 フェニルエチルアルコールの香りがない
【0065】
【表10】

【0066】
表10から明らかなように、比較例2では保存での分解により、香りの持続性が低下しているが、本発明の機能性物質放出剤は保存安定性に優れるため、香りが長期間持続した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるケイ酸エステル化合物を含む機能性物質放出剤。
【化1】

(式中、Rは、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールから選ばれるアルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、複数個のRは同一でも異なっていても良いが、分子中に、logPが2.0以下の機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上、logPが2.1以上のアルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上有する。)
【請求項2】
機能性アルコールが香料アルコールである請求項1記載の機能性物質放出剤。
【請求項3】
機能性アルコールが、分子内にアルデヒド基を有さないアルコールである請求項1または2記載の機能性物質放出剤。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の機能性物質放出剤を含有する組成物。
【請求項5】
下記式(2)で表されるアルコキシシランと、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールの混合物とをエステル交換反応させる、請求項1〜3いずれかに記載の機能性物質放出剤の製造方法。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、複数個のRは同一でも異なっていても良い。)
【請求項6】
下記式(3)で表されるハロゲン化シランと、logPが2.0以下の機能性アルコール及びlogPが2.1以上のアルコールの混合物とをエステル化反応させる、請求項1〜3いずれかに記載の機能性物質放出剤の製造方法。
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)

【公開番号】特開2009−242798(P2009−242798A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62197(P2009−62197)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】