機能的に関連する遺伝子および薬物標的を同定するための方法
mRNA複合体に関連し、共通生理経路に関与するタンパクの発現に関わるmRNAおよびタンパク標的の特定と評価が記載される。効果的標的は、生理的経路と関連する疾患、状態、または障害の処置に有用である。本発明は、細胞の代謝状態を評価するための方法であって、以下、a)少なくとも一つのRNA結合タンパク質、および少なくとも一つのmRNAまたは少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を含む少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;ならびに、b)該少なくとも一つのmRNA、または該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現レベルを定量する工程であって、該少なくとも一つのmRNA、または該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現レベルが、細胞の代謝状態を示す工程を包含する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、1999年12月28日出願米国出願第60/173,338号の利益を主張する、2000年12月28日出願米国出願第09/750,401号の一部継続出願である。両方を参照することによりその全体を本出願に含める。
【0002】
(政府援助)
本発明は、国立衛生研究所により贈与された研究補助金第RO1 CA79907号による政府援助によって為されたものである。政府は本発明においていくつかの権利を有する可能性がある。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、mRNAタンパク(mRNP)複合体に関連する、機能的に連関する遺伝子産物を特定して特性を解明し、細胞の遺伝子発現を解明するための方法および組成物を提供する。本発明はまた、治療標的および治療剤の特定・解明するための方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
多くの遺伝子は、複雑な一連の相互作用によって調整され、固有の遺伝子発現パターンを実現する。このような遺伝子発現パターンは、細胞タイプの違いによって、細胞の発達段階または分化状態の違いによって、シグナル分子、ストレス、感染、その他の細胞状態または障害に細胞が曝されているのかによって変動する。変動する遺伝子発現パターンを制御する過程を理解しようとする努力は、従来、転写制御事象および翻訳を取り巻く事象に専ら集中していた。一方、mRNAの安定性、配置、および翻訳効率の制御等、転写後調整過程におけるmRNAタンパク複合体(mRNP複合体)の役割についてはほとんど注意が払われて来なかった。まして、機能的関連遺伝子(例えば、ある機能または経路を分担する、または関与する複数の遺伝子)を調和的に関連づける転写後過程についてはさらに知られていない。これら機能的関連遺伝子は、特定のmRNP複合体に共存し、また同じRNA結合タンパク(RBP)に結合することが多い。
【0005】
いくつかのmRNAの転写後遺伝子制御は、mRNA前駆物質のイントロンおよびエキソンに存在している調製要素または配列、ならびに、成熟転写物のコードおよび非コード領域に存在する調整要素または配列によって仲介される。このような調整要素の一つの例として、初期反応遺伝子mRNAの3′未翻訳領域(UTR)に存在するAUリッチの不安定要素(ARE)がある。この初期反応遺伝子の多くは、成長と分化にとって必須なタンパクをコードする。mRNP複合体と関連するRNA結合タンパクは、インビトロでAREに結合するが、インビボでは、転写後mRNAの安定性と翻訳を仲介する。一方、RNA結合タンパクと結合する必ずしも全てのmRNAが、AREまたは他の共通の調整要素を有しているわけではない。さらに、RNA結合タンパクが、AREを含まないmRNAを認識するメカニズム(単数または複数)も未知である。
【0006】
RNA結合タンパクを用いたインビトロ結合アッセイから、ある特定のRNA結合タンパクと関連するmRNAは、多くの場合、構造的にあるいは機能的に関連することが判明した。しかしながら、このようなインビトロ方法は、細胞内および細胞間のシグナル事象に応答して変動する、ダイナミックな性質を持つインビボでのmRNAとmRNP複合体との関連性を反映しない。従って、インビボにおいて、RNA結合タンパク−mRNA相互作用を始めとして、mRNAとmRNP複合体タンパクとの関連性をモニタリングするための信頼度の高い方法が求められている。このような方法を用いることによって、mRNA−タンパク相互作用、およびその機能的意味の解明が可能となり、生物学的経路が明らかにされ、さらに治療標的および治療剤の特定が可能となろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の概要)
本発明は、mRNP複合体を特定、利用、特性解明し、それによって、相互に調和的に発現し、ある特定のmRNP複合体と関連する、機能的に関連する複数の遺伝子産物を特定する方法および組成物を提供する。ある特定のmRNP複合体に関連する複数の遺伝子産物は、構造的および/または機能的関係に基づいて生物学的に関連するサブセットに分類される。mRNA、RNA結合タンパク、他のmRNP複合体関連タンパクを含むこれらの遺伝子産物は、酵素経路のような特定の生物経路に関与しているかも知れないし、あるいは、他の細胞事象または、病理現象、例えば、腫瘍成長、アポトーシス、分化、加齢、または細胞毒性に関与しているかも知れない。特定され、特性解明された、機能的・構造的に関連する複数遺伝子産物は、細胞または細胞集団に対し一つのリボノームプロフィールを生成する。このリボノームプロフィールは、細胞、または細胞集団の生涯における任意の一時点の、正常または病的状態、または、環境の影響や薬剤に対応する遺伝情報の流れのスナップショットを提供する。このリボノームプロフィールは、疾患または他の細胞事象に対する診断マーカーとして、また、1種以上のmRNP複合体関連遺伝子産物の発現を変える治療標的および治療剤を速やかに特定するために使用される。特定された遺伝子産物自体も、診断および治療インディケーターとして使用される。
【0008】
例えば、本発明は、被験体の細胞サンプルにおけるmRNP複合体関連遺伝子産物の発現変化をモニタリングし、この発現変化を、正常な被験体のサンプルまたは他の非病的細胞サンプルのものと比較することによって、病状をモニタリングすることを始め、疾患または、疾患に罹る危険性を診断するための方法を提供する。例えば、本発明は、ある細胞サンプルのリボノームプロフィールを、ある細胞タイプの基準RNPプロフィール特性と比較することによって、ある細胞集団、例えば、腫瘍、バイオプシー、または体液における細胞タイプを評価するために有用である。細胞タイプの特定は、腫瘍、またはその他の細胞病理現象を診断し、治療処方を指示するのに有用である。
【0009】
本発明は、細胞サンプルを試験化合物に接触させ、mRNP複合体を単離し、その発現が、化合物に反応して変化したmRNP複合体成分を特定することによって、治療標的を特定する方法を提供する。治療標的は、そのRNP複合体の中から任意に選ばれる成分であってもよいし、あるいは、その成分をコードする遺伝子またはRNAであってもよい。例えば、あるRNP複合体から単離されたRNAを用いて、どの遺伝子が試験化合物によって影響されるのかを特定するために、核酸アレイをプローブ探索してもよい。
【0010】
本発明はまた、試験化合物の、治療剤としての効力を評価するための方法を提供する。細胞サンプルは試験化合物と接触させられ、その細胞サンプルのmRNP複合体は、そのmRNP複合体に関連する遺伝子産物の発現変化を示すリボノームプロフィールを調製するのに使用される。処置細胞サンプルにおける遺伝子産物発現レベルの、未処置細胞サンプルのレベルと比較した場合の差は、試験化合物が治療剤候補であることを示す。
【0011】
本発明はまた、試験化合物の毒性を定量し、細胞死に与る遺伝子を特定するのにも使用が可能である。毒性は、後述するように、細胞サンプルを様々な用量の試験化合物で処理することによって定量される。調整分子、例えば、転写因子をコードする核酸を含むアレイに対し、ある特定のRNP複合体から単離されたRNAを用いてプローブ探索することによって、その発現が特定の毒素の存在下で変化させられる転写因子、RNA結合タンパク、または、他の転写、転写後、翻訳、または翻訳後調整因子が特定される。
【0012】
(詳細な説明)
本発明は、mRNA−タンパク(mRNP)複合体と機能的に相互関連するmRNAおよびタンパクを特定し、測定することによって細胞リボノームを掘り出し、特性解明をするための方法を提供する。本発明は、ゲノムとプロテオームの間のタンパク生合成経路に沿って存在する遺伝子調整情報を獲得し、利用する点に注目したものである(図1)。
【0013】
本発明は、細胞の代謝および病的状態を診断、モニタリング、または評価するための有用なツールとして、治療標的候補を特定するための有用なツールとして、治療剤候補を特定し、その効力または毒性を評価するための有用なツールとして、mRNA−タンパク(mRNP)複合体を特定する。さらに、本発明は、構造的および/または機能的に関連する遺伝子産物を特定し、解明して、生物学的経路または過程を明らかにする方法を提供する。
【0014】
一般に、mRNP複合体は、少なくとも一つのRNA結合タンパク、少なくとも一つの会合または結合mRNA、少なくとも一つの会合または結合タンパク(すなわち、mRNP複合体関連タンパク)を含むがそれらに限定されない各種成分から成るが、さらにその他の会合または結合分子(例えば、炭水化物、脂質、ビタミン等)から成っていてもよい。ある成分は、それが、mRNP複合体と、約10−6から10−9のKdにおいて結合するか、またはその他のやり方で付着する場合に、mRNP複合体に会合するとする。好ましい実施形態では、成分は、約10−7から10−9のKdにおいて複合体に会合する。より好ましい実施形態では、成分は、約10−8から10−9のKdにおいて複合体に会合する。
【0015】
会合または結合mRNAは、ある特定のRNA結合タンパク、またはmRNA複合体関連タンパクとの関連に基づいて異なるサブセットに分類される。細胞中の各mRNP複合体を単離し、好ましくは、そのmRNP複合体の成分を特定し、かつ、それらの成分の遺伝子前駆体および遺伝子産物を特定することによって、その細胞のリボノーム発現プロフィールの生成が可能となる。細胞リボノームのmRNA成分を特定することによって、細胞トランスクリプトームの一連のサブプロフィールへの分解が可能となる。これらのサブプロフィールは、総合すると、細胞または組織の遺伝子発現状態を定義するのに用いることができる(図2参照)。リボノームプロフィールは、細胞の分化状態、細胞の種類または組織タイプ、細胞の発達状態、細胞の病原性(例えば、細胞が感染している場合、有害遺伝子を発現する場合、特定の遺伝子を欠失する場合、特定の遺伝子を発現しない場合、または特定の遺伝子を過剰発現する場合)、mRNP複合体を単離するのに使用された特定のリガンド、細胞に影響を及ぼす各種条件(例えば、環境、アポトーシス、またはストレス状態、および、疾患またはその他の障害)、および、当業者には既知のその他の要因を含めるが、ただしそれらに限定されない様々な要因に従って、細胞サンプル毎に異なる。
【0016】
(mRNP複合体の単離)
mRNP複合体は、天然の生物サンプル、例えば、組織、細胞、体液、器官、または生物体から単離される。好ましい実施形態では、生物サンプルは、細胞集団から得られる。細胞集団は、単一細胞タイプを含むものであってもよい。あるいは、細胞集団は、一次培養体または二次培養体から得られる、または、腫瘍のような複雑な組織から得られる異なる細胞タイプの混合物を含んでもよい。
【0017】
一つの実施形態では、mRNP複合体は、mRNP複合体のある成分の発現が誘発、または抑制されるなどして変化させられた細胞サンプルから単離される。別の実施形態では、ある特定のmRNP複合体または成分、あるいはmRNP複合体の1種以上の成分の前駆物質が、サンプルに導入されているか、または、遺伝的に変更されている。1種以上のmRNP複合体成分の導入は、感染、形質変換、または他の、従来技術で既知の方法で行われてよい。一つの実施形態では、mRNP複合体の1種以上の成分を発現するベクターが細胞にトランスフェクトされる。適切なベクターとしては、プラスミドベクターまたはウィルスベクターのような組み換えベクターが挙げられるが、それらに限定されない。その成分は、細胞における発現のための、適当なプロモーターおよび/またはエンハンサー配列に動作的に連結されているのが好ましい。本発明のある実施形態では、ある特定の細胞タイプは、RNA結合タンパクの発現を駆動する細胞タイプ特異的または誘発可能な遺伝子プロモーターを含むように加工される。このRNA結合タンパクに対して特異的なリガンド、例えば抗体は、そこに付着、または会合するmRNAと共にそのRNA結合タンパクを、対象とする細胞タイプを含む組織抽出物から免疫沈降させてもよい。次に、そのRNAは特定されて、その細胞タイプの発現プロフィールを形成するか、あるいは、後述するように、単離されてさらにその後の研究に使われる。
【0018】
あるいは、細胞サンプルは、mRNP複合体のある成分を発現しないか、または、その成分を低レベルでしか発現しないノックアウト細胞系統、または、ノックアウト生物体を含んでもよい。好ましくは、ノックアウト細胞系統またはノックアウト生物体は、ある特定のRNA結合タンパク、mRNA複合体に会合するmRNA、またはRNA結合タンパク、またはmRNP複合体関連タンパクを発現しない。
【0019】
ある好ましい実施形態では、成分の分離、観察、および/または検出を容易にするために、mRNP複合体成分をコードする核酸にタグが付される(例えば、タグ付きRNA結合タンパク)。接近可能なエピトープを用いてもよいし、成分上のエピトープが接近不能であったり不明の場合には、局外発現された組み換えタンパクに対するエピトープタグを用いてもよい。適切なタグとしては、ビオチン、MS2タンパク結合部位配列、U1snRNA70k結合部位配列、U1snRNA A結合部位配列、g10結合部位配列(Novagen,Inc.,マジソン、ウィスコンシン州)、および、FLAG−TAG(登録商標)(Sigma Chemical、セントルイス、ミズーリ州)が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。例えば、タグ標識RNA結合タンパクの発現を指示するトランスフェクトベクターを含む形質変換細胞は、その他の細胞タイプと混合してもよいし、あるいは動物またはヒト被験体に組み込まれてもよい。ある実施形態では、リガンド、例えば、タグに対して特異的な抗体または抗体断片を用いて、形質変換細胞を含む組織抽出物から、関連mRNAと共にタグ標識RNA結合タンパクを免疫沈降させる。次に、mRNP複合体および関連RNAを特定することによって、その細胞タイプの発現プロフィールを形成し、その後の分析に役立てることが可能である。
【0020】
1種以上のmRNP複合体成分の発現を、細胞サンプルを既知のまたは試験化合物と接触させることによって変えてもよい。その化合物としては、タンパク、核酸、ペプチド、抗体、抗体断片、小型分子、または酵素が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。化合物が核酸である場合には、その核酸はアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、アプタマー、デコイ核酸、または競合核酸であってもよい。一つの実施形態では、化合物は、競合的結合を通じてmRNP複合体成分の発現を変えてもよい。化合物は、例えば、RNA結合タンパクとmRNAの間の結合、RNA結合タンパクとmRNP複合体関連タンパクの間の結合、または、mRNAとmRNP複合体関連タンパクの間の結合を抑制してもよい。別の実施形態では、細胞サンプルは、1種以上のmRNA複合体の発現を変えるために、病原体、例えば、ウィルス、細菌、プリオン、真菌、寄生生物、または酵母に感染される。
【0021】
本発明においてはmRNP複合体の単離には任意の方法を用いてよいが、同時係属出願中の米国出願第09/750,401および10/238,306号に開示される方法が好ましい。この開示を参照することにより本明細書に含める。インビボでmRNP複合体を単離する方法は、少なくとも一つのmRNP複合体を含む生物サンプルを、そのmRNP複合体の成分に特異的に結合するリガンドと接触させることを含む。例えば、リガンドは、抗体、核酸(例えば、アンチセンス、アプタマー、またはRNAi分子)、または、その複合体の成分に特異的に結合する他の任意の化合物または分子であってもよい。ある実施形態では、リガンドは、mRNP複合体特異的抗体またはタンパクの生産と関連することがわかっている異常を持つ被験体の血清を用いて得られる。このような異常の例としては、自己免疫疾患、およびいくつかのガンが挙げられる。ある実施形態では、リガンドは、そのリガンドの分離、観察、または検出を容易にするために、他の化合物または分子によってタグ標識される。本発明の一つの実施形態では、リガンドは、従来技術で記載されるようにエピトープタグ標識される。
【0022】
ある実施形態では、mRNP複合体は、リガンド(現在mRNP複合体に結合している)を、そのリガンドに特異的に結合する結合分子に結合させることによって分離する。結合分子は、リガンドに直接的(例えば、リガンドに対して特異的な結合相手)に結合してもよいし、間接的(例えば、リガンドのタグに対して特異的な結合相手)に結合してもよい。適当な結合分子としては、プロテインA、プロテインG、およびストレプトアビジンが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。結合分子はまた、自己免疫疾患またはガンのような異常を患う被験体の血清を用いて入手することも可能である。ある実施形態では、リガンドは、mRNP複合体の成分に、そのFab領域を通じて結合する抗体であり、結合分子は、抗体のFc領域に結合する。
【0023】
ある実施形態では、結合分子は支持体に付着される(例えば、ビーズ、ウェル、ピン、プレート、またはカラムのような固相支持体)。従って、mRNP複合体は、リガンドおよび結合分子を介して支持体に付着される。次に、mRNP複合体を、支持体から外す(例えば、適当な溶媒および、熟練した当業者には既知の条件を用いて)ことによって収集する。
【0024】
本発明のある実施形態では、mRNP複合体は、リガンドをそれに結合させる前に、架橋結合によって安定化される。一般に、架橋結合は、共有結合(例えば、mRNP複合体の成分同士を共有的に結合させる)を含む。架橋結合は、物理的手段(例えば、加熱または紫外線照射)によって実行してもよいし、あるいは化学的手段(例えば、フォルムアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、またはその他の既知の架橋仲介剤に、複合体を接触させること)によって実行してもよい。その方法は、従来技術に熟達した当業者には既知である。別の実施形態では、リガンドが、mRNP複合体に結合した後に、mRNP複合体に架橋結合される。さらに別の実施形態では、結合分子が、リガンドに結合した後にリガンドに架橋結合される。さらに別の実施形態では、結合分子は支持体に架橋結合される。
【0025】
本発明の方法は、複数のmRNP複合体の、同時的単離および特性解明を可能にする(例えば、「集合的」)。例えば、生物サンプルを、それぞれが別々のmRNP複合体に対して特異的な複数のリガンドに接触させる。そのサンプルの複数のmRNP複合体は、適当な特異的リガンドに結合する。次に、この複数のmRNP複合体を、適当な結合分子を用いて分離し、その複数のmRNP複合体を単離する。次に、このmRNP複合体、およびそのmRNP複合体の中に含まれるmRNAを、本明細書に記載される方法や、従来技術で既知の方法によって特性を解明し、および/または、特定する。あるいは、本発明の方法を一つのサンプルについて多数回行い、1回毎に別のリガンドを用いてmRNP複合体を時系列的に特性解明し、特定する。
【0026】
本発明の方法によって単離されたmRNAおよび/またはmRNAから得られたcDNAの増幅は、本発明には必要ではないし、要求もされない。しかしながら、熟練した当業者であれば、従来技術で既知の数多くの核酸増幅法(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QT−PCR)、または鎖変位分析(SDA))の中から任意に選ばれる方法に従って、特定された核酸を増幅することを選択するかも知れない。
【0027】
(単離されたmRNP複合体の分析)
本発明は、細胞の代謝状態または遺伝子発現状態を評価する方法を提供する。少なくとも一つのmRNP複合体を単離して後、そのmRNP複合体および/または少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパクに関連する、少なくとも一つのmRNAの発現レベルを定量する。ある実施形態では、ある特定のmRNP複合体におけるmRNA(単複)またはmRNP複合体関連タンパク(単複)の発現レベルは、例えば、機能的に関連する遺伝子産物サブセットの遺伝子発現を示すサブプロフィールを提供する。ある実施形態では、ある特定のmRNP複合体に関連するmRNAサブセットは、機能的RNAネットワークまたは生物学的経路に特徴的なリボノームサブプロフィールを特定する。任意の特定の細胞または組織サンプルについてmRNAサブセットを収集した場合、その集合は、遺伝子発現プロフィールを構成する。さらに具体的には、その細胞または組織におけるリボノーム遺伝子発現を構成する。前述したように、リボノームプロフィールは細胞によってまちまちであることが理解されよう。従って、ある細胞のリボノームプロフィールは、その細胞の特定子として使用が可能であり、他の細胞のプロフィールまたはサブプロフィールと比較することが可能である。
【0028】
従って、一つの局面において、本発明は、サンプルまたは細胞集団に存在する細胞タイプを評価する診断法を提供する。方法は、少なくとも一つのmRNP複合体を単離し、そのmRNP複合体の少なくとも一つの成分の発現を検出することを含み、前記少なくとも一つの成分は、ある細胞タイプに対して特異的であり、従って、その成分の発現の検出は、その細胞集団の中にその細胞タイプが存在することを示すものとする方法である。その成分は、全サンプル(例えば、組織または生物体)内において、または、細胞集団内においてある細胞タイプに特異的であってもよい。サンプル、または細胞集団は、例えば、腫瘍、組織、培養細胞、体液、器官、細胞抽出物、または細胞分解物であってもよい。本発明の方法はまた、細胞集団の中に存在する細胞タイプであって、内皮、上皮、および平滑筋を含む−ただしそれらに限定されない−従来の細胞タイプを決定するために使用することも可能である。あるいは、本明細書で用いる細胞タイプはまた、特定の組織、特定の生物種、特定の分化状態、特定の病状、特定の細胞サイクル等から得られた細胞クラスを指すものであってもよい。
【0029】
別の局面では、本発明は、機能的および/または構造的に関連する遺伝子および遺伝子産物を特定し、解明するための方法を提供する。少なくとも一つのmRNPが単離され、mRNAおよび/またはmRNP複合体関連タンパクが特定される。機能的に関連する遺伝子産物は、類似の経路、すなわち、酵素経路、疾患発生、腫瘍成長、アポトーシス、分化、加齢、または細胞毒性を含めた−ただしこれらに限定されない−経路に関与する可能性がある。遺伝子産物をコードする遺伝子もまた標準法によって特定することが可能である。
【0030】
単離されたmRNP複合体は、一部はその成分の発現を全体として定量するために、または、その成分に分解するために調べることが可能である。mRNP複合体は、全体としてリガンドから分離することも可能であるし、または、mRNAをリガンド−RNA結合タンパク複合体から分離し、その後RNA結合タンパクをリガンドから分離することも可能である。あるいは、mRNAがリガンドに結合している場合、RNA結合タンパクをリガンド−mRNA複合体から分離し、次に、mRNAをリガンドから分離することも可能である。従来技術の実行者であれば、洗浄および化学反応を含めた、複数の成分を分離する標準法を弁えている。分離後、mRNP複合体の各成分を調べ、その名前、量、またはその他の特定因子を将来の参照用に記録しておく(例えば、コンピュータデータベースに)ことが好ましい。
【0031】
本明細書に開示される方法に従って区画されたmRNP複合体の上に、cDNAを用いて相補的mRNAを特定することが可能である。mRNAサブセットを集合として特定するためにcDNAマイクロアレイグリッドを用いることが可能である。マイクロアレイは正確に配列されたグリッドで、その中に、各標的核酸(例えば、cDNA、オリゴヌクレオチド、または遺伝子)が、注意深く滴下されたcDNAのマトリックスの中に一つの位置を占める。マイクロアレイ上で試験される各標的核酸は配置される正確なアドレスを持ち、結合は定量することが可能である。マイクロアレイは、市販の基板(例えば、紙、ニトロセルロース、ナイロン、その他、任意のタイプの膜フィルター、チップ、例えば、シリコンチップ、ガラススライド、シリコンウェーファー、または、他の、適当な固相または弾力性支持体)として配置されてもよい。さらに、サンプル中のmRNAは、「ハイブリダイゼーションによる配列決定」と呼ばれる過程である、結合および洗浄の厳格度に基づいて特定することが可能である。
【0032】
mRNAサブセット中のmRNA等を特定し、配列決定し、および/またはその他のやり方で特性解明する別の方法として、差動ディプレイ、ファージディスプレイ、SAGE(遺伝子発現の連続分析)、および、mRNA調製標本からcDNAライブラリーの調製とライブライーメンバーの配列決定が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0033】
従来技術でよく知られ、一般に利用可能なDNA配列決定用技術を用いて、本発明の実施形態の内から任意に選ばれるものを実行することが可能である。配列法は、DNAポリメラーゼのクレノウ断片、SEQUENASE(登録商標)(U.S.Biochemical Corp,クリーブランド、オハイオ州)、Taqポリメラーゼ(パーキンエルマー、ボストン、マサチューセッツ州)、熱安定T7ポリメラーゼ(Amersham、シカゴ、イリノイ州)、または、ポリメラーゼと、Gibco BRL(Invitrogen(商標)、カールスバート、カリフォルニア州)によって市販されるElongase(登録商標)増幅システムに認められるものと同じ校正エキソヌクレアーゼとの組み合わせを使用することが可能である。この過程は、装置、例えば、ハミルトンのマイクロラボ2000(ハミルトン、レノ、ネバダ州)、ペルチエ熱サイクラー(PTC200)(MJ Research、ウォータータウン、マサチューセッツ州)、および、ABIキャタリストおよび、3773と377DNAシーケンサー(パーキンエルマー、シェルトン、コネチカット州)と共に自動化されることが好ましい。
【0034】
ある実施形態では、本発明の方法は、細胞(例えば、発達中のもの、細胞周期変化を受けているもの、または、その他のやり方で、細胞変化または環境変化を受けているもの)から単離された核に対して、既知の技術による核放出アッセイを実行して、転写mRNAを得、次に、この転写mRNAを、同じ細胞のmRNP複合体からcDNAマイクロアレイを用いて単離された全体的mRNAレベルと比較することによって、実行される。従って、この方法は、定常な、集合的mRNAレベルに及ぼす転写作用と転写後作用とを区別する方法を提供する。例えば、図2は、全体細胞mRNA(トランスクリプトーム)、核放出mRNA、および、mRNP複合体内で結合してリボノームの一部を形成するmRNAを比較する模式的イラストである。全体RNA挿入図は、細胞(トランスクリプトーム)の中でマイクロアレイとして発現される全体mRNAを示す。核放出実験を示すマイクロアレイは(左下段)は、単離核による転写とAtlas(商標)アレイ(BD Biosciences Clonetech、パロアルト、カリフォルニア州)による分析によって得ることが可能である。定常レベルのmRNAを表すRNA蓄積を示す全体RNA、すなわち転写プロフィールは、転写および転写後事象によって影響されるが、それと違って、核放出実験によって検出されるmRNAは、転写後事象の影響前の遺伝子の転写のみを表す。mRNP複合体を代表するマイクロアレイは、不連続で、トランスクリプトームまたは核放出よりも限局した数のmRNAサブセットを含む。mRNP複合体マイクロアレイは、mRNP−1からmRNP−Xまで表示され、mRNA関連タンパクと反応する抗体を用いて単離されるmRNP複合体に見出されるmRNAを示す。
【0035】
mRNP複合体成分の特性を解明し、特定するその他の方法としては、標準検査室技術、例えば、逆転写または定量的PCR、RNアーゼ保護、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、マクロまたはマイクロアレイ分析、インサイチュハイブリダイゼーション、免疫蛍光、ラジオイムノアッセイ、および、免疫沈降が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。これらの方法から得られた結果は、mRNAサブセットおよび、その他のmRNP成分の機能的関係を解明するために、互いに比較され、対比される。
【0036】
本発明の実施に有用である、RNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクは従来技術で既知であり、あるいは、別のやり方で特定してもよいし、本明細書に記載される方法によって新たに発見されてもよい。RNA結合タンパクは、各種調整・発達過程、例えば、RNA処理と分画化、mRNAスプライシングと輸送、RNA安定化、mRNA翻訳、および、ウィルス遺伝子発現の制御に関与する。有用なRNA結合タンパクの例としては、ポリA結合タンパク(“PABP”)、および、ショウジョウバエELAV RNA結合タンパクに対する4個のELAV/Hu哺乳類相同体が挙げられる。HuA(HuR)は普遍的に発現されるが、一方、HuB,HuCおよびHuD(および、それぞれの、オールタナティブスプライシングによって生じる異性形も)は、主に神経組織に見出される。HuB、HuCおよびHuDはまた、いくつかの小細胞ガン、神経芽細胞腫、および骨髄芽細胞腫において腫瘍細胞特異的抗原としても発現される。Huタンパクは全て、AU富裕不安定要素(ARE)に対して結合特異性を与える、3種のRNA−認識モチーフを含む。Huタンパクは、インビトロにおいて、c−mys、c−fos、GM−CSF、およびGAP−43を含む、いくつかの、ARE−含有早期反応性遺伝子mRNAに対して結合する。ARE−含有mRNAに対するHuタンパクの結合は、mRNA転写物の安定と翻訳性の増大をもたらす。神経細胞特異的Huタンパクは、神経分化を誘発するためのレチノール酸治療後に、奇形ガン細胞において生産される、もっとも早期の神経細胞マーカーの一つである。
【0037】
その他の例示のRNA結合タンパクは、前mRNA処理に関与する細胞タンパクのRNA認識モチーフファミリーから選択される。そのようなタンパクの一つの例は、U1A snRNPタンパクである。RNA認識モチーフスーパーファミリーに関しては今日まで200を越えるメンバーが報告されており、その大部分が普遍的に発現されており、系統的に保存されている。多くは、ポリアデニレートmRNA、または核内小型リボ核酸(例えば、U1、U2等)、転移RNA、5Sまたは7S RNAに対して結合特異性を持つ。そのようなメンバーとして、hnRNPタンパク(A、B,C,D,E、F,G,H,I、K,L)、RNA認識モチーフタンパクCArG、DT−7、PTB、K1,K2、K3、HuD、HUC、rbp9、elF4B、sxl、tra−2、AUBF、AUF、32KDタンパク、ASF/SF2、U2AF、SC35、およびその他のhnRNPタンパクが挙げられる。RNA認識モチーフファミリーの組織特異的メンバーは上記のメンバーほど一般的ではないが、IMP、Bruno、AZP−RRMI、前B細胞で発現されるX16、puff特異的ショウジョウバエタンパクであるBj6、および、神経細胞特異的であるELAV/Huを含む。本発明の方法の実施において有用なRNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクは、自己免疫およびガン患者の血清から単離されるものを含む。本発明の実施に有用なRNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクの、非網羅的リストを下記の表1に記載する。
【0038】
(表1 RNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパク)
【0039】
【表1】
本明細書に記載の技術は、新規の(すなわち、新奇の、または従来未知の)RNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクを特定するのに用いられる(図3)。従って、本発明の一つの実施形態では、対象とするmRNA(図3では“RNA Y”と表示される)は、新規のRNA結合タンパクを捕捉するための「餌」として使用される。好ましくは、RNA Yは、先ず、標準的分子生物学的手法を用いてcDNAに変換され、次に、3′または5′末端において、本発明のリガンドと結合する配列をコードするDNAタグに連結される(リガンドは、図3ではタンパク“X”と描かれている)。言い換えると、このタグ付きDNAは、リガンドの結合相手をコードする。得られた融合RNAは細胞内で発現され、そこで内因性のRBPが結合し、RNA Yと相互作用を持つことが可能となる。次に細胞は分解され、セルフリーの抽出物が調製され、あらかじめ固相支持体マトリックス上に不動化されたタンパクXと接触させられる。インキュベーション後、タンパクXおよび付着RNA融合分子とその会合RNA結合タンパクは洗浄されて、残余の細胞物質が取り除かれる。洗浄後、新たに単離されたRNA結合タンパクが、RNA−タンパク複合体から外され、タンパク微細配列決定法によって特定される。有用なリガンドとしては、mRNP複合体特異的抗体またはタンパク(例えば、自己免疫障害またはガンの被験体から得たもの)、またはタンパク(例えば、MSIIコートタンパク)が挙げられる。有用な結合相手としては、リガンドに対して特異的な抗体が挙げられる。
【0040】
一旦部分的タンパク配列が得られたならば、対応するRNA結合タンパク遺伝子は、cDNAおよびゲノム配列に関する既知のデータベースから特定され、または、cDNAまたはゲノムライブラリーから単離され特定される。遺伝子は単離され、タンパクは発現され、抗体は、既知の技術を用いて組み換えRNA結合タンパクに対して生成されるのが好ましい。次に、この抗体を用いて、内因性RNA結合タンパクを回収し、その内容を確認する。次に、この抗体をリボノーム分析に用いて、RNA Yと集合する(すなわち、関連する)細胞RNAセットを定める。RNA結合タンパクについてさらに、RNA Yによってコードされるタンパク翻訳の調整能力を試験し、薬剤標的としての有効性を試験する。同様にして、本明細書において後述するように、RNA Yと集合する細胞RNAによってコードされるタンパクについても薬剤標的としての有効性を試験する。
【0041】
(治療標的の特定)
本発明は、ある細胞サンプルのリボノームサブプロフィールを、コントロールサンプルのリボノームサブプロフィールと比較することによって、治療標的を特定する方法を提供する。mRNP複合体のある成分の発現において二つのサンプルの間に見られる差は、その成分が治療標的候補であることを示す。治療標的としては、mRNP複合体の任意の成分、または、その核酸または遺伝子産物が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。本発明のある実施形態では、細胞サンプルは試験化合物で処理され、コントロールサンプルは、試験化合物で処理されない細胞を含む。別の実施形態では、コントロールサンプルは、成長サイクルにおいて、試験サンプル中の細胞とは別の段階にある細胞を含む。さらに別の実施形態では、細胞サンプルは、腫瘍細胞、または他の病んだ細胞を含み、コントロールサンプルは正常細胞を含む。標的特定としては、従来技術の実行家には既知の方法、例えば、ライブラリーのスクリーニング、ペプチドファージディスプレイ、cDNAマイクロチップアレイスクリンーニング、および、従来技術の実行家には既知の組み合わせ化学技術が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。標的発見に至る工程の要約を図9に示す。
【0042】
(治療薬の特定)
別の局面で、本発明は、試験化合物の治療剤としての効力を評価する方法を提供する。細胞サンプルを試験化合物に接触させ、少なくとも一つのmRNP複合体と関連する少なくとも一つの遺伝子産物の発現を含む、細胞サンプルのリボノームプロフィールまたはサブプロフィールを調製する。細胞サンプルにおける遺伝子産物の発現レベルを、コントロールサンプル(例えば、試験化合物に接触していない細胞サンプル)における遺伝子産物の発現レベルと比較する。処理した細胞サンプルと未処理の細胞サンプルの間に見られる、遺伝子産物の発現の差は、この試験化合物が治療剤の可能性を持つことを示す。試験化合物は、例えば、核酸、ホルモン、抗体、抗体断片、抗原、サイトカイン、成長因子、薬理学的因子(例えば、化学療法剤、発ガン性物質、またはその他の細胞)、化学的組成物、タンパク、ペプチド、および/または、小型分子であってもよい。
【0043】
本発明の各種実施形態では、治療剤は、mRNAまたはmRNP複合体関連タンパクを安定化する、または脱安定化するものであってもよい。別の実施形態では、治療剤は、例えば、mRNAの翻訳を抑制しても、mRNAまたはmRNP複合体関連タンパクの輸送を抑制しても、RNA結合タンパクのmRNAへの結合を抑制しても、RNA結合タンパクのmRNP複合体関連タンパクへの結合を抑制しても、または、mRNAのmRNP複合体関連タンパクへの結合を抑制しても、そのいずれかであってもよい。
【0044】
別の局面では、本発明は、試験化合物の毒性、予想される副作用、特異性、または選択性を、例えば、細胞サンプルを処理するのに用いられる試験化合物の濃度または量を変えることによって評価する方法を提供する。
【0045】
さらに別の局面では、本発明は、被験体における治療剤の効力を評価、またはモニタリングする方法を提供する。本発明によれば、治療剤の有効量が被験体に投与される。その治療剤の投与によってmRNP複合体と関連する遺伝子産物の発現変化が変化させられた、少なくとも一つのmRNP複合体が、被験体の細胞サンプルから単離される。治療剤投与後に細胞サンプルに見られる遺伝子産物の発現を、コントロールサンプル(例えば、治療剤の投与前に、または、正常被験体から得られた第2細胞サンプル)における遺伝子産物の発現と比較する。処理細胞サンプルと未処理細胞サンプルの間に見られる発現差は治療剤の効力を示す。前述の試験は、治療剤の連続効力をモニタリングするために一定期間繰り返すことも可能である。
【0046】
治療剤は、疾患、障害、または状態の発生に関与する過剰発現または過小発現タンパクを標的にしてもよい。このような過剰発現または過小発現は、RNAの脱安定化または安定化をもたらす可能性があるからである。
【0047】
(mRNAを脱安定化する治療剤)
ある疾患、状態、または障害が、あるタンパクの過剰発現で特徴づけられる場合、そのような状態の治療のための治療剤は、そのタンパクの発現を抑えるまたは根絶するものである。例えば、RNA結合タンパクは、ガン原遺伝子をコードする短命のmRNA、成長因子、および細胞増殖に寄与するサイトカインの安定性を強化するものであるから、RNA結合タンパク生産の抑制は、ガンまたは自己免疫疾患のような疾患を緩和する可能性がある(例えば、それぞれ、腫瘍成長または炎症を抑制することによって)。さらに、いくつかのヒト腫瘍におけるRNA結合タンパクの過剰発現は、化学療法およびUV放射に対する耐性と相関する。UV放射または治療薬剤に応じて、c−fos、c−myc、サイクリンB1、およびその他の短命mRNAの安定度が増すことはよく知られる。従って、これらの腫瘍におけるRNA結合タンパク発現の抑制は、腫瘍におけるmRNAの脱安定化をもたらし、結果、腫瘍の、ガン治療に対する反応性をより高める。
【0048】
対象とするタンパクの過剰発現を抑える、または停止させるために、適当な試験化合物(例えば、RNA結合タンパク阻害剤)の有効量を、インビトロまたはインビボで投与することによって、そのmRNAを脱安定化することが可能である。試験化合物は、例えば、mRNAに対するRNA結合タンパクの結合を抑制するやり方でmRNAに結合する、mRNAに対するRNA結合タンパクの結合を抑制するやり方でRNA結合タンパクに結合する、直接mRNAを脱安定化させるようにmRNP複合体に結合し脱安定化する、および/または、mRNAに結合するようにしてもよい。mRNAに結合はするが、mRNAを安定化させない化合物は、mRNA結合タンパクがmRNAを安定化させる能力を抑制する可能性がある。この化合物が、RNA結合タンパクと競合的に結合する場合、この化合物は、RNA結合タンパクのmRNA結合能力を抑制することによって、mRNAの安定度を下げることが可能である。
【0049】
あるいは、試験化合物は、RNA結合タンパクまたはmRNA発現を抑制してもよい。
【0050】
効果的試験化合物(例えば、RNA結合タンパク阻害剤)は、複数の化合物について、それらのRNA結合タンパクの生産を干渉する能力、または、例えば、mRNAに対する結合、および/または、安定化を抑制する能力を本明細書に記載する方法を用いてスクリーニングすることによって、簡単に確定することが可能である。RNA結合タンパクまたはmRNA生産を抑制することによって機能する化合物は、対象とするRNA結合タンパクまたはmRNAを発現する細胞をその試験化合物に暴露し、それぞれ、RNA結合タンパクまたはmRNAのレベルをモニタリングすることによって特定することが可能である。mRNAに対するRNA結合タンパクの安定化作用を抑制することによって機能する化合物は、その他の場合では安定化される筈のRNA結合タンパクとmRNAとを混合し、RNA結合タンパク阻害剤として評価される複数の化合物を加え、RNA結合タンパクとmRNAの間の結合親和度をモニタリングすることによって特定することが可能である。RNA結合タンパクとmRNAの結合親和度を増大させる、または低減させる化合物は、従来技術で既知の方法によって簡単に確定することが可能である。
【0051】
(mRNAを安定化させる治療剤)
ある疾患、状態、または障害が、mRNA安定化タンパクの過小発現で特徴づけられる場合、そのような医学的状態の治療のための治療剤は、その過小表現タンパクと関連するmRNAを安定化することによって効果を現すことが可能である。したがって、ある化合物の有効量を、インビトロまたはインビボで投与することによって、mRNAを安定化してもよい。その化合物は、RNA結合タンパクと同様の結合能および安定化作用を持ってもよいし、あるいは、RNA結合タンパクの、mRNA安定化能力を増進してもよいし、および/または、対象とする安定化RNA結合タンパクまたはmRNAの生産を促進してもよい。このような化合物は、RNA結合タンパク誘導因子と呼んでよく、mRNA、RNA結合タンパク、またはその両方と相互作用を持つことによって動作してもよい。あるいは、mRNAは、必要なmRNA安定化作用を持つ適当なRNA結合タンパクの有効量を投与することによって安定化することも可能である。
【0052】
RNA結合タンパク生産を増す化合物は、前述の方法に従って、先ず、RNA結合タンパクを発現する細胞を誘導因子候補に暴露し、RNA結合タンパクのレベルをモニタリングすることによって特定することが可能である。RNA結合タンパクの発現レベルが増大する場合、その化合物はRNA結合タンパク誘導因子である。mRNAに対するRNA結合タンパクの結合は抑制するが、mRNAには結合し、安定化させる化合物は、本明細書に開示される方法によって特定することが可能である。実技に長けた当業者は、その他の条件であれば安定化される筈のRNA結合タンパクとmRNAを混合し、化合物を加え、RNA結合タンパクとmRNAとの結合親和度をモニタリングするであろう。RNA結合タンパクとmRNAとの結合親和度を増大させる、または低減させる化合物は、本明細書に記述する通り、化合物への暴露後、RNA結合タンパクのmRNAに対する結合親和度を評価することによって簡単に確定することが可能である。次に、mRNAの濃度の時間的変化をモニタリングすることによって、mRNAに結合する化合物について、そのmRNA安定化能力を評価することが可能である。
【0053】
(抗体調製)
mRNP複合体に結合する抗体、およびその断片は、従来技術でよく知られる方法を用いて生成される。このような抗体としては、ポリクロナール、モノクロナール、キメラ、1本鎖、Fab断片、および、Fab発現ライブラリーによって生産される断片が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。抗体およびその断片は、従来技術で既知の抗体ファージディスプレイ技術によって生成されてもよい。
【0054】
抗体の生産のためには、各種宿主、すなわち、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、およびヒトを含めた宿主が、mRNP複合体、または、免疫原性を持つ、その任意の断片または成分を注入することによって免疫化される。宿主の動物種に従って、免疫反応を増大させるためにアジュバントが使用される。そのようなアジュバントとしては、水酸化アルミのようなフロイントの鉱物ゲル、および、表面活性物質、例えば、リソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、およびジニトロフェノールが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。ヒトにおいて使用されるアジュバントの中では、BCG(カルメットゲラン桿菌)、および、コリネバクテリウムパルブムが好ましい。
【0055】
mRNP複合体の成分に対するモノクロナール抗体は、培養細胞系統による抗体分子の生産を可能とする技術から選ばれる任意の技術によって調製される。このような技術としては、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、および、EBV−ハイブリドーマ技術が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。一般に、動物は、mRNP複合体、またはその免疫原性断片(単複)、またはその接合体(単複)によって免疫化される。次に、リンパ様細胞(例えば、脾臓リンパ球)を免疫化された動物から入手し、恒久化細胞(例えば、骨髄腫細胞またはヘテロ骨髄腫細胞)と融合させて、ハイブリッド細胞を生産する。このハイブリッド細胞をスクリーニングし、所望の抗体を生産する抗体と特定する。
【0056】
抗体はまた、リンパ球集団においてインビボ生産を誘導することによって、あるいは、従来技術で既知の通りに、高度の特異的結合試薬から成る免疫グロブリンライブラリーまたはパネルをスクリーニングすることによって生産することが可能である。
【0057】
mRNP複合体に対する特異的結合部位を含む抗体断片を生成することも可能である。例えば、そのような断片としては、抗体分子のペプシン消化によって生産されるF(ab′)2断片、および、F(ab′)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成されるFab断片が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。あるいは、所望の特異性を持つモノクロナールFab断片の速やかで、簡単な特定を可能とするために、Fab発現ライブラリーが構築される。
【0058】
mRNP複合体に対する所望の特異性を持つ抗体を特定するために、様々のイムノアッセイが用いられる。定められた特異性を持つポリクロナールまたはモノクロナール抗体による競合結合、または免疫放射能測定アッセイに関する数多くのプロトコールは従来技術でよく知られる。このようなイムノアッセイは、通常、mRNP複合体の成分と、その特異的抗体の間に起こる複合体形成の測定を含む。二つの、非干渉的エピトープに反応するモノクロナール抗体を利用するイムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイも使用が可能である。
【0059】
本発明は、各種mRNP複合体、またはその成分(例えば、RNA結合タンパクに対する抗体)が不動化されるカラムを含むキットを提供する。抗体は、既知の技術に従って、診断用アッセイに好適な支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンのような材料で形成されるビーズ、プレート、スライド、またはウェルのような固相支持体)に接合されてよい。同様に、抗体は、既知の技術に従って、検出可能な基、例えば、放射性ラベル(例えば35S、125I、131I)、酵素ラベル(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)、および、蛍光ラベル(例えば、フルオレセイン)に接合されてもよい。このような装置は、抗体とRNA結合タンパクの間の結合を検出するのに特異的な少なくとも一つの試薬を含むことが好ましい。試薬はまた、バッファー剤およびタンパク安定化剤(例えば、多糖類等)のような補助剤を含んでもよい。装置はさらに、要すれば、試験、コントロール試薬、試験を実施する装置等において背景干渉を低減させる試薬を含んでもよい。装置は、適切であれば、どのようなやり方で包装されてもよいが、通常は、試験を実施するための印刷された指令書と共に全ての要素が単一の容器に収められる。
【0060】
mRNP複合体に対して惹起された抗体は薬剤に接合してもよい。患者に投与されると、この抗体はmRNP複合体に結合するから、比較的高濃度の薬剤を、所望の組織または器官に搬送することが可能になる。一つの実施形態では、抗体は、抗ガン剤、すなわち、抗葉酸塩物質、抗腫瘍抗生物質、およびその他の腫瘍治療化合物を含む抗ガン剤に接合される。
【0061】
mRNP複合体に結合する抗体はまた、各種マーカーに共有的にまたはイオン的に結合させ、腫瘍の存在を検出するのに使用することが可能である。適当量のマーカー結合抗体を患者に投与し、抗体を、腫瘍部位の、またはその周囲のmRNPに結合させ、マーカーを検出することによって、腫瘍の存在を検出することが可能である。適当なマーカーは従来技術でよく知られており、放射性同位元素マーカー、蛍光ラベル等が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。これらのマーカーのための適当な検出法は従来技術でよく知られており、ポジトロン発射断層撮影法、オートラジオグラフィー、フローサイトメトリー、放射受容体結合アッセイ、および、免疫組織化学が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0062】
(化合物ライブラリー用高処理スクリーニング法)
本発明の一つの実施形態では、化合物の併合ライブラリー(例えば、ファージディスプレーペプチドライブラリー、小型分子ライブラリー、およびオリゴヌクレオチドライブラリー)において、mRNP複合体、またはその成分に結合する化合物を特定するために、高処理能力スクリーニングアッセイおよび競合結合アッセイが使用される。
【0063】
一つの実施形態では、mRNP成分、その触媒的、または免疫原性断片、またはそのオリゴペプチドを用いて、各種の薬剤スクリーニング技術の中から任意に選ばれる技術を用いて、化合物のライブラリーをスクリーニングすることが可能である。例示の技術は公刊されたPCT出願WO84/03584に記載される。なお、この出願を参照することにより本明細書に含める。このスクリーニングに使用される断片は、溶液中で遊離する、支持体(例えば、固相支持体に付着する、細胞表面に運ばれる、または、細胞内に局在する。
【0064】
米国特許第5,270,163号(Gold等)−参照することにより本明細書に含める−に記載されるSELEX法を用いて、オリゴヌクレオチドライブラリーをスクリーニングして、適当な結合特性を持つ化合物を求める。SELEX法によれば、ランダム化配列領域を含む1本鎖核酸の候補混合物をmRNP複合体に接触させることが可能である。mRNP複合体に対して親和度を漸増させる核酸を分画し、増幅して、リガンド濃縮混合物を生成することが可能である。
【0065】
ファージディスプレー技術を用いてペプチドファージディスプレーライブラリーをスクリーニングし、mRNP複合体、またはその成分に結合するペプチドを特定する。各種の分子、例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパク、およびその断片から成る多様な集団を含むライブラリーを調製する方法は、従来技術で既知であり、また市販もされている。
【0066】
ファージディスプレーされた、結合が予想されるペプチドから成るライブラリーをmRNP複合体と共にインキュベートし、mRNP複合体またはその成分に特異的に結合する組み換えペプチドをコードするクローンを選択する。少なくとも1回のバイオパンニング(mRNP複合体への結合)の後、ファージDNAを増幅し、配列決定し、それによって、ディスプレーされる結合ペプチド用の配列を供給する。簡単に言うと、標的、すなわちmRNP複合体を組織培養プレートに一晩コートして、高湿度の容器内でインキュベートする。第1回のパンニングでは、約2x1011のファージを、室温で60分優しく揺すりながらタンパクをコートしたプレート上でインキュベートする。次に、プレートを、標準的洗液で洗浄する。次に、結合ファージを集め、標的タンパクによる溶出後増幅する。必要に応じて、2回目3回目のパンニングを実行することも可能である。最終パンニング後、ファージ感染細菌から成る個別のコロニーをランダムに採取し、ファージDNAを単離し、ジデオキシ配列自動決定装置に委ねる。ディスプレーされるペプチドの配列は、そのDNA配列から導出することが可能である。
【0067】
化合物の生物活性は、従来技術に熟練した当業者によって既知のインビトロアッセイ(例えば、タンパク合成アッセイ、または腫瘍細胞増殖アッセイ)によって評価することが可能である。あるいは、化合物の生物活性はインビボにおいて評価される。抗生物質を含めた各種化合物が、mRNP複合体およびその成分に対し、mRNA安定性に対してはまちまちの作用を及ぼしながら、結合することが可能である。一旦結合した化合物の活性は、本明細書に記載される方法を用いて簡単に定量することが可能である。
【0068】
結合アッセイとしては、RNA結合タンパクとmRNAとが、標識試験化合物と共にインキュベートされる、セルフリーアッセイが挙げられる。インキュベーション後、従来技術で既知の各種技術の内から任意に選ばれるものを用いて、mRNAを、遊離のものも、試験化合物に結合したものも、未結合試験化合物から分離することが可能である。次に、mRNP複合体またはその成分に結合した試験化合物の量を、従来技術で基地の検出技術を用いて定量する。
【0069】
あるいは、結合アッセイは、セルフリー競合結合アッセイである。このアッセイでは、mRNAは標識RNA結合タンパクとインキュベートされる。この反応系に試験化合物が添加され、mRNAに対して、RNA結合タンパクと結合を競い合う、その競合能力に関してアッセイされる。遊離の標識RNA結合タンパクは、結合RNAタンパクから分離することが可能である。次に、結合したRNA結合タンパクの量を定量することによって、試験化合物の、mRNA結合を求めて競い合う競合能力が評価される。このアッセイは、RNA結合タンパクまたはmRNAを支持体に連結し、洗浄によって簡単に未結合反応物質が除去されるようにして、多数の試験化合物のスクリーニングがやり易くなるように方式化することが可能である。プラスチック支持体(例えば、96ウィル皿のようなプラスチックプレート)が好ましい。本明細書に記載されるセルフリーアッセイに使用が好適なRNA結合タンパクおよびmRNAは、天然の供給源(例えば、膜標本)から単離してもよいし、組み換え的にまたは化学的に調製してもよい。RNA結合タンパクは、例えば、既知の組み換え技術を用いて、融合タンパクとして調製することが可能である。好ましい融合タンパクとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)成分、細胞局在実験に有用な緑色蛍光タンパク(GFP)成分、または、アフィニティー精製に有用なHisタグが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0070】
競合結合アッセイも細胞依存性であることが可能である。従って、mRNP複合体またはその成分に結合することが知られる化合物、好ましくは、標識化合物を、試験化合物の存在下に、また不在下に、そのmRNP複合体またはその成分とインキュベートする。試験化合物の存在下にインキュベートされた細胞に会合する既知の試験化合物の量を、試験化合物の不在下にインキュベートされた細胞でのものと比較することによって、RNA結合タンパク、mRNA、および/または、それらの複合体に対する、試験化合物の親和度を定量することが可能である。細胞増殖は、従来技術で知られるように、標識塩基(例えば、放射活性的に、例えば3H,SiC、または14C;蛍光的に、例えば、CYQRANT(Molecular Probe);または、比色的に、例えば、rdU(Boehringer Mannheim)またはMTS(Promega))の、細胞核酸への取り込みを測定することによってモニタリングすることが可能である。サイトソル/原形質pH測定は、基質、例えば、ビス(カルボキシエチル)−カルボニルフルオレセイン(BCECF)(Molecular Probes,Inc.,ユージン、オレゴン州)を用いてディジタル画像顕微鏡によって実行することが可能である。
【0071】
RNA結合タンパクのmRNAに対する結合に及ぼす、試験化合物の作用を定量するために実行が可能な、他のタイプのアッセイとしては、ルイスの肺ガンアッセイおよび、ボイデンチェンバーアッセイのような細胞外移動アッセイが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0072】
従って、この方法は、複数の試験化合物において、それらが、RNA結合タンパクがmRNAへの結合および安定性に及ぼす作用を修飾する能力に関してスクリーニングすることを可能とする。本明細書に記載するアッセイを用いることによって、mRNAに結合し、かつ、mRNA安定性および関連タンパク合成によってもたらされる細胞活性に及ぼす作用を修飾することが可能な化合物が特定される。前記アッセイによって特定される化合物は、治療組成物と処方される。
【0073】
(疾患の診断およびモニタリング)
別の局面では、本発明は、被験体の疾患、または疾患に罹る危険度を診断するための方法を提供する。ある被験体の細胞サンプルからリボノームプロフィールが調製され、少なくとも一つのmRNP複合体が分析される。その発現変化は疾患または疾患の危険度を示すとされる、少なくとも一つの遺伝子産物の発現を定量する。この遺伝子産物は、RNA結合タンパク、mRNA、mRNP複合体関連タンパク、または、そのmRNP複合体に結合する、または、関連する他の遺伝子産物であってもよい。この細胞サンプル中の遺伝子産物の発現を、コントロールサンプル中の遺伝子産物の発現と比較する。コントロールサンプルは、正常細胞のサンプル、または、同じ被験体から得た第2の細胞サンプルであってもよい。あるいは、コントロールサンプルは、疾患の、および/または、正常な個体から得た陽性コントロールである。コントロールサンプルと比べた場合の細胞サンプルにおける遺伝子産物の相対的発現度を観察することによって、疾患の存在、または疾患の危険度を確定することが可能である。
【0074】
別の局面では、本発明は、被験体における病状をモニタリングする方法を開示する。疾患の被験体の細胞サンプルから、その疾患と関連する少なくとも一つの遺伝子産物を有する、少なくとも一つのmRNP複合体が単離される。被験体の細胞サンプルにおける遺伝子産物の発現は、コントロールサンプルにおける遺伝子産物の発現と比較される。コントロールサンプルにおける遺伝子産物の発現と比較した場合に疾患の被験体の細胞サンプルの遺伝子産物の発現に見られる差を特定することは、被験体の病状の変化を示すことになる。例えば、腫瘍関連抗原またはそのmRNA生産の減少は、腫瘍負荷の減少または寛解を示す。逆に、腫瘍抗原の発現の増大は、激しい腫瘍成長を示す。投薬治療中におけるこのようなモニタリングは、被験体の薬剤投与スケジュールの効果に関する情報を提供し、その疾患または状態を治療するのに、ある特定の処方が効果的ではない、または、もはや効果的ではない時期を示す可能性がある。コントロールサンプルは、被験体から、好ましくは、その被験体が疾患の一つ以上の症状を持たない時期に得られた第2の細胞サンプルであってもよい。あるいは、コントロールサンプルは、正常な被験体、またはその他の正常な細胞サンプルから得たものである。
【0075】
要約すると、本発明は、インビボにおいて、細胞のリボノームプロフィールを確定し、リボノームプロフィールにおける変化を検出するための方法を提供する。本発明は数多くの用途を持ち、その中には、細胞発達または成長のモニタリング、細胞状態のモニタリング、生物系の擾乱、例えば、疾患、状態、または障害のモニタリングが含まれるが、ただしそれらに限定されない。本発明はさらに、疾患、状態、または障害を診断し、適当な治療処方を確立するための方法を提供する。本発明はまた、生物、例えば、植物、真菌、細菌、ウィルス、原虫類、または動物種におけるリボノームプロフィールを識別するのに有用である。
【0076】
本発明を用いて、遺伝子発現に貢献する転写要素および後転写要素を区別することが、また、mRNP複合体を経由するRNAの動き、すなわち、mRNP複合体におけるタンパクとRNAの混合相互作用を含めた動きを追跡することが可能である。従って、本発明を用いてRNA安定度の制御を調べることが可能である。本発明を用いて、活性ポリソームに対するmRNAの召集を追跡し、mRNA、例えば、転写因子またはRNA結合タンパクをコードするmRNAの継時的で、整然とした発現を測定し、かつ、複数のmRNAの同時的、調和的発現を測定することによって、単一の、または複数分子種としてのmRNA翻訳の活性化を調べることが可能である。本発明を用いて、他の細胞成分と接触した際に見られるRNA自身の折衝機能を定量することも可能である。上記、および他の多くの用法については、熟練した当業者には本明細書と請求項を研究することによって明白となろう。
【0077】
全ての引用文献(文献資料、特許公報、および特許出願を含む)の内容は、本出願を通じて引用された通りに、参照することによって本明細書に含まれることをここに明言する。下記の実施例は、本発明を具体的に明らかにするために記載されるもので、本発明を限定するものと考えてはならない。
【実施例】
【0078】
(例示)
(実施例1:複数プローブシステムにおけるRNアーゼ保護)
様々なRNA結合タンパクを含む、いくつかの内因性mRNP複合体の免疫沈降を速やかに最適化するために複数プローブRNアーゼ保護アッセイを用いた。この複数プローブシステムでは、一つのmRNP複合体に関連する多数のmRNAを、ポリアクリアミドゲルの単一レーンにおいてアッセイすることが可能である。
【0079】
細胞培養および形質変換。げっ歯類P19胚性ガン細胞を、アメリカ標準株収集施設(ATCC、マナサス、バージニア州)から入手し、イーグルのα−最小必須培地(MEM)で、フェノールレッド(Gibco BRL41061−0291)(Invitrogen,カールスバード、カリフォルニア州)の添加無し、7.5%仔ウシ血清(BCS)と2.5%ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone、ローガン、バーモント州)と100Uのペニシリン/ストレプトマイシンの添加有り、による単層培養にて維持した。細胞は、あらかじめ0.1%ゼラチン(Sigma Chemicals、セントルイス、ミズーリ州)でコートし使用前に取り除いた、組織培養用フラスコまたはプレートで育成した。単層細胞培養物は、37℃で5%CO2中に維持した。
【0080】
P19細胞は、SV40プロモーター駆動pアルファ2−遺伝子10−HuBプラスミドによって安定にトランスフェクトされた。このプラスミドは、遺伝子10にタグされた神経細胞特異的HuBタンパク(Hel−N2と呼ばれる)を局外に発現した。トランスフェクトプラスミドの発現は、培養液に0.2mg/mlのG418(Sigma Chemicals、セントルイス、ミズーリ州)を添加することによって維持した。この構築体は、Hel−N1のRNA認識モチーフ2および3を接続するヒンジ領域における13個のアミノ酸を欠くが、その他の点ではRNA認識モチーフは同一であり、インビトロ結合実験では、Hel−N1とHel−N2のAU−富裕RNA結合特性に差は示されなかった。
【0081】
抗体。従前記載した通りの標準法に従って、抗遺伝子10(g10)モノクロナール抗体を生成した。HuAと反応するポリクロナール血清を、従前記載した通りの標準法に従って生成した。ポリA−結合タンパク(PABP)と反応する抗体は、マッギル大学(カナダ)から入手した。
【0082】
セルフリー抽出物の調製。細胞を、組織培養プレートからゴムスクレーパーで剥がし、冷却リン酸バッファー生食液(PBS)で洗浄した。細胞は、100mM KCl、5mM MgCl2、10mM HEPESpH7.0、および、0.5%NP−40を含む、ペレットの約2倍容量のポリソーム分解バッファー(PLB)で、これに使用時に新たに1mMジチオトレイトール(DTT),100U/mL RNアーゼOUT(Gibco BRL、Invitrogen Corp., カールスバート、カリフォルニア州)、0.2%バナジルリボヌクレオシド複合体(VRC)(Gibco BRL、Invitrogen Corp., カールスバート、カリフォルニア州)、0.2mMフェニルメチルスルフォニルフロリド(PMSF)、1mg/mLペプスタチンA、5mg/mLペプスタチン、および20mg/mLロイペプチンを添加したものに再懸濁した。細胞溶解物を凍結し、−100℃で保存した。使用時には、細胞溶解物を解凍し、卓上型マイクロ遠心器で4℃で10分12,000rpmで遠心した。上清を取り出し、再び、卓上型マイクロ遠心器で4℃で5分16,000rpmで遠心し、氷上に保存し、再度−100℃で再凍結させた。このmRNP含有細胞溶解物は、約30−50mg/mLの総計タンパクを含んでいた。
【0083】
免疫沈降。プロテインAセファローズビーズ(Sigma Biochemicals、セントルイス、ミズーリ州)を、NT2バッファー(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl、1mM MgCl2、および、0.05%NP−40)に5%BSA添加したもので1:5v/vに膨潤させた。この1:5v/vの、あらかじめ膨潤させたプロテインAビーズの300μL分液を、過剰な免疫沈降抗体(抗体にもよるが、通常5−20μL)と4℃で一晩インキュベートした。この抗体でコートされたプロテインAビーズを、氷冷NT2バッファーで5回洗浄し、100U/mLのRNアーゼOUT、0.2%バナジ/リボヌクレオシド複合体、1mM DTT、および20mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加した900μLのNT2バッファーに再懸濁させた。ビーズを素早く渦巻き攪拌し、100μLのmRNP溶解物を加えた。直ちにビーズを遠心し、100μL分液を取り出して、全RNA(事実上、mRNP免疫沈降で使用される溶解物の10分の1量)を表すものとした。免疫沈降反応と、全細胞RNAを代表するために取り出された分液とは、ゼロ分から2時間の期間室温で転回された。適当なインキュベーション後、プロテインAビーズは4回氷冷NT−2で洗浄し、その後、1M尿素添加NT2バッファーで2回洗浄した。洗浄されたビーズは、0.1%ドデシル硫酸ナトリウムと30μgのプロテイナーゼKを添加した100μL NT2バッファーに再懸濁し、55℃の水浴にて30分インキュベートした。プロテイナーゼKの消化後、免疫沈降したRNAを、2回のフェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコール抽出によって分離し、エタノール沈殿させた。
【0084】
RNアーゼ保護アッセイ。mRNP複合体は、細胞溶解物から免疫沈降され、結合RNAは、メーカーの指示(45014K)によるPharMingenリボカントアッセイ(Pharmigen、サンディエゴ、カリフォルニア州)においてRNアーゼ保護によって定量した。簡単に言うと、抽出RNAを、L32、グリセルアルデヒド−3−フォスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)、数種のげっ歯類Myc関連タンパク(鋳型セット45356P)およびサイクリン(鋳型セット45620P)をコードするmRNAに対して特異的な鋳型から生成された、過剰な32P−標識リボプローブに対してハイブリダイズさせた。2本鎖化されないRNAは、RNアーゼA+T1による処理で消化した。各mRNA分子種についてリボプローブの長さは一意のサイズを持つから、サンプル中の検出可能なmRNA分子種は全て、単一ゲルレーン上に展開することが可能である。保護されたリボプローブ断片は、リン酸画像化スクリーン(Molecular Dynamics、サニーベイル、カリフォルニア州)において24時間の露光後視覚化された。リン酸画像を、Molecular Dynamics Storm860システムを用いて100ミクロン解像度でスキャンし、Molecular Dynamics IMAGEQUANT(登録商標)ソフトウェア(V1.1)(Molecular Dynamics、サニーベイル、カリフォルニア州)を用いて分析した。
【0085】
結果。図4は、g10−HuB cDNAによってトランスフェクトされたげっ歯類P19細胞抽出物から得られたHuBおよびポリA結合タンパク(PABP)mRNP複合体の免疫沈降を示す。プレブリードのウサギポリクロナール血清によって免疫沈降したペレットでは(図4Aおよび4B,レーン3)、あるいは、このアッセイで試験した全ての血清、すなわち、ウサギ、マウス、および正常ヒト血清ではmRNAは検出されなかった(データ図示せず)。HuB mRNP複合体に関連するmRNAプロフィールは、n−myc、l−mfc、b−myc、max、およびサイクリンA2、B1、C、D1とD2を含んでいたが、sin3、サイクリンD3、サイクリンB2、L32、またはGAPDH mRNAを含んでいなかった(図4Aおよび4B、レーン4)。逆に、PABP mRNP複合体から抽出したmRNAのプロフィールは、全RNAのプロフィールに似ており、L32とGAPDHにおいて濃縮レベルを示し、sin3 mRNAにおいてレベル減少を示した(図4Aおよび4B、レーン5)。これらの結果は、細胞成長および分化時における転写後遺伝子発現の制御におけるHuタンパクについて想定された役割と合致する。
【0086】
(実施例2:cDNAアレイによる、RNA結合タンパク集合に関連するmRNAサブセットの特定)
増幅または反復的選択を要せずmRNAサブセットを検出するためにcDNAアレイ(図5)を用いた。
【0087】
抗体。抗遺伝子10(g10)モノクロナール抗体、およびそのタンパクに反応するポリクロナール血清を前述の通りにして生産した。5′キャップ結合タンパク(elF−4E)に対する抗体は、Transduction Laboratories(サンディエゴ、カリフォルニア州)から入手した。ポリA結合タンパク(PABP)と反応する抗体はマッギル大学(カナダ)から入手した。
【0088】
細胞培養および分化。実施例1に記載する通りにしてトランスジェニック細胞を調製した。細胞をレチノイン酸で処理して、神経細胞分化を下記のようにして誘発した。5x105個のp19細胞を60mmペトリ皿(Fisher Scientific,ピッツバーグ、ペンシルバニア州、8−757−13A番)に0.5μM RA(Sigma Chemicals,セントルイス、ミズーリ州、R2625番)と共に設置した。2日後、凝集体を形成した細胞の25%を取り出し、新しいペトリ皿に設置し、新鮮な培養液とRAを補充した。2日後、細胞凝集体を、リン酸バッファー生食液(PBS)で1回洗浄し、トリプシン処理した。次に、細胞を、2個の、100mmゼラチンコート組織培養プレートにプレートした。細胞はさらに4日後に収穫した。RA処理、HuB(Hel−N2)で安定トランスフェクトされたP19細胞は神経突起を伸ばし、神経細胞に特徴的なマーカーおよび形態を示したが、最終的には分化せず、分裂阻害剤による殺作用に対して感受性を持ち続けた。セルフリー抽出物および免疫沈降を、実施例1に記載する通りにして得た。
【0089】
cDNAアレイ分析。cDNAアレイ分析を、ATLAS(商標)マウスアレイ(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)を用いて実行した。このアレイは、ナイロン膜上に並べて、二重にスポットされた合計597個のcDNA分節を含む。cDNAアレイのプローブ探査は、Clontech(パロアルト、カリフォルニア州)ATLAS(商標)cDNA発現アレイユーザーズマニュアル(PT3140−1)に記載してある通りに実施した。簡単に言うと、RNAを、HuBに安定にトランスフェクトされたP19胚性ガン細胞から抽出し、これを用いて逆転写プローブを生成した。アレイに示される遺伝子に対して相補的なプライマーの保存セットを逆転写プローブ合成に用いた。プローブ合成は、32Pα−dATPによって放射標識した。放射標識したプローブは、CHROMA SPIN(商標)−200カラム(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)に通過させて精製し、EXPRESSHYB(商標)ハイブリダイゼーション液(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)を用いてアレイ膜と一晩インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、アレイ膜を洗浄し、リン酸画像化スクリーン(Molecular Dynamics、サニーベイル、カリフォルニア州)にて視覚化した。
【0090】
リン酸画像は、Molecular Dynamics STORUM860システムを用いて100ミクロン解像度でスキャンし、ファイルとして保存した。画像は、ATLASIMAGE(商標)1.0および1.01ソフトウェア(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)を用いて分析した。任意の遺伝子の信号は、二重のcDNAスポットにおける信号の平均として計算した。ATLASIMAGE(商標)1.0ソフトウェアマニュアル(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)に記載してある通り、遺伝子信号の有意性を確認するために、デフォールトの外部背景設定を背景依存信号閾値と組み合わせて用いた。ある遺伝子の信号は、その調整強度(全体信号マイナス背景)が背景信号の2倍を越えている場合、背景を有意に上回るものとした。複数のcDNAアレイ画像の比較は、アレイ上の全ての遺伝子信号の平均を用い(全体正規化)、アレイ間の信号強度を正規化して行った。RA処理に応じてHuB mRNP複合体のmRNAプロフィールに起こった変化は、4倍高くなった場合に有意とした(遺伝子発現変化の有意性を確立するのに通常使用される厳格度の2倍)。cDNAアレイ画像および重複層は、ADOBE PHOTOSHOP(登録商標)5.0.2(サンホセ、カリフォルニア州、米国)を用いて調製した。
【0091】
結果。HuBトランフェクトP19細胞の全体遺伝子発現プロフィール(トランスクリプトーム)の評価後、HuBおよびPABP mRNA複合体を始め、e1F−4E mRNP複合体を別々に免疫沈降させ、捕捉されたmRNAをcDNAアレイ上で特定した。これらのアレイの最初の軸合わせは、6個のDNAスポットとハイブリダイズする放射標識ラムダファージマーカーを、アレイ膜底部に刺突させることによって簡易化させた。一旦軸合わせ登録が確立されたならば、その後のブロットは、方向付けのために刺突ラムダマーカーの使用を必要としない。
【0092】
ウサギのプレブリード血清による免疫沈降によって生成されるアレイは、アレイの底部に観察される刺突されたラムダマーカーを例外として実質的にブランクである。免疫沈降したHuB mRNA複合体およびelF−4E mRNA複合体は、全体細胞RNAで検出されたmRNAの10%よりはやや多くを含んでいたが、お互いにかなり違っていた(図6B、6Cおよび6E)。
【0093】
HuBとelf−4Eと同様、PABPもmRNA安定化と翻訳を促進するとされている。当然のことながら、PABP関連mRNP複合体は、HuBまたはelF−4EmRNA複合体に観察されるよりももっと沢山の検出可能なmRNAを含んでいた(図6D)。予想した通り、これらの細胞から得られるPABP mRNP複合体のmRNAプロフィールは、トランスクリプトームのものに酷似していた。一方、HuBとelF−4E mRNP複合体において見られるように、いくつかのmRNAは、全体RNAと比べると、PABP−mRNPにおいて濃縮または欠乏していた(図6Dと6E)。これらのmRNP複合体で検出されるmRNAのプロフィールおよび相対量は極めて再現性が高いが、リン酸画像において検出されるmRNA分子種の絶対数は、プローブの比活性における違いのために変動した。
【0094】
全体RNAを用いて得られるcDNAアレイは、mRNP複合体免疫沈降のために用いられる溶解物の量の10分の1を用いて生成されるので、mRNP複合体中に検出される各mRNAの絶対量と、全体RNAにおいて観察されるものとの比較は行わなかった。各マイクロアレイにおける各mRNA分子種相互の相対量を比較することによって、さらに正確な結果が得られた。例えば、β−アクチンとリボソームタンパクS29をコードするmRNAの相対量(図6、それぞれ、矢印aとb)は、全体細胞RNAではほぼ等しいが、各mRNP複合体の間では目覚しく変動した。これらの所見から、HuB、elF−4E、およびPABP mRNP複合体で検出されたmRNAプロフィールは、相互に、また、トランスクリプトームのものとはっきり異なっている。
【0095】
(実施例3:レチノイン酸に対するmRNP複合体の変化)
HuBは、主に、神経分化の制御で働くと考えられる神経細胞タンパクであるから、HuB mRNP複合体に見られるmRNA集団が、神経細胞分化の化学的誘発因子であるRAに反応して変化するかどうかを調べるために実験を行った。HuBトランスフェクトP19細胞をRAで処理して神経分化を起動し、HuB mRNP複合体を免疫沈降させ、次に、関連mRNAを、実施例1および2に記載するやり方でcDNAアレイ上に特定した。RA処理前後で、HuB mRNP複合体から抽出したmRNAプロフィールの比較から、18個のmRNAが、RA−処理HuB mRNPにおいて一方的に存在するか、または、極めて濃縮されることが明らかになった(図7Aおよび7B)。さらに、3個のmRNA(T−リンパ球活性化タンパク、DNA結合タンパクSATB1、およびHSP84)は、RA処理に反応して、その量が4倍以上も減少した(図7Aおよび7B)。HuB mRNP複合体のmRNAプロフィールにおいて観察されたこの変化が一意のものかどうかを確定するために、普遍的に発現されるELAVファミリーメンバーHuA(HuR)に対するmRNA複合体を、これらのRA処理細胞から免疫沈降させた。RA処理後のHuA mRNAプロフィールに対して少数の変化が見られたが、それらは、HuB mRNAプロフィールと比べると僅少であった(図7Cおよび7D)。
【0096】
RA処理に対する反応として見られたHuB関連mRNAプロフィールの変化は、単に全細胞mRNAにおける変化を反映しているわけではない(図7Eおよび7F)。一方、ある場合では、HuB mRNAにおける変化は、全RNAプロフィールの全体的変化を反映していた。図7Aと7Bから図7Eと7Fまでを比較することによって、HuB mRNP複合体に検出される様々に濃縮または枯渇したmRNAの数多くの実例が明らかである。比較目的のために、RA処理前後の、HuB結合mRNAと比較した場合の、全体RNAプロフィールの違いを示すmRNAの選択された例を図8に示す。これは、図7A、7B、7Eおよび7Fに描かれるアレイの代表的スポットの、再度軸揃えさせた拡大図である。例えば、IGF2 mRNAは全体RNAと、RA処理細胞のHuB mRNPにおいてのみ検出可能である(図8)。一方、その他のHuB mRNP結合mRNA、例えば、インテグリンベータ、サイクリンD2、およびHsp84の量は、RA処理後、全体RNAプロフィールの変化とは無関係に増大または減少した(図8)。全体mRNAとHuB mRNP複合体とのmRNAプロフィール変化に見られるこの不一致は、RA処理に応じて起こるmRNP複合体を動的に貫流するmRNAの分画化から生ずるものと考えられる。まとめとして、これらのmRNP複合体から得られるmRNPプロフィールは動的であり、成長状態を始め、レチノイン酸のような生物学的誘導因子に応じて細胞環境に生じた変化をも反映する。
【0097】
(実施例4:インビボにおけるRNA結合タンパクに対する標的配列の指向)
GenBankおよびESTデータベースを用い、RA処理HuB mRNP複合体において濃縮されたmRNP由来の3′UTR配列と特定した(表2)。HuBに関して以前に定義したインビトロ配列、UUUAUUUを用いて、基本的局所軸合わせ探索ツール(BLAST(登録商標))(国立生物情報センター(NCBI)、ベッセダ、メリーランド州)分析、および/または、目視検査を実施して、神経性HuB標的mRNAの3′UTR内部の共通結合配列近似の配列を特定した。認識可能なHuBタンパク−RNA結合配列を、インビボ捕捉mRNAサブセットの内部に特定した。3′UTR配列のために利用が可能なmRNAの多くは、インビトロでHuタンパクに結合するものと近似するウリジル酸塩富裕モチーフを含んでいた。さらに、これらのmRNAの大部分は、神経組織で発現されるタンパクをコードし、RA誘発神経分化後には上向調整される。表2に示す配列軸合わせは、HuBにおいて共通RNA結合配列を駆動するのにインビトロ選択を用いた以前の結果と一致する。本明細書に記載される方法を用いて、他のRNA結合タンパクに対する、標的配列の指向性をインビボで識別することが可能である。
【0098】
(表2)
【0099】
【表2】
(実施例5:リボノームプロフィールによる標的発見)
後述される標的発見工程を図9にまとめた。
【0100】
RNA結合タンパク遺伝子の発現プロフィールを確立する。RNA結合タンパク発現プロフィールが、正常および病的ヒト組織において生成された。RNA結合タンパクに関する最初の組織および疾病スクリーニングが、オリゴdTプライマーと市販のRNAサンプル(Stratagene,Inc.,ラホヤ、カリフォルニア州;Ambion,Inc.,オースチン、テキサス州;BD Biosciences Clontech、パロアルト、カリフォルニア州)とを用い、定量的逆転写PCRによって行われた。10−100μgのcDNAを用い、メーカーから支給されたプロトコールに従ってBioRad iCycler定量的PCR装置においてSybrGreen(Molecular Probes,Inc.,ユジーン、オレゴン州)と遺伝子特異的PCRプライマーによる定量的PCRを実行した。実験結果は、付属のBioRad iCyclerソフトウェアを用いて分析した。候補遺伝子のRNAレベルはrRNAに対して正規化した。
【0101】
組織および細胞系統のさらに速やかで、包括的なスクリーニングを実行するために、特注のRIBOCHIP(商標)スポットマイクロアレイ(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)を設計し、契約の下に製造させた(MWG Biotech USA、ハイポイント、ノースカロライナ州)。既知の、および、予想されるヒトRNA結合タンパク遺伝子のリストを、GenBank(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、PubMed(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、SRS Evolution(LION Biosciences、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)、LocusLink(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、Protein FAMilyデータベース(pFAM)、Welcome Institute Sanger Institute、ヒンクストン、英国)、GOデータベース(Gene Ontology(商標)Consortium)、および、Structural Classification of Proteins(SCOP(著作権))パッケージ(Medical Research Council、ケンブリッジ、英国)を含む広範な公共データベースと探索ツールを用いて収集・編集した。このアレイは、約1,400以上のRNA結合タンパク遺伝子に対応する50マーオリゴヌクレオチドを、ガラススライド上に、二重で、非接触位置に含んでいた(プラス、コントロール遺伝子)。
【0102】
RNA結合タンパクの発現をスクリーニングするために、RNAを、QiagenRNeasy(登録商標)プロトコール(Qiagen,Inc.,バレンシア、カリフォルニア州)に従って、培養細胞、および、急速冷凍した臨床組織から調製した。全体またはポリA+RNAを、増幅せずに、アミノアリルdUTPの存在下に逆転写してcDNAを生成し、その後Cy3またはCy5蛍光染料(TIGR SOP#M0004)に対する直接結合によって標識した。ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、標準手順(TIGR SOP#M0005)によって実行した。データ分析および統計解析用のデータフローを図10に示す。要するに、マイクロアレイスライドを先ずスキャンし、GENEPIX(登録)4.0ソフトウェア(Axon Instruments,Inc.,ユニオンシティー、カリフォルニア州)を用いてGENEPIX(登録商標)Axon4000Bスキャナーによって読み取ってデータを獲得した。次に、スポット特徴を、BiodiscoveryのIMAGENE(商標)V4.2パッケージ(BioDiscovery, Inc.,マリナデルレイ、カリフォルニア州)で抽出した。アレイ内、アレイ間データ正規化、中央化、および縮尺を含めたデータ処理は、目視(例えば、ヒートマップ)と、統計環境R(Ross Ihaka and Robert Gentleman,R、「データ分析とグラフィックスのための言語(“A language for Data Analysis and Graphics”)」、Journal of Computational and Graphical Statistics,1996,5,299−314−参照することにより本明細書に含める)、および、マイクロアレイデータ正規化と分析ライブラリーから成るBioConductor Suite(BioConductor,Biostatistics Unit of Dana Farber Cancer Institute、ボストン、マサチューセッツ州)によって導入される定量的方法(例えば、分布分析)によって実現された。正規化および縮尺による最終的データ分析は、GENESPRING(登録商標)4.2.1ソフトウェアプラットフォーム(Silicon Genetics、レドウッドシティー、カリフォルニア州)内部の、遺伝子クラスター化、統計的ろ過、および、クラス予言機能を用いて実行した。アレイデータに基づいて、組織または疾患特異的なやり方で、統計的に有意な程度に上向または下向調整される(例えば、差動的RNA結合タンパクのmRNAレベル)RNA結合タンパクが、定量的PCR、ノーザンブロット、およびウェスタンブロット分析による確認研究のために選択される。
【0103】
細菌ベクターにおけるRNA結合タンパク遺伝子のクローニングと発現。候補の、差別的に発現されるRNA結合タンパクが特定されるや否や、完全長cDNAクローンが、市販のRNA組織供給源を用いて逆転写PCRによって生成された。GATEWAY(商標)pENTRD−Topo侵入ベクターおよびpDEST17 6XHisデスティネーションベクター(Invitrogen, Corp., カールスバート、カリフォルニア州)用の、ファージラムダによる(att)部位特異的組み換えプロトコールに基づいて(Invitrogen,Corp.,カールスバート、カリフォルニア州)、完全長プラスミドクローンが構築された。ポリヒスチジンタグ付きRNA結合タンパク融合タンパクを発現する大腸菌(例えば、BL21SIまたはBL21A1)を、37℃で中央対数期まで成長させ、20〜37℃で2〜6時間、0,3M NaClでBL21SI細胞を、0.2%mMアラビノースまたは0.1mM IPTGでBL21A1細胞を誘発させた(各クローンに対してパイロット発現実験において得た最適条件に基づく)。細菌細胞を、超音波処理によって溶解し、融合タンパクをニッケルカラム(Qiagen,Inc.,バレンシア、カリフォルニア州)の上で標準法を用いて精製した。不溶の融合タンパクは維持し、8M尿素の存在下に精製し、可溶性タンパクはPBSに維持した。精製組み換えタンパクを用いてウサギおよび/またはニワトリを免疫化して、ポリクロナール抗体を生産した(通常接触生産による)。ポリクロナール抗体は、その免疫沈降能力、および、天然・組み換えタンパクをウェスタンブロットする能力について明らかにされた。
【0104】
mRNP複合体の探求。組織または疾患において特異的なやり方で発現されるRNA結合タンパクは、機能的に関連するmRNAグループの転写後処理のために、細胞変化の代理マーカーとなる。ある細胞におけるRNA結合タンパクの量および組み合わせの変化は疑いなく、これらのRNA結合タンパクによって結合されるすべてのmRNAの処理に影響を及ぼす。これらの特異的RNA結合タンパクに関連するmRNAは、細胞の表現型に決定的に、または因果的に関わる可能性が非常に高い。従って、サブセットとして、そのmRNAが、組織または疾病特異的mRNP複合体と関連する遺伝子は、薬剤発見のための治療標的の豊かな供給源となる。
【0105】
優先的RNA結合タンパク(例えば、発現に関してもっとも著明な変動を示すRNA結合タンパク)は、分析の第2段階、すなわち、リボノーム分析システム(RAS(商標))アッセイ(Ribonomics,ダーハム、ノースカロライナ州)に進む(図11)。RAS(商標)アッセイは、インビボで形成されたmRNAとRNA結合タンパクの複合体、すなわち、mRNP複合体関連タンパクのアフィニティー単離と特性解明である。対象とする、RNA結合タンパク、mRNA複合体関連タンパク、あるいは、RNA結合タンパクまたはmRNA複合体関連タンパクにおけるタグに対して特異的な抗体をメーカーの指示に従って用いて、RNA結合タンパクと、mRNAの関連するサブセットを同時に免疫沈降させた。選択されたRNA結合タンパク、または、RNA結合タンパクまたはmRNA複合体関連タンパクにおけるタグに対して惹起されたポリクロナールまたはモノクロナール抗体を用いて、mRNP複合体を、後述のように、細胞または組織分解物から単離し、各RNP複合体について最適化された。この抽出RNAを、標準的なマイクロアレイ方式で分析した。方法における変化としては、パイロット研究に基づく、フォルムアルデヒドとの可逆的化学結合、各種のタグの使用、ビーズ化した試薬(合成ビーズ、例えば、セファローズに対して架橋結合される)、または、特定濃度の塩(例えば、NaClまたはKCl)または界面活性剤(例えば、NP−40、デオキシコレート)を含めたことが挙げられる。mRNP複合体に関連するmRNAの分析のために、市販のガラススライドアレイ(例えば、Agilent Human Unigene14K(Agilent、パロアルト、カリフォルニア州)のようなもの)、または、膜アレイ、例えば、Atlas(商標)(BD Biosciences,Clontech,パロアルト、カリフォルニア州)が、アレイメーカーによって支給されたハイブリダイゼーション、洗浄、および展開用のプロトコールに従って利用された。
【0106】
セルフリー抽出物の調製。RAS(商標)アッセイ分解バッファー(RLB)の組成は、標的RNAに対する特定のRNA結合タンパクの結合特性に従って変動する可能性がある。基本的なRLBは、50mM HEPES、pH7−7.4、1%NP−40、150mM NaCl、1mM DTT、100U/ml RNアーゼOUT、0.2mM PMSF、1μg/mlのアプロチニン、および、1μg/mlのロイペプチンを含む。この基本組成の変動としては、塩濃度の変化(0−500mM NaClまたは0−5mM KCl)、イオン条件(0−10mM MgCl2または0−20mM EDTA)、および、還元環境(0−5mM DTT)が挙げられる。例えば、PTBmRNPを調べるために細胞抽出物を調製するためには、培養細胞を氷冷PBSにて洗浄し、5mM MgCl2を含むRLBに直接掻き入れ、氷上で10分インキュベートし、その後、4℃で10分3,700xgにて遠心した。
【0107】
ある場合には、溶解およびmRNP単離前に、RNA結合タンパクを標的mRNAに架橋結合することが必要である。これは、培養細胞でも、新鮮な組織サンプルについても行った。架橋結合の程度は、各細胞系統または組織毎に測定し、複合体中のmRNAを免疫沈降させる能力に基づいてモニタリングした。培養細胞または組織は、0〜1%のフォルムアルデヒドを含むPBS中で室温で15〜60分インキュベートした。次に、架橋結合を、1Mトリスを最終濃度250mMとなるように加えて停止させ、さらに20分インキュベートした。次に、サンプルを50mMトリスを含むPBSで3回洗浄した。培養細胞の場合、ペレットを、放射性免疫沈降(RIPA)バッファー(50mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl、1%NP−40、0.1%SDS、0.5%DOC、および、100U/ml RNアーゼOut)に、約2mg/mlの最終タンパク濃度となるように再懸濁した。組織の場合は、サンプルをRIPAに再懸濁し、ポリトロンにて細胞をホモジェナイズして組織を破壊した。最初の溶解後、サンプル(組織および培養細胞)を、出力設定6(Branson450、BransonUltrasonics Corp.,ダンブリー、コネチカット州)のプローブ超音波発信機にて、それぞれ20秒で2回超音波処理した。超音波処理の間、サンプルは2分間氷上にて冷却させた。次に、溶解物を、3,700xgで15分遠心して透明にした。その後、前述のようにmRNP単離を行った。
【0108】
mRNPの免疫沈降とRNA抽出。平均して、細胞溶解物における、典型的な、最終タンパク濃度は2mg/mlであった。各免疫沈降条件のために約2mgを用いた。透明とされた細胞抽出物を、一次抗体(例えば、抗PTBが最終濃度10μg/mlで使用された)、または、等濃度のコントロール抗体(例えば、最終濃度10μg/mlの免疫前またはIgG血清)と4℃で2時間インキュベートした。プロテインA Trisacryl(Pierce Biotechnology、ロックフォード、イリノイ州)の25μl分液を加え、サンプルを4℃で1時間回転させた。次に、免疫複合体を、RLBバッファーにて6回洗浄した。洗浄は、1洗浄当たり1mlのRLBバッファーを加え、その後マイクロ遠心器で5,000rpmで30秒の短時間遠心することによって行った。最後の洗浄後、PicoPure(商標)RNA単離キット(Arcturus,Inc.,マウンテンビュー、カリフォルニア州)による50μlのRNA抽出バッファーをビーズに加え、短時間渦巻き回転し、遠心してビーズをペレットとした。PicoPure(商標)のプロトコール(Arcturus,Inc.,マウンテンビュー、カリフォルニア州)に従って、抽出RNAを精製した。次に、mRNP複合体中に存在するRNAを、RiboGreen(商標)アッセイ(Molecular Probes,Inc.,ユージン、オレゴン州)を用いて定量した。
【0109】
マイクロアレイ分析のためにRNAの増幅。mRNP複合体から単離したmRNAは、全体RNAの内のほんの僅かなサブセットを表すものに過ぎないので、我々は、標識前に単離mRNAを増幅した。メーカーの指示に従ってRNA増幅を行うためにMessage Amp(商標)(Ambion,Inc.,オースチン、テキサス州)を用いた。標識前に、Cy3またはCy5−dUTPによるランダムプライマー重合によって2ラウンドの増幅を行った。ハイブリダイゼーションと洗浄は、マイクロアレイメーカーのプロトコールおよび前述の通りに行った。マイクロアレイデータの獲得と分析は前述のように行った。
【0110】
mRNPクラスターマイクロアレイ結果の分析。標準的RAS(商標)分析では(例えば、正常対疾患、処置対未処置)、全体RNA内容の量的および質的変化を、mRNP複合体の変化と比較した。得られたデータは四つのクラスに分けた。すなわち、(1)mRNP複合体において等しい量的変化を示したmRNP転写物、(2)全体RNAには存在するが、mRNP複合体には存在しないRNA、(3)mRNP複合体には存在するが、全体では見かけ上存在しないか、検出レベル以下のRNA、および、(4)全体RNAとは量的に違ったやり方でクラスターとして変化するRNAである。さらに、RAS(商標)アッセイにより、クラス4で表される遺伝子で、全体量は変わらないが、オルタナティブ処理および調整のために細胞内で再分割される遺伝子が特定された。結果、様々なスプライス変種が翻訳され、mRNAは細胞内の特定部位に輸送されて翻訳されるか、または、翻訳そのものが上向きまたは下向き修飾されることが考えられた。グループ3および4の内部に特定された遺伝子サブセットは、遺伝子発現の特性解明のために現在利用可能な他の方法では簡単には特定できないものであった。mRNP複合体の分析によって、複合体では濃縮されるが、その他の場所では、全体RNAの背景の中に埋没してしまう程の低レベルでしか存在しないmRNAが明らかにされた。例えば、FragileX知恵遅れタンパク(FMRP)複合体と関連するmRNAを調べた最近の出版物では、3種の遺伝子(KIAA0561様、Rab3GDP/GTP交換タンパク、および、hCT25324/(セレラ、ロックビル、メリーランド州))は、全体RNAクラスでは「欠如」と見なされたが、FMRP複合体クラスでは30−60倍に濃縮されていた。さらに、この技術によって、疾患の、または、その発現が細胞によって注意深く制御される細胞状態にある遺伝子、従って、薬剤発見において魅力的な標的となる可能性の高い遺伝子が特定される。本発明の一つの目的は、薬剤標的の特定であるから、下向きの努力は、低分子量薬剤に向けて追跡可能な標的となることが判明した標的クラスに向けられる。具体的に言うと、これらの標的クラスは、特に、核受容体、G−プロテイン結合受容体、フォスフォジエステラーゼ、キナーゼ、プロテアーゼ、および、イオンチャンネルを含む。治療的興味のある他の標的クラスとしては、分泌分子、細胞外リガンド、およびフォスファターゼが挙げられる。これらの遺伝子クラスの中で、特に魅力的な標的は、もっとも限定された全身発現プロフィールを持つものである。
【0111】
mRNP複合体の機能的確認。RAS(商標)によって特定された候補標的遺伝子または遺伝子産物については、定量的PCRおよびウェスタンブロットによってRNAおよびタンパクレベルにおける発現を確認した。さらに、関連mRNAの運命、例えば、安定性、変性、または細胞内局在に関わる、mRNP複合体の機能を、様々の技術、すなわち、mRNAとRNA結合タンパクまたはmRNP複合体関連タンパクの間の三重相互作用を確認するために、共焦点顕微鏡検査、インサイチュハイブリダイゼーション、3−ハイブリッドリポーター分析、および、生化学的活性を評価するインビトロ法含めた多様な技術−ただしそれらに限定されない−を用いて探求した。この研究は、RNA結合タンパクは、通常mRNAの5′または3′末端に認められる特異的ヌクレオチド配列に結合することがインビトロで証明されたことによって支持された。
【0112】
RNAiによる、疾患または細胞表現型における治療標的役割(単複)の有効性実証。疾患特異的mRNP複合体において特定された遺伝子が、対象とする疾患の原因またはその他の表現型に直接的役割を担うかどうかを確認するために、RNAi抑制実験のために候補標的遺伝子を選んだ。各候補の治療遺伝子について、その遺伝子のコード配列を表す1種以上の短いDNAセグメントを、個別に、プラスミドで、センスまたはアンチセンス方向に、U6ポリメラーゼIIIプロモーター、または、RNアーゼP RNA H1の下流にてクローンした。プラスミドベクターは、五つの候補治療遺伝子の2種以上の短いDNAセグメントを、U6ポリメラーゼIIIプロモーター、または、RNアーゼP RNA H1の下流に含むように構築した。あるいは、化学的に合成された相補的な22bp RNAをアニールすることによってRNAiを構築してもよい(Dharmacon,ラファイェット、コロラド州)。ベクターまたは2本鎖RNAを培養細胞にトランスフェクトした後、候補標的の発現に対する抑制作用を定量することによって表現型特性を評価した。さらに、RNAおよびタンパクレベルにおける遺伝子発現の抑制を確認するために、時間経過実験のノーザンブロットおよびウェスタンブロットを行い、個別の遺伝子の抑制の効力と持続時間を明らかにした。トランスフェクションは、1から5日間の一過性の発現を招く。あるいは、RNAiを発現するベクターは、ネオマイシンのような優勢な選択可能マーカーによる同時トランスフェクションおよび選択によって、培養細胞において安定に発現させることが可能である。RNAi使用に対する別法として、従来のアンチセンスRNA、または、対象とする標的の優勢陰性形を発現するベクターを用いることも可能である。アンチセンス遺伝子および優勢陰性遺伝子は、直接のDNAトランスフェクション、または、ウィルスベクターの使用によって転送することが可能である。そのようなウィルスベクターとしては、レトロウィルス、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、バキュロウィルス、ポックスウィルス、およびポリオーマウィルスが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。疾患または細胞の表現型における遺伝子の役割を明らかにするために選ばれた、研究対象となった生物系は、関連する生物特性を模倣する(例えば、腫瘍細胞の無統率な成長)細胞培養または動物モデルシステムを含む生物系分野における知識に基づく。
【0113】
候補標的遺伝子の抑制の他に、RNAi構築体を用いて、候補遺伝子のmRNAに結合するRNA結合タンパクの発現を抑制した。複数mRNAに結合し調整するRNA結合タンパクの抑制は、細胞の表現型により著明な作用を及ぼすようであるが、この過程は、mRNP複合体の決定的重要性を確証するための重要なコントロールであり続けている。
【0114】
(実施例6:神経分化のための新規標的の発見とその有効性証明)
HuB(Hel−N2)は、神経分化の調節に役割を演じていると考えられるRNA結合タンパクである。胚性ガン細胞系統であるp19細胞の分化過程において独特で、決定的に重要なやり方で関わる、HuB mRNP複合体におけるmRNAの、神経およびグリア様表現型に対する機能的重要性が特定され、実証された。コントロールとして、p19細胞を、DMSO処理によって心筋および骨格筋運命に分化するように誘導することによって実験を二重化した。
【0115】
細胞培養。遺伝子10にタグされた神経細胞特異的HuBタンパク(Hel−N2と呼ばれる)を局外に発現する、SV40プロモーター駆動pアルファ2−遺伝子2−遺伝子10−HuBプラスミドによって安定にトランスフェクトされたP19細胞であるG11細胞を、デユーク大学(ダーハム、ノースカロライナ州)から入手した。このトランスフェクトプラスミドは、培養液に0.2mg/mlのG418(Sigma Chemicals,セントルイス、ミズーリ州)を補給することによって、G11細胞中に維持した。親の、トランスフェクトされていないP19細胞は、アメリカ標準株収集施設(ATCC、マナサス、バージニア州)から入手し、α−MEMで、フェノールレッドの添加無し、7.5%仔ウシ血清と2.5%ウシ胎児血清と100Uのペニシリン/ストレプトマイシンの添加有り、による単層培養にて維持した。細胞は、あらかじめ0.1%ゼラチンでコートし使用前に取り除いた、組織培養用フラスコまたはプレートで育成した。単層細胞培養物は、37℃で5%CO2中に維持した。
【0116】
神経分化は、60mmペトリ皿に載せた5x105G11またはP19細胞を0.5μMのRA(Sigma−Aldrich,セントルイス、ミズーリ州、カタログ番号#R2625)によって処理して誘発した。筋肉分化は、60mmペトリ皿に載せた5x105P19細胞を5%DMSO(Sigma−Aldrich,セントルイス、ミズーリ州、カタログ番号#D2650)によって処理して誘発した。2日後、凝集体を形成した細胞の25%を取り出し、新しいペトリ皿に設置し、新鮮な培養液とRAまたはDMSOを補充した。さらに2日後、細胞凝集体を、リン酸バッファー生食液(PBS)で1回洗浄し、トリプシン処理した。次に、細胞を、2個の、100mmゼラチンコート組織培養プレートにプレートした。細胞はさらに4日後に収穫した。RA処理のG11細胞は神経突起を伸ばし、神経細胞に特徴的なマーカーおよび形態を示したが、最終的には分化せず、分裂阻害剤による殺作用に対して感受性を持ち続けた。DMSO処理G11細胞は、特徴的な筋細胞マーカーと形態を示したが、最終的には分化せず、分裂阻害剤による殺作用に対して感受性を持ち続けた。細胞抽出および免疫沈降を、実施例1に記載する通りに実行した。抗遺伝子10(g10)モノクロナール抗体は、実施例1および2に記載する通りのやり方でデユーク大学(ダーハム、ノースカロライナ州)から入手した。
【0117】
免疫沈降後、関連mRNAは、高密度マウス12Kガラススライドマイクロアレイ(マススcDNAマイクロアレイキット、カタログ番号#G4104A、Agilent Technologies,パロアルト、カリフォルニア州)上にて特定した。RNA標識およびマイクロアレイ分析は、メーカーのプロトコールに従って実施した(Agilent Technologies,パロアルト、カリフォルニア州)。RA処理前後におけるmRNAプロフィールの比較から、全体RNAサンプルで発現される約10K遺伝子とは対照的に、RA処理後には、僅かに1,072個の遺伝子がG11 HuB mRNPにおいて発現していることが明らかにされた。さらに、この1,072個の遺伝子を、GO(Gene Oncology(商標)データベース)に基づいて、薬剤治療可能遺伝子クラス(例えば、通例の薬剤治療が向けられるタンパククラス)に分解すると、27個のキナーゼ(全体RNAで検出された275個と比較)、43個のフォスフォキナーゼ(全体RNAで検出された148個と比較)、14個のプロテアーゼ(全体RNAで検出された137個と比較)、14個の受容体(全体RNAで検出された87個と比較)、39個のサイトカイン(全体RNAで検出された143個と比較)、および、20個の成長因子(全体RNAで検出された87個と比較)であった(表3)。
【0118】
(表3)
【0119】
【表3】
(表4)
【0120】
【表4】
*HuB RNPまたは全体細胞RNAにおける各遺伝子のRNA量の変化。1日目および9日目におけるG11細胞の分化/未分化を比較したもの。
【0121】
5回の繰り返し免疫沈降反応から、G11細胞の全体RNA含量に実質的変化があろうとあるまいと、HuB mRNP複合体において選択的に局在することが可逆的に見出されるHuB mRNP複合体関連mRNAを選んだ。HuB複合体において、最大の量的増加によって分類される上位40個の遺伝子の内、19は、現在ほとんどまたは全く生物学的情報の無い発現配列タグ(EST)またはRikenクローンであった。さらに、これら40個の内、14は、HuB mRNPと全体RNAの両方において2倍を越えて増加した。その後の分析には3個の特定の遺伝子を選んだ。すなわち、カルシウムチャンネルベータ3サブユニット(CACN)、カドヘリンEGF LAG7回通過Gタイプ受容体(CELSR)、および、筋ブラインドRNA結合タンパク遺伝子(MBNL)(表4)。この三つの遺伝子について、細胞のmRNAの全量において観察された変化と比べた場合の、HuB mRNPにおけるmRNAレベルの変化を表4に示す。
【0122】
神経分化における役割を確認するために、定量的PCRによる広範な転写分析を行った。分析は、G11細胞(HuBを構成的に発現する)と親のP19細胞におけるCACN、CELSR、およびMBNL遺伝子に対するRNA発現のパターンを見ることによって行った(図12A,12Bおよび12C)。試験細胞系統のG11では、三つの遺伝子全てが、レチノイン酸処理後の分化の時間過程において一過性の誘導を示した。逆に、G11細胞のDMSO誘導では、同じ遺伝子の発現パターンに変化は誘発されなかった。これは、これらの遺伝子は神経分化には関与しているが、筋肉分化にはこれらの遺伝子の発現は必要とされないことを示唆する。
【0123】
神経分化におけるこれら三つの遺伝子の役割をさらに確認するために、発現を、局外発現g10タグ付きHuBを欠如するP19親細胞系統において定量的PCRによって調べた(図13A、13B,および13C)。速度はやや変動したけれども、三つの遺伝子の発現は全て、神経細胞への分化の時間過程では変化したが、筋肉への分化の間は比較的不変であった。
【0124】
従って、このG11細胞から成るモデルシステムでは、1日目と9日目の比較に基づく全RNAサンプルを用いた単純なマイクロアレイ分析であったなら、神経発達におけるこれら三つの遺伝子の重要性を明瞭にすることはできなかったであろう。これらのデータは、1日目と9日目のサンプルを比較した場合G11細胞で観察された定量的PCRレベルによって確認される。しかしながら、データは、HuB含有mRNPにおいて再配分されるが、HuBは神経分化に関与することが知られるのであるから、データは神経分化と関連して捉えられる。このような役割は、両試験細胞系統、G11,およびさらに重要なことであるが、親細胞系統のP19において、1日目と9日目の間において三つの遺伝子に観察された、一相または二相の差動発現パターンによって確認される。従って、重要なmRNPの分析によって、特定の生物過程において重要な遺伝子簡単に強調することが可能である。
【0125】
(実施例7:肝臓毒性の見張り役となるRNA結合タンパクのスクリーニング)
ヒト細胞系統HepG2を、肝臓毒性のモデルとして用いた。HepG2細胞を試験化合物投与によって処置し、RNA結合タンパク遺伝子発現に及ぼす作用を評価した。処理72時間後に50%の死亡率をもたらす用量を用いて、HepG2細胞を24時間処理し、その終了時に遺伝子発現に対する作用を定量した。24時間時点を遺伝子発現の評価に用いることによって、重大な細胞死に至る化合物用量によって引き起こされる遺伝子発現変化を調べることが可能になった。
【0126】
最高耐性用量(HTD)、すなわち、細胞において、最小の検出可能な形態変化(例えば、球形化、小胞形成、分離、溶解)をもたらす試験化合物の濃度を決めるために、予備的用量反応曲線を生成した。簡単に言うと、10%FCS添加ダルベッコの修正イーグル培養液(DMEM)に懸濁させた細胞を、96ウェル組織培養プレートに2x104細胞/ウェルで撒いた。細胞接種の24時間後、培養液を除去し、試験化合物の複数希釈液に加えて、FCS無しの0.1%BSA,および、0.25%ジメチルスルフォキシド(DMSO)または0.25%DMSOのいずれかを含む新鮮なDMEMを細胞に加えた。例えば、4μMから10mMに渡る希釈液を、化合物、クロフィブレート、DEHP、ゲムフィブロジル、フェニトイン、および、アセタミノフェン(Sigma−Aldrich,セントルイス、ミズーリ州)について用いた。
【0127】
投与24時間後、細胞を目視にて形態的変化の有無について評価した。HTDを用いて、生体染色細胞生存率アッセイ(例えば、アラマーブルー、MTT(Roche Applied Science、インディアナポリス、インディアナ州)、XTT(Roche Applied Science,インディアナポリス、インディアナ州)で使用する、より狭い用量範囲を定義した。生体染色アッセイでは、細胞は、24時間ではなく72時間に渡って前述のように接種・投与を受けた。この72時間の生体染色毒性評価データを用いて、各化合物についてTD50値、すなわち、DMSO単独処理と比較した場合の、約50%の細胞死を引き起こす相対的毒性用量を求めた。
【0128】
72時間の細胞処理後に50%の細胞死をもたらす試験化合物の濃度を用いて、mRNA分析用の細胞に投与した。細胞は、10%FCS添加DMEMにおいてT150プレートに約20%の集密度(TD50定量で用いたものと等価的な密度)において撒き24時間インキュベートした。培養液を除去し、DMEMと0.1%BSA(すなわち、FCS無し)、および、DMSOのみ、または、試験化合物とDMSOとを、先に求めたTD50濃度で含む培養液と交換した。薬剤投与の24時間後、細胞を採取した。全体RNAを、QiagenRNeasyプロトコール(Qiagen,Inc.,バレンシア、カリフォルニア州)に従って、新鮮な、または、急速冷凍した細胞ペレットから調製した。全体RNAは分光光度計測によって定量した。完全性は、Agilentバイオ分析装置2100(Agilent,パロアルト、カリフォルニア州)上で展開して確認した。全体RNAは、増幅せずに、アミノアリルdUTPの存在下に逆転写してcDNAを生成し、その後Cy3またはCy5蛍光染料(TIGR SOP#M0004)に対する直接結合によって標識した。標識RNAは、約1400種のRNA結合タンパクを含む、特注のオリゴヌクレオチドスポットマイクロアレイ(MWG Biotech、ハイポイント、ノースカロライナ州)を用いて分析した。最初のスクリーニングでは、Ribochip(商標)V.1.0マイクロアレイ(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)を用いた。Ribochip(商標)(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)は、1400以上のRNA結合タンパクに対して相補的なオリゴヌクレオチド、プラス、コントロールから構成される。あるいは、Ribochip(商標)マイクロアレイ(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)は、毒性の質的・量的評価のために見張り遺伝子の完全セットを表す、転写因子の包括的収集体を含んでもよい。標識プローブのハイブリダイゼーションおよび洗浄は、標準手順(TIGR SOP#M0005)によって実行した。
【0129】
データ分析および統計解析用のデータフローを図15に示す。要するに、マイクロアレイスライドを先ずスキャンし、GENEPIX(登録商標)4.0ソフトウェア(Axon Instruments,Inc.,ユニオンシティー、カリフォルニア州)を用いてGENEPIX(登録)Axon4000Bスキャナーによって読み取ってデータを獲得した。次に、スポット特徴を、BiodiscoveryのIMAGENE V4.2パッケージ(BioDiscovery, Inc.,マリナデルレイ、カリフォルニア州)で抽出した。アレイ内、アレイ間データ正規化、中央化、および縮尺を含めたデータ処理は、目視(例えば、ヒートマップ)と、統計環境R(Ross Ihaka and Robert Gentleman,R、「データ分析とグラフィックスのための言語(“A language for Data Analysis and Graphics”)」、Journal of Computational and Graphical Statistics,1996,5,299−314−参照することにより本明細書に含める)、および、マイクロアレイデータ正規化と分析ライブラリーから成るBioConductor Suite(BioConductor,Biostatistics Unit of Dana Farber Cancer Institute、ボストン、マサチューセッツ州)によって導入される定量的方法(例えば、分布分析)によって実現された。正規化および縮尺による最終的データ分析は、GENESPRING(登録商標)4.2.1ソフトウェアプラットフォーム(Silicon Genetics、レドウッドシティー、カリフォルニア州)内部の、遺伝子クラスター化、統計的ろ過、および、クラス予言機能を用いて実行し、個々の化合物、化合物クラス、および一般的毒物反応に対して一意な、極めて予測性の高い遺伝子セットを特定した。
【0130】
これらの予測性の高い遺伝子セットは、未知の試験化合物によって引き起こされるHepG2細胞の遺伝子発現プロフィールの変化を評価する基礎として、また、上記化合物によって引き起こされる肝臓毒性を予測し、分類するための手段として役立つ(実施例9)。さらにこれらのデータは、他の組織における毒性を予測するのにも用いられる。試験化合物に暴露されたことによって起こる、HepG2細胞の遺伝子発現の変化は、正常組織の膨大な収集体に関する遺伝子発現情報の内部的データベースにも例えられる。HepG2細胞において、試験化合物処理によってその発現パターンがかき乱されるRNA結合タンパク遺伝子は、RNA結合タンパクを発現する複合的組織の毒性を予測するのに使用される。例えば、ある化合物が、正常の心臓組織に一意に発現される遺伝子の発現に変化をもたらす場合、この化合物は、心臓毒性をもたらす可能性ありと表示される。
【0131】
(実施例8:mRNP複合体の特性解明によって、毒性機構または化合物の作用機構を確定する
変化させられた転写制御因子と下流の表現型作用の間の機械的接続を根拠付けるために、転写因子と、その発現が、特定の毒素の存在下に常に変化させられるRNA結合タンパクとを特定することは、この転写制御因子の変化によって影響される下流遺伝子の特定に結びつく。
【0132】
転写因子とRNA結合タンパクとを、毒性の見張り役として使用することと関連してもっとも貴重な成分の一つは、それらが、機械的な洞察と実験を供給してくれるその継続的な価値である(図16)。毒素による転写因子またはRNA結合タンパクの定常的上向き調整は、これらの制御因子によって制御される遺伝子に対して下流方向の影響を及ぼすことが大いにあり得る。このような遺伝子は、この遺伝子のコード領域の上流のcis調整要素における転写因子結合部位の出現によって暫定的に特定することが可能である。個別の転写因子のDNA結合活性は、インビトロゲル遅延アッセイによって、毒物処理細胞溶解物で簡単に評価することが可能である。このアッセイは、タンパクが、標的DNA配列に結合し、ゲル電気泳動中のその移動を遅れさせる能力を測定するものである。あるいは、マイクロアレイ分析と結合させたクロマチン免疫沈降を用いて、DNAの転写因子結合セグメントを特定してもよい。転写因子の調整作用の機能的評価は、リポーター遺伝子アッセイを用いて通例として実行される。このアッセイでは、転写因子結合部位の1個以上のコピーが、リポーター遺伝子、典型的には外来遺伝子(例えば、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランフエラーゼ、または、蛍光分子、例えば、緑色蛍光タンパク(GFP))の上流に挿入される。このアッセイでは、遺伝子発現の変化は、酵素活性または蛍光強度の変化を通じて定量的に報告される。従って、比較的標準的な技術を用いることによって、細胞遺伝子集合体に対する、下流に向けた、機械的作用における、毒素制御転写因子の作用特定が簡単に評価される。
【0133】
関連mRNAの収集、組織化、および協調的処理におけるRNA結合タンパクの役割は、特定の遺伝子を通じて伝えられる、下流向き有毒作用に関する豊富な情報源となる可能性がある。RNA結合タンパクは、RNA結合タンパク自身の遺伝子の安定化、輸送、翻訳、および修飾を制御する遺伝子の5′および3′UTRにおける保存配列要素に結合するのであるから、このタンパクは、多数の下流遺伝子に作用を及ぼす。例えば、RNA結合タンパク、トリステトラポリン(TTP)は、TNF−αおよびGM−CSFの3′UTRのAU富裕要素に結合し、このmRNAの変性を加速させる。さらに、TTP欠乏マウスは、広範な自己免疫疾患と一致する重篤な病態を発現する。この疾患は、関節炎、皮膚炎、骨髄性肥大、および、悪液質を含み、これらの症状は、TNF−αに対する抗体による中和によって寛解が可能である。ほぼ同様にして、もう一つのRNA結合タンパク、FMRPの先天的喪失は、遺伝性精神遅滞のもっとも普遍的な形態である、ヒトにおける脆弱X症候群の主要原因である。FMRPは、mRNAサブセットに結合し、神経細胞シナプスに配置し、神経伝達物質に反応して局所のタンパク翻訳を可能とする。FMRPの欠如は、シナプス伝達にとって必須のmRNA集団の調整不備を招くものと考えられている。
【0134】
あるクラスの化合物によって明らかに上向き調整されるRNA結合タンパク遺伝子を定義することによって、これらのRNA結合タンパクと関連するmRNAプールも特定することが可能になる。あるクラスの化合物によって制御されるRNA結合タンパクはクローンし、標準的なクローン手順と市販の発現ベクターを用いて、GSTまたは6XHis標識融合タンパクとして発現させることが可能である。細菌性の発現ベクターを用いて、RNA結合タンパクを、大腸菌において、または、インビトロ結合転写翻訳システムにおいて発現させることが可能である。この組み換えタンパクを、GSTまたは6XHis標識タンパクに対して特異的に結合するニッケルまたはGSTビーズとインキュベーションし、付着させた後で、化合物処理細胞由来の全RNA標本を、このRNA結合タンパクに加える。ビーズは、HepG2細胞由来のmRNAの結合を許す。このようにして、肝臓細胞において調整RNA結合タンパクと関連し、薬剤処理によって異常な作用を受けた可能性の高い細胞mRNAが、前述のような標準的マイクロアレイ分析によって特定される。
【0135】
あるいは、薬剤処理によって修飾されるRNA結合タンパクに対して特異的な抗体が利用可能であるかに応じて、HepG2細胞由来の内因性mRNP複合体を免疫沈降させ、前述のようにmRNAサブセットを探求することが可能である。化合物によって変化させられたRNA結合タンパクの使用によって、スプライシング、核輸送、安定性、細胞内局在、または、ある化合物クラスの作用機構にとって重要な共通機能を持つ遺伝子グループの翻訳の局面で差別的に、または調和的に調整されるmRNAプールを特定することが可能になる。
【0136】
(実施例9:ある対象mRNAと関連する、完全セットのRNA結合タンパク、およびRNA関連タンパクを特定するために細胞および組織からばらばらのmRNP複合体を単離すること)
RiboTrap(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)と呼ばれる、別の、指向性の高い方法を用いて、インビボにおいて疾患関連mRNAと内因的に関連する、RNA結合タンパクとmRNP複合体関連タンパクを検出した。このアッセイは、対象遺伝子、例えば、薬剤標的と同時制御されるmRNAの組み合わせを定義する。得られる情報は、有効標的に関する新規経路情報、別様の、または複数の薬剤治療における新たな治療標的、および、臨床治験でモニタリング用として用いられる代理疾病マーカーを提供する可能性がある。
【0137】
標準的な組み換えDNAおよびPCR技術を用いて、対象遺伝子および/またはその5′および3′UTRを表すcDNAを構築した。このcDNAの3′UTRは、ファージMS2コートタンパクのRNA結合部位を表すステムループの一連の反復列を持つ。あるいは、特定のタンパク(例えば、HIV PREおよびRevタンパク)に結合することが知られる任意のRNAステムループまたはその他のRNA構造体の使用が可能である。
【0138】
原型実験では、c−myc cDNAを用いた。なぜなら対応mRNAが、インビトロでもインビボでもELAV/Huタンパクの結合標的だからである。c−myc cDNAは、CMVのような適当な哺乳類細胞プロモーター、SV40,またはアクチンプロモーターを持つ発現ベクターにクローンする。あるいは、アデノウィルスまたはレトロウィルスプロモーターを持つベクターにクローンし、適合的な哺乳類細胞系統にトランスフェクトさせる。例えば、神経細胞タンパクをコードするcDNAを、PC12(ラット)、P19(マウス)、またはhNT2(ヒト)のような神経性細胞系統において発現させる。あるいは、代謝研究のために、cDNAを、前脂肪細胞(マウス3T3L1)またはヒト脂肪細胞系統に発現させる。
【0139】
加工されたc−myc cDNAの発現後、細胞抽出物を調製して、MS2コートタンパク結合部位を含むc−myc mRNAを釣り上げる。MS2コートタンパクは、アガロース、またはセファローズビーズ、または他の適当な固相マトリックスに連結される。MS2コートタンパクに対する抗体、または、ビオチニル化MS2コートタンパクもストレプトアビジンビーズに結合することが可能である。これらの試薬により、細胞抽出物から、MS2ステムループ反復列を含むmRNA、および、インビボにおいてそのmRNAと関連するRNA結合タンパクおよび/またはmRNA複合体関連タンパクを分離することが可能になる。
【0140】
方法に対する修正としては、フォルムアルデヒドとの化学的架橋、または、各種タグおよびビーズ試薬の使用が挙げられる。RiboTrap(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)によって対象mRNAと一緒に単離されたタンパクは、標準的なプロテオーム法を用いて特定することが可能である。例えば、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDITOF)、および、タンデム質量分析(または質量分析/質量分析)を用いて、ペプチド配列を特定し、データベース探索に備える。特定されたタンパクと反応する抗体は、標準法に従って惹起し、前述のようにRAS(商標)アッセイを実行するのに使用が可能である。
【0141】
RAS(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)運用後、mRNP複合体に存在するmRNPサブ集団は、特定され、共通のUTR配列要素の有無に関して調べることが可能である。なお、相同性に関するコンピュータ分析は、制御コードにおける未翻訳配列要素(USERコード)を特定するに当たって信頼度の高い方法ではないことに注意すべきである。なぜなら、それらの要素は、1本鎖ではなく構造的であることが多いからである。さらに重要なことは、mRNAサブ集団同士について、機能的相関の有無を調べることが可能である。例えば、各mRNAは、遺伝子表示名および、機能的ゲノミクスデータベースにおける既知の機能によって分類することが可能である(例えば、LocusLink(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、GOデータベース(Gene Ontology(商標)Consortium)、Proteome Bioknowledge(登録商標)Library(Incyte Genomics,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)。例えば、RiboTrap(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)によって用いられるタンパクが免疫制御に関与している場合、同じmRNP複合体中に見られる他のmRNAも、免疫制御における役割の有無に関して分析することが可能である。一方、mRNAは、mRNP複合体において別のRNA結合タンパクを通じて間接的に結合することが可能である(例えば、UTRにおける、RNA結合タンパクを認識する、または、RNA結合タンパクの、その他の既知の結合部位を認識するUSERコード要素の存在に対して評価される)。
【0142】
RAS(商標)アッセイの目的は、mRNA集団であって、そのmRNA同士が、UTRにおいて関連する構造的特性を持ち、または、それらのmRNAによってコードされるタンパク同士が機能的相関を持つ、そのようなmRNA集団を特定することである。予想される関連機能としては、a)コードされるタンパクが、共通の代謝経路に関与すること、b)一過性に同時調整される複数のコードタンパク、c)細胞の中に、または上に同様に局在する複数のコードタンパク、d)生物機構(例えば、リボソーム)の形成または制御に参画する複数のコードタンパクが挙げられる。一組の機能的に関連するタンパクの発現によってもたらされる複雑な性質と表現型を特定することは、認識、細胞特異的活性化、炎症、または分化のような過程を含むことが考えられる。これらの複雑な過程に関与することが知られるタンパクは他の研究から知られる一方、その機能の大部分はほとんど未知である。本発明の価値の一つは、上記の過程の中に、別様の薬剤標的または代理マーカーとして役立つ可能性のある、さらに大きな一組のタンパクを発見することである。
【0143】
本発明は、その精神または本質的特性から逸脱することなく、その他の特定的形態において具現化することが可能である。従って、前述の実施形態は、本明細書に記載される発明の例示であって、限定するものではない。本明細書には特許請求の範囲の等価物が含まれるとはいうものの、本発明は下記の特許請求の範囲によって記述される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、ゲノムからプロテオームへの遺伝情報の流れで、中間レベルはリボノームとトランスクリプトームで表される遺伝情報の流れの概観的模式図である。トランスクリプトームは、ゲノムに対する全mRNA相補体を表すが、必ずしもタンパク生産と直接には相関しない。mRNAの加工、輸送および翻訳は、プロテオーム結果を決定する動的調節工程を表すリボノームで起こる。
【図2】図2Aは、mRNP複合体(例えば、mRNP1、mRNP2、mRNPx)と関連するmRNAの転写を示すイラストである。図2Bは、全細胞mRNA、核放出mRNA、および、mRNP複合体内に結合されるmRNAそれぞれのアレイを比較するイラストである。
【図3】図3は、新規RNA結合タンパクを特定するための戦略を概観する模式図である。
【図4】図4Aおよび4Bは、mRNP複合体と関連するmRNAの、多数プローブRNアーゼ保護分析を図説する。細胞分解物のmRNP複合体を免疫沈降させ、ペレット化したRNAを抽出し、RNアーゼ保護によって定量した。図4Aおよび4Bは、それぞれ、mMycおよびCyc−1多数プローブ鋳型セットの例を示す。レーン(1)未消化のリボプローブ(リボプローブプラスミド鋳型のせいでRNアーゼ消化産物よりもやや長い)、(2)全体細胞RNA、(3)ウサギプレブリード血清コントロール、(4)ハブmRNP複合体から抽出したmRNA,(5)ポリA結合タンパク(PABP)mRNP複合体から抽出したmRNA。星印(*)は、全体RNAでは検出されないmRNA分子種を示す。
【図5】図5は、DNAアレイによる、RNAサブセットのリボノームプロフィール形成を概観する模式図である。このmRNP複合体は、2種の細胞サンプルから単離されたものであり(例えば、二つの個体、生物種、細胞タイプ、処置、または発達段階)、関連RNAプールは、RNAプローブを製造するために逆転写される。遺伝子のDNAアレイ、すなわちcDNAは、mRNP由来プローブの各プールによってプローブ探索されて、遺伝子発現サブプロフィール(10)を生成する。次にサブプロフィールを、減法または加法によって比較して、全体発現プロフィール(20)を生成する。全体細胞プロフィールのサブプロフィール(mRNP1、mRNP2、...mRNPn)は添加因子として示される。重畳される、各サブプロフィールは、単一細胞タイプにおける個別のmRNP複合体を表すが、あるいは、複雑な組織または腫瘍における個別の細胞トランスクリプトームを表す。
【図6】図6は、後述の実施例2Bの結果を示し、cDNAアレイによってmRNP複合体に関連するmRNAを示す。パネル:(A)プレブリード、(B)HuB、mRNP複合体、(C)elF−4E mRNP複合体、(D)ポリA−結合タンパク(PABP)mRNP複合体、(E)全細胞RNA。工程の特異性の例は、mRNPプロフィールにおいて、β−アクチンとリボソームタンパクS29をコードするmRNAの量の差によって示される(それぞれ、矢印aとb)。
【図7】図7は、実施例2の結果を示し、レチノイン酸処理の前後におけるHuBおよびHuA mRNP複合体のmRNAプロフィールの比較を示す。パネル:(A)未処置細胞から免疫沈降させたHuB mRNPから抽出したmRNA、(B)レチノイン酸処理細胞から免疫沈降させたHuB mRNPから抽出したmRNA、(C)未処置細胞から免疫沈降させたHuA(HuR) mRNPから抽出したmRNA、(D)レチノイン酸処理細胞から免疫沈降させたHuA mRNPから抽出したmRNA、(E)未処置細胞溶解物から抽出した全mRNA、(F)レチノイン酸処理細胞溶解物から抽出した全mRNA。
【図8】図8は、総合遺伝子発現プロファイリングとリボノームプロファイリングの比較である。図は、図7の代表的マイクロアレイスポットを示す。スポットは軸合わせをし、拡大され、レチノイン酸処理前後の、全体mRNAにおけるIGF−2、インテグリンβ、サイクリンD2、およびHSP84と、HuB結合mRNAと関連するものとの比較をする。全体およびHuB関連IGF−2mRNAレベルは、レチノイン酸処理に応じて増加した。逆に、HuB関連インテグリンβ、サイクリンD2、およびHsp84 mRNAレベルは、RA処理後、全体RNAレベルの変化とは無関係に増減した。*mRNAは、RA処理細胞のみに検出された。
【図9】図9は、RNA結合タンパクとmRNP複合体による標的発見過程の模式的概観図である。
【図10】図10は、RNA結合タンパク発現および/またはmRNP複合体の比較から得られたマイクロアレイ結果を分析・解釈するためのデータフローの模式的概観図である。
【図11】図11は、全細胞RNAのマイクロアレイ分析と比較した、リボノーム分析システム(RAS(商標))アッセイの模式的概観図である。
【図12−1】図12Aおよび12Bは、実施例28の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(A)カルシウムチャンネルベータ3サブユニット(CACN)、(B)カドヘリンEGF LAG7回通過Gタイプ受容体(CELSR)で、安定にトランフェクトされたg10標識HuB遺伝子を含む。レチノイン酸(RA)による神経細胞分化誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件。これら3種の遺伝子の発現は、ジメチルスルフォキシドまたはレチノイン酸のどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図12−2】図12Cは、実施例28の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(C)G11細胞における筋ブラインドRNA結合タンパク(MBNL)で、安定にトランフェクトされたg10標識HuB遺伝子を含む。レチノイン酸(RA)による神経細胞分化誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件。これら3種の遺伝子の発現は、ジメチルスルフォキシドまたはレチノイン酸のどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図13−1】図13Aは、実施例2の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(A)カルシウムチャンネルベータ3サブユニット(CACN)で、親のp19細胞において、レチノイン酸(RA)による神経細胞分化の誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件で得られたもの。これら3種の遺伝子の発現は、DMSOまたはRAのどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図13−2】図13B、および13Cは、実施例2の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(B)カドヘリンEGF LAG7回通過Gタイプ受容体(CELSR)、(C)G11細胞における筋ブラインドRNA結合タンパク(MBNL)で、親のp19細胞において、レチノイン酸(RA)による神経細胞分化の誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件で得られたもの。これら3種の遺伝子の発現は、DMSOまたはRAのどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図14】図14は、RNA結合タンパク発現プロフィールに関する毒素ゲノム実験で得られたマイクロアレイ結果を分析・解釈するためのデータフローを示す模式的概観図である。
【図15】図15は、作用機構研究における転写制御因子(転写因子とRNA結合タンパク)の使用法を描く。RiboChip(商標)による転写因子とRNA結合タンパク(RBP)のマイクロアレイ分析に基づく発現プロファイリングは、毒物の可能性のある物質を評価したり、あるいは、薬剤または治療剤の作用機構研究を定めるのに有用である。転写因子とRNA結合タンパクは、全ての遺伝子発現変化の「モニタリング制御」を表す。転写因子の場合、作用機構研究は、調節される遺伝子のプロモーター領域の転写因子結合要素を調べることを含む。RNA結合タンパクの場合、作用機構研究は、特定のRNA結合タンパクによって内因的に結合されるmRNAプールを調べることを含む。
【図16】図16は、RiboTrap(商標)アッセイの模式的概観図である。リガンド、例えば、MSIIコートタンパク(CP)で標識された、対象とするRNA結合タンパク(RBP1またはRBP2)をコードするmRNAを、トランスフェクションによって細胞に導入し、発現させる。タグにより、RNA結合タンパクを付着させたmRNAの回収を可能とする。リガンドに対する結合相手、例えば、CP抗体を用いて、標識mRNA、およびその関連RNA結合タンパクを免疫沈降させる。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、1999年12月28日出願米国出願第60/173,338号の利益を主張する、2000年12月28日出願米国出願第09/750,401号の一部継続出願である。両方を参照することによりその全体を本出願に含める。
【0002】
(政府援助)
本発明は、国立衛生研究所により贈与された研究補助金第RO1 CA79907号による政府援助によって為されたものである。政府は本発明においていくつかの権利を有する可能性がある。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、mRNAタンパク(mRNP)複合体に関連する、機能的に連関する遺伝子産物を特定して特性を解明し、細胞の遺伝子発現を解明するための方法および組成物を提供する。本発明はまた、治療標的および治療剤の特定・解明するための方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
多くの遺伝子は、複雑な一連の相互作用によって調整され、固有の遺伝子発現パターンを実現する。このような遺伝子発現パターンは、細胞タイプの違いによって、細胞の発達段階または分化状態の違いによって、シグナル分子、ストレス、感染、その他の細胞状態または障害に細胞が曝されているのかによって変動する。変動する遺伝子発現パターンを制御する過程を理解しようとする努力は、従来、転写制御事象および翻訳を取り巻く事象に専ら集中していた。一方、mRNAの安定性、配置、および翻訳効率の制御等、転写後調整過程におけるmRNAタンパク複合体(mRNP複合体)の役割についてはほとんど注意が払われて来なかった。まして、機能的関連遺伝子(例えば、ある機能または経路を分担する、または関与する複数の遺伝子)を調和的に関連づける転写後過程についてはさらに知られていない。これら機能的関連遺伝子は、特定のmRNP複合体に共存し、また同じRNA結合タンパク(RBP)に結合することが多い。
【0005】
いくつかのmRNAの転写後遺伝子制御は、mRNA前駆物質のイントロンおよびエキソンに存在している調製要素または配列、ならびに、成熟転写物のコードおよび非コード領域に存在する調整要素または配列によって仲介される。このような調整要素の一つの例として、初期反応遺伝子mRNAの3′未翻訳領域(UTR)に存在するAUリッチの不安定要素(ARE)がある。この初期反応遺伝子の多くは、成長と分化にとって必須なタンパクをコードする。mRNP複合体と関連するRNA結合タンパクは、インビトロでAREに結合するが、インビボでは、転写後mRNAの安定性と翻訳を仲介する。一方、RNA結合タンパクと結合する必ずしも全てのmRNAが、AREまたは他の共通の調整要素を有しているわけではない。さらに、RNA結合タンパクが、AREを含まないmRNAを認識するメカニズム(単数または複数)も未知である。
【0006】
RNA結合タンパクを用いたインビトロ結合アッセイから、ある特定のRNA結合タンパクと関連するmRNAは、多くの場合、構造的にあるいは機能的に関連することが判明した。しかしながら、このようなインビトロ方法は、細胞内および細胞間のシグナル事象に応答して変動する、ダイナミックな性質を持つインビボでのmRNAとmRNP複合体との関連性を反映しない。従って、インビボにおいて、RNA結合タンパク−mRNA相互作用を始めとして、mRNAとmRNP複合体タンパクとの関連性をモニタリングするための信頼度の高い方法が求められている。このような方法を用いることによって、mRNA−タンパク相互作用、およびその機能的意味の解明が可能となり、生物学的経路が明らかにされ、さらに治療標的および治療剤の特定が可能となろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の概要)
本発明は、mRNP複合体を特定、利用、特性解明し、それによって、相互に調和的に発現し、ある特定のmRNP複合体と関連する、機能的に関連する複数の遺伝子産物を特定する方法および組成物を提供する。ある特定のmRNP複合体に関連する複数の遺伝子産物は、構造的および/または機能的関係に基づいて生物学的に関連するサブセットに分類される。mRNA、RNA結合タンパク、他のmRNP複合体関連タンパクを含むこれらの遺伝子産物は、酵素経路のような特定の生物経路に関与しているかも知れないし、あるいは、他の細胞事象または、病理現象、例えば、腫瘍成長、アポトーシス、分化、加齢、または細胞毒性に関与しているかも知れない。特定され、特性解明された、機能的・構造的に関連する複数遺伝子産物は、細胞または細胞集団に対し一つのリボノームプロフィールを生成する。このリボノームプロフィールは、細胞、または細胞集団の生涯における任意の一時点の、正常または病的状態、または、環境の影響や薬剤に対応する遺伝情報の流れのスナップショットを提供する。このリボノームプロフィールは、疾患または他の細胞事象に対する診断マーカーとして、また、1種以上のmRNP複合体関連遺伝子産物の発現を変える治療標的および治療剤を速やかに特定するために使用される。特定された遺伝子産物自体も、診断および治療インディケーターとして使用される。
【0008】
例えば、本発明は、被験体の細胞サンプルにおけるmRNP複合体関連遺伝子産物の発現変化をモニタリングし、この発現変化を、正常な被験体のサンプルまたは他の非病的細胞サンプルのものと比較することによって、病状をモニタリングすることを始め、疾患または、疾患に罹る危険性を診断するための方法を提供する。例えば、本発明は、ある細胞サンプルのリボノームプロフィールを、ある細胞タイプの基準RNPプロフィール特性と比較することによって、ある細胞集団、例えば、腫瘍、バイオプシー、または体液における細胞タイプを評価するために有用である。細胞タイプの特定は、腫瘍、またはその他の細胞病理現象を診断し、治療処方を指示するのに有用である。
【0009】
本発明は、細胞サンプルを試験化合物に接触させ、mRNP複合体を単離し、その発現が、化合物に反応して変化したmRNP複合体成分を特定することによって、治療標的を特定する方法を提供する。治療標的は、そのRNP複合体の中から任意に選ばれる成分であってもよいし、あるいは、その成分をコードする遺伝子またはRNAであってもよい。例えば、あるRNP複合体から単離されたRNAを用いて、どの遺伝子が試験化合物によって影響されるのかを特定するために、核酸アレイをプローブ探索してもよい。
【0010】
本発明はまた、試験化合物の、治療剤としての効力を評価するための方法を提供する。細胞サンプルは試験化合物と接触させられ、その細胞サンプルのmRNP複合体は、そのmRNP複合体に関連する遺伝子産物の発現変化を示すリボノームプロフィールを調製するのに使用される。処置細胞サンプルにおける遺伝子産物発現レベルの、未処置細胞サンプルのレベルと比較した場合の差は、試験化合物が治療剤候補であることを示す。
【0011】
本発明はまた、試験化合物の毒性を定量し、細胞死に与る遺伝子を特定するのにも使用が可能である。毒性は、後述するように、細胞サンプルを様々な用量の試験化合物で処理することによって定量される。調整分子、例えば、転写因子をコードする核酸を含むアレイに対し、ある特定のRNP複合体から単離されたRNAを用いてプローブ探索することによって、その発現が特定の毒素の存在下で変化させられる転写因子、RNA結合タンパク、または、他の転写、転写後、翻訳、または翻訳後調整因子が特定される。
【0012】
(詳細な説明)
本発明は、mRNA−タンパク(mRNP)複合体と機能的に相互関連するmRNAおよびタンパクを特定し、測定することによって細胞リボノームを掘り出し、特性解明をするための方法を提供する。本発明は、ゲノムとプロテオームの間のタンパク生合成経路に沿って存在する遺伝子調整情報を獲得し、利用する点に注目したものである(図1)。
【0013】
本発明は、細胞の代謝および病的状態を診断、モニタリング、または評価するための有用なツールとして、治療標的候補を特定するための有用なツールとして、治療剤候補を特定し、その効力または毒性を評価するための有用なツールとして、mRNA−タンパク(mRNP)複合体を特定する。さらに、本発明は、構造的および/または機能的に関連する遺伝子産物を特定し、解明して、生物学的経路または過程を明らかにする方法を提供する。
【0014】
一般に、mRNP複合体は、少なくとも一つのRNA結合タンパク、少なくとも一つの会合または結合mRNA、少なくとも一つの会合または結合タンパク(すなわち、mRNP複合体関連タンパク)を含むがそれらに限定されない各種成分から成るが、さらにその他の会合または結合分子(例えば、炭水化物、脂質、ビタミン等)から成っていてもよい。ある成分は、それが、mRNP複合体と、約10−6から10−9のKdにおいて結合するか、またはその他のやり方で付着する場合に、mRNP複合体に会合するとする。好ましい実施形態では、成分は、約10−7から10−9のKdにおいて複合体に会合する。より好ましい実施形態では、成分は、約10−8から10−9のKdにおいて複合体に会合する。
【0015】
会合または結合mRNAは、ある特定のRNA結合タンパク、またはmRNA複合体関連タンパクとの関連に基づいて異なるサブセットに分類される。細胞中の各mRNP複合体を単離し、好ましくは、そのmRNP複合体の成分を特定し、かつ、それらの成分の遺伝子前駆体および遺伝子産物を特定することによって、その細胞のリボノーム発現プロフィールの生成が可能となる。細胞リボノームのmRNA成分を特定することによって、細胞トランスクリプトームの一連のサブプロフィールへの分解が可能となる。これらのサブプロフィールは、総合すると、細胞または組織の遺伝子発現状態を定義するのに用いることができる(図2参照)。リボノームプロフィールは、細胞の分化状態、細胞の種類または組織タイプ、細胞の発達状態、細胞の病原性(例えば、細胞が感染している場合、有害遺伝子を発現する場合、特定の遺伝子を欠失する場合、特定の遺伝子を発現しない場合、または特定の遺伝子を過剰発現する場合)、mRNP複合体を単離するのに使用された特定のリガンド、細胞に影響を及ぼす各種条件(例えば、環境、アポトーシス、またはストレス状態、および、疾患またはその他の障害)、および、当業者には既知のその他の要因を含めるが、ただしそれらに限定されない様々な要因に従って、細胞サンプル毎に異なる。
【0016】
(mRNP複合体の単離)
mRNP複合体は、天然の生物サンプル、例えば、組織、細胞、体液、器官、または生物体から単離される。好ましい実施形態では、生物サンプルは、細胞集団から得られる。細胞集団は、単一細胞タイプを含むものであってもよい。あるいは、細胞集団は、一次培養体または二次培養体から得られる、または、腫瘍のような複雑な組織から得られる異なる細胞タイプの混合物を含んでもよい。
【0017】
一つの実施形態では、mRNP複合体は、mRNP複合体のある成分の発現が誘発、または抑制されるなどして変化させられた細胞サンプルから単離される。別の実施形態では、ある特定のmRNP複合体または成分、あるいはmRNP複合体の1種以上の成分の前駆物質が、サンプルに導入されているか、または、遺伝的に変更されている。1種以上のmRNP複合体成分の導入は、感染、形質変換、または他の、従来技術で既知の方法で行われてよい。一つの実施形態では、mRNP複合体の1種以上の成分を発現するベクターが細胞にトランスフェクトされる。適切なベクターとしては、プラスミドベクターまたはウィルスベクターのような組み換えベクターが挙げられるが、それらに限定されない。その成分は、細胞における発現のための、適当なプロモーターおよび/またはエンハンサー配列に動作的に連結されているのが好ましい。本発明のある実施形態では、ある特定の細胞タイプは、RNA結合タンパクの発現を駆動する細胞タイプ特異的または誘発可能な遺伝子プロモーターを含むように加工される。このRNA結合タンパクに対して特異的なリガンド、例えば抗体は、そこに付着、または会合するmRNAと共にそのRNA結合タンパクを、対象とする細胞タイプを含む組織抽出物から免疫沈降させてもよい。次に、そのRNAは特定されて、その細胞タイプの発現プロフィールを形成するか、あるいは、後述するように、単離されてさらにその後の研究に使われる。
【0018】
あるいは、細胞サンプルは、mRNP複合体のある成分を発現しないか、または、その成分を低レベルでしか発現しないノックアウト細胞系統、または、ノックアウト生物体を含んでもよい。好ましくは、ノックアウト細胞系統またはノックアウト生物体は、ある特定のRNA結合タンパク、mRNA複合体に会合するmRNA、またはRNA結合タンパク、またはmRNP複合体関連タンパクを発現しない。
【0019】
ある好ましい実施形態では、成分の分離、観察、および/または検出を容易にするために、mRNP複合体成分をコードする核酸にタグが付される(例えば、タグ付きRNA結合タンパク)。接近可能なエピトープを用いてもよいし、成分上のエピトープが接近不能であったり不明の場合には、局外発現された組み換えタンパクに対するエピトープタグを用いてもよい。適切なタグとしては、ビオチン、MS2タンパク結合部位配列、U1snRNA70k結合部位配列、U1snRNA A結合部位配列、g10結合部位配列(Novagen,Inc.,マジソン、ウィスコンシン州)、および、FLAG−TAG(登録商標)(Sigma Chemical、セントルイス、ミズーリ州)が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。例えば、タグ標識RNA結合タンパクの発現を指示するトランスフェクトベクターを含む形質変換細胞は、その他の細胞タイプと混合してもよいし、あるいは動物またはヒト被験体に組み込まれてもよい。ある実施形態では、リガンド、例えば、タグに対して特異的な抗体または抗体断片を用いて、形質変換細胞を含む組織抽出物から、関連mRNAと共にタグ標識RNA結合タンパクを免疫沈降させる。次に、mRNP複合体および関連RNAを特定することによって、その細胞タイプの発現プロフィールを形成し、その後の分析に役立てることが可能である。
【0020】
1種以上のmRNP複合体成分の発現を、細胞サンプルを既知のまたは試験化合物と接触させることによって変えてもよい。その化合物としては、タンパク、核酸、ペプチド、抗体、抗体断片、小型分子、または酵素が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。化合物が核酸である場合には、その核酸はアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、アプタマー、デコイ核酸、または競合核酸であってもよい。一つの実施形態では、化合物は、競合的結合を通じてmRNP複合体成分の発現を変えてもよい。化合物は、例えば、RNA結合タンパクとmRNAの間の結合、RNA結合タンパクとmRNP複合体関連タンパクの間の結合、または、mRNAとmRNP複合体関連タンパクの間の結合を抑制してもよい。別の実施形態では、細胞サンプルは、1種以上のmRNA複合体の発現を変えるために、病原体、例えば、ウィルス、細菌、プリオン、真菌、寄生生物、または酵母に感染される。
【0021】
本発明においてはmRNP複合体の単離には任意の方法を用いてよいが、同時係属出願中の米国出願第09/750,401および10/238,306号に開示される方法が好ましい。この開示を参照することにより本明細書に含める。インビボでmRNP複合体を単離する方法は、少なくとも一つのmRNP複合体を含む生物サンプルを、そのmRNP複合体の成分に特異的に結合するリガンドと接触させることを含む。例えば、リガンドは、抗体、核酸(例えば、アンチセンス、アプタマー、またはRNAi分子)、または、その複合体の成分に特異的に結合する他の任意の化合物または分子であってもよい。ある実施形態では、リガンドは、mRNP複合体特異的抗体またはタンパクの生産と関連することがわかっている異常を持つ被験体の血清を用いて得られる。このような異常の例としては、自己免疫疾患、およびいくつかのガンが挙げられる。ある実施形態では、リガンドは、そのリガンドの分離、観察、または検出を容易にするために、他の化合物または分子によってタグ標識される。本発明の一つの実施形態では、リガンドは、従来技術で記載されるようにエピトープタグ標識される。
【0022】
ある実施形態では、mRNP複合体は、リガンド(現在mRNP複合体に結合している)を、そのリガンドに特異的に結合する結合分子に結合させることによって分離する。結合分子は、リガンドに直接的(例えば、リガンドに対して特異的な結合相手)に結合してもよいし、間接的(例えば、リガンドのタグに対して特異的な結合相手)に結合してもよい。適当な結合分子としては、プロテインA、プロテインG、およびストレプトアビジンが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。結合分子はまた、自己免疫疾患またはガンのような異常を患う被験体の血清を用いて入手することも可能である。ある実施形態では、リガンドは、mRNP複合体の成分に、そのFab領域を通じて結合する抗体であり、結合分子は、抗体のFc領域に結合する。
【0023】
ある実施形態では、結合分子は支持体に付着される(例えば、ビーズ、ウェル、ピン、プレート、またはカラムのような固相支持体)。従って、mRNP複合体は、リガンドおよび結合分子を介して支持体に付着される。次に、mRNP複合体を、支持体から外す(例えば、適当な溶媒および、熟練した当業者には既知の条件を用いて)ことによって収集する。
【0024】
本発明のある実施形態では、mRNP複合体は、リガンドをそれに結合させる前に、架橋結合によって安定化される。一般に、架橋結合は、共有結合(例えば、mRNP複合体の成分同士を共有的に結合させる)を含む。架橋結合は、物理的手段(例えば、加熱または紫外線照射)によって実行してもよいし、あるいは化学的手段(例えば、フォルムアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、またはその他の既知の架橋仲介剤に、複合体を接触させること)によって実行してもよい。その方法は、従来技術に熟達した当業者には既知である。別の実施形態では、リガンドが、mRNP複合体に結合した後に、mRNP複合体に架橋結合される。さらに別の実施形態では、結合分子が、リガンドに結合した後にリガンドに架橋結合される。さらに別の実施形態では、結合分子は支持体に架橋結合される。
【0025】
本発明の方法は、複数のmRNP複合体の、同時的単離および特性解明を可能にする(例えば、「集合的」)。例えば、生物サンプルを、それぞれが別々のmRNP複合体に対して特異的な複数のリガンドに接触させる。そのサンプルの複数のmRNP複合体は、適当な特異的リガンドに結合する。次に、この複数のmRNP複合体を、適当な結合分子を用いて分離し、その複数のmRNP複合体を単離する。次に、このmRNP複合体、およびそのmRNP複合体の中に含まれるmRNAを、本明細書に記載される方法や、従来技術で既知の方法によって特性を解明し、および/または、特定する。あるいは、本発明の方法を一つのサンプルについて多数回行い、1回毎に別のリガンドを用いてmRNP複合体を時系列的に特性解明し、特定する。
【0026】
本発明の方法によって単離されたmRNAおよび/またはmRNAから得られたcDNAの増幅は、本発明には必要ではないし、要求もされない。しかしながら、熟練した当業者であれば、従来技術で既知の数多くの核酸増幅法(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QT−PCR)、または鎖変位分析(SDA))の中から任意に選ばれる方法に従って、特定された核酸を増幅することを選択するかも知れない。
【0027】
(単離されたmRNP複合体の分析)
本発明は、細胞の代謝状態または遺伝子発現状態を評価する方法を提供する。少なくとも一つのmRNP複合体を単離して後、そのmRNP複合体および/または少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパクに関連する、少なくとも一つのmRNAの発現レベルを定量する。ある実施形態では、ある特定のmRNP複合体におけるmRNA(単複)またはmRNP複合体関連タンパク(単複)の発現レベルは、例えば、機能的に関連する遺伝子産物サブセットの遺伝子発現を示すサブプロフィールを提供する。ある実施形態では、ある特定のmRNP複合体に関連するmRNAサブセットは、機能的RNAネットワークまたは生物学的経路に特徴的なリボノームサブプロフィールを特定する。任意の特定の細胞または組織サンプルについてmRNAサブセットを収集した場合、その集合は、遺伝子発現プロフィールを構成する。さらに具体的には、その細胞または組織におけるリボノーム遺伝子発現を構成する。前述したように、リボノームプロフィールは細胞によってまちまちであることが理解されよう。従って、ある細胞のリボノームプロフィールは、その細胞の特定子として使用が可能であり、他の細胞のプロフィールまたはサブプロフィールと比較することが可能である。
【0028】
従って、一つの局面において、本発明は、サンプルまたは細胞集団に存在する細胞タイプを評価する診断法を提供する。方法は、少なくとも一つのmRNP複合体を単離し、そのmRNP複合体の少なくとも一つの成分の発現を検出することを含み、前記少なくとも一つの成分は、ある細胞タイプに対して特異的であり、従って、その成分の発現の検出は、その細胞集団の中にその細胞タイプが存在することを示すものとする方法である。その成分は、全サンプル(例えば、組織または生物体)内において、または、細胞集団内においてある細胞タイプに特異的であってもよい。サンプル、または細胞集団は、例えば、腫瘍、組織、培養細胞、体液、器官、細胞抽出物、または細胞分解物であってもよい。本発明の方法はまた、細胞集団の中に存在する細胞タイプであって、内皮、上皮、および平滑筋を含む−ただしそれらに限定されない−従来の細胞タイプを決定するために使用することも可能である。あるいは、本明細書で用いる細胞タイプはまた、特定の組織、特定の生物種、特定の分化状態、特定の病状、特定の細胞サイクル等から得られた細胞クラスを指すものであってもよい。
【0029】
別の局面では、本発明は、機能的および/または構造的に関連する遺伝子および遺伝子産物を特定し、解明するための方法を提供する。少なくとも一つのmRNPが単離され、mRNAおよび/またはmRNP複合体関連タンパクが特定される。機能的に関連する遺伝子産物は、類似の経路、すなわち、酵素経路、疾患発生、腫瘍成長、アポトーシス、分化、加齢、または細胞毒性を含めた−ただしこれらに限定されない−経路に関与する可能性がある。遺伝子産物をコードする遺伝子もまた標準法によって特定することが可能である。
【0030】
単離されたmRNP複合体は、一部はその成分の発現を全体として定量するために、または、その成分に分解するために調べることが可能である。mRNP複合体は、全体としてリガンドから分離することも可能であるし、または、mRNAをリガンド−RNA結合タンパク複合体から分離し、その後RNA結合タンパクをリガンドから分離することも可能である。あるいは、mRNAがリガンドに結合している場合、RNA結合タンパクをリガンド−mRNA複合体から分離し、次に、mRNAをリガンドから分離することも可能である。従来技術の実行者であれば、洗浄および化学反応を含めた、複数の成分を分離する標準法を弁えている。分離後、mRNP複合体の各成分を調べ、その名前、量、またはその他の特定因子を将来の参照用に記録しておく(例えば、コンピュータデータベースに)ことが好ましい。
【0031】
本明細書に開示される方法に従って区画されたmRNP複合体の上に、cDNAを用いて相補的mRNAを特定することが可能である。mRNAサブセットを集合として特定するためにcDNAマイクロアレイグリッドを用いることが可能である。マイクロアレイは正確に配列されたグリッドで、その中に、各標的核酸(例えば、cDNA、オリゴヌクレオチド、または遺伝子)が、注意深く滴下されたcDNAのマトリックスの中に一つの位置を占める。マイクロアレイ上で試験される各標的核酸は配置される正確なアドレスを持ち、結合は定量することが可能である。マイクロアレイは、市販の基板(例えば、紙、ニトロセルロース、ナイロン、その他、任意のタイプの膜フィルター、チップ、例えば、シリコンチップ、ガラススライド、シリコンウェーファー、または、他の、適当な固相または弾力性支持体)として配置されてもよい。さらに、サンプル中のmRNAは、「ハイブリダイゼーションによる配列決定」と呼ばれる過程である、結合および洗浄の厳格度に基づいて特定することが可能である。
【0032】
mRNAサブセット中のmRNA等を特定し、配列決定し、および/またはその他のやり方で特性解明する別の方法として、差動ディプレイ、ファージディスプレイ、SAGE(遺伝子発現の連続分析)、および、mRNA調製標本からcDNAライブラリーの調製とライブライーメンバーの配列決定が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0033】
従来技術でよく知られ、一般に利用可能なDNA配列決定用技術を用いて、本発明の実施形態の内から任意に選ばれるものを実行することが可能である。配列法は、DNAポリメラーゼのクレノウ断片、SEQUENASE(登録商標)(U.S.Biochemical Corp,クリーブランド、オハイオ州)、Taqポリメラーゼ(パーキンエルマー、ボストン、マサチューセッツ州)、熱安定T7ポリメラーゼ(Amersham、シカゴ、イリノイ州)、または、ポリメラーゼと、Gibco BRL(Invitrogen(商標)、カールスバート、カリフォルニア州)によって市販されるElongase(登録商標)増幅システムに認められるものと同じ校正エキソヌクレアーゼとの組み合わせを使用することが可能である。この過程は、装置、例えば、ハミルトンのマイクロラボ2000(ハミルトン、レノ、ネバダ州)、ペルチエ熱サイクラー(PTC200)(MJ Research、ウォータータウン、マサチューセッツ州)、および、ABIキャタリストおよび、3773と377DNAシーケンサー(パーキンエルマー、シェルトン、コネチカット州)と共に自動化されることが好ましい。
【0034】
ある実施形態では、本発明の方法は、細胞(例えば、発達中のもの、細胞周期変化を受けているもの、または、その他のやり方で、細胞変化または環境変化を受けているもの)から単離された核に対して、既知の技術による核放出アッセイを実行して、転写mRNAを得、次に、この転写mRNAを、同じ細胞のmRNP複合体からcDNAマイクロアレイを用いて単離された全体的mRNAレベルと比較することによって、実行される。従って、この方法は、定常な、集合的mRNAレベルに及ぼす転写作用と転写後作用とを区別する方法を提供する。例えば、図2は、全体細胞mRNA(トランスクリプトーム)、核放出mRNA、および、mRNP複合体内で結合してリボノームの一部を形成するmRNAを比較する模式的イラストである。全体RNA挿入図は、細胞(トランスクリプトーム)の中でマイクロアレイとして発現される全体mRNAを示す。核放出実験を示すマイクロアレイは(左下段)は、単離核による転写とAtlas(商標)アレイ(BD Biosciences Clonetech、パロアルト、カリフォルニア州)による分析によって得ることが可能である。定常レベルのmRNAを表すRNA蓄積を示す全体RNA、すなわち転写プロフィールは、転写および転写後事象によって影響されるが、それと違って、核放出実験によって検出されるmRNAは、転写後事象の影響前の遺伝子の転写のみを表す。mRNP複合体を代表するマイクロアレイは、不連続で、トランスクリプトームまたは核放出よりも限局した数のmRNAサブセットを含む。mRNP複合体マイクロアレイは、mRNP−1からmRNP−Xまで表示され、mRNA関連タンパクと反応する抗体を用いて単離されるmRNP複合体に見出されるmRNAを示す。
【0035】
mRNP複合体成分の特性を解明し、特定するその他の方法としては、標準検査室技術、例えば、逆転写または定量的PCR、RNアーゼ保護、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、マクロまたはマイクロアレイ分析、インサイチュハイブリダイゼーション、免疫蛍光、ラジオイムノアッセイ、および、免疫沈降が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。これらの方法から得られた結果は、mRNAサブセットおよび、その他のmRNP成分の機能的関係を解明するために、互いに比較され、対比される。
【0036】
本発明の実施に有用である、RNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクは従来技術で既知であり、あるいは、別のやり方で特定してもよいし、本明細書に記載される方法によって新たに発見されてもよい。RNA結合タンパクは、各種調整・発達過程、例えば、RNA処理と分画化、mRNAスプライシングと輸送、RNA安定化、mRNA翻訳、および、ウィルス遺伝子発現の制御に関与する。有用なRNA結合タンパクの例としては、ポリA結合タンパク(“PABP”)、および、ショウジョウバエELAV RNA結合タンパクに対する4個のELAV/Hu哺乳類相同体が挙げられる。HuA(HuR)は普遍的に発現されるが、一方、HuB,HuCおよびHuD(および、それぞれの、オールタナティブスプライシングによって生じる異性形も)は、主に神経組織に見出される。HuB、HuCおよびHuDはまた、いくつかの小細胞ガン、神経芽細胞腫、および骨髄芽細胞腫において腫瘍細胞特異的抗原としても発現される。Huタンパクは全て、AU富裕不安定要素(ARE)に対して結合特異性を与える、3種のRNA−認識モチーフを含む。Huタンパクは、インビトロにおいて、c−mys、c−fos、GM−CSF、およびGAP−43を含む、いくつかの、ARE−含有早期反応性遺伝子mRNAに対して結合する。ARE−含有mRNAに対するHuタンパクの結合は、mRNA転写物の安定と翻訳性の増大をもたらす。神経細胞特異的Huタンパクは、神経分化を誘発するためのレチノール酸治療後に、奇形ガン細胞において生産される、もっとも早期の神経細胞マーカーの一つである。
【0037】
その他の例示のRNA結合タンパクは、前mRNA処理に関与する細胞タンパクのRNA認識モチーフファミリーから選択される。そのようなタンパクの一つの例は、U1A snRNPタンパクである。RNA認識モチーフスーパーファミリーに関しては今日まで200を越えるメンバーが報告されており、その大部分が普遍的に発現されており、系統的に保存されている。多くは、ポリアデニレートmRNA、または核内小型リボ核酸(例えば、U1、U2等)、転移RNA、5Sまたは7S RNAに対して結合特異性を持つ。そのようなメンバーとして、hnRNPタンパク(A、B,C,D,E、F,G,H,I、K,L)、RNA認識モチーフタンパクCArG、DT−7、PTB、K1,K2、K3、HuD、HUC、rbp9、elF4B、sxl、tra−2、AUBF、AUF、32KDタンパク、ASF/SF2、U2AF、SC35、およびその他のhnRNPタンパクが挙げられる。RNA認識モチーフファミリーの組織特異的メンバーは上記のメンバーほど一般的ではないが、IMP、Bruno、AZP−RRMI、前B細胞で発現されるX16、puff特異的ショウジョウバエタンパクであるBj6、および、神経細胞特異的であるELAV/Huを含む。本発明の方法の実施において有用なRNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクは、自己免疫およびガン患者の血清から単離されるものを含む。本発明の実施に有用なRNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクの、非網羅的リストを下記の表1に記載する。
【0038】
(表1 RNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパク)
【0039】
【表1】
本明細書に記載の技術は、新規の(すなわち、新奇の、または従来未知の)RNA結合タンパクおよびmRNP複合体関連タンパクを特定するのに用いられる(図3)。従って、本発明の一つの実施形態では、対象とするmRNA(図3では“RNA Y”と表示される)は、新規のRNA結合タンパクを捕捉するための「餌」として使用される。好ましくは、RNA Yは、先ず、標準的分子生物学的手法を用いてcDNAに変換され、次に、3′または5′末端において、本発明のリガンドと結合する配列をコードするDNAタグに連結される(リガンドは、図3ではタンパク“X”と描かれている)。言い換えると、このタグ付きDNAは、リガンドの結合相手をコードする。得られた融合RNAは細胞内で発現され、そこで内因性のRBPが結合し、RNA Yと相互作用を持つことが可能となる。次に細胞は分解され、セルフリーの抽出物が調製され、あらかじめ固相支持体マトリックス上に不動化されたタンパクXと接触させられる。インキュベーション後、タンパクXおよび付着RNA融合分子とその会合RNA結合タンパクは洗浄されて、残余の細胞物質が取り除かれる。洗浄後、新たに単離されたRNA結合タンパクが、RNA−タンパク複合体から外され、タンパク微細配列決定法によって特定される。有用なリガンドとしては、mRNP複合体特異的抗体またはタンパク(例えば、自己免疫障害またはガンの被験体から得たもの)、またはタンパク(例えば、MSIIコートタンパク)が挙げられる。有用な結合相手としては、リガンドに対して特異的な抗体が挙げられる。
【0040】
一旦部分的タンパク配列が得られたならば、対応するRNA結合タンパク遺伝子は、cDNAおよびゲノム配列に関する既知のデータベースから特定され、または、cDNAまたはゲノムライブラリーから単離され特定される。遺伝子は単離され、タンパクは発現され、抗体は、既知の技術を用いて組み換えRNA結合タンパクに対して生成されるのが好ましい。次に、この抗体を用いて、内因性RNA結合タンパクを回収し、その内容を確認する。次に、この抗体をリボノーム分析に用いて、RNA Yと集合する(すなわち、関連する)細胞RNAセットを定める。RNA結合タンパクについてさらに、RNA Yによってコードされるタンパク翻訳の調整能力を試験し、薬剤標的としての有効性を試験する。同様にして、本明細書において後述するように、RNA Yと集合する細胞RNAによってコードされるタンパクについても薬剤標的としての有効性を試験する。
【0041】
(治療標的の特定)
本発明は、ある細胞サンプルのリボノームサブプロフィールを、コントロールサンプルのリボノームサブプロフィールと比較することによって、治療標的を特定する方法を提供する。mRNP複合体のある成分の発現において二つのサンプルの間に見られる差は、その成分が治療標的候補であることを示す。治療標的としては、mRNP複合体の任意の成分、または、その核酸または遺伝子産物が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。本発明のある実施形態では、細胞サンプルは試験化合物で処理され、コントロールサンプルは、試験化合物で処理されない細胞を含む。別の実施形態では、コントロールサンプルは、成長サイクルにおいて、試験サンプル中の細胞とは別の段階にある細胞を含む。さらに別の実施形態では、細胞サンプルは、腫瘍細胞、または他の病んだ細胞を含み、コントロールサンプルは正常細胞を含む。標的特定としては、従来技術の実行家には既知の方法、例えば、ライブラリーのスクリーニング、ペプチドファージディスプレイ、cDNAマイクロチップアレイスクリンーニング、および、従来技術の実行家には既知の組み合わせ化学技術が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。標的発見に至る工程の要約を図9に示す。
【0042】
(治療薬の特定)
別の局面で、本発明は、試験化合物の治療剤としての効力を評価する方法を提供する。細胞サンプルを試験化合物に接触させ、少なくとも一つのmRNP複合体と関連する少なくとも一つの遺伝子産物の発現を含む、細胞サンプルのリボノームプロフィールまたはサブプロフィールを調製する。細胞サンプルにおける遺伝子産物の発現レベルを、コントロールサンプル(例えば、試験化合物に接触していない細胞サンプル)における遺伝子産物の発現レベルと比較する。処理した細胞サンプルと未処理の細胞サンプルの間に見られる、遺伝子産物の発現の差は、この試験化合物が治療剤の可能性を持つことを示す。試験化合物は、例えば、核酸、ホルモン、抗体、抗体断片、抗原、サイトカイン、成長因子、薬理学的因子(例えば、化学療法剤、発ガン性物質、またはその他の細胞)、化学的組成物、タンパク、ペプチド、および/または、小型分子であってもよい。
【0043】
本発明の各種実施形態では、治療剤は、mRNAまたはmRNP複合体関連タンパクを安定化する、または脱安定化するものであってもよい。別の実施形態では、治療剤は、例えば、mRNAの翻訳を抑制しても、mRNAまたはmRNP複合体関連タンパクの輸送を抑制しても、RNA結合タンパクのmRNAへの結合を抑制しても、RNA結合タンパクのmRNP複合体関連タンパクへの結合を抑制しても、または、mRNAのmRNP複合体関連タンパクへの結合を抑制しても、そのいずれかであってもよい。
【0044】
別の局面では、本発明は、試験化合物の毒性、予想される副作用、特異性、または選択性を、例えば、細胞サンプルを処理するのに用いられる試験化合物の濃度または量を変えることによって評価する方法を提供する。
【0045】
さらに別の局面では、本発明は、被験体における治療剤の効力を評価、またはモニタリングする方法を提供する。本発明によれば、治療剤の有効量が被験体に投与される。その治療剤の投与によってmRNP複合体と関連する遺伝子産物の発現変化が変化させられた、少なくとも一つのmRNP複合体が、被験体の細胞サンプルから単離される。治療剤投与後に細胞サンプルに見られる遺伝子産物の発現を、コントロールサンプル(例えば、治療剤の投与前に、または、正常被験体から得られた第2細胞サンプル)における遺伝子産物の発現と比較する。処理細胞サンプルと未処理細胞サンプルの間に見られる発現差は治療剤の効力を示す。前述の試験は、治療剤の連続効力をモニタリングするために一定期間繰り返すことも可能である。
【0046】
治療剤は、疾患、障害、または状態の発生に関与する過剰発現または過小発現タンパクを標的にしてもよい。このような過剰発現または過小発現は、RNAの脱安定化または安定化をもたらす可能性があるからである。
【0047】
(mRNAを脱安定化する治療剤)
ある疾患、状態、または障害が、あるタンパクの過剰発現で特徴づけられる場合、そのような状態の治療のための治療剤は、そのタンパクの発現を抑えるまたは根絶するものである。例えば、RNA結合タンパクは、ガン原遺伝子をコードする短命のmRNA、成長因子、および細胞増殖に寄与するサイトカインの安定性を強化するものであるから、RNA結合タンパク生産の抑制は、ガンまたは自己免疫疾患のような疾患を緩和する可能性がある(例えば、それぞれ、腫瘍成長または炎症を抑制することによって)。さらに、いくつかのヒト腫瘍におけるRNA結合タンパクの過剰発現は、化学療法およびUV放射に対する耐性と相関する。UV放射または治療薬剤に応じて、c−fos、c−myc、サイクリンB1、およびその他の短命mRNAの安定度が増すことはよく知られる。従って、これらの腫瘍におけるRNA結合タンパク発現の抑制は、腫瘍におけるmRNAの脱安定化をもたらし、結果、腫瘍の、ガン治療に対する反応性をより高める。
【0048】
対象とするタンパクの過剰発現を抑える、または停止させるために、適当な試験化合物(例えば、RNA結合タンパク阻害剤)の有効量を、インビトロまたはインビボで投与することによって、そのmRNAを脱安定化することが可能である。試験化合物は、例えば、mRNAに対するRNA結合タンパクの結合を抑制するやり方でmRNAに結合する、mRNAに対するRNA結合タンパクの結合を抑制するやり方でRNA結合タンパクに結合する、直接mRNAを脱安定化させるようにmRNP複合体に結合し脱安定化する、および/または、mRNAに結合するようにしてもよい。mRNAに結合はするが、mRNAを安定化させない化合物は、mRNA結合タンパクがmRNAを安定化させる能力を抑制する可能性がある。この化合物が、RNA結合タンパクと競合的に結合する場合、この化合物は、RNA結合タンパクのmRNA結合能力を抑制することによって、mRNAの安定度を下げることが可能である。
【0049】
あるいは、試験化合物は、RNA結合タンパクまたはmRNA発現を抑制してもよい。
【0050】
効果的試験化合物(例えば、RNA結合タンパク阻害剤)は、複数の化合物について、それらのRNA結合タンパクの生産を干渉する能力、または、例えば、mRNAに対する結合、および/または、安定化を抑制する能力を本明細書に記載する方法を用いてスクリーニングすることによって、簡単に確定することが可能である。RNA結合タンパクまたはmRNA生産を抑制することによって機能する化合物は、対象とするRNA結合タンパクまたはmRNAを発現する細胞をその試験化合物に暴露し、それぞれ、RNA結合タンパクまたはmRNAのレベルをモニタリングすることによって特定することが可能である。mRNAに対するRNA結合タンパクの安定化作用を抑制することによって機能する化合物は、その他の場合では安定化される筈のRNA結合タンパクとmRNAとを混合し、RNA結合タンパク阻害剤として評価される複数の化合物を加え、RNA結合タンパクとmRNAの間の結合親和度をモニタリングすることによって特定することが可能である。RNA結合タンパクとmRNAの結合親和度を増大させる、または低減させる化合物は、従来技術で既知の方法によって簡単に確定することが可能である。
【0051】
(mRNAを安定化させる治療剤)
ある疾患、状態、または障害が、mRNA安定化タンパクの過小発現で特徴づけられる場合、そのような医学的状態の治療のための治療剤は、その過小表現タンパクと関連するmRNAを安定化することによって効果を現すことが可能である。したがって、ある化合物の有効量を、インビトロまたはインビボで投与することによって、mRNAを安定化してもよい。その化合物は、RNA結合タンパクと同様の結合能および安定化作用を持ってもよいし、あるいは、RNA結合タンパクの、mRNA安定化能力を増進してもよいし、および/または、対象とする安定化RNA結合タンパクまたはmRNAの生産を促進してもよい。このような化合物は、RNA結合タンパク誘導因子と呼んでよく、mRNA、RNA結合タンパク、またはその両方と相互作用を持つことによって動作してもよい。あるいは、mRNAは、必要なmRNA安定化作用を持つ適当なRNA結合タンパクの有効量を投与することによって安定化することも可能である。
【0052】
RNA結合タンパク生産を増す化合物は、前述の方法に従って、先ず、RNA結合タンパクを発現する細胞を誘導因子候補に暴露し、RNA結合タンパクのレベルをモニタリングすることによって特定することが可能である。RNA結合タンパクの発現レベルが増大する場合、その化合物はRNA結合タンパク誘導因子である。mRNAに対するRNA結合タンパクの結合は抑制するが、mRNAには結合し、安定化させる化合物は、本明細書に開示される方法によって特定することが可能である。実技に長けた当業者は、その他の条件であれば安定化される筈のRNA結合タンパクとmRNAを混合し、化合物を加え、RNA結合タンパクとmRNAとの結合親和度をモニタリングするであろう。RNA結合タンパクとmRNAとの結合親和度を増大させる、または低減させる化合物は、本明細書に記述する通り、化合物への暴露後、RNA結合タンパクのmRNAに対する結合親和度を評価することによって簡単に確定することが可能である。次に、mRNAの濃度の時間的変化をモニタリングすることによって、mRNAに結合する化合物について、そのmRNA安定化能力を評価することが可能である。
【0053】
(抗体調製)
mRNP複合体に結合する抗体、およびその断片は、従来技術でよく知られる方法を用いて生成される。このような抗体としては、ポリクロナール、モノクロナール、キメラ、1本鎖、Fab断片、および、Fab発現ライブラリーによって生産される断片が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。抗体およびその断片は、従来技術で既知の抗体ファージディスプレイ技術によって生成されてもよい。
【0054】
抗体の生産のためには、各種宿主、すなわち、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、およびヒトを含めた宿主が、mRNP複合体、または、免疫原性を持つ、その任意の断片または成分を注入することによって免疫化される。宿主の動物種に従って、免疫反応を増大させるためにアジュバントが使用される。そのようなアジュバントとしては、水酸化アルミのようなフロイントの鉱物ゲル、および、表面活性物質、例えば、リソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、およびジニトロフェノールが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。ヒトにおいて使用されるアジュバントの中では、BCG(カルメットゲラン桿菌)、および、コリネバクテリウムパルブムが好ましい。
【0055】
mRNP複合体の成分に対するモノクロナール抗体は、培養細胞系統による抗体分子の生産を可能とする技術から選ばれる任意の技術によって調製される。このような技術としては、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、および、EBV−ハイブリドーマ技術が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。一般に、動物は、mRNP複合体、またはその免疫原性断片(単複)、またはその接合体(単複)によって免疫化される。次に、リンパ様細胞(例えば、脾臓リンパ球)を免疫化された動物から入手し、恒久化細胞(例えば、骨髄腫細胞またはヘテロ骨髄腫細胞)と融合させて、ハイブリッド細胞を生産する。このハイブリッド細胞をスクリーニングし、所望の抗体を生産する抗体と特定する。
【0056】
抗体はまた、リンパ球集団においてインビボ生産を誘導することによって、あるいは、従来技術で既知の通りに、高度の特異的結合試薬から成る免疫グロブリンライブラリーまたはパネルをスクリーニングすることによって生産することが可能である。
【0057】
mRNP複合体に対する特異的結合部位を含む抗体断片を生成することも可能である。例えば、そのような断片としては、抗体分子のペプシン消化によって生産されるF(ab′)2断片、および、F(ab′)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成されるFab断片が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。あるいは、所望の特異性を持つモノクロナールFab断片の速やかで、簡単な特定を可能とするために、Fab発現ライブラリーが構築される。
【0058】
mRNP複合体に対する所望の特異性を持つ抗体を特定するために、様々のイムノアッセイが用いられる。定められた特異性を持つポリクロナールまたはモノクロナール抗体による競合結合、または免疫放射能測定アッセイに関する数多くのプロトコールは従来技術でよく知られる。このようなイムノアッセイは、通常、mRNP複合体の成分と、その特異的抗体の間に起こる複合体形成の測定を含む。二つの、非干渉的エピトープに反応するモノクロナール抗体を利用するイムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイも使用が可能である。
【0059】
本発明は、各種mRNP複合体、またはその成分(例えば、RNA結合タンパクに対する抗体)が不動化されるカラムを含むキットを提供する。抗体は、既知の技術に従って、診断用アッセイに好適な支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンのような材料で形成されるビーズ、プレート、スライド、またはウェルのような固相支持体)に接合されてよい。同様に、抗体は、既知の技術に従って、検出可能な基、例えば、放射性ラベル(例えば35S、125I、131I)、酵素ラベル(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)、および、蛍光ラベル(例えば、フルオレセイン)に接合されてもよい。このような装置は、抗体とRNA結合タンパクの間の結合を検出するのに特異的な少なくとも一つの試薬を含むことが好ましい。試薬はまた、バッファー剤およびタンパク安定化剤(例えば、多糖類等)のような補助剤を含んでもよい。装置はさらに、要すれば、試験、コントロール試薬、試験を実施する装置等において背景干渉を低減させる試薬を含んでもよい。装置は、適切であれば、どのようなやり方で包装されてもよいが、通常は、試験を実施するための印刷された指令書と共に全ての要素が単一の容器に収められる。
【0060】
mRNP複合体に対して惹起された抗体は薬剤に接合してもよい。患者に投与されると、この抗体はmRNP複合体に結合するから、比較的高濃度の薬剤を、所望の組織または器官に搬送することが可能になる。一つの実施形態では、抗体は、抗ガン剤、すなわち、抗葉酸塩物質、抗腫瘍抗生物質、およびその他の腫瘍治療化合物を含む抗ガン剤に接合される。
【0061】
mRNP複合体に結合する抗体はまた、各種マーカーに共有的にまたはイオン的に結合させ、腫瘍の存在を検出するのに使用することが可能である。適当量のマーカー結合抗体を患者に投与し、抗体を、腫瘍部位の、またはその周囲のmRNPに結合させ、マーカーを検出することによって、腫瘍の存在を検出することが可能である。適当なマーカーは従来技術でよく知られており、放射性同位元素マーカー、蛍光ラベル等が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。これらのマーカーのための適当な検出法は従来技術でよく知られており、ポジトロン発射断層撮影法、オートラジオグラフィー、フローサイトメトリー、放射受容体結合アッセイ、および、免疫組織化学が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0062】
(化合物ライブラリー用高処理スクリーニング法)
本発明の一つの実施形態では、化合物の併合ライブラリー(例えば、ファージディスプレーペプチドライブラリー、小型分子ライブラリー、およびオリゴヌクレオチドライブラリー)において、mRNP複合体、またはその成分に結合する化合物を特定するために、高処理能力スクリーニングアッセイおよび競合結合アッセイが使用される。
【0063】
一つの実施形態では、mRNP成分、その触媒的、または免疫原性断片、またはそのオリゴペプチドを用いて、各種の薬剤スクリーニング技術の中から任意に選ばれる技術を用いて、化合物のライブラリーをスクリーニングすることが可能である。例示の技術は公刊されたPCT出願WO84/03584に記載される。なお、この出願を参照することにより本明細書に含める。このスクリーニングに使用される断片は、溶液中で遊離する、支持体(例えば、固相支持体に付着する、細胞表面に運ばれる、または、細胞内に局在する。
【0064】
米国特許第5,270,163号(Gold等)−参照することにより本明細書に含める−に記載されるSELEX法を用いて、オリゴヌクレオチドライブラリーをスクリーニングして、適当な結合特性を持つ化合物を求める。SELEX法によれば、ランダム化配列領域を含む1本鎖核酸の候補混合物をmRNP複合体に接触させることが可能である。mRNP複合体に対して親和度を漸増させる核酸を分画し、増幅して、リガンド濃縮混合物を生成することが可能である。
【0065】
ファージディスプレー技術を用いてペプチドファージディスプレーライブラリーをスクリーニングし、mRNP複合体、またはその成分に結合するペプチドを特定する。各種の分子、例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパク、およびその断片から成る多様な集団を含むライブラリーを調製する方法は、従来技術で既知であり、また市販もされている。
【0066】
ファージディスプレーされた、結合が予想されるペプチドから成るライブラリーをmRNP複合体と共にインキュベートし、mRNP複合体またはその成分に特異的に結合する組み換えペプチドをコードするクローンを選択する。少なくとも1回のバイオパンニング(mRNP複合体への結合)の後、ファージDNAを増幅し、配列決定し、それによって、ディスプレーされる結合ペプチド用の配列を供給する。簡単に言うと、標的、すなわちmRNP複合体を組織培養プレートに一晩コートして、高湿度の容器内でインキュベートする。第1回のパンニングでは、約2x1011のファージを、室温で60分優しく揺すりながらタンパクをコートしたプレート上でインキュベートする。次に、プレートを、標準的洗液で洗浄する。次に、結合ファージを集め、標的タンパクによる溶出後増幅する。必要に応じて、2回目3回目のパンニングを実行することも可能である。最終パンニング後、ファージ感染細菌から成る個別のコロニーをランダムに採取し、ファージDNAを単離し、ジデオキシ配列自動決定装置に委ねる。ディスプレーされるペプチドの配列は、そのDNA配列から導出することが可能である。
【0067】
化合物の生物活性は、従来技術に熟練した当業者によって既知のインビトロアッセイ(例えば、タンパク合成アッセイ、または腫瘍細胞増殖アッセイ)によって評価することが可能である。あるいは、化合物の生物活性はインビボにおいて評価される。抗生物質を含めた各種化合物が、mRNP複合体およびその成分に対し、mRNA安定性に対してはまちまちの作用を及ぼしながら、結合することが可能である。一旦結合した化合物の活性は、本明細書に記載される方法を用いて簡単に定量することが可能である。
【0068】
結合アッセイとしては、RNA結合タンパクとmRNAとが、標識試験化合物と共にインキュベートされる、セルフリーアッセイが挙げられる。インキュベーション後、従来技術で既知の各種技術の内から任意に選ばれるものを用いて、mRNAを、遊離のものも、試験化合物に結合したものも、未結合試験化合物から分離することが可能である。次に、mRNP複合体またはその成分に結合した試験化合物の量を、従来技術で基地の検出技術を用いて定量する。
【0069】
あるいは、結合アッセイは、セルフリー競合結合アッセイである。このアッセイでは、mRNAは標識RNA結合タンパクとインキュベートされる。この反応系に試験化合物が添加され、mRNAに対して、RNA結合タンパクと結合を競い合う、その競合能力に関してアッセイされる。遊離の標識RNA結合タンパクは、結合RNAタンパクから分離することが可能である。次に、結合したRNA結合タンパクの量を定量することによって、試験化合物の、mRNA結合を求めて競い合う競合能力が評価される。このアッセイは、RNA結合タンパクまたはmRNAを支持体に連結し、洗浄によって簡単に未結合反応物質が除去されるようにして、多数の試験化合物のスクリーニングがやり易くなるように方式化することが可能である。プラスチック支持体(例えば、96ウィル皿のようなプラスチックプレート)が好ましい。本明細書に記載されるセルフリーアッセイに使用が好適なRNA結合タンパクおよびmRNAは、天然の供給源(例えば、膜標本)から単離してもよいし、組み換え的にまたは化学的に調製してもよい。RNA結合タンパクは、例えば、既知の組み換え技術を用いて、融合タンパクとして調製することが可能である。好ましい融合タンパクとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)成分、細胞局在実験に有用な緑色蛍光タンパク(GFP)成分、または、アフィニティー精製に有用なHisタグが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0070】
競合結合アッセイも細胞依存性であることが可能である。従って、mRNP複合体またはその成分に結合することが知られる化合物、好ましくは、標識化合物を、試験化合物の存在下に、また不在下に、そのmRNP複合体またはその成分とインキュベートする。試験化合物の存在下にインキュベートされた細胞に会合する既知の試験化合物の量を、試験化合物の不在下にインキュベートされた細胞でのものと比較することによって、RNA結合タンパク、mRNA、および/または、それらの複合体に対する、試験化合物の親和度を定量することが可能である。細胞増殖は、従来技術で知られるように、標識塩基(例えば、放射活性的に、例えば3H,SiC、または14C;蛍光的に、例えば、CYQRANT(Molecular Probe);または、比色的に、例えば、rdU(Boehringer Mannheim)またはMTS(Promega))の、細胞核酸への取り込みを測定することによってモニタリングすることが可能である。サイトソル/原形質pH測定は、基質、例えば、ビス(カルボキシエチル)−カルボニルフルオレセイン(BCECF)(Molecular Probes,Inc.,ユージン、オレゴン州)を用いてディジタル画像顕微鏡によって実行することが可能である。
【0071】
RNA結合タンパクのmRNAに対する結合に及ぼす、試験化合物の作用を定量するために実行が可能な、他のタイプのアッセイとしては、ルイスの肺ガンアッセイおよび、ボイデンチェンバーアッセイのような細胞外移動アッセイが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。
【0072】
従って、この方法は、複数の試験化合物において、それらが、RNA結合タンパクがmRNAへの結合および安定性に及ぼす作用を修飾する能力に関してスクリーニングすることを可能とする。本明細書に記載するアッセイを用いることによって、mRNAに結合し、かつ、mRNA安定性および関連タンパク合成によってもたらされる細胞活性に及ぼす作用を修飾することが可能な化合物が特定される。前記アッセイによって特定される化合物は、治療組成物と処方される。
【0073】
(疾患の診断およびモニタリング)
別の局面では、本発明は、被験体の疾患、または疾患に罹る危険度を診断するための方法を提供する。ある被験体の細胞サンプルからリボノームプロフィールが調製され、少なくとも一つのmRNP複合体が分析される。その発現変化は疾患または疾患の危険度を示すとされる、少なくとも一つの遺伝子産物の発現を定量する。この遺伝子産物は、RNA結合タンパク、mRNA、mRNP複合体関連タンパク、または、そのmRNP複合体に結合する、または、関連する他の遺伝子産物であってもよい。この細胞サンプル中の遺伝子産物の発現を、コントロールサンプル中の遺伝子産物の発現と比較する。コントロールサンプルは、正常細胞のサンプル、または、同じ被験体から得た第2の細胞サンプルであってもよい。あるいは、コントロールサンプルは、疾患の、および/または、正常な個体から得た陽性コントロールである。コントロールサンプルと比べた場合の細胞サンプルにおける遺伝子産物の相対的発現度を観察することによって、疾患の存在、または疾患の危険度を確定することが可能である。
【0074】
別の局面では、本発明は、被験体における病状をモニタリングする方法を開示する。疾患の被験体の細胞サンプルから、その疾患と関連する少なくとも一つの遺伝子産物を有する、少なくとも一つのmRNP複合体が単離される。被験体の細胞サンプルにおける遺伝子産物の発現は、コントロールサンプルにおける遺伝子産物の発現と比較される。コントロールサンプルにおける遺伝子産物の発現と比較した場合に疾患の被験体の細胞サンプルの遺伝子産物の発現に見られる差を特定することは、被験体の病状の変化を示すことになる。例えば、腫瘍関連抗原またはそのmRNA生産の減少は、腫瘍負荷の減少または寛解を示す。逆に、腫瘍抗原の発現の増大は、激しい腫瘍成長を示す。投薬治療中におけるこのようなモニタリングは、被験体の薬剤投与スケジュールの効果に関する情報を提供し、その疾患または状態を治療するのに、ある特定の処方が効果的ではない、または、もはや効果的ではない時期を示す可能性がある。コントロールサンプルは、被験体から、好ましくは、その被験体が疾患の一つ以上の症状を持たない時期に得られた第2の細胞サンプルであってもよい。あるいは、コントロールサンプルは、正常な被験体、またはその他の正常な細胞サンプルから得たものである。
【0075】
要約すると、本発明は、インビボにおいて、細胞のリボノームプロフィールを確定し、リボノームプロフィールにおける変化を検出するための方法を提供する。本発明は数多くの用途を持ち、その中には、細胞発達または成長のモニタリング、細胞状態のモニタリング、生物系の擾乱、例えば、疾患、状態、または障害のモニタリングが含まれるが、ただしそれらに限定されない。本発明はさらに、疾患、状態、または障害を診断し、適当な治療処方を確立するための方法を提供する。本発明はまた、生物、例えば、植物、真菌、細菌、ウィルス、原虫類、または動物種におけるリボノームプロフィールを識別するのに有用である。
【0076】
本発明を用いて、遺伝子発現に貢献する転写要素および後転写要素を区別することが、また、mRNP複合体を経由するRNAの動き、すなわち、mRNP複合体におけるタンパクとRNAの混合相互作用を含めた動きを追跡することが可能である。従って、本発明を用いてRNA安定度の制御を調べることが可能である。本発明を用いて、活性ポリソームに対するmRNAの召集を追跡し、mRNA、例えば、転写因子またはRNA結合タンパクをコードするmRNAの継時的で、整然とした発現を測定し、かつ、複数のmRNAの同時的、調和的発現を測定することによって、単一の、または複数分子種としてのmRNA翻訳の活性化を調べることが可能である。本発明を用いて、他の細胞成分と接触した際に見られるRNA自身の折衝機能を定量することも可能である。上記、および他の多くの用法については、熟練した当業者には本明細書と請求項を研究することによって明白となろう。
【0077】
全ての引用文献(文献資料、特許公報、および特許出願を含む)の内容は、本出願を通じて引用された通りに、参照することによって本明細書に含まれることをここに明言する。下記の実施例は、本発明を具体的に明らかにするために記載されるもので、本発明を限定するものと考えてはならない。
【実施例】
【0078】
(例示)
(実施例1:複数プローブシステムにおけるRNアーゼ保護)
様々なRNA結合タンパクを含む、いくつかの内因性mRNP複合体の免疫沈降を速やかに最適化するために複数プローブRNアーゼ保護アッセイを用いた。この複数プローブシステムでは、一つのmRNP複合体に関連する多数のmRNAを、ポリアクリアミドゲルの単一レーンにおいてアッセイすることが可能である。
【0079】
細胞培養および形質変換。げっ歯類P19胚性ガン細胞を、アメリカ標準株収集施設(ATCC、マナサス、バージニア州)から入手し、イーグルのα−最小必須培地(MEM)で、フェノールレッド(Gibco BRL41061−0291)(Invitrogen,カールスバード、カリフォルニア州)の添加無し、7.5%仔ウシ血清(BCS)と2.5%ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone、ローガン、バーモント州)と100Uのペニシリン/ストレプトマイシンの添加有り、による単層培養にて維持した。細胞は、あらかじめ0.1%ゼラチン(Sigma Chemicals、セントルイス、ミズーリ州)でコートし使用前に取り除いた、組織培養用フラスコまたはプレートで育成した。単層細胞培養物は、37℃で5%CO2中に維持した。
【0080】
P19細胞は、SV40プロモーター駆動pアルファ2−遺伝子10−HuBプラスミドによって安定にトランスフェクトされた。このプラスミドは、遺伝子10にタグされた神経細胞特異的HuBタンパク(Hel−N2と呼ばれる)を局外に発現した。トランスフェクトプラスミドの発現は、培養液に0.2mg/mlのG418(Sigma Chemicals、セントルイス、ミズーリ州)を添加することによって維持した。この構築体は、Hel−N1のRNA認識モチーフ2および3を接続するヒンジ領域における13個のアミノ酸を欠くが、その他の点ではRNA認識モチーフは同一であり、インビトロ結合実験では、Hel−N1とHel−N2のAU−富裕RNA結合特性に差は示されなかった。
【0081】
抗体。従前記載した通りの標準法に従って、抗遺伝子10(g10)モノクロナール抗体を生成した。HuAと反応するポリクロナール血清を、従前記載した通りの標準法に従って生成した。ポリA−結合タンパク(PABP)と反応する抗体は、マッギル大学(カナダ)から入手した。
【0082】
セルフリー抽出物の調製。細胞を、組織培養プレートからゴムスクレーパーで剥がし、冷却リン酸バッファー生食液(PBS)で洗浄した。細胞は、100mM KCl、5mM MgCl2、10mM HEPESpH7.0、および、0.5%NP−40を含む、ペレットの約2倍容量のポリソーム分解バッファー(PLB)で、これに使用時に新たに1mMジチオトレイトール(DTT),100U/mL RNアーゼOUT(Gibco BRL、Invitrogen Corp., カールスバート、カリフォルニア州)、0.2%バナジルリボヌクレオシド複合体(VRC)(Gibco BRL、Invitrogen Corp., カールスバート、カリフォルニア州)、0.2mMフェニルメチルスルフォニルフロリド(PMSF)、1mg/mLペプスタチンA、5mg/mLペプスタチン、および20mg/mLロイペプチンを添加したものに再懸濁した。細胞溶解物を凍結し、−100℃で保存した。使用時には、細胞溶解物を解凍し、卓上型マイクロ遠心器で4℃で10分12,000rpmで遠心した。上清を取り出し、再び、卓上型マイクロ遠心器で4℃で5分16,000rpmで遠心し、氷上に保存し、再度−100℃で再凍結させた。このmRNP含有細胞溶解物は、約30−50mg/mLの総計タンパクを含んでいた。
【0083】
免疫沈降。プロテインAセファローズビーズ(Sigma Biochemicals、セントルイス、ミズーリ州)を、NT2バッファー(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl、1mM MgCl2、および、0.05%NP−40)に5%BSA添加したもので1:5v/vに膨潤させた。この1:5v/vの、あらかじめ膨潤させたプロテインAビーズの300μL分液を、過剰な免疫沈降抗体(抗体にもよるが、通常5−20μL)と4℃で一晩インキュベートした。この抗体でコートされたプロテインAビーズを、氷冷NT2バッファーで5回洗浄し、100U/mLのRNアーゼOUT、0.2%バナジ/リボヌクレオシド複合体、1mM DTT、および20mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加した900μLのNT2バッファーに再懸濁させた。ビーズを素早く渦巻き攪拌し、100μLのmRNP溶解物を加えた。直ちにビーズを遠心し、100μL分液を取り出して、全RNA(事実上、mRNP免疫沈降で使用される溶解物の10分の1量)を表すものとした。免疫沈降反応と、全細胞RNAを代表するために取り出された分液とは、ゼロ分から2時間の期間室温で転回された。適当なインキュベーション後、プロテインAビーズは4回氷冷NT−2で洗浄し、その後、1M尿素添加NT2バッファーで2回洗浄した。洗浄されたビーズは、0.1%ドデシル硫酸ナトリウムと30μgのプロテイナーゼKを添加した100μL NT2バッファーに再懸濁し、55℃の水浴にて30分インキュベートした。プロテイナーゼKの消化後、免疫沈降したRNAを、2回のフェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコール抽出によって分離し、エタノール沈殿させた。
【0084】
RNアーゼ保護アッセイ。mRNP複合体は、細胞溶解物から免疫沈降され、結合RNAは、メーカーの指示(45014K)によるPharMingenリボカントアッセイ(Pharmigen、サンディエゴ、カリフォルニア州)においてRNアーゼ保護によって定量した。簡単に言うと、抽出RNAを、L32、グリセルアルデヒド−3−フォスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)、数種のげっ歯類Myc関連タンパク(鋳型セット45356P)およびサイクリン(鋳型セット45620P)をコードするmRNAに対して特異的な鋳型から生成された、過剰な32P−標識リボプローブに対してハイブリダイズさせた。2本鎖化されないRNAは、RNアーゼA+T1による処理で消化した。各mRNA分子種についてリボプローブの長さは一意のサイズを持つから、サンプル中の検出可能なmRNA分子種は全て、単一ゲルレーン上に展開することが可能である。保護されたリボプローブ断片は、リン酸画像化スクリーン(Molecular Dynamics、サニーベイル、カリフォルニア州)において24時間の露光後視覚化された。リン酸画像を、Molecular Dynamics Storm860システムを用いて100ミクロン解像度でスキャンし、Molecular Dynamics IMAGEQUANT(登録商標)ソフトウェア(V1.1)(Molecular Dynamics、サニーベイル、カリフォルニア州)を用いて分析した。
【0085】
結果。図4は、g10−HuB cDNAによってトランスフェクトされたげっ歯類P19細胞抽出物から得られたHuBおよびポリA結合タンパク(PABP)mRNP複合体の免疫沈降を示す。プレブリードのウサギポリクロナール血清によって免疫沈降したペレットでは(図4Aおよび4B,レーン3)、あるいは、このアッセイで試験した全ての血清、すなわち、ウサギ、マウス、および正常ヒト血清ではmRNAは検出されなかった(データ図示せず)。HuB mRNP複合体に関連するmRNAプロフィールは、n−myc、l−mfc、b−myc、max、およびサイクリンA2、B1、C、D1とD2を含んでいたが、sin3、サイクリンD3、サイクリンB2、L32、またはGAPDH mRNAを含んでいなかった(図4Aおよび4B、レーン4)。逆に、PABP mRNP複合体から抽出したmRNAのプロフィールは、全RNAのプロフィールに似ており、L32とGAPDHにおいて濃縮レベルを示し、sin3 mRNAにおいてレベル減少を示した(図4Aおよび4B、レーン5)。これらの結果は、細胞成長および分化時における転写後遺伝子発現の制御におけるHuタンパクについて想定された役割と合致する。
【0086】
(実施例2:cDNAアレイによる、RNA結合タンパク集合に関連するmRNAサブセットの特定)
増幅または反復的選択を要せずmRNAサブセットを検出するためにcDNAアレイ(図5)を用いた。
【0087】
抗体。抗遺伝子10(g10)モノクロナール抗体、およびそのタンパクに反応するポリクロナール血清を前述の通りにして生産した。5′キャップ結合タンパク(elF−4E)に対する抗体は、Transduction Laboratories(サンディエゴ、カリフォルニア州)から入手した。ポリA結合タンパク(PABP)と反応する抗体はマッギル大学(カナダ)から入手した。
【0088】
細胞培養および分化。実施例1に記載する通りにしてトランスジェニック細胞を調製した。細胞をレチノイン酸で処理して、神経細胞分化を下記のようにして誘発した。5x105個のp19細胞を60mmペトリ皿(Fisher Scientific,ピッツバーグ、ペンシルバニア州、8−757−13A番)に0.5μM RA(Sigma Chemicals,セントルイス、ミズーリ州、R2625番)と共に設置した。2日後、凝集体を形成した細胞の25%を取り出し、新しいペトリ皿に設置し、新鮮な培養液とRAを補充した。2日後、細胞凝集体を、リン酸バッファー生食液(PBS)で1回洗浄し、トリプシン処理した。次に、細胞を、2個の、100mmゼラチンコート組織培養プレートにプレートした。細胞はさらに4日後に収穫した。RA処理、HuB(Hel−N2)で安定トランスフェクトされたP19細胞は神経突起を伸ばし、神経細胞に特徴的なマーカーおよび形態を示したが、最終的には分化せず、分裂阻害剤による殺作用に対して感受性を持ち続けた。セルフリー抽出物および免疫沈降を、実施例1に記載する通りにして得た。
【0089】
cDNAアレイ分析。cDNAアレイ分析を、ATLAS(商標)マウスアレイ(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)を用いて実行した。このアレイは、ナイロン膜上に並べて、二重にスポットされた合計597個のcDNA分節を含む。cDNAアレイのプローブ探査は、Clontech(パロアルト、カリフォルニア州)ATLAS(商標)cDNA発現アレイユーザーズマニュアル(PT3140−1)に記載してある通りに実施した。簡単に言うと、RNAを、HuBに安定にトランスフェクトされたP19胚性ガン細胞から抽出し、これを用いて逆転写プローブを生成した。アレイに示される遺伝子に対して相補的なプライマーの保存セットを逆転写プローブ合成に用いた。プローブ合成は、32Pα−dATPによって放射標識した。放射標識したプローブは、CHROMA SPIN(商標)−200カラム(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)に通過させて精製し、EXPRESSHYB(商標)ハイブリダイゼーション液(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)を用いてアレイ膜と一晩インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、アレイ膜を洗浄し、リン酸画像化スクリーン(Molecular Dynamics、サニーベイル、カリフォルニア州)にて視覚化した。
【0090】
リン酸画像は、Molecular Dynamics STORUM860システムを用いて100ミクロン解像度でスキャンし、ファイルとして保存した。画像は、ATLASIMAGE(商標)1.0および1.01ソフトウェア(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)を用いて分析した。任意の遺伝子の信号は、二重のcDNAスポットにおける信号の平均として計算した。ATLASIMAGE(商標)1.0ソフトウェアマニュアル(Clontech,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)に記載してある通り、遺伝子信号の有意性を確認するために、デフォールトの外部背景設定を背景依存信号閾値と組み合わせて用いた。ある遺伝子の信号は、その調整強度(全体信号マイナス背景)が背景信号の2倍を越えている場合、背景を有意に上回るものとした。複数のcDNAアレイ画像の比較は、アレイ上の全ての遺伝子信号の平均を用い(全体正規化)、アレイ間の信号強度を正規化して行った。RA処理に応じてHuB mRNP複合体のmRNAプロフィールに起こった変化は、4倍高くなった場合に有意とした(遺伝子発現変化の有意性を確立するのに通常使用される厳格度の2倍)。cDNAアレイ画像および重複層は、ADOBE PHOTOSHOP(登録商標)5.0.2(サンホセ、カリフォルニア州、米国)を用いて調製した。
【0091】
結果。HuBトランフェクトP19細胞の全体遺伝子発現プロフィール(トランスクリプトーム)の評価後、HuBおよびPABP mRNA複合体を始め、e1F−4E mRNP複合体を別々に免疫沈降させ、捕捉されたmRNAをcDNAアレイ上で特定した。これらのアレイの最初の軸合わせは、6個のDNAスポットとハイブリダイズする放射標識ラムダファージマーカーを、アレイ膜底部に刺突させることによって簡易化させた。一旦軸合わせ登録が確立されたならば、その後のブロットは、方向付けのために刺突ラムダマーカーの使用を必要としない。
【0092】
ウサギのプレブリード血清による免疫沈降によって生成されるアレイは、アレイの底部に観察される刺突されたラムダマーカーを例外として実質的にブランクである。免疫沈降したHuB mRNA複合体およびelF−4E mRNA複合体は、全体細胞RNAで検出されたmRNAの10%よりはやや多くを含んでいたが、お互いにかなり違っていた(図6B、6Cおよび6E)。
【0093】
HuBとelf−4Eと同様、PABPもmRNA安定化と翻訳を促進するとされている。当然のことながら、PABP関連mRNP複合体は、HuBまたはelF−4EmRNA複合体に観察されるよりももっと沢山の検出可能なmRNAを含んでいた(図6D)。予想した通り、これらの細胞から得られるPABP mRNP複合体のmRNAプロフィールは、トランスクリプトームのものに酷似していた。一方、HuBとelF−4E mRNP複合体において見られるように、いくつかのmRNAは、全体RNAと比べると、PABP−mRNPにおいて濃縮または欠乏していた(図6Dと6E)。これらのmRNP複合体で検出されるmRNAのプロフィールおよび相対量は極めて再現性が高いが、リン酸画像において検出されるmRNA分子種の絶対数は、プローブの比活性における違いのために変動した。
【0094】
全体RNAを用いて得られるcDNAアレイは、mRNP複合体免疫沈降のために用いられる溶解物の量の10分の1を用いて生成されるので、mRNP複合体中に検出される各mRNAの絶対量と、全体RNAにおいて観察されるものとの比較は行わなかった。各マイクロアレイにおける各mRNA分子種相互の相対量を比較することによって、さらに正確な結果が得られた。例えば、β−アクチンとリボソームタンパクS29をコードするmRNAの相対量(図6、それぞれ、矢印aとb)は、全体細胞RNAではほぼ等しいが、各mRNP複合体の間では目覚しく変動した。これらの所見から、HuB、elF−4E、およびPABP mRNP複合体で検出されたmRNAプロフィールは、相互に、また、トランスクリプトームのものとはっきり異なっている。
【0095】
(実施例3:レチノイン酸に対するmRNP複合体の変化)
HuBは、主に、神経分化の制御で働くと考えられる神経細胞タンパクであるから、HuB mRNP複合体に見られるmRNA集団が、神経細胞分化の化学的誘発因子であるRAに反応して変化するかどうかを調べるために実験を行った。HuBトランスフェクトP19細胞をRAで処理して神経分化を起動し、HuB mRNP複合体を免疫沈降させ、次に、関連mRNAを、実施例1および2に記載するやり方でcDNAアレイ上に特定した。RA処理前後で、HuB mRNP複合体から抽出したmRNAプロフィールの比較から、18個のmRNAが、RA−処理HuB mRNPにおいて一方的に存在するか、または、極めて濃縮されることが明らかになった(図7Aおよび7B)。さらに、3個のmRNA(T−リンパ球活性化タンパク、DNA結合タンパクSATB1、およびHSP84)は、RA処理に反応して、その量が4倍以上も減少した(図7Aおよび7B)。HuB mRNP複合体のmRNAプロフィールにおいて観察されたこの変化が一意のものかどうかを確定するために、普遍的に発現されるELAVファミリーメンバーHuA(HuR)に対するmRNA複合体を、これらのRA処理細胞から免疫沈降させた。RA処理後のHuA mRNAプロフィールに対して少数の変化が見られたが、それらは、HuB mRNAプロフィールと比べると僅少であった(図7Cおよび7D)。
【0096】
RA処理に対する反応として見られたHuB関連mRNAプロフィールの変化は、単に全細胞mRNAにおける変化を反映しているわけではない(図7Eおよび7F)。一方、ある場合では、HuB mRNAにおける変化は、全RNAプロフィールの全体的変化を反映していた。図7Aと7Bから図7Eと7Fまでを比較することによって、HuB mRNP複合体に検出される様々に濃縮または枯渇したmRNAの数多くの実例が明らかである。比較目的のために、RA処理前後の、HuB結合mRNAと比較した場合の、全体RNAプロフィールの違いを示すmRNAの選択された例を図8に示す。これは、図7A、7B、7Eおよび7Fに描かれるアレイの代表的スポットの、再度軸揃えさせた拡大図である。例えば、IGF2 mRNAは全体RNAと、RA処理細胞のHuB mRNPにおいてのみ検出可能である(図8)。一方、その他のHuB mRNP結合mRNA、例えば、インテグリンベータ、サイクリンD2、およびHsp84の量は、RA処理後、全体RNAプロフィールの変化とは無関係に増大または減少した(図8)。全体mRNAとHuB mRNP複合体とのmRNAプロフィール変化に見られるこの不一致は、RA処理に応じて起こるmRNP複合体を動的に貫流するmRNAの分画化から生ずるものと考えられる。まとめとして、これらのmRNP複合体から得られるmRNPプロフィールは動的であり、成長状態を始め、レチノイン酸のような生物学的誘導因子に応じて細胞環境に生じた変化をも反映する。
【0097】
(実施例4:インビボにおけるRNA結合タンパクに対する標的配列の指向)
GenBankおよびESTデータベースを用い、RA処理HuB mRNP複合体において濃縮されたmRNP由来の3′UTR配列と特定した(表2)。HuBに関して以前に定義したインビトロ配列、UUUAUUUを用いて、基本的局所軸合わせ探索ツール(BLAST(登録商標))(国立生物情報センター(NCBI)、ベッセダ、メリーランド州)分析、および/または、目視検査を実施して、神経性HuB標的mRNAの3′UTR内部の共通結合配列近似の配列を特定した。認識可能なHuBタンパク−RNA結合配列を、インビボ捕捉mRNAサブセットの内部に特定した。3′UTR配列のために利用が可能なmRNAの多くは、インビトロでHuタンパクに結合するものと近似するウリジル酸塩富裕モチーフを含んでいた。さらに、これらのmRNAの大部分は、神経組織で発現されるタンパクをコードし、RA誘発神経分化後には上向調整される。表2に示す配列軸合わせは、HuBにおいて共通RNA結合配列を駆動するのにインビトロ選択を用いた以前の結果と一致する。本明細書に記載される方法を用いて、他のRNA結合タンパクに対する、標的配列の指向性をインビボで識別することが可能である。
【0098】
(表2)
【0099】
【表2】
(実施例5:リボノームプロフィールによる標的発見)
後述される標的発見工程を図9にまとめた。
【0100】
RNA結合タンパク遺伝子の発現プロフィールを確立する。RNA結合タンパク発現プロフィールが、正常および病的ヒト組織において生成された。RNA結合タンパクに関する最初の組織および疾病スクリーニングが、オリゴdTプライマーと市販のRNAサンプル(Stratagene,Inc.,ラホヤ、カリフォルニア州;Ambion,Inc.,オースチン、テキサス州;BD Biosciences Clontech、パロアルト、カリフォルニア州)とを用い、定量的逆転写PCRによって行われた。10−100μgのcDNAを用い、メーカーから支給されたプロトコールに従ってBioRad iCycler定量的PCR装置においてSybrGreen(Molecular Probes,Inc.,ユジーン、オレゴン州)と遺伝子特異的PCRプライマーによる定量的PCRを実行した。実験結果は、付属のBioRad iCyclerソフトウェアを用いて分析した。候補遺伝子のRNAレベルはrRNAに対して正規化した。
【0101】
組織および細胞系統のさらに速やかで、包括的なスクリーニングを実行するために、特注のRIBOCHIP(商標)スポットマイクロアレイ(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)を設計し、契約の下に製造させた(MWG Biotech USA、ハイポイント、ノースカロライナ州)。既知の、および、予想されるヒトRNA結合タンパク遺伝子のリストを、GenBank(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、PubMed(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、SRS Evolution(LION Biosciences、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)、LocusLink(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、Protein FAMilyデータベース(pFAM)、Welcome Institute Sanger Institute、ヒンクストン、英国)、GOデータベース(Gene Ontology(商標)Consortium)、および、Structural Classification of Proteins(SCOP(著作権))パッケージ(Medical Research Council、ケンブリッジ、英国)を含む広範な公共データベースと探索ツールを用いて収集・編集した。このアレイは、約1,400以上のRNA結合タンパク遺伝子に対応する50マーオリゴヌクレオチドを、ガラススライド上に、二重で、非接触位置に含んでいた(プラス、コントロール遺伝子)。
【0102】
RNA結合タンパクの発現をスクリーニングするために、RNAを、QiagenRNeasy(登録商標)プロトコール(Qiagen,Inc.,バレンシア、カリフォルニア州)に従って、培養細胞、および、急速冷凍した臨床組織から調製した。全体またはポリA+RNAを、増幅せずに、アミノアリルdUTPの存在下に逆転写してcDNAを生成し、その後Cy3またはCy5蛍光染料(TIGR SOP#M0004)に対する直接結合によって標識した。ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、標準手順(TIGR SOP#M0005)によって実行した。データ分析および統計解析用のデータフローを図10に示す。要するに、マイクロアレイスライドを先ずスキャンし、GENEPIX(登録)4.0ソフトウェア(Axon Instruments,Inc.,ユニオンシティー、カリフォルニア州)を用いてGENEPIX(登録商標)Axon4000Bスキャナーによって読み取ってデータを獲得した。次に、スポット特徴を、BiodiscoveryのIMAGENE(商標)V4.2パッケージ(BioDiscovery, Inc.,マリナデルレイ、カリフォルニア州)で抽出した。アレイ内、アレイ間データ正規化、中央化、および縮尺を含めたデータ処理は、目視(例えば、ヒートマップ)と、統計環境R(Ross Ihaka and Robert Gentleman,R、「データ分析とグラフィックスのための言語(“A language for Data Analysis and Graphics”)」、Journal of Computational and Graphical Statistics,1996,5,299−314−参照することにより本明細書に含める)、および、マイクロアレイデータ正規化と分析ライブラリーから成るBioConductor Suite(BioConductor,Biostatistics Unit of Dana Farber Cancer Institute、ボストン、マサチューセッツ州)によって導入される定量的方法(例えば、分布分析)によって実現された。正規化および縮尺による最終的データ分析は、GENESPRING(登録商標)4.2.1ソフトウェアプラットフォーム(Silicon Genetics、レドウッドシティー、カリフォルニア州)内部の、遺伝子クラスター化、統計的ろ過、および、クラス予言機能を用いて実行した。アレイデータに基づいて、組織または疾患特異的なやり方で、統計的に有意な程度に上向または下向調整される(例えば、差動的RNA結合タンパクのmRNAレベル)RNA結合タンパクが、定量的PCR、ノーザンブロット、およびウェスタンブロット分析による確認研究のために選択される。
【0103】
細菌ベクターにおけるRNA結合タンパク遺伝子のクローニングと発現。候補の、差別的に発現されるRNA結合タンパクが特定されるや否や、完全長cDNAクローンが、市販のRNA組織供給源を用いて逆転写PCRによって生成された。GATEWAY(商標)pENTRD−Topo侵入ベクターおよびpDEST17 6XHisデスティネーションベクター(Invitrogen, Corp., カールスバート、カリフォルニア州)用の、ファージラムダによる(att)部位特異的組み換えプロトコールに基づいて(Invitrogen,Corp.,カールスバート、カリフォルニア州)、完全長プラスミドクローンが構築された。ポリヒスチジンタグ付きRNA結合タンパク融合タンパクを発現する大腸菌(例えば、BL21SIまたはBL21A1)を、37℃で中央対数期まで成長させ、20〜37℃で2〜6時間、0,3M NaClでBL21SI細胞を、0.2%mMアラビノースまたは0.1mM IPTGでBL21A1細胞を誘発させた(各クローンに対してパイロット発現実験において得た最適条件に基づく)。細菌細胞を、超音波処理によって溶解し、融合タンパクをニッケルカラム(Qiagen,Inc.,バレンシア、カリフォルニア州)の上で標準法を用いて精製した。不溶の融合タンパクは維持し、8M尿素の存在下に精製し、可溶性タンパクはPBSに維持した。精製組み換えタンパクを用いてウサギおよび/またはニワトリを免疫化して、ポリクロナール抗体を生産した(通常接触生産による)。ポリクロナール抗体は、その免疫沈降能力、および、天然・組み換えタンパクをウェスタンブロットする能力について明らかにされた。
【0104】
mRNP複合体の探求。組織または疾患において特異的なやり方で発現されるRNA結合タンパクは、機能的に関連するmRNAグループの転写後処理のために、細胞変化の代理マーカーとなる。ある細胞におけるRNA結合タンパクの量および組み合わせの変化は疑いなく、これらのRNA結合タンパクによって結合されるすべてのmRNAの処理に影響を及ぼす。これらの特異的RNA結合タンパクに関連するmRNAは、細胞の表現型に決定的に、または因果的に関わる可能性が非常に高い。従って、サブセットとして、そのmRNAが、組織または疾病特異的mRNP複合体と関連する遺伝子は、薬剤発見のための治療標的の豊かな供給源となる。
【0105】
優先的RNA結合タンパク(例えば、発現に関してもっとも著明な変動を示すRNA結合タンパク)は、分析の第2段階、すなわち、リボノーム分析システム(RAS(商標))アッセイ(Ribonomics,ダーハム、ノースカロライナ州)に進む(図11)。RAS(商標)アッセイは、インビボで形成されたmRNAとRNA結合タンパクの複合体、すなわち、mRNP複合体関連タンパクのアフィニティー単離と特性解明である。対象とする、RNA結合タンパク、mRNA複合体関連タンパク、あるいは、RNA結合タンパクまたはmRNA複合体関連タンパクにおけるタグに対して特異的な抗体をメーカーの指示に従って用いて、RNA結合タンパクと、mRNAの関連するサブセットを同時に免疫沈降させた。選択されたRNA結合タンパク、または、RNA結合タンパクまたはmRNA複合体関連タンパクにおけるタグに対して惹起されたポリクロナールまたはモノクロナール抗体を用いて、mRNP複合体を、後述のように、細胞または組織分解物から単離し、各RNP複合体について最適化された。この抽出RNAを、標準的なマイクロアレイ方式で分析した。方法における変化としては、パイロット研究に基づく、フォルムアルデヒドとの可逆的化学結合、各種のタグの使用、ビーズ化した試薬(合成ビーズ、例えば、セファローズに対して架橋結合される)、または、特定濃度の塩(例えば、NaClまたはKCl)または界面活性剤(例えば、NP−40、デオキシコレート)を含めたことが挙げられる。mRNP複合体に関連するmRNAの分析のために、市販のガラススライドアレイ(例えば、Agilent Human Unigene14K(Agilent、パロアルト、カリフォルニア州)のようなもの)、または、膜アレイ、例えば、Atlas(商標)(BD Biosciences,Clontech,パロアルト、カリフォルニア州)が、アレイメーカーによって支給されたハイブリダイゼーション、洗浄、および展開用のプロトコールに従って利用された。
【0106】
セルフリー抽出物の調製。RAS(商標)アッセイ分解バッファー(RLB)の組成は、標的RNAに対する特定のRNA結合タンパクの結合特性に従って変動する可能性がある。基本的なRLBは、50mM HEPES、pH7−7.4、1%NP−40、150mM NaCl、1mM DTT、100U/ml RNアーゼOUT、0.2mM PMSF、1μg/mlのアプロチニン、および、1μg/mlのロイペプチンを含む。この基本組成の変動としては、塩濃度の変化(0−500mM NaClまたは0−5mM KCl)、イオン条件(0−10mM MgCl2または0−20mM EDTA)、および、還元環境(0−5mM DTT)が挙げられる。例えば、PTBmRNPを調べるために細胞抽出物を調製するためには、培養細胞を氷冷PBSにて洗浄し、5mM MgCl2を含むRLBに直接掻き入れ、氷上で10分インキュベートし、その後、4℃で10分3,700xgにて遠心した。
【0107】
ある場合には、溶解およびmRNP単離前に、RNA結合タンパクを標的mRNAに架橋結合することが必要である。これは、培養細胞でも、新鮮な組織サンプルについても行った。架橋結合の程度は、各細胞系統または組織毎に測定し、複合体中のmRNAを免疫沈降させる能力に基づいてモニタリングした。培養細胞または組織は、0〜1%のフォルムアルデヒドを含むPBS中で室温で15〜60分インキュベートした。次に、架橋結合を、1Mトリスを最終濃度250mMとなるように加えて停止させ、さらに20分インキュベートした。次に、サンプルを50mMトリスを含むPBSで3回洗浄した。培養細胞の場合、ペレットを、放射性免疫沈降(RIPA)バッファー(50mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl、1%NP−40、0.1%SDS、0.5%DOC、および、100U/ml RNアーゼOut)に、約2mg/mlの最終タンパク濃度となるように再懸濁した。組織の場合は、サンプルをRIPAに再懸濁し、ポリトロンにて細胞をホモジェナイズして組織を破壊した。最初の溶解後、サンプル(組織および培養細胞)を、出力設定6(Branson450、BransonUltrasonics Corp.,ダンブリー、コネチカット州)のプローブ超音波発信機にて、それぞれ20秒で2回超音波処理した。超音波処理の間、サンプルは2分間氷上にて冷却させた。次に、溶解物を、3,700xgで15分遠心して透明にした。その後、前述のようにmRNP単離を行った。
【0108】
mRNPの免疫沈降とRNA抽出。平均して、細胞溶解物における、典型的な、最終タンパク濃度は2mg/mlであった。各免疫沈降条件のために約2mgを用いた。透明とされた細胞抽出物を、一次抗体(例えば、抗PTBが最終濃度10μg/mlで使用された)、または、等濃度のコントロール抗体(例えば、最終濃度10μg/mlの免疫前またはIgG血清)と4℃で2時間インキュベートした。プロテインA Trisacryl(Pierce Biotechnology、ロックフォード、イリノイ州)の25μl分液を加え、サンプルを4℃で1時間回転させた。次に、免疫複合体を、RLBバッファーにて6回洗浄した。洗浄は、1洗浄当たり1mlのRLBバッファーを加え、その後マイクロ遠心器で5,000rpmで30秒の短時間遠心することによって行った。最後の洗浄後、PicoPure(商標)RNA単離キット(Arcturus,Inc.,マウンテンビュー、カリフォルニア州)による50μlのRNA抽出バッファーをビーズに加え、短時間渦巻き回転し、遠心してビーズをペレットとした。PicoPure(商標)のプロトコール(Arcturus,Inc.,マウンテンビュー、カリフォルニア州)に従って、抽出RNAを精製した。次に、mRNP複合体中に存在するRNAを、RiboGreen(商標)アッセイ(Molecular Probes,Inc.,ユージン、オレゴン州)を用いて定量した。
【0109】
マイクロアレイ分析のためにRNAの増幅。mRNP複合体から単離したmRNAは、全体RNAの内のほんの僅かなサブセットを表すものに過ぎないので、我々は、標識前に単離mRNAを増幅した。メーカーの指示に従ってRNA増幅を行うためにMessage Amp(商標)(Ambion,Inc.,オースチン、テキサス州)を用いた。標識前に、Cy3またはCy5−dUTPによるランダムプライマー重合によって2ラウンドの増幅を行った。ハイブリダイゼーションと洗浄は、マイクロアレイメーカーのプロトコールおよび前述の通りに行った。マイクロアレイデータの獲得と分析は前述のように行った。
【0110】
mRNPクラスターマイクロアレイ結果の分析。標準的RAS(商標)分析では(例えば、正常対疾患、処置対未処置)、全体RNA内容の量的および質的変化を、mRNP複合体の変化と比較した。得られたデータは四つのクラスに分けた。すなわち、(1)mRNP複合体において等しい量的変化を示したmRNP転写物、(2)全体RNAには存在するが、mRNP複合体には存在しないRNA、(3)mRNP複合体には存在するが、全体では見かけ上存在しないか、検出レベル以下のRNA、および、(4)全体RNAとは量的に違ったやり方でクラスターとして変化するRNAである。さらに、RAS(商標)アッセイにより、クラス4で表される遺伝子で、全体量は変わらないが、オルタナティブ処理および調整のために細胞内で再分割される遺伝子が特定された。結果、様々なスプライス変種が翻訳され、mRNAは細胞内の特定部位に輸送されて翻訳されるか、または、翻訳そのものが上向きまたは下向き修飾されることが考えられた。グループ3および4の内部に特定された遺伝子サブセットは、遺伝子発現の特性解明のために現在利用可能な他の方法では簡単には特定できないものであった。mRNP複合体の分析によって、複合体では濃縮されるが、その他の場所では、全体RNAの背景の中に埋没してしまう程の低レベルでしか存在しないmRNAが明らかにされた。例えば、FragileX知恵遅れタンパク(FMRP)複合体と関連するmRNAを調べた最近の出版物では、3種の遺伝子(KIAA0561様、Rab3GDP/GTP交換タンパク、および、hCT25324/(セレラ、ロックビル、メリーランド州))は、全体RNAクラスでは「欠如」と見なされたが、FMRP複合体クラスでは30−60倍に濃縮されていた。さらに、この技術によって、疾患の、または、その発現が細胞によって注意深く制御される細胞状態にある遺伝子、従って、薬剤発見において魅力的な標的となる可能性の高い遺伝子が特定される。本発明の一つの目的は、薬剤標的の特定であるから、下向きの努力は、低分子量薬剤に向けて追跡可能な標的となることが判明した標的クラスに向けられる。具体的に言うと、これらの標的クラスは、特に、核受容体、G−プロテイン結合受容体、フォスフォジエステラーゼ、キナーゼ、プロテアーゼ、および、イオンチャンネルを含む。治療的興味のある他の標的クラスとしては、分泌分子、細胞外リガンド、およびフォスファターゼが挙げられる。これらの遺伝子クラスの中で、特に魅力的な標的は、もっとも限定された全身発現プロフィールを持つものである。
【0111】
mRNP複合体の機能的確認。RAS(商標)によって特定された候補標的遺伝子または遺伝子産物については、定量的PCRおよびウェスタンブロットによってRNAおよびタンパクレベルにおける発現を確認した。さらに、関連mRNAの運命、例えば、安定性、変性、または細胞内局在に関わる、mRNP複合体の機能を、様々の技術、すなわち、mRNAとRNA結合タンパクまたはmRNP複合体関連タンパクの間の三重相互作用を確認するために、共焦点顕微鏡検査、インサイチュハイブリダイゼーション、3−ハイブリッドリポーター分析、および、生化学的活性を評価するインビトロ法含めた多様な技術−ただしそれらに限定されない−を用いて探求した。この研究は、RNA結合タンパクは、通常mRNAの5′または3′末端に認められる特異的ヌクレオチド配列に結合することがインビトロで証明されたことによって支持された。
【0112】
RNAiによる、疾患または細胞表現型における治療標的役割(単複)の有効性実証。疾患特異的mRNP複合体において特定された遺伝子が、対象とする疾患の原因またはその他の表現型に直接的役割を担うかどうかを確認するために、RNAi抑制実験のために候補標的遺伝子を選んだ。各候補の治療遺伝子について、その遺伝子のコード配列を表す1種以上の短いDNAセグメントを、個別に、プラスミドで、センスまたはアンチセンス方向に、U6ポリメラーゼIIIプロモーター、または、RNアーゼP RNA H1の下流にてクローンした。プラスミドベクターは、五つの候補治療遺伝子の2種以上の短いDNAセグメントを、U6ポリメラーゼIIIプロモーター、または、RNアーゼP RNA H1の下流に含むように構築した。あるいは、化学的に合成された相補的な22bp RNAをアニールすることによってRNAiを構築してもよい(Dharmacon,ラファイェット、コロラド州)。ベクターまたは2本鎖RNAを培養細胞にトランスフェクトした後、候補標的の発現に対する抑制作用を定量することによって表現型特性を評価した。さらに、RNAおよびタンパクレベルにおける遺伝子発現の抑制を確認するために、時間経過実験のノーザンブロットおよびウェスタンブロットを行い、個別の遺伝子の抑制の効力と持続時間を明らかにした。トランスフェクションは、1から5日間の一過性の発現を招く。あるいは、RNAiを発現するベクターは、ネオマイシンのような優勢な選択可能マーカーによる同時トランスフェクションおよび選択によって、培養細胞において安定に発現させることが可能である。RNAi使用に対する別法として、従来のアンチセンスRNA、または、対象とする標的の優勢陰性形を発現するベクターを用いることも可能である。アンチセンス遺伝子および優勢陰性遺伝子は、直接のDNAトランスフェクション、または、ウィルスベクターの使用によって転送することが可能である。そのようなウィルスベクターとしては、レトロウィルス、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、バキュロウィルス、ポックスウィルス、およびポリオーマウィルスが挙げられるが、ただしそれらに限定されない。疾患または細胞の表現型における遺伝子の役割を明らかにするために選ばれた、研究対象となった生物系は、関連する生物特性を模倣する(例えば、腫瘍細胞の無統率な成長)細胞培養または動物モデルシステムを含む生物系分野における知識に基づく。
【0113】
候補標的遺伝子の抑制の他に、RNAi構築体を用いて、候補遺伝子のmRNAに結合するRNA結合タンパクの発現を抑制した。複数mRNAに結合し調整するRNA結合タンパクの抑制は、細胞の表現型により著明な作用を及ぼすようであるが、この過程は、mRNP複合体の決定的重要性を確証するための重要なコントロールであり続けている。
【0114】
(実施例6:神経分化のための新規標的の発見とその有効性証明)
HuB(Hel−N2)は、神経分化の調節に役割を演じていると考えられるRNA結合タンパクである。胚性ガン細胞系統であるp19細胞の分化過程において独特で、決定的に重要なやり方で関わる、HuB mRNP複合体におけるmRNAの、神経およびグリア様表現型に対する機能的重要性が特定され、実証された。コントロールとして、p19細胞を、DMSO処理によって心筋および骨格筋運命に分化するように誘導することによって実験を二重化した。
【0115】
細胞培養。遺伝子10にタグされた神経細胞特異的HuBタンパク(Hel−N2と呼ばれる)を局外に発現する、SV40プロモーター駆動pアルファ2−遺伝子2−遺伝子10−HuBプラスミドによって安定にトランスフェクトされたP19細胞であるG11細胞を、デユーク大学(ダーハム、ノースカロライナ州)から入手した。このトランスフェクトプラスミドは、培養液に0.2mg/mlのG418(Sigma Chemicals,セントルイス、ミズーリ州)を補給することによって、G11細胞中に維持した。親の、トランスフェクトされていないP19細胞は、アメリカ標準株収集施設(ATCC、マナサス、バージニア州)から入手し、α−MEMで、フェノールレッドの添加無し、7.5%仔ウシ血清と2.5%ウシ胎児血清と100Uのペニシリン/ストレプトマイシンの添加有り、による単層培養にて維持した。細胞は、あらかじめ0.1%ゼラチンでコートし使用前に取り除いた、組織培養用フラスコまたはプレートで育成した。単層細胞培養物は、37℃で5%CO2中に維持した。
【0116】
神経分化は、60mmペトリ皿に載せた5x105G11またはP19細胞を0.5μMのRA(Sigma−Aldrich,セントルイス、ミズーリ州、カタログ番号#R2625)によって処理して誘発した。筋肉分化は、60mmペトリ皿に載せた5x105P19細胞を5%DMSO(Sigma−Aldrich,セントルイス、ミズーリ州、カタログ番号#D2650)によって処理して誘発した。2日後、凝集体を形成した細胞の25%を取り出し、新しいペトリ皿に設置し、新鮮な培養液とRAまたはDMSOを補充した。さらに2日後、細胞凝集体を、リン酸バッファー生食液(PBS)で1回洗浄し、トリプシン処理した。次に、細胞を、2個の、100mmゼラチンコート組織培養プレートにプレートした。細胞はさらに4日後に収穫した。RA処理のG11細胞は神経突起を伸ばし、神経細胞に特徴的なマーカーおよび形態を示したが、最終的には分化せず、分裂阻害剤による殺作用に対して感受性を持ち続けた。DMSO処理G11細胞は、特徴的な筋細胞マーカーと形態を示したが、最終的には分化せず、分裂阻害剤による殺作用に対して感受性を持ち続けた。細胞抽出および免疫沈降を、実施例1に記載する通りに実行した。抗遺伝子10(g10)モノクロナール抗体は、実施例1および2に記載する通りのやり方でデユーク大学(ダーハム、ノースカロライナ州)から入手した。
【0117】
免疫沈降後、関連mRNAは、高密度マウス12Kガラススライドマイクロアレイ(マススcDNAマイクロアレイキット、カタログ番号#G4104A、Agilent Technologies,パロアルト、カリフォルニア州)上にて特定した。RNA標識およびマイクロアレイ分析は、メーカーのプロトコールに従って実施した(Agilent Technologies,パロアルト、カリフォルニア州)。RA処理前後におけるmRNAプロフィールの比較から、全体RNAサンプルで発現される約10K遺伝子とは対照的に、RA処理後には、僅かに1,072個の遺伝子がG11 HuB mRNPにおいて発現していることが明らかにされた。さらに、この1,072個の遺伝子を、GO(Gene Oncology(商標)データベース)に基づいて、薬剤治療可能遺伝子クラス(例えば、通例の薬剤治療が向けられるタンパククラス)に分解すると、27個のキナーゼ(全体RNAで検出された275個と比較)、43個のフォスフォキナーゼ(全体RNAで検出された148個と比較)、14個のプロテアーゼ(全体RNAで検出された137個と比較)、14個の受容体(全体RNAで検出された87個と比較)、39個のサイトカイン(全体RNAで検出された143個と比較)、および、20個の成長因子(全体RNAで検出された87個と比較)であった(表3)。
【0118】
(表3)
【0119】
【表3】
(表4)
【0120】
【表4】
*HuB RNPまたは全体細胞RNAにおける各遺伝子のRNA量の変化。1日目および9日目におけるG11細胞の分化/未分化を比較したもの。
【0121】
5回の繰り返し免疫沈降反応から、G11細胞の全体RNA含量に実質的変化があろうとあるまいと、HuB mRNP複合体において選択的に局在することが可逆的に見出されるHuB mRNP複合体関連mRNAを選んだ。HuB複合体において、最大の量的増加によって分類される上位40個の遺伝子の内、19は、現在ほとんどまたは全く生物学的情報の無い発現配列タグ(EST)またはRikenクローンであった。さらに、これら40個の内、14は、HuB mRNPと全体RNAの両方において2倍を越えて増加した。その後の分析には3個の特定の遺伝子を選んだ。すなわち、カルシウムチャンネルベータ3サブユニット(CACN)、カドヘリンEGF LAG7回通過Gタイプ受容体(CELSR)、および、筋ブラインドRNA結合タンパク遺伝子(MBNL)(表4)。この三つの遺伝子について、細胞のmRNAの全量において観察された変化と比べた場合の、HuB mRNPにおけるmRNAレベルの変化を表4に示す。
【0122】
神経分化における役割を確認するために、定量的PCRによる広範な転写分析を行った。分析は、G11細胞(HuBを構成的に発現する)と親のP19細胞におけるCACN、CELSR、およびMBNL遺伝子に対するRNA発現のパターンを見ることによって行った(図12A,12Bおよび12C)。試験細胞系統のG11では、三つの遺伝子全てが、レチノイン酸処理後の分化の時間過程において一過性の誘導を示した。逆に、G11細胞のDMSO誘導では、同じ遺伝子の発現パターンに変化は誘発されなかった。これは、これらの遺伝子は神経分化には関与しているが、筋肉分化にはこれらの遺伝子の発現は必要とされないことを示唆する。
【0123】
神経分化におけるこれら三つの遺伝子の役割をさらに確認するために、発現を、局外発現g10タグ付きHuBを欠如するP19親細胞系統において定量的PCRによって調べた(図13A、13B,および13C)。速度はやや変動したけれども、三つの遺伝子の発現は全て、神経細胞への分化の時間過程では変化したが、筋肉への分化の間は比較的不変であった。
【0124】
従って、このG11細胞から成るモデルシステムでは、1日目と9日目の比較に基づく全RNAサンプルを用いた単純なマイクロアレイ分析であったなら、神経発達におけるこれら三つの遺伝子の重要性を明瞭にすることはできなかったであろう。これらのデータは、1日目と9日目のサンプルを比較した場合G11細胞で観察された定量的PCRレベルによって確認される。しかしながら、データは、HuB含有mRNPにおいて再配分されるが、HuBは神経分化に関与することが知られるのであるから、データは神経分化と関連して捉えられる。このような役割は、両試験細胞系統、G11,およびさらに重要なことであるが、親細胞系統のP19において、1日目と9日目の間において三つの遺伝子に観察された、一相または二相の差動発現パターンによって確認される。従って、重要なmRNPの分析によって、特定の生物過程において重要な遺伝子簡単に強調することが可能である。
【0125】
(実施例7:肝臓毒性の見張り役となるRNA結合タンパクのスクリーニング)
ヒト細胞系統HepG2を、肝臓毒性のモデルとして用いた。HepG2細胞を試験化合物投与によって処置し、RNA結合タンパク遺伝子発現に及ぼす作用を評価した。処理72時間後に50%の死亡率をもたらす用量を用いて、HepG2細胞を24時間処理し、その終了時に遺伝子発現に対する作用を定量した。24時間時点を遺伝子発現の評価に用いることによって、重大な細胞死に至る化合物用量によって引き起こされる遺伝子発現変化を調べることが可能になった。
【0126】
最高耐性用量(HTD)、すなわち、細胞において、最小の検出可能な形態変化(例えば、球形化、小胞形成、分離、溶解)をもたらす試験化合物の濃度を決めるために、予備的用量反応曲線を生成した。簡単に言うと、10%FCS添加ダルベッコの修正イーグル培養液(DMEM)に懸濁させた細胞を、96ウェル組織培養プレートに2x104細胞/ウェルで撒いた。細胞接種の24時間後、培養液を除去し、試験化合物の複数希釈液に加えて、FCS無しの0.1%BSA,および、0.25%ジメチルスルフォキシド(DMSO)または0.25%DMSOのいずれかを含む新鮮なDMEMを細胞に加えた。例えば、4μMから10mMに渡る希釈液を、化合物、クロフィブレート、DEHP、ゲムフィブロジル、フェニトイン、および、アセタミノフェン(Sigma−Aldrich,セントルイス、ミズーリ州)について用いた。
【0127】
投与24時間後、細胞を目視にて形態的変化の有無について評価した。HTDを用いて、生体染色細胞生存率アッセイ(例えば、アラマーブルー、MTT(Roche Applied Science、インディアナポリス、インディアナ州)、XTT(Roche Applied Science,インディアナポリス、インディアナ州)で使用する、より狭い用量範囲を定義した。生体染色アッセイでは、細胞は、24時間ではなく72時間に渡って前述のように接種・投与を受けた。この72時間の生体染色毒性評価データを用いて、各化合物についてTD50値、すなわち、DMSO単独処理と比較した場合の、約50%の細胞死を引き起こす相対的毒性用量を求めた。
【0128】
72時間の細胞処理後に50%の細胞死をもたらす試験化合物の濃度を用いて、mRNA分析用の細胞に投与した。細胞は、10%FCS添加DMEMにおいてT150プレートに約20%の集密度(TD50定量で用いたものと等価的な密度)において撒き24時間インキュベートした。培養液を除去し、DMEMと0.1%BSA(すなわち、FCS無し)、および、DMSOのみ、または、試験化合物とDMSOとを、先に求めたTD50濃度で含む培養液と交換した。薬剤投与の24時間後、細胞を採取した。全体RNAを、QiagenRNeasyプロトコール(Qiagen,Inc.,バレンシア、カリフォルニア州)に従って、新鮮な、または、急速冷凍した細胞ペレットから調製した。全体RNAは分光光度計測によって定量した。完全性は、Agilentバイオ分析装置2100(Agilent,パロアルト、カリフォルニア州)上で展開して確認した。全体RNAは、増幅せずに、アミノアリルdUTPの存在下に逆転写してcDNAを生成し、その後Cy3またはCy5蛍光染料(TIGR SOP#M0004)に対する直接結合によって標識した。標識RNAは、約1400種のRNA結合タンパクを含む、特注のオリゴヌクレオチドスポットマイクロアレイ(MWG Biotech、ハイポイント、ノースカロライナ州)を用いて分析した。最初のスクリーニングでは、Ribochip(商標)V.1.0マイクロアレイ(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)を用いた。Ribochip(商標)(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)は、1400以上のRNA結合タンパクに対して相補的なオリゴヌクレオチド、プラス、コントロールから構成される。あるいは、Ribochip(商標)マイクロアレイ(Ribonomics,Inc.,ダーハム、ノースカロライナ州)は、毒性の質的・量的評価のために見張り遺伝子の完全セットを表す、転写因子の包括的収集体を含んでもよい。標識プローブのハイブリダイゼーションおよび洗浄は、標準手順(TIGR SOP#M0005)によって実行した。
【0129】
データ分析および統計解析用のデータフローを図15に示す。要するに、マイクロアレイスライドを先ずスキャンし、GENEPIX(登録商標)4.0ソフトウェア(Axon Instruments,Inc.,ユニオンシティー、カリフォルニア州)を用いてGENEPIX(登録)Axon4000Bスキャナーによって読み取ってデータを獲得した。次に、スポット特徴を、BiodiscoveryのIMAGENE V4.2パッケージ(BioDiscovery, Inc.,マリナデルレイ、カリフォルニア州)で抽出した。アレイ内、アレイ間データ正規化、中央化、および縮尺を含めたデータ処理は、目視(例えば、ヒートマップ)と、統計環境R(Ross Ihaka and Robert Gentleman,R、「データ分析とグラフィックスのための言語(“A language for Data Analysis and Graphics”)」、Journal of Computational and Graphical Statistics,1996,5,299−314−参照することにより本明細書に含める)、および、マイクロアレイデータ正規化と分析ライブラリーから成るBioConductor Suite(BioConductor,Biostatistics Unit of Dana Farber Cancer Institute、ボストン、マサチューセッツ州)によって導入される定量的方法(例えば、分布分析)によって実現された。正規化および縮尺による最終的データ分析は、GENESPRING(登録商標)4.2.1ソフトウェアプラットフォーム(Silicon Genetics、レドウッドシティー、カリフォルニア州)内部の、遺伝子クラスター化、統計的ろ過、および、クラス予言機能を用いて実行し、個々の化合物、化合物クラス、および一般的毒物反応に対して一意な、極めて予測性の高い遺伝子セットを特定した。
【0130】
これらの予測性の高い遺伝子セットは、未知の試験化合物によって引き起こされるHepG2細胞の遺伝子発現プロフィールの変化を評価する基礎として、また、上記化合物によって引き起こされる肝臓毒性を予測し、分類するための手段として役立つ(実施例9)。さらにこれらのデータは、他の組織における毒性を予測するのにも用いられる。試験化合物に暴露されたことによって起こる、HepG2細胞の遺伝子発現の変化は、正常組織の膨大な収集体に関する遺伝子発現情報の内部的データベースにも例えられる。HepG2細胞において、試験化合物処理によってその発現パターンがかき乱されるRNA結合タンパク遺伝子は、RNA結合タンパクを発現する複合的組織の毒性を予測するのに使用される。例えば、ある化合物が、正常の心臓組織に一意に発現される遺伝子の発現に変化をもたらす場合、この化合物は、心臓毒性をもたらす可能性ありと表示される。
【0131】
(実施例8:mRNP複合体の特性解明によって、毒性機構または化合物の作用機構を確定する
変化させられた転写制御因子と下流の表現型作用の間の機械的接続を根拠付けるために、転写因子と、その発現が、特定の毒素の存在下に常に変化させられるRNA結合タンパクとを特定することは、この転写制御因子の変化によって影響される下流遺伝子の特定に結びつく。
【0132】
転写因子とRNA結合タンパクとを、毒性の見張り役として使用することと関連してもっとも貴重な成分の一つは、それらが、機械的な洞察と実験を供給してくれるその継続的な価値である(図16)。毒素による転写因子またはRNA結合タンパクの定常的上向き調整は、これらの制御因子によって制御される遺伝子に対して下流方向の影響を及ぼすことが大いにあり得る。このような遺伝子は、この遺伝子のコード領域の上流のcis調整要素における転写因子結合部位の出現によって暫定的に特定することが可能である。個別の転写因子のDNA結合活性は、インビトロゲル遅延アッセイによって、毒物処理細胞溶解物で簡単に評価することが可能である。このアッセイは、タンパクが、標的DNA配列に結合し、ゲル電気泳動中のその移動を遅れさせる能力を測定するものである。あるいは、マイクロアレイ分析と結合させたクロマチン免疫沈降を用いて、DNAの転写因子結合セグメントを特定してもよい。転写因子の調整作用の機能的評価は、リポーター遺伝子アッセイを用いて通例として実行される。このアッセイでは、転写因子結合部位の1個以上のコピーが、リポーター遺伝子、典型的には外来遺伝子(例えば、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランフエラーゼ、または、蛍光分子、例えば、緑色蛍光タンパク(GFP))の上流に挿入される。このアッセイでは、遺伝子発現の変化は、酵素活性または蛍光強度の変化を通じて定量的に報告される。従って、比較的標準的な技術を用いることによって、細胞遺伝子集合体に対する、下流に向けた、機械的作用における、毒素制御転写因子の作用特定が簡単に評価される。
【0133】
関連mRNAの収集、組織化、および協調的処理におけるRNA結合タンパクの役割は、特定の遺伝子を通じて伝えられる、下流向き有毒作用に関する豊富な情報源となる可能性がある。RNA結合タンパクは、RNA結合タンパク自身の遺伝子の安定化、輸送、翻訳、および修飾を制御する遺伝子の5′および3′UTRにおける保存配列要素に結合するのであるから、このタンパクは、多数の下流遺伝子に作用を及ぼす。例えば、RNA結合タンパク、トリステトラポリン(TTP)は、TNF−αおよびGM−CSFの3′UTRのAU富裕要素に結合し、このmRNAの変性を加速させる。さらに、TTP欠乏マウスは、広範な自己免疫疾患と一致する重篤な病態を発現する。この疾患は、関節炎、皮膚炎、骨髄性肥大、および、悪液質を含み、これらの症状は、TNF−αに対する抗体による中和によって寛解が可能である。ほぼ同様にして、もう一つのRNA結合タンパク、FMRPの先天的喪失は、遺伝性精神遅滞のもっとも普遍的な形態である、ヒトにおける脆弱X症候群の主要原因である。FMRPは、mRNAサブセットに結合し、神経細胞シナプスに配置し、神経伝達物質に反応して局所のタンパク翻訳を可能とする。FMRPの欠如は、シナプス伝達にとって必須のmRNA集団の調整不備を招くものと考えられている。
【0134】
あるクラスの化合物によって明らかに上向き調整されるRNA結合タンパク遺伝子を定義することによって、これらのRNA結合タンパクと関連するmRNAプールも特定することが可能になる。あるクラスの化合物によって制御されるRNA結合タンパクはクローンし、標準的なクローン手順と市販の発現ベクターを用いて、GSTまたは6XHis標識融合タンパクとして発現させることが可能である。細菌性の発現ベクターを用いて、RNA結合タンパクを、大腸菌において、または、インビトロ結合転写翻訳システムにおいて発現させることが可能である。この組み換えタンパクを、GSTまたは6XHis標識タンパクに対して特異的に結合するニッケルまたはGSTビーズとインキュベーションし、付着させた後で、化合物処理細胞由来の全RNA標本を、このRNA結合タンパクに加える。ビーズは、HepG2細胞由来のmRNAの結合を許す。このようにして、肝臓細胞において調整RNA結合タンパクと関連し、薬剤処理によって異常な作用を受けた可能性の高い細胞mRNAが、前述のような標準的マイクロアレイ分析によって特定される。
【0135】
あるいは、薬剤処理によって修飾されるRNA結合タンパクに対して特異的な抗体が利用可能であるかに応じて、HepG2細胞由来の内因性mRNP複合体を免疫沈降させ、前述のようにmRNAサブセットを探求することが可能である。化合物によって変化させられたRNA結合タンパクの使用によって、スプライシング、核輸送、安定性、細胞内局在、または、ある化合物クラスの作用機構にとって重要な共通機能を持つ遺伝子グループの翻訳の局面で差別的に、または調和的に調整されるmRNAプールを特定することが可能になる。
【0136】
(実施例9:ある対象mRNAと関連する、完全セットのRNA結合タンパク、およびRNA関連タンパクを特定するために細胞および組織からばらばらのmRNP複合体を単離すること)
RiboTrap(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)と呼ばれる、別の、指向性の高い方法を用いて、インビボにおいて疾患関連mRNAと内因的に関連する、RNA結合タンパクとmRNP複合体関連タンパクを検出した。このアッセイは、対象遺伝子、例えば、薬剤標的と同時制御されるmRNAの組み合わせを定義する。得られる情報は、有効標的に関する新規経路情報、別様の、または複数の薬剤治療における新たな治療標的、および、臨床治験でモニタリング用として用いられる代理疾病マーカーを提供する可能性がある。
【0137】
標準的な組み換えDNAおよびPCR技術を用いて、対象遺伝子および/またはその5′および3′UTRを表すcDNAを構築した。このcDNAの3′UTRは、ファージMS2コートタンパクのRNA結合部位を表すステムループの一連の反復列を持つ。あるいは、特定のタンパク(例えば、HIV PREおよびRevタンパク)に結合することが知られる任意のRNAステムループまたはその他のRNA構造体の使用が可能である。
【0138】
原型実験では、c−myc cDNAを用いた。なぜなら対応mRNAが、インビトロでもインビボでもELAV/Huタンパクの結合標的だからである。c−myc cDNAは、CMVのような適当な哺乳類細胞プロモーター、SV40,またはアクチンプロモーターを持つ発現ベクターにクローンする。あるいは、アデノウィルスまたはレトロウィルスプロモーターを持つベクターにクローンし、適合的な哺乳類細胞系統にトランスフェクトさせる。例えば、神経細胞タンパクをコードするcDNAを、PC12(ラット)、P19(マウス)、またはhNT2(ヒト)のような神経性細胞系統において発現させる。あるいは、代謝研究のために、cDNAを、前脂肪細胞(マウス3T3L1)またはヒト脂肪細胞系統に発現させる。
【0139】
加工されたc−myc cDNAの発現後、細胞抽出物を調製して、MS2コートタンパク結合部位を含むc−myc mRNAを釣り上げる。MS2コートタンパクは、アガロース、またはセファローズビーズ、または他の適当な固相マトリックスに連結される。MS2コートタンパクに対する抗体、または、ビオチニル化MS2コートタンパクもストレプトアビジンビーズに結合することが可能である。これらの試薬により、細胞抽出物から、MS2ステムループ反復列を含むmRNA、および、インビボにおいてそのmRNAと関連するRNA結合タンパクおよび/またはmRNA複合体関連タンパクを分離することが可能になる。
【0140】
方法に対する修正としては、フォルムアルデヒドとの化学的架橋、または、各種タグおよびビーズ試薬の使用が挙げられる。RiboTrap(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)によって対象mRNAと一緒に単離されたタンパクは、標準的なプロテオーム法を用いて特定することが可能である。例えば、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDITOF)、および、タンデム質量分析(または質量分析/質量分析)を用いて、ペプチド配列を特定し、データベース探索に備える。特定されたタンパクと反応する抗体は、標準法に従って惹起し、前述のようにRAS(商標)アッセイを実行するのに使用が可能である。
【0141】
RAS(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)運用後、mRNP複合体に存在するmRNPサブ集団は、特定され、共通のUTR配列要素の有無に関して調べることが可能である。なお、相同性に関するコンピュータ分析は、制御コードにおける未翻訳配列要素(USERコード)を特定するに当たって信頼度の高い方法ではないことに注意すべきである。なぜなら、それらの要素は、1本鎖ではなく構造的であることが多いからである。さらに重要なことは、mRNAサブ集団同士について、機能的相関の有無を調べることが可能である。例えば、各mRNAは、遺伝子表示名および、機能的ゲノミクスデータベースにおける既知の機能によって分類することが可能である(例えば、LocusLink(NCBI、ベッセダ、メリーランド州)、GOデータベース(Gene Ontology(商標)Consortium)、Proteome Bioknowledge(登録商標)Library(Incyte Genomics,Inc.,パロアルト、カリフォルニア州)。例えば、RiboTrap(商標)アッセイ(Ribonomics、ダーハム、ノースカロライナ州)によって用いられるタンパクが免疫制御に関与している場合、同じmRNP複合体中に見られる他のmRNAも、免疫制御における役割の有無に関して分析することが可能である。一方、mRNAは、mRNP複合体において別のRNA結合タンパクを通じて間接的に結合することが可能である(例えば、UTRにおける、RNA結合タンパクを認識する、または、RNA結合タンパクの、その他の既知の結合部位を認識するUSERコード要素の存在に対して評価される)。
【0142】
RAS(商標)アッセイの目的は、mRNA集団であって、そのmRNA同士が、UTRにおいて関連する構造的特性を持ち、または、それらのmRNAによってコードされるタンパク同士が機能的相関を持つ、そのようなmRNA集団を特定することである。予想される関連機能としては、a)コードされるタンパクが、共通の代謝経路に関与すること、b)一過性に同時調整される複数のコードタンパク、c)細胞の中に、または上に同様に局在する複数のコードタンパク、d)生物機構(例えば、リボソーム)の形成または制御に参画する複数のコードタンパクが挙げられる。一組の機能的に関連するタンパクの発現によってもたらされる複雑な性質と表現型を特定することは、認識、細胞特異的活性化、炎症、または分化のような過程を含むことが考えられる。これらの複雑な過程に関与することが知られるタンパクは他の研究から知られる一方、その機能の大部分はほとんど未知である。本発明の価値の一つは、上記の過程の中に、別様の薬剤標的または代理マーカーとして役立つ可能性のある、さらに大きな一組のタンパクを発見することである。
【0143】
本発明は、その精神または本質的特性から逸脱することなく、その他の特定的形態において具現化することが可能である。従って、前述の実施形態は、本明細書に記載される発明の例示であって、限定するものではない。本明細書には特許請求の範囲の等価物が含まれるとはいうものの、本発明は下記の特許請求の範囲によって記述される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、ゲノムからプロテオームへの遺伝情報の流れで、中間レベルはリボノームとトランスクリプトームで表される遺伝情報の流れの概観的模式図である。トランスクリプトームは、ゲノムに対する全mRNA相補体を表すが、必ずしもタンパク生産と直接には相関しない。mRNAの加工、輸送および翻訳は、プロテオーム結果を決定する動的調節工程を表すリボノームで起こる。
【図2】図2Aは、mRNP複合体(例えば、mRNP1、mRNP2、mRNPx)と関連するmRNAの転写を示すイラストである。図2Bは、全細胞mRNA、核放出mRNA、および、mRNP複合体内に結合されるmRNAそれぞれのアレイを比較するイラストである。
【図3】図3は、新規RNA結合タンパクを特定するための戦略を概観する模式図である。
【図4】図4Aおよび4Bは、mRNP複合体と関連するmRNAの、多数プローブRNアーゼ保護分析を図説する。細胞分解物のmRNP複合体を免疫沈降させ、ペレット化したRNAを抽出し、RNアーゼ保護によって定量した。図4Aおよび4Bは、それぞれ、mMycおよびCyc−1多数プローブ鋳型セットの例を示す。レーン(1)未消化のリボプローブ(リボプローブプラスミド鋳型のせいでRNアーゼ消化産物よりもやや長い)、(2)全体細胞RNA、(3)ウサギプレブリード血清コントロール、(4)ハブmRNP複合体から抽出したmRNA,(5)ポリA結合タンパク(PABP)mRNP複合体から抽出したmRNA。星印(*)は、全体RNAでは検出されないmRNA分子種を示す。
【図5】図5は、DNAアレイによる、RNAサブセットのリボノームプロフィール形成を概観する模式図である。このmRNP複合体は、2種の細胞サンプルから単離されたものであり(例えば、二つの個体、生物種、細胞タイプ、処置、または発達段階)、関連RNAプールは、RNAプローブを製造するために逆転写される。遺伝子のDNAアレイ、すなわちcDNAは、mRNP由来プローブの各プールによってプローブ探索されて、遺伝子発現サブプロフィール(10)を生成する。次にサブプロフィールを、減法または加法によって比較して、全体発現プロフィール(20)を生成する。全体細胞プロフィールのサブプロフィール(mRNP1、mRNP2、...mRNPn)は添加因子として示される。重畳される、各サブプロフィールは、単一細胞タイプにおける個別のmRNP複合体を表すが、あるいは、複雑な組織または腫瘍における個別の細胞トランスクリプトームを表す。
【図6】図6は、後述の実施例2Bの結果を示し、cDNAアレイによってmRNP複合体に関連するmRNAを示す。パネル:(A)プレブリード、(B)HuB、mRNP複合体、(C)elF−4E mRNP複合体、(D)ポリA−結合タンパク(PABP)mRNP複合体、(E)全細胞RNA。工程の特異性の例は、mRNPプロフィールにおいて、β−アクチンとリボソームタンパクS29をコードするmRNAの量の差によって示される(それぞれ、矢印aとb)。
【図7】図7は、実施例2の結果を示し、レチノイン酸処理の前後におけるHuBおよびHuA mRNP複合体のmRNAプロフィールの比較を示す。パネル:(A)未処置細胞から免疫沈降させたHuB mRNPから抽出したmRNA、(B)レチノイン酸処理細胞から免疫沈降させたHuB mRNPから抽出したmRNA、(C)未処置細胞から免疫沈降させたHuA(HuR) mRNPから抽出したmRNA、(D)レチノイン酸処理細胞から免疫沈降させたHuA mRNPから抽出したmRNA、(E)未処置細胞溶解物から抽出した全mRNA、(F)レチノイン酸処理細胞溶解物から抽出した全mRNA。
【図8】図8は、総合遺伝子発現プロファイリングとリボノームプロファイリングの比較である。図は、図7の代表的マイクロアレイスポットを示す。スポットは軸合わせをし、拡大され、レチノイン酸処理前後の、全体mRNAにおけるIGF−2、インテグリンβ、サイクリンD2、およびHSP84と、HuB結合mRNAと関連するものとの比較をする。全体およびHuB関連IGF−2mRNAレベルは、レチノイン酸処理に応じて増加した。逆に、HuB関連インテグリンβ、サイクリンD2、およびHsp84 mRNAレベルは、RA処理後、全体RNAレベルの変化とは無関係に増減した。*mRNAは、RA処理細胞のみに検出された。
【図9】図9は、RNA結合タンパクとmRNP複合体による標的発見過程の模式的概観図である。
【図10】図10は、RNA結合タンパク発現および/またはmRNP複合体の比較から得られたマイクロアレイ結果を分析・解釈するためのデータフローの模式的概観図である。
【図11】図11は、全細胞RNAのマイクロアレイ分析と比較した、リボノーム分析システム(RAS(商標))アッセイの模式的概観図である。
【図12−1】図12Aおよび12Bは、実施例28の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(A)カルシウムチャンネルベータ3サブユニット(CACN)、(B)カドヘリンEGF LAG7回通過Gタイプ受容体(CELSR)で、安定にトランフェクトされたg10標識HuB遺伝子を含む。レチノイン酸(RA)による神経細胞分化誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件。これら3種の遺伝子の発現は、ジメチルスルフォキシドまたはレチノイン酸のどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図12−2】図12Cは、実施例28の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(C)G11細胞における筋ブラインドRNA結合タンパク(MBNL)で、安定にトランフェクトされたg10標識HuB遺伝子を含む。レチノイン酸(RA)による神経細胞分化誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件。これら3種の遺伝子の発現は、ジメチルスルフォキシドまたはレチノイン酸のどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図13−1】図13Aは、実施例2の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(A)カルシウムチャンネルベータ3サブユニット(CACN)で、親のp19細胞において、レチノイン酸(RA)による神経細胞分化の誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件で得られたもの。これら3種の遺伝子の発現は、DMSOまたはRAのどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図13−2】図13B、および13Cは、実施例2の結果を示し、3種の遺伝子の発現プロフィールの比較を示す。(B)カドヘリンEGF LAG7回通過Gタイプ受容体(CELSR)、(C)G11細胞における筋ブラインドRNA結合タンパク(MBNL)で、親のp19細胞において、レチノイン酸(RA)による神経細胞分化の誘発後、および、ジメチルスルフォキシド(DMSO)による筋分化のコントロール条件で得られたもの。これら3種の遺伝子の発現は、DMSOまたはRAのどちらかによる処置1から9日の経過中に定量的RT−PCRで分析した。
【図14】図14は、RNA結合タンパク発現プロフィールに関する毒素ゲノム実験で得られたマイクロアレイ結果を分析・解釈するためのデータフローを示す模式的概観図である。
【図15】図15は、作用機構研究における転写制御因子(転写因子とRNA結合タンパク)の使用法を描く。RiboChip(商標)による転写因子とRNA結合タンパク(RBP)のマイクロアレイ分析に基づく発現プロファイリングは、毒物の可能性のある物質を評価したり、あるいは、薬剤または治療剤の作用機構研究を定めるのに有用である。転写因子とRNA結合タンパクは、全ての遺伝子発現変化の「モニタリング制御」を表す。転写因子の場合、作用機構研究は、調節される遺伝子のプロモーター領域の転写因子結合要素を調べることを含む。RNA結合タンパクの場合、作用機構研究は、特定のRNA結合タンパクによって内因的に結合されるmRNAプールを調べることを含む。
【図16】図16は、RiboTrap(商標)アッセイの模式的概観図である。リガンド、例えば、MSIIコートタンパク(CP)で標識された、対象とするRNA結合タンパク(RBP1またはRBP2)をコードするmRNAを、トランスフェクションによって細胞に導入し、発現させる。タグにより、RNA結合タンパクを付着させたmRNAの回収を可能とする。リガンドに対する結合相手、例えば、CP抗体を用いて、標識mRNA、およびその関連RNA結合タンパクを免疫沈降させる。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の代謝状態を評価するための方法であって、該方法は、以下:
a)少なくとも一つのRNA結合タンパク質、および少なくとも一つのmRNAまたは少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を含む少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;ならびに、
b)該少なくとも一つのmRNA、または該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現レベルを定量する工程であって、該少なくとも一つのmRNA、または該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現レベルが、細胞の代謝状態を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記細胞が、病原体に感染している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、化合物によって処理される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記化合物が、前記少なくとも一つのRNA結合タンパク質および前記少なくとも一つのmRNAの間の結合、該少なくとも一つのRNA結合タンパク質および前記少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の間の結合、または、該少なくとも一つのmRNAおよび該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の間の結合を阻害する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一つのRNA結合タンパク質、前記少なくとも一つのmRNA、または前記少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現を変化させる工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記変化させる工程は、タンパク質、核酸、抗体、抗体断片、ペプチド核酸、およびペプチドからなる群より選択される分子と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記変化させる工程が、遺伝的変化を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記変化させる工程が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、デコイ核酸、または、競合核酸を含む核酸と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つのmRNP複合体が、支持体上に結合するリガンドによって単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つのmRNP複合体が、免疫沈降によって単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
機能的に関係する遺伝子産物を同定し、特徴づけするための方法であって、該方法は、以下:
a)少なくとも一つのRNA結合タンパク質、および少なくとも一つのmRNAまたは少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を含む少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;ならびに、
b)それぞれ、機能的関連遺伝子産物として少なくとも一つのRNA結合タンパク質に関連する、少なくとも一つのmRNA、または少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を同定する工程、
を包含する、前記方法。
【請求項12】
前記機能的関連遺伝子産物が、酵素経路に関与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記機能的関連遺伝子産物は、病因、腫瘍成長、アポトーシス、分化、加齢、または細胞毒性に関与する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子産物をコードする遺伝子を同定する工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも一つのmRNP複合体は、支持体上に結合するリガンドによって単離される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一つのmRNP複合体は、免疫沈降によって単離される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記RNA結合タンパク質、前記少なくとも一つのmRNA、または前記少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現を変化させる工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記変化させる工程は、タンパク質、核酸、抗体、抗体断片、ペプチド核酸、およびペプチドからなる群より選択される分子と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記変化させる工程が、遺伝的変化を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記変化させる工程が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、デコイ核酸、または、競合核酸を含む核酸と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも一つのmRNP複合体の少なくとも一つの構成要素の発現を含むリボノームプロフィールであって、該少なくとも一つの構成要素は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される、リボノームプロフィール。
【請求項22】
一構成要素より多い構成要素の発現を含み、該構成要素が機能的に関連する、請求項21に記載のリボノームプロフィール。
【請求項23】
治療標的を同定するための方法であって、該方法は、以下:
a)細胞サンプルを試験化合物と接触させる工程;
b)該細胞サンプルのリボノームプロフィールを作製する工程であって、ここで、該リボノームプロフィールは、少なくとも一つのmRNP複合体の少なくとも一つの構成要素の発現を含み、該少なくとも一つの構成要素は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される、工程;ならびに、
c)該細胞サンプルにおける該少なくとも一つの構成要素の発現を、コントロールサンプルにおける該少なくとも一つの構成要素の発現と比較する工程であって、該少なくとも一つの構成要素の発現における差は、該少なくとも一つの構成要素が治療標的であることを示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項24】
前記コントロールサンプルは、前記試験化合物で処理されていない細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞サンプルは腫瘍細胞を含み、前記コントロールサンプルは正常細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞サンプルは、成長周期の特定の段階にある細胞を含み、前記コントロールサンプルは、成長周期の異なる段階にある細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記治療標的は、RNA結合タンパク質、該RNA結合タンパク質をコードするmRNA、該RNA結合タンパク質をコードする遺伝子、該RNA結合タンパク質を含むmRNP複合体、該mRNP複合体に関連するmRNA、該mRNP複合体に関連するmRNAをコードする遺伝子、mRNP複合体関連タンパク質、該mRNP複合体関連タンパク質をコードするmRNA、および、該mRNP複合体関連タンパク質をコードする遺伝子からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
治療剤としての試験化合物の効力を評価するための方法であって、該方法は、以下:
a)細胞サンプルを試験化合物と接触させる工程;
b)該細胞サンプルのリボノームプロフィールを作製する工程であって、ここで、該リボノームプロフィールは、少なくとも一つのmRNP複合体と関連する少なくとも一つの遺伝子産物の発現を含み、該遺伝子産物は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される、工程;ならびに、
c)該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現レベルを、コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現レベルと比較する工程であって、該遺伝子産物の発現における差は、該試験化合物が治療的であることを示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項29】
前記治療剤は、前記mRNA、または前記mRNP複合体関連タンパク質を安定化する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記治療剤は、前記mRNA、または前記mRNP複合体関連タンパク質を不安定化する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記治療剤は、前記mRNAの翻訳を抑制するか、該mRNAまたは前記mRNP複合体関連タンパク質の輸送を阻害するか、前記RNA結合タンパク質の該mRNAに対する結合を阻害するか、該RNA結合タンパク質の該mRNP複合体関連タンパク質に対する結合を抑制するか、または、該mRNAの該mRNP複合体関連タンパク質に対する結合を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記治療剤が、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、核酸、ペプチド核酸、および低分子からなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記比較工程は、前記細胞サンプルにおける、前記RNA結合タンパク質、前記mRNA、前記mRNAによってコードされるタンパク質、該RNA結合タンパク質をコードするmRNA、前記mRNP複合体関連タンパク質をコードするmRNA、または、該mRNP複合体関連タンパク質の少なくとも一つの相対量を、前記コントロールサンプルにおける同一物の相対量と比較する工程を包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記試験化合物の毒性または特異性を決定する工程をさらに包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記試験化合物の作用機構を決定する工程をさらに包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞サンプルを前記試験化合物と接触させる前に、前記RNA結合タンパク質、前記mRNA、または前記mRNP複合体関連タンパク質の発現を変化させる工程をさらに包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記変化させる工程は、タンパク質、核酸、抗体、抗体断片、酵素、ペプチド核酸、およびペプチドからなる群より選択される分子と前記細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、デコイ核酸、または、競合核酸を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記変化させる工程は、遺伝的変化を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
被験体における病態をモニタリングする方法であって、該方法は、以下:
a)疾患を有する被験体由来の細胞サンプルから少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程であって、該少なくとも一つのmRNP複合体は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含み、ここで、該遺伝子産物の発現の変化は、該疾患と関連する、工程;ならびに、
b)該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現を、コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較する工程であって、該コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較した、該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現における差は、該被験体における病態の変化を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項41】
前記コントロールサンプルが、正常細胞を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記コントロールサンプルが、前記被験体由来の第2細胞サンプルを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記被験体由来の前記第2細胞サンプルは、該被験体が疾患の一つ以上の症状を有さない場合に得られる、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
被験体において治療剤の効力をモニタリングするための方法であって、該方法は、以下:
a)被験体に有効量の治療剤を投与する工程;
b)該被験体由来の細胞サンプルから少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程であって、該mRNP複合体は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含み、ここで、該遺伝子産物の発現の変化が疾患と関連する、工程;ならびに、
c)該治療剤投与後の該細胞サンプルにおける遺伝子産物の発現を、該治療剤の投与前に得られたコントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較する工程であって、該発現における差は、該治療剤の効力を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項45】
前記コントロールサンプルが、正常細胞を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記コントロールサンプルが、前記被験体由来の第2細胞サンプルを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
被験体における疾患または疾患の危険度を診断するための方法であって、該方法は、以下:
a)被験体由来の細胞サンプルからリボノームプロフィールを作製する工程であって、該リボノームプロフィールは、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含む少なくとも一つのmRNP複合体を含む、工程;
b)該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現を、コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較する工程;ならびに、
c)該コントロールサンプルにおける遺伝子産物の発現と比較した、該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現レベルに基づいて疾患の存在または疾患の危険度を決定する工程であって、ここで、該遺伝子産物の発現の変化は、疾患または疾患の危険度を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項48】
前記コントロールサンプルが、正常細胞を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記コントロールサンプルが、前記被験体由来の第2細胞サンプルを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
細胞の集団に存在する細胞型を評価するための方法であって、該方法は、以下:
a)細胞の集団から少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;および、
b)該mRNP複合体の少なくとも一つの構成要素の発現を検出する工程を包含し、
ここで、該少なくとも一つの構成要素は、特定の細胞型に対して特異的であり、該少なくとも一つの構成要素の発現は、該特定の細胞型が、細胞集団の中に存在することを示す、方法。
【請求項51】
前記細胞集団は、腫瘍、組織、培養細胞、体液、器官、細胞抽出物、または細胞溶解物を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記検出工程は、mRNA、mRNP複合体関連タンパク質、RNA結合タンパク質、RNA結合タンパク質をコードするmRNA、および該mRNP複合体関連タンパク質をコードするmRNAからなる群より選択される遺伝子産物の発現を検出する工程を包含する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
請求項23の方法によって同定された物質の単離組成物。
【請求項1】
細胞の代謝状態を評価するための方法であって、該方法は、以下:
a)少なくとも一つのRNA結合タンパク質、および少なくとも一つのmRNAまたは少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を含む少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;ならびに、
b)該少なくとも一つのmRNA、または該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現レベルを定量する工程であって、該少なくとも一つのmRNA、または該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現レベルが、細胞の代謝状態を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記細胞が、病原体に感染している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、化合物によって処理される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記化合物が、前記少なくとも一つのRNA結合タンパク質および前記少なくとも一つのmRNAの間の結合、該少なくとも一つのRNA結合タンパク質および前記少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の間の結合、または、該少なくとも一つのmRNAおよび該少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の間の結合を阻害する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一つのRNA結合タンパク質、前記少なくとも一つのmRNA、または前記少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現を変化させる工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記変化させる工程は、タンパク質、核酸、抗体、抗体断片、ペプチド核酸、およびペプチドからなる群より選択される分子と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記変化させる工程が、遺伝的変化を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記変化させる工程が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、デコイ核酸、または、競合核酸を含む核酸と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つのmRNP複合体が、支持体上に結合するリガンドによって単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つのmRNP複合体が、免疫沈降によって単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
機能的に関係する遺伝子産物を同定し、特徴づけするための方法であって、該方法は、以下:
a)少なくとも一つのRNA結合タンパク質、および少なくとも一つのmRNAまたは少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を含む少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;ならびに、
b)それぞれ、機能的関連遺伝子産物として少なくとも一つのRNA結合タンパク質に関連する、少なくとも一つのmRNA、または少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質を同定する工程、
を包含する、前記方法。
【請求項12】
前記機能的関連遺伝子産物が、酵素経路に関与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記機能的関連遺伝子産物は、病因、腫瘍成長、アポトーシス、分化、加齢、または細胞毒性に関与する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子産物をコードする遺伝子を同定する工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも一つのmRNP複合体は、支持体上に結合するリガンドによって単離される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一つのmRNP複合体は、免疫沈降によって単離される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記RNA結合タンパク質、前記少なくとも一つのmRNA、または前記少なくとも一つのmRNP複合体関連タンパク質の発現を変化させる工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記変化させる工程は、タンパク質、核酸、抗体、抗体断片、ペプチド核酸、およびペプチドからなる群より選択される分子と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記変化させる工程が、遺伝的変化を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記変化させる工程が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、デコイ核酸、または、競合核酸を含む核酸と細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも一つのmRNP複合体の少なくとも一つの構成要素の発現を含むリボノームプロフィールであって、該少なくとも一つの構成要素は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される、リボノームプロフィール。
【請求項22】
一構成要素より多い構成要素の発現を含み、該構成要素が機能的に関連する、請求項21に記載のリボノームプロフィール。
【請求項23】
治療標的を同定するための方法であって、該方法は、以下:
a)細胞サンプルを試験化合物と接触させる工程;
b)該細胞サンプルのリボノームプロフィールを作製する工程であって、ここで、該リボノームプロフィールは、少なくとも一つのmRNP複合体の少なくとも一つの構成要素の発現を含み、該少なくとも一つの構成要素は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される、工程;ならびに、
c)該細胞サンプルにおける該少なくとも一つの構成要素の発現を、コントロールサンプルにおける該少なくとも一つの構成要素の発現と比較する工程であって、該少なくとも一つの構成要素の発現における差は、該少なくとも一つの構成要素が治療標的であることを示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項24】
前記コントロールサンプルは、前記試験化合物で処理されていない細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞サンプルは腫瘍細胞を含み、前記コントロールサンプルは正常細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞サンプルは、成長周期の特定の段階にある細胞を含み、前記コントロールサンプルは、成長周期の異なる段階にある細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記治療標的は、RNA結合タンパク質、該RNA結合タンパク質をコードするmRNA、該RNA結合タンパク質をコードする遺伝子、該RNA結合タンパク質を含むmRNP複合体、該mRNP複合体に関連するmRNA、該mRNP複合体に関連するmRNAをコードする遺伝子、mRNP複合体関連タンパク質、該mRNP複合体関連タンパク質をコードするmRNA、および、該mRNP複合体関連タンパク質をコードする遺伝子からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
治療剤としての試験化合物の効力を評価するための方法であって、該方法は、以下:
a)細胞サンプルを試験化合物と接触させる工程;
b)該細胞サンプルのリボノームプロフィールを作製する工程であって、ここで、該リボノームプロフィールは、少なくとも一つのmRNP複合体と関連する少なくとも一つの遺伝子産物の発現を含み、該遺伝子産物は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される、工程;ならびに、
c)該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現レベルを、コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現レベルと比較する工程であって、該遺伝子産物の発現における差は、該試験化合物が治療的であることを示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項29】
前記治療剤は、前記mRNA、または前記mRNP複合体関連タンパク質を安定化する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記治療剤は、前記mRNA、または前記mRNP複合体関連タンパク質を不安定化する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記治療剤は、前記mRNAの翻訳を抑制するか、該mRNAまたは前記mRNP複合体関連タンパク質の輸送を阻害するか、前記RNA結合タンパク質の該mRNAに対する結合を阻害するか、該RNA結合タンパク質の該mRNP複合体関連タンパク質に対する結合を抑制するか、または、該mRNAの該mRNP複合体関連タンパク質に対する結合を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記治療剤が、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、核酸、ペプチド核酸、および低分子からなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記比較工程は、前記細胞サンプルにおける、前記RNA結合タンパク質、前記mRNA、前記mRNAによってコードされるタンパク質、該RNA結合タンパク質をコードするmRNA、前記mRNP複合体関連タンパク質をコードするmRNA、または、該mRNP複合体関連タンパク質の少なくとも一つの相対量を、前記コントロールサンプルにおける同一物の相対量と比較する工程を包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記試験化合物の毒性または特異性を決定する工程をさらに包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記試験化合物の作用機構を決定する工程をさらに包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞サンプルを前記試験化合物と接触させる前に、前記RNA結合タンパク質、前記mRNA、または前記mRNP複合体関連タンパク質の発現を変化させる工程をさらに包含する、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記変化させる工程は、タンパク質、核酸、抗体、抗体断片、酵素、ペプチド核酸、およびペプチドからなる群より選択される分子と前記細胞サンプルを接触させる工程を包含する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi、デコイ核酸、または、競合核酸を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記変化させる工程は、遺伝的変化を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
被験体における病態をモニタリングする方法であって、該方法は、以下:
a)疾患を有する被験体由来の細胞サンプルから少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程であって、該少なくとも一つのmRNP複合体は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含み、ここで、該遺伝子産物の発現の変化は、該疾患と関連する、工程;ならびに、
b)該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現を、コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較する工程であって、該コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較した、該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現における差は、該被験体における病態の変化を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項41】
前記コントロールサンプルが、正常細胞を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記コントロールサンプルが、前記被験体由来の第2細胞サンプルを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記被験体由来の前記第2細胞サンプルは、該被験体が疾患の一つ以上の症状を有さない場合に得られる、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
被験体において治療剤の効力をモニタリングするための方法であって、該方法は、以下:
a)被験体に有効量の治療剤を投与する工程;
b)該被験体由来の細胞サンプルから少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程であって、該mRNP複合体は、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含み、ここで、該遺伝子産物の発現の変化が疾患と関連する、工程;ならびに、
c)該治療剤投与後の該細胞サンプルにおける遺伝子産物の発現を、該治療剤の投与前に得られたコントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較する工程であって、該発現における差は、該治療剤の効力を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項45】
前記コントロールサンプルが、正常細胞を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記コントロールサンプルが、前記被験体由来の第2細胞サンプルを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
被験体における疾患または疾患の危険度を診断するための方法であって、該方法は、以下:
a)被験体由来の細胞サンプルからリボノームプロフィールを作製する工程であって、該リボノームプロフィールは、RNA結合タンパク質、mRNA、およびmRNP複合体関連タンパク質からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含む少なくとも一つのmRNP複合体を含む、工程;
b)該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現を、コントロールサンプルにおける該遺伝子産物の発現と比較する工程;ならびに、
c)該コントロールサンプルにおける遺伝子産物の発現と比較した、該細胞サンプルにおける該遺伝子産物の発現レベルに基づいて疾患の存在または疾患の危険度を決定する工程であって、ここで、該遺伝子産物の発現の変化は、疾患または疾患の危険度を示す、工程、
を包含する、方法。
【請求項48】
前記コントロールサンプルが、正常細胞を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記コントロールサンプルが、前記被験体由来の第2細胞サンプルを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
細胞の集団に存在する細胞型を評価するための方法であって、該方法は、以下:
a)細胞の集団から少なくとも一つのmRNP複合体を単離する工程;および、
b)該mRNP複合体の少なくとも一つの構成要素の発現を検出する工程を包含し、
ここで、該少なくとも一つの構成要素は、特定の細胞型に対して特異的であり、該少なくとも一つの構成要素の発現は、該特定の細胞型が、細胞集団の中に存在することを示す、方法。
【請求項51】
前記細胞集団は、腫瘍、組織、培養細胞、体液、器官、細胞抽出物、または細胞溶解物を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記検出工程は、mRNA、mRNP複合体関連タンパク質、RNA結合タンパク質、RNA結合タンパク質をコードするmRNA、および該mRNP複合体関連タンパク質をコードするmRNAからなる群より選択される遺伝子産物の発現を検出する工程を包含する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
請求項23の方法によって同定された物質の単離組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2006−508685(P2006−508685A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562251(P2004−562251)
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/038475
【国際公開番号】WO2004/057032
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(505211433)リボノミックス, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/038475
【国際公開番号】WO2004/057032
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(505211433)リボノミックス, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
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