説明

機能性食品

【課題】 蓄積した脂肪組織を低減させると共に血清脂質低下、血圧低下、血糖値低下作用の機能を持ち合わせた機能性食品を提供する。
【解決手段】 カキドオシ全草5kgに50リットルのイオン交換水を加え、90℃に加熱し、1時間抽出した。抽出後、圧搾による固液分離をおこない抽出液を減圧濃縮後、凍結乾燥することで乾燥物を得た。その乾燥物を粉砕機(ワンダーブレンダーWB-1,大阪ケミカル製)により粉末にし、更に100メッシュのふるいを通して1kgのカキドオシ抽出物を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満の抑制または防止、肥満体質の改善、脂肪組織の低減に有効かつ高血圧、高脂血症、糖尿病患者またはその予備軍の症状改善、つまりメタボリックシンドロームに効果的な機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病とよばれている主な疾患に肥満症、高血圧、糖尿病、高脂血症などがある。これらの疾患は個々の原因で発症するというよりも、肥満、特に内臓に脂肪が蓄積した肥満によって起こると考えられている。内臓脂肪蓄積により、さまざまな病気が引き起こされた状態をメタボリックシンドロームとよび、厚生労働省の調査では、わが国の男性12.5%、女性4.0%の人がメタボリックシンドロームとしてあげられている。
【0003】
メタボリックシンドロームは、内臓肥満に危険因子(死の四重奏)が加わると動脈硬化や脳卒中、脳梗塞を引き起こす可能性があり、これらの疾病予防のためにもメタボリックシンドロームの症状を改善することは重要とされる。
【0004】
従来、メタボリックシンドロームに有効とされるものには、肥満の抑制、防止、改善としてウーロン茶、杜仲茶の飲用が好ましいとされてきた。また、カロリー摂取を抑制する目的で、低エネルギー食品、満腹感を感じさせる食欲抑制食品、食べても消化しにくい消化吸収抑制食品などが利用されてきた。また食後の血糖値の上昇を抑制したり、血圧を下げる効果を狙った食品などもあるが、これらの食品の摂取では、肥満の防止、改善効果は必ずしも十分ではなく、またメタボリックシンドロームに有効とされる根本的な解決法ではない。
【0005】
肥満を抑制するための脂肪分解抑制には従来の技術として、例えば、カフェインやテオフィリンなどの化合物がノルアドレナリンやアドレナリンなどの生体ホルモンが脂肪分解を促進することが報告されている(特許文献1参照)が、食品としてホルモンの調節に作用するのは安全性の面から好ましいとはいえない。また、ミネラルを多量に含有し、抗酸化活性や肥満抑制作用を有する醗酵処理物(特許文献2参照)や植物の有機溶剤抽出による食事性脂肪の体内吸収を抑制し、生体組織の脂肪代謝を促進させることでの肥満抑制剤(特許文献3参照)も報告されている。しかしながら、高濃度のミネラルの摂取や有機溶剤抽出されたものは、長期間摂取することでは好ましいとはいえない。
【特許文献1】特開昭53−59038号公報
【特許文献2】特開2004−141163号公報
【特許文献3】特開2004−91464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、肥満を抑制し、同時に血圧上昇抑制、血糖値上昇抑制、血中脂質レベル改善作用を有し、かつ安全性の高い天然物を探索したところ、カキドオシの全草またはその抽出物が、脂肪組織の低減効果を示し、肥満の抑制、防止、改善に効果を発揮することを見出した。さらに血圧降下作用、食後の血糖値上昇抑制作用、血中コレステロール・中性脂肪の低下作用を同時に有することを見出し、メタボリックシンドロームに有効であることを確認した。
【0007】
本発明は、既に食経験があり、蓄積した脂肪組織の低減に作用し、かつ血圧降下、食後の血糖値上昇抑制、血中脂質レベルの改善に有効で、安全性が高い機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明の機能性食品は、カキドオシの全草またはその抽出物を有効成分とし、脂肪組織低減、血清脂質低下、血圧低下および血糖値低下作用の機能を持ち合わせたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、カキドオシの全草またはその抽出物を錠剤、カプセル、粉末などに適用する機能性食品およびその原料や一般食品に添加する機能性を有する食品として提供するものである。
【0010】
本発明の機能性食品に用いる植物において、カキドオシとはシソ科の多年草カキドオシ(Glechoma hederacea)を意味する。カキドオシは別名、レンセンソウ(連銭草)、カントリソウとも呼ばれ、腎臓型の葉が特徴的で、4月から5月にかけて淡い紫青色の花を咲かせる。
【0011】
カキドオシは、全草、葉、茎、根または花をそのまま、または乾燥させて粉砕して用いることができるが、本発明の対象とする機能性食品では、カキドオシの全草またはその抽出物を使用するのが好ましい。
【0012】
また、カキドオシの抽出物とは、カキドオシの各部位を常温または加温下にて抽出することにより得られる抽出液、またその濃縮液、乾燥物を意味するものである。
【0013】
本発明のカキドオシ抽出物を得るために用いられる有機溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができるが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、アセトン、酢酸エチル、エーテル類、ベンゼン、トルエン、ヘキサンなど多種にわたり挙げられる。このうち本発明の機能性を十分に発揮できる溶媒には水を用いるのが最も好ましい。
【0014】
抽出の条件は、カキドオシ1重量部に対して2〜200重量部の溶剤を用いて15〜105℃、好ましくは70〜95℃の温度で、1〜15時間、特に1〜5時間抽出するのが好ましい。
【0015】
カキドオシ抽出物は、抽出液をそのまま利用できるが、当該抽出物を希釈、濃縮あるいは溶剤を除去して乾燥し、必要に応じて粉末化、ペースト化に調製して用いることもできる。また、イオン交換や多孔性樹脂などを用いて夾雑物を除去することもできる。また既に公知の方法で、脱臭や脱色などの処理を施すこともできる。
【0016】
本発明のカキドオシまたはその抽出物は、後述の実施例に示すように、ラットにおける血糖値上昇抑制試験、血圧降下試験、肥満抑制試験およびヒトにおける食後血糖値上昇抑制試験、脂質代謝改善試験において脂肪組織の低減、血圧降下、血糖値上昇抑制、血中脂質レベルの改善作用を示した。本生理機能は、実際に動物に与えてその効果を検証したものであり、メタボリックシンドロームの症状改善に効果を発揮する機能性食品となりうるものである。
【0017】
後述の実施例1に関するヒト試験の効果から、本発明品の有効成分の含有量は、溶媒抽出乾燥物で、成人1日あたり0.1〜2g、特に0.25〜1.25gとなるよう配合し、摂取するのが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明の機能性食品について詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<実施例1 カキドオシ抽出物の製造>
カキドオシ全草5kgに50リットルのイオン交換水を加え、90℃に加熱し、1時間抽出した。抽出後、圧搾による固液分離をおこない抽出液を減圧濃縮後、凍結乾燥することで乾燥物を得た。その乾燥物を粉砕機(ワンダーブレンダーWB-1,大阪ケミカル製)により粉末にし、更に100メッシュのふるいを通して1kgのカキドオシ抽出物を得た。次にその一般分析結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

<実施例2 カキドオシ抽出物入りパンの製造>
次の組成割合でカキドオシ抽出物入りのパンを製造した。小麦粉100g、イースト2.7g、イーストフード0.1g、乳化剤0.2g、ぶどう糖3g、砂糖10g、乳製品3g、食塩1.5g、全卵10g、酢酸ナトリウム0.3g、ハチミツ2g、マーガリン15g、カキドオシ抽出物2g、水48gを混ぜ、パン1個が約34〜36gになるように焼き上げた。このパン2個で1日あたりに摂取する量に定めた。なお、後述の実施例に示すヒト試験で使用するプラセボパンには、カキドオシ抽出物の代わりに、ローズマリーパウダーLBCP(ヤスマ製)0.26%とココアブラウンSPY(ヤヱガキ醗酵技研製)0.23%添加したものを用いた。
【0020】
次に、上記実施例に係る本発明の機能性食品についてラットにおける血糖値上昇抑制試験、血圧降下試験、肥満抑制試験およびヒトにおける食後血糖値上昇抑制試験、脂質代謝改善試験を行ったので、その結果を示す。
【0021】
<1:ラットにおける血糖値上昇抑制試験>
実験動物は日本クレア株式会社より入手した5週齢の雄性Wistarラットを用いた。ラットの平均体重がなるべく同じになるように、対照群と本発明品(実施例1)群の2群(各群5頭)に分けた。20時間絶食させたラットの尾静脈から採血し、メディセーフリーダー(テルモ株式会社)で血糖値を測定した。その後、対照群には蒸留水、本発明品群には実施例1の水溶液(100mg/ml)を経口投与(5ml/kg体重)した。30分後に20 %ショ糖溶液を経口投与(10 ml/kg体重)し、その後、30分、60分、90分後に採血して血糖値を測定した。
また、ラットにおける血糖値上昇抑制試験の結果を図1に示している。
【0022】
<2:ヒトにおける血糖値上昇抑制試験>
健常な成人(男性9名、女性7名)を被験者とし、前日夕食後から絶食し、試験日朝の空腹時血糖値を測定後、本発明品(実施例1)またはプラセボのカプセル、約0.75gを摂取した。その5分後に、レトルトカレー(総エネルギー400kcal、炭水化物77g)を摂取し、食後30分、60分、90分、120分後の血糖値を測定した。更に5日以上の期間をおいてから、前回とは異なるカプセルを摂取して同様に試験を実施した。なおヒト試験はヘルシンキ宣言の主旨に従い被験者にその旨を説明(インフォームドコンセント)し、同意を得られた者で実施した。
また、ヒトにおける血糖値上昇抑制試験の結果を図2に示している。
【0023】
<3:ラットにおける血圧上昇抑制試験>
実験動物は星野試験動物飼育所(埼玉県八潮市)から入手した雄性SHRを用いた。ラットの平均体重がなるべく同じになるように、対照群と本発明品(実施例1)群の2群(各群5頭)に分けた。血圧は飼育初日および7日間ごと午前9:00より各群より1匹ずつ無差別に選び、無加温型非観血式血圧計 Model MK-2000 (室町機械,東京)を用いて、23℃以上の室温で尾動脈圧の収縮期および拡張期血圧を無麻酔下の間接(カフ)法により測定した。試験25日目に個別の採尿ケージ(Tecniplast製,ラット用メタボリックケージ)を用いて24時間尿を採尿し、尿中および血中のナトリウム(Na)とカリウム(K)を電極式電解質分析装置Easy(福山医科,千葉)にて測定した。Na排泄率およびK排泄率を次式により算出した。

【0024】
図3はラットにおける血圧上昇抑制試験を示すものである。
また、図4はNa排泄率(A)とK排泄率(B)の結果を示すものである。
【0025】
<4:ラットにおける肥満抑制試験>
実験動物は日本エスエルシー(浜松市)から入手した雄性SHR/NDmcr-cp (cp/cp)(肥満高血圧ラット:メタボリックシンドロームモデル動物)を用いた。なお比較のために健常ラットのWKY/Izmと同胞非肥満のSHR/NDmcr-cp (+/+)においても同様の試験を実施した。ラットの平均体重がなるべく同じになるように、対照群と本発明品(実施例1)群の2群(各群5頭)に分けた。血圧は飼育初日および7日間ごと午前9:00より各群より1匹ずつ無差別に選び、無加温型非観血式血圧計 Model MK-2000 (室町機械,東京)を用いて、23℃以上の室温で尾動脈圧の収縮期および拡張期血圧を無麻酔下の間接(カフ)法により測定した。血液は血圧測定後、毎回ただちに尾部より採血し、血糖値および血清脂質(総コレステロール(TC)、高密度リポ蛋白質コレステロール(HDL-C)、トリグリセライド(TG)、リン脂質(PL))を測定した。TCからHDL-Cを差し引き、超低比重リポ蛋白質コレステロール(VLDL-C)+低比重リポ蛋白質コレステロール(LDL-C)とした。HDL-CとVLDL-C+LDL-Cの比から動脈硬化指数(AI)を算出した。試験90日後に、エーテル麻酔し、腹部大動脈より採血をおこない、ただちに肝臓を摘出した。肝臓重量の測定および肝臓TC、TG、PLを測定した.また血中のレプチンおよびアディポネクチンを定量した。次にラットにおける肥満抑制試験の結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

図6には肝臓脂質レベルの結果を示している。
また、図7には血清レプチンとアディポネクチンの結果を示している。
【0029】
<5:ヒトにおける脂質代謝改善試験>
健常な女性40名を被験者とし、平均体重が同じになるようにプラセボ群と本発明品(実施例2)群の2群(各20名)に分けた。前日夕食後から絶食し、試験日朝に採血、血圧測定、体組成部位別測定をおこなった。この日より、製造例2のパンあるいはプラセボパンを2ヶ月間、毎日2個摂取した。このパンに含まれるカキドオシ抽出物の量は、0.77gである。2週間おきの血圧測定、体組成部位別測定および1ヶ月おきの採血検査を実施した。なおヒト試験はヘルシンキ宣言の主旨に従い被験者にその旨を説明(インフォームドコンセント)し、同意を得られた者で実施した。次にその結果を表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
【表7】

【0033】
【表8】

*は、vs. 試験前 (paired t-test, p<0.05)において有意差を示す
**は、vs. 試験前 (paired t-test, p<0.01)において有意差を示す
#は、vs. プラセボ (paired t-test, p<0.05)において有意差を示す
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ラットにおける血糖値上昇抑制試験結果を示すグラフである。
【図2】ヒトにおける血糖値上昇抑制試験結果を示すグラフである。
【図3】ラットにおける血圧上昇抑制試験結果を示すグラフである。
【図4】Na排泄率(A)とK排泄率(B)の結果を示すグラフである。
【図5】血圧値の推移を示すグラフである。
【図6】肝臓脂質レベルの結果を示すグラフである。
【図7】血清レプチンとアディポネクチンの結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カキドオシの全草またはその抽出物を有効成分とし、脂肪組織低減、血清脂質低下、血圧低下および血糖値低下作用の機能を持ち合わせたことを特徴とする機能性食品。
【請求項2】
メタボリックシンドロームに有効な請求項1記載の機能性食品。
【請求項3】
カキドオシの全草またはその抽出物を錠剤、カプセルまたは粉末にしたことを特徴とする請求項1または2記載の機能性食品。
【請求項4】
カキドオシの全草またはその抽出物を一般食品に添加したことを特徴とする請求項1または2記載の機能性食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−199973(P2008−199973A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40381(P2007−40381)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】