説明

歩行器

【課題】車輪付の楽に移動できる歩行器であるが、所定以上の荷重が掛かった時に走行を制動する接地用の脚が突出して安定的に走行を停止させ、左右交互移動の機構を持つフレームのいずれか片側だけに体重を預けてもう一方側の荷重を解くと、歩行器の片側自体が一定距離を自走し、左右別個に安定な支持と歩行の助勢とを交互に行う歩行器の提供。
【解決手段】車輪を有する車輪フレーム11と接地脚8を下端に係止する把持部3を有する可動フレーム2とが弾性体7を介して上下動自在に連結し所定以上の荷重が掛かった時に該接地脚8が下動して路面に接地するように足部を二重構造としたフレームを左右に持つ歩行補助器に於いて、前記接地脚8の接地後その荷重負荷が解かれると前記弾性体7の付勢力により該接地脚8が上動しながら一定距離を自走する機構を有する左右フレーム1L、1Rを連結アームにより水平回動と上下動自在に枢支連結した歩行器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行の補助または訓練に使用する歩行器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来かかる歩行器には、キャスター付きのU字形フレーム内に体を入れて体を支えながら前進するものや、キャスター無しの4脚のフレームで体を支えて、前進する時にフレーム全体を持ち上げて前進するもの、或いは2脚ずつ左右交互に移動させて前進するものなどがあるが、この左右交互に移動させて前進する歩行器については、特許文献3のような4輪のキャスターを備え、左右交互機構の有無を簡易に切り替える構造を持つ考案が開示されている。然しながら、この構造はキャスターを備えるのみで、本発明及び本出願人が先に出願した特許文献1、特許文献2に示されるような歩行器や杖自体を前進させる機構を備えてはいない。
【特許文献1】実用新案登録第3116855号公報
【特許文献2】特願2005−295870
【特許文献3】公開実用新案公報平3−101939
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、車輪付の楽に移動できる歩行器であるが、所定以上の荷重が掛かった時に走行を制動する接地用の脚が突出して安定的に走行を停止させ、左右交互移動の機構を持つフレームのいずれか片側だけに体重を預けてもう一方側の荷重を解くと、歩行器の片側自体が一定距離を自走し、規定の範囲内で左右それぞれ別個に安定な支持と歩行の助勢とを交互に行う歩行器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、第一発明は、車輪を有する車輪フレーム11と接地脚8を下端に係止する把持部3を有する可動フレーム2とが弾性体7を介して上下動自在に連結し所定以上の荷重が掛かった時に該接地脚8が下動して路面に接地するように足部を二重構造としたフレームを左右に持つ歩行補助器に於いて、前記接地脚8の接地後その荷重負荷が解かれると前記弾性体7の付勢力により該接地脚8が上動しながら一定距離を自走する機構を有する左右フレーム1L、1Rを連結アームにより回動自在に連結した歩行器である。尚、上記連結とは、例えば、自在継手によるものや水平回動と上下動自在の枢支連結によるものなどであるが、この中では枢支連結が本発明の目的を達成する上で最も好ましい。
【0005】
また、第二発明は、前記左フレーム1Lまたは前記右フレーム1Rが複数個の車輪により単独で安定に自立する第一発明記載の歩行器である。
【0006】
また、第三発明は、前記自走機構が、接地脚8に設けたラック9と噛み合う主輪12の車軸12aに一方向ベアリング10aを介して設けた軸ギア10が前記ラック9の上動に起因する前記車軸12aに対して前方回転の場合には該車軸12aに回転を伝え、該ラック9の下動に起因する該車軸12aに対して後方回転の場合には空回りして該車軸12aに回転を伝えない構造の第一発明記載の歩行器である。
【0007】
また、第四発明は、前記左右フレーム1L、1Rを構成する補強アーム4又は車輪フレーム11に座板20を渡して固定的に取り付けることにより、該左右フレーム1L、1Rの相対的な前後移動を無くした第一発明記載の歩行器である。
【0008】
また、第五発明は、前記左右フレーム1L、1Rと前記連結アームの連結を水平回動と上下動自在の枢支連結とし、前記可動フレーム2の単独の上下動を制限する為または左右の該可動フレーム2の相対的な上下動を無くす為に、該枢支連結の枢支軸上にストッパーを設けた第一発明または第四発明記載の歩行器である。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成により、第一発明に於いては、左右別個にそれぞれのフレームに荷重をかけて接地脚を接地させた後その荷重負荷を解くと接地脚が上動しながら一定距離を自走するので、左右のフレームに支持と歩行の助勢とを交互に行わせることにより、使用者は本歩行器に支えられたまま自らそれを前進させる必要がなく、本歩行器に導かれるように足を前へ運ぶことができる。
【0010】
また、第二発明に於いては、それぞれに単独で安定に自立する左右フレームが連結されるので、本歩行器は連結されるどのような形でも安定して使用することができ、例えば、ハの字に開いて立ち上がる時の補助具として利用することもできるし、Z字形に折り畳んで同じく立ち上がり補助具やコンパクトな保管に、或いは平行四辺形のかたちにして狭い場所での歩行に利用することもできる。
【0011】
また、第四、第五発明により、左右フレームの補強アームを座板で固定化し、連結アームの左右の枢支連結をストッパーで固定化すると、左右フレームの前後上下が同期して自走する固定型歩行器として使用することもできるし、また、左右フレームの車輪フレームを座板で固定化し、ストッパーで左右いずれかの可動フレームの下動を抑止すると、前後が同期して片側だけが自走する片手用歩行器として使用することもできる。
【0012】
尚、上述の左右フレームの相対的な前後移動を無くした固定型歩行器や片手用歩行器に於いては後方に動くことは危険なことであるが、第三発明により、主輪の車軸と軸ギアの間に介在する一方向ベアリングは軸ギアが車軸に対して前方回転する場合のみ回転を伝える構造なので、逆に、車軸側が軸ギアに対して後方回転する場合にも回転は伝わる事になり、それ故、本歩行器が後退して主輪が後方回転する場合には軸ギアにその後方回転が伝わり、ラックと共に接地脚を弾性体の付勢力に抗して下動させる漸次制動がかかるため、本歩行器は漸次に増す制動力を受けながら一定距離動いた後、接地脚を接地し安全に止まることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図1〜3に示す。
歩行器1は、把持部3を有する可動フレーム2と一体に上端を挿通、系止された接地脚8が車輪フレーム11に弾性体7を介して上下動自在に連結し、所定以上の荷重が掛かった時に接地脚8が下動して路面に接地するように足部を二重構造とし、接地脚8の接地後その負荷が解かれると接地脚8が上動しながら一定距離を自走する機構を持つ単独で自立した左右フレーム1L、1Rを上下の連結アーム5,6の左右端の上下連結アーム鞘管5a,6aに左右の可動フレーム2の前ポスト2aが水平回動と上下動自在に嵌挿する形で枢支連結する構造となっている。
【0014】
車輪フレーム11は左右フレーム1L、1Rが単独でも安定して自立するだけの間隔を有する双輪の主輪12と単輪の前輪13と後輪14そして前後の車輪フレーム鞘管11a11bからなっており、前後の車輪フレーム鞘管11a、11b内部に接地脚8を滑動自在に挿通させている。一方その接地脚8は上部を可動フレーム2の前後ポスト2a,2b下部に高さ調節ピン21により挿通、系止され、下端部に滑り止めのゴムまたは樹脂製の石突キャップ8aを嵌着されて前述する前後の車輪フレーム鞘管11a、11bの内面を可動フレーム2と一体となって滑動する。また、高さ調節ピン21により接地脚8を一体とすることで後ポスト2bの下端に成るフランジ部と後車輪フレーム鞘管11bの上端フランジ部の間には、接地脚8を巻装するコイルばねが挟持されて、可動フレーム2を付勢する弾性体7として作用している。
【0015】
従って、可動フレーム2に所定以上の荷重が掛かかっていない時には、図2に示すように接地脚8は車輪フレーム11に持ち上げられて地面から浮いた状態になっており、可動フレーム2に所定以上の荷重が掛かった時には、図3に示すように接地脚8は弾性体7であるコイルばねの付勢力に抗して下動され接地する。
【0016】
また、図2、図3に示すように車輪フレーム11に付随する主輪12の双輪の間に位置する接地脚8に於いては、双輪をつなぐ車軸12aに設けてある軸ギア10と接地脚8に設けてあるラック9は噛み合う構造であり、軸ギア10は車軸12aと一方向ベアリング10aを介して嵌合され車軸12aに対して反時計回り方向のみ回転を伝える仕組みになっているため、接地脚8が下動する場合には軸ギア10はラック9と噛み合っても空回りして回転を伝えられず、上動する場合にのみ回転を伝えることができる。同じ原理から、軸ギア10とラック9が噛み合っていても主輪12は車軸12aの側を反時計回りに回転させる前方へは自由に進むが後方へは接地脚8を弾性体7の付勢力に抗して下動させ漸次制動を受けながらそれを接地させるまでしか動かない。
【0017】
また、左右の可動フレーム2の前ポスト2aには上連結アーム鞘管の上下に上ストッパー25と中ストッパー26が設けられ、上ストッパー25により可動フレーム2の下動を制限し、上ストッパー25と中ストッパー26により上連結アーム鞘管5aを挟持することで、単独に上下する左右の可動フレーム2の上下動を同期させる。また、左右の可動フレーム2の前ポスト2aに一体に繋がる接地脚8の前車輪フレーム鞘管11a下方には下ストッパー27が設けられ、接地脚8の上動を制限して1ストロークの上下幅と自走距離を規定する。
【0018】
また、座板20はそれに備わる座板固定具20aにより左右の補強アーム4を挟持する固定的な連結で座席を設ける他に、上連結アーム5と下連結アーム6の補強や左右の車輪フレーム11の固定的な連結、さらに車輪フレーム11と補強アーム4とを接地脚8が接地するかたちに固定化させるパーキングブレーキとしても機能する。
【0019】
また、高さ調節ピン21幅調節ピン22長さ調節ピン23によりそれぞれ高さ、幅、奥行の調節を行い、角度調節ピン24と当て高さ調節ピン3cにより把持部3の肘腕または脇当て3bの角度と高さの調節を行う。尚、肘腕または脇当て3bは水平部を前方に向け角度と高さを調節することで腕または脇当てとし、また180度回転して水平部を後方に垂直部を前面に向け高さを調節することで肘当てとして、グリップ3aの把持を補強し使用者の支持を安定に保つ働きを担う。
【0020】
今、歩行器1が自然状態に置かれるならば、8個の車輪により単独で自立した左右フレーム1L、1Rが上下の連結アーム5,6に水平回動自在に連結される範囲内で、それぞれが前後や斜めに移動できる。次に、使用者が歩行器1の左右の把持部3に手を置くだけの状態であれば、接地脚8は下動するがまだ路面から浮いたままの状態なので、歩行器1は変わらず楽に前進出来る。しかし、後進する場合は主輪12の軸ギア10がラック9と噛み合っているため接地脚8を下ろすように作動し、その際に圧縮される弾性体7であるコイルばねに生じる付勢力が制動力となり、それを後進につれて次第に増しながら接地脚8が路面に接地した時に歩行器1は停止する。
【0021】
また、その場に足を止めて歩行器1の中央に立つ使用者が歩行器1に左右の把持部3を介して体重を預けても、接地脚8は弾性体7であるコイルばねの付勢力に抗して把持部3や可動フレーム2と一体に下動されて接地する。この状態は8個の車輪と4本の接地脚8とが路面に接地して動かない安定な状態なので、使用者は体重を歩行器1に預けたまま安心してその場に止まることができる。
【0022】
次いで左右の把持部3を握ったまま、歩行器1全体に預けていた体重を単独でも安定している片側のフレームだけに預けると、負荷重量を解かれたもう片方のフレームはそれに属する二本の接地脚8を弾性体7であるコイルばねの付勢力により路面から離し走行可能な状態に戻ろうとする。丁度この時、接地脚8に設けたラック9は、それと噛み合っている軸ギア10を接地脚8の上昇に伴って前方に回転させ、ラック9もしくは下ストッパー27の上端が後車輪フレーム鞘管11bもしくは前車輪フレーム鞘管11b下端に当接するまで軸ギア10と共に回転する状態にある主輪12に回転力を与え続け、片方のフレームだけを前進させる。
【0023】
ここで、前方に進んだ片方のフレームに体重を預け替えて順次同じことを繰り返すと、体重を預けたフレームとは反対側のフレームが交互に前進して行くので、使用者は歩行器1に支えられたまま、歩行器1に導かれるように、足をリズミカルに前へと運ぶことができる。
【0024】
また、図4に示すように座板20を左右の補強アーム4に渡して座板固定具20aにより4箇所で挟持し固定的に取り付けることで左右の可動フレーム2が相対的に前後せず、左右の上、中ストッパー25、26により左右の上連結アーム鞘管5aを挟持することで左右の可動フレーム2が相対的に上下しない、左右フレーム1L、1Rの動きが同期し固定化した固定型歩行器が得られる。
【0025】
また、左右の車輪フレーム11だけを固定化すると、左右の可動フレーム2の相対的な上下動を許すことができ、この時、図5に示すように、片側の可動フレーム2の下動だけを上ストッパー25により抑止するならば、その可動フレーム2の肘腕または脇当て3bに麻痺した側の腕を預けたままもう片方の可動フレーム2を上下することで前進させる、片手用歩行器を得ることができる。
【0026】
また、左右の前ポスト2aは上下連結アーム鞘管5a、5bに水平回動自在に嵌挿されているので、歩行器1は、図6に示すように、上から見てZ字形に折り畳まれてコンパクトに保管される。尚、図6では、片側の車輪フレーム11と補強アーム4とが座板20の座板固定具20aにより接地脚8が接地状態となるように固定化してあるので、歩行器1はパーキング状態となっている。
【0027】
また、この実施形態の場合、接地脚8の下ストッパー27の上下位置を調節することにより、歩行器1が使用者の歩幅に応じた一区切り毎の前進をするので、使用者の歩行能力に合わせて安心して使える自走型の歩行器1を得ることができる。尚、上ストッパー25により下動を制限すると、接地脚8が浮いたままに保たれ、従来の車輪付歩行器のように使用できるので、使用者の歩行能力や環境に合わせて歩行器1を適宜に使い分けることもできる。
【0028】
また、歩行器1は左右の補強アーム4に取り付けられた座板20に体重が加わると4本の接地脚8が突出する構造から、安定な椅子として利用することができるが、この椅子は前述の一方向ベアリング10a機構により、立ち上がって体重が除かれると自然に後ろへ引かれる構造のため、使用者は、歩行器1を補助者に後ろへ引いて貰うことも、自らが後ろへ引きずることもなしに、真上に立ち上がることができる。
【0029】
ところで、上記の実施形態によれば、自走機構を持つ車輪部は片側につき一箇所であったが、他の実施形態では自走機構を持つ車輪部を片側につき複数箇所設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明歩行器の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】接地脚が浮いた状態を示す主輪の要部拡大断面図である。
【図3】接地脚が接地した状態を示す主輪の要部拡大断面図である。
【図4】歩行器の左右フレームを固定化した状態を示す斜視図である。
【図5】歩行器の左右車輪フレームだけを固定化した状態を示す斜視図である。
【図6】歩行器の折り畳まれた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 歩行器 1L 左フレーム 1R 右フレーム
2 可動フレーム 2a 前ポスト 2b 後ポスト
3 把持部 3a グリップ 3b 肘腕または脇当て 3c 当て高さ調節ピン
4 補強アーム
5 上連結アーム 5a 上連結アーム鞘管
6 下連結アーム 6a 下連結アーム鞘管
7 弾性体
8 接地脚 8a 石突キャップ
9 ラック
10 軸ギア 10a 一方向ベアリング
11 車輪フレーム 11a 前車輪フレーム鞘管 11b 後車輪フレーム鞘管
12 主輪 12a 車軸 12b 軸受
13 前輪
14 後輪
20 座板 20a 座板固定具
21 高さ調節ピン
22 幅調節ピン
23 長さ調節ピン
24 角度調節ピン
25 上ストッパー
26 中ストッパー
27 下ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する車輪フレーム(11)と接地脚(8)を下端に係止する把持部(3)を有する可動フレーム(2)とが弾性体(7)を介して上下動自在に連結し所定以上の荷重が掛かった時に該接地脚(8)が下動して路面に接地するように足部を二重構造としたフレームを左右に持つ歩行補助器に於いて、前記接地脚(8)の接地後その荷重負荷が解かれると前記弾性体(7)の付勢力により該接地脚(8)が上動しながら一定距離を自走する機構を有する左右フレーム(1L)、(1R)を連結アームにより回動自在に連結したことを特徴とする歩行器。
【請求項2】
前記左フレーム(1L)または前記右フレーム(1R)が複数個の車輪により単独で安定に自立する請求項1記載の歩行器。
【請求項3】
前記自走機構が、接地脚(8)に設けたラック(9)と噛み合う主輪(12)の車軸(12a)に一方向ベアリング(10a)を介して設けた軸ギア(10)が前記ラック(9)の上動に起因する前記車軸(12a)に対して前方回転の場合には該車軸(12a)に回転を伝え、該ラック(9)の下動に起因する該車軸(12a)に対して後方回転の場合には空回りして該車軸(12a)に回転を伝えない構造の請求項1記載の歩行器。
【請求項4】
前記左右フレーム(1L)、(1R)を構成する補強アーム(4)または車輪フレーム(11)に座板(20)を渡して固定的に取り付けることにより、該左右フレーム(1L)、(1R)の相対的な前後移動を無くした請求項1記載の歩行器。
【請求項5】
前記左右フレーム(1L)、(1R)と前記連結アームの連結を水平回動と上下動自在の枢支連結とし、前記可動フレーム(2)の単独の上下動を制限する為または左右の該可動フレーム(2)の相対的な上下動を無くす為に、該枢支連結の枢支軸上にストッパーを設けた請求項1または4記載の歩行器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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