説明

機能液生成装置

【課題】高濃度の有効成分を含む微細気泡が安定的に長期間存在する機能液を生成することのできる機能液生成装置を提供する。
【解決手段】
本発明の機能液生成装置を、液体中にナノメータサイズの気泡を混合させてなる気液混合液を保持する液保持部2と、液保持部2が保持する気液混合液内にて放電を生じさせる放電部3と、放電部3に電圧を印加させる電圧印加部4とを具備したものとする。これにより、飽和溶解度を超える大量の気体を液保持部2内の液体中に存在させておくことができる。また、ナノメータサイズの微細な気泡には浮力が働かないため、この気泡中に存在する気体を、液体中に長期間に亘って安定に存在させることができる。そして、放電によって有効成分を発させることで、高濃度の有効成分を含む微細気泡を液中において安定的に存在させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電によって機能液を生成することのできる機能液生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気泡を含む液中で放電を生じさせることで、該気泡に有効成分が生じ、この気泡を含む液が改質されることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、液中での微細気泡は、溶解や合体によって消滅しやすい性質を有しており、大量の気泡を液中において安定的に長期間存在させることは困難である。そのため、上記したような構成の従来の機能液生成装置では、液中に有効成分を生じさせる量に限界があるという問題や、有効成分の生じた微細気泡が時間の経過と共に消失するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−9463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて発明したものであって、液中に高濃度で有効成分を発生させることができ、しかも、この高濃度の有効成分を含む微細気泡を液中において安定的に長期間存在させることのできる機能液生成装置を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の機能液生成装置を、液体中にナノメータサイズの気泡を混合させてなる気液混合液を保持する液保持部2と、液保持部2が保持する気液混合液内にて放電を生じさせる放電部3と、放電部3に電圧を印加させる電圧印加部4とを具備したものとする。
【0007】
本発明の機能液生成装置によれば、液保持部2内の気液混合液においてナノメータサイズの微細な気泡を含むことによって、飽和溶解度を超える大量の気体を液体中に存在させておくことができる。また、ナノメータサイズの微細な気泡には浮力が働かないため、この気泡中に存在する気体を、液体中に長期間に亘って安定に存在させることができる。そして、このようなナノメータサイズの微細な気泡を含む気液混合液に対して放電を行うことで、気泡内において各種の有効成分を発生させ、有効成分を安定的に且つ高濃度で保持する機能液を創り出すことが可能となる。
【0008】
本発明の機能液生成装置において、前記気液混合液をなす液体は、水素結合を形成する分子からなる液体であり、該液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合よりも短いことが好ましい。このようにすると、気泡界面における水素結合の距離が短くなることによって、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことができる。この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込むので、気泡同士が衝突して崩壊することが防止されるとともに、液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗できるので、気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく安定に存在させることができる。そして、このように安定的に存在するナノメータサイズの微細な気泡を含む気液混合液に対して放電を行うことで、気泡内において各種の有効成分を発生させ、有効成分をさらに安定的に且つ高濃度で保持する機能液を創り出すことが可能となる。
【0009】
また、前記気液混合液をなすナノメータサイズの気泡は、0.12MPa以上の圧力の気体で形成したものであることが好ましい。このようにすることで、気泡が高い内部圧で維持されることによってより強固な界面構造を形成することができ、気泡が液体中で消滅したり合体したりすることなくさらに安定に存在するものとなる。また、この気泡中の気体の圧力は、外部からの衝撃がない限り長期間に亘って液体からの押圧との間で均衡を保つので、気泡が安定に存在した気液混合液を、長期間に亘って利用することができる。そして、このように安定的に存在するナノメータサイズの微細な気泡を含む気液混合液に対して放電を行うことで、気泡内において各種の有効成分を発生させ、有効成分をさらに安定的に且つ高濃度で保持する機能液を創り出すことが可能となる。
【0010】
また、前記放電部3は、液保持部2内の気液混合液に浸るようにその放電発生部分を配置したものであることが好ましい。このようにすることで、低エネルギで気液混合液内にて所定の放電を生じさせ、有効成分を安定的に且つ高濃度で保持する機能液を創り出すことができる。
【0011】
また、前記放電部3は、放電電極7と対向電極8とから成り、放電電極7と対向電極8の一方を液保持部2内の気液混合液に浸るように配置したものであることも好ましい。このようにすることで、低エネルギで且つ安定的に気液混合液内にて所定の放電を生じさせることができる。これにより、有効成分を安定的に且つ高濃度で保持する機能液を、さらに効率的に創り出すことができる。
【0012】
また、前記放電部3は、放電電極7と対向電極8とから成り、放電電極7は針状電極であるとともに、対向電極8はリング状電極であることも好ましい。このようにすることで、気液混合液内の広い範囲内において安定的に所定の放電を生じさせることができる。これにより、有効成分を安定的に且つ高濃度で保持する機能液を、さらに効率的に創り出すことができる。
【0013】
また、前記放電部3は、その放電発生部分の一部または全部をメッシュ状に形成したものであることも好ましい。このようにすることで、低エネルギ化を図るとともに、気液混合液内の広範囲において安定的に所定の放電を生じさせることができる。これにより、有効成分を安定的に且つ高濃度で保持する機能液を、さらに効率的に創り出すことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の機能液生成装置は、液体中にナノメータサイズの気泡を混合させてなる気液混合液を保持する液保持部と、液保持部が保持する気液混合液内にて放電を生じさせる放電部と、放電部に電圧を印加させる電圧印加部とを具備している。これにより、液保持部内の気液混合液において、飽和溶解度を超える大量の気体を液体中に存在させておくことが可能となり、また、ナノメータサイズの微細な気泡に浮力が働かないことから、各気泡中の気体を液体中に長期間に亘って安定に存在させることができる。そして、このような気液混合液に対して放電を行い、気泡内において各種の有効成分を発生させることによって、有効成分を安定的に且つ高濃度で保持する機能液を創り出すことができる。
【0015】
つまり、放電により生じる有効成分を非常に高濃度に、且つ、安定的な状態で含んだ状態の機能液を、本発明の機能液生成装置によって得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態における第1例の機能液生成装置の全体概略図である。
【図2】同上の機能液生成装置が備える気液混合液生成部を示し、(a)は概略図、(b)は一部を拡大した断面図である。
【図3】(a)〜(c)は同上の気液混合液生成部の一部を示す概略図である。
【図4】(a)〜(d)は同上の気液混合液生成部の一部を示す概略図である。
【図5】同上の気液混合液生成部の一部を示す概略図である。
【図6】同上の気液混合液生成部の変形例を示す概略図である。
【図7】気液混合液中に含まれる気体容量を示すグラフ図である。
【図8】走査型電子顕微鏡(SEM)による気液混合液の写真図である。
【図9】気液混合液中の気泡の概念説明図である。
【図10】窒素と水を用いた気液混合液と窒素飽和水との赤外吸収スペクトルの差分を示すグラフ図である。
【図11】気液混合液の安定性を示すグラフ図である。
【図12】本発明の実施形態における第2例の機能液生成装置の全体概略図である。
【図13】本発明の実施形態における第3例の機能液生成装置の全体概略図である。
【図14】放電部の変形例を示す概略図である。
【図15】本発明の実施形態における第4例の機能液生成装置の全体概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。図1には、本発明の実施形態における第1例の機能液生成装置の基本的な構成を示している。
【0018】
図示のように、第1例の機能液生成装置は、液体中にナノメータサイズの微細な気泡(以下「ナノバブル」という。)を混合させて気液混合液を生成する気液混合液生成部1と、気液混合液生成部1で生成された気液混合液を保持するタンク状の液保持部2と、液保持部2が保持する気液混合液内において放電を生じさせる放電部3と、この放電部3にパルス状の高電圧を印加させるための電圧印加部4とを具備している。気液混合液生成部1と液保持部2とは循環路5により連通接続させており、循環路5中に介在させた給液ポンプ6によって、気液混合液生成部1と液保持部2の間で液体が循環するように設けている。
【0019】
放電部3は、針状の放電電極7と、この放電電極7の先鋭状の先端部7aと対向する位置に配置される平板状の対向電極8とから成る。放電電極7は、その放電発生部分である先端部7aを液保持部2内に位置させたものである。また、対向電極8は、少なくとも放電電極7と対向する平板部分を液保持部2内に位置させたものである。放電電極7の先端部7aと対向電極8の平板部分はともに、液保持部2内に保持される気液混合液に浸るよう設けており、電圧印加部4によって両電極7,8間に電圧を印加すると、液保持部2内の気液混合液において放電が生じるようになっている。
【0020】
気液混合液生成部1で生成される気液混合液は、ナノバブルを高濃度で含むものであって、そのために顕著な特性を有する。具体的には改めて詳述するが、本発明で生成するナノバブルは非常に微細なものであって、液体中にその飽和溶解濃度以上の高濃度で気体を保持できるという特性や、浮力が働かないため液体中に長期間に亘って安定に存在させることができるという特性や、気泡界面の水素結合距離が短く、気泡の内圧が高くなることによって高濃度のナノバブルを安定的に保持できるという特性を有する。
【0021】
そして、このような特性のナノバブルを含む気液混合液に対して放電を行い、高濃度のナノバブル内の気体において放電により各種の有効成分を発生させることによって、有効成分を非常に高濃度に且つ安定的に保持する機能液を創り出すことができる。なお、気液混合液をなす液体として水を用いた場合、機能液はすなわち機能水となる。
【0022】
ここでの有効成分とは、硝酸イオン、スーパーオキサイドラジカル、ヒドロキシラジカルラジカル、オゾン等の各成分であるが、ナノバブルを形成する気体や放電条件を適宜選択することによって、有効成分の種類や濃度を制御することができる。ナノバブル形成用の気体としては、空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴン、水素、ヘリウム、メタン、プロパン、ブタン等の適宜気体を供給することができる。
【0023】
例えば、空気から成るナノバブルに放電を生じさせた場合には、有効成分として上記各成分を生成することができ、メタンや酸素から成るナノバブルに放電を生じさせた場合には、有効成分として上記各成分に加えてメタノール、ギ酸等を大量に生成することができる。このメタノールやギ酸により、さらに持続的な殺菌効果が得られる。また、窒素やオゾンから成るナノバブルに放電を生じさせた場合には、有効成分としてスーパーオキサイドラジカル、ヒドロキシラジカルをさらに大量に生成することができる。
【0024】
以下においては、ナノバブルを含む気液混合液を生成するための気液混合液生成部1の構成や、これにより生成される気液混合液の特性について、図2〜図11に基づいて詳述する。
【0025】
本例の気液混合液生成部1は、0.12MPa以上の圧力の気体によって液体中にナノバブルを形成し、気液混合液を生成するものである。この気液混合液をなす液体は、該液体のナノバブルとの界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合よりも短くなるように設けている。
【0026】
上記気液混合液生成部1は、液体を圧送して連続的に気液混合液を製造する装置であり、図2に概略的に示すように、液体貯留槽22から大気圧(0.1MPa)で保持されている液体を取り出し圧送して加圧する加圧部11と、加圧された液体に気体を供給する気体供給部12と、供給された気体を微細な気泡にして液体と混合させる気液混合部13と、気液混合部13中の液体に存在する大きな気泡を除去する脱気泡部14と、脱気泡部14により大きな気泡が取り除かれた液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させる減圧部15と、減圧された液体を吐出する吐出部17とを備えている。気液混合液生成部1を形成する上記各部は、流路16中に接続して設けている。
【0027】
上記加圧部11は、気液混合部13にむけて液体を順次圧送するものであり、図示の装置のように、液体貯留槽22から液体を吸い上げるポンプ21などで構成できるが、液体を加圧して送り出す配管(水道配管等)などで構成することもできる。
【0028】
上記気体供給部12は、流路16に接続されることによって該流路16中の液体に気体を順次供給するものであり、例えば気体として空気を供給する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路16に接続することで、気体供給部12を形成することができる。あるいは気体として酸素、オゾン、水素、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の適宜気体を供給する場合には、これらの気体を封入したボンベなどを流路16に接続することで、気体供給部12を形成することができる。流路16に対する気体供給部12の接続位置は、気液混合部13よりも上流側の位置であればよく、この装置のように加圧部11より上流側の流路16に接続するようにしても、あるいは加圧部11より下流側の流路16に接続するようにしてもよい。
【0029】
上記気液混合部13は、圧送された液体とこの液体に供給された気体とを混合し、加圧により気体を微細な気泡にして液体中に分散・混合させるものである。気液混合部13としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路16を流れているのであれば、単に流路16で構成することもできる。また、図示の装置のように、気体供給部12が加圧部11より上流側の流路16にある場合は、ポンプ21などで構成された加圧部11を、気液混合部13として兼用してもよい。
【0030】
気液の加圧および混合をポンプ21により行った場合、液体を急激に加圧・混合にすることができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を、確実に生成することができる。また、気液混合部13をベンチュリ管で構成することも好ましい。その場合、簡単な構成で液体を急激に加圧・混合にすることができる。
【0031】
気液混合部13内においては、液体と気体が高圧条件で混合される。それにより、気泡を形成する気体の圧力を0.12MPa以上にして、気体を微細な気泡として安定化させる構造である。
【0032】
上記のような加圧部11および気液混合部13により、気体が注入された液体に急激に強力な圧力が加わって、液体中に存在している気泡は微細なナノサイズにまで細分され、大量のナノバブルとして液体中に分散される。また、急激な圧力変化により高圧になった気泡の界面には、液体分子により強固な界面構造が形成される。
【0033】
この際、加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)を0.17MPa/sec以上にすることにより、気泡を細分化させて微細なナノバブルを生成することができる。また、気液混合部13から脱気泡部14に送り出される際の気液混合液の圧力を0.15MPa以上にすることにより、気泡の界面が強固な構造となったナノバブルを生成することができる。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP/tの上限は167MPa/secであり、加圧された気液混合液の圧力の上限は50MPaである。
【0034】
図2(b)は、ポンプ21の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ21aは、回転体31の回転により液体を加圧するものであり、回転体31に取り付けられた回転翼32が連続的に回転して、ポンプ入口36からポンプ流路室33を介してポンプ出口37に至る流れ方向へと、液体を送り出して加圧する。図中の白抜き矢印は液体の流れ方向を示し、実線矢印は回転体31の回転方向を示している。
【0035】
このポンプ21aでは、4枚の回転翼32を備えている。また回転体31の回転軸35は、円筒状に形成されたポンプ壁34の円筒中心よりもポンプ出口27側に偏って配置され、偏心軸として設けている。この回転軸35の偏心により、ポンプ流路室33の第二流路室33bの容積は、第一流路室33aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室33の容積が順次小さくなるように設けている。
【0036】
そして、ポンプ流路室33に送り出された液体は、回転翼32で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡Bが細分化されて微細なナノバブルBが生成される。すなわち、回転体31の回転と共に第一流路室33aから第二流路室33bに送られた液体は、ポンプ流路室33の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力により、ナノバブルBが生成される。
【0037】
また、図示のポンプ21aでは、ポンプ壁34の内面と回転翼32の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡B)は、液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細なナノバブル(B)になる。ここで、ポンプ壁34の内面と回転翼32の先端部との間の最も狭くなる部分の距離(すなわち、クリアランス距離L)は、5μm〜2mmであることが好ましい。
【0038】
このように、回転体31を用いた図示のポンプ21aによれば、回転体31によって、急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断してナノバブルを形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を、より確実に生成することができる。
【0039】
なお、ポンプ21の回転体31の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させて水素結合距離が短縮したナノバブルを確実に生成することができる。
【0040】
また、加圧部11および気液混合部13による加圧については、加圧部11または気液混合部13を複数設けて、複数回加圧する構成にしてもよい。液体を送りながら複数回加圧することにより、加圧を複数のポンプ21やベンチュリ管によって行うことができ、液体を強力に加圧して、気泡界面の構造が強固な気液混合液を生成することができる。具体的には、加圧部11を図2のようにポンプ21で構成すると共に、気液混合部13を一つまたは二つ以上のポンプ21またはベンチュリ管で構成することなどが挙げられる。
【0041】
上記脱気泡部14は、上記のようにして気体が混合された液体から、比較的大きな気泡を取り除くものであって、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにした管体などで、構成することができる。取り除かれた気泡は気体となって上部に集積するので、この除去された気体を弁などの気体除去部18により取り除くことができる。浮力により上昇する気泡としてはマイクロオーダーサイズ、すなわち直径1μmを超えるサイズの気泡であり、このような比較的大きい気泡が取り除かれて微細な気泡であるナノバブルが液体中に存在することにより、気泡の内部圧が高く安定な気液混合液を得ることができる。
【0042】
脱気泡部14としては、具体的には、図3に示すような構成にすることができる。図3(a)には、気液混合部13と連続して地表面に略水平(重力方向に対して略垂直な平面上)な姿勢となるように形成し、液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、図3(b)には、気液混合部13に連続すると共に気液混合部13と合わせた形状が正面視逆L字型となるように形成し、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にすることで、液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、図3(c)には、気液混合部13とは別体にし、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。
【0043】
上記減圧部15は、気体が混合された液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧により気体と混合された液体は、高圧な状態にあり、そのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、気液混合液中の気泡が合体して液体から排出されるおそれや、キャビテーションが発生するおそれがある。そこで、脱気泡部14の下流側に減圧部15を設け、加圧された状態の気液混合液を送り出す際に、減圧部15において大気圧まで徐々に減圧をした後に、吐出するようにしている。
【0044】
減圧部15は、気体が混合された液体を送りながら、配管全域での減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして減圧するように構成されている。これにより、強固な気泡界面の構造を維持させたまま、ナノバブルを消滅させたり合体させたりすることなく、気液混合液を取り出すことができる。
【0045】
減圧部15として、具体的には、図4のような構成にすることができる。つまり、減圧部15を、図4(a)のように流路断面積が段階的に徐々に小さくなる流路16で構成してもよいし、図4(b)のように流路断面積が連続的に徐々に小さくなる流路16で構成してもよい。また、減圧部15を、図4(c)のように気液混合液の圧力を高圧状態(P)から(P、P、・・・)大気圧(P)にまで圧力損失で徐々に減圧するように流路長さ(L)を調整した流路16で構成してもよいし、図4(d)のように流路16に設けた複数の圧力調整弁19などにより構成してもよい。
【0046】
例えば、図4(a)または図4(b)のような減圧部15を用いた場合、減圧部15よりも上流側の流路16を内径20mmにし、減圧部15を、流路長さが約1cm〜10mで、内径が20mmから4mmにまで徐々に小さくなることにより流路断面積が小さくなる管体により構成することができる。なお、減圧部15は、入口内径/出口内径=2〜10程度に設定することや、1cmあたりの内径減少値を1〜20mm程度に設定することができる。このとき、減圧部15に対して4×10−6m/s以上の流速で気液混合液を送ると、最高減圧速度2000MPa/sec以下で、ナノバブルを消滅させることなく1.0MPa減圧することができ、気液混合液を大気圧にまで減圧することができる。
【0047】
吐出部17は、減圧された液体を吐出するものである。なお、図5のように、この吐出部17と減圧部15との間に、加圧部11における液体の押し込み圧を十分に確保するために延長流路20を設けることもできる。このとき、減圧部15を含めた全体の圧力損失を算出したうえで、気液混合部13内で液体と気体を加圧するのに必要な加圧部11での押し込み圧と、全体の圧力損失との差を算出し、さらにこの差の分だけ圧力損失が生じるように流路長さを調整した延長流路20を、流路16に付加する。押し込み圧の確保には、絞り部などを設けることも考えられるが、絞り部などで押し込み圧を調整する場合には、急激な圧力変化により気泡が崩壊するおそれがある。これに対して、上記延長流路20を設けた場合には、気泡を安定化させたまま気液混合液を吐出することができる。
【0048】
上記のように構成された気液混合液生成部1にあっては、加圧部11で液体を圧送し、圧送された液体に対して気体供給部12から供給した気体を注入する。そして、気体が注入された液体を、加圧部11および気液混合部13によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、気液混合部13から脱気泡部14へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、脱気泡部14で気液混合液中のナノサイズを超える気泡を取り除き、さらに該液体を減圧部15および下流側の流路16に送りながら最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。この工程により、所望のナノバブルが高濃度で且つ安定的に存在した気液混合液を生成することができる。
【0049】
ここで、気液混合部13における圧力は適宜設定され得るものであるが、絶対圧0.1MPa(大気圧)を超えるようにすることで、気泡を形成する気体の圧力を確実に0.12MPa以上にすることができる。また、気液混合部13よりも下流側の流路16についても適宜設定され得るが、内径2〜50mm程度の管体などに形成することで、比較的太い流路断面積で気液混合液を吐出することができ、細路により流路16を構成する場合のような配管の詰まりを防止して、気液混合液を利用しやすくできる。
【0050】
図6には、気液混合液生成部1の変形例を示している。この気液混合液生成部1は、加圧部11と気液混合部13とを兼用した気液混合槽23を備えている。この気液混合槽23においては、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にすることにより、界面構造の強固な気泡の気液混合液をバッチ式で生成する。そして、この気液混合液から大きな気泡を脱気泡部14で取り除いた後、この気液混合液を減圧部15に送り出してその圧力を最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)で大気圧まで減圧し、吐出部17から気液混合液を吐出する。閉鎖系である気液混合槽23には、バッチ式で液体と気体とが送り出されて加圧されるとともに、気液混合槽23に設けられた撹拌翼24などにより撹拌されて液体Lqと気体とが高圧条件で混合される。それにより、気泡を形成する気体の圧力が0.12MPa以上になり、気体を微細な気泡として安定化することができる。そして、生成した気液混合液を図2の場合と同じように構成された脱気泡部14、減圧部15および吐出部17に送り出すことにより、ナノバブルを有する気液混合液を得ることができる。
【0051】
以上、気液混合液生成部1の構成について述べた。以下においては、上記した気液混合液生成部1により、例えば液体として純水を用い、気体として後述する各種の気体を用いて気液混合液を生成した場合について、さらに詳細に述べる。
【0052】
この場合、気体と液体の比(液体に対する気体の注入量)は、容量比(体積比)で1:1に設定した。また、ポンプ21の回転体31の回転数は1700rpmに設定した。この条件により大気圧(0.1MPa)の水に気体が注入された後、加圧速度ΔP/t=28.3MPa/secで加圧すると、気液混合部13から脱気泡部14に送り出される際の気液混合液の圧力が0.6MPaになった。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入されて水素結合距離が短くなり、強固な気泡界面の構造が形成されるものと考えられる。この条件(加圧条件)は、現時点での最良の条件と考えられる。
【0053】
また、減圧部15よりも上流側の流路16を、内径20mmのものとした。減圧部15としては図4(a)のような3段階で内径が徐々に小さくなるもの、具体的には内径が14mm、8mm、4mmで長さが各約3.3mm(減圧部15の全長として約1cm)の三つの流路管部からなるものを用いた。また、減圧部15よりも下流側の流路16および延長流路20として、内径4mm(外径6mm)のホースを用い、下流側の流路16と延長流路20とを合わせた長さが2mとなるように設定した。この条件により、減圧部15において、最高減圧速度60MPa/sec、時間0.0025秒で気液混合液を減圧し、さらに、下流側の流路16および延長流路20において、1MPa/sec、時間0.5秒で気液混合液を減圧し、ホース先端部である吐出部17から、大気圧(0.1MPa)まで減圧された気液混合液が得られた。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入されると共に水素結合距離が短くなり、気泡界面の構造が強固になった気液混合液を安定して生成することができると考えられる。この条件(減圧条件)は、現時点での最良の条件と考えられる。
【0054】
次に、液体として純水を用い、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを用いた気液混合液中における[気体量]、[気泡のサイズ]、[気泡の内圧]、[水素結合の距離]、[気泡の分布量]、[気液混合液の安定性]について、順に述べる。
【0055】
[気体量]
液体として純水を、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを使用した気液混合液中に、気泡として存在する気体量を次の方法により測定した。
(1)25℃、導電率0.1μS/cmの純水に、各種の気体を混合させ気液混合液を得た。
(2)直径1μm以上の大きな気泡を水から分離するために、気液混合液を25℃で1日静置した。なお、静置時間について、ストークスの法則から
気泡上昇速度: V=d×g/(18×γ)
(d:気泡直径、g:重力加速度、γ:動粘性係数)
の式が成立し、この式より1μmの気泡の上昇速度は約2.4×10−4m/sであるので、例えば静置時の容器の水深が50mmの場合、1日静置すれば気泡を除去することができる。
(3)最小測定値1mgの分析天秤で気液混合液の質量を測定した。
(4)ガス透過度および透湿度の低いPE+ナイロン樹脂製のビニル袋に気液混合液とスタラーの撹拌子を入れ、空気を追い出して袋に空気が無い状態でシーラーにてビニル袋を密封した。
(5)密封直後に、分析天秤で気液混合液が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(6)ホットスタラーにより25℃の気液混合液が密封されたビニル袋を45℃に昇温して気液混合液を約5時間撹拌した。この昇温と撹拌により、微細気泡や、45℃の飽和溶解濃度以上で溶解していた気体が気液混合液から分離されビニル袋の上部に集まった。
(7)室温25℃の条件でホットスタラーの設定温度を25℃にし、25℃の飽和溶解度の液体になるよう数時間撹拌を行った。
(8)分析天秤で、気体と液体が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(9)計3回の質量測定から気液混合液の質量と、昇温および撹拌によって気液混合液から分離された気体による浮力によって生じる液体の質量変化量とを得た。質量変化量は、気液混合液から分離された気体容積と同容積の空気の質量と同じであり、この値から分離された気体の容量と質量を算出することができる。
【0056】
図7は、このようにして測定された気体容量を示すグラフである。各棒グラフの下部領域は、測定された気泡として存在していた気体の量であり、上部領域はヘンリー則に従う気体の飽和溶解量である。グラフに示すように、例えば水素と水を用いた気液混合液の場合、25℃の純水1Lに水素が、飽和溶解量として17.6mL溶解し、528mLの気体が微細な気泡として存在することが確認された。すなわち、気液混合液に含有する気体量は過飽和溶解量の約30倍であった。また同様に、過飽和溶解量に対して気液混合液に含有する気体量は、窒素では約36倍、メタンでは約17倍、アルゴンでは約16倍、二酸化炭素では約1.9倍であった。このように、ナノバブルを有する気液混合液は、飽和溶解濃度以上の高濃度で気体を液体中に保持することが可能である。
【0057】
[気泡のサイズ]
上記と同様にして製造した気液混合液を瞬間凍結し、真空中においてカッターで割断し、その割断面にメタン・エチレンを流し放電させ、凹凸を転写した炭化水素膜(レプリカ膜)を作製した。このレプリカ膜に導電性オスミウム薄膜を張り、十分乾燥させて、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。図8は、窒素と純水の気液混合液について、SEMにより観測された写真の第1例である。同様に写真観察することにより、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素を用いた場合、いずれも気液混合液の気泡サイズは、直径の分布ピークが100nmであることが確認された。なお、上記の気体と純水の気液混合液の気泡はレーザーを用いた動的散乱法等の粒子径分布測定装置では正確な検知ができなかった。
【0058】
[気泡の内圧]
気液混合液中の気体総量から、気泡内部の圧力を算出した。以下の表1は、窒素、メタン、またはアルゴンと25℃の純水との気液混合液における、気体総量と、気体総量から算出した気泡の内圧を示している。
【0059】
【表1】

【0060】
ここでの気泡における気体の内部圧力は、次の方法で算出される。
気体の状態方程式は、
PV/T=(const)
(P:内部圧力、V:容積、T:内部温度)
で表され、Tが一定の場合、特に
PV=(const)
で表される。
【0061】
そして、気液混合液の密度から気液混合液中の気泡の容積が計算でき、上式から、
大気圧 × 気体総体積量 = 気泡の内圧 × 液中の気体総体積量
の関係が成立し、この関係式に上記で測定した気体量を当てはめて気泡における気体の内圧が計算され、表1のような圧力値となる。
【0062】
例えば気体が窒素の場合、気液混合液1リットル中における、水体積がw1リットル、水中での気体体積がw2リットルであると仮定すると、体積については次の関係式が成り立つ。
【0063】
w1 + w2 =1リットル (式A)
また、質量については次の関係式が成り立つ。
【0064】
w1 × 水の密度 + w2÷22.4(リットル)×28(分子量)=測定質量 (式B)
水の密度 :常温常圧の純水では997.1g/L
22.4リットル :気体1モルの体積
測定質量 :表1の値で988.3
上記の2式(式A,B)の方程式を解くと、
w2=8.84×10^(-3) が算出されるので、
気体の内圧=大気圧 × 気体総体積量 ÷ 液中の気体総体積量
=0.1×(表1の値)÷w2
=0.1×0.56÷(8.84×10^(-3))
=6.3MPa
となる。
【0065】
なお、上記の計算では、気泡の内部温度が一定(常温)であるとして考えたが、実際の気泡の内部温度については大気の温度(常温)より高いことも予想され、その場合、気泡の内部圧は上記算出結果より更に高いことが気体の状態方程式から予測できる。
【0066】
ところで、一般には、気泡の内圧は次のようにして算出される。気泡は気液相界面間の界面張力により加圧され、この界面張力はヤングラプラスの式(下記式)で導かれる。
【0067】
ΔP=2σ/r
(ΔP:上昇圧力、σ:表面張力、r:気泡半径)
この式によれば、例えば、直径100nmのサイズの気泡の場合、気泡内部圧力は3MPaになる。
【0068】
一方、気液混合液中の内部圧力は、表1の通り、例えば窒素の場合6.3MPaであり、この気液混合液はSEM写真にて示されるように直径100nmサイズの気泡が分散しているものであることから、気液混合液の気泡は、ヤングラプラスの式から算出される値の約2倍以上の内部圧力を有していることが確認された。したがって、より強固な界面構造が気泡界面において形成されていると結論づけられる。
【0069】
図9は、気液混合液が安定化されるメカニズムを説明する概念説明図である。図示のように、気泡Bと液体Lqの界面には、水素結合距離が通常よりも短い氷やハイドレートのような強固な水分子の結合で境膜構造(結晶構造体)の保護膜Mが形成されており、気液相互の物質移動が阻止されて気泡が安定な状態になったものと考えられる。そして、窒素、メタン、アルゴンの気液混合液内の気泡(ナノバブル)の内圧は、ヤングラプラスの式から求められる圧力よりも約2倍以上である。このように気泡界面の水素結合距離が短く、気泡の内圧が高くなることによって、気泡が安定した気液混合液となるのである。
【0070】
[水素結合の距離]
図10は、液体として純水、気体として窒素を使用した気液混合液(窒素混合水)と、窒素が純水に飽和溶解濃度で溶解した窒素飽和水との赤外吸収スペクトルとの差分を示すグラフである。水のOH収縮振動による赤外吸収帯としては通常3400cm−1付近に吸収極大があることが知られているが、グラフに示されるようにOH収縮振動の吸収極大が3200cm−1付近にずれている。吸収極大が3400cm−1にある場合、水素結合の距離は0.285nmである。一方、吸収極大が3200cm−1にある場合、水素結合の距離は0.277nmであることが知られており、常温常圧下における通常の水素結合の距離よりも短くなり構造化された氷またはハイドレートに近い水と結論づけられる。
【0071】
[気泡の分布量]
気泡の分布量(個数)は表1から算出した。
【0072】
気体が窒素の場合、大気中(0.1MPa)に戻した気泡総量が0.56Lであり、気泡の内圧が6.3MPaであるので、水中での気泡総体積量V1は、等温変化と仮定し、PV=constより
V1=0.56×0.1÷6.3
となる。
【0073】
また、気泡は半径r=50nmの球体であるから、気泡1個当たりの体積V2は
V2=4/3×π×r^3
となる。
【0074】
以上より、水1L当たりの気泡の個数n=V1÷V2=1.7×10^16個と算出される。
【0075】
同じように水1L当たりの気泡の個数は、気体がメタンの場合は1.8×10^16個、アルゴンの場合は1.7×10^16個と算出される。
【0076】
[気液混合液の安定性]
図11は、空気を純水に混合させて生成した気液混合液について、ガラスビンに密封し一定温度で保管した場合の、飽和溶解濃度に対する気液混合液中の気体存在量比を過飽和度として表示するグラフである。グラフから、過飽和度は400時間経過しても6であり、ほとんど変化していないことが分かる。よって、本発明の気液混合液が長期間に亘って非常に安定であることが確認された。
【0077】
このように、気液混合液生成部1で得ることができる気液混合液は、ナノバブルが液体中に存在しているものであり、ナノバブルを形成する気体の圧力、すなわち内圧は0.12MPa以上である。このように、気泡の内圧は、常温(25℃)において大気圧(1気圧=0.1013MPa)よりも十分に高いものであり、気泡が高い内部圧で維持されることになる。そのため、強固な界面構造を気泡界面において形成することができ、気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく、安定に存在させることができる。また、このナノバブル中の気体の圧力は、外部からの衝撃がない限り長期間に亘って液体からの押圧との均衡を保つものであるから、ナノバブルが安定に存在した気液混合液を長期間に亘って利用することが可能になる。なお、気液混合液に一旦衝撃が加えられると、内部圧の力によりナノバブルが合体して発泡するため、この発泡を利用することもできる。
【0078】
つまり、気液混合液生成部1で生成するナノバブルは、従来の表面張力で安定している気泡とは異なるものである。
【0079】
ナノバブルを形成する気体の圧力を、ヤングラプラスの式で与えられる気泡の内圧より高い圧力にすることで、より強固な界面構造を確実に形成することができる。また、ナノバブルを有する気液混合液においては、該気液混合液に含有される気体の濃度を、液体の飽和溶解濃度以上にすることができる。これにより、液体中に含有された高濃度の気体を利用することができ、気液混合液の利用価値を高めることができる。
【0080】
なお、気液混合液としては、液体中には飽和溶解量の気体が溶解しており、その飽和溶解液にナノバブルが存在しているものとすることがさらに好ましい。飽和溶解量で気体が溶解していれば、気泡となった気体を溶解させることなく安定化して気泡として液体中に保持することがより可能となる。すなわち、飽和溶解量以上に気体が存在する気液混合液は、液体中に飽和濃度で気体が溶解しており、気泡が崩壊したり溶解したりすることがなく、より安定に気泡を液体中に存在させることができるのである。さらに、ナノバブルを形成する気体の溶解濃度が、飽和溶解濃度であれば、気泡を形成する気体の圧力が高くなって気泡界面の構造が強固になるので、さらにナノバブルを安定化することができ、また、各種の活性(生理活性、洗浄力等)の作用が強力になって、利用価値をさらに上げることもできる。
【0081】
また、ナノバブルは非常に微細なものであるから、気泡の内部圧を安定化することや、高濃度の気体を液体中に保持することが可能となる。また、ナノバブルには浮力が働かないため、気泡を長期に亘って安定に存在させることができる。この範囲より気泡が小さくても大きくても、気泡を安定化させることができなくなるおそれがある。ところで、マイクロバブルが混合された液体は白濁するため目視により判別可能であるが、ナノバブルが混合された液体は無色透明(あるいは液体が有色の場合は液体の色)となる。
【0082】
気液混合液に用いる液体としては、水素結合を形成する分子からなる液体であることが好ましく、その際、液体のナノバブルとの界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧(25℃、1気圧(0.1013MPa))であるときの水素結合の距離よりも短くなることが好ましい。水素結合とは、電気陰性度の大きい原子と水素原子とを有している分子において、水素原子が他の分子の電気陰性度の大きい原子に接近し、系が安定化する結合のことである。そして、この場合、気液混合液を形成する液体中に存在するナノバブルの周囲、すなわち気泡界面においては、液体の水素結合の距離が、この液体の常温常圧での水素結合の距離よりも短いものとなるのである。
【0083】
このように、気液混合液が常温常圧の条件で存在する場合において、気泡界面における水素結合の距離が常温常圧での通常の水素結合の距離よりも短くなることにより、ナノバブルの周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことになる。そして、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となってナノバブルを包み込む。それによって、ナノバブル同士が衝突しても崩壊することが防止される。また、液体からの圧力に対してナノバブル内部からの応力で対抗できるので、ナノバブルを液体中で消滅させたり合体させたりすることなく保持することができるものである。
【0084】
ナノバブルとの界面における液体分子の水素結合の距離は、用いる液体によって適宜設定され得るものであるが、常温常圧での水素結合の距離を100%とした場合に、99%以下であることが好ましい。水素結合の距離がこの範囲になることで、ナノバブルを水素結合の硬い殻で取り囲んで安定化させることができる。水素結合の距離がこれより長いと、ナノバブルを安定化させて存在させることができなくなるおそれがある。原子間距離を考慮すると、水素結合の距離の下限は95%である。
【0085】
ところで、水素結合の距離が短くなると、通常、水が氷になるように固体やハイドレート結晶構造へと状態変化するのだが、上記の気液混合液においては、気泡界面において局所的に距離の短い水素結合を形成し、それ以外の液体中は通常の水素結合を形成している。すなわち、気泡界面では距離の短い水素結合により液体分子の硬い殻を形成して、ナノバブル同士が合体することや消滅することを防止すると共に、気泡界面以外では通常の状態で液体が存在して常温常圧では流動性を確保している。これにより、安定なナノバブルが存在している液体を利用しやすくなっている。
【0086】
また、気液混合液に用いる液体を水とした場合、水分子により、ナノバブルの界面において該ナノバブルの内部圧を吸収する強固な界面構造を形成することができ、ナノバブルをより安定化させることができる。水分子は、O…Hの水素結合、つまり、ある水分子の酸素原子と他の水分子の水素原子との間に水素結合を形成するものであり、したがって、気液混合液の液体として水を用いると、気泡界面において液体中のこの水素結合が強固になってナノバブルをより安定化させることができる。さらにいえば、水は供給源が豊富で安定して得ることができ、加えて、ナノバブルが分散した水は応用範囲が広いため、利用価値の高い気液混合液を得ることができる。水としては純度の高い水に限られず、上下水道、池、海水などをはじめ、あらゆる水を使用することが可能である。すなわち、液体として水を含むものであればよい。
【0087】
また、液体については、O−H結合、N−H結合、F−H結合やCl−H結合などの(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることも好ましい。これらの液体によりナノバブルの界面において該ナノバブルの内部圧を吸収する強固な界面構造を形成することができ、ナノバブルをより安定化させることができる。また、これらの液体は、水素原子に対して電気陰性度が十分に大きい原子と水素原子との結合を有する液体であり、O−H…O、N−H…N、F−H…FやCl−H…Clなどの(ハロゲン)−H…(ハロゲン)、S−H…Sといった水素結合を形成し、この水素結合によりナノバブルを取り囲んで安定化させることができる。O−H結合を有する代表的な液体は水であるが、その他、過酸化水素や、メタノール、エタノールなどのアルコール、グリセリンなども挙げられる。また、N−H結合を有する液体としては、アンモニアなどが挙げられる。また、(ハロゲン)−H結合を有するものとしては、F−H結合を有するHF(フッ化水素)、Cl−H結合を有するHCl(塩化水素)が挙げられる。S−H結合を有するものとしては、HS(硫化水素)が挙げられる。
【0088】
また、液体が、カルボキシル基を有する分子からなる液体であることも好ましい。これにより、カルボキシル基を有する液体により、ナノバブルの界面において該ナノバブルの内部圧を吸収する強固な界面構造を形成することができ、ナノバブルをより安定化させることができる。また、カルボキシル基には、電気陰性度が大きいカルボニルの酸素原子が存在しており、カルボキシル基中のカルボニルの酸素原子と他のカルボキシル基中の水素原子とが水素結合を形成してナノバブルを取り囲むので、安定にナノバブルが存在した気液混合液が得られるのである。カルボキシル基を有する分子からなる液体としては、ギ酸、酢酸などのカルボン酸などが挙げられる。
【0089】
気液混合液に用いる気体としては、特に限定されるものではなく、種々の気体を用いることが可能である。例えば、空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴン、水素、ヘリウム、メタン、プロパン、ブタンなどの気体を単一で又は混合して用いることができる。
【0090】
また本発明において得られる気液混合液では、液体として水を用いた場合にゼータ電位がマイナスとなり、体積1cm中に存在する気泡界面の面積は0.6m程度となる。このような特性を利用することも可能である。
【0091】
以上、第1例の機能液生成装置が具備する気液混合液生成部1の構成や、これにより生成されるナノバブルを含む気液混合液の特徴について詳述した。
【0092】
第1例の機能液生成装置においては、上記特徴のナノバブルを含む気液混合液に対して放電を行い、高濃度のナノバブル内の気体において放電により各種の有効成分を発生させる。これによって、有効成分を非常に高濃度に、且つ、非常に安定的に保持した機能液を創り出すことができる。液保持部2内において創り出した機能液は、ポンプ等を用いた適宜の液体吐出手段(図示せず)によって該液保持部2から外部に取り出して用いる。なお、図示例では循環路5により、気液混合液生成部1と液保持部2の間で液体を循環させながら機能液を生成するように設けているが、循環させずに機能液を生成する構成であってもよい。この場合、循環路5の代わりに、気液混合液生成部1を上流側として液保持部2を下流側とするような流路を設ければよい。
【0093】
図12、図13、図15には、本発明における第2、第3、第4例の機能液生成装置をそれぞれ示している。第2〜第4例の機能液生成装置では、ナノバブルを含む気液混合液を生成する気液混合液生成部1の構成や、この気液混合液内において放電を生じさせるといった基本的な構成については第1例と一致しているが、放電部3等の構成については第1例と相違している。以下においては、各例の機能液生成装置において第1例と一致する構成についての詳しい説明は省略し、第1例とは相違する構成についてのみ詳述する。
【0094】
図12には、本発明における第2例の機能液生成装置を示している。本例においては、放電部3を形成する針状の放電電極7と平板状の対向電極8のうち、放電電極7の少なくとも先端部7aを液保持部2内に位置させて該先端部7aが気液混合液に浸るように設け、対向電極8を液保持部2外に位置させている。具体的には、対向電極8の平板部分を、液保持部2の外殻を成す容器2aの壁板外面において放電電極7の先端部7aと対向する箇所に密着固定させている。
【0095】
第2例の機能液生成装置では、電圧印加部4によって両電極7,8間に電圧を印加すると、気液混合液内においては、容器2aの壁板を介して放電が生じる。ここで、容器2aの材質として適宜の絶縁性のものを選択することや、容器2aの壁板の厚み等の形状を選択することによって、ナノバブルを含む気液混合液内で生じる放電現象を、有効成分を安定的且つ継続的に生成できる好適な放電となるように、適宜制御することができる。
【0096】
図13には、本発明における第3例の機能液生成装置を示している。本例においては、針状の放電電極7の先端部7aと対向電極8の平板部分をともに液保持部2内の対向位置に配しているが、放電電極7については気液混合液に浸らない位置に設けている。具体的には、液保持部2の容器2aの底壁内面に対向電極8の平板部分を固定させ、この対向電極8の平板部分の中心上方に距離を隔てて放電電極7の先端部7aを配置させ、液保持部2内の気液混合液の液面Sを、対向電極8の平板部分と放電電極7の先端部7aとの間に位置するように設定している。
【0097】
第3例の機能液生成装置では、電圧印加部4によって両電極7,8間に電圧を印加すると、気液混合液においては、液面Sに沿う空気層40を介して放電が生じる。ここで、液保持部2内での放電電極7の先端部7aの位置や気液混合液の液面Sの高さ等を選択することによって、ナノバブルを含む気液混合液内で生じる放電現象を、有効成分を安定的且つ継続的に生成できる好適な放電となるように、適宜制御することができる。
【0098】
なお、上記した各例においては、対向電極8の形状を平板状としているが、リング状であってもよい。この場合、図14に概略的に示すように針状の放電電極7とリング状の対向電極8とを対向配置した構造となり、上記した各例においては、平板部分を図14に示すようなリング状の対向電極8に置き換えた構成となる。
【0099】
図15には、本発明における第4例の機能液生成装置を示している。本例においては、放電部3を成す放電電極7と対向電極8をともにメッシュ状に形成している。具体的には、液保持部2の外殻を成す容器2aを、内筒部41と外筒部42からなる二重筒状に形成し、内筒部41と外筒部42との間で囲まれる部分に気液混合液を貯留するように設ける。放電電極7はその全体をメッシュ状に形成したものであり、内筒部41の内周面に全周に亘って密着固定させている。対向電極8は、同じく全体をメッシュ状に形成したものであり、外筒部42の外周面に全周に亘って密着固定させている。
【0100】
第4例の機能液生成装置では、電圧印加部4によってメッシュ状の両電極7,8間に電圧を印加すると、気液混合液内においては、内筒部41と外筒部42の周壁を介して放電が生じる。ここで、内筒部41や外筒部42の材質として適宜の絶縁性のものを選択することや、内筒部41や外筒部42の壁板の厚み等の形状を選択することによって、ナノバブルを含む気液混合液内で生じる放電現象を、有効成分を安定的且つ継続的に生成できる好適な放電となるように、適宜制御することができる。
【0101】
本例ではガスボンベまたはコンプレッサーから成るエア供給部43を備えており、このエア供給部43から送り出したエアを内筒部41内の空間部44に流すように設けている。これにより、放電時の発熱によって放電電極7や気液混合液が温度上昇することを、空間部44内を流れるエアの空冷作用によって抑制することができる。
【0102】
なお、図示の構成では、放電部3を成す放電電極7と対向電極8の放電発生部分の全部をメッシュ状に形成しているが、放電発生部分の一部だけをメッシュ状に形成してもよい。また、図示の構成では、放電電極7と対向電極8の両方を気液混合液には浸らないように(つまり、内筒部41と外筒部42とで囲まれる部分には位置しないように)配置しているが、放電電極7と対向電極8の一方だけが気液混合液に浸るように(つまり、内筒部41と外筒部42とで囲まれる部分内に位置するように)配置してもよい。
【0103】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記各例の実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、各例において適宜の設計変更を行うことや、各例の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 気液混合液生成部
2 液保持部
3 放電部
4 電圧印加部
7 放電電極
8 対向電極
ナノバブル
Lq 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中にナノメータサイズの気泡を混合させてなる気液混合液を保持する液保持部と、液保持部が保持する気液混合液内にて放電を生じさせる放電部と、放電部に電圧を印加させる電圧印加部とを具備することを特徴とする機能液生成装置。
【請求項2】
前記気液混合液をなす液体は、水素結合を形成する分子からなる液体であり、該液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の機能液生成装置。
【請求項3】
前記気液混合液をなすナノメータサイズの気泡は、0.12MPa以上の圧力の気体で形成したものであることを特徴とする請求項2に記載の機能液生成装置。
【請求項4】
前記放電部は、液保持部内の気液混合液に浸るようにその放電発生部分を配置したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能液生成装置。
【請求項5】
前記放電部は、放電電極と対向電極とから成り、放電電極と対向電極の一方を液保持部内の気液混合液に浸るように配置したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能液生成装置。
【請求項6】
前記放電部は、放電電極と対向電極とから成り、放電電極は針状電極であるとともに、対向電極はリング状電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の機能液生成装置。
【請求項7】
前記放電部は、その放電発生部分の一部または全部をメッシュ状に形成したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の機能液生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−11126(P2011−11126A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156108(P2009−156108)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】