説明

正立化部材および光学装置

【課題】正立化部材による着色現象を改善した正立化部材を提供する。
【解決手段】物体の像を観察するための観察光学系(接眼レンズ6等)に設けられて物体の像を正立像にするペンタダハプリズム5において、ペンタダハプリズム5の上面および前下面に、焦点板4からペンタダハプリズム5の内部に達した光を反射させる複数の反射部材51,52が設けられており、これらの反射部材51,52のうち出射側反射部材52に形成された出射側反射面S2の分光反射特性において、分光反射率がピークとなる光の波長が380nm〜500nmの範囲に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体像を正立像にするための正立化部材およびこれを備えた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の観察光学系は、正立化部材であるプリズムやミラーによる反射を用いて、対物レンズの像を正立像にして観察できるようになっている。近年、観察光学系の観察倍率を高くする要望に応えるため、接眼レンズの焦点距離を短くする傾向がある。観察光学系の中に反射による正立化部材を配置するには、反射部材間の空気換算長を小さくする必要がある。そのため、正立化部材には反射部材間をガラス等で埋めているものがある。最近では、観察倍率をさらに高くするため、ガラスの屈折率を上げることにより空気換算長を小さくして、観察倍率の高倍率化を図っている。
【0003】
ところが、ガラスの屈折率を上げると、高屈折率ガラスの特性上、分光透過率の均一性が乱れるという問題がある。一般に、ガラスの屈折率を上げると、可視域では短波長域の透過率が低下するため、透過光が黄色に着色し、観察光学系の色調が乱れてしまう。このような問題に対し、例えば、多層膜を用いて、上述のような正立化部材による着色現象を改善することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−228057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、正立化部材による着色現象が十分に改善されていなかった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、着色現象を改善した正立化部材およびこれを備えた光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的達成のため、本発明に係る正立化部材は、物体の像を観察するための観察光学系に設けられて前記物体の像を正立像にする正立化部材において、前記正立化部材は、前記物体から入射した光を前記正立像になるように反射させるための第1反射部材および第2反射部材を有し、前記第1反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長が380nm〜500nmの範囲にある。
【0008】
なお、上述の正立化部材において、前記第1反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長と、前記第2反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長とは、互いに異なることが好ましい。
【0009】
また、上述の正立化部材において、前記第2反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長が500nm〜650nmの範囲にあることが好ましい。
【0010】
また、上述の正立化部材において、前記第1反射部材と前記第2反射部材との少なくとも一方が金属蒸着膜を用いて形成されることが好ましい。
【0011】
また、上述の正立化部材において、前記物体から入射した光は、前記第2反射部材で反射されてから前記第1反射部材で反射されることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る光学装置は、物体の像を観察するための観察光学系を備え、前記観察光学系に前記物体の像を正立像にする正立化部材が設けられた光学装置において、前記正立化部材として本発明に係る正立化部材を用いている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、着色の少ない正立化部材およびこれを備えた光学装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】デジタル一眼レフカメラの断面図である。
【図2】ペンタダハプリズムに用いられるガラス材の分光透過率曲線を示すグラフである。
【図3】第2反射部材に形成される反射面の分光反射率曲線を示すグラフである。
【図4】第1反射部材に形成される反射面の分光反射率曲線を示すグラフである。
【図5】第2反射部材のみを用いた場合のペンタダハプリズムの分光透過率曲線を示すグラフである。
【図6】本実施形態におけるペンタダハプリズムの分光透過率曲線を示すグラフである。
【図7】分光反射率曲線の他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願の好ましい実施形態について図を参照しながら説明する。本願に係る正立化部材の一例であるペンタダハプリズム5を備えたデジタル一眼レフカメラCAMが図1に示されている。図1に示すデジタル一眼レフカメラCAMにおいて、不図示の物体(被写体)からの光は、撮影レンズ1で集光されて、クイックリターンミラー3を介して焦点板4上に結像される。焦点板4上に結像された光は、ペンタダハプリズム5中で複数回反射されて接眼レンズ6へと導かれる。これにより、撮影者は、観察光学系であるペンタダハプリズム5および接眼レンズ6を介して物体(被写体)の像を正立像として観察することができる。
【0016】
また、撮影者によって不図示のレリーズボタンが押されると、クイックリターンミラー3が光路外へ退避し、撮影レンズ1で集光された物体(被写体)からの光は、撮像素子7上に結像されて被写体の像を形成する。これにより、物体(被写体)からの光は、撮像素子7上に結像されて当該撮像素子7により撮像され、物体(被写体)の画像として不図示のメモリーに記録される。このようにして、撮影者はデジタル一眼レフカメラCAMによる物体(被写体)の撮影を行うことができる。
【0017】
ペンタダハプリズム5は、高屈折率のガラス材料を用いて形成され、3面の反射面を有する8面体形に形成される。ペンタダハプリズム5の上面(2面)には、焦点板4からペンタダハプリズム5の下面を通って内部に達した光を反射させる入射側反射部材51が設けられ、ペンタダハプリズム5の前下面(1面)には、入射側反射部材51で反射した光をペンタダハプリズム5の内部から外部に向けて後方(ペンタダハプリズム5の後面)へ反射させる出射側反射部材52が設けられている。本実施形態のペンタダハプリズム5で用いるガラス材料のd線に対する屈折率ndは、例えば、nd=1.56である。
【0018】
本実施形態においては、正立化部材(ペンタダハプリズム5)の複数の反射面の各々の
反射特性を変えることにより、高屈折率ガラス材料で構成した正立化部材による着色現象の軽減を図っている。図2に、全長100mm、屈折率nd=1.56の高屈折率ガラス材の分光透過率を示す。図2より、硝路長が長いと500nm以下の短波長域での透過率が急激に低下することが分かる。これが、正立化部材に高屈折材料を用いたときの着色の原因である。特に、硝路長が50mmを超えると、この影響よる着色が容易に観察されるようになる。
【0019】
これを修正するためには2つ方法がある。1つは、他の光学部材において、短波長域の透過率のみを上げることである。この方法は、多層膜等を用いて実現可能だが、膜構成が複雑なため製造が困難であるという短所を有する。もう1つは、短波長域以外の透過率も低下させて、着色を軽減させることである。具体的には、反射部材の分光反射特性において、分光反射率のピークを短波長域にすることにより、正立化部材を透過する透過光の短波長域以外の波長域の透過率を下げるようにすれば、高屈折率ガラスによる着色現象を軽減することができる。本実施形態では、複数の反射部材にそれぞれ形成された複数の反射面のうち少なくとも一つの分光反射率のピークを380nm〜500nmの範囲の短波長域にすることにより、正立化部材で生じる着色現象の軽減を図っている。
【0020】
なお、本実施形態では、分光反射特性の反射ピーク波長が380nm〜500nmの範囲となる第1反射部材に加え、当該第1反射部材と反射ピーク波長が異なる(例えば、分光反射特性の反射ピーク波長が500nm〜650nmの範囲となる)第2反射部材を用いることが好ましい。このようにすれば、同一の反射特性を有する反射面での反射を繰り返すことで、同一の反射特性が透過光の分光特性上で強調されて、正立化部材を透過する光に新たな着色が生じるのを防止することができる。
【0021】
例えば、ペンタダハプリズム5の出射側反射部材52を前述の第1反射部材とし、出射側反射部材52に形成された出射側反射面(出射側反射部材52とペンタダハプリズム5との境界面)S2の分光反射率のピークの波長を380nm〜500nmの範囲とすることが好ましい。また、ペンタダハプリズム5の入射側反射部材51を前述の第2反射部材とし、入射側反射部材51に形成された入射側反射面(入射側反射部材51とペンタダハプリズム5との境界面)S1の分光反射率のピークの波長を500nm〜650nmの範囲とすることが好ましい。このようにすれば、正立化部材を透過する光に新たな着色が生じるのを効果的に防止することができる。なお、分光反射率がピークとなる波長の差は、100nm以上あることが好ましい。
【0022】
また、本実施形態では、第1反射部材と第2反射部材との少なくとも一方が金属蒸着膜を用いて形成されることが好ましい。多層膜でも同様な効果を得ることは可能だが、製造方法が複雑なため、分光反射特性が変わり易く大量生産には向かないことと、偏光特性が強調されるため、透過光に偏光特性があると見えが変化してしまうことが短所である。一方、金属蒸着膜は製造方法が単純なため、分光反射特性の変動が少なく、量産性が高いことと、偏光特性も多層膜より小さいことが長所である。
【0023】
図3は、第2反射部材に形成される反射面の分光反射特性図で、反射率のピークが波長600nmのときにある。なお、第2反射部材は、銀(Ag)の金属蒸着膜である。図4は、第1反射部材に形成される反射面の分光反射特性図で、反射率のピークが波長450nmのときにあり、短波長域に反射ピークを有することがわかる。なお、第1反射部材は、アルミニウム(Al)の金属蒸着膜である。
【0024】
仮に、図2に示す分光透過率を有するガラス材に対し、図3に示す分光反射特性を有した反射面を形成する第2反射部材のみを用いて、3面の反射面を有するペンタダハプリズムを構成した場合、当該ペンタダハプリズムの分光透過率は図5のようになる。図5より
、短波長域の透過率が極端に低下し、ペンタダハプリズムの透過光が着色することが分かる。これに対し、本実施形態では、図2に示す分光透過率を有するガラス材(ペンタダハプリズム5)に対して、図3に示す分光反射特性を有した反射面(2面)を形成する第2反射部材(入射側反射部材51)と、図4に示す分光反射特性を有した反射面(1面)を形成する第1反射部材(出射側反射部材52)を組み合わせて用いることにより、図6に示すような分光透過率を得ることができた。図6を図5と比較すると、400〜700nmの可視域の透過率が均一になっており、ペンタダハプリズムによる着色現象が改善されていることが分かる。このように、本実施形態によれば、着色の少ない正立化部材(ペンタダハプリズム5)および、これを備えた光学装置(デジタル一眼レフカメラCAM)を得ることができる。
【0025】
なお、上述の実施形態において、短波長域の分光反射率のピークが波長450nmのときであるが、これに限られるものではなく、例えば、図7の分光反射特性図で示すように、分光反射率のピークを波長400nmにすることも可能である。なお、このような分光反射特性を有する反射面を形成可能な反射部材は、前述のアルミニウム膜の表面に誘電体膜等の補正膜を付着させたものであり、このような補正膜によって反射率のピークを所望の値にシフトさせることが可能である。
【0026】
また、上述の実施形態において、ペンタダハプリズム5として硝路長が100mmのガラス材を使用しているが、これに限られるものではなく、硝路長が50mm〜150mm程度の範囲であれば、本実施形態による効果が期待できる。また、屈折率nd=1.56のガラス材に限らず、屈折率が1.50以上の高屈折率のガラス材であれば、本実施形態による効果が期待できる。
【0027】
また、上述の実施形態において、正立化部材としてペンタダハプリズム5を備えたデジタル一眼レフカメラCAMを例に説明したが、これに限られるものではなく、例えば、顕微鏡や双眼鏡であってもよく、対物レンズによって結像した物体の像を接眼レンズで観察する観察光学系に設けられた正立化部材であれば、本発明を適用可能である。また、上述の実施形態の変形例として、入射側反射部材51を第1反射部材とし、出射側反射部材52を第2反射部材としても良い。
【符号の説明】
【0028】
CAM デジタル一眼レフカメラ(光学装置)
5 ペンタダハプリズム(正立化部材) 6 接眼レンズ(観察光学系)
51 入射側反射部材(第2反射部材) 52 出射側反射部材(第1反射部材)
S1 入射側反射面 S2 出射側反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の像を観察するための観察光学系に設けられて前記物体の像を正立像にする正立化部材において、
前記正立化部材は、前記物体から入射した光を前記正立像になるように反射させるための第1反射部材および第2反射部材を有し、
前記第1反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長が380nm〜500nmの範囲にあることを特徴とする正立化部材。
【請求項2】
前記第1反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長と、前記第2反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長とは、互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の正立化部材。
【請求項3】
前記第2反射部材の分光反射特性の反射ピーク波長が500nm〜650nmの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の正立化部材。
【請求項4】
前記第1反射部材と前記第2反射部材との少なくとも一方が金属蒸着膜を用いて形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の正立化部材。
【請求項5】
前記物体から入射した光は、前記第2反射部材で反射されてから前記第1反射部材で反射されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の正立化部材。
【請求項6】
物体の像を観察するための観察光学系を備え、前記観察光学系に前記物体の像を正立像にする正立化部材が設けられた光学装置において、
前記正立化部材が請求項1から5のいずれか一項に記載の正立化部材であることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−127984(P2012−127984A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276515(P2010−276515)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】