説明

機能性織編物および繊維製品

【課題】繊維表面に機能剤が付着した糸条を含む織編物であって、外観を損なうことなく機能性に優れた機能性織編物および繊維製品を提供する。
【解決手段】繊維表面に機能剤が付着した糸条Aと繊維表面に機能剤が付着していない他糸条とで構成される織編物であって、前記糸条Aが織編物の全重量に対し20〜80重量%含まれ、かつ織編物の表面および裏面において、下記式により求めた、織編物表面積に対する前記糸条Aの露出度が10%以下であることを特徴とする機能性織編物。
糸条Aの露出度=(SA/SF)×100
ただし、SAは表面または裏面に露出した糸条Aの総面積(mm)であり、SFは織編物表面積(mm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維表面に機能剤が付着した糸条を含む織編物であって、外観を損なうことなく機能性に優れた機能性織編物および繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃性などの機能性を有する織編物としては、難燃剤などの機能剤を後加工にて織編物に付与したもの(例えば特許文献1参照)、糸条に機能剤を先染め工程で付与した後に製編織したもの(例えば特許文献2参照)、繊維を形成するポリマー中に機能剤を練りこみ、織編物としたものなどが提案されている。
【0003】
しかしながら、機能剤を後加工にて織編物に付与したものや、糸条に機能剤を先染め工程で付与した後に製編織したものでは、難燃剤などの機能剤は通常着色しているため織編物の外観が損なわれるという問題があった。一方、繊維を形成するポリマー中に機能剤を練りこんだものでは、繊維の種類が限定される、ポリマーを溶融紡糸する際に目詰まりが発生する、製造コストが高くなるなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−293268号公報
【特許文献2】特開平10−273881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、繊維表面に機能剤が付着した糸条を含む織編物であって、外観を損なうことなく機能性に優れた機能性織編物および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、繊維表面に機能剤が付着した糸条Aと繊維表面に機能剤が付着していない他糸条とを用いて織編物を製編織する際、
糸条Aが織編物の表裏面に露出しないような織編組織を選定するか、糸条Aが芯部に位置し他糸条が鞘部に位置する芯鞘型構造糸として織編物を製編織することにより、所望のない機能性織編物および繊維製品が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0007】
かくして、本発明によれば「繊維表面に機能剤が付着した糸条Aと繊維表面に機能剤が付着していない他糸条とで構成される織編物であって、前記糸条Aが織編物の全重量に対し20〜80重量%含まれ、かつ織編物の表面および裏面において、下記式により求めた、織編物表面積に対する前記糸条Aの露出度が10%以下であることを特徴とする機能性織編物。」が提供される。
糸条Aの露出度=(SA/SF)×100
ただし、SAは表面または裏面に露出した糸条Aの総面積(mm)であり、SFは織編物表面積(mm)である。
【0008】
ここで、前記の機能剤としては、難燃剤、蓄熱保温剤、導電剤からなる群より選択されるいずれかを含むことが好ましい。また、前記糸条Aに付着した機能剤の重量が、糸条Aの重量に対し1〜40重量%であることが好ましい。
【0009】
本発明の機能性織編物において、織編物が、表層、裏層、および中間層の三層構造を有し、前記糸条Aが中間層にのみ配されていることが好ましい。また、前記糸条Aが芯部に位置し、前記他糸条が鞘部に位置する芯鞘型複合糸を含むことが好ましい。前記の糸条Aと他糸条が、ともにポリエステル系繊維からなることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の機能性織編物を用いてなる、カーテン、衣服、椅子被覆材、カーシートからなる群より選択される繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維表面に機能剤が付着した糸条を含む織編物であって、外観を損なうことなく機能性に優れた機能性織編物および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の織編物は、繊維表面に機能剤が付着した糸条A(以下、単に「糸条A」ということもある。)と繊維表面に機能剤が付着していない他糸条(以下、単に「他糸条」ということもある。)とで構成される。
【0013】
その際、織編物には前記糸条Aが織編物の全重量に対して20〜80重量%(より好ましくは30〜60重量%)含まれることが肝要である。糸条Aの含有量が20重量%未満では、十分な機能性が得られず好ましくない。
【0014】
前記糸条Aは、繊維表面に機能剤が付着した糸条である。機能剤としては特に限定されず、難燃剤、蓄熱保温剤、導電剤などとバインダー樹脂を混合したものが例示される。なかでも難燃剤が好ましく例示される。かかる難燃剤としては、特開2003−27368号公報に開示されたものが好適である。すなわち、ハロゲン系化合物、リン系化合物および無機系化合物などである。
【0015】
ハロゲン系化合物としては、例えば、1,2,3,4,5,6−ヘキサブロモシクロヘキサン、1,2,3,4−テトラブロモシクロオクタン、1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカン、1,2−ビス(3,4−ジブロモシクロヘキシル)、1,2−ジブロモエタン、または、これらの化合物の臭素が塩素で置換されたものなどが例示される。
【0016】
また、リン系化合物としては、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸あるいはそれらの環状無水物、エチレングリコール付加物などの誘導体等が例示される。
また、無機系化合物としては、ポリリン酸アンモニウム、ホスファゼン系化合物等が例示される。
【0017】
さらには、発泡系難燃剤(例えば、大和化学(株)製フランEG50(商品名)など)であってもよい。かかる発泡系難燃剤は、200℃以上の加熱により、5〜100倍に膨張し、空気を遮断することにより難燃性を発現させるものであり、布帛の溶融を防ぎ、燃え移りや火傷を防止することができ好ましく例示される。
【0018】
前記機能剤の糸条Aに対する付着量としては、糸条Aの重量に対して1〜40重量%の範囲であることが好ましい。1重量%よりも小さいと十分な機能が発現されないおそれがある。逆に、40重量%よりも大きいと、コストアップとなるおそれがある。
【0019】
糸条Aを構成する繊維としては特に限定されず、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、綿や麻などの天然繊維などいずれでもよい。なかでも、繊維強度や取扱いの容易さの点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステル系繊維が好ましく例示される。
かかる繊維の繊維形態も特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント糸条)でもよいし、短繊維でもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもよい。
【0020】
糸条Aの繊度は特に限定されないが、布帛強度や風合いの点や、総繊度で33〜500dtex、単糸繊度で0.3〜6dtex、フィラメント数で20〜200本の範囲が適当である。また、単糸の横断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平、三角、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0021】
なお、前記糸条Aの繊維中には、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、無機微粒子等が1種又は2種以上含まれていてもよい。例えば、糸条Aが黒原着糸であれば、本発明の機能性織編物に遮光性も付与され、遮光カーテンとすることも可能である。
【0022】
一方、他糸条としては通常の糸条でよく、繊維表面に機能剤が付着していないこと以外は、糸条Aと同様でよい。もちろん、繊維種類や繊度等を糸条Aと異ならせても何らさしつかえない。
【0023】
次に、本発明の織編物の表面および裏面において、下記式により求めた、織編物表面積に対する前記糸条Aの露出度が10%以下(好ましくは6%以下)であることが肝要である。表面および裏面のどちらか一面でも、糸条Aの露出度が10%より大であると、外観が損なわれ、好ましくない。
糸条Aの露出度(%)=(SA/SF)×100
ただし、SAは表面または裏面に露出した糸条Aの総面積(mm)であり、SFは織編物表面積(mm)である。
【0024】
本発明の機能性織編物において、実施態様1としては、表層、裏層、および中間層の三層構造を有する織編物であって、前記糸条Aが中間層に配され、他糸条が表層と裏層に配された織編物があげられる。例えば、図1に織組織図が示されたダブルサテン組織に従い製織したダブルサテン組織織物、完全三重組織織物、表裏面の結接糸条として糸条Aが配された三層構造編物などが例示される。
【0025】
また、実施態様2としては、糸条Aが芯部に位置し、一方他糸条が鞘部に位置する芯鞘型複合糸を用いて、通常の織編組織で製編織した織編物があげられる。
その際、芯鞘型複合糸としては、糸条Aが芯部に位置し、他糸条が鞘部に位置する、インターレース加工糸やタスラン加工糸などの空気加工糸、複合仮撚加工糸、カバリング加工糸、合撚糸、意匠撚糸などが例示される。
【0026】
次に、本発明の機能性織編物の製造方法を例示する。
まず、前記の機能剤と必要に応じてメラミン樹脂などのバインダーとを含む水溶液を準備し加工液とする。かかる加工液には、親水剤、撥水剤、増粘剤などが含まれていてもよい。機能剤も1種だけでなく、2種以上含まれていてもよい。
【0027】
次いで、該加工液を糸条に付与する。その際、付与方法は特に限定されず、例えば、1本糊付機等の糸加工機を用いて、加工液を受け皿状のトレイに入れ、その液中に糸条を通過させることにより加工液を付与することが好ましく例示される。糸条に加工液を付与した後、130〜180℃の温度で乾熱またはスチームで熱処理を施し糸条Aとする。熱処理の前に必要に応じて絞りや乾燥を行ってもよい。
【0028】
次いで、かかる糸条Aと機能剤が付着していない他糸条とを用いて、糸条Aが中間層に配され、表裏層に他糸条が配された三層構造織編物を製織編するか、糸条Aが芯部に位置し、他糸条が鞘部に位置する芯鞘型複合糸を得た後に通常の織編物を製織編した後、必要に応じて染色加工を施すことにより、本発明の機能性織編物が得られる。糸条Aが芯部に位置し、他糸条が鞘部に位置する芯鞘型複合糸を得る方法としては、両糸条を同時に糸加工する際、糸条Aよりも他糸条の糸条供給量を大きくするか、糸条Aよりも他糸条の沸水収縮率を小さくするとよい。
【0029】
かくして得られた織編物において、繊維表面に機能剤が付着した糸条Aが織編物の表裏面にあまり露出していないので、外観が損なわれることもない。同時に機能性も損なわれることがない。
【0030】
なお、本発明の機能性織編物には、常法のアルカリ減量加工が施されてもよい。さらには、常法の吸水加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0031】
次に、本発明の繊維製品は、前記の機能性織編物を用いて縫製された、カーテン、衣服、椅子被覆材、カーシートなどの繊維製品である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0033】
(1)糸条Aの露出度(%)
織編物から織編物と経緯が同じ方向に10cm×10cmの試料を切り取り、その表面および裏面を写真撮影し、下記式により糸条Aの露出度を算出した。なお、n数は5で平均値を算出した。
糸条Aの露出度(%)=(SA/SF)×100
ただし、SAは表面または裏面に露出した糸条Aの総面積(mm)であり、SFは織編物表面積(mm)である。
(2)難燃性
JIS L−1091D法(コイル法)で評価した。
【0034】
[実施例1]
水1Lに対し、発泡系難燃剤(大和化学(株)製フランEG50(商品名))20g/L、メラミン樹脂バインダー40g/L、乳化剤10mg/L、増粘剤20g/Lを混合することにより加工液を得た。
【0035】
次いで、一本糊付機((株)ヤマダ製)の糊剤用トレイに該加工液を入れ、この液中に黒原着ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条330dtex/96fil(帝人ファイバー(株)製)を走行速度100m/分、乾燥温度100℃で走行させ、難燃剤(機能剤)を糸条の繊維表面に塗布した。その後、別工程で非接触式スリットヒーターにて160℃で乾熱処理し、糸条Aを得た。
【0036】
次いで、通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条84dtex/72fil(他糸条、帝人ファイバー(株)製)を経糸に経糸密度110本/cmで配し、一方上記の糸条Aを緯糸に緯糸密度25本/cmで配し、図1に示す織組織図に従い製織し、中間層に糸条Aが配され表裏層に他糸条が配された、三層構造のダブルサテン組織織物を製織し、常法の染色加工を施すことにより機能性織物を得た。
【0037】
得られた機能性織物において、糸条Aが44重量%含まれており、一方表面において糸条Aの露出度が3%、他方表面(裏面)において糸条Aの露出度が4%であり、表裏面とも外観が損なわれることがなかった。また、該機能性織物の難燃性は3回以上と良好であった。
【0038】
[実施例2]
実施例1で用いたのと同じ糸条Aと、通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条167dtex/48fil(他糸条、帝人ファイバー(株)製)を1本ずつ用い、他糸条の供給速度を糸条Aの供給速度の3倍にしながら、両糸条を引き揃えてインターレース加工(圧空圧3×10Pa、インターレース度80個/m)を施すことにより、糸条Aが芯部に位置し、他糸条が鞘部に位置する芯鞘型複合糸を得た。
【0039】
次いで、該芯鞘型複合糸を経糸と緯糸に経糸密度20本/cm、緯糸密度16本/cmで配し、平組織織物を製織し、常法の染色加工を施すことにより機能性織物を得た。
得られた機能性織物において、糸条Aが66重量%含まれており、一方表面において糸条Aの露出度が8%、他方表面(裏面)において糸条Aの露出度が7%と表裏面とも外観が損なわれることがなかった。また、該機能性織物の難燃性は3回以上と良好であった。
【0040】
[比較例1]
実施例1において、糸条Aに難燃剤を塗布しないこと以外は同様にして、三層構造のダブルサテン組織織物を製織し、該織物に常法の染色加工を施した。
次いで、実施例1と同じ加工液を用いて、後加工(パデング法)により織物に難燃剤を付与した。
得られた機能性織物において、難燃性は3回以上と良好であるものの、難燃剤が塗布された糸条が織物の表裏全面に露出し、著しく外観を損ねるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、繊維表面に機能剤が付着した糸条を含む織編物であって、外観を損なうことのない機能性織編物および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の機能性織編物において、採用することのできる織物組織図の1例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に機能剤が付着した糸条Aと繊維表面に機能剤が付着していない他糸条とで構成される織編物であって、前記糸条Aが織編物の全重量に対し20〜80重量%含まれ、かつ織編物の表面および裏面において、下記式により求めた、織編物表面積に対する前記糸条Aの露出度が10%以下であることを特徴とする機能性織編物。
糸条Aの露出度=(SA/SF)×100
ただし、SAは表面または裏面に露出した糸条Aの総面積(mm)であり、SFは織編物表面積(mm)である。
【請求項2】
前記の機能剤が、難燃剤、蓄熱保温剤、導電剤からなる群より選択されるいずれかを含む、請求項1に記載の機能性織編物。
【請求項3】
前記糸条Aに付着した機能剤の重量が、糸条Aの重量に対し1〜40重量%である、請求項1または2に記載の機能性織編物。
【請求項4】
織編物が、表層、裏層、および中間層の三層構造を有し、前記糸条Aが中間層にのみ配されてなる、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性織編物。
【請求項5】
前記糸条Aが芯部に位置し、前記他糸条が鞘部に位置する芯鞘型複合糸を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性織編物。
【請求項6】
糸条Aと他糸条がともにポリエステル系繊維からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の機能性織編物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の機能性織編物を用いてなる、カーテン、衣服、椅子被覆材、カーシートからなる群より選択される繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−225790(P2006−225790A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40334(P2005−40334)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】