説明

正極、および全固体型非水電解質電池

【課題】放電容量が高く、サイクル特性に優れる全固体型非水電解質電池、およびこの全固体型非水電解質電池に利用される正極を提供する。
【解決手段】正極1、負極2、及びこれら電極1,2の間に介在される固体電解質層3を備える全固体型非水電解質電池100である。正極1は、第一活物質粉末と第二活物質粉末と導電助剤粉末とを含む非焼結体からなる正極活物質層12を備える。第一活物質粉末は、放電時に膨張し、充電時に収縮する。逆に、第二活物質粉末は、放電時に収縮し、充電時に膨張する。また、正極活物質層12における導電助剤粉末の含有量は、1〜5質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極とこれら電極の間に介在される固体電解質層とを備える全固体型非水電解質電池、およびこの全固体型非水電解質電池に使用される正極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池反応にリチウムイオンを利用した非水電解質電池は、正極と負極とこれら電極の間に介在される電解質層とを備える。各電極は、活物質を含有する活物質層と集電機能を有する集電体とを備える。この非水電解質電池は、充放電時に、正極活物質層と負極活物質層との間でLiイオンの授受を行うので、これら活物質層が膨張・収縮を繰り返すことになる。電極が膨張と収縮を繰り返すと、活物質層が集電体から剥離するなどの不具合が生じる。特に、このような不具合は、負極よりも一般的に厚さの大きな正極において顕著であり、対策を講じることが望まれていた。
【0003】
上記問題点の対策として、例えば、特許文献1や2では、非水電解液を用いた非水電解質電池の正極活物質層に二種類の活物質を含有させている。具体的には、充電時に結晶構造が膨張する正極活物質と、充電時に結晶構造が収縮する正極活物質とで正極活物質層を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−82131号公報
【特許文献2】特開平8−50895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献に記載の技術では、活物質層自体の体積変化を抑えることでサイクル特性が改善されるものの、正極活物質の利用率が低く、放電容量が小さい非水電解質電池しかできなかった。それは、活物質層中に膨張する活物質と収縮する活物質が混合されていると、電池の充放電に伴って活物質同士の接触、もしくは結合が不十分になって、活物質の利用率が低下するからであると推察される。また、特許文献2では、電池の充放電を行なっても活物質同士の接触、もしくは結合が維持され易いように焼結しているが、焼結したことにより二種類の活物質間の界面で相互拡散が生じ、活物質の利用率が低下する。
【0006】
ここで、近年では、非水電解液を用いた非水電解質電池における電解液の沸騰や液漏れなどの問題を解決するために、電解質層を固体とした全固体型非水電解質電池も提案されている。本発明者らの検討の結果、この全固体型非水電解質電池において、二種類の活物質を含有する正極活物質層を適用した場合、上記正極活物質の利用率が低下する問題がより顕著になることが明らかになった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、放電容量が高く、サイクル特性に優れる全固体型非水電解質電池、およびこの全固体型非水電解質電池に利用される正極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、正極、負極、及びこれら電極の間に介在される固体電解質層を備える全固体型非水電解質電池に使用される正極であって、第一活物質粉末と第二活物質粉末と導電助剤粉末とを含む非焼結体からなる正極活物質層を備える。第一活物質粉末は、放電時に膨張し、充電時に収縮する。逆に、第二活物質粉末は、放電時に収縮し、充電時に膨張する。また、正極活物質層における導電助剤粉末の含有量は、1〜5質量%である。
【0009】
正極活物質層における導電助剤粉末の含有量(質量%)を限定することで、放電容量が高く、かつその放電容量が電池の充放電に伴って低下し難いサイクル特性に優れる全固体型非水電解質電池とすることができる。電池の放電容量が高くなるのは、導電助剤粉末の含有量を限定することで、導電助剤粉末が、正極活物質層における正極活物質間の導通を良好にできる粒径分布になっているからではないかと推察される。また、電池のサイクル特性が優れているのは、丁度良い粒径分布の導電助剤粉末が、充放電に伴って体積変化する正極活物質間の導通を良好に維持するからであると推察される。
【0010】
(2)本発明正極の一形態として、前記第一活物質粉末はスピネル型結晶構造の正極活物質、前記第二活物質粉末は層状岩塩型結晶構造の正極活物質であることが挙げられる。
【0011】
スピネル型結晶構造の正極活物質は、放電時に膨張し充電時に収縮する傾向にあり、第一活物質粉末として好適である。また、層状岩塩型結晶構造の正極活物質は、放電時に収縮し充電時に膨張する傾向にあり、第二活物質粉末として好適である。
【0012】
(3)本発明正極の一形態として、前記スピネル型結晶構造の第一活物質粉末は、Li、Ni、およびMnを含有し、前記層状岩塩型結晶構造の第二活物質粉末は、Li、およびCoを含有することが好ましい。
【0013】
上記元素を含有する活物質とすることで、電池の放電容量を向上させることができる。代表的な第一活物質粉末として、LiNi0.5Mn1.5などを挙げることができる。また、代表的な第二活物質粉末として、LiCoOなどを挙げることができる。
【0014】
(4)本発明正極の一形態として、前記第一活物質粉末と第二活物質粉末との比率は、体積%で1:2〜2:1であることが好ましい。
【0015】
正極活物質層における第一活物質粉末が第二活物質粉末に比べて顕著に多くなる、あるいはその逆となると、充放電に伴う正極活物質層の体積変化を抑制する効果を得られ難くなる。これに対して、両活物質の混合比が上記範囲にあると、上記効果を十分に得ることができる。
【0016】
(5)本発明全固体型非水電解質電池は、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の本発明正極と、負極活物質層を有する負極と、これら電極の間に介在される固体電解質層と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明正極を備える本発明全固体型非水電解質電池は、優れた放電容量を備え、かつサイクル特性にも優れるため、種々の用途に利用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明正極を使用して全固体型非水電解質電池を作製すると、充放電に伴う正極活物質層全体の膨張・収縮が抑制され、かつ、正極活物質層における各活物質間の導通が良好に維持されるので、放電容量が高く、サイクル特性に優れる全固体型非水電解質電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る非水電解質電池の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
【0021】
<全体構成>
図1は、本発明全固体型非水電解質電池の一例を示す概略図である。全固体型非水電解質電池100は、正極1、固体電解質層(SE層)3、および負極2を備える。正極1はさらに正極集電体11と正極活物質層12を、負極2はさらに負極集電体21と負極活物質層22とを備える。この電池100の最も特徴とするところは、正極1の正極活物質層12において、二種類の正極活物質粉末と導電助剤粉末とが含まれ、かつ当該正極活物質層12における導電助剤粉末の含有量が限定されていることにある。以下、電池100に備わる各構成について詳細に説明する。
【0022】
≪正極≫
(正極集電体)
正極集電体11は、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていても良い。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、AlやNi、これらの合金、ステンレスから選択される1種を好適に利用することができる。
【0023】
(正極活物質層)
正極活物質層12には、種類の異なる第一活物質粉末と第二活物質粉末とが含まれる。第一活物質粉末は、放電時に膨張し、充電時に収縮する正極活物質の粉末である。第一活物質粉末としては、スピネル型結晶構造を有する正極活物質、例えば、LiとMnを含有するもの(LiMnなど)や、Li、Ni、およびMnを含有するもの(LiNi0.5Mn1.5など)を挙げることができる。特に、後者の正極活物質は、電池100の放電容量を向上させる点で好ましい。なお、上記組成式における元素の一部が他の元素に置換されていても良いし、Li欠損やO欠損があっても良い。
【0024】
第二活物質粉末は、放電時に収縮し、充電時に膨張する正極活物質の粉末である。第二活物質粉末としては、層状岩塩型結晶構造を有する正極活物質、例えば、LiとNiを含有するもの(LiNiOなど)や、LiとMnを含有するもの(LiMnOなど)、LiとCoを含有するもの(LiCoOなど)を挙げることができる。特に、LiとCoを含有する物が、電池100の放電容量を向上させる点で好ましい。なお、上記組成式における元素の一部が他の元素に置換されていても良いし、Li欠損やO欠損があっても良い。
【0025】
上記第一活物質粉末と第二活物質粉末の比率は、体積%で1:2〜2:1とすることが好ましい。このような比率とすることで、正極活物質層12の体積変化を効果的に抑制することができる。
【0026】
また、上記正極活物質層12には、導電助剤粉末が含有されている。正極活物質層12における導電助剤粉末の含有量は、1〜5質量%とする。導電助剤粉末の材質としては、カーボンブラックやアセチレンブラックなどの炭素系材料を利用できる。
【0027】
その他、正極活物質層12は、固体電解質粉末やバインダーを含有していても良い。固体電解質粉末は、正極活物質層12におけるLiイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質には、後述するSE層3に用いることができる固体電解質と同じものを利用できる。正極活物質層12に用いる固体電解質は、SE層3に用いるものと異なっていても良いが、同じとすることが好ましい。また、バインダーは、粉体を圧縮して正極活物質層12を形成したときに、正極活物質層12を構成する粉体同士を結合するためのものであり、例えばポリフッ化ビニリデンなどを利用することができる。
【0028】
≪SE層≫
SE層3は、例えばLiPONなどの酸化物固体電解質や、LiSとPとを含む硫化物系固体電解質(必要に応じてPを含有させても良い)のアモルファス膜あるいは多結晶膜などで構成することができる。このSE層3の形成には、固相法や気相法を利用できる。
【0029】
≪負極≫
(負極集電体)
負極集電体21は、正極集電体11と同様に、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料を形成したもので構成されていても良い。導電材料としては、CuやNi、Fe、Cr、及びこれらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。
【0030】
(負極活物質層)
負極活物質層22は、例えば、金属Liや金属Liと合金を形成することのできる化合物などで構成することができる。後者の例としてチタン酸リチウム(LiTi12や、LiTiOなど)などを挙げることができる。なお、金属Liからなる負極活物質層22は、負極集電体21を兼ねることができ、その場合、上記負極集電体21は省略することができる。
【0031】
負極活物質層22には、正極活物質層12と同様に、固体電解質粉末や、導電助剤粉末、バインダーなどを含有させても良い。
【0032】
≪その他≫
正極活物質層12が酸化物の活物質を含み、SE層3が硫化物の固体電解質を含む場合、両層12,3の界面近傍に空乏層が形成され、電池100の特性を低下させることがある。その対策として、これら両層12,3の間に空乏層の形成を抑制するための中間層(図示せず)を形成することが好ましい。中間層の材料としては、例えば、LiTaOや、LiNbOなどを挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下に説明する試料1〜12の全固体型非水電解質電池を作製し、各電池の容量維持率(%)を測定することで各電池のサイクル特性を評価した。容量維持率は、100サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除することにより求めた。充放電条件は、カットオフ電圧3.0−4.2V、電流密度0.05mA/cmであった。
【0034】
<試料1〜4>
試料1〜4の電池は、下記構成を備える。各試料の相違点は、正極活物質層に含まれる導電助剤粉末の含有量のみである。各試料における導電助剤粉末の含有量は表1に示す。なお、表1では、導電助材粉末の含有量を、質量%と体積%の両方で示す。
【0035】
[正極集電体]…ステンレス
[正極活物質層]…体積%で50:50の割合で混合されたLiCoOとLiNi0.5Mn1.5の正極活物質粉末、固体電解質粉末、導電助剤粉末、およびバインダーを含む加圧成形体
全体に占める正極活物質粉末の割合は44体積%、固体電解質粉末の割合は47体積%
[SE層]…硫化物固体電解質からなる蒸着膜
[負極活物質層]…チタン酸リチウム(LiTi12)の負極活物質粉末、固体電解質粉末、導電助剤粉末、およびバインダーを含む加圧成形体
全体に占める負極活物質粉末の割合は45体積%、固体電解質粉末の割合は45体積%
[負極集電体]…ステンレス
【0036】
<試料5〜12>
試料5〜12の電池と、上述した試料1〜4の電池との相違点は、正極活物質層に含有させる正極活物質が1種類であることである。具体的には、試料5〜8の電池では正極活物質としてLiCoOを利用し、試料9〜12の電池では正極活物質としてLiNi0.5Mn1.5を利用した。これら試料5〜12の電池における導電助剤粉末の含有量を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、正極活物質層中に、放電時に膨張し、充電時に収縮するLiNi0.5Mn1.5(第一活物質粉末)と、放電時に収縮し、充電時に膨張するLiCoO(第二活物質粉末)とを含有させることで、100サイクル後に電池の放電容量が低下することを効果的に抑制できることがわかった。さらに、正極活物質層中の導電助剤粉末の含有量を1〜5質量%に調整することで、100サイクル後に電池の放電容量が低下することをほぼ無くすことができることがわかった。特に、導電助材粉末の含有量を3〜5質量%に調節することで、良好な結果となった。
【0039】
なお、本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明正極は、放電容量が高く、サイクル特性に優れた全固体型非水電解質電池の構成部材として好適に利用することができる。また、本発明全固体型非水電解質電池は、携帯機器の電源などに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
100 全固体型非水電解質電池
1 正極
11 正極集電体 12 正極活物質層
2 負極
21 負極集電体 22 負極活物質層
3 固体電解質層(SE層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及びこれら電極の間に介在される固体電解質層を備える全固体型非水電解質電池に使用される正極であって、
放電時に膨張し、充電時に収縮する第一活物質粉末と、
放電時に収縮し、充電時に膨張する第二活物質粉末と、
導電助剤粉末と、を含む非焼結体からなる正極活物質層を備え、
前記正極活物質層における前記導電助剤粉末の含有量は、1〜5質量%であることを特徴とする正極。
【請求項2】
前記第一活物質粉末はスピネル型結晶構造の正極活物質であり、
前記第二活物質粉末は層状岩塩型結晶構造の正極活物質であることを特徴とする請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記スピネル型結晶構造の第一活物質粉末は、Li、Ni、およびMnを含有し、
前記層状岩塩型結晶構造の第二活物質粉末は、Li、およびCoを含有することを特徴とする請求項2に記載の正極。
【請求項4】
前記第一活物質粉末と第二活物質粉末との比率は、体積%で1:2〜2:1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の正極と、
負極活物質層を有する負極と、
これら電極の間に介在される固体電解質層と、
を備えることを特徴とする全固体型非水電解質電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−248454(P2012−248454A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120159(P2011−120159)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】