説明

歪センサ

【課題】生体内の蠕動運動を直接的に測定する際に適用可能とすることができる歪センサを提供する。
【解決手段】絶縁性ゴム材料からなるベース2と、ベース2の一面に設けられた電極3及び配線4と、電極3の上方を主としてベース1に分散・塗布された多数のカーボンナノチューブ(CNT)5と、カーボンナノチューブ5を覆う絶縁性ゴム材料からなるカバー6と、を備えている。カーボンナノチューブ5自体又は互に接触しあうカーボンナノチューブ5の抵抗変化で微小変動等を捉える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の生理的運動を直接的に測定するための歪センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特表2008−500864号公報
【0003】
従来から、生体内臓器の生理的運動として、例えば、人体心臓の表面に複数のセンサを貼り付け、そのセンサからの電気信号を検出して人体心臓の運動状態を認識する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、人間や動物等の消化管の収縮運動を意識下で測定する方法は古くから行われており、人間の胃運動に関しては1900年初頭から盛んに研究されている。測定手段の1つは、消化器官にチューブを挿入して内圧の変動を測定する内圧法であり、現在も消化管の収縮運動観測に広く用いられている。
【0005】
しかしながら、無拘束状態で消化管の測定をする場合、体動による変動誤差が多いという欠点がある。また、消化管の平滑筋に歪ゲージを縫い付けた状態で筋収縮力を直接測定する歪ゲージ法があり、消化管の漿膜面に歪ゲージを縫い付けるために体動や内腔に対する影響が少ないという利点がある。具体的な報告例としては、Copper−beryllium(CuBe)箔板(厚さ:0.05mm)上に歪ゲージを接着した構造を持つ歪ゲージフォーストランスデューサーを用いた心臓の収縮力や消化管運動がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の如く構成されたセンサにあっては、人体心臓等の比較的大きく、しかも、運動の大きい臓器等に対するセンサであり、例えば、実験用のラット等の小さい臓器、或いは、胃や十二指腸等の微細な臓器に対する蠕動運動を認識するものとしては不向きであるという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するため、生体内の生理的運動(特に、ラット等の小さな臓器或いは、胃や十二指腸等の微細な蠕動運動)を直接的に測定する際に適用可能とすることができる歪センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その目的を達成するため、請求項1に記載の歪センサは、絶縁性ゴム材料からなるベースと、該ベースの一面に設けられた電極及び配線と、前記電極の上方を主として前記ベースに分散・塗布された多数のカーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブを覆う絶縁性ゴム材料からなるカバーと、を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の歪センサによれば、外部応力によるカーボンナノチューブ自体又は互いに接触し合うカーボンナノチューブの抵抗変化により、微小変動等を捉えることができる。
【0010】
請求項2に記載の歪センサは、前記絶縁性ゴム材料がシリコーン樹脂を主とした材質であることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の歪センサによれば、シリコーン樹脂を主とした材質とすることにより、生体適合性を向上することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の歪センサは、前記ベースの他面に歪調整用軟性シートが設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の歪センサによれば、微細動伝達を損ねることなく、被貼り付け面への貼り付けを容易とすることができる。
【0014】
請求項4に記載の歪センサの製造方法は、 所定形状の鋳型にゲル状の絶縁性ゴム材料を流し込んでベースを形成するベース形成ステップと、鋳型から取り出したベースの一面に電極及び配線を蒸着及び接着する配線接続ステップと、多数のカーボンナノチューブを前記電極の上方を主として前記ベースに分散・塗布・乾燥させるCNT接着ステップと、前記カーボンナノチューブを覆うようにゲル状の絶縁性ゴム材料を流し込んで前記電極及び前記多数のカーボンナノチューブを前記ベースとでサンドイッチするようにカバーを形成するカバー形成ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の歪センサの製造方法によれば、簡素な工程で多数のカーボンナノチューブを電極に接着配置することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歪センサによれば、直径がナノスケールの筒状炭素同素体であるカーボンナノチューブを用いて機械的に変形可能な超小型の歪センサとすることができ、生体内の生理的運動(特に、ラット等の小さな臓器或いは、胃や十二指腸等の微細な蠕動運動)を直接的に測定する際に適用可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の歪センサに係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の歪センサの1実施形態を示し、(A)は要部の平面図、(B)は要部の断面図である。
【0019】
歪センサ1は、絶縁性ゴム材料からなるベース2と、ベース2の一面に設けられた電極3及び配線4と、電極3の上方を主としてベース1に分散配置された多数のカーボンナノチューブ(CNT)5と、カーボンナノチューブ5を覆う絶縁性ゴム材料からなるカバー6と、を備えている。
【0020】
このような歪センサ1によれば、外部応力によるカーボンナノチューブ5自体又は互いに接触し合うカーボンナノチューブ5の抵抗変化により、微小変動等を捉えることができる。
【0021】
また、歪センサ1は、絶縁性ゴム材料がシリコーン樹脂を主とした材質から構成されており、生体適合性を向上することができる。
【0022】
さらに、歪センサ1は、ベース2の他面に軟性シート7が設けられていることにより、微細動伝達を損ねることなく、被貼り付け面への貼り付けを容易とすることができる。
【0023】
図2は、このような歪センサ1の製作手順を示す。
【0024】
図2(A)に示すように、所定形状の凸型の底面を備えた鋳型を用意し、図2(B)に示すように、この鋳型にゲル状の絶縁性ゴム材料としてのシリコーン樹脂(好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS))を流し込み、この状態で所定期間(例えば、24時間)放置してPDMSシート(ベース)2を形成する。
【0025】
次に、図2(C)に示すように、鋳型からPDSMシート2を取り出し、図2(D)に示すように、金蒸着膜の電極3をPDMSシート2上に形成すると共に、その電極3に導電性接着剤を用いてPt−Ir線(配線)4を接着する。
【0026】
さらに、多数のCNT5を電極3の上方を主としてPDMSシート2に分散・塗布した後、十分に乾燥させる。
【0027】
この状態で、図2(E)に示すように、CNT5を覆うようにPDMSを流し込んで、電極3及びCNT5をサンドイッチするようにカバー6を形成し、所定期間(例えば、24時間)放置した後、図2(F)に示すように、底面側のPDMSシート2に塩化ビニルシート7をシリコン接着剤で貼り付けて固定する。
【0028】
そもそも、CNTは特異な機械的性質を有している。即ち、グラファイトの面はsp2結合と呼ばれ、面を作るその結合はダイヤモンド骨格のsp3結合よりも強く、化学結合で最強の結合ともいえる。また、CNTのヤング率は1000〜2000GPaであり、他の材料のヤング率である数〜数百GPa(例えば、ダイヤモンドの場合600Gpa)に比べて非常に大きい数値を示している。さらに、CNTの引っ張り強度は11〜63GPaの範囲にあり、スチールの50〜60倍の強度であるため、強靭な材料としての応用が期待されている。一方、その比重は鋼鉄の1/10以下であるから、同じ重さでは100倍の強度を有している。しかも、CNTは化学的に非常に安定しており、酸やアルカリと反応しないため、対腐食性という点でも金属よりも格段に優れている。また、酸素がなければ、摂氏1200℃位の環境下であってその強度を充分に保つことができるため、高温環境下で使用する材料として他に変え難い性質を備えている。
【0029】
このため、CNTは、例えば、テニスラケット等の耐衝撃力が要求されるもの等、反発強度を強めるために樹脂中に入れられるなど、実用化されつつある。
【0030】
(実施例)
そこで、本発明は、CNTの機械的変形に起因した抵抗値変化を利用して、生体埋め込みを目的とした超小型の歪ゲージを作製し、ラットの胃への埋め込みによる歪ゲージの特性評価(特に、筋肉収縮作用のある物質を投与した場合の胃収縮状態と抵抗値変化の関係)を行った。
【0031】
具体的には、このような構成の歪センサ1を用い、筋肉収縮作用のあるアセチルコリンを投与した場合におけるラットの胃の収縮状態を把握するための実験を行った。アセチルコリン(Acetylcholine,Ach,CHCOOCHCHN+(CH)は神経伝達物質であり、副交感神経や運動神経の末端から放出され、神経刺激をある種のシナプスを通して伝える役目を果たしている。さらに、骨格筋や心筋、内臓筋の筋繊維のアセチルコリンの受容体に結合すると収縮を促進する作用がある。ラットを使用した埋め込み実験の概要図を図3に示す。
【0032】
麻酔投与をした無意識下のラットの腹部を切開し、胃の中央部に歪ゲージ1を縫合糸を用いて縫い付ける。この際、抵抗値の時間変化はLCRメーター8で測定し、リアルタイムでデーターロガー(PC)9に記録する。この場合のサンプリング間隔は、3サンプル/秒である。
【0033】
実験に使用した小動物はラット(wistar系、オス、10週齢)であり、麻酔はネンブタールを腹腔内に0.1ml/ラット100gを投与した。また、アセチルコリンの投与濃度は、0.13、0.26、0.39、0.65mg/mlであり、100μl/ラット100gを鎖骨下静脈内に投与した。
【0034】
図4に、歪ゲージ1を評価するための測定装置の概要図及び外部応力による抵抗値変化(ΔR)を示す。
【0035】
図4に示すように、歪ゲージ1の一端を板に固定した後、重りを付けた糸を縫合孔に糸を通すことによって湾曲を発生させた。
【0036】
ここで、重りはメタルワッシャー(0.7g)を用いており、ΔRはΔR=Rmax−R0(R0:初期抵抗値、Rmax:最大抵抗値)と定義している。加重W=0.7−2.8gでは、logΔRに比例する結果が得られたが、W=3.5−6.3gではほぼ飽和状態となっている。しかし、W=7.0g以上の場合、logΔRの変化量がW=0.7−2.8gの範囲に比べて明確な違いがみられている。
【0037】
この要因としては、CNTネットワーク内の期待的構造変形による異なる電流路の形成(すなわち、抵抗値変化)が考えられる。
【0038】
そこで、CNTネットワークの抵抗成分を直列及び並列抵抗の複合体と仮定した場合、全抵抗Rtotalは、
【数1】

【0039】
数1で表すことができる。
【0040】
ここで、Rs及びRpは直列及び並列の抵抗成分であり、Rms及びRnpはm個の直列抵抗及びn個の並列抵抗を表している。
【0041】
CNTネットワークは縦横に多重・多層構造をしているため、小さい加重の場合にはRs成分が増加し、大きい加重の場合にはRp成分が増加する。さらに加重すると、異なるネットワーク形成に起因したRs成分が増加するので、非線形的な振る舞いをするものと考えられる。
【0042】
図5は、生理食塩水及びアセチルコリンを投与した場合の抵抗値(ΔR)変化のグラフ図、図6はアセチルコリン濃度を変化させた場合のΔR変化のグラフ図である。ここで、ΔRは、ΔR=Rmax−R0(R0:初期抵抗、Rmax:最大抵抗値)と定義している。
【0043】
生理食塩水(図5の最下段)では、全く変化がみられないが、アセチルコリンでは、その投与濃度を上げると(図5の上段に向かうほど)胃の収縮に起因した抵抗変化が増加する。即ち、アセチルコリン濃度を変化させた場合、図6に示すように、logΔRに比例する結果が得られた。つまり、胃の収縮は、濃度に対しては非線形な特性となることが判明している。
【0044】
即ち、血管中に注入されたアセチルコリンは、血液中に含まれるアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase)の作用によってコリン(cholin)と酢酸に分解される。
【0045】
アセチルコリンによって収縮した胃は、時間が経過するにつれて緩和されるため、歪ゲージ1に対する歪応力も小さくなっていくゆえに、図7に示すように、その抵抗値変化は明確にその振る舞いを表しているといえる。
【0046】
ところで、本発明に係る歪センサ1は、生体における生理機能の解明に貢献することができるばかりでなく、微細動検出を要求される医療用又は介護用遠隔操作型マニピュレーターの圧力センサ等のように、上記実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の歪センサの1実施形態を示し、(A)は要部の平面図、(B)は要部の断面図である。
【図2】本発明の歪センサの一実施形態を示し、(A)〜(F)は歪センサの製作手順の説明図である。
【図3】本発明の歪センサの一実施形態を示し、ラットに歪センサを装着した状態の説明図である。
【図4】本発明の歪センサの一実施形態を示し、歪センサを評価するための測定装置の概要図と外部応力による抵抗値変化(ΔR)のグラフ図である。
【図5】本発明の歪センサの一実施形態を示し、生理食塩水及びアセチルコリンを投与した場合の時系列変化に対する抵抗値(ΔR)変化のグラフ図である。
【図6】本発明の歪センサの一実施形態を示し、アセチルコリン濃度を変化させた場合のΔR変化のグラフ図である。
【図7】従来の歪センサの一実施形態を示し、アセチルコリンによって収縮した胃の時系列変化のグラフ図である。
【符号の説明】
【0048】
1…歪センサ
2…ベース
3…電極
4…配線
5…カーボンナノチューブ(CNT)
6…カバー
7…軟性シート
8…LCRメーター
9…データーロガー(PC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性ゴム材料からなるベースと、該ベースの一面に設けられた電極及び配線と、前記電極の上方を主として前記ベースに分散・塗布された多数のカーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブを覆う絶縁性ゴム材料からなるカバーと、を備えていることを特徴とする歪センサ。
【請求項2】
前記絶縁性ゴム材料がシリコーン樹脂を主とした材質であることを特徴とする請求項1に記載の歪センサ。
【請求項3】
前記ベースの他面に歪調整用軟性シートが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歪センサ。
【請求項4】
所定形状の鋳型にゲル状の絶縁性ゴム材料を流し込んでベースを形成するベース形成ステップと、鋳型から取り出したベースの一面に電極及び配線を蒸着及び接着する配線接続ステップと、多数のカーボンナノチューブを前記電極の上方を主として前記ベースに分散・塗布・乾燥させるCNT接着ステップと、前記カーボンナノチューブを覆うようにゲル状の絶縁性ゴム材料を流し込んで前記電極及び前記多数のカーボンナノチューブを前記ベースとでサンドイッチするようにカバーを形成するカバー形成ステップと、を備えていることを特徴とする歪センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−189747(P2009−189747A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36712(P2008−36712)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(592254526)学校法人五島育英会 (28)
【Fターム(参考)】