説明

機能膜の製造方法

【課題】画素領域に薄膜トランジスタが配置されていても、画素領域に形成される機能膜の膜厚を均一にすることが可能な機能膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】薄膜トランジスタを有し、前記トランジスタの上部にバンクによって画素領域が形成される基板に対して、機能膜材料を含有するインクを塗布する方法において、前記基板の上方からインクを塗布する際、前記画素領域のうち前記前記トランジスタが形成される領域以外に前記インクが着弾するように塗布することで解決できるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能膜の製造方法に関し、特に有機電界発光ディスプレイ(以下、「有機ELディスプレイ」と略称)の製造方法に関するものであり、より具体的には、有機発光層等をインクジェット装置により形成する機能膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイは、有機発光層の形成方法によって、以下の2つに大別されうる。一つは、有機発光層を蒸着により形成する方法であり、有機発光層が低分子有機材料からなる場合に用いられる。他の一つは、有機発光層を溶媒塗布法により形成する方法であり、有機発光層が低分子有機材料の場合はもちろん、高分子有機材料からなる場合にも用いられることが多い。
【0003】
溶媒塗布法により有機発光層を形成する代表的な手段の一つに、インクジェット装置を用いて、有機発光材料を含むインクの液滴をディスプレイ基板の画素領域に吐出して、有機発光層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。このとき吐出されるインクの液滴には、有機発光材料と溶媒が含まれる。
【0004】
インクジェット装置は、複数のノズルを有するインクジェットヘッドを有し、インクジェットヘッドのノズルと基板との位置関係を制御しながら、ノズルからインクを吐出させるものである(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、基板に着滴した液滴が等方向に広がって所定の線幅を有する画素を形成することが開示されている。
【0005】
また、表示装置に適用する場合、インクを塗布する画素領域の下部には、一般的に、TFT(薄膜トランジスタ)などの素子が配置されている。
【0006】
図11は、スイッチング素子214上に配置された画素にインクジェットで発光層を形成する方法を示す(特許文献3参照)。
【0007】
図11において、100はエレクトロルミネッセンス表示装置、100Aは基体、114は液滴吐出ヘッド、210R,210G,210Bは区画、211R,211G,211Bは液状の発光材料、211FR,211FG,211FBは発光層、212R,212G,212Bは正孔輸送層、213は層間絶縁膜、214はスイッチング素子、214Sはソース電極、214Gはゲート電極、214Dはドレイン電極、214Vはスルーホール、215はバンク、216は対向電極、217は不活性ガス、218は封止基板である。
【0008】
以下、従来のエレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法を説明する。
【0009】
図11(a)に示すように、液滴吐出ヘッド114から発光材料211Rを区画210Rに吐出する。区画210Rのすべてに発光材料211Rの層を形成した後に乾燥させ、発光層211FRを得る。次に、図11(b)に示すように、液滴吐出ヘッド114から発光材料211Gを区画210Gに吐出する。区画210Gの全てに発光材料211Gの層を形成した後に乾燥させ、発光層211FRを得る。
【0010】
更に、図11(c)に示すように、液滴吐出ヘッド114から発光材料211Bを区画210Bに吐出する。区画210Bの全てに発光材料211Bの層を形成した後に乾燥させ、発光層211FBを得る。そして、図11(d)に示すように、発光層211FR,211FG,211FB、及び、バンク215を覆うように対向電極216を設ける。対向電極216は陰極として機能する。その後、封止基板218と基体100Aとを、互いの周辺部で接着することで、エレクトロルミネッセンス表示装置100が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−362818号公報
【特許文献2】特開2003−266669号公報
【特許文献3】特開2005−218918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の通り、従来の技術では、バンクの下部にスイッチング素子214が存在する場合の塗布のみが開示される。しかしながら、表示装置の画素内の下方には、スイッチング素子214などの駆動回路が配置され、駆動回路によって画素内に凹部が生じている場合があるが、上記の何れの先行技術文献には、画素内の膜厚を均一にする具体的な塗布方法が一切開示されていない。事実、本発明者らは、スイッチング素子が画素を規制するバンクの下部に配置される形態ではなく、画素領域の下方に配置される有機ELディスプレイでは、発光材料を塗布する下地基板に凹凸が発生する場面に直面している。
【0013】
例えば、発光材料を塗布して形成される機能膜などの膜厚の最も厚い部分と、最も薄い部分を比較すると、ゲート電極部分(図示せず)が最も薄く、配線された最も厚い部分(図示せず)に対して、約900nm程度の差があった。そのため、発光材料を塗布した時に、膜厚の不均一が発生し易いと言える。
【0014】
実際に発光材料を塗布して発光層を発光させた場合、輝度差、すなわち、表示ムラが発生することが多い。この表示ムラには、様々な要因が考えられるが、発光層の膜厚差が原因であることがほとんどである。また、画素領域の塗布面の凹凸を緩和するために、平坦化膜を形成する形態もあるが、この場合でも依然として表示ムラに影響を与える程度の凹凸が残存するのは実状である。
【0015】
本発明は、上記従来の課題を解決すべく、画素領域内に凹部が生じやすい形態の有機ELディスプレイにおいても、画素領域内で膜厚の偏りが低く、かつ、表示ムラの少ない有機ELディスプレイを実現することが可能な、機能膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る第1の観点の機能膜製造方法は、『基板に対してインクジェット装置により機能膜材料を含有するインクを塗布して機能膜を形成する機能膜製造方法であって、前記基板は、互いに平行な2以上のライン状バンクにより挟まれて規定される列領域を有し、前記列領域は、薄膜トランジスタ上に配置された画素領域を有し、前記インクジェット装置は、所定のピッチで列状に配列されたノズルを持つインクジェットヘッドを有し、前記インクジェットヘッドを走査方向に移動して、前記ライン状バンクで規定された列領域に前記インクを前記ノズルから吐出して前記基板に塗布するときに、前記画素内の着弾位置が前記画素内に存在する凹凸部に対して、凹部以外の部分に着弾するように塗布すること』を特徴とする製造方法である。このように構成された第1の観点の機能膜製造方法によれば、画素内で塗布膜厚分布の偏りがなく、表示ムラのない表示装置が確実に実現できる。
【0017】
このとき、本発明に係る第2の観点の機能膜製造方法においては、前記ライン状バンク内で規定された前記列領域に塗布するときに、長手方向に対して直線状に着弾するように塗布してもよい。
【0018】
また、本発明に係る第3の観点の機能膜製造方法においては、前記機能膜は、有機電界発光ディスプレイにおける有機発光層であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の機能膜の製造方法によれば、画素領域内の凹部以外の部分に発光材料などのインクを着弾させ、例え画素領域内に凹部があったとしても、インクの偏りを抑制し、画素領域内で膜厚の偏りがなく、表示ムラの少ない有機ELディスプレイを実現できる機能膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法におけるインクを塗布すべき基板の平面図
【図2】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法における基板の拡大断面図であり、(a)が図1に示した基板のA−A線による断面図、(b)が図1に示した基板のB−B線による断面図
【図3】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法において用いられるインクジェット装置のインクジェットヘッドと基板の位置関係を示す図
【図4】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法において用いられるインクジェット装置におけるノズルの配置を示す図
【図5】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法においてそれぞれの画素領域4にドライビングトランジスタ11が配置されたインクを塗布すべき基板の平面図
【図6】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法において用いられるインクジェット装置の各画素領域4に対して、インク9の着弾位置を示した図であり、X−Xの着弾位置でドライビングトランジスタ11上にインクを着弾させる場合とY−Yの着弾位置で画素領域4内を直線状に塗布しながら、ドライビングトランジスタ11上を避けて塗布する場合を示す図
【図7】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法において用いられるインクジェット装置で塗布した画素領域4内のX−Xの着弾位置でインク塗布した場合の塗布乾燥後の膜厚分布とY−Yの着弾位置でインク塗布した場合の塗布乾燥後の膜厚分布を示す図
【図8】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法において、インクジェット装置を用いて形成された有機発光層を有する有機ELディスプレイの概略層構成を示す断面図
【図9】実施の形態1の有機電界発光ディスプレイの製造方法におけるプロセスを示す図
【図10】本発明に係る実施の形態2の有機電界発光ディスプレイの製造方法における、ドライビングトランジスタ11上を避けて塗布する方法を示す図
【図11】従来の有機電界発光ディスプレイの製造方法におけるスイッチング素子が配置された画素領域に塗布した場合を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る好適な実施の形態の機能膜の製造方法について説明する。
【0022】
なお、以下の説明においては、有機発光膜(機能層の一部)を有する有機ELディスプレイの製造方法を例示するものであり、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の有機ELディスプレイの製造方法における、有機発光材料を含むインクを塗布すべき基板1を上方から見た平面図である。
【0024】
図2は図1に示した基板1の拡大断面図であり、図2の(a)は、図1に示した基板1のA−A線による断面図であり、図2の(b)は、図1に示した基板1のB−B線による断面図である。
【0025】
図1及び図2に示すように、基板1はベース基板2上に画素領域4を規定するためのバンク3が形成されている。バンク3が形成されているベース基板2には、図示省略するが反射陽極、正孔注入層等の有機ELディスプレイとして必要な要素が形成されている。バンク3の断面形状は、図2に示すように順テーパ型であってもよく、裾が狭くなった逆テーパ型であってもよい。実施の形態1におけるバンク3の材料としては、絶縁性を有する材料であれば任意に用いることが可能であり、耐熱性、溶媒に対する耐性を持つ絶縁性樹脂(例えばポリイミド樹脂等)であることが好ましい。バンク3の形成方法としては、フォトリソグラフィ技術等が用いられており、パターニングにより形成される。例えば、バンク材料を塗布した後、ベーク処理→マスク露光処理→現像処理等により所望の形状がベース基板2上に形成される。
【0026】
図2の(b)に示すように、基板1においてはベース基板2上に画素規制層10が形成されており、その画素規制層10上にバンク3が形成される。画素規制層10は無機材料で形成されており、例えばSiONが用いられる。画素規制層10はライン状のバンク3と直交する方向にライン状に延設形成されており、複数のライン状のバンク3と複数のライン状の画素規制層10とにより、基板1の上から見たとき格子状となるよう形成されている。
【0027】
バンク3により規制され区画される領域にはインク9が吐出され塗布される。塗布されたインク9と接触する表面は、酸素系ガスプラズマやフッ素系ガスプラズマ等によりフッ素化処理することにより、撥水性を有するように処理されている。このようにバンク3に対して撥水処理が行われているため、後述するようにインク9が画素領域4に塗布されたときバンク3間で盛り上がってもバンク3により確実に保持され、バンク3間に確実に収納される。
【0028】
図1に示すように、ベース基板2上に形成されたバンク3は、直線的に延設(図1の左右方向に延設)された複数のライン状バンク3Aを有しており、これらのライン状バンク3Aは、互いに平行に形成されている。各ライン状バンク3Aにより挟まれた列領域が、R(レッド),G(グリーン),B(ブルー)用のそれぞれの複数の画素領域4を含むよう構成されている。また、R,G,B用の各列領域において、各画素領域4を区画するように前述の画素規制層10が形成されている。
【0029】
画素規制層10は、ベース基板2からの高さがバンク3より低く形成されている。実施の形態1における基板1においては、バンク3のベース基板2からの高さが、例えば約1μmである。画素規制層10の層厚は、例えば約100nmである。したがって、バンク3により囲まれた列領域内に吐出された液状のインク9は、画素領域4を越えて列領域内を自由に移動できる構成である。即ち、各列領域内に吐出されるインク9の量は画素規制層10の層厚を超える量であるため、インク吐出時において、同じ列領域では互いの画素領域4を液状のインクが行き来できる状態である。
【0030】
なお、実施の形態1における複数の隣り合うライン状バンク3A間の幅は、60μmで形成されている。上記のように形成されたR,G,B用のバンク3が基板1において繰り返して形成されている。
【0031】
図3は、実施の形態1のインクジェット装置におけるR,G,B用の3つのインクジェットヘッド5R,5G,5Bと、図1に示した基板1との位置関係を示す図である。
【0032】
各インクジェットヘッド5R,5G,5Bには、R,G,Bのそれぞれのインクを塗布するための複数のノズル6(図4参照)が設けられており、後述する走査動作において、バンク3により囲まれた列領域内がインク9の着滴位置(いわゆる、着弾地点)となるよう配置されている。R,G,B用の3つのインクジェットヘッド5R,5G,5Bはそれぞれ同じ構成であるため、以下の説明においてはインクジェットヘッド5として説明する。図3において、符号Xで示す矢印がインクジェットヘッド5の走査方向である。
【0033】
なお、実施の形態1においては、インクジェットヘッド5をR,G,B用の3つのインクジェットヘッド5R,5G,5Bとして説明したが、1つのインクジェットヘッドにR,G,B用のノズルを設けた構成でも対応可能である。
【0034】
図4は、インクジェットヘッド5(5R,5G,5B)における複数のノズル6を有する基板対向面を示す図である。
【0035】
図4に示すように、インクジェットヘッド5において、複数のノズル6が基板1に対向する面に形成されている。インクジェットヘッド5においては、基板1への走査方向(図4における矢印X方向)に対して、複数のノズル6がライン状に配置された列が斜めに配置されており、複数のノズル6を有する列が複数列で互いに平行に配置されている。インクジェットヘッド5において、複数のノズル6がライン状に配置された列が、走査方向に対して斜めに配置しているのは、バンク3により囲まれた列領域内にインク9を塗布するとき、ノズル6から吐出されたインク9が着滴位置で互いに連結するように、ノズル6間のピッチを短く、例えば、約20μmとするためである。このように、複数のノズル6の列を走査方向に対して斜めに配置することにより、ノズルピッチの間隔を所望の距離に短く設定することが可能となる。
【0036】
図5は、図1と同様な図面であり、R(レッド),G(グリーン),B(ブルー)用のそれぞれの画素領域4にドライビングトランジスタ11が配置されていることを示した図である。同図において、ドライビングトランジスタ11は、ソース電極12、ゲート電極13、ドレイン電極14からなる。画素領域4内で、膜厚の最も高い部分と最も低い部分を比較すると、ゲート電極13が最も低く、配線された最も高い部分(図示せず)に対して900nm程度低い。
【0037】
図6は、各画素領域4に対して、インク9の着弾位置を示した図である。X−Xは画素領域4内を直線状に塗布しながらドライビングトランジスタ11上にインクを着弾させる場合で、Y−Yが画素領域4内を直線状に塗布しながらドライビングトランジスタ11上を避けて塗布する場合を示す。
【0038】
図7は、画素領域4内のX−Xの着弾位置でインクを塗布した場合の塗布乾燥後の膜厚と、Y−Yの着弾位置でインクを塗布した場合の塗布乾燥後の膜厚を示す。図7におけるA1は、Y−Yの着弾位置でインクを塗布した場合のドライビングトランジスタ11領域以外の乾燥膜の下地からの距離(膜厚)を示し、B1はX−Xの着弾位置でインクを塗布した場合のドライビングトランジスタ11領域以外の乾燥膜の下地からの距離(膜厚)を示し、A2は、Y−Yの着弾位置でインクを塗布した場合のドライビングトランジスタ11領域での乾燥膜の下地からの距離(膜厚)を示し、B2はX−Xの着弾位置でインクを塗布した場合のドライビングトランジスタ11領域での乾燥膜の下地からの距離(膜厚)を示すものである。
【0039】
以下、実施の形態1における有機ELディスプレイの製造方法に係る具体的な塗布方法について説明する。
【0040】
ガラス基板1に対して当該インクジェットヘッド5の各ノズル6からインク9を塗布して形成される。
【0041】
インクジェットヘッド5によるガラス基板1に対する塗布方法は、インクジェットヘッド5をガラス基板1に対して走査しつつ、ノズル6からインクを吐出する。このときの走査方向は、図3に示したように、基板1におけるライン状バンク3Aに直交する方向と同じ方向である。R,G,B用の各列領域にノズル6から所定のインク9が吐出されるように想定されて、インクジェットヘッド5(5R,5G,5B)がガラス基板1に対して塗布動作を行う。上記のようにノズル6からインク9がバンク3により規定された複数の列領域を有する基板1に対して吐出されるが、ノズル6からインク9が吐出される吐出周波数が、実施の形態1では10kHzに設定して行っている。
【0042】
なお、実施の形態1において、吐出ノズルから塗布されるインクの液適量は同じであり、その液滴量は液滴数として換算することが可能である。なお、実施の形態1においては、各ノズル6から吐出するインクの液適量は、5pl(ピコリットル)である。
【0043】
図7は、塗布着弾位置を図6のX−Xとした場合とY−Yにした場合の、塗布乾燥後の膜厚を示す。着弾位置X−Xは、トランジスタ11上を含め直線上に塗布した場合で、着弾位置Y−Yは、トランジスタ11以外の領域で直線上に塗布した場合である。
【0044】
図7における符号16は、Y−Yの着弾位置での塗布膜厚分布を示し、符号17は、X−Xの着弾位置での塗布膜厚分布を示す。また、符号18はインクを塗布する下地の膜厚を示す。符号19はトランジスタの領域を表し、凹面になっている。なお、A1,A2,B1,B2については上述の通りであり、それぞれ乾燥後の膜厚を示す。X−Xの場合が、最大膜厚と最小膜厚の差が35nmに対して、Y−Yの最大膜厚と最小膜厚の差が20nmと小さくなっている。
【0045】
以上のように、本発明に係る実施の形態1のインクジェット装置においては、ドライビングトランジスタ11上以外の領域に直線状にインク9を着弾させることにより、インクの偏りを抑制し、画素領域内の膜厚を均一にすることを可能とする。その結果、有機ELディスプレイにおいて電界集中を生じる部分を低減でき、有機ELディスプレイを長寿命化でき、高品質のディスプレイを有する電子機器を提供することができる。
【0046】
実施の形態1のインクジェット装置において、走査方向のドット密度が4800dpi(ドット・パー・インチ)であるため、走査方向に最小塗布ピッチ5.291667μmでの塗布が可能である。インクジェット装置による基板1に対する塗布処理は、一回の走査動作において行うことができる構成である。R,G,Bのインク9の塗布順序は、特に限定されないが、実施の形態1においてはR,G,Bの順番で塗布した。なお、塗布後に形成されるR,G,Bの有機発光層の厚みは、約50〜100nm(例えば70nm)であることが好ましい。
【0047】
実施の形態1のインクジェット装置において、インク9に含まれる有機発光材料は高分子系発光材料であることが好ましく、高分子系発光材料の例としては、ポリフェニレンビニレン(Poly phenylene vinylene(PPV))及びその誘導体、ポリアセチレン(Poly acetylene)及びその誘導体、ポリフェニレン(Polyphenylene)及びその誘導体、ポリパラフェニレンエチレン(Poly para phenyleneethylene)及びその誘導体、ポリ3−ヘキシルチオフェン(Poly 3−hexyl thiophene (P3HT))及びその誘導体、ポリフルオレン(Poly fluorene (PF))及びその誘導体等が含まれる。なお、インクの粘度は、約10mPa・sを採用した。
【0048】
前述の通り、実施の形態1では図7の示すような、塗布処理後において、真空乾燥して有機発光膜を形成してその膜厚を測定している。乾燥条件は、塗布後30秒放置した後、乾燥炉に入れ、5分間で1Paまで真空に引いた後、温度を40℃、真空度を1Paに保持した状態で20分間乾燥させた。着弾位置X−Xは、トランジスタ上を含め直線上に塗布した場合で、着弾位置Y−Yは、トランジスタ以外の領域で直線上に塗布した場合である。X−Xの場合が、最大膜厚と最小膜厚の差が35nmに対して、Y−Yの最大膜厚と最小膜厚の差が20nmと小さくなり、平均膜厚75nmに対して、膜厚の均一性は46.7%から26.6%に向上した。
【0049】
これは、下地の膜厚の影響によると考えられる。すなわち、インク9が着弾してから、すぐに乾燥が始まるために、凹面では、インク9が凸面状の膜厚分布となり非着弾部に比べて膜の高さが高くなる。それに対して、凹面を避けて平坦面に塗布した場合は、インク9が凹面に流れるが、完全に平坦になるのではなく、凹面のままとなり、着弾部が凹面上の膜の高さより高くなると考えられる。
【0050】
なお、上記の膜厚の均一性を示すばらつきは、「(最大膜厚値−最小膜厚値)/平均膜厚値×100[%]」を用いて算出したものである。
【0051】
図8は、実施の形態1のインクジェット装置を用いて形成された有機発光層等を有する有機ELディスプレイの一例を示すものであり、有機ELディスプレイにおける層構成の概略を示す断面図である。
【0052】
図8に示す各層の相対的な膜厚及び形状は、実際の膜厚及び形状を示すものではなく、説明上わかりやすく記載したものである。図8に示す有機ELディスプレイは、ベース基板にある平坦化膜22上に反射陽極23、正孔注入層24が形成されており、その正孔注入層24上に前述の画素規制層10及びバンク3が形成されている。前述のようにバンク3により区画される列領域にインターレイヤー層(IL層)25及び有機発光層26が形成されている。
【0053】
反射陽極23は図1に示した画素領域4に対応して分離して作成されており、ディスプレイの発光部となる。なお、画素規制層10を成膜後に、正孔注入層24を全面成膜し、その後にバンク3を形成してもよい。画素規制層10は、通常のフォトリソグラフィ技術により形成される。即ち、画素規制層10は、「レジスト塗布処理」→「マスク露光処理」→「現像処理」→「ドライエッチング処理」→「レジスト除去処理」の形成工程により形成される。
【0054】
なお、実施の形態1のインクジェット装置は、有機発光層26の形成における塗布処理において用いると共に、インターレイヤー層(IL層)25の形成における塗布処理においても同様の構成のインクジェット装置が用いられる。
【0055】
図8に示すように、有機ELディスプレイにおいては、有機発光層26及びバンク3を覆うように電子輸送層27、陰極28、封止層29、及び、樹脂層30が形成されている。そして、樹脂層30の上部にはガラス基板31及び偏光板32等が設けられて有機ELディスプレイが構成されている。
【0056】
上記のように構成された有機ELディスプレイは、図9のプロセスフローチャートに示すように製造されている。即ち、「平坦化膜形成」→「反射陽極形成」→「正孔注入層形成」→「バンク形成」→「IL層形成」→「有機発光層形成」→「電子輸送層形成」→「陰極形成」→「封止層形成」→「樹脂層形成」の順に製造される。この製造プロセスにおいて、IL層及び有機発光層が実施の形態1において説明したインクジェット装置を用いて所定の材料が塗布されて生成される。
【0057】
以上のように、実施の形態1の有機ELディスプレイの製造方法において、インクジェット装置は、有機発光層等の生成プロセスにおいて用いられ、画素内にドライビングトランジスタが配置され、凹部があったとしても、画素内の凹部以外の部分にインクを着弾させることでインクの偏りを抑制し、画素内の膜厚が均一な所定の機能膜を形成することができる。
【0058】
また、実施の形態1の有機ELディスプレイの製造方法によれば、機能膜である有機発光層等の膜厚の均一性を確保することができるため、輝度ムラのない高品質の有機ELディスプレイを提供することができる。
【0059】
(実施の形態2)
以下、本発明に係る実施の形態2の有機ELディスプレイの製造方法について添付の図面を参照しつつ説明する。
【0060】
実施の形態2の有機ELディスプレイの製造方法において、前述の実施の形態1の有機ELディスプレイの製造方法と異なる点は、ドライビングトランジスタ11上以外の領域に塗布する場合に、直線状にインク9を着弾させるのではなく、ドライビングトランジスタ11以外の領域に塗布することにある。したがって、実施の形態2の説明においては、実施の形態1において説明したものと同じ構成を有するものには同じ符号を付してその説明は実施の形態1の説明を援用して実施の形態2においては省略する。
【0061】
図10は、実施の形態2における各画素領域4に対して、インク9の着弾位置を示した図です。画素領域4内にドライビングトランジスタ11上を避けて、一直線状ではなく、不連続な直線状33に塗布する場合を示す。
【0062】
実施の形態2における有機ELディスプレイ及びインクジェット装置の構成は、前述の実施の形態1と同じである。したがって、以下の実施の形態2においては、前述の実施の形態1の説明に用いた図1、図3、図4及び図5を参照して説明する。また、基板1とインクジェット装置におけるインクジェットヘッド5(5R,5G,5B)のノズル6との位置関係及び走査方向は、前述の実施の形態1と同様である。
【0063】
実施の形態2の有機ELディスプレイの製造方法において、図10に示すように、ドライビングトランジスタ11以外の領域にインク9を塗布することにより、実施の形態1と同様、塗布乾燥後の膜厚が、ドライビングトランジスタ11上を含め直線上に塗布した場合に比べ、最大膜厚と最小膜厚の差が35nmから18nmととなり、平均膜厚75nmに対して、膜厚均一性が46.7%から24%に向上した。
【0064】
なお、上記の膜厚の均一性を示すばらつきは、「(最大膜厚値−最小膜厚値)/平均膜厚値×100[%]」を用いて算出したものである。
【0065】
以上のように、実施の形態2の有機ELディスプレイの製造方法において、インクジェット装置は、有機発光層等の生成プロセスにおいて用いられ、画素内にドライビングトランジスタ11が配置され、凹部があったとしても、画素内の凹部以外の部分にインクを着弾させることでインクの偏りを抑制し、画素内の膜厚が均一な所定の機能膜を形成することができる。
【0066】
また、実施の形態2の有機ELディスプレイの製造方法によれば、機能膜である有機発光層等の膜厚の均一性を確保することができるため、輝度ムラのない高品質の有機ELディスプレイを提供することができる。
【0067】
上記において、本発明に係る好適な実施の形態1及び実施の形態2について説明したが、本発明は上記の実施の形態1及び実施の形態2の構成や製造工程を示す内容に限定されるものではなく、同様の技術的思想に基づく様々な変更が可能である。
【0068】
例えば、実施の形態1及び実施の形態2においては、ライン状のバンク3の形態を示したが、画素領域4が独立した領域のピクセル状であっても、ドライビングトランジスタ11を避けて塗布することにより、塗布膜厚の均一化を図ることが可能であり、前述の実施の形態の内容と同様の効果を奏する。
【0069】
実施の形態1及び実施の形態2においては、ノズルから吐出するインクの通常の吐出周波数を10kHzとして説明したが、特にこの周波数に限定されるものではなく、製造される有機ELディスプレイの仕様等に応じて適宜設定される。また、実施の形態1及び実施の形態2においては、走査方向のドット密度を4800dpiとしたが、特に限定されるものではなく、製造される有機ELディスプレイの仕様等に応じて適宜設定される。
【0070】
また、実施の形態1及び実施の形態2においては、基板1に対する塗布処理は、一回の走査動作において行うことができる構成であるが、インクジェットヘッド5R,5G,5Bの長手方向の寸法が基板1より小さく、複数回に分けて基板1を塗布しても同様の効果を奏する。
【0071】
また、実施の形態1及び実施の形態2においては、インクジェットヘッドにおいて複数のノズルがライン状に配置された列を走査方向に対して斜めに配置して、走査方向に直交する方向のノズル間のピッチを約20μm(例えば、21.16666μm)として設計した。これは、ノズルから吐出されたインクが着滴位置において互いに連結するようにするためである。したがって、走査方向に直交する方向のノズル間のピッチは、10μm〜50μmの範囲内であることが好ましいが、特に限定する必要はない。
【0072】
また、実施の形態1及び実施の形態2において、ノズルから吐出されるインクの一滴当たりの量は、5plとしたが、1pl〜15plの範囲内であることが好ましく、特に限定されるものではない。また、実施の形態1及び実施の形態2においては、インクの粘度が10mPa・sのものを用いたが、本発明においてはインクの粘度をこの数値に限定するものではなく、約5〜20mPa・sの範囲内が好ましく、特に限定されるものではい。
【0073】
また、実施の形態1及び実施の形態2においては、ドライビングトランジスタ11としたが、たとえば、スイッチングトランジスタなど他のトランジスタが配置されている場合も同様の方法により塗布膜厚の均一化を図ることが可能であり、前述の実施の形態の内容と同様の効果を奏する。
【0074】
更に、実施の形態1及び実施の形態2においては、ドライビングトランジスタ11領域以外の領域を直線状に連続あるいは不連続に塗布する場合を示したが、直線状ではなくても、ドライビングトランジスタ11を避けて塗布するように分散して塗布しても、同様の効果があり、所望の高品質の有機ELディスプレイを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、インクジェット装置において均一な塗布膜を基板上に形成することができ、そのため、輝度ムラをなくすために、高電圧をかけることがないため、例えば長寿命で高画質の有機ELディスプレイを提供することができるため、特に有機ELディスプレイの分野等において汎用性が高く、有用である。
【符号の説明】
【0076】
3 バンク
4 画素領域
10 画素規制層
11 ドライビングトランジスタ
12 ソース電極
13 ゲート電極
14 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタを有し、前記トランジスタの上部にバンクによって画素領域が形成される基板に対して、機能膜材料を含有するインクを塗布する方法において、
前記基板の上方からインクを塗布する際、前記画素領域のうち前記前記トランジスタが形成される領域以外に前記インクが着弾するように塗布すること、
を特徴とする機能膜の製造方法。
【請求項2】
前記インクは所定のピッチで列状に配列されたノズルを有するインクジェットヘッドによって塗布され、
前記インクジェットヘッドを走査方向に移動しながら、前記インクを塗布する、請求項1記載の機能膜の製造方法。
【請求項3】
前記バンクは特定の一方向に延出して構成され、前記画素領域に前記インクを塗布する際、前記バンクの長手方向に対して平行に着弾するように塗布する、請求項1又は2に記載の機能膜の製造方法。
【請求項4】
前記機能膜材料は、有機電界発光ディスプレイにおける有機発光層の材料である、請求項1乃至3の何れか一項に記載の機能膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−119078(P2011−119078A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274093(P2009−274093)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】