説明

正孔輸送剤の製造方法及び電子写真感光体の製造方法

【課題】 感光体特性を向上させた正孔輸送剤及び該正孔輸送剤を用いた電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤の製造方法であって、下記(a)工程及び(b)工程を含む正孔輸送剤の製造方法あるいは、さらに下記(c)工程を含む電子写真感光体の製造方法である。
(a)パラジウム触媒を用いて、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)3級アミン化合物を、塩基と接触処理させて、正孔輸送剤とする処理工程
(c)少なくとも上述の工程で得られた正孔輸送剤と、結着樹脂と、電荷発生剤と、を混合して成形することにより、感光体層を備えた電子写真感光体とする工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正孔輸送剤の製造方法及び電子写真感光体の製造方法に関する。特に、正孔輸送剤として用いるアミン化合物を、パラジウム触媒を用いて合成した後に、所定処理を実施することにより、感光体特性を向上させた正孔輸送剤及び該正孔輸送剤を用いた電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3級アリールアミン化合物からなる正孔輸送剤を合成する際に、パラジウム化合物及びトリアルキルホスフィンからなる触媒を用いた製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、パラジウム化合物及びトリアルキルホスフィンからなる触媒と、塩基の存在下に触媒を用いて、1級アミン化合物と、アリールハライドを反応させて、3級アリールアミン化合物を合成する製造方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、パラジウム化合物等の触媒を用いて合成すると、合成原料としての不安定な2級アミン化合物由来の不純物が生成し、それが残留しやすいために、微量であっても感光体の電気特性へ悪影響を及ぼす場合が見られた。すなわち、パラジウム化合物等の触媒を用いたカップリング反応は、パラジウム触媒の活性が非常に高く、原料としての不安定な2級アミン化合物由来の不純物が生成しやすいと考えられている。
【0005】
そこで、得られたアミン化合物としての正孔輸送剤から、原料としての不安定な2級アミン化合物由来の不純物を精製して、感光体用材料として用いることが試みられていた。
【特許文献1】特開平10−310561号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、原料としての不安定な2級アミン化合物由来の不純物を水洗等によって完全に除去することは困難であって、アミン化合物からなる正孔輸送剤が、本来持っている感光体特性を十分に発揮できないという問題が見られた。
【0007】
そこで、本発明者らは、感光体特性に大きく影響する2級アミン化合物由来の不純物を除去する手段として、酸を用いることによって、効率的に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、パラジウム触媒を用いて合成した正孔輸送剤を用いた場合であっても、生成した2級アミン化合物由来の不純物を効率的に除去することによって、感光体特性を向上させ、非常に安定的な画像が提供できる正孔輸送剤の製造方法、及びそのような正孔輸送剤を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体(但し、ハロゲン化アリール誘導体には、ハロゲン化スチルベン誘導体は含まない。以下においても同様である。)とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤の製造方法であって、下記(a)工程及び(b)工程を含むことを特徴とする正孔輸送剤の製造方法が提供され、上述した問題点を解決することができる。
(a)パラジウム触媒を用いて、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させて、正孔輸送剤とする処理工程 すなわち、パラジウム触媒を用いて、3級アミン化合物としての正孔輸送剤を合成した場合であっても、2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、除去することができる。したがって、感光体特性を向上させ、非常に安定的な画像が得られる正孔輸送剤を効率的に得ることができる。
【0010】
なお、カップリング反応を実施するにあたり、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体の両方と、2級アミン化合物と、をカップリング反応させることも好ましい。
【0011】
本発明の正孔輸送剤の製造方法を実施するにあたり、前記塩基として、水酸化ナトリウム、アンモニア、またはピリジンを用いることが好ましい。
【0012】
このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を、さらに十分に反応させて、効率的に除去することができる。
【0013】
本発明の正孔輸送剤の製造方法を実施するにあたり、塩基を、3級アミン化合物100重量部に対して、0.1〜1×106重量部の割合で接触処理させることが好ましい。
【0014】
このように実施することにより、いずれの塩基を用いた場合であっても、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができる。
【0015】
本発明の正孔輸送剤の製造方法を実施するにあたり、塩基を、3級アミン化合物に対して、0〜200℃、0.1〜100時間の条件で接触処理させることが好ましい。
【0016】
このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができる。
【0017】
本発明の正孔輸送剤の製造方法を実施するにあたり、塩基を、3級アミン化合物に対して、pH8〜14の条件下に接触処理させることが好ましい。
【0018】
このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができる。
【0019】
本発明の正孔輸送剤の製造方法を実施するにあたり、3級アミン化合物を有機溶剤に溶解した状態にした後、塩基を接触処理させることが好ましい。
【0020】
このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に酸と反応させて、効率的に除去することができる。
【0021】
本発明の正孔輸送剤の製造方法を実施するにあたり、(a)工程において、塩基の存在下に、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させることが好ましい。
【0022】
このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じるハロゲン化物を塩として回収することができるため、さらに効率的に除去することができる。
【0023】
本発明の別の態様は、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤を用いた電子写真感光体の製造方法であって、下記(a)工程〜(c)工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
(a)パラジウム触媒を用いて、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させる処理工程
(c)少なくとも工程(b)で得られた正孔輸送剤と、結着樹脂と、を混合して成形することにより、感光体層を備えた電子写真感光体とする工程
すなわち、パラジウム触媒を用いて合成した正孔輸送剤を用いた場合であっても、その際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができる。したがって、感光体特性を向上させ、非常に安定的な画像を提供できる電子写真感光体を効率的に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の正孔輸送剤の製造方法及びそれを用いた電子写真感光体の製造方法に関する実施の形態を、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤の製造方法であって、下記(a)工程及び(b)工程を含むことを特徴とする正孔輸送剤の製造方法である。
(a)パラジウム触媒を用いて、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させて、正孔輸送剤とする処理工程
以下、(a)工程と、(b)工程とに分けて、具体的に説明する。
1.(a)工程
(a)工程は、パラジウム触媒を用いて、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、正孔輸送剤としての3級アミン化合物を合成する工程である。下記に、(a)工程の具体例を示す。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
ここで、(a)工程の実施条件は特に制限されるものではないが、2級アミン化合物としては、下記化合物を用いることが好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
すなわち、2級アミン化合物として、アリール基含有2級アミン化合物、アラルキル基含有2級アミン化合物、アルキル置換アリール基含有2級アミン化合物等を用いることが好ましい。
【0035】
また、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体としては、下記化合物を用いることが好ましい。
【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
すなわち、ハロゲン化物として、ハロゲン化アリール化合物、ハロゲン化アラルキル化合物、ハロゲン化アルキル置換アリール化合物、ハロゲン化スチルベン誘導体等を用いることが好ましい。
【0041】
また、パラジウム触媒としては、下記化合物を用いることが好ましい。
【0042】
すなわち、パラジウム(0)/炭素、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリスジベンザルアセトンジパラジウムの一種単独又は二種以上の組み合わせを挙げる事ができる。
【0043】
この中で、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)がより好ましく、酢酸パラジウム(II)が特に好ましい。
【0044】
また、このようなパラジウム触媒は、配位子を含む構造体であっても好ましい。
【0045】
このような配位子としては、トリフェニルホスフィン(PPh3)、メチルジフェニルホスフィン(Ph2Ph3)、トリフリルホスフィン(P(2−furyl)3)、トリ(o−トル)ホスフィン(P(o−tol)3)、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン(PCy3)、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン(PhPCy2)、トリ(t−ブチル)ホスフィン(PtBu3)、2、2´−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1、1´−ビナフチル(BINAP)、2、2´−ビス[(ジフェニルホスフィノ)ジフェニル]エーテル(DPEphos)等が挙げられる。
【0046】
また、このようなパラジウム触媒の使用量を、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体1モルに対して、1×10-6〜10モルの範囲内の値とすることが好ましい。
【0047】
この理由は、このようなパラジウム触媒の使用量であれば、カップリング反応を比較的速くすることができる一方、2級アミン化合物由来の不純物の生成量を少なくすることができるためである。
【0048】
したがって、パラジウム触媒の使用量を、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体1モルに対して、5×10-5〜1×10-1モルの範囲内の値とすることがより好ましく、5×10-5〜1×10-2モルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0049】
また、カップリング反応を実施するに際して、反応温度を0〜200℃、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは40〜130℃の範囲内の値とすることが好ましい。
【0050】
この理由は、このような反応温度であれば、カップリング反応を比較的早くすることができる一方、2級アミン化合物由来の不純物の生成量を少なくすることができるためである。
【0051】
さらに、温度条件にもよるが、反応時間を0.1〜100時間とすることが好ましい。
【0052】
また、カップリング反応を実施するに際して、塩基の存在下に、反応させることが好ましい。
【0053】
この理由は、このような塩基を使用することにより、カップリング反応を早めることができる一方、ハロゲン化物を塩として回収することができるため、遊離ハロゲン化物量を著しく低減することができるためである。
【0054】
なお、このような塩基としては、t−ナトリウムメトキシド、t−カリウムメトキシド、t−ナトリウムエトキシド、t−カリウムエトキシド、t−ナトリウムブトキシド、t−カリウムブトキシド、等が挙げられる。
【0055】
さらに、このような塩基を、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体1モルに対して、0.05〜2モルの範囲内の値とすることが好ましい。
【0056】
また、カップリング反応を実施するに際して、反応系のpHを7〜14の範囲内の値とすることが好ましい。
【0057】
この理由は、このような反応系のpHであれば、カップリング反応を比較的早くすることができる一方、2級アミン化合物由来の不純物の生成量を少なくすることができるためである。
【0058】
したがって、反応温度や反応時間にもよるが、反応系のpHを7.5〜13.5の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0059】
さらに、カップリング反応を実施するに際して、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、ジグライム、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、シクロヘキサン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、ピリジン等の溶媒を使用することが好ましい。
【0060】
また、溶媒として、水を共存させることもできるが、その場合には、水量を、溶媒全体量に対して20重量%以下とすることが好ましい。
2.(b)工程 (b)工程は、(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させて、不純物を除去した3級アミン化合物、すなわち正孔輸送剤とする処理工程である。
(1)塩基の種類
塩基の種類は特に制限されるものではないが、例えば、水に溶けて水酸化物イオンを生じる物質であれば使用可能である。また、広義の塩基、例えば、プロトンを受け取る物質(ブレンステッド塩基)であっても良く、さらには、電子対供与体としての物質(ルイス塩基)であっても良い。
【0061】
したがって、本発明に使用できる塩基として、水酸化ナトリウム、アンモニア、またはピリジンの一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
(2)塩基の接触割合
また、塩基を、正孔輸送剤としての3級アミン化合物100重量部に対して、0.1〜1×106重量部の割合で接触処理させることが好ましく、1〜1×104重量部の割合で接触処理させることがより好ましい。
【0062】
この理由は、このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができるためである。
【0063】
但し、塩基の種類によって、塩基の接触割合を変えることも好ましい。より具体的には、強塩基やルイス塩基、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水、ピリジン等を用いた場合には、正孔輸送剤としての3級アミン化合物100重量部に対して、1〜1×103重量部の割合で接触処理させることが好ましい。また、有機塩基、例えば、アルコキシラート等を用いた場合には、正孔輸送剤としての3級アミン化合物100重量部に対して、10〜1×104重量部の割合で接触処理させることが好ましい。
(3)塩基処理条件
また、塩基を、正孔輸送剤としての3級アミン化合物に対して接触処理させる温度範囲としては、0〜200℃が好ましく、より好ましくは10〜150℃、さらに好ましくは30〜120℃である。また、接触処理させる処理時間は0.1〜100時間の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜50時間、さらに好ましくは2〜24時間である。
【0064】
この理由は、このように接触処理工程を実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができるためである。
【0065】
また、塩基を、正孔輸送剤としての3級アミン化合物に対して、pH1〜6.5の条件下に接触処理させることが好ましく、pH2〜6がより好ましく、pH2.5〜5.5の条件下に接触処理させることがさらに好ましい。
【0066】
この理由は、このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができるためである。
【0067】
さらに、正孔輸送剤としての3級アミン化合物を有機溶剤に溶解した状態にした後、塩基を接触処理させることが好ましい。
【0068】
この理由は、このように実施することにより、パラジウム触媒を用いて合成した際に生じる2級アミン化合物由来の不純物を十分に反応させて、効率的に除去することができるためである。
【0069】
なお、好ましい有機溶剤としては、芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族ハロゲン溶剤、脂肪族ハロゲン溶剤、その他の汎用溶剤が挙げられる。より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、トルエン、キシレン、テトラリン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフラン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
3.その他
上述した(a)工程及び(b)工程以外に、塩基処理した3級アミン化合物を精製する工程を含むことが好ましい。すなわち、(b)工程において塩基処理した後に、中和処理、水洗処理、晶析処理等を実施することが好ましい。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤を用いた電子写真感光体の製造方法であって、下記(a)工程〜(c)工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
(a)パラジウム触媒を用いて、2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させる処理工程
(c)少なくとも(b)工程で得られた正孔輸送剤と、結着樹脂と、を混合して成形することにより、感光体層を備えた電子写真感光体とする工程
1.(a)工程及び(b)工程
第1の実施形態と実質的に同様であることから、ここでの説明は省略するものとする。
2.(c)工程
2−(1)電子写真感光体の基本的構成
結着樹脂と、正孔輸送剤と、電荷発生剤と、を含む感光体層を備えた電子写真感光体である。
【0070】
そして、結着樹脂として、ビスフェノールZ型、ビスフェノールZC型、ビスフェノールC型、ビスフェノールA型等のポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート、ウレタン−アクリレート等の樹脂が使用可能である。
【0071】
また、電荷発生剤等を分散させるための結着樹脂としては、特に、ポリカーボネートを使用することが好ましい。
【0072】
このようなポリカーボネート樹脂の具体例として、例えば、下記式(13)〜(15)で示される化合物(Resin−A〜C)が挙げられる。
【0073】
なお、式(15)で表される化合物は、記号*で表される箇所で結合しており、共重合体であることを示している。
【0074】
【化13】

【0075】
【化14】

【0076】
【化15】

【0077】
ここで、電子写真感光体には、単層型と積層型とがあるが、本発明の電子写真感光体は、いずれにも適用可能である。
【0078】
ただし、特に正負いずれの帯電性にも使用できること、構造が簡単で製造が容易であること、感光体層を形成する際の被膜欠陥を抑制できることから、層間の界面が少なく、光学的特性を向上できること等の理由から、単層型に適用することがより好ましい。
2−(2)単層型感光体
図1(a)に示すように、単層型感光体10は、導電性基体12上に単一の感光体層14を設けたものである。
【0079】
この感光体層は、例えば、ポリカーボネート樹脂を含んだ結着樹脂と、正孔輸送剤と、電荷発生剤と、さらに必要に応じて電子輸送剤、レベリング剤等を適当な溶媒に溶解または分散させ、得られた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。かかる単層型感光体は、単独の構成で正負いずれの帯電型にも適用可能であるとともに、層構成が簡単であって、生産性に優れているという特徴がある。
【0080】
また、単層型感光体の感光体層に、電子輸送剤を含有させる場合には、電荷発生剤と正孔輸送剤との電子の授受が効率よく行われるようになり、感度等がより安定化する傾向が見られる。
【0081】
また、正孔輸送剤の種類としては特に制限されるものでなく、従来公知の正孔輸送剤を使用することができる。かかる正孔輸送剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物や、縮合多環式化合物が挙げられる。
【0082】
ここで、正孔輸送剤の具体例として、下記式(3)、(6)、(9)、(12)及び(16)〜(18)で表されるスチルベン誘導体(HTM−1〜7)が挙げられる。
【0083】
【化16】

【0084】
【化17】

【0085】
【化18】

【0086】
【化19】

【0087】
【化20】

【0088】
【化21】

【0089】
【化22】

【0090】
また、正孔輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、10〜80重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0091】
この理由は、かかる正孔輸送剤の添加量が10重量部未満の値になると、感度が低下して、実用上の弊害が生じる場合があるためである。一方、かかる正孔輸送剤の添加量が80重量部を超えた値になると、正孔輸送剤が結晶化しやすくなり、感光体として適正な膜が形成されない場合があるためである。
【0092】
したがって、かかる正孔輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、30〜70重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0093】
また、本発明の電子写真感光体の電子輸送剤としては、従来公知の電子輸送剤を単独使用したり、併用したりすることができる。かかる電子輸送剤の種類としては、ジフェノキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体のほか、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等の電子受容性を有する種々の化合物が挙げられ、1種単独または2種以上をブレンドして使用することが好ましい。
【0094】
ここで、電子輸送剤の具体例として、下記式(19)〜(28)で表されるジフェノキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、及びアゾキノン誘導体(ETM−1〜10)等が挙げられる。
【0095】
【化23】

【0096】
【化24】

【0097】
【化25】

【0098】
【化26】

【0099】
【化27】

【0100】
【化28】

【0101】
【化29】

【0102】
【化30】

【0103】
【化31】

【0104】
【化32】

【0105】
また、電子輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、10〜100重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0106】
この理由は、電子輸送剤の添加量が10重量部未満の値になると、感度が低下して、実用上の弊害が生じる場合があるためである。一方、かかる複数の電子輸送剤の添加量が100重量部を超えた値になると、電子輸送剤が結晶化しやすくなり、感光体として適正な膜が形成されない場合があるためである。
【0107】
したがって、電子輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して20〜80重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0108】
また、本発明の電子写真感光体に使用される電荷発生剤としては、無金属フタロシアニン(τ型またはx型)、チタニルフタロシアニン(α型またはY型)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)、およびクロロガリウムフタロシアニン(II型)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましい。
【0109】
この理由は、電荷発生剤の種類を特定することにより、正孔輸送剤および電子輸送剤を併用した場合に、感度特性、電気特性および安定性等がより優れた電子写真感光体を提供することができるためである。
【0110】
ここで、電荷発生剤の具体例として、下記式(29)〜(32)で表されるフタロシアニン系顔料(CGM−A〜CGM−D)が挙げられる。
【0111】
【化33】

【0112】
【化34】

【0113】
【化35】

【0114】
【化36】

【0115】
また、従来公知の電荷発生剤を使用することも好ましい。かかる電荷発生剤の種類としては、オキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、ジオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、ピリリウム顔料、アンサンスロン顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料といった有機光導電体や、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコンといった無機光導電剤料等の一種単独または二種以上の混合物が挙げられる。
【0116】
また、電荷発生剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、0.2〜40重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0117】
この理由は、かかる複数の電荷発生剤の添加量が0.2重量部未満の値になると、量子収率を高める効果が不十分となり、電子写真感光体の感度、電気特性、安定性等を向上させることができなくなるためである。一方、かかる複数の電荷発生剤の添加量が40重量部を超えた値になると、赤色および赤外ないし近赤外領域に吸収波長を有する光に対する吸光係数が低下して、感光体の感度、電気特性、安定性等がそれに伴い低下する場合があるためである。
【0118】
したがって、電荷発生剤の添加量を0.5〜20重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0119】
また、感光体層には、上記各成分のほかに、従来公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光体層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0120】
また、単層型感光体における感光体層の厚さは、通常、5〜100μmの範囲内の値が好ましい。この理由は、感光層の厚さが5μm未満であると、耐久性に悪く長時間使用することができないという問題が生じるためである。また、感光層の厚さが100μmを超えると耐久性に優れるものの、感度特性が低下するという問題が生じるためである。したがって、より好ましくは10〜50μmの範囲内の値である。
【0121】
そして、このような感光体層が形成される導電性基体としては、導電性を有する種々の材料を使用することができ、例えば鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属や、これらの金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料、カーボンブラック等の導電性微粒子が分散されてなるプラスッチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で被覆されたガラス等があげられる。
【0122】
また、導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状、ドラム状等のいずれであってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有していればよい。また、導電性基体は、使用に際して十分な機械的強度を有するものが好ましい。感光体層を塗布の方法により形成する場合には、例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を適当な溶剤とともに、公知の方法、例えばロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機等を用いて分散混合して分散液を調整し、これを公知の手段により塗布して乾燥させればよい。
【0123】
また、単層型感光体に、図1(b)に示すように、導電性基体12と感光体層14との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層16が形成されている単層型10´でもよい。また、図1(c)に示すように、感光体層14の表面に、保護層18が形成されている単層型10´´でもよい。
【0124】
また、単層型感光体を作成するにあたり、分散液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル,ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル類;アセ
トン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独1種または2種以上を混合して用いられる。
【0125】
さらに、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光体層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
3−(3)積層型感光体
図2(a)に示すように、積層型感光体20は、導電性基体12上に、蒸着または塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層24を形成し、次いでこの電荷発生層24上に、正孔輸送剤等の少なくとも1種と結着樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥させて電荷輸送層22を形成することによって作製される。
【0126】
また、上記構造とは逆に、図2(b)に示すように、導電性基体12上に電荷輸送層22を形成し、その上に電荷発生層24を形成する積層型20´でもよい。
【0127】
ただし、電荷発生層24は、電荷輸送層22に比べて膜厚がごく薄いため、その保護のためには、図2(a)に示すように、電荷発生層24の上に電荷輸送層22を形成することがより好ましい。
【0128】
なお、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、結着剤等については、単層型感光体と基本的に同様の内容とすることができる。ただし、積層型感光体の場合、電荷発生剤の添加量については、電荷発生層を構成する結着樹脂100重量部に対して、5〜500重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0129】
また、積層型感光体は、上記電荷発生層および電荷輸送層の形成順序と、電荷輸送層に使用する電荷輸送剤の種類によって、正負いずれの帯電型となるかが選択される。例えば、導電性基体上に電荷発生層を形成し、その上に電荷輸送層を形成した場合において、電荷輸送層における電荷輸送剤として、スチルベン誘導体のような正孔輸送剤を使用した場合には、感光体は負帯電型となる。この場合、電荷発生層には電子輸送剤を含有させてもよい。そして、積層型の電子写真感光体であれば、感光体の残留電位が大きく低下しており、感度を向上させることができる。
【0130】
なお、積層型感光体における感光体層の厚さに関しては、電荷発生層が0.01〜5μm程度、好ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が2〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。
【実施例】
【0131】
[実施例1]
1.3級アミン化合物の合成
式(3)で表される3級アミン化合物(HTM−1)の合成手順を下記に示すが、上述した反応式(1)に沿って実施した。
【0132】
すなわち、容器内に収容した0.5リットルのキシレン対して、式(1)で表されるハロゲン化スチルベン誘導体を20gと、式(2)で表される2級アミン化合物17gと、を加え、それにパラジウム触媒としての酢酸パラジウムを0.05gとt-ブトキシナト
リウム10gを加えて、100℃、6時間の条件でカップリング反応を行なった。その結果、式(3)で表される3級アミン化合物を26g得た(収率89%)。
2.塩基処理
次いで、得られた3級アミン化合物を含む溶液に対し、上記合成反応における3級アミン化合物の理論収量の0.1当量のシリカと白土を加えた後、ろ過処理を実施した。
【0133】
次いで、得られたろ液に対して、ろ液の溶媒であるキシレンの2倍量のメタノールを加え、3級アミン化合物を晶析させた。
【0134】
次いで、容器内に、トルエン50gと、ピリジン10gとを収容した後、晶析によって得られた3級アミン化合物の結晶を10g加え、室温で30分間攪拌した。攪拌後、水洗、脱水処理を行ない、トルエン/メタノールを用いて晶析洗浄を2回繰り返し、正孔輸送剤としての式(3)で表される3級アミン化合物(HTM−1)を得た。
【0135】
なお、塩基処理が終了した段階の3級アミン化合物の液体クロマトグラフィーを図3及び図4に示す。
3.感光体の作成
結着樹脂としての式(13)で表されるポリカーボネート100重量部に対して、得られた正孔輸送剤としての式(3)で表される3級アミン化合物(HTM−1)60重量部と、電荷発生剤としての式(29)で表されるX型無金属フタロシアニン5重量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン800重量部とを添加した後、ボールミルを用いて、50時間混合分散させて、単層感光層用の塗布液を作成した。
【0136】
次いで、この塗布液を導電性基材としてのアルミニウム素管上にデップコート法にて塗布し、100℃、30分間の条件で熱風乾燥し、膜厚25μmの単層型感光体を作成した。
4.感光体の電気特性評価
(1)残留電位
得られた単層型感光体における残留電位を測定した。すなわち、ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、約+700Vになるように帯電させ、次いで、ハロゲンランプの光からバンドパスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅20nm、光強度1.5μJ/m2)を0.5秒間照射して、露光した。そして、この時点での感光体の表面電位を、残留電位Vr(V)として測定した。得られた結果を表1に示す。
[実施例2〜4]
実施例2〜4では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、実施例1と同様に感光体を作成して、評価した。
[実施例5]
実施例5では、実施例1で合成された3級アミン化合物(HTM−1)のかわりに、式(6)で表される3級アミン化合物(HTM−2)を合成して用いたほかは、実施例1と同様に正孔輸送剤としての3級アミン化合物を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
【0137】
すなわち、容器内に収容した0.3リットルのキシレン対して、式(4)で表されるハロゲン化スチルベン誘導体を12gと、式(5)で表される2級アミン化合物11gと、を加え、それにパラジウム触媒としての酢酸パラジウムを0.06gとt-ブトキシナトリウム5gを加えて、100℃、6時間の条件でカップリング反応を行なった。
【0138】
その結果、式(6)で表される3級アミン化合物を19g得た(収率90%)。
[実施例6〜8]
実施例6〜8では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、実施例5と同様に感光体を作成して、評価した。
[実施例9]
実施例9では、実施例1で合成された3級アミン化合物(HTM−1)のかわりに、式(9)で表される3級アミン化合物(HTM−3)を合成して用いたほかは、実施例1と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
【0139】
すなわち、容器内に収容した0.3リットルのキシレン対して、式(7)で表されるハロゲン化アリール誘導体を5.6gと、式(8)で表される2級アミン化合物14.9gと、を加え、それにパラジウム触媒としての酢酸パラジウムを0.06とt-ブトキシナトリウム5gを加えて、100℃、6時間の条件でカップリング反応を行なった。
【0140】
その結果、式(9)で表される3級アミン化合物を17g得た(収率90%)。
[実施例10〜12]
実施例10〜12では、電子輸送剤として以下に示す式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、実施例9と同様に感光体を作成して、評価した。
[実施例13]
実施例13では、実施例1で合成された3級アミン化合物(HTM−1)のかわりに、式(12)で表される3級アミン化合物(HTM−4)を合成して用いたほかは、実施例1と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
【0141】
すなわち、容器内に収容した0.3リットルのキシレン対して、式(10)で表されるハロゲン化アリール誘導体を14.04gと、式(11)で表される2級アミン化合物29.15gと、を加え、それにパラジウム触媒としての酢酸パラジウムを0.06とt-ブトキシナトリウム5gを加えて、100℃、6時間の条件でカップリング反応を行なった。
【0142】
その結果、式(12)で表される3級アミン化合物を31.1g得た(収率89%)。
【0143】
また、塩基処理前後における残留不純物量の評価をそれぞれ液体クロマトグラフィーを使用して行なった。
【0144】
その結果、塩基処理前の不純物濃度は250ppmであり、塩基処理後の不純物の濃度は50ppmであった。また、不純物の分子量は624であった。
【0145】
なお、液体クロマトグラフィーによる測定条件は以下に示す通りである。
【0146】
すなわち、液体クロマトグラフィーにおける計測器としては日立 L−2000を使用し、カラムとしてはZOREX SB−C18を使用し、キャリアとしてはアセトニトリルを使用した。
【0147】
また、液体クロマトグラフィーにおけるキャリアの流速を1ミリリットル/分とし、カラム温度を40℃とした。
[実施例14〜16]
実施例14〜16では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、実施例13と同様に感光体を作成して、評価した。
【0148】
なお、実施例14〜16においても実施例13と同様に、塩基処理前後における残留不純物量の評価をそれぞれ液体クロマトグラフィーを使用して行なった。
【0149】
その結果、酸処理前の不純物濃度は250ppmであり、塩基処理後の不純物の濃度は50〜100ppmの範囲内であった。
[実施例17〜22]
実施例17〜22では、実施例13における塩基処理で使用したピリジンの替わりに、濃度20%の水酸化ナトリウム水溶液10g(実施例17〜20)、濃度28%のアンモニア水溶液10g(実施例21〜24)をそれぞれ使用したこと以外は、実施例1〜4と同様に感光体を作成して評価した。
【0150】
なお、実施例17〜24においても実施例13と同様に、塩基処理前後における残留不純物量の評価をそれぞれ液体クロマトグラフィーを使用して行なった。
【0151】
その結果、酸処理前の不純物濃度は250ppmであり、塩基処理後の不純物の濃度は50〜100ppmの範囲内であった。
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物の合成を行なった後に、塩基処理を行なわなかったほかは、実施例1と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−1´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
[比較例2〜4]
比較例2〜4では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、比較例1と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
[比較例5]
比較例5では、実施例5と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物の合成を行なった後に、塩基処理を行なわなかったほかは、実施例5と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−2´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
[比較例6〜8]
比較例6〜8では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、比較例5と同様に正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−2´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
[比較例9]
比較例9では、実施例9と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物の合成を行なった後に、塩基処理を行なわなかったほかは、実施例9と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−3´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
[比較例10〜12]
比較例10〜12では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、比較例9と同様に正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−3´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
【0152】
[比較例13]
比較例13では、実施例13と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物の合成を行なった後に、酸処理を行なわなかったほかは、実施例13と同様に、正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−4´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
[比較例14〜16]
比較例14〜16では、電子輸送剤として式(19)〜(21)で表される化合物(ETM−1〜ETM−3)をそれぞれ添加したほかは、比較例13と同様に正孔輸送剤としての3級アミン化合物(HTM−4´)を合成するとともに、感光体を作成して評価した。
【0153】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0154】
以上、詳述したように、本発明によれば、正孔輸送剤として用いるアミン化合物を、パラジウム触媒を用いて合成した後に、所定の塩基処理を実施することにより、感光体特性を向上させることができるようになった。
【0155】
したがって、本発明により得られた正孔輸送剤を含む電子写真感光体によれば、複写機やプリンタ等の各種画像形成装置における高速化、高性能化、低コスト化等に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】(a)〜(c)は、単層型感光体の基本構造および変形構造を説明するために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、積層型感光体の基本構造および変形構造を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0157】
10 :単層型感光体
10´ :単層型感光体
10´´:単層型感光体
12 :導電性基体
14 :感光体層
16 :バリア層
18 :保護層
20 :積層型感光体
20´ :積層型感光体
22 :電荷輸送層
24 :電荷発生層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤の製造方法であって、下記(a)工程及び(b)工程を含むことを特徴とする正孔輸送剤の製造方法。
(a)パラジウム触媒を用いて、前記2級アミン化合物と、前記ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)前記(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させて、正孔輸送剤とする処理工程
【請求項2】
前記塩基として、水酸化ナトリウム、アンモニア、またはピリジンを用いることを特徴とする請求項1に記載の正孔輸送剤の製造方法。
【請求項3】
前記塩基を、前記3級アミン化合物100重量部に対して、0.1〜1×106重量部の範囲で接触処理させることを特徴とする請求項1〜2に記載の正孔輸送剤の製造方法。
【請求項4】
前記塩基を、前記3級アミン化合物に対して、0〜200℃、0.1〜100時間の条件で接触処理させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の正孔輸送剤の製造方法。
【請求項5】
前記塩基を、前記3級アミン化合物に対して、pH8〜14の条件下に接触処理させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の正孔輸送剤の製造方法。
【請求項6】
前記3級アミン化合物を有機溶剤に溶解した状態にした後、前記塩基を接触処理させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の正孔輸送剤の製造方法。
【請求項7】
前記(a)工程において、塩基の存在下に、前記2級アミン化合物と、前記ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の正孔輸送剤の製造方法。
【請求項8】
2級アミン化合物と、ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とのカップリング反応によって合成される3級アミン化合物から成る正孔輸送剤を用いた電子写真感光体の製造方法であって、下記(a)工程〜(c)工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
(a)パラジウム触媒を用いて、前記2級アミン化合物と、前記ハロゲン化スチルベン誘導体もしくはハロゲン化アリール誘導体とをカップリング反応させて、3級アミン化合物を合成する工程
(b)前記(a)工程で得られた3級アミン化合物を、塩基と接触処理させる処理工程
(c)少なくとも前記(b)工程で得られた正孔輸送剤と、結着樹脂と、を混合して成形することにより、感光体層を備えた電子写真感光体とする工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−347977(P2006−347977A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177535(P2005−177535)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】