説明

正立等倍レンズアレイユニットおよび画像読取装置

【課題】正立等倍光学系のレンズに付着する異物の画像への影響を低減化する。
【解決手段】正立等倍レンズアレイユニットは第1のレンズアレイと第2のレンズアレイとを有する。第1のレンズアレイは複数の第1のレンズ20を有する。第2のレンズアレイは複数の第2のレンズ21を有する。第2のレンズ21の光軸を第1のレンズ20の光軸と重ねる。互いに光軸が重なる第1のレンズ20と第2のレンズ21とが単位光学系を形成する。単位光学系は正立等倍光学系である。単位光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックである。物体の第1のレンズ20による結像位置を第1のレンズアレイと第2のレンズアレイとの間に位置付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャナやファクシミリなどの画像読取装置に用いられる正立等倍レンズアレイユニットおよび画像読取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スキャナやファクシミリなどの画像読取装置、またはLEDプリンタなどの画像形成装置には、縮小光学系または正立等倍光学系が用いられる。特に、正立等倍光学系は、縮小光学系を用いる場合に比べて、装置全体の小型化が容易であることに特徴を有する。
【0003】
従来、正立等倍光学系は、セルフォック(登録商標、日本板硝子)やロッドレンズなどの棒状のレンズを、アレイ状に配置するように不透明の黒色樹脂に挿通させることにより形成される。各レンズが正立等倍性を有するので、アレイ状に配置しても正立等倍性は維持される。
【0004】
上述のセルフォックやロッドレンズには、棒の中心から周辺にかけて屈折力を変化させることにより集光性が備えられる。このように通常のレンズに比べて特殊な方法で製造する必要があるので、製造が難しく、また製造コストが高い。そこで、凸面をアレイ状に配置したレンズアレイプレートを用いた正立等倍光学系が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、セルフォックを用いた正立等倍光学系は被写界深度が狭い。スキャナなどの画像読取装置などにおいては、光学系からの距離を一定に保ったカバーガラス上に、画像が読出される物体を載置することにより、画像が読取られる物体と光学系との距離が所望の距離に保たれる。このように物体と光学系との距離を所望の距離に保つことにより狭い被写界深度であってもボケの少ない画像として読取ることが可能である。
【0006】
しかし、読取る物体によっては読取り面がカバーガラスに密着せずに離れることもある。このような場合には、その狭い被写界深度のために読取った画像のボケは大きい。そこで、被写界深度を拡大した正立等倍光学系が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−139911号公報
【特許文献2】特開2010−164974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1および特許文献2の構成においては径の小さなレンズが用いられるため、光学系にゴミなどの異物の混入が撮像される画像に大きな影響を与える恐れがあった。
【0009】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、被写界深度を拡大可能であって、異物の画像に与える影響を低減化可能な正立等倍レンズアレイユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した諸課題を解決すべく、本発明による正立等倍レンズアレイユニットは、
複数の第1のレンズを有し、前記第1のレンズの光軸に垂直な第1の方向に沿って前記複数の第1のレンズが配置される第1のレンズアレイと、
前記第1のレンズそれぞれと光軸が重ねられた複数の第2のレンズを有し、前記第1の方向に沿って前記複数の第2のレンズが配置される第2のレンズアレイと、
互いに光軸が重なる前記第1のレンズと前記第2のレンズとによって形成される各光学系は正立等倍光学系であり、
前記光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックであり、
前記光学系に対して理想的な距離が定められた物体の前記第1のレンズによる結像位置が、前記第1のレンズアレイと前記第2のレンズアレイとの間に位置付けられるように、前記第1のレンズアレイと前記第2のレンズアレイとが連結される ことを特徴とするものである。
【0011】
上述した諸課題を解決すべく、本発明による画像読取装置は、
複数の第1のレンズを有し、前記第1のレンズの光軸に垂直な第1の方向に沿って前記複数の第1のレンズが配置される第1のレンズアレイと、前記第1のレンズそれぞれと光軸が重ねられた複数の第2のレンズを有し、前記第1の方向に沿って前記複数の第2のレンズが配置される第2のレンズアレイと、互いに光軸が重なる前記第1のレンズと前記第2のレンズとによって形成される各光学系は正立等倍光学系であり、前記光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックであり、前記光学系に対して理想的な距離が定められた物体の前記第1のレンズによる結像位置が、前記第1のレンズアレイと前記第2のレンズアレイとの間に位置付けられるように、前記第1のレンズアレイと前記第2のレンズアレイとが連結されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明に係る正立等倍レンズアレイユニットによれば、第1のレンズによる結像位置を第1のレンズアレイと第2のレンズアレイとの間に位置付けられることにより、第1のレンズまたは第2のレンズの相互の対向面に付着するレンズ面に付着するゴミの大きさの光束の太さに閉める割合が減少するので、ゴミなどの画像への影響を低減化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る正立等倍レンズアレイユニットを有する画像読取部の外観を示す斜視図である。
【図2】図1における主走査方向に垂直な平面による画像読取部の断面図である。
【図3】正立等倍レンズアレイユニットの外観を示す斜視図である。
【図4】単位光学系と像面および物体面との位置関係を示す図である。
【図5】単位光学系に対してθの定義を説明するための図である。
【図6】第1のレンズと第2のレンズとの間隔を説明するための単位光学系の部分拡大図である。
【図7】図3における第1の方向に垂直な平面による単位光学系の部分断面図である。
【図8】中間結像位置を考慮せずに形成した単位光学系による中間結像位置を説明するための単位光学系の光路図である。
【図9】本実施形態の単位光学系による中間結像位置を説明するための単位光学系の光路図である。
【図10】従来の正立等倍レンズアレイユニットにおいて理想位置から物体面が変位した場合における像面上の結像位置の変化を説明するための図である。
【図11】重なり度の違いによって像シフト量が変動することを説明するために、被写界深度に対する許容される像シフト量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した正立等倍レンズアレイユニットの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る正立等倍レンズアレイユニットを有する画像読取部の斜視図である。画像読取部10はイメージスキャナ(図示せず)に設けられる。画像読取部10は、画像読取面icsに配置される被写体(図示せず)の画像を主走査方向に沿った直線状に読取可能である。画像読取部10を、主走査方向に垂直な副走査方向に変位させながら、直線状の画像を連続的に読取ることにより、被写体の2次元状の画像が読出される。
【0016】
次に、図2を用いて画像読取部10の構成を説明する。図2は、図1において主走査方向に垂直な平面であって二点鎖線で示した部位の断面を概略的に示す図である。ただし、図1と異なり、カバーガラス11が設けられている。なお、図2の裏面から表面に向かう方向を主走査方向、左から右に向かう方向を副走査方向、および上から下に向かう方向を光軸方向とする。
【0017】
画像読取部10は、カバーガラス11、照明系12、正立等倍レンズアレイユニット13、撮像素子14、および位置規定部材15を含んで構成される。カバーガラス11、照明系12、正立等倍レンズアレイユニット13、および撮像素子14は、位置規定部材15によって、互いの位置および姿勢が以下に説明する状態に維持されるように固定される。
【0018】
位置規定部材15には、孔部16が形成される。孔部16は第1の室部r1と第2の室部r2とを有している。第1の室部r1は第2の室部r2より副走査方向の幅が長くなるように、形成される。
【0019】
孔部16の第1の室部r1側の端に、カバーガラス11が冠着される。第1の室部r1には、照明系12が配置される。なお、照明系12は、光軸方向から見て第2の室部r2に重ならない位置に配置される。照明系12から発する照明光がカバーガラス11の方向に出射するように照明系12は設けられる。すなわち、照明系12を構成する光源(図示せず)や照明光学系(図示せず)の姿勢や位置が定められる。
【0020】
第2の室部r2には、正立等倍レンズアレイユニット13が挿着される。また、孔部16の第2の室部r2側の端に、撮像素子14が固着される。
【0021】
なお、カバーガラス11の平面の法線、正立等倍レンズアレイユニット13に設けられる各光学系(図2において図示せず)の光軸、および撮像素子14の受光面の法線は光軸方向と平行となるように、姿勢が調整される。
【0022】
上述のような構成において、照明系12から発する照明光がカバーガラス11を介して被写体(図示せず)に照射される。被写体による照明光に対する反射光がカバーガラス11を透過する。被写体の反射光が正立等倍レンズアレイユニット13によって撮像素子14の受光面に結像する。結像した光学像が撮像素子14によって撮像され、電気信号である画像信号が生成される。
【0023】
なお、撮像素子14はCCDラインセンサやCMOSラインセンサなどであって、1次元の画像信号を生成する。生成された1次元の画像信号は信号処理回路(図示せず)に送信され、所定の画像処理が施される。画像読取部10を変位させながら生成した複数のフレームの1次元の画像信号を生成することによって2次元状の画像信号が生成される。
【0024】
次に、正立等倍レンズアレイユニット13の詳細な構成を、図3を用いて説明する。正立等倍レンズアレイユニット13は、第1のレンズアレイ17、第2のレンズアレイ18、および連結部19(遮光部)によって構成される。
【0025】
第1のレンズアレイ17には、複数の第1のレンズ20が設けられる。複数の第1のレンズ20は光軸が互いに平行になるように姿勢が定められる。また、第1のレンズ20の光軸に垂直な第1の方向に沿って互いに密着するように、第1のレンズ20は配置される。
【0026】
第2のレンズアレイ18には、複数の第2のレンズ21(図2参照)が設けられる。複数の第2のレンズ21は光軸が互いに平行になるように姿勢が定められる。また、第2のレンズ21の光軸に垂直な方向に沿って並ぶように、第2のレンズ21は配置される。
【0027】
第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18とは、連結部19によって連結される。各第1のレンズ20の光軸と何れかの第2のレンズ21の光軸とが重なるように、第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18との位置が合わせされる。
【0028】
連結部19には、複数の透光孔22(開口)が形成される。透光孔22は各第1のレンズ20から第2のレンズ21に向けて貫通している。なお、連結部19の第1のレンズ20側の面は絞りとして機能し、透光孔22以外の面に入射する光を遮光する。したがって、第1のレンズ20、透光孔22、および第2のレンズ21によって単位光学系23が構成される。
【0029】
各単位光学系23が、正立等倍光学系となるように且つ物体側に実質的にテレセントリックとなるように、第1のレンズ20および第2のレンズ21が設計され、単位光学系23が構成される。なお、実質的にテレセントリックである条件については、後述する。
【0030】
本実施形態においては、第1のレンズ20の第1面および第2のレンズ21の両面が凸面になるように形成することにより、正立等倍性が単位光学系23に設けられる。なお、第1のレンズ20の第2面は凸面、凹面、および平面のいずれであってもよい。
【0031】
さらに、各単位光学系23は、以下の(1)式を満たすように設計され、形成される。
0.5≦y/D≦1.0 (1)
【0032】
なお、図4に示すように、yは単位光学系23の視野半径、すなわち単位光学系23が取込み可能な光の物体面os上の範囲の半径である。なお、単位光学系23から物体面osまでの距離Lは予め定められており、被写体となる原稿が載置されるガラス面と単位光学系23との距離が該定められた距離Lとなるように、イメージスキャナは形成される。また、Dは単位光学系23の直径である。
【0033】
さらに、各単位光学系23は、以下の(2)式を満たすように設計され、形成される。
D/(8×L)<tanθ (2)
【0034】
ただし、Lは単位光学系23から物体面osまでの、予め定められた物体距離である。また、θは、図5に示すように、物体面os上の一点を単位光学系23によって像面isに結像させた微小な光学像fiの重心位置cgを通る光線の単位光学系23への入射角度である。
【0035】
さらに、各単位光学系23が実質的にテレセントリックとなるために、以下の(3)式を満たすように設計され、形成される。
tanθ<δ/Δz (3)
【0036】
ただし、δは単位光学系23に対して予め許容される像シフト量である。なお、像シフト量とは、物体を単位光学系23から被写界深度だけ変位させることによる、像面の任意の一点に像を結像させる物体面上の一点の、単位光学系23の光軸から垂直な方向への変位量である。
【0037】
例えば、撮像素子14の撮影光学系として正立等倍レンズアレイユニット13を用いる場合には、像シフト量δが画素ピッチ以下である場合には、撮像された画像には異なる単位光学系23による物体上の同じ点に対応する像面における結像点のズレに起因するボケは認識され得ない。したがって、許容される像シフト量δは、用いる撮像素子や受光機器などに応じて定められたり、人間により知覚し得るズレ量などに定められる。
【0038】
次に、第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18との間隔について、説明する。第1のレンズ20により、第1のレンズ20と第2のレンズ21との間の空間に、物体の像が結像するように、第1のレンズ20と、第1のレンズ20および第2のレンズ21の間隔とが設計され、形成される。
【0039】
さらに、図6に示すように、第1のレンズ20の第2面と、第1のレンズ20の第2面に対向する第2のレンズ21の第1面との間隔gが、以下の(4)式を満たすように設計され、正立等倍レンズアレイユニット13が形成される。
0.1×F<g<2×F×φ (4)
なお、(4)式において、Fは単位光学系23のF値、φは第2のレンズ21の直径とする。
【0040】
次に透光孔22の形状について説明する。図7に示すように、同一の中心線clを有して連続する2つの円錐台の側面に沿った形状に、透光孔22の内面は形成される。また、第1のレンズ20側の透光孔22の口径が第2のレンズ21側の口径より小さくなるように、透光孔22は形成される。中心線clが第1のレンズ20および第2のレンズ21の光軸と重なるように、透光孔22の形成位置が定められる。
【0041】
さらに、透光孔22の内面には、光の反射を抑える処理や光を吸収する処理が施される。例えば、光の反射を抑制する処理として、サンドブラストなどにより表面を荒らすシボと呼ばれる処理や、表面をスクリュー状に加工することによって反射光線の進行を抑制する処理である。また、光を吸収する処理として、吸光塗料による内面の塗布などが挙げられる。
【0042】
以上のような構成の本実施形態の正立等倍レンズアレイユニットによれば、第1のレンズ20による結像位置が、第1のレンズ20と第2のレンズ21との間に位置付けられるので、異物による画像への影響を低減化することが可能である。画像への影響の低減化について、以下に説明する。
【0043】
2つのレンズを用いた正立等倍光学系では、図8に示すように、第1のレンズ20’の第1面からの距離が定められた物体距離Lに配置された物体が、第1のレンズ20’により第2のレンズ21’の第1面上または近傍に結像することがある(符号fp参照)。被写体光束の幅は、結像位置に近づく程、細くなる。被写体光束の幅が細い位置に異物があると像面isに到達する光量は著しく減少する。それゆえ、第1のレンズ20’の結像位置に異物があるときに画像への影響は最大化される。
【0044】
それゆえ、本実施形態のように、第1のレンズ20による結像位置(符号fp参照)が、第1のレンズ20の第2面と、第2のレンズ21の第1面との間となるように、第1のレンズ20を形成し、第1のレンズ20と第2のレンズ21との間隔を調整することにより、異物の画像への影響が低減化される(図9参照)。
【0045】
さらに、本実施形態では、第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18とが(4)式を満たすように連結されるので、単位光学系23に付着するゴミなどの異物の画像への影響をさらに低減化することが可能である。(4)式によるゴミなどの影響の低減化について、以下に詳細に説明する。
【0046】
単位光学系23の中間結像位置、すなわち第1のレンズ20の結像位置までの一次結像系のF値をFとするとき、中間結像位置から光軸方向にg’/2だけ離れた位置における光束の直径εは、以下の(5)式で表される。
【0047】
【数1】

【0048】
(5)式を変形することにより、F値がFである光学系の光束の直径がεとなる位置の結像位置からの距離g’は、以下の(6)式により算出される。
g’=2×ε×F1 (6)
【0049】
ところで、一次結像系のF値は、一次結像系の倍率βを用いて、以下の(7)式により算出される。
=β×F (7)
【0050】
通常、2つのレンズを用いて正立等倍光学系を形成する場合には、一次結像系では縮小、二次結像系で拡大するように、レンズは設計される。ただし、一次結像系の倍率βを小さくし過ぎると、二次結像系による拡大により諸収差も大きく拡大される。それゆえ、一般的には、βは0.3以上に設定することが好ましい。それゆえ、本実施形態においても、以下の(8)式を満たすように第1のレンズ20を設計する。
>0.3×F (8)
【0051】
異物の画像への影響を防ぐためには、異物の位置における光束の面積は、異物の面積の10倍以上は必要である。正立等倍レンズアレイユニット13の製造工程において、顕微鏡による異物の外観検査によって0.05mmを超える大きさの異物は検出され、除去される。言い換えると、最大で0.05mmの大きさの異物が残り得る。それゆえ、光束の直径εは、以下の(9)式を満たすことが好ましい。
【0052】
【数2】

【0053】
(9)式を変形することにより、検出しきれない異物の影響が相対的に低くなる光束の直径εは、以下の(10)式を満たしている。
ε>0.18 (10)
【0054】
(6)、(8)、(10)式により、の中間結像位置からの距離g’/2は、以下の(11)式を満たすことが、ゴミの影響を相対的に低減化させるために好ましい。
g’/2>0.05×F (11)
【0055】
異物は、第1のレンズ20の第2面および第2のレンズ21の第1面に付着し得る。それゆえ、中間結像位置がそれぞれの面からg’/2だけ離れていることが好ましい。したがって、第1のレンズ20の第2面と第2のレンズ21の第1面の間隔gはg’以上であることが好ましい。それゆえ、0.1×F<gを満たすことにより、異物の画像への影響をさらに低減化させることが可能である。
【0056】
なお、0.1×F<gを満たしたとしても、第2のレンズ21の直径が(10)式を満たす光束の径より小さい場合には、単位光学系23から出射される光束の径に占める異物の割合は大きくなる。それゆえ、光束の径εが第2のレンズ21の直径よりも小さいことが必要なので、以下の(12)式が成り立つ。
【0057】
【数3】

【0058】
(12)式を変形させることにより、(13)式が得られる。
【0059】
g<2×F×φ (13)
【0060】
前述のように一次結像系では像を縮小するように第1のレンズ20を設計するので、第1のレンズ20の倍率βは1未満である。それゆえ、以下の(14)式が成り立つ。
【0061】
F1<F (14)
【0062】
式(13)、(14)に基づいて、以下の(15)式が得られる。
【0063】
g<2×F×φ (15)
【0064】
このように、(15)式を満たすように、第2のレンズ21を設計し、形成することにより、十分な太さの光束のすべてを第2のレンズ21に入射することが出来るので、異物の画像への影響の低減化効果を高めることが可能である。
【0065】
また、本実施形態では、透光孔22の第1のレンズ20側の口径が第2のレンズ21側の口径より小さいので、他の単位光学系23の第1のレンズ20からの迷光の、第2のレンズ21への入射を防止することが可能である。
【0066】
互いに密着する第1のレンズ20では、隣接する第1のレンズ20の側面などから迷光が入射することがあり得る。このような迷光の混入により、結像される画像のノイズの影響が大きくなる。しかし、本実施形態のように、透光孔22を用いて迷光の第2のレンズ21への入射を抑制することにより迷光が抑止され、画像のノイズの影響を低減化させることが可能である。
【0067】
また、本実施形態では、透光孔22の内面には光の反射を抑える処理や光を吸収する処理が施されるので、第1のレンズ20側の開口を通過し、透光孔22の内面に入射する迷光の第2のレンズ21への伝播を防ぐことが可能である。
【0068】
また、本実施形態では、通常のレンズを用いて形成可能であって、アレイ全体として被写界深度を拡大した正立等倍レンズアレイユニットを形成することが可能である。アレイ全体として被写界深度が拡大される効果について以下に詳細に説明する。
【0069】
図10(a)に示すように、従来の正立等倍レンズアレイユニット13’では、像面isまでの距離に対して理想の物体面osの位置に載置された物体が各単位光学系23’により像面is上に等倍の正立像として結像される。複数の単位光学系23’によって形成される像は位置ずれを生じることなく一つの全体像として写し出される(図10(a)参照)。
【0070】
しかし、図10(b)に示すように、物体面osが理想位置から変位することにより個々の単位光学系23’の像面isにおける等倍性が崩れ、物体面osにおける同じ一点の像面isにおける結像位置が互いに隣接する単位光学系23’で異なる。それゆえ、正立等倍レンズアレイユニット13’全体により写し出される像にはブレが生じる。したがって、正立等倍レンズアレイユニット全体としての被写界深度は浅くなる。
【0071】
一般的に、物体側の主光線の入射角度が大きくなるほど、物体面の変位に対するレンズの倍率の変化は大きくなる。正立等倍レンズアレイユニット全体では、倍率の変化が大きくなるほど、隣接するレンズによる物体面の同一の点の結像位置のズレが大きくなる。
【0072】
それゆえ、理想的には、主光線の入射角度がゼロであれば、物体面の変位に対して倍率は変化しない。それゆえ、物体面が理想位置から変位しても物体面上の一点の別々のレンズによる結像位置がずれずに像面上の同じ位置に結像する。すなわち、レンズアレイを構成する個々の光学系が物体側テレセントリックであれば、レンズアレイ全体としての被写界深度を深く保つことが可能である。このように、本実施形態の正立等倍レンズアレイユニット13は、レンズアレイ全体としての被写体深度を深化させることが可能である。
【0073】
また、本実施形態によれば、第1のレンズ20が第1の方向に沿って互いに密着するように配置される。このような構成により、第1の方向に沿って欠落の無い画像を形成することが可能である。
【0074】
本実施形態では、前述のように、各単位光学系23は物体側に実質的にテレセントリックであるため、単位光学系23の径外に位置する点からの光の透過量は低い。それゆえ、隣接する単位光学系23間に隙間があると、隙間の延長上の物体面os上の点の像が極めて暗くなり、画像が欠落することもあり得る。しかし、上述のように、第1のレンズ20が第1の方向に沿って密着するので、このような隙間が無く、第1の方向に沿って欠落の無い画像を得ることが可能である。
【0075】
また、本実施形態によれば、0.5≦y/Dとなるように単位光学系23は形成される。それゆえ、物体面上のすべての点がいずれかの単位光学系23の視野域に含まれ得るので、像の一部欠落が防止される。
【0076】
ところで、y/Dが大きくなるほど、単位光学系23は光軸からの距離の離れた物体面も視野域に含むことになる。それゆえ、y/Dが大きくなると、物体面上の一点を結像させる単位光学系23の数が増え、異なる単位光学系23により形成される像のズレの影響がより大きくなる。
【0077】
そこで、本実施形態では、y/D≦1となるように単位光学系23は形成される。それゆえ、物体面上の一点を結像させる単位光学系23の数が2以下に限定され、像のズレの影響を低減化させることが可能である。
【0078】
また、本実施形態では、各単位光学系23は、(2)式(D/8L<tanθ)を満たすように形成されるので、以下に説明するように、明るさのムラを抑えることが可能である。
【0079】
従来知られているように、レンズなどの光学系による像は、像面と光軸との交点が最も明るく光軸から離れるほど暗くなる。それゆえ、結像される画像には明るさのムラが生じる。デジタルカメラの場合には、画像の領域毎に増幅率を変えることにより明るさのムラを低減化させることが可能である。
【0080】
しかし、光軸から離れた領域の光量が極端に低い場合には増幅率を大きくする必要があり、ノイズの影響も大きくなる。それゆえ、光軸上の光量に対する光量の比が、何れの位置であっても、50%程度を超えるように設計することが好ましい。
【0081】
本実施形態の正立等倍レンズアレイユニット13の場合には、隣接する2つの単位光学系23を透過する光束を合わせて50%程度を超える光量が得られればよいので、単一の単位光学系23からは25%を超える光量が得られればよい。次の(16)式を満たす入射角度θであれば、単一の単位光学系23の視野範囲内の何れの位置においても光軸近辺の25%を越える光量の光を伝達可能である。
【0082】
【数4】

【0083】
(16)式の左辺はD/8Lであり、各単位光学系23は、(2)式を満たすように形成されるので、増幅処理によって十分に補償可能な程度に、明るさのムラを抑えることが可能である。
【0084】
また、本実施形態では、各単位光学系23は、(3)式(tanθ<δ/Δz)を満たすように、形成される。すなわち、許容される像シフト量δおよび許容される被写界深度Δzにより算出される角度がθの最大角度となるように、単位光学系23は設計される。
【0085】
この条件は、前述のように、単位光学系23が物体側に実質的にテレセントリックとなる条件である。このような条件を満たすことにより、隣接する単位光学系23によって結像される像の結像位置のズレを、視認が難しい程度に抑えることが可能である。
【0086】
次に、視野半径yに対する単位光学系23の直径Dの比を重なり度mと定義し、重なり度mと像シフト量δとの関係を、数値を用いて以下に説明する。物体面上の任意の一点から放射される光の入射角度をθとすると、以下の(17)、(18)式が成り立つ。
【0087】
【数5】

【0088】
(17)、(18)式とmとを用いて、以下の(19)式が導かれる。
【0089】
【数6】

【0090】
(19)式から明らかなように、重なり度mが1/2から変化するほど、像シフト量δが増加する。図11に、m=0.65およびm=2.7である場合を例として、被写界深度Δzと像シフト量δとの関係を示す。なお、D=2.0、L=9とする。
【0091】
像シフト量δが大きくなるほど、正立等倍レンズアレイユニット13全体としての解像度が低下し、隣接する単位光学系23により結像される同一の物体面上の点の結像位置のズレが大きくなる。図11に示すように、同じ被写界深度Δzにおいて、像シフト量δは、m=2.7の場合に比べて、m=0.65の場合の方が小さい。したがって、mと1/2との差が大きくなるほど、結像位置のズレが大きくなることが分かる。
【0092】
例えば、許容される像シフト量が例として用いられる撮像素子14の画素ピッチの0.05mmである場合には、m=2.7で被写界深度Δzは0.1mmである。一方で、m=0.65では被写界深度Δzは0.65mmである。このように、許容される像シフト量に基づいて定められる被写界深度Δzは、重なり度mが1/2に近い程、深いことが分かる。
【実施例】
【0093】
次に、実施例により本発明の効果を説明するが、本実施例はあくまでも本発明の効果を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0094】
表1および表2に示すレンズデータを用いて、実施例1の単位光学系23を作成した。なお、表1における面番号に対応する面を、図2に示した。
【0095】
【表1】

【0096】
ただし、表1において、
※1は、非球面であること示しており、非球面式は以下の(20)式によって与えられる。
※2は、SCHOTT AG bk7である。
※3は、日本ゼオン株式会社 ZEONEX(登録商標)E48Rである。
※4は、絞りである。
【0097】
【数7】

【0098】
(20)式において、
Zは面頂点に対する接平面からの深さ、
rは曲率半径、
hは光軸からの高さ、
kは円錐定数、
Aは4次の非球面係数、
Bは6次の非球面係数、
Cは8次の非球面係数、
Dは10次の非球面係数である。
円錐定数kおよび非球面係数A、B、C、Cを表2に示した。
【0099】
【表2】

【0100】
表3および表4に示すレンズデータを用いて、実施例2の単位光学系23を作成した。なお、表3における面番号に対応する面は、表1と同じである。
【0101】
【表3】

【0102】
ただし、表3において、
※1は、非球面であること示しており、非球面式は上述の(20)式によって与えられる。円錐定数kおよび非球面係数A、B、C、Cを表4に示した。
※2は、SCHOTT AG bk7である。
※3は、日本ゼオン株式会社 ZEONEX(登録商標)E48Rである。
※4は、絞りである。
【0103】
【表4】

【0104】
表5および表6に示すレンズデータを用いて、実施例3の単位光学系23を作成した。なお、表5における面番号に対応する面は、表1と同じである。
【0105】
【表5】

【0106】
ただし、表5において、
※1は、非球面であること示しており、非球面式は上述の(20)式によって与えられる。円錐定数kおよび非球面係数A、B、C、Cを表6に示した。
※2は、SCHOTT AG bk7である。
※3は、日本ゼオン株式会社 ZEONEX(登録商標)E48Rである。
※4は、絞りである。
【0107】
【表6】

【0108】
表1、表3、および表5の第4面として示すように、第1のレンズ20の第2面は平面でも(実施例1参照)凹面でも(実施例2参照)、凸面でも(実施例3参照)正立等倍性を有するように形成可能であることが分かる。
【0109】
実施例1〜実施例3の単位光学系23の視野半径yおよび単位光学系23の直径Dを測定し、直径Dに対する視野半径yの比を算出した。算出結果を表7に示した。
【0110】
【表7】

【0111】
表7に示すように、0.5≦y/D≦1.0を満たす単位光学系23を形成できることが分かる。
【0112】
実施例1〜実施例3の単位光学系23の視野半径yおよび単位光学系23の直径Dに基づいて、被写界深度Δzを算出した。なお、許容できる像シフト量δは、0.05mmとした。算出結果を表8に示した。
【0113】
【表8】

【0114】
従来のセルフォックレンズやロッドレンズを用いた場合の被写界深度は±0.4である一方で、表8に示すように、実施例1において±2.6、実施例2において±1.74、および実施例3において±2.6と、従来に比べて被写界深度が拡大されていることが分かる。
【0115】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0116】
例えば、上記実施形態において、(2)式(D/8L<tanθ)を満たすように、単位光学系23は形成される構成であるが、0<tanθを満たすように設計され、形成される構成であってもよい。
【0117】
tanθ<D/8Lであっても、被写界深度の深い単位光学系23を形成し得る。しかし、tanθ=0である場合には、光束の幅もゼロとなる必要がある。その場合には、像面に届く光量が略ゼロとなってしまう。それゆえ、tanθは少なくともゼロを超える値である必要がある。
【符号の説明】
【0118】
10 画像読取部
11 カバーガラス
12 照明系
13、13’ 正立等倍レンズアレイユニット
14 撮像素子
15 位置規定部材
16 孔部
17 第1のレンズアレイ
18 第2のレンズアレイ
19 連結部
20 第1のレンズ
21 第2のレンズ
22 透光孔
23、23’ 単位光学系
cg 重心位置
cl 中心線
fi 微小な光学像
ics 画像読取面
is 像面
os 物体面
r1、r2 第1の室部、第2の室部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1のレンズを有し、前記第1のレンズの光軸に垂直な第1の方向に沿って前記複数の第1のレンズが配置される第1のレンズアレイと、
前記第1のレンズそれぞれと光軸が重ねられた複数の第2のレンズを有し、前記第1の方向に沿って前記複数の第2のレンズが配置される第2のレンズアレイと、
互いに光軸が重なる前記第1のレンズと前記第2のレンズとによって形成される各光学系は正立等倍光学系であり、
前記光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックであり、
前記光学系に対して理想的な距離が定められた物体の前記第1のレンズによる結像位置が、前記第1のレンズアレイと前記第2のレンズアレイとの間に位置付けられるように、前記第1のレンズアレイと前記第2のレンズアレイとが連結される
ことを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の正立等倍レンズアレイユニットであって、前記第1のレンズと前記第2のレンズとの間隔をg、前記光学系のF値をF、前記第2のレンズの直径をφとして、0.1×F<g<2×F×φを満たすことを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の正立等倍レンズアレイユニットであって、
互いに光軸が重なる前記第1、第2のレンズの間に開口が、前記第1のレンズ側の口径が前記第2のレンズ側の口径より小さくなるように形成される遮光部を備え、
前記開口の内面には、光の反射を防ぐ表面処理が施される
ことを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の正立等倍レンズアレイユニットを備える画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−45096(P2013−45096A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185328(P2011−185328)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】