説明

欠陥検査装置および方法

【課題】 限られたタクトタイムにおいても正確に判定できるようにすること。
【解決手段】 欠陥検査装置は、供試体の表面を撮像して原画像を取得し(ステップA1)、原画像に基づいて注目画素とその周辺画素の輝度値の平均値を算出し、算出した平均値と前記注目画素の輝度値とを入れ替えたフィルタ処理画像を作成し(ステップA2)、前記原画像の画素の輝度値から対応する前記フィルタ処理画像の画素の輝度値を減算した差分処理画像を作成し(ステップA3)、前記差分処理画像の画素の輝度値がしきい値以上の場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記差分処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成し(ステップA4)、前記2値化処理画像に対して欠陥の有無を判定する(ステップA5、A6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物の切削加工面の欠陥を検出する欠陥検査装置および方法に関し、特に、欠陥検査装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品のようなアルミ鋳物の切削加工面に表れる欠陥として、鋳造上どこに表れるかわからない鋳巣や、切削加工機において洗浄で取りきれなかった切粉がチャックに付着したままワークをつかむことによって発生する圧痕や、ワークの剛性バラツキによって発生するビビリなどがある。これらの欠陥が切削加工面に存在すると、シール性が低下し、製品機能を満足しなくなる。そこで、製品機能を満足する鋳物を選別するために、鋳物の切削加工面の欠陥検査を行っており、現状、検査員が目視で全数チェックしている。
【0003】
目視による欠陥検査では、個人差や作業による疲労度によって検査精度が大きく変動してしまう。また、近年、形状が大きい鋳物や、切削加工面が多面に及ぶ鋳物が増え、検査に費やされる経費が多く製造コストを上昇させる要因となっている。そのため、欠陥検査の自動化が望まれている。
【0004】
欠陥検査の自動化する技術として、カメラと照明を用いた欠陥検査装置がある。このような欠陥検査装置では、様々なバラツキ要因で加工痕が発生した場合の対策として、2次元フーリエ変換により加工痕の周波数成分を特定し、その周波数成分を除去することにより加工痕を除去する方法(特許文献1)、統計処理により計測データのバラツキを吸収する方法(特許文献2、3)が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−103938号公報
【特許文献2】特開2004−170374号公報
【特許文献3】特開2004−264054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、2次元フーリエ変換により加工痕の周波数成分を除去しているため、キズが、機器の劣化や、外乱による輝度変化により、加工痕の周波数成分を持った状態で発生した場合には、加工痕と同様に除去される可能性がある。また、フーリエ変換を用いると演算量が非常に多くなるため、限られたタクトタイムでの処理には向いていない。
【0007】
また、特許文献2、3に記載の発明では、良品のワークを複数撮像し、集められた画像の平均、標準偏差、あるいは、分散を用いて基準となる良品の画像を算出し、基準画像を作成し、この基準画像と撮像した画像を比較し、不良品の判定を行っているため、中間付近でのバラツキには対応できるものの、極端な照明の劣化、刃具交換時などに発生した加工痕がある状態での画像では、良品を不良品と誤判定する。例えば、照明としてLED素子を用いる場合、LED素子の輝度を飽和状態にし、加工痕の影響を限りなく小さくすることで、安定した判定性能を確保することができるが、LED素子が劣化し輝度が低下した場合には、加工痕が発生し、良品を不良品として誤判定する可能性がある。また、刃具を交換した場合には、刃先形状により初期は加工痕が発生しやすい状態になるため、LED素子が飽和状態の輝度を利用しても加工痕が発生し、同様に良品を不良品として誤判定する可能性がある。また、特許文献2、3に記載の発明では、N数用意した画像データに対して統計的処理を行い、2値化処理のしきい値を決定し、決定されたしきい値によってキズの特定を行っているため、加工痕の発生が多い画像では、キズが発生していないワークにおいてもキズ有と誤判定する。さらに、特許文献2、3に記載の発明では、基準画像を作成するために、多数の供試品を用意する必要があり、その供試品の選定の良否が性能に大きく左右する。
【0008】
本発明の課題は、限られたタクトタイムにおいても正確に判定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者の見解によれば、使用する機器の劣化や、外乱による輝度変化にも対応できるようにするためには、ロバストな性能や、生産性向上のための高速演算可能なアルゴリズムが必要となる。また、照明のバラツキや、刃具交換など極端に計測環境が変化した場合でも正確に判定できるようにするためには、環境が変化した状態に合ったしきい値を用いる手法が必要である。以上のような見解から、以下のような発明がなされた。
【0010】
本発明の第1の視点においては、供試体の表面欠陥を検査するための欠陥検査装置であって、前記供試体の表面を撮像して原画像を取得するカメラと、前記原画像からノイズを除去したフィルタ処理画像を作成するフィルタ処理部と、前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の情報に基づいて、しきい値を決定するしきい値決定部と、前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上である場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成する2値化処理部と、前記2値化処理画像に対して欠陥の有無を判定する判定処理部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の前記欠陥検査装置において、前記原画像の画素の輝度値から対応する前記フィルタ処理画像の画素の輝度値を減算した差分処理画像を作成する差分処理部を備え、前記2値化処理部は、前記差分処理画像の画素の輝度値がしきい値以上の場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記差分処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成することが好ましい。
【0012】
本発明の前記欠陥検査装置において、前記しきい値決定部は、前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の輝度値から平均値を算出し、前記しきい値を決定してもよい。
【0013】
本発明の前記欠陥検査装置において、前記しきい値決定部は、前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の輝度値から分散値を演算し、前記しきい値を決定してもよい。
【0014】
本発明の前記欠陥検査装置において、前記フィルタ処理部は、前記原画像に基づいて注目画素とその周辺画素の輝度値の平均値を算出し、算出した平均値と前記注目画素の輝度値とを入れ替えたフィルタ処理画像を作成してもよい。
【0015】
本発明の前記欠陥検査装置において、前記フィルタ処理部は、前記原画像に基づいて注目画素とその周辺画素の輝度値の最大値を抽出し、抽出した最大値と前記注目画素の輝度値とを入れ替えたフィルタ処理画像を作成してもよい。
【0016】
本発明の前記欠陥検査装置において、前記供試体の表面を照明する照明手段を備え、前記しきい値決定部は、前記照明手段の経年劣化に基づいて前記しきい値を決定することが好ましい。
【0017】
本発明の第2の視点においては、供試体の表面欠陥を検査するための欠陥検査方法であって、前記供試体の表面を撮像して原画像を取得するステップと、前記原画像からノイズを除去したフィルタ処理画像を作成するステップと、前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の情報に基づいて、しきい値を決定するステップと、前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上である場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成するステップと、前記2値化処理画像に対して欠陥の有無を判定するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明(請求項1−8)によれば、2次元フーリエ変換などのような複雑な処理を行わないので、限られたタクトタイムにおいても正確に良品、不良品を判定できる。また、多数の供試品を用意して基準画像を作成する必要がない。
【0019】
本発明(請求項3−7)によれば、照明の劣化、刃具交換などを行った場合でも、撮像画面の統計的手法でしきい値を調整し、安定した判定性能を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【0021】
欠陥検査装置1は、鋳物の切削加工面の欠陥(鋳巣)を検出する装置である。欠陥検査装置1は、ターンテーブル11と、モータ12と、エンコーダ13と、カメラ14と、照明15と、画像処理部16と、表示部17と、有する。
【0022】
ターンテーブル11は、鋳物である供試体2を載置するための回動可能な台である。モータ12は、ターンテーブル11を回転駆動させる。エンコーダ13は、モータ12の回転角を計測する部分である。カメラ14は、照明15によって照らされた供試体2の表面画像を撮像する部分であり、例えば、CCDカメラを用いることができる。照明15は、供試体2の表面を照らす部分であり、例えば、LED素子を用いることができる。照明15の輝度は、飽和状態(高輝度)である。画像処理部16は、カメラ14で撮像された画像に基づいて欠陥検査処理を行う。画像処理部16は、エンコーダ13からのモータ12の回転角に基づいてカメラ14により撮像された画像が、供試体2の表面のどの位置であるかを認識する。表示部17は、ユーザの指示に応じて、撮像された画像、欠陥検査処理後の画像などを表示する。画像処理部16及び表示部17には、一般的に用いられているコンピュータを用いればよい。
【0023】
次に、実施形態1に係る欠陥検査装置の画像処理部の処理動作について説明する。図2は、本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置の画像処理部の処理動作を模式的に示したフローチャートである。図3は、本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置の画像処理部の2値化処理を模式的に示したフローチャートである。図4は、本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置によって得られる画像(照明の輝度15のときの画像)であり、(a)は原画像、(b)はフィルタ処理画像、(c)は差分処理画像、(d)は2値化処理画像である。
【0024】
図2および図3に示される各処理は、画像処理部16内でプログラムにより実行される処理である。よって、各処理を機能ブロックで表現すれば、原画像取得処理部、フィルタ処理部、差分処理部、2値化処理部、特徴量演算処理部、判定処理部を備えていることと等価である。
【0025】
まず、カメラ14により高輝度時(照明15が飽和状態)の供試体2の原画像を撮像し、画像処理部16は、撮像した原画像(図4(a)参照)を取得する(ステップA1)。
【0026】
次に、フィルタ処理部として機能する画像処理部16は、原画像に対して、欠陥(鋳巣
)以外の加工痕、キズを消去するためにフィルタ処理を行い、フィルタ処理画像(基準画像;図4(b)参照)を作成する(ステップA2)。ここで、フィルタ処理では、注目画素とその周辺画素(n*n)の輝度値の平均値を算出し、算出した平均値と注目画素の輝度値とを入れ替える。なお、フィルタ処理では、平均値を用いる代わりに、注目画素とその周辺画素(n*n)の輝度値のうち最大値を抽出し、抽出した最大値と注目画素の輝度値とを入れ替えるようにしてもよい。
【0027】
次に、差分処理部として機能する画像処理部16は、原画像およびフィルタ処理画像に基づいて差分処理を行い、差分処理画像(図4(c)参照)を作成する(ステップA3)。ここで、差分処理は、原画像からフィルタ処理画像を減算(原画像の画素の輝度値から対応するフィルタ処理画像の画素の輝度値を減算)する処理である。原画像にキズがあった場合は、キズの部分が差分処理画像に差分として現れる。
【0028】
次に、2値化処理部として機能する画像処理部16は、差分処理画像について画素ごとに2値化処理を行い、2値化処理画像(図4(d)参照)を作成する(ステップA4)。ここで、2値化処理では、画像処理部16は、差分処理画像から処理対象となる画素の輝度値(data(x,y))を抽出し(ステップB1)、画素の輝度値としきい値(固定値)とを比較することによって画素の輝度値がしきい値以上か否かを判定し(ステップB2)、画素の輝度値がしきい値以上の場合(ステップB2のYES;キズありの部分)は画素の輝度値を1(白)とし(ステップB3)、画素の輝度値がしきい値以上でない場合(ステップB2のNO;キズなしの部分)は画素の輝度値を0(黒)とし(ステップB4)、差分処理画像の全ての画素について2値化処理を行ったか否か確認し(ステップB5)、全ての画素について2値化処理を行っていない場合(ステップB5のNO)にはステップB1に戻って次の画素について処理を行い、全ての画素について2値化処理を行った場合(ステップB5のYES)にはステップA5に進む。
【0029】
次に、画像処理部16は、2値化処理画像から各キズありの部分の長さ、面積などの特徴量を演算する(ステップA5)。
【0030】
最後に、画像処理部16は、特徴量としきい値(固定値)を比較することにより、欠陥の有無を判定する(ステップA6)。判定では、特徴量がしきい値以上の場合には欠陥ありとして不良品とし、特徴量がしきい値以上でない場合には欠陥なしとして良品とする。図4(d)の2値化処理画像では、特徴量がしきい値以上の欠陥が3個存在し、不良品と判定されることになる。
【0031】
実施形態1によれば、2次元フーリエ変換などのような複雑な処理を行わないので、限られたタクトタイムにおいても正確に良品、不良品を判定できる。
【0032】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置について図面を用いて説明する。図5は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部において用いられるマップ(分散値−しきい値)を模式的に示したグラフである。なお、実施形態2に係る欠陥検査装置の構成については、図1を参照されたい。
【0033】
実施形態2に係る欠陥検査装置は、実施形態1に係る欠陥検査装置の画像処理部16において分散値演算処理及びしきい値補正処理を追加したものである。なお、画像処理部16以外の構成は、実施形態1と同様である。
【0034】
画像処理部16は、分散値演算処理において、カメラ14で撮像された供試体2の原画像に基づいて各画素の輝度値の合計値、平均値、又は分散値を演算する。ここで、合計値は、原画像の各画素の輝度値を合計した値である。また、平均値は、合計値を原画像の切削面加工面の画素数で割った値である。さらに、分散値は、下記の演算式(数1)によって演算された値である。
【0035】
【数1】

area:切削面の面積
x,y:画素位置(切削面のみ有効)
ave:原画像切削面の平均輝度
n,m:画像サイズ
【0036】
画像処理部16は、しきい値補正処理において、演算した合計値、平均値、又は分散値に基づいて2値化処理で用いるしきい値を演算して、演算したしきい値に補正する。ここで、分散値が高くなるとキズの検出が多くなるため、分散値が高くなるにしたがい、しきい値を高く設定する(図5参照)。合計値又は平均値を用いる場合は、合計値又は平均値が高くなるにしたがい、しきい値を低く設定する。
【0037】
次に、実施形態2に係る欠陥検査装置の照明15の輝度、合計値および分散値、しきい値(補正値)の関係について図面を用いて説明する。図6は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置における照明の輝度と合計値の関係を説明するためのグラフである。図7は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置における照明の輝度と分散値の関係を説明するためのグラフである。図8は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置における照明の輝度としきい値(補正値)の関係を説明するためのグラフである。
【0038】
供試体2を撮像する時、照明15の劣化等により照明15の輝度が低下すると、加工痕が発生しやすくなる。また、照明15の輝度が高すぎると小さなキズが消えてしまうことがある。2値化処理において、実施形態1のように固定されたしきい値を用いると、低輝度時に加工痕をキズと判定するおそれがあり、高輝度時に小さなキズを検出できないおそれがある。また、刃具交換時は加工痕が発生しやすいため、この時も加工痕をキズと誤判定するおそれがある。したがって、低輝度の画像に対しては、加工痕とキズが混在した画像データから加工痕とキズを正確に分離しなければならない。高輝度の画像では、加工痕が発生していないため容易に判定が可能である。照明15が劣化した場合は、新しい照明15に交換することによって、このような誤判定を回避することができるが、何らかの特性に基づいて2値化処理に用いるしきい値を補正すれば、誤判定を回避しつつ、照明15の交換回数を減らすことができるはずである。
【0039】
ここで、加工痕が無い場合の画像と加工痕が発生した画像に対して統計的処理を実施すると、検出範囲の輝度値の平均値、分散値と加工痕の発生に関係がある。照明15が劣化して加工痕が発生する場合は、輝度の平均値が低下するとともに分散値が高くなる。また、刃具交換時にも加工痕が発生し、輝度の平均値が低下するとともに撮像面の輝度バラツキが多く、分散値が大きくなる傾向にある。照明15の輝度(例えば、15段階)を変えると、画像に係る各画素の輝度値の合計値は、図6に示すようになる。すなわち、照明15の輝度が高くなる(輝度15に近づく)にしたがい、画像に係る各画素の輝度値の合計値が高くなる。また、照明15の輝度(例えば、15段階)を変えると、画像に係る各画素の輝度値の分散値は、図7に示すようになる。すなわち、照明15の輝度が高くなる(輝度15に近づく)にしたがい、画像に係る各画素の輝度値の分散値が低下する。画像に係る各画素の輝度値の合計値又は分散値は、照明15の輝度と比例又は反比例の関係がある。
【0040】
以上のような特性を利用して、切削面の輝度値の平均値が低下、または、分散値が高くなった場合は、加工痕が多く発生したと想定し、2値化処理に用いるしきい値の補正を行う。なお、照明15の輝度としきい値(補正値)の関係について、低輝度時は、しきい値が低いと加工痕とキズと検出するため、しきい値を高く設定し、高輝度時は、加工痕が少ないため、しきい値を低く設定する(図8参照)。これにより、加工痕をキズと誤判定することを防止することができ、高輝度時には小さなキズも検出できる。
【0041】
次に、実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部の処理動作について説明する。図9は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部の処理動作を模式的に示したフローチャートである。図10は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部の2値化処理を模式的に示したフローチャートである。図11は、本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置によって得られる画像(照明の輝度1のときの画像)であり、(a)は原画像、(b)はフィルタ処理画像、(c)は差分処理画像、(d)は2値化処理画像である。
【0042】
図9および図10に示される各処理は、画像処理部16内でプログラムにより実行される処理である。よって、各処理を機能ブロックで表現すれば、原画像取得処理部、分散値演算処理部、しきい値補正処理部、フィルタ処理部、差分処理部、2値化処理部、特徴量演算処理部、判定処理部を備えていることと等価である。
【0043】
まず、カメラ14により照明15で照らされた供試体2の原画像を撮像し、画像処理部16は、撮像した原画像(図11(a)参照)を取得する(ステップC1)。
【0044】
次に、画像処理部16は、取得した原画像に基づいて、分散値を演算する(ステップC2)。なお、分散値の演算は、前記演算式(数1)に基づいて行う。
【0045】
次に、しきい値決定部として機能する画像処理部16は、演算した分散値に基づいて、しきい値補正処理を行う(ステップC3)。しきい値補正処理では、演算した分散値に基づいて、後述する2値化処理で用いるしきい値を演算して、演算したしきい値に補正する。
【0046】
次に、画像処理部16は、原画像に対して、加工痕、キズを消去するためにフィルタ処理を行い、フィルタ処理画像(基準画像;図11(b)参照)を得る(ステップC4)。ここで、フィルタ処理では、注目画素とその周辺画素(n*n)の輝度値の平均値を算出し、算出した平均値と注目画素の輝度値とを入れ替える。なお、フィルタ処理では、平均値を用いる代わりに、注目画素とその周辺画素(n*n)の輝度値のうち最大値を抽出し、抽出した最大値と注目画素の輝度値とを入れ替えるようにしてもよい。
【0047】
次に、画像処理部16は、原画像およびフィルタ処理画像に基づいて差分処理を行い、差分処理画像(図11(c)参照)を得る(ステップC5)。ここで、差分処理は、原画像からフィルタ処理画像を減算(原画像の画素の輝度値から対応するフィルタ処理画像の画素の輝度値を減算)する処理である。原画像にキズがあった場合は、キズの部分が差分処理画像に差分として現れる。
【0048】
次に、画像処理部16は、差分処理画像について画素ごとに2値化処理を行い、2値化処理画像(図11(d)参照)を得る(ステップC6)。ここで、2値化処理では、画像処理部16は、差分処理画像から処理対象となる画素の輝度値(data(x,y))を抽出し(ステップD1)、画素の輝度値としきい値(ステップC3で補正したしきい値)とを比較することによって画素の輝度値がしきい値以上か否かを判定し(ステップD2)、画素の輝度値がしきい値以上の場合(ステップD2のYES;キズありの部分)は画素の輝度値を1(白)とし(ステップD3)、画素の輝度値がしきい値以上でない場合(ステップD2のNO;キズなしの部分)は画素の輝度値を0(黒)とし(ステップD4)、差分処理画像の全ての画素について2値化処理を行ったか否か確認し(ステップD5)、全ての画素について2値化処理を行っていない場合(ステップD5のNO)にはステップD1に戻って次の画素について処理を行い、全ての画素について2値化処理を行った場合(ステップD5のYES)にはステップC7に進む。
【0049】
次に、画像処理部16は、2値化処理画像から各キズありの部分の長さ、面積などの特徴量を演算する(ステップC7)。
【0050】
最後に、画像処理部16は、特徴量としきい値(固定値)を比較することにより、良品、不良品を判定する(ステップC8)。判定では、特徴量がしきい値以上の場合には不良品とし、特徴量がしきい値以上でない場合には良品とする。図11(d)の2値化処理画像では、特徴量がしきい値以上のものが3個存在し、不良品と判定されることになる。
【0051】
実施形態2によれば、照明の劣化、刃具交換などを行った場合でも、撮像画面の統計的手法でしきい値を調整し、安定した判定性能を得る。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
次に、2値化処理に用いるしきい値として、固定値を用いる場合(実施形態1の場合)と補正値を用いる場合(実施形態2の場合)の欠陥検査処理を比較しながら、図面を用いて説明する。図12は、比較例に係る欠陥検査処理によって得られる画像(照明の輝度1のときの画像)であり、(a)は原画像、(b)はフィルタ処理画像、(c)は差分処理画像、(d)は2値化処理画像である。図13は、照明の各輝度について、しきい値として、固定値を用いた場合(実施形態1の場合)と補正値を用いた場合(実施形態2の場合)の欠陥検査処理に係るキズの判定個数を比較するための表である。ここでの供試体2にはキズ3個のサンプルを用いている。
【0053】
照明15が低輝度(例えば、輝度1)のときに、画像処理部16において分散値演算処理及びしきい値補正処理を行わないで欠陥検査処理を行うと(すなわち、実施形態1の場合)、図12に示すような画像が得られ、加工痕をキズと判定してしまう。つまり、2値化処理で用いるしきい値が固定値の場合(実施形態1の場合)、照明15の輝度5以下において加工痕をキズと判定していたが、しきい値を補正する場合(実施形態2の場合)、図11に示すような画像が得られ、照明15が輝度1〜15までの広い範囲で正確に判定が可能となる。なお、実施形態1の場合でも、照明15の輝度6以上では加工痕をキズと判定しないので有効である。
【0054】
照明の各輝度について、しきい値として固定値を用いた場合(実施形態1の場合)と補正値を用いた場合(実施形態2の場合)のキズの判定個数は、図13のようになる。固定値を用いた場合は、輝度5以下で加工痕をキズと判定する個数が多くなっているが、補正値を用いた場合はどの輝度においても3個の判定が可能である。
【0055】
(実施例2)
次に、刃具交換した直後に切削された試供体を欠陥検査処理する場合について、2値化処理に用いるしきい値として、固定値を用いる場合(実施形態1の場合)と補正値を用いる場合(実施形態2の場合)を比較しながら、図面を用いて説明する。図14は、刃具交換した直後であって、キズなしのサンプルを用いたときの欠陥検査処理を比較するための画像である。図15は、刃具交換した直後であって、キズありのサンプルを用いたときの欠陥検査処理を比較するための画像である。ここでは、照明の輝度を15としている。必要のない加工痕を消すために更に輝度を上げても加工痕が消えず、図4(高輝度)では検出できた欠陥3個が照明により消えてしまうからである。
【0056】
加工痕のみが存在する画像(キズなしの画像)を用いた場合について説明する。刃具を交換した直後は、刃具の形状により照明の輝度を上げても加工痕が消えない場合がある。図14(a)のようなキズがない良品の画像に対して、2値化処理に用いるしきい値として固定値を用いた場合(実施形態1の場合)、高輝度時でも図14(b)のように加工痕をキズと判定してしまう。一方、2値化処理に用いるしきい値として補正値を用いた場合(実施形態2の場合)、刃具交換により加工痕が発生した場合であっても図14(c)のようにキズ無と判定することができる。
【0057】
加工痕とキズが混在した画像を用いた場合について説明する。図15(a)のような加工痕とキズが混在した原画像に対して、2値化処理に用いるしきい値として固定値を用いた場合(実施形態1の場合)、高輝度時でも図15(b)のように加工痕と傷の判定ができなくなる。一方、2値化処理に用いるしきい値として補正値を用いた場合(実施形態2の場合)、刃具交換により加工痕が発生した場合であっても図15(c)のようにキズのみ検出することが可能である。
【0058】
以上のとおり、実施形態2のように切削面の分散値(あるいは平均値)によりしきい値を補正することによって、照明のバラツキや、刃具交換など極端に計測環境が変化した場合でも正確に判定でき、実施形態1では正確に判定しきれないパターンにも対応することができる。また、しきい値を決定する場合や補正する場合において、照明の経年劣化を考慮するために、照明の使用開始から時間を計測し、LEDや発熱灯の照度の減少をしきい値の決定に反映させることも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置の画像処理部の処理動作を模式的に示したフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置の画像処理部の2値化処理を模式的に示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態1に係る欠陥検査装置によって得られる画像(照明の輝度15のときの画像)であり、(a)は原画像、(b)はフィルタ処理画像、(c)は差分処理画像、(d)は2値化処理画像である。
【図5】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部において用いられるマップ(分散値−しきい値)を模式的に示したグラフである。
【図6】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置における照明の輝度と合計値の関係を説明するためのグラフである。
【図7】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置における照明の輝度と分散値の関係を説明するためのグラフである。
【図8】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置における照明の輝度としきい値(補正値)の関係を説明するためのグラフである。
【図9】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部の処理動作を模式的に示したフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置の画像処理部の2値化処理を模式的に示したフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態2に係る欠陥検査装置によって得られる画像(照明の輝度1のときの画像)であり、(a)は原画像、(b)はフィルタ処理画像、(c)は差分処理画像、(d)は2値化処理画像である。
【図12】比較例に係る欠陥検査装置によって得られる画像(照明の輝度1のときの画像)であり、(a)は原画像、(b)はフィルタ処理画像、(c)は差分処理画像、(d)は2値化処理画像である。
【図13】照明の各輝度についてしきい値として固定値を用いた場合(実施形態1の場合)と補正値を用いた場合(実施形態2の場合)の欠陥検査処理に係るキズの判定個数を比較するための表である。
【図14】刃具交換した直後であってキズなしのサンプルを用いたときの欠陥検査処理を比較するための画像である。
【図15】刃具交換した直後であってキズありのサンプルを用いたときの欠陥検査処理を比較するための画像である。
【符号の説明】
【0060】
1 欠陥検査装置
2 供試体
11 ターンテーブル
12 モータ
13 エンコーダ
14 カメラ
15 照明
16 画像処理部
17 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体の表面欠陥を検査するための欠陥検査装置であって、
前記供試体の表面を撮像して原画像を取得するカメラと、
前記原画像からノイズを除去したフィルタ処理画像を作成するフィルタ処理部と、
前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の情報に基づいて、しきい値を決定するしきい値決定部と、
前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上である場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成する2値化処理部と、
前記2値化処理画像に対して欠陥の有無を判定する判定処理部と、
を備えることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項2】
前記原画像の画素の輝度値から対応する前記フィルタ処理画像の画素の輝度値を減算した差分処理画像を作成する差分処理部を備え、
前記2値化処理部は、前記差分処理画像の画素の輝度値がしきい値以上の場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記差分処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成することを特徴とする請求項1記載の欠陥検査装置。
【請求項3】
前記しきい値決定部は、前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の輝度値から平均値を算出し、前記しきい値を決定することを特徴とする請求項1又は2記載の欠陥検査装置。
【請求項4】
前記しきい値決定部は、前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の輝度値から分散値を演算し、前記しきい値を決定することを特徴とする請求項1又は2記載の欠陥検査装置。
【請求項5】
前記フィルタ処理部は、前記原画像に基づいて注目画素とその周辺画素の輝度値の平均値を算出し、算出した平均値と前記注目画素の輝度値とを入れ替えたフィルタ処理画像を作成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の欠陥検査装置。
【請求項6】
前記フィルタ処理部は、前記原画像に基づいて注目画素とその周辺画素の輝度値の最大値を抽出し、抽出した最大値と前記注目画素の輝度値とを入れ替えたフィルタ処理画像を作成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の欠陥検査装置。
【請求項7】
前記供試体の表面を照明する照明手段を備え、
前記しきい値決定部は、前記照明手段の経年劣化に基づいて前記しきい値を決定することを特徴とする請求項1記載の欠陥検査装置。
【請求項8】
供試体の表面欠陥を検査するための欠陥検査方法であって、
前記供試体の表面を撮像して原画像を取得するステップと、
前記原画像からノイズを除去したフィルタ処理画像を作成するステップと、
前記原画像の画素又は前記フィルタ処理画像の画素の情報に基づいて、しきい値を決定するステップと、
前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上である場合に当該画素の輝度値を1に入れ替えるとともに、前記フィルタ処理画像の画素の輝度値がしきい値以上でない場合に当該画素の輝度値を0に入れ替えた2値化処理画像を作成するステップと、
前記2値化処理画像に対して欠陥の有無を判定するステップと、
を含むことを特徴とする欠陥検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−266780(P2006−266780A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83246(P2005−83246)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】